説明

駆動アクスル

【課題】 フレキシブルに使用できる駆動アクスルを提供する。
【解決手段】 各アクスル端部に配置された2本の駆動軸(51’、51”)を備え、この駆動軸が共通の回転軸線(R)上に設けられている、駆動アクスル(1)であって、駆動原動機(2)と後続配置の差動装置(4)とを具備し、各減速装置を介して各駆動軸(51’、51”)を駆動するために、2本の被駆動軸(5’、5”)が上記差動装置の両出力部に設けられている、駆動アクスル(1)において、減速装置(7’、7”)が平歯車装置として形成され、駆動原動機と差動装置の出力部が駆動軸の共通の回転軸線に対して非同軸に配置された回転軸線(R)を有するように、減速装置が構成されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、請求項1の前提部分に記載した駆動アクスル(drive axle)に関する。
【背景技術】
【0002】
この種の駆動アクスルは下記特許文献1によって知られている。この場合、駆動原動機と差動装置が設けられ、差動装置の両出力部からそれぞれ被駆動軸が駆動アクスルの各アクスル端部まで案内されている。各アクスル端部にはそれぞれ減速装置が設けられている。この減速装置はホイールベアリングを一体化したホイールハブ駆動装置の1段式または多段式遊星歯車装置として形成されている。駆動アクスルの動力伝達路内においてそれぞれ十分後方に配置された減速装置によって、トルク増大作用が後の箇所で行われ、それに伴い動力伝達路内においてその手前の構成要素を比較的に弱い強度を有するように設計することができる。差動装置が遊星歯車装置として形成されていることにより、駆動アクスルの両ホイールハブと駆動原動機および差動装置がほぼ同軸に配置され、ひいては共通軸的な回転アクスルが生じる。
【0003】
下記特許文献2は駆動原動機と差動装置との間に平歯車段を備えた駆動アクスルを提案している。この平歯車段の減速によって、動力伝達路においてそのあとでトルクが増大し、それによって駆動アクスルにおいて後続の動力伝達のために、より大きな強度を有する構成要素が必要である。
【0004】
下記特許文献3は差動装置と一方のアクスル端部との間の区間のためのバイパス伝動装置を備えた駆動アクスルを開示している。それによって、このアクスル区間では、回転軸線に対して平行な伝達路で動力が伝達される。このコストのかかる構造により、バイパス伝動装置の領域において部品を、回転軸線上にあるいは回転軸線のすぐそばに配置することが可能になる。下記特許文献4は、差動装置を用いずにアクスル端部に接続された2個の車輪を有する駆動アクスルを開示している。その際、電動機として形成された駆動原動機のロータは一方の車輪に接続され、ステータは他方の車輪に接続され、片方の車輪の回転方向を逆転させるための変速可能な装置が付加的に設けられている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】独国特許発明第4300445C2号明細書
【特許文献2】独国特許出願公開第10219921A1号明細書
【特許文献3】独国特許出願公開第10211193A1号明細書
【特許文献4】欧州特許第0867324B1号明細書
【特許文献5】国際公開第00/06483A1号パンフレット
【特許文献6】独国特許出願公開第102004058984A1号明細書
【特許文献7】独国特許発明第29518402U1号明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明の課題は、冒頭に述べた駆動アクスルを改良し、特にフレキシブルに使用できるように形成することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
この課題は請求項1の特徴によって解決される。従属請求項は本発明の有利な実施形態と発展形態に関する。
【0008】
