説明

金属酸化薄膜及びその製造方法

【課題】膜密度及び膜硬度が高い金属酸化薄膜及び製膜速度の速いその製造方法を提供することにある。
【解決手段】大気圧または大気圧近傍の圧力下において、対向する2種の電極間に高周波電圧を印加して反応空間に放電させることにより、反応性ガスをプラズマ状態とし、基材を前記プラズマ状態の反応性ガスに晒すことによって、前記基材上に金属酸化薄膜を形成する金属酸化薄膜の製造方法において、前記反応空間に酸解離定数pKaが3.5以下の酸を導入することを特徴とする金属酸化薄膜の製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、金属酸化薄膜及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
LSI、半導体、表示デバイス、磁気記録デバイス、光電変換デバイス、ジョセフソンデバイス、太陽電池、光熱変換デバイス、タッチパネル等の各種製品には、基材上に高機能性の金属酸化薄膜を設けた材料が多数用いられている。これら高機能性の金属酸化薄膜とは、例えば、反射防止膜、ガスバリア膜、防汚膜、透明導電膜、誘電体保護膜、半導体膜、透明導電膜、エレクトロクロミック膜、蛍光膜、超伝導膜、誘電体膜、太陽電池膜、耐摩耗性膜、光学干渉膜、反射膜、帯電防止膜、導電膜、ハードコート膜、下引き膜、バリア膜、電磁波遮蔽膜、赤外線遮蔽膜、紫外線吸収膜、潤滑膜、形状記憶膜、磁気記録膜、発光素子膜、生体適合膜、耐食性膜、触媒膜、ガスセンサ膜、装飾膜等である。
【0003】
従来、このような高機能性の薄膜を得るには、湿式塗布法と乾式製膜法(物理的気相成長法、化学的気相成長法)がある。
【0004】
湿式塗布法は、生産性が高い点で有用であるが、薄膜を構成する材料を溶媒に溶解あるいは分散した塗布液としなければならないため、当該溶媒が薄膜中に残存したり、膜厚の均一性を保つことが難しい等、高機能の薄膜形成には向いているとは言えない。また、塗布後の乾燥工程において、塗布液から蒸発した有機溶剤等の溶媒が環境に負荷を与えるという問題も含んでいる。
【0005】
湿式塗布法の一つであるゾルゲル法は、溶媒に溶解した有機金属化合物を加水分解し、基材上に塗布した後に乾燥させることで薄膜を得る手法である。しかし、揮発して行く溶媒が通るミクロなボイドが形成されるために膜密度は低く、このようなミクロボイドをなくすためには高温で焼結させる必要があり、プラスチック基材上に膜密度の高い膜を得ることは難しい。
【0006】
これに対し、真空を用いる乾式製膜法は、高精度の薄膜が形成できるため、高機能性の薄膜を形成するには好ましい方法である。
【0007】
乾式製膜法の一つである物理的気相成長法(PVD法)は、さらに真空蒸着法、スパッタ法、イオンプレーティング法等に分けることができる。真空蒸着法は、電子ビーム照射、抵抗加熱、誘導加熱等の手法によって薄膜材料を高真空下で加熱し、揮発した微小な薄膜材料のクラスターが基材上にデポジットするという手法である。スパッタ法は、高真空下でアルゴン等の希ガスのイオンを薄膜材料のターゲットに高速で入射し、弾性衝突によってはじき出された微小な薄膜材料のクラスターが基材上にデポジットするという手法である。またイオンプレーティング法とは、高真空下で帯電した薄膜材料の微小なクラスターを発生させ、逆電荷に帯電させた基材上にデポジットさせるという手法である。これらのPVD法はいずれも高真空条件が必要であり、薄膜を構成する材料は薄膜材料ターゲットから直線的に飛来してくるため、被覆性が悪く、また膜に堆積規則性が発生し、クラックの発生しやすい膜となるという問題がある。
【0008】
乾式製膜法の他の一つである化学的気相成長法(CVD法)は、薄膜を構成する原料を含有する化合物を基材近傍に揮発させた後、熱や光、プラズマ等によって化学反応を誘起し、生成したセラミックスを基材上にデポジットさせるという手法である。原料化合物に化学反応を引き起こすエネルギーを与える方法によって、それぞれ熱CVD・光CVD・プラズマCVD等に分類される。
【0009】
熱CVDでは通常500℃以上の温度が必要であり、また光CVDは原料化合物の設計が難しいこと等から、プラスチック基材上への製膜はほとんどがプラズマCVD法によって行われている。
【0010】
CVD法では、ラジカル等化学的に活性な化合物が生成するために基材との密着性が高く、また分子間の衝突によって化学反応が起こるために薄膜を構成する材料の飛来に方向性がなく、被覆性の高い膜が得られる。
【0011】
しかし、乾式製膜法に用いる真空装置は、被処理基材が大きくなると、装置が非常に大型化し、値段も高額になる他、真空排気にも膨大に時間を費やし、生産性が上げられないというデメリットが大きい。
【0012】
従って、高機能の薄膜を基材上に製膜しうる手法は、事実上PVD法とプラズマCVD法に限られる。さらに得られる膜質を考慮するとプラズマCVD法が最も好ましい手段である。
【0013】
上記、塗布による高機能な薄膜が得にくいデメリット、及び、真空装置を用いることによる低生産性のデメリットを克服する方法として、大気圧または大気圧近傍の圧力下で放電し、反応性ガスをプラズマ励起し、基材上に薄膜を形成する方法が、特開平11−133205号、特開2000−185362号、特開平11−61406号、特開2000−147209号、同2000−121804号等に記載されている(以下、大気圧プラズマ法とも称する)。
【0014】
しかし、大気圧プラズマ法は湿式塗布法に比べ、製膜速度が遅いという問題があった。これに対し、特許文献1では、対向する電極間に100kHzを越える高周波電圧で、かつ、1W/cm以上の電力を供給し、反応性ガスを励起してプラズマを発生させ、このようなハイパワーの電界を印加することによって、高機能性の薄膜を早い製膜速度で得られることが記載されている。特許文献2では、原料ガス導入部の両側に複数の放電処理部を併設して製膜速度を上げ、特許文献3では、放電区間を二つ設け、二つの放電区間で原料ガスを分解して、原料ガスの分解を促進することで、製膜速度を上げ、かつ、製膜収率(原料化合物の消費量に対する製膜量の比)を向上することが記載されている。
【0015】
これらの技術では、製膜速度は向上したが、製膜速度の増大に伴い、膜密度及び膜硬度が低下するという問題が発生し、膜密度及び膜硬度が高い金属酸化薄膜及び製膜速度の速い製造方法が要望されていた。
【特許文献1】国際公開第02/048428号パンフレット
【特許文献2】特開2005−150474号公報
【特許文献3】特開2005−200710号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0016】
本発明は、上記課題に鑑みなされたものであり、その目的は、膜密度及び膜硬度が高い金属酸化薄膜及び製膜速度の速い製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0017】
本発明の上記課題は、以下の構成により達成される。
【0018】
1.大気圧または大気圧近傍の圧力下において、対向する2種の電極間に高周波電圧を印加して反応空間に放電させることにより、反応性ガスをプラズマ状態とし、基材を前記プラズマ状態の反応性ガスに晒すことによって、前記基材上に金属酸化薄膜を形成する金属酸化薄膜の製造方法において、前記反応空間に酸解離定数pKaが3.5以下の酸を導入することを特徴とする金属酸化薄膜の製造方法。
【0019】
2.前記反応空間に1〜15体積%の水を導入することを特徴とする前記1に記載の金属酸化薄膜の製造方法。
【0020】
3.前記酸の水溶液を揮発させることにより、反応空間に酸を導入することを特徴とする前記1または2に記載の金属酸化薄膜の製造方法。
