非線形ラマン散乱光測定装置およびそれを用いた内視鏡装置ならびに顕微鏡装置
【課題】非線形ラマン散乱光測定装置において、被検体を構成する複数種類の分子を分析する際の測定速度を高める。
【解決手段】光走査部10により、ポンプ光Lpと被検体1を分析するための互いに異なる波長を持つ空間的に分離された複数の光成分Sp(k)を有するストークス光Lsとを被検体1上へ走査して、空間的に分離された各光成分Sp(k)それぞれを被検体1の各検出位置R(i,j)へポンプ光Lpと同時に照射する。スペクトル測定部60により、その照射を受けた各検出位置R(i,j)それぞれから各光成分Sp(k)の照射毎に発せられた非線形ラマン散乱光Lc(i,j、k)それぞれのスペクトルを得る。
【解決手段】光走査部10により、ポンプ光Lpと被検体1を分析するための互いに異なる波長を持つ空間的に分離された複数の光成分Sp(k)を有するストークス光Lsとを被検体1上へ走査して、空間的に分離された各光成分Sp(k)それぞれを被検体1の各検出位置R(i,j)へポンプ光Lpと同時に照射する。スペクトル測定部60により、その照射を受けた各検出位置R(i,j)それぞれから各光成分Sp(k)の照射毎に発せられた非線形ラマン散乱光Lc(i,j、k)それぞれのスペクトルを得る。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、被検体から発せられる非線形ラマン散乱光のスペクトルを取得する非線形ラマン散乱光測定装置およびそれを用いた内視鏡装置ならびに顕微鏡装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来より、レーザ光の照射を受けた被検体から発せられる非線形ラマン散乱光を分光して得られたスペクトルを分析するラマン分光法が知られている。被検体から発せられるラマン散乱光は物質固有のものであることから、被検体を構成する分子を分析することができるので、材料評価や新物質創製等に広く活用されている。このラマン分光法には、以下のような方式が知られている。
【0003】
すなわち、ポンプ光とこのポンプ光よりも波長が長いストークス光を被検体へ同時に照射して、この被検体から上記ポンプ光よりも波長が短い非線形ラマン散乱光を発生させる。そして、この非線形ラマン散乱光を分光してスペクトルを得、このスペクトルの示す光強度分布におけるピークの値(極大値)とこのピークの示すラマンシフト量とから被検体を構成する分子を分析する非線形ラマン散乱光測定方式が知られている(特許文献1、2参照)。
【0004】
この非線形ラマン散乱光測定方式によれば、ポンプ光およびストークス光の照射を受けた被検体から発せられる蛍光の波長範囲と非線形ラマン散乱光の波長範囲とが重ならないので、非線形ラマン散乱光に混入するノイズを抑制することができ、より正確に被検体を構成する分子を分析することができる。
【0005】
さらに、この非線形ラマン散乱分光法には、ポンプ光と1つの波長に光強度を持つストークス光とを被検体上の各検出位置に走査させて被検体の面領域を分析するナローバンド走査方式や、ポンプ光と広い波長範囲に亘って光強度を持つストークス光とを被検体上の各検出位置に走査させて被検体の面領域を分析するブロードバンド走査方式が知られている。
【0006】
ブロードバンド走査方式では、ポンプ光とストークス光とを被検体へ照射したときに、それらの波長差に応じた様々な振動数のうなりが同時に生じ、それらのうなりに共鳴した複数種類の分子の共鳴振動を示す複数のピークが非線形ラマン散乱光のスペクトル中に生じる。そのスペクトルを調べることにより、被検体を構成する複数種類の分子を一度に分析することができる。
【0007】
また、ナローバンド走査方式では、ポンプ光とストークス光とを被検体へ照射したときに、それらの波長差に応じた1種類の振動数のうなりが生じ、そのうなりに共鳴した1種類の分子の共鳴振動を示すピークが非線形ラマン散乱光のスペクトル中に生じる。そのスペクトルを調べることにより、被検体を構成する1種類の分子を分析することができる。
【0008】
上記ナローバンド走査方式によれば、ストークス光を高速度で被検体上に走査させてこの被検体を構成する分子のうちの1種類の分子を分析することができる。なお、被検体上へのストークス光の走査速度を大きくするほどこの被検体上へのストークス光の照射光量が小さくなり被検体から発せられる非線形ラマン散乱光のS/Nが低下するので、このS/Nの低下を抑制するためにストークス光の光強度を高めて被検体上へストークス光を走査している。
【0009】
一方、広い波長範囲に亘って光強度を持つストークス光を用いるブロードバンド走査方式は、1つの波長に光強度を持つストークス光を用いるナローバンド走査方式ほど高速度で被検体上を走査させることはできないが、このブロードバンド走査方式は被検体を構成する多種類の分子を一度に分析することができる。
【特許文献1】特開2004−61411号公報
【特許文献2】特表2006−276667号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
ところで、ブロードバンド走査方式のように被検体を構成する複数種類の分子を一度に分析する方式において測定速度を高めたいという要請がある。より具体的には、例えばナローバンド走査方式と同等の走査速度で複数種類の分子を一度に分析したいという要請がある。
【0011】
これに対して、例えば、ナローバンド走査方式の場合と同様に、ブロードバンド走査方式においてもストークス光の走査速度を大きくするとともにこのストークス光の光強度を高めて、ストークス光の照射を受けた被検体から発せられる非線形ラマン散乱光のS/Nの低下を抑制しつつ走査速度を大きくすることが考えられる。
【0012】
しかしながら、ブロードバンド走査方式において、ストークス光の光強度を高めようとすると、このストークス光の光強度が被検体を変質させるほどの光強度となってしまうおそれがある。すなわち、被検体を構成する分子は、所定以上の光強度を持つストークス光の照射を受けると変質してしまうので、ブロードバンド走査方式およびナローバンド走査方式のいずれにおいても、ストークス光の光強度は被検体を変質させない光強度とする必要がある。
【0013】
このように、複数種類の分子を一度に分析することができるブロードバンド走査方式において、走査速度を大きくするためにストークス光の光強度を高めようとすると、このストークス光の照射を受けた被検体が変質してしまうという問題がある。
【0014】
なお、特定の1つの波長に光強度を持つナロードバンド走査方式におけるストークス光の光強度と広い波長範囲に亘って光強度を持つブロードバンド走査方式におけるストークス光の光強度とを同等の光強度にした場合に、特定の1つの波長における光強度については、ナロードバンド走査方式におけるストークス光の光強度よりもブロードバンド走査方式におけるストークス光の光強度の方が低くなる。そのため、ブロードバンド走査方式においては、特定の1つの波長の照射を受けて発せられる非線形ラマン散乱光のS/Nが低下するので、ストークス光の走査速度を遅くして被検体の各測定位置に照射されるストークス光の総光量を増大させている。これにより、ブロードバンド走査方式において、ストークス光の特定の1つの波長の照射を受けて被検体の各測定位置から発せられる非線形ラマン散乱光の総光量を増大させ、この非線形ラマン散乱光を検出することによって上記特定の1つの波長に対応して発せられる非線形ラマン散乱光を示す信号のS/Nを高めている。
【0015】
本発明は、上記事情に鑑みてなされたものであり、被検体を構成する複数種類の分子を分析する際の測定速度を高めることができる非線形ラマン散乱分光装置およびそれを用いた内視鏡装置ならびに顕微鏡装置を提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0016】
本発明の非線形ラマン散乱光測定装置は、ポンプ光とこのポンプ光よりも波長が長いストークス光とを被検体上の同一領域に同時に照射しつつ、ストークス光を被検体に対して相対的に走査させる光走査手段と、前記照射を受けた被検体から発せられる非線形ラマン散乱光のスペクトルを取得するスペクトル取得手段とを備えた非線形ラマン散乱光測定装置であって、ストークス光が、被検体に含まれる複数種類の分子を分析するための互いに異なる波長を持つ空間的に分離された複数の光成分を有するものであり、光走査手段が、被検体上の非線形ラマン散乱光を発生させる対象とする各検出位置に対し、分離された複数の光成分それぞれを照射するように前記走査を行なうものであり、スペクトル取得手段が、前記走査により各光成分の照射を受けた各検出位置それぞれから各光成分の照射毎に発せられる非線形ラマン散乱光それぞれのスペクトルを得るものであることを特徴とするものである。
【0017】
前記複数の光成分は、1方向へ分離されたものとすることが望ましく、前記1方向へ波長順に分離されたものとすることがより望ましい。
【0018】
前記光走査手段は、ストークス光を前記1方向へ走査するものとすることが望ましい。
【0019】
前記複数の光成分は、広波長帯域からなる光を分光してなるものとすることができる。
【0020】
前記光走査手段は、被検体上のポンプ光の照射を受ける領域と被検体上のストークス光の照射を受ける領域とを一致させるように、前記ポンプ光とストークス光とを照射するものとすることが望ましい。
【0021】
前記ストークス光は、直線状の断面を有する光束からなるものとすることが望ましい。
【0022】
前記非線形ラマン散乱光測定装置は、スペクトル取得手段により得られた、被検体上の各検出位置毎の、各光成分の照射を受けて発せられた非線形ラマン散乱光それぞれのスペクトルを合成するスペクトル合成手段を備えたものとすることができる。
【0023】
本発明の内視鏡装置は、前記非線形ラマン散乱光測定装置を備えたことを特徴とするものである。
【0024】
本発明の顕微鏡装置は、前記非線形ラマン散乱光測定装置を備えたことを特徴とするものである。
【0025】
前記光走査手段は、位置が固定された被検体に対して、ストークス光を移動させて走査を行なうものとしたり、または、照射位置が固定されたストークス光に対して、被検体を移動させて走査を行なうものとしたり、あるいは、被検体とストークス光とを両方共に移動させて走査を行なうものとしたりすることができる。
【0026】
前記ポンプ光およびストークス光は、1つの光源から発せられた光から生成されたものとしてもよいし、それぞれが個別に用意された複数の光源から発せられた各光から生成されたものとしてもよい。
【発明の効果】
【0027】
本発明の非線形ラマン散乱光測定装置およびそれを用いた内視鏡装置ならびに顕微鏡装置によれば、ストークス光を、被検体に含まれる複数種類の分子を分析するための互いに異なる波長を持つ空間的に分離された複数の光成分を有するものとし、光走査手段を、被検体上の非線形ラマン散乱光を発生させる対象とする各検出位置に対し、分離された複数の光成分それぞれを互に異なるタイミングで照射するように走査を行なうものとし、スペクトル取得手段を、前記走査により各光成分の照射を受けた各検出位置それぞれから前記各光成分の照射毎に発せられる非線形ラマン散乱光それぞれのスペクトルを得るようにしたので、被検体を構成する複数種類の分子を分析する際の測定速度を高めることができる。
【0028】
すなわち、上記互いに異なる波長を持つ空間的に分離された複数の光成分それぞれは個別のストークス光とみなすことができ、この個別ストークス光それぞれを互に異なるタイミングで被検体上の各検出位置それぞれへ照射するようにしたので、例えばその複数の光成分の全体を1つの検出位置に集光させたときにこの検出位置に照射される光強度が被検体を変質さる光強度を超えていたとしても、空間的に分離された各光成分それぞれの照射を受ける各検出位置における光強度を被検体を変質させない光強度とすることができる。
【0029】
例えば、従来のブロードバンド走査方式では、互いに異なる波長を持つ複数の光成分からなるストークス光を1つの検出位置に照射するので、各光成分の光強度を高めようとするとこの1つの検出位置に照射されるストークス光の光強度が被検体を変質させる光強度に達してしまう。一方、本発明では、互いに異なる波長を持つ複数の光成分を空間的に分離させて互いに異なる検出位置へ照射するようにしたので、各検出位置に照射される各光成分それぞれについて光強度を被検体を変質させない範囲内で高めることができる。そして、そのように光強度を高めた複数の光成分からなるストークス光は、各光成分を集光して1つの検出位置に照射したときには被検体を変質させてしまう光強度であったとしても、各検出位置に照射される各光成分の光強度については、各光成分が空間的に分離れているため、被検体を変質させない光強度とすることができる。
【0030】
したがって、各光成分からなるストークス光の走査速度を大きくしたときに生じる、このストークス光の照射を受けた被検体から発せられる非線形ラマン散乱光のS/Nの低下を、各光成分の光強度を高めることにより抑制することができる。
【0031】
上記のことにより、被検体を変質させない範囲内で各光成分の光強度を大きくするとともに、このストークス光の照射を受けた被検体から発せられる非線形ラマン散乱光を正しく検出可能な範囲内でストークス光の走査速度を大きくすれば、被検体を変質させたり、あるいは品質の低下した非線形ラマン散乱光を被検体から発生させたりすることなく、ストークス光の光強度と走査速度とを両方共に大きくして非線形ラマン散乱光のスペクトルの測定を適切に行うことができる。これにより、被検体を構成する複数種類の分子を分析する際の測定速度を高めることができる。
【0032】
また、複数の光成分を1方向へ分離されたものとすれば、光走査手段の走査による各検出位置への各光成分の照射をより容易に行うことができる。
【0033】
また、複数の光成分を前記1方向へ波長順に分離されたものとすれば、例えば、短波長から長波長の順、あるいは長波長から短波長の順に並ぶように分離されたものとすれば、各光成分の照射を受けた被検体から発せられる非線形ラマン散乱光それぞれのスペクトルの測定をより容易に行うことができる。
【0034】
なお、光走査手段を、ストークス光を前記1方向へ走査するものとすれば、各検出位置への各光成分の照射をより容易に行うことができる
【0035】
また、複数の光成分を、広波長帯域からなる光を分光して生成したものとすれば、すなわち、広波長帯域からなる光を分光してスペクトル成分に分離したものとすれば、より容易に複数の光成分を生成することができる。
