説明

酸化物薄膜トランジスタ、及びその製造方法

【課題】 良好な特性を有する酸化物薄膜トランジスタ、およびその製造方法を提供することを目的とする。
【解決手段】
酸化物半導体層9上面に積層するゲート絶縁層5を、有機絶縁体からなる下側の有機絶縁層51と、無機絶縁体からなる上側の無機絶縁層52とから構成した。また、無機絶縁層52を、パーヒドロポリシラザン溶液を用いた塗布法により形成した。酸化物半導体層9の上面には、酸化物半導体層9にダメージを与えることなく形成可能な有機絶縁層51のみが接触する構成としたため、酸化物半導体層9にダメージを与えることなく、ゲート絶縁層5を形成させることができる。また、塗布法を用いたことにより、大がかりな装置を用いることなく、簡単、且つ安価に、無機絶縁層52を形成することができる。これにより、性能の良い酸化物薄膜トランジスタを、簡単、且つ安価に得ることができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、酸化物薄膜トランジスタ、及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、有機EL、フィルム液晶、電子ペーパ等のフレキシブルディスプレイの各画素には、薄膜トランジスタを備えたアクティブ駆動回路が埋め込まれている。薄膜トランジスタの半導体層の材質としては、一般に、アモルファスシリコンや多結晶シリコンといったSi系半導体が用いられる。しかしながら、Si系半導体層の形成には、200℃以上の温度を必要とする。そのため、半導体層としてSi系半導体を用いた場合には、耐熱性の低いフレキシブルなポリマーフィルムを基材として用いることができず、フレキシブルな薄膜トランジスタを形成させることが困難であるという問題点があった。
【0003】
また、近年、有機半導体材料を用いた有機薄膜トランジスタが研究されている。有機半導体層は、低温で形成が可能であるため、耐熱性の低いフレキシブルなポリマーフィルム上に形成させることが可能であるなどの利点がある。しかしながら、有機半導体材料はキャリア移動度が極めて低く、経時劣化に弱いという問題点があった。
【0004】
そこで、近年、半導体層として酸化物を用いる酸化物薄膜トランジスタの開発が行われている。酸化物半導体層は低温で製膜が可能であり、高いキャリア移動度をもつことが知られている。しかも、酸化物半導体のなかには、透明な酸化物半導体もある。透明酸化物半導体と、周知の透明基板材料などとを材料として選択すれば、透明な薄膜トランジスタが形成できるなど、酸化物半導体には、従来にはなかった特性が期待できる。
【0005】
ところで、酸化物半導体層の上面に形成される絶縁層は、スパッタリング法やプラズマCVD法のような真空プロセスにより形成されるのが一般的である。しかしながら、これらの方法は、装置が大掛かりとなってしまい、コストがかかってしまう上、工程が煩雑であるという問題点があった。その上、これらの方法で絶縁層が形成される場合には、形成過程で装置から発生するプラズマイオンが、酸化物半導体層などにダメージを与えてしまうという問題点があった。
【0006】
そこで、例えば、特許文献1では、ゲート絶縁層の材質として有機高分子を採用した酸化物薄膜トランジスタが提案されている。特許文献1に記載の半導体デバイス(本願における酸化物薄膜トランジスタ)では、ゲート絶縁層の材質として高分子樹脂を採用したため、ゲート絶縁層を塗布法によって形成することができる。これにより、半導体層にダメージを与えることなく、ゲート絶縁層を形成することができる。
【特許文献1】特開2007−158147号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、特許文献1に記載の半導体デバイスでも、以下の問題点があった。まず、有機高分子は、材料そのものの絶縁特性が低いため、有機高分子により形成されたゲート絶縁層の絶縁特性も低い。また、有機高分子により形成されたゲート絶縁層は、硬度が低いため、ゲート絶縁層上面にゲート電極が形成される際に、ダメージをうけてしまう。これらにより、特許文献1に記載の半導体デバイスでは、結果的にゲートリーク電流が増えてしまい、特性が悪くなってしまうという問題点があった。
【0008】
本発明は上述の課題を解決するためになされたものであり、半導体層およびゲート絶縁層にダメージを与えることなく製造可能な酸化物薄膜トランジスタ、およびその製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記目的を達成するために、請求項1に係る発明の酸化物薄膜トランジスタは、絶縁層と、前記絶縁層上面に互いに離間して設けられているソース電極及びドレイン電極と、前記ソース電極と前記ドレイン電極との間隙の前記絶縁層上面、前記ソース電極の上面、及び前記ドレイン電極の上面に連続して設けられている酸化物半導体層と、少なくとも前記酸化物半導体層の上面に設けられている有機絶縁層と、前記有機絶縁層の上面に設けられている無機絶縁層とを備えている。
【0010】
また、請求項2に係る発明の酸化物薄膜トランジスタでは、請求項1に記載の発明の構成に加え、前記無機絶縁層は、無機元素を有する化合物を溶解させた溶液を前記有機絶縁層の上面に塗布することにより形成されることを特徴とする。
【0011】
また、請求項3に係る発明の酸化物薄膜トランジスタは、絶縁層と、前記絶縁層上面に形成されている酸化物半導体層と、前記酸化物半導体層上面で互いに離間し、且つ、夫々前記酸化物半導体層上面および前記絶縁層上面に連続して設けられているソース電極及びドレイン電極と、少なくとも前記酸化物半導体層の上面に設けられている有機絶縁層と、前記有機絶縁層の上面に設けられている無機絶縁層とを備え、前記無機絶縁層は、無機元素を有する化合物を溶解させた溶液を前記有機絶縁層の上面に塗布することにより形成されることを特徴とする。
【0012】
また、請求項4に係る発明の酸化物薄膜トランジスタでは、請求項2又は3に記載の発明の構成に加え、前記化合物はパーヒドロポリシラザンであることを特徴とする。
【0013】
また、請求項5に係る発明の酸化物薄膜トランジスタは、請求項1乃至4のいずれかに記載の発明の構成に加え、前記無機絶縁層の上面に、ゲート電極または画素電極が設けられていることを特徴とする。
【0014】
また、請求項6に係る発明の酸化物薄膜トランジスタでは、請求項1乃至5のいずれかに記載の発明の構成に加え、前記酸化物半導体層は、In,Ga,Znの少なくともいずれか1種の元素を含む酸化物により形成されていることを特徴とする。
【0015】
また、請求項7に係る発明の酸化物薄膜トランジスタの製造方法は、絶縁層と、前記絶縁層の上面に形成されたソース電極及びドレイン電極と、前記ソース電極と前記ドレイン電極との間の前記絶縁層上面に形成された酸化物半導体層と、ゲート電極とを備えている酸化物薄膜トランジスタの製造方法であって、前記絶縁層上面に互いに離間してソース電極及びドレイン電極を形成させる第1の工程と、前記ソース電極と前記ドレイン電極との間隙の前記絶縁層の上面、前記ソース電極の上面、前記ドレイン電極の上面に、連続した酸化物半導体層を形成させる第2の工程と、少なくとも前記酸化物半導体層の上面に有機絶縁層を形成させる第3の工程と、前記有機絶縁層の上面に無機絶縁層を形成させる第4の工程とを備えている。
【0016】
また、請求項8に係る発明の酸化物薄膜トランジスタの製造方法は、請求項7に記載の発明の構成に加え、前記第4の工程では、無機元素を有する化合物を溶解させた溶液を、前記有機絶縁層の上面に塗布することによって、前記有機絶縁層の上面に前記無機絶縁層を形成させることを特徴とする。
【0017】
また、請求項9に係る発明の酸化物薄膜トランジスタの製造方法は、絶縁層と、前記絶縁層の上面に形成されたソース電極及びドレイン電極と、前記ソース電極と前記ドレイン電極との間の前記絶縁層上面に形成された酸化物半導体層と、ゲート電極とを備えている酸化物薄膜トランジスタの製造方法であって、前記絶縁層上面に酸化物半導体層を形成させる第1の工程と、前記酸化物半導体層上面で互いに離間し、且つ、夫々前記酸化物半導体層上面および前記絶縁層上面に連続しているソース電極及びドレイン電極を形成させる第2の工程と、少なくとも前記酸化物半導体層の上面に有機絶縁層を形成させる第3の工程と、前記有機絶縁層の上面に無機絶縁層を形成させる第4の工程とを少なくとも備え、前記第4の工程は、無機元素を有する化合物を溶解させた溶液を、前記有機絶縁層の上面に塗布することを特徴とする。
【0018】
また、請求項10に係る発明の酸化物薄膜トランジスタの製造方法では、請求項8又は9に記載の発明の構成に加え、前記化合物はパーヒドロポリシラザンであることを特徴とする。
【0019】
また、請求項11に係る発明の酸化物薄膜トランジスタの製造方法では、請求項7乃至10のいずれかに記載の発明の構成に加え、前記無機絶縁層の上面に、ゲート電極または画素電極を形成させる第5の工程を備えることを特徴とする。
【0020】
また、請求項12に係る発明の酸化物薄膜トランジスタの製造方法では、請求項7乃至11のいずれかに記載の発明の構成に加え、前記酸化物半導体層は、In,Ga,Znの少なくともいずれか1種の元素を含む酸化物により形成されていることを特徴とする。
