説明

Co2Fe基ホイスラー合金とこれを用いたスピントロニクス素子

【課題】 本発明は高い特性を示すスピントロニクス素子を実現するために、0.65以上のスピン偏極率を持つCoFe基ホイスラー合金とそれを用いた高特性スピントロニクス素子を提供することを課題とする。
【解決手段】 CoFe(GaGeX−1)ホイスラー合金は0.25<X<0.60の領域でPCAR法により測定したスピン偏極率は0.65以上の高い値を示す。また1288Kと高いキュリー点をもつことから、CoFe(GaGeX−1)ホイスラー合金が実用材料として有望である。実際、CoFe(GaGeX−1)ホイスラー合金を電極としたCPP−GMR素子は世界最高のMR比を、STO素子では高い出力を、NLSV素子では高いスピン信号を示した。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、高いスピン偏極率を有するCoFe基ホイスラー合金とこれを用いたスピントロニクスデバイスに関するものである。
【背景技術】
【0002】
磁気ランダムアクセスメモリー(MRAM)、スピン金属酸化物半導体電界効果型トランジスタ(MOSFET)、ハードディスクの再生ヘッドに用いられているトンネル型磁気抵抗効果(TMR)素子、巨大磁気抵抗効果(GMR)素子やスピントルクオシレータ(STO)、次世代の再生ヘッドとして注目されている非局所スピンバルブ(NLSV)素子などのスピントロニクスを応用したデバイスでは高い特性を得るために高いスピン偏極率を示す材料が求められている。高スピン偏極率材料として注目されているのがCo基ホイスラー合金である。いくつかのCo基ホイスラー合金は理論的にスピン偏極率が1(100%)のハーフメタルが予測されている。(フェルミ面において片方のスピンの状態がない(スピン偏極率=1)物質をハーフメタルと呼ぶ。)またCo基ホイスラー合金はキュリー点も室温よりも十分に高いことから実用的な観点から開発がなされている材料である。
【0003】
ホイスラー合金はXYZの化学式で表されL2の規則構造をとる。しかし、L2構造への規則化のキネティクスが小さいために完全なL2構造は得られず、YとZが不規則化したB2構造やX、Y、Zのすべての原子が不規則化したA2構造が容易に得られる。このような不規則構造では、スピン偏極率が減少することが理論的に示されている。実際に、ハーフメタルと予測されているCoMnSiでは点接触アンドレーフ反射(PCAR)法で見積もったスピン偏極率は0.59(59%)と低い値であり、理論予測に反して高スピン偏極率は得られていない。スピン偏極率が低いのは、構造が不規則状態であるためである。
【0004】
高スピン偏極率を示す材料の探索はこれまでにも行われている。非特許文献1によるとCoMnGeのGeをGaで置換することにより75%という非常に高いスピン偏極率を実現している。CoMnGaGeは金属間化合物であり、高いL2規則度を実現できるという長所を持っている。しかし、CoMnGaGeはMnを含むために酸化されやすく、また面直通電型(CPP)−GMR素子の非磁性金属として使われるAg層への拡散という問題(非特許文献2)がある。このような問題のないのがCoFe系のホイスラー合金であリ、実用的なCoFe系の高スピン偏極率材料(PCARで測定されるスピン偏極率が0.65以上)を開発することが期待されている。
【0005】
CoFe系のホイスラー合金では、CoFeSiのSiをAlで置換したCoFeAl0.5Si0.5が高いスピン偏極率を持つ材料として知られている。非特許文献3には、点接触アンドレーフ反射法を用いてスピン偏極率が評価されており、0.6(60%)の値を示す。またこの材料を用いたCPP−GMR素子も作製されており、室温で34%の大きな磁気抵抗(MR)比、面積抵抗変化(ΔRA)は8mΩ・μmである(非特許文献4)。さらに、スピン偏極率も室温で0.7(70%)、14Kで0.77(77%)と見積もられる。
さらなるスピントロニクス素子の高性能化にはCoFeAlSiよりも大きなスピン偏極率を示す材料の開発が望まれている。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0006】
【非特許文献1】B. Varaprasad et al., Appl. Phys. Express. 3, 023002 (2010).
