説明

電力変換装置及びその異常検出方法

【課題】複数のIGBT素子で構成される電力変換装置において、ゲート駆動回路の異常及びIGBT素子の異常を確実に検出して保護を行う。
【解決手段】電力変換装置の制御回路100と、各IGBTに対する指令パルスを発生するパルス発生回路200と、入力された指令パルスに応じてIGBTのオン・オフ動作制御を行う複数のゲート駆動回路400a〜400nと、各ゲート駆動回路に接続するIGBT500a〜500nと、異常検出回路300から構成し、異常検出回路にて、指令パルスRPa〜RPnとゲート駆動回路から出力されるゲートフィードバック信号FBPa〜FBPnとの不一致を判定し、不一致状態が一定時間継続した場合に異常と判定し、パルス発生回路に全指令パルスをオフさせる信号SUPを出力する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、素子の制御入力に加える電圧により導通状態を制御できる、電圧駆動型半導体素子を複数使用して電力変換を行う電力変換装置に関わり、特に電圧駆動型半導体素子の異常を検出する手段を備えた電力変換装置及びその異常検出方法に関する。
【背景技術】
【0002】
電圧駆動型半導体素子の代表的なものに絶縁ゲートバイポーラトランジスタ(Insulated Gate Bipolar Transistor:IGBTと略称)があり、電力変換装置に広く使用されている。以後、本明細書では、電圧駆動型半導体素子全般を指す言葉としてIGBTを用い、説明を行う。
【0003】
電力変換装置の保護として、電力変換装置の負荷短絡などにより発生する過電流を検出し、IGBT自身により過電流を遮断して保護する方式が広く行われている。例えば、過大電流時の飽和電圧上昇をIGBTのコレクタ電圧から検出し、ゲート電圧を低下させて過電流をIGBT自身により遮断して保護するものがある。また、IGBT内に専用の電流検出用エミッタ電極を設けて過電流を検出し、ゲート電圧を低下させて過電流をIGBT自身により遮断して保護するものもある。
【0004】
ところが、飽和電圧上昇を検出する方式では、過大電流が流れないとコレクタ電圧が上昇しないため、必然的に検出が遅れてしまう。また、高圧のコレクタ電圧をゲート駆動回路に接続するので、回路構成が複雑になるとともに、IGBTのオン・オフ動作により急激に変動するコレクタ電圧を用いるために誤動作する場合もあった。一方、電流検出用エミッタ電極を設ける方式は、IGBTの回路自体に電極を設ける必要があり、汎用品のIGBTを用いる電力変換装置では用いることができない。
【0005】
特許文献1には、絶縁ゲート型半導体素子のゲート電流を検出し、ゲート電流の立ち上がり信号からオン相当の時間を求め、当該時間をゲート指令信号と比較して両者の不一致を検出することで素子の故障を速やかに検出する絶縁ゲート型半導体素子の故障検出方法の例についての開示がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2002−281736号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
ところで、従来の方式では、いずれもIGBT自身で過電流を遮断する方式のために、IGBT自体の故障などにより電流遮断機能が失われた場合には、保護できないという問題があった。更に、ゲート駆動回路の誤動作、故障などにより、IGBTに対して誤ったオン・オフ制御が行われた場合にも保護できない問題があった。
【0008】
一方、複数のIGBTで構成される電力変換装置では、1つのIGBT素子の電流遮断失敗が他のIGBT素子の過電流の原因となり、複数のIGBT素子の破損へと波及する問題があった。
【0009】
