説明

電子後方散乱回折像のコントラスト改善方法、及び装置

【課題】 単結晶試料又は配向性が高い多結晶試料であっても、電子後方散乱回折像のコントラストを改善することができる方法を提供する。
【解決手段】 試料の観察領域以外の領域にイオンビームを照射して結晶性を劣化させた劣化領域を形成する(ステップS12)。その後、劣化領域における電子後方散乱回折像を撮像する(ステップS13)。さらに、試料の観察領域における電子後方散乱回折像を撮像する(ステップS14)。最後に、各回折像の間で、同一画素毎に回折強度の差を算出することにより回折像のコントラストを改善する(ステップS15)。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電子後方散乱回折像(Electron Back Scatter diffraction Pattern :EBSP)を用いて試料の結晶構造を分析する技術に関し、特に、回折像のコントラストを改善する技術に関する。
【背景技術】
【0002】
EBSPは、試料の観察領域に電子線が照射されたとき、当該観察領域から後方散乱された電子が形成する回折像である。回折像に現れる直線状の明るいバンドは菊池バンドと呼ばれ、その現れ方は観察領域の結晶構造に応じて異なる。EBSP法は、この特徴を利用し、バンドの現れ方によって試料の結晶構造を分析する方法である。電子線は、そのビーム径をX線よりも細く絞ることが可能である。そのためEBSP法は、X線回折法に比べて空間分解能の点で優れており、結晶構造をより微細に分析する方法として注目されている。
【0003】
従来からバンドの検出精度を向上させるため、回折像からバックグラウンド成分を差し引くことによりコントラストを改善する技術が採用されている(例えば、特許文献1)。特許文献1には、バックグラウンド成分は、試料の観察面の複数位置から回折像を取得し、これらを平均化することで得られると記載されている。
【特許文献1】特表2004−509356号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、特許文献1に開示された技術は、配向性が低い多結晶試料に対しては有効であるが、単結晶試料又は配向性が高い多結晶試料に対しては有効ではない。後者の場合には、観察面の全て又は多くの領域で同一の回折像が得られるため、これらを平均化してもバンドが消え去らず、バックグラウンド成分として利用することが適切ではないからである。
【0005】
また、現在、半導体基板の結晶の歪み測定にEBSP法を応用することが検討されている。この場合、結晶が歪んでいることにより回折条件が十分に整わず、回折像のコントラストがさらに低減することが予測される。
そこで、本発明は、単結晶試料又は配向性が高い多結晶試料であっても、電子後方散乱回折像のコントラストを改善することができるコントラスト改善方法及び装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明に係るコントラスト改善方法は、試料の観察領域における電子後方散乱回折像のコントラストを改善するコントラスト改善方法であって、試料の観察領域以外の領域に結晶性を劣化させた劣化領域を形成する形成ステップと、前記劣化領域における電子後方散乱回折像を撮像する第1撮像ステップと、前記試料の観察領域における電子後方散乱回折像を撮像する第2撮像ステップと、前記第1撮像ステップにより撮像された回折像と前記第2撮像ステップにより撮像された回折像との間で、同一画素毎に回折強度の差又は比を算出することによりコントラストを改善する改善ステップとを含む。
【0007】
本発明に係るコントラスト改善装置は、試料の観察領域における電子後方散乱回折像のコントラストを改善するコントラスト改善装置であって、試料の観察領域以外の領域に結晶性を劣化させた劣化領域を形成する形成手段と、前記劣化領域における電子後方散乱回折像を撮像する第1撮像手段と、前記試料の観察領域における電子後方散乱回折像を撮像する第2撮像手段と、前記第1撮像手段により撮像された回折像と前記第2撮像手段により撮像された回折像との間で、同一画素毎に回折強度の差又は比を算出することによりコントラストを改善する改善手段とを備える。
【発明の効果】
【0008】
