説明

高分子基板のバリアコーティング

例示の実施形態では、表面がコーティングされた高分子基板本体を有する、コーティングされた高分子基板が提供されている。表面のコーティングは一つよりも多い対の塗工層を含む。各対の塗工層は、第1に塗布された塗工層と第2に塗布された塗工層を含む。加えて、塗工層の上に、又は塗工層の間に塗布された指標層が、コーティングの磨耗の兆候を示す。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本明細書に説明される実施形態は概して、高分子基板のバリアコーティング、特に、比較的水を吸収しにくく、耐摩耗性を有する上記コーティングに関するものである。
【背景技術】
【0002】
製造品におけるプラスチックの使用が増加している。例えば、ある自動車はプラスチックの車体パネルを有し、航空機はプラスチック製の内装用パネルを有し、外側の外板パネルまでもがプラスチック複合材からできていることもある。プラスチックには、例えば軽量性、成形性、及び低費用等の幾つかの優れた特性があるが、重大な欠点も有している。一般には、プラスチックの表面は、鋼鉄の表面のように堅くなく、又は耐摩耗性を有していない。さらに、一部のプラスチックは透明であり得るが、例えば自動車の安全ガラス及び旅客機のフロントガラス等の特定の重要な応用形態には、いまだにより重くさらに費用がかさむガラスが原料に選択されている。
【0003】
民間の飛行機の主要なコックピットのフロントガラスは通常、複層合わせガラスでできている。ガラスはその強度、擦過及びワイパーブレードに対する耐磨耗性、及び耐化学性、環境抵抗性の理由で、使用される。これらの特性により、特に雨を取り除くためにワイパーが使用される、重要なコックピットのフロントガラスを通して良好な視覚が保証される。しかしながら、ガラスには、成形性の点において限界があり、また、フロントガラス構造の材料の中で常に一番軽量である、及び/又は一番安価であるわけではない。コックピットのフロントガラスの形状は、ガラスの成形性に限界があるために、過去数十年間を通して実質上変わっていない。延伸アクリル又はポリカーボネート等の高分子材料に変えることで、さらに軽量で費用が安いフロントガラスが得られ、フロントガラスの形状の点でより優れた柔軟性を得ることが可能になる。コックピットのフロントガラスの形を作り変えることは、航空機の操縦の空気力学の改善、及びこれに伴う空力抵抗の削減につながり、したがって飛行機の燃料効率が上がる。コックピットの空気力学の改善はまた、外部騒音の発生を減らすことにつながるため、内部の客室騒音レベルが下がる可能性がある。騒音レベルの削減により、飛行機の旅が航空機の搭乗員及び乗客にとってより快適なものとなる可能性がある。
【0004】
その一方で、航空機の客室窓は、旅客機のフロントガラスとは違って、通常その軽量性、柔軟性及び成形性から、延伸アクリル(すなわちアクリル基板)でできている。しかしながら、アクリルは粒子(例えば砂等)及び水により引き起こされた侵食とひび割れの影響を受けやすい。さらに、飛行中は、航空機の窓は航空機の内側及び外側の圧力の差で起こる圧力差にさらされる。この圧力差によって窓が曲がり、窓が曲がるとしばらくの間、窓又は窓に塗布されたコーティングにひびが入る可能性がある。アクリル基板の化学薬品による腐食、及び/又はコーティングのアクリル製基板からの剥離が可能になる細かい亀裂を避けるために、窓は日常保守点検の際に交換される。これにより、更なる費用がかかり、航空機の可能な就航時間が減ってしまう。
【0005】
高分子積層品がフロントガラスに使用される場合は、前記フロントガラスの水の吸収及び化学薬品の腐食作用が、飛行中に遭遇する可能性のある応力がフロントガラスにかかったときに、ひび割れにつながる可能性がある。ひび割れ、又は例えば擦過傷等の他の機械的損傷は、フロントガラスを通した操作者の視覚に悪影響を及ぼす可能性がある。加えて、傷のついたフロントガラスは定期的に取り替えられなければならず、したがって、さらに修理費用がかさみ、航空機の就航時間が縮小される。
【0006】
