説明

量子トンネル作用トランスジューサ

【課題】直線あるいは有角の分離又は変位等の微細相対運動又は移動の正確な測定及びモニターの概念を具体化した実用的な装置を提供する。
【解決手段】
モノリスミクロ又はナノ電気機械トランスジューサ装置であって、それぞれが1以上の長形導電体(40)を搭載した一対の基材(20,25)と、導電体に適切な電位差がかけられた時、導電体間に検知可能な量子トンネル作用電流を提供することができる空間で基材の長形導電体(40)のそれぞれが対面するように基材を相対的に位置させるために基材と一体的になってリンクさせる弾性固定ヒンジ手段(30,32)を含んでいる。固定ヒンジ手段は長形導電体に対して横方向の基材の相対的な平行変位を可能にする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は直線あるいは有角の分離又は変位等の微細相対運動又は移動の正確な測定及びモニターに関する。本発明はミクロ又はナノサイズの移動検知に特に有用である。これに限られるものではないが、特に振動の測定と、位置変化から導かれる量の測定に関する。
【背景技術】
【0002】
ミクロ又はナノサイズの変位又は運動を測定するための量子トンネル効果電流の検知可能な変化の利用方法については多くの文献がある。
【0003】
例えば、小林他の文献では、サンプルと尖ったメタルチップ間の約1nmの間隙へのトンネル効果電流の超高感度性を利用した原子力顕微鏡プローブ等のミクロ構造のための変位検知装置が提案されている。Proceedings of MEMS 1992, Travemunde (ドイツ)1992年2月4〜7日では小林他の「統合トンネルユニット」では初期の関連技術が開示されている。デザインエンジニアリング(Morgan Grapmpian Ltd, London, U.K.), 1997年11月1日の「Microsensors get tunneling」からの抜粋には、シリコン型絶縁体 (Silicon-on-insulator (S.O.I))ウエハーで現れるトンネル電流効果を利用した加速度計が開示されている。
【0004】
この装置及びヨーロッパ特許公報262253号に開示の小型機械式原子力センサーヘッドは、典型的には突体とその対面体間等の間隙の可変幅への検知された量子トンネル電流の感度を利用している。すなわち、突体と面は互いに近づいたり離れたりする。
【0005】
突体とその対面体間に量子トンネル作用を利用した装置は、米国特許4806755号及び国際特許公報WO97/20189号に開示されている。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本件出願人の国際特許公報WO00/14476号は、導電体に電位差がかけられると導電体間に検知可能なトンネル電流が存在するように1対の長形導電体が相互分離部に提供されている2要素の相対位置または変位を測定又はモニターする超小型装置を開示する。この装置は対面導電体間の横方向面又は角度的な整合度に敏感である。装置の1形態では、それぞれの基材は2から100オングストロームの範囲の空間で対面導電体配列を搭載している。この間隙を正確に維持する開示装置では、C60ナノベアリング又はシクロヘキサン等の有機媒体の分離膜を使用している。
【0007】
WO00/14476号に開示の技術の概念と構造にはミクロ又はナノレベルでの幅広い応用性がある。
【0008】
本発明の目的はこれらの概念を具体化した実用的な装置を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明は本質的には、国際特許公報WO00/14476号に開示の概念である、一対の対面基材の平行変位を可能にする構造を応用するためのモノリスMEMS又はMEMS構造である。
【0010】
本発明は、モノリスミクロ又はナノ電気機械トランスジューサ装置を提供し、
それぞれが1以上の長形導電体を搭載した一対の基材と、
導電体に適切な電位差がかけられた時、導電体間に検知可能量のトンネル作用電流を提供することができる空間で、基材の長形導電体のそれぞれが対面するように基材を相対的に位置させるために基材と一体的になって基材をリンクさせる弾性固定ヒンジ手段と、
を含んでおり、
