説明

DNA損傷癌療法に対してATM欠損癌を感作するためのDNA−PK阻害の使用

本発明は、DNAタンパク質キナーゼ(DNA−PKcs)の触媒サブユニットの阻害が、放射線治療または化学療法などのDNA損傷療法に対する、ATM欠損表現型を示す癌細胞の感受性を高めるという知見に関するものである。ATM欠損表現型を示す癌の治療方法およびそのような方法に対する患者の感受性を測定する方法が提供される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、癌状態、特にATM欠損表現型を示す癌状態の治療に関する。
【背景技術】
【0002】
ヒトDNAは常に、主として酸化的代謝の副産物からの活性酸素中間体による攻撃に曝されている。活性酸素種はDNA一本鎖切断を生じさせることができ、そのようなもの2つが非常に近接して生じた場合は、DNA二本鎖切断(DSB)が生じる。さらに、DNA複製フォークが損傷を受けた鋳型と遭遇すると一本鎖および二本鎖切断が誘発され、それらの切断は電離放射線(IR)およびある種の抗癌剤(例えば、ブレオマイシン、エトポシド、ドキソルビシンまたはイリノテカン)などの外因性作用物によって生じる。DSBはまた、部位特異的V(D)J組換え、これは機能を有する脊椎動物の免疫系の生成にきわめて重要なプロセスであるが、この組換えの中間体としても生ずる。DNA DSBが修復されないままとなった場合、または不正確に修復された場合には、突然変異および/または染色体の異常が誘発され、それが今度は細胞死をもたらしうる。DNA DBSによってもたらされる深刻な脅威に打ち勝つために、真核細胞はそれらの修復に介在するいくつかの機構を発達させている。DNA修復のプロセスにきわめて重要なのは、その細胞に損傷を修復するための時間を与えるために、細胞の増殖を遅らせることである。DNA DSBの検出、およびこの情報の細胞周期機構へのシグナル伝達において重要なタンパク質は、キナーゼATM(毛細血管拡張性運動失調症の突然変異)である(Durocher and Jackson (2001) Curr Opin Cell Biol. 13: 225-31, Abraham (2001) Genes Dev. 15; 2177-96)。
【0003】
ATMタンパク質は、そのカルボキシル末端領域中にキナーゼドメインと推定されるものがあるのでホスファチジルイノシトール(PI)3−キナーゼファミリーのタンパク質の一員とされている350kDaのポリペプチドである(Savitsky et al (1995) Science, 268: 1749-53)。PI−3キナーゼそれ自身などの古典的なPI3−キナーゼはシグナル伝達と細胞内のセカンドメッセンジャーとして働くイノシトール脂質のリン酸化に関与している(Toker and Cantley (1997), Nature, 387: 673-6に総覧がある)。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかし、ATMは、タンパク質をリン酸化し、ATMと同様に、細胞周期制御および/またはDNA損傷の検出およびシグナル伝達に関与しているPI3−キナーゼファミリーのサブセットと大部分の配列が類似している。このキナーゼのサブセットは、ホスファチジルイノシトール−3キナーゼ関連キナーゼ類(PIKK)と称される(Keith and Schreiber (1995), Science, 270; 50-1, Zakian (1995) Cell, 82; 685-7)。特に、現在までのところ、PIKKファミリーの構成員が脂質をリン酸化できるとの証拠はない。しかし、PIKKファミリーの構成員は全てセリン/トレオニンキナーゼ活性を有することが示されている。ATMは、DNA DBS生成に応じて開始される種々の細胞周期チェックポイントシグナル伝達系路に関与する重要なタンパク質をリン酸化する。
【0005】
ATMは、毛細血管拡張性運動失調症(A−T)では突然変異している遺伝子の産物である(Savitsky et al (1995))。A−Tは人口10万人あたり約1例発生するヒト常染色体劣性疾患である。A−Tは、進行性小脳変性症、眼皮膚毛細血管拡張症、成長の遅延、免疫不全、癌の素因、および早発老化のいくつかの特徴を含む多数の衰弱症状を特徴とする(Lavin and Shiloh (1997), Annu. Rev. Immunol., 15: 177-202; Shiloh (2001), Curr. Opin. Genet. Dev. 11: 71-7)。細胞レベルでは、A−Tは染色体の不安定性が高度であり、放射線に抵抗性のDNA合成が起こり、電離放射線(IR)および放射線類似作用薬剤に高感受性であることが特徴である。さらに、A−T細胞は、DNA損傷に対してそのゲノムをDNA複製または有糸分裂の前に修復できるようにするためにそのDNA損傷に応答してその細胞周期を一旦止めると考えられている、放射線で誘発されるG1−S、S、およびG2−M細胞周期チェックポイントに異常がある(Lavin and Shiloh, 1997)。このことはおそらく部分的には、A−T細胞がIRに応答するp53の誘発を行わないかまたは非常に遅らせるという事実を反映したものであろう。事実、p53が媒介するその後の現象も、IR暴露後のA−T細胞中では不完全なものとなる。従って、ATMは、IRで誘発されるDNA損傷シグナル伝達系路中ではp53の上流で作用する。
