電気ニッケルめっき液および電子部品の製造方法
【課題】素体の浸食や、絶縁不良の発生を抑制することができ、安定性および生産性の高い電気ニッケルめっき液およびセラミック電子部品の製造方法を提供する。
【解決手段】本実施形態に係るめっき液は、セラミック電子部品用の電気ニッケルめっき液であって、ニッケルイオンと、0.005mol/L以上0.1mol/L以下の濃度のアルカリ金属イオンとを含み、pHが5よりも大きく7未満であり、アンモニウムまたはアンモニアを含むイオンのイオン濃度が0.2mol/L以下であることを特徴とする。
【解決手段】本実施形態に係るめっき液は、セラミック電子部品用の電気ニッケルめっき液であって、ニッケルイオンと、0.005mol/L以上0.1mol/L以下の濃度のアルカリ金属イオンとを含み、pHが5よりも大きく7未満であり、アンモニウムまたはアンモニアを含むイオンのイオン濃度が0.2mol/L以下であることを特徴とする。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、セラミック電子部品に好適に使用される電気ニッケルめっき液およびこのめっき液を用いた電子部品の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、サーミスタ、コンデンサ、インダクタ、LTCC(Low Temperature Co-fired Ceramics)、バリスタやそれらの複合体からなるセラミック電子部品の製造において、Niの電気めっきが用いられている。例えば、内部電極を備えるセラミック電子部品の表面に、銀、銅等の導電ペーストを塗布して焼成して下地電極を形成した後に、この下地電極表面に選択的に電気バレルめっきでNi層およびSn層からなる端子電極が形成されている。
【0003】
このNi層の電気めっきには、従来から例えばワット浴や塩化物浴が用いられている。ワット浴とは、硫酸ニッケル、塩化ニッケル、ホウ酸を主成分とし、pHが4〜5に調整されためっき液であり、40〜60℃の温度で使用されるものである。塩化物浴とは、塩化ニッケル、ホウ酸を主成分とし、pHが4〜5に調整されためっき液であり、50〜70℃の温度で使用されるものである。
【0004】
従来、バリスタ、サーミスタなどの半導体部品は耐薬品性が乏しく、ワット浴や塩化物浴に代表されるニッケルのめっき液により素体が大きく浸食(エッチング)されてしまうという問題があった。また、LTCC、チップコンデンサなどの誘電体製品でも近年の小型化、高性能化に伴い、素体の耐薬品性が乏しくなり、同様の問題が発生するようになっている。そこで、特許文献1に示すように、めっき液中にキレート剤を添加してpHを例えば4〜9にして素体の浸食を抑制する方法が提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2003−193285号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、特許文献1に記載のめっき液を用いた場合においても、例えばコンデンサ等のセラミック電子部品では、絶縁不良が発生するという問題があった。これは、キレート剤およびめっき液の特定の成分が下地電極のフリット(ガラス成分)を溶解し、めっき液が下地電極を通って内部電極の露出している素体に達して内部電極表面の素体を溶解して、内部電極と素体との間で生ずる熱応力が開放されてクラックが発生することによるものと推定される。また、かかる不都合以外にも、一般に、電気めっきにおける通電時に分解等を生じない安定しためっき液が要求される。
【0007】
そこで、本発明は上記の事情に鑑みてなされたものであり、その目的は、素体の浸食や、絶縁不良の発生を抑制することができ、かつ安定性の高い電気ニッケルめっき液および当該電気ニッケルめっき液を用いた電子部品の製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記の目的を達成するため、本発明の電気ニッケルめっき液は、セラミック電子部品用の電気ニッケルめっき液であって、ニッケルイオンと、0.005mol/L以上0.1mol/L以下の濃度のアルカリ金属イオンとを含み、pHが5よりも大きく7未満であり、アンモニウムまたはアンモニアを含むイオンのイオン濃度が0.2mol/L以下であることを特徴とする。
【0009】
上記構成の本発明では、アルカリ金属のイオン濃度が0.1mol/L以下に抑えられていることから、絶縁不良や素体のエッチングが抑制される。また、詳細な作用機序は未だ不明であるものの、アルカリ金属のイオン濃度が0.005mol/L以上であることにより、通電によるめっき液の分解が良好に抑制されることが確認された。さらに、pHを5よりも大きく7未満に調整することにより、めっき液による素体の劣化を抑制することができる。より具体的には、pHを5よりも大きくすることにより、めっき液による素体のエッチングがさらに抑制され、また、pH7が未満であれば、キレート剤を添加することなくめっき液を構成することができる利点がある。またさらに、アンモニウムまたはアンモニアを含むイオンの濃度を0.2mol/L以下と低く抑えることにより、絶縁不良や素体の浸食が更に一層抑制される。
【0010】
ここで、電気ニッケルめっき液の成分としては、硫酸イオンをできるだけ含まないことが好ましく、その濃度は0.01mol/L以下であることが好ましい。これにより、素体の浸食がさらに抑制される。具体的には、例えば、ニッケルイオンの供給源として硫酸ニッケル以外のものを用いることが好ましく、さらに具体的には、例えば塩化ニッケルが好適に用いられる。
【0011】
また、アンモニア以外のキレート剤をできるだけ含まないことが好ましく、その濃度が0.05mol/L以下であることが好ましい。これにより、下地電極のフリットの溶解が有効に抑制され、めっき後の絶縁不良の発生が低減される。
【0012】
さらに、ニッケルイオンの濃度は0.1mol/L以上、かつ1mol/L以下であることが好ましい。0.1mol/L以上とすれば、めっき電流を大きくすることが可能であり、ニッケルめっきの生産性を向上させることができる。また、1mol/L以下とすれば、本質的に、キレート剤を成分として含まずにpHを5〜7に調製することが平易となる。
【0013】