【0021】
また、請求項13に記載の酸化物薄膜トランジスタは、請求項7乃至12のいずれかに記載の酸化物薄膜トランジスタの製造方法によって製造されることを特徴とする。
【発明の効果】
【0022】
請求項1に係る発明の酸化物薄膜トランジスタでは、有機絶縁層が酸化物半導体層の上面に設けられ、無機絶縁層が有機絶縁層の上面に設けられている。酸化物半導体層の上面には、酸化物半導体層にダメージを与えることなく形成可能な有機絶縁層が設けられる構成としたため、酸化物半導体層にダメージを与えることなく、酸化物半導体層上面に絶縁性を有する層を形成させることができる。また、有機絶縁層の上面には無機絶縁層が設けられるため、有機絶縁層は外部には露出しない。有機高分子からなる有機絶縁層は、外因によりダメージを受けやすいことが知られているが、有機絶縁層が外部に露出しない構成としたため、有機絶縁層が外因によりダメージを受けることがない。また、有機絶縁層は絶縁特性が低いことが知られているが、有機絶縁層の上面に、絶縁特性の高い無機絶縁層を設けることにより、酸化物半導体層の上部の絶縁性能を高めることができる。さらに、無機絶縁層を酸化物半導体層の上面に形成させる場合、無機絶縁層形成過程において、酸化物半導体層がダメージを受けやすいことが知られているが、本発明では、酸化物半導体層に、無機絶縁層が接触しない構成としたため、無機絶縁層の形成過程において、酸化物半導体層がダメージを受けることがない。そのため、酸化物半導体層の半導体特性が、無機絶縁層の形成プロセスにおいて変化してしまうことを防止し、酸化物薄膜トランジスタの性能を維持することができる。しかも、酸化物半導体層が、ソース電極およびドレイン電極よりも上部に形成されているため、ソース電極やドレイン電極が形成される際に、酸化物半導体層がダメージを受けることがない。従って、良好な特性を有する酸化物薄膜トランジスタを提供することができる。
【0023】
また、請求項2に係る発明の酸化物薄膜トランジスタでは、請求項1に記載の発明の効果に加え、無機絶縁層を、無機元素を有する化合物を溶解させた溶液を有機絶縁層の上面に塗布することにより形成している。そのため、大がかりな装置を用いることなく、簡単、且つ安価に、無機絶縁層を形成することが可能である。また、有機絶縁層にダメージを与えることなく、無機絶縁層を形成させることが可能である。これにより、簡単、且つ安価に製造できるとともに、良好な特性を有する酸化物薄膜トランジスタを提供することができる。
【0024】
また、請求項3に係る発明の酸化物薄膜トランジスタでは、ソース電極およびドレイン電極が、酸化物半導体層よりも上部に形成されているため、酸化物半導体層を形成させる際に、ソース電極やドレイン電極の表面特性が変化することがない。そのため、たとえば、特性が比較的変化しやすい材質であっても、ソース電極およびドレイン電極として使用可能となる。これにより、ソース電極およびドレイン電極の材質を選択する際の自由度を広げることができる。しかも、無機絶縁層を、無機元素を有する化合物を溶解させた溶液を有機絶縁層の上面に塗布することにより形成している。そのため、大がかりな装置を用いることなく、簡単、且つ安価に、無機絶縁層を形成することが可能である。また、有機絶縁層にダメージを与えることなく、無機絶縁層を形成させることが可能である。これにより、簡単、且つ安価に製造できるとともに、良好な特性を有する酸化物薄膜トランジスタを提供することができる。
【0025】
また、請求項4に係る発明の酸化物薄膜トランジスタでは、請求項2又は3に記載の発明の効果に加え、無機絶縁層の前駆体として、パーヒドロポリシラザンを用いているため、低温条件下で、無機絶縁層を形成することができる。これにより、耐熱性の低い可撓性プラスチック基板を基板として採用することができ、可撓性を備える酸化物薄膜トランジスタの製造を可能とすることができる。
【0026】
また、請求項5に係る発明の酸化物薄膜トランジスタでは、請求項1乃至4のいずれかに記載の発明の効果に加え、ゲート電極または画素電極は無機絶縁層の上面に形成されているため、ゲート電極や画素電極が形成される際に、有機絶縁層や半導体層がダメージを受けることがない。従って、有機絶縁層や半導体層の特性を維持することができ、良好な特性を有する酸化物薄膜トランジスタを提供することができる。
【0027】
また、請求項6に係る発明の酸化物薄膜トランジスタでは、請求項1乃至5のいずれかに記載の発明の効果に加え、半導体層は、In,Ga,Znの少なくともいずれか1種の元素を含む酸化物により、形成されているため、良好な特性を有する酸化物薄膜トランジスタを提供することができる。
【0028】
また、請求項7に係る発明の酸化物薄膜トランジスタの製造方法では、第1の工程でソース電極とドレイン電極が形成され、第1の工程よりも後の第2の工程で、酸化物半導体層が形成される。そのため、ソース電極やドレイン電極が形成される際に、酸化物半導体層がダメージを受けることがない。また、第3の工程で、酸化物半導体層の上面には、酸化物半導体層にダメージを与えることなく形成可能な有機絶縁層が形成される。そのため、酸化物半導体層上面に絶縁性能を有する層を形成させる際に、酸化物半導体層にダメージを与えることがない。また、第4の工程で、有機絶縁層の上面には無機絶縁層が設けられるため、有機絶縁層は外部には露出しない。有機高分子からなる有機絶縁層は、外因によりダメージを受けやすいことが知られているが、有機絶縁層が外部に露出しない構成としたため、有機絶縁層が外因によりダメージを受けることがない。また、有機絶縁層は絶縁特性が低いことが知られているが、有機絶縁層の上面に、絶縁特性の高い無機絶縁層を設けることにより、酸化物半導体層の上面に高い絶縁性能を有する層を形成させることができる。さらに、無機絶縁層を酸化物半導体層の上面に形成させる場合、無機絶縁層形成過程において、酸化物半導体層がダメージを受けやすいことが知られているが、本発明では、酸化物半導体層に、無機絶縁層が接触しない構成としたため、無機絶縁層の形成過程において、酸化物半導体層がダメージを受けることがない。そのため、酸化物半導体層の半導体特性が、無機絶縁層の形成プロセスにおいて変化してしまうことを防止し、酸化物薄膜トランジスタの性能を維持することができる。従って、良好な特性を有する酸化物薄膜トランジスタを得ることができる。
【0029】
また、請求項8に係る発明の酸化物薄膜トランジスタの製造方法では、請求項7に記載の発明の効果に加え、第4の工程で、無機絶縁層を、無機元素を有する化合物を溶解させた溶液を有機絶縁層の上面に塗布することにより形成している。そのため、大がかりな装置を用いることなく、簡単、且つ安価に、無機絶縁層を形成することが可能である。また、有機絶縁層にダメージを与えることなく、無機絶縁層を形成させることが可能である。これにより、簡単、且つ安価に製造できるとともに、良好な特性を有する酸化物薄膜トランジスタを得ることができる。
【0030】
また、請求項9に係る発明の酸化物薄膜トランジスタの製造方法では、第1の工程で酸化物半導体層が形成され、第2の工程でソース電極およびドレイン電極が形成される。ソース電極とドレイン電極とが、酸化物半導体層よりも後に形成されているため、酸化物半導体層を形成させる際に、ソース電極やドレイン電極の表面特性が変化することがない。そのため、たとえば、比較的特性が変化しやすい材質であっても、ソース電極およびドレイン電極として使用可能となる。これにより、ソース電極およびドレイン電極の材質を選択する際の自由度を広げることができる。しかも、第4の工程では、無機絶縁層を、無機元素を有する化合物を溶解させた溶液を有機絶縁層の上面に塗布することにより形成している。そのため、大がかりな装置を用いることなく、簡単、且つ安価に、無機絶縁層を形成することが可能である。また、有機絶縁層にダメージを与えることなく、無機絶縁層を形成させることが可能である。これにより、簡単、且つ安価に製造できるとともに、良好な特性を有する酸化物薄膜トランジスタを得ることができる。
【0031】
また、請求項10に係る発明の酸化物薄膜トランジスタの製造方法では、請求項8又は9に記載の発明の効果に加え、無機絶縁層の前駆体として、パーヒドロポリシラザンを用いているため、低温条件下で無機絶縁層を形成することができる。これにより、耐熱性の低い可撓性プラスチック基板を基板として採用することができ、可撓性を備える酸化物薄膜トランジスタの製造を可能とすることができる。
【0032】
また、請求項11に係る発明の酸化物薄膜トランジスタの製造方法では、請求項7乃至10のいずれかに記載の発明の効果に加え、第5の工程において、ゲート電極または画素電極が無機絶縁層の上面に形成される。そのため、第5の工程でゲート電極や画素電極が形成される際に、有機絶縁層や半導体層がダメージを受けることがない。従って、有機絶縁層や半導体層の特性を維持することができ、良好な特性を有する酸化物薄膜トランジスタを得ることができる。
【0033】
また、請求項12に係る発明の酸化物薄膜トランジスタの製造方法では、請求項7乃至11のいずれかに記載の発明の効果に加え、酸化物半導体層は、In,Ga,Znの少なくともいずれか1種の元素を含む酸化物により、形成されているため、良好な特性を有する酸化物薄膜トランジスタを得ることができる。