【0021】
4.前記酸の水溶液を噴霧することにより、反応空間に酸を導入することを特徴とする前記1または2に記載の金属酸化薄膜の製造方法。
【0022】
5.前記酸が、硝酸、亜硝酸、塩酸、塩素酸、亜塩素酸、硫酸、亜硫酸及びリン酸から選択される酸であることを特徴とする前記1〜4のいずれか1項に記載の金属酸化薄膜の製造方法。
【0023】
6.放電ガスが窒素であることを特徴とする前記1〜5のいずれか1項に記載の金属酸化薄膜の製造方法。
【0024】
7.前記高周波電圧の周波数が1kHz〜2500MHzで、かつ供給電力が1〜50W/cmであることを特徴とする前記1〜6のいずれか1項に記載の金属酸化薄膜の製造方法。
【0025】
8.前記高周波電圧が、1kHz〜1MHzの高周波電圧と、1MHz〜2500MHzの高周波電圧を重畳したものであることを特徴とする前記7に記載の金属酸化薄膜の製造方法。
【0026】
9.前記プラズマ状態の反応性ガスに晒す時の基材温度が80〜200℃であることを特徴とする前記1〜8のいずれか1項に記載の金属酸化薄膜の製造方法。
【0027】
10.前記反応空間に酸化性ガスを導入することを特徴とする前記1〜9のいずれか1項に記載の金属酸化薄膜の製造方法。
【0028】
11.前記酸化性ガスが1〜20体積%の酸素であることを特徴とする前記10に記載の金属酸化薄膜の製造方法。
【0029】
12.前記1〜11のいずれか1項に記載の金属酸化薄膜の製造方法により得られたことを特徴とする金属酸化薄膜。
【0030】
13.前記金属酸化薄膜が、Al、Si、Ti、V、Fe、Ni、Cu、Zn、Y、Nb、Mo、In、Ta、Ir、Sn及びWから選択される金属を含むことを特徴とする前記12に記載の金属酸化薄膜。
【発明の効果】
【0031】
本発明によれば、膜密度及び膜硬度が高い金属酸化薄膜及び製膜速度の速い製造方法を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0032】
本発明者は、上記課題に鑑み鋭意検討を行った結果、大気圧または大気圧近傍の圧力下において、対向する2種の電極間に高周波電圧を印加して反応空間に放電させることにより、反応性ガスをプラズマ状態とし、基材を前記プラズマ状態の反応性ガスに晒すことによって、前記基材上に金属酸化薄膜を形成する金属酸化薄膜の製造方法において、前記反応空間に酸解離定数pKaが3.5以下の酸を導入する金属酸化薄膜の製造方法により、密度及び膜硬度が高い金属酸化薄膜が高速で得られることを見出し、本発明に至った次第である。
【0033】
このような効果が発現されるのは、次のように考えている。
【0034】
反応性ガスの原料ガスとしてテトラエトキシシラン(TEOS)を用い、酸を用いずに製膜した場合(従来法)、形成された酸化珪素膜表面近傍(内部)を光電子分光法(ESCA)、オージェ電子分光法(Auger)、2次イオン質量分析法(SIMS)や拡散反射FI−IR等を用いて複合表面分析すると、酸化珪素表面近傍(内部)にOH基が確認された。図1の(A)参照。
【0035】
一方、反応性ガスの原料ガスとしてテトラエトキシシラン(TEOS)を用い、酸解離定数pKaが3.5以下の酸を用いて製膜した場合(本発明)、形成された酸化珪素表面近傍(内部)を同様に複合表面分析すると、酸化珪素膜表面近傍(内部)にOH基がほとんど検出されなかった。図1の(B−2)参照。
【0036】
従来法では、シラノール基の脱水縮合速度が、基材または堆積した酸化珪素の上への堆積速度より遅いため、酸化珪素膜内部にOH基が残存し、これが、膜密度及び膜硬度の低下の原因と推察される。本発明の場合には、反応空間中に導入した酸がH(H)を発生させ、これが触媒となり膜表面の脱水縮合反応を促進するため、脱水縮合速度が堆積速度と同じまたは早くなり、酸化珪素膜内部にOH基が残存しないものと推察される。図1の(B−1)参照。
【0037】
また、プラズマ放電処理装置から排出されているガスを捕集し、TOF−SIMSによって分析したところ、従来法では、未分解のSi−OCHCH等の基を有する成分が多数残存し、本発明の場合にはこれが少ないことが示唆される結果が得られた。これらの結果は、本発明の場合には反応空間中に導入した酸が原料ガスの分解を促進し、堆積速度(製膜速度)の向上に寄与しているものと推察される。
【0038】
以下、本発明を詳細に説明する。
【0039】
《pKaが3.5以下の酸》
本発明は、反応空間に酸解離定数pKaが3.5以下の酸を導入することが特徴である。pKaが小さい酸ほど反応空間中でプロトンを発生しやすい。なお、単に水素ガスの添加では、ラジカルが発生するだけで脱水縮合反応を促進することはない。
【0040】
pK値とは、平衡常数をKとしたとき、pK=−log10Kで定義される数値であり、この時pはべきを意味し、pKの値が小さいほど酸として強いことを示す。例えば、酸、塩基の解離の場合、塩基の電離定数をKb、その共役酸の電離定数をKaとしたとき、水のイオン積をKwとすると、Kb=Kw/Kaで表され、25℃でKw=1×1014として、pKb=14−pKaとなる。
【0041】
本発明に用いられる酸はpKaが3.5以下の酸(強酸)であることが特徴の1つであり、好ましくはpKaが3.0〜−10.0、より好ましくは2.0〜−8.5の強酸である。
【0042】
本発明に係るpKaが3.5以下の酸(強酸)としては、「緩衝剤の選択と応用水素イオン・金属イオン」(D.D.ペリン,B.デンプシー著、辻啓一訳、講談社サイエンティフィック)及び「ランゲの化学ハンドブック」(Lamge’s Handbookof Chemistry,11th Edition Edited byJohn A.Dean.McCGRAW HILL BOOK COMPANY,1973)に記載の化合物、あるいはPergamon Press社発行のIONISATION CONSTANTSOF ORGANIC ACIDS IN AQUEOUS SOLUTION、「化学便覧 基礎編」(日本化学会編 丸善)の1054〜1058頁に記載の「弱酸、弱塩基及び両性電解質の解離定数」等に記載されているものから適宜選択することができる。
【0043】
例えば、硝酸、亜硝酸、塩酸、塩素酸、亜塩素酸、硫酸、亜硫酸及びリン酸から選択される酸が好ましく、特に硝酸が好ましい。これらの酸は解離定数が大きく、かつ炭素を含まないので、金属酸化薄膜(以下単に薄膜ともいう)が炭素でコンタミされない。薄膜中に炭素が残るとダングリングボンドを形成して膜密度が低下することがある。
【0044】
反応空間に水を導入すると、上記酸がHの形で遊離しやすくなり好ましい。水の量は、酸と同体積以上、または反応空間の1〜15体積%であることが好ましい。
【0045】
反応空間に酸を導入するには、前記酸の水溶液を揮発させることにより、または前記酸の水溶液を噴霧することにより、反応空間に酸を導入することが好ましい。この方法では、反応空間に、酸と同時に水を導入することができる。
【0046】
図2は、酸を含有する液体を液滴として、反応空間に供給する場合に用いられる超音波噴霧器の概略図である。これにより微小液滴(液滴)を形成することができる。図2中、1は超音波噴霧器、2は窒素ガスを導入する導入管、3は液滴原料としての酸を含有する液体を貯留する液体貯留部、4は超音波発生部、5は超音波発生部4に接続された電源、6は発生した液滴を放出する放出管である。導入管2から液体貯留部3に窒素ガスを導入し、かつ、電源5をONすることにより超音波発生部4から超音波を発生させると、液滴が発生する。このようにして発生した液滴は、放出管6を通って超音波噴霧器1外へ放出され、図示しない大気圧プラズマ装置の反応空間に導入される。
【0047】
《大気圧プラズマ法》