課題を解決するための手段に記載された構成によれば、結晶性が劣化した劣化領域が形成される。劣化領域では回折条件が満たされないのでその回折像にはバンドが現れずにバックグラウンド成分のみが現れる。したがって、単結晶試料又は配向性が高い多結晶試料であっても電子後方散乱回折像からバックグラウンド成分を差し引くことができ、回折像のコントラストを改善することができる。
【0009】
また、前記形成ステップは、イオンビームを照射することにより結晶性を劣化させることとしてもよい。
上記構成によれば、エッチング液の接触や砥粒による研削などに比べて劣化領域の位置及び面積を細かく制御することができる。例えば、集束イオンビーム(Focused Ion Beam :FIB)によれば、劣化領域の位置を数十nmオーダで制御できる。したがって、特に、試料が微細(例えば、観察面のサイズが数μm×数μm以下)な場合に有効である。
【0010】
また、前記形成ステップは、目的とする観察面上に表層が残存するように部材を切り出す切り出しサブステップと、前記部材の表層越しに、前記観察面内にある観察領域以外の領域にイオンビームを照射する照射サブステップと、前記照射サブステップの後に、前記観察面が露出するように前記表層を除去する除去サブステップを含むこととしてもよい。
上記構成によれば、イオンビームの照射後に表層を除去するので、観察領域がイオンビームによって汚染されることを防止することができる。イオンビームの汚染の例としては、イオンビームで試料を切り出すときに細かな試料片が観察領域に再付着することなどがある。すなわち、イオンビーム照射時において表層が観察領域の保護層として機能する。これは、特に、試料が微細なため、観察領域と劣化領域との距離を十分に確保できない場合に有効である。
【0011】
また、前記イオンビームは、試料よりも原子数が大きなイオンからなることとしてもよい。
上記構成によれば、試料よりも原子数が小さなイオンを照射する場合に比べて短時間で劣化領域を形成することができる。
また、前記除去サブステップは、試料よりも原子数が小さなイオンを用いたイオンミリングにより行われることとしてもよい。
【0012】
上記構成によれば、観察領域へのダメージを極力抑えながら表層を除去することができる。
また、前記形成ステップは、試料に応じたエッチング液を接触させることにより結晶性を劣化させることとしてもよい。
上記構成によれば、イオンビームの照射に比べて安価な設備で劣化領域を形成することができる。
【0013】
また、前記形成ステップは、砥粒で研削することにより結晶性を劣化させることとしてもよい。
上記構成によれば、イオンビームの照射に比べて安価な設備で劣化領域を形成することができる。
また、前記劣化領域は、試料の観察面から少なくとも30nmの深さまで結晶性が喪失していることとしてもよい。
【0014】
上記構成によれば、劣化領域の回折像にバンドが現れなくすることができる。発明者が上記条件を満たす劣化領域からEBSPを取得したところ、バンドが現れないことが判明した。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
本発明を実施するための最良の形態を、図面を参照して詳細に説明する。
(実施の形態1)
図1は、実施の形態1に係るEBSP装置の構成を示す図である。
EBSP装置は、試料室1、ステージ2、電子銃3、イオン銃4、蛍光スクリーン5、カメラ6、ステージ制御部7、電子銃制御部8、イオン銃制御部9、カメラ制御部10、及びコンピュータ11を備える。
【0016】
試料X1は、ステージ2の面上に載置される。
電子銃3は、電子銃制御部8からの制御に応じて電子線を照射する機能を有する。
イオン銃4は、イオン銃制御部9からの制御に応じてイオンビームを照射する機能を有する。
蛍光スクリーン5は、電子が入射されたときに蛍光する蛍光体が一様に塗布されている。
【0017】
カメラ6は、レンズとCCD(Charge Coupled Devise)とを備え、蛍光スクリーン5に形成される電子後方散乱回折像を撮像する。
ステージ制御部7は、ステージ2の位置及び傾きを制御する。試料X1への電子線及びイオンビームの照射位置及び照射角度は、ステージ2の位置及び傾きにより調整される。
電子銃制御部8は、電子銃3から照射される電子線の照射強度及び照射時間を制御する。
【0018】
