説明

電動機装置および電気自動車

【課題】電動機をより適正に制御する。
【解決手段】同期数Nsが変更されてから時間t1の間は前回Ios*から設定した仮オフセット電流Iostmpに向かって変化量kの範囲内で変化するようようオフセット電流Iosを設定し(S100,S130,S140)、時間t1から時間t2の間は同期数Nsを用いてオフセット電流Iosを設定し(S100,S110,S150)、オフセット電流Iosを制御用目標電流に加えたものを目標相電流に設定し、d軸,q軸に流れる電流が目標相電流となるようにするためのフィードバック制御によりd軸,q軸に印加すべき目標電圧を設定し、設定した目標電圧を2相−3相変換して目標相電圧を設定し、設定された目標相電圧が各相に印加されるようインバータをスイッチング制御する。こうした制御により、モータをより適正に制御することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電動機装置および電気自動車に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、この種の電動機装置としては、ある一定期間毎に3相モータの各相電流を検出する電流センサからの出力値のピーク値を検出し、各相の出力値のピーク値が等しくなるよう電流センサからの出力値を補正するものが提案されている(例えば、特許文献1参照)。この装置では、こうした補正を行なうことにより、より適正に3相モータを駆動させることができるとしている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2010−110067号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、一般に、電動機の目標相電圧と搬送波としての三角波の電圧との比較によりインバータのスイッチング素子のオン時間の割合を調整するパルス幅変調により電動機を制御する電動機装置では、スイッチング素子の製造ばらつきなどにより、スイッチング素子のオン時間が目標とする目標オン時間となるようスイッチング素子を制御しても、実際のオン時間が目標オン時間から大きくずれてしまい、電動機の実際の各相電流が目標とする相電流から大きくずれて、電動機から目標とするトルクを出力できない場合がある。したがって、こうした実際のオン時間と目標オン時間とのずれを考慮して、電動機をより適正に制御することが望まれている。
【0005】
本発明の電動機装置および電気自動車は、電動機をより適正に制御することを主目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の電動機装置および電気自動車は、上述の主目的を達成するために以下の手段を採った。
【0007】
本発明の電動機装置は、
三相交流により駆動する電動機と、直流電源からの電力を用いて前記電動機を駆動するインバータと、前記電動機の各相に印加すべき前記電動機のトルク指令に基づく制御用目標相電流を補正するためのオフセット電流を設定するオフセット電流設定手段と、前記制御用目標相電流に前記設定したオフセット電流を加えたものを前記電動機の目標相電流に設定する目標相電流設定手段と、前記電動機の各相に流れる各相電流が前記設定された目標相電流になるよう前記電動機の各相に印加すべき目標相電圧を設定する目標相電圧設定手段と、前記設定された目標相電圧と搬送波としての三角波の電圧との比較により前記インバータのスイッチング素子のオン時間の割合を調整するパルス幅変調によって前記直流電源からの電力が三相交流電力として前記電動機に供給されるよう前記インバータを制御する制御手段と、を備える電動機装置であって、
前記オフセット電流設定手段は、前記目標相電圧の一周期あたりの三角波の数である同期数を算出し、前記算出した同期数に基づいて前記オフセット電流を設定する手段である、
ことを特徴とする。
【0008】
この本発明の電動機装置では、目標相電圧の一周期あたりの三角波の数である同期数を算出し、算出した同期数に基づいて電動機の各相に印加すべき電動機のトルク指令に基づく制御用目標相電流を補正するためのオフセット電流を設定し、制御用目標相電流に設定したオフセット電流を加えたものを電動機の目標相電流に設定し、電動機の各相に流れる各相電流が設定された目標相電流になるよう電動機の各相に印加すべき目標相電圧を設定し、設定された目標相電圧と搬送波としての三角波の電圧との比較によりインバータのスイッチング素子のオン時間の割合を調整するパルス幅変調によって直流電源からの電力が三相交流電力として電動機に供給されるようインバータを制御する。パルス幅変調では、電動機の目標相電圧と搬送波としての三角波の電圧との比較によりインバータのスイッチング素子のオン時間の割合を調整されるが、スイッチング素子の製造ばらつきなどにより、スイッチング素子を調整したオン時間の割合でオンするよう制御しても実際には調整したオン時間の割合にならず、電動機の実際の各相電流が制御用目標相電流からずれる場合がある。こうした電流のずれは、目標相電圧の一周期あたりの三角波の数である同期数により異なると考えられることから、目標相電圧の一周期あたりの三角波の数である同期数を算出し、算出した同期数に基づいてオフセット電流を設定することにより、より適正にオフセット電流を設定することができ、より適正に電動機を制御することができる。