次いで、本発明に係る大気圧プラズマ法について説明する。
【0048】
本発明に係る金属酸化薄膜からなる反射防止膜やバリア膜、またこれらの積層体の形成には大気圧プラズマ法が用いられる。
【0049】
大気圧プラズマ法は、例えば、特開平10−154598号公報や特開2003−49272号公報、国際公開第02/048428号パンフレット等に記載されているが、特に、特開2004−68143号公報に記載されている薄膜形成方法が、膜密度及び膜硬度の高い金属酸化薄膜を形成するには好ましい。また、ロール状の元巻きからウエブ状の基材を繰り出して、組成の異なる金属酸化薄膜を連続的に形成することができる。
【0050】
本発明に係る上記の大気圧プラズマ法は、大気圧もしくはその近傍の圧力下で行われるプラズマCVD法であり、大気圧もしくはその近傍の圧力とは20〜110kPa程度であり、本発明に記載の良好な効果を得るためには、93〜104kPaが好ましい。
【0051】
本発明における放電条件は、高周波電圧の周波数が1kHz〜2500MHzで、かつ供給電力が1〜50W/cmであることが好ましい。周波数が50kHz以上で、かつ供給電力が5W/cm以上であることがより好ましい。周波数が高く、供給電力が大きい程原料の分解が進み、膜密度及び膜硬度が高い金属酸化薄膜が得られる。原料の分解が進むと、OH基を有する成分が反応空間中に増え、酸を導入する効果をより効果的に得ることができる。また、未分解のSi−OCHCH等の基を有する成分が残存すると、薄膜中に炭素がコンタミし、ダングリングボンドを形成して膜密度が低下することがある。
【0052】
本発明における放電条件は、放電空間に異なる周波数の電界を2つ以上印加し、重畳したものがより好ましい。これによりプラズマ密度が高くなり、膜密度及び膜硬度が高い金属酸化薄膜が得られる。2つの電界は高周波電圧が、1kHz〜1MHzの高周波電圧と、1MHz〜2500MHzの高周波電圧を重畳したものが好ましい。
【0053】
高周波とは、少なくとも0.5kHzの周波数を有するものを言う。
【0054】
本発明において、放電開始電界の強さとは、実際の薄膜形成方法に使用される放電空間(電極の構成等)及び反応条件(ガス条件等)において放電を起こすことのできる最低電界強度のことを指す。放電開始電界強度は、放電空間に供給されるガス種や電極の誘電体種または電極間距離等によって多少変動するが、同じ放電空間においては、放電ガスの放電開始電界強度に支配される。
【0055】
上記で述べたような高周波電界を放電空間に印加することによって、薄膜形成可能な放電を起こし、高品位な薄膜形成に必要な高密度プラズマを発生することができると推定される。
【0056】
上記でサイン波等の連続波の重畳について説明したが、これに限られるものではなく、両方パルス波であっても、一方が連続波でもう一方がパルス波であってもかまわない。また、さらに周波数の異なる第3の電界を有していてもよい。
【0057】
また、第1電極、第1電源またはそれらの間のいずれかには第1フィルタを、また第2電極、第2電源またはそれらの間のいずれかには第2フィルタを接続することが好ましい。
【0058】
また、第1の高周波電界の出力密度を高くすることで、さらなる均一高密度プラズマが生成でき、さらなる製膜速度の向上と、膜質の向上が両立できる。
【0059】
上記の大気圧プラズマ放電処理装置には、対向電極間に、放電ガスと薄膜形成ガスとを供給するガス供給手段、及び反応空間への酸の導入手段を備える。さらに、電極の温度を制御する電極温度制御手段を有することが好ましい。
【0060】
本発明に用いられる大気圧プラズマ放電処理装置は、上述のように、対向電極の間で放電させ、前記対向電極間に導入したガス及び酸をプラズマ状態とし、前記対向電極間に静置あるいは電極間を移送される基材を該プラズマ状態のガスに晒すことによって、該基材の上に薄膜を形成させるものである。また他の方式として、大気圧プラズマ放電処理装置は、上記同様の対向電極間で放電させ、該対向電極間に導入したガスを励起しまたはプラズマ状態とし、酸とともに該対向電極外にジェット状に励起またはプラズマ状態のガスを吹き出し、該対向電極の近傍にある基材(静置していても移送されていてもよい)を晒すことによって該基材の上に薄膜を形成させるジェット方式の装置がある。
【0061】
図3は、本発明に有用なジェット方式の大気圧プラズマ放電処理装置の一例を示した概略図である。
【0062】
ジェット方式の大気圧プラズマ放電処理装置は、プラズマ放電処理装置、二つの電源を有する電界印加手段の他に、図3では図示してない(後述の図4に図示してある)が、ガス供給手段、酸導入手段、電極温度調節手段を有している装置である。
【0063】
プラズマ放電処理装置10は、第1電極11と第2電極12から構成されている対向電極を有しており、該対向電極間に、第1電極11からは第1電源21からの周波数ω1の高周波電界が印加され、また第2電極12からは第2電源22からの周波数ω2の高周波電界が印加されるようになっている。
【0064】
第1電極11と第2電極12との対向電極間(放電空間)13に、後述の図4に図示してあるようなガス供給手段から前述した薄膜形成ガスGを導入し、第1電源21と第2電源22により第1電極11と第2電極12間に、前述した高周波電界を印加して放電を発生させ、前述した薄膜形成ガスGをプラズマ状態にしながら対向電極の下側(紙面下側)にジェット状に吹き出させて、対向電極下面と基材Fとで作る処理空間をプラズマ状態のガスG°で満たし、図示してない基材の元巻き(アンワインダー)から巻きほぐされて搬送して来るか、あるいは前工程から搬送して来る基材Fの上に、処理位置14付近で薄膜を形成させる。酸の導入手段は、図示しないが、薄膜形成ガスGとあらかじめ混合して加えてもよいし、第1、第2電極と基材の間の空間に直接供給してもよい。薄膜形成中、後述の図3に図示してあるような電極温度調節手段から媒体が配管を通って電極を加熱または冷却する。プラズマ放電処理の際の基材の温度によっては、得られる薄膜の物性や組成等は変化することがあり、これに対して適宜制御することが望ましい。温度調節の媒体としては、蒸留水、油等の絶縁性材料が好ましく用いられる。プラズマ放電処理の際、基材の幅手方向あるいは長手方向での温度ムラができるだけ生じないように電極の内部の温度を均等に調節することが望まれる。
【0065】
ジェット方式の大気圧プラズマ放電処理装置を、基材Fの搬送方向と平行に複数台並べ、同時に同じプラズマ状態のガスを放電させることにより、同一位置に複数層の薄膜を形成可能となり、短時間で所望の膜厚を形成可能となる。また基材Fの搬送方向と平行に複数台並べ、各装置に異なる薄膜形成ガスを供給して異なったプラズマ状態のガスをジェット噴射すれば、異なった層の積層薄膜を形成することもできる。
【0066】
図4は本発明に有用な対向電極間で基材を処理する方式の大気圧プラズマ放電処理装置の一例を示す概略図である。
【0067】
本発明の大気圧プラズマ放電処理装置は、少なくとも、プラズマ放電処理装置30、二つの電源を有する電界印加手段40、ガス供給手段50、電極温度調節手段60、酸導入手段70を有している装置である。
【0068】
ロール回転電極(第1電極)35と固定電極群(第2電極)36との対向電極間32(以下対向電極間を放電空間32とも記す)で、基材Fをプラズマ放電処理して薄膜を形成するものである。
【0069】
ロール回転電極35と固定電極群36との間に形成された放電空間32に、ロール回転電極35には第1電源41から周波数ω1の高周波電界を、また固定電極群36には第2電源42から周波数ω2の高周波電界をかけるようになっている。
【0070】
なお、本発明においては、ロール回転電極35を第2電極、また固定電極群36を第1電極としてもよい。
