説明

電子装置

【課題】簡略化した工程で用途に応じて幅広い構造をとることができる電子装置を提供する。
【解決手段】電子デバイスEと、電子デバイスEを覆う保護部21eと、保護部21eの外側に溶融成形された熱可塑性樹脂から成るハウジング24とを備え、保護部21eは、熱可塑性樹脂の溶融温度以上の耐熱温度を有する樹脂を主成分とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電子デバイスと、溶融成形された熱可塑性樹脂から成るハウジングとを備えた電子装置に関する。
【背景技術】
【0002】
一般的に、電子デバイスの耐熱性は、電子デバイスを構成する材料の物性や電子デバイスを製作する製法条件によって決定される。
例えば、誘電体と電極部材とを有するコンデンサ本体(以下、「コンデンサ本体」と称する)と、リード線と、リード線をコンデンサ本体の電極部材に接続する半田層とを備えたリード線付コンデンサの場合、半田層の固相温度は246℃であり、この温度以上になると半田層が溶解して、コンデンサ本体の電極部材とリード線との間で接続不良が生じる。このため、上述のコンデンサの耐熱温度は高くても246℃以下となる。電子デバイスを構成する材料の物性や電子デバイスを製作する製法条件によっては、更に耐熱温度が低い場合もある。
【0003】
一方、上述の電子デバイスを収納するハウジングを、熱可塑性樹脂を溶融成形して設ける場合、溶融された樹脂の温度は250℃以上になる場合がある。このため、電子デバイスをハウジングの内部に収納して電子装置を構成する際に、電子デバイスに直接、熱可塑性樹脂を溶融成形すると、前述の半田層が溶解する等、電子デバイスが熱によって損傷する場合がある。
【0004】
また、熱可塑性樹脂を溶融成形して、上述の電子デバイスを収納するハウジングを設ける場合、溶融された熱可塑性樹脂の圧力、すなわち溶融樹脂圧は、20MPa以上の高圧になる場合がある。このため、電子デバイスをハウジングの内部に収納して電子装置を構成する際に、電子デバイスに直接、熱可塑性樹脂を溶融成形すると、前述の半田層が溶解するだけではなく、溶融した半田層が溶融樹脂力によって移動するなど、電子デバイスが溶融樹脂圧によって物理的に損傷する場合がある。
【0005】
上述のような電子デバイスを用いた電子装置として、耐サージ性を高めるためにコンデンサや抵抗器などの電子デバイスからなる保護回路を設けた回転センサ(例えば、特許文献1参照)が公知である。この回転センサでは、回転を検知するセンサ素子の端子を延長してハウジングから突出させ、この端子に、保護回路部材に備えたコンデンサや抵抗器を嵌着してある。このようにすることで、回転センサのハウジングを樹脂で溶融成形する際に、コンデンサや抵抗器等の電子デバイスが損傷することを防止することができる。
【0006】
【特許文献1】特開2004−309340号公報(明細書[0011]段落及び図1)。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかし、上述の回転センサでは、コンデンサや抵抗器等の電子デバイスを備える保護回路部材を設けて、センサ素子の端子に嵌着可能な構造にする必要があり、製造工程が複雑になりコストが増大するという問題があった。
また、保護回路を設けるに際して、回転センサの入出力部が、保護回路部材を嵌着可能な端子構造などに限定されて、ワイヤハーネス構造にするなどの用途に応じた幅広い構造をとることができないという問題があった。
本発明は、上記の問題点に鑑みてなされたものであり、簡略化した工程で、用途に応じて幅広い構造をとることができる電子装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明に係る電子装置の第一の特徴構成は、電子デバイスと、前記電子デバイスを覆う保護部と、前記保護部の外側に溶融成形された熱可塑性樹脂から成るハウジングとを備え、前記保護部は、前記熱可塑性樹脂の溶融温度以上の耐熱温度を有する樹脂を主成分とする点にある。
