説明

CMPパッドコンディショナー

【課題】研磨パッドの被研削面へのスクラッチを防止することで安定したCMP加工を実施することができるCMPパッドコンディショナーを提供する。
【解決手段】CMPパッドコンディショナー1は、台金21に砥粒22aがボンド層22bによって固着されることで砥粒層22が形成され、砥粒層22上に保護層23が形成されたコンディショナーディスク2を備えている。この保護層23は、フッ素を含有したダイヤモンドライクカーボンで形成されたフッ素DLCコート層であり、砥粒22a上の層厚(T1)が1.0μm以下に形成され、ボンド層22b上の層厚(T2)が3.0μm以上5.0μm以下に形成されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、シリコンウエハ等の表面を平坦化するために用いられるCMP装置の研磨パットの目立てに使用されるCMPパッドコンディショナーに関する。
【背景技術】
【0002】
シリコンウエハ等の表面を平坦化するために、CMP(Chemical Mechanical Polishing:化学的機械的研磨)プロセスにて研削を行うCMP装置が用いられている。このCMP装置を図4に示す。
【0003】
CMP装置10は、回転テーブル回転軸11aを中心として回転し、表面に研磨パッド11bが形成された回転テーブル11と、ウエハWを吸着した状態で研磨パッド11bに押圧する研磨ヘッド12と、研磨パッド12上に研磨材を含むスラリーSRを供給するスラリー供給部13と、コンディショナー回転軸14aを中心として回転して研磨パッド11bの表面を再研磨するコンディショナーディスク14bが設けられたCMPパッドコンディショナー14とを備えている。
【0004】
CMP装置10においては、安定した加工性能を維持するためには研磨パッド11b表面の定期的修正が必要なので、研磨ヘッド12を使用したCMP加工と同時に、または定期的に、研磨パッド11b表面の劣化層を除去して適正な面状態とするために、ダイヤモンドなどからなる砥粒を母材である台金に単層固着したコンディショナーディスク14bが使用されている。砥粒は、金属ろう付け、電着によって形成されたNi,Co,Cuなどの金属あるいはそれらの合金からなるボンド層によって台金に固着されている。
【0005】
一方、CMP加工で使用されるスラリーは、一般にアルミナなどからなる研磨材を酸性あるいはアルカリ性の水系溶媒に分散したものである。そのため、この酸性あるいはアルカリ性のスラリーによってCMP加工の際にボンド層が腐食して、ボンド層を構成する金属が溶出したり、さらには砥粒が脱落したりするという問題がある。このスラリーに起因する腐食に対する対策として、砥粒とボンド層の上に保護層を設ける方法がある。
【0006】
例えば、特許文献1には、被膜物質としてポリイミドなどの耐薬品性の合成樹脂からなる保護層を設けたCMPパッドコンディショナーが開示されている。また、特許文献2には、被膜物質としてダイヤモンドライクカーボン(Diamond Like Carbon、以下、「DLC」と称す。)からなる保護層を設けたCMPパッドコンディショナーが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2002−200551号公報
【特許文献2】特開2007−44823号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
特許文献1に記載の合成樹脂を保護層とする方法では、砥粒層上でモノマーを重合したり、あるいは粒子表面に荷電を有する樹脂粒子を分散させた有機溶剤に台金を浸して通電し、樹脂を析出させたりして保護層を形成する。しかしながら、このような方法では、該樹脂のモノマーあるいは樹脂粒子を分散させた溶媒自体によって、ボンド層が腐食するおそれがある。さらに、樹脂の未硬化部分などが生じることも多く、形成された保護層の膜質が不均一になることが多い。
【0009】
これに対し、特許文献2に記載されたCMPパッドコンディショナーのように保護層としてDLCを使用した場合には、DLCが有する耐薬品性などの化学的安定性に加えて、化学蒸着法(CVD)などによって、均一な膜質の保護層を形成することができる。