イオン銃制御部9は、イオン銃4から照射されるイオンビームのイオン種、照射強度及び照射時間を制御する。
カメラ制御部10は、カメラ6の動作を制御し、各画素の輝度値をデジタル信号に変換してコンピュータ11に出力する。
コンピュータ11は、プログラムを記憶しており、当該プログラムに従ってステージ制御部7、電子銃制御部8、イオン銃制御部9及びカメラ制御部10に指示を与える。
【0019】
図2は、実施の形態1に係る試料の作成手順を示す図である。
EBSP用試料は、一般的には、試料を切り出した後に観察面を平坦化することにより作成される。実施の形態1では、それに加えて、試料Xの観察領域以外の領域に結晶性が劣化した劣化領域を形成することが特徴である。
図2(a)は、観察面の平坦化が完了した試料を示す。ここで、試料X1の材質は単結晶シリコンとする。試料X1は、その観察面X2が平坦化されている。X3が観察領域である。
【0020】
図2(b)は、劣化領域の作成過程における試料を示す。試料X1には、観察領域X3以外の領域にガリウムイオンビームが照射される。ガリウムイオンビームが照射された領域は、単結晶シリコンの結晶性が劣化する。
図2(c)は、劣化領域X4が形成された試料を示す。
図3は、実施の形態1に係るコントラスト改善方法の手順を示す図である。
【0021】
まず、試料X1がステージ2の面上に載置される(ステップS11)。
次に、試料X1の観察領域以外の領域にイオンビームを照射する(ステップS12)。そのため、コンピュータ11は、まず、ステージ制御部7を通じてステージ2の位置を調整する。ステージ2は、試料X1の観察領域以外の領域にイオンビームが照射されるような位置に移動される。その後、コンピュータ11は、イオン銃制御部9を通じてイオン銃4にイオンビームを照射させる。
【0022】
EBSPにおいてバンドの形成に寄与するのは試料X1の表面から30nmの深さまでの結晶構造である。したがって、劣化領域は、少なくとも試料の表面から30nmの深さまで達している必要がある。そのため、イオン銃制御部9は、試料X1の表面から30nmの深さまで結晶性が喪失するようにイオンビームの照射強度及び照射時間を調整する。
ステージ制御部7は、イオンビームが照射されている間に、目的とする形状の劣化領域X4が形成されるようにステージ2を移動させる。イオンビームは、そのビーム径が数nmから数百nmなので、試料X1の観察面のサイズが数μm×数μm以下であっても観察領域以外の領域に任意の形状の劣化領域を形成することができる。また、イオンビームのイオン種として、シリコンよりも原子数が大きなガリウムイオンを採用することで、比較的短時間(1秒程度)で劣化領域を形成することができる。
【0023】
次に、劣化領域X4におけるEBSPを撮像する(ステップS13)。
EBSPは、試料X1に電子線が照射されたときに、試料X1からの後方散乱電子が蛍光スクリーン5の面上に形成する回折像である。
EBSPを撮像するために、まず、コンピュータ11は、ステージ制御部7を通じてステージ2の位置及び傾きを調整する。ステージ2は、試料X1の劣化領域X4に電子線が照射されるような位置に移動される。また、ステージ2の傾きは、観察面X2の法線方向と電子線の照射方向とのなす角度が略70度となるように調整される。その後、コンピュータ11は、電子銃制御部8を通じて電子銃3に電子線を照射させる。このとき蛍光スクリーン5の面上には後方散乱電子による回折像が形成される。コンピュータ11は、カメラ制御部10を通じて当該回折像をカメラ6に撮像させる。カメラ6が備えるCCDは、例えば1024×1024の画素を有する。したがって、この場合、回折像は1024×1024の区画に区分され、区画毎に回折強度が検出されることとなる。実際には、回折強度は、各画素の輝度値として検出される。各画素の輝度値は、カメラ制御部10でデジタル信号に変換された後、コンピュータ11に記憶される。このデジタル信号は、上記の通り回折像の各画素における回折強度を示す。以上により劣化領域X4におけるEBSPが撮像される。
【0024】
次に、観察領域X3におけるEBSPを撮像する(ステップS14)。
