説明

鋳巣検出方法および鋳巣検出装置

【課題】鋳物の表面に最終的な機械加工を施す前に鋳物の表面近傍の鋳巣を検出可能な鋳巣検出方法および鋳巣検出装置を提供する。
【解決手段】鋳巣検出装置1に、高周波電流により鋳物5の表面5a近傍に渦電流を発生させるとともに該渦電流の変化を検出する渦流センサ11と、該渦流センサの高周波電流を発生する発振器12と、を具備する渦流検出部10と、該鋳物の表面近傍を加熱する熱源21と、該熱源により加熱される鋳物の表面の熱画像を撮像する赤外線サーモグラフィ22と、を具備する熱画像撮像部20と、該渦流センサにより検出された渦電流の変化と、赤外線サーモグラフィにより撮像された熱画像と、に基づいて鋳物の表面近傍の鋳巣の形態および深さを判定する鋳巣判定部30と、を具備した。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、鋳物の表面近傍に存在する鋳巣の形態および深さを検出する技術に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、自動車のエンジンを構成するエンジンブロックはその機能上高い気密性が要求され、特に他の部材との当接部位、すなわちシール面のリークを防止することが重要である。
しかし、エンジンブロックは一般的に鋳造により製造される鋳物であるため、鋳型に溶融金属を注湯する際の気泡の巻き込みや凝固時の収縮により、その内部に鋳巣を包含している。そして、エンジンブロックを機械加工した結果、シール面に鋳巣が現れると、シール面のリークを引き起こす原因となる。
【0003】
従来、鋳物表面に現れた鋳巣を検出する方法として、目視による検査が挙げられる。
また、鋳物表面に現れた鋳巣を検出する別の方法として、鋳物の表面に照射したレーザ光の反射光を撮像する方法が挙げられる。例えば、特許文献1に記載の如くである。
【特許文献1】特開平5−209726号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかし、目視による検査は作業者により検出精度がばらつくこと、鋳物の表面を機械加工した後に検査を行うために鋳巣を発見した場合には当該鋳物を廃棄または溶かして再利用しなければならず、機械加工を行う作業自体が無駄となってしまうこと、鋳巣の発生を防止するための対策が遅れること(鋳巣の発生原因と鋳物の鋳造条件との相関を見ることが容易でないこと)、という問題点がある。
また、鋳物の表面に照射したレーザ光の反射光を撮像する方法の場合も鋳物の表面を機械加工した後で検査するため、機械加工自体が無駄となってしまうという問題がある。
【0005】
本発明は以上の如き状況に鑑み、鋳物の表面に最終的な機械加工を施す前に鋳物の表面近傍の鋳巣を検出可能な鋳巣検出方法および鋳巣検出装置を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の解決しようとする課題は以上の如くであり、次にこの課題を解決するための手段を説明する。
【0007】
即ち、請求項1においては、
高周波電流により鋳物の表面近傍に渦電流を発生させるとともに該渦電流の変化を検出する渦流検出工程と、
該鋳物の表面の熱画像を撮像する熱画像撮像工程と、
渦流検出工程において検出された渦電流の変化と、熱画像撮像工程において撮像された熱画像と、に基づいて鋳物の表面近傍の鋳巣の形態および深さを判定する鋳巣判定工程と、
を具備するものである。
【0008】
請求項2においては、
前記高周波電流の周波数を変更可能であるものである。
【0009】
請求項3においては、
前記鋳物の表面をパルス加熱し、該鋳物の表面の熱画像を撮像するタイミングをパルス加熱の周波数に応じて変更可能であるものである。
【0010】
請求項4においては、
高周波電流により鋳物の表面近傍に渦電流を発生させるとともに該渦電流の変化を検出する渦流センサと、該渦流センサの高周波電流を発生する発振器と、を具備する渦流検出部と、
該鋳物の表面近傍を加熱する熱源と、該熱源により加熱される鋳物の表面の熱画像を撮像する赤外線サーモグラフィと、を具備する熱画像撮像部と、
該渦流センサにより検出された渦電流の変化と、赤外線サーモグラフィにより撮像された熱画像と、に基づいて鋳物の表面近傍の鋳巣の形態および深さを判定する鋳巣判定部と、