またさらに、上記の目的を達成するため、本発明によるセラミック電子部品の製造方法は、セラミック素子の下地電極上に電気ニッケルめっきによりニッケル層を形成する工程を備え、前記工程では、ニッケルイオンと、0.005mol/L以上0.1mol/L以下の濃度のアルカリ金属イオンとを含み、pHが5よりも大きく7未満であり、アンモニウムまたはアンモニアを含むイオンのイオン濃度が0.2mol/L以下である電気ニッケルめっき液を用いるものである。
【0014】
殊に、Znを含有するセラミック素体を用いる場合、本発明の効果が顕著である。Znを含む素体は、素体の耐薬品性に乏しいため、従来のめっき液による処理では素体の腐食が不都合な程度に大きくなってしまい、絶縁不良などの不具合が生じ易い場合があるのに対し、本発明によるセラミック電子部品の製造方法を用いることにより、かかる不具合を十分に抑制することができる。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、ニッケルイオンと、所定の濃度のアルカリ金属イオンを含むめっき液を用い、かつ、めっき液中のアンモニウムまたはアンモニアを含むイオンの濃度を所定の濃度以下に抑制することにより、めっき液による素体の腐食や、絶縁不良の発生を抑制し、かつ、安定性の高い電気ニッケルめっき液を提供することができる。そして、このような電気ニッケルめっき液を用いることで、セラミック電子部品の生産性を向上させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】セラミック電子部品の概略構造を示す斜視図である。
【図2】図1のII−II線の断面図である。
【図3】セラミック電子部品の下地電極の外側にめっきにより端子電極が形成された構造を示す概略断面図である。
【図4】めっき液中のNaイオン濃度と絶縁不良との関係を示す図である。
【図5】めっき液中のNaイオン濃度と腐食距離との関係を示す図である。
【図6】クラックの部分から劈開して電極表面をTOFSIMSで解析した結果を示す図である。
【図7】めっき液中のアンモニウムイオン濃度と絶縁不良との関係を示す図である。
【図8】めっき液中のアンモニウムイオン濃度と腐食距離との関係を示す図である。
【図9】めっき液中のキレート剤濃度と絶縁不良との関係を示す図である。
【図10】めっき液中のキレート剤濃度と絶縁不良との関係を示す図である。
【図11】めっき液中の硫酸イオン濃度と腐食距離との関係を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、本発明の実施の形態について、図面を参照して説明する。なお、図面中、同一の要素には同一の符号を付し、重複する説明を省略する。また、上下左右等の位置関係は、特に断らない限り、図面に示す位置関係に基づくものとする。さらに、図面の寸法比率は、図示の比率に限定されるものではない。また、以下の実施の形態は、本発明を説明するための例示であり、本発明をその実施の形態のみに限定する趣旨ではない。さらに、本発明は、その要旨を逸脱しない限り、さまざまな変形が可能である。
【0018】
<セラミック電子部品の例>
図1は、本発明による電気めっき処理の対象となるセラミック電子部品の一例を示す斜視図である。図2は、図1のII−II線における断面図である。
【0019】
セラミック電子部品1は、セラミックスからなる素体2と、素体2内に形成された複数の内部電極3とを含む積層体4を有し、換言すれば、素体2と内部電極3が積層された単位構造10を少なくとも1つ備えたものである。より具体的には、積層体4の一方の側面に露出した端部を有する内部電極3と、積層体4の他方の側面に露出した端部を有する内部電極3とが交互に積層されている。積層体4の両側面には、それらの側面を覆うように下地電極5,5が設けられており、各下地電極5は、積層体4の一方の側面から露出した内部電極3の群、あるいは積層体4の他方の面から露出した内部電極3の群に電気的に接続されている。
【0020】
セラミック電子部品1の素体2はセラミックス、具体的には、半導体セラミックスまたは誘電体セラミックスからなる。半導体セラミックス、および、誘電体セラミックスのいずれの場合にも、素体2にはZnが含まれることがある。半導体セラミックスでは、バリスタ、サーミスタなどの主成分として、また、誘電体では、焼結助剤としてZnが好ましく用いられる。特に後者では、LTCC(部品)の小型化に伴い薄層化が進み、このためにさらに焼結温度の低下が進んでおり、使用例も一段と増加している。
【0021】
内部電極3には、素体2との間での確実なオーミック接触を可能とする観点から、例えば、Ag、Pd、Ni、Cu、またはAlを主成分とする材料が用いられるが、特に材料に限定はない。
【0022】
下地電極5は、例えば、積層体4の側面への導電性ペーストの塗布および焼成により得られる。下地電極5を形成するための導電性ペーストとしては、主として、ガラス粉末(フリット)と、有機ビヒクル(バインダー)と、金属粉末とを含むものが挙げられ、導電性ペーストの焼成により、有機ビヒクルは揮散し、最終的にガラス成分および金属成分を含む下地電極5が形成される。なお、導電性ペーストには、必要に応じて、粘度調整剤、無機結合剤、酸化剤等種々の添加剤を加えてもよい。例えば、下地電極5は、金属成分としてAg、Cu、および、Znを含む。
【0023】
図3に示すように、セラミック電子部品1の下地電極5,5の表面に、さらに、電気めっきにより端子電極7,7が形成される。これらの端子電極7,7と、例えば、配線基板上の電極とがはんだ等により接合される。各端子電極7は、例えば、下地電極5側から積層形成されたNi層7aおよびSn層7bを含む2層構造を有する。Ni層7aは、Sn層7bと下地電極5との接触を防止して、Snによる下地電極5の腐食を防止するバリアメタルとして機能するものであり、その厚さは例えば2μm程度である。また、Sn層7bは、はんだの濡れ性を向上させる機能を有するものであり、その厚さは例えば4μm程度とされる。
【0024】
<めっき液>
本実施形態に係るめっき液は、上述したNi層7aのようなセラミック電子部品の電極の形成に好適に用いられる。以下、本実施形態に係るめっき液について説明する。
【0025】