【0009】
本構成によれば、電子デバイスがハウジングを形成する熱可塑性樹脂の溶融温度以上の耐熱温度を有する樹脂を主成分とする保護部で覆ってあるので、電子デバイスの外側にハウジングを溶融成形する際に、電子デバイスが熱による損傷を受けることを防止することができる。この結果、従来の如く、ハウジングの外部に電子デバイスを取り付けるための構造を設けたり、ハウジングを別体で成形してその内部に電子デバイスを収納したりする必要が無いので、電子装置の製造工程の簡略化を図ることができる。また、溶融成形によるハウジングを任意の形状で形成できるため用途に応じて幅広い構造をとることができる。さらに、電子デバイスに、保護部を介して、直接ハウジングを成形することとなるので、ハウジングと電子デバイスとの密着度を高めることができる。
【0010】
本発明に係る電子装置の第二の特徴構成は、前記熱可塑性樹脂の溶融温度において、前記保護部の主成分である前記樹脂の熱分解率が5%以下である点にある。
【0011】
本構成によれば、熱可塑性樹脂の溶融温度において、保護部の主成分である樹脂の熱分解率が5%以下であるので、確実に電子デバイスを熱から保護することができる。
【0012】
本発明に係る電子装置の第三の特徴構成は、前記保護部が、前記溶融成形の際の溶融樹脂圧に対する耐圧性を有する点にある。
【0013】
本構成によれば、保護部が、溶融成形の際の溶融樹脂圧に対する耐圧性を有するので、ハウジングを成形する際に電子デバイスがハウジングに覆われた状態を維持することができる。この結果、ハウジングの成形の際に、電子デバイスがハウジング形成用樹脂からの応力で損傷することを防止することができる。
【0014】
本発明に係る電子装置の第四の特徴構成は、前記保護部が、前記溶融成形の際の溶融樹脂圧以上の圧縮強度及び剪断強度を有する点にある。
【0015】
本構成によれば、保護部が溶融成形の溶融樹脂圧以上の圧縮強度及び剪断強度を有するので、ハウジングを成形する際に成形の圧力、すなわち、溶融樹脂圧によって保護部が破壊されることを防止することができる。この結果、電子デバイスが保護部に覆われた状態を維持することができるので、電子デバイスがハウジングの成形の際の溶融樹脂圧で損傷することを防止することができる。
【0016】
本発明に係る電子装置の第五の特徴構成は、前記保護部は、前記保護部の主成分である前記樹脂の溶液を前記電子デバイスの表面に付着させ、前記保護部の主成分である前記樹脂を固化又は硬化させて形成してある点にある。
【0017】
本構成によれば、前記保護部は、保護部の主成分である前記樹脂の溶液を前記電子デバイス本体の表面に付着させて固化又は硬化させることにより形成してあるため、電子デバイスに熱負荷をかけることなく保護部を形成することができる。
【0018】
本発明に係る電子装置の第六の特徴構成は、前記保護部の主成分である前記樹脂が、ポリアミドイミド樹脂・ポリエーテルスルホン樹脂・ポリアリレート樹脂・熱可塑性ポリイミド樹脂からなる群より選ばれた少なくとも一種の樹脂である点にある。
【0019】
保護部の主成分として、上述の樹脂を用いることにより、高い耐熱性及び耐圧性を有する保護部を形成できるので、確実に電子デバイス本体を保護することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0020】
以下、図面を参照して、回転センサを例に本発明に係る電子装置について説明する。
[電子装置の構成]
