説明

電力用半導体装置

【課題】放熱性が高く、軽量で低価格なインバータ装置用の電力用半導体装置を提供する。
【解決手段】実施形態の半導体装置は、第1の導電体10、第2の導電体20、第1の半導体チップ41、放熱板1、及び樹脂9を備える。第1の導電体は、第1の主面11と第1の主面に対向する第2の主面12とを有する第1の部分10Aを有し、第1の主面に直交する第3の主面13と第3の主面に対向し第3の主面から離れながら第2の主面に連続する第4の主面14とを有する第2の部分10Bを有する。第2の導電体は、第5の主面21と前記第5の主面に対向する第6の主面22とを有する第3の部分20Aを有し、第5の主面に直交する第7の主面23と第7の主面に対向し第7の主面から離れながら第6の主面に連続する第8の主面24とを有する第4の部分20Bを有する。第1の半導体チップは、第1の導電体の第3の主面と第2の導電体の第7の主面との間に挟まれる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明の実施形態は、インバータ装置に用いられる電力用半導体装置に関する。
【背景技術】
【0002】
電車、電気自動車、及びエアーコンディショナーなどのモーター駆動用のインバータ装置には、電力用半導体装置が用いられる。これらの電力用半導体装置には、大電流による発熱の影響を小さくするために、放熱性の高い構造が求められる。一例として、放熱板の上に設けられた2つの導電体の間に半導体素子が挟まれた構造を有する電力用半導体装置がある。この電力用半導体装置では、半導体素子の表面と裏面の両方から導電体を介して放熱板に放熱されるため、放熱性が向上される。しかしながら、これらの電力用半導体装置は、小型化、軽量化、及び低価格化がさらに求められる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2009−21445号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
放熱性が高く、軽量で低価格なインバータ装置用の電力用半導体装置を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0005】
実施形態の電力用半導体装置は、第1の導電体と、第2の導電体と、第1の半導体チップと、放熱板と、樹脂とを備える。第1の導電体は、第1の部分と第2の部分とを有する。第1の部分は、第1の主面と第1の主面の反対側にある第2の主面とを有する。第2の部分は、第1の主面に直交する第3の主面と、第3の主面の反対側にあり第1の主面に向かうほど第3の主面から離れながら第2の主面に連続する第4の主面と、を有する。第2の導電体は、第3の部分と第4の部分とを有する。第3の部分は、第5の主面と前記第5の主面の反対側にある第6の主面とを有する。第4の部分は、第5の主面に直交する第7の主面と、第7の主面の反対側にあり第5の主面に向かうほど第7の主面から離れながら第6の主面に連続する第8の主面とを有する。第1の半導体チップは、第1の導電体の第3の主面と第2の導電体の第7の主面との間に挟まれ、裏面に第1の電極を有し、表面に第2の電極を有する。第1の電極は、第1の導電体の第3の主面に電気的に接続される。第2の電極は、第2の導電体の第7の主面に電気的に接続される。第1の電極と第2の電極との間に電流が流れる。放熱板は、絶縁シートを介して第1の導電体の第1の主面及び第2の導電体の第5の主面に接合される。樹脂は、第1の導電体及び第2の導電体を封止する。
【図面の簡単な説明】
【0006】
【図1】第1の実施形態に係るインバータ装置の回路図。
【図2】第1の実施形態に係る電力用半導体装置の要部斜視図。
【図3】第1の実施形態に係る電力用半導体装置の図2のA−A線における断面図。
【図4】第1の実施形態に係る電力用半導体装置に用いられる導電体の加工法を説明する断面図。
【図5】第1の実施形態に係る電力用半導体装置に用いられる導電体の加工法を説明する断面図。
【図6】第1の実施形態に係る電力用半導体装置の効果を説明する要部断面図。
【図7】比較例1の電力用半導体装置の放熱性を説明する要部断面図。
【図8】比較例2の電力用半導体装置の放熱性を説明する要部断面図。
【図9】第2の実施形態に係るインバータ装置の回路図。
【図10】第2の実施形態に係る電力用半導体装置の要部斜視図。
【図11】第2の実施形態に係る電力用半導体装置の図10のB−B線における断面図。
【発明を実施するための形態】
【0007】
