説明

電子装置

【課題】オン駆動用定電流回路が故障しても、スイッチング素子の破損を抑えて駆動することができる電子装置を提供することを目的とする。
【解決手段】制御回路128は、オン駆動用定電流回路121が故障して、IGBT110dのゲートに正常時に流れ込む電流より大きい電流が流れ込むようになったとき、オフ駆動用定電流回路122の電流を調整する。これにより、IGBT110dのゲートに流れ込む電流、及び、ゲートから引き抜く電流を調整することができる。そのため、オン駆動用定電流回路121が故障しても、IGBT110dの破損を抑えて駆動することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、スイッチング素子と、駆動回路とを備えた電子装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、スイッチング素子と、駆動回路とを備えた電子装置として、例えば特許文献1に開示されているモータ駆動装置がある。
【0003】
このモータ駆動装置は、パワートランジスタと、ゲートドライバとを備えている。ゲートドライバは、第1及び第2電流源と、ゲート電流制御器と、ゲートスイッチング制御器とを備えている。第1電流源は、回路用電源の正極端子とパワートランジスタのゲートの間に接続されている。第2電流源は、パワートランジスタのゲートと回路用電源の負極端子の間に接続されている。ゲート電流制御器は、第1及び第2電流源に接続されている。ゲートスイッチング制御器は、ゲート電流制御器に接続されている。
【0004】
ゲート電流制御器は、ゲートスイッチング制御器から入力される信号に基づいて第1及び第2電流源を制御して第1パワートランジスタを駆動する。ゲートスイッチング制御器から入力される信号がパワートランジスタのオンを指示すると、ゲート電流制御器は、第1電流源を制御して第1パワートランジスタのゲートに所定の電流を流し込む。その結果、ゲート電圧がオン、オフの閾値電圧より高くなり、パワートランジスタがオンする。
【0005】
一方、ゲートスイッチング制御器から入力される信号がパワートランジスタのオフを指示すると、ゲート電流制御器は、第2電流源を制御してパワートランジスタのゲートから所定の電流を引き抜く。その結果、ゲート電圧がオン、オフの閾値電圧より低くなり、パワートランジスタがオフする。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2007−288856号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
ところで、前述したモータ駆動装置において、第1電流源が故障して、パワートランジスタのゲートに正常時より大きい電流が常時流れ込むようになると、正常時に比べゲート電圧がより速く高くなる。そのため、正常時に比べパワートランジスタがより速くオンする。従って、パワートランジスタに加わるサージ電圧が高くなり、パワートランジスタが破損する可能性がある。また、第2電流源によってパワートランジスタのゲートから所定の電流を引き抜いても、パワートランジスタのゲート電圧を下げることができない。そのため、パワートランジスタをオフできない。
【0008】
本発明はこのような事情に鑑みてなされたものであり、第1電流源に相当するオン駆動用定電流回路が故障しても、パワートランジスタに相当するスイッチング素子の破損を抑えて駆動することができる電子装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
そこで、本発明者らは、この課題を解決すべく鋭意研究し試行錯誤を重ねた結果、オフ駆動用定電流回路の電流を調整することで、オン駆動用定電流回路が故障しても、スイッチング素子を駆動できることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0010】
すなわち、請求項1に記載の電子装置は、制御端子の電圧を制御することで駆動されるスイッチング素子と、スイッチング素子の制御端子に接続され、スイッチング素子の制御端子に第1電流を流し込み電荷を充電するオン駆動用定電流回路と、スイッチング素子の制御端子に接続され、スイッチング素子の制御端子から第2電流を引き抜いて電荷を放電するオフ駆動用定電流回路と、入力される駆動信号に基づいてオン駆動用定電流回路とオフ駆動用定電流回路を制御することで、スイッチング素子の制御端子の電圧を制御してスイッチング素子を駆動する制御回路と、を備えた電子装置において、制御回路は、オン駆動用定電流回路が故障して、スイッチング素子の制御端子に第1電流より大きい第3電流が流れ込むようになったとき、オフ駆動用定電流回路の電流を調整してスイッチング素子を駆動することを特徴とする。
