説明

高誘電体薄膜形成用塗布組成物とその製造方法

【課題】MOD法によるペロブスカイト型誘電物質からなる高誘電体薄膜の形成において、クラックの発生がなく、膜の収縮が小さく、かつ誘電特性に優れた誘電体薄膜を形成することができる高誘電体薄膜形成用塗布組成物とその効率的な製造方法を提供する。
【解決手段】特定の混合液を用いてアルカリ土類金属元素の所定濃度の有機酸塩液(A)を調製する工程、特定の有機溶剤を用いてチタン、スズ及びジルコニウムからなる群から選ばれる少なくとも1種の元素の所定濃度のアルコキシド液(B)を調製する工程、有機酸塩液(A)とアルコキシド液(B)を用いて複合有機酸塩液(C)を合成する工程、及び複合有機酸塩液(C)を所定濃度に濃縮させた後、希釈して、所定濃度に調整する工程を含むことを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、高誘電体薄膜形成用塗布組成物とその製造方法に関し、さらに詳しくは、有機酸塩熱分解法(以下、MOD法と呼称する場合がある。)によるペロブスカイト型誘電物質からなる高誘電体薄膜の形成において、クラックの発生がなく、膜の収縮が小さく、かつ誘電特性に優れた誘電体薄膜を形成することができる塗布液とその効率的な製造方法に関する。これによって、薄膜コンデンサ及び半導体集積回路装置の容量絶縁膜、DRAMのキャパシタ材料等、電子デバイスにおける様々な用途のキャパシタ材料等に有効な、誘電率の高い薄膜を形成する際に塗布液として用いられるが高誘電体薄膜形成用塗布組成物得られる。
【背景技術】
【0002】
近年、コンデンサ素子の小型化、また半導体集積回路の高集積化に伴い、薄膜コンデンサ及び半導体集積回路装置の容量絶縁膜、DRAMのキャパシタ材料等に使用されるキャパシタ絶縁膜としては、誘電率の高い物質が求められている。このような高誘電率を有する物質としては、ペロブスカイト型の結晶構造を持つ複合酸化物が知られている。例えば、チタン酸バリウム(BaTiO)、チタン酸ストロンチウム(SrTiO)、チタン酸カルシウム(CaTiO)、チタン酸バリウムストロンチウム((Ba、Sr)TiO)等、もしくは、前記複合酸化物を主成分とし、さらにBaサイトにマグネシウムを、Tiサイトにスズ、ジルコニウムを置換したペロブスカイト型複合酸化物が注目されている。
【0003】
また、このような高誘電率を有する物質の薄膜形成法としては、スパッタリング法、ゾルゲル法、MOD法、CVD法等が行なわれている。しかしながら、スパッタリング法及びCVD法には、いずれも装置が複雑であり、また、膜形成速度が遅いという欠点を有する上に膜を形成することできる面積が小さいため、大面積の膜を得ることができないという問題点がある。これに対して、ゾルゲル法又はMOD法では、熱分解によりペロブスカイト型複合酸化物を形成する化合物を含有する液状材料を基板上に塗布し焼成するという比較的単純なプロセスにより、安価な設備で大面積の薄膜が得られるという利点があり、工業的に量産性に優れた有望な方法である。
【0004】
従来、ゾルゲル法又はMOD法に用いられる高誘電体薄膜形成用塗布組成物について、例えば、次の(イ)〜(ハ)が提案されている。
(イ)バリウム及びチタンの金属石鹸を使用する(例えば、特許文献1参照。)。
(ロ)酢酸バリウム等のカルボン酸バリウム塩と、チタンイソプロポキシドの原料をエチレングリコールモノメチルエーテルを含む有機溶媒に溶解し、これを加水分解してチタン酸バリウム薄膜形成用組成物とする(例えば、特許文献2参照。)。
(ハ) カルボン酸バリウム塩、カルボン酸ストロンチウム塩、及びチタンイソプロポキシドを原料としてエステルとした有機溶媒に溶解し、チタン酸バリウムストロンチウム薄膜形成用組成物とする(例えば、特許文献3参照。)。
【0005】
しかしながら、これらの提案においては、多くの技術的課題があり、実用上の問題があった。例えば、(イ)では、焼成での金属石鹸の熱分解時にバリウム及びストロンチウムの炭酸塩は生成されないが、有機成分の揮発による重量変化が大きいため、形成される薄膜にクラックが発生したり、膜の収縮が大きくなるという問題が生じる。また、(ロ)では、原料にカルボン酸塩を用いるため、焼成での結晶化の際に800℃を超える高温が必要である。これにより、絶縁性の悪化が避けられず、リーク電流が大きいために実用化には至っていない。この悪化原因は、高温焼成による膜の急激な収縮、或いは下地電極との反応等により、薄膜内に微小なクラック又はボイドが発生するためと考えられる。また、(ハ)では、溶剤にエステルを用いることで、有機成分の揮発による重量変化は小さく、クラックの発生及び膜の収縮は生じにくい。しかしながら、高価なカルボン酸バリウム塩、カルボン酸ストロンチウム塩を用いなければならないこと、下地電極に金属膜を用いた場合に濡れ性が悪く塗膜の均一性が得られにくいこと、さらに溶剤がエステルのみであると外気による保存性が悪化してしまうこと等の問題があった。
【0006】