以下、本発明の実施の形態について図を参照しながら説明する。実施の形態中の説明で使用する図は、説明を容易にするための模式的なものであり、図中の各要素の形状、寸法、大小関係などは、実際の実施においては必ずしも図に示されたとおりとは限らず、本発明の効果が得られる範囲内で適宜変更可能である。
【0008】
(第1の実施の形態)
図1は、第1の実施形態に係る三相インバータ装置100の回路図である。三相インバータ装置100は、直流電源6と、コンデンサ7と、U相、V相、及びW相の各交流電力を出力する3つの電力用半導体装置101と、出力部8と、を備える。コンデンサ7の両端は、直流電源の両端に接続される。電力用半導体装置101は、正の電極端子101A、負の電極端子101B、及び出力端子101Cを有する。3つの電力用半導体装置101のそれぞれの正の電極端子101Aは直流電源の正極側に、それぞれの負の電極端子101Bは直流電源の負極側にそれぞれ接続される。また、それぞれの出力端子101Cは、出力部8に接続される。
【0009】
電力用半導体装置101は、上段のIGBT(Insulated Gate Bipolar Transistor)41、上段のダイオード51、下段のIGBT42、及び下段のダイオード52を備える。上段のIGBTのコレクタ電極は、電力用半導体装置101の正の電極端子101Aに接続され、エミッタ電極は、下段のIGBT42のコレクタ電極に接続される。上段のダイオード51のカソード電極及びアノード電極は、それぞれ、上段のIGBT41のコレクタ電極及びエミッタ電極に接続される。下段のIGBT42のエミッタ電極は、電力用半導体装置101の負の電極端子101Bに接続される。下段のダイオード52のカソード電極及びアノード電極は、それぞれ、下段のIGBT42のコレクタ電極及びエミッタ電極に接続される。上段のIGBT41のエミッタ電極と下段のIGBT42のコレクタ電極42との接続部分は、電力用半導体装置101の出力端子101Cに接続される。各相の電力用半導体装置101の出力端子101Cは、U相、V相、及びW相のそれぞれの出力部8に接続される。三相インバータ相100の出力部8から、三相交流が出力される。
【0010】
図2は、本実施形態に係る上記電力用半導体装置101の実施例の要部斜視図である。図2は、樹脂を省略して示した図である。図3は、図2の斜視図のA−A線における要部断面図である。図2及び図3に示したように、本実施形態に係る電力用半導体装置101は、第1の導電体10、第2の導電体20、第3の導電体30、上段のIGBT41、上段のダイオード51、下段のIGBT42、下段のダイオード52、放熱板、及び樹脂を備える。
【0011】
第1の導電体10は、第1の部分10Aと第2の部分10Bとを有する。第1の部分10Aは、第1の主面11と第1の主面11の反対側にある第2の主面12とを有する。第2の部分10Bは、第1の主面11に直交する第3の主面13と、第3の主面13の反対側にあり第1の主面11に向かうほど第3の主面13から離れながら第2の主面12に連続する第4の主面14と、を有する。第4の主面14が第1の主面11に向かうほど第3の主面13と離れながら第2の主面12に連続する部分18(以後、第1の導電体の内側コーナー部)は、第1の主面11と第3の主面13とが直交する部分19(以後、第1の導電体の外側コーナー部)に向かって湾曲した表面を有する。
【0012】
すなわち、第1の導電体10は、四角柱の1つの角部にL字型の溝が形成された形状を有する。L字型の溝の側壁が、上記第2の部分の第4の主面14に相当する。また、L字型の溝の底部が、上記第1の部分の第2の主面12に相当する。本実施形態では、第1の導電体10の内側コーナー部18の断面形状は、一例として、4分の1の円弧の形状を有するが、なめらかに湾曲した形状であれば、これ以外の形状でも勿論可能である。例えば、第1の導電体の内側コーナー部は、直線状の断面形状を有し、第4の主面から第2の主面に延伸する平面であることも可能である。
【0013】
