説明

2次イオン質量分析方法

【課題】 分析領域の特定を簡便に行うと共に正確な分析を行うことが可能な、2次イオン質量分析方法を提供することにある。
【解決手段】 試料22の分析領域30の近傍に溝40を作成した後、試料断面を出してその切断面50を分析対象面とし、切断面50に表出した溝40を目印として分析を行い、分析領域30を特定する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、2次イオン質量分析用の断面試料を作成し、2次イオン質量分析を行う2次イオン質量分析方法に関する。
【背景技術】
【0002】
2次イオン質量分析方法は、試料に1次イオンを照射して、試料から放出される2次イオンを質量分析して試料の構成成分を元素分析する方法であり、1次イオンで試料を掘り進み、深さ方向の元素分布状態も得られる。質量分析計の種類によって分類され、磁場型質量分析計、四重極質量分析計、飛行時間型質量分析計等がある。
【0003】
2次イオン質量分析方法において、数μm以下の微小領域に数種類のイオンが分布しているような場合、深さ方向からの分析では、その構造を把握し難いことがある。
【0004】
また、数10μm以上の深さまでの不純物分布を調査する場合、表面からの測定では分析に非常に多くの時間を要し、また分析箇所のクレータ深さが深くなることにより1次イオンの照射範囲の変化や2次イオン収率の低下が生じ、深さ方向の精度が低下する場合がある。
【0005】
これらの問題を回避するために、試料を切断や研削など加工を行い、分析領域の断面を表出させて、断面における不純物の面内分布分析を行うことがある。
【0006】
【特許文献1】特開2001−174421号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
断面において特有の形状を持たない試料の断面試料を作成した場合、分析面において分析箇所を特定することは困難である。
【0008】
断面試料の端部に位置する本来の試料表面の形状は目安となるが、表面形状の起伏の小さい試料では確認し難い。分析箇所近傍のみを研削し断面を表出させた場合、周囲の形状が1次イオンの照射および2次イオンの収集の妨害となり、検出感度が低下する。
【0009】
また、特許文献1のように分析箇所周囲を除去し、分析箇所のみの断面試料を作成する方法もあるが、加工に多くの時間を要し、また、試料の取扱いも困難である。
【0010】
そこで、本発明の目的は、断面試料を用いて分析を行うことにより、分析領域の特定を簡便に行うと共に正確な分析を行うことが可能な、2次イオン質量分析方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明は、1次イオンを固体試料の所定の分析領域に照射して、該固体試料から放出される2次イオンを質量分離して該分析領域内の構成成分の元素分析を行う2次イオン質量分析方法であって、前記固体試料の前記所定の分析領域の近傍に、分析目印となる所定の深さを有する溝を作成する工程と、前記作成された溝と前記所定の分析領域との両方を跨いだ状態で該固体試料を切断することにより、切断面を作成する工程と、前記作成された切断面の、前記溝と前記所定の分析領域との両方を含む領域を分析対象面とし、該分析対象面に対して前記1次イオンを照射して放出される2次イオンを質量分離して該分析対象面内の構成成分の元素分析を行う工程とを具えることによって、2次イオン質量分析方法を提供する。
【0012】
ここで、前記切断面を作成した後の分析前において、鏡面仕上げを行う工程をさらに具えてもよい。
前記溝の長さは、前記分析領域の前記溝と同方向の長さと同等としてもよい。
前記溝の作成は、集束イオンビーム装置を用いて行ってもよい。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、試料の分析領域の近傍に溝を作成した後、試料断面を出してその切断面を分析対象面とし、切断面に表出した溝を目印として分析を行うようにしたので、分析領域を容易に特定でき、正確な分析を行うことができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
以下、図面を参照して、本発明の実施の形態を詳細に説明する。
(装置構成)
図1は、本発明に係る2次イオン質量分析に用いられる、標準的な磁場型2次イオン質量分析装置100の構成を示す。
【0015】
2次イオン質量分析装置100は、1次イオンビーム19を供給する1次イオン供給部1と、2次イオン20を生成・検出する2次イオン生成部2と、電子線23を発生する電子線発生部3とに大別される。電子線23は、試料22が絶縁材料のとき、そのチャージアップ防止用として用いられる。
【0016】
1次イオン供給部1は、1次イオンビーム19を生成するために、セシウムイオン源17と、酸素イオン源18とを備えている。
【0017】
2次イオン生成部2には、1次イオン19および電子線23が照射される試料22と、試料22の分析領域から発生した2次イオン20を偏向し収束させる電磁石24と、2次イオンを検出する2次イオン検出器21とを備えている。
