金型及び熱可塑性樹脂系繊維強化複合材料成形品の製造方法
【課題】キャビティ面の加熱及び冷却を急速に行ってハイサイクルに成形材料を成形できる金型、並びに該金型を用いた熱可塑性樹脂系繊維強化複合材料成形品の製造方法の提供を目的とする。
【解決手段】20℃における固有抵抗値が4.0〜100μΩ・cmの磁性金属材料により形成されたキャビティ面14、24を有する上型10及び下型20を具備し、上型10及び下型20のそれぞれに、20℃における固有抵抗値が5.0μΩ・cm以下の非磁性金属材料により形成される冷却回路16、26と、キャビティ面14、24を高周波誘導加熱する誘導加熱コイル17、27が設けられている金型1。また、金型1を用いた熱可塑性樹脂系繊維強化複合材料成形品の製造方法。
【解決手段】20℃における固有抵抗値が4.0〜100μΩ・cmの磁性金属材料により形成されたキャビティ面14、24を有する上型10及び下型20を具備し、上型10及び下型20のそれぞれに、20℃における固有抵抗値が5.0μΩ・cm以下の非磁性金属材料により形成される冷却回路16、26と、キャビティ面14、24を高周波誘導加熱する誘導加熱コイル17、27が設けられている金型1。また、金型1を用いた熱可塑性樹脂系繊維強化複合材料成形品の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、金型及び熱可塑性樹脂系繊維強化複合材料成形品の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
マトリックス樹脂が強化繊維で強化された熱可塑性樹脂系繊維強化複合材料等の成形材料の成形方法としては、所望の形状のキャビティを有する金型による成形方法が挙げられる。特に、熱可塑性樹脂系繊維強化複合材料の成形では、高温の金型で成形材料を溶融成形し、該金型を冷却して成形材料を固化した後に、金型から成形品を取り出す手法が用いられ、金型の加熱、冷却を繰り返す必要がある。このような成形品の製造のハイサイクル化には、金型の加熱及び冷却を急速で行うことが重要である。
【0003】
加熱や冷却が効率的に行える金型としては、下記の金型が知られている。
(1)金型のキャビティ面に薄肉の金属殻が形成されており、該金属殻を高周波誘導加熱により直接加熱する金型(特許文献1)。
(2)金型のキャビティ面に薄肉の金属殻が形成され、さらに金型内部に、発熱体及び該発熱体を高周波誘導加熱する誘導加熱コイルと、冷水を流通して前記金属殻を冷却する温調配管が設けられた金型(特許文献2)。
(3)金型に、該金型を高周波誘導加熱する誘導加熱コイルが設けられ、かつ金型内に冷水を流通して金型を冷却する冷却水路が形成された金型(特許文献3)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特許第4242644号公報
【特許文献2】特許第3651163号公報
【特許文献3】特開2008−110583号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
(1)の金型は、成形材料と接触する薄肉の金属殻を、高周波誘導により直接加熱するため、成形時において急速な加熱が可能である。しかし、冷却手段が空冷であるため、金属殻の冷却に時間がかかる。
(2)の金型は、金型内に冷水を流通することで、金属殻を急速に冷却できる。しかし、該金型では高周波誘導により発熱体を加熱し、該発熱体からの熱伝導により金属殻を加熱しているため、(1)の金型に比べて金属殻の加熱に時間がかかる。
(3)の金型は、高周波誘導により金型を直接加熱し、また金型内に冷水を流通することで金型を冷却するものである。しかし、該金型は、金型全体を加熱及び冷却するものであり、加熱、冷却する金属量が多いため時間がかかる。
以上のように、(1)〜(3)の金型では、加熱、冷却サイクルの効率はまだ充分とは言えず、成形品の製造のハイサイクル化のためには、金型の加熱、冷却サイクルの更なる効率化が望まれている。
【0006】
本発明は、熱可塑性樹脂系繊維強化複合材料等の成形材料を成形する金型であって、キャビティ面の加熱及び冷却を急速に行ってハイサイクルに成形品を製造できる金型の提供を目的とする。
また、本発明は、前記金型を用いたハイサイクルな熱可塑性樹脂系繊維強化複合材料成形品の製造方法の提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、前記課題を解決するために以下の構成を採用した。
[1]20℃における固有抵抗値が4.0〜100μΩ・cmの磁性金属材料により形成されたキャビティ面を有する一対の型を具備し、前記一対の型のそれぞれに、該型内を貫通し、内部に冷媒を流通して前記キャビティ面を冷却する、20℃における固有抵抗値が5.0μΩ・cm以下の非磁性金属材料により形成された冷却回路と、前記キャビティ面を高周波誘導により加熱する誘導加熱コイルとが設けられている金型。
[2]前記キャビティ面がニッケル電鋳法により形成されている、前記[1]に記載の成形型。
[3]前記[1]又は[2]に記載の金型を用いた熱可塑性樹脂系繊維強化複合材料成形品の製造方法であって、加圧チューブの周囲に巻き付けた熱可塑性樹脂系繊維強化複合材料を、該加圧チューブがキャビティの長手方向に沿うように、前記金型のキャビティ内に配置して該金型を閉じる配置工程と、前記誘導加熱コイルに電流を通じてキャビティ面を高周波誘導加熱し、前記加圧チューブを加圧して膨張させ、熱可塑性樹脂系繊維強化複合材料をキャビティ面に内側から密着させ、熱可塑性樹脂系繊維強化複合材料を溶融させて、内部から圧力をかけて内圧成形する溶融成形工程と、前記溶融成形工程の後に、前記キャビティ面の高周波誘導加熱を停止し、前記冷却回路に冷媒を流通させてキャビティ面を冷却し、前記熱可塑性樹脂系繊維強化複合材料を固化する冷却工程と、前記冷却工程の後に、金型から熱可塑性樹脂系繊維強化複合材料成形品を取り出す取り出し工程と、を有する熱可塑性樹脂系繊維強化複合材料成形品の製造方法。
[4]前記[1]又は[2]に記載の金型を用いた熱可塑性樹脂系繊維強化複合材料成形品の製造方法であって、前記金型のキャビティ内に熱可塑性樹脂系繊維強化複合材料を配置する配置工程と、前記誘導加熱コイルに電流を通じてキャビティ面を高周波誘導加熱し、金型で熱可塑性樹脂系繊維強化複合材料を溶融させ圧縮成形する成形工程と、前記成形工程の後に、前記キャビティ面の高周波誘導加熱を停止し、前記冷却回路に冷媒を流通させてキャビティ面を冷却し、前記熱可塑性樹脂系繊維強化複合材料を固化する冷却工程と、前記冷却工程の後に、金型から熱可塑性樹脂系繊維強化複合材料成形品を取り出す取り出し工程と、を有する熱可塑性樹脂系繊維強化複合材料成形品の製造方法。
【発明の効果】
【0008】
本発明の金型は、キャビティ面の加熱及び冷却を急速に行うことができ、熱可塑性樹脂系繊維強化複合材料をハイサイクルで成形できる。
また、本発明の製造方法によれば、熱可塑性樹脂系複合材料成形品をハイサイクルに製造できる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【図1】本発明の金型の実施形態の一例を示した斜視図である。(A)開いた状態、(B)閉じた状態。
【図2】図1の金型を短手方向に沿って切断したときの縦断面図である。(A)開いた状態、(B)閉じた状態。
【図3】本発明の金型の他の実施形態例を示した断面図である。(A)開いた状態、(B)閉じた状態。
【図4】図1の金型を用いた本発明の熱可塑性樹脂系複合材料成形品の製造方法の一工程を示した斜視図である。
【図5】図1の金型を用いた本発明の熱可塑性樹脂系複合材料成形品の製造方法の一工程を示した斜視図である。
【図6】図1の金型を用いた本発明の熱可塑性樹脂系複合材料成形品の製造方法の一工程を示した縦断面図である。
【図7】図1の金型を用いた本発明の熱可塑性樹脂系複合材料成形品の製造方法の一工程を示した縦断面図である。
【図8】本発明の製造方法により得られる熱可塑性樹脂系複合材料成形品の一実施形態例を示した斜視図である。
【図9】図3の金型を用いた本発明の熱可塑性樹脂系複合材料成形品の製造方法の一工程を示した縦断面図である。
【図10】実施例1で使用した金型における上型の冷却回路を平面状に展開したときの構成を示した概略図である。
【図11】実施例1で使用した金型における上型における誘導加熱コイルの配置の様子を示した概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
<金型>
本発明の金型は、特定の磁性金属材料により形成されたキャビティ面を有する一対の型を具備し、前記一対の型のそれぞれに、該型内を貫通し、内部に冷媒を流通して前記キャビティ面を冷却する、特定の非磁性金属材料により形成された冷却回路と、前記キャビティ面を高周波誘導により加熱する誘導加熱コイルが設けられた金型である。
本発明でいう磁性金属材料とは、磁石に吸い付くような強い磁性を示す強磁性体をさし、磁界Hと磁化の強さIとの関係を示す磁化曲線は、直線的ではなく、強いHでIは一定の値Isで飽和する。この飽和磁界強さが、0.1(Wb/m2)以上、特に0.5(Wb/m2)以上の強磁性材料が好ましい。例えば、鉄、ニッケル、コバルトなどから選ばれた1種以上の原子を50質量%以上含む金属や合金が挙げられる。具体的には、鋼鉄、炭素鋼、軟鋼、珪素鋼、MK鋼、ステンレス、ニッケル、四三酸化鉄などが挙げられる。
以下、本発明の金型の実施形態の一例を示して詳細に説明する。
【0011】
[第1実施形態]
本実施形態の金型1は、図1及び図2に示すように、相対移動可能な、直方体形状の一対の上型10と下型20を具備している。
上型10は、型本体11の短手方向の中央に、型本体11の長手方向に沿ってキャビティ12が形成されている。また、型本体11における下型20側の面に金属殻13が形成され、金属殻13の表面が、キャビティ面14、及びキャビティ面14の両側に位置する下型20と接触する面15になっている。また、上型10は、上型10の長手方向に沿って型本体11を貫通する複数本の冷却回路16が、金属殻13に密着するように並べて設けられている。また、上型10の内部の冷却回路16より更に外側(キャビティ面14の反対側の表面10a側)には、金属殻13を高周波誘導加熱する誘導加熱コイル17が設けられている。