【0034】
また、請求項13に係る発明の酸化物薄膜トランジスタは、請求項7乃至12のいずれかに記載の酸化物薄膜トランジスタの製造方法を用いて製造される。そのため、安価に得られるとともに、高性能な酸化物薄膜トランジスタを提供できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0035】
<第1実施形態>
以下、本発明の第1実施形態の酸化物薄膜トランジスタ1について、図面を参照して説明する。図1は、第1実施形態である酸化物薄膜トランジスタ1の縦断面図であり、図2は、酸化物薄膜トランジスタ1の製造工程を示すフローチャートである。また、図3は、基板2の上面にソース電極3とドレイン電極4とが形成された状態の縦断面図であり、図4は、図3に示すソース電極3とドレイン電極4との間に酸化物半導体層9が形成された状態の縦断面図である。また、図5は、ソース電極3とドレイン電極4と酸化物半導体層9との上面に、有機絶縁層51が形成された状態の縦断面図であり、図6は、有機絶縁層51の上面に無機絶縁層52が形成された状態の縦断面図である。
【0036】
第1実施形態の酸化物薄膜トランジスタ1は、ゲート電極6がソース電極3やドレイン電極4より上側に位置する、所謂「トップゲート型」の酸化物薄膜トランジスタである。本実施形態の酸化物薄膜トランジスタ1は、トップゲート型であることのほか、ゲート絶縁層5が有機絶縁層51と無機絶縁層52との2層により形成されること、無機絶縁層52が塗布法により形成されることに特徴を有する。以下の説明では、図面下側(基板2側)を下側、図面上側を上側として説明する。
【0037】
初めに、酸化物薄膜トランジスタ1の断面構造について説明する。図1に示す酸化物薄膜トランジスタ1は、板状の基板2を有し、基板2の上面にはソース電極3及びドレイン電極4が離間して設けられている。ソース電極3の上面及びドレイン電極4の上面と、ソース電極3及びドレイン電極4に挟まれる基板2の上面とには、酸化物半導体層9が連続して設けられている。そして、酸化物半導体層9とソース電極3とドレイン電極4と基板2とを覆うように、ゲート絶縁層5が設けられている。ゲート絶縁層5は、少なくとも酸化物半導体層9を覆う下側の有機絶縁層51と、有機絶縁層51の上面を覆う上側の無機絶縁層52とから構成されている。無機絶縁層52の上面には、酸化物半導体層9に対向する位置に、ゲート電極6が設けられている。
【0038】
基板2は、表面が平坦である板状部材である。基板2の材質としては、各種材質が適用可能であるが、導電性の材質が採用される場合には、基板2の表面に絶縁膜が設けられる必要がある。基板2の材質として絶縁性の材質が用いられる場合には、ガラス基板やシリコン基板のほか、プラスチック基板が用いられる。基板2に可撓性を付与したい場合には、特に、基板2の材質としてプラスチックが採用される。プラスチックの材質としては、例えば、ポリエーテルスルホン(PES)、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリイミド(PI)、ポリエチレンナフタレート(PEN)、ポリエーテルイミド(PEI)、ポリスチレン(PS)、ポリ塩化ビニル(PVC)、ポリエチレン(PE)、ポリプロピレン(PP)等が挙げられる。基板2の耐水性を向上させる場合には、基板2の表面にSiOやSiNxなどからなるガラスバリア膜が形成される。尚、第1実施形態の基板2が本発明の絶縁層に相当する。
【0039】
基板2の上面には、ソース電極3及びドレイン電極4が、所定のチャネル長の離間幅をもって各々設けられている。このソース電極3及びドレイン電極4の材質には、Au,Ag,Cu,Pd,Al,Mo,Cr,Ti,Ta,Ni,Pt,W(タングステン)等の金属単体、または少なくともいずれかの金属を含む複合体の他、酸化インジウムスズ(ITO)などの導電性酸化物、ポリイミド(PI)、ポリメチルメタクリレート(PMMA)、ポリパラビニルフェノール(PVP)、ポリエチレンジオキシチオフェン(PEDOT)等の導電性ポリマーが適用可能である。
【0040】
ソース電極3、ドレイン電極4の各上面及びソース電極3及びドレイン電極4に挟まれる基板2の上面には、酸化物半導体層9が連続して設けられている。酸化物半導体層9の材質には、公知の酸化物半導体材料が用いられ、より好ましくは、In,Ga,Znの少なくともいずれか1種の元素を含む酸化物半導体材料が採用される。In,Ga,Znの少なくともいずれか1種の元素を含む酸化物半導体材料としては、具体的には、ZnO,InGaZnO,ZnInO,Inが挙げられる。
【0041】
酸化物半導体層9、ソース電極3、ドレイン電極4、基板2の各上面はゲート絶縁層5によって覆われている。ゲート絶縁層5は、少なくとも酸化物半導体層9を覆う下側の有機絶縁層51と、有機絶縁層51の上面を覆う上側の無機絶縁層52とから構成されている。
【0042】
有機絶縁層51の材質は、絶縁性を有する有機材料であれば、特に限定されない。具体的には、有機絶縁層51の材質として、ポリイミド(PI)、ポリアミド(PA)、ポリエステル(PE)、ポリビニルフェノール(PVP)、ポリビニルアルコール(PVA)、ポリ酢酸ビニル(PVAL)、ポリメタクリル酸メチル(PMMA)、ポリウレタン(PUR)、ポリスルホン(PSF)、ポリフッ化ビニリデン(PVDF)、シアノエチルプルラン、エポキシ樹脂、フェノール樹脂、ベンゾシクロブテン樹脂、アクリル樹脂、アモルファスパーフルオロ樹脂(例えば、旭硝子社製サイトップ(登録商標))または前記樹脂のポリマーアロイ、あるいは共重合樹脂を用いることができる。
【0043】
有機絶縁層51の上面は、無機絶縁層52で覆われている。無機絶縁層52の材質には、無機・有機複合材料が用いられてもよいし、無機成分のみで構成された材料が用いられてもよい。無機・有機複合材料が用いられる場合には、主成分は無機成分である。主成分となる無機成分としては、無機酸化物などが挙げられる。副成分となる有機成分には、ポリイミド(PI)、ポリメチルメタクリレート(PMMA)、シリコン樹脂などが挙げられる。
【0044】
無機絶縁層52の上面には、酸化物半導体層9に対向する位置に、ゲート電極6が設けられている。ゲート電極6の材質は、上述のソース電極3、ドレイン電極4と同様のものを用いることができる。
【0045】
次に、酸化物薄膜トランジスタ1の製造工程について説明する。酸化物薄膜トランジスタ1の製造工程は、図2に示すように、基板2の上面にソース電極3及びドレイン電極4を各々形成するソース・ドレイン電極形成工程(S1)と、ソース電極3及びドレイン電極4の間の基板2上面に酸化物半導体層9を形成する半導体層形成工程(S2)と、少なくとも酸化物半導体層9の上面にゲート絶縁層5を形成するゲート絶縁層形成工程(S3)と、ゲート絶縁層5の上面にゲート電極6を形成するゲート電極形成工程(S4)とから構成されている。ゲート絶縁層形成工程(S3)は、少なくとも酸化物半導体層9の上面を覆うように有機絶縁層51を形成する有機絶縁層形成工程(S31)と、有機絶縁層51の上面を覆うように無機絶縁層52を形成する無機絶縁層形成工程(S32)とからなる。
【0046】
はじめに、S1のソース・ドレイン電極形成工程が行われる。このソース・ドレイン電極形成工程(S1)では、図3に示すように、基板2の上面にソース電極3、ドレイン電極4が形成される。ソース電極3、ドレイン電極4の形成方法は、特に限定されない。基板2の上面に、電極を形成する材質の薄膜を形成した後、パターニングして不要部分を除去する方法が一般的であるが、製膜方法、パターニング方法に関しても、各種方法を適用可能である。具体的には、製膜方法としては、スパッタリング法、真空蒸着法、CVD法、めっき法などが適用可能であるし、パターニング法としては、フォトリソグラフィ法やスクリーン印刷法などが適用可能である。
【0047】
次に、S2の半導体層形成工程が行われる。半導体層形成工程(S2)では、図4に示すように、ソース電極3及びドレイン電極4の間の基板2上面、及びソース電極3とドレイン電極4との上面に酸化物半導体層9が連続して形成される。酸化物半導体層9の形成方法は、半導体薄膜を形成した後、パターニングして不要部分を除去する方法が一般的である。製膜方法としてはスパッタリング法が好適であるが、これに制限されるものではない。パターニング法としては、フォトリソグラフィ法やスクリーン印刷法等を用いることができる。
【0048】
次に、S3のゲート絶縁層形成工程が行われる。ゲート絶縁層形成工程(S3)は、図2に示すように、下側の有機絶縁層51が形成される有機絶縁層形成工程(S31)と、上側の無機絶縁層52が形成される無機絶縁層形成工程(S32)とからなる。
【0049】
有機絶縁層形成工程(S31)では、図5に示すように、ソース電極3、ドレイン電極4、酸化物半導体層9の各上面、及び基板2の上面のうちのソース電極3、ドレイン電極4、酸化物半導体層9が設けられていない部位を覆うように、有機絶縁層51が形成される。有機絶縁層51の形成方法に関しては特に限定するものではないが、塗布法を用いることがコストの面から好ましい。塗布法としては、各種方法が適用可能であり、具体的には、スピンコート法、スリットコート法、ディップコート法、スプレー法、ロールコート法、カーテンコート法、印刷法、液滴吐出法等のいずれをも用いることができる。