【0018】
1次イオン源17,18から発生した1次イオン19をレンズ系で細くし、試料室内の試料ホルダ7に取り付けた試料22に照射し、この照射により発生した2次イオン20を電磁石24で質量分離した後、目的のイオンを2次イオン検出器21で検出する。試料室は排気装置で真空に引かれている。
【0019】
図2は、試料22の溝作成に用いられる集束イオンビーム装置200の構成を示す。
【0020】
集束イオンビーム装置200は、Pt含有ガス供給部8と、イオン銃9と、2次電子検出器10と、試料室11と、排気装置12とからなる。16は、2次電子検出器10に接続されたモニタである。
【0021】
イオン銃9からのイオンビーム14を細く絞って、試料ホルダ7上の試料22に照射して加工する。試料室は、排気装置12で真空に引かれている。イオンビーム14としては、金属ガリウムを入れたイオン銃9で発生させたガリウム(Ga)イオンを使用する。
【0022】
イオンビーム14を照射した際に発生する2次電子13を2次電子検出器10で検出し、数万倍の2次電子像としてモニタ16で観察しつつ、試料22を加工することが可能であり、これにより試料22の微小部分の加工も精密に行える。
【0023】
(2次イオン質量分析)
次に、2次イオン質量分析の方法について説明する。
【0024】
図3は、本発明に係る2次イオン質量分析の全体的な流れを示す。以下、図4〜図8を用いて、各工程を順次説明する
図4は、質量分析に用いられる試料22の構成例を示す。
【0025】
試料22は、約7mm角のチップからなり、Si基板上の20μm×20μmの範囲にB(ボロン)が注入された分析領域30を持つ。分析領域30において、Bは、ピーク濃度1×1019atoms/cm程度で約8μm分布している。
図5〜図8は、その試料22の作成方法を示す。
【0026】
ステップS1では、試料22の所定の分析領域30の近傍に、分析目印となる一定の深さを有する溝40を作成する。
【0027】
具体的には、まず、図2の集束イオンビーム装置200内の試料室の試料ホルダ7に、試料22を固定設置する。そして、試料22の分析領域30を挟む2箇所にイオンビーム14を照射し、これにより、図5に示すような所望の形状(長さ、深さ等を分析領域30の大きさに合わせて自由に設定する)の溝40を作成する。
【0028】
ここでは、1本の溝40の形状は、その幅は約3μm、その長さは分析領域30の一辺の幅と同じ20μm、その深さは約8μmとし、2本の溝40の間隔は30μmとする。
【0029】
溝40は、分析領域30の図5におけるY軸方向の位置と揃えて形成する。すなわち、次工程の切断面50から垂直な(Y軸)方向で溝40と分析領域の端部がほぼ揃うように溝40を形成する。
【0030】
次に、ステップS2では、試料22を切断して切断面50を作成する。
具体的には、その作成された溝40と所定の分析領域30との両方を跨いだ状態で、試料22を切断して切断面50を作成し、切断面50を分析対象面とする。
【0031】
すなわち、試料22を、低速カッターを使用し、Bが注入された分析領域30およびその両端の2つの溝40を横断する断線(図5のA−B断面)で切断する。これにより、図6に示すような、切断面50を有する試料22が作成される。この切断面50には、Z軸方向の深さが約8μmの分析領域30と、この分析領域30を挟んだ2つの溝40とが現われている。この切断面50を、2次イオン質量分析の分析対象面とする。
【0032】
図7は、試料22の切断面50を上向き(図の紙面に対して手前向き)に設置した例である。なお、切断方法は、低速カッターにこだわるものではなく、切断位置を正確に定めることができるものであればよい。
【0033】
次に、ステップS3では、導電性冶具を、切断面50を有する試料22に接着する。
【0034】
具体的には、図8に示すように、Si基板等からなる支持板60上に、試料22の分析領域30および作成した溝40を持つ切断面50を上にして、導電性接着剤、例えば銅を含むエポキシ系導電性接着剤で貼り付ける。
【0035】
さらに、その貼り付けた試料22と同じ高さのSi板等の導電性板70を用意し、研磨時の分析領域30の保護および端部分析時の電場安定性を図るために、試料22の分析領域30のある端面に密着させて貼り付け、これにより、試料80を作成する。
【0036】
なお、接着材、支持板60、導電性板70は、研磨に耐える強度を持ち、真空中でガスを発生しないものであればよい。接着材は、エポキシ系樹脂に限定されるものではなく、導電性を有するものであって分析の妨害とならない組成のものであればよい。
【0037】
次に、ステップS4では、導電性板70と試料22とが接着されて構成された試料80の表面部分の鏡面仕上げを行う。
【0038】
具体的には、粗さの異なる数種類の研磨紙を用いて、試料80において、その試料22の分析領域30および作成した溝40を持つ切断面50を研磨する。
【0039】
この研磨のとき、分析領域30の存在するY軸方向の深さは、先に作成した溝40が存在するY軸方向の深さと同等である。溝40が見える範囲で研磨が終了するように注意しながら、順次研磨する研磨紙の粗さを小さくしていき、2次イオン質量分析に影響を及ぼすような研磨キズを完全に除去する。
