説明

電子放出素子の製造方法、電子放出素子、電子源、および、画像表示装置

【課題】均一な電子ビームを放出でき、製造プロセスが容易な電子放出素子、該電子放出素子の製造方法、該電子放出素子を利用した電子源、及び、該電子源を利用した、画質が良好で高精細な画像表示装置を提供する。
【解決手段】本発明に係る電子放出素子の製造方法において、電子放出膜を成膜する工程は、基体上に絶縁性または半導電性を有する第1の層103を成膜する工程と、第1の層103上に、炭素を主成分とする第2の層104を成膜する工程と、を有することを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電子放出素子の製造方法、電子放出素子、電子源、および、画像表示装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、電界放出型(FE型)電子放出素子が知られている。
【0003】
FE型電子放出素子は、カソード電極(及びその上に配置された電子放出膜)と、ゲート電極との間に電圧を印加し、該電圧(電界)によってカソード電極側から電子を真空中に引き出すタイプの電子放出素子である。そのため、用いるカソード電極(電子放出膜)の仕事関数やその形状などによって動作電界が大きく左右される。一般には、仕事関数の小さいカソード電極(電子放出膜)を選ぶことが必要とされている。
【0004】
例えば、特許文献1には、カソード電極としての金属体と、その金属体と接合された半導体(ダイヤモンド、AlN、BN等)とを備えた電子放出装置が開示されている。特許文献1には、膜厚が10nm程度以下のダイヤモンドからなる半導体膜表面を水素終端することが開示されている。
【0005】
ダイヤモンドは負性電子親和力(NEA)を持つ材料として代表的なものであり、負性電子親和力を持つダイヤモンド表面を電子放出面として利用する電子放出素子は特許文献2、3、非特許文献1に開示されている。しかしながら、ダイヤモンドを大面積に均一な厚さで形成することは困難である。
【0006】
また、特許文献4には絶縁層中に微粒子が存在する電子放出膜が開示されている。特許文献5にはダイヤモンド粒子上に設けられたカーボン層の表面を水素終端する技術が開示されている。特許文献6には微粒子上に設けられたカーボン層の表面を水素終端する技術が開示されている。特許文献7には、導電性粒子が無機電気絶縁材料の層に埋設された電子放出素子、および、導電性粒子が絶縁材料の層によって被覆されている電子放出素子が開示されている。
【0007】
しかし、微粒子などを層中に埋設させる場合、層の表面と微粒子との間の厚さを一様にすることは困難である。また、微粒子を均一に配置することは困難である。
【0008】
電子放出材の膜厚(電子放出材が導電性粒子を含んでいる場合、電子放出材表面と導電性粒子との間の厚さ)、および、電子放出材に含まれる導電性粒子の配置は、電子放出素子から放出される電子ビームの均一性に影響を与えるため、重要である。具体的には、電子放出材の膜厚は一様であることが好ましく、電子放出材に含まれる導電性粒子の配置は、均一であることが好ましい。
【特許文献1】特開平9−199001号公報
【特許文献2】米国特許第5283501号明細書
【特許文献3】米国特許第5180951号明細書
【特許文献4】特開2004−71536号公報
【特許文献5】特開2002−093305号公報
【特許文献6】特開2006−164896号公報
【特許文献7】特表平11−510307号公報
【非特許文献1】V.V.Zhinov,J.Liu等著、「Environmental effect on the electron emission from diamond surfaces」,J.Vac.Sci.Technol.,B16(3),1998年5/6月,pp.1188−1193
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
そこで、本発明は、上記の従来技術の課題を解決するためになされたものであって、その目的とするところは、均一な電子ビームを放出でき、製造プロセスが容易な電子放出素子およびその製造方法を提供することにある。
【0010】
また、本発明の更なる目的は、そのような電子放出素子を利用した電子源、及び、該電子源を利用した、画質が良好で高精細な画像表示装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記目的を達成するために本発明に係る電子放出素子の製造方法は、基体上に電子放出膜を有する電子放出素子の製造方法において、前記電子放出膜を形成する工程は、前記基体上に絶縁性または半導電性を有する第1の層を成膜する工程と、前記第1の層上に、炭素を主成分とする第2の層を成膜する工程と、を有することを特徴とする。
【0012】
また、本発明に係る電子放出素子は、上記電子放出素子の製造方法で作製されることを特徴とする。
【0013】
また、本発明に係る電子源は、上記電子放出素子を複数有することを特徴とする。
【0014】
また、本発明に係る画像表示装置は、上記電子源と、電子の照射によって発光する発光体と、を有することを特徴とする。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、均一な電子ビームを放出でき、製造プロセスが容易な電子放出素子およびその製造方法を提供することができる。また、そのような電子放出素子を利用した電子源、及び、該電子源を利用した、画質が良好で高精細な画像表示装置を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
以下に図面を参照して、この発明の好適な実施の形態を例示的に詳しく説明する。ただし、この実施の形態に記載されている構成部品の寸法、材質、形状、その相対配置などは、特に記載の無い限りは、この発明の範囲をそれらのみに限定する趣旨のものではない。
【0017】
図1は、本発明の実施形態に係る電子放出素子の製造方法の一例を示す図である。図1において、工程1は、基板101を用意し、基板101上にカソード電極102を成膜する工程である。工程2はカソード電極102上に絶縁性または半導電性を有する第1の層103を成膜する工程である。工程3は第1の層103上に炭素を主成分とする第2の層104を成膜する工程である。工程4は第2の層104の表面を水素で終端する工程である。なお、図1の例では、第1の層103は複数の導電性粒子106を含んでいる。図1の例では、工程2及び工程3が電子放出膜を成膜する工程である。即ち、図1の例では、第1の層及び第2の層を併せたものを、電子放出膜とする(なお、導電性粒子106はカソード電極102と電気的に接続されるため、カソード電極102の一部として考えることができる)。各工程の詳細については後で詳しく説明する。
