説明

金属酸化物膜の製造方法

【課題】基材表面を触媒化処理することなく、基材表面上に直接金属酸化物膜を形成する金属酸化物膜の製造方法であって、基材が構造部を有する場合においても、簡便なプロセスで均一な金属酸化物膜を得ることが可能な金属酸化物膜の製造方法を提供することを主目的とするものである。
【解決手段】本発明は、基材表面に、金属源として金属塩または金属錯体が溶解した金属酸化物膜形成用溶液を接触させることにより金属酸化物膜を得る金属酸化物膜の製造方法であって、上記金属酸化物膜形成用溶液が還元剤を含有することを特徴とする金属酸化物膜の製造方法を提供することにより、上記課題を解決する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、還元剤を含有する金属酸化物膜形成用溶液を用いた金属酸化物膜の製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来より、金属酸化物膜は様々な優れた物性を示すことが知られており、その特性を活かして、透明導電膜、光学薄膜、燃料電池用電解質等、幅広い分野において使用されている。このような金属酸化物膜の製造方法としては、例えば、ゾルゲル法、スパッタリング法、CVD法、PVD法、印刷法等を挙げることができるが、これらの方法はいずれも焼成や高真空状態を必要とすることから、装置が大型化し、コスト高や、操作性の複雑化といった問題があった。
【0003】
また、金属酸化物膜の製造方法における別の問題としては、構造部を有する基材に対して、均一な金属酸化物膜を設けることが困難であることが挙げられる。例えば、スパッタリング法においては、その原理上、形状追従性が乏しくなり、また、印刷法においては、インキに含まれるセラミックス微粒子より小さい構造部に対する成膜が困難であった。また、形状追従性に比較的優れるとされるCVD法においても、形状が単純で浅い溝等に対しては効果を発揮するものの、複雑な構造部に対しては、均一な金属酸化物膜を設けることが困難であった。
【0004】
このような問題に対して、溶液から基材上に直接金属酸化物膜を成膜するソフト溶液プロセスが提唱されている(非特許文献1)。このようなソフト溶液プロセスは、通常、焼成や高真空状態を必要としないことから、上述した装置の大型化等の問題を解決することができる。さらに、金属酸化物膜形成用溶液に基材を接触させることから、複雑な構造部を有する基材であっても、上記溶液が構造部内に容易に侵入することができ、均一な金属酸化物膜が得られる。
【0005】
このようなソフト溶液プロセスを利用した試みとしては、例えば特許文献1において、所定の電圧が印加されたアノード電極とカソード電極との間に、形成すべき薄膜の構成元素を含む反応溶液を所定の流量で流すことにより、薄膜を形成する方法が開示されている。特許文献1においては、上記反応溶液中に酸化剤は含有されているものの、還元剤は含有されていない。さらに、基板が導電体に限られ、得られた薄膜の膜質は、粒子性の粗いものであった。
【0006】
また、例えば特許文献2および特許文献3においては、Ag触媒やPd触媒を用いて触媒化処理した基材を、酸化亜鉛析出溶液に浸漬し、無電界法により酸化亜鉛皮膜を形成する方法が開示されている。これらの特許文献においては、ジメチルアミンボラン等の還元剤を使用しているものの、基材の触媒化処理を必須の構成要素としており、基材表面に直接金属酸化物膜を形成する方法ではなかった。さらに、金属酸化物膜の用途によっては、触媒に使用される金属が好ましくない場合も考えられ、また、触媒化処理を行うことから工程が複雑化するといった問題があった。
【0007】
【非特許文献1】資源と素材 Vol.116 p.649−655(2000)
【特許文献1】特許第3353070号
【特許文献2】特開2000−8180公報
【特許文献3】特開2000−336486公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、上記問題点に鑑みてなされたものであり、基材表面を触媒化処理することなく、基材表面上に直接金属酸化物膜を形成する金属酸化物膜の製造方法であって、基材が複雑な構造部を有する場合においても、簡便なプロセスで均一な金属酸化物膜を得ることが可能な金属酸化物膜の製造方法を提供することを主目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記課題を解決するために、本発明は、基材表面に、金属源として金属塩または金属錯体が溶解した金属酸化物膜形成用溶液を接触させることにより金属酸化物膜を得る金属酸化物膜の製造方法であって、上記金属酸化物膜形成用溶液が還元剤を含有することを特徴とする金属酸化物膜の製造方法を提供する。
【0010】
本発明によれば、上記金属酸化物膜形成用溶液に還元剤を含有させることにより、基材表面を触媒化処理することなく、基材表面上に直接金属酸化物膜を形成することができる。上記還元剤は、分解する際に電子を発生することから、水の電気分解を誘発させ、生じた水酸化物イオンが上記溶液のpHを上昇させ、金属酸化物膜の形成しやすい環境とすることができる。
また、本発明よれば、上記基材と上記金属酸化物膜形成用溶液とを接触させることにより、上記溶液から直接金属酸化物膜を得る製造方法であるため、焼成や高真空等の処理を必要とせず、プロセスが簡便であり低コスト化が可能である。さらに、基材が複雑な構造部を有する場合であっても、上記溶液が構造部内に容易に侵入することができるため、均一な金属酸化物膜が得られるといった利点を有する。
【0011】
また、上記発明においては、上記基材表面と上記金属酸化物膜形成用溶液とを接触させる際に、酸化性ガスを混合することが好ましく、中でも上記酸化性ガスが、酸素またはオゾンであることがより好ましい。酸化性ガスを混合させることによって、金属酸化物膜の成膜速度を向上させることができるからである。