固定ヒンジ手段は長形導電体に対して横方向の基材の相対的な平行変位を可能にすることを特徴とする。
【0011】
それぞれの基材に搭載された対面する長形導電体は実質的に平行であることが望ましい。
【0012】
弾性固定ヒンジ手段は選択方向に直角の方向に対し、選択方向で実質的に低硬度を有するサイズであることが望ましい。
【0013】
1実施例では、固定ヒンジ手段は、少なくとも1つの基材の1方から突出している柱と、柱をもう一方の基材の端部領域へ一体的に連結するウエブとを含んでいる。直線方向の変位を検知するため、好適にはヒンジ手段は一対の固定ヒンジを含んでいる。一方、回転的又は角度的な変位運動の検知は典型的には1又は4の固定ヒンジを必要とする。
【0014】
好適な装置では、それぞれの基材は典型的には実質的に厚みが均一な一方が他方に重なる平面プレートかウエハーである。長方形又は正方形のプレート又はウエハーが望ましいが、4つの有角的に配置された固定ヒンジの場合は、基材の1つがディスク形状であると都合がよい。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
本発明の実施形態を図面と共に説明する。
図1は直線的振動の測定に特に適切な、一対の一体型固定ヒンジを有する本発明によるモノリストランスジューサ装置の斜視図である。図2と図3はそれぞれ図1に示す装置の平面図と側面図である。図4は図1に類似するが別角度から見た斜視図であり、図1に示す装置の変形であって、4つの一体型固定ヒンジを有する。図5は図1に示す装置の変形を示す斜視図であり、回転的変位又は振動に敏感なように1つのヒンジを有する。図6は円板形基材の周りに等しい角度で提供された4つの固定ヒンジを有する装置を示す斜視図である。
【0016】
図1から図3に示すトランスジューサ装置は典型的にはシリコン又はヒ化ガリウム等のミクロ又はナノ構造の製造に適した材料で形成される一体型モノリス構造である。本装置は一対の長方形プレート又はウエハー20,25を含んでおり、ウエハー20はもう一方よりサイズが大きく、構造の基礎部を形成しており、もう一方のウエハー25は一対の弾性固定ヒンジ構造体30,32から基礎プレート20を覆うように提供されている。本実施例では、プレート又はウエハー20,25それぞれは厚みが均一で、プレート25は基礎プレート20を覆うように中心対称に取り付けられている。
【0017】
ヒンジ構造体30,32は基材プレート20,25と一体的である。それぞれは基礎プレート20から直立した壁状の柱34を含む。本実施例では、それぞれの柱34は基礎プレート20の端部に提供されており、柱の外面35は基礎プレートの端面21と同一面であるが、他のアレンジも可能である。プレート25は、プレート25の対面を柱34の内面に相互共面整合状態で接続する長形ヒンジウエブ36,38のそれぞれによって柱34にリンクされている。この形態では、上下端部37がプレート25の上下面24それぞれと同一面に、また上端部37が柱34の上端部33に対して同一面及び直角にアレンジされるように、ヒンジウエブ36はプレート25の厚みと同幅である。
【0018】
ヒンジウエブ36はプレート20,25に対して平行方向では比較的厚みが薄く、プレートに対して通常の方向では比較的厚みがあるので、ヒンジは非常に曲げやすく、すなわち平行方向では運動抵抗性が低く、直角方向の運動には非常に頑強で抵抗性がある。
【0019】
プレート20,25の対面23,24はかなり正確に平行に提供されており、対面間に検知可能な量子トンネル電流が存在できるように均一の空間又は間隙50をとって提供されている。ミクロ又はナノ電気機械装置として利用するように、面23,24は長形の導電体40をヒンジウエブ36の面と平行に並べた対面ペアに埋め込んでいる。適切な電気的接触部42は間隙50を横切る検知可能な量子トンネル電流を発生させるため、対面導電体ペアを横切る適切な電位差をかけるようにプレート20,25に提供されている。接触部42間の電気的接続部と導電体40はヒンジウエブ36を介して一体化できる。
【0020】