【0071】
ガス供給手段50のガス発生装置51で発生させた薄膜形成ガスGは、不図示のガス流量調整手段により流量を制御して給気口52よりプラズマ放電処理容器31内に導入する。酸は酸導入手段70より供給する。
【0072】
基材Fを、図示されていない元巻きから巻きほぐして搬送されて来るか、または前工程から矢印方向に搬送されて来て、ガイドロール64を経てニップロール65で基材に同伴されて来る空気等を遮断し、ロール回転電極35に接触したまま巻き回しながら固定電極群36との間に移送する。
【0073】
移送中にロール回転電極35と固定電極群36との両方から電界をかけ、対向電極間(放電空間)32で放電プラズマを発生させる。基材Fはロール回転電極35に接触したまま巻き回されながらプラズマ状態のガスにより薄膜を形成する。
【0074】
なお、固定電極の数は、上記ロール電極の円周より大きな円周上に沿って複数本設置されており、該電極の放電面積はロール回転電極35に対向している全ての固定電極のロール回転電極35と対向する面の面積の和で表される。
【0075】
基材Fは、ニップロール66、ガイドロール67を経て、図示してない巻き取り機で巻き取るか、次工程に移送する。
【0076】
放電処理済みの処理排ガスG′は排気口53より排出する。
【0077】
薄膜形成中、ロール回転電極35及び固定電極群36を加熱または冷却するために、電極温度調節手段60で温度を調節した媒体を、送液ポンプPで配管61を経て両電極に送り、電極内側から温度を調節する。なお、68及び69はプラズマ放電処理容器31と外界とを仕切る仕切板である。
【0078】
図5は、図4に示したロール回転電極の導電性の金属質母材とその上に被覆されている誘電体の構造の一例を示す斜視図である。
【0079】
図5において、ロール電極35aは導電性の金属質母材35Aとその上に誘電体35Bが被覆されたものである。プラズマ放電処理中の電極表面温度を制御し、また、基材Fの表面温度を所定値に保つため、温度調節用の媒体(水もしくはシリコンオイル等)が循環できる構造となっている。
【0080】
図6は、固定電極の導電性の金属質母材とその上に被覆されている誘電体の構造の一例を示す斜視図である。
【0081】
図6において、固定電極36aは、導電性の金属質母材36Aに対し、図4同様の誘電体36Bの被覆を有している。
【0082】
図6に示した固定電極36aは、特に限定されず、円筒型電極でも角筒型電極でもよい。
【0083】
図5及び図6において、ロール電極35a及び固定電極36aは、それぞれ導電性の金属質母材35A及び36Aの上に誘電体35B及び36Bとしてのセラミックスを溶射したものである。セラミックス誘電体は片肉で1mm程度被覆あればよい。溶射に用いるセラミックス材としては、アルミナ・窒化珪素等が好ましく用いられるが、この中でもアルミナが加工しやすいので、特に好ましく用いられる。また、誘電体層が、ライニングにより無機材料を設けたライニング処理誘電体であってもよい。
【0084】
導電性の金属質母材35A及び36Aとしては、チタン金属またはチタン合金、銀、白金、ステンレススティール、アルミニウム、鉄等の金属等や、鉄とセラミックスとの複合材料またはアルミニウムとセラミックスとの複合材料を挙げることができる。
【0085】
対向する第1電極及び第2の電極の電極間距離は、電極の一方に誘電体を設けた場合、該誘電体表面ともう一方の電極の導電性の金属質母材表面との最短距離のことを言う。双方の電極に誘電体を設けた場合、誘電体表面同士の距離の最短距離のことを言う。電極間距離は、導電性の金属質母材に設けた誘電体の厚さ、印加電界強度の大きさ、プラズマを利用する目的等を考慮して決定されるが、いずれの場合も均一な放電を行う観点から0.1〜20mmが好ましく、特に好ましくは0.5〜2mmである。
【0086】
プラズマ放電処理容器31はパイレックス(登録商標)ガラス製の処理容器等が好ましく用いられるが、電極との絶縁がとれれば金属製を用いることも可能である。例えば、アルミニウムまたは、ステンレススティールのフレームの内面にポリイミド樹脂等を張り付けてもよく、該金属フレームにセラミックス溶射を行い、絶縁性をとってもよい。図3において、平行した両電極の両側面(基材面近くまで)を上記のような材質の物で覆うことが好ましい。
【0087】
本発明の大気圧プラズマ放電処理装置に設置する第1電源(高周波電源)としては、神鋼電機社製SPG5−4500(5kHz)、春日電機製AGI−023(15kHz)、ハイデン研究所製PHF−6k(100kHz*)、パール工業製CF−2000−200k(200kHz)等の市販のものを挙げることができ、何れも使用することができる。
【0088】
また、第2電源(高周波電源)としては、パール工業製CF−2000−800k(800kHz)、同CF−5000−13M(13.56MHz)、同CF−2000−150M(150MHz)等の市販のものを挙げることができ、何れも好ましく使用できる。
【0089】
なお、上記電源のうち、*印はハイデン研究所インパルス高周波電源(連続モードで100kHz)である。それ以外は連続サイン波のみ印加可能な高周波電源である。
【0090】
本発明においては、このような電界を印加して、均一で安定な放電状態を保つことができる電極を大気圧プラズマ放電処理装置に採用することが好ましい。
【0091】
本発明において、対向する電極間に印加する電力は、第2電極(第2の高周波電界)に1W/cm以上の電力(出力密度)を供給し、放電ガスを励起してプラズマを発生させ、エネルギーを薄膜形成ガスに与え、薄膜を形成する。第2電極に供給する電力の上限値としては、好ましくは50W/cm、より好ましくは20W/cmである。下限値は、好ましくは1.2W/cmである。なお、放電面積(cm)は、電極間において放電が起こる範囲の面積のことを指す。
【0092】
また、第1電極(第1の高周波電界)にも、1W/cm以上の電力(出力密度)を供給することにより、第2の高周波電界の均一性を維持したまま、出力密度を向上させることができる。これにより、さらなる均一高密度プラズマを生成でき、さらなる製膜速度の向上と膜質の向上が両立できる。好ましくは5W/cm以上である。第1電極に供給する電力の上限値は、好ましくは50W/cmである。
【0093】
ここで高周波電界の波形としては、特に限定されない。連続モードと呼ばれる連続サイン波状の連続発振モードと、パルスモードと呼ばれるON/OFFを断続的に行う断続発振モード等があり、そのどちらを採用してもよいが、少なくとも第2電極側(第2の高周波電界)は連続サイン波の方がより緻密で良質な膜が得られるので好ましい。
【0094】
《金属酸化薄膜形成材料》
次に、金属酸化物薄膜を得るために好ましい原料ガスについて説明する。
【0095】
金属酸化物薄膜の原料としては、常温常圧下で気体、液体、固体いずれの状態であっても構わない。気体の場合にはそのまま放電空間に導入できるが、液体、固体の場合は、加熱、バブリング、減圧、超音波照射、気化器等の手段により気化させて使用する。また、溶媒によって希釈して使用してもよく、溶媒は、メタノール,エタノール,n−ヘキサン等の有機溶媒及びこれらの混合溶媒が使用できる。なお、これらの希釈溶媒は、プラズマ放電処理中において、分子状、原子状に分解されるため、影響はほとんど無視することができる。
【0096】