高分子基板の表面を化学的腐食、磨耗、及び擦り切れから保護するために、ポリシロキサンのコーティングが使用されてきた。オルガノシロキサン化合物を使用して塗布される、ポリシロキサンのハードコーティングにより、磨耗、及び/又は環境曝露によって発生した損傷から、例えばポリカーボネート又はアクリル製の高分子基板が保護される。これらの通常数ミクロンの厚さの溶剤ベースのコーティングは、浸漬、流し塗り、又は噴霧プロセスを通して塗布され、低温(150°F=65.5℃)で焼いて乾燥される。旅客機のフロントガラスが、航空機の加圧下で応力を受けると、これらのポリシロキサンのコーティングは良好な伸長特性を付与するのに向いているが、これによりコーティングの耐摩耗性が制限される。現在入手可能なコーティングは、旅客機のフロントガラスに塗布されると良好な光学特性を呈するが、現場での結果では、コーティングの耐擦過性及び耐久性が制限される。コーティングは亀裂が入りやすいか、又は磨耗に対して最小限の保護しか与えないかのいずれかである。亀裂及び/又は磨耗のいずれも、環境曝露によりポリシロキサンのコーティングの剥離につながり、その結果、土台のアクリル製フロントガラス基板の引っかき傷及びひび割れにつながる。
【0007】
したがって、旅客機の操縦室のフロントガラス等の高分子基板を、磨耗、化学的腐食及びひび割れから保護するためのバリアコーティングを開発することが望ましい。加えて、旅客機のフロントガラスの場合は、コーティングは信頼性があり、効果がなくなったときに航空機の搭乗員又は整備員に警告する何らかの手段を有するべきである。さらに、航空機のフロントガラスでは、コーティングは高分子基板に対する良好な粘着性、優れた耐摩耗性、最小限の紫外線誘発劣化、良好な伸長/柔軟性、及び硫酸及び航空機の洗浄及び整備に使用される多数の化学薬品に接触したときのひび割れに対する抵抗性を呈する必要がある。その上、コーティングの状態を示す指標も必要である。さらに、バリアコーティングの他の望ましい特性及び性質は、添付の図面及び前述の技術分野及び背景技術と併せて、これに続く詳細説明及び添付の請求項から明示される。
【発明の概要】
【0008】
例示の実施形態では、表面がコーティングされた高分子基板本体を有する、コーティングされた高分子基板が提供されている。表面のコーティングは一つより多い対の塗工層を含む。各対の塗工層は、第1に塗布された塗工層と第2に塗布された塗工層を含む。加えて、塗工層の上に、又は塗工層の間に塗布された指標層が、コーティングの磨耗の兆候を示す。
【0009】
別の実施例では、除氷液、ジェット燃料、メチルエチルケトン、洗浄用溶剤、アルカリ性洗浄剤、油圧油及び合成洗剤から選択される化学薬品に曝された後に、テーバー磨耗試験ASTM D−1044−99にしたがって100回サイクル試験を行ったところ、表面コーティングの一実施形態では、くもり度に約1%以下の変化が見られた。
【0010】
別の実施例では、高分子製の旅客機のフロントガラスの試験方法の一実施形態は、航空機のフロントガラスを詳細に調べるステップを含む。フロントガラスは、外表面がコーティングされ、このコーティングには一対より多い対の塗工層が含まれている。各対の塗工層は、第1に塗布された塗工層と、第2に塗布された塗工層を含む。コーティングには、塗工層の上に、又は塗工層の間に塗布された、コーティングの磨耗の兆候を示す指標層も含まれる。本方法はさらに、指標層に基づいて、フロントガラスの整備、交換又は修理が必要かどうかを決定するステップを含む。
下文に、下記の図面と併せて様々な実施形態を説明し、この図面においては同じ数字は同じ要素を指す。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】図1は、バリアコーティングされた高分子基板の例示の実施形態の一部の、原寸に比例しない概略的な断面図である。
【図2】図2は、バリアコーティングされた高分子基板を作製する例示プロセスのプロセスフロー図である。
【図3】図3は、実施例に詳しく説明されている、砂侵食試験に基づくくもり度の割合変化を比較したグラフ表示である。
【図4】図4は、実施例に詳しく説明されている、テーバー磨耗試験に基づく不具合が起きるまでのサイクル数を比較したグラフ表示である。
【図5】図5は、実施例に詳しく説明されている、ワイパー試験に基づくくもり度の割合が変化するまでのサイクル数を比較したグラフ表示である。
【図6】図6は、実施例において曲げ試験に使用された装置の概略図である。
【図7】図7は、実施例に詳しく説明されている、曲げ試験に使用されたサンプルへの負荷適用のグラフ表示である。
【図8】図8は、実施例に詳しく説明されている、乾式接着試験に基づく接着指数の割合変化を比較したグラフ表示である。
【図9】図9は、実施例に詳しく説明されている、湿式接着試験に基づく接着指数の割合変化を比較したグラフ表示である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