本実施形態の電気ニッケルめっき液は、ニッケルイオンと、0.005mol/L以上0.1mol/L以下の濃度のアルカリ金属イオンとを含み、pHが5よりも大きく7未満であり、アンモニウムまたはアンモニアを含むイオンのイオン濃度が0.2mol/L以下である。
【0026】
このうち、ニッケルイオンの濃度は0.1mol/L以上、1mol/L以下であることが好ましい。0.1mol/L未満の場合には、めっき時の電流値が過度に低下してしまい、ニッケルめっきの生産性が低下してしまう傾向にある。また、Niイオン濃度を1mol/L以下にすることにより、基本的に、キレート剤を含めることなくpHを5〜7に適度に調整することができる。
【0027】
また、本実施形態では、めっき中の素体の腐食を抑制するために、めっき液のpHが5よりも大きく7未満に調整されている。めっき液のpHは、適宜のpH調整剤を用いて調整することができる。
【0028】
アルカリ金属イオンは、例えば硫酸ナトリウムのような導電性塩、クエン酸ナトリウムのようなキレート剤、水酸化ナトリウムのような適宜のpH調整剤に含まれる。
【0029】
ここで、アルカリ金属イオンの濃度は、好ましくは0.005mol/L以上0.1mol/L以下、さらに好ましくは0.03mol/L以上0.1mol/L以下とされる。このアルカリ金属イオンの濃度が0.005mol/L以上であれば、通電によるめっき液の分解を有効に抑制することができ、また、アルカリ金属のイオンの濃度が0.1mol/L以下であれば、絶縁不良や素体の不都合なエッチングを抑制し易くなる。また、アルカリ金属イオンの濃度が0.03mol/L以上であれば、めっき液の寿命が長くなり、より好ましい。
【0030】
また、アンモニウムまたはアンモニアを含むイオンは、塩化アンモニウムのような導電性塩、クエン酸アンモニウムのようなキレート剤、アンモニア、TMAHのようなpH調整剤に含まれる。
【0031】
アンモニウムまたはアンモニアを含むイオンの濃度を0.2mol/L以下と低くしたのは、絶縁不良や、素体の浸食を抑制するためである。
【0032】
また、めっき液による素体の腐食を小さくするには、めっき液の温度はできるだけ低いことが好ましく、例えば室温で使用される。
【0033】
また、めっき液中には硫酸イオンができるだけ含まれないことが好ましく、その濃度は0.1mol/L以下であることがより好ましい。これにより、素体の浸食がさらに抑制される。例えば、ニッケルイオンの供給源として硫酸ニッケル以外のものを用いることが好ましく、例えば塩化ニッケルが好適に用いられる。
【0034】
さらに、アンモニア以外のキレート剤は、錯イオン生成定数が大きく、セラミックの溶解が多いので、めっき液中にできるだけ含まれないことが好ましく、その濃度が0.05mol/L以下であることがより好ましい。これにより、下地電極のフリットの溶解が抑制され、めっき後の絶縁不良の発生を十分に低減することができる。
【0035】
上述した条件を満たす電気ニッケルめっき液の一例は、塩化ニッケルと、ホウ酸と、水酸化ナトリウムとを含み、pHが5よりも大きく7未満に調整されためっき液が挙げられる。このように、ニッケルイオンの供給源として硫酸ニッケルではなく塩化ニッケルを用いることにより、素体の浸食を抑制し易くなる。また、pH調整剤としてアンモニアや炭酸ニッケルではなく水酸化ナトリウムを用いることにより、通電後の分解のない安定しためっき液を形成し易くできる。このとき、水酸化ナトリウムの添加量の上限値を規定することにより、アルカリ金属のイオンの存在に起因する絶縁不良や素体の浸食がさらに抑制される。また、ホウ酸は、pHの変動を抑制する緩衝剤として有効に作用(機能)する。
【0036】
本実施形態に係るめっき液には、必要に応じて光沢剤や界面活性剤などの公知の添加剤を含んでいてもよく、その場合においても、上述した条件を満たすように添加剤の種類を選択し、またその量を調整することが好ましい。
【0037】
本実施形態に係るめっき方法は、上述した電気ニッケルめっき液で、セラミック電子部品にニッケルを電気めっきするものである。めっき方法として、例えばバレルめっきを用いることができる。必要に応じて空気攪拌、カソード遥動、ポンプなどによるめっき液の流動の方法で攪拌することができる。
【0038】
めっき条件としては、公知の条件を用いることができる。陽極としては、ニッケル金属が通常使用されるが、場合によっては白金めっきをしたチタン板などの不溶性電極も使用できる。浴温度は、特に制限されず、好ましくは10℃〜30℃である。陰極電流密度や、めっき時間等のめっき条件は、要求されるニッケル層の膜厚等に応じて当業者の適宜決定することができる。本実施形態に係るめっき方法によれば、めっき液による素体の腐食や、絶縁不良の発生が抑制される。
【0039】
本実施形態に係るめっき液およびめっき方法は、Znを含有する素体を備えるセラミック電子部品に好ましく用いることができる。Znを含む場合には、素体の耐薬品性が乏しくなることから、本実施形態に係るめっき液の効果が一層顕著になることによる。
【0040】
以下、本発明の実施例について説明するが、本発明はこれら実施例に限定されるものではない。
【0041】
表1に示す実験番号1−32のめっき液を用いてセラミック電子部品に電気めっきを施した際における、めっき初期の液分解の有無、セラミック電子部品(チップ)の腐食距離、めっき後の絶縁不良率を評価した。腐食距離は、めっき後のチップを10個抜き取り(サンプリングし)、SEMの断面観察より素体表面の腐蝕層の厚さを測定した場合の平均値を示す。絶縁不良率は、めっき後のチップを100個抜き取って絶縁抵抗を測定した場合の絶縁不良の割合を示す。以下に、実験番号の順にその結果について考察する。なお、表1において空欄部分は0を示している。
【0042】
【表1】
【0043】
(実験番号1:pH調整剤としてアンモニアを使用)
チタン酸ストロンチウムを主組成とし、ZnOを2%含む素体で作成した1608サイズのコンデンサチップ1000個を、700mLの容量をもつバレルめっき装置を用いてめっきを行った。実験番号1の組成のめっき液(pH調整剤がアンモニア)を用いて、メディアとしてΦ0.5のスチールメディアを120mL添加し、攪拌用にジルコニアのΦ5メディアを90mL添加し、バレルの回転数20rpmで5Aの電流を印加したが、浴電圧が上昇し、カソードからの激しい気泡の発生があり、10分後には大量の沈殿が発生した。沈殿物の組成は水酸化ニッケルNi(OH)2であった。