【0012】
また、上記発明においては、上記基材表面と上記金属酸化物膜形成用溶液とを接触させる際に、紫外線を照射することが好ましい。紫外線を照射することによって、水の電気分解に相当する反応を誘発することや還元剤の分解を促進することができると考えられ、発生した水酸化物イオンによって、上記金属酸化物膜形成用溶液のpHを上昇させ、金属酸化物膜の形成しやすい環境とすることができるからである。さらに、紫外線を照射することによって、得られる金属酸化物膜の結晶性を向上させることもできる。
【0013】
また、上記発明においては、上記金属酸化物膜形成用溶液に用いられる金属源が、Mg、Al、Si、Ca、Ti、V、Mn、Fe、Co、Ni、Cu、Zn、Y、Zr、Ag、In、Sn、Ce、Sm、Pb、La、Hf、Sc、Gd、およびTaからなる群から選択される少なくとも一つの金属元素を含有することが好ましい。上記金属元素は、プールベ線図において金属酸化物領域、あるいは金属水酸化物領域を有しているため、金属酸化物膜の主用構成元素として適している。
【0014】
また、上記発明においては、上記金属酸化物膜形成用溶液が、塩素酸イオン、過塩素酸イオン、亜塩素酸イオン、次亜塩素酸イオン、臭素酸イオン、次臭素酸イオン、硝酸イオン、および亜硝酸イオンからなる群から選択される少なくとも一つのイオン種を含有することが好ましい。上記イオン種は、電子と反応することにより、水酸化物イオンを発生することができ、金属酸化物膜形成用溶液のpHを上昇させ、金属酸化物膜の形成しやすい環境とすることができるからである。
【発明の効果】
【0015】
本発明は、基材表面を触媒化処理することなく、基材表面上に直接金属酸化物膜を形成することができ、基材が複雑な構造部を有する場合においても、簡便なプロセスで均一な金属酸化物膜を得ることができるといった効果を奏するものである。
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
以下、本発明の金属酸化物膜の製造方法について詳細に説明する。
【0017】
本発明の金属酸化物膜の製造方法は、基材表面に、金属源として金属塩または金属錯体が溶解した金属酸化物膜形成用溶液を接触させることにより金属酸化物膜を得る金属酸化物膜の製造方法であって、上記金属酸化物膜形成用溶液が還元剤を含有することを特徴とするものである。なお、本発明において「基材表面」とは、基材の最表面を意味するものであり、触媒化処理等によって基材上に得られる触媒層等を意味するものではない。また、多孔質基材における基材の最表面とは、多孔質基材の上側や下側や横側だけでなく内部まで至るものである。上記基材表面に金属酸化物膜形成用溶液を接触させ、基材表面に直接金属酸化物膜を形成することにより、製造工程をより簡便にすることができる。また、本発明における「金属錯体」とは、金属イオンに対して無機物または有機物が配位したもの、あるいは、分子中に金属−炭素結合を有する、いわゆる有機金属化合物を含むものである。
【0018】
本発明においては、例えば、微細加工を施した金属基材に対して非金属的な性質を付与することができる。具体的には、絶縁性を付与することが挙げられ、従来の樹脂による絶縁手法と比較して高温で用いることが可能となる。さらに、このような方法で製造した金属酸化物膜は、金属基材との密着性に優れ、緻密であるため、従来の樹脂による絶縁手法が10μm程度の膜厚を必要としていたのに対して、1μm程度の膜厚の金属酸化物膜であっても同等の絶縁性を得ることができる。
また、本発明においては、例えば、微細加工を施した金属基材に対して耐食性を付与することができる。具体的には、酸やアルカリに強く、さらに導電性を有するような金属酸化物膜を成膜することにより、金属のみでは使用不可能であった環境においても、使用可能な部材を得ることができる。さらに、本発明においては、上記耐食性を備えた着色金属酸化物膜を得ることができることから、意匠性が求められる部材、具体的にはビルやプラントの酸性雨対策用部材等にも用いることができる。
また、本発明は、微細加工を施した樹脂基材等にも適用することができる。本発明を用いることによって、安価で加工しやすい樹脂を微細加工し、耐有機溶剤性、親水性、生体親和性を付与することができるため、有機溶剤プラント、有機溶剤容器、バイオチップ、理化学機器全般に使用することができる。
また、本発明は、従来の金属酸化物膜の製造方法に比べて、低温で金属酸化物膜を得ることが可能であることから、樹脂や紙等の非耐熱基材を使用することができ、例えば、小型化していく電子デバイス、一体型となるエネルギー関連デバイス、多様化していくバイオ分野等に対して、広範な適用能力を発揮することができる。
【0019】
このような本発明の金属酸化物膜の製造方法のメカニズムについて、金属源として硝酸セリウム(Ce(NO)、還元剤としてボラン−ジメチルアミン錯体(別名:ジメチルアミンボラン、DMAB)を用い、酸化セリウム(CeO)膜を形成する場合を用いて説明する。
上記酸化セリウム膜は、まだ明確ではないが、以下の6つの式により形成されると考えられている。
(i) Ce(NO → Ce3++3NO
(ii) (CHNHBH+2HO → BO+(CHNH+7H+6e
(iii) 2HO+2e → 2OH+H
(iv) Ce3+ → Ce4++e
(v) Ce4++2OH → Ce(OH)2+
(vi) Ce(OH)2+ → CeO+H
【0020】