本発明に従い、駆動アクスルの減速装置が平歯車装置として形成され、駆動原動機と差動装置の出力部が駆動軸の共通の回転軸線に対して非同軸に配置された回転軸線を有するように、減速装置が構成されている。換言すると、本発明は、駆動アクスルの重要な構成要素が両駆動軸の共通の回転軸線に対して平行ではあるが同軸でないように設けられることを提案している。容積の大きなまたはアクスルを形成する構成要素の少なくとも一部が、駆動原動機や差動装置と共に、共通の回転軸線の傍らにまたは外に設けられている。それによって、この駆動アクスルはきわめて簡単に使用され得る。その理由は、両平歯車装置の具体的な実施形態に依存して、駆動アクスルの重要な構成要素を駆動軸に対して空間的にフレキシブルに配置できるようになるからである。そして、このような駆動アクスルの領域においてよくある厳しい構造空間要求に簡単に答えることができる。さらに、両アクスル端部、すなわち特に両平歯車装置をほぼ同一に構成することにより、この駆動アクスルが比較的に簡単な構造となる。
【0009】
本発明に係る駆動アクスルは車両のための唯一の駆動装置として設けることができる。これに加えて、前輪アクスルまたは後輪アクスルとしての駆動アクスルの使用に相応して、前輪駆動装置または後輪駆動装置を備えた電気自動車を具現化するために、駆動原動機は電動機として設けられている。また、その代わりに、本発明に係る駆動アクスルは車両の付加的な駆動のために設けることが可能である。例えば内燃機関で駆動される後車軸を備えた自動車の場合に、本発明に係る駆動アクスルを例えば電気式前アクスルとして設けることができる。それによって、いわゆる前アクスルハイブリッドとなる。この前アクスルハイブリッドの場合には、後アクスルが内燃機関で駆動可能であり、前アクスルが電気で駆動可能である。もちろん、後アクスルとしての駆動アクスルの使用、あるいは、このような駆動アクスルの複数個の使用も可能である。
【0010】
本発明の有利な実施形態では、駆動原動機と差動装置の回転軸線が空間的に駆動軸の共通の回転軸線の下方に設けられている。このような「逆門形アクスル」は、例えば燃料タンクのような車両構成部品を駆動アクスルの上方に、ひいては衝突保護領域内に配置することを有利な方法で可能にする。そして、このような駆動アクスルを備えた車両の低重心化が他の利点として生じる。
【0011】
本発明の他の有利な実施形態では、駆動原動機と差動装置の回転軸線が空間的に駆動軸の共通の回転軸線の前方または後方に配置されている。これにより、操舵装置やブレーキの構成部品のような車輪に関連する車両部品を、車輪近くの所望な領域に個々に配置することができる。もちろん、適切な組み合わせも可能であり、例えば駆動アクスルの駆動軸の共通の回転軸線の空間的に幾分前方および幾分下方の配置も可能である。
【0012】
本発明の有利な実施形態では、駆動原動機が電気機械として形成されている。それによって、きわめてコンパクトに形成された駆動アクスルが生じる。このような電気機械は好ましくは150mmよりも小さな(ケーシング)直径および/または200mmよりも短い(ケーシング)長さを有する。「長くて細い」電気機械により、一層高い出力密度が生じる。このような電気機械の比較的に小さなトルクは、両平歯車装置の適切に選定された減速比によって補償される。このような電気機械によって、例えばこのような駆動アクスルのエネルギー回収運転の場合、すなわち駆動原動機を発電機として運転する場合に、車両の高速時にも回収が可能である。もちろん、他の駆動原動機、例えば液圧式駆動原動機を使用することも可能である。
【0013】
電気機械を備えたこのような駆動アクスルのフレキシビリティをさらに改善するために、電気機械を短時間過負荷運転するための手段を設けることができる。この手段は、過負荷運転を数秒間に制限するために、例えば電子的な限時回路として形成可能である。このような時間制御によって、電気機械の損傷を防ぐことができるが、回収エネルギー量または駆動出力が短時間だけ大幅に上昇する。代替的にまたは付加的に、温度監視を行うことができる。
【0014】
電気機械を備えた駆動アクスルのフレキシブリティを高めるために、電気機械と両駆動軸との間の減速比を変更するための装置が代替的にまたは付加的に設けられている。例えば段付きのこのような変速可能な装置は、車両の実際の走行状態に対して、駆動アクスルの電気機械の回転数を有利に適合させることができる。変更装置が電気機械と差動装置との間に変速可能な遊星歯車装置として設けられているときわめて有利である。