【0006】
また、A−T細胞では、電離放射線の照射を受けた後にDNA二本鎖切断(DSB)が蓄積することが示されており、これはDSB修復が不完全であることを示唆している。電離放射線誘発DNA損傷に応答するATMの機能は組織特異的であることが示されている。例えば、ATMヌルマウス由来の線維芽細胞は放射線に感受性だが、ATMヌルニューロンはIR誘発アポトーシスがないので放射線に抵抗性である(Herzog et al. (1998) Science, 280: 1089-91)。
【0007】
本発明者らは、DNAタンパク質キナーゼ(DNA−PK)、特にはその触媒サブユニット(DNA−PKcs)の阻害によって、ある種のDNA損傷抗癌療法の効果に対するATM欠損表現型を示す癌細胞の感受性を高めることができることを見出した。これは、癌状態の治療における重要な示唆を有するものである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の1態様は、個体での癌の治療で使用される医薬の製造におけるDNA−PKcs阻害薬およびDNA損傷癌療法の組み合わせの使用であって、前記癌がATM欠損表現型を有する、前記使用を提供する。
【0009】
本発明の別の態様は、個体での癌の治療方法であって、前記個体に対してDNA−PKcs阻害薬およびDNA損傷癌療法の組み合わせを投与するステップを含み、前記癌がATM欠損表現型を有する、前記方法を提供する。
【0010】
本発明の別の態様は、DNA損傷癌療法に対する個体での癌細胞の感受性を高めるのに使用される医薬の製造におけるDNA−PKcs阻害薬の使用であって、前記癌細胞がATM欠損表現型を有する、前記使用を提供する。
【0011】
本発明の別の態様は、DNA損傷癌療法に対する個体における癌細胞の感受性を高める方法であって、DNA−PKcs阻害薬を前記個体に投与するステップを含み、前記癌細胞がATM欠損表現型を有する、前記方法を提供する。
【0012】
本発明の別の態様は、癌療法に対する個体での癌状態の感受性を測定する方法であって、前記個体から得られた癌細胞をATM欠損表現型を有するものと確認するステップを含み、前記癌療法がDNA−PKcs阻害薬およびDNA損傷癌療法の組み合わせを含み;その際、前記個体から得られた癌細胞をATM欠損表現型を有するものと確認することが、その癌が前記癌療法に対して感受性であることを示すものである、前記方法を提供する。
【0013】
DNA損傷癌療法は、DNA−PK DNA修復経路(非相同末端接合経路またはNHEJとも称される:Smith GC and Jackson SP (1999) Genes Dev 13, 916-934)による修復を必要とするDNA二本鎖切断を直接または間接的に引き起こす放射線療法または1以上のDNA損傷化学療法剤であることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
DNA−PKは、DNA−PKcs(P78527GI:38258929)およびKup70/p86ダイマー(G22P1/G22P2;CAG30378.1、GI:47678515、P13010)のヘテロトリマーであるSer/Thrキナーゼである。DNA−PKは、DNA非相同末端接合(NHEJ)経路の主要な成分であり、二本鎖切断修復およびV(D)J組換えに必要である。
【0015】
本発明は、各種態様において、DNA二本鎖切断を直接または間接的に引き起こす放射線療法または化学療法などのDNA損傷抗癌療法の効果に対する、ATM欠損表現型を示す癌細胞の感受性を上昇するためのDNA−PKcs阻害薬の使用に関するものである。
【0016】
化学療法剤に対する癌細胞の感受性上昇(「感作」または「過感作」とも称される)は、癌細胞に対する化学療法剤の治療指数上昇と定義される。
【0017】
本発明は、個体での癌の治療におけるDNA損傷化学療法剤と組み合わせて使用するための本明細書に記載のDNA−PKcs阻害薬であって、前記癌がATM欠損表現型を有するものを包含する。本発明はさらに、個体での癌の治療におけるDNA−PKcs阻害薬と組み合わせて使用するための本明細書に記載のDNA損傷化学療法剤であって、前記癌がATM欠損表現型を有するものを包含する。