【0050】
無機絶縁層形成工程(S32)では、図6に示すように、有機絶縁層51を覆うように、無機絶縁層52を形成する。無機絶縁層52の形成方法は、塗布法が最も好ましいが、塗布法に限定されない。塗布法を採用した場合、後述するパーヒドロポリシラザン溶液を用いる方法のほか、高分子樹脂に無機フィラーを分散させた溶液を用いる方法、ゾルゲル法を用いることが可能である。
【0051】
次に、S4のゲート電極形成工程が行われる。ゲート電極形成工程(S4)では、図1に示すように、無機絶縁層52の上面に、ゲート電極6が形成される。ゲート電極6の形成方法は、特に限定されない。ゲート電極6を形成する材質の薄膜を形成した後、パターニングして不要部分を除去する方法が一般的であるが、製膜方法、パターニング方法に関しても、各種方法を適用可能である。具体的には、製膜方法としては、スパッタリング法、真空蒸着法、CVD法、めっき法などが適用可能であるし、パターニング法としては、フォトリソグラフィ法やスクリーン印刷法などが適用可能である。
【0052】
以下、上述の各工程について、実施例をあげて具体的に説明する。
【0053】
<実施例1>
初めに、ソース・ドレイン電極形成工程(S1)について説明する。ソース・ドレイン電極形成工程(S1)では、ガラスからなる基板2を洗浄後、基板2の上面にNi薄膜を形成する。そして、形成したNi薄膜のパターニングを行い、不要部分を除去することにより、ソース電極3、ドレイン電極4を形成する。Ni膜の製膜は、スパッタリング法により行われる。このときのターゲットとしてはNiが使用され、装置としてはDCスパッタ装置を用いられる。形成されたNi膜の上面に、フォトリソグラフィ法を用いてレジストパターンを形成した後、エッチング法を用いてNi膜をエッチングする。不要となったフォトレジストは、アセトン洗浄により除去する。こうして、図3に示すように、基板2の上面に、Niからなるソース電極3及びドレイン電極4を形成させることができる。形成されたソース電極3及びドレイン電極4の厚さは、150nmであった。
【0054】
次に、半導体層形成工程(S2)について説明する。半導体層形成工程(S2)では、図4に示すように、ソース電極3及びドレイン電極4の間の基板2上面、ソース電極3の上面、ドレイン電極4の上面に、酸化物半導体層9を連続して形成させる。半導体層形成工程(S2)では、図3に示すソース電極3の上面、ドレイン電極4の上面、及び基板2の上面のうちのソース電極3、ドレイン電極4の設けられていない部位を覆うように、InGaZnO膜を形成した後、InGaZnO膜をパターニングして不要部分を除去することにより、InGaZnOからなる酸化物半導体層9を形成する。InGaZnO膜の製膜は、スパッタリング法により行われ、ターゲットとしてInGaZnOが用いられるとともに、ArとOとの混合ガスを流しながら行われる。InGaZnO膜を形成した後、フォトリソグラフィ法によりレジストパターンを形成し、有機酸系のITOエッチャントを用いて、エッチング法によりInGaZnO膜をエッチングする。不要となったフォトレジストは、アセトン洗浄により除去する。こうして、図4に示すように、ソース電極3及びドレイン電極4の間の基板2上面、ソース電極3の上面、ドレイン電極4の上面に、InGaZnOからなる酸化物半導体層9を連続して形成させることができる。形成された酸化物半導体層9の厚さは、30nmであった。
【0055】
有機絶縁層形成工程(S31)では、図5に示すように、酸化物半導体層9、ソース電極3、ドレイン電極4の各上面、及び基板2の上面のうちの酸化物半導体層9、ソース電極3、ドレイン電極4の設けられていない部位を覆うように、有機絶縁層51を形成する。有機絶縁層形成工程(S31)では、PVPを含有する有機絶縁層形成用溶液を、スピンコート法により、図4に示す酸化物半導体層9、ソース電極3、ドレイン電極4の各上面、及び基板2の上面のうちの酸化物半導体層9、ソース電極3、ドレイン電極4の設けられていない部位を覆うように塗布した後、熱処理を行う。有機絶縁層形成用溶液は、PVP、メラミン−ホルムアルデヒド、プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテートの混合溶液であり、各材料の重量比は、PVP:メラミン−ホルムアルデヒド:プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート=1:2:10である。熱処理は、ホットプレートを用いて行い、70℃で10分間加熱した後、150℃で10分間加熱し、最後に200℃で30分間加熱することにより行う。熱処理後の有機絶縁層51の厚さは、700nmであった。
【0056】
無機絶縁層形成工程(S32)では、図6に示すように、有機絶縁層51の上面を覆うように、無機絶縁層52を形成する。無機絶縁層形成工程(S32)では、パーヒドロポリシラザンを含有する無機絶縁層形成用溶液を、スピンコート法により、図5に示す有機絶縁層51の上面に塗布した後、熱処理を行う。無機絶縁層形成用溶液は、パーヒドロポリシラザンを、アミン系触媒を含むキシレン溶媒に溶解させることにより作成する。無機絶縁層形成用溶液中のパーヒドロポリシラザンの濃度は10wt%である。熱処理は、ホットプレートを用いて行い、70℃で10分間加熱した後、150℃で10分間加熱し、最後に200℃で30分間加熱することにより行う。熱処理後の無機絶縁層52の厚さは、250nmであった。
【0057】
ここで、パーヒドロポリシラザンについて説明する。パーヒドロポリシラザン(perhydripolysilazane)とは、−(SiH2NH)−を基本ユニットとするポリシラザンの一種で、側鎖すべてがヒドロキシル基である。パーヒドロポリシラザンは、有機溶剤に可溶な無機ポリマーであるので、有機溶剤と混合させることで液体材料として取り扱うことが可能となる。パーヒドロポリシラザンは、大気中または水蒸気含有雰囲気で焼成されることにより、水や酸素と反応し、SiO膜へ転化する性質を有している。特に、水分との反応を促進させるアミン系触媒を少量添加することによって、低温焼成でも、結晶性の高いSiO膜へ転化させることができる。パーヒドロポリシラザンと触媒とをキシレン等の溶媒に添加したパーヒドロポリシラザン溶液を用いることにより、塗布法でのSiO膜の形成が可能となる。
【0058】
次に、ゲート電極形成工程(S4)の説明を行う。ゲート電極形成工程(S4)では、ゲート電極6を、無機絶縁層52の表面上であって、且つ、酸化物半導体層9と対向する位置に形成する。ゲート電極形成工程(S4)では、Ni薄膜を形成した後、Ni薄膜のパターニングを行い、不要部分を除去することにより、Niからなるゲート電極6を形成する。Ni膜の形成は、スパッタリング法により行われる。このときのターゲットとしてはNiが使用され、装置としてはDCスパッタ装置が用いられる。Ni膜が形成された後、フォトリソグラフィ法により、レジストパターンを形成し、エッチング法により、Ni膜をエッチングする。不要となったフォトレジストは、アセトン洗浄により除去する。こうして、図1に示すように、無機絶縁層52の上面に、Niからなるゲート電極6を形成させることができる。形成されたゲート電極6の厚さは、200nmであった。
【0059】
実施例1の製造方法によって形成された酸化物薄膜トランジスタ1の効果を確認するため、酸化物薄膜トランジスタ1の性能評価を行った。この性能評価では、比較例1として、ゲート絶縁層5を有機絶縁層51の1層のみで構成した酸化物薄膜トランジスタ1a、及び、比較例2として、ゲート絶縁層5を無機絶縁層52の1層のみで構成した酸化物薄膜トランジスタ1bについても、性能評価を行った。以下、この性能評価の結果について、図7〜11を参照して説明する。図7は、比較例1の酸化物薄膜トランジスタ1aの縦断面図であり、図8は、比較例2の酸化物薄膜トランジスタ1bの縦断面図である。図9は、酸化物薄膜トランジスタ1のソース・ドレイン間に所定の電圧を印加して、ゲート電圧を変化させた際のソース・ドレイン間に流れる電流のグラフ(以下、電圧−電流特性という)である。図10は、酸化物薄膜トランジスタ1aの電圧−電流特性である。図11は、酸化物薄膜トランジスタ1bの電圧−電流特性である。
【0060】
図7に示す比較例1の酸化物薄膜トランジスタ1aの構成は、ゲート絶縁層5を有機絶縁層51の1層のみで構成したこと以外は、酸化物薄膜トランジスタ1と同様である。酸化物薄膜トランジスタ1aは、実施例1の酸化物薄膜トランジスタ1の製造工程のうち、無機絶縁層形成工程(S32)のみを省いて製造することにより得られる。
【0061】
また、図8に示す比較例2の酸化物薄膜トランジスタ1bは、ゲート絶縁層5を無機絶縁層52の1層のみで構成したこと以外は、実施例1の酸化物薄膜トランジスタ1と同様である。また、酸化物薄膜トランジスタ1bは、実施例1の酸化物薄膜トランジスタ1の製造工程のうち、有機絶縁層形成工程(S31)のみを省いて製造することにより得られる。