下型20は、上型10と同様に、型本体21の短手方向の中央に、型本体21の長手方向に沿ってキャビティ22が形成され、型本体21における上型10側の表面に金属殻23が形成され、金属殻23の表面がキャビティ面24、及びキャビティ面24の両側に位置する上型10側の面25になっている。また、下型20は、下型20の長手方向に沿って型本体21を貫通する複数本の冷却回路26が、金属殻23に密着するように並べて設けられており、下型20の内部の冷却回路26より更に外側(キャビティ面24の反対側の表面20a側)に、金属殻23を高周波誘導加熱する誘導加熱コイル27が設けられている。
上型10と下型20は、電気的に完全に絶縁されている必要があり、上型10と下型20の面15と面25の間には絶縁層が設けられる。本実施形態では、下型20の金属殻23の面25上に絶縁層28が取り付けられている。ただし、絶縁層は上型10の金属殻13の面15上に取り付けてもよい。
金型1は、図1(B)及び図2(B)に示すように、上型10と下型20を閉じることで、両端が開放された円柱状のキャビティ1aが形成される。
【0012】
型本体11を形成する材料としては、高周波誘導により加熱されない絶縁物を用いる。型本体11を形成する材料は、熱伝導度が低い無機物が特に好ましい。
型本体11を形成する材料の具体例としては、例えば、セラミック、耐熱強化プラスチック、無機断熱材、コンクリートが挙げられる。なかでも、コンクリートが好ましい。
【0013】
キャビティ12の形状は、目的の成形品の形状に応じて決定すればよく、本実施形態では、短手方向に沿った断面形状が半円形状である。
【0014】
金属殻13は、型本体11における下型20側の表面に形成されており、その表面がキャビティ面14、及びキャビティ面14の両側に位置する下型20と接触する面15を形成している。
金属殻13は、20℃における固有抵抗値(以下、単に「ρ」という。)が4.0〜100μΩ・cmの磁性金属材料からなる金属殻である。すなわち、上型10のキャビティ面14は、ρが4.0〜100μΩ・cmの磁性金属材料により形成されている。
前記磁性金属材料のρが4.0μΩ・cm以上であれば、高周波誘導により金属殻13を加熱してキャビティ面14を急速に加熱できる。また、前記磁性金属材料のρが100μΩ・cm以下であれば、金属殻13に充分な電流が流れるため、キャビティ面14を急速に加熱できる。
金属殻13を形成する磁性金属材料、すなわちキャビティ面14を形成する磁性金属材料のρは、5.0〜90μΩ・cmが好ましく、6.0〜80μΩ・cmがより好ましい。
【0015】
キャビティ面14を形成する磁性金属材料としては、例えば、ニッケル、鋼、ステンレス鋼が挙げられる。
キャビティ面14は、薄肉の殻が効率的に形成でき、誘導加熱されやすいため、より急速な加熱が行える点から、ニッケル電鋳法により形成されていることが好ましい。すなわち、金属殻13は、ニッケル電鋳法により形成されたニッケル殻が好ましい。ニッケルは強磁性体であり、ρ(6.90μΩ・cm)も高周波誘導加熱に適している。
【0016】
金属殻13の厚さは、加熱速度及び冷却速度の点から、成形材料の成形時において上型10と下型20を閉じる圧力に対し、充分な機械的強度を有する範囲であれば薄いほどよい。
金属殻13の厚さは、1〜10mmが好ましく、2〜6mmがより好ましい。金属殻13の厚さが1mm以上であれば、充分な機械的強度が得られやすい。また、金属殻13の厚さが10mm以下であれば、キャビティ面の加熱速度及び冷却速度が向上し、ハイサイクルな成形品の製造が容易になる。
【0017】
冷却回路16は、その内部に冷媒を流通させ、熱伝導により金属殻13を冷却することでキャビティ面14を冷却するものであり、型本体11を長手方向に貫通するように複数本設けられている。また、複数本の冷却回路16は、それぞれが金属殻13に密着するように並べて設けられている。
【0018】
本実施形態の冷却回路16は、ρが5.0μΩ・cm以下の非磁性金属材料により形成された配管である。前記ρが5.0μΩ・cm以下の非磁性金属材料により冷却回路16が形成されていることにより、冷却回路16は、金属殻13に比べて高周波誘導による加熱効率が著しく低くなる。そのため、高周波誘導によるキャビティ面14の加熱時に、その高周波誘導により冷却回路16が同時に加熱されることを防止することができ、冷却回路16の温度が低いまま保たれるので、その後のキャビティ面14の冷却を速やかに高効率で行える。
冷却回路16を形成する磁性金属材料のρは、4.0μΩ・cm以下がより好ましい。
また、冷却回路16は、キャビティ面14の冷却効率の点から、熱伝導度の高い非磁性金属材料から形成されていることが好ましい。
【0019】
冷却回路16を形成する非磁性金属材料としては、例えば、銅、アルミニウム等が挙げられる。なかでも、銅が好ましい。
【0020】
冷却回路16の断面形状及び断面積は、適宜設定できる。
冷却回路16の本数は、金属殻13を冷却してキャビティ面14を急速に冷却するのに充分な本数であればよく、上型10の強度を考慮しつつ適宜設定できる。冷却回路16は、金属殻13全体を均一に冷却できるように、複数本を平行にかつ等間隔に設けることが好ましい。
【0021】
誘導加熱コイル17は、電流を通じることでキャビティ面14を高周波誘導加熱するものである。
誘導加熱コイル17は、金属殻13を高周波誘導加熱してキャビティ面14を加熱できるものであればよく、一般には外側が絶縁された銅パイプが用いられる。
【0022】
誘導加熱コイル17の形状、大きさ、位置及び数は、金属殻13全体を加熱してキャビティ面14を急速に加熱できる範囲であれば特に限定されない。
誘導加熱コイル17は、本実施形態では、型本体11の内部で冷却回路16の外側(キャビティ面14の反対側の表面10a側)に設けられている。誘導加熱コイル17を上型10内部に設ける方法としては、型本体11を、誘導加熱コイル17を設置できるように切削加工し取り付ける方法、誘導加熱コイル17を所定の位置に固定した後セメント等の材料で裏打ちする方法等が挙げられる。
【0023】
下型20は、上型10と同じ仕様の型が使用できる。
型本体21の材質としては、型本体11の材質と同じものが挙げられる。
金属殻23は、金属殻13と同様に、20℃におけるρが4.0〜100μΩ・cmの磁性金属材料からなる金属殻であり、好ましい態様も同じである。すなわち、キャビティ面24は、キャビティ面14と同様に、20℃におけるρが4.0〜100μΩ・cmの磁性金属材料により形成される。
冷却回路26は、その内部に冷媒を流通させ、熱伝導により金属殻23を冷却することでキャビティ面24を冷却するものであり、冷却回路16と同じものが挙げられ、好ましい態様も同じである。
誘導加熱コイル27は、電流を通じることで金属殻23を高周波誘導加熱してキャビティ面24するものであり、誘導加熱コイル17と同じものが挙げられ、好ましい態様も同じである。
【0024】
絶縁層28を形成する材料としては、金属殻13と金属殻23を電気的に絶縁できるものであればよく、例えば、無機物等の絶縁物が挙げられる。
【0025】
金型1は、誘導加熱コイル17、27に電流を通じることにより、高周波誘導により金属殻13、23を加熱してキャビティ面14、24を急速に加熱できる。また、誘導加熱コイル17、27の電流を停止してキャビティ面14、24の高周波誘導加熱を停止した後、冷却回路16、26内に冷媒を流通させることで、キャビティ面14、24を急速に冷却できる。そのため、キャビティ面14、24の急速な加熱と冷却を繰り返しながら成形材料を成形することで、ハイサイクルに成形品を製造できる。
【0026】
なお、本実施形態の金型1における誘導加熱コイル17、27を設ける位置は、キャビティ面14、24を高周波誘導加熱できる位置であればよく、型本体11、21の内部に設ける態様には限定されない。例えば、型本体の表面10a、20a上に設置することもできる。この場合においても、キャビティ面の冷却速度を向上させるために、冷却回路は金属殻13、23に密着するように設置する。
また、金属殻は、型本体におけるキャビティ面の両側の面には形成されていなくてもよい。すなわち、金属殻をキャビティのみに形成し、その表面がキャビティ面のみを形成するようにしてもよい。
【0027】
また、冷却回路は、金属本体の長手方向に沿って設ける態様には限定されず、金属本体の短手方向に沿って設けてもよい。ただし、冷却回路は、キャビティ面の冷却効率の点から、キャビティが形成されている向きに沿って設けることが好ましい。
【0028】
[第2実施形態]
次に、本発明の金型の他の実施形態例を示して詳細に説明する。
本実施形態の金型2は、図3(A)に示すように、相対移動可能な一対の上型30と下型40を具備する。金型2は、上型30と下型40がそれぞれ直方体形状であり、図3(B)に示すように、上型30と下型40を閉じることで、平板形状の密閉されたキャビティ2aが形成される。すなわち、金型2により、平板状の成形品を製造できる。
【0029】
上型30は、型本体31における下型40側の面に金属殻32が形成されており、その金属殻32の表面がキャビティ面33を形成している。また、型本体11の長手方向に沿って型本体11を貫通する複数本の冷却回路34が、キャビティ面33に密着するように並べて設けられている。また、上型30の内部の冷却回路34より更に外側(表面30a側)には、金属殻32を高周波誘導加熱してキャビティ面33を加熱する誘導加熱コイル35が設けられている。また、金属殻32、冷却回路34、誘導加熱コイル35、型本体31が一体となったユニットには、更に型枠材36が取り付けられている。
下型40は、上型30と同様に、型本体41における上型30側の面に金属殻42が形成されており、金属殻42の表面がキャビティ面43を形成している。また、型本体41の長手方向に沿って型本体41を貫通する複数本の冷却回路44が、キャビティ面43に密着するように並べて設けられており、下型40の内部の冷却回路44より外側(表面40a側)に金属殻42を高周波誘導加熱してキャビティ面43する誘導加熱コイル45が設けられている。また、下型40は、上型30と同様に、金属殻42、冷却回路44、誘導加熱コイル45、型本体41が一体となったユニットに、更に型枠材46が取り付けられている。
上型30と下型40は、電気的に完全に絶縁されている必要があり、上型30と下型40の間には絶縁層が設けられる。本実施形態では、絶縁層47が下型40における上型30側の型枠材46上に取り付けられている。絶縁層は、上型30に取り付けてもよい。
