説明

音響表面波シングルゲートレゾネータを備えた発振器回路

本発明は2つの表面波シングルゲートレゾネータと活性の電子回路との接続体から成る発振器回路に関する。2つのレゾネータは並列に接続されても直列に接続されてもよいが、高周波数の反共振または高周波数の共振が発生するようにする。ここで、例えばレゾネータに直列または並列に接続された個々のキャパシタンスが用いられ、インダクタンス素子が必要ない。各レゾネータはインターディジタルトランスデューサを含む。各インターディジタルトランスデューサのアパーチャ、フィンガ数、電極層の厚さなどの特性および伝搬方向は、接続体の温度‐位相特性の変化が他の素子の温度‐位相特性の異なる符号にともなって生じるように選定される。これは電子回路の負の差動抵抗の値を選定することによっても達成される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電気回路分野または電子回路分野における、2つの周波数決定素子と活性の電子回路とから成る発振器回路に関する。ここで、周波数決定素子はインターディジタルトランスデューサを備えた表面波シングルゲートレゾネータである。
【0002】
本発明が有利に適用される対象となるのは、音響表面波をベースとした発振器またはセンサなどの素子である。センサは特に発振器周波数の温度特性を調整可能なセンサである。
【0003】
従来技術
本発明は、直列または並列に接続された2つの周波数決定素子の接続体と負の差動抵抗または負の差動コンダクタンスを有する活性の電子回路とを有しており、前記周波数決定素子はインターディジタルトランスデューサを備えた表面波シングルゲートレゾネータとして構成されており、当該の2つの表面波シングルゲートレゾネータの同期周波数の1次温度係数の符号はそれぞれ異なり、2次温度係数の符号はそれぞれ等しい、発振器回路に関する。
【0004】
独国公開第2938158号明細書の特別の構成によれば、2つの周波数決定素子から成る接続体は2つの表面波シングルゲートレゾネータを含み、当該の2つの表面波シングルゲートレゾネータは同一の結晶基板の結晶面に属するものの種々の伝搬方向を有する。表面波シングルゲートレゾネータのトランスデューサは並列に接続されている。結晶面として水晶のST面が用いられる。基板では主レゾネータの伝搬方向は水晶のX軸であり、補助レゾネータの伝搬方向は水晶のX軸に対して41°傾いている。したがって、主レゾネータでは同期周波数の1次温度係数が消失するが、補助レゾネータでは同期周波数の1次温度係数は0にはならない。種々の次数の温度係数が発生するが、主レゾネータの同期周波数の2次温度係数は補償しなければならない。主レゾネータの同期周波数の2次温度係数の補償に必要な補助レゾネータの同期周波数の1次温度係数は、補償すべき2次温度係数と、補助レゾネータの振幅と、2つのレゾネータの双方に対して等しい伝搬区間との関数である。ただし、当該の手段は表面波シングルゲートレゾネータに関するものであり、発振器回路は考察されていない。もっとも、表面波シングルゲートレゾネータを含む発振器回路を構成できることは周知である。
【0005】
W.Buff, M.Rusko, T.Vandahl, M.Goroll, F.Moeller, "A differential measurement SAW device for passive remote sensoring", Proc. 1996 IEEE, Ultrasonics Symposium, [3]の343頁〜346頁によれば、遠隔地点から問い合わされるセンサに対する手段として、温度補償のために2つの音響表面波シングルゲートレゾネータを組み合わせ、基板の同一の結晶面に種々の伝搬方向が存在するようにすることが知られている。ここで温度補償の前提となっているのは、各伝搬方向が異なる位相速度とほぼ等しい温度係数とを有するという点である。
【0006】
また、独国出願第102005060924.4号明細書によれば、2つの周波数決定素子の接続体と電子回路とから成る発振器回路であって、周波数決定素子がインターディジタルトランスデューサを備えた表面波シングルゲートレゾネータであり、当該の表面波シングルゲートレゾネータの同一の結晶基板の結晶面に異なる伝搬方向を有するものが公知である。各表面波シングルゲートレゾネータのインターディジタルトランスデューサに並列に1つずつインダクタンスが接続されている。そしてこの2つの回路が直列に接続されており、各回路に含まれる複数の表面波シングルゲートレゾネータの伝搬方向はそれぞれ異なる。2つの表面波シングルゲートレゾネータの同期周波数の1次温度係数はその符号がそれぞれ異なっている。表面波シングルゲートレゾネータのインダクタンスおよびアパーチャを適切に選択することにより、発振器周波数の1次温度係数および2次温度係数の双方を補償することができる。