【0062】
性能評価は、酸化物薄膜トランジスタのキャリア移動度と、オン/オフ比とを算出することにより行った。キャリア移動度は、下記の式を用いて算出される。
ds=μCinW(V−Vth/2L
ただし、μはキャリア移動度、Idsは飽和領域においてソース・ドレイン間に流れる電流(以下、ドレイン電流)、Cinはゲート絶縁膜の単位面積当たりのキャパシタンス、Wはチャネル幅、Vはゲート電圧、Vthはチャネルが形成し始めるゲートの閾地電圧、Lはチャネル長である。また、オン/オフ比は、酸化物薄膜トランジスタにおけるオン状態とオフ状態との電流比である。ソース電極3、ドレイン電極4間に所定の電圧を印加して、ゲート電圧を変化させた際にソース電極3、ドレイン電極4間に流れる電流を測定し、得られた値から、キャリア移動度とオン/オフ比とを算出した。
【0063】
図9〜11に基づき、キャリア移動度について比較検討すると、実施例1の酸化物薄膜トランジスタ1では、キャリア移動度が5cm/Vs以上、オン/オフ比は10以上であった。一方、ゲート絶縁層5を有機絶縁層51の1層のみで構成した酸化物薄膜トランジスタ1aでは、キャリア移動度が0.1cm/Vs以下、オン/オフ比は10以下であった。また、ゲート絶縁層5を無機絶縁層52の1層のみで構成した酸化物薄膜トランジスタ1bでは、全くスイッチング特性を示さなかった。
【0064】
以上の結果より、実施例1の酸化物薄膜トランジスタ1の性能は、比較例1の酸化物薄膜トランジスタ1aと比較して、キャリア移動度は約50倍以上、オン/オフ比は、10以上であることが確認された。これは、上面に有機絶縁層51の露出した比較例1の酸化物薄膜トランジスタ1aでは、有機絶縁層51の上面にゲート電極6を形成させる際のスパッタリング工程において、高エネルギーのスパッタ原子が、有機絶縁層51にダメージを与えたためと考えられる。スパッタ原子が有機絶縁層51にダメージをあたえることにより、有機絶縁層51の絶縁性能が低下する。有機絶縁層51の絶縁性能が低下することにより、酸化物薄膜トランジスタ1aのゲートリーク電流が増加し、キャリア移動度、及び、オン/オフ比が低下したものと考えられる。一方、酸化物薄膜トランジスタ1では、有機絶縁層51の上面には高硬度の無機絶縁層52が積層されているため、スパッタ原子によるダメージがほとんどなく、トランジスタの性能が維持できたものと推測される。
【0065】
また、比較例2の酸化物薄膜トランジスタ1bでは、全くスイッチング特性を示さなかった。これは、酸化物半導体層9と無機絶縁層52とが接触する比較例2の酸化物薄膜トランジスタ1bでは、無機絶縁層52を形成させる際の熱処理時において、無機絶縁層52の前駆体液などが、酸化物半導体層9にダメージを与えたためと推測される。酸化物半導体層9を構成するInGaZnOが無機絶縁層52の前駆体液に含まれるパーヒドロポリシラザンやアミン系触媒などの影響によって還元されると、酸化物半導体層9は半導体としての特性を示さなくなる。酸化物半導体層9の半導体特性の低下により、酸化物薄膜トランジスタ1bは、全くスイッチング特性を示さなかったものと考えられる。一方、酸化物薄膜トランジスタ1では、酸化物半導体層9の上面には、有機絶縁層51が積層されており、酸化物半導体層9と無機絶縁層52とは接触しない。これにより、酸化物半導体層9がダメージを受けることを防止して、酸化物半導体層9の半導体特性を維持し、トランジスタ性能を維持できたものと推測される。
【0066】
以上説明したように、実施例1の酸化物薄膜トランジスタ1は、酸化物半導体層9上面に積層するゲート絶縁層5を、有機絶縁体からなる下側の有機絶縁層51と、無機絶縁体からなる上側の無機絶縁層52とから構成した。酸化物半導体層9の上面には、酸化物半導体層9にダメージを与えることなく形成可能な有機絶縁層51のみが接触する構成としたため、酸化物半導体層9にダメージを与えることなく、酸化物半導体層9の上面に、ゲート絶縁層5を形成させることができる。これにより、酸化物半導体層9の半導体特性を維持することができ、特性の高い酸化物薄膜トランジスタ1を形成することができる。
【0067】
また、有機絶縁層51の上面には無機絶縁層52が設けられるため、有機絶縁層51は外部には露出しない。有機高分子からなる有機絶縁層51は、外因によりダメージを受けやすいことが知られているが、有機絶縁層51が外部に露出しない構成としたため、有機絶縁層51が外因によりダメージを受けることがない。これにより、有機絶縁層51がダメージを受けることによるトランジスタ特性の低下を防止することができる。
【0068】
また、有機絶縁層51は絶縁特性が低いことが知られているが、有機絶縁層51の上面に、絶縁特性の高い無機絶縁層52を設けることにより、ゲート絶縁層5の絶縁性能を高めることができる。これにより、高性能の酸化物薄膜トランジスタ1を得ることができる。
【0069】
また、ソース電極3とドレイン電極4とが形成された後で、酸化物半導体層9が形成されている。そのため、ソース電極3やドレイン電極4が形成される際に、酸化物半導体層9がダメージを受けることがない。
【0070】
さらに、無機絶縁層52は、有機絶縁層51の上面に、無機絶縁層52の前駆体溶液を、塗布することにより形成されている。そのため、大がかりな装置を用いることなく、簡単、且つ安価に、無機絶縁層52を形成することが可能である。しかも、下面側に形成された有機絶縁層51にダメージを与えることなく、無機絶縁層52を形成させることが可能である。
【0071】
しかも、無機絶縁層52の前駆体として、パーヒドロポリシラザンを用いているため、無機絶縁層形成工程(S32)の熱処理時における焼成温度を低温とすることができる。これにより、耐熱性の低い可撓性プラスチック基板を基板として採用することができ、その場合には可撓性を備える酸化物薄膜トランジスタの製造が可能となる。さらに、真空プロセスやゾルゲル法によって無機絶縁層52を形成させる場合と比較して、低エネルギーで形成させることが可能となる。
【0072】
その上、酸化物半導体層9の材料として、InGaZnOを採用しているため、半導体層形成工程(S2)における製膜は、室温で行うことが可能である。そのため、可撓性を有するプラスチック基板を基板として採用することができ、その場合には可撓性を備える酸化物薄膜トランジスタの製造が可能となる。しかも、高いキャリア移動度を持つ酸化物薄膜トランジスタを実現できる。
【0073】
<実施例2>
次に、実施例2の酸化物薄膜トランジスタ11について、図12および図13を参照して説明する。図12は、実施例2の酸化物薄膜トランジスタ11の縦断面図であり、図13は、酸化物薄膜トランジスタ11の製造工程を示すフローチャートである。実施例2の酸化物薄膜トランジスタ11は、酸化物半導体層91がソース電極31、ドレイン電極41よりも先に形成されることのほかは、実施例1の酸化物薄膜トランジスタ1と同様の構成である。したがって、酸化物半導体層91とソース電極31、ドレイン電極41との積層順のみを重点的に説明し、その他の構成については同一符号を付し、説明を省略する。
【0074】
初めに、実施例2の酸化物薄膜トランジスタ11の断面構造について説明する。酸化物薄膜トランジスタ11では、図12に示すように、基板2の上面に酸化物半導体層91が形成されている。そして、ソース電極31とドレイン電極41とが、酸化物半導体層91の上面および基板2の上面に、各々連続して設けられている。ソース電極31、ドレイン電極41、酸化物半導体層91、基板2の上面には、実施例1の酸化物薄膜トランジスタ1と同様に、有機絶縁層51、無機絶縁層52、ゲート電極6が積層される。酸化物薄膜トランジスタ11の各構成要素の材質は、実施例1の酸化物薄膜トランジスタ1と同様である。
【0075】
次に、実施例2の酸化物薄膜トランジスタ11の製造工程について説明する。実施例2の酸化物薄膜トランジスタ11の製造工程では、初めに、基板2の上面に酸化物半導体層91を形成する半導体層形成工程(S11)が行われ、次に、酸化物半導体層91の上面に、ソース電極31とドレイン電極41とを形成するソース・ドレイン電極形成工程(S12)が行われる。その後、実施例1の酸化物薄膜トランジスタ1の製造工程と同様に、ゲート絶縁層形成工程(S3)が行われ、ゲート電極形成工程(S4)が行われる。
【0076】
はじめに、半導体層形成工程(S11)について説明する。半導体層形成工程(S11)では、基板2の上面に、InGaZnO膜を形成した後、InGaZnO膜をパターニングして不要部分を除去することにより、基板2の上面にInGaZnOからなる酸化物半導体層91を形成する。InGaZnO膜の形成は、スパッタリング法により行われ、ターゲットとしてInGaZnOが用いられるとともに、ArとOとの混合ガスを流しながら行われる。InGaZnO膜を形成した後、フォトリソグラフィ法により、レジストパターンを形成し、エッチング法により、ITOエッチャントを用いて、InGaZnO膜をエッチングする。不要となったフォトレジストは、アセトン洗浄により除去する。こうして、基板2の上面に、InGaZnOからなる酸化物半導体層91を形成させることができる。
【0077】