しかしながら、DLCは比較的親水性が高いため、形成された保護層は、水系のスラリーが表面に付着しやすく、これが凝集することで研磨パッドの被研削面にスクラッチを発生させることがある。そうなると、ウエハの平坦化が均一に行えず、安定したCMP加工を実施することができない。
【0010】
このような状況下、本発明の目的は、研磨パッドの被研削面へのスクラッチの発生を防止することで安定したCMP加工を実施することができるCMPパッドコンディショナーを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明のCMPパッドコンディショナーは、台金の外周側のリング状に盛り上げた領域に、砥粒がボンド層によって単層固着された砥粒層を設けたCMPパッドコンディショナーにおいて、前記砥粒層上に、フッ素を含有したダイヤモンドライクカーボンで形成されたフッ素ダイヤモンドライクカーボンコート層からなる保護層を設けたことを特徴とする。なお、「フッ素を含有したDLC」とは、フッ素元素が原子、イオンの状態として分散しているDLCを意味する。
【0012】
撥水性を有する元素であるフッ素を含有したDLC(フッ素DLC)は、DLC本来の耐薬品性、耐摩耗性に加え、フッ素を含まないDLCコート層よりも撥水性が高いという性質を有する。そのため、本発明のCMPパッドコンディショナーは、砥粒層上に形成した保護層をフッ素DLCコート層とすることで、その撥水性によってスラリーの付着を抑止することができる。
【0013】
フッ素DLCコート層のフッ素含有量は、30原子%以上60原子%以下であることが望ましい。ここで、原子%とは、フッ素DLCを構成する原子数に対する、フッ素原子の原子数の割合を百分率で表したものをいう。フッ素含有量が、30原子%未満であると撥水性が不足してスラリーが付着しやすくなる。また、フッ素含有量が、60原子%より多いと膜質の悪化が避けられないという点で好ましくない。
【0014】
また、前記フッ素DLCコート層は、前記砥粒上の層厚が1.0μm以下(特に0.8μm以下)に形成されているのが望ましい。
CMP加工において、表面の保護層(フッ素DLCコート層)は、徐々に摩耗していくが、砥粒の表面の層厚を1.0μm以下とすることで、ボンド層から露出した砥粒の表面に沿って保護層が薄く被膜した状態なので、あたかも砥粒が切削しているかのように研磨パッドの目立てを行うことができる。特に0.8μm以下であると、保護層なしの場合と同等の切味を有する。従って、最初から砥粒が露出した状態とほぼ同等の切味が得られるので、初期の切味と砥粒が露出した際の切味とが大きく変動することなく、安定した切味を維持することができる。
一方、砥粒上の層厚が1.0μmより厚いと、ボンド層から露出した砥粒の表面に厚く被膜した保護層により初期の切味が鈍く、さらに砥粒上のフッ素DLCコート層が摩耗することで砥粒が露出することで切味が大きく変動することがある。
【0015】
さらに、前記フッ素DLCコート層の前記ボンド層上の層厚が3.0μm以上5.0μm以下に形成されているのが望ましい。フッ素DLCコート層を3.0μm以上5.0μm以下に形成することで、耐薬品性効果を維持し、切味の変化を抑制しつつ、撥水性が得られるので、より効果的に、乾燥凝集したスラリーが付着することを防止することができる。保護層であるフッ素DLCコート層のボンド層上の層厚が3.0μm未満であると、ボンド層にスラリーの酸性成分やアルカリ性成分が浸透してしまい、フッ素DLCコート層の耐薬品性効果が十分に発揮できないため好ましくない。
また、フッ素DLCコート層のボンド層上の層厚が5.0μmより厚いと、フッ素DLCコート層に欠陥が生じやすくなるため好ましくない。また、特に砥粒の粒径が小さい場合には、砥粒の突出量が少なくなるため、CMPパッドコンディショナーの切味が低下するという問題もある。
【0016】
前記フッ素DLCコート層は、プラズマベースイオン注入成膜法により形成されているものであることが望ましい。
ここで、「プラズマベースイオン注入成膜法」とは、外部アンテナによるRFプラズマあるいは自己バイアス電圧によるプラズマ生成を行い、これに対して数百V〜 数十kVの負パルス電圧を印加して、カーボンを含有するイオンを基材表面に注入し、さらに電圧制御しながらDLC膜を形成させる方法である。この方法では、カーボンを含有するイオンを注入することによって、基材表面の炭素親和性を有するように改質することで、その上に成膜するDLCと基材との密着性を特に向上させることができる。