【0018】
図2は、本発明の実施形態に係る電子放出素子の製造方法の一例を示す図である。図2において、工程1は、基板101を用意し、基板101上にカソード電極102を成膜す
る工程である。工程2はカソード電極102上に複数の導電性粒子106を含む絶縁性または半導電性を有する第1の層103を成膜する工程である。工程3は第1の層中の導電性粒子106の表面の一部を露出させる工程である。工程4は、該表面の一部が露出された導電性粒子を含む第1の層上に炭素を主成分とする第2の層104を成膜する工程である。工程5は第2の層104の表面を水素で終端する工程である。図2の例では、工程2及び工程3が電子放出膜を成膜する工程である。各工程の詳細については後で詳しく説明する。
【0019】
図3は、本発明の実施形態に係る電子放出素子の製造方法の一例を示す図である。図3において、工程1は、基板101を用意し、基板101上にカソード電極102を成膜する工程である。工程2はカソード電極102上に複数の導電性粒子106を含む絶縁性または半導電性を有する第1の層103を成膜する工程である。工程3は第1の層中の導電性粒子106の表面の一部を露出させる工程である。工程4は、該表面の一部が露出された導電性粒子を含む第1の層上に炭素を主成分とする第2の層104を成膜する工程である。工程5は第2の層104上に絶縁層107を成膜する工程である。工程6は絶縁層107上にゲート電極108を成膜する工程である。工程7は、フォトレジストのパターニングを行う工程である。工程8は、ドライエッチングによりゲート電極108と絶縁層107の一部を取り除く工程である。工程9は、ウエットエッチングにより、絶縁層107の一部をさらに取り除き、ゲート電極108と絶縁層107の開口を形成する工程である。当該工程により、開口内に第2の層104の表面の一部または全部が露出される。工程10は、第2の層104の表面の一部または全部を水素で終端する工程である。図3の例では、工程2、工程3及び工程4が電子放出膜を成膜する工程である。各工程の詳細については後で詳しく説明する。
【0020】
図5は、本発明の実施形態に係る電子放出素子における電子放出膜の表面(具体的には第2の層の表面)を水素で終端するための表面処理装置を示す図である。図5において、401はプラズマ発生室、402は磁気コイル、403はマイクロ波導入口、404は試料室、である。そして、405は処理ガス導入口A、406は処理ガス導入口B、407はバイアスグリッド、408は直流電源A、409は表面処理サンプル、410は直流電源B、411は基板加熱ヒータである。
【0021】
以下に、図1を用いて本実施形態に係る電子放出素子の製造方法の一例を示す。
【0022】
(工程1)
まず、表面が十分に洗浄された基板101を用意し、基板101上にカソード電極102を積層する。基板101は、石英ガラス、Na等の不純物含有量を減少させたガラス、青板ガラス、シリコン基板等にスパッタ法等によりSiOを積層した積層体、アルミナ等セラミックスの絶縁性基板などから選択すればよい。工程1で作製されたものを基体と呼ぶ。
【0023】
カソード電極102は一般的に導電性を有しており、蒸着法、スパッタ法等の一般的な真空成膜技術、フォトリソグラフィー技術により形成される。カソード電極102の材料は、金属、合金等から適宜選択される。金属としては、例えば、Be、Mg、Ti、Zr、Hf、V、Nb、Ta、Mo、W、Al、Cu、Ni、Cr、Au、Pt、Pd等を用いればよく、合金もまたそれら金属を用いて生成されたものを用いればよい。カソード電極102の厚さとしては、数十nmから数mmの範囲で設定され、好ましくは数百nmから数μmの範囲で選択される。
【0024】
(工程2)
次に、カソード電極102上(基体上)に絶縁性または半導電性を有する第1の層10
3を成膜する。第1の層103は蒸着法、スパッタ法等の一般的な真空成膜技術、フォトリソグラフィー技術により形成される。
【0025】
第1の層103の材料は、炭素や炭素化合物などのように炭素を主成分とすることが好ましいが、炭素を主成分とする材料に限定する必要はない。炭素を主成分とする材料は、例えば、アモルファスカーボン、ダイヤモンドを分散した炭素及び炭素化合物等から適宜選択される。好ましくは仕事関数の低いダイヤモンド薄膜、アモルファスカーボン等が良い。第1の層103の膜厚としては、数nmから数μmの範囲で設定され、好ましくは数nmから数百nmの範囲で選択される。
【0026】
また、図1の例では、第1の層103は導電性粒子106を含んでいる。第1の層中の導電性粒子106の密度は1×1014個/cm以上1×1019個/cm以下であることが好ましい。また、当該導電性粒子106の大きさは、数nmから数百nmの範囲で設定され、好ましくは数nmから数十nmの範囲で選択される。この導電性粒子106は、膜厚方向に、複数個存在し、カソード電極102と電気的に接合されている。導電性粒子106の材料としては、金属、合金、導電性炭素材料等から適宜選択される。金属としては、例えば、Be、Mg、Mn、Ti、Zr、Hf、V、Nb、Ta、Mo、W、Al、Cu、Ni、Cr、Co、Fe、Ni、Au、Pt、Pd等を用いればよく、合金もまたそれら金属を用いて生成されたものを用いればよい。導電性炭素材料としては、カーボンナノチューブ、カーボンナノファイバー、グラファイト、フラーレン等を用いればよい。あるいは、それらの混合物を導電性粒子106としてもよい。
【0027】
(工程3)
次に、第1の層103上に炭素を主成分とする第2の層104を成膜する。第2の層104は蒸着法、スパッタ法等の一般的な真空成膜技術、フォトリソグラフィー技術により形成してもよいし、塗布法を用いて形成しても良い。例えば、第2の層104は、一般的なフォトレジストに金属を含有させ、真空中にて500℃〜800℃で焼成することによって形成できる。第2の層104の材料は、第1の層103と同様に、アモルファスカーボン、ダイヤモンドを分散した炭素及び炭素化合物等、炭素を主成分とする材料から適宜選択される。好ましくは仕事関数の低いダイヤモンド薄膜、アモルファスカーボン等が良い。第2の層104の膜厚としては、約1nmから数μmの範囲で設定され、好ましくは約1nmから数百nmの範囲で選択される。より好ましくは1nm以上100nm以下の範囲で選択される。