【0040】
なお、ステップS1において、図10、図11に示すように、溝40の深さをY軸方向の一定範囲内で異なるように形成してもよい。
【0041】
図10、図11は、図5の溝40を拡大したCD断面図であり、深さの変更は図10のように2つの深さを交互に並べてもよいし、図11のように段階的に変えてもよい。溝40の深さは、イオンビーム14の制御により自在に変更可能である。
【0042】
図12は、図7の研磨の状態を示す図であり、上記のように溝40の深さをY軸方向の一定範囲内で変化させると、図12(a)(b)のように研磨量に応じて研磨面に現われる溝40のZ軸方向の長さが変化するため、分析領域を残すように研磨する際の目安とすることができる。
【0043】
なお、ステップS3、ステップS4の各工程は、必須の工程ではなく、試料80として構成することなく、試料22をそのまま用いてその後の分析を行ってもよい。
【0044】
最後に、ステップS5では、試料80(又は、試料22)の質量分析を行う。
【0045】
具体的には、2次イオン質量分析装置100内の試料室の試料ホルダ7に、試料80(又は、試料22)を固定設置する。その後、研磨した試料80の作成した2つの溝40の間の分析領域30と、それ以外の領域とについて、2次イオン質量分析法による面分析を行う。
【0046】
以上説明したように、試料22の分析領域30の近傍に溝40を作成した後、試料断面を出してその切断面50を分析対象面とし、切断面50に表出した溝40を目印として分析を行うことにより、分析領域30を容易に特定でき、正確な分析を行うことができる。
【0047】
このように溝40の作成位置を1次イオンの照射領域よりわずかに離れた位置とすることにより、溝40による凹凸形状の影響を避けられるため、切断面50からの微小領域の分析を正確に行うことができる。
【0048】
試料22に溝40を作成する手段として、微小部の加工に適した集束イオンビーム装置200を用いたことにより、イオンビーム14を細く絞ることができ、試料22の的確な位置に溝40を作成することが可能となる。
【0049】
(面分析の比較)
図9は、2次イオン質量分析装置100による試料80(又は、試料22)の面分析の結果を示す。
【0050】
図9(a)は、試料80(又は、試料22)の溝40の間以外の非分析対象部分において測定したB(ボロン)の面内分布を示す。
【0051】
測定条件は、1次イオンビーム19として酸素(O)、1次加速エネルギー15keV、1次電流10nA、1次イオン照射領域およびデータ取り込み領域25μm×25μmを用いる。この測定では、Bは、検出されていない。
【0052】
図9(b)は、本発明の例であり、試料80(又は、試料22)の切断面50での溝40の間の分析領域30を測定したB(ボロン)の面内分布を示す。
【0053】
測定条件は、図9(a)と同一条件とする。約20μmの幅、数μmの範囲で、Bが2次イオン像として検出されている。
【0054】
以上の比較より、本発明の方法が、試料断面の2次イオン質量分析において、分析の特定を可能とし、正確な分析ができる分析方法であることが確認された。
【図面の簡単な説明】
【0055】
【図1】本発明の実施の形態である、2次イオン質量分析に用いられる標準的な磁場型2次イオン質量分析装置を示す構成図である。
【図2】試料の溝作成に用いられる集束イオンビーム装置を示す構成図である。
【図3】2次イオン質量分析の全体的な流れを示すフローチャートである。
【図4】質量分析に用いられる試料の構成例を示す平面図である。
【図5】切断前の溝形成時の試料の構成例を示す平面図である。
【図6】切断後の試料の切断面を示す断面図である。
【図7】図6の切断面を上向きにしたときの断面形状を示す平面図である。
【図8】図7の切断面の側面に導電板を接着したときの構成を示す平面図である。
【図9】(a)は試料の溝の間以外の非分析対象部分において測定したB(ボロン)の面内分布を示す説明図、(b)は試料の切断面での溝の間の分析領域を測定したB(ボロン)の面内分布としての2次イオン像を示す説明図である。
【図10】(a)は溝の深さ方向への長さを変えた例を示す平面図、(b)はその断面図である。
【図11】(a)は溝の深さ方向への長さを変えた例を示す平面図、(b)はその断面図である。
【図12】図7の研磨の状態を示す説明図である。
【符号の説明】
【0056】
1 1次イオン供給部
2 2次イオン生成部
3 電子線発生部
7 試料ホルダ
8 Pt含有ガス供給部
9 イオン銃
10 2次電子検出器
11 試料室
12 排気装置
13 2次電子
14 イオンビーム
15 Pt含有ガス
16 モニタ
17 セシウムイオン源
18 酸素イオン源
19 1次イオンビーム
20 2次イオン
21 2次イオン検出器
22 試料
23 電子線
24 電磁石
30 分析領域
40 溝
50 切断面
60 支持板
70 導電性板
80 試料
100 2次イオン質量分析装置
200 集束イオンビーム装置