【0009】
こうした本発明の電動機装置において、同期数が大きくなるほど大きくなる傾向にオフセット電流を設定する手段であるものとすることもできる。同期数が大きくなるほど目標相電圧の一周期あたりのインバータのスイッチング素子のスイッチング回数が増えるため、目標相電圧の一周期において電動機の実際の各相電流と制御用目標相電流とのずれが大きくなると考えられる。したがって、同期数が大きくなるほど大きくなる傾向にオフセット電流を設定することにより、より適正にオフセット電流を設定することができる。
【0010】
また、本発明の電動機装置において、前記電動機の各相に流れる各相電流を検出する相電流検出手段を備え、前記オフセット電流設定手段は、前記算出した同期数が変化したときには、前記算出した同期数が変化してから予め定められた所定期間は前記算出した同期数に基づいて前記オフセット電流を設定し、前記所定期間が経過した後次に前記電動機の回転数が変化するまでは前記目標相電圧の一周期に亘って前記検出された各相電流を積算して算出される電流積算値に基づいて前記オフセット電流を設定する手段であるものとすることもできる。所定期間が経過した後次に電動機の回転数が変化するまでは目標相電圧の一周期で検出された各相電流を積算して算出される電流積算値に基づいてオフセット電流を設定するから、より適正にオフセット電流を設定することができ、より適正に電動機を制御することができる。この場合において、前記所定期間は、前記目標相電圧の一周期と同じ時間であるものとすることもできる。また、前記オフセット電流設定手段は、前記同期数が変化してから前記所定期間より短い第1の期間が経過するまでは前記算出した同期数に基づいて前記オフセット電流の仮の値である仮オフセット電流を設定すると共に前記オフセット電流が仮オフセット電流に向かって予め定められた所定変化率以内の変換率で変化するよう前記オフセット電流を設定し、前記第1の期間が経過してから前記所定期間が経過するまでは前記算出した同期数に基づいて前記オフセット電流を設定し、前記所定期間が経過した後第2の期間が経過するまでは前記電流積算値に基づいて前記仮オフセット電流を設定すると共に前記オフセット電流が仮オフセット電流に向かって前記所定変化率以内の変換率で変化するよう前記オフセット電流を設定し、前記第2の期間が経過した後次に前記同期数が変化するまでは前記電流積算値に基づいて前記オフセット電流を設定する手段であるものとすることもできる。こうすれば、同期数が変化してから間もない期間や所定期間が経過した直後におけるオフセット電流の急変を抑制することができる。
【0011】
本発明の電気自動車は、上述したいずれかの態様の本発明の電動機装置、すなわち、基本的には、三相交流により駆動する電動機と、直流電源からの電力を用いて前記電動機を駆動するインバータと、前記電動機の各相に印加すべき前記電動機のトルク指令に基づく制御用目標相電流を補正するためのオフセット電流を設定するオフセット電流設定手段と、前記制御用目標相電流に前記設定したオフセット電流を加えたものを前記電動機の目標相電流に設定する目標相電流設定手段と、前記電動機の各相に流れる各相電流が前記設定された目標相電流になるよう前記電動機の各相に印加すべき目標相電圧を設定する目標相電圧設定手段と、前記設定された目標相電圧と搬送波としての三角波の電圧との比較により前記インバータのスイッチング素子のオン時間の割合を調整するパルス幅変調によって前記直流電源からの電力が三相交流電力として前記電動機に供給されるよう前記インバータを制御する制御手段と、を備える電動機装置であって、前記オフセット電流設定手段は、前記目標相電圧の一周期あたりの三角波の数である同期数を算出し、前記算出した同期数に基づいて前記オフセット電流を設定する手段である、電動機装置を搭載し、前記電動機からの動力が車軸に連結された駆動軸に出力されてなることを要旨とする。
【0012】