【0018】
DNA−PKcs阻害薬は、例えばアロステリック的に、またはより好ましくはATP競争的にDNA−PK(DNA−PKcs)の触媒サブユニットと特異的に相互作用し、そのキナーゼ活性を低下または消失させることで、DNA−PKのDNA修復機能を阻害する生体物質または好ましくは化学物質である。
【0019】
DNA−PKcsと特異的に相互作用するDNA−PKcs阻害薬は好ましくは、PIKKファミリーのタンパク質キナーゼに対する結合を全く示さないか、実質的に結合を示さない。好適なDNA−PKcs阻害薬は、PIKKファミリーのキナーゼと比べてDNA−PKcsに対して少なくとも100倍、少なくとも1000倍または10000倍の結合を示すことができる。例えば、DNA−PKcs阻害薬は、DNA−PKcsについて50nM未満のIC50およびPIKKファミリーの構成員について5μM以上のIC50を示すことができる。
【0020】
一部の実施形態において、特異的DNA−PKcs阻害薬は、PI3キナーゼといくらか交差反応する場合がある(すなわち、DNA−PKcs阻害薬は、PI3キナーゼならびにDNA−PKcsに結合することができる)。
【0021】
本発明の方法に従って使用するのに好ましいDNA−PKcs阻害薬は、DNA−PKcsと可逆的に相互作用して、共有結合を形成しない。可逆的DNA−PKcs阻害薬は当業界では公知であり、それについて下記でより詳細に説明する。
【0022】
ATM欠損表現型を有する癌には、ATMタンパク質の欠如(ATM−ヌル)、量的低下または機能不全によって、非腫瘍組織と比較して、一部または全ての癌細胞のATM介在相同性修復活性が低下または消失している癌などがある。
【0023】
本明細書に記載の治療に好適な個体には、真核生物、動物、脊椎動物、哺乳動物、齧歯類(例:モルモット、ハムスター、ラット、マウス)、ネズミ科(例:マウス)、イヌ科(例:イヌ)、ネコ科(例:ネコ)、ウマ科(例:ウマ)、シミアン(例:サルまたは類人猿)、サル類(例:マーモセット、ヒヒ)、類人猿(例:ゴリラ、チンパンジー、オランウータン、テナガザル)またはヒトなどの霊長類などがあり得る。
【0024】
癌細胞は概して、正常細胞と比較して異常な増殖を特徴とし、代表的には癌状態を有する個体においてクラスターまたは腫瘍を形成する。ATM欠損表現型を有する癌には、正常細胞と比較してATM依存性DNA損傷チェックポイント経路によるDNA DSBを修復する能力が低下または消失している1以上の癌細胞を含む癌が含まれる。すなわち1以上の癌細胞でATM依存性DNA損傷チェックポイント経路の活性が低下または消失している。一部の好ましい実施形態では、ATM依存性DNA損傷チェックポイント経路の活性は、正常細胞と比較して、ATM欠損表現型を有する細胞において、40%以上、50%以上、60%以上、70%以上、80%以上、または90%以上低下している。
【0025】
ATM欠損表現型を有する癌には、ATMヌル表現型を有する癌が含まれる。ATMヌル表現型を有する癌は、ATM依存性DNA損傷チェックポイント経路によってDNA DSBを修復することができない1以上の癌細胞を含む。すなわちATM依存性DNA損傷チェックポイント経路の活性が1以上の癌細胞で消失している。
【0026】
好ましい実施形態では、ATM欠損表現型は、個体からの癌細胞の特徴であり、その個体からの非癌細胞はATM欠損表現型をもたない。すなわち個体からの健常細胞は、ATM依存性DNA損傷チェックポイント経路によってDNA DSBを修復する正常な能力を有し、ATM依存性DNA損傷チェックポイント経路の活性は低下も障害もされない。例えば、一部の実施形態において、癌状態を有する個体は、毛細血管拡張性運動失調症(A−T)、またはナイメーヘン染色体不安定症候群(Weemaes CM et al. (1981) Acta Paediatr. Scand. 70, 557-564)などの相同修復経路における総合的な機能障害によって生じる他の状態を患う個体ではない。
【0027】
ATM依存性DNA損傷チェックポイント応答経路は、カーナらの報告(Khanna and Jackson (2001) Nat. Genet. 27, 247-254)およびロブリッチ(Lobrich M and Jeggo PA (2005) Radiother. Oncol. 76, 112-118)により詳細に記載されている。
【0028】
ATMの核酸およびタンパク質配列は、ヒトATM(核酸コード配列(CDS):U82828.1GI:2304970、タンパク質配列:AAB65827.1GI:2304971という受託番号で、GenBankデータベースから入手可能である。