EBSPを撮像するために、まず、コンピュータ11は、ステージ制御部7を通じてステージ2の位置及び傾きを調整する。ステージ2は、試料X1の観察領域X3に電子線が照射されるような位置に移動される。また、ステージ2の傾きは、劣化領域X4のEBSPを撮像したときの傾きと等しく調整される。その後、コンピュータ11は、電子銃制御部8を通じて電子銃3に電子線を照射させる。このとき蛍光スクリーン5の面上には後方散乱電子による回折像が形成される。コンピュータ11は、カメラ制御部10を通じて当該回折像をカメラ6に撮像させる。各画素の輝度値は、カメラ制御部10でデジタル信号に変換された後、コンピュータ11に記憶される。以上により観察領域X3におけるEBSPが撮像される。
【0025】
次に、コンピュータ11は、劣化領域X4において撮像されたEBSPと観察領域X3において撮像されたEBSPとの間で、同一画素毎に回折強度の差を算出する(ステップS15)。回折強度の差とは、各EBSPの同一画素におけるデジタル信号の差である。
コンピュータ11は、回折強度の差の算出結果を記憶する(ステップS16)。当該算出結果が、試料X1の観察領域X3における結晶構造に関する情報となる。ユーザは、当該結晶情報を用いて観察領域X3における結晶構造を分析することができる。
【0026】
上記のとおり、本発明に係るコントラスト改善方法では、結晶性が劣化した劣化領域X4が形成される。劣化領域X4では回折条件が満たされないのでその回折像にはバンドが現れずにバックグラウンド成分のみが現れる。したがって、単結晶試料又は配向性が高い多結晶試料であっても観察領域の回折像からバックグラウンド成分を差し引くことができ、EBSPのコントラストを改善することができる。
【0027】
バックグラウンド成分は、測定系の固定ノイズ、測定毎に異なるノイズ、試料毎に異なるノイズなどが複合的に現れたものである。これらのノイズの大きさは、理論的に推測することが困難なので、本実施の形態のように実際に測定することが望ましい。固定ノイズとしては、例えば、以下のものが考えられる。
(a)カメラ6の画素毎の性能差に基づく固定ノイズ
例えば、CCDの画素毎に光電変換率のばらつきが存在する場合、回折強度が同一であっても画素毎に出力されるデジタル信号が異なる。
(b)蛍光スクリーン5の塗布ムラに基づく固定ノイズ
蛍光スクリーン5の表面に塗布された蛍光体に塗布ムラがある場合、回折強度が同一であっても蛍光スクリーン5の面内の位置によって蛍光強度が異なる。
【0028】
また、バックグラウンド成分は、以下の要因により測定毎あるいは試料毎に異なるので、測定毎あるいは試料毎にバックグラウンド成分を測定することが望ましい。
(c)電子線の照射条件(加速電圧、照射電流)の相違に基づく明るさのばらつき
電子線の加速電圧は試料を構成する元素に応じて最適値が異なる。また、電子線の照射電流はその大きさに応じてEBSPの明るさ及びコントラストが異なる。したがって、通常、電子線の照射条件は、試料毎又は測定毎に最適値に調整される。それに伴い、バックグラウンドの明るさが変化する。
(d)散乱のされ方の相違に基づく明るさのばらつき
通常、試料を構成する元素に応じて電子の散乱のされ方が異なる。そのため、試料の元素に応じてバックグラウンドの明るさが変化する。
(e)試料の配置角度の相違に基づく明るさのばらつき
通常、試料は接着剤を用いてユーザが手でステージ2に固定するので、電子線と試料とのなす角度が試料を取り替えるたびに1度から2度程度ばらつく。そのため、電子線と試料とのなす角度が一定とならず、バックグラウンドの明るさが変化する。
(f)試料の観察面の汚れに基づく明るさのばらつき
EBSPは、試料表面の汚れに非常に敏感である。汚れの度合に応じてバックグラウンドの明るさが変化する。
(g)カメラの撮像条件(ゲイン等)の相違に基づく明るさのばらつき
CCDの出力信号のゲイン等は、測定毎に最適値に設定される。そのため、撮像条件に応じてバックグラウンドの明るさが変化する。
(実施の形態2)
実施の形態2は、試料の作成手順が実施の形態1と異なり、それ以外については実施の形態1と同様である。したがって、実施の形態1と異なる点のみについて説明し、同様の点については説明を省略する。
【0029】
図4は、実施の形態2に係る試料の作成手順を示す図である。
図4(a)は、シリコン基板Y1から試料となる部材Y2を切り出す過程を示す。切り出しは、ガリウムイオンビームの照射により行われる。