【0044】
これは、めっき液の過電圧が大きく水素が発生しやすい組成となっており、通電後にカソードから水素が発生し、これによりpHが上昇して水酸化ニッケルNi(OH)2が生成したものと推測される。
【0045】
(実験番号2:pH調整剤として炭酸ニッケルを使用)
次に、実験番号1のpH調整剤を炭酸ニッケルに変更して同様の実験を行なったが(実験番号2)、その結果は実験番号1の場合と同様であった。このように、pH調整剤として炭酸ニッケルを使用した場合にも通電後にめっき液が分解してしまった。
【0046】
(実験番号3−15)
そこで、pH調整剤の一部を水酸化ナトリウムに置き換えて実験を行なった(実験番号2−5)。これらの結果から、アルカリ金属のイオン濃度が0.005mol/L以上であれば通電直後のめっき液の分解は発生しないことが判明した。さらに、pH調整剤として炭酸ニッケルを添加せずに、塩化ナトリウムを添加してアルカリイオン濃度の有効な上限を調べた(実験番号6−15)。その結果、アルカリ金属イオン濃度が高くなるにつれて腐食距離が増加し、0.1mol/Lを超えるとめっき後の絶縁不良が発生することが判明した。Naイオン濃度と絶縁不良および腐蝕距離との関係を、それぞれ図4および図5に示す。Naイオン濃度が0.1mol/Lを超えたところで絶縁不良および腐蝕距離共に増加していることが確認された。
【0047】
また、絶縁不良チップの断面を解析したところ、電極間にクラックが発生していることが確認された。またクラックの部分から劈開した電極表面を飛行時間型二次イオン質量分析装置(TOF−SIMS)で解析した結果を図6に示す。図6には、クラックが発生した部分(Crack area)と、クラックの発生していない部分(Flesh area)における解析結果を上下に併記してある。図6に示す結果から、クラックの原因はめっき液中のナトリウムイオンがめっき中に端子電極の周辺に移動して高アルカリ領域を形成し、この液が下地電極のボイドを通って内部電極が露出している素体面に達し、その結果、素体が溶解されてしまい、内部電極と素体の間に発生している熱応力が解放されてクラックが発生すると推定される。ただし、作用はこれに限定されない。
【0048】
(実験番号16−21)
次に、実験番号6のめっき液に塩化アンモニウムを添加して、アンモニウムイオン濃度と素体の腐食および絶縁不良の関係を調べた(実験番号16−21)。なお、実験番号16のめっき液は、実験番号6のめっき液と同じものである。塩化アンモニウム量の増加とともに絶縁不良および腐蝕距離が増加していることが判明した。アンモニウムイオン濃度と絶縁不良および腐蝕距離との関係を、それぞれ図7および図8に示す。アンモニウムイオン濃度が0.2mol/Lを超えたところで、絶縁不良および腐蝕距離共に増加していることが確認された。
【0049】
(実験番号22−27)
次に、実験番号6のめっき液にキレート剤としてクエン酸アンモニウムを添加して、キレート剤の濃度と素体の腐食および絶縁不良の関係を調べた(実験番号22−27)。なお、実験番号22のめっき液は、実験番号6のめっき液と同じものである。クエン酸アンモニウム量の増加とともに絶縁不良および腐蝕距離が増加していることが理解される。キレートイオン濃度と絶縁不良および腐蝕距離との関係を、それぞれ図9および図10に示す。キレートイオン濃度が0.05moL/Lを超えたところで絶縁不良が増加していることが確認された。
【0050】
(実験番号28−32)
次に、実験番号6のめっき液に硫酸ニッケルを添加して、硫酸イオンと素体の腐食および絶縁不良の関係を調べた(実験番号28〜32)。なお、実験番号28のめっき液は、実験番号6のめっき液と同じものである。ここでは、めっき液中のNiイオン濃度が不変になるように塩化Ni量を調整した。これらの結果より、硫酸Ni量の増加とともに腐蝕距離が増加していることが判明した。硫酸イオン濃度と腐蝕距離の関係を図11に示す。硫酸イオン濃度が0.1mol/Lを超えたところで腐蝕距離が増加していることが確認された。
【0051】
上述した実施例に示すように、めっき液中に含まれる素体および電極のフリット(ガラス成分)の溶解を促進するカチオン(アルカリ金属、アンモニウムイオン)、アニオン(硫酸イオン)、およびキレート剤が少ないので、めっき後の素体の浸食が小さく、絶縁不良の発生を大幅に低減することができることが確認された。また、めっき液中にアルカリ金属イオンを適量含むことにより、安定性かつ生産性の高いめっき液を提供することができることも判明した。
【産業上の利用可能性】
【0052】
本発明は、サーミスタ、コンデンサ、インダクタ、LTCC(Low Temperature Co-fired Ceramics)、バリスタ、それらの複合部品からなるセラミック電子部品のめっき処理に広く利用することができる。
【符号の説明】
【0053】
1,9…セラミック電子部品、2…素体、3…内部電極、4…積層体(焼結体)、5…下地電極、7…端子電極、7a…Ni層、7b…Sn層、10…単位構造。
【技術分野】
【0001】
本発明は、セラミック電子部品に好適に使用される電気ニッケルめっき液およびこのめっき液を用いた電子部品の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、サーミスタ、コンデンサ、インダクタ、LTCC(Low Temperature Co-fired Ceramics)、バリスタやそれらの複合体からなるセラミック電子部品の製造において、Niの電気めっきが用いられている。例えば、内部電極を備えるセラミック電子部品の表面に、銀、銅等の導電ペーストを塗布して焼成して下地電極を形成した後に、この下地電極表面に選択的に電気バレルめっきでNi層およびSn層からなる端子電極が形成されている。
【0003】
このNi層の電気めっきには、従来から例えばワット浴や塩化物浴が用いられている。ワット浴とは、硫酸ニッケル、塩化ニッケル、ホウ酸を主成分とし、pHが4〜5に調整されためっき液であり、40〜60℃の温度で使用されるものである。塩化物浴とは、塩化ニッケル、ホウ酸を主成分とし、pHが4〜5に調整されためっき液であり、50〜70℃の温度で使用されるものである。
【0004】