このようなメカニズムについて図面を用いて具体的に説明する。まず、図1(a)に示されるように、硝酸セリウムおよびDMABを溶媒である水に溶解させ、金属酸化物膜形成用溶液1を作製し、この溶液に基材2を浸漬させる。この時、硝酸セリウムは水溶液中でセリウムイオンとなる((i)式)。続いて、図1(b)に示されるように、還元剤DMABが分解((ii)式)することにより、電子を放出する。その後、図1(c)に示されるように、放出された電子が水の電気分解((iii)式)を誘発し、水酸化物イオンを発生させ金属酸化物膜形成用溶液のpHを上昇させる。その結果、セリウムイオンは価数を変化させ((iv)式)、さらに発生した水酸化物イオンと反応し((v)式)、図1(d)に示されるように、Ce(OH)2+が生成する。その後、図1(e)に示されるように、基材2近傍のCe(OH)2+が局所的なpHの上昇によりCeOとなる((vi)式)。そして、(ii)〜(vi)式の反応が繰り返されることによって、図1(f)に示されるような酸化セリウム膜3が形成される。
【0021】
また、図2は、セリウムのプールべ線図であるが、上記反応は、(i)式により生じたCe3+が、(iii)式で生成した水酸化物イオンによるpH上昇によって、CeOの領域に至ったものと考えることができる。このことから、同様の金属酸化物領域を有する金属元素であれば、本発明の製造方法により、同様に金属酸化物膜を製造することができると考えられる。また、金属水酸化物領域を有する金属元素であっても、金属水酸化物膜を加熱することにより金属酸化物膜が得られる。なお、本発明においては、溶媒として、水ではなく、アルコール、有機溶媒等を使用した際においても、上記反応と類似の反応、もしくは溶媒中に含まれる微量の水分により、金属酸化物膜が生成すると考えられる。
以下、本発明の金属酸化物膜の製造方法について、各構成毎に詳細に説明する。
【0022】
1.金属酸化物膜形成用溶液
まず、本発明の金属酸化物膜の製造方法に用いられる金属酸化物膜形成用溶液について説明する。本発明に用いられる金属酸化物膜形成用溶液は、還元剤と、金属源として金属塩または金属錯体と、溶媒とを少なくとも含有するものである。
【0023】
(1)還元剤
本発明に用いられる還元剤は、分解反応により電子を放出し、水の電気分解によって水酸化物イオンを発生させ、金属酸化物膜形成用溶液のpHを上げる働きを有するものである。pHを上昇させ、プールベ線図における金属酸化物領域あるいは金属水酸化物領域へ誘導し、金属酸化物膜の発生しやすい環境とすることができる。
【0024】
本発明に用いられる金属酸化物膜形成用溶液における上記還元剤の濃度としては、還元剤の種類に応じて異なるものではあるが、通常0.001〜1mol/lであり、中でも0.01〜0.1mol/lであることが好ましい。濃度が上記範囲以下であると、金属酸化物膜の成膜反応が起こり難く、充分な成膜速度を得ることができない可能性があり、濃度が上記範囲以上であると、得られる効果に大差が見られず、コスト上好ましくないからである。
【0025】
このような還元剤としては、後述する溶媒に溶解し、分解反応により電子を放出することができるものであれば、特に限定されるものではないが、例えば、ボラン−tert−ブチルアミン錯体、ボラン−N,Nジエチルアニリン錯体、ボラン−ジメチルアミン錯体、ボラン−トリメチルアミン錯体等のボラン系錯体、水酸化シアノホウ素ナトリウム、水酸化ホウ素ナトリウム等を挙げることができ、中でもボラン系錯体を使用することが好ましい。
【0026】
(2)金属源
本発明に用いられる金属源は、金属酸化物膜形成用溶液に溶解し、還元剤等の作用により金属酸化物膜を与えるものである。本発明に用いられる金属源は、後述する溶媒に溶解するものであれば、金属塩であっても良く、金属錯体であっても良い。
本発明に用いられる金属酸化物膜形成用溶液における上記金属源の濃度としては、金属源が金属塩の場合、通常0.001〜1mol/lであり、中でも0.01〜0.1mol/lであることが好ましく、金属源が金属錯体である場合、通常0.001〜1mol/lであり、中でも0.01〜0.1mol/lであることが好ましい。濃度が上記範囲以下であると、金属酸化物膜の成膜反応が起こり難く、所望の金属酸化物膜を得ることができない可能性があり、濃度が上記範囲以上であると、沈殿物となる可能性があるからである。
【0027】
このような金属源を構成する金属元素としては、所望の金属酸化物膜を得ることができれば特に限定されるものではないが、例えば、Mg、Al、Si、Ca、Ti、V、Mn、Fe、Co、Ni、Cu、Zn、Y、Zr、Ag、In、Sn、Ce、Sm、Pb、La、Hf、Sc、Gd、およびTaからなる群から選択されることが好ましい。上記金属元素は、プールベ線図において金属酸化物領域、あるいは金属水酸化物領域を有しているため、金属酸化物膜の主用構成元素として適している。
【0028】
上記金属塩としては、具体的には、上記金属元素を含む塩化物、硝酸塩、硫酸塩、過塩素酸塩、酢酸塩、リン酸塩、臭素酸塩等を挙げることができる。中でも、本発明においては、塩化物、硝酸塩、酢酸塩等を使用することが好ましい。これらの化合物は汎用品として入手が容易だからである。