【0007】
ただし、当該の公知の手段は、発振器回路に存在するインダクタンスが発振器に望ましくない振動を引き起こし、表面波シングルゲートレゾネータの温度感受性が安定化されないという欠点を有する。
【0008】
本発明の概要
本発明の課題は、周波数決定素子としての音響表面波シングルゲートレゾネータを調整して、インダクタンスを用いることなく、1次温度係数および2次温度係数を補償できるようにすることである。
【0009】
本発明は、直列または並列に接続された2つの周波数決定素子の接続体と負の差動抵抗または負の差動コンダクタンスを有する活性の電子回路とが設けられており、前記周波数決定素子はインターディジタルトランスデューサを備えた表面波シングルゲートレゾネータとして構成されており、当該の2つの表面波シングルゲートレゾネータの同期周波数の1次温度係数の符号はそれぞれ異なり、2次温度係数の符号はそれぞれ等しい、発振器回路を基礎としている。
【0010】
この課題は、前記2つの表面波シングルゲートレゾネータはインダクタンス素子を介さずに相互に接続されており、ここで、該2つの表面波シングルゲートレゾネータが並列に接続されている場合には前記接続体は高周波数の反共振状態で発振し、該2つの表面波シングルゲートレゾネータが直列に接続されている場合には前記接続体は高周波数の共振状態で発振し、アパーチャ比、および/または、同期周波数の負の符号の1次温度係数を有する表面波シングルゲートレゾネータのトランスデューサの歯数と同期周波数の正の符号の1次温度係数を有する表面波シングルゲートレゾネータのトランスデューサの歯数またはアパーチャとの比は、前記2つの周波数決定素子が直列に接続されておりかつ他の素子の影響によって1次温度係数が増大するときには、他の素子の温度特性を考慮しない場合より小さく選定されており、前記2つの周波数決定素子が直列に接続されておりかつ他の素子の影響によって1次温度係数が低下するときには、他の素子の温度特性を考慮しない場合より大きく選定されており、前記2つの周波数決定素子が並列に接続されておりかつ他の素子の影響によって1次温度係数が増大するときには、他の素子の温度特性を考慮しない場合より大きく選定されており、前記2つの周波数決定素子が並列に接続されておりかつ他の素子の影響によって1次温度係数が低下するときには、他の素子の温度特性を考慮しない場合より小さく選定されていることにより解決される。
【0011】
音響表面波をベースとしたシングルゲートレゾネータに属する圧電性のシングルゲートレゾネータは2つの共振状態、すなわち共振および反共振の状態を有する。以下ではこの2つを共振形態の相違として区別する。圧電性のシングルゲートレゾネータは、直列発振回路とこれに並列に接続された静電容量(並列キャパシタンス)とから成る等価回路図によって記述される。共振状態は直列発振回路の共振によって定められ、直列発振回路のブラインド抵抗の消失によって求められる。したがって、共振はシングルゲートレゾネータの直列共振と称される。このため共振状態でのシングルゲートレゾネータのインピーダンスは最小値に達する。これに対して、反共振状態では直列発振回路のブラインド抵抗と並列キャパシタンスのブラインド抵抗との和が消失する。言い換えれば、反共振に寄与するキャパシタンスは直列発振回路のキャパシタンスと並列キャパシタンスとを直列に接続したものであり、直列発振回路のキャパシタンスのみより小さい。よって、反共振状態の周波数は共振状態の周波数より大きい。並列キャパシタンスが共振特性において考慮されるため、反共振状態はシングルゲートレゾネータの並列共振とも称される。反共振状態でのシングルゲートレゾネータのインピーダンスは最大値に達する。
【0012】
本発明の有利な実施形態を以下に示す。
【0013】
2つの周波数決定素子が並列に接続されている場合、接続体の高周波数の反共振状態では、電子回路の負の差動抵抗の値が接続体のオーム抵抗の値よりも大きく選定されているか、または、電子回路の負の差動コンダクタンスの値が接続体の実数のコンダクタンスよりも大きく選定されている。
【0014】
2つの周波数決定素子が直列に接続されている場合、接続体の高周波数の共振状態では電子回路の負の差動抵抗の値が接続体のオーム抵抗の値よりも大きく選定されており、接続体の高周波数の反共振状態では電子回路の負の差動コンダクタンスの値が接続体の実数のコンダクタンスよりも大きく選定されている。