【非特許文献2】N. Hase et al., JAP108, 093916 (2010).
【非特許文献3】T.M. Nakatani et al., J. Appl. Phys., 102, 033916 (2007).
【非特許文献4】T.M. Nakatani et al., Appl. Phys. Lett., 96, 212501 (2010).
【非特許文献5】B. Balke et al., APL 90, 172501 (2007).
【非特許文献6】M. Zhang et al., JPD 37, 2049 (2004).
【非特許文献7】R.Y. Umetsu et al., JAC 499, 1 (2010).
【非特許文献8】K.R. Kumar et al., IEEE Trans. Magn., 45, 3997 (2009).
【非特許文献9】文部科学省 次世代IT基盤技術構築のための研究開発「高機能・超低消費電力コンピューティングのためのデバイス・システム基盤技術の研究開発」及び(独)新エネルギー・産業技術総合開発機構「超高密度ナノビット磁気記録技術の開発(グリーンITプロジェクト)」 合同成果報告会 平成22年10月29日
【非特許文献10】Y. Fukuma et al., Natute Mater. 10, 527 (2011).
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
高いスピン偏極率を示すCoFe基ホイスラー合金、及びこれを使用した高性能なスピントロニクス素子を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明では、ホイスラー合金CoFeGeのGeの一部をGaで置換することにより、多数スピンと少数スピンの内の片方のスピンの状態を増加させることによりスピン偏極率を増加させた。
【0009】
ホイスラー合金のCoFeGa、CoFeGeは、ともに非特許文献5−8で報告されている合金材料であるが、それによると以下のことが明らかになっている。それによるとバルクの合金については、以下のことが明らかになっている。
CoFeGaバルク合金:・L2単相での形成が可能。
・キュリー点が1093K。
・スピン偏極率は0.59(59%)。
・計算ではハーフメタルではない。
CoFeGeバルク合金:・L2単相の形成は困難。
・計算ではハーフメタル性が示されている。
しかしながら、CoFe(GaGe)合金に関しては、バルク合金、薄膜合金のいずれについても報告されていない。
【0010】
そこで、発明者らは、
(1)CoFe(GaGe1−x)バルク合金の製造及び特性測定
(2)CoFe(GaGe1−x)薄膜合金の製造及び特性測定
(3)高性能スピントロニクス素子の製作
の手順で、実験を進め、高いスピン偏極率を持ち、高いGMR比及び発振特性を示すCoFe(GaGe1−x)薄膜合金を見出し、この薄膜を組み込んだ高性能スピントロニクス素子を開発した。
【0011】
発明1は、スピントロニクスデバイスに用いられるCoFe基ホイスラー合金であって、成分組成がCoFe(GaGeX−1)(0.25<X<0.60)であることを特徴とするCoFe基ホイスラー合金を提供する。
【0012】
発明2は、発明1のCoFe基ホイスラー合金であって、スピン偏極率が0.65以上であることを特徴とするCoFe基ホイスラー合金を提供する。
【0013】
発明3は、発明1のCoFe基ホイスラー合金薄膜を強磁性電極として使用し、MgO基板/Cr/Ag/ CoFe基ホイスラー合金/Ag/CoFe基ホイスラー合金/Ag/Ruからなる薄膜積層構造を有することを特徴とするCPP−GMR素子を提供する。
【0014】
発明4は、発明1のCoFe基ホイスラー合金薄膜を強磁性電極として使用し、MgO基板/Cr/Ag/ CoFe基ホイスラー合金/Ag/CoFe基ホイスラー合金/Ag/Ruからなる薄膜積層構造を有することを特徴とするSTO素子を提供する。
【0015】