本発明は上記事情に鑑みてなされたものであり、複数のIGBT素子で構成される電力変換装置において、ゲート駆動回路の異常及びIGBT素子の異常を確実に検出して保護を行うことにより、1つのIGBT素子の故障が他のIGBT素子の破損へと波及することを防止する保護機能を備えた、電力変換装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明は、電力変換装置の制御処理を行い、パルス発生手段にパルス発生を指示する制御回路と、制御回路からの指令に基づき、各IGBTに対するオン・オフ状態を指定する指令パルスを発生するパルス発生手段と、入力された指令パルスの状態に応じてIGBTのゲートに印加するゲート電圧の大きさを変えることにより、IGBTをオンまたはオフ動作を行わせる複数のゲート駆動手段と、各ゲート駆動手段に接続するIGBTと、ゲート駆動手段及びIGBTの異常を検出する異常検出手段から構成する。
【0011】
ゲート駆動手段であるゲート駆動回路は、指令パルスの状態に応じてIGBTのゲートに印加するゲート電圧の大きさを変えるゲート駆動部と、ゲート電圧を検出し、その大きさを閾値と比較し、閾値より高い(H)または低い(L)を示す信号を出力するゲート電圧判別部と、ゲート電流を検出し、その大きさを閾値と比較し、閾値より大きい(H)または小さい(L)を示す信号を出力するゲート電流判別部と、ゲート電圧判別部の出力とゲート電流判別部の出力とを入力してIGBTのオン・オフ状態を示すゲートフィードバック信号を出力するゲートフィードバック作成部及び電源部より構成する。
【0012】
また、異常検出手段である異常検出回路は、パルス発生手段が各ゲート駆動手段に対して出力した指令パルスと、パルス発生回路に接続する複数のゲート駆動手段から出力されるゲートフィードバック信号とを入力し、指令パルスと各ゲートフィードバック信号とが一致しているかを判定する。判定の結果、異常を検出した場合は、パルス発生手段に全指令パルスをオフさせる信号(サプレス信号)を発生させる指令を出力する。それにより、電力変換装置を構成する各IGBTが全てオフ状態となり、電力変換装置が停止する。
【0013】
このように本発明では、異常検出時に電力変換装置を構成する全てのIGBTでオフ動作を行うので、たとえ一個のIGBTが電流遮断を行えなくとも、その電流経路にある他のIGBTがオフ状態になり電流を遮断するため、他のIGBTを保護することができる。
【発明の効果】
【0014】
本発明によると、複数のIGBTで構成される電力変換装置において、IGBTの異常を検出するとともに、電力変換装置を構成する全てのIGBTでオフ動作を行うことにより、1つのIGBT素子の故障が他のIGBT素子の破損へと波及することを防止することができる。また、異常検出時には、パルス発生手段によりオフ動作を行うため、ゲート駆動手段またはIGBT自身に異常がある場合でも、全てのIGBTを確実にオフ状態とすることができ、他のIGBTを保護することができる。
【0015】
ここで、ゲート駆動手段は、指令パルスがHレベル時にはIGBTのゲートに正の一定電圧を印加し、Lレベル時には負の一定電圧を印加する動作を行う。そのため、IGBTのゲート電圧と指令パルスのレベルが対応しない場合は、ゲート駆動手段の異常またはIGBTの異常であると考えられる。また、一般に、IGBTなどの電圧駆動型半導体素子は、印加するゲート電圧を変化させた直後の短時間には、ゲート容量を充放電するためのゲート電流が流れるが、その他の定常時には流れない。そのため、印加するゲート電圧を変化させていないにもかかわらず一定時間以上ゲート電流が流れる場合には、IGBTの異常状態であると判定できる。
【0016】
本発明では、以上のようなIGBTの特性を利用して異常検出するために、ゲート駆動手段にゲート電圧判定部及びゲート電流判定部を設け、IGBTのゲート電圧と指令パルスとが一致しない場合に加え、ゲート電流と指令パルスとの不一致も検出することができるため、ゲート駆動手段の異常またはIGBT素子の異常を確実に検出して保護することができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】本発明の一実施の形態による全体構成例を示すブロック図である。
【図2】本発明の一実施の形態によるゲート電圧判別部の動作特性例を示す説明図である。
【図3】本発明の一実施の形態によるゲート電流判別部の動作特性例を示す説明図である。
【図4】本発明の一実施の形態によるゲートフィードバック作成部の構成例を示す説明図である。