第2の導電体20は、第3の部分20A、第4の部分20B、及び第5の部分20Cを有する。第3の部分20Aは、第5の主面21と第5の主面の反対側にある第6の主面22とを有する。第4の部分20Bは、第5の主面21に直交する第7の主面23と、第7の主面23の反対側にあり第5の主面21に向かうほど第7の主面23から離れながら第6の主面22に連続する第8の主面24と、を有する。第8の主面24が第5の主面21に向かうほど第7の主面23から離れながら第6の主面22に連続する部分28A(一方の第2の導電体の内側コーナー部)は、第1の導電体10同様に、第5の主面21と第7の主面23とが直交する部分29A(一方の第2の導電体の外側コーナー部)に向かって湾曲した表面を有する。第5の部分20Cは、第5の主面21に直交する第9の主面25と、第9の主面25の反対側にあり第5の主面21に向かうほど第9の主面25から離れながら第6の主面22に連続する第10の主面26と、を有する。第10の主面が第5の主面21に向かうほど第9の主面25から離れながら第6の主面22に連続する部分28B(他方の第2の導電体の内側コーナー部)は、第1の導電体同様に、第5の主面21と第9の主面25とが直交する部分29B(他方の第2の導電体の外側コーナー部)に向かって湾曲した表面を有する。
【0014】
すなわち、第2の導電体20は、四角柱の1つの主面から内部に向かって延伸するU字型の溝が形成された形状を有する。U字型の溝の側壁が、それぞれ上記第4の部分の第8の主面24と上記第5の部分の第10の主面26に相当する。また、U字型の溝の底部が、上記第3の部分20Aの第6の主面22に相当する。本実施形態では、U字型の底部周辺の断面形状が半円形状に近い形状になっているため、第6の主面22が平面として認識することが難しい。このような場合は、第6の主面は、上記U字型の溝の底部に形成され、第5の主面と平行な平面で面積が限りなくゼロに近い平面として考えることとする。電力用半導体装置101の設計に応じて、第2の導電体20の第4の部分20Bと第5の部分20Cとの間隔(第2の導電体の内側コーナー部28A、28Bの間隔)が本実施形態より広い場合は、第6の主面は、第5の主面と平行な平面で、視認できる面積を有する平面とすることができる。本実施形態では、第2の導電体の内側コーナー部28A、28Bの断面形状は、一例として、4分の1の円弧の形状を有するが、なめらかに湾曲した形状であれば、これ以外の形状でも勿論可能である。例えば、第2の導電体の内側コーナー部28A、28Bは、直線状の断面形状を有し、第8の主面(又は第10の主面)から第6の主面に延伸する平面であることも可能である。
【0015】
上段のIGBTチップ41(第1の半導体チップ)は、裏面にコレクタ電極(第1の電極)を有し、表面にエミッタ電極(第2の電極)とゲート電極を有する(各電極の詳細は図示せず)。コレクタ電極は、アルミニウム又は銅などで構成された導電板61を介して第1の導電体10の第3の主面13に電気的に接続される。エミッタ電極は、エミッタ電極側に凸部を有するアルミニウム又は銅などで構成された導電板62を介して第2の導電体20の第7の主面23に電気的に接続される。電極と導電板61、62と、及び導電板61、62と第1の導電体10又は第2の導電体20とは、図示しない半田により接合される。本実施形態では、第1の導電体又は第2の導電体は、導電板61、62を介して上段のIGBTチップ41の各電極に電気的に接続されるが、直接半田により電気的に接続されることも勿論可能である。ゲート電極は、エミッタ電極及び第2の導電体20と絶縁され、電力用半導体装置101のゲート端子に電気的に接続される(詳細は図示せず)。本実施形態では、上段のIGBTチップ41は、2つのIGBT41が並列に電気的に接続される。電力用半導体装置101の電流の容量に応じて、複数のIGBT41が並列接続される。
【0016】
上段のダイオード51(こちらを第1の半導体チップとすることも可能)が、上段のIGBT41と並列に電気的に接続される。すなわち、上段のダイオード51のカソード電極が上段のIGBT41のコレクタ電極に接続され、上段のダイオード51のアノード電極が上段のIGBT41のエミッタ電極に接続される(詳細は図示せず)。上段のダイオード51は、複数の上段のIGBT41のそれぞれに並列に電気的に接続される。上段のダイオード51は、スイッチング特性に優れるFRD(Fast Recovery Diode)が望ましい。上段のIGBT41及び上段のダイオード51は、三相インバータ装置100の各相の上段スイッチを構成する。
【0017】
第3の導電体30は、第6の部分30Aと第7の部分30Bとを有する。第6の部分30Aは、第11の主面31と第11の主面31の反対側にある第12の主面32とを有する。第7の部分30Bは、第11の主面31に直交する第13の主面33と、第13の主面33の反対側にあり第11の主面31に向かうほど第13の主面33から離れながら第12の主面32に連続する第14の主面34と、を有する。第14の主面34が第11の主面31に向かうほど第13の主面33と離れながら第12の主面32に連続する部分38(以後、第3の導電体の内側コーナー部)は、第11の主面31と第13の主面33とが直交する部分39(以後、第3の導電体の外側コーナー部)に向かって湾曲した表面を有する。