【0015】
発振器周波数の温度特性を微調整するために、有利には、表面波シングルゲートレゾネータから成る並列回路に所定のキャパシタンスが並列に接続されている。この場合、並列回路の各分岐には各表面波シングルゲートレゾネータに直列にキャパシタンスが挿入される。
【0016】
2つの表面波シングルゲートレゾネータは同じタイプの結晶基板または異なる結晶面を有する結晶基板の上に形成されている。特に有利には、表面波シングルゲートレゾネータが同一の結晶面を伝搬する音響表面波に対して種々の伝搬方向を有する。表面波シングルゲートレゾネータの基板は種々の結晶を有していてよい。
【0017】
表面波シングルゲートレゾネータは個別の基板の上に配置されても共通の基板の上に配置されてもよい。
【0018】
インターディジタルトランスデューサおよび結合素子には条片状のリフレクタが配属されている。
【0019】
活性の電子回路は差動抵抗を備えた回路または増幅器であり、ここで、2つの周波数決定素子から成る接続体が表面波シングルゲートレゾネータの直列回路または並列回路である場合には、2つの周波数決定素子の接続体が増幅器の入出力側に対して直列または並列に増幅器へフィードバックされる。
【0020】
特に有利には、各表面波シングルゲートレゾネータの同期周波数の1次温度係数はともにゼロではなく、当該の1次温度係数どうしはそれぞれ符号が異なっている。例えば、結晶面が水晶のST面である場合、トランスデューサの歯およびリフレクタの条片に対して垂直な方向は、一方の表面波シングルゲートレゾネータでは水晶の結晶X軸に対して0°〜45°の角度で傾いており、他方の表面波シングルゲートレゾネータでは水晶の結晶X軸に対して45°より大きい角度で傾いている。
【0021】
トランスデューサの歯の周期およびアパーチャ、ならびに、表面波シングルゲートレゾネータの電極層の厚さは、設定された温度での共振が設定された周波数間隔を有するように選定される。
【0022】
実施例
本発明を以下に実施例に則して詳細に説明する。この実施例では、2つの周波数決定素子の接続体は温度補償型発振器に対する並列回路である。図1のaには本発明の回路の回路図が示されており、bにはインピーダンスと周波数との関係を表すグラフが示されている。
【0023】
図1のaの回路図によれば、水晶のST面である基板11の上に、2つの表面波シングルゲートレゾネータ12,13が配置されている。各表面波シングルゲートレゾネータはリフレクタ121,122およびインターディジタルトランスデューサ123から成るか、あるいは、リフレクタ131,132およびインターディジタルトランスデューサ133から成る。インターディジタルトランスデューサ123;133のアパーチャ124;134は相互に異なっている。インターディジタルトランスデューサ123の歯およびリフレクタ121;122の条片に対して垂直な方向は、結晶X軸に対して角度α12だけ傾いている。ここで角度α12は40°〜45°である。インターディジタルトランスデューサ133の歯およびリフレクタ131;132の条片に対して垂直な方向は、結晶X軸に対して角度α13だけ傾いている。ここで角度α13は45°〜50°である。角度α12,α13を有する方向では同期周波数の1次温度係数はゼロとは異なり、2次温度係数は同じ符号を有する。インターディジタルトランスデューサ123;133は接続線路125,135,14を介して相互に接続されており、キャパシタンス15に並列に接続されている。表面波シングルゲートレゾネータ12;13およびキャパシタンス15から成るレゾネータは2極性であり、その端子16,17は発振器回路に挿入される2つの極を表している。
【0024】
表面波シングルゲートレゾネータ12;13の並列回路のインピーダンスの値と端子16,17間で測定されるキャパシタンス15の値とは図1のbのグラフに示されているように周波数に対する関数となっており、破線で図1の端子16,17に接続されている。グラフには低周波数および高周波数の共振および反共振が示されている。1次温度係数および2次温度係数をインダクタンスなしで補償するのに必要な前提条件として、発振器回路は高周波数の反共振状態で駆動される。ここでの前提条件とは、インターディジタルトランスデューサのアパーチャ124,134と歯数との比の調整およびキャパシタンス15の調整により、1次温度係数および2次温度係数を補償するための条件である。
【図面の簡単な説明】
【0025】
【図1】本発明の回路の回路図、ならびに、インピーダンスと周波数との関係を表すグラフである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