【0030】
上型30と下型40により形成されるキャビティ2aの形状は、目的の成形品の形状に応じて決定すればよく、本実施形態ではその断面形状は矩形である。
型本体31、41の材質としては、第1実施形態の型本体11で挙げた材質と同じ材質が挙げられ、好ましい態様も同じである。
金属殻32、42は、ρが4.0〜100μΩ・cmの磁性金属材料からなる金属殻であり、第1実施形態の金属殻13と同じものが挙げられ、好ましい態様も同じである。すなわち、キャビティ面33、43は、ρが4.0〜100μΩ・cmの磁性金属材料により形成されている。
【0031】
冷却回路34、44は、その内部に冷媒を流通させ、熱伝導により金属殻32、42を冷却してキャビティ面33、43を冷却するものであり、第1実施形態の冷却回路16と同じものが挙げられ、好ましい態様も同じである。
誘導加熱コイル35、45は、電流を通じることで金属殻32、42を高周波誘導加熱してキャビティ面33、43するものであり、第1実施形態の誘導加熱コイル17と同じものが挙げられ、好ましい態様も同じである。
型枠材36、46に用いることができる材料としては、無機物等の絶縁物、20℃における固有抵抗値が5.0μΩ・cm以下の非磁性体である誘導加熱されにくい金属材料等が挙げられる。
絶縁層47に用いることができる材料は、第1実施形態の絶縁層28と同じものが挙げられる。
【0032】
金型2は、誘導加熱コイル35、45に電流を通じることで、高周波誘導により金属殻32、42を加熱してキャビティ面33、43を急速に加熱できる。また、誘導加熱コイル35、45の電流を停止してキャビティ面33、43の高周波誘導加熱を停止した後、冷却回路34、44内に冷媒を流通させることで、金属殻32、42を冷却してキャビティ面33、43を急速に冷却できる。そのため、キャビティ面33、43の急速な加熱と冷却を繰り返しながら成形材料を成形することで、ハイサイクルに成形品を製造できる。
【0033】
なお、本実施形態の金型2においては、誘導加熱コイルを設ける位置は、キャビティ面を高周波誘導加熱できる位置であればよく、型本体31、41の内部に設ける態様には限定されない。例えば、第1実施形態で説明したように、型本体の表面30a、40a上に設置することもできる。
また、冷却回路は、金型本体の長手方向に沿って設けても短手方向に沿って設けてもよいが、キャビティ面の冷却効率の点から、キャビティが形成されている向きに沿って設けることが好ましい。
また、型枠材を有さない金型であってもよい。
【0034】
<熱可塑性樹脂系繊維強化複合材料成形品の製造方法[第1実施形態]>
本発明の熱可塑性樹脂系繊維強化複合材料成形品の製造方法は、本発明の金型を用いた製造方法であって、下記工程を有する。
配置工程:金型のキャビティ内に熱可塑性樹脂系繊維強化複合材料を配置し、金型を閉じる。
溶融成形工程:誘導加熱コイルに電流を通じてキャビティ面を高周波誘導加熱し、熱可塑性樹脂系繊維強化複合材料を加熱し溶融させ、更に内部から圧力をかけることによって内圧成形する。
冷却工程:前記溶融成形工程の後に、前記キャビティ面の高周波誘導加熱を停止し、冷却回路に冷媒を流通させてキャビティ面を冷却し、熱可塑性樹脂系繊維強化複合材料を固化する。
取り出し工程:前記冷却工程の後に、金型から熱可塑性樹脂系繊維強化複合材料成形品を取り出す。
【0035】
以下、本発明の熱可塑性樹脂系繊維強化複合材料成形品の製造方法の実施形態の一例として、前述の金型1を用いた製造方法について説明する。
配置工程では、図4〜6に示すように、加圧チューブ51の周囲に巻き付けられた熱可塑性樹脂系繊維強化複合材料Xを、加圧チューブ51がキャビティ1aの長手方向に沿うように、キャビティ1a内に配置し、金型1を閉じる。
この状態でチューブ内にガスを送入して加圧チューブ51を膨張させることで熱可塑性樹脂系繊維強化複合材料Xを内側からキャビティ面14、24に密着させて、さらに加圧することができるようになっている。
【0036】
熱可塑性樹脂系繊維強化複合材料Xは、マトリックス樹脂が強化繊維で強化された繊維強化複合材料からなる公知の熱可塑性樹脂系繊維強化複合材料を用いることができる。
強化繊維としては、炭素繊維、アラミド繊維、ナイロン繊維、高強度ポリエステル繊維、ガラス繊維、ボロン繊維、アルミナ繊維、窒化珪素繊維等の各種の無機繊維または有機繊維等が挙げられる。強化繊維の形態は特に限定されるものではなく、一方向に引き揃えた状態、織物、編み物、不織布、チョップされた短繊維形状等いずれの状態であっても使用できる。
マトリックス樹脂としては、公知の熱可塑性樹脂(ポリアミド、アクリロニトリル・ブタジエン・スチレン共重合体(ABS)、アクリロニトリル・エチレンプロピレンゴム・スチレン共重合体(AES)、アクリロニトリル・スチレン・アクリルゴム共重合体(ASA)、ポリエチレンテレフタレート、ポリカーボネート、ポリメチルメタクリレート、ポリブチレンテレフタレート(PBT)、ポリエーテルスルフォン、ポリフェニレンエーテル、ポリフェニレンスルフィド、ポリエーテルエーテルケトン、ポリエーテルケトンケトン、ポリイミド、ポリテトラフルオロエチレン、ポリエーテル、ポリオレフィン、液晶ポリマー、ポリアリレート、ポリスルフォン、ポリアクリロニトリルスチレン、ポリスチレン、ポリアクリロニトリル、ポリ塩化ビニル等。)等が挙げられる。
【0037】
溶融成形工程では、誘導加熱コイル17、27に電流を通じて金属殻13、23を高周波誘導加熱することでキャビティ面14、24を加熱し、図7に示すように、チューブ内にガスを送入して加圧チューブ51を加圧して膨張させ、加圧チューブ51に巻き付けた熱可塑性樹脂系繊維強化複合材料Xをキャビティ面14、24に密着させる。これにより、熱可塑性樹脂系繊維強化複合材料Xが高温のキャビティ面14、24により溶融され、加圧チューブ51とキャビティ面14、24に挟まれた状態で、内部から圧力がかかって円筒状に溶融成形される。
【0038】
キャビティ面14、24の加熱温度は、熱可塑性樹脂系繊維強化複合材料Xが充分に溶融する温度であればよく、用いる熱可塑性樹脂系繊維強化複合材料Xの種類によっても異なるが、80〜400℃が好ましく、120〜300℃がより好ましい。
【0039】
溶融成形工程の後、冷却工程において、誘導加熱コイル17、27の電流を停止し、キャビティ面14、24の高周波誘導加熱を停止する。そして、冷却回路16、26の内部に冷媒を流通させ、熱伝導によりキャビティ面14、24を冷却し、円柱状に成形された状態で熱可塑性樹脂系繊維強化複合材料Xを固化する。
【0040】
冷却工程では、キャビティ面14、24の温度を、熱可塑性樹脂系繊維強化複合材料Xが固化するのに充分な温度まで冷却すればよい。冷却工程では、用いる熱可塑性樹脂系繊維強化複合材料Xの種類によっても異なるが、ハイサイクルな成形品の製造が容易な点から、キャビティ面14、24を30〜200℃まで冷却することが好ましく、70〜160℃まで冷却することがより好ましい。
冷却回路16、26の内部に流通させる冷媒としては、水、オイル(例えば、村松石油(株)製バーレルサーム#400、綜研テクニックス(株)製NeoSK−OIL1400等。)等が挙げられる。
冷媒の温度は、10〜100℃が好ましい。
【0041】
冷却工程において熱可塑性樹脂系繊維強化複合材料Xを固化した後、加圧チューブ51の加圧を停止し、加圧チューブ51を抜き取り、金型1から成形品を取り出す。
以上の工程により、図8に例示した円筒状の熱可塑性樹脂系繊維強化複合材料成形品50が得られる。
【0042】
金型1は、ρが4.0〜100μΩ・cmの磁性金属材料によりキャビティ面14、24が形成されているため、キャビティ面14、24を高周波誘導加熱により短時間で急速に加熱できる。一方、ρが5.0μΩ・cm以下の非磁性金属材料により冷却回路16、26が形成されているので、キャビティ面14、24を高周波誘導加熱する際に冷却回路16、26が同時に加熱されることが防止されている。そのため、冷却回路16、26は温度が低いまま保たれているので、冷却工程におけるキャビティ面14、24の冷却が効率的に行える。また、高周波誘導により加熱されない絶縁物で型本体11、21を形成すれば、金型1におけるキャビティ面14、24(金属殻13、23)以外の部分の温度をほとんど変化させずにキャビティ面14、24の加熱、冷却が行えるため、ハイサイクルな成形品の製造が容易になる。
【0043】
なお、本発明の熱可塑性樹脂系繊維強化複合材料成形品の製造方法は、前述の金型1を用いる方法には限定されず、用いる金型は、前述した金属殻、冷却回路及び誘導加熱コイルを有するものであれば、キャビティの形状は限定されない。
【0044】
<熱可塑性樹脂系繊維強化複合材料成形品の製造方法[第2実施形態]>
以下、熱可塑性樹脂系繊維強化複合材料成形品の他の製造方法について説明する。該方法は、本発明の金型を用いた製造方法であって、下記工程を有する。
配置工程:金型のキャビティ内に熱可塑性樹脂系繊維強化複合材料を配置し、金型を閉じる。
溶融成形工程:誘導加熱コイルに電流を通じてキャビティ面を高周波誘導加熱し、熱可塑性樹脂系繊維強化複合材料を加熱して溶融させるとともに加圧して、金型内で圧縮成形する。
冷却工程:前記溶融成形工程の後に、前記キャビティ面の高周波誘導加熱を停止し、冷却回路に冷媒を流通させてキャビティ面を冷却し、熱可塑性樹脂系繊維強化複合材料を固化する。
取り出し工程:前記冷却工程の後に、金型から熱可塑性樹脂系繊維強化複合材料成形品を取り出す。
【0045】
以下、本発明の熱可塑性樹脂系繊維強化複合材料成形品の製造方法の実施形態の一例として、前述の金型2を用いた製造方法について説明する。
配置工程では、図9(A)に示すように、熱可塑性樹脂系繊維強化複合材料Yを金型2の下型40の金属殻43表面に配置し、金型を閉じる。次いで成形工程において、誘導加熱コイル35、45に電流を通じて金属殻32、42を高周波誘導加熱してキャビティ面33、43を加熱するとともに金型を加圧し、図9(B)に示すように、上型30と下型40により熱可塑性樹脂系繊維強化複合材料Yを溶融させ圧縮成形する。
本発明の熱可塑性樹脂系繊維強化複合材料成形品の製造方法では、キャビティ面33、43を高周波誘導加熱した後に熱可塑性樹脂系繊維強化複合材料Yを配置して圧縮成形を行ってもよい。