前述の国際特許公報WO00/14476号で説明されているように、この量子波関数は導電体面外では級数的に減衰し、検知電流もまた一対の対面導電体間で横方向に重なっているか又は相対的角度の関数であるため、量子トンネル電流は導電体間の空間に大きく依存している。ヒンジウエブ36が曲がるにつれて導電体を横断するプレート20,25のあらゆる相対的平行変位移動の整合から対面導電体が外れて移動するにつれてトンネル電流の検知値は変化するため、本装置はこの直線的関係を利用している。
【0021】
図1から図3のトランスジューサ装置10の特に適した応用では、基礎プレート20が表面に固定されて表面の振動がヒンジウエブ36でプレート25に相対的な振動を生じさせるところでヒンジ36の面を横切る直線振動運動を検知することができる。ミクロ又はナノサイズの図示のトランスジューサは高周波数で機能できるため、対面導電体が振動して整合状態となったり外れるとき、量子トンネル電流のピークを検知することで高周波数振動のセンサーとして使用されることができる。
【0022】
図1から図3のトランスジューサ装置の別の応用は、プレート25が流れへ突出して反応する流量計としての利用である。本装置は位置変位から導かれるあらゆる物体の測定に一般的に利用できる。
【0023】
図4から図6は他の特徴又は応用性を有するモノリスミクロ又はナノ装置の別実施例である。図4の構造は、プレート125の両側に2つのヒンジウエブ130a,130b及び132a,132bを有する点以外は図1と類似する。この設計ではプレートの寸法が図1のものよりも大きい場合、基礎プレート120に対するプレート125の直線運動が可能となる。
【0024】
逆に図5の構造は、小型プレート225が片持ち梁式で柱234から突出するように1体のウエブヒンジ230を有するだけである。この設計では基礎プレートに対する片持ち梁プレートの有角回転が可能となる。図6の構造もまたプレートの相対的有角運動に利用できる。ここでは、全く異なった反応を提供するためのプレートのさらに正確な位置付けが確実となるよう、プレートは4つの等角スペースを空けて放射状に延びるヒンジウエブ36を有する。
【0025】
図示した構造のサイズは例えば100μmから100nmの範囲のプレート寸法(端部長又は直径)である。典型的なヒンジ寸法は100μmから100nm、幅は50μmから50nm及び厚みは50μmから10nmである。
【0026】
本発明に係る装置の製造にはあらゆる公知の組み立て方法を利用することができる。適切な方法には、
【0027】
a. 約15nm以下のプレート間の間隙50用の焦点イオンビーム(FIB Focused Ion Beam)
【0028】
b. 5nm以下のプレート間の間隙用のシリコン型絶縁体(SOI)
【0029】
c. 反応性イオンエッチング材料(RIE)を使用する間隙材料の犠牲除去
【0030】
d. STM/AFM電子化学エッチング材料
が含まれる。
【0031】
別の方法は、例えば自己整列分子層(self-aligned molecular (SAM) layer)を底面に配置し、2体のプレートをヒンジを形成するようにFIB等で溶接し、SAM層を蒸発させることによる2体のプレートの別々な組み立て方法であろう。この場合、プレート間の間隙はSAM材の厚みに関係するであろう。
【0032】
1nm以下の間隙には、公知の組立方法は適さないであろう。従ってこの場合、プレートは別々に製造され、互いに十分に空間をとり、アクチュエータでプレートを接近させる。
【0033】
移植又はナノ刻印技術又はあらゆる適切な方法で長形の導電体と接触部が利用できる。
【0034】
固定一体型ヒンジ40は非常に正確で高い耐性を有する。ばね定数又はウエブ組立細部の変化から発生する誤差は制御可能であり非常に低い値とすることができる。図示のトランスジューサは真空、悪環境、強い磁気や電界の存在下、強い放射能又は宇宙放射能及び極端な低温又は高温でも機能することができる。
【0035】
トランスジューサ装置のサイズを前述の範囲内(すなわちMEMSからNEMSへ)のミクロ規模からナノ規模へ減少させると、ヒンジの性能と信頼度が向上する。数々の実験によって立証されているように、サイズを減少させるとこれに対応して欠点も減少する。サイズ減少と共に多くの物理的パラメータをより正確に制御できる。パラメータには特にシリコン用の弾性率及び他の物理的特性が含まれる。固定ウエブヒンジの信頼性は非常に高く、寿命は典型的には10年以上か又は継続使用で3000億サイクルと見積もられる。
【0036】