【0036】
さらに、光走査手段を、被検体上のポンプ光の照射を受ける領域と被検体上のストークス光の照射を受ける領域とを一致させるように前記ポンプ光とストークス光とを照射するものとすれば、被検体から発せられる非線形ラマン散乱光に含まれるノイズ成分を低減することができ、非線形ラマン散乱光のS/Nを高めることができる。
【0037】
なお、ストークス光を、直線状の断面を有する光束からなるものとすれば、より確実に各検出位置への走査を行なうことができる。
【0038】
さらに、前記非線形ラマン散乱光測定装置を、スペクトル取得手段により得られた、被検体上の各検出位置毎の、各光成分の照射を受けて発せられた非線形ラマン散乱光それぞれのスペクトルを合成してなる合成スペクトルを得るスペクトル合成手段を備えたものとすれば、被検体を構成する複数種類の分子をより確実に分析することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0039】
以下、本発明の実施の形態について、図面を用いて説明する。図1は本発明の非線形ラマン散乱光測定用顕微鏡装置を示すブロック図、図2はCARS光の発生過程のエネルギー準位を示す図である。
<非線形ラマン散乱光に関する説明>
【0040】
初めに、非線形ラマン散乱光の1例であるCARS光(コヒーレントアンチストークスラマン散乱光)について説明する。定性的なCARS光の発生原理は以下のように説明される。
【0041】
測定対象の分子が存在している領域に、振動数の異なる2つの光、振動数ω1の光と振動数ω2の光を入射させると(ω1>ω2とする)、振動数ω1−ω2のうなりが生じる。このうなりの振動数が測定対象の分子の固有振動数Ωと一致しているとき、分子は共鳴振動を起こす。共鳴振動が起こっている状態で、さらに振動数ω3の光を入射させると、分子の共鳴振動と振動数ω3の光との相互作用により、CARS光が発生する。
【0042】
図2を参照しながら、エネルギー準位の観点から上記のCARS光の発生過程を辿る。光を入射させる前の分子は、図2で示すエネルギー準位がE1の初期状態にある。ここに振動数ω1の光と振動数ω2の光を入射させると、分子のエネルギー準位は、振動数ω1の光により励起されて仮想的なエネルギー準位E3まで上がり、振動数ω2の光に対応する仮想的な光子放出によりE3からE2に下がると考えられる。この振動数の差ω1−ω2が分子の固有振動数Ωと一致したとき、分子は共鳴振動を起こしてエネルギー準位がE2の励起状態となる。ここにさらに振動数ω3の光を入射させると、分子のエネルギー準位はE2から仮想的なエネルギー準位E4に上昇し、CARS光が発生することにより分子のエネルギー準位はE4からE1に下がることになる。
【0043】
上記のような3つの励起光、すなわち振動数ω1、ω2、ω3の光の入射により、いわゆる四光波混合過程が生じ、結果として振動数ωas=ω1−ω2+ω3のCARS光が発生する。上記の過程は、振動数ω3の光の代わりに振動数ω1の光を用いて起こすことも可能である。この場合は振動数の異なる2種類の励起光でCARS光を発生でき、このときのCARS光の振動数ωasはωas=2ω1−ω2となる。励起光を2種類にした方が装置構成を簡易化できるため、本発明の非線形ラマン散乱光測定用顕微鏡装置100も、振動数の異なる2つの励起光でCARS光を発生させる構成を採っている。なお、一般に、振動数ω1の光はポンプ光、振動数ω2の光はストークス光と呼ばれている。
【0044】
CARS光は、ω1−ω2が測定対象の分子の固有振動数Ωと一致したときに強く現れる光である。分子の固有振動数Ωは、分子の種類やその構造によって異なるため、CARS光の観測により、非破壊的に測定対象の分子の同定を行うことができる。例えば、ポンプ光の振動数ω1を固定したまま、ストークス光の振動数ω2を掃引して観測することにより、分子の固有振動スペクトルを観察することができ、これにより分子の同定が可能になる。あるいは、検出したい分子の固有振動数Ωが既知の場合は、ω1−ω2=Ωを満たすようにポンプ光、ストークス光の振動数を設定して観測することにより、目的を達成することができる。
【0045】
CARS光の発生する過程は非線形光学過程であり、基本的には2つの励起光の位相が一致した光強度の高い状態で発生する。また、空間的にもCARS光は、ポンプ光とストークス光が強く集光された部分からのみ発生するため、CARS光による測定は、基本的に高い三次元空間分解能を実現することができる。観測されるCARS光の光強度Iasは、下式(1)に示すように、ポンプ光の光強度Ipの二乗とストークス光の光強度Isの積に比例する。
【0046】
Ias ∝ Ip2・Is (1)
【0047】
2種類の励起光でCARS光を発生させる場合は、CARS光の振動数ωas、ポンプ光の振動数ω1、分子の固有振動数Ωは、ωas=ω1+Ωの関係にあるため、CARS光の波長は励起光であるポンプ光の波長より短くなる。これに対して、自家蛍光の波長や、線形光学現象である自発ラマン散乱により生じるストークス散乱光の波長は、励起光の波長より長い。ストークス散乱光を検出する場合、ストークス散乱光と自家蛍光は重畳してしまい分離しにくいのに対して、CARS光は、自家蛍光およびストークス散乱光との分離が容易であり、検出しやすいという利点がある。また、CARS光による測定は、自発ラマン散乱を用いた場合よりも強い信号強度が得られるため、自発ラマン散乱を用いた場合よりも高いスループットを実現することができる。
<非線形ラマン散乱光測定用顕微鏡装置に関する説明>
【0048】
以下、非線形ラマン散乱光測定装置を備えた顕微鏡装置について説明する。
【0049】
図3はポンプ光とストークス光の照射を同時に受けて被検体からCARS光が発生する様子を拡大して示す図、図4は直線状の断面を有する光束からなるポンプ光を生成する様子を示す図、図5は直線状の断面を有する光束からなるストークス光を生成する様子を示す図、図6Aは直線状の断面を有する光束が分光されることなく結像される様子を示す図、図6Bは直線状の断面を有する光束が分光されて結像される様子を示す図、図7はストークス光の各光成分の照射を受けて発せられたCARS光それぞれのスペクトル強度分布を合成して合成スペクトルを得る様子を示す図である。
【0050】
図1に示す本発明の実施の形態の非線形ラマン散乱光測定装置を備えた顕微鏡装置の1例である非線形ラマン散乱光測定用顕微鏡装置100は、生体組織の細胞である被検体1を構成する分子を分析するための測定を行うものである。
【0051】
この非線形ラマン散乱光測定用顕微鏡装置100は、ポンプ光Lpと、このポンプ光Lpよりも波長が長いストークス光Lsとを被検体1の同一領域に同時に照射しつつ、被検体1に対してストークス光Lsを相対的に走査させるための光走査部10と、上記ポンプ光Lpとストークス光Lsの照射を受けた被検体1から発せられる非線形ラマン散乱光のスペクトルを測定するためのスペクトル取得手段であるスペクトル測定部60とを備えている。
【0052】
ポンプ光Lpは、図3、4に示すように、直線状の断面を有する光束からなるものであって、単一波長の光からなるものである。
【0053】
ストークス光Lsは、図3、5に示すように、直線状の断面を有する光束からなるものであって、被検体1に含まれる複数種類の分子を分析するための互いに異なる波長を持つ空間的に分離された複数の光成分からなるものであり、上記直線状の断面の延びる方向(図3中矢印X方向)に沿って空間的に分離された上記複数の光成分であるスペクトル成分Sp(k):k=1〜5〔以後、単にスペクトル成分Sp(k)、あるいはスペクトル成分Spともいう〕を有するものである。
【0054】
光走査部10は、図3に示すように、被検体1上の非線形ラマン散乱光を発生させる対象とする各検出位置R(i、j):i=1〜m、j=1〜n〔以後、単に検出位置R(i、j)、あるいは検出位置Rともいう〕それぞれに対し、複数のスペクトル成分Sp(k)それぞれを互に異なるタイミングで照射するように走査を行なうものである。
【0055】
なお、上記図3は、検出位置R(1、1)にスペクトル成分Sp(2)が照射されるとともに、検出位置R(1、2)にスペクトル成分Sp(1)が照射された状態を示している。
【0056】
上記ストークス光Lsを構成する複数のスペクトル成分Sp(k)は、後述する広波長帯域の光Lswを分光して、この広波長帯域の光Lswの各スペクトル成分を空間的に1方向へ分離させてなるものである。
【0057】
また、測定部60は、図1、図3に示すように、光走査部10による走査によって各スペクトル成分Sp(k)の照射を受けた各検出位置R(i、j)それぞれから、各スペクトル成分Sp(k)の照射毎に発せられる非線形ラマン散乱光であるCARS光Lc(i、j、k):i=1〜m、j=1〜n、k=1〜5〔以後、単にCARS光Lc(i、j、k)、あるいはCARS光Lcともいう〕それぞれのスペクトルを得るものである。
【0058】
上記光走査部10は、被検体1に対してストークス光Lsを相対的に走査させる場合に、被検体1上のポンプ光Lpの照射を受ける直線状の領域とストークス光Lsの照射を受ける直線状の領域とを一致させた状態で、ポンプ光Lpとストークス光Lsとを直線状の領域の延びる1方向へ走査させる。しかしながら、このような場合に限らず、例えば、被検体1上のポンプ光Lpの照射を受ける領域を、ストークス光Lsの照射を受ける領域を含む広範囲な領域として、ストークス光Lsを走査するときのストークス光Lsの移動量よりもポンプ光Lpを走査するときのポンプ光Lpの移動量の方を小さくするようにしてもよい。
【0059】
上記光走査部10は、直線状に延びる断面を有する光束からなるストークス光Lsを、被検体1上の直線状に延びる領域へ照射しつつ、この直線状の領域の延びる方向(図3中矢印X方向)に沿って(すなわち主走査方向へ)被検体1上を主走査させるとともに、このストークス光Lsを上記直線状の領域の延びる方向と直交する方向(図3中矢印Y方向)に沿って(すなわち副走査方向へ)に副走査させる。
【0060】
より具体的には、図3に示すように、光走査部10は、ストークス光Lsを図中矢印X方向に主走査させて、例えば検出位置R(1、1)、R(1、2)・・・R(1、n)へこの順に、直線状に並ぶストークス光Lsの各スペクトル成分Sp(1)〜Sp(5)それぞれを照射する。1行目の各検出位置R(1、1)〜R(1、n)へのストークス光Lsの各スペクトル成分Sp(1)〜Sp(5)それぞれの走査が終了したら、このストークス光Lsを副走査方向に副走査させて、次の行(2行目)の主走査を行なう。すなわち、各検出位置R(2、1)〜R(2、n)へこの順に、ストークス光Lsの各スペクトル成分Sp(1)〜Sp(5)それぞれを照射する。このような、ストークス光Lsの主走査および副走査を繰り返して、各検出位置R(1、1)〜R(m、n)へ各スペクトル成分Sp(1)〜Sp(5)それぞれを照射する。
【0061】
ここでは、各検出位置R(i、j)が、波長順に、すなわち波長の長い順であるスペクトル成分Sp(1)、Sp(2)、Sp(3)、Sp(4)、Sp(5)の順にこれらのスペクトル成分Sp(k)の照射を受けるようにストークス光Lsを走査する。しかしながら、このような場合に限らず、各検出位置R(i、j)に対して各スペクトル成分Sp(k)それぞれを照射する順番は波長順でなくともどのような順番であってもよい、
【0062】
上記光走査部10は、ポンプ光Lpおよびストークス光Lsを生成するための超短パルス光であるレーザ光Leを発する光源である光源部20と、この超短パルス光からポンプ光Lpを生成し射出するポンプ光照射部30と、その超短パルス光からストークス光Lsを生成し射出するストークス光照射部40と、ポンプ光Lpとストークス光Lsを合波させた合波ラインパルス光Lgを被検体1上の同一領域に同時に照射しつつ走査させる合波走査部50とを備えている。
【0063】
合波走査部50は、直線状の断面を有する光束からなるポンプ光Lpと直線状の断面を有する光束からなるストークス光Lsとを被検体1上の同一領域に同時に照射しつつ走査させるためのものであり、ポンプ光Lpとストークス光Lsとを伝播光路を一致させるとともに両者の光束の断面の位置を一致させるように合波させた合波ラインパルス光Lgを走査させるものである。
【0064】
上記のように合波ラインパルス光Lgは、ポンプ光Lpとストークス光Lsとを合波させたものであり、ストークス光Lsは互いに異なる波長を持つ空間的に分離された複数の光成分であるスペクトル成分Sp(k)を有するものである(図3参照)。
【0065】
光源部20は、高ピークパワーの超短パルス光を射出するレーザ21と、レーザ21から射出された超短パルス光であるレーザ光Leを2方向に分岐させて、ポンプ光照射部30とストークス光照射部40の両方に入射させるためのビームスプリッタ22とを有している。
【0066】
レーザ21は、超短パルス光を発生するレーザである。より詳しくは数十fs(フェムト秒)〜数十ps(ピコ秒)の時間範囲でパルス光を発生するレーザである。このレーザ21としては、例えば、波長800nm、パルス幅100fs、繰り返し周波数80MHz、ピークパワー1250KW、平均パワー10Wのチタンサファイアレーザを用いることができる。
【0067】
ポンプ光照射部30は、光路の伝播方向に沿って、光路折り曲げ用のミラー31、光路折り曲げ用のミラー32、光遅延部35、光路折り曲げ用のミラー33、バンドパスフィルタ36、光減衰器37、ライン光生成部38をこの順に有している。
【0068】
光路折り曲げ用のミラー31は、ビームスプリッタ22で分岐されたレーザ光Leである超短パルス光を光遅延部35に導くものである。
【0069】
光遅延部35は、ポンプ光Lpとストークス光Lsとを被検体1に照射するタイミングを調節するものである。ポンプ光Lpおよびストークス光Lsは、超短パルス光であるため、異なる光路を通ると被検体1を照射するタイミングがずれる。そのため、ポンプ光Lpおよびストークス光Lsのいずれか一方の光路に光遅延部35を設けて、ポンプ光Lpおよびストークス光Lsが同時に被検体1へ照射されるように照射タイミングを調節する。
【0070】