図1に、本発明の電子装置Sの一例である回転センサ4を示す。また、図2にハウジング24を形成する前の回転センサ4を示す。この回転センサ4は、図1に示すように、二つの構成要素を有する。一つの構成要素は、回転を検知する検知部を構成する本体部1(以下、「本体部1」と称する)であり、もう一方の構成要素は、本体部1に電気信号を供給し、また本体部1からの信号を外部に伝達する機能を有する伝達部2(以下、「伝達部2」と称する)である。夫々の全体がハウジング13,24で被覆してある。本体部1のハウジング13の内部には、回転体の回転を検出するホールIC等のセンサ素子10、ホールIC等のセンサ素子10にバイアス磁束あるいはバイアス磁界を与えるバイアス磁石11、本体部1から伝達部2に延出しセンサ素子11が検出した信号を伝達部2に伝達する第一ターミナル12等が収納してある。伝達部2は、第二ターミナル22を介して本体部1の第一ターミナル12に接続してあり、制御用コントローラ等に前記信号を伝達するケーブル23等を備えている。また、第一ターミナル12と第二ターミナル22との接続部には、保護回路としてのコンデンサ21(電子デバイスEの一例)が、例えば溶接などにより接続してある。このコンデンサ21の表面には、ハウジング24を形成する熱可塑性樹脂の溶融温度以上の耐熱温度を有する樹脂(以下、「保護部形成用樹脂」と称する)を主成分とする保護部21eが形成してある。
【0021】
図2に示すように、上述の伝達部2に、ケーブル23、コンデンサ21等を設けた後、熱可塑性樹脂を溶融成形して、伝達部2にハウジング24を設けてある。ハウジング形成用の熱可塑性樹脂(以下、「ハウジング形成用樹脂」と称する)としては、特に限定はされないが、耐熱性・耐薬品性などの観点から、例えばポリフェニレンサルファイド(PPS)樹脂・ポリアミド樹脂(例えば、66ナイロン樹脂など)・ポリブチレンテレフタレート(PBT)樹脂・ポリアセタール(POM)樹脂などを用いることができる。
上述の樹脂の中で最も耐熱性・耐薬品性が高いPPS樹脂の場合、その溶融温度は283℃であり、上述の樹脂の中で最も高い溶融温度を有し、溶融成形の際のPPS樹脂の温度は一般的に300〜320℃である。また、溶融成形の際の溶融樹脂圧は、一般的に20〜30MPaである。
【0022】
[保護部の形成方法]
次に、本発明に適用可能な電子デバイスEとして、コンデンサ21を例に保護部21eの形成方法の一例について説明する。
図3に、電子デバイスEの一例であるコンデンサ21を示す。また、図4に保護部21eを形成した後のコンデンサ21を示す。このコンデンサ21は、積層型セラミックスコンデンサであるコンデンサ本体21aと、リード線21bと、コンデンサ本体21aの電極部にリード線21bを接続する半田層21dとを備えている。そして、コンデンサ本体21aの外側に例えばエポキシ樹脂によって形成された外装樹脂層21cを設けてある。この外装樹脂層21cは、コンデンサ本体21aや半田層21dに直接機械的応力が印加されるのを避けるために、外部応力の緩和層として設けられたものである。エポキシ樹脂の場合、その耐熱温度は、約180℃である。また、リード線21bとコンデンサ21の端子電極とを接合する半田層21dの固相線温度は246℃である。
【0023】
保護部21eは、このコンデンサ21に例えば浸漬法により形成することができる。コンデンサ21を、保護部形成用樹脂を有機溶媒に溶解させた溶液に浸漬して、コンデンサ21の外装樹脂層21cにこの溶液を付着させる。この後、付着させた保護部形成用樹脂を固化又は硬化させて、図4に示すように、コンデンサ本体21a及びリード線21bとコンデンサ本体21aとの接合部を被覆する保護部21eを形成する。
なお、保護部の形成方法は、浸漬法に限られるものではなく、塗布や噴霧などその他の方法によって保護部形成用樹脂を付着させてもよい。
【0024】