また、上記金属錯体としては、具体的には、マグネシウムジエトキシド、アルミニウムアセチルアセトナート、カルシウムアセチルアセトナート二水和物、カルシウムジ(メトキシエトキシド)、グルコン酸カルシウム一水和物、クエン酸カルシウム四水和物、サリチル酸カルシウム二水和物、チタンラクテート、チタンアセチルアセトネート、テトライソプロピルチタネート、テトラノルマルブチルチタネート、テトラ(2−エチルヘキシル)チタネート、ブチルチタネートダイマー、チタニウムビス(エチルヘキソキシ)ビス(2−エチル−3−ヒドロキシヘキソキシド)、ジイソプロポキシチタンビス(トリエタノールアミネート)、ジヒドロキシビス(アンモニウムラクテート)チタニウム、ジイソプロポキシチタンビス(エチルアセトアセテート)、チタンペロキソクエン酸アンモニウム四水和物、ジシクロペンタジエニル鉄(II)、乳酸鉄(II)三水和物、鉄(III)アセチルアセトナート、コバルト(II)アセチルアセトナート、ニッケル(II)アセチルアセトナート二水和物、銅(II)アセチルアセトナート、銅(II)ジピバロイルメタナート、エチルアセト酢酸銅(II)、亜鉛アセチルアセトナート、乳酸亜鉛三水和物、サリチル酸亜鉛三水和物、ステアリン酸亜鉛、ストロンチウムジピバロイルメタナート、イットリウムジピバロイルメタナート、ジルコニウムテトラ−n−ブトキシド、ジルコニウム(IV)エトキシド、ジルコニウムノルマルプロピレート、ジルコニウムノルマルブチレート、ジルコニウムテトラアセチルアセトネート、ジルコニウムモノアセチルアセトネート、ジルコニウムアセチルアセトネートビスエチルアセトアセテート、ジルコニウムアセテート、ジルコニウムモノステアレート、ペンタ−n−ブトキシニオブ、ペンタエトキシニオブ、ペンタイソプロポキシニオブ、トリス(アセチルアセトナト)インジウム(III)、2−エチルヘキサン酸インジウム(III)、テトラエチルすず、酸化ジブチルすず(IV)、トリシクロヘキシルすず(IV)ヒドロキシド、ランタンアセチルアセトナート二水和物、トリ(メトキシエトキシ)ランタン、ペンタイソプロポキシタンタル、ペンタエトキシタンタル、タンタル(V)エトキシド、セリウム(III)アセチルアセトナートn水和物、クエン酸鉛(II)三水和物、シクロヘキサン酪酸鉛等を挙げることができる。中でも、本発明においては、マグネシウムジエトキシド、アルミニウムアセチルアセトナート、カルシウムアセチルアセトナート二水和物、チタンラクテート、チタンアセチルアセトネート、テトライソプロピルチタネート、テトラノルマルブチルチタネート、テトラ(2−エチルヘキシル)チタネート、ブチルチタネートダイマー、ジイソプロポキシチタンビス(エチルアセトアセテート)、乳酸鉄(II)三水和物、鉄(III)アセチルアセトナート、亜鉛アセチルアセトナート、乳酸亜鉛三水和物、ストロンチウムジピバロイルメタナート、ペンタエトキシニオブ、トリス(アセチルアセトナト)インジウム(III)、2−エチルヘキサン酸インジウム(III)、テトラエチルすず、酸化ジブチルすず(IV)、ランタンアセチルアセトナート二水和物、トリ(メトキシエトキシ)ランタン、セリウム(III)アセチルアセトナートn水和物を使用することが好ましい。
また、本発明においては、金属酸化物膜形成用溶液が上記金属元素を2種類以上含有していても良く、複数種の金属元素を使用することにより、例えば、ITO、Gd−CeO、Sm−CeO、Ni−Fe等の複合金属酸化物膜を得ることができる。
【0029】
(3)溶媒
本発明に用いられる溶媒は、上述した還元剤および金属源等を溶解することができるものであれば、特に限定されるものではなく、例えば、金属源が金属塩の場合は、水、メタノール、エタノール、イソプロピルアルコール、プロパノール、ブタノール等の総炭素数が5以下の低級アルコール、トルエン、およびこれらの混合溶媒等を挙げることができ、金属源が金属錯体の場合は、水、上述した低級アルコール、トルエン、およびこれらの混合溶媒を挙げることができる。また、本発明においては、上記溶媒を組み合わせて使用しても良く、例えば、水への溶解性は低いが有機溶媒への溶解性は高い金属錯体と、有機溶媒への溶解性は低いが水への溶解性が高い還元剤とを使用する場合は、水と有機溶媒とを混合することにより両者を溶解させ、均一な金属酸化物膜形成用溶液とすることができる。
【0030】
(4)添加剤
また、本発明に用いられる金属酸化物膜形成用溶液は、補助イオン源や界面活性剤等の添加剤を含有していても良い。
上記補助イオン源は、電子と反応し水酸化物イオンを発生するものであり、金属酸化物膜形成用溶液のpHを上昇させ、金属酸化物膜の形成しやすい環境とすることができる。また、上記補助イオン源の使用量は、使用する金属源や還元剤に合わせて適宜選択して使用することが好ましい。
【0031】
このような補助イオン源としては、具体的には、塩素酸イオン、過塩素酸イオン、亜塩素酸イオン、次亜塩素酸イオン、臭素酸イオン、次臭素酸イオン、硝酸イオン、および亜硝酸イオンからなる群から選択されるイオン種を挙げることができる。これらの補助イオン源は、溶液中で下記の反応を起こすと考えられている。
ClO + HO + 2e ⇔ ClO + 2OH
ClO + HO + 2e ⇔ ClO + 2OH
ClO + HO + 2e ⇔ ClO + 2OH
2ClO + 2HO + 2e ⇔ Cl(g)+ 4OH
BrO + 2HO + 4e ⇔ BrO + 4OH
2BrO + 2HO + 2e ⇔ Br + 4OH
NO + HO + 2e ⇔ NO + 2OH
NO + 3HO + 3e ⇔ NH + 3OH
【0032】
また、上記界面活性剤は、金属酸化物膜形成用溶液と基材表面との界面に作用し、基材表面に金属酸化物膜が生成し易くする働きを有するものである。上記界面活性剤の使用量は、使用する金属源や還元剤に合わせて適宜選択して使用することが好ましい。
このような界面活性剤は、具体的にはサーフィノール485、サーフィノールSE、サーフィノールSE−F、サーフィノール504、サーフィノールGA、サーフィノール104A、サーフィノール104BC、サーフィノール104PPM、サーフィノール104E、サーフィノール104PA等のサーフィノールシリーズ(以上、全て日信化学工業(株)社製)、NIKKOL AM301、NIKKOL AM313ON(以上、全て日光ケミカル社製)等を挙げることができる。
【0033】
2.基材