ソース・ドレイン電極形成工程(S12)では、酸化物半導体層91が形成された基板2の上面に、フォトリソグラフィ法を用いてレジストパターンを形成した後、スパッタリング法によって、レジストパターンが形成された、酸化物半導体層91の上面、及び基板2の上面のうちの酸化物半導体層91の設けられていない部位にNi膜を形成する。このときのターゲットは、Niターゲットであり、装置はDCスパッタリング装置である。レジストパターン上のNiをレジストとともに除去することにより、ソース電極31、ドレイン電極41を形成させることができる。ゲート絶縁層形成工程(S3)、及びゲート電極形成工程(S4)については、実施例1と同様であるため、説明を省略する。
【0078】
実施例2の製造方法によって形成された酸化物薄膜トランジスタ11の効果を確認するため、酸化物薄膜トランジスタ11の性能評価を行った。性能評価の結果を図14に示す。図14は、酸化物薄膜トランジスタ11の電圧−電流特性である。性能評価は、図14に示す実験結果から、酸化物薄膜トランジスタのキャリア移動度と、オン/オフ比とを算出することにより行った。
【0079】
図14に基づき、キャリア移動度について比較検討すると、実施例2の酸化物薄膜トランジスタ1では、キャリア移動度が5cm/Vs以上、オン/オフ比は10以上であった。以上の結果より、実施例2の酸化物薄膜トランジスタ11は、実施例1の酸化物薄膜トランジスタ1と同様に、高いキャリア移動度、オン/オフ比を有することが確認された。
【0080】
実施例2の酸化物薄膜トランジスタ11では、実施例1の酸化物薄膜トランジスタ1と同様の効果が得られる。さらに、実施例2の酸化物薄膜トランジスタ11では、初めに酸化物半導体層91を形成させた後で、ソース電極31とドレイン電極41とを形成させるために、半導体層形成工程(S11)において、ソース電極31とドレイン電極41とがダメージを受けることがない。ソース電極31とドレイン電極41とが形成された後に、酸化物半導体層91を形成する場合、酸化物半導体層91の形成過程で、ソース電極31とドレイン電極41とが酸化されてしまうことがある。ソース電極31とドレイン電極41との表面が酸化されてしまうと、電極の抵抗値が変化してしまい、トランジスタの性能が低下してしまう。そのため、ソース電極31、ドレイン電極41の形成後に酸化物半導体層91を形成させる場合には、ソース電極31、ドレイン電極41の材質として、酸化されにくい材質を選択する必要がある。本実施例では、半導体層形成工程(S11)は、ソース・ドレイン電極形成工程(S12)よりも先に行われる為、ソース電極31、ドレイン電極41が、酸化物半導体層91の形成過程において、酸化されることがない。そのため、ソース電極31とドレイン電極41の材質を選択する際の選択幅を広げることができ、酸化物薄膜トランジスタ11の用途に応じて、ソース電極31とドレイン電極41との材質を選択することができる。
【0081】
<第2実施形態>
次に、第2実施形態の酸化物薄膜トランジスタ100について、図面を参照して説明する。図15は、第2実施形態である酸化物薄膜トランジスタ100の縦断面図である。図16は、酸化物薄膜トランジスタ100の製造工程を示すフローチャートであり、図17は、基板102の上面にゲート電極106が形成された状態の縦断面図である。また、図18は、図17に示す基板102、ゲート電極106の上面に、第2実施形態におけるゲート絶縁層110が形成された状態の縦断面図であり、図19は、第2実施形態におけるゲート絶縁層110の上面に、ソース電極103、ドレイン電極104が形成された状態の縦断面図である。また、図20は、ソース電極103の上面、ドレイン電極104の上面、及びソース電極103とドレイン電極104との間の、第2実施形態におけるゲート絶縁層110の上面に酸化物半導体層109が形成された状態の縦断面図である。また、図21は、ソース電極103、ドレイン電極104、酸化物半導体層109、及び第2実施形態におけるゲート絶縁層110の上面に、有機絶縁層151が形成された状態の縦断面図であり、図22は、有機絶縁層151の上面に無機絶縁層152が形成された状態の縦断面図である。図23は、有機絶縁層151および無機絶縁層152を貫通するコンタクトホール111が形成された状態の縦断面図である。
【0082】
第2実施形態の酸化物薄膜トランジスタ100は、ゲート電極106がソース電極103やドレイン電極104より下側に位置する、所謂「ボトムゲート型」の酸化物薄膜トランジスタである。第2実施形態の酸化物薄膜トランジスタ100は、ボトムゲート型であることの他、層間絶縁層105が有機絶縁層151と無機絶縁層152の2層により形成されることに特徴を有する。また、層間絶縁層105を貫通するコンタクトホール111が設けられている点、画素電極112が設けられている点で第1実施形態と異なる。なお、第1実施形態の実施例1と同一部分の説明については省略する。
【0083】
はじめに、酸化物薄膜トランジスタ100の断面構造について説明する。図15に示す酸化物薄膜トランジスタ100は、板状の基板102を有し、基板102上にゲート電極106が設けられている。そして、基板102とゲート電極106とを覆うように、第2実施形態におけるゲート絶縁層110が設けられている。第1実施形態におけるゲート絶縁層5とは異なり、この第2実施形態におけるゲート絶縁層110は、本発明の絶縁層に相当する。第2実施形態におけるゲート絶縁層110の上面には、ソース電極103とドレイン電極104とが離間して設けられている。また、ソース電極103とドレイン電極104との間の第2実施形態におけるゲート絶縁層110の上面、ソース電極103の上面、ドレイン電極104の上面には、酸化物半導体層109が連続して設けられている。そして、酸化物半導体層109の上面と、ソース電極103及びドレイン電極104の各上面と、第2実施形態におけるゲート絶縁層110の上面とは、層間絶縁層105により覆われている。層間絶縁層105は、下側の有機絶縁層151と上側の無機絶縁層152とからなる。層間絶縁層105の上面には画素電極112が設けられている。また、画素電極112とドレイン電極104との間には、層間絶縁層105を貫通するコンタクトホール111が設けられている。
【0084】
基板102、ソース電極103、ドレイン電極104、ゲート電極106、および酸化物半導体層109の材質は、第1実施形態の基板2、ソース電極3、ドレイン電極4、ゲート電極6、および酸化物半導体層9の材質と同様である。層間絶縁層105を形成している有機絶縁層151および無機絶縁層152の材質は、第1実施形態におけるゲート絶縁層5を形成している有機絶縁層51および無機絶縁層52と同様である。
【0085】
第2実施形態におけるゲート絶縁層110は、1層からなり、絶縁物質により形成されている。絶縁物質として無機絶縁物質を採用する場合は、Al,SiO,SiN,TiO等が適用可能である。また、絶縁物質として有機絶縁物質を採用する場合は、PI(ポリイミド),PMMA(ポリメチルメタクリレート),PVP(ポリパラビニルフェノール)等が適用可能である。なお、第2実施形態におけるゲート絶縁層110の材質としては、絶縁性能、耐性の観点から、無機絶縁物質を採用する方がより好ましい。また、画素電極112はITO(酸化インジウムスズ)により形成される。
【0086】
次に、酸化物薄膜トランジスタ100の製造方法について説明する。酸化物薄膜トランジスタ100の製造方法は、図16に示すように、ゲート電極形成工程(S101)と、ゲート絶縁層形成工程(S102)と、ソース・ドレイン電極形成工程(S103)と、半導体層形成工程(S104)と、層間絶縁層形成工程(S105)と、コンタクトホール形成工程(S106)と、画素電極形成工程(S107)とを備えている。層間絶縁層形成工程(S105)は、有機絶縁層形成工程(S151)と無機絶縁層形成工程(S152)とから構成されている。以下、各工程について実施例を挙げて説明する。
【0087】
<実施例>
初めに、ゲート電極形成工程(S101)が行われる。ゲート電極形成工程(S101)では、基板102の上面にゲート電極106が形成される。ゲート電極形成工程(S101)では、まず、基板102を洗浄し、基板102の上面に、Ni薄膜を形成したあと、Ni薄膜をパターニングして不要部分を除去することにより、Niからなるゲート電極106を形成する。Ni膜の形成は、スパッタリング法により行われる。このときのターゲットとしてはNiが使用され、装置としてはDCスパッタ装置が用いられる。形成されたNi膜の上面に、フォトリソグラフィ法により、レジストパターンが形成され、エッチング法により、Ni膜がエッチングされる。最後に、不要となったフォトレジストを、アセトン洗浄により除去する。こうして、図17に示すように、基板102の上面に、Niからなるゲート電極106を形成させることができる。
【0088】
次に、ゲート絶縁層形成工程が行われる(S102)。ゲート絶縁層形成工程(S102)では、図17に示すゲート電極106の上面、及び基板102の上面のうちのゲート電極106が設けられていない部位に、SiO膜が形成される。SiO膜の製膜は、スパッタリング法により行われ、ターゲットとしてはSiOが使用されるとともに、ArとOとの混合ガスを流しながら行われる。こうして、図18に示すように、ゲート電極106の上面、及び基板102の上面のうちのゲート電極106が設けられていない部位に、SiOからなる第2実施形態におけるゲート絶縁層110が形成される。