この本発明の電気自動車では、上述したいずれかの態様の本発明の電動機装置を搭載しているから、本発明の電動機装置が奏する効果、例えば、より適正に電動機を制御することができる効果などと同様の効果を奏する。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】本発明の一実施例としての電動機装置を搭載した電気自動車20の構成の概略を示す構成図である。
【図2】モータ22の各相に実際に流れる相電流と目標相電流とのずれを説明するための説明図である。
【図3】電子制御ユニット50によって実行されるオフセット電流設定ルーチンの一例を示すフローチャートである。
【図4】オフセット電流設定用マップの一例を示す説明図である。
【図5】同期数Nsが値9から値6に変化したときのオフセット電流Iosの時間変化を示す説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
次に、本発明を実施するための形態を実施例を用いて説明する。
【実施例】
【0015】
図1は、本発明の一実施例としての電動機装置を搭載した電気自動車20の構成の概略を示す構成図である。実施例の電気自動車20は、図示するように、駆動輪28a,28bにデファレンシャルギヤ26を介して駆動軸26aに回転子が接続されたモータ22と、モータ22を駆動するためのインバータ24と、インバータ24を介してモータ22と電力をやりとりするバッテリ30と、モータ22の三相コイル(U相,V相,W相)のU相,V相に流れる相電流を検出する電流センサ22u,22vからの相電流やシフトレバーのポジションを検出するシフトポジションセンサ52からのシフトポジション,アクセルペダルの踏み込み量を検出するアクセルペダルポジションセンサ54からのアクセル開度,ブレーキペダルの踏み込み量を検出するブレーキペダルポジションセンサ56からのブレーキポジション,車速センサ58からの車速を入力してインバータ24など車両全体を制御する電子制御ユニット50と、を備える。
【0016】
インバータ24は、6個のトランジスタT1〜T6と、トランジスタT1〜T6に逆方向に並列接続された6個のダイオードD1〜D6とにより構成されている。各6個のトランジスタT1〜T6は、バッテリ30の正極が接続された正極母線とバッテリ30の負極が接続された負極母線とに対してソース側とシンク側になるよう2個ずつペアで配置されており、対となるトランジスタ同士の接続点の各々にモータ22の三相コイル(U相,V相,W相)の各々が接続されている。したがって、対をなすトランジスタT1〜T6のオン時間の割合を制御することによりモータ22を駆動することができる。
【0017】
実施例の電気自動車20は、基本的には、電子制御ユニット50によって実行される以下に説明する駆動制御によって走行する。電子制御ユニット50では、まず、アクセルペダルポジションセンサ54からのアクセル開度と車速センサ58からの車速とに応じてモータ22から出力すべき目標トルクを設定し、モータ22の目標トルクに基づいてモータ22のd軸,q軸に印加すべき目標相電流を設定し、d軸,q軸に流れる電流が目標相電流となるようにするためのフィードバック制御によりd軸,q軸に印加すべき目標電圧を設定し、設定した目標電圧を2相−3相変換してモータ22の三相コイルの各相に印加すべき目標相電圧を設定する。ここで、d軸はモータ22のロータの永久磁石により形成される磁束の方向であり、q軸はd軸に対してモータ22を正回転させる方向に電気角をπ/2だけ進角させた方向である。そして、設定された目標相電圧が各相に印加されるようインバータ24を制御する。インバータ24の制御は、実施例では、モータ22の目標相電圧と搬送波としての三角波の電圧(キャリア信号)との比較によりトランジスタT1〜T6のオン時間の割合を設定し、設定したオン時間でトランジスタT1〜T6がスイッチングするよう制御するパルス幅変調制御により行なわれる。ここで、搬送波としての三角波は、その周波数(キャリア周波数)が一定であるものとした。パルス幅変調では、モータ22の目標相電圧と搬送波としての三角波の電圧との比較によりトランジスタT1〜T6のオン時間の割合が設定されるが、トランジスタT1〜T6の製造ばらつきなどにより、実際にトランジスタT1〜T6を設定したオン時間の割合でオンするようスイッチング制御しても実際には設定したオン時間の割合にならず、図2に示すように、モータ22の相電流と目標相電流との間にずれが生じる場合がある。実施例の制御では、こうした電流のずれを補正するためのオフセット電流Iosをモータ22の目標トルクに基づいてモータ22のd軸,q軸に印加すべき制御用目標相電流に加えたものを目標相電流に設定してモータ22を制御する。こうした制御により、モータ22から目標トルクを出力して走行することができる。また、電子制御ユニット50は、図示しないモータ22の回転位置を検出する回転位置検出センサの検出値に基づいてモータ22の回転数Nmを演算したり、モータ22の回転数Nmに基づいて目標相電圧の一周期あたりの搬送波として三角波の数である同期数Nsを算出したり、同期数Nsが変化してからの経過時間Teを計時したり、目標相電圧の一周期毎にその周期において検出された電流センサ22u,22vから検出値である相電流を各相毎に積算した電流積算値Ciを演算している。