【0011】
この構成によれば、オン駆動用定電流回路が故障して、スイッチング素子の制御端子に第1電流より大きい第3電流が流れ込むようになったとき、オフ駆動用定電流回路によってスイッチング素子の制御端子から引き抜く電流を調整することで、制御端子に流れ込む電流、及び、制御端子から引き抜く電流を調整することができる。そのため、オン駆動用定電流回路が故障しても、スイッチング素子の破損を抑えて駆動することができる。
【0012】
請求項2に記載の電子装置は、制御回路は、スイッチング素子の制御端子に第1電流が流れ込むようにオフ駆動用定電流回路の電流を調整してスイッチング素子をオンすることを特徴とする。この構成によれば、オン駆動用定電流回路が故障しても、スイッチング素子の制御端子に流し込む電流を、正常時と同様に第1電流にすることができる。そのため、スイッチング素子の加わるサージ電圧の増加を抑えることができる。従って、サージ電圧の増加に伴うスイッチング素子の破損を抑えることができる。
【0013】
請求項3に記載の電子装置は、制御回路は、オフ駆動用定電流回路の電流が第1電流と第3電流の差分の電流となるようにオフ駆動用定電流回路を調整することを特徴とする。この構成によれば、オン駆動用定電流回路が故障しても、スイッチング素子の制御端子に流し込む電流を確実に第1電流にすることができる。
【0014】
請求項4に記載の電子装置は、制御回路は、スイッチング素子の制御端子から電流が引き抜かれるようにオフ駆動用定電流回路の電流を調整してスイッチング素子をオフすることを特徴とする。この構成によれば、オン駆動用定電流回路が故障しても、スイッチング素子の制御端子から電流を引き抜いてスイッチング素子の制御端子の電圧を下げることができる。そのため、スイッチング素子をオフすることができる。
【0015】
請求項5に記載の電子装置は、制御回路は、スイッチング素子の制御端子から第2電流が引き抜かれるようにオフ駆動用定電流回路の電流を調整してスイッチング素子をオフすることを特徴とする。この構成によれば、オン駆動用定電流回路が故障しても、スイッチング素子の制御端子から引き抜く電流を、正常時と同様に第2電流にすることができる。そのため、スイッチング素子を正常時と同様にオフすることができる。
【0016】
請求項6に記載の電子装置は、制御回路は、オフ駆動用定電流回路の電流が第2電流と第3電流を加算した電流となるようにオフ駆動用定電流回路を調整することを特徴とする。この構成によれば、オン駆動用定電流回路が故障しても、スイッチング素子の制御端子から引き抜く電流を確実に第2電流にすることができる。
【0017】
請求項7に記載の電子装置は、オン駆動用定電流回路は、スイッチング素子の制御端子に流し込む電流を制御する電流制御用トランジスタと、電流制御用トランジスタに流れる電流を検出する電流検出用抵抗と、を有し、電流制御用トランジスタがショート故障したとき、スイッチング素子の制御端子に第1電流より大きい第3電流が流れ込むことを特徴とする。この構成によれば、電流制御用トランジスタがショート故障すると、スイッチング素子の制御端子に第3電流が流れ込むことになる。そのため、電流制御用トランジスタがショート故障しても、スイッチング素子の破損を抑え駆動することができる。
【0018】
請求項8に記載の電子装置は、制御回路は、電流検出用抵抗の検出結果に基づいて、スイッチング素子の制御端子に第3電流が流れ込むようになったか否かを判断することを特徴とする。この構成によれば、電流検出用の抵抗を新たに設けることなく、オン駆動用定電流回路が故障して、スイッチング素子の制御端子に第3電流が流れ込むようになったか否かを確実に検出することができる。
【0019】
請求項9に記載の電子装置は、第1電流及び第2電流は、スイッチング素子の制御端子に電荷を充電、及び、スイッチング素子の制御端子から電荷を放電する際に必要とされる電流の大きさに応じて設定されていることを特徴とする。この構成によれば、オン駆動用定電流回路が故障しても、スイッチング素子の種類に関係なく、スイッチング素子の破損を抑えて駆動することができる。
【0020】