従来、バリスタ、サーミスタなどの半導体部品は耐薬品性が乏しく、ワット浴や塩化物浴に代表されるニッケルのめっき液により素体が大きく浸食(エッチング)されてしまうという問題があった。また、LTCC、チップコンデンサなどの誘電体製品でも近年の小型化、高性能化に伴い、素体の耐薬品性が乏しくなり、同様の問題が発生するようになっている。そこで、特許文献1に示すように、めっき液中にキレート剤を添加してpHを例えば4〜9にして素体の浸食を抑制する方法が提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2003−193285号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、特許文献1に記載のめっき液を用いた場合においても、例えばコンデンサ等のセラミック電子部品では、絶縁不良が発生するという問題があった。これは、キレート剤およびめっき液の特定の成分が下地電極のフリット(ガラス成分)を溶解し、めっき液が下地電極を通って内部電極の露出している素体に達して内部電極表面の素体を溶解して、内部電極と素体との間で生ずる熱応力が開放されてクラックが発生することによるものと推定される。また、かかる不都合以外にも、一般に、電気めっきにおける通電時に分解等を生じない安定しためっき液が要求される。
【0007】
そこで、本発明は上記の事情に鑑みてなされたものであり、その目的は、素体の浸食や、絶縁不良の発生を抑制することができ、かつ安定性の高い電気ニッケルめっき液および当該電気ニッケルめっき液を用いた電子部品の製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記の目的を達成するため、本発明の電気ニッケルめっき液は、セラミック電子部品用の電気ニッケルめっき液であって、ニッケルイオンと、0.005mol/L以上0.1mol/L以下の濃度のアルカリ金属イオンとを含み、pHが5よりも大きく7未満であり、アンモニウムまたはアンモニアを含むイオンのイオン濃度が0.2mol/L以下であることを特徴とする。
【0009】
上記構成の本発明では、アルカリ金属のイオン濃度が0.1mol/L以下に抑えられていることから、絶縁不良や素体のエッチングが抑制される。また、詳細な作用機序は未だ不明であるものの、アルカリ金属のイオン濃度が0.005mol/L以上であることにより、通電によるめっき液の分解が良好に抑制されることが確認された。さらに、pHを5よりも大きく7未満に調整することにより、めっき液による素体の劣化を抑制することができる。より具体的には、pHを5よりも大きくすることにより、めっき液による素体のエッチングがさらに抑制され、また、pH7が未満であれば、キレート剤を添加することなくめっき液を構成することができる利点がある。またさらに、アンモニウムまたはアンモニアを含むイオンの濃度を0.2mol/L以下と低く抑えることにより、絶縁不良や素体の浸食が更に一層抑制される。
【0010】
ここで、電気ニッケルめっき液の成分としては、硫酸イオンをできるだけ含まないことが好ましく、その濃度は0.01mol/L以下であることが好ましい。これにより、素体の浸食がさらに抑制される。具体的には、例えば、ニッケルイオンの供給源として硫酸ニッケル以外のものを用いることが好ましく、さらに具体的には、例えば塩化ニッケルが好適に用いられる。
【0011】
また、アンモニア以外のキレート剤をできるだけ含まないことが好ましく、その濃度が0.05mol/L以下であることが好ましい。これにより、下地電極のフリットの溶解が有効に抑制され、めっき後の絶縁不良の発生が低減される。
【0012】
さらに、ニッケルイオンの濃度は0.1mol/L以上、かつ1mol/L以下であることが好ましい。0.1mol/L以上とすれば、めっき電流を大きくすることが可能であり、ニッケルめっきの生産性を向上させることができる。また、1mol/L以下とすれば、本質的に、キレート剤を成分として含まずにpHを5〜7に調製することが平易となる。
【0013】
またさらに、上記の目的を達成するため、本発明によるセラミック電子部品の製造方法は、セラミック素子の下地電極上に電気ニッケルめっきによりニッケル層を形成する工程を備え、前記工程では、ニッケルイオンと、0.005mol/L以上0.1mol/L以下の濃度のアルカリ金属イオンとを含み、pHが5よりも大きく7未満であり、アンモニウムまたはアンモニアを含むイオンのイオン濃度が0.2mol/L以下である電気ニッケルめっき液を用いるものである。
【0014】
殊に、Znを含有するセラミック素体を用いる場合、本発明の効果が顕著である。Znを含む素体は、素体の耐薬品性に乏しいため、従来のめっき液による処理では素体の腐食が不都合な程度に大きくなってしまい、絶縁不良などの不具合が生じ易い場合があるのに対し、本発明によるセラミック電子部品の製造方法を用いることにより、かかる不具合を十分に抑制することができる。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、ニッケルイオンと、所定の濃度のアルカリ金属イオンを含むめっき液を用い、かつ、めっき液中のアンモニウムまたはアンモニアを含むイオンの濃度を所定の濃度以下に抑制することにより、めっき液による素体の腐食や、絶縁不良の発生を抑制し、かつ、安定性の高い電気ニッケルめっき液を提供することができる。そして、このような電気ニッケルめっき液を用いることで、セラミック電子部品の生産性を向上させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】セラミック電子部品の概略構造を示す斜視図である。
【図2】図1のII−II線の断面図である。
【図3】セラミック電子部品の下地電極の外側にめっきにより端子電極が形成された構造を示す概略断面図である。
【図4】めっき液中のNaイオン濃度と絶縁不良との関係を示す図である。
【図5】めっき液中のNaイオン濃度と腐食距離との関係を示す図である。
【図6】クラックの部分から劈開して電極表面をTOFSIMSで解析した結果を示す図である。
【図7】めっき液中のアンモニウムイオン濃度と絶縁不良との関係を示す図である。
【図8】めっき液中のアンモニウムイオン濃度と腐食距離との関係を示す図である。
【図9】めっき液中のキレート剤濃度と絶縁不良との関係を示す図である。