【0028】
このように、電子放出膜を2層構造とすることにより電子放出特性を向上させることができる。また、第1の層に導電性粒子が含まれている場合、第1の層の厚さと第2の層厚さを制御することにより導電性粒子の表面から電子放出膜表面までの距離を制御することができる。これにより、電子放出膜の位置によらず均一な電子放出が可能となる。
【0029】
また、図2の工程3のように、導電性粒子106の表面の一部を露出させる工程を含んでいてもよい。本実施形態では、第1の層103の表面層を取り除くことによって導電性粒子106の表面の一部を露出させる。第1の層103の表面層を取り除く方法としては、ドライエッチングやウエットエッチングがある。このとき取り除かれる表面層の厚さは約0.1nmから数百nmの範囲で設定され、好ましくは0.1nm以上30nm以下の範囲で選択される。また、上記エッチングの条件としては、電子放出膜のエッチングレートが導電性粒子のエッチングレートよりも3倍以上高くなるように選択することが好ましい。
【0030】
導電性粒子106の表面の一部を露出させることにより、より多くの導電性粒子106の、電子放出膜の表面までの距離を一定にすることができる。即ち、導電性粒子106の
表面の一部を露出させることにより、より均一な電子放出を可能とする電子放出素子を製造することができる。
【0031】
(工程4)
次に、第2の層104の表面を水素で終端する。水素で終端する方法を、図5を用いて説明する。図5の装置は、ECRプラズマを用いた表面処理装置である。図5に示すように、試料室の上部にはプラズマ発生室がある。プラズマ生成室内に、処理ガスを導入し、ECR条件である磁束密度875Gaussの磁界を印加する。そして、マイクロ波をプラズマ発生室に導入すると、プラズマが発生する。図5の装置では、磁気コイルの磁界分布は試料室に向かうにしたがって低くなる発散磁界を形成する。また、図5の装置には、バイアスグリッド407がプラズマ発生室401とサンプル409との間に設置してある。プラズマ中の電子はこのバイアスグリッドに捕獲され、プラズマ中の中性ラジカルのみがバイアスグリッドを選択的に通過する。そのため、サンプル表面に中性ラジカルが照射される(サンプル表面が中性ラジカル雰囲気に曝される)。これにより、サンプル表面を効率的に水素終端することができる。なお、サンプルとは、表面処理の対象であって、例えば、上記工程3までで作製された素子などである。
【0032】
なお、処理ガスの導入には、処理ガス導入口Aと処理ガス導入口Bを使用する。このときの処理ガスとしては、水素または、水素を含むハイドロカーボン系ガスから適宜選択される。具体的には、H、CH、Cなどの気体、または、それらの混合気体を処理ガスとして用いる。そして、それらの処理ガス中でプラズマを発生させることにより、水素を含む中性ラジカルとして、H・、CH・、C・、CH・などを生じさせることができる。処理圧力は、プラズマが維持できる範囲で設定され、好ましくは、0.05〜10Paの範囲で設定される。
【0033】
なお、バイアスグリッドの電位(グリッドバイアス)は、アースと等電位または、負であれば良くその範囲は0から−500Vの範囲で設定され、好ましくは、0から−200Vの範囲で選択される。またサンプルの表面電位(基準電圧)は直流電源Bにより決定され、バイアスグリッドと等電位かそれよりも正であれば良く、その範囲は、0から1000Vの範囲で設定され、好ましくは0から500Vの範囲で設定される。
【0034】
なお、基板加熱ヒータ411により、基体を加熱しても良い。
【0035】
なお、水素終端を施した第2の層の表面におけるカーボンに対する水素の割合は、He元素を用いた前方散乱電子測定において5%以上30%以下となる。
【0036】
以下に、図3を用いて本実施形態に係る電子放出素子の製造方法の一例について示す。
【0037】
まず、表面が十分に洗浄された基板101を用意し、基板101上にカソード電極102を積層する。基板101は、石英ガラス、Na等の不純物含有量を減少させたガラス、青板ガラス、シリコン基板等にスパッタ法等によりSiOを積層した積層体、アルミナ等セラミックスの絶縁性基板などから選択すればよい。工程1で作製されたものを基体と呼ぶ。
【0038】
カソード電極102は一般的に導電性を有しており、蒸着法、スパッタ法等の一般的な真空成膜技術、フォトリソグラフィー技術により形成される。カソード電極102の材料は、金属、合金等から適宜選択される。金属としては、例えば、Be、Mg、Ti、Zr、Hf、V、Nb、Ta、Mo、W、Al、Cu、Ni、Cr、Au、Pt、Pd等を用いればよく、合金もまたそれら金属を用いて生成されたものを用いればよい。カソード電極102の厚さとしては、数十nmから数mmの範囲で設定され、好ましくは数百nmか
ら数μmの範囲で選択される。
【0039】
(工程2)
次に、カソード電極102上(基体上)に絶縁性または半導電性を有する第1の層103を成膜する。第1の層103は蒸着法、スパッタ法等の一般的な真空成膜技術、フォトリソグラフィー技術により形成される。
【0040】
第1の層103の材料は、炭素や炭素化合物などのように炭素を主成分とすることが好ましいが、炭素を主成分とする材料に限定する必要はない。炭素を主成分とする材料は、例えば、アモルファスカーボン、ダイヤモンドを分散した炭素及び炭素化合物等から適宜選択される。好ましくは仕事関数の低いダイヤモンド薄膜、アモルファスカーボン等が良い。第1の層103の膜厚としては、数nmから数μmの範囲で設定され、好ましくは数nmから数百nmの範囲で選択される。
【0041】
また、図3の例においても、図1,2の例と同様に、第1の層103は導電性粒子106を含んでいる。第1の層中の導電性粒子106の密度は1×1014個/cm以上1×1019個/cm以下であることが好ましい。また、当該導電性粒子106の大きさは、数nmから数百nmの範囲で設定され、好ましくは数nmから数十nmの範囲で選択される。この導電性粒子106は、膜厚方向に、複数個存在し、カソード電極102と電気的に接合されている。導電性粒子106の材料としては、金属、合金、導電性炭素材料等から適宜選択される。金属としては、例えば、Be、Mg、Mn、Ti、Zr、Hf、V、Nb、Ta、Mo、W、Al、Cu、Ni、Cr、Co、Fe、Ni、Au、Pt、Pd等を用いればよく、合金もまたそれら金属を用いて生成されたものを用いればよい。導電性炭素材料としては、カーボンナノチューブ,カーボンナノファイバー、グラファイト、フラーレン等を用いればよい。あるいは、それらの混合物を導電性粒子106としてもよい。