なお、第1〜第3電流は、流れる電流を区別するために便宜的に導入したものである。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【図1】本実施形態におけるモータ制御装置の回路図である。
【図2】図1における制御装置の回路図である。
【図3】正常時においてIGBTをオンする際の動作を説明するための回路図である。
【図4】正常時においてIGBTをオフする際の動作を説明するための回路図である。
【図5】オン駆動用定電流回路の故障時においてIGBTをオンする際の動作を説明するための回路図である。
【図6】オン駆動用定電流回路の故障時においてIGBTをオフする際の動作を説明するための回路図である。
【発明を実施するための形態】
【0022】
次に実施形態を挙げ、本発明をより詳しく説明する。本実施形態では、本発明に係る電子装置を、車両に搭載され、車両駆動用モータを制御するモータ制御装置に適用した例を示す。
【0023】
まず、図1を参照して本実施形態のモータ制御装置の構成について説明する。ここで、図1は、本実施形態におけるモータ制御装置の回路図である。
【0024】
図1に示すモータ制御装置1(電子装置)は、車体から絶縁された高電圧バッテリB1の出力する直流高電圧(例えば288V)を3相交流電圧に変換して車両駆動用モータM1に供給し、車両駆動用モータM1を制御する装置である。モータ制御装置1は、平滑コンデンサ10と、インバータ装置11と、制御装置12とを備えている。
【0025】
平滑コンデンサ10は、高電圧バッテリB1の直流高電圧を平滑化するための素子である。平滑コンデンサ10の一端は、高電圧バッテリB1の正極端子に接続されている。また、他端は、高電圧バッテリB1の負極端子に接続されている。さらに、高電圧バッテリB1の負極端子は、車体から絶縁された高電圧バッテリ用のグランドに接続されている。
【0026】
インバータ装置11は、平滑コンデンサ10によって平滑化された直流電圧を3相交流電圧に変換して車両駆動用モータM1に供給する装置である。インバータ装置11は、IGBT110a〜110f(スイッチング素子)と、電流センス抵抗111a〜111fとを備えている。
【0027】
IGBT110a〜110fは、ゲート(制御端子)の電圧を制御することで駆動され、オン、オフすることで平滑コンデンサ10に平滑化された直流電圧を3相交流電圧に変換するためのスイッチング素子である。IGBT110a〜110fは、コレクタ電流に比例し、コレクタ電流より小さい電流が流れる電流センス端子を備えている。IGBT110a、110d、IGBT110b、110e及びIGBT110c、110fはそれぞれ直列接続されている。具体的には、IGBT110a〜110cのエミッタが、IGBT110d〜110fのコレクタにそれぞれ接続されている。直列接続された3組のIGBT110a、110d、IGBT110b、110e及びIGBT110c、110fは並列接続されている。IGBT110a〜110cのコレクタは平滑コンデンサ10の一端に、IGBT110d〜110fのエミッタは平滑コンデンサ10の他端にそれぞれ接続されている。また、IGBT110a〜110fのゲートとエミッタは制御装置12にそれぞれ接続されている。さらに、直列接続されたIGBT110a、110d、IGBT110b、110e及びIGBT110c、110fの直列接続点は、車両駆動用モータM1にそれぞれ接続されている。
【0028】
電流センス抵抗111a〜111fは、IGBT110a〜110fに流れる電流を電圧に変換するための素子である。具体的には、電流センス端子に流れる電流を電圧に変換する素子である。電流センス抵抗111a〜111fの一端はIGBT110a〜110fの電流センス端子に、他端はIGBT110a〜110fのエミッタにそれぞれ接続されている。また、電流センス抵抗111a〜111fの両端は、制御装置12にそれぞれ接続されている。
【0029】
制御装置12は、IGBT110a〜110fを制御する装置である。制御装置12は、IGBT110a〜110fのゲートとエミッタにそれぞれ接続されている。また、IGBT110a〜110fに流れる電流を検出するため、電流センス抵抗111a〜111fの両端にそれぞれ接続されている。
【0030】
次に、図2を参照して制御装置について詳細に説明する。ここで、図2は、図1における制御装置の回路図である。具体的には、1つのIGBTに対する回路部分を示す回路図である。
【0031】