図4(b)は、試料となる部材Y2が切り出された状態を示す。部材Y2は、その内部に目的とする観察領域Y5が存在し、かつ、観察面Y4の面上に表層(切出面Y3と観察面Y4とで挟まれる層)が残存するように切り出される。
【0030】
図4(c)は、試料となる部材Y2にガリウムイオンビームが照射された状態を示す。ガリウムイオンビームは、部材Y2の観察領域Y5以外の領域Y7に、表層越しに照射される。
図4(d)は、イオンミリングの過程を示す。表層は、アルゴンイオンビームの照射によるイオンミリングにより除去される。
【0031】
図4(e)は、イオンミリングが完了した状態を示す。イオンミリングによる表層の除去の結果、観察面Y4が露出する。観察面Y4の面内には観察領域Y5が存在し、劣化領域Y7が形成されている。
図5は、実施の形態2に係るコントラスト改善方法の手順を示す図である。
まず、試料となる部材Y2を切り出し(ステップS21)、部材Y2の観察領域Y5以外の領域Y7に、表層越しにガリウムイオンビームを照射する(ステップS22)。このとき、イオン銃制御部9は、観察面Y4から30nm以上の深さまで結晶性が喪失するようにイオンビームの照射強度及び照射時間を調整する。
【0032】
ステージ制御部7は、イオンビームが照射されている間に、目的とする形状の劣化領域Y7が形成されるようにステージ2を移動させる。
次に、表層を除去する(ステップS23)。具体的には、アルゴンイオンビームの照射により表層の構成原子を剥離するイオンミリングを実施する。アルゴンイオンは、試料のシリコンよりも原子数が小さいので観察領域Y5のダメージを極力抑制することができる。アルゴンイオンビームは、イオン銃4から照射され、その照射強度及び照射時間はイオン銃制御部9により調整される。
【0033】
次に、劣化領域Y7におけるEBSPを撮像した後に(ステップS24)、観察領域Y5におけるEBSPを撮像する(ステップS25)。そして、同一画素毎に回折強度の差を算出し(ステップS26)、算出結果を記憶する(ステップS27)。ステップS24以降については、実施の形態1のステップS13以降と同様である。
上述のように実施の形態2は実施の形態1と試料の作成手順において相違する。したがって、実施の形態2は、実施の形態1の効果に加えて以下の効果を有する。
【0034】
実施の形態2では、イオンビームを表層越しに照射して劣化領域Y7を形成し、その後表層を除去する。これにより、観察領域Y5がイオンビームによって汚染されることを防止することができる。すなわち、表層が観察領域Y5の保護層として機能する。これは、特に、試料が微細なため(例えば、1μm×1μm以下)、観察領域と劣化領域との距離を十分に確保できない場合に有効である。
【0035】
以上、本発明に係るコントラスト改善方法及び装置について、実施の形態に基づいて説明したが、本発明はこれらの実施の形態に限られない。例えば、以下のような変形例が考えられる。
(1)実施の形態では、観察領域のEBSPと劣化領域のEBSPとの差を算出しているが、これらの比を算出したほうが効果的にコントラストを改善できる場合がある。このような場合には、比を算出することとしてもよい。
(2)実施の形態では、劣化領域の形成にイオンビームの照射を採用しているが、結晶性を劣化させることができれば、これに限らない。試料に対応したエッチング液を接触させることとしてもよい。例えば、試料がシリコンの場合には、フッ酸と硝酸と水の混合液が利用可能である。また、目的の領域を砥粒で研削することとしてもよい。例えば、砥粒として、ダイヤモンドラッピングフィルムあるいはSiCが利用可能である。
(3)実施の形態では、試料がシリコン単結晶である場合で説明したので、劣化領域を1箇所だけ形成しているが、これに限らない。例えば、試料が複数の部分からなり各部分の材料が異なる場合には、各部分に劣化領域を形成するのが望ましい。これは、バックグラウンド成分が試料を構成する元素に応じて異なるからである。
(4)実施の形態では、劣化領域のEBSPを取得した後に観察領域のEBSPを取得しているが、この順番は逆でも構わない。
(5)実施の形態では、表層の除去にイオンミリングを採用しているが、観察領域へのダメージを極力抑えつつ表層を除去する方法であれば、これ以外の方法を採用しても構わない。