発明5は、発明1のCoFe基ホイスラー合金薄膜を強磁性電極として使用し、MgO基板/Cr/Ag/ CoFe基ホイスラー合金からなる2本の細線とそれらを橋渡しするAgの非磁性細線を有することを特徴とするNLSV素子を提供する。
【発明の効果】
【0016】
ホイスラー合金CoFeGeのGeの一部をGaで置換することにより、スピン偏極率が0.65以上のホイスラー合金薄膜が製造でき、この薄膜を組み込んだ、高いMR比を示すCPP−GMR素子、高出力を示すSTO素子及びNLSV素子の製造が可能になった。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】CoFeGa、CoFeGe及びCoFe(Ga0.5Ge0.5)の第一原理計算による状態密度曲線。
【図2】CoFeGa、CoFeGe及びCoFe(Ga0.5Ge0.5)の第一原理計算による状態密度曲線(フェルミ面付近を拡大したもの)。
【図3】CoFe(GaGe1−x)バルク合金のXRDパターン。
【図4】CoFe(GaGe1−x)バルク合金のスピン偏極率のx(Ga)依存性。
【図5】CoFe(Ga0.5Ge0.5)の熱処理温度によるXRDパターンの変化。
【図6】CoFe(Ga0.5Ge0.5)のDTA曲線。
【図7】熱処理温度の異なるCo52Fe22(Ga13Ge13)薄膜のXRDパターン。
【図8】熱処理温度の異なるCo52Fe22(Ga13Ge13)薄膜のXRDパターン。
【図9】Co52Fe22(Ga13Ge13)薄膜の飽和磁化の熱処理温度依存性。
【図10】Co52Fe22(Ga13Ge13)薄膜の比抵抗の温度変化。
【図11】Co52Fe22(Ga13Ge13)薄膜のダンピング定数の熱処理温度依存性。
【図12】500℃で熱処理したCo52Fe22(Ga13Ge13)薄膜のスピン偏極率測定結果。
【図13】CPP−GMR素子の概念図。膜構成は下からMgO基板/Cr(10)/Ag(100)/Co52Fe22(Ga13Ge13)(12)/Ag(5)/Co52Fe22(Ga13Ge13)(12)/Ag(5)/Ru(8)。括弧内の数字は膜厚で単位はnm。
【図14】MgO基板/Cr(10)/Ag(100)/Co52Fe22(Ga13Ge13)(12)/Ag(5)/Co52Fe22(Ga13Ge13)(12)/Ag(5)/Ru(8)の磁気抵抗の磁場依存性。括弧内の数字は膜厚で単位はnm。
【図15】ΔRA、R(磁化平行時の抵抗)とRap(磁化反平行時の抵抗)の温度依存性。
【図16】STO素子の概念図。膜構成は下からMgO基板/Cr(10)/Ag(100)/Co52Fe22(Ga13Ge13)(10)/Ag(5)/Co52Fe22(Ga13Ge13)(2)/Ag(5)/Ru(8)。括弧内の数字は膜厚で単位はnm。
【図17】MgO基板/Cr(10)/Ag(100)/Co52Fe22(Ga13Ge13)(12)/Ag(5)/Co52Fe22(Ga13Ge13)(12)/Ag(5)/Ru(8)の発振特性。
【図18】NLSV素子のSEM像。(a)非局所配置と(b)局所配置。
【図19】CFGGを用いたNLSV素子の非局所配置の抵抗曲線。
【図20】CFGGを用いたNLSV素子の局所配置の抵抗曲線。
【発明を実施するための形態】
【0018】
本発明は、上記の通りの特徴を持つものであるが、以下にその実施の形態について説明する。
<第一原理計算>図1と図2にCoFeGa、CoFeGe及びCoFe(Ga0.5Ge0.5)の第一原理計算による状態密度曲線を示す。計算はクーロンポテンシャルを考慮したGeneralized Gradient Approximation(GGA)法により行い、クーロンポテンシャルは磁化を再現するような値としている。結晶構造はL2とB2の2通りである。L2構造では、CoFeGeはフェルミ面が少数スピンのバンドギャップ中にありハーフメタル、CoFeGaはフェルミ面に少数スピンの状態が存在しておりハーフメタルではない。CoFe(Ga0.5Ge0.5)ではハーフメタルである。B2構造の場合は、いずれの合金も少数スピンバンドのギャップが狭くなるが、CoFe(Ga0.5Ge0.5)ではギャップの中央にフェルミ面が存在しハーフメタルであることがわかる。以上のことより、CoFe(Ga0.5Ge0.5)ではB2構造でもハーフメタル性が示されていること、フェルミ面がギャップ中央に位置しており不規則によるスピン偏極率の減少の影響が少ないことから、高いL2規則度が得にくい薄膜においても高いスピン偏極率を示すことが予想される。