以上のように、ペロブスカイト型誘電物質からなる高誘電体薄膜の形成に用いられる塗布液においては、液の保存性、形成される膜のクラックの発生、膜の収縮等の課題をクリアしなければならず、これらを全て満足させ、かつ高い誘電特性を達成することは難しいとされていた。
【0007】
【特許文献1】特開平1−308801号公報(第1頁)
【特許文献2】特開平1−100024号公報(第1頁)
【特許文献3】特開平8−337421号公報(第1頁、第2頁)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明の目的は、上記の従来技術の問題点に鑑み、MOD法によるペロブスカイト型誘電物質からなる高誘電体薄膜の形成において、クラックの発生がなく、膜の収縮が小さく、かつ誘電特性に優れた誘電体薄膜を形成することができる高誘電体薄膜形成用塗布組成物とその効率的な製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは、上記目的を達成するために、ペロブスカイト型誘電物質からなる高誘電体薄膜を形成する際に用いる高誘電体薄膜形成用塗布組成物とその製造方法について、鋭意研究を重ねた結果、アルカリ土類金属元素と、チタン、スズ又はジルコニウムから選ばれる少なくとも1種とを含有し、熱分解により上記ペロブスカイト型複合酸化物を形成する複合有機酸塩を含有する有機溶剤(以下、複合有機酸塩液と呼称する場合がある。)を高誘電体薄膜形成用塗布組成物とすること、及び複合アルコキシド液を製造する際に、金属分のソースとして用いるアルカリ土類金属元素、チタン、スズ又はジルコニウム等の原料形態、これらを溶解しかつ生成された金属アルコキシドを安定化させる有機溶剤等の種類の選別、及び複合有機酸塩液の合成条件が重要であることを見出した。
なお、金属アルコキシドは、一般式:M(OR )(ただし、式中Rは直鎖状又は分岐状アルキル基を、式中Mは金属元素を表す。また、式中nは2又は4である。)で表され、例えば、チタンアルコキシドの化学式はTi(OR )である。
【0010】
すなわち、適切な形態の原料をエーテル、アルコール、エステル等の有機溶剤及びカルボン酸中に溶解し、アルカリ土類金属元素有機酸塩を含有する所定濃度の有機酸塩液とチタン、スズ又はジルコニウムから選ばれる少なくとも1種の金属のアルコキシドを含有する所定濃度のアルコキシド液を別途調製した後に、これら金属アルコキシド液を混合してペロブスカイト型誘電物質形成用の複合有機酸塩液を合成し、さらにこの複合有機酸塩液を一旦所定濃度に濃縮した後、所定濃度に再調整する方法によって、塗布液の溶解性、塗膜性、保存性等を満足させることができ、これにより、MOD法による誘電体薄膜の形成において、クラックの発生がなく、膜の収縮が小さく、かつ誘電特性に優れた誘電体薄膜を形成することができる高誘電体薄膜形成用塗布組成物が効率的かつ安定的に製造されることを見出し、本発明を完成した。
【0011】
すなわち、本発明の第1の発明によれば、下記の(1)〜(4)の工程を含むことを特徴とする高誘電体薄膜形成用塗布組成物の製造方法が提供される。
(1)バリウム、ストロンチウム、マグネシウム及びカルシウムからなる群から選ばれる少なくとも1種のアルカリ土類金属元素の金属、そのアルコキシド又はカルボン酸塩を、エーテル系溶剤及び/又はアルコール系溶剤と、カルボン酸又はそれを含むエステル系溶剤とからなる混合液に添加した後、窒素又は不活性ガス雰囲気下に80〜110℃の温度で加熱処理して、金属元素濃度が0.2〜0.8mol/Lの有機酸塩液(A)を調製する工程、
(2)チタン、スズ及びジルコニウムからなる群から選ばれる少なくとも1種の元素のアルコキシド又はカルボン酸塩を、エステル系溶剤中に添加して、金属元素濃度が0.2〜0.8mol/Lのアルコキシド液(B)を調製する工程、
(3)有機酸塩液(A)とアルコキシド液(B)とを、前者に含まれる金属元素の合計量と後者に含まれる金属元素の合計量とがモル比で等しくなるような配合割合で混合した後、窒素又は不活性ガス雰囲気下に80〜130℃の温度で加熱処理して複合有機酸塩液(C)を合成する工程、
(4)得られた複合有機酸塩液(C)を、窒素又は不活性ガス雰囲気下80〜125℃の温度で加熱処理し、それにより上記複合アルコキシド化反応を促進させながら、金属元素濃度が1.0〜1.6mol/Lになるように濃縮させた後、さらに、アルコール系溶剤とエステル系溶剤とを添加して、金属元素濃度を0.2〜0.4mol/Lに希釈する工程、
【0012】
また、本発明の第2の発明によれば、第1の発明において、(1)の工程において、エーテル系溶剤及び/又はアルコール系溶剤と、カルボン酸又はそれを含むエステル系溶剤との配合割合は、容積比で2:3〜3:2であることを特徴とする高誘電体薄膜形成用塗布組成物の製造方法が提供される。
【0013】
また、本発明の第3の発明によれば、第1の発明において、(1)の工程において、エーテル系溶剤は、メチルセロソルブ又はエチルセロソルブであり、アルコール系溶剤は、1−プロパノール、2−プロパノール、1−ブタノール、2−ブタノール及びメタノールからなる群から選ばれる少なくとも1種であり、カルボン酸は、2−エチルヘキサン酸、3−エチルヘキサン酸、及び3−メチルペンタン酸からなる群から選ばれる少なくとも1種であり、さらに、エステル系溶剤は、酢酸エチル、酢酸n−ブチル、酢酸イソブチル、及び酢酸イソペンチルからなる群から選ばれる少なくとも1種であることを特徴とする高誘電体薄膜形成用塗布組成物の製造方法が提供される。