ディレイラインであるこの光遅延部35は、互いに直交する2つの反射面を有するミラーからなり、このミラーを図1中の両矢印Hの示す方向へ移動させることにより、ミラー31〜光遅延部35〜ミラー33の間の光路長を変化させて、長短パルス光であるポンプ光Lpの伝播時間が調節されるように構成されている。なお、光遅延部35は、ポンプ光Lpとストークス光Lsとが被検体1へ同時に照射されるように調節できるものであれば上記構成に限定されず、別の構成を採用してもよく、また、ストークス光照射部40におけるストークス光Lsの光路に光遅延部35を設けてもよい。
【0071】
バンドパスフィルタ36は、光遅延部35を通った上記超短パルス光を透過させて波長幅を狭めるものであり、バンドパスフィルタ36を透過させることにより波長幅を例えば2nmとすることができる。
【0072】
光減衰器37は、バンドパスフィルタ36を通った超短パルス光の光強度を減衰させるものである。
【0073】
ライン光生成部38は、図4に示すように、光減衰器37を通った超短パルス光であるレーザ光Leを、シリンドリカルレンズ等を含む光学系に通して1方向(図中矢印Ha方向)に延びる直線状の断面を有する平行光束とするものである。
【0074】
このように、レーザ21から射出された超短パルス光を、上記光遅延部35、バンドパスフィルタ36、光減衰器37、ライン光生成部38等に通して直線状の断面を有する平行光束からなるポンプ光Lpが生成される。
【0075】
ストークス光照射部40は、レーザ21から射出されビームスプリッタ22で分岐されたレーザ光Leである超短パルス光の波長帯域を広波長帯域化して射出する帯域拡張部43と、帯域拡張部43から射出された広波長帯域化された超短パルス光の波長範囲における長波長側のみを透過させるロングパスフィルタ45ととを備えている。
【0076】
帯域拡張部43としては、上記レーザ21であるチタンサファイアレーザから射出されたレーザ光Leである波長800nmの光を、波長500〜1500nmの広波長帯域光に変換するPCF(Photonic Crystal Fiber:フォトニック結晶ファイバ)を採用することができる。なお、帯域拡張部43として、上記PCFと同様の機能を有するもの、例えば非線形ファイバ等を用いてもよい。
【0077】
ロングパスフィルタ45は、帯域拡張部43から射出された波長500〜1500nmの広波長帯域化された光を入射させ波長810nmより長波長側の光のみを透過させる。
【0078】
上記レーザ21から射出された超短パルス光を、帯域拡張部43、ロングパスフィルタ45に通して超短パルス光である広波長帯域の光Lswが生成される。
【0079】
このストークス光照射部40は、さらに、光成分分光部と光路を折り曲げるためのミラー49Mとを備えている。
【0080】
光成分分光部46は、図5に示すように、上記ロングパスフィルタ45を通った超短パルス光である広波長帯域の光Lswを、例えばプリズム46Pに通して複数のスペクトル成分Sp(1)〜Sp(5)に分離するように分光する。さらに、この光成分分光部46は、複数のスペクトル成分Sp(1)〜Sp(5)に分離された直線状の断面を有する光束を、レンズ46Lに通して平行光束にするものである。このように、光成分分光部46を通して、波長順に1方向(図中矢印Hb方向)へ並ぶように分光され空間的に分離された複数のスペクトル成分Sp(1)〜Sp(5)からなる平行光束であるストークス光Lsが光成分分光部46から射出される。上記広波長帯域の光Lswの分光には、回折格子等を用いることもできる。
【0081】
光成分分光部46を通して生成されたストークス光Lsは、光路を折り曲げるためのミラー49Mを通ってストークス光照射部40から射出される。
【0082】
合波走査部50は、ストークス光照射部40から射出されたストークス光Lsとポンプ光照射部30から射出されたポンプ光Lpとを合波させるビームスプリッタ51と、この合波された直線状の断面を有する合波ラインパルス光Lgの断面形状を成形するための直線状の開口(スリット)を有するスリット板55と、スリット板55を通った合波ラインパルス光Lgを被検体1上に2次元走査させるための第1のガルバノミラー52および第2のガルバノミラー53と、合波ラインパルス光Lgを被検体1上に結像させる対物レンズ54とを備えている。ここで、対物レンズ54は、スリット板55のスリットの像を被検体1上に結像させる。
【0083】
なお、合波ラインパルス光Lgも超短パルス光であって、ストークス光Lsとポンプ光Lpとが被検体1上の同一位置へ同時に照射されるように合波されたものである。
【0084】
対物レンズ54は、上記直線状の断面を有する合波ラインパルス光Lgを、被検体1中の微小な直線状の領域に集光させる。ここでは対物レンズ54として、高NA(NA:Numerical Aperture:開口数)のものを用いている。この対物レンズ54には、例えば、倍率60倍、NA1.2のものを用いることができ、この場合には被検体1上に結像させるスリットの像の短手方向の幅、すなわち、被検体1上に照射される直線状の断面を有する合波ラインパルス光Lgの光束の短手方向における幅をサブミクロンオーダーにまで縮小することができる。
【0085】
このようにして、高密度に集光させた合波ラインパルス光Lgを被検体1上に2次元走査させることができる。
【0086】
なお、合波ラインパルス光Lgを走査させる走査系は、ガルバノミラーに限らず、例えばガルバノミラーとポリゴンミラーとを組み合わせて2次元走査させたり、被検体1を1方向である副走査方向に移動させつつ合波ラインパルス光Lgを1方向と直交する主走査方向に移動させて2次元走査させたりするものを採用できる。さらに、合波ラインパルス光Lgの照射位置を固定しておき、被検体1を2次元状に移動させてこの被検体1上に合波ラインパルス光Lgが2次元走査されるようにする方式を採用することもできる。
【0087】
合波ラインパルス光Lgが照射される被検体1上の直線状の領域は、複数の検出位置を含むものであり、ここでは、各検出位置はマトリクス状に縦横に並んで配置されているものとする。
【0088】
なお、光走査部10によって合波ラインパルス光Lgを被検体1上に走査しつつ、スペクトル測定部60が、被検体1から発せられたCARS光Lc(非線形ラマン散乱光)のスペクトルを取得する動作等は、制御手段であるコントローラ90によって制御される。
【0089】
次に、スペクトル取得部60について説明する。
【0090】
スペクトル取得部60は、合波ラインパルス光Lgの走査によりストークス光Lsの各スペクトル成分Sp(k)の照射を受けた被検体1中の各検出位置R(i、j)それぞれから発せられた非線形ラマン散乱光である各CARS光Lc(i、j、k)を取得する。
【0091】
このスペクトル取得部60は以下のように構成されている。すなわち、下方(図1、図3中の矢印−Z方向)からの合波ラインパルス光Lgの照射を受けた被検体1上の直線状の領域から発せられたCARS光Lcの前方散乱光を、後述の2次元受光素子66上に結像させるための対物レンズ61と、対物レンズ61を通して入射したポンプ光Lpを遮断するためのカットフィルタ62と、ポンプ光Lpの波長よりも短波長側に生じるCARS光Lcを選択的に透過させるためのショートパスフィルタ63と、ショートパスフィルタ63を通ったCARS光Lcの光路を折り曲げるためのミラー64と、CARS光Lcを分光する分光器65と、分光されたCARS光Lcの光強度を検出するための2次元受光素子66が、スペクトル取得部60に備えられている。
【0092】
上記前方散乱光は、下方(図中矢印−Z方向)からの合波ラインパルス光Lgの照射を受けた被検体1から上方(図中矢印+Z方向)へ向けて発せられるCARS光Lcである。
【0093】
ここでは、被検体1を間に挟んで合波走査部50を構成する対物レンズ54とスペクトル取得部60を構成する対物レンズ61とが対向配置されている。また、対物レンズ61は、例えば、合波走査部50を構成する対物レンズ54と同じ仕様のものを用いることができる。
【0094】
なお、ショートパスフィルタ63が、ストークス光Lsおよび被検体1から発せられた自家蛍光等を遮断する。
【0095】
さらに、分光器65がショートパスフィルタ63を通ってミラー64で光路が折り曲げられたCARS光Lcを分光し、2次元受光素子66がこの分光器65で分光されたCARS光Lcのスペクトルを検出する。
【0096】
分光器65としては、回折格子やプリズム等を用いることができる。また、2次元受光素子66としては、高感度CCD素子やCMOS素子等を採用することができる。
【0097】
なお、図6Aに示すように、対物レンズ61を通してCARS光Lcを2次元受光素子66上に伝播させる光路から分光器65を除いた場合の、2次元受光素子66上におけるCARS光Lcの受光領域は直線状となる。すなわち、合波ラインパルス光Lgの照射を受けた被検体1上の直線状の領域から発せられたCARS光Lcの前方散乱光は、2次元受光素子66上の行方向(図6A中矢印Ge方向)に延びる直線状の領域に結像される。
【0098】
一方、図6Bに示すように、CARS光Lcを2次元受光素子66に伝播させる光路に分光器65が挿入された場合の、2次元受光素子66上におけるCARS光Lcの受光領域は長方形状の領域となる。すなわち、対物レンズ61を通して2次元受光素子66上へ直線状に結像されるように伝播するCARS光Lcの光束が、この分光器65の作用により、2次元受光素子66上の列方向(図6B中矢印Re方向)に分光されてこの2次元受光素子66へ入射する。なお、上記2次元受光素子66上の行方向と列方向とは直交する。
【0099】
したがって、2次元受光素子66上の行方向が、合波ラインパルス光Lgの照射を受ける被検体1上の直線状の領域の延びる方向(図3中矢印X方向)に対応している。また、2次元受光素子66上の列方向が、各検出位置から発せられたCARS光Lcのスペクトルが分離される方向に対応している。
【0100】
さらに、合波ラインパルス光Lgの照射を受ける被検体1上の直線状の領域の位置が上記直線の延びる方向(図1中矢印X方向)と直交する副走査方向(図1中矢印Y方向)に移動したときには、2次元受光素子66上における分光されたCARS光全体の長方形状の受光領域がこの2次元受光素子66上を図6B中の矢印Re方向へ移動するので、それにより、被検体1上の合波ラインパルス光Lgの照射領域の副走査方向への移動も検出することができる。
【0101】
このようにして、分光されたCARS光Lcを2次元受光素子66で受光することにより、ストークス光Lsの各スペクトル成分Sp(1)〜Sp(5)が照射される被検体1上の検出位置と、各スペクトル成分Sp(1)〜Sp(5)の照射を受けた被検体1上の検出位置から発せられたCARS光Lc(i、j、k)それぞれのスペクトルの強度分布とを対応付けて検出することができる。
【0102】
分析部71は、CARS光Lcのスペクトルから被検体1中の各検出位置に存在する分子を分析するものである。
【0103】
この分析部71は、2次元受光素子66から出力された各CARS光Lc(i、j、k)のスペクトル強度分布を示す各スペクトル信号Sg(i、j、k):i=1〜m、j=1〜n、k=1〜5〔以後、単にスペクトル信号Sg(i、j、k)、あるいはスペクトル信号Sgともいう〕を、非線形ラマン分光法に基づいて信号処理して被検体1を構成する分子を分析し、被検体1の内部構造の情報を取得するものである。
【0104】
なお、分析部71の有するスペクトル合成部71Aは、図7に示すように、スペクトル取得部60により得られた、被検体1上の各検出位置R(i、j)毎の、ストークス光Lcのスペクトル成分Sp(1)〜Sp(5)それぞれの照射を受けて発せられたCARS光Lc(i、j、1)〜Lc(i、j、5)のスペクトル強度分布を示すスペクトル信号Sg(i、j、1)〜Sg(i、j、5)を合成してなる、合成スペクトルを示す合成スペクトル信号SSg〔ここで、SSg(i、j)=Sg(i、j、1)+Sg(i、j、2)+・・・Sg(i、j、5)〕を得るものである。
【0105】
分析部71としては、例えばパーソナルコンピュータ等のコンピュータシステムを用いることができる。なお、被検体1の内部構造とは、細胞を構成する各成分(例えばタンパク質や脂質、無機質等)の分布や各成分の割合等を意味する。さらに、分子の種類に依存する官能基、あるいは分子の立体構造に応じて発現される機能等に関する情報も得ることができる。
【0106】
表示部72は、分析部71で得られた分析結果を表示するものであり、例えば液晶モニタ装置等により構成できる。被検体1中の各検出位置に存在する分子を分析した結果が表示部72に表示される。
【0107】
なお、上記非線形ラマン散乱光測定用顕微鏡装置100に関する全体の動作やそのタイミング等はコントローラ90によって制御される。
【0108】
以下、上記非線形ラマン散乱光測定装置の作用について説明する。
【0109】
図8A、9A、10A、11Aのそれぞれは、ストークス光Lsの各スペクトル成分の照射を受ける被検体の検出位置を示す図、図8B、9B、10B、11Bのそれぞれは上記各スペクトル成分の照射を受けた被検体の検出位置から発せられたCARS光Lcのスペクトル強度分布を検出する2次元受光素子の様子を示す図である。
【0110】
光走査部10による合波ラインパルス光Lgの走査が開始されると、図8Aに示すように、直線状の断面を有する光束からなる合波ラインパルス光Lgが被検体1の下方側(図8Aを示す紙面の裏側)からこの被検体1へ向けて照射される。そして、合波ラインパルス光Lgの照射を受けた被検体1中の検出位置から被検体1の上方側(図8Aを示す紙面の表側)へ発せられたCARS光Lcが、スペクトル測定部60に入射し分光されてこのCARS光Lcのスペクトルが検出される。
【0111】
走査開始時には、合波ラインパルス光Lgが被検体1の下方側から照射されて、被検体1中の検出位置R(1,1)に対して、合波ラインパルス光Lg中のストークス光Lsのスペクトル成分Sp(1)が照射される。
【0112】
スペクトル成分Sp(1)の照射を受けた検出位置(1,1)から上方側へ発せられたCARS光Lc(1、1、1)は、スペクトル測定部60に入射して、図8Bに示すように、2次元受光素子66上の1列目に、列方向(図中矢印Re方向)に分光されて入射する。すなわち、検出位置(1,1)から発せられたCARS光Lc(1、1、1)のスペクトルが2次元受光素子66上の1列目の1行目から5行目に亘って検出され、CARS光Lc(1、1、1)のスペクトル強度分布を示す信号Sg(1、1、1)が得られる。
【0113】