【0029】
ATM欠損表現型を有する癌は、ATM自体が欠乏している癌、すなわち例えばコード核酸における突然変異、多型または過剰メチル化によって、または調節領域もしくは調節因子をコードする遺伝子における突然変異、多型もしくは過剰メチル化によってATMタンパク質の発現および/または活性が低下または消失している癌を含む。
【0030】
ATM欠損は、全長活性タンパク質の翻訳を防止するATM遺伝子のコード領域における突然変異、すなわち末端切断型変異、全長であるが不活性もしくは機能障害タンパク質の翻訳を可能とするATM遺伝子のコード領域における突然変異、すなわちミスセンス突然変異、転写を防止するATM遺伝子の調節要素における突然変異もしくは転写を防止する後成的変化、例えばATM遺伝子の調節要素におけるメチル化によるものである可能性がある。ATM欠損を生じることが知られているATM遺伝子における突然変異の例を表9に示してある。ATM遺伝子における他の公知の突然変異は、オンラインの毛細血管拡張性運動失調突然変異データベース(Concannon P., Benaroya Research Institute, Seattle, Washington 98101)にある。
【0031】
一部の実施形態において、ATM欠損癌細胞は、活性ATMタンパク質の正常群レベルの50%未満、40%未満、30%未満、20%未満または10%未満を有する細胞である(Thompson et al (2005) J. Natl. Cancer Inst., 97. 813-822)。ATMヌル癌細胞は、活性ATMタンパク質を全く含まないか、活性ATMタンパク質を実質的に含まない細胞である。
【0032】
一部の実施形態において、ATM欠損表現型を有する癌は、低いATM発現または活性を有する細胞系由来の癌を含む。例えば、ATM遺伝子の失活を稀にしか示さないほとんどの濾胞中心細胞リンパ腫(FCCL)およびびまん性大細胞型B細胞リンパ腫(DLBCL)は、ATMタンパク質に関して陰性であるか、弱く染色する。これらの腫瘍は、正常細胞分化中はATM発現が検出できないレベルまたは非常に低いレベルまで下方制御されて、発達的にプログラムされたDNA二本鎖切断に順応する細胞由来のものである。すなわち、B細胞腫瘍内で認められるATM発現のパターンは、腫瘍が由来するB細胞分化の個々の段階を反映するものである(Starczynski J., Simmons W., et al (2003) Am J Pathol 163, 423-32)。
【0033】
ATM欠損の細胞には、ATM遺伝子またはその調節要素をコードする核酸における突然変異または多型を低減する発現もしくは活性に関してヘテロ接合またはホモ接合である細胞が含まれる。
【0034】
ATM欠損表現型は、例えば、肉腫、皮膚癌、膀胱癌、乳癌、子宮癌、卵巣癌、前立腺癌、肺癌、結腸直腸癌、子宮頸癌、肝臓癌、頭部癌および頸部癌、食道癌、膵臓癌、腎臓癌、胃癌および大脳癌などのあらゆる種類の固形癌によって示され得る。ATM欠損表現型は、白血病もしくはリンパ腫などのリンパ癌、特に濾胞中心細胞リンパ腫(FCCL)、慢性リンパ性白血病(CLL)、マントル細胞リンパ腫(MCL)およびびまん性大細胞型B細胞リンパ腫(DLBCL)において特に共通している。
【0035】
本明細書に記載の方法において、個体における癌状態は、ATM欠損表現型を有する癌であると以前に確認されたものであってもよいし、あるいは個体における癌状態がATM欠損表現型を有するものであることを確認するステップを含んでもよい。ATM欠損表現型を有すると確認される癌状態は、本明細書に記載の治療に好適なものである。癌は、当業界で公知の一連のアプローチによってATM欠損表現型を有するものと確認することができる。
【0036】
一部の実施形態において、癌は、個体からの癌細胞で、ATMなどのATM依存性DNA損傷チェックポイント応答経路の成分であるポリペプチドをコードする核酸における1以上の変異、例えば、多型、突然変異または過剰メチル化の領域の存在を確認することで、ATM欠損表現型を有すると確認され得る。例えば、表9に示したATM遺伝子突然変異の存在を確認することができる。
【0037】
突然変異および多型などの配列変異として、野生型ヌクレオチド配列と比較した1以上のヌクレオチドの欠失、挿入または置換などを挙げることができる。一部の実施形態において、変異は遺伝子増幅またはメチル化における増加もしくは低減であることができる。その1以上の変異は、核酸配列のコード領域または非コード領域でのものであることができ、ポリペプチドの発現または活性を低下または消失させ得る。すなわち、変異核酸は、活性が低下もしくは消失した変異ポリペプチドをコードすることができ、あるいは例えば調節要素の活性変化によって細胞内でほとんど発現しない野生型ポリペプチドをコードすることができる。変異核酸は、野生型配列と比較して1、2、3、4以上の突然変異または多型を有することができる。