キャビティ面33、43の加熱温度は、用いる熱可塑性樹脂系繊維強化複合材料Yの種類によっても異なるが、80〜400℃が好ましく、120〜300℃がより好ましい。
【0046】
熱可塑性樹脂系繊維強化複合材料Yは、熱可塑性樹脂系繊維強化複合材料成形品の製造方法[第1実施形態]で使用したものと同じ、マトリックス樹脂が強化繊維で強化された繊維強化複合材料からなる公知の熱可塑性樹脂系繊維強化複合材料を用いることができる。
【0047】
成形工程の後、冷却工程において、誘導加熱コイル35、45の電流を停止し、キャビティ面33、43の高周波誘導加熱を停止する。そして、冷却回路34、44の内部に冷媒を流通させ、熱伝導によりキャビティ面33、43を冷却し、熱可塑性樹脂系繊維強化複合材料Yを固化する。
冷却回路34、44の内部に流通させる冷媒としては、冷却水、冷却オイル等が挙げられる。冷媒の温度は、10〜100℃が好ましい。
冷却工程の後、取り出し工程において、金型2を開き、金型2から熱可塑性樹脂系繊維強化複合材料成形品を取り出す。これにより、平板状の熱可塑性樹脂系繊維強化複合材料成形品が得られる。
【0048】
金型2は、金型1と同様に、ρが4.0〜100μΩ・cmの磁性金属材料によりキャビティ面33、43が形成され、ρが5.0μΩ・cm以下の非磁性金属材料により冷却回路34、44が形成されているため、冷却回路34、44を加熱せずにキャビティ面33、43を急速に加熱できる。そのため、冷却回路34、44の温度は低く保たれており、キャビティ面33、43の冷却を効率的に行える。また、前述の熱可塑性樹脂系繊維強化複合材料成形品の製造方法[第1実施形態]と同様に、高周波誘導により加熱されない絶縁物で型本体31、41を形成すれば、ハイサイクルな熱可塑性樹脂系繊維強化複合材料成形品の製造がさらに容易になる。
【0049】
なお、本発明の熱可塑性樹脂系繊維強化複合材料成形品の製造方法は、前述の金型2を用いる方法には限定されない。例えば、用いる金型は、前述した金属殻、冷却回路及び誘導加熱コイルを有するものであれば、所望のキャビティ形状を有する金型が使用できる。
【0050】
以上説明したように、本発明の金型は、特定の金属材料により形成したキャビティ面及び冷却回路を用い、高周波誘導によりキャビティ面を加熱することで、キャビティ面を加熱する際に同時に冷却回路が加熱されるのを防止できる。また、薄肉の金属殻によりキャビティ面を形成することで、加熱、冷却する金属の量を少なくして、少ないエネルギーで急速に加熱、冷却が行える。
以上のように、キャビティ面を急速に加熱、冷却することで、熱可塑性樹脂系繊維強化複合材料成形品等の成形品がハイサイクルで製造できる。
【実施例】
【0051】
以下、実施例を示して本発明を詳細に説明する。ただし、本発明は以下の記載によっては限定されない。
[実施例1]
図1に例示した構造の金型を製作した。上型、下型とも全く同じ仕様とした。金属殻は、上型と下型をキャビティ側を向き合わせて閉じたときに、直径50mmの円柱状のキャビティが形成されるようなキャビティ面を有し、上型と下型との接触面の幅が左右両側とも25mm、長手方向の長さが300mmであり、ニッケル電鋳法で作成した厚み3.0mmのニッケル電鋳製金属殻(磁性体、ρ=6.90μΩ・cm)を有するものを使用した。
冷却回路は、直径6.0mmの市販の銅管(非磁性体、ρ=1.69μΩ・cm、株式会社コベルコマテリアル製)を使用し、図1に示すように、金属殻のキャビティ面の反対側に、6.0mm間隔で金属殻の末端まで片側につき6本又は7本、合計13本を配置し、該金属殻にロウ付けで固定した。13本の銅管は、図10に示すように、端から1本おきに二組に分けてそれぞれの組の末端を接合し、該二組にそれぞれまとめて冷却水を流せるようにした。
誘導加熱コイルは、直径10mmの市販の銅管(株式会社コベルコマテリアル製)の表面を絶縁コーティングしたものを用い、金属殻から20mm離れた位置に、図11に示すように、銅管の間隔が10mmとなるよう渦状に配置した。
金型は、冷却回路を取り付けた金属殻、誘導加熱コイルが所定の位置に配置されるようにモルタル施工用型材に配置し、市販のモルタル(普通ポルトランドセメント、宇部三菱セメント株式会社製)に骨材を配合した混合物を該型材に流し込んで硬化させて型本体を形成して製作した。下型も全く同様の方法で製作した。
【0052】
上型と下型を向かい合わせにし、接触面全面に300mm×25mm、厚み1mmの無機絶縁板を挟んで金型を閉じ、シャコ万力でしっかりと固定した。
上型及び下型の誘導加熱コイルに、それぞれ5kWの出力でジェネレーターから通電した。熱電対を金属殻表面に設置し、金属殻の温度変化を測定したところ、金属殻は約10秒で室温から300℃まで加熱されることが確認できた。ここで誘導加熱を中止し、冷却回路に冷却水を通水したところ、70秒で金属殻温度が80℃まで下がった。
【0053】
この金型を使用して成形確認を実施した。熱可塑性樹脂系繊維強化複合材料としては、東洋紡績株式会社製の、ガラス繊維(連続繊維)にポリプロピレンを含浸させたテープ(QuickForm(登録商標)、巾15mm、厚み150μm、Vf=50%)からなる平織物(クロス材料)を使用した。成形した時に均等に10層になるように、300mm×1570mmのクロス材料を加圧用チューブに緩く巻きつけた。熱可塑性樹脂系繊維強化複合材料を巻きつけたチューブを図5に例示したように金型のキャビティー内に挿入し、チューブ内に8気圧の圧縮空気を充填して膨張させ、熱可塑性樹脂系繊維強化複合材料を内側から金型キャビティに押し付けると共に、高周波誘導加熱を開始した。熱電対により、金属殻表面の金属殻温度が7秒で200℃に達したことを確認した後、3分経ってから誘導加熱を止め、冷却回路に冷却水を流した。金属殻温度が100℃以下になったことを確認した後、冷却を止め、チューブから圧縮空気を抜いて、成形品を金型から取り出した。外径が50mm、厚みが約1.5mmの状態の良いチューブ状の熱可塑性樹脂系繊維強化複合材料成形品が得られた。該成形品は、内部にもボイドは少なく充分にコンソリデーションされていることが観察された。
【0054】
[実施例2]
金属殻として、ニッケル電鋳板の代わりに同じ寸法の鋼板(磁性体、ρ=10μΩ・cm)を使用した以外は、実施例1と全く同じ仕様、構成で金型を作成し、実施例1と同じ条件で誘導加熱を行った。その結果、約8秒で金属殻の温度が300℃に達した。誘導加熱を中止し、冷却回路に冷却水を通水したところ、80秒で金属殻温度が80℃まで下がった。
【0055】
[比較例1]
金属殻として、ニッケル電鋳板の代わりに同じ寸法のアルミニウム板(非磁性体、ρ=2.62μΩ・cm)を使用した以外は、実施例1と全く同じ仕様、構成で金型を作成し、実施例1と同じ条件で誘導加熱を行った。その結果、金属殻の温度が250℃に達するのに395秒かかった。誘導加熱を中止し、冷却回路に冷却水を通水したところ、45秒で金属殻温度が80℃まで下がった。
以上のように、本発明の金型は、金属殻の加熱及び冷却が急速に行えるため、熱可塑性樹脂系繊維強化複合材料成形品をハイサイクルで成形できる。
【産業上の利用可能性】
【0056】
本発明の金型は、金型の急速な加熱、冷却が可能であるため、自動車部品等の用途の熱可塑性樹脂系繊維強化複合材料成形品をハイサイクルに製造できる。
【符号の説明】
【0057】
1、2 金型 10、30 上型 20、40 下型 11、21、31、41 型本体 12、22 キャビティ 13、23、32、42 金属殻 14、24、33、43 キャビティ面 16、26、34、44 冷却回路 17、27、35、45 誘導加熱コイル 28、47 絶縁層 50 熱可塑性樹脂系繊維強化複合材料成形品 51 加圧チューブ X 熱可塑性樹脂系繊維強化複合材料 Y 熱可塑性樹脂系繊維強化複合材料
【技術分野】
【0001】
本発明は、金型及び熱可塑性樹脂系繊維強化複合材料成形品の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
マトリックス樹脂が強化繊維で強化された熱可塑性樹脂系繊維強化複合材料等の成形材料の成形方法としては、所望の形状のキャビティを有する金型による成形方法が挙げられる。特に、熱可塑性樹脂系繊維強化複合材料の成形では、高温の金型で成形材料を溶融成形し、該金型を冷却して成形材料を固化した後に、金型から成形品を取り出す手法が用いられ、金型の加熱、冷却を繰り返す必要がある。このような成形品の製造のハイサイクル化には、金型の加熱及び冷却を急速で行うことが重要である。
【0003】
加熱や冷却が効率的に行える金型としては、下記の金型が知られている。
(1)金型のキャビティ面に薄肉の金属殻が形成されており、該金属殻を高周波誘導加熱により直接加熱する金型(特許文献1)。
(2)金型のキャビティ面に薄肉の金属殻が形成され、さらに金型内部に、発熱体及び該発熱体を高周波誘導加熱する誘導加熱コイルと、冷水を流通して前記金属殻を冷却する温調配管が設けられた金型(特許文献2)。
(3)金型に、該金型を高周波誘導加熱する誘導加熱コイルが設けられ、かつ金型内に冷水を流通して金型を冷却する冷却水路が形成された金型(特許文献3)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特許第4242644号公報
【特許文献2】特許第3651163号公報
【特許文献3】特開2008−110583号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
(1)の金型は、成形材料と接触する薄肉の金属殻を、高周波誘導により直接加熱するため、成形時において急速な加熱が可能である。しかし、冷却手段が空冷であるため、金属殻の冷却に時間がかかる。
(2)の金型は、金型内に冷水を流通することで、金属殻を急速に冷却できる。しかし、該金型では高周波誘導により発熱体を加熱し、該発熱体からの熱伝導により金属殻を加熱しているため、(1)の金型に比べて金属殻の加熱に時間がかかる。
(3)の金型は、高周波誘導により金型を直接加熱し、また金型内に冷水を流通することで金型を冷却するものである。しかし、該金型は、金型全体を加熱及び冷却するものであり、加熱、冷却する金属量が多いため時間がかかる。
以上のように、(1)〜(3)の金型では、加熱、冷却サイクルの効率はまだ充分とは言えず、成形品の製造のハイサイクル化のためには、金型の加熱、冷却サイクルの更なる効率化が望まれている。
