説明

高周波電力増幅器

【課題】高周波電力増幅器と方向性結合器を多層基板内に一体化した高周波モジュールであって、小型、低コスト、高性能な高周波モジュール及び、高周波モジュールを搭載することで、小型化、低コスト化が可能な無線装置を提供する。
【解決手段】多層基板と前記多層基板の上層部で構成された高周波電力増幅器と前記多層基板の内層の上下2層を用いた方向性結合器と、前記高周波電力増幅器と前記方向性結合器の間にある内層のグランドパターンと、前記内層のグランドパターンと裏面のグランドパターン間に設けられている前記高周波電力増幅器用の多数のサーマルビアが方向性結合器と同じ層にある前記高周波電力増幅器用のバイアスラインとの間に設けられている高周波モジュールとする。このことによって小型、低コスト、高性能な高周波モジュールが実現出来る。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、高周波信号の送受信を行う装置に用いられる高周波モジュールに関する。
【背景技術】
【0002】
最近、移動体通信分野では、移動体通信端末として、複数の通信方式や複数の周波数帯を統合化した複合携帯電話端末が主流になりつつある。このような複合移動体通信端末では、通信方式や搬送波として使用する周波数が異なるため、高周波回路ブロックを各通信方式や各搬送波の周波数に対応させるために、通信方式や周波数毎に作成する必要があり移動体通信端末は大きくなる。移動体通信端末の小型化を実現するために、移動体通信端末基板の部品点数の削減や無線回路部の小型化することが重要視されている。
【0003】
以下、W−CDMA方式に対応した従来の代表的な携帯電話端末について説明する。
【0004】
図3は携帯電話端末における無線部の構成を示すブロック図である。図3に示すように、携帯電話端末の無線部は、送信部120、受信部121、共用部122からなる。
【0005】
W−CDMA系送信部は、送信信号の制御など行なうベースバンド部106に接続された変調信号を送信周波数の送信信号に変換するRFIC107、送信波帯域の信号を抽出するためのバンドパスフィルター108、バンドパスフィルターら出力された高周波信号(10mW以下)を最大1W程度まで増幅する高周波電力増幅器109、高周波電力増幅器の出力をモニターする方向性結合器110、この方向性結合器を通って出てきた信号を共用部側の一方向にしか高周波信号を通さないアイソレータ111で構成されている。しかしながら最近では、RFICや高周波電力増幅器の性能向上や新たな制御方法の提案により、バンドパスフィルターやアイソレータが削除される方向にある。共用部122は、アンテナ114、スイッチ113、デュプレクサ112によって構成される。デュプレクサ112は、TX端子とRX端子とSW端子とを有し、TX端子はアイソレータ111の出力端子に接続され、RX端子はW−CDMA系の受信部の一方の入力端子に接続され、SW端子はスイッチ113に接続されている。
【0006】
従来、前記フィルターや高周波電力増幅器、方向性結合器等は、ディスクリート部品として基板に搭載されていたが、無線回路部の小型化において、多層基板を用いて高周波電力増幅器とその前後のフィルター等を一体化した高周波モジュールが提案されている。
【0007】
なお、この出願の発明に関連する先行技術文献情報としては、例えば、特許文献1、特許文献2が知られている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開2002−43813号公報
【特許文献2】特開2006−73673号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
高周波モジュールでは、部品の集積化に伴い信号の干渉や性能の劣化といった課題がある。CDMA/WCDMA方式では、他の移動体端末の電力との干渉によって伝送品質に影響を与えるため、こまめな送信電力制御が行われている。その電力制御は、高周波電力増幅器で増幅された電力を方向性結合器によって1/30〜1/100まで小さくした電力を取り出し、その取り出した電力信号はRFICにフィードバックされ、RFICに内蔵されているパワーディテクターによって電力から電圧に変換して移動体端末の出力電力をモニターし、ベースバンド部で基地局からのコントロール信号と比較してRFICの出力電力レベルを制御し、携帯電話端末から出力される電波の最適化を行なう。そのため、高周波モジュールにおいて方向性結合器は、その精度はもちろん、集積化された他の部品からの信号の干渉を受けやすいという課題がある。