【実施例】
【0019】
<合金バルク>
CoFe(GaGe1−x)バルク合金は、表1に示す成分配合で99.99%以上の純度の塊を用意し、それらをアーク溶解でボタン状のバルク合金を作製した。このときのバルク合金の重さは15gでこれを450℃で168時間、He雰囲気中での熱処理を行った。誘導結合プラズマ発光(ICP)分析による化学分析の結果より狙い通りの組成が得られていることを確認している。
【表1】

【0020】
構造はエックス線回折法(XRD)で、磁気特性は量子干渉磁束計(SQUID)で、スピン偏極率は点接触アンドレーフ反射(PCAR)法で評価した。
【0021】
図3にCoFe(GaGe1−x)バルク合金のXRDパターンを示す。x=0のCoFeGeではL2構造にピーク以外に、*で示すように第2相のピークがあり、L2単相となっていないが、x=0.25〜1の組成ではL2単相が得られている。
【0022】
図4にスピン偏極率のx依存性を示す。x=0.5のところで極大を示し、0.68という高い値が得られた。高スピン偏極率(0.65以上)は0.25<x<0.60で得られており、この組成範囲の材料を使ったスピントロニクス素子で高い特性が得られる。
【0023】
図5に、CoFe(GaGe1−x)の熱処理温度によるXRDパターンの変化を示す。表2に、L2規則度に対応する(111)と(220)の強度比、B2規則度に対応する(200)と(220)の強度比を示す。L2規則度、B2規則度とも熱処理温度に対して変化をしない。すなわち、本合金は比較的低い温度の450℃の熱処理でも高いL2規則度が得られることを示しており、これも本合金の特徴の一つである。
【表2】

【0024】
図6に、CoFe(Ga0.5Ge0.5)の示差熱分析(DTA)曲線を示す。キュリー点が1080Kと高く実用的に有利であることがわかる。また、L2・B2の規則・不規則変態点は1288Kである。
【0025】
<合金薄膜>
以上のバルク合金の実験から、CoFe(Ga0.5Ge0.5)合金は高いスピン偏極率を持つので、薄膜による実験を行った。薄膜はCo46.56Fe22.65Ga17.92Ge15.63ターゲットを用いたDCマグネトロンスパッタ法により行った。ICP分析による薄膜の組成はCo52Fe22Ga13Ge13である。基板はMgO単結晶基板を用い、下地層としてCr(10)/Ag(100)を成膜した後に、Co52Fe22Ga13Ge13薄膜を20nm堆積した。ここで、Cr(10)/Ag(100)は、それぞれの金属の成膜厚み(nm単位)を示す。
【0026】
図7に、熱処理温度の異なる薄膜のXRDパターンを示す。Co52Fe22Ga13Ge13薄膜の(200)と(400)およびMgO単結晶基板の(100)からの回折線のみが観測されていることから、Co52Fe22Ga13Ge13薄膜がMgO単結晶基板上にエピタキシャル成長をしていることがわかる。また、すべての熱処理温度において(200)と(400)からの回折線がすべての膜で観測されている。これらの薄膜がB2構造以上の規則度を持っていることを示している。
【0027】
Co52Fe22Ga13Ge13薄膜はエピタキシャル膜なので、膜を傾けて測定することにより、他の面の回折線を測定することができる。膜を傾けて測定した結果を図8に示す。L2の超格子反射である(111)からの回折線が500℃以上で観察される。以上のことから、400℃まではB2構造、500℃以上でL2構造になっていることがわかる。XRDパターンから見積もった500℃で熱処理をした薄膜のB2規則度は0.8、L2規則度は0.11となる。Co52Fe22Ga13Ge13薄膜の格子定数をネルソンレーリー関数を用いたコーエン法で見積もった結果、a=0.576nm、c=0.570nmとなりほぼ立方晶である。