保護部形成用樹脂としては、ハウジング24を形成する熱可塑性樹脂の溶融温度以上の耐熱温度を有する樹脂を用いる。ここで、「ハウジング24を形成する熱可塑性樹脂の溶融温度以上の耐熱温度を有する樹脂」とは、溶融温度のハウジング形成用樹脂と電子デバイスEとの間に保護部21eを介在させた場合に、ハウジング形成用樹脂の温度が電子デバイスEの耐熱温度(本実施形態においては、例えば半田層21dの固相線温度である246℃)以下になるまでの間、電子デバイスEとハウジング24成形用樹脂とが直接接触することを防止することができる保護部21eを形成可能な樹脂をいう。
【0025】
好ましくは、ハウジング形成用樹脂の溶融温度において実質的に熱分解しない樹脂がよい。具体的には、ハウジング形成用樹脂の溶融温度における熱分解率が5%以下になる樹脂、すなわち、熱分解率が5%となる温度(以下、「5%熱分解温度」と称する)が、ハウジング形成用樹脂の溶融温度以上の樹脂がよい。さらに好ましくは、熱分解開始温度がハウジング形成用樹脂の溶融温度以上の樹脂がよい。このような樹脂を保護部形成用樹脂として用いれば、ハウジング24の溶融成形の際に、溶融したハウジング形成用樹脂が保護部21eに接触しても、電子デバイスEが熱劣化するなど、熱的に損傷することを防止することができる。
【0026】
また、ハウジング24の溶融成形の際に、保護部21eがハウジング形成用樹脂から、圧縮応力・剪断応力などの応力を受けることとなるので、保護部21eが、溶融成形の際に、ハウジング形成用樹脂の溶融樹脂圧に対する耐圧性を有するとよい。特に、保護部が、溶融成形の際に、この溶融成形際の溶融樹脂圧以上の圧縮強度及び剪断強度を有すると好適である。このような樹脂を保護部形成用樹脂として用いれば、ハウジング24の溶融成形の際に、溶融したハウジング成形用樹脂が保護部21eに接触したとしても、電子デバイスEが応力破壊を起こすなど、物理的に損傷することを防止することができる。
【0027】
ここで、図5に、ハウジング形成用樹脂の一例として、PPS樹脂を用いてハウジング24を射出成形した際のコンデンサ21の位置における溶融樹脂温度及び溶融樹脂圧の経時間変化を示す。射出成形の際のPPS溶融樹脂の温度は320℃であり、溶融樹脂圧は27MPaである。
コンデンサ21の略中心部に相当する位置において、PPS樹脂の射出後、温度が270℃まで昇温し、溶融樹脂圧が23MPaまで昇圧している。
その後、PPS樹脂は、3秒以内に、270℃から半田の固相線温度である246℃より低い温度まで降温しており、半田の固相線温度に降温した時点の溶融樹脂圧は13MPaまで低下している。
【0028】
このように、ハウジング形成用樹脂が溶融温度付近の高温状態にあるのは極短時間である。このため、保護部形成用樹脂は、上述の通り、必ずしもハウジング形成用樹脂の溶融温度以上の熱分解開始温度を有する必要はない。
【0029】
具体的には、特に限定されないが、例えばポリアミドイミド樹脂・ポリエーテルスルホン樹脂・ポリアリレート樹脂・熱可塑性ポリイミド樹脂などの樹脂を主成分として保護部21eを形成することができる。これらの樹脂は単独で用いてもよく、複数種類の樹脂を混合して用いてもよい。
【0030】
ポリアミドイミド樹脂の5%熱分解温度は440℃以上であり、PPS樹脂などのハウジング形成用樹脂の溶融温度より高温である。また、溶融成形の際のPPS樹脂などのハウジング形成用樹脂の温度である300〜320℃において、ポリアミドイミド樹脂の圧縮強度は100MPa以上であり、ハウジング24の成形の際の溶融樹脂圧である20〜30MPaより大きい。
【0031】
ポリエーテルスルホン樹脂の5%熱分解温度は480℃以上であり、PPS樹脂などのハウジング形成用樹脂の溶融温度より高温である。また、溶融成形の際のPPS樹脂の温度である300〜320℃において、ポリエーテルスルホン樹脂の圧縮強度は85MPaであり、ハウジング24の成形の際の溶融樹脂圧である20〜30MPaより大きい。