【0010】
また、アイソレータが削減されるとアンテナ端からの反射波が方向性結合器に戻ってくるため、送信電力の検出に大きな影響を与える。この検出を精度よく行うために方向性結合器の方向性が重要になる。
【0011】
高周波電力増幅器と方向性結合器が一つの多層基板で構成された高周波モジュールの例が特許文献1に開示されている。この例では、高周波モジュールの上層部分に高周波電力増幅器、下層部分に方向性結合器が構成されており、方向性結合器を構成する主線路と副線路を上下に重ねて線路幅がそれぞれ異なるように構成されており、方向性結合器の結合精度向上に関して提示されている。しかしながら、高周波電力増幅器と方向性結合器のアイソレーション、また外来からのノイズと方向性結合器との干渉対策に関しては何も開示されていない。また、多層基板の中心から上層部分で高周波電力増幅器を構成、中心から下層部分で方向性結合器を構成しているため多数の層が必要になるため低背化が困難という課題がある。
【0012】
高周波電力増幅器、方向性結合器、送受信を分離するフィルター、アンテナスイッチを一つの多層基板に構成した例が特許文献2に開示されている。この例では、高周波電力増幅器と送受信を分離するフィルターや方向性結合器で同じ層にある内層のグランドパターンを分離することでグランド層を通しての干渉の改善を開示している。しかしながら、高周波増幅器と方向性結合器のアイソレーションや方向性結合器の構成に関して何も開示されていない。
【0013】
本発明の高周波モジュールは、高周波電力増幅器、方向性結合器が一体となった高周波モジュールであって、共に良好な特性を実現することができる小型かつ低コスト高周波モジュール及びそれを搭載した無線装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0014】
前記目的を達成するため、本発明は、複数の誘電体層からなる多層基板と、前記多層基板の最上層部で構成されている高周波電力増幅器と、前記高周波電力増幅器より下層部で構成される方向性結合器と、前記高周波電力増幅器と前記方向性結合器の間にある内層の第1のグランド層と、前記方向性結合器と同じ層で構成される前記高周波電力増幅器のバイアスラインと前記バイアスラインと前記方向性結合器の間に高周波電力増幅器のサーマルビアとを有することを特徴とする。
【0015】
前記方向性結合器は、上層を主線路、下層を副線路とする。内層のグランドパターンは接地が弱く、あるインピーダンスを持った分布定数線路として働く。そのため前記高周波電力増幅器からの不要な信号が方向性結合器に干渉が起こる。しかしその信号レベルは内層のグランドパターンの下層に位置する主線路を通る高周波電力増幅器の信号レベルと比べて十分小さいレベルであり、また同相であるため主線路の信号に与える影響は小さく、また副線路とは離れているため方向性結合器の結合度や方向性にほとんど影響を与えることはない。
【0016】
また、サーマルビアは、前記高周波電力増幅器のグランドビアと併用される。そのため前記高周波電力増幅器のバイアスラインを前記方向性結合器と前記サーマルビアを挟んで配置しているので、前記方向性結合器とは別の層でバイアスラインを構成することなくアイソレーションを十分に確保することができる。
【0017】
また、前記内層のグランドパターンと多層基板の裏面グランドパターンの間で、前記方向性結合器と多層基板端の間にグランドビアを設けても良い。そうすることで、方向性結合器に対する外来ノイズからの干渉を抑えることが出来る。また、グランドビアを設けたことで内部のグランドパターンの接地効果は大きくなり、高周波電力増幅器の性能を向上させることもできる。
【発明の効果】
【0018】
本発明は、高周波電力増幅器と方向性結合器を多層基板内に一体化した高周波モジュールであって、高周波電力増幅器と方向性結合器の主線路、副線路とグランドビアの配置を最適化することにより小型、低コスト、高性能な高周波モジュールを実現することができ、また前記高周波モジュールを搭載することで、小型化、低コスト化が可能な無線装置を実現することができる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【図1】本発明の代表的な高周波モジュールの断面図
【図2】本発明の代表的な高周波モジュールの多層基板の展開図
【図3】W−CDMA方式の代表的な無線部のブロック図
【図4】多層基板の代表的な基板構成図
【発明を実施するための形態】
【0020】
(第1の実施形態)