【0028】
図9にCo52Fe22Ga13Ge13薄膜の飽和磁化の熱処理温度依存性を示す。○印が10Kでの値、△印が室温での値を示している。図中の破線は理論値である。理論値よりも低い値となっているのは、組成ずれ及び完全にL2構造に規則化していないことが挙げられる。
【0029】
図10に、比抵抗の温度変化を示す。500℃で熱処理したCo52Fe22Ga13Ge13薄膜の比抵抗は熱処理をしていないものに比較して、スピンの散乱が抑えられるため、1/3倍程度にまで減少していることがわかる。これは構造の規則度に起因しているものと考えられる。
【0030】
電流によってCo52Fe22Ga13Ge13薄膜の磁気モーメントを歳差運動させるときに、ダンピング定数が低いとその応答がよくなるため、スピントルクオシレータ素子ではダンピング定数が低いことが望まれる。図11にCo52Fe22Ga13Ge13薄膜のダンピング定数の熱処理温度依存性を示す。熱処理温度の増加とともにダンピング定数は減少し、500℃熱処理後で0.008という低い値となり、一般的な強磁性材料であるパーマロイのダンピング定数が、0.01であるのに対し、この値はパーマロイよりも低い値となる。
【0031】
図12に500℃で熱処理したCo52Fe22Ga13Ge13薄膜のスピン偏極率の結果を示す。Co52Fe22Ga13Ge13表面の酸化防止のために、1nmのAlでキャップしている。スピン偏極率の散乱因子依存性から、本薄膜のスピン偏極率は0.75(75%)と見積もられる。
【0032】
<スピントロニクス素子の作製>
Co52Fe22Ga13Ge13薄膜の実験結果より、500℃の熱処理によりL2構造と高いスピン偏極率が得られることが明らかとなった。そこでCo52Fe22Ga13Ge13を強磁性電極としてCPP−GMR素子を作製し、その伝導特性の評価を行った。
【0033】
膜構造は、MgO基板/Cr(10)/Ag(100)/Co52Fe22Ga13Ge13(12)/Ag(5)/Co52Fe22Ga13Ge13(12)/Ag(5)/Ru(8)であり、括弧の中は膜厚を示し、単位はnmである。薄膜はDC及びRFマグネトロンスパッタ法で作製し、Ag層成膜後に300℃で30分、Ru層成膜後に500℃で30分の熱処理を行っている。前者は表面平坦性の向上を、後者はCo52Fe22Ga13Ge13の規則化のためである。CPP−GMR素子は、EBリソグラフィーとArイオンミリングを用いて、70×140μm、100×200μm、150×300μm、200×400μmの楕円形のピラー形状に加工した。
【0034】
図13にMgO基板/Cr(10)/Ag(100)/Co52Fe22Ga13Ge13(12)/Ag(5)/Co52Fe22Ga13Ge13(12)/Ag(5)/Ru(8)の磁気抵抗の磁場依存性を示す。△印が室温、○印が10Kでの曲線である。上下Co52Fe22Ga13Ge13電極が反平行状態になったときに高い磁気抵抗を示している。室温で面積抵抗変化(ΔRA)=9.5mΩ・μm、MR=41.7%、10KでΔRA=26.4mΩ・μm、MR=129.1%という大きな値を示した。一般的な強磁性材料であるCoFe/Cu/CoFeでは室温でΔRA=2mΩ・μm、MR比は数%であり、これと比較しても非常に大きな値が実現されていることがわかる。
【0035】
図14にΔRA、R(磁化平行時の抵抗)とRap(磁化反平行時の抵抗)の温度依存性を示す。温度の上昇とともにRは増加、Rapは減少し、その結果ΔRAは減少する。ΔRAの減少はスピン偏極率が温度上昇とともに減少しているためと考えられる。
【0036】