【0014】
また、本発明の第4の発明によれば、第3の発明において、エーテル系溶剤は、メチルセロソルブであり、アルコール系溶剤は、2−プロパノール又は1−ブタノールであり、カルボン酸は、2−エチルヘキサン酸であり、さらに、エステル系溶剤は、酢酸n−ブチル又は酢酸イソペンチルであることを特徴とする高誘電体薄膜形成用塗布組成物の製造方法が提供される。
【0015】
また、本発明の第5の発明によれば、第1の発明において、(2)の工程において、エステル系溶剤は、酢酸エチル、酢酸n−ブチル、酢酸イソブチル及び酢酸イソペンチルからなる群から選ばれる少なくとも1種であることを特徴とする高誘電体薄膜形成用塗布組成物の製造方法が提供される。
【0016】
また、本発明の第6の発明によれば、第1の発明において、(3)の工程において、加熱時間は2〜10時間であることを特徴とする高誘電体薄膜形成用塗布組成物の製造方法が提供される。
【0017】
また、本発明の第7の発明によれば、第1の発明において、(4)の工程において、エステル系溶剤は、酢酸n−ブチル又は酢酸イソブチルであり、かつアルコール系溶剤は、2−プロパノール及び/又は1−ブタノールあることを特徴とする高誘電体薄膜形成用塗布組成物の製造方法が提供される。
【0018】
また、本発明の第8の発明によれば、第1〜7のいずれかの発明の製造方法により得られる高誘電体薄膜形成用塗布組成物が提供される。
【発明の効果】
【0019】
本発明の高誘電体薄膜形成用塗布組成物とその製造方法は、MOD法によるペロブスカイト型誘電物質からなる高誘電体薄膜の形成において、クラックの発生がなく、膜の収縮が小さく、かつ誘電特性に優れた誘電体薄膜を形成することができる高誘電体薄膜形成用塗布組成物を、効率的かつ安定的に製造することができる方法であるので、その工業的価値は極めて大きい。
【発明を実施するための最良の形態】
【0020】
以下、本発明の高誘電体薄膜形成用塗布組成物とその製造方法を詳細に説明する。
本発明の高誘電体薄膜形成用塗布組成物の製造方法は、下記の(1)〜(4)の工程を含むことを特徴とする。
(1)バリウム、ストロンチウム、マグネシウム及びカルシウムからなる群から選ばれる少なくとも1種のアルカリ土類金属元素の金属、そのアルコキシド又はカルボン酸塩を、エーテル系溶剤及び/又はアルコール系溶剤と、カルボン酸又はそれを含むエステル系溶剤とからなる混合液に添加した後、窒素又は不活性ガス雰囲気下に80〜110℃の温度で加熱処理して、金属元素濃度が0.2〜0.8mol/Lの有機酸塩液(A)を調製する工程、
(2)チタン、スズ及びジルコニウムからなる群から選ばれる少なくとも1種の元素のアルコキシド又はカルボン酸塩を、エステル系溶剤中に添加して、金属元素濃度が0.2〜0.8mol/Lのアルコキシド液(B)を調製する工程、
(3)有機酸塩液(A)とアルコキシド液(B)とを、前者に含まれる金属元素の合計量と後者に含まれる金属元素の合計量とがモル比で等しくなるような配合割合で混合した後、窒素又は不活性ガス雰囲気下に80〜130℃の温度で加熱処理して複合有機酸塩液(C)を合成する工程、
(4)得られた複合有機酸塩液(C)を、窒素又は不活性ガス雰囲気下80〜125℃の温度で加熱処理し、それにより上記複合アルコキシド化反応を促進させながら、金属元素濃度が1.0〜1.6mol/Lになるように濃縮させた後、さらに、アルコール系溶剤とエステル系溶剤とを添加して、金属元素濃度を0.2〜0.4mol/Lに希釈する工程、
【0021】
本発明の製造方法において、上記工程の手順に従って行なうことが重要である。この手順が違うと、得られる塗布液の安定性が劣ったり、膜形成の際の焼成時に構成金属が揮発して膜組成が液組成からずれてしまうことが起こる。
【0022】
本発明の製造方法の(1)の工程は、バリウム、ストロンチウム、マグネシウム及びカルシウムからなる群から選ばれる少なくとも1種のアルカリ土類金属元素の金属、そのアルコキシド又はカルボン酸塩を、エーテル系溶剤(以下、エーテルと略称する場合がある。)及び/又はアルコール系溶剤(以下、アルコールと略称する場合がある。)と、カルボン酸又はそれを含むエステル系溶剤(以下、エステルと略称する場合がある。)とからなる混合液に添加した後、窒素又は不活性ガス雰囲気下に80〜110℃の温度で加熱処理して、金属元素濃度が0.2〜0.8mol/Lの有機酸塩液(A)を調製する工程である。
【0023】
上記(1)の工程では、原料形態、並びに有機溶剤等とその配合比を選ぶことにより、有機酸塩液(A)中のの金属の溶解性と保存性、さらに高誘電体薄膜形成用塗布組成物の塗膜性、及び膜欠陥の原因となる揮発又は分解性等を満足させる効果が得られる。
例えば、エステル及びエーテルは加えることで、液の安定性が向上する。特に、エステルは液に加えることで塗膜性を向上させる効果がある。