下文の詳細説明は単なる例示のためであり、説明した実施形態又は説明した実施形態の応用及び使用を限定するように意図されたものではない。さらに、前述の技術分野、背景技術、発明の概要、又は下に記載したいかなる表現された又は暗示された説によって束縛されるように意図されていない。
【0013】
図1に、高分子基板110を備えるバリアコーティングされた高分子基板100の一実施形態の実施例を示す。この特定の実施形態では、高分子基板110は、延伸アクリル製フロントガラス部分を含み、したがって人間の視覚の波長において光学的に透明である。高分子基板110の表面112には、透明な多層バリアコーティング150が塗布されている。透明なバリアコーティング150はこの場合、2つの透明なコーティング要素:下層の多層コーティング120及び上端の指標コーティング130を含む。上端の指標コーティングは、周囲環境に対して外側のコーティング面132を呈する。上端の指標コーティング130は、外側のコーティング面132の特定の測定可能な物理特性によって選択することができる。例えば、例示の一実施形態では、外側のコーティング面132は疎水性であってよく、このためコーティング面132上の水滴140が図示するように、約60°又はそれ以上の接触角αを有している。多層コーティング要素120は、複数の積み重なった対の層(対の層は図示せず)を含み、対の層は各々形成され互いに化学的に接着された一体型の多層コーティング120を形成する。複数の積み重なった対の層の各対の層は、下にさらに詳しく説明するように、第1層及び第2層を含む。積み重なった対の層の最下層の、又は最初に形成された層は、高分子基板110の外表面112にしっかりと接着される。
【0014】
ここで下にさらに詳しく説明するように、バリアコーティングの実施形態の例は、任意の一以上の下記の性質:高分子基板への良好な接着性、適切な試験で測定された通りの優れた耐摩耗性、追加のUV抑制剤又はその他により重大なUV誘発劣化がないこと、負荷下で良好な伸長性を有することができる。航空機又は他のフロントガラスへの応用形態では、バリアコーティングは光学的に透明であり、車両を洗浄及び整備するプロセスにおいて一般的に使用される化学薬品、および操作中に遭遇すると通常予想される状態に曝されたときの、ひび割れに対する抵抗性を有するべきである。これらは、例えば、中でも除氷液、ジェット燃料、メチルエチルケトン、洗浄用溶剤、アルカリ性洗浄剤、油圧油及び合成洗剤が含まれる。加えて、例示の実施形態は、バリアコーティングの状態を決定するのに有用な指標を含むことができる。
【0015】
バリアコーティングされた高分子基板は、透明又は不透明のいずれであっても、例えば、旅客機の操縦室のフロントガラス、自動車のフロントガラス及び車体パネル等の他の「プラスチック製」の自動車部品だけでなく、例えばLCD又はプラズマTVスクリーン等の他の耐久性のある消費財、建築上の又は船舶用の窓、及び心臓弁座等の医療機器までも含む広い範囲の業界及び応用形態において有用であり得る。多くの場合、延伸アクリル又はポリカーボネート等のバリアコーティングされた透明な高分子基板をガラスの代わりに使うことができる。このような置換えによって、重量が抑えられ、壊れにくくなるばかりでなく、使用状態によってはより良い性能も得ることができる。ここで下に詳細を示すように、バリアコーティングされた高分子基板の例示の実施形態は、幾つかの物理試験でガラスをしのぐ結果を見せている。
【0016】
一般に、プラズマベースのハードコーティングの損傷ひずみは低く(約1.0%)、その一方でより柔らかいポリシロキサンのコーティングの歪みは2%を超える。このため、プラズマベースのハードコーティングには耐久性があるが、それ自体は航空機の窓に応用するのに必要な柔軟性に欠けている。US20070122598A1として2007年5月31日に公開された、本出願人の先行特許、2005年11月30日出願の米国整理番号第11/289920号明細書「航空機の客室窓用の耐久性のある透明なコーティング」に、一対の塗工層で形成されたコーティングが記載されている。しかしながら、航空機のフロントガラスへの応用の仕様に合った硬さとしなやかさを持ったバリアコーティングは、ハード及びソフトな塗工層の複数の対を積み重ねることによって作製されることが現在分かっている。
【0017】
バリアコーティングの例示の実施形態は、一対より多い対の層を含む。対のうちの第1の層は、高分子基板に強く接着すると同時に、第1の層の上に形成される第2の層と化学的に接着可能な機能部分も有する接合剤を含むことができる。接合剤は、ポリシロキサン、アルコキシシランのハイブリッドポリマー等を含むことができる。ポリシロキサンは、一般のオルガノシリコンポリマーであり、シランSi(Me)がこれらポリシロキサンの合成における重要な官能基である。一般に、コーティングの厚さは、例えば応用プロセス及び塗工層の化学成分の性質を含む様々な要因によって変化する。例示の実施形態では、第1に塗布される塗工層の厚さは、約4〜5マイクロメータの範囲であってよいが、より薄い又はより厚いコーティングもまた有用である。