次に、本発明の金属酸化物膜の製造方法に用いられる基材について説明する。本発明に用いられる基材の材料としては、特に限定されるものではないが、例えばガラス、プラスチックや樹脂、金属や合金、半導体やセラミックス、紙、布等を使用することができる。上記基材の材料は、金属酸化物膜によって付与される耐食性、絶縁性、親水性等の機能や、部材の用途等を考慮して適宜選択されることが好ましい。
また、本発明に用いられる基材は、特に限定されるものではないが、例えば、平滑な表面を有するもの、微細構造部を有するもの、穴が開いているもの、溝が刻まれているもの、流路が存在するもの、多孔質であるもの、多孔質膜を備えたものであっても良い。中でも、本発明のおいては、基材が微細構造を有するもの、多孔質であるもの、多孔質膜を備えたものであることが好ましい。金属酸化物膜形成用溶液が、これら基材の内部まで侵入することができ、良好な形状追従性を有した金属酸化物膜とすることができるからである。
【0034】
3.基材と金属酸化物膜形成用溶液との接触方法
次に、本発明の金属酸化物膜の製造方法における基材と金属酸化物膜形成用溶液との接触方法について説明する。本発明における上記接触方法としては、上述した基材と上述した金属酸化物膜形成用溶液とを接触させる方法であれば、特に限定されるものではなく、具体的には、ロールコート法、ディッピング法、枚葉式による方法、溶液を霧状にして塗布する方法等が挙げられる。
例えば、ロールコート法は、例えば図3に示すように、ロール4とロール5の間に、基材2を通過させることにより、基材表面上に金属酸化物膜を形成する方法であり、連続的な金属酸化物膜の製造に適している。また、ディッピング法は、基材を金属酸化物膜形成用溶液に浸漬することにより、基材表面上に金属酸化物膜を形成する方法であって、例えば図4(a)に示すように、基材2全体を金属酸化物膜形成用溶液1に浸漬することにより基材2全面に金属酸化物膜を形成することができる。また、図4(a)には示していないが、基材2の表面上に遮蔽部を設けることによって、基材2の表面上にパターン状の金属酸化物膜を設けることができる。また、例えば図4(b)に示すように、金属酸化物膜形成用溶液1を一定の流量で流し、基材2の内周面にのみ金属酸化物膜形成用溶液1を接触させることにより、内周面にのみに金属酸化物膜を設けることができる。また、枚葉式による方法は、例えば図5に示すように、金属酸化物膜形成用溶液1をポンプ6で循環させ、基材2のみを加熱することにより、基材表面近傍における還元剤の分解反応を促進し、基材表面上に金属酸化物膜を形成する方法である。
【0035】
また、本発明金属酸化物膜の製造方法においては、基材表面と金属酸化物膜形成用溶液とを接触させる際に、酸化性ガスを混合すること、紫外線を照射すること、加熱すること、またはこれらを組み合わせることにより、金属酸化物膜の成膜速度を向上させることができる。以下、これらの方法について説明する。
【0036】
(1)酸化性ガスの混合による成膜速度の向上
本発明においては、基材表面と金属酸化物膜形成用溶液とを接触させる際に、酸化性ガスを混合することが好ましい。
このような酸化性ガスとしては、酸化能を有する気体であって、金属酸化物膜の成膜速度を向上させることができるものであれば、特に限定されるものではなく、例えば、酸素、オゾン、亜硝酸ガス、二酸化窒素、二酸化塩素、ハロゲンガス等が挙げられ、中でも酸素およびオゾンを使用することが好ましく、特にオゾンを使用することが好ましい。工業的に入手が容易であり、低コスト化を図ることができるからである。
【0037】
また、上記酸化性ガスの混合方法としては、特に限定されるものではないが、例えば、上述した浸漬法を用いた場合は、基材表面と金属酸化物膜形成用溶液とが接触している部分に、気泡状の上記酸化性ガスを接触させる方法が挙げられる。このような気泡状の酸化性ガスの導入は、特に限定されるものではないが、例えば、バブラーを用いる方法を挙げることができる。バブラーを使用することにより、酸化性ガスと上記溶液の接触面積を増大させることができ、効率的に金属酸化物膜の成膜速度を向上させることができるからである。このようなバブラーとしては、一般的なバブラーを使用することができ、例えば、ナフロンバブラー(アズワン社製)等を挙げることができる。また、上記酸化性ガスは、通常ガスボンベから供給することができ、オゾンに関しては、オゾン発生装置から金属酸化物膜形成用溶液に供給することができる。
【0038】
(2)紫外線の照射による成膜速度の向上
また、本発明においては、基材表面と金属酸化物膜形成用溶液とを接触させる際に、紫外線を照射することが好ましい。紫外線を照射することによって、水の電気分解に相当する反応を誘発することや還元剤の分解を促進することができると考えられ、発生した水酸化物イオンによって、上記金属酸化物膜形成用溶液のpHを上昇させ、金属酸化物膜の形成しやすい環境とすることができるからである。また、紫外線を照射することにより、上述した補助イオン源から水酸化物イオンを発生させることができる。さらに、紫外線を照射することによって、得られる金属酸化物膜の結晶性を向上させることもできる。
【0039】
本態様における紫外線の照射方法としては、基材表面と金属酸化物膜形成用溶液との接触部分に照射する方法であれば特に限定されるものではないが、例えば、上述した浸漬法を用いる場合は、図6に示すように、基材2を金属酸化物膜形成用溶液1に浸漬させ、溶液側から紫外線7を照射する方法等が挙げられる。この場合においては、基材表面と金属酸化物膜形成用溶液との接触部分に正確に紫外線を照射するという観点から、紫外線が照射される基材表面上に存在する金属酸化物膜形成用溶液の厚みは薄いことが好ましい。
また、本態様に用いられる紫外線の波長としては、通常、185〜470nmであり、中でも185〜260nmであることが好ましい。また、本態様に用いられる紫外線の強度としては、通常、1〜20mW/cmであり、中でも5〜15mW/cmであることが好ましい。