次に、光走査部10による合波ラインパルス光Lgの走査により、図9Aに示すように、被検体1中の検出位置R(1,1)に対してストークス光Lsのスペクトル成分Sp(2)が、検出位置R(1,2)に対してストークス光Lsのスペクトル成分Sp(1)が照射される。
【0114】
スペクトル成分Sp(1)、Sp(2)の照射を受けた検出位置R(1、2)およびR(1、1)から発せられたCARS光Lc(1、2、1)、Lc(1、1、2)は、スペクトル測定部60に入射して、図9Bに示すように、2次元受光素子66上の1列目と2列目に、列方向(図中矢印Re方向)に分光されて入射する。すなわち、CARS光Lc(1、2、1)、Lc(1、1、2)のスペクトルが、2次元受光素子66の1列目と2列目それぞれの1行目から5行目に亘って検出されCARS光Lc(1、2、1)、Lc(1、1、2)のスペクトル強度分布を示す信号Sg(1、2、1)、Sg(1、1、2)が得られる。
【0115】
このような、動作を繰り返し、光走査部10による合波ラインパルス光Lgの走査により、図10Aに示すように、被検体1中の検出位置R(1,5)〜R(1,1)に対してストークス光Lsのスペクトル成分Sp(1)〜Sp(5)それぞれが照射される。
【0116】
スペクトル成分Sp(1)〜Sp(5)それぞれの照射を受けた検出位置R(1,5)〜R(1,1)それぞれから発せられたCARS光Lc(1、5、1)、Lc(1、4、2)、Lc(1、3、3)、Lc(1、2、4)、Lc(1、1、5)それぞれは、スペクトル測定部60に入射して、図10Bに示すように、2次元受光素子66の1列目〜5列目のそれぞれに、列方向(図中矢印Re方向)へ分光されて入射する。すなわち、CARS光Lc(1、5、1)〜Lc(1、1、5)それぞれのスペクトルが、2次元受光素子66の1列目〜5列目それぞれの1行目から5行目に亘って検出され、CARS光Lc(1、5、1)〜Lc(1、1、5)それぞれのスペクトル強度分布を示す信号Sg(1、5、1)〜Sg(1、1、5)それぞれが得られる。
が得られる。
【0117】
さらに、図11Aに示すように、光走査部10による合波ラインパルス光Lgの走査により、図11Aに示すように、被検体1中の検出位置R(1,6)〜R(1,2)に対してストークス光Lsのスペクトル成分Sp(1)〜Sp(5)それぞれが照射される。
【0118】
スペクトル成分Sp(1)〜Sp(5)それぞれの照射を受けた検出位置R(1,6)〜R(1,2)それぞれから発せられたCARS光Lc(1、6、1)、Lc(1、5、2)、Lc(1、4、3)、Lc(1、3、4)、Lc(1、2、5)それぞれは、スペクトル測定部60に入射して、図11Bに示すように、2次元受光素子66の2列目〜6列目それぞれに、列方向(図中矢印Re方向)へ分光されて入射する。すなわち、CARS光Lc(1、6、1)〜Lc(1、2、5)それぞれのスペクトルが、2次元受光素子66の2列目〜6列目それぞれの1行目から5行目に亘って検出され、CARS光Lc(1、6、1)〜Lc(1、2、5)それぞれのスペクトル強度分布を示す信号Sg(1、6、1)〜Sg(1、2、5)それぞれが得られる。
【0119】
上記のようなストークス光のスペクトル成分Sp(1)〜Sp(5)の走査により発生したCARS光Lc(i,j、k)の検出により、上記図7に示すような、被検体1の各検出位置R(i,j)毎の、各スペクトル成分Sp(1)〜Sp(5)に対応したスペクトル強度分布を示す信号Sg(i,j、1)〜Sg(i,j、5)が得られる。
【0120】
なお、複数の光成分であるストークス光のスペクトル成分は、広波長帯域からなる光を分光して生成する場合に限らずどのような方式によって生成したものであってもよい。
【0121】
また、複数の光成分は、1方向に波長順に分離する場合に限らず、各光成分どのような順序で並べたものであってもよい。
【0122】
また、光走査部による走査は、ストークス光を複数の光成分が分離された1方向へ走査する場合限らず、被検体中の検出対象となる検出位置それぞれにストークス光の各光成分が照射されるように走査すれば、どのような態様で走査してもよい。
【0123】
また、被検体上のポンプ光の照射を受ける領域と被検体上のストークス光の照射を受ける領域とを必ずしも一致させる必要はなく、少なくともストークス光の各スペクトル成分の照射を受ける被検体上の検出位置それぞれに対してポンプ光が同時に照射されるようにすればよい。
【0124】
図12はストークス光の光束の断面形状を示す図である。
【0125】
ストークス光は、直線状の断面を有する光束からなるものとする場合に限らない。例えば、図12の上部に示すような「への字状」の断面Cs1や、図12の中央部に示すような「波線状」の断面Cs2や、図12の下部に示すような「長円状(楕円状)」の断面Cs3を有する光束からなるものであってもよい。このように、被検体1を照射するストークス光の光束の断面形状はライン状をなすものとすることができる。
【0126】
上記ライン状の断面形状を有する光束からなるストークス光は、分光され分離された複数の光成分が、ライン状の断面形状の延びる方向へは互に重なることが許容され、ライン状の断面形状の延びる方向とは直交する方向には互に重なることが禁止されるように配されたものである。
【0127】
なお、本発明の非線形ラマン散乱光測定用顕微鏡装置においては、被検体上の各検出位置毎の、各光成分の照射を受けて発せられた非線形ラマン散乱光それぞれのスペクトルを合成してなる合成スペクトルを得るスペクトル合成部を必ずしも備える必要はない。
【0128】
上記のように、本発明では、互いに異なる波長を持つ複数の光成分を空間的に分離させて互いに異なる検出位置へ照射するようにしたので、各検出位置に照射される各光成分それぞれについて光強度を被検体を変質させない範囲内で高めることができる。
【0129】
上記実施の形態の非線形ラマン散乱光測定用顕微鏡装置では、ストークス光の各光成分を集光してポンプ光と同時に1つの検出位置へ照射したときには被検体を変質させてしまうが、1つの光成分のみをポンプ光と同時に1つの検出位置へ照射したときには被検体を変質させないように設定されている。
【0130】
そのようにポンプ光とストークス光の光強度が設定されているため、各光成分からなるストークス光の走査速度を大きくしたときに生じる、このストークス光の照射を受けた被検体から発せられる非線形ラマン散乱光のS/Nの低下を抑制することができる。
【0131】
上記のことにより、被検体を変質させたり、あるいはストークス光の照射を受けた被検体から発せられる非線形ラマン散乱光のS/Nを低下させたりすることなく、ストークス光の光強度と走査速度とを大きくすることができ、適切なスペクトルの測定を行うとともに、被検体を構成する複数種類の分子を分析する際の測定速度を高めることができる。
【0132】
なお、上記実施の形態において、光走査部10およびスペクトル測定部60が、本発明の非線形ラマン散乱光測定装置およびそれを用いた非線形ラマン散乱光測定用顕微鏡装置の主要部であり、上記装置はさらに、分析部71および表示部72を備えたものとしてもよいが、これらは必須の構成ではない。
【0133】
図13は、本発明の非線形ラマン散乱光測定装置を適用した内視鏡装置を示す図である。なお、この非線形ラマン散乱光測定用内視鏡装置にかかる説明および図面に関し、前述の実施形態の構成要素と実質的に同じ機能を有する構成要素については、同一の符号を付することにより重複説明を省略する。より具体的には、非線形ラマン散乱光測定用内視鏡装置101の光走査部10は、非線形ラマン散乱光測定用顕微鏡装置100の光走査部10から対物レンズ54を除いたものであり、非線形ラマン散乱光測定用内視鏡装置101のスペクトル測定部60は、非線形ラマン散乱光測定用顕微鏡装置100のスペクトル測定部60から対物レンズ61を除いたものであり、これらの重複する構成要素の説明は省略する。
【0134】
上記非線形ラマン散乱光測定用内視鏡装置101において、ガルバノミラー53から射出された合波ラインパルス光Lgは、ミラー78で折り曲げられダイクロイックミラー79を通して光ファイバユニット80の一端のレンズ部81へ入射せしめられる。
【0135】
光ファイバユニット80のレンズ81部へ入射した合波ラインパルス光Lgは、このレンズ部81および光ファイバであるバンドルファイバ82通って、光ファイバユニット80の他端に配された高NAのレンズ部83から射出され被検体1に照射される。
【0136】
ここで、1方向に延びる合波ラインパルス光Lgは、1方向へ延びるバンドルファイバ82の一端の端面へ入射し、このバンドルファイバ82の他端の1方向へ延びる端面から射出されレンズ部83を通して被検体1に照射される。
【0137】
この合波ラインパルス光Lgの照射を受けた被検体1中の1方向へ延びる領域から発せられたCARS光Lcの後方散乱光は、上記光路を逆方向に伝播する。すなわち、再び上記レンズ部83およびバンドルファイバ82を通ってレンズ部81から射出される。
【0138】
レンズ部81から射出されたCARS光Lcは、ダイクロイックミラー79で反射せしめられてカットフィルタ62に入射する。
【0139】
その後のCARS光Lcの処理は上述の非線形ラマン散乱光測定用顕微鏡装置の場合と同様である。
【0140】
以上、本発明による非線形ラマン散乱光測定装置を用いた非線形ラマン散乱光測定用顕微鏡装置、および非線形ラマン散乱光測定用内視鏡装置の好ましい実施の形態について説明したが、本発明は上記実施の形態に限定されるものではなく、発明の要旨を変更しない限りにおいて、種々変更することが可能である。
【0141】
なお、上記実施形態では、非線形ラマン散乱光として、CARS光を例にとり説明したが、別の散乱光、例えば、誘導ラマン散乱光やハイパーラマン散乱光等を用いることも可能である。
【図面の簡単な説明】
【0142】
【図1】本発明の非線形ラマン散乱光測定用顕微鏡装置を示すブロック図
【図2】CARS光の発生過程のエネルギー準位を示す図
【図3】ポンプ光とストークス光の照射を同時に受けた被検体からCARS光が発生する様子を拡大して示す図
【図4】直線状の断面を有する光束からなるポンプ光を生成する様子を示す図
【図5】直線状の断面を有する光束からなるストークス光を生成する様子を示す図
【図6A】直線状の断面を有する光束が分光されることなく結像される様子を示す図
【図6B】直線状の断面を有する光束が分光されて結像される様子を示す図
【図7】ストークス光の各光成分の照射を受けて発せられたCARS光それぞれのスペクトル強度分布を合成して合成スペクトルを得る様子を示す図
【図8A】ストークス光の各光成分の照射を受ける被検体の検出位置を示す図
【図8B】各CARS光Lcのスペクトル強度分布を検出する様子を示す図
【図9A】ストークス光の各光成分の照射を受ける被検体の検出位置を示す図
【図9B】各CARS光Lcのスペクトル強度分布を検出する様子を示す図
【図10A】ストークス光の各光成分の照射を受ける被検体の検出位置を示す図
【図10B】各CARS光Lcのスペクトル強度分布を検出する様子を示す図
【図11A】ストークス光の各光成分の照射を受ける被検体の検出位置を示す図
【図11B】各CARS光Lcのスペクトル強度分布を検出する様子を示す図
【図12】ストークス光の光束の断面形状を示す図である。
【図13】本発明の非線形ラマン散乱光測定用内視鏡装置を示す図
【符号の説明】
【0143】
1 被検体
10 光走査部
20 光源部
30 ポンプ光照射部
40 ストークス光照射部
50 合波走査部
60 スペクトル取得部
100 非線形ラマン散乱光測定用顕微鏡装置
Lp ポンプ光
Lsw 広波長帯域の光
Ls ストークス光
Lc CARS光
【技術分野】
【0001】
本発明は、被検体から発せられる非線形ラマン散乱光のスペクトルを取得する非線形ラマン散乱光測定装置およびそれを用いた内視鏡装置ならびに顕微鏡装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来より、レーザ光の照射を受けた被検体から発せられる非線形ラマン散乱光を分光して得られたスペクトルを分析するラマン分光法が知られている。被検体から発せられるラマン散乱光は物質固有のものであることから、被検体を構成する分子を分析することができるので、材料評価や新物質創製等に広く活用されている。このラマン分光法には、以下のような方式が知られている。
【0003】
すなわち、ポンプ光とこのポンプ光よりも波長が長いストークス光を被検体へ同時に照射して、この被検体から上記ポンプ光よりも波長が短い非線形ラマン散乱光を発生させる。そして、この非線形ラマン散乱光を分光してスペクトルを得、このスペクトルの示す光強度分布におけるピークの値(極大値)とこのピークの示すラマンシフト量とから被検体を構成する分子を分析する非線形ラマン散乱光測定方式が知られている(特許文献1、2参照)。
【0004】
この非線形ラマン散乱光測定方式によれば、ポンプ光およびストークス光の照射を受けた被検体から発せられる蛍光の波長範囲と非線形ラマン散乱光の波長範囲とが重ならないので、非線形ラマン散乱光に混入するノイズを抑制することができ、より正確に被検体を構成する分子を分析することができる。
【0005】
さらに、この非線形ラマン散乱分光法には、ポンプ光と1つの波長に光強度を持つストークス光とを被検体上の各検出位置に走査させて被検体の面領域を分析するナローバンド走査方式や、ポンプ光と広い波長範囲に亘って光強度を持つストークス光とを被検体上の各検出位置に走査させて被検体の面領域を分析するブロードバンド走査方式が知られている。
【0006】
ブロードバンド走査方式では、ポンプ光とストークス光とを被検体へ照射したときに、それらの波長差に応じた様々な振動数のうなりが同時に生じ、それらのうなりに共鳴した複数種類の分子の共鳴振動を示す複数のピークが非線形ラマン散乱光のスペクトル中に生じる。そのスペクトルを調べることにより、被検体を構成する複数種類の分子を一度に分析することができる。
【0007】
また、ナローバンド走査方式では、ポンプ光とストークス光とを被検体へ照射したときに、それらの波長差に応じた1種類の振動数のうなりが生じ、そのうなりに共鳴した1種類の分子の共鳴振動を示すピークが非線形ラマン散乱光のスペクトル中に生じる。そのスペクトルを調べることにより、被検体を構成する1種類の分子を分析することができる。
【0008】