【0042】
(工程3)
次に、第1の層103中の導電性粒子106の表面の一部を露出する。本実施形態では、第1の層103の表面層を取り除くことにより、導電性粒子106の表面の一部を露出させる。なお、本工程を行わなくても良い。第1の層103の表面層を取り除くことにより、導電性粒子106の表面の一部を露出させる方法としては、ドライエッチングやウエットエッチングなどを用いればよい。このとき取り除かれる表面層の膜厚は約0.1nmから数百nmの範囲で設定され、好ましくは0.1nm以上30nm以下の範囲で選択される。また、上記エッチングの条件としては電子放出膜のエッチングレートが導電性粒子のエッチングレートよりも3倍以上高くなるように選択する。
【0043】
(工程4)
次に、上記表面の一部が露出された導電性粒子106を含む第1の層103上に炭素を主成分とする第2の層104を成膜する。第2の層104は蒸着法、スパッタ法等の一般的な真空成膜技術、フォトリソグラフィー技術などにより形成される。第2の層104の材料は、第1の層103と同様に、アモルファスカーボン、ダイヤモンドを分散した炭素及び炭素化合物等、炭素を主成分とする材料から適宜選択される。好ましくは仕事関数の低いダイヤモンド薄膜、アモルファスカーボン等が良い。第2の層104の膜厚としては、約1nmから数μmの範囲で設定され、好ましくは約1nmから数百nmの範囲で選択される。より好ましくは1nm以上100nm以下の範囲で選択される。
【0044】
(工程5)
次に、第2の層104上に絶縁層107を成膜する。絶縁層107は、スパッタ法等の一般的な真空成膜法、CVD法、真空蒸着法等を用いて形成される。絶縁層107の厚さ
は、数nmから数μmの範囲で設定され、好ましくは数十nmから数百nmの範囲で設定される。絶縁層107の材料は、SiO、SiN、Al、CaF、アンドープダイヤモンドなどの高電界に絶えられる耐圧性の高い材料が望ましい。
【0045】
(工程6)
次に、絶縁層107上にゲート電極108を成膜する。ゲート電極108は、カソード電極102と同様に導電性を有しており、蒸着法、スパッタ法等の一般的な真空成膜技術、フォトリソグラフィー技術により形成される。ゲート電極108の材料は、金属、合金、炭化物、硼化物、窒化物、半導体、有機高分子材料、アモルファスカーボン、グラファイト、ダイヤモンドライクカーボン、ダイヤモンドを分散した炭素及び炭素化合物等から適宜選択される。金属としては、例えば、Be、Mg、Ti、Zr、Hf、V、Nb、Ta、Mo、W、Al、Cu、Ni、Cr、Au、Pt、Pd等を用いればよく、合金もまたそれら金属を用いて生成されたものを用いればよい。炭化物としては、TiC、ZrC、HfC、TaC、SiC、WC等、硼化物としては、HfB、ZrB、LaB、CeB、YB、GdB等、窒化物としては、TiN、ZrN、HfN等、そして、半導体としては、Si、Ge等を用いればよい。ゲート電極108の厚さとしては、数nmから数十μmの範囲で設定され、好ましくは数十nmから数μmの範囲で選択される。
【0046】
(工程7)
次に、フォトレジストのパターニングを行う。具体的にはフォトリソグラフィー技術によりマスクパターン109を形成する。なお、マスクパターン109として、開口を有するマスクパターンを形成する。
【0047】
(工程8)
次に、マスクパターン109をマスクとして用い、ドライエッチングによりゲート電極108と絶縁層107の一部を取り除く。本工程により、マスクパターン109の開口と対応する位置に、ゲート電極108の開口が形成される。
【0048】
(工程9)
次に、ウエットエッチングにより絶縁層107の一部を更に取り除く。ウエットエッチングは、絶縁層107をエッチングできればよい。また、絶縁層107のエッチングレートが、ゲート電極108、第2の層104のエッチングレートと比較して大きいものが好ましく、且つ、第2の層104が劣化しないものが望ましい。本工程により、マスクパターン109の開口と対応する位置に、絶縁層107の開口が形成され、第2の層104の表面の一部または全部がゲート電極108と絶縁層107の開口内に露出される。
【0049】
(工程10)
次に、第2の層104の表面の一部または全部を水素で終端する。水素で終端する方法を、図5を用いて説明する。図5の装置は、ECRプラズマを用いた表面処理装置である。図5に示すように、試料室の上部にはプラズマ発生室がある。プラズマ発生室内に、処理ガスを導入し、ECR条件である磁束密度875Gaussの磁界を印加する。そして、マイクロ波をプラズマ発生室に導入すると、プラズマが発生する。図5の装置では、磁気コイルの磁界分布は試料室に向かうにしたがって低くなる発散磁界を形成する。また、図5の装置には、バイアスグリッド407がプラズマ発生室401とサンプル409との間に設置してある。プラズマ中の電子はこのバイアスグリッドに捕獲され、プラズマ中の中性ラジカルのみがバイアスグリッドを選択的に通過する。そのため、サンプル表面に中性ラジカルが照射される(サンプル表面が中性ラジカル雰囲気に曝される)。これにより、サンプル表面を効率的に水素終端することができる。
【0050】
なお、処理ガスの導入には、処理ガス導入口Aと処理ガス導入口Bを使用する。このと
きの処理ガスとしては、水素または、水素を含むハイドロカーボン系ガスから適宜選択される。具体的には、H、CH、Cなどの気体、または、それらの混合気体を処理ガスとして用いる。そして、それらの処理ガス中でプラズマを発生させることにより、水素を含む中性ラジカルとして、H・、CH・、C・、CH・などを生じさせることができる。処理圧力は、プラズマが維持できる範囲で設定され、好ましくは、0.05〜10Paの範囲で設定される。
【0051】
なお、バイアスグリッドの電位(グリッドバイアス)は、アースと等電位または、負であれば良くその範囲は0から−500Vの範囲で設定され、好ましくは、0から−200Vの範囲で選択される。またサンプルの表面電位(基準電圧)は直流電源Bにより決定され、バイアスグリッドと等電位かそれよりも正であれば良く、その範囲は、0から1000Vの範囲で設定され、好ましくは0から500Vの範囲で設定される。
【0052】
なお、基板加熱ヒータ411により、基体を加熱しても良い。