【0018】
すなわち、第3の導電体30は、四角柱の1つの角部にL字型の溝が形成された形状を有する。L字型の溝の側壁が、上記第7の部分の第14の主面34に相当する。また、L字型の溝の底部が、上記第6の部分の第12の主面32に相当する。本実施形態では、第3の導電体30の内側コーナー部38の断面形状は、一例として、4分の1の円弧の形状を有するが、なめらかに湾曲した形状であれば、これ以外の形状でも勿論可能である。例えば、第3の導電体30の内側コーナー部28は、直線状の断面形状を有し、第14の主34面から第12の主面32に延伸する平面であることも可能である。
【0019】
下段のIGBTチップ42(第2の半導体チップ)は、裏面にコレクタ電極(第3の電極)を有し、表面にエミッタ電極(第4の電極)とゲート電極とを有する(各電極の詳細は図示せず)。コレクタ電極は、アルミニウム又は銅などで構成された導電板61を介して第2の導電体20の第10の主面25に電気的に接続される。エミッタ電極は、エミッタ電極側に凸部を有するアルミニウム又は銅などで構成された導電板62を介して第3の導電体30の第13の主面33に電気的に接続される。電極と導電板61、62と、及び導電板61、62と第2の導電体20又は第3の導電体30とは、図示しない半田により接合される。本実施形態では、第2の導電体又は第3の導電体は、導電板61、62を介して下段のIGBTチップ42の各電極に電気的に接続されるが、直接半田により電気的に接続されることも勿論可能である。ゲート電極は、エミッタ電極及び第3の導電体30と絶縁され、電力用半導体装置101のゲート端子に電気的に接続される(詳細は図示せず)。本実施形態では、下段のIGBTチップ42は、2つのIGBT42が並列に電気的に接続される。電力用半導体装置101の電流の容量に応じて、複数のIGBT42が並列接続される。
【0020】
下段のダイオード52(こちらを第2の半導体チップとすることも可能)が、下段のIGBT42と並列に電気的に接続される。すなわち、下段のダイオード52のカソード電極が下段のIGBT42のコレクタ電極に接続され、下段のダイオード52のアノード電極が下段のIGBT42のエミッタ電極に接続される(詳細は図示せず)。下段のダイオード52は、複数の下段のIGBT42のそれぞれに並列に電気的に接続される。下段のダイオード52は、スイッチング特性に優れるFRD(Fast Recovery Diode)が望ましい。下段のIGBT42及び下段のダイオード52は、三相インバータ装置100の各相の下段スイッチを構成する。
【0021】
放熱板1が、第1の導電体10の第1の主面11、第2の導電体20の第5の主面21、及び第3の導電体30の第11の主面31に、絶縁シート2を介して接合される。樹脂9が、放熱板1の上に形成され、第1の導電体10、第2の導電体20、及び第3の導電体30、並びに上段IGBTチップ41、上段ダイオード51、下段IGBTチップ42、及び下段ダイオード52を封止する。図示しない正の電極端子101A、負の電極端子101B、ゲート電極端子、及び出力端子101Cが、樹脂9の外部に設けられる。第1の導電体10は、正の電極端子101Aに電気的に接続され、第3の導電体30は、負の電極端子101Bに電気的に接続される。第2の導電体20は、出力端子101Cに電気的に接続される。上段のIGBT41及び下段のIGBT42のそれぞれのゲート電極は、電力用半導体装置101のゲート電極端子に接続され、外部のコントローラに接続される。
【0022】
ここで、第1の導電体10、第2の導電体20、及び第3の導電体は、銅又はアルミニウムなどの金属材料で構成される。これらの導電体は、図4に示した押出加工、又は、図5に示した引き抜き加工により形成される。図4に示した押出加工では、各導電体の断面形状と同じ形状の開口部を有する金型71内に、導電体の材料である銅材73を充填し、押し出しようの金型72で銅材73を押し出すことにより、開口部から各導電体が押し出されて、開口部の形状と同じ断面形状を有する導電体が得られる。図5に示した引き抜き加工では、各導電体の断面形状と同じ形状の開口部を有する金型81を銅材に押し当て、開口部から銅材を引き抜くことにより、開口部の形状と同じ断面形状を有する導電体が得られる。
【0023】