【0018】
次に、実施例の電気自動車20の駆動制御におけるオフセット電流Iosを設定する処理について説明する。なお、実施例では、モータ22の各相(u相、v相、w相)のうちにu相におけるオフセット電流Iosの設定について説明するが、他の2相についても同様に設定することができる。図3は、電子制御ユニット50によって所定時間毎(例えば、数msec毎など)に実行されるオフセット電流設定ルーチンの一例を示すフローチャートである。オフセット電流設定ルーチンが実行されると、電子制御ユニット50は、同期数Nsが変化してからの経過時間Teを、目標相電圧の半周期分の時間である時間t1や目標相電圧の一周期分の時間である時間t2,目標相電圧の1.5周期分の時間である時間t3と比較する処理を実行する(ステップS100〜S120)。経過時間Teが時間t1以下であるとき、すなわち、モータ22の回転数Nmが変化して同期数Nsが変化してからさほど時間が経過していないときには、同期数とオフセット電流との関係として実験や解析などにより定めたオフセット電流設定用マップを予め記憶しておき、同期数Nsが与えられると記憶したマップから対応するオフセット電流を導出して仮オフセット電流Iostmpに設定する(ステップS130)。オフセット電流設定用マップの一例を図4に示す。オフセット電流設定用マップにおいて、同期数が大きくなるほどオフセット電流が増加するよう設定するものとした。このように設定するのは、同期数が大きくなるほど目標相電圧の一周期あたりのインバータ24のスイッチング回数が増えるため、目標相電圧の一周期あたりのオフセット電流が増加すると考えられるためである。
【0019】
こうして仮オフセット電流Iostmpを設定すると、次式(1)を用いて前回本ルーチンが実行される際に設定されたオフセット電流Iosである前回Ios*から設定した仮オフセット電流Iostmpに向かって変化量kの範囲内で変化するようオフセット電流Iosを設定して(ステップS140)、本ルーチンを終了する。こうした処理により、オフセット電流Iosの急変を抑制することができ、目標相電流,目標電圧,目標相電圧の急変を抑制して、モータ22から出力されるトルクの急変により車両に騒音や振動が生じることを抑制することができる。
【0020】
Ios=max(前回Ios-k,min(前回Ios+k,Iostmp)) (1)
【0021】
経過時間Teが時間t1を超えているが時間t2以下であるとき、すなわち、同期数Nsが変化してからある程度の時間が経過しているが、同期数Nsが変化してから目標相電圧の一周期分の時間が経過しておらず同期数Nsが変化した後の電流積算値Ciuが演算できないため電流積算値Ciuを用いたオフセット電流の設定を行なうべきではないときには(ステップS110,S120)、図4に例示したオフセット電流設定用マップと同期数Nsに対応するオフセット電流をオフセット電流Iosに設定して(ステップS150)、本ルーチンを終了する。同期数Nsが変化してから目標相電圧の一周期分の時間が経過しないときには、同期数Nsが変化する前に演算された電流積算値Ciuを用いてオフセット電流Iosを設定することになるため、オフセット電流Iosが適正に設定できない場合があると考えられるが、上述したようにオフセット電流設定用マップを用いてオフセット電流Iosを設定することにより、より適正にオフセット電流Iosを設定して、モータ22をより適正に制御することができる。
【0022】
経過時間Teが時間t2を超えているが時間t3以下であるとき、すなわち、同期数Nsが変化してから目標相電圧の一周期分の時間が経過しており同期数Nsが変化した後の電流積算値Ciuを演算することが可能であるときには(ステップS100〜S120)、電流積算値Ciuを目標相電圧の一周期の時間で除したものを仮オフセット電流Iostmpに設定して(ステップS160)、上述した式(1)を用いて前回Ios*から設定した仮オフセット電流Iostmpに向かって変化量kの範囲内で変化するようオフセット電流Iosを設定して(ステップS170)、本ルーチンを終了する。オフセット電流設定用マップを用いたオフセット電流Iosの設定から電流積算値Ciuを用いたオフセット電流の設定に切り替える際には、切り替え直後にオフセット電流Iosの変化が大きくなり、こうしたオフセット電流Iosを用いてモータ22を制御するとモータ22から出力されるトルクが急変して車両に騒音や振動などが生じる場合がある。実施例では、ステップS180、S190のよりにオフセット電流を設定することにより、オフセット電流Iosの急変を抑制することができ、モータ22から出力されるトルクの急変により車両に騒音や振動が生じることを抑制することができ、より適正にモータ22を制御することができる。