以下、本発明の第1の実施形態に係る高周波モジュールについて、図面を参照しながら説明する。
【0021】
図1は、本発明による実施形態による高周波モジュールの断面図であり、図2は、同多層基板の展開図である。
【0022】
同図において、高周波モジュール1は、多層基板2と多層基板の最上層に構成された高周波電力増幅器3と前記多層基板2の内層に形成された高周波電力増幅器3から出力された信号をモニターするための方向性結合器4と前記高周波電力増幅器3にバイアスを供給するライン5とを具備する。多層基板2としては、セラミックや樹脂基板など特に指定はなく配線パターンを形成することができればよい。多層基板2の最上層には、高周波電力増幅器3を構成している高周波電力増幅用半導体素子6が実装されており、配線パターンやコンデンサ、インダクター、抵抗などの素子で高周波回路7が構成されている。高周波電力増幅用半導体素子6は発熱するために、高周波電力用半導体素子6の下には放熱するために複数のサーマルビア8が設けられている。このサーマルビア8は、多層基板2の裏面グランドパターン9まで接続されておりグランドビアとしての機能も兼ねている。多層基板2の内層のグランドパターン10は、最上層の高周波電力増幅器に対するグランドになっている。この内層のグランドパターン10は、サーマルビア8とも接続されている。内層のグランドパターン10より下層で、高周波整合回路7の下に方向性結合器4が配置されている。この方向性結合器4の構成は、前記内層のグランドパターン10の下層に主線路11があり、主線路11の下層に副線路12の順に構成された重ね合わせ型の方向性結合器となっている。
【0023】
表1に本発明の上層主線路/下層副線路の場合と、その逆配置の場合の方向性結合器の特性を示す。
【0024】
【表1】

【0025】
多層基板で形成する重ね合わせ型の方向性結合器は、積層ずれによる位置ずれや異なる層で配線形成によるパターン幅のばらつき差異により高精度な方向性結合器が形成されないという課題があるが、両面基板を用いて主線路、副線路を形成すればよい。図4に多層基板の代表的な基板構成を示す。両面基板21を中心にそれぞれ上下に片面基板22が積層されて多層基板2が構成される。そのためまずこの両面基板21で方向性結合器の主線路11と副線路12を作成し、この両面基板21の上下にグランドパターンや高周波電力増幅器用の配線パターン、裏面パターンなどそれぞれの片面基板を積層して高周波モジュールを構成すればよい。この両面基板21の上下に積層される片面基板は、上下同じ数量の層を積層しなくてもよいが、樹脂などを用いた比較的弾性率が低い基板は多層基板時の反りやねじれなどの変形を考慮して、上下に積層する片面基板22の数量は同じにしておくほうが良い。この両面基板21の部分で方向性結合器を構成することで積層による層ズレはない。また、線路のパターンの形成も同時に行うことができるため主線路と副線路のパターン幅の違いもほとんど無くなるため、同じ線幅で設計しても問題はない。
【0026】
内層グランドパターン10は、高周波的には理想的なグランドとしては働かずあるインピーダンスを持った分布定数線路と等価になる。そのため最上層の高周波電力増幅器3が動作すると、この内層グランドパターン10に不要な高周波信号が漏れてくる。その不要な高周波信号の影響を小さくするために、この内層グランドパターン10の直下には、方向性結合器の主線路11を配置する。前記不要な信号のレベルは、主線路11を通る高周波電力増幅器の信号レベルと比べて十分小さく、また同相であるため主線路の信号に与える影響は小さく、副線路12とは距離的に離れているため方向性結合器の結合度や方向性にほとんど影響を与えることはない。
【0027】
電力増幅用半導体素子6にバイアスを供給するためのバイアスライン5は、理想的には高周波信号が漏れてこないようにするために、前記半導体素子6から見てオープンになるようにλ/4のライン長さが必要になる。しかしながら小型化が要求される高周波モジュールにおいてこのバイアスライン5は、多層基板の内層をも用いて引き回しを行うが、λ/4を引き回すスペースは無く、実際はλ/4より短くなり整合回路の一部として用いられることが多い。そのため、このバイアスライン5にも高周波信号が漏れてくる。このバイアスライン5の構成は、方向性結合器4の上層または下層で構成すると、お互いに高周波信号の干渉を受けてしまうために、間に新たなグランド層を設けてアイソレーションを図る必要がある。なぜなら、主線路11の上層で構成するとお互いに高周波信号の干渉を受け高周波特性が劣化し、副線路12の下層で構成すると方向性結合器4の信号検出に大きな影響を与えてしまうためである。