説明

風力発電設備に使用する減速装置

【課題】風力発電設備に使用する減速装置の破損を防止すると共に、該減速装置のメンテナンス作業の負担を軽減する。
【解決手段】風力発電設備に使用する減速装置G1であって、第2平行軸減速機構(前段減速機構)42と、最終段減速機構(後段減速機構)44と、第2平行軸減速機構42と最終段減速機構44との間に配置され所定値以上のトルクを伝達しないトルクリミッタ機構69を有するカップリング66と、第2平行軸減速機構42が収容されている空間とカップリング66が収容されている空間とを区画・シールするオイルシール104と、を備え、第2平行軸減速機構42が、オイルシール104によりシールされた状態でカップリング66から分離可能とされている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、風力発電設備に使用する減速装置に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1に、風力発電設備のナセル(発電室)のヨー制御、或いは風車ブレードのピッチ制御に使用する減速装置が開示されている。
【0003】
風力発電設備は、自然環境下に設置されるため、ときに乱れた風や突風を受けたりすることがある。
【0004】
この特許文献1では、風車ブレード側から設定値以上の過大トルクが入力されて来たときに、スリップカップリングを作動させ、駆動系の動力伝達を遮断して該駆動系の過負荷を防止する技術を開示している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】US2007−0098549A1(請求項1、段落[0015])
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
このスリップカップリングは、滑った後で、そのまま繰り返し使うことは想定されておらず、滑ったことを検知するセンサを備え、次のメンテナンス停止時にスリップカップリングのメンテナンス作業が行われるべきことが示されるように工夫されている。しかしながら、スリップカップリングは、特にそれだけを容易に交換できるような構成とはなされておらず、そのため、該スリップカップリングのメンテナンス或いは交換を行うためには、風力発電設備のナセルから減速装置(の全体)を一度地上に降ろし、スリップカップリングをメンテナンスあるいは交換した後に再びナセルにまで運び上げて該減速装置を設置し直す必要があった。
【0007】
しかしながら、風力発電設備のナセルは、地上から数十メートルの高さに設置されているものであり、スリップカップリングのメンテナンスや交換等のために大きく且つ重い減速装置をナセルから地上にまで降ろして再びナセルまで運び上げるには、多大な労力とコストを必要とする、という問題があった。
【0008】
本発明は、このような問題を解決するためになされたものであって、風力発電設備に使用する減速装置の破損を防止すると共に、該減速装置のメンテナンス作業の負担を軽減することをその課題としている。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明は、風力発電設備に使用する減速装置であって、少なくとも前段減速機構及び後段減速機構の2段の減速機構と、該前段減速機構と後段減速機構との間に配置され、所定値を超えるトルクを伝達しないトルクリミッタ機構を有するカップリングと、前記前段減速機構が収容されている空間と前記カップリングが収容されている空間とを区画・シールするオイルシールと、を備え、前記前段減速機構が、前記オイルシールによりシールされた状態で前記カップリングから分離可能とされている構成とすることにより、上記課題を解決したものである。
【0010】
本発明においては、前段減速機構と後段減速機構との間に所定値以上のトルクを伝達しないトルクリミッタ機構を有するカップリングを配備するようにした。そのため、減速装置全体をいたずらに大型化しなくても、一時的に風車ブレード側から入力されてきた過大トルクを逃がすことで減速装置内の各要素に当該過大トルクが直接掛かってしまうのを防止し、各要素の破損を防止できる。
【0011】