【0038】
ATMなどのATM依存性DNA損傷チェックポイント応答経路の成分をコードする核酸における1以上の変異の存在は、被験サンプルの1以上の細胞において、変異核酸配列の存在を検出することで、または核酸配列によってコードされる変異ポリペプチドの存在を検出することで確認することができる。
【0039】
癌は、個体からの癌細胞において、ATMなどのATM依存性DNA損傷チェックポイント応答経路の成分であるポリペプチドをコードするmRNAなどの核酸のレベルを測定することによって、ATM欠損表現型を有するものと確認することもできる。対照と比較した核酸のレベル低下または不在は、ATM欠損表現型を示し得るものである。
【0040】
個体から得られた細胞のサンプルにおいて、例えばATM依存性DNA損傷チェックポイント応答経路成分をコードする核酸、または突然変異または多型(例えば一本鎖構造多型(SSCP))を有するその変異型などの特定の核酸配列の有無またはレベルを測定するには、各種方法が利用可能である(Castellvi-Bel et al Human Mutation 14, 2, 156-162)。多くの他の好適な方法が当業界では公知であり、例えばサムブルックらの著作(Molecular Cloning: a Laboratory Manual: 3rd edition, Sambrook & Russell (2001) Cold Spring Harbor Laboratory Press NY)およびアウスベルらの著作( Current Protocols in Molecular Biology, Ausubel et al. eds. John Wiley & Sons (1992))に記載されている。
【0041】
核酸またはその増幅領域を配列決定して、その中の多型または突然変異の存在を確認または決定することができる。多型または突然変異は、例えば配列データベースに示されている成分の公知の配列と得られた配列とを比較することで確認することができる。特に、ポリペプチド成分の機能、従って全体としてのATM依存性DNA DSB修復経路の抑止または喪失を生じさせる1以上の多型または突然変異の存在を確認することができる。配列決定は、一連の標準的な技術のいずれかを用いて行うことができる。増幅産物の配列決定では、例えばイソプロパノールによる沈澱、再懸濁およびTaqFS+Dyeターミネーター配列決定キットを用いる配列決定を行うことができる。伸長産物は、ABI377DNAシーケンサーで電気泳動させ、データをシーケンス・ナビゲータ(Sequence Navigator)ソフトウェアを用いて解析することができる。
【0042】
個体またはサンプルの核酸を配列決定したら、配列情報を保持し、次に由来の核酸自体によらずに検索することができる。そこで例えば、配列解析ソフトウェアを用いる配列情報のデータベース走査によって、配列の変化または突然変異を確認することができる。
【0043】
より好ましくは、癌は、個体からの腫瘍細胞におけるATMなどのATM依存性DNA損傷チェックポイント応答経路の成分であるポリペプチドの存在および好ましくは量を測定することで、タンパク質レベルでATM欠損表現型を有すると確認することができる。対照と比較してポリペプチドのレベルが低かったり、存在しないと、それはATM欠損表現型を示している可能性がある。例えばウエスタンブロット分析、免疫組織化学試験(Angele S et al (2000) Clin. Cancer Res. 6, 3536-3544)またはイムノアッセイ(Butch AW et al (2004) Clinical Chemistry 50, 2303-2308)などの多くの好適な方法を用いることができる。
【0044】
癌は、個体からの癌細胞におけるATMなどのATM依存性DNA損傷チェックポイント応答経路の成分であるポリペプチドの存在および/または量を測定することで、タンパク質レベルでATM欠損表現型を有すると確認することもできる。例えばウエスタンブロッティングおよび免疫組織試験などの多くの好適な方法を用いることができる。ポリペプチドが存在しないか、例えば50%未満のように対照と比較して量が少ないと、それはATM欠損表現型を示し得るものである。
【0045】
癌に関連する突然変異および多型も、変異ポリペプチド(すなわち、活性が低下した変異体または対立遺伝子変異体)の存在を検出することで検出可能である。
【0046】