【図5】本発明の一実施の形態による異常検出回路の構成例を示すブロック図である。
【図6】本発明の一実施の形態による正常時の動作例を示す説明図である。
【図7】本発明の一実施の形態による異常時の動作例(1)を示す説明図である。
【図8】本発明の一実施の形態による異常時の動作例(2)を示す説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、本発明の一実施の形態を、添付図面を参照して説明する。
【0019】
図1は、本発明の一実施の形態による電力変換装置の構成例を示すブロック図である。図1を参照して本例の一実施の形態による全体構成について説明する。
【0020】
本例は、電力変換装置の動作を制御する制御回路100と、制御回路100の指示に従い、IGBTのオン・オフを指令する指令パルス発生を行うパルス発生手段であるパルス発生回路200と、パルス発生回路200から指令パルスを入力し、指令パルスの状態に応じてIGBTのゲートに印加するゲート電圧の大きさを変えることにより、IGBTをオンまたはオフ動作を行わせるゲート駆動手段であるゲート駆動回路400aと、IGBT素子500aと、ゲート駆動回路またはIGBTの異常を検出し、異常発生時にはパルス発生回路200のパルス発生を停止するための信号SUPを出力する異常検出手段である異常検出回路300から構成する。なお、電力変換装置は、複数のIGBT(500a〜500n)及び複数のゲート駆動回路(400a〜400n)で構成するが、それらの構成や動作はすべて同一であるので、図1では一個のIGBT500aとそのゲート駆動回路400aのみ示し、他は省略する。
【0021】
ゲート駆動回路400aは、パルス発生回路200が発生する指令パルスRPaを入力し、指令パルスRPaに応じた電圧をゲート電圧として印加し、IGBT500aのオン・オフ動作を制御するゲート駆動部401aと、ゲート駆動回路400aの各部で必要とする電源を供給する電源部402aと、ゲート電圧Vgaを入力し、ゲート電圧の判別を行うゲート電圧判別部403aと、ゲート電流Igaを入力し、ゲート電流を判別するゲート電流判別部404aと、ゲート電圧判別部403aから出力されるゲート電圧フィードバックパルスVFBa及びゲート電流判別部404aから出力されるゲート電流フィードバックパルスIFBaを入力し、ゲートフィードバックパルスFBPaを出力するゲートフィードバック作成部405aと、ゲート抵抗406aから構成する。
【0022】
次に、ゲート駆動回路400aの各部の動作について説明する。
【0023】
ゲート駆動部401aは、パルス発生回路200が発生する指令パルスRPaを入力し、指令パルスRPaがHレベルの場合は、IGBT500aのゲートに正の一定電圧を印加してオン動作させ、指令パルスRpaがLレベルの場合は、負の一定電圧を印加してオフ動作させるよう制御する。
【0024】
ゲート電圧判別部403aは、IGBT500aのゲート電圧Vgaを入力し、ゲート電圧フィードバックパルスVFBaを発生する。図2にゲート電圧判別部403aの動作特性を示す。本例では、ゲート電圧を判定するために一定の判定レベルVthを設定し、入力したゲート電圧Vgaが、Vthより小さい場合(Vga<Vth)にはLレベル、Vgaが、Vth以上の場合(Vga≧Vth)にはHレベルと判定し、その判定結果に対応するゲート電圧フィードバックパルスVFBaを生成し、出力する。
【0025】
ゲート電流判別部404aは、IGBT500aのゲート電流Igaをゲート抵抗406aの電圧として入力し、ゲート電流フィードバックパルスIFBaを発生する。図3にゲート電流判別部404aの動作特性を示す。本例では、ゲート電流を判定するために一定の判定レベルIthを設定し、入力したゲート電流Igaの絶対値が、Ithより小さい場合(−Ith<Iga<+Ith)にはLレベル、ゲート電流Igaの絶対値が、Ith以上の場合(Iga≦−Ith、Iga≧+Ith)にはHレベルと判定し、その判定結果に対応するゲート電流フィードバックパルスIFBaを生成し、出力する。
【0026】