【0015】
本発明のきわめて有利な実施形態では、車両の左車輪または右車輪を駆動するために、両駆動軸の後側に各カルダン軸が接続配置されている。それに加えて、駆動軸は駆動アクスルから離れたその各端部に、適切に形成された収容部を備えている。それによって、カルダン軸が比較的に短くなり、そしてカルダン軸を介して車輪を駆動アクスルの駆動軸に接続する際に良好な折れ角が生じる。その代わりに、駆動軸を車両の各車輪または各リムに直接接続してもよい。
【0016】
図に基づいて本発明を詳しく説明する。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】本発明のきわめて有利な実施形態を示す。
【発明を実施するための形態】
【0018】
駆動原動機2と差動装置4を備えた駆動アクスル1が示してある。本実施形態の駆動原動機2はロータ2aを有する電気機械として形成されている。ロータ2aは中空軸3に相対回転しないように連結されている。その際、中空軸3の軸受と電気機械2は、破線で略示した駆動アクスルのケーシングに支持されている。差動装置4は例えば遊星歯車式差動装置またはかさ歯車式差動装置として形成され、そしてそれぞれ被駆動軸5’、5”を有する2つの出力部を備えている。被駆動軸5’は電気機械2を通って延在する中空軸3を通過し、平歯車装置7’まで案内されている。被駆動軸5”は平歯車装置7”まで案内されている。
【0019】
本実施形態の場合、電気モータ2の回転運動は遊星歯車段9を経て差動装置4に伝達される。遊星歯車段9は変速可能な装置としての働きをする。この場合、本実施形態は約2.5のアクスルギヤ比を有する。本実施形態の場合、平歯車装置7’、7”はそれぞれ、各被駆動軸5’、5”上に第1歯車71’、71”を備えている。この第1歯車71’、71”は、駆動アクスルの各駆動軸51’、51”に相対回転しないように連結された第2歯車72’、72”にかみ合っている。
【0020】
その際、駆動軸51’、51”は共通の回転軸線Rを有する。この共通の回転軸線Rは実際に存在する連続する軸線ではなく、両駆動軸51’、51”の回転軸線の仮想の接続線である。電気機械2は差動装置4の両出力部と同様に、回転軸線Rの回りに回転する。この回転軸線Rは同時に、電気機械2と差動装置4の対称軸線を近似的に示している。回転軸線R、Rが平行であるが、同軸ではないことが重要である。本実施形態の場合に、図に示すように、回転軸線Rが回転軸線Rの下方に位置している。それによって、駆動アクスル1の駆動軸51’、51”は、駆動アクスル1の容積の大きな構成要素またはアクスルを形成する構成要素、すなわち特に電気機械2と差動装置4から、空間的に分離される。従って、所望の構造空間要求に応じて、駆動アクスル1の構成要素とその駆動軸51’、51”の空間的な適用が可能である。
【0021】
駆動アクスル1の駆動軸51’、51”はそれぞれ、(図示していない)カルダン軸を介して、車両の左側車輪または右側車輪に接続可能である。そのために、駆動軸51’、51”はそのアクスル外側の端部が、図においてそれぞれ概略的に表されているように、拡大部によって各カルダン軸を接続するように形成されている。それによって、駆動アクスル1は車両の左側車輪と右側車輪を駆動するために使用可能である。その際、所望な車両の構造空間形状に合わせて、駆動アクスル1を個々に形成することができる。これによって特に、車両の既存の車両アクスルを比較的に簡単に駆動アクスル1と置換えることができ、そして適合した適切なカルダン軸を車輪の左側車輪または右側車輪に接続することができる。従って、既存のアクスルはほとんど交換され得る。
【0022】
駆動アクスル1により、車両を駆動するための構造空間上の利点のほかに、カルダン軸を介して車両の車輪に駆動軸51’、51”を連結する場合の折れ角が改善されるという利点がある。さらに、車両の重心が低くなるという利点がある。減速段としての平歯車装置7’、7”が駆動アクセルの動力伝達路においてカルダン軸または車輪のすぐ手前に設けられているので、トルク上昇があとの個所で行われ、それに伴い駆動アクスルの動力伝達路の構成要素を比較的に小さなトルクに合わせて設計することができる。