【0006】
本発明は、熱可塑性樹脂系繊維強化複合材料等の成形材料を成形する金型であって、キャビティ面の加熱及び冷却を急速に行ってハイサイクルに成形品を製造できる金型の提供を目的とする。
また、本発明は、前記金型を用いたハイサイクルな熱可塑性樹脂系繊維強化複合材料成形品の製造方法の提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、前記課題を解決するために以下の構成を採用した。
[1]20℃における固有抵抗値が4.0〜100μΩ・cmの磁性金属材料により形成されたキャビティ面を有する一対の型を具備し、前記一対の型のそれぞれに、該型内を貫通し、内部に冷媒を流通して前記キャビティ面を冷却する、20℃における固有抵抗値が5.0μΩ・cm以下の非磁性金属材料により形成された冷却回路と、前記キャビティ面を高周波誘導により加熱する誘導加熱コイルとが設けられている金型。
[2]前記キャビティ面がニッケル電鋳法により形成されている、前記[1]に記載の成形型。
[3]前記[1]又は[2]に記載の金型を用いた熱可塑性樹脂系繊維強化複合材料成形品の製造方法であって、加圧チューブの周囲に巻き付けた熱可塑性樹脂系繊維強化複合材料を、該加圧チューブがキャビティの長手方向に沿うように、前記金型のキャビティ内に配置して該金型を閉じる配置工程と、前記誘導加熱コイルに電流を通じてキャビティ面を高周波誘導加熱し、前記加圧チューブを加圧して膨張させ、熱可塑性樹脂系繊維強化複合材料をキャビティ面に内側から密着させ、熱可塑性樹脂系繊維強化複合材料を溶融させて、内部から圧力をかけて内圧成形する溶融成形工程と、前記溶融成形工程の後に、前記キャビティ面の高周波誘導加熱を停止し、前記冷却回路に冷媒を流通させてキャビティ面を冷却し、前記熱可塑性樹脂系繊維強化複合材料を固化する冷却工程と、前記冷却工程の後に、金型から熱可塑性樹脂系繊維強化複合材料成形品を取り出す取り出し工程と、を有する熱可塑性樹脂系繊維強化複合材料成形品の製造方法。
[4]前記[1]又は[2]に記載の金型を用いた熱可塑性樹脂系繊維強化複合材料成形品の製造方法であって、前記金型のキャビティ内に熱可塑性樹脂系繊維強化複合材料を配置する配置工程と、前記誘導加熱コイルに電流を通じてキャビティ面を高周波誘導加熱し、金型で熱可塑性樹脂系繊維強化複合材料を溶融させ圧縮成形する成形工程と、前記成形工程の後に、前記キャビティ面の高周波誘導加熱を停止し、前記冷却回路に冷媒を流通させてキャビティ面を冷却し、前記熱可塑性樹脂系繊維強化複合材料を固化する冷却工程と、前記冷却工程の後に、金型から熱可塑性樹脂系繊維強化複合材料成形品を取り出す取り出し工程と、を有する熱可塑性樹脂系繊維強化複合材料成形品の製造方法。
【発明の効果】
【0008】
本発明の金型は、キャビティ面の加熱及び冷却を急速に行うことができ、熱可塑性樹脂系繊維強化複合材料をハイサイクルで成形できる。
また、本発明の製造方法によれば、熱可塑性樹脂系複合材料成形品をハイサイクルに製造できる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【図1】本発明の金型の実施形態の一例を示した斜視図である。(A)開いた状態、(B)閉じた状態。
【図2】図1の金型を短手方向に沿って切断したときの縦断面図である。(A)開いた状態、(B)閉じた状態。
【図3】本発明の金型の他の実施形態例を示した断面図である。(A)開いた状態、(B)閉じた状態。
【図4】図1の金型を用いた本発明の熱可塑性樹脂系複合材料成形品の製造方法の一工程を示した斜視図である。
【図5】図1の金型を用いた本発明の熱可塑性樹脂系複合材料成形品の製造方法の一工程を示した斜視図である。
【図6】図1の金型を用いた本発明の熱可塑性樹脂系複合材料成形品の製造方法の一工程を示した縦断面図である。
【図7】図1の金型を用いた本発明の熱可塑性樹脂系複合材料成形品の製造方法の一工程を示した縦断面図である。
【図8】本発明の製造方法により得られる熱可塑性樹脂系複合材料成形品の一実施形態例を示した斜視図である。
【図9】図3の金型を用いた本発明の熱可塑性樹脂系複合材料成形品の製造方法の一工程を示した縦断面図である。
【図10】実施例1で使用した金型における上型の冷却回路を平面状に展開したときの構成を示した概略図である。
【図11】実施例1で使用した金型における上型における誘導加熱コイルの配置の様子を示した概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
<金型>
本発明の金型は、特定の磁性金属材料により形成されたキャビティ面を有する一対の型を具備し、前記一対の型のそれぞれに、該型内を貫通し、内部に冷媒を流通して前記キャビティ面を冷却する、特定の非磁性金属材料により形成された冷却回路と、前記キャビティ面を高周波誘導により加熱する誘導加熱コイルが設けられた金型である。
本発明でいう磁性金属材料とは、磁石に吸い付くような強い磁性を示す強磁性体をさし、磁界Hと磁化の強さIとの関係を示す磁化曲線は、直線的ではなく、強いHでIは一定の値Isで飽和する。この飽和磁界強さが、0.1(Wb/m2)以上、特に0.5(Wb/m2)以上の強磁性材料が好ましい。例えば、鉄、ニッケル、コバルトなどから選ばれた1種以上の原子を50質量%以上含む金属や合金が挙げられる。具体的には、鋼鉄、炭素鋼、軟鋼、珪素鋼、MK鋼、ステンレス、ニッケル、四三酸化鉄などが挙げられる。
以下、本発明の金型の実施形態の一例を示して詳細に説明する。
【0011】
[第1実施形態]
本実施形態の金型1は、図1及び図2に示すように、相対移動可能な、直方体形状の一対の上型10と下型20を具備している。
上型10は、型本体11の短手方向の中央に、型本体11の長手方向に沿ってキャビティ12が形成されている。また、型本体11における下型20側の面に金属殻13が形成され、金属殻13の表面が、キャビティ面14、及びキャビティ面14の両側に位置する下型20と接触する面15になっている。また、上型10は、上型10の長手方向に沿って型本体11を貫通する複数本の冷却回路16が、金属殻13に密着するように並べて設けられている。また、上型10の内部の冷却回路16より更に外側(キャビティ面14の反対側の表面10a側)には、金属殻13を高周波誘導加熱する誘導加熱コイル17が設けられている。
下型20は、上型10と同様に、型本体21の短手方向の中央に、型本体21の長手方向に沿ってキャビティ22が形成され、型本体21における上型10側の表面に金属殻23が形成され、金属殻23の表面がキャビティ面24、及びキャビティ面24の両側に位置する上型10側の面25になっている。また、下型20は、下型20の長手方向に沿って型本体21を貫通する複数本の冷却回路26が、金属殻23に密着するように並べて設けられており、下型20の内部の冷却回路26より更に外側(キャビティ面24の反対側の表面20a側)に、金属殻23を高周波誘導加熱する誘導加熱コイル27が設けられている。
上型10と下型20は、電気的に完全に絶縁されている必要があり、上型10と下型20の面15と面25の間には絶縁層が設けられる。本実施形態では、下型20の金属殻23の面25上に絶縁層28が取り付けられている。ただし、絶縁層は上型10の金属殻13の面15上に取り付けてもよい。
金型1は、図1(B)及び図2(B)に示すように、上型10と下型20を閉じることで、両端が開放された円柱状のキャビティ1aが形成される。
【0012】
型本体11を形成する材料としては、高周波誘導により加熱されない絶縁物を用いる。型本体11を形成する材料は、熱伝導度が低い無機物が特に好ましい。
型本体11を形成する材料の具体例としては、例えば、セラミック、耐熱強化プラスチック、無機断熱材、コンクリートが挙げられる。なかでも、コンクリートが好ましい。
【0013】
キャビティ12の形状は、目的の成形品の形状に応じて決定すればよく、本実施形態では、短手方向に沿った断面形状が半円形状である。
【0014】
金属殻13は、型本体11における下型20側の表面に形成されており、その表面がキャビティ面14、及びキャビティ面14の両側に位置する下型20と接触する面15を形成している。
金属殻13は、20℃における固有抵抗値(以下、単に「ρ」という。)が4.0〜100μΩ・cmの磁性金属材料からなる金属殻である。すなわち、上型10のキャビティ面14は、ρが4.0〜100μΩ・cmの磁性金属材料により形成されている。
前記磁性金属材料のρが4.0μΩ・cm以上であれば、高周波誘導により金属殻13を加熱してキャビティ面14を急速に加熱できる。また、前記磁性金属材料のρが100μΩ・cm以下であれば、金属殻13に充分な電流が流れるため、キャビティ面14を急速に加熱できる。
金属殻13を形成する磁性金属材料、すなわちキャビティ面14を形成する磁性金属材料のρは、5.0〜90μΩ・cmが好ましく、6.0〜80μΩ・cmがより好ましい。
【0015】
キャビティ面14を形成する磁性金属材料としては、例えば、ニッケル、鋼、ステンレス鋼が挙げられる。
キャビティ面14は、薄肉の殻が効率的に形成でき、誘導加熱されやすいため、より急速な加熱が行える点から、ニッケル電鋳法により形成されていることが好ましい。すなわち、金属殻13は、ニッケル電鋳法により形成されたニッケル殻が好ましい。ニッケルは強磁性体であり、ρ(6.90μΩ・cm)も高周波誘導加熱に適している。
【0016】
金属殻13の厚さは、加熱速度及び冷却速度の点から、成形材料の成形時において上型10と下型20を閉じる圧力に対し、充分な機械的強度を有する範囲であれば薄いほどよい。
金属殻13の厚さは、1〜10mmが好ましく、2〜6mmがより好ましい。金属殻13の厚さが1mm以上であれば、充分な機械的強度が得られやすい。また、金属殻13の厚さが10mm以下であれば、キャビティ面の加熱速度及び冷却速度が向上し、ハイサイクルな成形品の製造が容易になる。
【0017】
冷却回路16は、その内部に冷媒を流通させ、熱伝導により金属殻13を冷却することでキャビティ面14を冷却するものであり、型本体11を長手方向に貫通するように複数本設けられている。また、複数本の冷却回路16は、それぞれが金属殻13に密着するように並べて設けられている。
【0018】