を具備するものである。
【0011】
請求項5においては、
前記発振器は、該渦流センサの高周波電流の周波数を変更可能であるものである。
【0012】
請求項6においては、
前記熱源は、前記鋳物の表面をパルス加熱し、
前記赤外線サーモグラフィは、該鋳物の表面の熱画像を撮像するタイミングをパルス加熱の周波数に応じて変更可能であるものである。
【発明の効果】
【0013】
本発明の効果として、以下に示すような効果を奏する。
【0014】
請求項1においては、鋳物の表面に最終的な機械加工を施す前に鋳物の表面近傍の鋳巣を精度良く検出可能である。
【0015】
請求項2においては、鋳物の表面近傍に発生する渦電流の浸透深さを変更し、鋳物の表面近傍に存在する鋳巣の鋳物の表面からの深さを精度良く検出することが可能である。
【0016】
請求項3においては、鋳巣の検出精度が向上する。
【0017】
請求項4においては、鋳物の表面に最終的な機械加工を施す前に鋳物の表面近傍の鋳巣を精度良く検出可能である。
【0018】
請求項5においては、鋳物の表面近傍に発生する渦電流の浸透深さを変更し、鋳物の表面近傍に存在する鋳巣の鋳物の表面からの深さを精度良く検出することが可能である。
【0019】
請求項6においては、鋳巣の検出精度が向上する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0020】
以下では図1から図4を用いて、本発明の鋳巣検出方法の実施例について説明するとともに、本発明の鋳巣検出装置の実施例である鋳巣検出装置1について説明する。
【0021】
鋳巣検出装置1は、鋳物の表面近傍の鋳巣を検出する装置である。
ここで、本出願における「鋳物」は、溶融状態の金属を型に流し込んで凝固させることにより得られる部材を指すものとする。鋳物の原材料となる溶融金属は、鋳鉄やアルミニウム、銅等、一般的に鋳造に用いられるものを全て含む。
また、本出願における鋳物の「表面近傍」は、鋳物の表面、および、鋳物の表面から所定の深さまでの領域、の両方を含むものとする。ここで、上記「所定の深さ」は、鋳物の種類や用途等により適宜選択されるものであるが、一般的には鋳物の表面から数mmである。
また、本出願における「鋳巣」は、鋳型に溶融金属を注湯する際の気泡の巻き込みや凝固時の収縮その他の要因により鋳物の内部に形成される欠陥を広く含むものとする。
【0022】
以下では、鋳物の一例であるエンジンブロック5のボア部のシール面の鋳巣を検出する場合を例に挙げて説明する。
図2に示す如く、鋳巣検出装置1による鋳巣の検出を行う際のエンジンブロック5のボア部のシール面は予め粗加工が施されており、粗加工表面5aが外部に露出している。
鋳巣検出装置1による鋳巣の検出を行った結果、粗加工表面5aの近傍に鋳巣が無い(または、規格値以下の直径の鋳巣しか存在しない)と判定された場合には、当該エンジンブロック5は仕上げ加工工程に搬送され、仕上加工が施される。
このとき、粗加工表面5aから約0.5mmの深さまで研削され、仕上げ加工後のエンジンブロック5のボア部のシール面は、仕上加工表面5bが露出することになる。
【0023】
従って、エンジンブロック5の表面(粗加工表面5a)近傍の鋳巣51・52・53のうち、シール面のリークを引き起こす原因となり得るのは仕上加工表面5bと重なっている鋳巣52であり、かつ鋳巣52の直径が規格値以上の場合である。
ここで、本出願における「規格値」は、鋳物の良否の判断基準となる鋳巣の大きさであり、本実施例のエンジンブロック5の場合、規格値は0.5mmである。
本実施例において規格値を0.5mmとしている理由は、エンジンブロック5の仕上加工表面5bと重なっている鋳巣の直径が0.5mm未満の場合には、いわゆる含浸処理により鋳巣を所定の樹脂で埋め、当該エンジンブロック5を良品として使用することが可能であるが、鋳巣の直径が0.5mm以上の場合には、含浸処理を施してもシール面のリークを引き起こす可能性が高く、当該エンジンブロック5を不良品として処理(廃棄または溶かして再利用)する必要があるからである。