【0018】
コーティングの第2の層は硬い層を含むことができる。前記硬い層は、例えばイオンビーム支援プラズマ化学蒸着又はプラズマ助長化学蒸着等のプラズマ技術を用いて蒸着させることができる。シリコンベースの透明なコーティングを蒸着中のイオン衝撃効果によって、コーティングの硬さと耐久性が改善されることが分かっている。第2のプラズマ蒸着された塗工層は、第1の塗工層に化学的に接着され、硬い外表面が得られる。硬い、プラズマによって形成された、第2の層として使用可能な層の例は、限定しないが、DIAMONDSHIELD(登録商標)(ペンシルバニア州、アレンタウンのモルガン・アドバンスト・セラミック社から入手可能)、透明なDYLAN(登録商標)コーティング(ニューヨーク州アマーストのべカルト・アドバンスト・コーティングテクノロジー社)等が含まれる。ある実施形態においては、第2の層はシリカ、アルミナ、ジルコニア、セリア及び同様の硬い酸化物を含むことができる。例示の実施形態では、第2のコーティングは、化学式SiOでできていてよく、ここでxの範囲は1.0〜1.2であり、yの範囲は1.0〜0.8である。
【0019】
第1の(より柔らかい)及び第2の(より硬い)層を組み合わせた、一対の塗工層は、硬い層だけよりも曲がりとひずみに対する抵抗がより優れていると同時に、硬い層によってより柔らかい層が磨耗から保護される。加えて、積み重なった複数の対の層により、単一の対の層よりも大幅に性能が改善される。したがって、例示の実施形態は、第1の対の上に積み重なった複数の対の塗工層を含む。第1の対は、第1の層が高分子基板の表面に固く接着されている。
【0020】
加えて、例示の実施形態は、最後の対の塗工層の一番上の(第2の)層に、又は必要に応じて塗工層の間に形成される指標層を含むことができる。例えば、指標層を最後の対の塗工層の間に形成することにより、一番外側のプラズマ蒸着された硬い塗工層によって保護することが可能になる。この指標層は例えば、磨り減り、又は化学攻撃による物理的磨耗等のコーティングの状態に対して手軽に試すことができる種類のものからできていてよい。この指標層が、周囲環境に対して塗工層が曝されている可能性を示す磨耗の兆しを示す場合、適切な是正措置を取ることができる。一実施形態では、指標層は疎水層を含み、この指標層の領域の疎水性の度合いを測定して、もしあればバリアコーティングの磨耗した範囲を推定する、又は下層の高分子基板が、ダメージの原因となり得る厳しい周囲環境又は化学薬品に曝されるかもしれない差し迫る危険を推測することができる。別の実施形態では、金属製のコーティングを使用することができる。この金属層の電気特性をコーティングの状態と相関させることができる。例えば抵抗性又は伝導性等の任意のこれらの特性の試験を利用して、バリアコーティングの状態を決定し、是正措置が必要かどうかを判断することができる。
【0021】
バリアコーティングされた高分子基板200を作製する方法の実施例を図2に示す。当然ながら、他の方法の実施形態はより少ない又はより多いステップを有することができる。図2においては、例えば、透明な延伸アクリル製の航空機のフロントガラスとして、プロセス210において高分子基板を選択することができる。次にプロセス220において、延伸アクリル製の航空機のフロントガラスに表面の前処理を施すことができる。表面の前処理は、基板の性質及び表面の状態に基づいて任意の適切な表面処理を含むことができる。一般には、延伸アクリル製の航空機のフロントガラスに対して、洗浄剤及び溶剤を使った洗浄と同時に、酸素プラズマを用いた表面処理を行うことができる。プロセス220における表面の前処理後に、プロセス230において、洗浄された延伸アクリル製のフロントガラスに、ポリシロキサンベースの透明な塗料組成物等のシランを塗布して、フロントガラス上に第1の塗工層を形成することができる。シラン塗工層が硬化されたら、プロセス240においてシランが塗布された表面から、例えば炭化水素及び他の望ましくない物質等の汚染物質を取り除く処理を行うことができる。プロセス240はまた、溶剤内での超音波洗浄、水性の洗浄剤及び/又は他の化学薬品を使った洗浄等の、任意の好適な表面洗浄プロセスを行って表面にプラズマ蒸着の前処理を行うことができる。