【0053】
なお、水素終端を施した第2の層の表面におけるカーボンに対する水素の割合は、He元素を用いた前方散乱電子測定において5%以上30%以下となる。
【0054】
このようにして作製した電子放出素子を、図4に示すような真空容器301内にセットし、電子放出素子の上方の離れた位置にアノード電極302を配置する。電源303によりゲート電極とカソード電極の間に必要な電圧を印加し、電源304によりアノード電極に必要な電圧を印加すると、電子放出が観測できる。
【0055】
<応用例>
本実施形態に係る電子放出素子の応用例について以下に述べる。本実施形態に係る電子放出素子は、例えば、複数個を基板上に配列することにより電子源を構成することができる。そして、当該電子源を用いて画像表示装置を構成することができる。
【0056】
(電子源)
電子放出素子の配列については、種々のものが採用される。一例として、電子放出素子をX方向及びY方向に行列状に複数配する。同じ行に配された複数の電子放出素子の電極の一方を、X方向の配線に共通に接続し、同じ列に配された複数の電子放出素子の電極の他方を、Y方向の配線に共通に接続する。これを単純マトリクス配置という。以下単純マトリクス配置の電子源について図6を用いて詳述する。
【0057】
図6において、501は電子源基体、502はX方向配線、503はY方向配線である。504は本実施形態に係る電子放出素子である。
【0058】
X方向配線502は、Dx1,Dx2,・・・Dxmのm本の配線からなり、真空蒸着法、印刷法、スパッタ法等を用いて形成された導電性金属等で構成することができる。配線の材料、膜厚、幅は、適宜設計される。Y方向配線503は、Dy1,Dy2,・・・Dynのn本の配線よりなり、X方向配線502と同様に形成される。これらm本のX方向配線502とn本のY方向配線503との間には、不図示の層間絶縁層が設けられており、両者は電気的に分離されている(m,nは、共に正の整数)。
【0059】
不図示の層間絶縁層は、真空蒸着法、印刷法、スパッタ法等を用いて形成されたSiO等で構成される。当該層間絶縁層は、例えば、X方向配線502を形成した電子源基体501の全面或いは一部に所望の形状で形成される。当該層間絶縁層の膜厚、材料、製法は、X方向配線502とY方向配線503の交差部の電位差に耐え得るように、適宜設定される。X方向配線502とY方向配線503は、それぞれ外部端子として引き出されて
いる。
【0060】
電子放出素子504は一対の電極(ゲート電極、カソード電極)を備える。図6の例では、ゲート電極は、n本のY方向配線503の内のいずれかと、導電性金属等からなる結線によって電気的に接続されている。カソード電極は、m本のX方向配線502の内のいずれかと、導電性金属等からなる結線によって電気的に接続されている。
【0061】
X方向配線502とY方向配線503を構成する材料、結線を構成する材料及び一対の素子電極を構成する材料は、その構成元素の一部あるいは全部が同一であっても、またそれぞれ異なってもよい。これら材料は、例えば前述の素子電極の材料より適宜選択される。素子電極を構成する材料と配線材料が同一である場合には、素子電極に接続した配線は素子電極ということもできる。
【0062】
X方向配線502には、不図示の走査信号印加手段が接続される。走査信号印加手段は、選択されたX方向配線に接続されている電子放出素子504に走査信号を印加する。一方、Y方向配線503には、不図示の変調信号発生手段が接続される。変調信号発生手段は、電子放出素子504の各列に、入力信号に応じて変調された変調信号を印加する。各電子放出素子に印加される駆動電圧は、当該素子に印加される走査信号と変調信号の差電圧として供給される。
【0063】
(画像表示装置)
上記構成においては、単純なマトリクス配線を用いて、個別の素子を選択し、独立に駆動可能とすることができる。上記電子源を用いて構成した画像表示装置について、図7を用いて説明する。図7は、画像表示装置の表示パネルの一例を示す模式図である。
【0064】
図7において、601はX方向の容器外端子、602はY方向の容器外端子、613は電子源基体、611はリアプレート、606はフェースプレート、612は支持枠である。なお、電子源基体613は電子放出素子615を複数有しており、リアプレート611は電子源基体613を固定するためのものである。フェースプレート606はガラス基板603の内側(電子源基体側)の面に蛍光膜604とメタルバック605等が形成されたものである。蛍光膜604は、電子の照射によって発光する発光体(画像形成部材;蛍光体)によって構成される。リアプレート611、フェースプレート606はフリットガラス等を用いて支持枠612に接続されている。外囲器617は、例えば、当該フリットガラスを、大気中または窒素中で、400〜500℃の温度範囲で10分以上焼成し、リアプレート611、フェースプレート606、支持枠612に封着することにより構成される。
【0065】
上記画像表示装置は、各電子放出素子615に、容器外端子Dox1〜Doxm、Doy1〜Doynを介して電圧を印加する。各電子放出素子615は、当該印加された電圧に応じて電子を放出する。
【0066】
高圧端子614を介してメタルバック605、あるいは透明電極(不図示)に高圧(Va)を印加することで、当該放出された電子は加速する。
【0067】
加速された電子は、蛍光膜604に衝突し、発光が生じて画像が形成される。
【0068】
なお、本実施形態に係る画像表示装置は、テレビジョン放送の表示装置、テレビ会議システムやコンピューター等の表示装置の他、感光性ドラム等を用いて構成された光プリンターとしての画像形成装置等としても用いることが出来る。
【0069】
以下、本発明の実施例を詳細に説明する。
【0070】
<実施例1>
以下に、図1を用いて、本実施例の電子放出素子の具体的な製造工程について詳細に説明する。
【0071】
(工程1)
まず、基板101としての石英(SiO)を十分洗浄し、スパッタ法により、基板101上に、カソード電極102として厚さ200nmのPtを成膜した。
【0072】
(工程2)
次に、カソード電極102上に、共スパッタ法を用いて、絶縁性または半導電性を有する第1の層103としてPt(導電性粒子106)を含むDLC(ダイヤモンドライクカーボン)膜を成膜した。第1の層の厚さは約30nmとし、第1の層のPtモル濃度は20%程度とした。
【0073】
(工程3)