従来の鋳巣検出方法(目視、あるいは光学的手法)では、仕上げ加工後にようやく鋳巣52が仕上加工表面5b上に存在することのみ判明するが、本実施例の場合には、仕上げ加工前に鋳巣51・52・53をいずれも検出することができ、かつそれぞれの粗加工表面5aからの深さおよび直径(大きさ)を検出することが可能である。
なお、本発明に係る鋳巣検出装置は鋳物の表面近傍の鋳巣を検出する用途に広く適用可能であり、本実施例の上記エンジンブロック5に限定されるものではない。
【0024】
図1に示す如く、鋳巣検出装置1は、主に渦流検出部10、熱画像撮像部20、鋳巣判定部30等を具備する。
【0025】
渦流検出部10は、主に渦流センサ11、発振器12、アンプ13、フィルタ14等を具備する。
【0026】
渦流センサ11は、高周波電流によりエンジンブロック5のシール部(図1中の斜線で示す部分)の粗加工表面5a近傍に渦電流を発生させるとともに、該渦電流の変化を検出するものである。
渦流センサ11は図示せぬ走査手段により粗加工表面5aから所定の高さ(図1中の高さH)を保持しつつ略リング状の粗加工表面5aを走査する。
【0027】
なお、本実施例では粗加工表面5aから渦流センサ11の先端部までの距離、すなわち高さHを1mmとしているが、高さHを1mmから1.5mmの範囲とすることが望ましい。
これは、高さHを1mm未満とすると、走査中に渦流センサ11が粗加工表面5aに接触して破損するおそれがあり、高さHを1.5mmよりも大きくすると粗加工表面5a近傍に十分に渦電流を発生させることが困難となるからである。
【0028】
渦流センサ11は高周波誘導コイルを具備し、該高周波誘導コイルに高周波電流を流しつつ粗加工表面5aを走査する。渦流センサ11が粗加工表面5a近傍において鋳巣がある部分を走査すると、粗加工表面5a近傍に発生する渦電流の流れが変化し、該高周波誘導コイルのインピーダンスが変化する。当該インピーダンスの変化を検出することにより、粗加工表面5a近傍に発生する渦電流の流れの変化を検出する。
より具体的には、渦流センサ11は前記高周波誘導コイルを流れる高周波電流により生じる磁束の変化を検出するための検出コイルを具備し、該検出コイルの出力電圧の形で粗加工表面5a近傍に発生する渦電流の流れの変化を検出する。
【0029】
なお、本実施例の渦流センサ11の走査速度を10mm/secとしているが、渦流センサ11の走査速度を10mm/secから20mm/secまでの範囲とすることが望ましい。
これは、渦流センサ11の走査速度を10mm/sec未満とすると鋳巣の検出に要する時間が過大となるためであり、走査速度を20mm/secよりも大きくすると複数の鋳巣が隣接して存在する場合に個々に判別することが困難となるからである。
【0030】
発振器12は、渦流センサ11に接続され、渦流センサ11の高周波電流を発生するものである。本実施例の発振器12は、渦流センサ11の高周波電流の周波数を変更可能である。
このように構成することにより、粗加工表面5a近傍に発生する渦電流の浸透深さを変更し、粗加工表面5a近傍に存在する鋳巣の粗加工表面5aからの深さを精度良く検出することが可能である。
【0031】
また、本実施例では渦流センサ11による走査時の高周波電流の周波数を20kHz程度としているが、本実施例の発振器12は、一般的な渦流センサの用途、すなわち導体表面のキズ等の検出に用いる場合の周波数帯だけでなく、当該周波数帯よりも低い周波数帯の高周波電流も発生させることが可能である。
このように構成することにより、渦電流の浸透深さを大きくし、鋳物の表面および鋳物の表面から所定の深さまでの領域、すなわち、本出願における鋳物の「表面近傍」に効果的に渦電流を発生させることが可能である。
【0032】
アンプ13は発振器12により発生する高周波電流を増幅するものである。
フィルタ14は渦流センサ11により検出された粗加工表面5a近傍に発生する渦電流の流れの変化に係る信号(より厳密には検出コイルの出力電圧)のノイズ成分を除去するものである。
【0033】
以上の如く、高周波電流により鋳物の表面近傍に渦電流を発生させるとともに該渦電流の変化を検出する工程を、本出願における「渦流検出工程」とする。
【0034】
熱画像撮像部20は、主に熱源21、赤外線サーモグラフィ22等を具備する。
【0035】