【図10】めっき液中のキレート剤濃度と絶縁不良との関係を示す図である。
【図11】めっき液中の硫酸イオン濃度と腐食距離との関係を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、本発明の実施の形態について、図面を参照して説明する。なお、図面中、同一の要素には同一の符号を付し、重複する説明を省略する。また、上下左右等の位置関係は、特に断らない限り、図面に示す位置関係に基づくものとする。さらに、図面の寸法比率は、図示の比率に限定されるものではない。また、以下の実施の形態は、本発明を説明するための例示であり、本発明をその実施の形態のみに限定する趣旨ではない。さらに、本発明は、その要旨を逸脱しない限り、さまざまな変形が可能である。
【0018】
<セラミック電子部品の例>
図1は、本発明による電気めっき処理の対象となるセラミック電子部品の一例を示す斜視図である。図2は、図1のII−II線における断面図である。
【0019】
セラミック電子部品1は、セラミックスからなる素体2と、素体2内に形成された複数の内部電極3とを含む積層体4を有し、換言すれば、素体2と内部電極3が積層された単位構造10を少なくとも1つ備えたものである。より具体的には、積層体4の一方の側面に露出した端部を有する内部電極3と、積層体4の他方の側面に露出した端部を有する内部電極3とが交互に積層されている。積層体4の両側面には、それらの側面を覆うように下地電極5,5が設けられており、各下地電極5は、積層体4の一方の側面から露出した内部電極3の群、あるいは積層体4の他方の面から露出した内部電極3の群に電気的に接続されている。
【0020】
セラミック電子部品1の素体2はセラミックス、具体的には、半導体セラミックスまたは誘電体セラミックスからなる。半導体セラミックス、および、誘電体セラミックスのいずれの場合にも、素体2にはZnが含まれることがある。半導体セラミックスでは、バリスタ、サーミスタなどの主成分として、また、誘電体では、焼結助剤としてZnが好ましく用いられる。特に後者では、LTCC(部品)の小型化に伴い薄層化が進み、このためにさらに焼結温度の低下が進んでおり、使用例も一段と増加している。
【0021】
内部電極3には、素体2との間での確実なオーミック接触を可能とする観点から、例えば、Ag、Pd、Ni、Cu、またはAlを主成分とする材料が用いられるが、特に材料に限定はない。
【0022】
下地電極5は、例えば、積層体4の側面への導電性ペーストの塗布および焼成により得られる。下地電極5を形成するための導電性ペーストとしては、主として、ガラス粉末(フリット)と、有機ビヒクル(バインダー)と、金属粉末とを含むものが挙げられ、導電性ペーストの焼成により、有機ビヒクルは揮散し、最終的にガラス成分および金属成分を含む下地電極5が形成される。なお、導電性ペーストには、必要に応じて、粘度調整剤、無機結合剤、酸化剤等種々の添加剤を加えてもよい。例えば、下地電極5は、金属成分としてAg、Cu、および、Znを含む。
【0023】
図3に示すように、セラミック電子部品1の下地電極5,5の表面に、さらに、電気めっきにより端子電極7,7が形成される。これらの端子電極7,7と、例えば、配線基板上の電極とがはんだ等により接合される。各端子電極7は、例えば、下地電極5側から積層形成されたNi層7aおよびSn層7bを含む2層構造を有する。Ni層7aは、Sn層7bと下地電極5との接触を防止して、Snによる下地電極5の腐食を防止するバリアメタルとして機能するものであり、その厚さは例えば2μm程度である。また、Sn層7bは、はんだの濡れ性を向上させる機能を有するものであり、その厚さは例えば4μm程度とされる。
【0024】
<めっき液>
本実施形態に係るめっき液は、上述したNi層7aのようなセラミック電子部品の電極の形成に好適に用いられる。以下、本実施形態に係るめっき液について説明する。
【0025】
本実施形態の電気ニッケルめっき液は、ニッケルイオンと、0.005mol/L以上0.1mol/L以下の濃度のアルカリ金属イオンとを含み、pHが5よりも大きく7未満であり、アンモニウムまたはアンモニアを含むイオンのイオン濃度が0.2mol/L以下である。
【0026】
このうち、ニッケルイオンの濃度は0.1mol/L以上、1mol/L以下であることが好ましい。0.1mol/L未満の場合には、めっき時の電流値が過度に低下してしまい、ニッケルめっきの生産性が低下してしまう傾向にある。また、Niイオン濃度を1mol/L以下にすることにより、基本的に、キレート剤を含めることなくpHを5〜7に適度に調整することができる。
【0027】
また、本実施形態では、めっき中の素体の腐食を抑制するために、めっき液のpHが5よりも大きく7未満に調整されている。めっき液のpHは、適宜のpH調整剤を用いて調整することができる。
【0028】
アルカリ金属イオンは、例えば硫酸ナトリウムのような導電性塩、クエン酸ナトリウムのようなキレート剤、水酸化ナトリウムのような適宜のpH調整剤に含まれる。
【0029】
ここで、アルカリ金属イオンの濃度は、好ましくは0.005mol/L以上0.1mol/L以下、さらに好ましくは0.03mol/L以上0.1mol/L以下とされる。このアルカリ金属イオンの濃度が0.005mol/L以上であれば、通電によるめっき液の分解を有効に抑制することができ、また、アルカリ金属のイオンの濃度が0.1mol/L以下であれば、絶縁不良や素体の不都合なエッチングを抑制し易くなる。また、アルカリ金属イオンの濃度が0.03mol/L以上であれば、めっき液の寿命が長くなり、より好ましい。
【0030】
また、アンモニウムまたはアンモニアを含むイオンは、塩化アンモニウムのような導電性塩、クエン酸アンモニウムのようなキレート剤、アンモニア、TMAHのようなpH調整剤に含まれる。
【0031】
アンモニウムまたはアンモニアを含むイオンの濃度を0.2mol/L以下と低くしたのは、絶縁不良や、素体の浸食を抑制するためである。
【0032】
また、めっき液による素体の腐食を小さくするには、めっき液の温度はできるだけ低いことが好ましく、例えば室温で使用される。
【0033】