本実施形態の冷却回路16は、ρが5.0μΩ・cm以下の非磁性金属材料により形成された配管である。前記ρが5.0μΩ・cm以下の非磁性金属材料により冷却回路16が形成されていることにより、冷却回路16は、金属殻13に比べて高周波誘導による加熱効率が著しく低くなる。そのため、高周波誘導によるキャビティ面14の加熱時に、その高周波誘導により冷却回路16が同時に加熱されることを防止することができ、冷却回路16の温度が低いまま保たれるので、その後のキャビティ面14の冷却を速やかに高効率で行える。
冷却回路16を形成する磁性金属材料のρは、4.0μΩ・cm以下がより好ましい。
また、冷却回路16は、キャビティ面14の冷却効率の点から、熱伝導度の高い非磁性金属材料から形成されていることが好ましい。
【0019】
冷却回路16を形成する非磁性金属材料としては、例えば、銅、アルミニウム等が挙げられる。なかでも、銅が好ましい。
【0020】
冷却回路16の断面形状及び断面積は、適宜設定できる。
冷却回路16の本数は、金属殻13を冷却してキャビティ面14を急速に冷却するのに充分な本数であればよく、上型10の強度を考慮しつつ適宜設定できる。冷却回路16は、金属殻13全体を均一に冷却できるように、複数本を平行にかつ等間隔に設けることが好ましい。
【0021】
誘導加熱コイル17は、電流を通じることでキャビティ面14を高周波誘導加熱するものである。
誘導加熱コイル17は、金属殻13を高周波誘導加熱してキャビティ面14を加熱できるものであればよく、一般には外側が絶縁された銅パイプが用いられる。
【0022】
誘導加熱コイル17の形状、大きさ、位置及び数は、金属殻13全体を加熱してキャビティ面14を急速に加熱できる範囲であれば特に限定されない。
誘導加熱コイル17は、本実施形態では、型本体11の内部で冷却回路16の外側(キャビティ面14の反対側の表面10a側)に設けられている。誘導加熱コイル17を上型10内部に設ける方法としては、型本体11を、誘導加熱コイル17を設置できるように切削加工し取り付ける方法、誘導加熱コイル17を所定の位置に固定した後セメント等の材料で裏打ちする方法等が挙げられる。
【0023】
下型20は、上型10と同じ仕様の型が使用できる。
型本体21の材質としては、型本体11の材質と同じものが挙げられる。
金属殻23は、金属殻13と同様に、20℃におけるρが4.0〜100μΩ・cmの磁性金属材料からなる金属殻であり、好ましい態様も同じである。すなわち、キャビティ面24は、キャビティ面14と同様に、20℃におけるρが4.0〜100μΩ・cmの磁性金属材料により形成される。
冷却回路26は、その内部に冷媒を流通させ、熱伝導により金属殻23を冷却することでキャビティ面24を冷却するものであり、冷却回路16と同じものが挙げられ、好ましい態様も同じである。
誘導加熱コイル27は、電流を通じることで金属殻23を高周波誘導加熱してキャビティ面24するものであり、誘導加熱コイル17と同じものが挙げられ、好ましい態様も同じである。
【0024】
絶縁層28を形成する材料としては、金属殻13と金属殻23を電気的に絶縁できるものであればよく、例えば、無機物等の絶縁物が挙げられる。
【0025】
金型1は、誘導加熱コイル17、27に電流を通じることにより、高周波誘導により金属殻13、23を加熱してキャビティ面14、24を急速に加熱できる。また、誘導加熱コイル17、27の電流を停止してキャビティ面14、24の高周波誘導加熱を停止した後、冷却回路16、26内に冷媒を流通させることで、キャビティ面14、24を急速に冷却できる。そのため、キャビティ面14、24の急速な加熱と冷却を繰り返しながら成形材料を成形することで、ハイサイクルに成形品を製造できる。
【0026】
なお、本実施形態の金型1における誘導加熱コイル17、27を設ける位置は、キャビティ面14、24を高周波誘導加熱できる位置であればよく、型本体11、21の内部に設ける態様には限定されない。例えば、型本体の表面10a、20a上に設置することもできる。この場合においても、キャビティ面の冷却速度を向上させるために、冷却回路は金属殻13、23に密着するように設置する。
また、金属殻は、型本体におけるキャビティ面の両側の面には形成されていなくてもよい。すなわち、金属殻をキャビティのみに形成し、その表面がキャビティ面のみを形成するようにしてもよい。
【0027】
また、冷却回路は、金属本体の長手方向に沿って設ける態様には限定されず、金属本体の短手方向に沿って設けてもよい。ただし、冷却回路は、キャビティ面の冷却効率の点から、キャビティが形成されている向きに沿って設けることが好ましい。
【0028】
[第2実施形態]
次に、本発明の金型の他の実施形態例を示して詳細に説明する。
本実施形態の金型2は、図3(A)に示すように、相対移動可能な一対の上型30と下型40を具備する。金型2は、上型30と下型40がそれぞれ直方体形状であり、図3(B)に示すように、上型30と下型40を閉じることで、平板形状の密閉されたキャビティ2aが形成される。すなわち、金型2により、平板状の成形品を製造できる。
【0029】
上型30は、型本体31における下型40側の面に金属殻32が形成されており、その金属殻32の表面がキャビティ面33を形成している。また、型本体11の長手方向に沿って型本体11を貫通する複数本の冷却回路34が、キャビティ面33に密着するように並べて設けられている。また、上型30の内部の冷却回路34より更に外側(表面30a側)には、金属殻32を高周波誘導加熱してキャビティ面33を加熱する誘導加熱コイル35が設けられている。また、金属殻32、冷却回路34、誘導加熱コイル35、型本体31が一体となったユニットには、更に型枠材36が取り付けられている。
下型40は、上型30と同様に、型本体41における上型30側の面に金属殻42が形成されており、金属殻42の表面がキャビティ面43を形成している。また、型本体41の長手方向に沿って型本体41を貫通する複数本の冷却回路44が、キャビティ面43に密着するように並べて設けられており、下型40の内部の冷却回路44より外側(表面40a側)に金属殻42を高周波誘導加熱してキャビティ面43する誘導加熱コイル45が設けられている。また、下型40は、上型30と同様に、金属殻42、冷却回路44、誘導加熱コイル45、型本体41が一体となったユニットに、更に型枠材46が取り付けられている。
上型30と下型40は、電気的に完全に絶縁されている必要があり、上型30と下型40の間には絶縁層が設けられる。本実施形態では、絶縁層47が下型40における上型30側の型枠材46上に取り付けられている。絶縁層は、上型30に取り付けてもよい。
【0030】
上型30と下型40により形成されるキャビティ2aの形状は、目的の成形品の形状に応じて決定すればよく、本実施形態ではその断面形状は矩形である。
型本体31、41の材質としては、第1実施形態の型本体11で挙げた材質と同じ材質が挙げられ、好ましい態様も同じである。
金属殻32、42は、ρが4.0〜100μΩ・cmの磁性金属材料からなる金属殻であり、第1実施形態の金属殻13と同じものが挙げられ、好ましい態様も同じである。すなわち、キャビティ面33、43は、ρが4.0〜100μΩ・cmの磁性金属材料により形成されている。
【0031】
冷却回路34、44は、その内部に冷媒を流通させ、熱伝導により金属殻32、42を冷却してキャビティ面33、43を冷却するものであり、第1実施形態の冷却回路16と同じものが挙げられ、好ましい態様も同じである。
誘導加熱コイル35、45は、電流を通じることで金属殻32、42を高周波誘導加熱してキャビティ面33、43するものであり、第1実施形態の誘導加熱コイル17と同じものが挙げられ、好ましい態様も同じである。
型枠材36、46に用いることができる材料としては、無機物等の絶縁物、20℃における固有抵抗値が5.0μΩ・cm以下の非磁性体である誘導加熱されにくい金属材料等が挙げられる。
絶縁層47に用いることができる材料は、第1実施形態の絶縁層28と同じものが挙げられる。
【0032】
金型2は、誘導加熱コイル35、45に電流を通じることで、高周波誘導により金属殻32、42を加熱してキャビティ面33、43を急速に加熱できる。また、誘導加熱コイル35、45の電流を停止してキャビティ面33、43の高周波誘導加熱を停止した後、冷却回路34、44内に冷媒を流通させることで、金属殻32、42を冷却してキャビティ面33、43を急速に冷却できる。そのため、キャビティ面33、43の急速な加熱と冷却を繰り返しながら成形材料を成形することで、ハイサイクルに成形品を製造できる。
【0033】
なお、本実施形態の金型2においては、誘導加熱コイルを設ける位置は、キャビティ面を高周波誘導加熱できる位置であればよく、型本体31、41の内部に設ける態様には限定されない。例えば、第1実施形態で説明したように、型本体の表面30a、40a上に設置することもできる。
また、冷却回路は、金型本体の長手方向に沿って設けても短手方向に沿って設けてもよいが、キャビティ面の冷却効率の点から、キャビティが形成されている向きに沿って設けることが好ましい。
また、型枠材を有さない金型であってもよい。
【0034】
<熱可塑性樹脂系繊維強化複合材料成形品の製造方法[第1実施形態]>
本発明の熱可塑性樹脂系繊維強化複合材料成形品の製造方法は、本発明の金型を用いた製造方法であって、下記工程を有する。
配置工程:金型のキャビティ内に熱可塑性樹脂系繊維強化複合材料を配置し、金型を閉じる。
溶融成形工程:誘導加熱コイルに電流を通じてキャビティ面を高周波誘導加熱し、熱可塑性樹脂系繊維強化複合材料を加熱し溶融させ、更に内部から圧力をかけることによって内圧成形する。
冷却工程:前記溶融成形工程の後に、前記キャビティ面の高周波誘導加熱を停止し、冷却回路に冷媒を流通させてキャビティ面を冷却し、熱可塑性樹脂系繊維強化複合材料を固化する。
取り出し工程:前記冷却工程の後に、金型から熱可塑性樹脂系繊維強化複合材料成形品を取り出す。
【0035】
以下、本発明の熱可塑性樹脂系繊維強化複合材料成形品の製造方法の実施形態の一例として、前述の金型1を用いた製造方法について説明する。
配置工程では、図4〜6に示すように、加圧チューブ51の周囲に巻き付けられた熱可塑性樹脂系繊維強化複合材料Xを、加圧チューブ51がキャビティ1aの長手方向に沿うように、キャビティ1a内に配置し、金型1を閉じる。