熱源21は、エンジンブロック5の粗加工表面5a近傍を加熱するものである。特に、本実施例の熱源21は、エンジンブロック5の粗加工表面5a近傍をパルス加熱可能である。
【0036】
赤外線サーモグラフィ22は、熱源21により加熱されるエンジンブロック5の粗加工表面5aの熱画像を撮像するものである。
ここで、本出願における「熱画像」とは、鋳物の表面から放出される赤外線の強度の分布、すなわち鋳物の表面の温度分布を画像化したものである。
特に、本実施例の赤外線サーモグラフィ22は、エンジンブロック5の粗加工表面5aの熱画像を撮像するタイミングをパルス加熱の周波数に応じて変更可能である。
【0037】
熱源21によりエンジンブロック5の粗加工表面5a近傍を加熱すると、粗加工表面5a近傍において鋳巣が存在しない部分は深さ方向に伝達される熱量が大きく、その分鋳巣が存在しない部分に対応する粗加工表面5aの温度が上昇し難い。
これに対して、粗加工表面5a近傍において鋳巣が存在する部分は鋳巣により深さ方向の熱の伝達が阻害されるため、深さ方向に伝達される熱量が小さくなる。そのため、鋳巣が存在する部分に対応する粗加工表面5aの温度が、上記分鋳巣が存在しない部分に対応する粗加工表面5aと比較して上昇し易い。
従って、熱源21によりエンジンブロック5の粗加工表面5a近傍を加熱すると、粗加工表面5a近傍において鋳巣が存在しない部分と粗加工表面5a近傍において鋳巣が存在する部分との間で温度差が生じ、当該部分から放出される赤外線の量にも差が生じる。これを赤外線サーモグラフィ22が熱画像として撮像することにより、エンジンブロック5の粗加工表面5a近傍に存在する鋳巣を検出することが可能である。
【0038】
特に、エンジンブロック5の粗加工表面5a近傍をパルス加熱した場合には、連続的に温度上昇させる通常の加熱と比較して、粗加工表面5a近傍において鋳巣が存在しない部分と粗加工表面5a近傍において鋳巣が存在する部分との間で生じる温度差が顕著となる。
また、当該パルス加熱の周波数に応じて赤外線サーモグラフィ22の熱画像を撮像するタイミングを変更可能とすることにより、一回のパルスの周期内において、鋳巣が存在しない部分と粗加工表面5a近傍において鋳巣が存在する部分との間で生じる温度差が最も顕著となるタイミングで熱画像を撮像することが可能である。従って、鋳巣の検出精度が向上する。
【0039】
本実施例の赤外線サーモグラフィ22は図示せぬ支持部材に固定され、エンジンブロック5の全体をその視野内に収める構成としているが、赤外線サーモグラフィ22を移動可能として、エンジンブロック5の特定部位のみ撮像することにより分解能を向上させ、あるいは後述する鋳巣判定部30での判定作業の速度を向上させることも可能である。
【0040】
以上の如く、鋳物の表面の熱画像を撮像する工程を、本出願における「熱画像撮像工程」とする。
【0041】
図3は渦流センサ11による鋳巣の検出の特徴と、赤外線サーモグラフィ22による鋳巣の検出の特徴とを比較したものである。
【0042】
図3に示す如く、鋳巣の形態が規格値以下の直径を有する複数の鋳巣の集合の場合、渦流センサ11による鋳巣の検出では複数の鋳巣の集合と規格値以上の直径を有する一つの鋳巣とを判別し、個々の鋳巣を検出することが困難である。
これに対して、赤外線サーモグラフィ22による鋳巣の検出では、複数の鋳巣の集合と規格値以上の直径を有する一つの鋳巣とを判別し、個々の鋳巣を検出することが可能である。
【0043】
また、図3に示す如く、鋳巣の形態が引け巣の如く深さ方向に細長い(深さ方向から見て薄い)場合、渦流センサ11による鋳巣の検出ではこれを検出することが可能である。
これに対して、赤外線サーモグラフィ22による鋳巣の検出では、深さ方向から見た鋳巣の断面積が小さいために周囲との温度差が生じにくく、これを検出することが困難である。
【0044】
従って、渦流センサ11による鋳巣の検出と、赤外線サーモグラフィ22による鋳巣の検出と、を組み合わせることにより、相互の問題点を補完し、種々の形態の鋳巣を精度良く検出することが可能である。
【0045】
鋳巣判定部30は、渦流センサ11により検出された渦電流の変化と、赤外線サーモグラフィ22により撮像された熱画像と、に基づいてエンジンブロック5の粗加工表面5a近傍の鋳巣の形態および深さを判定するものである。