個体からのサンプル中の癌細胞をATM欠損と確認する方法は、ATMを標的とする例えば抗体のような特異的結合性構成員とサンプルを接触させるステップ、および特異的結合性構成員のサンプルへの結合を測定するステップを服務ことができる。特異的結合性構成員のサンプルへの結合は、サンプル内の細胞でのATMの存在を示し得るものである。特異的結合性構成員のサンプルへの結合の量は、サンプル内の細胞におけるATMのレベルまたは量を示し得るものである。
【0047】
正常サンプルおよび試験サンプルに対する抗体などの結合性構成員の反応性は、いずれか適切な手段によって求めることができる。結合の測定方式は本発明の特徴ではなく、当業者が、優先度および一般的知識に従って好適な方式を選択することができる。
【0048】
一部の実施形態において、癌は、個体から得られるサンプルからの1以上の癌細胞でATM依存性DNA損傷チェックポイント応答経路の活性を求めることによって、ATM欠損表現型を有すると確認することができる。活性は、好ましくは同じ組織からの正常(すなわち、非癌)細胞と比較して求めることができる。正常(すなわち非癌)細胞(すなわち、全長活性ATMについてホモ接合性)でのその経路の活性と比較して50%未満、40%未満、30%未満、20%未満または10%未満という1以上の癌細胞の活性低下は、その癌がATM欠損表現型を有することを示すものである。正常(すなわち、非癌)細胞でのその経路の活性と比較した1以上の癌細胞でのゼロ活性は、その癌がATMヌル表現型を有することを示している。
【0049】
ATM依存性DNA損傷チェックポイント応答経路の活性は、DNA損傷剤に対する応答において核でのRad51を含むフォーカスの形成を測定することで確認することができる。ATM依存性DNA DSB修復経路に欠損のある細胞は、そのようなフォーカスを形成する能力をもたない。Rad51フォーカスの存在は、標準的な免疫蛍光法を用いて確認することができる。ATM欠損表現型の存在を確認する他の方法には、IR、鎖間架橋試薬などの化学療法薬、DSB誘発剤(トポイソメラーゼIおよびII阻害薬)に対する感受性ならびにウェスタンブロット分析、免疫組織学的検査、染色体異常、酵素もしくはDNA結合アッセイおよびプラスミドに基づくアッセイの使用などがあり得る。
【0050】
個体から得られる好適なサンプルには、1以上の細胞を含む組織サンプル、例えば上記の癌組織もしくは例えば対照として使用するための非癌組織からの生検試料などがある。
【0051】
本発明の方法での使用に好適なDNA−PKcs阻害薬には、細胞においてDNA−PKcs欠損表現型を誘発する小有機分子、ペプチドまたは核酸などの化合物または物質などがあり、すなわちそれはDNA−PKcsの活性を阻害、低下または消失させるものである。DNA−PKcs阻害薬は、例えば本明細書に記載の免疫化学的方法を用いて、基質のDNA−PKcs介在リン酸化を測定することによって、標準的な方法を用いて確認することができる。好適なDNA−PKcs阻害薬には、ATP競合的にDNA−PKcsを阻害する小分子ATP競合性キナーゼ阻害薬がある。
【0052】
DNA−PKcs阻害薬についてはすでに報告がある。これら化合物の中には、例えばDNA−PKcs分子と共有結合を形成することで、DNA−PKcsを不可逆的に阻害するものがある。ワートマニンは、ホスホイノシトール−3−キナーゼファミリーの構成員を不可逆的に失活させることが知られており(Arcaro and Wymann (1993) Biochem J 296, 297-301)およびそのDNA−PKcsとの相互作用が、放射線増強剤(radiopotentiator)としてのその活性の基礎となっていると考えられている(Hashimoto et al (2003) J. Radiat. Res. 44, 151-159)。バニリンおよび4,5−ジメトキシ−2−ニトロベンズアルデヒド(DMNB:Calbiochem)などの構造的に関連があるベンズアルデヒド誘導体も、DNA−PKcsを不可逆的に阻害し、ワートマニンと類似した作用機序を有するものと考えられている(Durant and Karran (2003) Nucleic Acids Research 31, 5501-5512)。
【0053】
好ましいDNA−PKcs阻害薬は、DNA−PKcsを可逆的に阻害する。本明細書に記載するように使用するのに好適な可逆的DNA−PKcs阻害薬には、アリールモルホリン2−ヒドロキシ−4−モルホリン−4−イル−ベンズアルデヒド(IC60211:Calbiochem)ならびに誘導体1−(2−ヒドロキシ−4−モルホリン−4−イル−フェニル)エタノン(IC86621:Calbiochem)および1−(2−ヒドロキシ−4−モルホリン−4−イル−フェニル)−フェニル−メタノン(AMA37:Calbiochem; Kashishian et al (2003) Molecular Cancer Therapeutics 2, 1257-1264)などがある。