次に、ゲートフィードバック作成部405aの動作について説明する。図4に本例のゲートフィードバック作成部405aの構成例を示す。ゲートフィードバック作成部405aには、ゲート電圧判別部403aが出力するゲート電圧フィードバックパルスVFBaと、ゲート電流判別部404aが出力するゲート電流フィードバックパルスIFBaとを入力し、入力したパルスの排他的論理和をとり、その結果をHレベルまたはLレベルの信号であるゲートフィードバックパルスFBPaとして出力する。ゲートフィードバックパルスFBPaは、IGBT500aのオン・オフ状態を異常検出回路300に通知する信号となる。ゲートフィードバック作成部405aの動作の詳細については、図6〜図8を用いて説明する。
【0027】
図5に、本例における異常検出回路300の構成例を示す。図5を参照して、異常検出回路300の構成と動作について説明する。
【0028】
異常検出回路300は、パルス発生回路200から出力された指令パルスRPa〜RPnと、ゲートフィードバックパルスFBPa〜FBPnとを入力し、それらの不一致を検出するための排他的論理和演算回路304a〜304nと、論理和演算回路303と、不一致が発生した場合にその不一致が一定時間継続することを検知する手段として、一定周波数のクロック信号を発生する発振回路301と、クロック信号をカウントするカウンタ302から構成する。排他的論理和演算回路304a〜304nには、パルス発生回路200から各ゲート駆動回路400a〜400nに対して出力された指令パルスRPa〜RPnと、各ゲート駆動回路のゲートフィードバック作成部405a〜405nから出力されるゲートフィードバックパルスFBPa〜FBPnをそれぞれ入力し、指令パルスRPa〜RPnとゲートフィードバックパルスFBPa〜FBPnとの排他的論理和をとる。論理和演算回路303には、排他的論理和演算回路304a〜304nの結果を入力し、それらの論理和をとる。
【0029】
カウンタ302は、発振回路301から入力されるクロック入力CLK、カウント動作許可入力EN、カウンタクリア入力CLR、カウンタオーバフロー出力OVFを備える。カウンタ302は、カウント動作許可入力ENがHレベルかつカウンタクリア入力CLRがHレベルのときに、クロック入力CLKが変化する毎にカウント動作を行う。また、カウンタクリア入力CLRにLレベル信号が入力されると、カウンタをゼロクリアする。カウンタにはオーバフローを検出するための上限値を設定しておき、カウント値が上限値に達すると、カウンタオーバフロー出力OVFをHレベル信号として出力する。カウンタオーバフロー出力は、パルス発生回路200のパルス発生を停止するための信号SUPとなる。
【0030】
ここで、カウンタクリア入力CLRとカウント動作許可入力ENは、論理和演算回路303の出力信号を入力している。論理和演算回路303は、排他的論理和演算回路304a〜304nの結果を入力しており、この排他的論理和演算回路304a〜304nの結果のいずれかがHレベルの場合に、論理和演算回路303の出力信号がHレベルとなる。そのため、論理和演算回路303の出力信号がHレベルの場合は、指令パルスRPa〜RPnとゲートフィードバックパルスFBPa〜FBPnのいずれかに不一致が発生している状態であると判断できる。
【0031】
指令パルスとゲートフィードバックパルスが一致しない状態として、指令パルスとIGBTのオン・オフ状態が一致しない場合がある。また、一般に、IGBTでは、印加するゲート電圧を変化させた直後の短時間には、ゲート容量を充放電するためのゲート電流が流れるが、その他の定常時には流れない。そのため、ゲート電圧の変化に伴うゲート電流の発生中には、指令パルスとゲートフィードバックパルスとの不一致が発生する場合がある。しかし、これらの不一致状態が復帰せず、一定時間継続した場合には、何らかの異常が発生したものと判断することができる。そこで、本例では、異常発生を判定するための閾値としてカウンタの上限値を設けた。カウンタ302は、論理和演算回路303の出力がHレベルの間カウントを続け、Hレベルの状態が一定時間継続すると、カウント値が上限値に達してカウンタオーバフロー出力OVFがHレベルとなるように構成した。カウンタオーバフロー出力OVFは、パルス発生回路200への出力信号SUPとして出力し、Hレベルの出力信号SUPを入力したパルス発生回路200は、全指令パルスを停止し、その結果、電力変換装置を構成する各IGBTが全てオフ状態となり、電力変換装置が停止する。