【0024】
ここで、バリウム、ストロンチウム、マグネシウム及びカルシウム等のアルカリ土類金属元素の原料として金属を用いて、2−プロパノール又はメチルセロソルブで溶解する場合、溶解度が高く、かつ水混和性の低いカルボン酸又はエステルを適量混合しておけば、その一部は金属アルコキシドのアルキル基と置換反応し安定した有機酸塩液が調製される。
【0025】
また、カルボン酸塩としては、特に限定されるものではないが、酢酸バリウム、酢酸カルシウム、エチルヘキサン酸カルシウム等の低級カルボン酸塩が好ましい。これらを原料とする場合、その多くは低級アルコールに溶解しにくいため、カルボン酸、又はエステルとカルボン酸で溶解した後、アルコールで希釈して用いる。
【0026】
また、アルコキシドとしては、特に限定されるものではなく、メトキシド、エトキシド、イソプロポキシド、ブトキシド等が挙げられるが、特に、適当な反応速度であることから、イソプロポキシド又はブトキシドを用いるのが好ましい。これらを原料とする場合、高級アルコール、カルボン酸、エステル、またはその混合溶媒が好適に使用できる。なお、低級アルコールは水分を含むために不安定化するため好ましくない。
【0027】
上記(1)の工程において、混合液中のエーテル及び/又はアルコールと、カルボン酸及びエステルとの配合割合としては、特に限定されるものではなく、容積比で2:3〜3:2であることが好ましい。すなわち、配合割合がこの範囲外になると、溶解が不十分となり、未溶解物が発生しやすくなり、これにより沈殿が生成して液が不安定になるため好ましくない。これにより、液安定性は高まるので、即座にアルコキシド液(B)と混合してペロブスカイト型誘電物質を合成しなくとも、密閉容器に入れておけば3ヶ月間はまったく変化がないものが得られる。ただし、カルボン酸を加えず、例えばアルコールとエステルとの混合溶剤であると、金属の溶解度が低く、かつ液の保存性が劣る。
【0028】
これに対して、エーテル、アルコール、カルボン酸又はエステル等の有機溶剤を単独で、或いは本発明の条件以外の任意に組合わせて用いると、上記効果が得られない。
例えば、バリウム、ストロンチウム、マグネシウム、カルシウム等アルカリ土類金属元素の原料として金属を用いた場合、アルコール又はエーテルに容易に溶解するが、得られるアルコキシド液は水に対する安定性が欠けるため、外気に晒すことができず、また保存性が悪いという問題がある。一般的には、これにジケトン類であるアセチルアセトン、アセト酢酸エチル等を金属アルコキシドと等モル量加えることにより、液の安定性を高めることが行なわれるが、誘電体薄膜の下地電極である金属膜とのぬれ性が悪く、また膜焼成時にクラックが生じて膜密度が低下するという問題がある。
【0029】
また、低級カルボン酸塩を原料とした場合、前述したように、その多くは低級アルコールに溶解しにくいため、一般的には、エステル又はカルボン酸を用いて溶解される。しかしながら、エステルだけを用いると、カルボン酸塩の溶解度が低いため、保存時に粒子が析出する。さらに、誘電体薄膜の下地電極である金属膜とのぬれ性が悪く、均一な膜が得られないという問題がある。一方、カルボン酸は、溶解性が高く、かつ水混和性も低いために保存性を安定させる有用な有機溶剤であるが、加熱により揮発除去されにくい。したがって、カルボン酸を多量に用いると、膜形成時に有機成分が残留する。エステルとカルボン酸の混合溶液にしても同様である。
【0030】
また、上記(1)の工程で用いるエーテル、アルコール、カルボン酸又はエステルとしては、特に限定されるものではないが、原料の溶解性、有機酸塩液の安定性、膜形成時の塗布性、膜熱処理時の揮発又は分解性が良好でないと膜の誘電特性が悪化するため、それらの最適化を図るため選定することできる。
【0031】
上記(1)の工程において用いるエーテルとしては、沸点が200℃以下であるメチルセロソルブ又はエチルセロソルブが好ましく、メチルセロソルブがより好ましい。
【0032】
上記(1)の工程において用いるアルコールとしては、1−プロパノール、2−プロパノール、1−ブタノール、2−ブタノール及びメタノールからなる群から選ばれる少なくとも1種が好ましく、2−プロパノール及び1−ブタノールがより好ましい。すなわち、使用するアルコールの沸点としては、80〜160℃が好ましく、80〜130℃がより好ましい。すなわち、沸点が160℃以下のものを混合することで、形成された膜の熱処理時の揮発又は分解性を向上させ、収縮及びクラックの少ない膜が得られる。しかしながら、沸点が80℃未満のアルコール溶剤を用いた場合、金属アルコキシド液を混合し加熱して複合有機酸塩液を合成する際に液濃度が変動して、合成が不安定になる。
【0033】
上記(1)の工程において用いるカルボン酸としては、沸点が200℃以下であり、取り扱い性、溶解性及び安定性に優れる2−エチルヘキサン酸、3−エチルヘキサン酸、及び3−メチルペンタン酸からなる群から選ばれる少なくとも1種のエチルヘキサン酸類が好ましく、2−エチルヘキサン酸がより好ましい。
【0034】