【0023】
経過時間Teが時間t3を超えているとき、すなわち、電流積算値Ciuを用いたオフセット電流Iosの設定を開始してからある程度の時間が経過しているときには、電流積算値Ciuを目標相電圧の一周期の時間で除したものをオフセット電流Iosに設定して(ステップS200)、本ルーチンを終了する。このように、実際に電流センサ22uにより検出された検出値により演算された電流積算値Ciuを用いてオフセット電流Iosを設定することにより、より適正にモータ22を制御することができる。
【0024】
図5は、同期数Nsが値9から値6に変化したときのオフセット電流Iosの時間変化の一例を示す説明図である。オフセット電流Iosは、図示するように、同期数Nsが変更された時間t0から時間t1の間は前回Ios*から設定した仮オフセット電流Iostmpに向かって変化量kの範囲内で変化するようオフセット電流Iosを設定し、時間t1から時間t2の間は同期数Nsを用いてオフセット電流Iosを設定し、時間t2から時間t3の間は前回Ios*から設定した仮オフセット電流Iostmpに向かって変化量kの範囲内で変化するようオフセット電流Iosを設定を設定し、時間t3以降は電流積算値Ciuを目標相電圧の一周期の時間で除したものをオフセット電流Iosに設定する。経過時間Teの拘わらず電流積算値Ciuを目標相電圧の一周期の時間で除したものをオフセット電流Iosにすると、時間t0〜時間t1までは同期数Nsが値9であるときに積算して得られた電流積算値Ciuを用いてオフセット電流Iosを設定することになるため、適正にオフセット電流Iosを設定できない場合があると考えられるが、時間t0〜時間t1までの期間は変化した後の同期数Nsとオフセット電流設定用マップとを用いてオフセット電流Iosを設定することにより、より適正にモータ22を制御することができる。
【0025】
以上説明した実施例の電気自動車20によれば、同期数Nsが変更された時間T0から時間t1の間は前回Ios*から設定した仮オフセット電流Iostmpに向かって変化量kの範囲内で変化するようオフセット電流Iosを設定し、時間t1から時間t2の間は同期数Nsを用いてオフセット電流Iosを設定し、時間t2から時間t3の間は前回Ios*から設定した仮オフセット電流Iostmpに向かって変化量kの範囲内で変化するようオフセット電流Iosを設定を設定し、時間t3以降は電流積算値Ciuを目標相電圧の一周期の時間で除したものをオフセット電流Iosに設定して、オフセット電流Iosを制御用目標電流に加えたものを目標相電流に設定し、d軸,q軸に流れる電流が目標相電流となるようにするためのフィードバック制御によりd軸,q軸に印加すべき目標電圧を設定し、設定した目標電圧を2相−3相変換してモータ22の三相コイルの各相に印加すべき目標相電圧を設定し、設定された目標相電圧が各相に印加されるようインバータ24をスイッチング制御する。こうした制御により、モータ22をより適正に制御することができる。
【0026】
実施例の電気自動車20では、ステップS130やステップS150の処理で図4に例示したオフセット電流設定用マップと同期数Nsとを用いて仮オフセット電流Iostmpやオフセット電流Iosを設定するものとしたが、オフセット電流設定用マップとしては、同期数Nsが大きいほどオフセット電流が大きくなる傾向に設定すればよいから、例えば、同期数Nsが大きいほどオフセット電流Iosがステップ状に変化するものとしてもよい。
【0027】
実施例の電気自動車20では、電子制御ユニット50は、時間t1,t2,t3をそれぞれ目標相電圧の半周期分の時間,目標相電圧の一周期分の時間,目標相電圧の1.5周期分の時間であるものとしたが、時間t1,t2,t3はこうした時間に限定されるものではなく、モータ22やインバータ24の特性などを考慮して適宜設定するものとしてもよい。
【0028】