このような紫外線照射を行う紫外線照射装置としては、一般に市販されているUV光照射装置やレーザー発振装置等を使用することができるが、例えば、SEN特殊光源社製のHB400X−21等を挙げることができる。
【0040】
(3)加熱による成膜速度の向上
また、本発明においては、基材表面と金属酸化物膜形成用溶液とを接触させる際に、加熱を行うことが好ましい。加熱することにより、還元剤の分解反応を促進させることができ、成膜速度を向上させることができるからである。加熱を行う方法としては、金属酸化物膜の成膜速度を向上させることができる方法であれば特に限定されるものではないが、中でも基材を加熱することが好ましく、特に基材および金属酸化物膜形成用溶液を加熱することが好ましい。基材近傍での還元剤の分解反応を促進することができるからである。
このような加熱温度としては、使用する還元剤や基材の特徴に合わせて適宜選択することが好ましいが、具体的には50〜150℃の範囲内であることが好ましく、中でも70〜100℃の範囲内であることがより好ましい。
【0041】
4.金属酸化物膜
次に、本発明の金属酸化物膜の製造方法により得られる金属酸化物膜について説明する。本発明の金属酸化物膜の製造方法は、金属酸化物膜形成用溶液を用いるWetコートであるため、例えば、多孔質基材や、多孔質体等を有する基材場合であっても、金属酸化物膜形成用溶液が多孔質体等の内部に容易に侵入することができ、均一な金属酸化物膜を得ることができる。
また、本発明の金属酸化物膜の製造方法により得られる金属酸化物膜は、多孔質基材や、多孔質体等を有する、通常緻密な金属酸化物を得ることが難しい基材に対する下地層と考えることができ、この下地層として形成された金属酸化物を結晶核として、その後、任意の金属酸化物膜の製造方法を用いて上記結晶核を成長させることにより、多孔質体上等に緻密で充分な膜厚を有する金属酸化物膜を設けることができる。このような結晶核を成長させる方法としては、一般的な金属酸化物膜の製造方法を用いることができ、例えば、真空蒸着法、スパッタリング法、イオンプレーティング法等のPVD法、プラズマCVD、熱CVD、大気圧CVD等のCVD法等を挙げることができる。
なお、このような金属酸化物膜の製造方法を組み合わせて所望の緻密性および膜厚を有する金属酸化物膜を得る場合、本発明の金属酸化物膜の製造方法によって得られる金属酸化物膜は、基材の表面を完全に被覆し金属酸化物膜となっても良く、基材を部分的に被覆していても良い。上記基材を部分的に被覆している金属酸化物膜としては、例えば、多孔質基材の内部に海島状に存在している場合、平滑な基材表面上にパターン状に存在している場合等を挙げることができる。
【0042】
5.その他
また、本発明の金属酸化物膜の製造方法においては、上述した接触方法等により得られた金属酸化物膜の洗浄および乾燥を行っても良い。
上記金属酸化物膜の洗浄は、金属酸化物膜の表面等に存在する不純物を取り除くために行われるものであって、例えば、金属酸化物膜形成用溶液に使用した溶媒を用いて洗浄する方法等を挙げることができる。
また、上記金属酸化物膜の乾燥は、常温で放置することにより乾燥しても良いが、オーブン等の中で乾燥しても良い。
【0043】
なお、本発明は、上記実施形態に限定されるものではない。上記実施形態は、例示であり、本発明の特許請求の範囲に記載された技術的思想と実質的に同一な構成を有し、同様な作用効果を奏するものは、いかなるものであっても本発明の技術的範囲に包含される。
【実施例】
【0044】
以下、実施例を挙げて本発明を具体的に説明する。
【0045】
[実施例1]
<多孔質アルミナ粒子層へのITO膜形成>
ガラス基材上にアルミナ微粒子(マイクロン社製、粒径30μm)の20wt%溶液をバーコート法にて塗布し、500℃の温度で2時間焼成し、多孔質アルミナ粒子層を設けたガラス基材を得た。
次に、塩化インジウム0.03mol/lと塩化スズ0.001mol/lとの水溶液1000gに、還元剤であるボラン−トリメチルアミン錯体(関東化学社製)を0.1mol/lとなるように添加した。さらに、上記溶液に補助イオン源として塩素酸ナトリウム2gを添加し、金属酸化物膜形成用溶液を得た。
次に、上記方法により得られた基材を上記溶液に、温度70℃で12時間浸漬した。この時、上記金属酸化物膜形成用溶液を循環させ、フィルターを通すことで沈殿物や混入するゴミを排除した。その結果、上記基材上に金属酸化物膜を得た。その後、純水で洗浄し、100℃で1時間乾燥させ、さらに、350℃で1時間焼成した。
上記方法により得られた金属酸化物膜を、X線回折装置(リガク製、RINT−1500)を用いて測定したところ、ITO膜が形成していることを確認することができた。また、上記ITO膜を電子線マイクロアナライザー(JEOL社製、JXA−8900R)を用いて測定したところ、多孔質アルミナ粒子層表面のみならず、内部(ガラス基材接触部)にもITOが到達していることが確認された。また、多孔質アルミナ粒子層はITO膜によって完全に被覆されていることが確認された。
【0046】
[比較例1]
<CVD法による多孔質アルミナ粒子層への珪素酸化物膜形成>
実施例1に用いた多孔質アルミナ粒子層を設けたガラス基材を用い、CVD法を用いて多孔質アルミナ粒子層上に金属酸化物膜を得た。CVD法の条件は、印加電力1.0kW、成膜圧力40Pa、ヘキサメチルジシラザン流量40sccm、酸素ガス流量0.5slm、成膜基材表面温度(成膜温度)30℃であった。
上記方法により得られた金属酸化物膜を、上記X線回折装置を用いて測定したところ、珪素酸化物膜が形成していることを確認することができた。しなしながら、上記珪素酸化物膜を、上記電子線マイクロアナライザーを用いて測定したところ、多孔質アルミナ粒子層表面には珪素酸化物が存在していたが、多孔質アルミナ粒子層内部には存在せず、充分な形状追従性を示さなかった。また、多孔質アルミナ粒子層は珪素酸化物膜によって完全に被覆されていなかった。