この状態でチューブ内にガスを送入して加圧チューブ51を膨張させることで熱可塑性樹脂系繊維強化複合材料Xを内側からキャビティ面14、24に密着させて、さらに加圧することができるようになっている。
【0036】
熱可塑性樹脂系繊維強化複合材料Xは、マトリックス樹脂が強化繊維で強化された繊維強化複合材料からなる公知の熱可塑性樹脂系繊維強化複合材料を用いることができる。
強化繊維としては、炭素繊維、アラミド繊維、ナイロン繊維、高強度ポリエステル繊維、ガラス繊維、ボロン繊維、アルミナ繊維、窒化珪素繊維等の各種の無機繊維または有機繊維等が挙げられる。強化繊維の形態は特に限定されるものではなく、一方向に引き揃えた状態、織物、編み物、不織布、チョップされた短繊維形状等いずれの状態であっても使用できる。
マトリックス樹脂としては、公知の熱可塑性樹脂(ポリアミド、アクリロニトリル・ブタジエン・スチレン共重合体(ABS)、アクリロニトリル・エチレンプロピレンゴム・スチレン共重合体(AES)、アクリロニトリル・スチレン・アクリルゴム共重合体(ASA)、ポリエチレンテレフタレート、ポリカーボネート、ポリメチルメタクリレート、ポリブチレンテレフタレート(PBT)、ポリエーテルスルフォン、ポリフェニレンエーテル、ポリフェニレンスルフィド、ポリエーテルエーテルケトン、ポリエーテルケトンケトン、ポリイミド、ポリテトラフルオロエチレン、ポリエーテル、ポリオレフィン、液晶ポリマー、ポリアリレート、ポリスルフォン、ポリアクリロニトリルスチレン、ポリスチレン、ポリアクリロニトリル、ポリ塩化ビニル等。)等が挙げられる。
【0037】
溶融成形工程では、誘導加熱コイル17、27に電流を通じて金属殻13、23を高周波誘導加熱することでキャビティ面14、24を加熱し、図7に示すように、チューブ内にガスを送入して加圧チューブ51を加圧して膨張させ、加圧チューブ51に巻き付けた熱可塑性樹脂系繊維強化複合材料Xをキャビティ面14、24に密着させる。これにより、熱可塑性樹脂系繊維強化複合材料Xが高温のキャビティ面14、24により溶融され、加圧チューブ51とキャビティ面14、24に挟まれた状態で、内部から圧力がかかって円筒状に溶融成形される。
【0038】
キャビティ面14、24の加熱温度は、熱可塑性樹脂系繊維強化複合材料Xが充分に溶融する温度であればよく、用いる熱可塑性樹脂系繊維強化複合材料Xの種類によっても異なるが、80〜400℃が好ましく、120〜300℃がより好ましい。
【0039】
溶融成形工程の後、冷却工程において、誘導加熱コイル17、27の電流を停止し、キャビティ面14、24の高周波誘導加熱を停止する。そして、冷却回路16、26の内部に冷媒を流通させ、熱伝導によりキャビティ面14、24を冷却し、円柱状に成形された状態で熱可塑性樹脂系繊維強化複合材料Xを固化する。
【0040】
冷却工程では、キャビティ面14、24の温度を、熱可塑性樹脂系繊維強化複合材料Xが固化するのに充分な温度まで冷却すればよい。冷却工程では、用いる熱可塑性樹脂系繊維強化複合材料Xの種類によっても異なるが、ハイサイクルな成形品の製造が容易な点から、キャビティ面14、24を30〜200℃まで冷却することが好ましく、70〜160℃まで冷却することがより好ましい。
冷却回路16、26の内部に流通させる冷媒としては、水、オイル(例えば、村松石油(株)製バーレルサーム#400、綜研テクニックス(株)製NeoSK−OIL1400等。)等が挙げられる。
冷媒の温度は、10〜100℃が好ましい。
【0041】
冷却工程において熱可塑性樹脂系繊維強化複合材料Xを固化した後、加圧チューブ51の加圧を停止し、加圧チューブ51を抜き取り、金型1から成形品を取り出す。
以上の工程により、図8に例示した円筒状の熱可塑性樹脂系繊維強化複合材料成形品50が得られる。
【0042】
金型1は、ρが4.0〜100μΩ・cmの磁性金属材料によりキャビティ面14、24が形成されているため、キャビティ面14、24を高周波誘導加熱により短時間で急速に加熱できる。一方、ρが5.0μΩ・cm以下の非磁性金属材料により冷却回路16、26が形成されているので、キャビティ面14、24を高周波誘導加熱する際に冷却回路16、26が同時に加熱されることが防止されている。そのため、冷却回路16、26は温度が低いまま保たれているので、冷却工程におけるキャビティ面14、24の冷却が効率的に行える。また、高周波誘導により加熱されない絶縁物で型本体11、21を形成すれば、金型1におけるキャビティ面14、24(金属殻13、23)以外の部分の温度をほとんど変化させずにキャビティ面14、24の加熱、冷却が行えるため、ハイサイクルな成形品の製造が容易になる。
【0043】
なお、本発明の熱可塑性樹脂系繊維強化複合材料成形品の製造方法は、前述の金型1を用いる方法には限定されず、用いる金型は、前述した金属殻、冷却回路及び誘導加熱コイルを有するものであれば、キャビティの形状は限定されない。
【0044】
<熱可塑性樹脂系繊維強化複合材料成形品の製造方法[第2実施形態]>
以下、熱可塑性樹脂系繊維強化複合材料成形品の他の製造方法について説明する。該方法は、本発明の金型を用いた製造方法であって、下記工程を有する。
配置工程:金型のキャビティ内に熱可塑性樹脂系繊維強化複合材料を配置し、金型を閉じる。
溶融成形工程:誘導加熱コイルに電流を通じてキャビティ面を高周波誘導加熱し、熱可塑性樹脂系繊維強化複合材料を加熱して溶融させるとともに加圧して、金型内で圧縮成形する。
冷却工程:前記溶融成形工程の後に、前記キャビティ面の高周波誘導加熱を停止し、冷却回路に冷媒を流通させてキャビティ面を冷却し、熱可塑性樹脂系繊維強化複合材料を固化する。
取り出し工程:前記冷却工程の後に、金型から熱可塑性樹脂系繊維強化複合材料成形品を取り出す。
【0045】
以下、本発明の熱可塑性樹脂系繊維強化複合材料成形品の製造方法の実施形態の一例として、前述の金型2を用いた製造方法について説明する。
配置工程では、図9(A)に示すように、熱可塑性樹脂系繊維強化複合材料Yを金型2の下型40の金属殻43表面に配置し、金型を閉じる。次いで成形工程において、誘導加熱コイル35、45に電流を通じて金属殻32、42を高周波誘導加熱してキャビティ面33、43を加熱するとともに金型を加圧し、図9(B)に示すように、上型30と下型40により熱可塑性樹脂系繊維強化複合材料Yを溶融させ圧縮成形する。
本発明の熱可塑性樹脂系繊維強化複合材料成形品の製造方法では、キャビティ面33、43を高周波誘導加熱した後に熱可塑性樹脂系繊維強化複合材料Yを配置して圧縮成形を行ってもよい。
キャビティ面33、43の加熱温度は、用いる熱可塑性樹脂系繊維強化複合材料Yの種類によっても異なるが、80〜400℃が好ましく、120〜300℃がより好ましい。
【0046】
熱可塑性樹脂系繊維強化複合材料Yは、熱可塑性樹脂系繊維強化複合材料成形品の製造方法[第1実施形態]で使用したものと同じ、マトリックス樹脂が強化繊維で強化された繊維強化複合材料からなる公知の熱可塑性樹脂系繊維強化複合材料を用いることができる。
【0047】
成形工程の後、冷却工程において、誘導加熱コイル35、45の電流を停止し、キャビティ面33、43の高周波誘導加熱を停止する。そして、冷却回路34、44の内部に冷媒を流通させ、熱伝導によりキャビティ面33、43を冷却し、熱可塑性樹脂系繊維強化複合材料Yを固化する。
冷却回路34、44の内部に流通させる冷媒としては、冷却水、冷却オイル等が挙げられる。冷媒の温度は、10〜100℃が好ましい。
冷却工程の後、取り出し工程において、金型2を開き、金型2から熱可塑性樹脂系繊維強化複合材料成形品を取り出す。これにより、平板状の熱可塑性樹脂系繊維強化複合材料成形品が得られる。
【0048】
金型2は、金型1と同様に、ρが4.0〜100μΩ・cmの磁性金属材料によりキャビティ面33、43が形成され、ρが5.0μΩ・cm以下の非磁性金属材料により冷却回路34、44が形成されているため、冷却回路34、44を加熱せずにキャビティ面33、43を急速に加熱できる。そのため、冷却回路34、44の温度は低く保たれており、キャビティ面33、43の冷却を効率的に行える。また、前述の熱可塑性樹脂系繊維強化複合材料成形品の製造方法[第1実施形態]と同様に、高周波誘導により加熱されない絶縁物で型本体31、41を形成すれば、ハイサイクルな熱可塑性樹脂系繊維強化複合材料成形品の製造がさらに容易になる。
【0049】
なお、本発明の熱可塑性樹脂系繊維強化複合材料成形品の製造方法は、前述の金型2を用いる方法には限定されない。例えば、用いる金型は、前述した金属殻、冷却回路及び誘導加熱コイルを有するものであれば、所望のキャビティ形状を有する金型が使用できる。
【0050】
以上説明したように、本発明の金型は、特定の金属材料により形成したキャビティ面及び冷却回路を用い、高周波誘導によりキャビティ面を加熱することで、キャビティ面を加熱する際に同時に冷却回路が加熱されるのを防止できる。また、薄肉の金属殻によりキャビティ面を形成することで、加熱、冷却する金属の量を少なくして、少ないエネルギーで急速に加熱、冷却が行える。
以上のように、キャビティ面を急速に加熱、冷却することで、熱可塑性樹脂系繊維強化複合材料成形品等の成形品がハイサイクルで製造できる。
【実施例】
【0051】
以下、実施例を示して本発明を詳細に説明する。ただし、本発明は以下の記載によっては限定されない。
[実施例1]
図1に例示した構造の金型を製作した。上型、下型とも全く同じ仕様とした。金属殻は、上型と下型をキャビティ側を向き合わせて閉じたときに、直径50mmの円柱状のキャビティが形成されるようなキャビティ面を有し、上型と下型との接触面の幅が左右両側とも25mm、長手方向の長さが300mmであり、ニッケル電鋳法で作成した厚み3.0mmのニッケル電鋳製金属殻(磁性体、ρ=6.90μΩ・cm)を有するものを使用した。
冷却回路は、直径6.0mmの市販の銅管(非磁性体、ρ=1.69μΩ・cm、株式会社コベルコマテリアル製)を使用し、図1に示すように、金属殻のキャビティ面の反対側に、6.0mm間隔で金属殻の末端まで片側につき6本又は7本、合計13本を配置し、該金属殻にロウ付けで固定した。13本の銅管は、図10に示すように、端から1本おきに二組に分けてそれぞれの組の末端を接合し、該二組にそれぞれまとめて冷却水を流せるようにした。