次に、第1の層103上に、スパッタ法を用いて、炭素を主成分とする第2の層104を成膜した。第2の層の厚さは10nmとした。なお、成膜条件は以下のとおりである。
ガス Ar(10sccm)、
CH(30sccm)
圧力 0.8Pa
電力 500W
成膜時間 5min
サンプル加熱 200℃
【0074】
(工程4)
次に、第2の層104の表面を水素で終端した。本工程により水素終端表面(ダイポール層)105が形成された。なお、当該終端処理は以下の条件で行った。
処理ガス CH(50sccm)
圧力 0.25Pa
ECRプラズマパワー 300W
グリッドバイアス −20V
基板バイアス +40V
処理時間 30秒
【0075】
図4に示す装置においてアノード電極とカソード電極の間に電圧を印加することによって、上記作製した電子放出素子の電子放出特性を測定した。第2の層104に対して平行平板になるようにアノード電極を配置した。第2の層104とアノード電極の間の距離は100μmとした。電子放出特性を評価した結果、55V/μmの電界で約10mA/cmの電子放出電流を得ることができた。
【0076】
また、水素終端を施した第2の層の表面における、カーボンに対する水素の割合は、He元素を用いた前方散乱電子測定において、30%であった。
【0077】
<実施例2>
以下に、図2を用いて、本実施例の電子放出素子の具体的な製造工程について詳細に説明する。
【0078】
(工程1)
まず、基板101としての石英(SiO)を十分洗浄し、スパッタ法により、基板101上に、カソード電極102として厚さ200nmのPtを成膜した。
【0079】
(工程2)
次に、カソード電極102上に、共スパッタ法を用いて、絶縁性または半導電性を有する第1の層103としてPt(導電性粒子106)を含むDLC膜を成膜した。第1の層の厚さは約30nmとし、第1の層のPtモル濃度は20%程度とした。
【0080】
(工程3)
次に、ドライエッチング装置にて、第1の層103の表面をエッチングすることにより、導電性粒子の表面の一部を露出させた。なお、エッチングは以下の条件で行った。
エッチングガス H
圧力 1Pa
電力 200W
処理時間 30秒
【0081】
(工程4)
次に、表面の一部が露出された導電性粒子を含む第1の層上に、スパッタ法を用いて、炭素を主成分とする第2の層104を成膜した。第2の層の厚さは10nmとした。なお、成膜条件は以下のとおりである。
ガス Ar(30sccm)、
CH(10sccm)
圧力 0.8Pa
電力 500W
成膜時間 5min
サンプル加熱 200℃
【0082】
(工程5)
次に、第2の層104の表面を水素で終端した。本工程により水素終端表面(ダイポール層)105が形成された。なお、当該終端処理は以下の条件で行った。
処理ガス CH(50sccm)
圧力 0.25Pa
ECRプラズマパワー 300W
グリッドバイアス −20V
基板バイアス +40V
処理時間 30秒
【0083】
図4に示す装置においてアノード電極とカソード電極の間に電圧を印加することによって、上記作製した電子放出素子の電子放出特性を測定した。第2の層104に対して平行平板になるようにアノード電極を配置した。第2の層104とアノード電極の間の距離は100μmとした。電子放出特性を評価した結果、55V/μmの電界で約10mA/cmの電子放出電流を得ることができた。
【0084】
また、水素終端を施した第2の層の表面における、カーボンに対する水素の割合は、He元素を用いた前方散乱電子測定において、5%であった。
【0085】
<実施例3>
以下に、図2を用いて、本実施例の電子放出素子の具体的な製造工程について詳細に説明する。
【0086】
(工程1)
まず、基板101としての石英(SiO)を十分洗浄し、スパッタ法により、基板101上に、カソード電極102として厚さ200nmのPtを成膜した。
【0087】
(工程2)
次に、カソード電極102上にポリアクリル酸エステル誘導体を主成分とするポリマーを塗布し、90℃でベークした。そして、25℃の酢酸コバルト溶液(0.01w%)に1min浸し、ポリマー中のプロトンと溶液中のCoとをイオン交換させることにより、ポリマー中にCoイオンを含有させた。次に、真空中で450℃で焼成し、ポリマーをアモルファスカーボン化させた。本工程により、カソード電極102上にCo粒子(導電性粒子106)を含む第1の層が成膜された。第1の層の厚さは約30nmとし、第1の層のCoモル濃度は20%程度とした。
【0088】
(工程3)
次に、ドライエッチング装置にて、第1の層103の表面をエッチングすることにより、導電性粒子の表面の一部を露出させた。なお、エッチングは以下の条件で行った。
エッチングガス H
圧力 1Pa
電力 200W
処理時間 30秒
【0089】
(工程4)
次に、表面の一部が露出された導電性粒子を含む第1の層上に、スパッタ法を用いて、炭素を主成分とする第2の層104を成膜した。第2の層の厚さは50nmとした。なお、成膜条件は以下のとおりである。
ガス Ar(10sccm)、
CH(50sccm)
圧力 0.8Pa
電力 500W
成膜時間 5min
サンプル加熱 200℃
【0090】
(工程5)
次に、第2の層104の表面を水素で終端した。本工程により水素終端表面(ダイポール層)105が形成された。なお、当該終端処理は以下の条件で行った。
処理ガス CH(20sccm)、
(30sccm)
圧力 0.25Pa
ECRプラズマパワー 400W
グリッドバイアス 0V
基板バイアス +40V
処理時間 0秒
【0091】
図4に示す装置においてアノード電極とカソード電極の間に電圧を印加することによって、上記作製した電子放出素子の電子放出特性を測定した。第2の層104に対して平行平板になるようにアノード電極を配置した。第2の層104とアノード電極の間の距離は100μmとした。電子放出特性を評価した結果、40V/μmの電界で約10mA/cmの電子放出電流を得ることができた。
【0092】
また、水素終端を施した第2の層の表面における、カーボンに対する水素の割合は、H
e元素を用いた前方散乱電子測定において、20%であった。
【0093】
<実施例4>
以下に、図8を用いて、本実施例の電子放出素子の具体的な製造工程について詳細に説明する。
【0094】
(工程1)
まず、基板101としての石英(SiO)を十分洗浄し、スパッタ法により、基板101上に、カソード電極102として厚さ200nmのPtを成膜した。
【0095】
(工程2)