上記ナローバンド走査方式によれば、ストークス光を高速度で被検体上に走査させてこの被検体を構成する分子のうちの1種類の分子を分析することができる。なお、被検体上へのストークス光の走査速度を大きくするほどこの被検体上へのストークス光の照射光量が小さくなり被検体から発せられる非線形ラマン散乱光のS/Nが低下するので、このS/Nの低下を抑制するためにストークス光の光強度を高めて被検体上へストークス光を走査している。
【0009】
一方、広い波長範囲に亘って光強度を持つストークス光を用いるブロードバンド走査方式は、1つの波長に光強度を持つストークス光を用いるナローバンド走査方式ほど高速度で被検体上を走査させることはできないが、このブロードバンド走査方式は被検体を構成する多種類の分子を一度に分析することができる。
【特許文献1】特開2004−61411号公報
【特許文献2】特表2006−276667号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
ところで、ブロードバンド走査方式のように被検体を構成する複数種類の分子を一度に分析する方式において測定速度を高めたいという要請がある。より具体的には、例えばナローバンド走査方式と同等の走査速度で複数種類の分子を一度に分析したいという要請がある。
【0011】
これに対して、例えば、ナローバンド走査方式の場合と同様に、ブロードバンド走査方式においてもストークス光の走査速度を大きくするとともにこのストークス光の光強度を高めて、ストークス光の照射を受けた被検体から発せられる非線形ラマン散乱光のS/Nの低下を抑制しつつ走査速度を大きくすることが考えられる。
【0012】
しかしながら、ブロードバンド走査方式において、ストークス光の光強度を高めようとすると、このストークス光の光強度が被検体を変質させるほどの光強度となってしまうおそれがある。すなわち、被検体を構成する分子は、所定以上の光強度を持つストークス光の照射を受けると変質してしまうので、ブロードバンド走査方式およびナローバンド走査方式のいずれにおいても、ストークス光の光強度は被検体を変質させない光強度とする必要がある。
【0013】
このように、複数種類の分子を一度に分析することができるブロードバンド走査方式において、走査速度を大きくするためにストークス光の光強度を高めようとすると、このストークス光の照射を受けた被検体が変質してしまうという問題がある。
【0014】
なお、特定の1つの波長に光強度を持つナロードバンド走査方式におけるストークス光の光強度と広い波長範囲に亘って光強度を持つブロードバンド走査方式におけるストークス光の光強度とを同等の光強度にした場合に、特定の1つの波長における光強度については、ナロードバンド走査方式におけるストークス光の光強度よりもブロードバンド走査方式におけるストークス光の光強度の方が低くなる。そのため、ブロードバンド走査方式においては、特定の1つの波長の照射を受けて発せられる非線形ラマン散乱光のS/Nが低下するので、ストークス光の走査速度を遅くして被検体の各測定位置に照射されるストークス光の総光量を増大させている。これにより、ブロードバンド走査方式において、ストークス光の特定の1つの波長の照射を受けて被検体の各測定位置から発せられる非線形ラマン散乱光の総光量を増大させ、この非線形ラマン散乱光を検出することによって上記特定の1つの波長に対応して発せられる非線形ラマン散乱光を示す信号のS/Nを高めている。
【0015】
本発明は、上記事情に鑑みてなされたものであり、被検体を構成する複数種類の分子を分析する際の測定速度を高めることができる非線形ラマン散乱分光装置およびそれを用いた内視鏡装置ならびに顕微鏡装置を提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0016】
本発明の非線形ラマン散乱光測定装置は、ポンプ光とこのポンプ光よりも波長が長いストークス光とを被検体上の同一領域に同時に照射しつつ、ストークス光を被検体に対して相対的に走査させる光走査手段と、前記照射を受けた被検体から発せられる非線形ラマン散乱光のスペクトルを取得するスペクトル取得手段とを備えた非線形ラマン散乱光測定装置であって、ストークス光が、被検体に含まれる複数種類の分子を分析するための互いに異なる波長を持つ空間的に分離された複数の光成分を有するものであり、光走査手段が、被検体上の非線形ラマン散乱光を発生させる対象とする各検出位置に対し、分離された複数の光成分それぞれを照射するように前記走査を行なうものであり、スペクトル取得手段が、前記走査により各光成分の照射を受けた各検出位置それぞれから各光成分の照射毎に発せられる非線形ラマン散乱光それぞれのスペクトルを得るものであることを特徴とするものである。
【0017】
前記複数の光成分は、1方向へ分離されたものとすることが望ましく、前記1方向へ波長順に分離されたものとすることがより望ましい。
【0018】
前記光走査手段は、ストークス光を前記1方向へ走査するものとすることが望ましい。
【0019】
前記複数の光成分は、広波長帯域からなる光を分光してなるものとすることができる。
【0020】
前記光走査手段は、被検体上のポンプ光の照射を受ける領域と被検体上のストークス光の照射を受ける領域とを一致させるように、前記ポンプ光とストークス光とを照射するものとすることが望ましい。
【0021】
前記ストークス光は、直線状の断面を有する光束からなるものとすることが望ましい。
【0022】
前記非線形ラマン散乱光測定装置は、スペクトル取得手段により得られた、被検体上の各検出位置毎の、各光成分の照射を受けて発せられた非線形ラマン散乱光それぞれのスペクトルを合成するスペクトル合成手段を備えたものとすることができる。
【0023】
本発明の内視鏡装置は、前記非線形ラマン散乱光測定装置を備えたことを特徴とするものである。
【0024】
本発明の顕微鏡装置は、前記非線形ラマン散乱光測定装置を備えたことを特徴とするものである。
【0025】
前記光走査手段は、位置が固定された被検体に対して、ストークス光を移動させて走査を行なうものとしたり、または、照射位置が固定されたストークス光に対して、被検体を移動させて走査を行なうものとしたり、あるいは、被検体とストークス光とを両方共に移動させて走査を行なうものとしたりすることができる。
【0026】
前記ポンプ光およびストークス光は、1つの光源から発せられた光から生成されたものとしてもよいし、それぞれが個別に用意された複数の光源から発せられた各光から生成されたものとしてもよい。
【発明の効果】
【0027】
本発明の非線形ラマン散乱光測定装置およびそれを用いた内視鏡装置ならびに顕微鏡装置によれば、ストークス光を、被検体に含まれる複数種類の分子を分析するための互いに異なる波長を持つ空間的に分離された複数の光成分を有するものとし、光走査手段を、被検体上の非線形ラマン散乱光を発生させる対象とする各検出位置に対し、分離された複数の光成分それぞれを互に異なるタイミングで照射するように走査を行なうものとし、スペクトル取得手段を、前記走査により各光成分の照射を受けた各検出位置それぞれから前記各光成分の照射毎に発せられる非線形ラマン散乱光それぞれのスペクトルを得るようにしたので、被検体を構成する複数種類の分子を分析する際の測定速度を高めることができる。
【0028】
すなわち、上記互いに異なる波長を持つ空間的に分離された複数の光成分それぞれは個別のストークス光とみなすことができ、この個別ストークス光それぞれを互に異なるタイミングで被検体上の各検出位置それぞれへ照射するようにしたので、例えばその複数の光成分の全体を1つの検出位置に集光させたときにこの検出位置に照射される光強度が被検体を変質さる光強度を超えていたとしても、空間的に分離された各光成分それぞれの照射を受ける各検出位置における光強度を被検体を変質させない光強度とすることができる。
【0029】
例えば、従来のブロードバンド走査方式では、互いに異なる波長を持つ複数の光成分からなるストークス光を1つの検出位置に照射するので、各光成分の光強度を高めようとするとこの1つの検出位置に照射されるストークス光の光強度が被検体を変質させる光強度に達してしまう。一方、本発明では、互いに異なる波長を持つ複数の光成分を空間的に分離させて互いに異なる検出位置へ照射するようにしたので、各検出位置に照射される各光成分それぞれについて光強度を被検体を変質させない範囲内で高めることができる。そして、そのように光強度を高めた複数の光成分からなるストークス光は、各光成分を集光して1つの検出位置に照射したときには被検体を変質させてしまう光強度であったとしても、各検出位置に照射される各光成分の光強度については、各光成分が空間的に分離れているため、被検体を変質させない光強度とすることができる。
【0030】
したがって、各光成分からなるストークス光の走査速度を大きくしたときに生じる、このストークス光の照射を受けた被検体から発せられる非線形ラマン散乱光のS/Nの低下を、各光成分の光強度を高めることにより抑制することができる。
【0031】
上記のことにより、被検体を変質させない範囲内で各光成分の光強度を大きくするとともに、このストークス光の照射を受けた被検体から発せられる非線形ラマン散乱光を正しく検出可能な範囲内でストークス光の走査速度を大きくすれば、被検体を変質させたり、あるいは品質の低下した非線形ラマン散乱光を被検体から発生させたりすることなく、ストークス光の光強度と走査速度とを両方共に大きくして非線形ラマン散乱光のスペクトルの測定を適切に行うことができる。これにより、被検体を構成する複数種類の分子を分析する際の測定速度を高めることができる。
【0032】
また、複数の光成分を1方向へ分離されたものとすれば、光走査手段の走査による各検出位置への各光成分の照射をより容易に行うことができる。
【0033】
また、複数の光成分を前記1方向へ波長順に分離されたものとすれば、例えば、短波長から長波長の順、あるいは長波長から短波長の順に並ぶように分離されたものとすれば、各光成分の照射を受けた被検体から発せられる非線形ラマン散乱光それぞれのスペクトルの測定をより容易に行うことができる。
【0034】
なお、光走査手段を、ストークス光を前記1方向へ走査するものとすれば、各検出位置への各光成分の照射をより容易に行うことができる
【0035】
また、複数の光成分を、広波長帯域からなる光を分光して生成したものとすれば、すなわち、広波長帯域からなる光を分光してスペクトル成分に分離したものとすれば、より容易に複数の光成分を生成することができる。
【0036】
さらに、光走査手段を、被検体上のポンプ光の照射を受ける領域と被検体上のストークス光の照射を受ける領域とを一致させるように前記ポンプ光とストークス光とを照射するものとすれば、被検体から発せられる非線形ラマン散乱光に含まれるノイズ成分を低減することができ、非線形ラマン散乱光のS/Nを高めることができる。
【0037】
なお、ストークス光を、直線状の断面を有する光束からなるものとすれば、より確実に各検出位置への走査を行なうことができる。
【0038】
さらに、前記非線形ラマン散乱光測定装置を、スペクトル取得手段により得られた、被検体上の各検出位置毎の、各光成分の照射を受けて発せられた非線形ラマン散乱光それぞれのスペクトルを合成してなる合成スペクトルを得るスペクトル合成手段を備えたものとすれば、被検体を構成する複数種類の分子をより確実に分析することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0039】
以下、本発明の実施の形態について、図面を用いて説明する。図1は本発明の非線形ラマン散乱光測定用顕微鏡装置を示すブロック図、図2はCARS光の発生過程のエネルギー準位を示す図である。
<非線形ラマン散乱光に関する説明>
【0040】
初めに、非線形ラマン散乱光の1例であるCARS光(コヒーレントアンチストークスラマン散乱光)について説明する。定性的なCARS光の発生原理は以下のように説明される。
【0041】
測定対象の分子が存在している領域に、振動数の異なる2つの光、振動数ω1の光と振動数ω2の光を入射させると(ω1>ω2とする)、振動数ω1−ω2のうなりが生じる。このうなりの振動数が測定対象の分子の固有振動数Ωと一致しているとき、分子は共鳴振動を起こす。共鳴振動が起こっている状態で、さらに振動数ω3の光を入射させると、分子の共鳴振動と振動数ω3の光との相互作用により、CARS光が発生する。
【0042】
図2を参照しながら、エネルギー準位の観点から上記のCARS光の発生過程を辿る。光を入射させる前の分子は、図2で示すエネルギー準位がE1の初期状態にある。ここに振動数ω1の光と振動数ω2の光を入射させると、分子のエネルギー準位は、振動数ω1の光により励起されて仮想的なエネルギー準位E3まで上がり、振動数ω2の光に対応する仮想的な光子放出によりE3からE2に下がると考えられる。この振動数の差ω1−ω2が分子の固有振動数Ωと一致したとき、分子は共鳴振動を起こしてエネルギー準位がE2の励起状態となる。ここにさらに振動数ω3の光を入射させると、分子のエネルギー準位はE2から仮想的なエネルギー準位E4に上昇し、CARS光が発生することにより分子のエネルギー準位はE4からE1に下がることになる。
【0043】
上記のような3つの励起光、すなわち振動数ω1、ω2、ω3の光の入射により、いわゆる四光波混合過程が生じ、結果として振動数ωas=ω1−ω2+ω3のCARS光が発生する。上記の過程は、振動数ω3の光の代わりに振動数ω1の光を用いて起こすことも可能である。この場合は振動数の異なる2種類の励起光でCARS光を発生でき、このときのCARS光の振動数ωasはωas=2ω1−ω2となる。励起光を2種類にした方が装置構成を簡易化できるため、本発明の非線形ラマン散乱光測定用顕微鏡装置100も、振動数の異なる2つの励起光でCARS光を発生させる構成を採っている。なお、一般に、振動数ω1の光はポンプ光、振動数ω2の光はストークス光と呼ばれている。
【0044】
CARS光は、ω1−ω2が測定対象の分子の固有振動数Ωと一致したときに強く現れる光である。分子の固有振動数Ωは、分子の種類やその構造によって異なるため、CARS光の観測により、非破壊的に測定対象の分子の同定を行うことができる。例えば、ポンプ光の振動数ω1を固定したまま、ストークス光の振動数ω2を掃引して観測することにより、分子の固有振動スペクトルを観察することができ、これにより分子の同定が可能になる。あるいは、検出したい分子の固有振動数Ωが既知の場合は、ω1−ω2=Ωを満たすようにポンプ光、ストークス光の振動数を設定して観測することにより、目的を達成することができる。