【0047】
[実施例2]
<微細加工を施した銅基材への酸化ジルコニウム膜形成>
本実施例においては、微細加工を施した銅基材に酸化ジルコニウム膜を形成させることにより、耐食性の評価を行った。
まず、本実施例においては、エッチング法によって微細加工(穴:直径1mm、深さ50μm、溝:幅50μm、長さ10mm、深さ20μm)を施した銅(0.5mm厚)を基材とした。
次に、0.03mol/lの硝酸酸化ジルコニウム水溶液1000gに、還元剤であるボラン−ジメチルアミン錯体(関東化学社製、型番04886−35)を0.1mol/lとなるよう添加し、金属酸化物膜形成用溶液を得た。
次に、上記金属酸化物膜形成用溶液を温度70℃になるまで加熱し、温度70℃一定の下でナフロンバブラー(アズワン社製)を用いて空気の気泡を発生させた。この時、上記金属酸化物膜形成用溶液を循環させ、フィルターを通すことで沈殿物や混入するゴミを排除した。ここへ中性洗剤で超音波洗浄した上記基材を1時間浸漬し、上記基材上に金属酸化物膜を得た。その後、純水で洗浄し、80℃で1時間乾燥させ、さらに、500℃で1時間焼成した。
上記方法により得られた金属酸化物膜を、目視で確認したところ、基材両面および微細加工部に干渉色が観測される程度の膜が確認された。また、上記金属酸化物膜を、上記X線回折装置を用いて測定したところ、アモルファス膜であることが分かった。そこで、光電子分光分析装置(V.G.Scientific社製、ESCALAB 200i−XL)により、上記金属酸化物膜の組成を分析したところ、Zrが30.2Atomic%、Oが64.5Aotmic%となり、酸化ジルコニウム膜が形成していることを確認することができた。
【0048】
[比較例2]
<ディップコート法による微細加工を施した銅基材への酸化ジルコニウム膜形成>
本比較例においては、実施例2に用いた微細加工(穴:直径1mm、深さ50μm、溝:幅50μm、長さ10mm、深さ20μm)を施した銅(0.5mm厚)を基材とした。
次に、酸化ジルコニウム微粒子(ホソカワミクロン社製)の10%エタノール溶液を用意し、上記基材にディップコートにて塗布し、電気マッフル炉(デンケン社製、P90)によって、温度500℃で2時間焼成することにより、上記基材上に酸化ジルコニウム膜を得た。
上記方法により得られた酸化ジルコニウム膜を、ヨウ素(和光純薬)溶液中へ24時間浸漬したところ、未処理基材と同様、孔食腐食が確認され、充分な耐食性を示さなかった。
【0049】
[実施例3]
<微細加工を施したアクリル基材への酸化チタン膜形成>
本実施例においては、微細加工を施したアクリル基材に酸化チタン膜を形成させることにより、親水性を付与することを目的とした。
まず、本実施例においては、機械的に設けた微細加工(溝:幅500μm、長さ100mm、深さ50μm)を施したアクリル基材(5mm厚)を基材とした。
次に、水とイソプロピルアルコール(IPA)とトルエンとが4:4:1となるように調整した混合溶液1000gに、ジイソプロポキシチタンビス(エチルアセトアセテート)(松本製薬工業社製)が0.1mol/lとなるように溶解させ、次に、この溶液に還元剤としてボラン−硫化ジメチル錯体(関東化学社製)が0.1mol/lとなるように添加し、さらに、この溶液に亜硝酸ナトリウムを1g添加し、金属酸化物膜形成用溶液を得た。
次に、上記基材を80℃に保ち、上記金属酸化物膜形成用溶液を温度80℃一定の下でナフロンバブラー(アズワン社製)を用いて空気の気泡を発生させ、気泡を基材へ供給した。この時、上記金属酸化物膜形成用溶液を循環させ、フィルターを通すことで沈殿物や混入するゴミを排除した。さらに、このような基材に対して、紫外線照射装置(SEN特殊光源株式会社製、HB400X−21)を用いて紫外線強度80mW/cmで照射することにより、上記基材上に金属酸化物膜を得た。その後、純水で洗浄し、100℃で1時間乾燥させた。
上記金属酸化物膜を、上記X線回折装置を用いて測定したところ、酸化チタン膜が形成していることを確認することができた。また、上記酸化チタン膜の水の接触角を測定したところ、25°となり、親水性が確認された。なお、上記酸化チタン膜の水の接触角は、接触角測定器(協和界面科学(株)製CA−Z型)を用いて測定(マイクロシリンジから液滴を滴下して30秒後)した結果から得たものである。
【0050】
[実施例4]
本実施例においては、基材としてSUSを用い、SUS上に酸化ジルコニウム膜を形成した。まず、水80vol%およびイソプロピルアルコール(IPA)20vol%の混合溶媒に、金属源として塩化酸化ジルコニウム8水和物(ZrClO・8HO)を溶解させ、濃度0.06mol/lの溶液1000gを用意した。その後、上記溶液に、還元剤であるボラン−ジメチルアミン錯体(関東化学社製)を0.08mol/lとなるように添加した。
次に、上記金属酸化物膜形成用溶液を温度50℃一定の下で、上記基材を浸漬し、ナフロンバブラー(アズワン社製)を用いて空気の気泡を発生させ、気泡を基材へ供給した。この時、上記金属酸化物膜形成用溶液を循環させ、フィルターを通すことで沈殿物や混入するゴミを排除した。さらに、このような基材に対して、上記紫外線照射装置を用いて紫外線強度20mW/cmで照射することにより、上記基材上に金属酸化物膜を得た。その後、純水で洗浄し、100℃で1時間乾燥させた。
上記金属酸化物膜を、上記X線回折装置を用いて測定したところ、酸化ジルコニウム膜が形成していることを確認することができた。さらに、上記金属酸化物膜を、光電子分光分析装置(V.G.Scientific社製、ESCALAB 200i−XL)により測定した結果、酸化ジルコニウム膜が形成していることを確認できた。また、上記金属酸化物膜の膜厚を、走査型電子顕微鏡(SEM)を用いて測定したところ、200nmであった。