【発明の効果】
【0017】
本発明のCMPパッドコンディショナーは、フッ素DLCコート層からなる保護層を設けたことで、耐薬品性、耐摩耗性が向上すると共に、その撥水性によって砥粒層表面へのスラリーの付着を防止することができるため、保護層表面の劣化や研磨パッドの被研削面へのスクラッチの発生を防止することができ、安定したCMP加工を実施することができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】本発明の実施の形態に係るCMPパッドコンディショナーを示す斜視図である。
【図2】図1に示すCMPパッドコンディショナーのコンディショナーディスクを研削面側から見た図である。
【図3】図2に示すコンディショナーディスクの部分拡大図である。
【図4】従来のCMP装置を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
本発明の実施の形態に係るCMPパッドコンディショナーを図面に基づいて説明する。図1は、本発明の実施の形態に係るCMPパッドコンディショナーを示す斜視図である。図2は、図1に示すCMPパッドコンディショナーのコンディショナーディスクを研削面側から見た図である。図3は、図2に示すコンディショナーディスクの部分拡大図である。
【0020】
図1に示すように、本発明の実施の形態に係るCMPパッドコンディショナー1は、研削面が形成されたコンディショナーディスク2と、コンディショナーディスク2を回転させるコンディショナーディスク回転軸3とを備えている。
図2および図3に示すように、コンディショナーディスク2は、台金21と、砥粒層22と、保護層23とを備えている。
【0021】
台金21は、直径が100mmの略円盤状に形成されたステンレス鋼板の基板である。この台金21には、外周側にリング状に盛り上げられた領域Sが形成されている。
【0022】
砥粒層22は、台金21の領域S上に、砥粒22aがボンド層22bによって単層固着されることで形成されている。砥粒22aは、その目的に応じて、任意の粒径のダイヤモンド、炭化珪素、サファイア等が使用されるが、好適にはダイヤモンドが選択される。砥粒の粒径は特に制限されるものではないが、通常、平均粒径として10〜500μmであり、50〜300μmが好ましい。
ボンド層22bは、本実施形態では電着法によるNiめっきとしたが、他の金属あるいは合金の電着めっきやろう材またはセラミック焼結層でもよい。なお、砥粒22aはその一部(好適には、粒径の25%以上45%以下)がボンド層22bから露出した状態で固着されている。
【0023】
保護層23は、砥粒22a及びボンド層22b上に形成されたフッ素DLCコート層であり、本実施形態では、後述するようにプラズマベースイオン注入成膜法によって形成されている。
なお、DLCの形成方法には、スパッタリング法、プラズマCVD法などがあるが、これらの方法で、本発明の保護層を形成した場合、下地となる砥粒およびボンド層との界面での結合力が十分でない場合がある。これに対し、プラズマベースイオン注入成膜法では、カーボンを含有するイオンを注入することによって、基材表面の炭素親和性を有するように改質することで、その上に成膜するDLCと基材との密着性を向上させることができるため、CMPパッドコンディショナーの保護層形成に特に好適である。
【0024】
本実施形態における保護層23において、DLCにフッ素を45原子%含有させているが、30原子%以上60原子%以下とすることが可能である。なお、詳しくは後述するが、フッ素DLCにおけるフッ素含有量は、原料ガスの組成をコントロールすることで実現することができる。なお、フッ素含有量が30原子%未満であると撥水性が不足してスラリーが付着しやすくなる。また、フッ素含有量が60原子%より多いと膜質が低下して、脆弱となるため好ましくない。
【0025】