鋳巣判定部30は、主に制御部31、入力部32、表示部33等を具備する。
【0046】
制御部31は、後述する渦流センサ11により検出された渦電流の変化と、赤外線サーモグラフィ22により撮像された熱画像と、に基づいてエンジンブロック5の粗加工表面5a近傍の鋳巣の形態および深さを判定するためのプログラムや、渦流検出部10および熱画像撮像部20が具備する各構成部材の動作を制御するためのプログラム等を格納するとともに、上記鋳巣の形態および深さを判定するための種々のデータ等を記憶している。
制御部31が記憶する種々のデータには、予備実験として、種々の深さ、種々の孔径の孔が穿設されたテストピースについての渦流センサ11により検出された渦電流の変化の結果や、当該テストピースについての赤外線サーモグラフィ22により撮像された熱画像等が含まれる。
制御部31は、具体的にはCPU、ROM、及びRAM等がバスで接続される構成であっても良く、あるいは、ワンチップのLSI等からなる構成であっても良い。また、制御部31は専用品でも良いが、市販のパソコンやワークステーション等を用いて達成することも可能である。
【0047】
入力部32は、作業者等が鋳巣の検出に係るデータ等を入力するものである。
入力部32は専用品でも良いが、市販のキーボードやタッチパネル等を用いて達成することも可能である。
【0048】
表示部33は、入力部32により入力されたデータ、および制御部31により判定された鋳巣に係る検出結果を表示するものである。
表示部33は専用品でも良いが、市販のモニターや液晶ディスプレイ等を用いて達成することも可能である。
【0049】
以下では、図1および図4を用いて鋳巣判定部30による鋳巣の形態および深さの判定手順について説明する。
【0050】
図4中の(a)はエンジンブロック5の粗加工表面5aのうち、リング状となっている部分を示す模式図である。当該リング状となっている部分の幅は10mmであり、そのうちシール面のリークに関わる部分は中央の幅2mmの部分(図4中の(a)において斜線が施された領域)である。
【0051】
図4中の(b)は渦流センサ11により検出された当該シール面のリークに関わる部分の渦電流の変化(より厳密には、渦流センサ11の検出コイルの出力電圧)と、赤外線サーモグラフィ22により撮像した当該シール面のリークに関わる部分の熱画像と、を位相θを合わせて展開した図である。
図4中の(b)において黒い矢印で示す部分は、渦流センサ11により検出された当該シール面のリークに関わる部分の渦電流の変化に基づいて、鋳巣があると判定された部分である。また、図4中の(b)において白い矢印で示す部分は、赤外線サーモグラフィ22により撮像した当該シール面のリークに関わる部分の熱画像に基づいて、鋳巣があると判定された部分である。
鋳巣の大きさ(直径)は、渦電流の変化量、および熱画像において周囲よりも高温であると判定された部位の大きさに基づいて求めることが可能である。
【0052】
図4中の(b)に示す如く、位相がθ1となる部分では、渦流センサ11では鋳巣があると判定されるが赤外線サーモグラフィ22では鋳巣があると判定されていない。これは、位相がθ1となる部分に図3に示す如き深さ方向に細長い形状の鋳巣があることを示している。
また、位相がθ2となる部分では、渦流センサ11では渦電流が大きく変化しており、大きな直径を有する鋳巣があると判定されるが、赤外線サーモグラフィ22では位相がθ2より小さいθ3と位相がθ2より大きいθ3の二箇所に二つの鋳巣があると判定される。
これは、位相がθ2となる部分の近傍(位相がθ3およびθ4となる部分)に図3に示す如き二つの小さい鋳巣があることを示している。
このようにして、鋳巣判定部30は渦流センサ11により検出された渦電流の変化と、赤外線サーモグラフィ22により撮像された熱画像と、に基づいてエンジンブロック5の粗加工表面5a近傍の鋳巣の位置、大きさおよび形態を判定することが可能である。
【0053】
また、図4の(b)では渦流センサ11により検出された当該シール面のリークに関わる部分の渦電流の変化の結果を一つしか示していないが、渦流センサ11の高周波誘導コイルに流れる高周波電流の周波数を変えて走査を複数回行うことにより、鋳巣判定部30は渦流センサ11により検出される鋳巣の深さを判定することが可能である。