次に、カソード電極102上に、フィラメントCVD法を用いて、絶縁性または半導電性を有する第1の層103としてDLC膜を成膜した。その後、イオン注入法を用いて、1atm%のCo(導電性粒子106)をDLC膜に注入した。第1の層の厚さは約30nmとした。
【0096】
(工程3)
次に、ドライエッチング装置にて、第1の層103の表面をエッチングすることにより導電性粒子の表面の一部を露出させた。なお、エッチングは以下の条件で行った。
エッチングガス H
圧力 1Pa
電力 200W
処理時間 30秒
【0097】
(工程4)
次に、表面の一部が露出された導電性粒子を含む第1の層上に、スパッタ法を用いて、炭素を主成分とする第2の層104を成膜した。第2の層104の厚さは50nmとした。なお、成膜条件は以下のとおりである。
ガス Ar(10sccm)、
CH(50sccm)
圧力 0.8Pa
電力 500W
成膜時間 5min
サンプル加熱 200℃
【0098】
(工程5)
次に、熱CVD法を用いて、DLC中に含まれるCoを触媒として、CNT(カーボンナノチューブ)を第2の層中に成長させた。本工程により、第2の層104中にファイバー形状の導電性材料が形成された。当該ファイバー形状の導電性材料は導電性粒子106と接合されている。即ち、当該ファイバー形状の導電性材料もカソード電極102の一部であると考えることができる。そのため、第2の層中にファイバー形状の導電性材料を成長させることにより、電子放出膜の表面とカソード電極間の距離を縮めることができる。これにより、より低電界で電子放出可能とすることができる。換言すれば、同じ電圧でより多くの電子を放出することができる。なお、導電性材料はCNTに限らず、金属、グラファイト、カーボンナノファイバーなどであってもよい。また、本工程は以下の条件で行った。
処理ガス C(50sccm)
温度 500℃
圧力 100Pa
【0099】
(工程6)
次に、第2の層104の表面を水素で終端した。本工程により水素終端表面(ダイポール層)105が形成された。なお、当該終端処理は以下の条件で行った。
処理ガス C(30sccm)
(20sccm)
圧力 0.25Pa
ECRプラズマパワー 300W
グリッドバイアス 0V
基板バイアス 20V
処理時間 20秒
【0100】
図4に示す装置においてアノード電極とカソード電極の間に電圧を印加することによって、上記作製した電子放出素子の電子放出特性を測定した。第2の層104に対して平行平板になるようにアノード電極を配置した。第2の層104とアノード電極の間の距離は100μmとした。電子放出特性を評価した結果、40V/μmの電界で約25mA/cmの電子放出電流を得ることができた。
【0101】
<実施例5>
以下に、図3を用いて、本実施例の電子放出素子の具体的な製造工程について詳細に説明する。
【0102】
(工程1)
まず、基板101としての石英(SiO)を十分洗浄し、スパッタ法により、基板101上に、カソード電極102として厚さ200nmのPtを成膜した。
【0103】
(工程2)
次に、カソード電極102上に、共スパッタ法を用いて、絶縁性または半導電性を有する第1の層103としてCo(導電性粒子106)を含むDLC膜を成膜した。第1の層103の厚さは約30nmとし、第1の層のCoモル濃度は25%程度とした。
【0104】
(工程3)
次に、ドライエッチング装置にて、第1の層103の表面をエッチングすることにより、導電性粒子の表面の一部を露出させた。なお、エッチングは以下の条件で行った。
エッチングガス H
圧力 1Pa
電力 200W
処理時間 30秒
【0105】
(工程4)
次に、表面の一部が露出された導電性粒子を含む第1の層上に、スパッタ法を用いて、炭素を主成分とする第2の層104を成膜した。第2の層104の厚さは50nmとした。なお、成膜条件は以下のとおりである。
ガス Ar(10sccm)、
CH(50sccm)
圧力 0.8Pa
電力 500W
成膜時間 5min
サンプル加熱 200℃
【0106】
(工程5)
次に、第2の層104上に、原料ガスとしてSiH、NOを使用したプラズマCVD法により、絶縁層107として厚さ約1000nmのSiOを成膜した。
【0107】
(工程6)
次に、絶縁層107上に、スパッタ法により、ゲート電極108として厚さ100nmのPtを成膜した。
【0108】
(工程7)
次に、フォトレジストのパターニングを行った。具体的には、フォトリソグラフィーにより、ポジ型フォトレジスト(OFPR5000/東京応化製)のスピンコーティング、フォトマスクパターンの露光、現像を行った。これにより、円形の開口を有するマスクパターン109を形成した。レジストの開口径(開口の幅)は5μmとした。なお、開口の形状は円形に限らない。例えば、開口の形状は、楕円形でもよいし、多角形でもよい。
【0109】
(工程8)
次に、ドライエッチングにより、ゲート電極108と絶縁層107の一部を取り除いた。具体的には、エッチングガスとしてArガスを用い、エッチングパワーを200W、エッチング圧力として1Paの条件で、Ptをエッチングした。そして、CF、Hの混合ガス、エッチングパワーとして150W、エッチング圧力として、1.5Paの条件で、絶縁層107をエッチングした。絶縁層107のエッチングは、絶縁層107の厚さが元の1/2程度になるまで行った。本工程により、マスクパターン109の開口の対応する位置に、ゲート電極108の開口が形成された。
【0110】
(工程9)
次に、ウエットエッチングにより、絶縁層107の一部を更に取り除いた。具体的には、残ったマスクパターンを、剥離液(剥離液104/東京応化製)にて除去したのち、素子をBHFに浸漬させ、マスクパターン109の開口の対応する位置のSiOを取り除き、水洗10min間行った。本工程により、マスクパターン109の開口の対応する位置
に、絶縁層107の開口が形成され、第2の層104の一部または全部がゲート電極108と絶縁層107の開口内に露出された。
【0111】
(工程10)
次に、第2の層104の表面の一部または全部を水素で終端した。具体的には、上記露出した第2の層104の表面を水素で終端した。本工程により水素終端表面(ダイポール層)105が形成された。なお、当該終端処理は以下の条件で行った。
処理ガス CH(50sccm)
圧力 0.25Pa
ECRプラズマパワー 300W
グリッドバイアス 0V
基板バイアス +40V
処理時間 40秒
【0112】