【0054】
他の好適なDNA−PKcs阻害薬には、8−ジベンゾチオフェン−4−イル−2−モルホリン−4−イル−クロメン−4−オン(NU7441)(Leahy et al (2004) Bioorg, Med. Chem. Lett., 14, 6083-6087)およびベンゾクロメノン2−(モルホリン−4−イル)−ベンゾ[h]クロメン−4−オン(NU7026:Calbiochem)(Willmore et al (2004) Blood 103, 4659-4665)のようなクロメノン類などがある。
【0055】
他の好適なDNA−PKcs阻害薬には、下記式(I)を有する化合物など、あるいはその異性体、塩、溶媒和物、化学保護体およびプロドラッグがある。
【化1】

【0056】
(式中、
およびRは独立に、水素、置換されていてもよいC1−7アルキル基、C3−20複素環基またはC5−20アリール基であるか、あるいはそれらが結合している窒素原子と一体となって、4〜8個の環原子を有する置換されていてもよい複素環を形成していてもよく;
XおよびYは、CRとO、OとCR’4およびNR”とNから選択され;不飽和は環の適切な場所にあり、RおよびRまたはR’4のうちの一つが置換されていてもよいC3−20ヘテロアリールまたはC5−20アリール基であり、RおよびRまたはR’4のうちの他方がHであり、あるいはRおよびRまたはR”4が一体となって、全体として縮合した置換されていてもよい芳香族環を表す−A−B−であり;
ただし、XおよびYがCRとOであり、RおよびRが一体となって縮合ベンゼン環を形成しており、RおよびRがそれらが結合しているNとともにモルホリノ基を形成している場合は、その縮合ベンゼンは8位で単一の置換基としてフェニル置換基をもたない)
そこで、XおよびYについての3つの異なる可能性によって、下記式Ia、IbおよびIcの化合物が生じる。
【化2】

【0057】
DNA−PKcs阻害薬には、RおよびR(またはR’4)のうちの一つがC3−20ヘテロアリールまたはC5−20アリール基であり、RおよびR(またはR’4)のうちの他方がHである式IaまたはIbの化合物が含まれる。
【0058】
DNA−PKcs阻害薬には、RおよびRまたはR”4が一体となって、全体として縮合した置換されていてもよい芳香族環を表す−A−B−である(ただし上記の条件がある)式IaおよびIcの化合物が含まれる。
【0059】
DNA−PKcs阻害薬には、下記式(II)の化合物などがある。
【化3】

【0060】
(式中、
およびRは独立に、水素、置換されていてもよいC1−7アルキル基、C3−20複素環基またはC5−20アリール基から選択されるか、あるいはそれらが結合している窒素原子と一体となって4〜8個の環原子を有する置換されていてもよい複素環を形成していてもよく;
Qは−NH−C(=O)−または−O−であり;
Yは、置換されていてもよいC1−5アルキレン基であり;
Xは、SRまたはNRから選択され、
またはRおよびRは独立に、水素、置換されていてもよいC1−7アルキル、C5−20アリールまたはC3−20複素環基から選択されるか、あるいはRおよびRがそれらが結合している窒素原子と一体となって、4〜8個の環原子を有する置換されていてもよい複素環を形成していてもよく;
Qが−O−である場合には、Xはさらに、−C(=O)−NRから選択され、RおよびRは独立に水素、置換されていてもよいC1−7アルキル、C5−20アリールまたはC3−20複素環基から選択されるか、あるいはRおよびRがそれらが結合している窒素原子と一体となって、4〜8個の環原子を有する置換されていてもよい複素環を形成していてもよく;
Qが−NH−C(=O)−である場合、−Y−XはさらにC1−7アルキルから選択されてもよい)
式(II)の好ましいDNA−PKcs阻害薬には、8−アリール−2−モルホリン−4−イル−1−ベンゾピラン−4−オンおよび2−(4−エチル−ピペラジン−1−イル)−N−[4−(2−モルホリン−4−イル−4−オキソ−4H−1−ベンゾピラン−8−イル)−ジベンゾチオフェン−1−イル]−アセトアミド(KU−0060648)などがある。
【0061】
DNA−PKcs阻害薬には、下記式(III)の化合物などがある。
【化4】

【0062】
(式中、
A、BおよびDはそれぞれ、
(i)CH、NH、C;
(ii)CH、N、N;および
(iii)CH、O、C
からなる群から選択され;
点線は、適切な位置での2個の二重結合を表し;
N1およびRN2は独立に水素、置換されていてもよいC1−7アルキル基、C3−20複素環基またはC5−20アリール基から選択されるか、あるいはそれらが結合している窒素原子と一体となって、4〜8個の環原子を有する置換されていてもよい複素環を形成していてもよく;