なお、押出加工及び引き抜き加工のどちらにおいても、金型の開口部の形状が、必ずしも各導電体の断面形状と同一形状である必要はない。両加工後に、各導電体に切削等の追加加工を実施することで、各導電体の断面形状は、所望の断面形状に仕上げることが可能である。また、上記導電体は、押出加工、又は引き抜き加工をそれぞれ単独で実施することにより形成されるだけでなく、押出加工と引き抜き加工をそれぞれ1回以上組み合わせて実施することによっても形成可能である。例えば、押出加工及び引き抜き加工をそれぞれ実施して粗く加工した後に、仕上げの加工のため引き抜き加工を実施することが可能である。この場合、最後の仕上げの引き抜き加工に用いた金型の開口部の形状と、加工された導電体の断面形状はほぼ同一形状となる。
【0024】
これらの導電体の加工方法は、研削などの他の加工方法に比べて加工費が安価で製造コストの上昇を抑制できる。また、上記押出加工又は引き抜き加工は、第1〜第3の導電体を銅材を貼り合わせて加工する方法に比べて、各導電体の外側コーナー部19、29A、29B、39の垂直形状を持たせながら、各導電体の内側コーナー部18、28A、28B、38を図3の断面図に示したように湾曲状に形成しやすいという利点がある。
【0025】
次に、本実施形態に係る電力用半導体装置101の動作中の放熱性について説明する。図6は、本実施形態に係る電力用半導体装置101の放熱性を説明する要部断面図である。図7及び図8は、比較例1及び比較例2の電力用半導体装置110、120の放熱性を説明する要部断面図である。図6に示したように、本実施形態に係る電力用半導体装置101の動作中に、上段のIGBT41又は下段のIGBT42を流れる電流により発生した熱が、図中の矢印で示した経路を通って第1の導電体、第2の導電体、及び第3の導電体を介して放熱板1に放出される。ここで、本実施形態に係る電力用半導体装置101では、第1〜第3の導電体が、前述のように押出加工又は引き抜き加工により形成された導電体であるので、各導電体は、外側コーナー部19、29A、29B、39の垂直形状を有しながら、内側コーナー部18、28A、28B、38の湾曲形状を有する。これにより、本実施形態に係る電力用半導体装置101では、後述する比較例1及び比較例2の電力用半導体装置111、121に比べて、各導電体の内側コーナー部18、28A、28B、38と外側コーナー部19、29A、29B、39との間の断面積を大きくとることができること、及び各導電体と放熱板との接触面積を大きくとることができるので、放熱性が向上される。
【0026】
これに対して比較例1の電力用半導体装置111では、図7に示したように、第1〜第3の各導電体110、120、130は、平板を垂直に曲げることにより形成された外側コーナー部119、129A、129B、139及び内側コーナー部118、128A、128B、138を有する。電力用半導体装置111の動作中の各IGBTからの放熱経路は、図6の本実施形態に係る電力用半導体装置101同様に矢印で示される。例えば、第1の導電体110は、平板のほぼ中心でほぼ垂直に折り曲げられることにより形成された第1の部分10Aと第2の部分10Bとを有する。第1の導電体110の第3の主面は、第1の主面に対して垂直に形成されるが第1の主面と直交しない。すなわち、第1の導電体の外側コーナー部の断面は、垂直形状を有さずに放熱板1から離れた湾曲形状を有する。第2の導電体及び第3の導電体も同様である。このため、比較例1の電力用半導体装置111は、本実施形態に係る電力用半導体装置101と比べて、内側コーナー部と外側コーナー部との間の断面積が小さい。また、比較例1の電力用半導体装置111の各導電体の外側コーナー部119、129A、129B、139は、垂直形状でなく湾曲形状となっているので、例えば、第1の導電体110の第1の部分110Aの放熱板1との接触面積は、本実施形態に係る電力用半導体装置101の第1の導電体10の第1の部分10Aと放熱板1との接触面積に比べて小さい(第2の導電体及び第3の導電体も同様)。このため、比較例1の電力用半導体装置111は、本実施形態に係る電力用半導体装置101と比べて、放熱性が劣る。
【0027】