しかし、好ましくは大気圧下0〜250℃の温度域で蒸気圧を有する有機金属化合物であり、さらに好ましくは0〜250℃の温度域に液体状態を呈する有機金属化合物である。これはプラズマ製膜室内が大気圧近傍の圧力であるために、大気圧下で気化できないとプラズマ製膜室内にガスを送り込むことが難しいためである。また、原料化合物が液体の方が、プラズマ製膜室内に送りこむ量を精度良く管理できるためである。特に原料化合物が液体である場合は気化器を用いることができ、気化器では液体から直接気化することができ、±1%の精度で気化量を管理できる。なお金属酸化薄膜を製膜する基材の耐熱性が270℃以下の場合は、基材耐熱温度からさらに20℃以下の温度で蒸気圧を有する化合物であることが好ましい。
【0097】
このような有機金属化合物としては、例えばケイ素を含有する化合物としては、シラン、テトラメトキシシラン、テトラエトキシシラン、テトラn−プロポキシシラン、テトライソプロポキシシラン、テトラn−ブトキシシラン、テトラt−ブトキシシラン、ジメチルジメトキシシラン、ジメチルジエトキシシラン、ジエチルジメトキシシラン、ジフェニルジメトキシシラン、メチルトリエトキシシラン、エチルトリメトキシシラン、フェニルトリエトキシシラン、(3,3,3−トリフルオロプロピル)トリメトキシシラン、ヘキサメチルジシロキサン、ビス(ジメチルアミノ)ジメチルシラン、ビス(ジメチルアミノ)メチルビニルシラン、ビス(エチルアミノ)ジメチルシラン、N,O−ビス(トリメチルシリル)アセトアミド、ビス(トリメチルシリル)カルボジイミド、ジエチルアミノトリメチルシラン、ジメチルアミノジメチルシラン、ヘキサメチルジシラザン、ヘキサメチルシクロトリシラザン、ヘプタメチルジシラザン、ノナメチルトリシラザン、オクタメチルシクロテトラシラザン、テトラキスジメチルアミノシラン、テトライソシアナートシラン、テトラメチルジシラザン、トリス(ジメチルアミノ)シラン、トリエトキシフルオロシラン、アリルジメチルシラン、アリルトリメチルシラン、ベンジルトリメチルシラン、ビス(トリメチルシリル)アセチレン、1,4−ビストリメチルシリル−1,3−ブタジイン、ジ−t−ブチルシラン、1,3−ジシラブタン、ビス(トリメチルシリル)メタン、シクロペンタジエニルトリメチルシラン、フェニルジメチルシラン、フェニルトリメチルシラン、プロパルギルトリメチルシラン、テトラメチルシラン、トリメチルシリルアセチレン、1−(トリメチルシリル)−1−プロピン、トリス(トリメチルシリル)メタン、トリス(トリメチルシリル)シラン、ビニルトリメチルシラン、ヘキサメチルジシラン等が挙げられる。
【0098】
また、チタンを含有する化合物としては、例えば、チタンメトキシド、チタンエトキシド、チタンイソプロポキシド、チタンn−ブトキシド、チタンジイソプロポキシド(ビス−2,4−ペンタンジオネート)、チタンジイソプロポキシド(ビス−2,4−エチルアセトアセテート)、チタンジ−n−ブトキシド(ビス−2,4−ペンタンジオネート)、チタンアセチルアセトネート、ブチルチタネートダイマー等が挙げられる。
【0099】
また、ジルコニウムを含有する化合物としては、ジルコニウムn−プロポキシド、ジルコニウムn−ブトキシド、ジルコニウムt−ブトキシド、ジルコニウムトリ−n−ブトキシドアセチルアセトネート、ジルコニウムジ−n−ブトキシドビスアセチルアセトネート、ジルコニウムアセチルアセトネート、ジルコニウムアセテート、ジルコニウムヘキサフルオロペンタンジオネート等が挙げられる。
【0100】
また、アルミニウムを含有する化合物としては、アルミニウムエトキシド、アルミニウムイソプロポキシド、アルミニウムn−ブトキシド、アルミニウムs−ブトキシド、アルミニウムt−ブトキシド、アルミニウムアセチルアセトナート等が挙げられる。
【0101】
また、硼素を含有する化合物としては、ジボラン、テトラボラン、フッ化硼素、塩化硼素、臭化硼素、ボラン−ジエチルエーテル錯体、ボラン−THF錯体、ボラン−ジメチルスルフィド錯体、三フッ化硼素ジエチルエーテル錯体、トリエチルボラン、トリメトキシボラン、トリエトキシボラン、トリ(イソプロポキシ)ボラン、ボラゾール、トリメチルボラゾール、トリエチルボラゾール、トリイソプロピルボラゾール等が挙げられる。
【0102】
錫を含有する化合物としては、テトラエチル錫、テトラメチル錫、二酢酸ジ−n−ブチル錫、テトラブチル錫、テトラオクチル錫、テトラエトキシ錫、メチルトリエトキシ錫、ジエチルジエトキシ錫、トリイソプロピルエトキシ錫、ジエチル錫、ジメチル錫、ジイソプロピル錫、ジブチル錫、ジエトキシ錫、ジメトキシ錫、ジイソプロポキシ錫、ジブトキシ錫、錫ジブチラート、錫ジアセトアセトナート、エチル錫アセトアセトナート、エトキシ錫アセトアセトナート、ジメチル錫ジアセトアセトナート等、錫水素化合物等、ハロゲン化錫としては、二塩化錫、四塩化錫等が挙げられる。
【0103】
また、その他の金属からなる有機化合物としては、例えば、アンチモンエトキシド、ヒ素トリエトキシド、バリウム2,2,6,6−テトラメチルヘプタンジオネート、ベリリウムアセチルアセトナート、ビスマスヘキサフルオロペンタンジオネート、ジメチルカドミウム、カルシウム2,2,6,6−テトラメチルヘプタンジオネート、クロムトリフルオロペンタンジオネート、コバルトアセチルアセトナート、銅エチルアセトアセテート、銅ヘキサフルオロペンタンジオネート、酢酸マグネシウム、トリフルオロ酢酸マグネシウム、マグネシウムトリフルオロペンタンジオネート、マグネシウムヘキサフルオロペンタンジオネート、マグネシウムヘキサフルオロペンタンジオネート−ジメチルエーテル錯体、ガリウムエトキシド、テトラエトキシゲルマン、テトラメトキシゲルマン、ハフニウムt−ブドキシド、ハフニウムエトキシド、インジウムアセチルアセトナート、インジウム2,6−ジメチルアミノヘプタンジオネート、フェロセン、ランタンイソプロポキシド、酢酸鉛、テトラエチル鉛、ネオジウムアセチルアセトナート、白金ヘキサフルオロペンタンジオネート、トリメチルシクロペンタジエニル白金、ロジウムジカルボニルアセチルアセトナート、ストロンチウム2,2,6,6−テトラメチルヘプタンジオネート、タンタルメトキシド、タンタルトリフルオロエトキシド、テルルエトキシド、タングステンエトキシド、バナジウムトリイソプロポキシドオキシド、亜鉛アセチルアセトナート、ジエチル亜鉛等が挙げられる。
【0104】
本発明に係る金属酸化薄膜は、Al、Si、Ti、V、Fe、Ni、Cu、Zn、Y、Nb、Mo、In、Ta、Ir、Sn及びWから選択される金属を含むことが好ましく、Al、Si、Ti、Nb、In、Ta、Ir、Sn及びWから選択される金属を含むことがより好ましく、Siを含むことが最も好ましい。
【0105】
上記原料ガスを適宜選択して、本発明の薄膜形成方法に使用することにより様々な高機能性の薄膜を得ることができる。その一例を以下に示すが、本発明はこれに限られるものではない。
誘電体保護膜 SiO、SiO、Al、Al、Y
透明導電膜 In、SnO
エレクトロクロミック膜 WO、IrO、MoO、V
磁気記録膜 γ−Fe、Fe、SiO、AlO
選択性透過膜 In、SnO
反射防止膜 SiO、TiO、SnO
原料ガスにはこれらの金属を含む化合物が好ましく用いられる。これらの金属化合物の中でも、有機珪素化合物が最も好ましい。有機珪素化合物は揮発性が高く、他の金属化合物と比較して安価であり、また有機珪素化合物から得られる酸化珪素薄膜の緻密性、透明性が高いためである。
【0106】
これらの原料ガスを分解して金属酸化薄膜を得るための分解ガスとしては、水素、水、アンモニア、メタン、硫化水素等のように水素原子を発生させる還元性ガスと、酸素、オゾン、亜酸化窒素、一酸化窒素、二酸化窒素、一酸化炭素、二酸化炭素、二酸化硫黄等のように酸素原子を発生させる酸化性ガスが挙げられる。分解ガスとしては還元性ガスでも酸化性ガスでも用いることができるが、基材上にデポジットした、例えば酸化珪素膜においてダングリングボンドを形成する炭素や窒素を酸化性ガスによって除去することができるため、本発明においては酸化性ガスを用いることが好ましい。酸化性ガスの中では、1〜20体積%、好ましくは5〜20体積%の酸素が好ましい。酸素を用いると原料ガスがよく分解され酸導入の効果がよく得られるので、膜密度及び膜硬度が高い金属酸化薄膜が得られる。