【0023】
例示的にのみ図示した実施形態では、電気機械のケーシング直径が約130mmで、ケーシング長さが約200mmであった。このような電気機械によって、約18000回転/分の最高回転数と、約60kW/hの最大機械出力が達成可能である。この場合、約100Nmの最大トルクが持続的に達成可能である。さらに、短時間の過負荷運転では、150Nmよりも大きなトルクが数秒間の短期トルクとして達成可能である。駆動アクスルはその直径に関して比較的に長く形成した電気機械の使用によって、高い出力密度を利用することと、エッジ領域の磁界の弱体化によって損失を小さくすることを可能にする。
【符号の説明】
【0024】
1 駆動アクスル
2 駆動原動機
4 差動装置
5’、5” 被駆動軸
7’、7” 減速装置
51’、51” 駆動軸
、R 回転軸線

【特許請求の範囲】
【請求項1】
各アクスル端部に配置された2本の駆動軸(51’、51”)を備え、当該駆動軸が共通の回転軸線(R)上に設けられている、駆動アクスル(1)であって、駆動原動機(2)と後続配置の差動装置(4)とを具備し、各減速装置を介して前記各駆動軸(51’、51”)を駆動するために、2本の被駆動軸(5’、5”)が前記差動装置の両出力部に設けられている、駆動アクスル(1)において、
前記減速装置(7’、7”)が平歯車装置として形成され、前記駆動原動機と前記差動装置の出力部が前記駆動軸の共通の回転軸線に対して非同軸に配置された回転軸線(R)を有するように、前記減速装置が構成されていることを特徴とする駆動アクスル(1)。
【請求項2】
前記駆動原動機と前記差動装置の回転軸線が前記駆動軸の共通の回転軸線の下方に配置されていることを特徴とする請求項1に記載の駆動アクスル。
【請求項3】
前記駆動原動機と前記差動装置の回転軸線が前記駆動軸の共通の回転軸線の前方または後方に配置されていることを特徴とする請求項1または2に記載の駆動アクスル。
【請求項4】
前記駆動原動機が電気機械として形成されていることを特徴とする請求項1乃至3のいずれか一項に記載の駆動アクスル。
【請求項5】
前記電気機械が150mmよりも小さな直径と、200mmよりも短い長さを有することを特徴とする請求項4に記載の駆動アクスル。
【請求項6】
前記電気機械を短時間過負荷運転するための手段が設けられていることを特徴とする請求項4または5に記載の駆動アクスル。
【請求項7】
前記電気機械と前記両駆動軸との間の減速比を変更するための変更装置が設けられていることを特徴とする請求項4乃至6のいずれか一項に記載の駆動アクスル。
【請求項8】
前記変更装置が前記電気機械と前記差動装置との間に変速可能な遊星歯車装置として設けられていることを特徴とする請求項7に記載の駆動アクスル。
【請求項9】
自動車の左車輪または右車輪を駆動するために、前記駆動軸が各カルダン軸を接続できるように構成されていることを特徴とする請求項1乃至8のいずれか一項に記載の駆動アクスル。

【図1】
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【公開番号】特開2010−168035(P2010−168035A)
【公開日】平成22年8月5日(2010.8.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−284114(P2009−284114)
【出願日】平成21年12月15日(2009.12.15)
【出願人】(508174975)ドクトル イング ハー ツェー エフ ポルシェ アクチエンゲゼルシャフト (134)
【氏名又は名称原語表記】Dr. Ing. h.c. F. Porsche Aktiengesellschaft
【住所又は居所原語表記】Porscheplatz 1, D−70435 Stuttgart, Germany
【Fターム(参考)】