【0045】
CARS光の発生する過程は非線形光学過程であり、基本的には2つの励起光の位相が一致した光強度の高い状態で発生する。また、空間的にもCARS光は、ポンプ光とストークス光が強く集光された部分からのみ発生するため、CARS光による測定は、基本的に高い三次元空間分解能を実現することができる。観測されるCARS光の光強度Iasは、下式(1)に示すように、ポンプ光の光強度Ipの二乗とストークス光の光強度Isの積に比例する。
【0046】
Ias ∝ Ip2・Is (1)
【0047】
2種類の励起光でCARS光を発生させる場合は、CARS光の振動数ωas、ポンプ光の振動数ω1、分子の固有振動数Ωは、ωas=ω1+Ωの関係にあるため、CARS光の波長は励起光であるポンプ光の波長より短くなる。これに対して、自家蛍光の波長や、線形光学現象である自発ラマン散乱により生じるストークス散乱光の波長は、励起光の波長より長い。ストークス散乱光を検出する場合、ストークス散乱光と自家蛍光は重畳してしまい分離しにくいのに対して、CARS光は、自家蛍光およびストークス散乱光との分離が容易であり、検出しやすいという利点がある。また、CARS光による測定は、自発ラマン散乱を用いた場合よりも強い信号強度が得られるため、自発ラマン散乱を用いた場合よりも高いスループットを実現することができる。
<非線形ラマン散乱光測定用顕微鏡装置に関する説明>
【0048】
以下、非線形ラマン散乱光測定装置を備えた顕微鏡装置について説明する。
【0049】
図3はポンプ光とストークス光の照射を同時に受けて被検体からCARS光が発生する様子を拡大して示す図、図4は直線状の断面を有する光束からなるポンプ光を生成する様子を示す図、図5は直線状の断面を有する光束からなるストークス光を生成する様子を示す図、図6Aは直線状の断面を有する光束が分光されることなく結像される様子を示す図、図6Bは直線状の断面を有する光束が分光されて結像される様子を示す図、図7はストークス光の各光成分の照射を受けて発せられたCARS光それぞれのスペクトル強度分布を合成して合成スペクトルを得る様子を示す図である。
【0050】
図1に示す本発明の実施の形態の非線形ラマン散乱光測定装置を備えた顕微鏡装置の1例である非線形ラマン散乱光測定用顕微鏡装置100は、生体組織の細胞である被検体1を構成する分子を分析するための測定を行うものである。
【0051】
この非線形ラマン散乱光測定用顕微鏡装置100は、ポンプ光Lpと、このポンプ光Lpよりも波長が長いストークス光Lsとを被検体1の同一領域に同時に照射しつつ、被検体1に対してストークス光Lsを相対的に走査させるための光走査部10と、上記ポンプ光Lpとストークス光Lsの照射を受けた被検体1から発せられる非線形ラマン散乱光のスペクトルを測定するためのスペクトル取得手段であるスペクトル測定部60とを備えている。
【0052】
ポンプ光Lpは、図3、4に示すように、直線状の断面を有する光束からなるものであって、単一波長の光からなるものである。
【0053】
ストークス光Lsは、図3、5に示すように、直線状の断面を有する光束からなるものであって、被検体1に含まれる複数種類の分子を分析するための互いに異なる波長を持つ空間的に分離された複数の光成分からなるものであり、上記直線状の断面の延びる方向(図3中矢印X方向)に沿って空間的に分離された上記複数の光成分であるスペクトル成分Sp(k):k=1〜5〔以後、単にスペクトル成分Sp(k)、あるいはスペクトル成分Spともいう〕を有するものである。
【0054】
光走査部10は、図3に示すように、被検体1上の非線形ラマン散乱光を発生させる対象とする各検出位置R(i、j):i=1〜m、j=1〜n〔以後、単に検出位置R(i、j)、あるいは検出位置Rともいう〕それぞれに対し、複数のスペクトル成分Sp(k)それぞれを互に異なるタイミングで照射するように走査を行なうものである。
【0055】
なお、上記図3は、検出位置R(1、1)にスペクトル成分Sp(2)が照射されるとともに、検出位置R(1、2)にスペクトル成分Sp(1)が照射された状態を示している。
【0056】
上記ストークス光Lsを構成する複数のスペクトル成分Sp(k)は、後述する広波長帯域の光Lswを分光して、この広波長帯域の光Lswの各スペクトル成分を空間的に1方向へ分離させてなるものである。
【0057】
また、測定部60は、図1、図3に示すように、光走査部10による走査によって各スペクトル成分Sp(k)の照射を受けた各検出位置R(i、j)それぞれから、各スペクトル成分Sp(k)の照射毎に発せられる非線形ラマン散乱光であるCARS光Lc(i、j、k):i=1〜m、j=1〜n、k=1〜5〔以後、単にCARS光Lc(i、j、k)、あるいはCARS光Lcともいう〕それぞれのスペクトルを得るものである。
【0058】
上記光走査部10は、被検体1に対してストークス光Lsを相対的に走査させる場合に、被検体1上のポンプ光Lpの照射を受ける直線状の領域とストークス光Lsの照射を受ける直線状の領域とを一致させた状態で、ポンプ光Lpとストークス光Lsとを直線状の領域の延びる1方向へ走査させる。しかしながら、このような場合に限らず、例えば、被検体1上のポンプ光Lpの照射を受ける領域を、ストークス光Lsの照射を受ける領域を含む広範囲な領域として、ストークス光Lsを走査するときのストークス光Lsの移動量よりもポンプ光Lpを走査するときのポンプ光Lpの移動量の方を小さくするようにしてもよい。
【0059】
上記光走査部10は、直線状に延びる断面を有する光束からなるストークス光Lsを、被検体1上の直線状に延びる領域へ照射しつつ、この直線状の領域の延びる方向(図3中矢印X方向)に沿って(すなわち主走査方向へ)被検体1上を主走査させるとともに、このストークス光Lsを上記直線状の領域の延びる方向と直交する方向(図3中矢印Y方向)に沿って(すなわち副走査方向へ)に副走査させる。
【0060】
より具体的には、図3に示すように、光走査部10は、ストークス光Lsを図中矢印X方向に主走査させて、例えば検出位置R(1、1)、R(1、2)・・・R(1、n)へこの順に、直線状に並ぶストークス光Lsの各スペクトル成分Sp(1)〜Sp(5)それぞれを照射する。1行目の各検出位置R(1、1)〜R(1、n)へのストークス光Lsの各スペクトル成分Sp(1)〜Sp(5)それぞれの走査が終了したら、このストークス光Lsを副走査方向に副走査させて、次の行(2行目)の主走査を行なう。すなわち、各検出位置R(2、1)〜R(2、n)へこの順に、ストークス光Lsの各スペクトル成分Sp(1)〜Sp(5)それぞれを照射する。このような、ストークス光Lsの主走査および副走査を繰り返して、各検出位置R(1、1)〜R(m、n)へ各スペクトル成分Sp(1)〜Sp(5)それぞれを照射する。
【0061】
ここでは、各検出位置R(i、j)が、波長順に、すなわち波長の長い順であるスペクトル成分Sp(1)、Sp(2)、Sp(3)、Sp(4)、Sp(5)の順にこれらのスペクトル成分Sp(k)の照射を受けるようにストークス光Lsを走査する。しかしながら、このような場合に限らず、各検出位置R(i、j)に対して各スペクトル成分Sp(k)それぞれを照射する順番は波長順でなくともどのような順番であってもよい、
【0062】
上記光走査部10は、ポンプ光Lpおよびストークス光Lsを生成するための超短パルス光であるレーザ光Leを発する光源である光源部20と、この超短パルス光からポンプ光Lpを生成し射出するポンプ光照射部30と、その超短パルス光からストークス光Lsを生成し射出するストークス光照射部40と、ポンプ光Lpとストークス光Lsを合波させた合波ラインパルス光Lgを被検体1上の同一領域に同時に照射しつつ走査させる合波走査部50とを備えている。
【0063】
合波走査部50は、直線状の断面を有する光束からなるポンプ光Lpと直線状の断面を有する光束からなるストークス光Lsとを被検体1上の同一領域に同時に照射しつつ走査させるためのものであり、ポンプ光Lpとストークス光Lsとを伝播光路を一致させるとともに両者の光束の断面の位置を一致させるように合波させた合波ラインパルス光Lgを走査させるものである。
【0064】
上記のように合波ラインパルス光Lgは、ポンプ光Lpとストークス光Lsとを合波させたものであり、ストークス光Lsは互いに異なる波長を持つ空間的に分離された複数の光成分であるスペクトル成分Sp(k)を有するものである(図3参照)。
【0065】
光源部20は、高ピークパワーの超短パルス光を射出するレーザ21と、レーザ21から射出された超短パルス光であるレーザ光Leを2方向に分岐させて、ポンプ光照射部30とストークス光照射部40の両方に入射させるためのビームスプリッタ22とを有している。
【0066】
レーザ21は、超短パルス光を発生するレーザである。より詳しくは数十fs(フェムト秒)〜数十ps(ピコ秒)の時間範囲でパルス光を発生するレーザである。このレーザ21としては、例えば、波長800nm、パルス幅100fs、繰り返し周波数80MHz、ピークパワー1250KW、平均パワー10Wのチタンサファイアレーザを用いることができる。
【0067】
ポンプ光照射部30は、光路の伝播方向に沿って、光路折り曲げ用のミラー31、光路折り曲げ用のミラー32、光遅延部35、光路折り曲げ用のミラー33、バンドパスフィルタ36、光減衰器37、ライン光生成部38をこの順に有している。
【0068】
光路折り曲げ用のミラー31は、ビームスプリッタ22で分岐されたレーザ光Leである超短パルス光を光遅延部35に導くものである。
【0069】
光遅延部35は、ポンプ光Lpとストークス光Lsとを被検体1に照射するタイミングを調節するものである。ポンプ光Lpおよびストークス光Lsは、超短パルス光であるため、異なる光路を通ると被検体1を照射するタイミングがずれる。そのため、ポンプ光Lpおよびストークス光Lsのいずれか一方の光路に光遅延部35を設けて、ポンプ光Lpおよびストークス光Lsが同時に被検体1へ照射されるように照射タイミングを調節する。
【0070】
ディレイラインであるこの光遅延部35は、互いに直交する2つの反射面を有するミラーからなり、このミラーを図1中の両矢印Hの示す方向へ移動させることにより、ミラー31〜光遅延部35〜ミラー33の間の光路長を変化させて、長短パルス光であるポンプ光Lpの伝播時間が調節されるように構成されている。なお、光遅延部35は、ポンプ光Lpとストークス光Lsとが被検体1へ同時に照射されるように調節できるものであれば上記構成に限定されず、別の構成を採用してもよく、また、ストークス光照射部40におけるストークス光Lsの光路に光遅延部35を設けてもよい。
【0071】
バンドパスフィルタ36は、光遅延部35を通った上記超短パルス光を透過させて波長幅を狭めるものであり、バンドパスフィルタ36を透過させることにより波長幅を例えば2nmとすることができる。
【0072】
光減衰器37は、バンドパスフィルタ36を通った超短パルス光の光強度を減衰させるものである。
【0073】
ライン光生成部38は、図4に示すように、光減衰器37を通った超短パルス光であるレーザ光Leを、シリンドリカルレンズ等を含む光学系に通して1方向(図中矢印Ha方向)に延びる直線状の断面を有する平行光束とするものである。
【0074】
このように、レーザ21から射出された超短パルス光を、上記光遅延部35、バンドパスフィルタ36、光減衰器37、ライン光生成部38等に通して直線状の断面を有する平行光束からなるポンプ光Lpが生成される。
【0075】
ストークス光照射部40は、レーザ21から射出されビームスプリッタ22で分岐されたレーザ光Leである超短パルス光の波長帯域を広波長帯域化して射出する帯域拡張部43と、帯域拡張部43から射出された広波長帯域化された超短パルス光の波長範囲における長波長側のみを透過させるロングパスフィルタ45ととを備えている。
【0076】
帯域拡張部43としては、上記レーザ21であるチタンサファイアレーザから射出されたレーザ光Leである波長800nmの光を、波長500〜1500nmの広波長帯域光に変換するPCF(Photonic Crystal Fiber:フォトニック結晶ファイバ)を採用することができる。なお、帯域拡張部43として、上記PCFと同様の機能を有するもの、例えば非線形ファイバ等を用いてもよい。
【0077】
ロングパスフィルタ45は、帯域拡張部43から射出された波長500〜1500nmの広波長帯域化された光を入射させ波長810nmより長波長側の光のみを透過させる。
【0078】
上記レーザ21から射出された超短パルス光を、帯域拡張部43、ロングパスフィルタ45に通して超短パルス光である広波長帯域の光Lswが生成される。
【0079】
このストークス光照射部40は、さらに、光成分分光部と光路を折り曲げるためのミラー49Mとを備えている。
【0080】
光成分分光部46は、図5に示すように、上記ロングパスフィルタ45を通った超短パルス光である広波長帯域の光Lswを、例えばプリズム46Pに通して複数のスペクトル成分Sp(1)〜Sp(5)に分離するように分光する。さらに、この光成分分光部46は、複数のスペクトル成分Sp(1)〜Sp(5)に分離された直線状の断面を有する光束を、レンズ46Lに通して平行光束にするものである。このように、光成分分光部46を通して、波長順に1方向(図中矢印Hb方向)へ並ぶように分光され空間的に分離された複数のスペクトル成分Sp(1)〜Sp(5)からなる平行光束であるストークス光Lsが光成分分光部46から射出される。上記広波長帯域の光Lswの分光には、回折格子等を用いることもできる。
【0081】
光成分分光部46を通して生成されたストークス光Lsは、光路を折り曲げるためのミラー49Mを通ってストークス光照射部40から射出される。
【0082】
合波走査部50は、ストークス光照射部40から射出されたストークス光Lsとポンプ光照射部30から射出されたポンプ光Lpとを合波させるビームスプリッタ51と、この合波された直線状の断面を有する合波ラインパルス光Lgの断面形状を成形するための直線状の開口(スリット)を有するスリット板55と、スリット板55を通った合波ラインパルス光Lgを被検体1上に2次元走査させるための第1のガルバノミラー52および第2のガルバノミラー53と、合波ラインパルス光Lgを被検体1上に結像させる対物レンズ54とを備えている。ここで、対物レンズ54は、スリット板55のスリットの像を被検体1上に結像させる。