【0089】
次に、ソース・ドレイン電極形成工程(S103)が行われる。ソース・ドレイン電極形成工程(S103)では、図18に示す第2実施形態におけるゲート絶縁層110の上面に、Ni薄膜を製膜し、パターニングして不要部分を除去することにより、図19に示すように、ソース電極103およびドレイン電極104を形成する。形成条件は、ゲート電極106と同様であるため、説明を省略する。
【0090】
次に、半導体層形成工程(S104)が行われる。半導体層形成工程(S104)では、図20に示すように、ソース電極103及びドレイン電極104の間の、第2実施形態におけるゲート絶縁層110の上面、ソース電極103の上面、ドレイン電極104の上面に、酸化物半導体層109が連続して形成される。半導体層形成工程(S104)では、初めに、図19に示すソース電極103の上面と、ドレイン電極104の上面と、第2実施形態におけるゲート絶縁層110の上面のうちのソース電極103、ドレイン電極104が設けられていない部位とを覆うように、InGaZnO膜を形成する。その後、InGaZnO膜をパターニングして不要部分を除去することにより、InGaZnOからなる酸化物半導体層109を形成する。InGaZnO膜の形成は、スパッタリング法により行われ、ターゲットとしてInGaZnOが用いられるとともに、ArとOとの混合ガスを流しながら行われる。InGaZnO膜を形成した後、フォトリソグラフィ法を用いてレジストパターンを形成し、InGaZnO膜をエッチングする。最後に、不要となったフォトレジストを、アセトン洗浄により除去する。こうして、図20に示すように、ソース電極103及びドレイン電極104の間の第2実施形態におけるゲート絶縁層110の上面、ソース電極103の上面、ドレイン電極104の上面に、InGaZnOからなる酸化物半導体層109を連続して形成させることができる。
【0091】
次に、層間絶縁層形成工程(S105)が行われる。層間絶縁層形成工程(S105)は、図16に示すように、下側の有機絶縁層151を形成する有機絶縁層形成工程(S151)と、上側の無機絶縁層152を形成する無機絶縁層形成工程(S152)とからなる。
【0092】
有機絶縁層形成工程(S151)では、図21に示すように、酸化物半導体層109、ソース電極103、ドレイン電極104の各上面、及び第2実施形態におけるゲート絶縁層110の上面のうち酸化物半導体層109、ソース電極103、ドレイン電極104の設けられていない部位を覆うように、有機絶縁層151が形成される。有機絶縁層形成工程(S151)では、PVPを含有する有機絶縁層形成用溶液を、スピンコート法により、図20に示す酸化物半導体層109、ソース電極103、ドレイン電極104の各上面、及び第2実施形態におけるゲート絶縁層110の上面のうちの酸化物半導体層109、ソース電極103、ドレイン電極104の設けられていない部位に塗布した後、熱処理を行う。有機絶縁層形成用溶液は、PVP、メラミン−ホルムアルデヒド、プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテートの混合溶液であり、各材料の重量比は、PVP:メラミン−ホルムアルデヒド:プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート=1:2:10である。熱処理は、ホットプレートを用いて行われ、70℃で10分間加熱した後、150℃で10分間加熱し、最後に200℃で30分間加熱することにより行われる。
【0093】
無機絶縁層形成工程(S152)では、図22に示すように、有機絶縁層151の上面を覆うように、無機絶縁層152が形成される。無機絶縁層形成工程(S152)では、パーヒドロポリシラザンを含有する無機絶縁層形成用溶液を、スピンコート法により、図21に示す有機絶縁層151の上面に塗布した後、熱処理を行う。無機絶縁層形成用溶液は、パーヒドロポリシラザンを、アミン系触媒を含むキシレン溶媒に溶解させることにより作成する。無機絶縁層形成用溶液中のパーヒドロポリシラザンの濃度は10wt%である。熱処理は、ホットプレートを用いて行われ、70℃で10分間加熱した後、150℃で10分間加熱し、最後に200℃で30分間加熱することにより行われる。
【0094】
次に、コンタクトホール形成工程(S106)が行われる。コンタクトホール形成工程(S106)では、有機絶縁層151と無機絶縁層152とを貫通するコンタクトホール111が形成される。コンタクトホール形成工程(S106)では、初めに、コンタクトホール111に対応する箇所に開口部を備えたレジストマスクを、図22に示す無機絶縁層152の上面に形成させる。そして、ドライエッチング法により、無機絶縁層152と有機絶縁層151とをエッチングする。エッチングガスは、無機絶縁層152に対してはCHF3が用いられ、有機絶縁層151に対しては酸素が用いられる。
【0095】
次に、画素電極形成工程が行われる(S107)。画素電極形成工程(S107)では、無機絶縁層152の上面に、ITO薄膜が形成された後、パターニングして不要部分が除去されることにより、ITOからなる画素電極112が形成される。ITO膜の形成は、スパッタリング法により行われる。このときのターゲットとしてはITOが使用され、装置としてはDCスパッタ装置が用いられる。その後、レジストパターンを形成し、ITO膜をエッチングする。そして、不要となったフォトレジストを、アセトン洗浄により除去する。こうして、図15に示すように、画素電極112を形成させることができる。
【0096】
第2実施形態の製造方法によって形成された酸化物薄膜トランジスタ100の効果を確認するため、酸化物薄膜トランジスタ100の性能評価を行った。性能評価の結果を図24に示す。図24は、酸化物薄膜トランジスタ100の電圧−電流特性である。性能評価は、図24に示す実験結果から、酸化物薄膜トランジスタのキャリア移動度と、オン/オフ比とを算出することにより行った。
【0097】
図24に基づき、キャリア移動度について検討すると、第2実施形態の酸化物薄膜トランジスタ100では、キャリア移動度が5cm/Vs以上、オン/オフ比は10以上であった。以上の結果より、実施例2の酸化物薄膜トランジスタ100は、第1実施形態の酸化物薄膜トランジスタ1、11と同様に、高いキャリア移動度、オン/オフ比を有することが確認された。
【0098】
以上詳述した、第2実施形態の酸化物薄膜トランジスタ100の製造方法によれば、第1実施形態の場合と同様な効果が得られる。さらに、画素電極112は、高硬度の無機絶縁層152の上面に形成され、有機絶縁層151には接触しないので、画素電極112の形成過程において有機絶縁層151がダメージを受けることがない。そのため、画素電極112が形成される際に、有機絶縁層151と無機絶縁層152とからなる層間絶縁層105の絶縁特性が変化してしまうことを防止し、酸化物薄膜トランジスタ100の性能を維持することができる。
【0099】
尚、本発明は、詳述した実施形態に限定されるものではなく、本開示の要旨を逸脱しない範囲内において種々変更を加えてもよい。例えば、酸化物薄膜トランジスタを構成する基板、ゲート電極、ソース電極、ドレイン電極、ゲート絶縁層、酸化物半導体層の材料、大きさ、形状は実施形態の場合に限定されず、本開示の要旨を逸脱しない範囲内において適宜変更可能である。
【0100】
また、第2実施形態の実施例では、ソース電極103とドレイン電極104とを形成させた後に酸化物半導体層109を形成させたが、第1実施形態の実施例2と同様に、酸化物半導体層109を形成させた後にソース電極103とドレイン電極104とを形成させてもよい。この場合には、酸化物半導体層109の形成過程で、ソース電極103、ドレイン電極104が酸化されることがないので、ソース電極103とドレイン電極104との材料を選択する際の選択の幅を広げることができる。
【0101】
また、本実施形態では、塗布法を用いて無機絶縁層52、152を形成したが、無機絶縁層の形成方法は塗布法に限定されない。たとえば、無機絶縁層52、152を、真空蒸着法などのドライプロセスにより形成することも可能である。
【0102】
また、詳述した実施例では、無機絶縁層52、152は、無機成分のみで構成されていたが、無機絶縁層52、152を無機・有機複合材料により構成してもよい。例えば、高分子樹脂に無機フィラーを分散させた溶液を塗布することにより、無機・有機複合材料からなる無機絶縁層52、152を形成させることができる。無機絶縁層52、152を無機・有機複合材料により構成させる場合、無機絶縁層52、152に柔軟性を持たせることができ、クラックの発生を抑制することができる。また、低温条件下での無機絶縁層52、152の形成が可能となる。
【産業上の利用可能性】
【0103】
本発明の酸化物薄膜トランジスタ及び酸化物薄膜トランジスタの製造方法は、所謂ボトムゲート型またはトップゲート型の酸化物薄膜トランジスタ及びその製造方法に適用可能である。