【0107】
大気圧プラズマ法においては、これらの反応性ガスに対して、主にプラズマ放電を維持するためにプラズマ状態になりやすい放電ガスによって希釈されてプラズマ放電空間(反応空間)に導入される。このような放電ガスとしては、窒素ガス及び/または周期表の第18属原子、具体的には、ヘリウム、ネオン、アルゴン、クリプトン、キセノン、ラドン等、特に、ヘリウム、アルゴンが好ましく用いられる。これらの中でも窒素、ヘリウム、アルゴンが好ましく、窒素がより好ましい。
【0108】
以上のように、原料ガス、分解ガス、放電ガスを混合し、混合ガスとしてプラズマ放電空間に供給することで膜形成を行う。放電ガスと原料ガスの割合は、得ようとする膜の性質によって異なるが、混合ガス全体に対し、放電ガスの割合を90.0〜99.9%として反応性ガスを供給する。放電ガスと反応性ガスの割合は、得ようとする膜の性質によって異なるが、混合ガス全体に対し、放電ガスの割合を50%以上として反応性ガスを供給する。
【0109】
前記プラズマ状態の反応性ガスに晒す時の基材温度は80〜200℃であることが好ましい。前記脱水縮合反応を促進するため、基材温度は80℃以上、好ましくは100℃以上である。基材が樹脂製である場合、プラズマ放電処理時の基材への影響を最小限に抑制するために、基材の温度を200℃以下に調整することが好ましく、さらに好ましくは100℃以下に調整することである。上記の温度範囲に調整するため、必要に応じて電極、基材は冷却手段で冷却しながらプラズマ放電処理される。
【0110】
《基材》
次に、本発明に用いることができる基材について説明する。
【0111】
本発明に用いることができる基材としては、フィルム状のもの、レンズ状等の立体形状のもの等、薄膜をその表面に形成できるものであれば特に限定はない。基材が電極間に載置できるものであれば、電極間に載置することによって、基材が電極間に載置できないものであれば、発生したプラズマを当該基材に吹き付けることによって薄膜を形成すればよい。
【0112】
基材を構成する材料も特に限定はないが、大気圧または大気圧近傍の圧力下であることと、低温のグロー放電であることから、樹脂を好ましく用いることができる。
【0113】
例えば、本発明に係る薄膜が反射防止膜である場合、基材として好ましくはフィルム状のセルローストリアセテート等のセルロースエステル、ポリエステル、ポリカーボネート、ポリスチレン、さらにこれらの上にゼラチン、ポリビニルアルコール(PVA)、アクリル樹脂、ポリエステル樹脂、セルロース系樹脂等を塗設したもの等を使用することができる。また、これら基材は、支持体上に防眩層やクリアハードコート層を塗設したり、バックコート層、帯電防止層を塗設したものを用いることができる。
【0114】
上記の支持体(基材としても用いられる)としては、具体的には、ポリエチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレート等のポリエステルフィルム、ポリエチレンフィルム、ポリプロピレンフィルム、セロファン、セルロースジアセテートフィルム、セルロースアセテートブチレートフィルム、セルロースアセテートプロピオネートフィルム、セルロースアセテートフタレートフィルム、セルローストリアセテート、セルロースナイトレート等のセルロースエステル類またはそれらの誘導体からなるフィルム、ポリ塩化ビニリデンフィルム、ポリビニルアルコールフィルム、エチレンビニルアルコールフィルム、シンジオタクティックポリスチレン系フィルム、ポリカーボネートフィルム、ノルボルネン樹脂系フィルム、ポリメチルペンテンフィルム、ポリエーテルケトンフィルム、ポリイミドフィルム、ポリエーテルスルホンフィルム、ポリスルホン系フィルム、ポリエーテルケトンイミドフィルム、ポリアミドフィルム、フッ素樹脂フィルム、ナイロンフィルム、ポリメチルメタクリレートフィルム、アクリルフィルムあるいはポリアリレート系フィルム等を挙げることができる。
【0115】
これらの素材は単独で、あるいは適宜混合されて使用することもできる。中でもゼオネックス(日本ゼオン(株)製)、ARTON(日本合成ゴム(株)製)等の市販品を好ましく使用することができる。さらに、ポリカーボネート、ポリアリレート、ポリスルホン及びポリエーテルスルフォン等の固有複屈折率の大きい素材であっても、溶液流延、溶融押し出し等の条件、さらには縦、横方向に延伸条件等を適宜設定することにより、得ることができる。また、本発明に係る支持体は、上記の記載に限定されない。膜厚としては10〜1000μmのフィルムが好ましく用いられる。
【0116】
本発明において、基材上に設ける薄膜が、反射防止膜等の光学用途の薄膜である場合には、基材としてセルロースエステルフィルムを用いることが低い反射率の積層体が得られるため、好ましい。本発明に記載の効果を好ましく得る観点から、セルロースエステルとしてはセルロースアセテート、セルロースアセテートブチレート、セルロースアセテートプロピオネートが好ましく、中でもセルロースアセテートブチレート、セルロースアセテートプロピオネートが好ましく用いられる。
【0117】
本発明において、基材として上記セルロースエステルフィルムを用いる場合、このセルロースエステルフィルムには可塑剤を含有するのが好ましい。
【0118】
可塑剤としては特に限定はないが、リン酸エステル系可塑剤、フタル酸エステル系可塑剤、トリメリット酸エステル系可塑剤、ピロメリット酸系可塑剤、グリコレート系可塑剤、クエン酸エステル系可塑剤、ポリエステル系可塑剤等を好ましく用いることができる。リン酸エステル系では、トリフェニルホスフェート、トリクレジルホスフェート、クレジルジフェニルホスフェート、オクチルジフェニルホスフェート、ジフェニルビフェニルホスフェート、トリオクチルホスフェート、トリブチルホスフェート等、フタル酸エステル系では、ジエチルフタレート、ジメトキシエチルフタレート、ジメチルフタレート、ジオクチルフタレート、ジブチルフタレート、ジ−2−エチルヘキシルフタレート、ブチルベンジルフタレート等、トリメリット酸系可塑剤として、トリブチルトリメリテート、トリフェニルトリメリテート、トリエチルトリメリテート等、ピロメリット酸エステル系可塑剤として、テトラブチルピロメリテート、テトラフェニルピロメリテート、テトラエチルピロメリテート等、グリコール酸エステル系では、トリアセチン、トリブチリン、エチルフタリルエチルグリコレート、メチルフタリルエチルグリコレート、ブチルフタリルブチルグリコレート等、クエン酸エステル系可塑剤として、トリエチルシトレート、トリ−n−ブチルシトレート、アセチルトリエチルシトレート、アセチルトリ−n−ブチルシトレート、アセチルトリ−n−(2−エチルヘキシル)シトレート等を好ましく用いることができる。
【0119】
その他のカルボン酸エステルの例には、オレイン酸ブチル、リシノール酸メチルアセチル、セバシン酸ジブチル、種々のトリメリット酸エステルが含まれる。
【0120】
ポリエステル系可塑剤として脂肪族二塩基酸、脂環式二塩基酸、芳香族二塩基酸等の二塩基酸とグリコールの共重合体を用いることができる。脂肪族二塩基酸としては特に限定されないが、アジピン酸、セバシン酸、フタル酸、テレフタル酸、1,4−シクロヘキシルジカルボン酸等を用いることができる。グリコールとしては、エチレングリコール、ジエチレングリコール、1,3−プロピレングリコール、1,2−プロピレングリコール、1,4−ブチレングリコール、1,3−ブチレングリコール、1,2−ブチレングリコール等を用いることができる。これらの二塩基酸及びグリコールはそれぞれ単独で用いてもよいし、二種以上混合して用いてもよい。