上記(1)の工程において用いるエステルとしては、沸点が200℃以下である酢酸エチル、酢酸n−ブチル、酢酸イソブチル、及び酢酸イソペンチルからなる群から選ばれる少なくとも1種が好ましく、酢酸n−ブチル又は酢酸イソペンチルがより好ましい。
【0035】
上記(1)の工程において用いる加熱溶解条件としては、80〜100℃の温度で行なう。すなわち、加熱温度が80℃未満では、有機酸塩の形成が不十分である。一方、加熱温度が100℃を超えると、有機溶剤の揮発が活発になる。また、加熱時間としては、特に限定されるものではなく、2〜10時間が好ましく、有機酸塩の生成が十分に行なわれる時間が選ばれる。
【0036】
上記(1)の工程において得られる有機酸塩液(A)の金属元素濃度としては、0.2〜0.8mol/Lである。すなわち、金属元素濃度が0.2mol/L未満では、濃度が希薄なため生産性が低下し、一方金属元素濃度が0.8mol/Lを超えると、溶解が不十分になり液が安定しない問題がある。
【0037】
本発明の製造方法の(2)の工程は、チタン、スズ及びジルコニウムからなる群から選ばれる少なくとも1種の元素のアルコキシド又はカルボン酸塩を、エステル系溶剤中に添加後、窒素又は不活性ガス雰囲気下に20〜60℃の温度で加熱して溶解し、金属元素濃度が0.2〜0.8mol/Lのアルコキシド液(B)を調製する工程である。
【0038】
上記(2)の工程において用いるアルコキシドとしては、特に限定されるものではなく、メトキシド、エトキシド、イソプロポキシド、ブトキシド等が挙げられるが、特に、適当な反応速度であることから、イソプロポキシド又はブトキシドを用いるのが好ましい。
また、上記(2)の工程において用いるカルボン酸塩としては、特に限定されるものではなく、酢酸塩又はエチルヘキサン酸塩を用いることができる。
【0039】
上記(2)の工程において用いる有機溶剤としては、エステル系溶剤、特に酢酸エステルを用いる。すなわち、アルコールを加えた混合溶液であると、徐々に白濁し沈殿する場合がある。
【0040】
上記エステルとしては、沸点が200℃以下である酢酸エチル、酢酸n−ブチル、酢酸イソブチル、及び酢酸イソペンチルからなる群から選ばれる少なくとも1種が好ましく、酢酸n−ブチル又は酢酸イソペンチルがより好ましい。
【0041】
上記(2)の工程において用いる加熱溶解条件としては、20〜60℃の温度で行なう。すなわち、加熱温度が20℃未満では、金属アルコキシドの形成が不十分である。一方、加熱温度が60℃を超えると、有機溶剤の揮発が活発になる。また、加熱時間としては、特に限定されるものではなく、10分〜2時間が好ましく、金属アルコキシドの形成が十分に行なわれる時間が選ばれる。
【0042】
上記(2)の工程において得られるアルコキシド液(B)の金属元素濃度としては、0.2〜0.8mol/Lである。すなわち、金属元素濃度が0.2mol/L未満では、濃度が希薄になると生産性が低下し、一方、金属元素濃度が0.8mol/Lを超えると、溶解が不十分となり液が安定しない。
【0043】
本発明の製造方法の(3)の工程は、有機酸塩液(A)とアルコキシド液(B)とを、前者に含まれる金属元素の合計量と後者に含まれる金属元素の合計量とがモル比で等しくなるような配合割合で混合した後、窒素又は不活性ガス雰囲気下に80〜130℃の温度で加熱処理して複合有機酸塩液(C)を合成する工程である。ここで、有機酸塩液(A)とアルコキシド液(B)に含まれる金属アルコキシド等が反応して、熱分解により上記ペロブスカイト型複合酸化物を形成する複合有機酸塩が合成される。
【0044】
上記(3)の工程において用いる加熱条件としては、80〜130℃の温度で行なう。すなわち、加熱温度が80℃未満では、合成反応が不十分であり構成元素が単独で存在し、加水分解速度に差が生じて膜組成の均一性が劣る。一方、加熱温度が130℃を超えると、有機溶媒の揮発が活発化するだけでなく、金属アルコキシドも同時に揮発して組成ずれが起こる。また、加熱時間としては、特に限定されるものではなく、2〜10時間が好ましく、合成が十分に行なわれる時間が選ばれる。
【0045】
本発明の製造方法の(4)の工程は、得られた複合有機酸塩液(C)を、窒素又は不活性ガス雰囲気下80〜125℃の温度で加熱処理し、それにより上記複合有機酸塩化反応を促進させながら、金属元素濃度が1.0〜1.6mol/Lになるように濃縮させた後、さらにアルコール系溶剤とエステル系溶剤とを添加して、金属元素濃度を0.2〜0.4mol/Lに希釈する工程である。これによって、塗膜性と保存性等を満足させ、クラックの発生がなく、膜の収縮が小さく、かつ誘電特性に優れた誘電体薄膜を形成することができる高誘電体薄膜形成用塗布組成物が得られる。
【0046】
ここで、まず、複合有機酸塩液(C)を80〜125℃の不活性ガス雰囲気下で加熱して、溶媒の一部を揮発させ、一旦、金属元素濃度が1.0〜1.6mol/Lの高濃度液を調製する。加熱しながら不活性ガスを導入することにより、有機溶媒が揮発する。この際、揮発する有機溶媒の大部分は、沸点の低い、特にアルコール又はエステルである。これにより濃度が高まることにより、合成反応は一層促進される。ただし、高濃度化しすぎると析出が起こるために、1.6mol/Lが上限となる。一方、1.0mol/L未満では合成効果が期待できない。このときの加熱温度としては、合成反応が進行する80〜125℃が用いられる。なお、温度が125℃を超えると、金属アルコキシの揮発が起こる。