【0032】
ポリアリレート樹脂の5%熱分解温度は480℃以上であり、PPS樹脂などのハウジング形成用樹脂の溶融温度より高温である。また、溶融成形の際のPPS樹脂の温度である300〜320℃において、ポリアリレート樹脂の圧縮強度は82MPaであり、ハウジング24の成形の際の溶融樹脂圧である20〜30MPaより大きい。
【0033】
熱可塑性ポリイミド樹脂の5%熱分解温度は520℃以上であり、PPS樹脂などのハウジング形成用樹脂の溶融温度より高温である。また、溶融成形の際のPPS樹脂の温度である300〜320℃において、熱可塑性ポリイミド樹脂の圧縮強度は120MPaであり、ハウジング24の成形の際の溶融樹脂圧である20〜30MPaより大きい。
【0034】
上述のようにこれらの樹脂の5%熱分解温度は、ハウジング形成用樹脂の溶融温度より高温であるので、これらの樹脂の熱分解率は、ハウジング形成用樹脂の溶融温度において5%以下である。また、ハウジング24を溶融成形する際に、溶融成形の際の溶融樹脂圧以上の圧縮強度を有する。このため、PPS樹脂などのハウジング形成用樹脂が、保護部21eに吐出されたとしても、保護部21eが破壊されることはなく電子デバイスEにハウジング24成形用樹脂が直接接することを防止することができる。
【0035】
保護部形成用樹脂を溶解する有機溶媒としては、保護部形成用樹脂を溶解可能であれば特に限定されるものではないが、コンデンサ21を溶液に浸漬した際の溶液の付着のし易さの観点からは、保護部形成用樹脂溶液の粘度が10〜20Pa・sとなる有機溶媒を用いることが好ましい。また、電子デバイスEの耐熱温度(本実施形態においては、例えば半田層の固体相線温度である246℃)以下の温度で、保護部形成用樹脂の固化又は硬化が可能な有機溶媒を用いることが好ましい。
【0036】
具体的には、例えばN−メチル−2−ピロリドン・N,N−ジメチルホルムアミド・N,N−ジメチルアセトアミド・メチルエチルケトン・ガンマーブチロラクトン・キシレン・N−メチルピロリドン・塩化メチレン・テトラヒドロフラン・1,4−ジオキサン・シクロヘキサン・エタノール・トルエンなどの有機溶媒を用いることができる。これらの有機溶媒は単独で用いてもよく、複数種類の有機溶媒を混合して用いてもよい。
【0037】
保護部形成用樹脂としてポリアミドイミド樹脂を用いた場合、有機溶媒としては、N−メチル−2−ピロリドン・N,N−ジメチルホルムアミド・N,N−ジメチルアセトアミド・メチルエチルケトン・ガンマーブチロラクトン・キシレン・エタノール・トルエン等を用いるとよい。これらの有機溶媒であればポリアミドイミド樹脂を溶解して、ポリアミドイミド樹脂溶液を調製することができる。
【0038】
特に、N−メチル−2−ピロリドンを70〜80wt%とし、ジメチルホルムアミドを30〜20wt%として有機溶媒を構成し、この有機溶媒にポリアミドイミド樹脂を溶解させて、35〜40wt%ポリアミドイミド樹脂溶液を調製するとよい。
あるいは、N‐メチル−2−ピロリドンを70〜75wt%とし、キシレンを25〜30wt%として有機溶媒を構成し、この有機溶媒にポリアミドイミド樹脂を溶解させて、35〜40wt%ポリアミドイミド樹脂溶液を調製するとよい。
このようにしてポリアミドイミド樹脂溶液を調製することにより、10〜20Pa・sの粘度を有する溶液を得ることができ、例えば、1回の浸漬で一般的に保護部21e形成のために必要な数百ミクロンの塗膜を形成することができる。
さらに、240℃以下の温度でポリアミドイミドを硬化することができ、硬化の際に半田層21dが溶融することを防止することができる。
【0039】