図2に示すように、制御装置12は、IGBT110dに対して、駆動用電源回路120と、オン駆動用定電流回路121と、オフ駆動用定電流回路122と、オフ保持用回路123と、遮断用回路124と、過電流検出回路126と、短絡検出回路127と、制御回路128とを備えている。制御装置12は、他のIGBT110a〜110c、110e、110fに対しても、それぞれ同様に、駆動用電源回路と、オン駆動用定電流回路と、オフ駆動用定電流回路と、オフ保持用回路と、遮断用回路と、過電流検出回路と、短絡検出回路と、制御回路とを備えている。
【0032】
駆動用電源回路120は、IGBT110dを駆動するための電圧を供給する回路である。駆動用電源回路120は、電源回路(図略)から供給される電圧を安定化して出力する。駆動用電源回路120の入力端子は、電源回路に接続されている。また、正極端子は、オン駆動用定電流回路121に接続されている。さらに、負極端子は、車体から絶縁された高電圧バッテリ用のグランドに接続され、高電圧バッテリ用のグランドを介してIGBT110dのエミッタに接続されている。
【0033】
オン駆動用定電流回路121は、IGBT110dをオンするための回路である。具体的には、IGBT110dのゲートに所定の定電流I1(第1電流)を流し込んで電荷を充電して、ゲート電圧をオン、オフする閾値電圧より高くし、IGBT110dをオンする回路である。ここで、IGBT110dのゲートに流れ込む定電流I1は、IGBT110dのゲートに電荷を充電する際に必要とされる電流の大きさに応じて最適に設定されている。オン駆動用定電流回路121は、電流制御用FET121a(電流制御用トランジスタ)と、電流検出用抵抗121bとを備えている。
【0034】
電流制御用FET121aは、ゲートの電圧を制御することで駆動され、IGBT110dのゲートに所定の定電流I1を流し込んで電荷を充電する素子である。具体的には、PチャネルMOSFETである。電流検出用抵抗121bは、IGBT110dに流し込む電流を検出する素子である。電流制御用FET121aのソースは、電流検出用抵抗121bを介して駆動用電源回路120の正極端子に接続されている。また、ドレインは、IGBT110dのゲートに接続されている。さらに、ゲートは、制御回路128に接続されている。
【0035】
オフ駆動用定電流回路122は、IGBT110dをオフするための回路である。具体的には、IGBT110dのゲートから所定の定電流I2(第2電流)を引き抜いて電荷を放電して、ゲート電圧をオン、オフする閾値電圧より低くし、IGBT110dをオフする回路である。ここで、IGBT110dのゲートから引き抜く定電流I2は、IGBT110dのゲートから電荷を放電する際に必要とされる電流の大きさに応じて最適に設定されている。オフ駆動用定電流回路122は、電流制御用FET122aと、電流検出用抵抗122bとを備えている。
【0036】
電流制御用FET122aは、ゲートの電圧を制御することで駆動され、IGBT110dのゲートから所定の定電流I2を引き抜いて電荷を放電する素子である。具体的には、NチャネルMOSFETである。電流検出用抵抗122bは、IGBT110dから引き抜く電流を検出する素子である。電流制御用FET122aのソースは、電流検出用抵抗122bを介して、車体から絶縁された高電圧バッテリ用のグランドに接続され、高電圧バッテリ用のグランドを介して駆動用電源回路120の負極端子とIGBT110dのエミッタに接続されている。また、ドレインは、IGBT110dのゲートに接続されている。さらに、ゲートは、制御回路128に接続されている。
【0037】
オフ保持用回路123は、IGBT110dのオフ状態を保持する回路である。具体的には、IGBT110dのゲート電圧がオン、オフの閾値電圧より低いオフ保持閾値以下になると、IGBT110dのゲートから電荷を放電して、ゲート電圧をオン、オフする閾値電圧より低くし、IGBT110dのオフ状態を保持する回路である。オフ保持用回路123は、オフ保持用FET123aと、ゲート抵抗123bとを備えている。
【0038】
オフ保持用FET123aは、ゲートの電圧を制御することで駆動され、オンすることでIGBT110dのゲートから電荷を放電するスイッチング素子である。具体的には、NチャネルMOSFETである。オフ保持用FET123aのソースは、車体から絶縁された高電圧バッテリ用のグランドに接続され、高電圧バッテリ用のグランドを介して駆動用電源回路120の負極端子とIGBT110dのエミッタに接続されている。また、ドレインは、IGBT110dのゲートに接続されている。さらに、ゲートは、ゲート抵抗123bを介して制御回路128に接続されている。