【0047】
次に、高濃度液に希釈剤としてエステルとアルコールを室温で添加し混合して、金属元素濃度を0.2〜0.4mol/Lに調整する。ここで、希釈剤としては、合成した液の構造が壊れにくいアルコールを主成分として添加を行なう。ただし、高濃度化によりエステルが減少しているので、このままでは塗膜性が劣る。そのため、エステルを加えておくことが必要である。
【0048】
上記エステルとしては、特に限定されるものではなく、酢酸n−ブチル又は酢酸イソブチルが好ましく、かつ前記アルコールとしては、2−プロパノール及び/又は1−ブタノールが好ましい。その配合比としては、アルコール:エステル=4:1〜2:1が好ましい。
【0049】
本発明の高誘電体薄膜形成用塗布組成物は、以上の製造方法により得られる高誘電体薄膜形成用塗布組成物であり、塗膜性と保存性等を満足させ、さらに、クラックの発生がなく、膜の収縮が小さく、かつ誘電特性に優れた誘電体薄膜を形成することができるものである。また、上記高誘電体薄膜形成用塗布組成物中には、塗膜性、保存性、結晶性等の塗布液としての性能を向上させるための各種の添加剤を加えることができる。前記添加剤の添加は、(4)の工程、又はそれ以降において行なわれる。
【0050】
本発明の製造方法により得られる高誘電体薄膜形成用塗布組成物を用いる薄膜の形成方法としては、例えば、Si、Pt/Ti/SiO/Si、Pt/Ta/SiO/Si、Pt/SiO/Si、Ru/RuO/SiO /Si、RuO/Si、RuO/Ru/SiO/Si、Ir/IrO/Si、Pt/Ir/IrO/Si、Pt/IrO/Si、Pt/TiO/SiO/Si等の基板に、塗布液を滴下した後、スピンコート、ディップコート等により塗布し乾燥する。次に、400〜600℃の温度で10分〜1時間程度の仮焼成する。ここで、所望の膜厚にするために、塗布、乾燥、仮焼成を数回繰り返した後、700〜900℃の温度で20分〜2時間程度本焼成して、高誘電体薄膜を形成する。
【実施例】
【0051】
以下に、本発明の実施例及び比較例によって本発明をさらに詳細に説明するが、本発明は、これらの実施例によってなんら限定されるものではない。なお、実施例及び比較例で用いた金属の分析及び薄膜の形成方法と評価方法は、以下の通りである。
(1)金属の分析:ICP発光分析法で行った。
(2)薄膜の形成方法と評価方法:塗布液をスピンコート法によりチタン白金基板上に塗布し、200℃で乾燥した後、大気中、または酸化性雰囲気中600℃で10分間の仮焼成した。塗布、乾燥、仮焼成を6回繰り返した後、酸素ガス気流中800℃で1時間本焼成して、ペロブスカイ型誘電物質からなる薄膜を形成した。その後、膜表面のAFM観察して、クラック及び収縮の発生を評価した。さらに、薄膜に直径0.3mmの白金上部電極を蒸着し、25℃に保った室内でAC電圧1.0V、周波数1MHz時の比誘電率及び誘電損失を測定した。
【0052】
(実施例1)
チタン酸バリウム(BaTiO)薄膜を形成し評価した。
まず、(1)の工程として、金属バリウムを容量比でメチルセロソルブ:2−エチルヘキサン酸:酢酸n−ブチル=2:1:1で配合した混合溶剤80mL中に添加し、窒素気流中80℃で2時間攪拌混合して、Ba濃度0.8mol/Lのバリウム有機酸塩液(A1)を調製した。また、(2)の工程として、チタンイソプロポキシドを酢酸n−ブチル20mLに添加し、室温で10分間攪拌混合して、Ti濃度0.8mol/Lのチタンアルコキシド液(B1)を調製した。
次に、(3)の工程として、モル比でバリウム:チタン=1:1となるようにバリウム有機酸塩液(A1)中にチタンアルコキシド液(B1)を滴下し、窒素気流中110℃で2時間攪拌混合して、合計濃度0.8mol/Lの複合有機酸塩液(C1)を得た。
【0053】
次いで、(4)の工程として、複合有機酸塩液(C1)を窒素気流中で125℃で1時間加熱して有機溶媒の一部を揮発させ、金属元素濃度1.2mol/Lの高濃度液を得た。最後に、高濃度液に2−プロパノールと酢酸n−ブチルを容量比で2:1として得た希釈剤を添加し、金属元素濃度を0.4mol/Lに調整して塗布液を得た。
その後、上記薄膜の形成方法と評価方法に従って薄膜を形成し、膜表面の観察及び誘電特性の評価を行なった。結果を表1、表2に示す。
【0054】
(実施例2)
チタン酸バリウム(BaTiO)薄膜を形成し評価した。
(3)の工程において、攪拌混合の温度が100℃であること、(4)の工程において、加熱温度が110℃であること、及び高濃度液の金属元素濃度が1.0mol/Lであること、及び高濃度液に2−プロパノールと酢酸n−ブチルを配合比で4:1として添加したこと以外は実施例1と同様に行なった。その後、上記薄膜の形成方法と評価方法に従って薄膜を形成し、膜表面の観察及び誘電特性の評価を行なった。結果を表1、表2に示す。