本実施例にて作製した電子放出素子を、図4に示すように真空容器内に配置し、素子上部に蛍光体のアノード電極をセットした。アノード電極には、5kVの直流電圧を印加し、カソード電極とゲート電極間には10Vのパルス電圧を印加した。その結果、パルス信号に同期して電子放出が観測された。即ち、本実施例の電子放出素子は応答性に優れていることが確認できた。なお、本電子放出素子を電子源に応用しても同様の効果が得られるものと示唆される。
【0113】
<実施例6>
実施例5の電子放出素子を用いた画像表示装置を製造した。カソード電極は、図5に示すように、X方向配線に接続した。ゲート電極108は、Y方向配線に接続した。電子放出素子は、144個の開口部を一画素とし、横30μm、縦30μmのピッチで300×200の画素分配置した。各電子放出素子の上方に蛍光体を配置した。蛍光体と電子放出素子の間の距離は1mmとした。蛍光体は電子放出素子と1:1に対応するように配置した。蛍光体には5kVの電圧を印加した。入力信号として15Vのパルス信号を入力すると、高精細な画像が形成できた。
【0114】
以上説明したように、本発明は、大面積に均一な電子放出膜を製造可能で、製造プロセスが容易な電界放出型の電子放出素子、電子源、及び画像表示装置を提供できる。また、本発明の電子放出素子を電子源や画像表示装置に適用すると、性能に優れた電子源および画像表示装置を実現できる。
【図面の簡単な説明】
【0115】
【図1】図1は、本発明の実施形態に係る電子放出素子の製造方法の一例を示す図である。
【図2】図2は、本発明の実施形態に係る電子放出素子の製造方法の一例を示す図である。
【図3】図3は、本発明の実施形態に係る電子放出素子の製造方法の一例を示す図である。
【図4】図4は、本発明の実施の形態に係る電子放出素子を駆動するための装置の一例を示す図である。
【図5】図5は、本実施形態に係る電子放出素子の表面を水素で終端するための表面処理装置を示す図である。
【図6】図6は、本実施形態に係る電子放出素子の応用例である電子源の一例を示す図である。
【図7】図7は、本実施形態に係る電子放出素子の応用例である画像表示装置の一例を示す図である。
【図8】図8は、本発明の実施形態に係る電子放出素子の製造方法の一例を示す図である。
【符号の説明】
【0116】
101 基板
102 カソード電極
103 第1の層
104 第2の層
105 水素終端表面
106 導電性粒子
107 絶縁層
108 ゲート電極
109 マスクパターン
301 真空容器
302 アノード電極
303,304 電源
401 プラズマ発生室
402 磁気コイル
403 マイクロ波導入口
404 試料室
405 処理ガス導入口A
406 処理ガス導入口B
407 バイアスグリッド
408 直流電源A
409 表面処理サンプル
410 直流電源B
411 基板加熱ヒータ
501 電子源基体
502 X方向配線
503 Y方向配線
504 電子放出素子
601,602 容器外端子
603 ガラス基板
604 蛍光膜
605 メタルバック
606 フェースプレート
611 リアプレート
612 支持枠
613 電子源基体
614 高圧端子
615 電子放出素子
617 外囲器

【特許請求の範囲】
【請求項1】
基体上に電子放出膜を有する電子放出素子の製造方法において、
前記電子放出膜を形成する工程は、
前記基体上に絶縁性または半導電性を有する第1の層を成膜する工程と、
前記第1の層上に、炭素を主成分とする第2の層を成膜する工程と、
を有することを特徴とする電子放出素子の製造方法。
【請求項2】
前記第1の層は、導電性粒子を含有する
ことを特徴とする請求項1に記載の電子放出素子の製造方法。
【請求項3】
前記第1の層中の導電性粒子の密度は、1×1014個/cm以上1×1019個/cm以下である
ことを特徴とする請求項2に記載の電子放出素子の製造方法。
【請求項4】
前記第1の層の表面層を取り除くことによって、前記第1の層中の導電性粒子の表面の一部を露出させる工程を更に有し、
前記第2の層を成膜する工程は、前記表面の一部が露出された導電性粒子を含む、前記第1の層上に、炭素を主成分とする第2の層を成膜する工程である
ことを特徴とする請求項2または請求項3に記載の電子放出素子の製造方法。
【請求項5】
前記取り除かれる表面層の厚さは、0.1nm以上30nm以下である
ことを特徴とする請求項4に記載の電子放出素子の製造方法。
【請求項6】
前記第1の層は、炭素を主成分とする材料で形成されている
ことを特徴とする請求項1〜5のいずれかに記載の電子放出素子の製造方法。
【請求項7】
前記炭素を主成分とする材料は、アモルファスカーボンを含む
ことを特徴とする請求項1〜6のいずれかに記載の電子放出素子の製造方法。
【請求項8】
前記第2の層の表面を水素で終端する工程を更に有する
ことを特徴とする請求項1〜7のいずれかに記載の電子放出素子の製造方法。
【請求項9】
前記第2の層の表面における炭素に対する水素の割合は、He元素を用いた前方散乱電子測定において5%以上30%以下である
ことを特徴とする請求項8に記載の電子放出素子の製造方法。
【請求項10】
前記第2の層の厚さは、1nm以上100nm以下である
ことを特徴とする請求項1〜9のいずれかに記載の電子放出素子の製造方法。
【請求項11】
前記第2の層中に、ファイバー形状の導電性材料を形成する工程
を更に有することを特徴とする請求項10に記載の電子放出素子の製造方法。
【請求項12】
前記導電性材料は、金属、グラファイト、または、カーボンナノファイバーを含む
ことを特徴とする請求項11に記載の電子放出素子の製造方法。
【請求項13】
請求項1〜12のいずれかに記載の電子放出素子の製造方法で作製される
ことを特徴とする電子放出素子。
【請求項14】
請求項13に記載の電子放出素子を複数有する
ことを特徴とする電子源。
【請求項15】
請求項14に記載の電子源と、
電子の照射によって発光する発光体と、
を有することを特徴とする画像表示装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2009−170344(P2009−170344A)
【公開日】平成21年7月30日(2009.7.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−9107(P2008−9107)
【出願日】平成20年1月18日(2008.1.18)
【出願人】(000001007)キヤノン株式会社 (59,756)
【Fターム(参考)】