また、めっき液中には硫酸イオンができるだけ含まれないことが好ましく、その濃度は0.1mol/L以下であることがより好ましい。これにより、素体の浸食がさらに抑制される。例えば、ニッケルイオンの供給源として硫酸ニッケル以外のものを用いることが好ましく、例えば塩化ニッケルが好適に用いられる。
【0034】
さらに、アンモニア以外のキレート剤は、錯イオン生成定数が大きく、セラミックの溶解が多いので、めっき液中にできるだけ含まれないことが好ましく、その濃度が0.05mol/L以下であることがより好ましい。これにより、下地電極のフリットの溶解が抑制され、めっき後の絶縁不良の発生を十分に低減することができる。
【0035】
上述した条件を満たす電気ニッケルめっき液の一例は、塩化ニッケルと、ホウ酸と、水酸化ナトリウムとを含み、pHが5よりも大きく7未満に調整されためっき液が挙げられる。このように、ニッケルイオンの供給源として硫酸ニッケルではなく塩化ニッケルを用いることにより、素体の浸食を抑制し易くなる。また、pH調整剤としてアンモニアや炭酸ニッケルではなく水酸化ナトリウムを用いることにより、通電後の分解のない安定しためっき液を形成し易くできる。このとき、水酸化ナトリウムの添加量の上限値を規定することにより、アルカリ金属のイオンの存在に起因する絶縁不良や素体の浸食がさらに抑制される。また、ホウ酸は、pHの変動を抑制する緩衝剤として有効に作用(機能)する。
【0036】
本実施形態に係るめっき液には、必要に応じて光沢剤や界面活性剤などの公知の添加剤を含んでいてもよく、その場合においても、上述した条件を満たすように添加剤の種類を選択し、またその量を調整することが好ましい。
【0037】
本実施形態に係るめっき方法は、上述した電気ニッケルめっき液で、セラミック電子部品にニッケルを電気めっきするものである。めっき方法として、例えばバレルめっきを用いることができる。必要に応じて空気攪拌、カソード遥動、ポンプなどによるめっき液の流動の方法で攪拌することができる。
【0038】
めっき条件としては、公知の条件を用いることができる。陽極としては、ニッケル金属が通常使用されるが、場合によっては白金めっきをしたチタン板などの不溶性電極も使用できる。浴温度は、特に制限されず、好ましくは10℃〜30℃である。陰極電流密度や、めっき時間等のめっき条件は、要求されるニッケル層の膜厚等に応じて当業者の適宜決定することができる。本実施形態に係るめっき方法によれば、めっき液による素体の腐食や、絶縁不良の発生が抑制される。
【0039】
本実施形態に係るめっき液およびめっき方法は、Znを含有する素体を備えるセラミック電子部品に好ましく用いることができる。Znを含む場合には、素体の耐薬品性が乏しくなることから、本実施形態に係るめっき液の効果が一層顕著になることによる。
【0040】
以下、本発明の実施例について説明するが、本発明はこれら実施例に限定されるものではない。
【0041】
表1に示す実験番号1−32のめっき液を用いてセラミック電子部品に電気めっきを施した際における、めっき初期の液分解の有無、セラミック電子部品(チップ)の腐食距離、めっき後の絶縁不良率を評価した。腐食距離は、めっき後のチップを10個抜き取り(サンプリングし)、SEMの断面観察より素体表面の腐蝕層の厚さを測定した場合の平均値を示す。絶縁不良率は、めっき後のチップを100個抜き取って絶縁抵抗を測定した場合の絶縁不良の割合を示す。以下に、実験番号の順にその結果について考察する。なお、表1において空欄部分は0を示している。
【0042】
【表1】
【0043】
(実験番号1:pH調整剤としてアンモニアを使用)
チタン酸ストロンチウムを主組成とし、ZnOを2%含む素体で作成した1608サイズのコンデンサチップ1000個を、700mLの容量をもつバレルめっき装置を用いてめっきを行った。実験番号1の組成のめっき液(pH調整剤がアンモニア)を用いて、メディアとしてΦ0.5のスチールメディアを120mL添加し、攪拌用にジルコニアのΦ5メディアを90mL添加し、バレルの回転数20rpmで5Aの電流を印加したが、浴電圧が上昇し、カソードからの激しい気泡の発生があり、10分後には大量の沈殿が発生した。沈殿物の組成は水酸化ニッケルNi(OH)2であった。
【0044】
これは、めっき液の過電圧が大きく水素が発生しやすい組成となっており、通電後にカソードから水素が発生し、これによりpHが上昇して水酸化ニッケルNi(OH)2が生成したものと推測される。
【0045】
(実験番号2:pH調整剤として炭酸ニッケルを使用)
次に、実験番号1のpH調整剤を炭酸ニッケルに変更して同様の実験を行なったが(実験番号2)、その結果は実験番号1の場合と同様であった。このように、pH調整剤として炭酸ニッケルを使用した場合にも通電後にめっき液が分解してしまった。
【0046】
(実験番号3−15)
そこで、pH調整剤の一部を水酸化ナトリウムに置き換えて実験を行なった(実験番号2−5)。これらの結果から、アルカリ金属のイオン濃度が0.005mol/L以上であれば通電直後のめっき液の分解は発生しないことが判明した。さらに、pH調整剤として炭酸ニッケルを添加せずに、塩化ナトリウムを添加してアルカリイオン濃度の有効な上限を調べた(実験番号6−15)。その結果、アルカリ金属イオン濃度が高くなるにつれて腐食距離が増加し、0.1mol/Lを超えるとめっき後の絶縁不良が発生することが判明した。Naイオン濃度と絶縁不良および腐蝕距離との関係を、それぞれ図4および図5に示す。Naイオン濃度が0.1mol/Lを超えたところで絶縁不良および腐蝕距離共に増加していることが確認された。
【0047】
また、絶縁不良チップの断面を解析したところ、電極間にクラックが発生していることが確認された。またクラックの部分から劈開した電極表面を飛行時間型二次イオン質量分析装置(TOF−SIMS)で解析した結果を図6に示す。図6には、クラックが発生した部分(Crack area)と、クラックの発生していない部分(Flesh area)における解析結果を上下に併記してある。図6に示す結果から、クラックの原因はめっき液中のナトリウムイオンがめっき中に端子電極の周辺に移動して高アルカリ領域を形成し、この液が下地電極のボイドを通って内部電極が露出している素体面に達し、その結果、素体が溶解されてしまい、内部電極と素体の間に発生している熱応力が解放されてクラックが発生すると推定される。ただし、作用はこれに限定されない。
【0048】