【0022】
プロセス250において、第2の塗工層を、例えば、ヘキサメチルジシロキサン及び酸素等のシリコン含有前駆物質を使用してDiamondshield(登録商標)を製造するのに使用されるプラズマプロセス等のイオンビーム支援プラズマ技術を使用して塗布することができる。気体流、蒸着圧、プラズマ出力等のプラズマ蒸着の条件を最適化して、硬い透明なコーティングを作製する。望ましい真空状態が得られたら、最初に基板に不活性イオン及び/又は酸素イオンを使用してスパッタ洗浄を行うことができる。次に、ハードコートをプラズマ蒸着することができる。決定プロセス260においては、所望の数の複数の対の塗工層が得られたか否かを判断する確認が行われる。更なる対のコーティングが必要な場合は、本方法は図示したようにプロセスステップ220に戻り、所望の複数の対の塗工層が塗布されるまでプロセス220〜260を繰り返す。次にプロセス270において指標層を塗布することができる。
【0023】
重層化されたバリアコーティングを作製するプロセスの一実施形態の別の実施例では、電子ビーム蒸着技術を変化させて、各々硬い及びより柔らかい層を有する対の塗工層を蒸着することができる。この構想では、直接の電子ビーム蒸着により、第1のより柔らかい塗工層が作製され、イオン支援蒸着により、第2のより硬い塗工層が作製される。直接の電子ビーム蒸着とイオン支援プロセスを交互にすることにより、一連の硬い及びより柔らかい塗工層が出来上がる。層の厚さはナノメートルの大きさの範囲であってよい。したがって、単一の層の厚さは、ナノ構造誘起の機械強度増進効果(例えば、ホール・ペッチ効果)が得られるように、約3〜10ナノメートルにすることができる。ホール・ペッチの関係によると、機械強度は物質の粒径が小さくなるほど上がる。この関係は、粒構造の転位間の平衡距離と粒径が同じになるまで保たれる。
【0024】
重層化されたバリアコーティングを作製するプロセスの一実施形態の別の実施例では、交互のより柔らかい及び硬い透明な二酸化ケイ素の塗工層は、電子サイクロトロン共鳴(ECR)源と併せて、プラズマ助長化学蒸着(PECVD)を使用して形成することができる。原位置ECR源から発生した高密度の酸素プラズマの使用により、酸化層の成長温度が約50〜80℃の範囲まで下がるため、この技術はアクリル及びポリカーボネート等の高分子基板により好適となる。蒸着した酸化膜の機械特性(係数、硬さ)は、基板のバイアス電圧を変えることによって変化させることができる。したがって、この技術は交互に硬い及び柔らかい塗工層を対で蒸着して、重層バリアコーティングされた基板を作るのに有用であり得る。
【0025】
バリアコーティングされた航空機のフロントガラスの例示の実施形態では、疎水性コーティング等の指標層が重層バリアコーティングの上に塗布される。普通の使用では、コーティングされたフロントガラスが要素に、そして航空機の洗浄及び整備に使用される化学薬品に曝されたときに、一番外側のコーティングである疎水性コーティングが最初に磨耗すると予想できる。この疎水性の層の磨耗と、それに伴う表面の疎水性の低下は、その下の重層化されたコーティングが露わになっていることを示す。この時点では、新しい疎水性コーティングを塗布することができる。これにより下層の重複層を保護し、航空機のフロントガラスの視覚特性を維持することができる。
【0026】
別の実施形態では、バリアコーティングは重層化されたコーティングの上にスパッタ処理を行うことによって、又は対の塗工層の間に蒸着することによって形成される金属膜を含む指標層を含むことで、伝導性の表面を得ることができる。この伝導性表面の電気伝導性又は他の電気特性の測定値の変化は、重層コーティングの磨耗レベルを示し、これは基板の高分子材料を保護する能力の低下と関連させることができる。この時点で、是正措置を取ることができる。金属製の指標コーティングがスパッタ処理によって重層コーティングの外表面に形成された場合、スパッタによるコーティングを新しくすることができる。コーティングの指標層の深さに磨耗が達したときに、金属製の指標コーティングが対の塗工層の間に位置して検知した場合、塗布された基板はもはや使用するべきではない。
【0027】
6つの交互に形成された柔らかい及び硬い層を有するバリアコーティングを有する基板の一実施形態の実施例では、ASTM D968−93による砂侵食試験をそのコーティングに対して行ったときに、コーティングされた基板のくもり度の変化は、約5リットルの平均サイズ800ミクロンの砂を使用したときに、約15%以下であった。