本実施の形態では、砥粒22a上の保護層23の層厚(T1)を1.0μm以下に形成している。砥粒22a上の保護層23は、CMP加工を行うことで徐々に摩耗して最終的に砥粒22aが露出する。この保護層23の層厚は、薄れければ薄いほど、保護層23の摩耗による砥粒22aが露出する期間が短くなるが、切味の変動が少ない。そのため、砥粒22a上の層厚(T1)を1.0μm以下とすることで、ボンド層22bから露出した砥粒22aの表面に沿って保護層23が薄く被膜した状態なので、あたかも砥粒22aが切削しているかのように研磨パッドの目立てを行うことができる。従って、最初から砥粒22aが露出した状態とほぼ変わらない切味が得られるので、初期の切味から大きく変動することなく、安定した切味を維持することができる。一方、砥粒22a上の保護層23の層厚(T1)が1.0μmより厚いと、切味が使用初期と砥粒22aが露出した状態とで大きく変動することになるため好ましくない。
【0026】
また、本実施形態において、ボンド層22b上の保護層23は、層厚(T2)が4.0μmで形成されているが、この層厚は、3.0μm以上5.0μm以下に形成することが望ましい。層厚(T2)が3.0μm未満であると、スラリーの酸性成分やアルカリ性成分が浸透してしまい、耐薬品性効果が低減する。また、フッ素DLCコート層のボンド層上の層厚(T2)が5.0μmより厚いと、フッ素DLCコート層に欠陥が生じやすくなるため好ましくない。
【0027】
以上のように構成された本発明の実施の形態に係るCMPパッドコンディショナーの製造方法を説明する。
【0028】
まず、円盤状に形成された台金21を準備する。次に、台金21の領域S上に砥粒22aをめっきにより仮固定する。そしてNiめっきを施すことでボンド層22bとなるNiめっき層を形成し、砥粒22aを電着固定して砥粒層22を形成する。このときボンド層22bの層厚(T2)は、砥粒22aの粒径の三分の二程度とすることで、砥粒22aの粒径の三分の一が露出した状態となる。
【0029】
本実施の形態では、砥粒22aを台金21に固着する方法として電着法によるNiめっきとしたが、他の金属あるいは合金の電着めっきやろう材またはセラミック焼結層でもよい。
【0030】
このようにして砥粒層22を形成した台金21に、プラズマベースイオン注入成膜法によりフッ素DLCコート層を保護層23として形成する。このプラズマベースイオン注入成膜法は、特開2006−3422364号公報記載が例示される方法である。以下、当該方法を簡単に説明する。
【0031】
このプラズマベースイオン注入成膜法によるフッ素DLCコート層(保護層23)の形成する方法は、まず、図示しないPBII(Plasma Based Ion Implantation)装置中に、砥粒層22が設けられた台金21を基材として配置する。次に、炭化水素系の原料ガスを導入し、基材周辺に高周波電源でプラズマを生成した後、基材に負電圧パルスを印加すると、基材周辺のあるイオン(主にカーボン含有イオン)を加速させて、基材(砥粒層22)に引き込み注入される。その結果、基材(砥粒層22)表面は、炭素親和性が向上するため、DLC膜が基材との密着性よく成膜する。
【0032】
本発明に係るプラズマベースイオン注入成膜法の最大の特徴は、原料ガスの少なくとも一部にフッ素を含有したフッ化炭化水素ガスを使用することにある。
フッ化系炭素水素としては、CF4、CHF3、CH22、C26、C38などが挙げられ、これらから選択される少なくとも1種類が使用される。これらのフッ化系炭素水素のみを原料ガスとして使用してもよいが、メタン、エタン、プロパン、アセチレン、ベンゼン、トルエン及びシクロヘキサノン等からなる炭化水素を混合して使用してもよい。これらのガスの混合割合は、形成するフッ素DLCのフッ素含有量を勘案して、適宜決定される。
【0033】
なお、形成されるDLCの物性は、プラズマベースイオン注入成膜法の成膜条件(ガス圧、印加電圧)に依存するが、本発明のCMPパッドコンディショナーの保護層の主要な形成条件として、好適な条件を例示すると、イオン注入・成膜時圧力として、0.1〜50Pa、イオン注入エネルギーとして、1〜200keV、成膜エネルギーとして、1〜200keV、高周波パルス印加周波数として100〜5000Hzである。なお、イオン注入時間、DLC膜成膜時間は、必要な膜厚を勘案して適宜決定すればよい。
【0034】