保護部形成用樹脂として、ポリエーテルスルホン樹脂を用いた場合、有機溶媒としては、N−メチルピロリドン・N,N−ジメチルホルムアミド・N,N−ジメチルアセトアミド等を用いるとよい。これらの有機溶媒であれば、ポリエーテルスルホン樹脂を溶解して、ポリエーテルスルホン樹脂溶液を調製することができる。
【0040】
特に、有機溶媒としてN,N−ジメチルホルムアミドを用いて、20〜25Wt%ポリエーテルスルホン樹脂溶液を調製するとよい。このようにしてポリエーテルスルホン樹脂溶液を調製することにより、10〜20Pa・sの粘度を有する溶液を得ることができ、例えば、1回の浸漬で一般的に保護部21e形成のために必要な数百ミクロンの塗膜を形成することができる。
さらに、240℃以下の温度でポリエーテルスルホン樹脂を硬化することができ、硬化の際に半田層21dが溶融することを防止することができる。
【0041】
保護部形成用樹脂として、ポリアリレート樹脂を用いた場合、有機溶媒としては、塩化メチレン・テトラヒドロフラン・1,4−ジオキサン・N−メチル−2−ピロリドン・N,N−ジメチルホルムアミド・N,N−ジメチルアセトアミド・シクロヘキサン等を用いるとよい。これらの有機溶媒であればポリアリレート樹脂を溶解して、ポリアリレート樹脂溶液を調製することができる。
【0042】
特に、有機溶媒として塩化メチレンあるいはN−メチル−2−ピロリドン用いて、15〜20wt%ポリアリレート樹脂溶液を調製するとよい。このようにすることで、10〜20Pa・sの粘度を有する溶液を得ることができ、例えば、1回の浸漬で数百ミクロンの塗膜を形成することができる。
さらに、204℃以下の温度でポリアリレート樹脂を固化することができ、固化の際に半田層21dが溶融することを防止することができる。
【0043】
保護部形成用樹脂として熱可塑性ポリイミド樹脂を用いた場合、有機溶媒としては、N−メチル−2−ピロリドン・N,N−ジメチルホルムアミド・キシレン・メチルエチルケトン・N,N−ジメチルアセトアミド等を用いるとよい。これらの有機溶媒であれば熱可塑性ポリイミド樹脂を溶解して、熱可塑性ポリイミド樹脂溶液を調製することができる。
【0044】
特に、有機溶媒としてN−メチル−2−ピロリドンを用いて、15〜20wt%熱可塑性ポリイミド樹脂溶液を調製するとよい。このようにすることで、10〜20Pa・sの粘度を有する溶液を得ることができ、例えば、1回の浸漬で一般的に保護部21eの形成のために必要な数百ミクロンの塗膜を形成することができる。
さらに、204℃以下の温度で熱可塑性ポリイミド樹脂を固化することができ、固化の際に半田層21dが溶融することを防止することができる。
【0045】
なお、上述のようにコンデンサ21等の電子デバイスEの外装樹脂層21cの表面に保護部21eを設ける場合、保護部形成用樹脂溶液にカップリング剤を混合しておくとよい。カップリング剤としては、例えばシラン系カップリング剤が挙げられる。
このように、保護部形成用樹脂の溶液にカップリング剤を混合することにより、コンデンサ21を樹脂溶液に浸漬した際に、保護部形成用樹脂と外装樹脂層21cの樹脂とがカップリング剤を介して結合することとなる。このため、外装樹脂層21cの表面に確実に樹脂溶液を付着させることができる。
【0046】
また、上述の実施形態では、コンデンサ21の外装樹脂層21cの表面に保護部21eを形成する例を示したが、セラミックコンデンサ21の表面に直接保護部21eを形成してもよい。この場合、保護部形成用樹脂の溶液にカップリング剤を混合する必要はない。
【0047】
以下、電子デバイスEとして上述のコンデンサ21を例に、保護部21eの形成について具体的に説明する。
[実施例1]
保護部形成用樹脂として、ポリアミドイミド樹脂を用いた。