【0083】
なお、合波ラインパルス光Lgも超短パルス光であって、ストークス光Lsとポンプ光Lpとが被検体1上の同一位置へ同時に照射されるように合波されたものである。
【0084】
対物レンズ54は、上記直線状の断面を有する合波ラインパルス光Lgを、被検体1中の微小な直線状の領域に集光させる。ここでは対物レンズ54として、高NA(NA:Numerical Aperture:開口数)のものを用いている。この対物レンズ54には、例えば、倍率60倍、NA1.2のものを用いることができ、この場合には被検体1上に結像させるスリットの像の短手方向の幅、すなわち、被検体1上に照射される直線状の断面を有する合波ラインパルス光Lgの光束の短手方向における幅をサブミクロンオーダーにまで縮小することができる。
【0085】
このようにして、高密度に集光させた合波ラインパルス光Lgを被検体1上に2次元走査させることができる。
【0086】
なお、合波ラインパルス光Lgを走査させる走査系は、ガルバノミラーに限らず、例えばガルバノミラーとポリゴンミラーとを組み合わせて2次元走査させたり、被検体1を1方向である副走査方向に移動させつつ合波ラインパルス光Lgを1方向と直交する主走査方向に移動させて2次元走査させたりするものを採用できる。さらに、合波ラインパルス光Lgの照射位置を固定しておき、被検体1を2次元状に移動させてこの被検体1上に合波ラインパルス光Lgが2次元走査されるようにする方式を採用することもできる。
【0087】
合波ラインパルス光Lgが照射される被検体1上の直線状の領域は、複数の検出位置を含むものであり、ここでは、各検出位置はマトリクス状に縦横に並んで配置されているものとする。
【0088】
なお、光走査部10によって合波ラインパルス光Lgを被検体1上に走査しつつ、スペクトル測定部60が、被検体1から発せられたCARS光Lc(非線形ラマン散乱光)のスペクトルを取得する動作等は、制御手段であるコントローラ90によって制御される。
【0089】
次に、スペクトル取得部60について説明する。
【0090】
スペクトル取得部60は、合波ラインパルス光Lgの走査によりストークス光Lsの各スペクトル成分Sp(k)の照射を受けた被検体1中の各検出位置R(i、j)それぞれから発せられた非線形ラマン散乱光である各CARS光Lc(i、j、k)を取得する。
【0091】
このスペクトル取得部60は以下のように構成されている。すなわち、下方(図1、図3中の矢印−Z方向)からの合波ラインパルス光Lgの照射を受けた被検体1上の直線状の領域から発せられたCARS光Lcの前方散乱光を、後述の2次元受光素子66上に結像させるための対物レンズ61と、対物レンズ61を通して入射したポンプ光Lpを遮断するためのカットフィルタ62と、ポンプ光Lpの波長よりも短波長側に生じるCARS光Lcを選択的に透過させるためのショートパスフィルタ63と、ショートパスフィルタ63を通ったCARS光Lcの光路を折り曲げるためのミラー64と、CARS光Lcを分光する分光器65と、分光されたCARS光Lcの光強度を検出するための2次元受光素子66が、スペクトル取得部60に備えられている。
【0092】
上記前方散乱光は、下方(図中矢印−Z方向)からの合波ラインパルス光Lgの照射を受けた被検体1から上方(図中矢印+Z方向)へ向けて発せられるCARS光Lcである。
【0093】
ここでは、被検体1を間に挟んで合波走査部50を構成する対物レンズ54とスペクトル取得部60を構成する対物レンズ61とが対向配置されている。また、対物レンズ61は、例えば、合波走査部50を構成する対物レンズ54と同じ仕様のものを用いることができる。
【0094】
なお、ショートパスフィルタ63が、ストークス光Lsおよび被検体1から発せられた自家蛍光等を遮断する。
【0095】
さらに、分光器65がショートパスフィルタ63を通ってミラー64で光路が折り曲げられたCARS光Lcを分光し、2次元受光素子66がこの分光器65で分光されたCARS光Lcのスペクトルを検出する。
【0096】
分光器65としては、回折格子やプリズム等を用いることができる。また、2次元受光素子66としては、高感度CCD素子やCMOS素子等を採用することができる。
【0097】
なお、図6Aに示すように、対物レンズ61を通してCARS光Lcを2次元受光素子66上に伝播させる光路から分光器65を除いた場合の、2次元受光素子66上におけるCARS光Lcの受光領域は直線状となる。すなわち、合波ラインパルス光Lgの照射を受けた被検体1上の直線状の領域から発せられたCARS光Lcの前方散乱光は、2次元受光素子66上の行方向(図6A中矢印Ge方向)に延びる直線状の領域に結像される。
【0098】
一方、図6Bに示すように、CARS光Lcを2次元受光素子66に伝播させる光路に分光器65が挿入された場合の、2次元受光素子66上におけるCARS光Lcの受光領域は長方形状の領域となる。すなわち、対物レンズ61を通して2次元受光素子66上へ直線状に結像されるように伝播するCARS光Lcの光束が、この分光器65の作用により、2次元受光素子66上の列方向(図6B中矢印Re方向)に分光されてこの2次元受光素子66へ入射する。なお、上記2次元受光素子66上の行方向と列方向とは直交する。
【0099】
したがって、2次元受光素子66上の行方向が、合波ラインパルス光Lgの照射を受ける被検体1上の直線状の領域の延びる方向(図3中矢印X方向)に対応している。また、2次元受光素子66上の列方向が、各検出位置から発せられたCARS光Lcのスペクトルが分離される方向に対応している。
【0100】
さらに、合波ラインパルス光Lgの照射を受ける被検体1上の直線状の領域の位置が上記直線の延びる方向(図1中矢印X方向)と直交する副走査方向(図1中矢印Y方向)に移動したときには、2次元受光素子66上における分光されたCARS光全体の長方形状の受光領域がこの2次元受光素子66上を図6B中の矢印Re方向へ移動するので、それにより、被検体1上の合波ラインパルス光Lgの照射領域の副走査方向への移動も検出することができる。
【0101】
このようにして、分光されたCARS光Lcを2次元受光素子66で受光することにより、ストークス光Lsの各スペクトル成分Sp(1)〜Sp(5)が照射される被検体1上の検出位置と、各スペクトル成分Sp(1)〜Sp(5)の照射を受けた被検体1上の検出位置から発せられたCARS光Lc(i、j、k)それぞれのスペクトルの強度分布とを対応付けて検出することができる。
【0102】
分析部71は、CARS光Lcのスペクトルから被検体1中の各検出位置に存在する分子を分析するものである。
【0103】
この分析部71は、2次元受光素子66から出力された各CARS光Lc(i、j、k)のスペクトル強度分布を示す各スペクトル信号Sg(i、j、k):i=1〜m、j=1〜n、k=1〜5〔以後、単にスペクトル信号Sg(i、j、k)、あるいはスペクトル信号Sgともいう〕を、非線形ラマン分光法に基づいて信号処理して被検体1を構成する分子を分析し、被検体1の内部構造の情報を取得するものである。
【0104】
なお、分析部71の有するスペクトル合成部71Aは、図7に示すように、スペクトル取得部60により得られた、被検体1上の各検出位置R(i、j)毎の、ストークス光Lcのスペクトル成分Sp(1)〜Sp(5)それぞれの照射を受けて発せられたCARS光Lc(i、j、1)〜Lc(i、j、5)のスペクトル強度分布を示すスペクトル信号Sg(i、j、1)〜Sg(i、j、5)を合成してなる、合成スペクトルを示す合成スペクトル信号SSg〔ここで、SSg(i、j)=Sg(i、j、1)+Sg(i、j、2)+・・・Sg(i、j、5)〕を得るものである。
【0105】
分析部71としては、例えばパーソナルコンピュータ等のコンピュータシステムを用いることができる。なお、被検体1の内部構造とは、細胞を構成する各成分(例えばタンパク質や脂質、無機質等)の分布や各成分の割合等を意味する。さらに、分子の種類に依存する官能基、あるいは分子の立体構造に応じて発現される機能等に関する情報も得ることができる。
【0106】
表示部72は、分析部71で得られた分析結果を表示するものであり、例えば液晶モニタ装置等により構成できる。被検体1中の各検出位置に存在する分子を分析した結果が表示部72に表示される。
【0107】
なお、上記非線形ラマン散乱光測定用顕微鏡装置100に関する全体の動作やそのタイミング等はコントローラ90によって制御される。
【0108】
以下、上記非線形ラマン散乱光測定装置の作用について説明する。
【0109】
図8A、9A、10A、11Aのそれぞれは、ストークス光Lsの各スペクトル成分の照射を受ける被検体の検出位置を示す図、図8B、9B、10B、11Bのそれぞれは上記各スペクトル成分の照射を受けた被検体の検出位置から発せられたCARS光Lcのスペクトル強度分布を検出する2次元受光素子の様子を示す図である。
【0110】
光走査部10による合波ラインパルス光Lgの走査が開始されると、図8Aに示すように、直線状の断面を有する光束からなる合波ラインパルス光Lgが被検体1の下方側(図8Aを示す紙面の裏側)からこの被検体1へ向けて照射される。そして、合波ラインパルス光Lgの照射を受けた被検体1中の検出位置から被検体1の上方側(図8Aを示す紙面の表側)へ発せられたCARS光Lcが、スペクトル測定部60に入射し分光されてこのCARS光Lcのスペクトルが検出される。
【0111】
走査開始時には、合波ラインパルス光Lgが被検体1の下方側から照射されて、被検体1中の検出位置R(1,1)に対して、合波ラインパルス光Lg中のストークス光Lsのスペクトル成分Sp(1)が照射される。
【0112】
スペクトル成分Sp(1)の照射を受けた検出位置(1,1)から上方側へ発せられたCARS光Lc(1、1、1)は、スペクトル測定部60に入射して、図8Bに示すように、2次元受光素子66上の1列目に、列方向(図中矢印Re方向)に分光されて入射する。すなわち、検出位置(1,1)から発せられたCARS光Lc(1、1、1)のスペクトルが2次元受光素子66上の1列目の1行目から5行目に亘って検出され、CARS光Lc(1、1、1)のスペクトル強度分布を示す信号Sg(1、1、1)が得られる。
【0113】
次に、光走査部10による合波ラインパルス光Lgの走査により、図9Aに示すように、被検体1中の検出位置R(1,1)に対してストークス光Lsのスペクトル成分Sp(2)が、検出位置R(1,2)に対してストークス光Lsのスペクトル成分Sp(1)が照射される。
【0114】
スペクトル成分Sp(1)、Sp(2)の照射を受けた検出位置R(1、2)およびR(1、1)から発せられたCARS光Lc(1、2、1)、Lc(1、1、2)は、スペクトル測定部60に入射して、図9Bに示すように、2次元受光素子66上の1列目と2列目に、列方向(図中矢印Re方向)に分光されて入射する。すなわち、CARS光Lc(1、2、1)、Lc(1、1、2)のスペクトルが、2次元受光素子66の1列目と2列目それぞれの1行目から5行目に亘って検出されCARS光Lc(1、2、1)、Lc(1、1、2)のスペクトル強度分布を示す信号Sg(1、2、1)、Sg(1、1、2)が得られる。
【0115】
このような、動作を繰り返し、光走査部10による合波ラインパルス光Lgの走査により、図10Aに示すように、被検体1中の検出位置R(1,5)〜R(1,1)に対してストークス光Lsのスペクトル成分Sp(1)〜Sp(5)それぞれが照射される。
【0116】
スペクトル成分Sp(1)〜Sp(5)それぞれの照射を受けた検出位置R(1,5)〜R(1,1)それぞれから発せられたCARS光Lc(1、5、1)、Lc(1、4、2)、Lc(1、3、3)、Lc(1、2、4)、Lc(1、1、5)それぞれは、スペクトル測定部60に入射して、図10Bに示すように、2次元受光素子66の1列目〜5列目のそれぞれに、列方向(図中矢印Re方向)へ分光されて入射する。すなわち、CARS光Lc(1、5、1)〜Lc(1、1、5)それぞれのスペクトルが、2次元受光素子66の1列目〜5列目それぞれの1行目から5行目に亘って検出され、CARS光Lc(1、5、1)〜Lc(1、1、5)それぞれのスペクトル強度分布を示す信号Sg(1、5、1)〜Sg(1、1、5)それぞれが得られる。
が得られる。
【0117】
さらに、図11Aに示すように、光走査部10による合波ラインパルス光Lgの走査により、図11Aに示すように、被検体1中の検出位置R(1,6)〜R(1,2)に対してストークス光Lsのスペクトル成分Sp(1)〜Sp(5)それぞれが照射される。
【0118】
スペクトル成分Sp(1)〜Sp(5)それぞれの照射を受けた検出位置R(1,6)〜R(1,2)それぞれから発せられたCARS光Lc(1、6、1)、Lc(1、5、2)、Lc(1、4、3)、Lc(1、3、4)、Lc(1、2、5)それぞれは、スペクトル測定部60に入射して、図11Bに示すように、2次元受光素子66の2列目〜6列目それぞれに、列方向(図中矢印Re方向)へ分光されて入射する。すなわち、CARS光Lc(1、6、1)〜Lc(1、2、5)それぞれのスペクトルが、2次元受光素子66の2列目〜6列目それぞれの1行目から5行目に亘って検出され、CARS光Lc(1、6、1)〜Lc(1、2、5)それぞれのスペクトル強度分布を示す信号Sg(1、6、1)〜Sg(1、2、5)それぞれが得られる。
【0119】
上記のようなストークス光のスペクトル成分Sp(1)〜Sp(5)の走査により発生したCARS光Lc(i,j、k)の検出により、上記図7に示すような、被検体1の各検出位置R(i,j)毎の、各スペクトル成分Sp(1)〜Sp(5)に対応したスペクトル強度分布を示す信号Sg(i,j、1)〜Sg(i,j、5)が得られる。
【0120】
なお、複数の光成分であるストークス光のスペクトル成分は、広波長帯域からなる光を分光して生成する場合に限らずどのような方式によって生成したものであってもよい。
【0121】
また、複数の光成分は、1方向に波長順に分離する場合に限らず、各光成分どのような順序で並べたものであってもよい。
【0122】
また、光走査部による走査は、ストークス光を複数の光成分が分離された1方向へ走査する場合限らず、被検体中の検出対象となる検出位置それぞれにストークス光の各光成分が照射されるように走査すれば、どのような態様で走査してもよい。
【0123】