(実験番号16−21)
次に、実験番号6のめっき液に塩化アンモニウムを添加して、アンモニウムイオン濃度と素体の腐食および絶縁不良の関係を調べた(実験番号16−21)。なお、実験番号16のめっき液は、実験番号6のめっき液と同じものである。塩化アンモニウム量の増加とともに絶縁不良および腐蝕距離が増加していることが判明した。アンモニウムイオン濃度と絶縁不良および腐蝕距離との関係を、それぞれ図7および図8に示す。アンモニウムイオン濃度が0.2mol/Lを超えたところで、絶縁不良および腐蝕距離共に増加していることが確認された。
【0049】
(実験番号22−27)
次に、実験番号6のめっき液にキレート剤としてクエン酸アンモニウムを添加して、キレート剤の濃度と素体の腐食および絶縁不良の関係を調べた(実験番号22−27)。なお、実験番号22のめっき液は、実験番号6のめっき液と同じものである。クエン酸アンモニウム量の増加とともに絶縁不良および腐蝕距離が増加していることが理解される。キレートイオン濃度と絶縁不良および腐蝕距離との関係を、それぞれ図9および図10に示す。キレートイオン濃度が0.05moL/Lを超えたところで絶縁不良が増加していることが確認された。
【0050】
(実験番号28−32)
次に、実験番号6のめっき液に硫酸ニッケルを添加して、硫酸イオンと素体の腐食および絶縁不良の関係を調べた(実験番号28〜32)。なお、実験番号28のめっき液は、実験番号6のめっき液と同じものである。ここでは、めっき液中のNiイオン濃度が不変になるように塩化Ni量を調整した。これらの結果より、硫酸Ni量の増加とともに腐蝕距離が増加していることが判明した。硫酸イオン濃度と腐蝕距離の関係を図11に示す。硫酸イオン濃度が0.1mol/Lを超えたところで腐蝕距離が増加していることが確認された。
【0051】
上述した実施例に示すように、めっき液中に含まれる素体および電極のフリット(ガラス成分)の溶解を促進するカチオン(アルカリ金属、アンモニウムイオン)、アニオン(硫酸イオン)、およびキレート剤が少ないので、めっき後の素体の浸食が小さく、絶縁不良の発生を大幅に低減することができることが確認された。また、めっき液中にアルカリ金属イオンを適量含むことにより、安定性かつ生産性の高いめっき液を提供することができることも判明した。
【産業上の利用可能性】
【0052】
本発明は、サーミスタ、コンデンサ、インダクタ、LTCC(Low Temperature Co-fired Ceramics)、バリスタ、それらの複合部品からなるセラミック電子部品のめっき処理に広く利用することができる。
【符号の説明】
【0053】
1,9…セラミック電子部品、2…素体、3…内部電極、4…積層体(焼結体)、5…下地電極、7…端子電極、7a…Ni層、7b…Sn層、10…単位構造。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
セラミック電子部品用の電気ニッケルめっき液であって、
ニッケルイオンと、
0.005mol/L以上0.1mol/L以下の濃度のアルカリ金属イオンとを含み、
pHが5よりも大きく7未満であり、アンモニウムまたはアンモニアを含むイオンのイオン濃度が0.2mol/L以下であることを特徴とする、
電気ニッケルめっき液。
【請求項2】
硫酸イオンの濃度が0.1mol/L以下である、
請求項1に記載の電気ニッケルめっき液。
【請求項3】
アンモニア以外のキレート剤の濃度が0.05mol/L以下である、
請求項1または2に記載の電気ニッケルめっき液。
【請求項4】
セラミック素子の下地電極上に電気ニッケルめっきによりニッケル層を形成する工程を備え、
前記工程では、ニッケルイオンと、0.005mol/L以上0.1mol/L以下の濃度のアルカリ金属イオンとを含み、pHが5よりも大きく7未満であり、アンモニウムまたはアンモニアを含むイオンのイオン濃度が0.2mol/L以下である電気ニッケルめっき液を用いる、
セラミック電子部品の製造方法。
【請求項5】
前記セラミック素体は、Znを含有する、
請求項4に記載のセラミック電子部品の製造方法。
【請求項1】
セラミック電子部品用の電気ニッケルめっき液であって、
ニッケルイオンと、
0.005mol/L以上0.1mol/L以下の濃度のアルカリ金属イオンとを含み、
pHが5よりも大きく7未満であり、アンモニウムまたはアンモニアを含むイオンのイオン濃度が0.2mol/L以下であることを特徴とする、
電気ニッケルめっき液。
【請求項2】
硫酸イオンの濃度が0.1mol/L以下である、
請求項1に記載の電気ニッケルめっき液。
【請求項3】
アンモニア以外のキレート剤の濃度が0.05mol/L以下である、
請求項1または2に記載の電気ニッケルめっき液。
【請求項4】
セラミック素子の下地電極上に電気ニッケルめっきによりニッケル層を形成する工程を備え、
前記工程では、ニッケルイオンと、0.005mol/L以上0.1mol/L以下の濃度のアルカリ金属イオンとを含み、pHが5よりも大きく7未満であり、アンモニウムまたはアンモニアを含むイオンのイオン濃度が0.2mol/L以下である電気ニッケルめっき液を用いる、
セラミック電子部品の製造方法。
【請求項5】
前記セラミック素体は、Znを含有する、
請求項4に記載のセラミック電子部品の製造方法。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【公開番号】特開2010−209427(P2010−209427A)
【公開日】平成22年9月24日(2010.9.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−58341(P2009−58341)
【出願日】平成21年3月11日(2009.3.11)
【出願人】(000003067)TDK株式会社 (7,238)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成22年9月24日(2010.9.24)
【国際特許分類】
【出願日】平成21年3月11日(2009.3.11)
【出願人】(000003067)TDK株式会社 (7,238)
【Fターム(参考)】
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