また、有機70wt%のN−メチル−2−ピロリドンと、30wt%のジメチルホルムアミドとからなる有機溶媒にポリアミドイミド樹脂を溶解させて、35wt%ポリアミドイミド樹脂溶液を調製した。このポリアミドイミド樹脂溶液にコンデンサ21を浸漬して、コンデンサ21の表面にポリアミドイミド樹脂溶液を付着させた。この後、付着させたポリアミドイミド樹脂溶液を240℃で30分間硬化させて、コンデンサ21の表面にポリアミドイミド樹脂による保護部21eを形成した。
【0048】
[実施例2]
保護部形成用樹脂として、ポリアミドイミド樹脂を用いた。
また、73wt%のN−メチル−2−ピロリドンと、27wt%のキシレンとからなる有機溶媒にポリアミドイミド樹脂を溶解させて、35wt%ポリアミドイミド樹脂溶液を調製した。このポリアミドイミド樹脂溶液中にコンデンサ21を浸漬して、コンデンサ21の表面にポリアミドイミド樹脂溶液を付着させた。この後、付着させたポリアミドイミド樹脂溶液を230℃で30分間硬化させて、コンデンサ21の表面にポリアミドイミド樹脂による保護部21eを形成した。
【0049】
[実施例3]
保護部形成用樹脂として、ポリエーテルスルホン樹脂を用いた。
また、N,N−ジメチルホルムアミドを有機溶媒として用い、この有機溶媒にポリエーテルスルホン樹脂を溶解させて、25wt%ポリエーテルスルホン樹脂溶液を調製した。このポリエーテルスルホン樹脂溶液中にコンデンサ21を浸漬して、コンデンサ21の表面にポリエーテルスルホン樹脂溶液を付着させた。この後、付着させたポリエーテルスルホン樹脂溶液を240℃で30分間硬化させて、コンデンサ21の表面にポリエーテルスルホン樹脂による保護部21eを形成した。
【0050】
[実施例4]
保護部形成用樹脂として、ポリアリレート樹脂を用いた。
また、N−メチル−2−ピロリドンを有機溶媒として用い、この有機溶媒にポリアリレート樹脂を溶解させて、18wt%ポリアリレート樹脂溶液を調製した。このポリアリレート溶液中にコンデンサ21を浸漬して、コンデンサ21の表面にポリエーテルスルホン樹脂溶液を付着させた。この後、付着させたポリアリレート溶液を210℃で30分間硬化させて、コンデンサ21の表面にポリアミドイミド樹脂による保護部21eを形成した。
【0051】
[実施例5]
保護部形成用樹脂として、熱可塑性ポリイミド樹脂を用いた。
また、有機溶媒として、N−メチル−2−ピロリドンを用い、この有機溶媒に熱可塑性ポリイミド樹脂を溶解させて、18wt%熱可塑性ポリイミド樹脂溶液を調製した。この熱可塑性ポリイミド樹脂溶液中にコンデンサ21を浸漬して、コンデンサ21の表面にポリエーテルスルホン樹脂溶液を付着させた。この後、付着させた熱可塑性ポリイミド樹脂溶液を210℃で30分間硬化させて、コンデンサ21の表面にポリアミドイミド樹脂による保護部21eを形成した。
【0052】
図3に示すように、上述の5つの実施例のコンデンサ21を第一ターミナル12と第二ターミナル22との接続部に電気溶接により固定した。この後、図4に示すように溶融したPPS樹脂を射出成形して、ハウジング24を形成した。溶融成形の際のPPS溶融樹脂の温度は、320℃であり、溶融樹脂圧は27MPaであった。
【0053】
ハウジング24の形成後、ハウジング24を破壊して、コンデンサ21の半田層21dを観察したところ、いずれの実施例においても、半田層21dに変化は見られなかった。
さらに、エポキシ樹脂の外装被膜を破断して内部を観察したところ、実施例1と実施例4については、若干黒色がかった色に変色していた。これは、保護部形成用樹脂の硬化温度である240℃において、エポキシ樹脂からなる外装樹脂層21cの熱劣化が、若干進行したためである。しかし、従来のように、保護部21eを有さないコンデンサにPPS樹脂を溶融成形した場合のように、外装樹脂層21cが破壊されて、コンデンサ21の半田層21dが溶解することは無かった。
