説明

駆動力制御装置

【課題】左右二輪に個別に設けられた電動機のいずれか一方が故障した場合に、車両の挙動変化を抑制すること。
【解決手段】左右二輪3FL,3FRに個別に設けられた電動機4L,4Rのいずれか一方が故障したことが故障検出手段によって検出された場合に、蓄電装置とモータECUとの間の回路を、該回路に介在された電力供給遮断機構7によって電気的もしくは機械的に遮断することにより、モータECUに対する電力供給を遮断する。その結果、モータECUが作動せず、電動機4L,4Rの両方が駆動トルクを発生しないので、車両Veの挙動変化を抑えることができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、複数の車輪を個別独立して駆動あるいは制動可能な車両の駆動力制御装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、車輪ごとにモータを有して各車輪を個別独立して駆動可能な車両が提案されており、その一例が特許文献1ないし特許文献5に記載されている。これらの特許文献1ないし特許文献3には、複数の車輪に設けられた電動機のいずれかが駆動不能になった場合に、他の各車輪に設けられた電動機によって車両の駆動トルクを分配し、車両の挙動変化が生じにくいように構成されている。また、電動機に電力を供給するインバータに異常が生じた場合には、異常が発生したインバータを使用せず、他の正常に動作するインバータを電動機に接続して電動機を駆動させて車両の挙動変化が抑えられるように構成されている。さらにまた、特許文献4および特許文献5には、電動機を個別独立して制御するためのインバータの制御装置が記載されている。
【0003】
【特許文献1】特開2005−119647号公報
【特許文献2】特開2007−203998号公報
【特許文献3】特開2008−30626号公報
【特許文献4】特開平5−153702号公報
【特許文献5】特開2008ー187842号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1ないし特許文献3に記載された各発明は、電動機が駆動不能となった場合に車両の挙動変化を抑えるように構成されているが、電動機が駆動不能状態と駆動可能状態とを繰り返し、いわゆる制御のハンチングが発生した場合については考慮されていない。例えば特許文献1には、左右の駆動輪ごとにインバータを設け、いずれか一方が故障した場合に、他方のインバータを代替的に使用して故障している側の駆動輪で再度駆動力を発生できるように復帰させる装置が記載されている。しかしながら、故障の原因あるいは要因が除去されていない状態で駆動力を復帰させると、再度故障が生じ、制御のハンチングが生じ、あるいは駆動力の変動が頻発して車両の挙動が不安定になるなどの可能性がある。
【0005】
この発明は上記の技術的課題に着目してなされたものであり、左右二輪に個別に設けられた電動機のいずれか一方の電動機が駆動不能な場合に、車両安定性を確保しつつ、制御のハンチングを抑制できる駆動力制御装置を提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記の目的を達成するために、請求項1の発明は、車両における複数の車輪のうち少なくとも左右二輪に個別に設けられ、かつ供給される電力の増減にともなって駆動トルクが増減される電動機の駆動力制御装置において、前記電動機に対する電力供給の瞬断を含む前記電動機の故障を検出する故障検出手段と、前記故障検出手段によって前記電動機のいずれか一方に故障が検出された場合に、前記左右の電動機の両方に対する前記電力の供給を電気的もしくは機械的に遮断する電力供給遮断機構とを備えていることを特徴とするものである。
【発明の効果】
【0007】
請求項1の発明によれば、故障検出手段によって左右二輪のいずれか一方の電動機の故障が検出された場合に、左右二輪に個別に設けられた電動機の両方に対する電力供給が電力供給遮断機構によって電気的もしくは機械的に遮断されるので、左右二輪間における駆動トルクの変化を抑制でき、車両の挙動変化を抑えることができる。また、電力の供給が遮断されるから、電動機が駆動不能状態と駆動可能状態とを繰り返し、いわゆる制御のハンチングが発生することを防止もしくは抑制することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0008】
つぎに、この発明の実施例を図面に基づいて説明する。図1は、この発明で対象とする車両Veを模式的に示す図であり、符号1はエンジンを示し、符号2は動力伝達軸を示し、この動力伝達軸2を介して、エンジン1の出力するトルクを右後輪3RR,左後輪3RLに伝達するように構成されている。また右前輪3FRおよび左前輪3FLには、その左右前輪3FL,3FRを独立して駆動可能な電動機4L,4Rが設けられている。また、符号5はインバータを示し、このインバータ5によって、図示しない蓄電装置から供給された電力を電動機4L,4Rの駆動に適した電力値に変換する。インバータ5によって変換された電力が回路6L,6Rを流れて電動機4L,4Rに供給される。なお、電動機4L,4Rは、図示しないモータ制御装置(以下、モータECUと記す。)によって制御されるように構成されている。また、このモータECUは、この発明における電動機の故障を検出する故障検出手段に相当する。符号7は、電力供給遮断機構を示し、この電力供給遮断機構7は蓄電装置とモータECUとの間の回路に介在され、電動機4L,4Rへの電力供給を電気的もしくは機械的に遮断することができるように構成されている。
【0009】