実施例の電気自動車20では、ステップS100〜ステップS120の処理で経過時間Teを調べて、経過時間Teに応じてステップS130〜S180の処理を実行するものとしたが、ステップS100,S120,S130,S140,S160,S170の処理を実行せずに、経過時間Teが時間t2以下であるときには同期数Nsに基づいてオフセット電流Iosを設定し(ステップS150)、経過時間Teが時間t2を超えたときには電流積算値Ciuに基づいてオフセット電流Iosを設定する(ステップS180)ものとしてもよいし、ステップS110,S120,S160〜S180の処理を実行せずに同期数Nsに基づいてオフセット電流Iosを設定する(ステップS100,S130〜S150)ものとしてもよいし、ステップS100〜S120,S130,S140,ステップS160〜S180の処理を実行せずに同期数Nsに基づいてオフセット電流Iosを設定する(ステップS150)ものとしてもよい。
【0029】
また、こうした電気自動車に適用するものに限定されるものではなく、列車などの自動車以外の車両や船舶,航空機などの移動体に搭載される電動機装置の形態や建設設備などの移動しない設備に組み込まれた電動機装置の形態としても構わない。
【0030】
実施例の主要な要素と課題を解決するための手段の欄に記載した発明の主要な要素との対応関係について説明する。実施例では、モータ22が「電動機」に相当し、インバータ24が「インバータ」に相当し、同期数に基づいてオフセット電流を設定するステップS130〜S170の処理を実行する電子制御ユニット50が「オフセット電流設定手段」に相当し、モータ22の目標トルクに基づいてモータ22のd軸,q軸に印加すべき制御用目標相電流にオフセット電流Iosを加えたものを目標相電流に設定する電子制御ユニット50が「目標相電流設定手段」に相当し、フィードバック制御によりd軸,q軸に印加すべき目標電圧を設定し、設定した目標電圧を2相−3相変換してモータ22の三相コイルの各相に印加すべき目標相電圧を設定する電子制御ユニット50が「目標相電圧設定手段」に相当し、モータ22の目標相電圧と搬送波としての三角波の電圧との比較によりインバータ24のトランジスタT1〜T6のオン時間の割合を設定して設定したオン時間でトランジスタT1〜T6がスイッチングするよう制御する電子制御ユニット50が「制御手段」に相当する。
【0031】
ここで、「電動機」としては、モータ22に限定されたものではなく、三相交流により駆動するものであれば如何なるものとしても構わない。「インバータ」としては、インバータ24に限定されるものではなく、直流電源からの電力を用いて電動機を駆動するものであれば如何なるものとしても構わない。「オフセット電流設定手段」としては、同期数に基づいてオフセット電流を設定するステップS130〜S170の処理を実行するものに限定されるものではなく、電動機の各相に印加すべき電動機のトルク指令に基づく制御用目標相電流を補正するためのオフセット電流を設定するものであれば如何なるものとしても構わない。「目標相電流設定手段」としては、モータ22の目標トルクに基づいてモータ22のd軸,q軸に印加すべき制御用目標相電流にオフセット電流Iosを加えたものを目標相電流に設定するものに限定されるものではなく、制御用目標相電流に設定したオフセット電流を加えたものを電動機の目標相電流に設定するものであれば如何なるものとしても構わない。「目標相電圧設定手段」としては、フィードバック制御によりd軸,q軸に印加すべき目標電圧を設定し、設定した目標電圧を2相−3相変換してモータ22の三相コイルの各相に印加すべき目標相電圧を設定するものに限定されるものではなく、電動機の各相に流れる各相電流が設定された目標相電流になるよう電動機の各相に印加すべき目標相電圧を設定するものであれば如何なるものとしても構わない。「制御手段」としては、モータ22の目標相電圧と搬送波としての三角波の電圧との比較によりインバータ24のトランジスタT1〜T6のオン時間の割合を設定して設定したオン時間でトランジスタT1〜T6がスイッチングするよう制御するものに限定されるものではなく、設定された目標相電圧と搬送波としての三角波の電圧との比較によりインバータのスイッチング素子のオン時間の割合を調整するパルス幅変調によって直流電源からの電力が三相交流電力として電動機に供給されるようインバータを制御するものであれば如何なるものとしても構わない。
【0032】
なお、実施例の主要な要素と課題を解決するための手段の欄に記載した発明の主要な要素との対応関係は、実施例が課題を解決するための手段の欄に記載した発明を実施するための形態を具体的に説明するための一例であることから、課題を解決するための手段の欄に記載した発明の要素を限定するものではない。即ち、課題を解決するための手段の欄に記載した発明についての解釈はその欄の記載に基づいて行なわれるべきものであり、実施例は課題を解決するための手段の欄に記載した発明の具体的な一例に過ぎないものである。