また、Co52Fe22Ga13Ge13を強磁性電極としてSTO素子を作製し、その伝導特性の評価を行った。MgO基板/Cr(10)/Ag(100)/Co52Fe22Ga13Ge13(12)/Ag(5)/Co52Fe22Ga13Ge13(12)/Ag(5)/Ru(8)の膜を500℃で熱処理を行い、微細加工により130×130nmのピラーを形成した。4.6×10 A/cmの電流、外部磁場が485 Oeを印加することにより、約16GHzで2.5nV/Hz0.5の出力を得た(図15)。なお、このときの線幅は30MHz、Q値は約460であった。この値は現在までに報告されている値と同等のものである(非特許文献9)。
【0037】
更に、Co52Fe22Ga13Ge13で2本の強磁性細線(幅100nm)とそれを橋渡しするような非磁性細線(Ag、幅150nm)を微細加工により作製し、NLSV素子の伝導特性の評価を行った。図19に示すように、非局所配置のときに室温で114mΩという非常に大きなスピン信号が得られた。この値は現在までに報告されている値よりも大きい(非特許文献10)。本NLSV素子はすべて金属で形成され素子抵抗が小さい。そのため大きなスピン流の生成が可能である。図20に示す局所配置での抵抗変化は非局所配置のそれの2倍となっており、解析的な計算結果と一致している。
【0038】
もちろん、この発明は以上の例に限定されるものではなく、細部に付いては様々な態様が可能であることは言うまでもない。
【産業上の利用可能性】
【0039】
高MR比の本願発明材料よる素子を用いることにより、2T/inchを超えるような密度での再生ヘッド、高周波アシスト磁気記録(MAMR)ヘッドを提供することが可能となった。更に、高いスピン偏極率を持つ本願発明材料から半導体へ高効率のスピン注入が可能となる。


【特許請求の範囲】
【請求項1】
スピントロニクスデバイスに用いられるCoFe基ホイスラー合金であって、下記式1に示すような成分組成(0.25<X<0.60)であることを特徴とするCoFe基ホイスラー合金。
<式1>
CoFe(GaGe1−x)(0.25<X<0.60)
【請求項2】
請求項1のCoFe基ホイスラー合金であって、スピン偏極率が0.65以上であることを特徴とするCoFe基ホイスラー合金。
【請求項3】
請求項1のCoFe基ホイスラー合金を強磁性電極として使用し、MgO基板/Cr/Ag/ CoFe基ホイスラー合金/Ag/CoFe基ホイスラー合金/Ag/Ruからなる薄膜積層構造を有することを特徴とするCPP−GMR素子。
【請求項4】
請求項1のCoFe基ホイスラー合金を強磁性電極として使用し、MgO基板/Cr/Ag/ CoFe基ホイスラー合金/Ag/CoFe基ホイスラー合金/Ag/Ruからなる薄膜積層構造を有することを特徴とするSTO素子。
【請求項5】
請求項1のCoFe基ホイスラー合金を強磁性電極として使用し、MgO基板/Cr/Ag/ CoFe基ホイスラー合金からなる2本の強磁性細線とそれを橋渡しするAgの非磁性細線からなる構造を有することを特徴とするNLSV素子。




【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【図18】
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【図19】
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【図20】
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【公開番号】特開2012−156485(P2012−156485A)
【公開日】平成24年8月16日(2012.8.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−227488(P2011−227488)
【出願日】平成23年10月14日(2011.10.14)
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成21年度、科学技術振興機構、戦略的創造研究推進事業委託事業、産業技術力強化法第19条の適用を受ける特許出願
【出願人】(301023238)独立行政法人物質・材料研究機構 (1,333)
【Fターム(参考)】