【0039】
遮断用回路124は、異常が発生したとき、オフ駆動用定電流回路122に代わってIGBT110dをオフする回路である。具体的には、過電流や短絡等の異常が発生したとき、IGBT110dのゲートから電荷を放電して、ゲート電圧をオン、オフする閾値電圧より低くし、オフ駆動用定電流回路122に代わってIGBT110dのオフする回路である。遮断用回路124は、遮断用FET124aと、遮断用抵抗124bとを備えている。
【0040】
遮断用FET124aは、ゲートの電圧を制御することで駆動され、オンすることでIGBT110dのゲートから電荷を放電するスイッチング素子である。具体的には、NチャネルMOSFETである。遮断用FET124aのソースは、車体から絶縁された高電圧バッテリ用のグランドに接続され、高電圧バッテリ用のグランドを介して駆動用電源回路120の負極端子とIGBT110dのエミッタに接続されている。また、ドレインは、遮断用抵抗124bを介してIGBTのゲートに接続されている。さらに、ゲートは、制御回路128に接続されている。
【0041】
過電流検出回路126は、IGBT110dに過電流が流れているか否かを検出する回路である。具体的には、IGBT110dに流れる電流が過電流閾値より大きくなると、IGB110dTに過電流が流れていると判断する回路である。過電流検出回路126の入力端子は、電流センス抵抗111dの一端に接続されている。また、出力端子は、制御回路128に接続されている。
【0042】
短絡検出回路127は、IGBT110dが短絡状態にあるか否かを検出する回路である。具体的には、IGBT110dに流れる電流が、過電流閾値より大きい短絡電流閾値より大きくなると、IGBT110a、110dがともにオンした短絡状態となり、IGBT110dに短絡電流が流れていると判断する回路である。短絡検出回路127の入力端子は、電流センス抵抗111dの一端に接続されている。また、出力端子は、制御回路128に接続されている。
【0043】
制御回路128は、外部から入力される駆動信号に基づいてオン駆動用定電流回路121とオフ駆動用定電流回路122を制御して、IGBT110dを駆動するとともに、IGBT110dのゲート電圧に基づいてオフ保持用回路123を制御して、IGBT110dのオフ状態を保持する回路である。また、オン駆動用定電流回路121が故障して、IGBT110dのゲートに所定の定電流I1より大きい電流I3(第3電流)が流れ込むようになったとき、オフ駆動用定電流回路122の電流を調整してIGBT110dを駆動する回路でもある。さらに、IGBT110dに過電流が流れたり、IGBT110dが短絡状態になったりした等の異常が発生したとき、オフ駆動用定電流回路122に代わって遮断用回路124を制御して、IGBT110dをオフする回路でもある。制御回路128は、電流制御用FET121a、122aのゲート、及び、電流検出抵抗121b、122bの両端にそれぞれ接続されている。また、IGBT110dのゲートに接続されるとともに、ゲート抵抗123bを介してオフ保持用FET123aのゲートに接続されている。さらに、過電流検出回路126及び短絡検出回路127の出力端子、並びに、遮断用FET124aのゲートにそれぞれ接続されている。
【0044】
ここで、駆動用電源回路120、電流制御用FET121a、122a、遮断用FET124a、過電流検出回路126、短絡検出回路127及び制御回路128は、ICとして一体的に構成されている。
【0045】
次に、図1を参照してモータ制御装置の動作について説明する。車両のイグニッションスイッチ(図略)がオンすると、図1に示すモータ制御装置1が動作を開始する。高電圧バッテリB1の直流高電圧は、平滑コンデンサ10によって平滑化される。制御装置12は、外部から入力される駆動信号に基づいて、インバータ装置11を構成するIGBT110a〜110fを制御する。具体的には、IGBT110a〜110fを所定周期でオン、オフする。インバータ装置11は、平滑コンデンサ10によって平滑化された直流高電圧を3相交流電圧に変換して車両駆動用モータM1に供給する。このようにして、モータ制御装置1が車両駆動用モータM1を制御する。
【0046】