また、比較例2の電力用半導体装置121では、図8に示したように、第1〜第3の各導電体210、220,230は、分離された平板の互いの一端を垂直に貼り合わせることにより形成される。電力用半導体装置121の動作中の各IGBTからの放熱経路は、図6の本実施形態に係る電力用半導体装置101同様に矢印で示される。例えば、第1の導電体210は、平板の第1の部分210Aと210Bのそれぞれの一端を貼り合わせて、第1の部分210Aと第2の部分210Bとが直交するように形成される。この結果、第1の導電体210の外側コーナー部219は垂直形状を有し、内側コーナー部218も垂直形状を有する。外側コーナー部219が垂直形状を有することで、比較例2の電力用半導体装置121の第1の導電体210の第1の部分210Aと放熱板1との接触面積は、本実施形態に係る電力用半導体装置101の第1の導電体10の第1の部分10Aと放熱板1との接触面積とほぼ同じとなる。しかしながら、比較例2の電力用半導体装置121では、第1の導電体210の内側コーナー部218が垂直形状を有することで、第1の導電体210の内側コーナー部218と外側コーナー部219との間の断面積が本実施形態に比べて狭くなる。第2の導電体220及び第3の導電体230に関しても同様である。この結果、比較例2の電力用半導体装置121は、本実施形態に係る電力用半導体装置101と比べて放熱性に劣る。
【0028】
(第2の実施の形態)
次に、第2の実施形態に係る三相インバータ装置200及びそれに用いられる電力用半導体装置201を図9〜図11を用いて説明する。図9は、第2の実施形態に係る三相インバータ装置200の回路図である。図10は、本実施形態に係る三相インバータ装置200に用いられる電力用半導体装置201の要部斜視図である。図10は、樹脂を省略して示した図である。図11は、図10の斜視図のB−B線における要部断面図である。なお、第1の実施の形態で説明した構成と同じ構成の部分には同じ参照番号または記号を用いその説明は省略する。第1の実施の形態との相異点について主に説明する。
【0029】
第1の実施形態に係る三相インバータ装置100に用いられる電力用半導体装置101は、上段のIGBT41及びこれに並列接続された上段のダイオード51から構成される上段スイッチと、下段のIGBT42及びこれに並列接続された下段のダイオード52から構成される下段スイッチとを樹脂内に含んでいる。これに対して、本実施形態に係る電力用半導体装置201は、各相の上記上段のスイッチ又は下段のスイッチのどちらかを樹脂内に含む。すなわち、本実施形態に係る電力用半導体装置201は、正の電極端子201A、負の電極端子201B、ゲート電極端子(図示せず)、IGBT41、及びダイオード51を備える。IGBT41のコレクタ電極は、正の電極端子201Aに電気的に接続され、エミッタ電極は、負の電極端子201Bに電気的に接続され、ゲート電極はゲート電極端子に電気的に接続される。ダイオード51のカソード電極は、IGBT41のコレクタ電極に電気的に接続され、アノード電極は、IGBT41のエミッタ電極に電気的に接続される。三相インバータ装置200の各相は、直列に接続された2つの電力用半導体装置201をそれぞれ上段スイッチ及び下段スイッチとして有する。上段の電力用半導体装置201の正の電極端子201Aは、直流電源6の正極側に電気的に接続され、負の電極端子201Bは、下段の電力用半導体装置201の正の電極端子201Aに電気的に接続される。下段の電力用半導体装置201の負の電極端子201Bは、直流電源6の負電極側に電気的に接続される。上段の電力用半導体装置201の負の電極端子201Bは、各相の出力端子8に電気的に接続される。以上のように、本実施形態に係る三相インバータ装置200は、6つの電力用半導体装置201により構成され、電力用半導体装置201は、各相の上段又は下段のIGBT41及びダイオード51により構成される。この点で、本実施形態の三相インバータ装置200と電力用半導体装置201は、第1の実施形態のそれらと異なる。
【0030】
次に、図10及び図11により、本実施形態に係る電力用半導体装置201を詳細に説明する。本実施形態に係る電力用半導体装置201は、第1の導電体10、第2の導電体20、IGBT41、ダイオード51、放熱板、及び樹脂を備える。第1の実施形態と同一又は類似の部分は、説明を省略する。
【0031】
第1の導電体10は、第1の部分10Aと第2の部分10Bとを有し、第1の実施形態と同じ構造であるので説明を省略する。
【0032】
第2の導電体20は、図2又は図3における第1の実施形態の第2の導電体20の左側半分と同じ構造を有する。すなわち、第2の導電体は以下の構造を有する。第2の導電体は、第3の部分20A、及び第4の部分20Bを有する。第3の部分20Aは、第5の主面21と第5の主面の反対側にある第6の主面22とを有する。第4の部分20Bは、第5の主面21に直交する第7の主面23と、第7の主面23の反対側にあり第5の主面21に向かうほど第7の主面23から離れながら第6の主面22に連続する第8の主面24と、を有する。第8の主面24が第5の主面21に向かうほど第7の主面23から離れながら第6の主面22に連続する部分28(第2の導電体の内側コーナー部)は、第1の導電体10同様に、第5の主面21と第7の主面23とが直交する部分29(第2の導電体の外側コーナー部)に向かって湾曲した表面を有する。