【0054】
なお、本実施例では、鋳巣判定部30が渦流センサ11により検出された渦電流の変化と、赤外線サーモグラフィ22により撮像された熱画像と、に基づいてエンジンブロック5の粗加工表面5a近傍の鋳巣の形態および深さを判定するためのプログラム、および、渦流検出部10および熱画像撮像部20が具備する各構成部材の動作を制御するためのプログラムを格納する構成としたが、渦流検出部10および熱画像撮像部20にそれぞれ専用の制御部を設け、当該制御部がそれぞれ。渦流検出部10および熱画像撮像部20の動作を制御し、鋳巣判定部は上記制御部からそれぞれ鋳巣判定部30が渦流センサ11により検出された渦電流の変化に係るデータと、赤外線サーモグラフィ22により撮像された熱画像に係るデータを取得し、これらに基づいてエンジンブロック5の粗加工表面5a近傍の鋳巣の形態および深さを判定する構成とすることも可能である。
【0055】
以上の如く、渦流検出工程において検出された渦電流の変化と、熱画像撮像工程において撮像された熱画像と、に基づいて鋳物の表面近傍の鋳巣の形態および深さを判定する工程を、本出願における「鋳巣判定工程」とする。
【0056】
以上の如く、本実施例の鋳巣検出方法は、
高周波電流により鋳物の表面近傍に渦電流を発生させるとともに該渦電流の変化を検出する渦流検出工程と、
該鋳物の表面の熱画像を撮像する熱画像撮像工程と、
渦流検出工程において検出された渦電流の変化と、熱画像撮像工程において撮像された熱画像と、に基づいて鋳物の表面近傍の鋳巣の形態および深さを判定する鋳巣判定工程と、
を具備するものである。
このように構成することにより、鋳物の表面に最終的な機械加工(本実施例の場合、仕上げ加工)を施す前に鋳物の表面近傍の鋳巣を精度良く検出可能であり、機械加工の無駄を防止することが可能である。
また、鋳巣を検出する際の判定基準が明確であり、(特に目視で鋳巣を検出する場合と比較して)判定結果のばらつきが少ない。
さらに、鋳巣の検出結果をデータベース等に蓄積し、鋳造工程にフィードバックすることにより、鋳巣の発生原因等の特定をより迅速かつ的確に行うことが可能となる。
【0057】
なお、本実施例では、最初に渦流検出工程を行い、次に熱画像撮像工程を行い、最後に鋳巣判定工程を行う構成としたが、最初に熱画像撮像工程を行い、次に渦流検出工程を行い、最後に鋳巣判定工程を行う構成としても略同様の効果を奏する。
また、鋳物を順に上流から下流に搬送する搬送経路の中途部に渦流検出工程を行うための設備(本実施例の場合、渦流検出部10)を設け、当該搬送経路において渦流検出工程を行うための構成要素よりも下流側に熱画像撮像工程を行うための設備(本実施例の場合、熱画像撮像部20)を設け、ある鋳物についてまず渦流検出工程を行い、次に、当該鋳物について渦流検出工程を行っている間に並行して次の鋳物について渦流検出工程を行うといった構成とすることも可能である。
【0058】
また、本実施例の鋳巣検出方法は、
前記高周波電流の周波数を変更可能であるものである。
このように構成することにより、鋳物の表面近傍に発生する渦電流の浸透深さを変更し、鋳物の表面近傍に存在する鋳巣の鋳物の表面からの深さを精度良く検出することが可能である。
【0059】
また、本実施例の鋳巣検出方法は、
前記鋳物の表面をパルス加熱し、該鋳物の表面の熱画像を撮像するタイミングをパルス加熱の周波数に応じて変更可能であるものである。
このように構成することにより、鋳巣の検出精度が向上する。
【0060】
以上の如く、本実施例の鋳巣検出装置1は、
高周波電流によりエンジンブロック5の粗加工表面5a近傍に渦電流を発生させるとともに該渦電流の変化を検出する渦流センサ11と、渦流センサ11の高周波電流を発生する発振器12と、を具備する渦流検出部10と、
エンジンブロック5の粗加工表面5a近傍を加熱する熱源21と、熱源21により加熱されるエンジンブロック5の粗加工表面5aの熱画像を撮像する赤外線サーモグラフィ22と、を具備する熱画像撮像部20と、
渦流センサ11により検出された渦電流の変化と、赤外線サーモグラフィ22により撮像された熱画像と、に基づいてエンジンブロック5の粗加工表面5a近傍の鋳巣の形態および深さを判定する鋳巣判定部30と、
を具備するものである。