【0032】
このように、本例では、異常検出回路300により異常を確実に検出すると共に、パルス発生回路200が全指令パルスを停止してIGBTを全てオフ状態とすることで、健全なIGBTを保護することができる。
【0033】
なお、本例では、指令パルスとゲートフィードバックパルスとの不一致状態が一定時間継続したことを検知する手段として発振回路とカウンタを設けたが、論理和演算回路303の出力がHレベルの状態が継続する時間を判定し、閾値を超えたことを通知することができれば、他の手段でもよい。
【0034】
次に、図6〜図8を参照して本例の動作について説明する。図6は正常時の動作を、図7、図8は異常時の動作を示している。
【0035】
まず、図6を参照して正常時の動作について説明する。図6には、上からパルス発生回路200から出力する指令パルスRPa、IGBT500aのゲート電圧Vga、ゲート電流Iga、ゲート電圧判別部403aから出力されるゲート電圧フィードバックパルスVFBa、ゲート電流判別部404aから出力されるゲート電流フィードバックパルスIFBa、ゲートフィードバック作成部405aから出力されるゲートフィードバックパルスFBPa、排他的論理和演算回路304aの出力信号、論理和演算回路303の出力信号、カウンタ302のカウント値、異常検出回路300の出力信号SUPを表している。
【0036】
t1において、指令パルスRPaがLレベルからHレベルに変化すると、ゲート電圧Vgaは−Vから+Vに変化する。このとき、IGBT500aのゲート容量を充電するために正のゲート電流Igaが流れる。ゲート電圧Vgaが−Vから+Vに変化したため、ゲート電圧Vgaが判定レベルVth以上になった時点で、ゲート電圧判別部403aの出力信号であるゲート電圧フィードバックパルスVFBaはLレベルからHレベルとなる。
【0037】
一方、ゲート電流Igaが一定値+Ith以上流れている間、ゲート電流判別部404aの出力信号であるゲート電流フィードバックパルスIFBaがHレベルとなり、充電が終了してゲート電流Igaが一定値+Ithより小さくなると、ゲート電流フィードバックパルスIFBaはLレベルとなる。
【0038】
ゲートフィードバック作成部405aは、ゲート電圧フィードバックパルスVFBaとゲート電流フィードバックパルスIFBaの排他的論理和をとるため、出力信号であるゲートフィードバックパルスFBPaは図示したようになる。
【0039】
異常検出回路300の排他的論理和演算回路304aは、指令パルスRPaとゲートフィードバックパルスFBPaを入力し、排他的論理和をとるため、その出力信号は図示したようになる。また、排他的論理和演算回路304aの出力信号を入力とする論理和演算回路303の出力も図示したようになる。ここでは、例として排他的論理和演算回路がひとつの場合を示しているため、排他的論理和演算回路304aの出力信号と同様の出力となる。
【0040】
カウンタ302は、論理和演算回路303の出力信号がHレベルの間、カウント値を増加させるが、オーバフローを検出するための上限値に達する前にLレベルに戻るので、カウント値はクリアされる。その結果、異常検出回路300の出力信号SUPは、Hレベルとはならない。
【0041】
t2において、指令パルスRPaがHレベルからLレベルに変化すると、ゲート電圧Vgaは+Vから−Vに変化する。このとき、IGBT500aのゲート容量を放電するために負のゲート電流Igaが流れる。ゲート電圧Vgaが+Vから−Vに変化したため、ゲート電圧Vgaが判定レベルVthより低くなった時点で、ゲート電圧判別部403aの出力信号であるゲート電圧フィードバックパルスVFBaはHレベルからLレベルとなる。
【0042】
一方、ゲート電流Igaが一定値−Ith以下となっている間、ゲート電流判別部404aの出力信号であるゲート電流フィードバックパルスIFBaはHレベルとなり、充電が終了してゲート電流Igaが一定値−Ithより大きくなると、ゲート電流フィードバックパルスIFBaはLレベルとなる。