【0121】
これらの可塑剤の使用量は、フィルム性能、加工性等の点で、セルロースエステルに対して1〜20質量%であることが好ましい。
【0122】
本発明において、薄膜が反射防止膜である場合、基材(支持体単独の場合もある)としては、液晶等の劣化防止の観点から、紫外線吸収剤が好ましく用いられる。
【0123】
紫外線吸収剤としては、波長370nm以下の紫外線の吸収能に優れ、かつ良好な液晶表示性の観点から、波長400nm以上の可視光の吸収が少ないものが好ましく用いられる。好ましく用いられる紫外線吸収剤の具体例としては、例えばオキシベンゾフェノン系化合物、ベンゾトリアゾール系化合物、サリチル酸エステル系化合物、ベンゾフェノン系化合物、シアノアクリレート系化合物、ニッケル錯塩系化合物等が挙げられるが、これらに限定されない。また、特開平6−148430号記載の高分子紫外線吸収剤も好ましく用いられる。
【0124】
また、支持体に用いることのできる紫外線吸収剤は、特願平11−295209号に記載されている分配係数が9.2以上の紫外線吸収剤を含むことが、プラズマ処理工程の汚染が少なく、また、各種塗布層の塗布性にも優れるため好ましく、特に分配係数が10.1以上の紫外線吸収剤を用いることが好ましい。
【0125】
可塑剤や紫外線吸収剤吸収剤を含むセルロースエステルフィルムを基材として用いた場合、これらがブリードアウトする等によって、プラズマ処理部に付着する等して工程を汚染し、これがフィルムに付着する可能性が考えられる。この問題を解決するためには、支持体がセルロースエステルと可塑剤を有し、80℃、90%RHで時間処理した前後の質量変化が±2質量%未満である支持体を用いることが好ましい(保留性)。このようなセルロースエステルフィルムは特願2000−338883号記載のセルロースエステルフィルム等が好ましく用いられる。また、この目的のために特開平6−148430号記載の高分子紫外線吸収剤(または紫外線吸収性ポリマー)が好ましく用いることができる。高分子紫外線吸収剤としては、PUVA−30M(大塚化学(株)製)等が市販されている。特開平6−148430号の一般式(1)あるいは一般式(2)あるいは特願2000−156039の一般式(3)(6)(7)記載の高分子紫外線吸収剤が特に好ましく用いられる。
【0126】
本発明において、薄膜が反射防止膜である場合の基材の光学特性としては、面内リターデーションR0は0〜1000nmのものが好ましく用いられ、厚味方向のリターデーションRtは0〜300nmのものが用途に応じて好ましく用いられる。また、波長分散特性としてはR0(600)/R0(450)は0.7〜1.3であることが好ましく、特に1.0〜1.3であること好ましい。
【0127】
ここで、R0(450)は波長450nmの光による3次元屈折率測定に基づいた面内リターデーション、R0(600)は波長600nmの光による3次元屈折率測定に基づいた面内リターデーションを表す。
【0128】
本発明において、薄膜が反射防止膜である場合、基材と放電プラズマ処理により形成される薄膜との密着性を向上させる観点から、1種以上のエチレン性不飽和モノマーを含む成分を重合させて形成した層に、上記記載の放電プラズマ処理をして形成されたものであることが好ましく、特に、前記エチレン性不飽和モノマーを含む成分を重合させて形成した層をpH10以上の溶液で処理した後に放電プラズマ処理することにより、さらに密着性が改善されるため好ましい。pH10以上の溶液としては、0.1〜3mol/Lの水酸化ナトリウムもしくは水酸化カリウム水溶液等が好ましく用いられる。
【0129】
エチレン性不飽和モノマーを含む成分を重合させて形成した樹脂層としては、活性線硬化樹脂あるいは熱硬化樹脂を構成成分として含有する層が好ましく用いられるが、特に好ましく用いられるのは活性線硬化樹脂層である。
【0130】
ここで、活性線硬化樹脂層とは紫外線や電子線のような活性線照射により架橋反応等を経て硬化する樹脂を主たる成分とする層をいう。活性線硬化樹脂としては紫外線硬化性樹脂や電子線硬化性樹脂等が代表的なものとして挙げられるが、紫外線や電子線以外の活性線照射によって硬化する樹脂でもよい。紫外線硬化性樹脂としては、例えば、紫外線硬化型アクリルウレタン系樹脂、紫外線硬化型ポリエステルアクリレート系樹脂、紫外線硬化型エポキシアクリレート系樹脂、紫外線硬化型ポリオールアクリレート系樹脂、または紫外線硬化型エポキシ樹脂等を挙げることができる。
【0131】
紫外線硬化型アクリルウレタン系樹脂は、一般にポリエステルポリオールにイソシアネートモノマー、もしくはプレポリマーを反応させて得られた生成物にさらに2−ヒドロキシエチルアクリレート、2−ヒドロキシエチルメタクリレート(以下アクリレートにはメタクリレートを包含するものとしてアクリレートのみを表示する)、2−ヒドロキシプロピルアクリレート等の水酸基を有するアクリレート系のモノマーを反応させることによって容易に得ることができる(例えば、特開昭59−151110号等を参照)。
【0132】
紫外線硬化型ポリエステルアクリレート系樹脂は、一般にポリエステルポリオールに2−ヒドロキシエチルアクリレート、2−ヒドロキシアクリレート系のモノマーを反応させることによって容易に得ることができる(例えば、特開昭59−151112号を参照)。
【0133】
紫外線硬化型エポキシアクリレート系樹脂の具体例としては、エポキシアクリレートをオリゴマーとし、これに反応性希釈剤、光反応開始剤を添加し、反応させたものを挙げることができる(例えば、特開平1−105738号)。この光反応開始剤としては、ベンゾイン誘導体、オキシムケトン誘導体、ベンゾフェノン誘導体、チオキサントン誘導体等のうちから、1種もしくは2種以上を選択して使用することができる。
【0134】
また、紫外線硬化型ポリオールアクリレート系樹脂の具体例としては、トリメチロールプロパントリアクリレート、ジトリメチロールプロパンテトラアクリレート、ペンタエリスリトールトリアクリレート、ペンタエリスリトールテトラアクリレート、ジペンタエリスリトールヘキサアクリレート、アルキル変性ジペンタエリスリトールペンタアクリレート等を挙げることができる。
【0135】
これらの樹脂は通常公知の光増感剤と共に使用される。また上記光反応開始剤も光増感剤としても使用できる。具体的には、アセトフェノン、ベンゾフェノン、ヒドロキシベンゾフェノン、ミヒラーズケトン、α−アミロキシムエステル、チオキサントン等及びこれらの誘導体を挙げることができる。また、エポキシアクリレート系の光反応剤の使用の際、n−ブチルアミン、トリエチルアミン、トリ−n−ブチルホスフィン等の増感剤を用いることができる。塗布乾燥後に揮発する溶媒成分を除いた紫外線硬化性樹脂組成物に含まれる光反応開始剤また光増感剤は該組成物の2.5〜6質量%であることが好ましい。
【0136】
樹脂モノマーとしては、例えば、不飽和二重結合が一つのモノマーとして、メチルアクリレート、エチルアクリレート、ブチルアクリレート、酢酸ビニル、ベンジルアクリレート、シクロヘキシルアクリレート、スチレン等の一般的なモノマーを挙げることができる。また不飽和二重結合を二つ以上持つモノマーとして、エチレングリコールジアクリレート、プロピレングリコールジアクリレート、ジビニルベンゼン、1,4−シクロヘキサンジアクリレート、1,4−シクロヘキシルジメチルアジアクリレート、前出のトリメチロールプロパントリアクリレート、ペンタエリスリトールテトラアクリルエステル等を挙げることができる。
【実施例】
【0137】