このように構成することにより、エンジンブロック5の表面に最終的な機械加工(本実施例の場合、仕上げ加工)を施す前にエンジンブロック5の表面近傍の鋳巣を精度良く検出可能であり、機械加工の無駄を防止することが可能である。
また、鋳巣を検出する際の判定基準が明確であり、(特に目視で鋳巣を検出する場合と比較して)判定結果のばらつきが少ない。
さらに、鋳巣の検出結果をデータベース等に蓄積し、鋳造工程にフィードバックすることにより、鋳巣の発生原因等の特定をより迅速かつ的確に行うことが可能となる。
【0061】
また、本実施例の鋳巣検出装置1は、
渦流センサ11の高周波電流の周波数を変更可能である。
このように構成することにより、粗加工表面5a近傍に発生する渦電流の浸透深さを変更し、粗加工表面5a近傍に存在する鋳巣の粗加工表面5aからの深さを精度良く検出することが可能である。
【0062】
また、本実施例の鋳巣検出装置1の熱源21は、エンジンブロック5の粗加工表面5aをパルス加熱し、鋳巣検出装置1の赤外線サーモグラフィ22は、エンジンブロック5の粗加工表面5aの熱画像を撮像するタイミングをパルス加熱の周波数に応じて変更可能である。
このように構成することにより、鋳巣の検出精度が向上する。
【図面の簡単な説明】
【0063】
【図1】本発明に係る鋳巣検出装置の実施例を示す模式図。
【図2】鋳物の表面近傍の断面模式図。
【図3】渦流センサおよび赤外線サーモグラフィの鋳巣検出の特徴の比較図。
【図4】渦流センサおよび赤外線サーモグラフィの鋳巣検出結果を示す図。
【符号の説明】
【0064】
1 鋳巣検出装置
5 エンジンブロック(鋳物)
5a 粗加工表面(鋳物の表面)
10 渦流検出部
11 渦流センサ
12 発振器
20 熱画像撮像部
21 熱源
22 赤外線サーモグラフィ
30 鋳巣判定部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
高周波電流により鋳物の表面近傍に渦電流を発生させるとともに該渦電流の変化を検出する渦流検出工程と、
該鋳物の表面の熱画像を撮像する熱画像撮像工程と、
渦流検出工程において検出された渦電流の変化と、熱画像撮像工程において撮像された熱画像と、に基づいて鋳物の表面近傍の鋳巣の形態および深さを判定する鋳巣判定工程と、
を具備することを特徴とする鋳巣検出方法。
【請求項2】
前記高周波電流の周波数を変更可能であることを特徴とする請求項1に記載の鋳巣検出方法。
【請求項3】
前記鋳物の表面をパルス加熱し、該鋳物の表面の熱画像を撮像するタイミングをパルス加熱の周波数に応じて変更可能であることを特徴とする請求項1または請求項2に記載の鋳巣検出方法。
【請求項4】
高周波電流により鋳物の表面近傍に渦電流を発生させるとともに該渦電流の変化を検出する渦流センサと、該渦流センサの高周波電流を発生する発振器と、を具備する渦流検出部と、
該鋳物の表面近傍を加熱する熱源と、該熱源により加熱される鋳物の表面の熱画像を撮像する赤外線サーモグラフィと、を具備する熱画像撮像部と、
該渦流センサにより検出された渦電流の変化と、赤外線サーモグラフィにより撮像された熱画像と、に基づいて鋳物の表面近傍の鋳巣の形態および深さを判定する鋳巣判定部と、
を具備することを特徴とする鋳巣検出装置。
【請求項5】
前記発振器は、該渦流センサの高周波電流の周波数を変更可能であることを特徴とする請求項4に記載の鋳巣検出装置。
【請求項6】
前記熱源は、前記鋳物の表面をパルス加熱し、
前記赤外線サーモグラフィは、該鋳物の表面の熱画像を撮像するタイミングをパルス加熱の周波数に応じて変更可能であることを特徴とする請求項4または請求項5に記載の鋳巣検出装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2006−200954(P2006−200954A)
【公開日】平成18年8月3日(2006.8.3)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−11013(P2005−11013)
【出願日】平成17年1月19日(2005.1.19)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】