【0054】
上述したように、コンデンサ21の表面に、ハウジング形成用樹脂の溶融温度以上の耐熱性を有する保護部形成用樹脂で被覆することにより、ハウジングの溶融成形の際に、ハウジング形成用樹脂の熱で、半田層21dが溶解するなど、コンデンサ21が熱によって損傷することを防止することができる。
【0055】
[比較例]
比較例として、保護部21eを有さないコンデンサ21を用いて実施例の場合と同様に溶融したPPS樹脂の射出成形によりハウジング24を形成した。ハウジング24の形成後、ハウジング24を破壊してコンデンサ21の様子を観察した。
高温のハウジング形成用樹脂によりエポキシ樹脂からなる外装樹脂層21cは溶融し、ハウジング形成用樹脂がコンデンサ本体21aの表面に達していた。この結果、半田層21dの固体相以上の温度を有するハウジング形成用樹脂が、半田層21dと直接接することとなり、溶解樹脂の熱で半田層21dが溶解し、溶解樹脂の圧力で溶解した半田層21dが移動して、コンデンサ21の端子電極間を短絡させた。
【0056】
[別実施形態]
上述の実施形態において、電子装置Eとして回転センサ4を例に説明したが、電子装置Eは回転センサ4に限られるものではない。
電子デバイスEの例として、コンデンサ21を例に説明したが、電子デバイスEは、例えば抵抗器・ダイオード等、コンデンサ21以外のものであってもよい。
また、コンデンサ21のように一つの電子部品である電子デバイスEに保護部を設ける例を説明したが、電子デバイスは、例えば、複数又は複数の電子部品を取り付けたプリント基板等であってもよい。
【図面の簡単な説明】
【0057】
【図1】本発明に係る電子装置の一例である回転センサを示す図
【図2】ハウジング形成前の電子装置を示す図
【図3】電子デバイスの一例であるコンデンサを示す図
【図4】保護部を有するコンデンサを示す図
【図5】ハウジング成形用樹脂の温度及び圧力の経時変化を示す図
【符号の説明】
【0058】
21e 保護部
24 ハウジング
E 電子デバイス
S 電子装置

【特許請求の範囲】
【請求項1】
電子デバイスと、前記電子デバイスを覆う保護部と、前記保護部の外側に溶融成形された熱可塑性樹脂から成るハウジングとを備え、
前記保護部は、前記熱可塑性樹脂の溶融温度以上の耐熱温度を有する樹脂を主成分とする電子装置。
【請求項2】
前記熱可塑性樹脂の溶融温度において、前記保護部の主成分である前記樹脂の熱分解率が5%以下である請求項1に記載の電子装置。
【請求項3】
前記保護部が、前記溶融成形の際の溶融樹脂圧に対する耐圧性を有する請求項1又は2に記載の電子装置。
【請求項4】
前記保護部が、前記溶融成形の際の溶融樹脂圧以上の圧縮強度及び剪断強度を有する請求項3に記載の電子装置。
【請求項5】
前記保護部は、前記保護部の主成分である前記樹脂の溶液を前記電子デバイスの表面に付着させ、前記保護部の主成分である前記樹脂を固化又は硬化させて形成してある請求項1〜4の何れか一項に記載の電子装置。
【請求項6】
前記保護部の主成分である前記樹脂が、ポリアミドイミド樹脂・ポリエーテルスルホン樹脂・ポリアリレート樹脂・熱可塑性ポリイミド樹脂からなる群より選ばれた少なくとも一種の樹脂である請求項1〜5の何れか一項に記載の電子装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2007−207873(P2007−207873A)
【公開日】平成19年8月16日(2007.8.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−22815(P2006−22815)
【出願日】平成18年1月31日(2006.1.31)
【出願人】(000000011)アイシン精機株式会社 (5,421)
【Fターム(参考)】