以下、実施例を挙げて本発明を具体的に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。なお、実施例において「部」あるいは「%」の表示を用いるが、特に断りがない限り「質量部」あるいは「質量%」を表す。
【0138】
実施例
《試料の作製》
〔試料1の作製〕
基材として、厚さ100μmのロール状のポリエチレンテレフタレートフィルム上に、図4に記載の大気圧プラズマ放電処理装置を用い、下記の製膜条件で、膜厚が200nmの酸化珪素薄膜を形成して、試料1を作製した。
【0139】
(製膜条件)
放電ガス:窒素ガス 94.9体積%
原料ガス:テトラエトキシシラン(リンテック社製気化器にて窒素ガスに混合して気化) 0.1体積%
反応ガス:酸素ガス 5.0体積%
製膜速度:30nm/sec
第1電源側:周波数 80kHz、電力(出力密度) 5W/cm
第2電源側:周波数 13.56MkHz、電力(出力密度) 5W/cm
基材温度:100℃
〔試料2の作製〕
試料1の作製において、さらに反応空間に、硝酸水溶液の揮発により硝酸を5体積%、水蒸気を13体積%導入した他は同様にして、試料2を作製した。
【0140】
〔試料3、5〜12の作製〕
試料2の作製において、酸の種類・導入量・導入方法、酸化性ガスの導入量、基材温度を表1に記載のように変更した他は同様にして、試料3、5〜12を作製した。
【0141】
〔試料4の作製〕
試料2の作製において、酸の種類・導入方法表1に記載のように変更し、水蒸気を導入しなかった他は同様にして、試料4を作製した。
【0142】
《試料の評価》
作製した試料について下記評価を行った。
【0143】
(膜密度の評価)
X線反射率測定法により測定した。測定装置としては、マックサイエンス社製MXP21を用いて行い、X線源のターゲットには銅を用い、42kV、500mAで作動させた。インシデントモノクロメータには多層膜パラボラミラーを用いた。入射スリットは0.05mm×5mm、受光スリットは0.03mm×20mmを用い、2θ/θスキャン方式で0から5°をステップ幅0.005°、1ステップ10秒のFT法にて測定を行った。得られた反射率曲線に対し、マックサイエンス社製Reflectivity Analysis Program Ver.1を用いてカーブフィティングを行い、実測値とフッティングカーブの残差平方和が最小になるように各パラメータを求め、各パラメータから膜密度を求めた。膜密度から下記基準で評価した。
【0144】
◎:膜密度が2.15g/cm以上
○:膜密度が2.05〜2.15g/cm未満
×:膜密度が2.05g/cm未満
(膜硬度の評価)
上記作製した試料の薄膜形成面について、JIS K 5400に準拠した鉛筆引っかき試験法により、薄膜の硬度を測定した。硬度のランクは(軟)6B〜B、HB、F、H〜9H(硬)の順に6Bが最も柔らかく、9Hが最も硬い。
【0145】
評価の結果を表1に示す。
【0146】
【表1】

【0147】
表より、本発明の試料は比較例に比べ膜密度及び膜硬度が高いことが分かる。また、反応空間に水(水蒸気)を導入すること、基材温度が80〜200℃の高温であること(100℃)、前記高周波電圧が、1kHz〜1MHzの高周波電圧(80kHz)と、1MHz〜2500MHz(13.56MHz)の高周波電圧を重畳した試料は、膜密度及び膜硬度がより向上していることが分かる。
【図面の簡単な説明】
【0148】
【図1】従来法及び本発明の方法で形成した酸化金属薄膜の内部構造を示す模式図である。
【図2】超音波噴霧器の一例を示す概略図である。
【図3】ジェット方式の大気圧プラズマ放電処理装置の一例を示す概略図である。
【図4】対向電極間で基材を処理する方式の大気圧プラズマ放電処理装置の一例を示す概略図である。
【図5】ロール回転電極の導電性の金属質母材とその上に被覆されている誘電体の構造の一例を示す斜視図である。
【図6】固定電極の導電性の金属質母材とその上に被覆されている誘電体の構造の一例を示す斜視図である。
【符号の説明】
【0149】
1 超音波噴霧器
2 導入管
3 液体貯留部
4 超音波発生部
5 電源
6 放出管
10 プラズマ放電処理装置
11 第1電極
12 第2電極
21 第1電源
23、43 第1フィルタ
24、44 第2フィルタ
30 プラズマ放電処理装置
32 放電空間
35 ロール回転電極
35a ロール電極
35A 金属質母材
35B 誘電体
36a 固定電極
36A 金属質母材
36B 誘電体
40 電界印加手段
41 第1電源
42 第2電源
50 ガス供給手段
51 ガス発生装置
52 給気口
53 排気口
60 電極温度調節手段
70 酸導入手段
G 薄膜形成ガス
G° プラズマ状態のガス
G′ 処理排ガス

【特許請求の範囲】
【請求項1】
大気圧または大気圧近傍の圧力下において、対向する2種の電極間に高周波電圧を印加して反応空間に放電させることにより、反応性ガスをプラズマ状態とし、基材を前記プラズマ状態の反応性ガスに晒すことによって、前記基材上に金属酸化薄膜を形成する金属酸化薄膜の製造方法において、前記反応空間に酸解離定数pKaが3.5以下の酸を導入することを特徴とする金属酸化薄膜の製造方法。
【請求項2】
前記反応空間に1〜15体積%の水を導入することを特徴とする請求項1に記載の金属酸化薄膜の製造方法。
【請求項3】
前記酸の水溶液を揮発させることにより、反応空間に酸を導入することを特徴とする請求項1または2に記載の金属酸化薄膜の製造方法。
【請求項4】
前記酸の水溶液を噴霧することにより、反応空間に酸を導入することを特徴とする請求項1または2に記載の金属酸化薄膜の製造方法。
【請求項5】
前記酸が、硝酸、亜硝酸、塩酸、塩素酸、亜塩素酸、硫酸、亜硫酸及びリン酸から選択される酸であることを特徴とする請求項1〜4のいずれか1項に記載の金属酸化薄膜の製造方法。
【請求項6】
放電ガスが窒素であることを特徴とする請求項1〜5のいずれか1項に記載の金属酸化薄膜の製造方法。
【請求項7】
前記高周波電圧の周波数が1kHz〜2500MHzで、かつ供給電力が1〜50W/cmであることを特徴とする請求項1〜6のいずれか1項に記載の金属酸化薄膜の製造方法。
【請求項8】
前記高周波電圧が、1kHz〜1MHzの高周波電圧と、1MHz〜2500MHzの高周波電圧を重畳したものであることを特徴とする請求項7に記載の金属酸化薄膜の製造方法。
【請求項9】
前記プラズマ状態の反応性ガスに晒す時の基材温度が80〜200℃であることを特徴とする請求項1〜8のいずれか1項に記載の金属酸化薄膜の製造方法。
【請求項10】
前記反応空間に酸化性ガスを導入することを特徴とする請求項1〜9のいずれか1項に記載の金属酸化薄膜の製造方法。
【請求項11】
前記酸化性ガスが1〜20体積%の酸素であることを特徴とする請求項10に記載の金属酸化薄膜の製造方法。
【請求項12】
請求項1〜11のいずれか1項に記載の金属酸化薄膜の製造方法により得られたことを特徴とする金属酸化薄膜。
【請求項13】
前記金属酸化薄膜が、Al、Si、Ti、V、Fe、Ni、Cu、Zn、Y、Nb、Mo、In、Ta、Ir、Sn及びWから選択される金属を含むことを特徴とする請求項12に記載の金属酸化薄膜。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2010−31303(P2010−31303A)
【公開日】平成22年2月12日(2010.2.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−192039(P2008−192039)
【出願日】平成20年7月25日(2008.7.25)
【出願人】(000001270)コニカミノルタホールディングス株式会社 (4,463)
【Fターム(参考)】