【0033】
すなわち、第2の導電体20は、四角柱の1つの角部であって、第1の導電体10と対称な位置に、L字型の溝が形成された形状を有する。L字型の溝の側壁が、上記第4の部分の第8の主面24に相当する。また、L字型の溝の底部が、上記第3の部分の第6の主面22に相当する。本実施形態では、第1の導電体10の内側コーナー部18の断面形状、及び第2の導電体20の内側コーナー部28の断面形状は、一例として、4分の1の円弧の形状を有するが、第1の実施形態と同様に、なめらかに湾曲した形状であれば、これ以外の形状でも勿論可能である。例えば、第1の導電体10の内側コーナー部18及び第2の導電体20の内側コーナー部28は、それぞれ、直線状の断面形状を有し、第4の主面から第2の主面に延伸する平面及び第8の主面から第6の主面に延伸する平面であることも可能である。
【0034】
IGBT41及びダイオード51が、第1の実施形態と同様に第1の導電体10と第2の導電体20との間に設けられる。放熱板1が、第1の導電体10の第1の主面11及び第2の導電体20の第5の主面21に、絶縁シート2を介して第1の実施形態同様に接合される。樹脂9が、第1の実施形態と同様に放熱板1の上に形成され、第1の導電体10、第2の導電体20、IGBTチップ41、及びダイオード51を封止する。上記以外は、本実施形態に係る三相インバータ装置200及び電力用半導体装置201は、第1の実施形態に係る三相インバータ装置100及び電力用半導体装置101と同様の構成を有する。
【0035】
本実施形態に係る電力用半導体装置201においても、第1の実施形態に係る電力用半導体装置101と同様に、第1の導電体と第2の導電体は、押出加工又は引き抜き加工により形成された導電体であるので、第1の導電体と第2の導電体の外側コーナー部の垂直形状を有しながら、内側コーナー部の湾曲形状を有する。これにより、本実施形態に係る電力用半導体装置201も、第1の実施形態に係る電力用半導体装置同様に、各導電体の内側コーナー部18、28と外側コーナー部19、29との間の断面積を大きくとることができること、及び各導電体と放熱板との接触面積を大きくとることができるので、放熱性が向上される。
【0036】
本発明のいくつかの実施形態を説明したが、これらの実施形態は、例として提示したものであり、発明の範囲を限定することは意図していない。これら新規な実施形態は、その他の様々な形態で実施されることが可能であり、発明の要旨を逸脱しない範囲で、種々の省略、置き換え、変更を行うことができる。これら実施形態やその変形は、発明の範囲や要旨に含まれるとともに、特許請求の範囲に記載された発明とその均等の範囲に含まれる。
【符号の説明】
【0037】
1 放熱板
2 絶縁シート
3 接着剤
6 直流電源
7 コンデンサ
8 出力端子
9 樹脂
10、10A、10B 第1の導電体
11 第1の主面、12 第2の主面、13 第3の主面、14 第4の主面
20、20A、20B、20C 第2の導電体
21 第5の主面、22 第6の主面、23 第7の主面、24 第8の主面
25 第9の主面、26 第10の主面
30、30A、30B 第3の導電体
31 第11の主面、32 第12の主面、33 第13の主面、34 第14の主面
41、42 IGBT
51、52 FRD
61、62 銅板
71、72、81 金型
73 銅材
74、84 導電体
100、200 インバータ装置
101、201 電力用半導体装置
101A 正の電極端子
101B 負の電極端子
111、121 比較例の電力用半導体装置

【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1の主面と前記第1の主面の反対側にある第2の主面とを有する第1の部分と、前記第1の主面に直交する第3の主面と前記第3の主面の反対側にあり前記第1の主面に向かうほど前記第3の主面から離れながら前記第2の主面に連続する第4の主面とを有する第2の部分と、を有する第1の導電体と、
第5の主面と前記第5の主面の反対側にある第6の主面とを有する第3の部分と、前記第5の主面に直交する第7の主面と前記第7の主面の反対側にあり前記第5の主面に向かうほど前記第7の主面から離れながら前記第6の主面に連続する第8の主面とを有する第4の部分と、を有する第2の導電体と、