エンジン1としてはガソリンエンジンまたはディーゼルエンジンまたはLPGエンジンなどが挙げられる。以下に記す実施例では、主としてガソリンエンジンが使用された場合について説明する。さらに、電動機には、電力の供給により駆動され電動機としての力行機能と、機械エネルギを電気エネルギに変換する発電機としての回生機能とを兼ね備えたモータ・ジェネレータを用いることができる。
【0010】
また図2に、この発明における電力供給遮断機構7の一例を模式的に示してある。この電力供給遮断機構7は、蓄電装置とモータECUとの間の回路に介在されている。また、図2に示す例はいわゆる電力ヒューズ8であり、定格以上の電流を印加すると過大なジュール熱が発生して自らを溶かして、電力回路を切断するように構成されている。
【0011】
つぎに、上記のように構成された車両Veの動作例について説明する。例えば車両Veの走行中の振動によって電動機4L,4Rのいずれか一方が故障したことが故障検出手段によって検出されると、蓄電装置とモータECUとの間の回路に介在されている電力ヒューズ8に定格以上の過電流を印加するように制御される。すると、過大なジュール熱が発生して回路が溶解し、電気的もしくは機械的に切断される。その結果、モータECUが作動せず、また回路6L,6Rにも電力が供給されないので電動機4L,4Rの両方が駆動トルクを発生せず、車両Veの挙動変化を抑えることができる。
【0012】
また、悪路などの振動によって電動機4L,4Rのいずれか一方に対する電力供給の瞬断が平坦路の走行時と比較して相対的に多いことが故障検出手段によって検出されると、前述と同様に電力ヒューズ8に定格以上の過電流を印加するように制御される。すると、回路が過大なジュール熱によって電気的もしくは機械的に切断されて、モータECUが作動せず、また回路6L,6Rにも電力が供給されないので電動機4L,4Rの両方が駆動不能となる。その結果、電動機4L,4Rの両方が駆動トルクを生じないので車両Veの挙動変化を抑えることができる。また、瞬断による電動機4L,4Rの駆動可能状態と駆動不能状態とが断続的に継続されることを回避できるので、いわゆる制御のハンチングを回避でき、車両Veの挙動を安定に保つことができる。
【0013】
また図3には、この発明における電力供給遮断機構7の他の例を模式的に示してある。図3に示す例はいわゆる継電器9であり、電流を印加した場合に接点10を開いて、電力を電気的もしくは機械的に遮断するように構成されたB接点式電磁継電器9を示している。ここで、図3(a)は、B接点式電磁継電器9の接点10が閉じられて電動機4L,4Rに電力が供給されている状態を示しており、図3(b)は、接点10が開かれて電動機4L,4Rに電力が供給されていない状態を示している。
【0014】
すなわち、前述と同様に、車両Veの走行中の振動によって電動機4L,4Rのいずれか一方が故障したことが故障検出手段によって検出されると、蓄電装置とモータECUとの間に介在されているB接点式電磁継電器9に電流が印加され、接点10が開かれて、電力供給が電気的もしくは機械的に遮断される。その結果、モータECUが作動せず、また回路6L,6Rにも電力が供給されないので電動機4L,4Rの両方が駆動トルクを発生せず、車両Veの挙動変化を抑えることができる。
【0015】
また、悪路などで瞬断が断続的に生じる場合にも、前述と同様にB接点式電磁継電器9に電流が印加され、接点10が開かれて、モータECUに対する電力供給が電気的もしくは機械的に遮断される。その結果、回路6L,6Rにも電力が供給されないので瞬断による電動機4L,4Rの駆動可能状態と駆動不能状態とが断続的に継続されることを回避でき、またいわゆる制御のハンチングを回避でき、車両Veの挙動を安定に保つことができる。
【0016】
なお、電力供給遮断機構7は、要は電力の供給を遮断できる構成であればよく、開閉器としてのスイッチおよびブレーカーなどを用いることもできる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】この発明で対象とする車両を模式的に示す図である。
【図2】この発明における電力供給遮断機構の一例を模式的に示す図である。
【図3】この発明における電力供給遮断機構の他の例を模式的に示す図である。
【符号の説明】
【0018】
4L,4R…電動機、 5…インバータ、 6L,6R…回路、 7…電力供給遮断機構。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
車両における複数の車輪のうち少なくとも左右二輪に個別に設けられ、かつ供給される電力の増減にともなって駆動トルクが増減される電動機の駆動力制御装置において、
前記電動機に対する電力供給の瞬断を含む前記電動機の故障を検出する故障検出手段と、
前記故障検出手段によって前記電動機のいずれか一方に故障が検出された場合に、前記左右の電動機の両方に対する前記電力の供給を電気的もしくは機械的に遮断する電力供給遮断機構と
を備えていることを特徴とする駆動力制御装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2010−104163(P2010−104163A)
【公開日】平成22年5月6日(2010.5.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−274111(P2008−274111)
【出願日】平成20年10月24日(2008.10.24)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】