【0043】
以降は同様に動作して、異常検出回路300の出力信号SUPはHレベルとはならない。
【0044】
次に、図7を参照して異常発生時の動作について説明する。なお、図7に示す信号は図6に示したものと同様である。
【0045】
図7において、t3の時点で指令パルスRPaがHレベルからLレベルに変化した場合の動作については、図6で示した正常時の動作と同様である。
【0046】
ここで、t4の時点でIGBT500aに故障が発生したとする。IGBT500aに故障が発生すると、ゲート電流Igaが流れ出す。この電流は、IGBTのコレクタ、ゲート間の帰還容量を介して、または、コレクタとゲートが導通状態になりコレクタ電流がゲートに流出したもの、あるいはゲート、エミッタ間が導通状態となり、ゲート電流が流れたものなど、IGBTの異常に起因するものである。
【0047】
この結果、ゲート電流Igaが一定値−Ith以下になると、ゲート電流判別部404aの出力信号であるゲート電流フィードバックパルスIFBaはHレベルとなり、ゲートフィードバック作成部405aの出力信号であるゲートフィードバックパルスFBPaもHレベルとなる。そして、指令パルスRPaとゲートフィードバックパルスFBPaを入力し排他的論理和をとる、異常検出回路300の排他的論理和演算回路304aもHレベルとなり、論理和演算回路303の出力も同様になる。
【0048】
カウンタ302は、論理和演算回路303の出力信号がHレベルの間、カウント値を増加させ、論理和演算回路303の出力が一定時間以上Hレベルの状態を継続すると、t5時点でカウンタ302のカウント値が上限値に達する。その結果、異常検出回路300の出力信号SUPがHレベルとなり、この時点で異常が発生したと判定される。
【0049】
異常検出回路300の出力信号SUPを入力したパルス発生回路200は、パルス発生を停止し、指令パルスRPa〜RPnの全てがLレベルとなる。そのため、IGBT500a〜IGBT500nが全てオフ状態となり、電力変換装置は動作を停止する。これにより、異常が発生したIGBTを含むすべてのIGBTは停止するため、過電流を遮断することができ、正常なIGBTを保護することが可能となる。
【0050】
次に、図8を参照して、他の異常発生時の動作について説明する。なお、図8に示す信号は図6に示したものと同様である。
【0051】
ここで、t6の時点でゲート駆動部401aが誤動作し、指令パルスRPaに対応しないゲート電圧Vgaが発生したとする。これにより、ゲート電圧判別部403aの出力であるゲート電圧フィードバックパルスVFBaがHレベルとなり、ゲートフィードバック作成部405aの出力信号であるゲートフィードバックパルスFBPaもHレベルとなる。その結果、図7で説明した動作と同様に動作し、異常検出回路300の論理和演算回路303の出力もHレベルとなり、t7時点でカウンタ302のカウント値が上限値に達する。そして、異常検出回路300の出力信号SUPがHレベルとなり、パルス発生回路200がパルス発生を停止することによってIGBT500a〜IGBT500nが全てオフ状態となり、電力変換装置は動作を停止する。
【0052】
また、上記異常例の他にも、電源部402aに異常が生じた場合には、各回路部のいずれかが異常となる。その結果、ゲートフィードバックパルスFBPaが正常時とは異なる波形となるため、異常検出回路300で異常が検出され、電力変換装置は動作を停止する。更に、ゲート電圧判別部403a、ゲート電流判別部404a、ゲートフィードバック作成部405aに異常が生じた場合にも、ゲートフィードバックパルスFBPaが正常時とは異なる波形となることで検出される。
【0053】
このように、本例では、IGBT素子、IGBT素子を駆動するゲート駆動回路のいずれに異常が生じた場合にも、確実に異常を検出することができ、異常検出時には、パルス発生回路のパルスを停止することで電力変換装置及びIGBT素子を確実に保護することができる。
【符号の説明】
【0054】