【0055】
(実施例3)
チタン酸バリウム(BaTiO)薄膜を形成し評価した。
(4)の工程において、加熱時間が2時間であること、及び高濃度液の金属元素濃度が1.6mol/Lであること、及び高濃度液に容量比2−プロパノール:酢酸n−ブチル:酢酸イソペンチル=2:2:1で配合した有機溶剤を添加したこと以外は実施例1と同様に行なった。その後、上記薄膜の形成方法と評価方法に従って薄膜を形成し、膜表面の観察及び誘電特性の評価を行なった。結果を表1、表2に示す。
【0056】
(実施例4)
チタン酸バリウムカルシウム((Ba、Ca)TiO)薄膜を形成し評価した。
まず、(1)の工程として、金属バリウムを容量比で1−ブタノール:2−エチルヘキサン酸:酢酸n−ブチル=2:1:1で配合した混合溶剤100mL中に添加し、窒素気流中100℃で2時間攪拌混合して、Ba濃度0.4mol/Lのバリウム有機酸塩液(A1)を調製した。さらに、市販のCa濃度0.4mol/Lの2−エチルヘキサン酸カルシウムを用いることにより、カルシウムアルコキシド液(A2)を準備した。(A1)と(A2)を容量比で9:1に配合して、バリウムカルシウム有機酸塩液(A12)を調製した後、その50mLを採取した。また、(2)の工程として、チタンイソプロポキシドを酢酸n−ブチル添加し、大気中室温で10分間攪拌混合し、Ti濃度0.4mol/Lのチタンアルコキシド液(B1)を調製した後、その50mLを採取した。
次に、(3)の工程として、モル比でバリウム+カルシウム:チタン=1:1となるようにバリウムカルシウム有機酸塩液(A12)中にチタンアルコキシド液(B1)を滴下し、窒素気流中110℃で2時間攪拌混合して、金属元素濃度0.4mol/Lの複合有機酸塩液(C2)を得た。
【0057】
次いで、(4)の工程として、複合有機酸塩液(C2)を窒素気流中で125℃で3時間加熱して有機溶媒の一部を揮発させ、金属元素濃度1.1mol/Lの高濃度液を得た。最後に、高濃度液に2−プロパノールと酢酸n−ブチルを容量比で3:1として添加し、金属元素濃度を0.4mol/Lに調整して塗布液を得た。
その後、上記薄膜の形成方法と評価方法に従って薄膜を形成し、膜表面の観察及び誘電特性の評価を行なった。結果を表1、表2に示す。
【0058】
(比較例1)
チタン酸バリウム(BaTiO)薄膜を形成し評価した。
まず、(1)の工程として、2−エチルヘキサン酸バリウムを2−エチルヘキサン酸中に添加し、窒素気流中室温で2時間攪拌混合して、Ba濃度0.8mol/Lのバリウム有機酸塩液(A3)を調製した後、その50mLを採取した。また、(2)の工程として、チタンイソプロポキシドを酢酸n−ブチルに添加し、大気中室温で10分間攪拌混合し、Ti濃度0.8mol/Lのチタンアルコキシド液(B2)を調製した後、その50mLを採取した。
次に、(3)の工程として、モル比でバリウム:チタン=1:1となるようにバリウム有機酸塩液(A3)中にチタンアルコキシド液(B2)を滴下し、窒素気流中80℃で2時間攪拌混合して、金属元素濃度0.8mol/Lの複合有機酸塩液(C3)を得て、塗布液とした。
その後、上記薄膜の形成方法と評価方法に従って薄膜を形成し、膜表面の観察及び誘電特性の評価を行なった。結果を表1、表2に示す。なお、上記薄膜の形成方法において、仮焼成温度が500℃である点、及び塗布、乾燥、仮焼成の繰り返し回数が3回である点で異なる。
【0059】
(比較例2)
チタン酸バリウム(BaTiO)薄膜を形成し評価した。
(4)の工程において、複合有機酸塩液(C1)の濃縮を行なわなかったこと以外は、実施例1と同様に行なった。なお、高濃度液に2−プロパノールと酢酸n−ブチルを容量比で2:1として得た希釈剤を添加し、金属元素濃度を0.4mol/Lに調整して塗布液を得た。
その後、上記薄膜の形成方法と評価方法に従って薄膜を形成し、膜表面の観察及び誘電特性の評価を行なった。結果を表1、表2に示す。
【0060】
(比較例3)
チタン酸バリウム(BaTiO)薄膜を形成し評価した。
(4)の工程において、加熱時間が3時間であること、及び高濃度液の金属元素濃度が1.9mol/Lであること以外は、実施例1と同様に行なった。その後、上記薄膜の形成方法と評価方法に従って薄膜を形成し、膜表面の観察及び誘電特性の評価を行なった。結果を表1、表2に示す。なお、塗布液を観察すると、やや白濁沈殿が見られた。
【0061】
【表1】

【0062】
【表2】

【0063】
表1、表2より、実施例1〜4では、特定の混合液を用いてアルカリ土類金属元素の有機酸塩液(A)を調製する工程、特定の有機溶剤を用いてチタン、スズ及びジルコニウムからなる群から選ばれる少なくとも1種の元素のアルコキシド液(B)を調製する工程、有機酸塩液(A)とアルコキシド液(B)を用いて複合有機酸塩液(C)を合成する工程、及び複合有機酸塩液(C)を濃縮させた後、希釈して、金属元素濃度を調整する工程を順次行ない、本発明の方法に従って行われたので、MOD法によるペロブスカイト型誘電物質からなる高誘電体薄膜の形成において、クラックの発生がなく、膜の収縮が小さく、かつ誘電特性に優れた誘電体薄膜を形成することができる高誘電体薄膜形成用塗布組成物が効率的に得られることが分かる。