一方、このような構成を採用した場合には、不可避的にトルクリミッタ機構の一部または全部を定期または不定期に交換する必要が発生するようになるが、本発明においては、前段減速機構が収容されている空間とカップリングが収容されている空間とを区画・シールするオイルシールを備え、前段減速機構をこのオイルシールによりシールされた状態でカップリングから分離可能な構成としている。そのため、(カップリングの好ましい配置位置が、通常前段減速機構の後段側となるにも拘わらず)前段減速機構を取り外すことで(減速装置をナセルに据え付けた状態のまま)カップリングを容易に露出させることができる。したがって、カップリングを交換するために減速装置を地上に降ろしたり運び上げたりする必要がないだけでなく、狭いナセル内で該減速装置を再据え付けする労力も省略できるようになる。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、風力発電設備に使用する減速装置の破損を防止すると共に、該減速装置のメンテナンス作業の負担を軽減することができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】本発明の実施形態の一例に係る風力発電設備に使用する減速装置の全体断面図
【図2】上記減速装置の要部拡大断面図
【図3】上記減速装置のカップリングを取り出して示した断面図
【図4】上記風力発電設備の全体を示す正面図
【図5】上記風力発電設備のナセルに上記減速装置が組み込まれている様子を示す斜視図
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明の実施形態の一例に係る風力発電設備に使用する減速装置について詳細に説明する。
【0015】
始めに、当該減速装置が適用されている風力発電設備の概略から説明する。
【0016】
図4及び図5を参照して、この風力発電設備10は、円筒支柱11の最上部にナセル(発電室)12を備える。ナセル12には、ヨー(Yaw)駆動装置14と、ピッチ(Pitch)駆動装置16が組み込まれている。ヨー駆動装置14は、円筒支柱11に対するナセル12全体の旋回角を制御するためのものであり、ピッチ駆動装置16は、ノーズコーン18に取り付けられる3枚の風車ブレード20のピッチ角を制御するためのものである。
【0017】
この実施形態では、ヨー駆動装置14に本発明が適用されているため、ここではヨー駆動装置14について説明する。
【0018】
適宜に図1も合わせて参照して、このヨー駆動装置14は、モータ22及び出力ピニオン24付きの4個の減速装置G1〜G4及びそれぞれの出力ピニオン24と噛合する1個の旋回用内歯歯車28を備える。各減速装置G1〜G4は、それぞれナセル12の本体12A側の所定の位置に固定されている。各減速装置G1〜G4のそれぞれの出力ピニオン24が噛合している旋回用内歯歯車(外歯歯車でも良い)28は、円筒支柱11側に固定されている。
【0019】
この構成により、各減速装置G1〜G4のモータ22によって各出力ピニオン24を同時に回転させると、該出力ピニオン24が旋回用内歯歯車28と噛合しながら該旋回用内歯歯車28の中心36(図5参照)に対して公転する。この結果、ナセル12全体を円筒支柱11に固定されている旋回用内歯歯車28の中心36の周りで旋回させることができる。これにより、ノーズコーン18を所望の方向(例えば風上の方向)に向けることができ、効率的に風圧を受けることができる。
【0020】
前記減速装置G1〜G4は、それぞれ同一の構成を有しているため、ここでは減速装置G1について説明する。
【0021】
図1を参照して、減速装置G1は、ブレーキ装置(図示略)を備えたモータ22、直交歯車機構40、第1、第2平行軸減速機構41、42及び最終段減速機構44が動力伝達経路上でこの順にケーシングCa内に配置されている。本実施形態では、第2平行軸減速機構42が本発明の前段減速機構、最終段減速機構44が本発明の後段減速機構にそれぞれ相当している。
【0022】
なお、ケーシングCaは、高速側ケーシング体46と、継ケーシング体47と、低速側ケーシング体48とに分離可能である。低速側ケーシング体48は、更に、反負荷側カバー体48A、第1、第2本体48B、48C、及び負荷側カバー体48Dに分離可能である。
【0023】
以下、動力伝達経路上の順番に説明していく。モータ22のモータ軸50は、直交歯車機構40の入力軸を兼ねている。直交歯車機構40は、モータ軸50の先端に直切形成されたハイポイドピニオン52と、該ハイポイドピニオン52と噛合するハイポイドギヤ54とを備え、モータ軸50の回転方向を直角方向に変更している。ハイポイドギヤ54は、第1中間軸55に固定されている。第1中間軸55には、第1平行軸減速機構41のスパーピニオン56が直接形成されている。第1平行軸減速機構41は、このスパーピニオン56と、該スパーピニオン56と噛合するスパーギヤ58とを備えている。スパーギヤ58は、第2中間軸59に固定されている。第2中間軸59には、第2平行軸減速機構42のスパーピニオン60が直接形成されている。第2平行軸減速機構42は、このスパーピニオン60と、該スパーピニオン60と噛合するスパーギヤ61とを備えている。スパーギヤ61はキー62を介してホロー軸63に固定されている。ホロー軸63はキー65を介してカップリング66のカップリングハウジング68と連結されている。