6つの交互に形成された柔らかい及び硬い層を有するバリアコーティングを有する基板の一実施形態の別の実施例では、コーティングされた基板に磨損に対する抵抗性が見られた。バリアコーティングを除氷液、ジェット燃料、メチルエチルケトン、洗浄用溶剤、アルカリ性洗浄剤、油圧油及び合成洗剤から選択される化学薬品に曝したあとに、コーティングされた基板に対して、テーバー磨耗試験ASTM D−1044−99にしたがって100サイクル試験を行った。この結果、くもり度の変化は約1%以下であった。
【0028】
6つの交互に形成された柔らかい及び硬い層を有するバリアコーティングを有する基板の一実施形態の別の実施例では、バリアコーティングに対して、D6−82942−1によるワイパー磨耗耐久性試験が行われたところ、155000サイクル後に、約1%以下のくもり度の変化が見られた。
6つの交互に形成された柔らかい及び硬い層を有するバリアコーティングを有する基板の一実施形態の別の実施例では、バリアコーティングに対して、修正されたASTM D−790による三点曲げ試験が行われたところ、500サイクル後も、基板に亀裂又はひび割れは全く見られなかった。ASTM試験への修正は、下文の曲げ試験の実施例に示されている。
【実施例】
【0029】
下文の実施例は、バリアコーティングされた延伸アクリル基板、シロキサンのみを塗布した延伸アクリル基板、硬いプラズマコーティングのみを塗布した延伸アクリル基板、塗布されていない延伸アクリル基板、及びガラスの関連する物理特性の幾つかを比較するため行われた試験を反映している。
これらの比較試験を行うために、グループ1の延伸アクリル基板のサンプルには4ミクロンの厚さのポリシロキサンコーティングが塗布された。グループ2の延伸アクリル基板には、硬いプラズマコーティングが塗布され、グループ3の延伸アクリル基板には、3つの対の塗工層が含まれる重複層が塗布された。
【0030】
砂侵食試験
コーティングされた基板(グループ1、グループ2&グループ3)のサンプルを、ベアガラスとベアアクリル基板とともに、視覚的なくもり度に対する砂侵食の影響を調べるために試験した。この試験は、ASTM D968−93「落下研磨剤による有機被膜の耐摩耗性の標準試験方法」に記載されている手法にしたがって実行された。これらの各試験に使用された砂の容積は5リットルであった。これらの試験に使用された砂の平均粒径は、800ミクロンである。侵食の深刻度を測定するために、くもり度の増加を判定基準として使用した。この結果を図3にまとめて示す。バリアコーティングされたサンプルでは、侵食によるダメージが一番すくなかった。このバリアコーティングされたサンプルの結果的なくもり度(15%)は、ガラスサンプルのくもり度(37%)の半分にも満たなかった。
砂で磨り減った表面上への疎水性コーティングの塗布により、アクリル基板サンプルのくもり度がさらに減少する傾向がある。例えば、疎水性コーティングが塗布された後の、重層コーティングを有するアクリル基板サンプルのくもり度は15%から7%に減少した。
【0031】
テーバー磨耗試験
サンプルに、ASTM D−1044−90「表面磨耗に対する透明プラスチックの抵抗性の標準試験方法」に記載されている手法にしたがって、磨耗試験を行った。この試験は、それぞれ500gの荷重を担持する2つのCS−10F車輪を利用する。サンプルはテーブル上に置かれ、車輪をサンプル表面上で円を描くように回転させて基板表面を磨耗させる。侵食の深刻度を測定するために、くもり度の増加を判定基準として使用する。これらの試験では、サンプルを連続的に試験し、磨耗の結果くもり度が5%増加するまでの車輪の回転数を数えた。この結果を図4に示す。バリアコーティングされたサンプルは、ポリシロキサン又は他のハードコーティングと比べて耐磨耗性の大幅な向上が見られた。
【0032】
ワイパー磨耗試験
コーティング耐久性試験を、D6−82942−1「疎水性の窓コーティング試験手順」にしたがって、(1)ポリシロキサン及び(2)ハードコーティング及び(3)重層コーティングを有する3つのグループのアクリル基板試片に対して行った。これらの試験では、台車上にコックピット窓のワイパーブレードの断片を備える直線運動試験装置を、直線計測器を備えている自動化された駆動系とともに使用した。ワイパーブレードアセンブリは0.5ポンド/インチ(8.937g/mm)の線形負荷を有し、これをコーティングされたサンプル上で往復させた。試験サンプルの表面を、400メッシュの二酸化ケイ素の研磨剤(中級のアリゾナロードダストに相当)を含有する水で濡らして、コーティングの磨耗を加速させた。コーティングの耐久性は、サンプルのくもり度に1%の変化を起こすのに要するワイパーブレードの往復数を測定することによって評価した。結果を図5にまとめて示す。ポリシロキサンのコーティングはたった13000サイクルしか続かなかったが、重層バリアコーティングされたサンプルは、くもり度に1%の変化が起きるまで155000サイクルを要した。