(6)本発明に係るコントラスト改善方法は、実施の形態で説明したEBSP装置のみならず、一般的なEBSP装置、FIB装置及びイオンミリング装置を適切な順番で用いることにより実施することができる。
【産業上の利用可能性】
【0036】
本発明は、単結晶試料又は配向性が高い多結晶試料の結晶構造を分析する技術に利用できる。
【図面の簡単な説明】
【0037】
【図1】実施の形態1に係るEBSP装置の構成を示す図である。
【図2】実施の形態1に係る試料の作成手順を示す図である。
【図3】実施の形態1に係るコントラスト改善方法の手順を示す図である。
【図4】実施の形態2に係る試料の作成手順を示す図である。
【図5】実施の形態2に係るコントラスト改善方法の手順を示す図である。
【符号の説明】
【0038】
1 試料室
2 ステージ
3 電子銃
4 イオン銃
5 蛍光スクリーン
6 カメラ
7 ステージ制御部
8 電子銃制御部
9 イオン銃制御部
10 カメラ制御部
11 コンピュータ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
試料の観察領域における電子後方散乱回折像のコントラストを改善するコントラスト改善方法であって、
試料の観察領域以外の領域に結晶性を劣化させた劣化領域を形成する形成ステップと、
前記劣化領域における電子後方散乱回折像を撮像する第1撮像ステップと、
前記試料の観察領域における電子後方散乱回折像を撮像する第2撮像ステップと、
前記第1撮像ステップにより撮像された回折像と前記第2撮像ステップにより撮像された回折像との間で、同一画素毎に回折強度の差又は比を算出することによりコントラストを改善する改善ステップと
を含むことを特徴とするコントラスト改善方法。
【請求項2】
前記形成ステップは、イオンビームを照射することにより結晶性を劣化させること
を特徴とする請求項1に記載のコントラスト改善方法。
【請求項3】
前記形成ステップは、
目的とする観察面上に表層が残存するように部材を切り出す切り出しサブステップと、
前記部材の表層越しに、前記観察面内にある観察領域以外の領域にイオンビームを照射する照射サブステップと、
前記照射サブステップの後に、前記観察面が露出するように前記表層を除去する除去サブステップと
を含むことを特徴とする請求項2に記載のコントラスト改善方法。
【請求項4】
前記イオンビームは、試料よりも原子数が大きなイオンからなること
を特徴とする請求項2又は3に記載のコントラスト改善方法。
【請求項5】
前記除去サブステップは、試料よりも原子数が小さなイオンを用いたイオンミリングにより行われること
を特徴とする請求項3に記載のコントラスト改善方法。
【請求項6】
前記形成ステップは、試料に応じたエッチング液を接触させることにより結晶性を劣化させること
を特徴とする請求項1に記載のコントラスト改善方法。
【請求項7】
前記形成ステップは、砥粒で研削することにより結晶性を劣化させることを特徴とする請求項1に記載のコントラスト改善方法。
【請求項8】
前記劣化領域は、試料の観察面から少なくとも30nmの深さまで結晶性が喪失していること
を特徴とする請求項1に記載のコントラスト改善方法。
【請求項9】
試料の観察領域における電子後方散乱回折像のコントラストを改善するコントラスト改善装置であって、
試料の観察領域以外の領域に結晶性を劣化させた劣化領域を形成する形成手段と、
前記劣化領域における電子後方散乱回折像を撮像する第1撮像手段と、
前記試料の観察領域における電子後方散乱回折像を撮像する第2撮像手段と、
前記第1撮像手段により撮像された回折像と前記第2撮像手段により撮像された回折像との間で、同一画素毎に回折強度の差又は比を算出することによりコントラストを改善する改善手段と
を備えることを特徴とするコントラスト改善装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2006−189262(P2006−189262A)
【公開日】平成18年7月20日(2006.7.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−381673(P2004−381673)
【出願日】平成16年12月28日(2004.12.28)
【出願人】(000005821)松下電器産業株式会社 (73,050)
【Fターム(参考)】