また、被検体上のポンプ光の照射を受ける領域と被検体上のストークス光の照射を受ける領域とを必ずしも一致させる必要はなく、少なくともストークス光の各スペクトル成分の照射を受ける被検体上の検出位置それぞれに対してポンプ光が同時に照射されるようにすればよい。
【0124】
図12はストークス光の光束の断面形状を示す図である。
【0125】
ストークス光は、直線状の断面を有する光束からなるものとする場合に限らない。例えば、図12の上部に示すような「への字状」の断面Cs1や、図12の中央部に示すような「波線状」の断面Cs2や、図12の下部に示すような「長円状(楕円状)」の断面Cs3を有する光束からなるものであってもよい。このように、被検体1を照射するストークス光の光束の断面形状はライン状をなすものとすることができる。
【0126】
上記ライン状の断面形状を有する光束からなるストークス光は、分光され分離された複数の光成分が、ライン状の断面形状の延びる方向へは互に重なることが許容され、ライン状の断面形状の延びる方向とは直交する方向には互に重なることが禁止されるように配されたものである。
【0127】
なお、本発明の非線形ラマン散乱光測定用顕微鏡装置においては、被検体上の各検出位置毎の、各光成分の照射を受けて発せられた非線形ラマン散乱光それぞれのスペクトルを合成してなる合成スペクトルを得るスペクトル合成部を必ずしも備える必要はない。
【0128】
上記のように、本発明では、互いに異なる波長を持つ複数の光成分を空間的に分離させて互いに異なる検出位置へ照射するようにしたので、各検出位置に照射される各光成分それぞれについて光強度を被検体を変質させない範囲内で高めることができる。
【0129】
上記実施の形態の非線形ラマン散乱光測定用顕微鏡装置では、ストークス光の各光成分を集光してポンプ光と同時に1つの検出位置へ照射したときには被検体を変質させてしまうが、1つの光成分のみをポンプ光と同時に1つの検出位置へ照射したときには被検体を変質させないように設定されている。
【0130】
そのようにポンプ光とストークス光の光強度が設定されているため、各光成分からなるストークス光の走査速度を大きくしたときに生じる、このストークス光の照射を受けた被検体から発せられる非線形ラマン散乱光のS/Nの低下を抑制することができる。
【0131】
上記のことにより、被検体を変質させたり、あるいはストークス光の照射を受けた被検体から発せられる非線形ラマン散乱光のS/Nを低下させたりすることなく、ストークス光の光強度と走査速度とを大きくすることができ、適切なスペクトルの測定を行うとともに、被検体を構成する複数種類の分子を分析する際の測定速度を高めることができる。
【0132】
なお、上記実施の形態において、光走査部10およびスペクトル測定部60が、本発明の非線形ラマン散乱光測定装置およびそれを用いた非線形ラマン散乱光測定用顕微鏡装置の主要部であり、上記装置はさらに、分析部71および表示部72を備えたものとしてもよいが、これらは必須の構成ではない。
【0133】
図13は、本発明の非線形ラマン散乱光測定装置を適用した内視鏡装置を示す図である。なお、この非線形ラマン散乱光測定用内視鏡装置にかかる説明および図面に関し、前述の実施形態の構成要素と実質的に同じ機能を有する構成要素については、同一の符号を付することにより重複説明を省略する。より具体的には、非線形ラマン散乱光測定用内視鏡装置101の光走査部10は、非線形ラマン散乱光測定用顕微鏡装置100の光走査部10から対物レンズ54を除いたものであり、非線形ラマン散乱光測定用内視鏡装置101のスペクトル測定部60は、非線形ラマン散乱光測定用顕微鏡装置100のスペクトル測定部60から対物レンズ61を除いたものであり、これらの重複する構成要素の説明は省略する。
【0134】
上記非線形ラマン散乱光測定用内視鏡装置101において、ガルバノミラー53から射出された合波ラインパルス光Lgは、ミラー78で折り曲げられダイクロイックミラー79を通して光ファイバユニット80の一端のレンズ部81へ入射せしめられる。
【0135】
光ファイバユニット80のレンズ81部へ入射した合波ラインパルス光Lgは、このレンズ部81および光ファイバであるバンドルファイバ82通って、光ファイバユニット80の他端に配された高NAのレンズ部83から射出され被検体1に照射される。
【0136】
ここで、1方向に延びる合波ラインパルス光Lgは、1方向へ延びるバンドルファイバ82の一端の端面へ入射し、このバンドルファイバ82の他端の1方向へ延びる端面から射出されレンズ部83を通して被検体1に照射される。
【0137】
この合波ラインパルス光Lgの照射を受けた被検体1中の1方向へ延びる領域から発せられたCARS光Lcの後方散乱光は、上記光路を逆方向に伝播する。すなわち、再び上記レンズ部83およびバンドルファイバ82を通ってレンズ部81から射出される。
【0138】
レンズ部81から射出されたCARS光Lcは、ダイクロイックミラー79で反射せしめられてカットフィルタ62に入射する。
【0139】
その後のCARS光Lcの処理は上述の非線形ラマン散乱光測定用顕微鏡装置の場合と同様である。
【0140】
以上、本発明による非線形ラマン散乱光測定装置を用いた非線形ラマン散乱光測定用顕微鏡装置、および非線形ラマン散乱光測定用内視鏡装置の好ましい実施の形態について説明したが、本発明は上記実施の形態に限定されるものではなく、発明の要旨を変更しない限りにおいて、種々変更することが可能である。
【0141】
なお、上記実施形態では、非線形ラマン散乱光として、CARS光を例にとり説明したが、別の散乱光、例えば、誘導ラマン散乱光やハイパーラマン散乱光等を用いることも可能である。
【図面の簡単な説明】
【0142】
【図1】本発明の非線形ラマン散乱光測定用顕微鏡装置を示すブロック図
【図2】CARS光の発生過程のエネルギー準位を示す図
【図3】ポンプ光とストークス光の照射を同時に受けた被検体からCARS光が発生する様子を拡大して示す図
【図4】直線状の断面を有する光束からなるポンプ光を生成する様子を示す図
【図5】直線状の断面を有する光束からなるストークス光を生成する様子を示す図
【図6A】直線状の断面を有する光束が分光されることなく結像される様子を示す図
【図6B】直線状の断面を有する光束が分光されて結像される様子を示す図
【図7】ストークス光の各光成分の照射を受けて発せられたCARS光それぞれのスペクトル強度分布を合成して合成スペクトルを得る様子を示す図
【図8A】ストークス光の各光成分の照射を受ける被検体の検出位置を示す図
【図8B】各CARS光Lcのスペクトル強度分布を検出する様子を示す図
【図9A】ストークス光の各光成分の照射を受ける被検体の検出位置を示す図
【図9B】各CARS光Lcのスペクトル強度分布を検出する様子を示す図
【図10A】ストークス光の各光成分の照射を受ける被検体の検出位置を示す図
【図10B】各CARS光Lcのスペクトル強度分布を検出する様子を示す図
【図11A】ストークス光の各光成分の照射を受ける被検体の検出位置を示す図
【図11B】各CARS光Lcのスペクトル強度分布を検出する様子を示す図
【図12】ストークス光の光束の断面形状を示す図である。
【図13】本発明の非線形ラマン散乱光測定用内視鏡装置を示す図
【符号の説明】
【0143】
1 被検体
10 光走査部
20 光源部
30 ポンプ光照射部
40 ストークス光照射部
50 合波走査部
60 スペクトル取得部
100 非線形ラマン散乱光測定用顕微鏡装置
Lp ポンプ光
Lsw 広波長帯域の光
Ls ストークス光
Lc CARS光
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポンプ光と該ポンプ光よりも波長が長いストークス光とを被検体上の同一領域に同時に照射しつつ、前記ストークス光を前記被検体に対して相対的に走査させる光走査手段と、前記照射を受けた前記被検体から発せられる非線形ラマン散乱光のスペクトルを取得するスペクトル取得手段とを備えた非線形ラマン散乱光測定装置であって、
前記ストークス光が、前記被検体に含まれる複数種類の分子を分析するための互いに異なる波長を持つ空間的に分離された複数の光成分を有するものであり、
前記光走査手段が、前記被検体上の前記非線形ラマン散乱光を発生させる対象とする各検出位置に対し、前記分離された前記複数の光成分それぞれを照射するように前記走査を行なうものであり、
前記スペクトル取得手段が、前記走査により各光成分の照射を受けた各検出位置それぞれから前記各光成分の照射毎に発せられる非線形ラマン散乱光それぞれのスペクトルを得るものであることを特徴とする非線形ラマン散乱光測定装置。
【請求項2】
前記複数の光成分が、1方向へ分離されたものであることを特徴とする請求項1記載の非線形ラマン散乱光測定装置。
【請求項3】
前記複数の光成分が、前記1方向へ波長順に分離されたものであることを特徴とする請求項2記載の非線形ラマン散乱光測定装置。
【請求項4】
前記光走査手段が、前記ストークス光を前記1方向へ走査するものであることを特徴とする請求項2または3記載の非線形ラマン散乱光測定装置。
【請求項5】
前記複数の光成分が、広波長帯域からなる光を分光してなるものであることを特徴とする請求項1から4のいずれか1項記載の非線形ラマン散乱光測定装置。
【請求項6】
前記光走査手段が、前記被検体上の前記ポンプ光の照射を受ける領域と前記被検体上の前記ストークス光の照射を受ける領域とを一致させるように前記ポンプ光と前記ストークス光とを照射するものであることを特徴とする請求項1から5のいずれか1項記載の非線形ラマン散乱光測定装置。
【請求項7】
前記ストークス光が、直線状の断面を有する光束からなるものであることを特徴とする請求項1から6のいずれか1項記載の非線形ラマン散乱光測定装置。
【請求項8】
前記スペクトル取得手段により得られた、前記被検体上の各検出位置毎の、前記各光成分の照射を受けて発せられた非線形ラマン散乱光それぞれのスペクトルを合成するスペクトル合成手段を備えたことを特徴とする請求項1から7のいずれか1項記載の非線形ラマン散乱光測定装置。
【請求項9】
前記請求項1から8のいずれか1項記載の非線形ラマン散乱光測定装置を備えたことを特徴とする内視鏡装置。
【請求項10】
前記請求項1から8のいずれか1項記載の非線形ラマン散乱光測定装置を備えたことを特徴とする顕微鏡装置。
【請求項1】
ポンプ光と該ポンプ光よりも波長が長いストークス光とを被検体上の同一領域に同時に照射しつつ、前記ストークス光を前記被検体に対して相対的に走査させる光走査手段と、前記照射を受けた前記被検体から発せられる非線形ラマン散乱光のスペクトルを取得するスペクトル取得手段とを備えた非線形ラマン散乱光測定装置であって、
前記ストークス光が、前記被検体に含まれる複数種類の分子を分析するための互いに異なる波長を持つ空間的に分離された複数の光成分を有するものであり、
前記光走査手段が、前記被検体上の前記非線形ラマン散乱光を発生させる対象とする各検出位置に対し、前記分離された前記複数の光成分それぞれを照射するように前記走査を行なうものであり、
前記スペクトル取得手段が、前記走査により各光成分の照射を受けた各検出位置それぞれから前記各光成分の照射毎に発せられる非線形ラマン散乱光それぞれのスペクトルを得るものであることを特徴とする非線形ラマン散乱光測定装置。
【請求項2】
前記複数の光成分が、1方向へ分離されたものであることを特徴とする請求項1記載の非線形ラマン散乱光測定装置。
【請求項3】
前記複数の光成分が、前記1方向へ波長順に分離されたものであることを特徴とする請求項2記載の非線形ラマン散乱光測定装置。
【請求項4】
前記光走査手段が、前記ストークス光を前記1方向へ走査するものであることを特徴とする請求項2または3記載の非線形ラマン散乱光測定装置。
【請求項5】
前記複数の光成分が、広波長帯域からなる光を分光してなるものであることを特徴とする請求項1から4のいずれか1項記載の非線形ラマン散乱光測定装置。
【請求項6】
前記光走査手段が、前記被検体上の前記ポンプ光の照射を受ける領域と前記被検体上の前記ストークス光の照射を受ける領域とを一致させるように前記ポンプ光と前記ストークス光とを照射するものであることを特徴とする請求項1から5のいずれか1項記載の非線形ラマン散乱光測定装置。
【請求項7】
前記ストークス光が、直線状の断面を有する光束からなるものであることを特徴とする請求項1から6のいずれか1項記載の非線形ラマン散乱光測定装置。
【請求項8】
前記スペクトル取得手段により得られた、前記被検体上の各検出位置毎の、前記各光成分の照射を受けて発せられた非線形ラマン散乱光それぞれのスペクトルを合成するスペクトル合成手段を備えたことを特徴とする請求項1から7のいずれか1項記載の非線形ラマン散乱光測定装置。
【請求項9】
前記請求項1から8のいずれか1項記載の非線形ラマン散乱光測定装置を備えたことを特徴とする内視鏡装置。
【請求項10】
前記請求項1から8のいずれか1項記載の非線形ラマン散乱光測定装置を備えたことを特徴とする顕微鏡装置。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6A】
【図6B】
【図7】
【図8A】
【図8B】
【図9A】
【図9B】
【図10A】
【図10B】
【図11A】
【図11B】
【図12】
【図13】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6A】
【図6B】
【図7】
【図8A】
【図8B】
【図9A】
【図9B】
【図10A】
【図10B】
【図11A】
【図11B】
【図12】
【図13】
【公開番号】特開2010−133842(P2010−133842A)
【公開日】平成22年6月17日(2010.6.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−310540(P2008−310540)
【出願日】平成20年12月5日(2008.12.5)
【出願人】(306037311)富士フイルム株式会社 (25,513)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成22年6月17日(2010.6.17)
【国際特許分類】
【出願日】平成20年12月5日(2008.12.5)
【出願人】(306037311)富士フイルム株式会社 (25,513)
【Fターム(参考)】
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