【0033】
曲げ試験
修正されたASTM D−790試験手順を使用して、コーティングされたサンプルの曲げ試験を行った。コーティング(グループ1&2)を有する1インチ×12インチ×0.5インチの寸法のサンプルに、図6に示すように三点曲げ試験を行った。各サンプル600を、サンプルの各端部から約1インチのところに配置された支持材610上に置いた。質量650によってサンプル600の中央に負荷Pを加えた。ハードコーティングの側面620はこの図では下向きとなっている。水中の75重量パーセントの硫酸でできた薄膜を、ガラス繊維フィルターとカプトンテープを使用してコーティング620に接着した。試験サンプル600に、図7に示す周期的な負荷/温度プロファイルを加えた。温度は−80°Fと130°Fの間を繰り返し循環させ、これらの各温度限界において温度を10分間一定に保持した。図7から分かるように、サンプルの温度は70°Fから開始し、約15分間の間に−80°Fまで冷却した。次にサンプルの温度を10分間−80°Fに保持し、約20分間の間に130°Fまで再加熱した。サンプルの温度を10分間130°Fに保ち、約20分間の間に−80°Fまで冷却した。次に−80°Fと130°Fの間のこのサイクルを繰り返した。負荷Pも周期的に加えた。負荷Pはゼロから始まり、温度が−80°Fに達したときにP=3600psiまで増加させた。負荷をこのレベルに維持し、温度が上昇して70°Fに達した時にゼロまで低下させた。温度が130°Fから低下するときに負荷をゼロから増加して、温度が70°Fになったときに3600psiまで増加した。この負荷を−80°Fの10分の滞留期間中維持し、次の加熱サイクルにおいて70°Fでゼロとなるように下げた。この試験は、コーティングに亀裂が生じる、又は表面にひび割れができる(どちらかでも最初に起きたとき)まで継続された。この結果、ポリシロキサンコーティングは50サイクルで不具合が生じたのに対し、重層バリアコーティングは500サイクル以後も亀裂又はひび割れが生じないことが分かった。
【0034】
化学薬品曝露試験
ポリシロキサン(グループ1)と重層バリアコーティング(グループ2)を有する延伸アクリル基板のサンプルを、航空機の整備に通常使用される化学薬品に接触させた。サンプルを24時間各化学薬品に接触させ(例外:MEKへの曝露は4時間)、その後磨耗による接着性((修正されたASTM D3330−BSS7225)タイプ1及び3(乾式及び湿式))とくもり度の割合変化(ASTM D−1044−90)を試験した。重層コーティングを有するサンプルでは、図8に示すような乾式接着(接着指数によって表示される)又は図9に示すような湿式接着(接着指数によって表示される)における機能低下は見られなかった。
【0035】
前述の詳細説明において一以上の例示の実施形態を記載したが、当然ながら膨大な数の変形例が存在する。また当然ながら、例示の実施形態又は複数の例示の実施形態はただの例に過ぎず、いかなる方法においても、説明した実施形態の範囲、適用性、又は構成を限定するように意図したものではない。むしろ、前述の詳細説明は、当業者に記載された例示の実施形態又は複数の例示の実施形態を実行するための便利な手引きを提供するものである。当然ながら、添付の請求項および合法の同等物によって規定された範囲から逸脱することなく、要素の機能及び配置において様々な変更を行うことが可能である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
コーティングされた高分子基板であって、
第1の表面を有する高分子基板本体と、
第1の表面上のコーティング
を含み、該コーティングが、
各々の対が第1に塗布された塗工層と第2に塗布された塗工層を含む、一つより多くの対の塗工層
を備える基板。
【請求項2】
第1に塗布された塗工層がポリシロキサンを含む、請求項1に記載の基板。
【請求項3】
第2に塗布された塗工層が、プラズマ助長化学蒸着で塗布された塗工層、又は電子ビーム蒸着された塗工層を含み、第2に塗布された塗工層が第1に塗布された塗工層よりも硬い、請求項1に記載の基板。
【請求項4】
第2に塗布された塗工層がSiOを含み、xの範囲が1.0〜1.2であり、yの範囲が1.0〜0.8である、請求項1に記載の基板。
【請求項5】