有限要素法の使用等、様々な他の構造の数的及び構造的分析は特定の利用法に最適な解決策を提供できる。プレートの最適平行運動のため、選択された運動範囲と必要周波数内で、トランスジューサ又は固定ウエブヒンジの幾何学構造、材料及びサイズを選択できる。
【0037】
装置の応用には力計、流量計、ジャイロスコープ、振動計及び加速度計が含まれる。特に航空機又は船舶設計及び試験での航空力学面の測定あるいはコンピュータディスクドライブ試験等、測定環境の妨害が問題となる表面への応用に有用である。
【図面の簡単な説明】
【0038】
【図1】図1は直線的振動の測定に特に適切な、一対の一体型固定ヒンジを有する本発明によるモノリストランスジューサ装置の斜視図である。
【図2−3】図2と図3はそれぞれ図1に示す装置の平面図と側面図である。
【図4】図4は図1に類似するが別角度から見た斜視図であり、図1に示す装置の変形であって、4つの一体型固定ヒンジを有する。
【図5】図5は図1に示す装置の変形を示す斜視図であり、回転的変位又は振動に敏感なように1つのヒンジを有する。
【図6】図6は円板形基材の周りに等しい角度で提供された4つの固定ヒンジを有する装置を示す斜視図である。
【符号の説明】
【0039】
10 トランスジューサ装置
20 基材
25 基材
30 弾性固定ヒンジ手段
32 弾性固定ヒンジ手段
40 導電体

【特許請求の範囲】
【請求項1】
モノリスミクロ又はナノ電気機械トランスジューサ装置であって、
それぞれが1以上の長形導電体を搭載した一対の基材と、
前記導電体に適切な電位差がかけられた時、前記導電体間に検知可能量の量子トンネル作用電流を提供することができる空間で前記基材の前記長形導電体のそれぞれが対面するように前記基材を相対的に位置させるために前記基材と一体的になって該基材をリンクさせる弾性固定ヒンジ手段と、
を含んでおり、
該固定ヒンジ手段は前記長形導電体に対して横方向の前記基材の相対的な平行変位を可能にすることを特徴とする電気機械トランスジューサ装置。
【請求項2】
それぞれの基材に搭載された対面する長形導電体は実質的に平行であることを特徴とする請求項1記載の電気機械トランスジューサ装置。
【請求項3】
弾性固定ヒンジ手段は選択方向に直角の方向に対し選択方向で実質的に低硬度を有するサイズであることを特徴とする請求項1又は2記載の電気機械トランスジューサ装置。
【請求項4】
固定ヒンジ手段は少なくとも1つの基材の1方から突出している柱と、該柱をもう一方の基材の端部領域へ一体的に連結するウエブとを含んでいることを特徴とする請求項1から3記載の電気機械トランスジューサ装置。
【請求項5】
直線方向の変位を検知するため、ヒンジ手段は一対の弾性固定ヒンジを含んでいることを特徴とする請求項1から4のいずれかに記載の電気機械トランスジューサ装置。
【請求項6】
ヒンジは相互共面整合状態のヒンジウエブを含んでいることを特徴とする請求項5記載の電気機械トランスジューサ装置。
【請求項7】
回転的又は角度的な変位運動の検知のため、ヒンジ手段は1以上の有角空間固定ヒンジを含んでいることを特徴とする請求項1から4のいずれかに記載の電気機械トランスジューサ装置。
【請求項8】
それぞれの基材は平面プレートかウエハーであり、一方が他方に重なっていることを特徴とする請求項1から7のいずれかに記載の電気機械トランスジューサ装置。
【請求項9】
プレート又はウエハーは長方形であることを特徴とする請求項8記載の電気機械トランスジューサ装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公表番号】特表2006−524320(P2006−524320A)
【公表日】平成18年10月26日(2006.10.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−504018(P2006−504018)
【出願日】平成16年4月22日(2004.4.22)
【国際出願番号】PCT/AU2004/000523
【国際公開番号】WO2004/094956
【国際公開日】平成16年11月4日(2004.11.4)
【出願人】(505391861)クアンタム プレシジョン インスツルメント アジア ピーティイー エルティディ (1)
【Fターム(参考)】