次に、図2〜図6を参照して、正常時と、オン駆動用定電流回路の故障時等におけるIGBTの駆動動作について説明する。ここで、図3は、正常時においてIGBTをオンする際の動作を説明するための回路図である。図4は、正常時においてIGBTをオフする際の動作を説明するための回路図である。図5は、オン駆動用定電流回路の故障時においてIGBTをオンする際の動作を説明するための回路図である。図6は、オン駆動用定電流回路の故障時においてIGBTをオフする際の動作を説明するための回路図である。
【0047】
図3に示す制御回路128は、外部から入力される駆動信号に基づいて電流制御用FET121a、122aを制御してIGBT110dを駆動する。
【0048】
駆動信号がIGBT110dのオンを指示、つまり、オン駆動用定電流回路121からIGBT110dのゲートに所定の定電流I1を流し込むとともに、オフ駆動用定電流回路122の動作を停止するように指示すると、制御回路128は、電流検出用抵抗121bの電圧に基づいて電流制御用FET121aを制御し、IGBT110dのゲートに定電流I1を流し込む。これにより、IGBT110dのゲートに電荷が充電される。その結果、ゲート電圧がオン、オフする閾値電圧より高くなり、IGBT110dがオンする。
【0049】
一方、駆動信号がIGBT110dのオフを指示、つまり、オン駆動用定電流回路121の動作を停止するとともに、オフ駆動用定電流回路122によってIGBT110dのゲートから所定の定電流I2を引き抜くように指示すると、制御回路128は、電流検出用抵抗122bの電圧に基づいて電流制御用FET122aを制御し、図4に示すように、IGBT110dのゲートから定電流I2を引き抜く。これにより、IGBT110dのゲートから電荷が放電される。その結果、ゲート電圧がオン、オフする閾値電圧より低くなり、IGBT110dがオフする。そして、ゲート電圧がオン、オフする閾値電圧より低いオフ保持閾値以下になると、制御回路128は、オフ保持用FET123aをオンする。これにより、IGBT110dのゲートからオフ保持用FET123aを介して電荷がさらに放電され、IGBT110dのオフ状態が保持される。
【0050】
ところで、図5及び図6に示すように、オン駆動用定電流回路121が故障、例えば、電流制御用FET121aがショート故障して、IGBT110dのゲートに電流I1より大きい電流I3が流れ込むようになると、制御回路128は、オフ駆動用定電流回路122の電流を調整してIGBT110dを駆動する。制御回路128は、電流検出用抵抗121bの電圧に基づいて、オン駆動用定電流回路121が故障して、IGBT110dのゲートに電流I1より大きい電流I3が流れ込むようになったか否かを判断する。
【0051】
オン駆動用定電流回路121の故障時に、駆動信号がIGBT110dのオンを指示すると、図5に示すように、制御回路128は、結果的にIGBT110dのゲートに電流I1が流れ込むようにオフ駆動用定電流回路122の電流を調整する。具体的には、オフ駆動用定電流回路122の電流が、電流I1と電流I3の差分の電流(I3−I1)となるようにオフ駆動用定電流回路を調整する。これにより、IGBT110dのゲートに正常時と同様に定電流I1が流れ込むことになる。その結果、IGBT110dのゲートに正常時と同様に電荷が充電され、IGBT110dが、正常時と同様にオンする。
【0052】
一方、オン駆動用定電流回路121の故障時に、駆動信号がIGBT110dのオフを指示すると、図6に示すように、制御回路128は、結果的にIGBT110dのゲートから電流が引き抜かれるようにオフ駆動用定電流回路122の電流を調整する。具体的には、結果的にIGBT110dのゲートから電流I2が引き抜かれるようにオフ駆動用定電流回路122の電流を調整する。より具体的には、オフ駆動用定電流回路122の電流が、電流I2と電流I3を加算した電流(I2+I3)となるようにオフ駆動用定電流回路122を調整する。これにより、IGBT110dのゲートから正常時と同様に定電流I2が引き抜かれることになる。その結果、IGBT110dのゲートから正常時と同様に電荷が放電され、IGBT110dが、正常時と同様にオフする。
【0053】
また、図2において、IGBT110dに流れる電流が過電流閾値より大きくなると、過電流検出回路126は、IGBT110dに過電流が流れていると判断する。IGBT110dに流れる電流が短絡電流閾値より大きくなると、短絡検出回路127は、IGBT110a、110dがともにオンした短絡状態にあると判断する。制御回路128は、IGBT110dに過電流が流れたり、IGBT110dが短絡状態になったりした等の異常が発生したと判断すると、オフ駆動用定電流回路122に代わって遮断用FET124aをオンする。これにより、IGBT110dのゲートから遮断抵抗124bを介して電荷が放電される。その結果、ゲート電圧がオン、オフする閾値電圧より低くなり、IGBT110dがオフする。