また、高周波電力増幅器3は、複数段の増幅器で構成されていることが多く、その高周波電力増幅器3との干渉にも注意が必要になる。例えば、2段増幅器の場合、1段目の増幅器で増幅した信号と1段目と2段目の増幅器で増幅した信号とでは、位相が大きく異なる。これらの信号が干渉した場合、高周波特性の劣化や増幅器の不安定動作が起こる。そのためバイアスライン5と高周波電力増幅器3の間にもアイソレーションを取るためのグランドパターンが必要になり、上層または下層での構成は、小型化には適していない。一方、方向性結合器4と同層で構成すると、高周波電力増幅器3とのアイソレーションは、前記の内層のグランドパターン10と同じ層を用いることができる。方向性結合器4とバイアスライン5との配置については、主線路11または副線路12に対してバイアスライン5を垂直に配置すると結合する部分が少ないため距離を離しておけばよい。また、並行に配置した場合は、ライン間の結合が大きくなりそれぞれが干渉してしまうため距離を大きく離すか、もしくは間にグランドパターンを配置すればよい。このとき、別途グランドパターンを設けても良いが、サーマルビア8を用いれば小型化できる。今回バイアスライン5は、サーマルビア8に対して方向性結合器の反対側に作成した。また、内層のグランドパターン10から裏面グランドパターン9の間を繋げるグランドビア13が方向性結合器4と多層基板端の間に合ってもよい。このグランドビア13を設けることで内層のグランドパターン10の接地効果を強くすることができるため、高周波電力増幅器3の高周波性能の劣化を抑えることができる。また無線装置などに搭載されたとき、周辺部品からの外来ノイズが方向性結合器4に与える影響を抑えることができる。
【産業上の利用可能性】
【0028】
以上説明したように、本発明は、小型、低コストな高周波モジュールを形成するのに有用である。
【符号の説明】
【0029】
1 高周波モジュール
2 多層基板
3 高周波電力増幅器
4 方向性結合器
5 バイアスライン
6 高周波電力増幅用半導体素子
7 高周波回路
8 サーマルビア
9 裏面グランドパターン
10 内層グランドパターン
11 主線路
12 副線路
13 グランドビア
21 両面基板
22 片面基板
106 ベースバンド部
107 RFIC
108 バンドパスフィルター
109 高周波電力増幅器
110 方向性結合器
111 アイソレータ
112 デュプレクサ
113 スイッチ
114 アンテナ
115 バンドパスフィルター
116 ローノイズアンプ
120 送信部
121 受信部
122 共用部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数の誘電体層からなる多層基板と、
前記多層基板の最上層部で構成されている高周波電力増幅器と、
前記高周波電力増幅器より下層部で構成される方向性結合器と、
前記高周波電力増幅器と前記方向性結合器の間にある内層の第1のグランド層と、
前記方向性結合器と同じ層で構成される前記高周波電力増幅器のバイアスラインと
前記バイアスラインと前記方向性結合器の間に高周波電力増幅器のサーマルビアと
を有する高周波モジュール。
【請求項2】
前記方向性結合器の主線路および副線路は異なる層で形成され、
前記主線路は上層に、
前記副線路は下層に形成されたことを特徴とする請求項1記載の高周波モジュール。
【請求項3】
方向性結合器の下層にある第2のグランド層と前記内層の第1のグランド層の間に設けられたグランドビアが、前記方向性結合器と多層基板端との間に設けられている請求項1または2記載の高周波モジュール。
【請求項4】
前記多層基板は、
両面にパターン形成された両面基板と、
前記両面基板の上下に、片面のみパターン形成された片面基板を積層して形成され、
前記両面基板には前記方向性結合器が形成されていることを特徴とする請求項1から3に記載の高周波モジュール。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2012−74930(P2012−74930A)
【公開日】平成24年4月12日(2012.4.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−218182(P2010−218182)
【出願日】平成22年9月29日(2010.9.29)
【出願人】(000005821)パナソニック株式会社 (73,050)
【Fターム(参考)】