高分子基板本体とコーティングの両方が、人間の視覚の波長領域の光において光学的に透明である、請求項1に記載の基板。
【請求項6】
高分子基板本体の第1の表面上のコーティングの、D6−82942−1に基づくワイパー磨耗耐久性試験を行った際の155000サイクル後のくもり度の変化が、約1%以下である、請求項5に記載の基板。
【請求項7】
高分子基板本体の第1の表面上のコーティングの、ASTM1044−05に基づくテーバー磨耗試験を行った際の40000サイクル後のくもり度の変化が、約5%以下である、請求項5に記載の基板。
【請求項8】
高分子基板本体の第1の表面上のコーティングの、平均粒径800ミクロンの砂を約5リットル使用して、ASTM D968−93に基づく砂侵食試験を行った際のくもり度の変化が、約15%以下である、請求項5に記載の基板。
【請求項9】
高分子基板本体が、延伸アクリル又はポリカーボネートを含む航空機のフロントガラスを備える、請求項5に記載の基板。
【請求項10】
第1に塗布した塗工層の厚さが、約4〜5マイクロメータの範囲である、請求項4に記載の基板。
【請求項11】
塗工層の上に、又は塗工層の間に指標層をさらに含み、該指標層によりコーティングの磨耗の兆候が示される、請求項1に記載の基板。
【請求項12】
該指標層が金属製の塗工層又は疎水性の塗工層を含む、請求項11に記載の基板。
【請求項13】
航空機のフロントガラスのサイズ及び形状に構成され、航空機のフロントガラスの外表面に対応する第1の表面を有する高分子基板本体と、
第1の表面上のコーティングを備え、該コーティングが、
各々の対が第1に塗布された塗工層と第2に塗布された塗工層を含む、一つより多くの対の塗工層と、
塗工層の上に、又は塗工層の間に塗布され、コーティングの磨耗の兆候を示す指標層
を含み、
該コーティングが、除氷液、ジェット燃料、メチルエチルケトン、洗浄用溶剤、アルカリ性洗浄剤、油圧油及び合成洗剤から選択される化学薬品に曝された後に、テーバー磨耗試験ASTM D−1044−99にしたがって100サイクル試験を行った結果、くもり度の変化が約1%以下である、高分子基板。
【請求項14】
第1に塗布された塗工層がポリシロキサンを含む、請求項13に記載の基板。
【請求項15】
第2に塗布された塗工層が、プラズマ助長化学蒸着で塗布された塗工層、又は電子ビーム蒸着された塗工層を含み、第2に塗布された塗工層が第1に塗布された塗工層よりも硬い、請求項13に記載の基板。
【請求項16】
第2に塗布された塗工層がSiOを含み、xの範囲が1.0〜1.2であり、yの範囲が1.0〜0.8である、請求項13に記載の基板。
【請求項17】
コーティングの、D6−82942−1に基づくワイパー磨耗耐久性試験を行った際の155000サイクル後のくもり度の変化が、約1%以下である、請求項13に記載の基板。
【請求項18】
コーティングの、平均粒径800ミクロンの砂を約5リットル使用して、ASTM D968−93に基づく砂侵食試験を行った際のくもり度の変化が、約15%以下である、請求項5に記載の基板。
【請求項19】
航空機のフロントガラスを試験する方法であって、
高分子組成を含み、外部表面上にコーティングを有する航空機のフロントガラスを調べるステップを含み、該コーティングが、
各々の対が第1に塗布された塗工層と第2に塗布された塗工層を含む一つよりも多い対の塗工層と、
塗工層の上に、又は塗工層の間に塗布され、コーティングの磨耗の兆候を示す指標層
を含み、
指標層に基づいて、航空機のフロントガラスが整備、交換又は修理を必要としているかどうかを決定するステップ
を含む方法。
【請求項20】
指標層が、疎水性のコーティングを含む、請求項19に記載の方法。
【請求項21】
指標層が、金属製のコーティングを含む、請求項19に記載の方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公表番号】特表2010−530814(P2010−530814A)
【公表日】平成22年9月16日(2010.9.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−551764(P2009−551764)
【出願日】平成20年1月21日(2008.1.21)
【国際出願番号】PCT/US2008/051564
【国際公開番号】WO2008/134096
【国際公開日】平成20年11月6日(2008.11.6)
【出願人】(500520743)ザ・ボーイング・カンパニー (773)
【氏名又は名称原語表記】The Boeing Company
【Fターム(参考)】