【0064】
これに対して、比較例1〜3では、(1)の工程において特定の混合液を用いていないこと、(4)の工程において複合有機酸塩液(C)の濃縮を行なわなかったこと、及び高濃度液の金属元素濃度が所定濃度から外れていることのいずれかで本発明の条件に合わないので、誘電特性において比誘電率が低く、また誘電損失が高く満足すべき結果が得られないことが分かる。
【産業上の利用可能性】
【0065】
以上より明らかなように、本発明の高誘電体薄膜形成用塗布組成物とその製造方法は、誘電特性に優れた誘電体薄膜を形成することができる高誘電体薄膜形成用塗布組成物であり、その効率的な製造方法であるので、薄膜コンデンサ及び半導体集積回路装置の容量絶縁膜、DRAMのキャパシタ材料等に使用されるキャパシタ絶縁膜に用いられる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記の(1)〜(4)の工程を含むことを特徴とする高誘電体薄膜形成用塗布組成物の製造方法。
(1)バリウム、ストロンチウム、マグネシウム及びカルシウムからなる群から選ばれる少なくとも1種のアルカリ土類金属元素の金属、そのアルコキシド又はカルボン酸塩を、エーテル系溶剤及び/又はアルコール系溶剤と、カルボン酸又はそれを含むエステル系溶剤とからなる混合液に添加した後、窒素又は不活性ガス雰囲気下に80〜110℃の温度で加熱処理して、金属元素濃度が0.2〜0.8mol/Lの有機酸塩液(A)を調製する工程、
(2)チタン、スズ及びジルコニウムからなる群から選ばれる少なくとも1種の元素のアルコキシド又はカルボン酸塩を、エステル系溶剤中に添加して、金属元素濃度が0.2〜0.8mol/Lのアルコキシド液(B)を調製する工程、
(3)有機酸塩液(A)とアルコキシド液(B)とを、前者に含まれる金属元素の合計量と後者に含まれる金属元素の合計量とがモル比で等しくなるような配合割合で混合した後、窒素又は不活性ガス雰囲気下に80〜130℃の温度で加熱処理して複合有機酸塩液(C)を合成する工程、
(4)得られた複合有機酸塩液(C)を、窒素又は不活性ガス雰囲気下80〜125℃の温度で加熱処理し、それにより上記複合アルコキシド化反応を促進させながら、金属元素濃度が1.0〜1.6mol/Lになるように濃縮させた後、さらに、アルコール系溶剤とエステル系溶剤とを添加して、金属元素濃度を0.2〜0.4mol/Lに希釈する工程、
【請求項2】
(1)の工程において、エーテル系溶剤及び/又はアルコール系溶剤と、カルボン酸又はそれを含むエステル系溶剤との配合割合は、容積比で2:3〜3:2であることを特徴とする請求項1に記載の高誘電体薄膜形成用塗布組成物の製造方法。
【請求項3】
(1)の工程において、エーテル系溶剤は、メチルセロソルブ又はエチルセロソルブであり、アルコール系溶剤は、1−プロパノール、2−プロパノール、1−ブタノール、2−ブタノール及びメタノールからなる群から選ばれる少なくとも1種であり、カルボン酸は、2−エチルヘキサン酸、3−エチルヘキサン酸、及び3−メチルペンタン酸からなる群から選ばれる少なくとも1種であり、さらに、エステル系溶剤は、酢酸エチル、酢酸n−ブチル、酢酸イソブチル、及び酢酸イソペンチルからなる群から選ばれる少なくとも1種であることを特徴とする請求項1に記載の高誘電体薄膜形成用塗布組成物の製造方法。
【請求項4】
エーテル系溶剤は、メチルセロソルブであり、アルコール系溶剤は、2−プロパノール又は1−ブタノールであり、カルボン酸は、2−エチルヘキサン酸であり、さらに、エステル系溶剤は、酢酸n−ブチル又は酢酸イソペンチルであることを特徴とする請求項3に記載の高誘電体薄膜形成用塗布組成物の製造方法。
【請求項5】
(2)の工程において、エステル系溶剤は、酢酸エチル、酢酸n−ブチル、酢酸イソブチル及び酢酸イソペンチルからなる群から選ばれる少なくとも1種であることを特徴とする請求項1に記載の高誘電体薄膜形成用塗布組成物の製造方法。
【請求項6】
(3)の工程において、加熱時間は2〜10時間であることを特徴とする請求項1に記載の高誘電体薄膜形成用塗布組成物の製造方法。
【請求項7】
(4)の工程において、エステル系溶剤は、酢酸n−ブチル又は酢酸イソブチルであり、かつアルコール系溶剤は、2−プロパノール及び/又は1−ブタノールあることを特徴とする請求項1に記載の高誘電体薄膜形成用塗布組成物の製造方法。
【請求項8】
請求項1〜7のいずれかに記載の製造方法により得られる高誘電体薄膜形成用塗布組成物。

【公開番号】特開2008−4269(P2008−4269A)
【公開日】平成20年1月10日(2008.1.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−169558(P2006−169558)
【出願日】平成18年6月20日(2006.6.20)
【出願人】(000183303)住友金属鉱山株式会社 (2,015)
【Fターム(参考)】