【0054】
次に、効果について説明する。本実施形態によれば、オン駆動用定電流回路121が故障して、IGBT110dのゲートに電流I1より大きい電流I3が流れ込むようになったとき、制御回路128は、オフ駆動用定電流回路122の電流を調整する。そのため、IGBT110dのゲートに流れ込む電流、及び、ゲートから引き抜く電流を調整することができる。従って、オン駆動用定電流回路121が故障しても、IGBT110dの破損を抑えて駆動することができる。
【0055】
本実施形態によれば、制御回路128は、IGBT110dのゲートに電流I1が流れ込むようにオフ駆動用定電流回路122の電流を調整する。そのため、オン駆動用定電流回路121が故障しても、IGBT110dのゲートに流し込む電流を、正常時と同様に電流I1にすることができる。従って、IGBT110dの加わるサージ電圧の増加を抑えることができ、サージ電圧の増加に伴うIGBT110dの破損を抑えることができる。
【0056】
本実施形態によれば、制御回路128は、オフ駆動用定電流回路122の電流が電流I1と電流I3の差分の電流(I3−I1)となるようにオフ駆動用定電流回路122を調整する。そのため、オン駆動用定電流回路121が故障しても、IGBT110dのゲートに流し込む電流を確実に電流I1にすることができる。
【0057】
本実施形態によれば、制御回路128は、IGBT110dのゲートから電流が引き抜かれるようにオフ駆動用定電流回路122の電流を調整する。そのため、オン駆動用定電流回路121が故障しても、IGBT110dのゲートから電流を引き抜いてIGBT110dのゲートの電圧を下げることができる。従って、IGBT110dをオフすることができる。
【0058】
本実施形態によれば、制御回路128は、IGBT110dのゲートから電流I2が引き抜かれるようにオフ駆動用定電流回路122の電流を調整する。そのため、オン駆動用定電流回路121が故障しても、IGBT110dのゲートから引き抜く電流を、正常時と同様に電流I2にすることができる。従って、IGBT110dを正常時と同様にオフすることができる。
【0059】
本実施形態によれば、制御回路128は、オフ駆動用定電流回路122の電流が電流I2と電流I3を加算した電流(I2+I3)となるようにオフ駆動用定電流回路122を調整する。そのため、オン駆動用定電流回路121が故障しても、IGBT110dのゲートから引き抜く電流を確実に電流I2にすることができる。
【0060】
本実施形態によれば、オン駆動用定電流回路121は、電流制御用FET121aと、電流検出用抵抗121bとを有している。電流制御用FET121aがショート故障すると、IGBT110dのゲートに電流I1より大きい電流I3が流れ込むことになる。そのため、電流制御用FET121aがショート故障しても、IGBT110dの破損を抑え駆動することができる。
【0061】
本実施形態によれば、制御回路128は、電流検出用抵抗121bの検出結果に基づいて、IGBT110dのゲートに電流I3が流れ込むようになったか否かを判断する。そのため、電流検出用の抵抗を新たに設けることなく、オン駆動用定電流回路121が故障して、IGBT110dのゲートに電流I3が流れ込むようになったか否かを確実に検出することができる。
【0062】
本実施形態によれば、電流I1及び電流I2は、IGBT110dのゲートに電荷を充電、及び、IGBT110dのゲートから電荷を放電する際に必要とされる電流の大きさに応じて設定されている。そのため、オン駆動用定電流回路121が故障しても、IGBT110dの種類に関係なく、IGBT110dの破損を抑えて駆動することができる。
【0063】
なお、本実施形態では、駆動用電源回路120、電流制御用FET121a、122a、遮断用FET124a、過電流検出回路126、短絡検出回路127及び制御回路128が、ICとして一体的に構成されている例を挙げているが、これに限られるものではない。IGBTに流し込む電流や引き抜く電流が大きい場合、電流制御用FETをICに外付けするような構成としてもよい。
【符号の説明】
【0064】