【0024】
カップリング66は、該カップリングハウジング68の中にトルクリミッタ機構69を有している。カップリング66付近の構成については、後に詳述する。カップリング66の出力部材70は、スプライン71を介して最終段減速機構44の入力軸72と連結されている。
【0025】
最終段減速機構44は、該入力軸72に設けられた2つの偏心体74、該偏心体74を介して偏心揺動する2枚の外歯歯車76、該外歯歯車76が内接噛合する内歯歯車78を備えている。2枚の外歯歯車76は、その偏心位相が丁度180度ずれており、互いに離反する方向に偏心した状態を維持しながら揺動回転する。内歯歯車78は、低速側ケーシング体48の第1本体48Bと一体化されている。内歯歯車78の内歯はそれぞれ円筒状の外ピン78Aによって構成されている。内歯歯車78の内歯の数(外ピン78Aの数)は、外歯歯車76の外歯の数より1だけ多い。外歯歯車76には内ピン80が遊嵌されている。内ピン80は、出力フランジ82と一体化され、該出力フランジ82は減速装置G1の出力軸84と一体化されている。この実施形態では、内歯歯車78が低速側ケーシング体48の第1本体48Bと一体化されているため、最終段減速機構44の入力軸72が回転すると外歯歯車76が偏心体74を介して揺動し、該外歯歯車76の内歯歯車78に対する相対回転(自転)が、内ピン80及び出力フランジ82を介して出力軸84から取り出される構成とされている。出力軸84にはスプライン86を介して前出の出力ピニオン24が固定・連結されており、該出力ピニオン24が既に説明した旋回用内歯歯車28(図4、図5)と噛合する構成とされている。
【0026】
ここで、この実施形態では、第2平行軸減速機構(前段減速機構)42と、最終段減速機構(後段減速機構)44との間に、所定値を超えるトルクを伝達しないトルクリミッタ機構69を有するカップリング66が配置されている。
【0027】
以下、図2、図3を合わせて参照して、カップリング66付近の構成について詳細に説明する。図2は、該カップリング66付近の要部拡大断面図、図3は、カップリング66のみを取り出して示した断面図である。
【0028】
カップリング66は、該カップリング66の入力軸として機能するカップリングハウジング68、トルクリミッタ機構69、及び該カップリング66の出力軸として機能する出力部材70から主に構成されている。
【0029】
カップリングハウジング68は、前段のホロー軸63とキー65を介して連結される軸部68A、及びトルクリミッタ機構69を収容する収容部68Bを一体に有している。
【0030】
収容部68B内に収容されたトルクリミッタ機構69は、複数の第1摩擦板88と複数の第2摩擦板89を軸方向に交互に有している。第1摩擦板88は、カップリングハウジング68(の収容部68B)に形成されたスプライン68Cに沿って軸方向に移動可能で、且つ該カップリングハウジング68と円周方向に固定されている。第2摩擦板89は、出力部材70に形成されたスプライン70Aに沿って軸方向に移動可能で、且つ該出力部材70と円周方向に固定されている。
【0031】
第1、第2摩擦板88、89は、ばね90によって軸方向負荷側に付勢されている。一方、第1摩擦板88と当接しているスペーサ92は、前記スプライン68Cにそって軸方向に移動可能である。また、該スペーサ92と当接しているカバー体94は、カップリングハウジング68に嵌め込まれた止め輪96によって軸方向負荷側に移動できない構成とされている。すなわち、第1、第2摩擦板88、89は、ばね90の付勢力に対する反力を、スペーサ92、カバー体94及び止め輪96を介してカップリングハウジング68から受けることができる。この結果、第1、第2摩擦板88、89は、伝達トルクが所定値以下の場合は、(互いに一体的に回転することで)カップリングハウジング68及び出力部材70との間のトルク伝達を可能とするが、伝達トルクが所定値を超えると、該第1、第2摩擦板88、89が滑り出すため(所定値を超えるトルクは)伝達しないという特性を有することになる。
【0032】