【0033】
以上、本発明を実施するための形態について実施例を用いて説明したが、本発明はこうした実施例に何等限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲内において、種々なる形態で実施し得ることは勿論である。
【産業上の利用可能性】
【0034】
本発明は、電動機装置や電気自動車などに利用可能である。
【符号の説明】
【0035】
20 電気自動車、22 モータ、22u,22v 電流センサ、24 インバータ、26 デファレンシャルギヤ、26a 駆動軸、28a,28b 駆動輪、30 バッテリ、50 電子制御ユニット、52 シフトポジションセンサ、54 アクセルペダルポジションセンサ、56 ブレーキペダルポジションセンサ、58 車速センサ、D1〜D6 ダイオード、T1〜T6 トランジスタ。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
三相交流により駆動する電動機と、直流電源からの電力を用いて前記電動機を駆動するインバータと、前記電動機の各相に印加すべき前記電動機のトルク指令に基づく制御用目標相電流を補正するためのオフセット電流を設定するオフセット電流設定手段と、前記制御用目標相電流に前記設定したオフセット電流を加えたものを前記電動機の目標相電流に設定する目標相電流設定手段と、前記電動機の各相に流れる各相電流が前記設定された目標相電流になるよう前記電動機の各相に印加すべき目標相電圧を設定する目標相電圧設定手段と、前記設定された目標相電圧と搬送波としての三角波の電圧との比較により前記インバータのスイッチング素子のオン時間の割合を調整するパルス幅変調によって前記直流電源からの電力が三相交流電力として前記電動機に供給されるよう前記インバータを制御する制御手段と、を備える電動機装置であって、
前記オフセット電流設定手段は、前記目標相電圧の一周期あたりの三角波の数である同期数を算出し、前記算出した同期数に基づいて前記オフセット電流を設定する手段である、
電動機装置。
【請求項2】
請求項1記載の電動機装置であって、
前記オフセット電流設定手段は、前記同期数が大きいほど大きくなる傾向にオフセット電流を設定する手段である
電動機装置。
【請求項3】
請求項1または2記載の電動機装置であって、
前記電動機の各相に流れる各相電流を検出する相電流検出手段、
を備え、
前記オフセット電流設定手段は、前記算出した同期数が変化したときには、前記算出した同期数が変化してから予め定められた所定期間は前記算出した同期数に基づいて前記オフセット電流を設定し、前記所定期間が経過した後次に前記電動機の回転数が変化するまでは前記目標相電圧の一周期に亘って前記検出された各相電流を積算して算出される電流積算値に基づいて前記オフセット電流を設定する手段である
電動機装置。
【請求項4】
請求項3記載の電動機装置であって、
前記所定期間は、前記目標相電圧の一周期と同じ時間である
電動機装置。
【請求項5】
請求項3または4記載の電動機装置であって、
前記オフセット電流設定手段は、前記同期数が変化してから前記所定期間より短い第1の期間が経過するまでは前記算出した同期数に基づいて前記オフセット電流の仮の値である仮オフセット電流を設定すると共に前記オフセット電流が仮オフセット電流に向かって予め定められた所定変化率以内の変換率で変化するよう前記オフセット電流を設定し、前記第1の期間が経過してから前記所定期間が経過するまでは前記算出した同期数に基づいて前記オフセット電流を設定し、前記所定期間が経過した後第2の期間が経過するまでは前記電流積算値に基づいて前記仮オフセット電流を設定すると共に前記オフセット電流が仮オフセット電流に向かって前記所定変化率以内の変換率で変化するよう前記オフセット電流を設定し、前記第2の期間が経過した後次に前記同期数が変化するまでは前記電流積算値に基づいて前記オフセット電流を設定する手段である
電動機装置。
【請求項6】
請求項1ないし5のいずれか1つの請求項に記載の電動機装置を搭載し、前記電動機からの動力が車軸に連結された駆動軸に出力されてなる電気自動車。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2012−205389(P2012−205389A)
【公開日】平成24年10月22日(2012.10.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−67583(P2011−67583)
【出願日】平成23年3月25日(2011.3.25)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】