1・・・モータ制御装置(電子装置)、10・・・平滑コンデンサ、11・・・インバータ装置、110a〜110f・・・IGBT(スイッチング素子)、111a〜111f・・・電流センス抵抗、12・・・制御装置、120・・・駆動用電源回路、121・・・オン駆動用定電流回路、121a・・・電流制御用FET(電流制御用トランジスタ)、121b・・・電流検出用抵抗、122・・・オフ駆動用定電流回路、122a・・・電流制御用FET、122b・・・電流検出用抵抗、123・・・オフ保持用回路、123a・・・オフ保持用FET、123b・・・ゲート抵抗、124・・・遮断用回路、124a・・・遮断用FET、124b・・・遮断用抵抗、126・・・過電流検出回路、127・・・短絡検出回路、128・・・制御回路、B1・・・高電圧バッテリ、M1・・・車両駆動用モータ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
制御端子の電圧を制御することで駆動されるスイッチング素子と、
前記スイッチング素子の制御端子に接続され、前記スイッチング素子の制御端子に第1電流を流し込み電荷を充電するオン駆動用定電流回路と、
前記スイッチング素子の制御端子に接続され、前記スイッチング素子の制御端子から第2電流を引き抜いて電荷を放電するオフ駆動用定電流回路と、
入力される駆動信号に基づいて前記オン駆動用定電流回路と前記オフ駆動用定電流回路を制御することで、前記スイッチング素子の制御端子の電圧を制御して前記スイッチング素子を駆動する制御回路と、
を備えた電子装置において、
前記制御回路は、前記オン駆動用定電流回路が故障して、前記スイッチング素子の制御端子に前記第1電流より大きい第3電流が流れ込むようになったとき、前記オフ駆動用定電流回路の電流を調整して前記スイッチング素子を駆動することを特徴とする電子装置。
【請求項2】
前記制御回路は、前記スイッチング素子の制御端子に前記第1電流が流れ込むように前記オフ駆動用定電流回路の電流を調整して前記スイッチング素子をオンすることを特徴とする請求項1に記載の電子装置。
【請求項3】
前記制御回路は、前記オフ駆動用定電流回路の電流が前記第1電流と前記第3電流の差分の電流となるように前記オフ駆動用定電流回路を調整することを特徴とする請求項2に記載の電子装置。
【請求項4】
前記制御回路は、前記スイッチング素子の制御端子から電流が引き抜かれるように前記オフ駆動用定電流回路の電流を調整して前記スイッチング素子をオフすることを特徴とする請求項1〜3のいずれか1項に記載の電子装置。
【請求項5】
前記制御回路は、前記スイッチング素子の制御端子から前記第2電流が引き抜かれるように前記オフ駆動用定電流回路の電流を調整して前記スイッチング素子をオフすることを特徴とする請求項4に記載の電子装置。
【請求項6】
前記制御回路は、前記オフ駆動用定電流回路の電流が前記第2電流と前記第3電流を加算した電流となるように前記オフ駆動用定電流回路を調整することを特徴とする請求項5に記載の電子装置。
【請求項7】
前記オン駆動用定電流回路は、
前記スイッチング素子の制御端子に流し込む電流を制御する電流制御用トランジスタと、
前記電流制御用トランジスタに流れる電流を検出する電流検出用抵抗と、
を有し、
前記電流制御用トランジスタがショート故障したとき、前記スイッチング素子の制御端子に前記第1電流より大きい前記第3電流が流れ込むことを特徴とする請求項1〜6のいずれか1項に記載の電子装置。
【請求項8】
前記制御回路は、前記電流検出用抵抗の検出結果に基づいて、前記スイッチング素子の制御端子に前記第3電流が流れ込むようになったか否かを判断することを特徴とする請求項7に記載の電子装置。
【請求項9】
前記第1電流及び前記第2電流は、前記スイッチング素子の制御端子に電荷を充電、及び、前記スイッチング素子の制御端子から電荷を放電する際に必要とされる電流の大きさに応じて設定されていることを特徴とする請求項1〜8のいずれか1項に記載の電子装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2012−147619(P2012−147619A)
【公開日】平成24年8月2日(2012.8.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−5528(P2011−5528)
【出願日】平成23年1月14日(2011.1.14)
【出願人】(000004260)株式会社デンソー (27,639)
【Fターム(参考)】