【図面の簡単な説明】
【0104】
【図1】第1実施形態の酸化物薄膜トランジスタ1の縦断面図である。
【図2】実施例1の酸化物薄膜トランジスタ1の製造工程を示すフローチャートである。
【図3】基板2の上面にソース電極3とドレイン電極4とが形成された状態の縦断面図である。
【図4】図3に示すソース電極3とドレイン電極4との間に酸化物半導体層9が形成された状態の縦断面図である。
【図5】基板2とソース電極3とドレイン電極4と酸化物半導体層9との上面に、有機絶縁層51が形成された状態の縦断面図である。
【図6】有機絶縁層51の上面に無機絶縁層52が形成された状態の縦断面図である。
【図7】比較例1の酸化物薄膜トランジスタ1aの縦断面図である。
【図8】比較例2の酸化物薄膜トランジスタ1bの縦断面図である。
【図9】酸化物薄膜トランジスタ1の電圧−電流特性である。
【図10】酸化物薄膜トランジスタ1aの電圧−電流特性である。
【図11】酸化物薄膜トランジスタ1bの電圧−電流特性である。
【図12】実施例2の酸化物薄膜トランジスタ11の縦断面図である。
【図13】実施例2の酸化物薄膜トランジスタ11の製造工程を示すフローチャートである。
【図14】酸化物薄膜トランジスタ11の電圧−電流特性である。
【図15】第2実施形態の酸化物薄膜トランジスタ100の縦断面図である。
【図16】酸化物薄膜トランジスタ100の製造工程を示すフローチャートである。
【図17】基板102の上面にゲート電極106が形成された状態の縦断面図である。
【図18】基板102、ゲート電極106の上面に、第2実施形態におけるゲート絶縁層110が形成された状態の縦断面図である。
【図19】第2実施形態におけるゲート絶縁層110の上面に、ソース電極103、ドレイン電極104が形成された状態の縦断面図である。
【図20】ソース電極103とドレイン電極104との間に酸化物半導体層109が形成された状態の縦断面図である。
【図21】ソース電極103、ドレイン電極104、酸化物半導体層109、第2実施形態におけるゲート絶縁層110の上面に、有機絶縁層151が形成された状態の縦断面図である。
【図22】有機絶縁層151の上面に無機絶縁層152が形成された状態の縦断面図である。
【図23】有機絶縁層151および無機絶縁層152を貫通するコンタクトホール111が形成された状態の縦断面図である。
【図24】酸化物薄膜トランジスタ100の電圧−電流特性である。
【符号の説明】
【0105】
1 酸化物薄膜トランジスタ
2 基板
3 ソース電極
4 ドレイン電極
5 ゲート絶縁層
6 ゲート電極
9 酸化物半導体層
11 酸化物薄膜トランジスタ
31 ソース電極
41 ドレイン電極
51 有機絶縁層
52 無機絶縁層
91 酸化物半導体層
100 酸化物薄膜トランジスタ
102 基板
103 ソース電極
104 ドレイン電極
105 層間絶縁層
106 ゲート電極
109 酸化物半導体層
110 第2実施形態におけるゲート絶縁層
111 コンタクトホール
112 画素電極
151 有機絶縁層
152 無機絶縁層
1a 酸化物薄膜トランジスタ
1b 酸化物薄膜トランジスタ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
絶縁層と、
前記絶縁層上面に互いに離間して設けられているソース電極及びドレイン電極と、
前記ソース電極と前記ドレイン電極との間隙の前記絶縁層の上面、前記ソース電極の上面、及び前記ドレイン電極の上面に連続して設けられている酸化物半導体層と、
少なくとも前記酸化物半導体層の上面に設けられている有機絶縁層と、
前記有機絶縁層の上面に設けられている無機絶縁層と
を備えていることを特徴とする酸化物薄膜トランジスタ。
【請求項2】
前記無機絶縁層は、無機元素を有する化合物を溶解させた溶液を前記有機絶縁層の上面に塗布することにより形成されることを特徴とする請求項1に記載の酸化物薄膜トランジスタ。
【請求項3】
絶縁層と、
前記絶縁層上面に形成されている酸化物半導体層と、
前記酸化物半導体層上面で互いに離間し、且つ、夫々前記酸化物半導体層上面および前記絶縁層上面に連続して設けられているソース電極及びドレイン電極と、
少なくとも前記酸化物半導体層の上面に設けられている有機絶縁層と、
前記有機絶縁層の上面に設けられている無機絶縁層と
を備え、
前記無機絶縁層は、無機元素を有する化合物を溶解させた溶液を前記有機絶縁層の上面に塗布することにより形成されることを特徴とする酸化物薄膜トランジスタ。
【請求項4】
前記化合物は、パーヒドロポリシラザンであることを特徴とする請求項2又は3に記載の酸化物薄膜トランジスタ。
【請求項5】
前記無機絶縁層の上面に、ゲート電極または画素電極が設けられていることを特徴とする請求項1乃至4のいずれかに記載の酸化物薄膜トランジスタ。
【請求項6】
前記酸化物半導体層は、In,Ga,Znの少なくともいずれか1種の元素を含む酸化物により形成されていることを特徴とする請求項1乃至5のいずれかに記載の酸化物薄膜トランジスタ。
【請求項7】
絶縁層と、前記絶縁層の上面に形成されたソース電極及びドレイン電極と、前記ソース電極と前記ドレイン電極との間の前記絶縁層上面に形成された酸化物半導体層と、ゲート電極とを備えている酸化物薄膜トランジスタの製造方法であって、
前記絶縁層上面に互いに離間してソース電極及びドレイン電極を形成させる第1の工程と、
前記ソース電極と前記ドレイン電極との間隙の前記絶縁層の上面、前記ソース電極の上面、前記ドレイン電極の上面に、連続した酸化物半導体層を形成させる第2の工程と、
少なくとも前記酸化物半導体層の上面に有機絶縁層を形成させる第3の工程と、
前記有機絶縁層の上面に無機絶縁層を形成させる第4の工程と
を備えることを特徴とする酸化物薄膜トランジスタの製造方法。
【請求項8】
前記第4の工程では、無機元素を有する化合物を溶解させた溶液を、前記有機絶縁層の上面に塗布することによって、前記有機絶縁層の上面に前記無機絶縁層を形成させることを特徴とする請求項7に記載の酸化物薄膜トランジスタの製造方法。
【請求項9】
絶縁層と、前記絶縁層の上面に形成されたソース電極及びドレイン電極と、前記ソース電極と前記ドレイン電極との間の前記絶縁層上面に形成された酸化物半導体層と、ゲート電極とを備えている酸化物薄膜トランジスタの製造方法であって、
前記絶縁層上面に酸化物半導体層を形成させる第1の工程と、
前記酸化物半導体層上面で互いに離間し、且つ、夫々前記酸化物半導体層上面および前記絶縁層上面に連続しているソース電極及びドレイン電極を形成させる第2の工程と、
少なくとも前記酸化物半導体層の上面に有機絶縁層を形成させる第3の工程と、
前記有機絶縁層の上面に無機絶縁層を形成させる第4の工程と
を少なくとも備え、
前記第4の工程は、無機元素を有する化合物を溶解させた溶液を、前記有機絶縁層の上面に塗布することを特徴とする酸化物薄膜トランジスタの製造方法。
【請求項10】
前記化合物は、パーヒドロポリシラザンであることを特徴とする請求項8又は9に記載の酸化物薄膜トランジスタの製造方法。
【請求項11】
前記無機絶縁層の上面に、ゲート電極または画素電極を形成させる第5の工程を備えることを特徴とする請求項7乃至10のいずれかに記載の酸化物薄膜トランジスタの製造方法。
【請求項12】
前記酸化物半導体層は、In,Ga,Znの少なくともいずれか1種の元素を含む酸化物により形成されていることを特徴とする請求項7乃至11のいずれかに記載の酸化物薄膜トランジスタの製造方法。
【請求項13】
請求項7乃至12のいずれかに記載の酸化物薄膜トランジスタの製造方法によって製造される酸化物薄膜トランジスタ。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【図18】
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【図19】
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【図20】
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【図21】
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【図22】
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【図23】
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【図24】
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【公開番号】特開2009−302352(P2009−302352A)
【公開日】平成21年12月24日(2009.12.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−156049(P2008−156049)
【出願日】平成20年6月13日(2008.6.13)
【出願人】(000005267)ブラザー工業株式会社 (13,856)
【Fターム(参考)】