カップリング66の出力部材70は、ニードル73を介してカップリングハウジング68の収容部68Bの凹部68B1に回転自在に支持されている。なお、符号75は、出力部材70と最終段減速機構44の入力軸72の軸受79との軸方向の位置を規制するブッシュである。前述したように、出力部材70は、スプライン71を介して最終段減速機構44の入力軸72と連結されている。
【0033】
カップリングハウジング68のカバー体94と出力部材70との間には、カップリングシール100、102が2つ並べて配置されており、カップリングハウジング68の収容部68B内を密閉している。収容部68B内にはオイルが充填されており、トルクリミッタ機構69の構成要素である第1、第2摩擦板88、89を潤滑している。すなわち、第1、第2摩擦板88、89は、湿式の摩擦板である。なお、2つのカップリングシール100、102は、若干の隙間δを有して配置されており、該隙間δにはちょう度の低い(硬い)グリースが封入されている。
【0034】
カップリング66は、継ケーシング体47の空間S1内に収容されている。このカップリング66が収容されている空間S1と(前段減速機構である)第2平行軸減速機構42が収容されている空間S2は、オイルシール104によって区画・シールされている。そのため、ボルト106を外すことで第2平行軸減速機構42を、(オイルシール104によりシールされた状態で)そっくりカップリング66から分離することができ、カップリング66を露出させることができる。
【0035】
また、この実施形態では、カップリング66が収容されている空間S1と、最終段減速機構44が収容されている空間S3とを区画・シールするオイルシール108を有している。このため、カップリング66を最終段減速機構44から分離することもできるようになっている。
【0036】
次に、この実施形態に係るヨー駆動装置の減速装置G1の作用を説明する。
【0037】
モータ22のモータ軸50の回転は、直交歯車機構40のハイポイドピニオン52及びハイポイドギヤ54の噛合によって初段減速され、同時に回転軸の方向が90度変更されて第1平行軸減速機構41の中間軸55に伝達される。
【0038】
中間軸55の回転は、第1平行軸減速機構41のスパーピニオン56、スパーギヤ58、第2平行軸減速機構42の中間軸59、スパーピニオン60、およびスパーギヤ61によって減速され、キー62によってホロー軸63に伝達される。ホロー軸63の回転は、キー65を介してカップリング66の(入力軸に相当する)カップリングハウジング68に伝達される。
【0039】
カップリング66の作用効果については、後に詳細に説明する。
【0040】
カップリング66の(出力軸に相当する)出力部材70が回転すると、スプライン71を介して最終段減速機構44の入力軸72が回転する。最終段減速機構44の入力軸72が回転すると、偏心体74を介して外歯歯車76が(内歯歯車78に内接しながら)揺動回転するため、内歯歯車78との噛合位置が順次ずれてゆく現象が生じる。この結果、最終段減速機構44の入力軸72が1回回転する毎に、外歯歯車76が1回揺動し、(固定状態にある)内歯歯車78に対して1歯分ずつ位相がずれて行くようになる(自転成分が発生する)。この自転成分を内ピン80、出力フランジ82を介して出力軸84側に取り出すことにより、最終段減速機構44での減速が実現される。出力軸84の回転はスプライン86を介して出力ピニオン24に伝達される。出力ピニオン24は旋回用内歯歯車28と噛合しており、且つ、該旋回用内歯歯車28は、円筒支柱11側に固定されているため、結局、反作用によって該円筒支柱11に対してナセル12自体が水平方向に旋回する。
【0041】
ここでカップリング66の作用効果について詳細に説明する。
【0042】
キー65を介してカップリングハウジング68が回転すると、該カップリングハウジング68と円周方向に固定されている(トルクリミッタ機構69の)複数の第1摩擦板88が一体的に回転する。各第1摩擦板88は、ばね90の付勢力によって複数の第2摩擦板89を強く挟持した状態とされているため、カップリングハウジング68から伝達されてくる回転トルクが所定値以下のときは、該カップリングハウジング68の回転トルクは、第1摩擦板88及び第2摩擦板89を介して出力部材70に伝達されることになる。出力部材70は、スプライン71を介して最終段減速機構44の入力軸72を回転させる。これが通常のモータ駆動による運転時の作用である。
【0043】