前記第1の導電体の前記第3の主面に電気的に接続された第1の電極を裏面に有し、前記第2の導電体の前記第7の主面に電気的に接続された第2の電極を表面に有し、前記第3の主面と前記第7の主面との間に挟まれ、前記第1の電極と前記第2の電極との間に電流が流れる第1の半導体チップと、
前記第1の導電体の前記第1の主面及び前記第2の導電体の前記第5の主面に、絶縁シートを介して接合された放熱板と、
前記第1の導電体及び前記第2の導電体を封止する樹脂と、
を備えたことを特徴とする電力用半導体装置。
【請求項2】
前記第1の導電体及び前記第2の導電体は、それぞれ所定の開口を有する金型を前記第1の導電体及び前記第2の導電体を構成する導電体材料に押し当てて、前記金型の前記開口から前記導電体材料を押し出すことにより又は引き抜くことにより形成されたものであることを特徴とする請求項1記載の電力用半導体装置。
【請求項3】
前記第2の導電体は、前記第7の主面とは反対側で前記第5の主面に直交する第9の主面と、前記第9の主面の反対側にあり前記第5の主面に向かうほど前記第9の主面から離れながら前記第6の主面に連続する第10の主面と、を有する第5の部分をさらに有し、
前記放熱板に前記絶縁シートを介して接合された第11の主面と前記第11の主面の反対側にある第12の主面とを有する第6の部分と、前記第11の主面に直交する第13の主面と前記第13の主面の反対側にあり前記第11の主面に向かうほど前記第13の主面から離れながら前記第12の主面に連続する第14の主面とを有する第7の部分と、を有する第3の導電体と、
前記第2の導電体の前記第9の主面に電気的に接続された第3の電極を裏面に有し、前記第3の導電体の前記第13の主面に電気的に接続された第4の電極を表面に有し、前記第9の主面と前記第13の主面との間に挟まれ、前記第3の電極と前記第4の電極との間に電流が流れる第2の半導体チップと、
をさらに備えたことを特徴とする請求項2記載の電力用半導体装置。
【請求項4】
前記第3の導電体は、所定の開口を有する金型を前記第3の導電体を構成する導電体材料に押し当てて、前記金型の前記開口から前記導電体材料を押し出すことにより又は引き抜くことにより形成されたものであることを特徴とする請求項3記載の電力用半導体装置。
【請求項5】
前記第1の半導体チップは、前記第1の電極と前記第2の電極との間を流れる電流を制御するゲート電極を、前記第1の半導体チップの表面に前記第2の電極と絶縁されて、さらに有することを特徴とする請求項1〜4のいずれか1つに記載の電力用半導体装置。
【請求項6】
前記第1の半導体チップの前記第1の電極に接続されたカソード電極と、前記第1の半導体チップの前記第2の電極に接続されたアノード電極と、を有するダイオードを、前記第1の導電体の前記第3の主面と前記第2の導電体の前記第7の主面との間にさらに有することを特徴とする請求項5記載の電力用半導体装置。
【請求項7】
前記第4の主面が前記第1の主面に向かうほど前記第3の主面から離れながら前記第2の主面に連続する部分は、前記第1の主面と前記第3の主面とが直交する部分に向かって湾曲する表面を有し、
前記第8の主面が前記第5の主面に向かうほど前記第7の主面から離れながら前記第6の主面に連続する部分は、前記第5の主面と前記第7の主面とが直交する部分に向かって湾曲する表面を有することを特徴とする請求項1〜6のいずれか1つに記載の電力用半導体装置。
【請求項8】
前記第4の主面が前記第1の主面に向かうほど前記第3の主面から離れながら前記第2の主面に連続する部分は、平面を有し、
前記第8の主面が前記第5の主面に向かうほど前記第7の主面から離れながら前記第6の主面に連続する部分は、平面を有することを特徴とする請求項1〜6のいずれか1つに記載の電力用半導体装置。
【請求項9】
前記第1の半導体チップは、IGBTであることを特徴とする請求項1〜8のいずれか1つに記載の電力用半導体装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【公開番号】特開2012−199469(P2012−199469A)
【公開日】平成24年10月18日(2012.10.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−63706(P2011−63706)
【出願日】平成23年3月23日(2011.3.23)
【出願人】(000003078)株式会社東芝 (54,554)
【Fターム(参考)】