【0051】
[実施例5〜37]
実施例5〜37においては、下記表1および表2に示す実験条件で基材上に金属酸化物膜を形成した。なお、金属酸化物膜の形成方法および物性の測定方法は、実施例4に準じるものとする。
なお、ガラス/TiO基材とは、ガラス上にTiO微粒子をペースト状に塗布したものである。具体的な製造方法としては、まず、溶媒である水およびイソプロピルアルコールに、一次粒子20nmの酸化チタン微粒子(日本アエロジル社製、P25)37.5重量%、アセチルアセトン1.25重量%、ポリエチレングリコール(平均分子量3000)1.88重量%となるように添加し、ホモジナイザーを用いて上記試料が溶解、分散されたスラリーを作製した。このスラリーをドクターブレード法にてガラス基材上に塗布後、20分放置し、100℃で30分間乾燥させた。続いて、電気マッフル炉(デンケン社製、P90)を用い500℃で30分間、大気圧雰囲気下にて焼成した。これにより、多孔質酸化チタン膜付ガラス基材(ガラス/TiO基材)を得た。
【0052】
また、ガラス/ZrO基材の具体的な製造方法としては、まず、溶媒である水およびイソプロピルアルコールに、BET換算径37nmの酸化ジルコニウム微粒子(ホソカワミクロン社製)40重量%、エタノール1.5重量%、ポリエチレングリコール(平均分子量3000)1.88重量%となるように添加し、ホモジナイザーを用いて上記試料が溶解、分散されたスラリーを作製した。このスラリーをドクターブレード法にてガラス基材上に塗布後、20分放置し、100℃で15分間乾燥させた。続いて、電気マッフル炉(デンケン社製、P90)を用い500℃で60分間、大気圧雰囲気下にて焼成した。これにより、多孔質酸化ジルコニウム膜付ガラス基材(ガラス/ZrO基材)を得た。
【0053】
また、金属源として金属錯体を用いた実施例9および実施例11においては、溶媒として水70vol%、イソプロピルアルコール20vol%、およびトルエン10vol%の混合溶媒を使用した。同様に金属源として金属錯体を用いた実施例10においては、溶媒として水10vol%、イソプロピルアルコール70vol%、およびトルエン20vol%の混合溶媒を使用し、実施例12においては、溶媒としてイソプロピルアルコール70vol%およびトルエン30vol%の混合溶媒を使用した。
なお、実施例4〜37において、上述した実施例以外の実施例では、水80vol%およびイソプロピルアルコール20vol%の混合溶媒を使用した。
また、実施例6、7、13、31、32、35、36においては、光電子分光分析装置(V.G.Scientific社製、ESCALAB 200i−XL)により金属酸化物膜が形成されていることを確認できた。
また、実施例4〜37までの実験条件および結果を表1および表2に示す。
【0054】
【表1】

【0055】
【表2】

【図面の簡単な説明】
【0056】
【図1】本発明の金属酸化物膜の製造方法における成膜反応の一例を示す説明図である。
【図2】セリウムに対するpHと電位との関係を示す関係図(プールベ線図)である。
【図3】本発明の金属酸化物膜の製造方法の一例を示す説明図である。
【図4】本発明の金属酸化物膜の製造方法の他の例を示す説明図である。
【図5】本発明の金属酸化物膜の製造方法の他の例を示す説明図である。
【図6】本発明の金属酸化物膜の製造方法の他の例を示す説明図である。
【符号の説明】
【0057】
1 … 金属酸化物膜形成用溶液
2 … 基材
3 … 酸化セリウム膜
4、5 … ローラー
6 … ポンプ
7 … 紫外線

【特許請求の範囲】
【請求項1】
基材表面に、金属源として金属塩または金属錯体が溶解した金属酸化物膜形成用溶液を接触させることにより金属酸化物膜を得る金属酸化物膜の製造方法であって、
前記金属酸化物膜形成用溶液が還元剤を含有することを特徴とする金属酸化物膜の製造方法。
【請求項2】
前記基材表面と前記金属酸化物膜形成用溶液とを接触させる際に、酸化性ガスを混合することを特徴とする請求項1に記載の金属酸化物膜の製造方法。
【請求項3】
前記酸化性ガスが、酸素またはオゾンであることを特徴とする請求項2に記載の金属酸化物膜の製造方法。
【請求項4】
前記基材表面と前記金属酸化物膜形成用溶液とを接触させる際に、紫外線を照射することを特徴とする請求項1に記載の金属酸化物膜の製造方法。
【請求項5】
前記金属酸化物膜形成用溶液に用いられる金属源が、Mg、Al、Si、Ca、Ti、V、Mn、Fe、Co、Ni、Cu、Zn、Y、Zr、Ag、In、Sn、Ce、Sm、Pb、La、Hf、Sc、Gd、およびTaからなる群から選択される少なくとも一つの金属元素を含有することを特徴とする請求項1から請求項4までのいずれかの請求項に記載の金属酸化物膜の製造方法。
【請求項6】
前記金属酸化物膜形成用溶液が、塩素酸イオン、過塩素酸イオン、亜塩素酸イオン、次亜塩素酸イオン、臭素酸イオン、次臭素酸イオン、硝酸イオン、および亜硝酸イオンからなる群から選択される少なくとも一つのイオン種を含有することを特徴とする請求項1から請求項5までのいずれかの請求項に記載の金属酸化物膜の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2006−161156(P2006−161156A)
【公開日】平成18年6月22日(2006.6.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−326636(P2005−326636)
【出願日】平成17年11月10日(2005.11.10)
【出願人】(000002897)大日本印刷株式会社 (14,506)
【Fターム(参考)】