直列または並列に接続された2つの周波数決定素子(12,13)の接続体と負の差動抵抗または負の差動コンダクタンスを有する活性の電子回路とを有しており、
前記周波数決定素子はインターディジタルトランスデューサ(123;133)を備えた表面波シングルゲートレゾネータとして構成されており、該2つの表面波シングルゲートレゾネータの同期周波数の1次温度係数の符号はそれぞれ異なり、2次温度係数の符号はそれぞれ等しい、
発振器回路において、
前記2つの表面波シングルゲートレゾネータはインダクタンス素子を介さずに相互に接続されており、ここで、該2つの周波数決定素子が並列に接続されている場合には前記接続体は高周波数の反共振状態で発振し、該2つの周波数決定素子が直列に接続されている場合には前記接続体は高周波数の共振状態で発振し、
アパーチャ比、および/または、同期周波数の負の符号の1次温度係数を有する表面波シングルゲートレゾネータのトランスデューサの歯数と同期周波数の正の符号の1次温度係数を有する表面波シングルゲートレゾネータのトランスデューサの歯数との比は、
・前記2つの周波数決定素子が直列に接続されておりかつ他の素子の影響によって1次温度係数が増大するときには、他の素子の温度特性を考慮しない場合より小さく選定されており、
・前記2つの周波数決定素子が直列に接続されておりかつ他の素子の影響によって1次温度係数が低下するときには、他の素子の温度特性を考慮しない場合より大きく選定されており、
・前記2つの周波数決定素子が並列に接続されておりかつ他の素子の影響によって1次温度係数が増大するときには、他の素子の温度特性を考慮しない場合より大きく選定されており、
・前記2つの周波数決定素子が並列に接続されておりかつ他の素子の影響によって1次温度係数が低下するときには、他の素子の温度特性を考慮しない場合より小さく選定されている
ことを特徴とする発振器回路。
【請求項2】
前記2つの周波数決定素子が並列に接続されている場合、前記接続体の高周波数の反共振状態では、前記電子回路の負の差動抵抗の値が前記接続体のオーム抵抗の値よりも大きく選定されているか、または、前記電子回路の負の差動コンダクタンスの値が前記接続体の実数のコンダクタンスよりも大きく選定されている、請求項1記載の発振器回路。
【請求項3】
前記2つの周波数決定素子が直列に接続されている場合、前記接続体の高周波数の共振状態では前記電子回路の負の差動抵抗の値が前記接続体のオーム抵抗の値よりも大きく選定されており、または、前記接続体の高周波数の反共振状態では前記電子回路の負の差動コンダクタンスの値が前記接続体の実数のコンダクタンスよりも大きく選定されている、請求項1記載の発振器回路。
【請求項4】
前記表面波シングルゲートレゾネータから成る並列回路に所定のキャパシタンスが並列に接続されている、請求項1記載の発振器回路。
【請求項5】
前記表面波シングルゲートレゾネータから成る前記並列回路の各分岐において、各表面波シングルゲートレゾネータに対して直列にキャパシタンスが挿入されている、請求項1記載の発振器回路。
【請求項6】
2つの前記表面波シングルゲートレゾネータは同じタイプの結晶基板または異なるタイプの結晶基板の上に形成されている、請求項1記載の発振器回路。
【請求項7】
前記表面波シングルゲートレゾネータは個別の基板の上または共通の基板の上に配置されている、請求項1記載の発振器回路。

【図1】
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【公表番号】特表2009−540640(P2009−540640A)
【公表日】平成21年11月19日(2009.11.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−513609(P2009−513609)
【出願日】平成19年6月7日(2007.6.7)
【国際出願番号】PCT/EP2007/005205
【国際公開番号】WO2007/141049
【国際公開日】平成19年12月13日(2007.12.13)
【出願人】(508361324)ヴェクトロン インターナショナル ゲゼルシャフト ミット ベシュレンクテル ハフツング ウント コンパニー コマンディートゲゼルシャフト (2)
【氏名又は名称原語表記】Vectron International GmbH & Co. KG
【住所又は居所原語表記】Potsdamer Strasse 18, D−14513 Teltow, Germany
【Fターム(参考)】