一方、突風や暴風等が風車ブレード20に作用することによってナセル12を旋回させようとする巨大なトルクがヨー駆動用の減速装置G1の出力ピニオン24側から入力されて来た場合、この巨大な「風力負荷」は、該減速装置G1の最終段減速機構44を逆から駆動する。すなわち、最終段減速機構44の入力軸72がスプライン71を介してカップリング66の出力部材70を回転させようとする。この負荷トルクが、前記所定値以下の大きさであれば、カップリング66のトルクリミッタ機構69の第1、第2摩擦板88、89との間で滑りは発生せず、該負荷トルクはそのまま減速装置G1の第2平行軸減速機構42側へと更に伝達されて行き、最後にモータ22に付設された図示せぬブレーキ装置によって受け止められる。この結果、風によるナセル12の動きは確実に制動される。また、この場合、減速装置G1の各部には特に異常は発生しない。
【0044】
しかし、所定値を超える負荷トルクが出力ピニオン24側(出力部材70側)から入力されて来ると、トルクリミッタ機構69の第1、第2摩擦板88、89との間で滑りが発生するようになる。そのため、出力ピニオン24側からの負荷トルクの一部をここで逃がすことができる。したがって、ナセル12は多少風によって旋回するが、モータ22や減速装置G1内の歯車、軸受等の破損等が防止できる。また、突風や暴風等が止んだときには、カップリング66のトルクリミッタ機構69は、再び本来のトルク伝達状態に自動的に復帰するため、そのままヨー駆動装置14の減速装置G1としての運転を継続することができる。
【0045】
この実施形態においては、第2平行軸減速機構42が収容されている空間S2とカップリング66が収容されている空間S1とを区画・シールするオイルシール104を備えているため、ボルト106を外すことによって第2平行軸減速機構42を(該オイルシール104によりシールされた状態で)カップリング66から分離することができる。すなわち、第2平行軸減速機構42は、オイルシール104の存在により、継ケーシング体47から取り外しても第2平行軸減速機構42の空間S2のオイルが漏れ出たりすることはない。そのため、減速装置G1の低速側ケーシング体48をナセル12の本体12A側に据えつけた状態のまま(出力ピニオン24を旋回用内歯歯車28に噛合させた状態のまま)、カップリング66を露出させることができる。したがって、この状態でメンテナンスが可能であり、必要ならば、カップリング66を交換することもできる。
【0046】
とりわけ、この実施形態では、更に、カップリング66が収容されている空間S1と最終段減速機構44が収容されている空間S3とを区画・シールするオイルシール108を備えているため、カップリング66周りのオイルを何らかの方法で抜き取った後にボルト77を外すことによって、継ケーシング体47を取り外すこともできる。したがって、カップリング66を最終段減速機構44から完全露出した状態とすることができ、カップリング66を極めて容易に分離・交換することが可能である。この作用効果は、カップリング66の交換に当たって減速装置G1を地上に降ろす必要がないだけでなく、該減速装置G1の低速側ケーシング体48をナセル12の本体12A側に据えつけた状態のままカップリング66の交換ができるという点で、極めて大きなメリットとなる。
【0047】
また、本実施形態に係る減速装置G1によれば、風力による過大負荷の対策のためにセンサや電気的制御系が不要であるため、落雷や浸水等で制御系がダメージを受け易いような悪天候状態でも信頼性の高い作動が可能である。とりわけ、カップリング66のトルクリミッタ機構69は、湿式であるため、外界の(悪天候の)影響を受けることなく、常に設定された「所定値」で滑り出す特性を高い再現性で実現することができる。
【0048】
また、本実施形態のカップリング66は、3段目の第2平行軸減速機構(前段減速機構)42と、最終段減速機構(後段減速機構)44との間に配置されている。このため、モータ22との間に3段の前段減速機構が存在することから、第1、第2摩擦板88、89が滑ったとしても、その相対回転速度が小さい(摩耗が少ない)。また、出力ピニオン24との間に1段の後段減速機構が存在することから、その分、カップリング66の取り扱い容量を小さくすることができ、カップリング66の各部材の小型化が実現できる、というメリットが得られる。
【0049】