なお、本実施形態では、化学的に安定したダイヤモンドで砥粒22aを形成した場合に、ボンド層22bがNiめっき層により形成されているが、プラズマベースイオン注入成膜法では、Niめっき層の上の方が、ダイヤモンド砥粒上より、フッ素DLCが形成しやすい傾向にある。この性質を利用して、ボンド層22b上の保護層23の層厚(T2)を3.0μm以上5.0μm以下となるように形成しつつ、砥粒22a上の保護層23の層厚(T1)を1.0μm以下とすることができる。
【0035】
本実施の形態に係る保護層23は、プラズマベースイオン注入成膜法により形成したフッ素DLCコート層としているので、砥粒層22との密着性が、PVDや通常のプラズマCVDで形成したDLCコート層より高い。そのため、保護層23の剥離を回避することができ、Niめっき層であるボンド層22bの腐食による砥粒22aの脱落が防止できる。また、保護層23がボンド層22bを保護するので、酸性雰囲気下においてもボンド層22bの溶出がないので、砥粒22aに対する固着力を維持することで、保護層23の剥がれにより被研磨面へのスクラッチを防止することができる。
【実施例】
【0036】
以下に、具体的な試験例を示す。
【0037】
(試験1)フッ素DLCコート層の撥水性の評価
20×20mmのNi板からなる試験片として、以下の条件で4μmのフッ素DLCコート層を形成した。
「フッ素DLC膜の作製条件」
使用ガス種:メタン(CH4)/四フッ化炭素(CF4)混合ガス
ガス混合比:CH4/CF4=0〜100
イオン注入・成膜時圧力: 0.5Pa〜1.0Pa
イオン注入エネルギー:20keV
成膜エネルギー:2keV
注入時間: 30分
成膜時間: 180分
印加周波数: 2000Hz
【0038】
形成したフッ素DLCコート層に対する水の接触角を評価した結果を表1に示す。
【0039】
【表1】

【0040】
フッ素含有量10、20原子%のフッ素DLCでは、フッ素を含有しない(0原子%)DLCと同等の接触角であった。フッ素含有量30原子%になるとフッ素を含まないDLCと比較して接触角が大きくなり、さらにフッ素含有量が増加するにつれて接触角は増加し、フッ素含有量60原子%以上ではほぼ一定の値を示した。
【0041】
(試験2)スラリー付着量、耐摩耗性評価
以下のCMPパッドコンディショナーを作製し、加工試験を行った。
まず、外径100mm、厚さ5mmの台金に対して、平均粒径が200μmのダイヤモンド砥粒を間隔0.3mmでNiめっき(厚み約120μm)により固着した。次に、試験1と同様の方法で、フッ素含有量の異なるフッ素DLC層を作製し、試験用のCMPパッドコンディショナーを得た。
加工試験の条件は以下の通りである。
使用機械: ノリタケ製超精密片面ポリッシングマシン
パッド:IC1000SUBA400
ウエハ:層間絶縁膜(SiO2
荷重:50N
テーブル回転速度: 30min-1
ドレッサ回転速度: 40min-1
加工時間:30時間
スラリー:タングステン用スラリーW2000
【0042】
試験2では、フッ素DLC層のフッ素含有量を変化させて、CMPパッドコンディショナーのスラリー付着性、耐摩耗性評価を評価した結果を表2に示す。スラリー付着性の評価は上記試験後のCMPパッドコンディショナーを目視で観察し、フッ素を含有しないDLCと比較した。表2において、スラリー付着性は、フッ素を含有しないDLCとほぼ同程度にスラリーが付着しているものを×、ほとんど付着していないものを○、その中間を△とした。また、耐摩耗性評価は、上記試験後のCMPパッドコンディショナーを目視で観察し、砥粒層上のコート層に摩耗が確認されないものを○、一部摩耗が確認されたものを△、大部分が摩耗しているものを×とした。
【0043】
【表2】

【0044】
フッ素含有量10原子%のフッ素DLCでは、フッ素を含有しない(0原子%)DLCと同様に多量のスラリーが付着していた。フッ素含有量20原子%のフッ素DLCでは、スラリーの付着量が若干低減し、フッ素含有量30原子%以上ではほとんどスラリーが付着していなかった。
一方、フッ素を含有しないDLC及びフッ素含有量60原子%以下のフッ素DLCではコート層にほとんど摩耗はみられなかったが、フッ素含有量70原子%では、摩耗が確認され、80原子%では大部分が摩耗し、下地のNiめっきが露出していた。