誘導加熱コイルは、直径10mmの市販の銅管(株式会社コベルコマテリアル製)の表面を絶縁コーティングしたものを用い、金属殻から20mm離れた位置に、図11に示すように、銅管の間隔が10mmとなるよう渦状に配置した。
金型は、冷却回路を取り付けた金属殻、誘導加熱コイルが所定の位置に配置されるようにモルタル施工用型材に配置し、市販のモルタル(普通ポルトランドセメント、宇部三菱セメント株式会社製)に骨材を配合した混合物を該型材に流し込んで硬化させて型本体を形成して製作した。下型も全く同様の方法で製作した。
【0052】
上型と下型を向かい合わせにし、接触面全面に300mm×25mm、厚み1mmの無機絶縁板を挟んで金型を閉じ、シャコ万力でしっかりと固定した。
上型及び下型の誘導加熱コイルに、それぞれ5kWの出力でジェネレーターから通電した。熱電対を金属殻表面に設置し、金属殻の温度変化を測定したところ、金属殻は約10秒で室温から300℃まで加熱されることが確認できた。ここで誘導加熱を中止し、冷却回路に冷却水を通水したところ、70秒で金属殻温度が80℃まで下がった。
【0053】
この金型を使用して成形確認を実施した。熱可塑性樹脂系繊維強化複合材料としては、東洋紡績株式会社製の、ガラス繊維(連続繊維)にポリプロピレンを含浸させたテープ(QuickForm(登録商標)、巾15mm、厚み150μm、Vf=50%)からなる平織物(クロス材料)を使用した。成形した時に均等に10層になるように、300mm×1570mmのクロス材料を加圧用チューブに緩く巻きつけた。熱可塑性樹脂系繊維強化複合材料を巻きつけたチューブを図5に例示したように金型のキャビティー内に挿入し、チューブ内に8気圧の圧縮空気を充填して膨張させ、熱可塑性樹脂系繊維強化複合材料を内側から金型キャビティに押し付けると共に、高周波誘導加熱を開始した。熱電対により、金属殻表面の金属殻温度が7秒で200℃に達したことを確認した後、3分経ってから誘導加熱を止め、冷却回路に冷却水を流した。金属殻温度が100℃以下になったことを確認した後、冷却を止め、チューブから圧縮空気を抜いて、成形品を金型から取り出した。外径が50mm、厚みが約1.5mmの状態の良いチューブ状の熱可塑性樹脂系繊維強化複合材料成形品が得られた。該成形品は、内部にもボイドは少なく充分にコンソリデーションされていることが観察された。
【0054】
[実施例2]
金属殻として、ニッケル電鋳板の代わりに同じ寸法の鋼板(磁性体、ρ=10μΩ・cm)を使用した以外は、実施例1と全く同じ仕様、構成で金型を作成し、実施例1と同じ条件で誘導加熱を行った。その結果、約8秒で金属殻の温度が300℃に達した。誘導加熱を中止し、冷却回路に冷却水を通水したところ、80秒で金属殻温度が80℃まで下がった。
【0055】
[比較例1]
金属殻として、ニッケル電鋳板の代わりに同じ寸法のアルミニウム板(非磁性体、ρ=2.62μΩ・cm)を使用した以外は、実施例1と全く同じ仕様、構成で金型を作成し、実施例1と同じ条件で誘導加熱を行った。その結果、金属殻の温度が250℃に達するのに395秒かかった。誘導加熱を中止し、冷却回路に冷却水を通水したところ、45秒で金属殻温度が80℃まで下がった。
以上のように、本発明の金型は、金属殻の加熱及び冷却が急速に行えるため、熱可塑性樹脂系繊維強化複合材料成形品をハイサイクルで成形できる。
【産業上の利用可能性】
【0056】
本発明の金型は、金型の急速な加熱、冷却が可能であるため、自動車部品等の用途の熱可塑性樹脂系繊維強化複合材料成形品をハイサイクルに製造できる。
【符号の説明】
【0057】
1、2 金型 10、30 上型 20、40 下型 11、21、31、41 型本体 12、22 キャビティ 13、23、32、42 金属殻 14、24、33、43 キャビティ面 16、26、34、44 冷却回路 17、27、35、45 誘導加熱コイル 28、47 絶縁層 50 熱可塑性樹脂系繊維強化複合材料成形品 51 加圧チューブ X 熱可塑性樹脂系繊維強化複合材料 Y 熱可塑性樹脂系繊維強化複合材料
【特許請求の範囲】
【請求項1】
20℃における固有抵抗値が4.0〜100μΩ・cmの磁性金属材料により形成されたキャビティ面を有する一対の型を具備し、前記一対の型のそれぞれに、該型内を貫通し、内部に冷媒を流通して前記キャビティ面を冷却する、20℃における固有抵抗値が5.0μΩ・cm以下の非磁性金属材料により形成された冷却回路と、前記キャビティ面を高周波誘導により加熱する誘導加熱コイルとが設けられている金型。
【請求項2】
前記キャビティ面がニッケル電鋳法により形成されている、請求項1に記載の金型。
【請求項3】
請求項1又は2に記載の金型を用いた熱可塑性樹脂系繊維強化複合材料成形品の製造方法であって、
加圧チューブの周囲に巻き付けた熱可塑性樹脂系繊維強化複合材料を、該加圧チューブがキャビティの長手方向に沿うように、前記金型のキャビティ内に配置して該金型を閉じる配置工程と、
前記誘導加熱コイルに電流を通じてキャビティ面を高周波誘導加熱し、前記加圧チューブを加圧して膨張させ、熱可塑性樹脂系繊維強化複合材料をキャビティ面に内側から密着させ、熱可塑性樹脂系繊維強化複合材料を溶融させて、内部から圧力をかけて内圧成形する溶融成形工程と、
前記溶融成形工程の後に、前記キャビティ面の高周波誘導加熱を停止し、前記冷却回路に冷媒を流通させてキャビティ面を冷却し、前記熱可塑性樹脂系繊維強化複合材料を固化する冷却工程と、
前記冷却工程の後に、金型から熱可塑性樹脂系繊維強化複合材料成形品を取り出す取り出し工程と、
を有する熱可塑性樹脂系繊維強化複合材料成形品の製造方法。
【請求項4】
請求項1又は2に記載の金型を用いた熱可塑性樹脂系繊維強化複合材料成形品の製造方法であって、
前記金型のキャビティ内に熱可塑性樹脂系繊維強化複合材料を配置する配置工程と、
前記誘導加熱コイルに電流を通じてキャビティ面を高周波誘導加熱し、金型で熱可塑性樹脂系繊維強化複合材料を溶融させ圧縮成形する成形工程と、
前記成形工程の後に、前記キャビティ面の高周波誘導加熱を停止し、前記冷却回路に冷媒を流通させてキャビティ面を冷却し、前記熱可塑性樹脂系繊維強化複合材料を固化する冷却工程と、
前記冷却工程の後に、金型から熱可塑性樹脂系繊維強化複合材料成形品を取り出す取り出し工程と、
を有する熱可塑性樹脂系繊維強化複合材料成形品の製造方法。
【請求項1】
20℃における固有抵抗値が4.0〜100μΩ・cmの磁性金属材料により形成されたキャビティ面を有する一対の型を具備し、前記一対の型のそれぞれに、該型内を貫通し、内部に冷媒を流通して前記キャビティ面を冷却する、20℃における固有抵抗値が5.0μΩ・cm以下の非磁性金属材料により形成された冷却回路と、前記キャビティ面を高周波誘導により加熱する誘導加熱コイルとが設けられている金型。
【請求項2】
前記キャビティ面がニッケル電鋳法により形成されている、請求項1に記載の金型。
【請求項3】
請求項1又は2に記載の金型を用いた熱可塑性樹脂系繊維強化複合材料成形品の製造方法であって、
加圧チューブの周囲に巻き付けた熱可塑性樹脂系繊維強化複合材料を、該加圧チューブがキャビティの長手方向に沿うように、前記金型のキャビティ内に配置して該金型を閉じる配置工程と、
前記誘導加熱コイルに電流を通じてキャビティ面を高周波誘導加熱し、前記加圧チューブを加圧して膨張させ、熱可塑性樹脂系繊維強化複合材料をキャビティ面に内側から密着させ、熱可塑性樹脂系繊維強化複合材料を溶融させて、内部から圧力をかけて内圧成形する溶融成形工程と、
前記溶融成形工程の後に、前記キャビティ面の高周波誘導加熱を停止し、前記冷却回路に冷媒を流通させてキャビティ面を冷却し、前記熱可塑性樹脂系繊維強化複合材料を固化する冷却工程と、
前記冷却工程の後に、金型から熱可塑性樹脂系繊維強化複合材料成形品を取り出す取り出し工程と、
を有する熱可塑性樹脂系繊維強化複合材料成形品の製造方法。
【請求項4】
請求項1又は2に記載の金型を用いた熱可塑性樹脂系繊維強化複合材料成形品の製造方法であって、
前記金型のキャビティ内に熱可塑性樹脂系繊維強化複合材料を配置する配置工程と、
前記誘導加熱コイルに電流を通じてキャビティ面を高周波誘導加熱し、金型で熱可塑性樹脂系繊維強化複合材料を溶融させ圧縮成形する成形工程と、
前記成形工程の後に、前記キャビティ面の高周波誘導加熱を停止し、前記冷却回路に冷媒を流通させてキャビティ面を冷却し、前記熱可塑性樹脂系繊維強化複合材料を固化する冷却工程と、
前記冷却工程の後に、金型から熱可塑性樹脂系繊維強化複合材料成形品を取り出す取り出し工程と、
を有する熱可塑性樹脂系繊維強化複合材料成形品の製造方法。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【公開番号】特開2011−98514(P2011−98514A)
【公開日】平成23年5月19日(2011.5.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−254897(P2009−254897)
【出願日】平成21年11月6日(2009.11.6)
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)国等の委託研究の成果に係る特許出願(平成20年度独立行政法人新エネルギー・産業技術開発機構「サステナブルハイパーコンポジット技術の開発」委託研究、産業技術力強化法第19条の適用を受ける特許出願)
【出願人】(000006035)三菱レイヨン株式会社 (2,875)
【出願人】(000003160)東洋紡績株式会社 (3,622)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成23年5月19日(2011.5.19)
【国際特許分類】
【出願日】平成21年11月6日(2009.11.6)
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)国等の委託研究の成果に係る特許出願(平成20年度独立行政法人新エネルギー・産業技術開発機構「サステナブルハイパーコンポジット技術の開発」委託研究、産業技術力強化法第19条の適用を受ける特許出願)
【出願人】(000006035)三菱レイヨン株式会社 (2,875)
【出願人】(000003160)東洋紡績株式会社 (3,622)
【Fターム(参考)】
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