また、第1、第2摩擦板88、89を収容部68B内に密封しているカップリングシール100、102を2つ備えているため(更には、該2つのカップリングシール100、102の間の隙間δにはグリースが封入されているため、一層)、カップリング66だけを取り外しても収容部68B内のオイルが漏れ出ることはない。また、第1、第2摩擦板88、89が滑ることによって発生する摩耗粉が、最終段減速機構44側に混入するのを確実に防止することができる。これにより、特に最終段減速機構44の入り口に配置されたオイルシール108の損傷を低減でき、該オイルシール108の寿命を増大できる。また、この2つのカップリングシール100、102の存在により、同時に、最終段減速機構44側からの摩耗粉がカップリング66の収容部68B内に侵入するのを防止できるため、最終段減速機構44内の摩耗粉によって第1、第2摩擦板88、89の作動に悪影響が及ぶのを防止できる。
【0050】
なお、上記実施形態においては、トルクリミッタ機構として複数の湿式の摩擦板を有するタイプのものが採用されていたが、本発明においては、トルクリミッタ機構の構成は、特にこの構成に限定されるものでなく、例えば、乾式の摩擦板を用いるものであってもよい。また、必ずしも摩擦板を用いたものである必要はなく、例えば、外周に凹凸(カム)の形成された円板と、所定の付勢力で該円板の凹部に押し付けられたボールとを有したタイプのトルクリミッタ機構を採用してもよい。このトルクリミッタ機構は、円板が組み込まれた部材と、ボールが組み込まれた部材との間で伝達されるトルクが所定値以下のときは、ボールと円板が一体的に回転することで該トルクを伝達可能であるが、伝達されるトルクが所定値を超えるとボールが円板の凸部を越える(円板とボールとが相対回転し、トルク伝達が行われなくなる)ような構成とされている。このようなトルクリミッタ機構においても、所定値を超えるトルクが掛かったときには、ボールが円板の凹凸を越えながら(半径方向に往復動しながら)円板の外周を転動することになることから、やはり円板やボールに摩耗や転動疲労が発生し易い。したがって、所定のタイミングでトルクリミッタ機構のメンテナンスや交換が必要になるため、本発明が有効に機能する。
【0051】
また、上記実施形態の減速装置は、計4段の減速段を有し、このうちの第3段目と4段目(最終段)との間にカップリングが配置されていたが、本発明では、少なくとも前段減速機構及び後段減速機構の2段の減速機構を備え、該前段減速機構と後段減速機構との間にカップリングが配置される限り、減速機構の段数や具体的な構成は限定されない。例えば、減速機構は、ウォーム減速機構や単純遊星減速機構であってもよい。
【0052】
また、上記実施形態では、ヨー駆動用の減速装置に本発明が適用された例が示されていたが、本発明は、例えば、ピッチ駆動装置の減速装置にも同様に適用可能であり、同様な作用効果が得られる。
【符号の説明】
【0053】
10…風力発電設備
11…円筒支柱
12…ナセル(発電室)
14…ヨー駆動装置
16…ピッチ駆動装置
18…ノーズコーン
20…風車ブレード
22…モータ
24…出力ピニオン
42…第2平行軸減速機構(前段減速機構)
44…最終段減速機構(後段減速機構)
66…カップリング
69…トルクリミッタ機構

【特許請求の範囲】
【請求項1】
風力発電設備に使用する減速装置であって、
少なくとも前段減速機構及び後段減速機構の2段の減速機構と、
該前段減速機構と後段減速機構との間に配置され、所定値を越えるトルクを伝達しないトルクリミッタ機構を有するカップリングと、
前記前段減速機構が収容されている空間と前記カップリングが収容されている空間とを区画・シールするオイルシールと、を備え、
前記前段減速機構が、前記オイルシールによりシールされた状態で前記カップリングから分離可能とされている
ことを特徴とする風力発電設備に使用する減速装置。
【請求項2】
請求項1において、更に、
前記カップリングは、前記トルクリミッタ機構の構成要素を潤滑するオイルと、該オイルを密閉するカップリングシールと、を備え、
前記カップリングが、該カップリングシールによりシールされた状態で前記後段減速機構から分離可能とされている
ことを特徴とする風力発電設備に使用する減速装置。
【請求項3】
請求項2において、
前記カップリングシールが、2つ並べて配置されると共に、各カップリングシールの間にグリースが、封入されている
ことを特徴とする風力発電設備に使用する減速装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2012−225490(P2012−225490A)
【公開日】平成24年11月15日(2012.11.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−96209(P2011−96209)
【出願日】平成23年4月22日(2011.4.22)
【出願人】(000002107)住友重機械工業株式会社 (2,241)
【Fターム(参考)】