【0045】
(試験3)
フッ素含有量を50原子%になるように調整した作製条件で、コーティング時間を調整して砥粒層上にフッ素DLCコート層を作製した。また、比較のため、フッ素DLCコート層を形成していないCMPパッドコンディショナーを作製した。これらのCMPパッドコンディショナーを用いて、試験2と同条件で加工試験を行った結果を表3に示す。
なお、砥粒上のフッ素DLCコート層の層厚(T1)は、任意の砥粒を10個抽出して電解式膜厚計で測定した平均値である。また、ボンド上のフッ素コート層の層厚(T2)はマイクロメーターで測定した。
表3における初期の切味は、加工開始5分後におけるコート層なしのCMPパッドコンディショナーとの対比から判断し、切味の変動は、加工開始5分後と1時間後の切味から判断した。また、耐薬品性は、加工開始5時間後のスラリーに溶出したボンド層(Niめっき)の量から判断した。
【0046】
【表3】

【0047】
コート層なしのCMPパッドコンディショナーでは、初期の切味が高く、切味の変動も少なかった。砥粒上のフッ素DLC層の層厚(T1)が0.56μm(試料A)、0.67μm(試料B)及び0.78μm(試料C)では、初期の切味はほとんどコート層なしと同等であり、切味の変動もほとんど見られなかった。砥粒上のフッ素DLC層の層厚(T1)が1.0μm(試料D)ではコート層なしより若干切味が低いものの、CMPパッドコンディショナーとしては十分な切味であり、また、切味の変動もほとんど見られなかった。砥粒上のフッ素DLC層の層厚(T1)が1.1μm(試料E)では、初期の切味および加工効率が低く、砥粒の露出前後の切味の変動が大きかった。
ボンド層のスラリーへの溶出量を比較すると、ボンド材上のフッ素DLC層の層厚(T2)が2.0μm(試料A)では、Ni成分がスラリーに溶出し、ボンド層の浸食が確認されたが、3.0μm以上の試料B〜Eでは、ボンド材の浸食は確認されなかった。
【産業上の利用可能性】
【0048】
本発明は、シリコンウエハ等の表面を平坦化するために用いられるCMP装置において使用されるCMPパッドコンディショナーに好適である。
【符号の説明】
【0049】
1 CMPパッドコンディショナー
2 コンディショナーディスク
21 台金
22 砥粒層
22a 砥粒
22b ボンド層
23 保護層
3 コンディショナーディスク回転軸

【特許請求の範囲】
【請求項1】
台金の外周側のリング状に盛り上げた領域に、砥粒がボンド層によって単層固着された砥粒層を設けたCMPパッドコンディショナーにおいて、
前記砥粒層上に、フッ素を含有したダイヤモンドライクカーボンで形成されたフッ素ダイヤモンドライクカーボンコート層からなる保護層を設けたことを特徴とするCMPパッドコンディショナー。
【請求項2】
前記フッ素ダイヤモンドライクカーボンコート層のフッ素含有量が、30原子%以上60原子%以下である請求項1記載のCMPパッドコンディショナー。
【請求項3】
前記フッ素ダイヤモンドライクカーボンコート層の前記砥粒上の層厚が、1.0μm以下に形成されている請求項1または2記載のCMPパッドコンディショナー。
【請求項4】
前記フッ素ダイヤモンドライクカーボンコート層の前記ボンド層上の層厚が、3.0μm以上5.0μm以下に形成されている請求項1から3のいずれかに記載のCMPパッドコンディショナー。
【請求項5】
前記フッ素ダイヤモンドライクカーボンコート層が、プラズマベースイオン注入成膜法により形成されているものである請求項1から4のいずれかに記載のCMPパッドコンディショナー。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate


【公開番号】特開2010−182813(P2010−182813A)
【公開日】平成22年8月19日(2010.8.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−23972(P2009−23972)
【出願日】平成21年2月4日(2009.2.4)
【出願人】(000111410)株式会社ノリタケスーパーアブレーシブ (73)
【出願人】(000004293)株式会社ノリタケカンパニーリミテド (449)
【Fターム(参考)】