【特許請求の範囲】
【請求項1】
1次イオンを固体試料の所定の分析領域に照射して、該固体試料から放出される2次イオンを質量分離して該分析領域内の構成成分の元素分析を行う2次イオン質量分析方法であって、
前記固体試料の前記所定の分析領域の近傍に、分析目印となる所定の深さを有する溝を作成する工程と、
前記作成された溝と前記所定の分析領域との両方を跨いだ状態で該固体試料を切断することにより、切断面を作成する工程と、
前記作成された切断面の、前記溝と前記所定の分析領域との両方を含む領域を分析対象面とし、該分析対象面に対して前記1次イオンを照射して放出される2次イオンを質量分離して該分析対象面内の構成成分の元素分析を行う工程と
を具えたことを特徴とする2次イオン質量分析方法。
【請求項2】
前記切断面を作成した後の分析前において、鏡面仕上げを行う工程をさらに具えたことを特徴とする請求項1記載の2次イオン質量分析方法。
【請求項3】
前記溝の長さは、前記分析領域の前記溝と同方向の長さと同等であることを特徴とする請求項1又は2記載の2次イオン質量分析方法。
【請求項4】
前記溝の作成は、集束イオンビーム装置を用いて行うことを特徴とする請求項1ないし3のいずれかに記載の2次イオン質量分析方法。


【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate

【図8】
image rotate

【図9】
image rotate

【図10】
image rotate

【図11】
image rotate

【図12】
image rotate


【公開番号】特開2006−23249(P2006−23249A)
【公開日】平成18年1月26日(2006.1.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−203698(P2004−203698)
【出願日】平成16年7月9日(2004.7.9)
【出願人】(000005234)富士電機ホールディングス株式会社 (3,146)
【Fターム(参考)】