100…制御回路、200…パルス発生回路、300…異常検出回路、301…発振回路、302…カウンタ、303…論理和演算回路、304…排他的論理和演算回路、400…ゲート駆動回路、401…ゲート駆動部、402…電源部、403…ゲート電圧判別部、404…ゲート電流判別部、405…ゲートフィードバック作成部、406…ゲート抵抗、500…IGBT

【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数の電圧制御型半導体素子を用いて構成された電力変換装置において、
制御回路からの指令に基づき、前記電圧制御型半導体素子のオン・オフを制御するための指令パルスを発生するパルス発生手段と、
前記指令パルスを入力し、指令パルスに応じた電圧をゲート電圧として印加することにより、前記電圧制御型半導体素子のオン・オフ動作を制御し、前記電圧制御型半導体素子のオン・オフ状態を示すゲートフィードバック信号を出力する手段を備えたゲート駆動手段と、
前記指令パルスと前記ゲートフィードバック信号とを入力し、異常を検出する異常検出手段から構成し、
前記異常検出手段は、入力した前記指令パルスと前記ゲートフィードバック信号との不一致を検出する手段と、その不一致が一定時間継続したことを検知する手段と、一定時間継続した場合には前記パルス発生手段に対し、すべての電圧制御型半導体素子に対する指令パルスを停止するための信号を発生する手段とを備える電力変換装置。
【請求項2】
請求項1記載の電力変換装置において、
前記ゲート駆動手段が備えるゲートフィードバック信号を出力する手段は、
制御対象の電圧制御型半導体素子のゲート電圧を入力し、電圧の高低を判別する手段と、制御対象の電圧制御型半導体素子のゲート電流を入力し、電流の有無を判別する手段とを備え、
前記ゲート電圧とゲート電流の状態を基に、前記電圧制御型半導体素子の状態をゲートフィードバック信号として出力し、異常を検出することを特徴とする電力変換装置。
【請求項3】
パルス発生手段から発生された指令パルスを入力し、指令パルスに応じた電圧をゲート電圧として印加することにより、電圧制御型半導体素子のオン・オフ動作を制御するゲート駆動手段、及び前記ゲート駆動手段により制御される電圧制御型半導体素子の異常検出方法において、
前記指令パルスと、前記電圧制御型半導体素子のオン・オフ状態を示すゲートフィードバック信号とを比較して両者の不一致を検出し、その不一致が一定時間継続したことを検知することにより異常を検出する電力変換装置の異常検出方法。
【請求項4】
請求項3記載の異常検出方法において、
前記指令パルスと、前記電圧制御型半導体素子のオン・オフ状態を示すゲートフィードバック信号との不一致を判定する方法は、
前記電圧制御型半導体素子のゲート電圧及びゲート電流を検出し、ゲート電圧が一定値以上の場合はHレベル、一定値より小さい場合はLレベルと判定し、ゲート電流の絶対値が一定値以上の場合はHレベル、一定値より小さい場合はLレベルと判定し、
ゲート電圧及びゲート電流のいずれかがHレベルの場合にHレベルと判定し、その判定結果と、前記指令パルスとの排他的論理和をとり、その結果がHレベルの場合は、両者が不一致であると判定することを特徴とする電力変換装置の異常検出方法。
【請求項5】
請求項3記載の異常検出方法において、
前記指令パルスと、前記ゲートフィードバック信号とが不一致である間、一定周期で時間経過を計測し、その計測回数が一定値以上になったことで不一致状態が一定時間継続したと判定することを特徴とする電力変換装置の異常検出方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2009−165348(P2009−165348A)
【公開日】平成21年7月23日(2009.7.23)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−89540(P2009−89540)
【出願日】平成21年4月1日(2009.4.1)
【分割の表示】特願2006−225600(P2006−225600)の分割
【原出願日】平成18年8月22日(2006.8.22)
【出願人】(000005108)株式会社日立製作所 (27,607)
【Fターム(参考)】