、Z、Z、ZおよびZはそれらが結合している炭素原子と一体となって、芳香族環を形成しており;
は、CR、N、NH、SおよびOからなる群から選択され;ZはCRであり;ZはCR、N、NH、SおよびOからなる群から選択され;Zは直接結合であるかまたはO、N、NH、SおよびCHからなる群から選択され;ZはO、N、NH、SおよびCHからなる群から選択され;
はHであり;
は、ハロまたは置換されていてもよいC5−20アリールから選択され;
は、H、OH、NO、NHおよびQ−Y−Xからなる群から選択され、
Qは、−NH−C(=O)−または−O−であり;
Yは、置換されていてもよいC1−5アルキレン基であり;
Xは、SRS1またはNRN3N4から選択され、
S1またはRN3およびRN4は独立に、水素、置換されていてもよいC1−7アルキル、C5−20アリールまたはC3−20複素環基から選択されるか、またはRN3およびRN4はそれらが結合している窒素原子と一体となって、4〜8個の環原子を有する置換されていてもよい複素環を形成していてもよく;
Qが−O−である場合、Xはさらに、−C(=O)−NRN5N6から選択されてもよく、RN5およびRN6は独立に水素、置換されていてもよいC1−7アルキル、C5−20アリールまたはC3−20複素環基から選択されるか、あるいはRN5およびRN6はそれらが結合している窒素原子と一体となって、4〜8個の環原子を有する置換されていてもよい複素環を形成していてもよく;
Qが−NH−C(=O)−である場合、−Y−XはさらにC1−7アルキルから選択されてもよい)
、Z、Z、ZおよびZは、ZおよびZが結合している炭素原子を含んでそれらが形成している基が芳香族であるように選択される。
【0063】
式IIIのDNA−PKcs阻害薬には、ZがCRであり、ZがCRであり、ZがCRであり、ZおよびZがいずれもCHである下記式IVまたは詳細には下記式IVaの化合物などがある。
【化5】

【0064】
(式中、A、B、D、RN1、RN2、R、RおよびRは上記で記載の通りである。これらの特定の実施形態において、Rが未置換フェニルであり、RN1およびRN2がモルホリノ基を形成している場合には、RはHではない。
【0065】
A、BおよびDに関する選択肢によって、下記の式の化合物が生じ、式中においてArはZ、Z、Z、ZおよびZによって形成される芳香族環を表す。
【表1】

【0066】
式(III)の好ましいDNA−PKcs阻害薬には、8−アリール−2−モルホリン−4−イル−1H−キノリン−4−オン、9−アリール−2−モルホリン−4−イル−9H−ピリド[1,2−a]ピリミジン−4−オン、9−アリール−2−モルホリン−4−イル−キノリジン−4−オンおよび5−アリール−3−モルホリン−4−イル−2−ベンゾピラン−1−オンなどがある。
【0067】
式(I)、(II)、(III)、(IV)および(IVa)を有するDNA−PKcs阻害薬およびそれらの合成については、WO2006/032869、WO03/024949、WO03/015790、WO2006/001379およびWO2006/001369により詳細に記載されている。
【0068】
「芳香族環」という用語は本明細書において、従来の意味で、環状芳香族環、すなわち非局在π電子軌道を有する環に5〜7個の原子を有する環状構造を指すのに用いられる。好ましくは、芳香族環は、ヒュッケルの4n+2則を満足するものであり、すなわちπ電子数が4n+2であり、nは環原子数を表す。その芳香族環が6個の原子を有することが好ましい。そのような場合、芳香族環を構成する核部分に加わる4個の原子はいずれも炭素であることで、下記の一般構造の化合物を与えることがさらに好ましい。
【化6】

【0069】
(式中、
X’およびY’は、それぞれCとOであるか、NとNであり;
、R、RおよびRは好ましくは独立に、水素、C1−7アルキル、C3−20複素環、C5−20アリール、ヒドロキシ、C1−7アルコキシ(C1−7アルキル−C1−7アルコキシおよびC3−20アリール−C1−7アルコキシなど)およびアシルオキシから選択されるか、あるいは隣接する置換基対(すなわち、RおよびR、RおよびR、RおよびR)が、それらが結合している原子と一体となって置換されていてもよい芳香族または炭素環を形成している)
−A−B−によって表される縮合芳香族環は、C1−7アルキル、C3−20複素環、C5−20アリール、ヒドロキシ、C1−7アルコキシ(C1−7アルキル−C1−7アルコキシおよびC3−20アリール−C1−7アルコキシなど)およびアシルオキシの基のうちの1以上によって置換されていてもよく、隣接する置換基対が、それらが結合している原子と一体となって、置換されていてもよい芳香族または炭素環を形成していてもよい。
【0070】
炭素環という用語は、5〜7個の共有結合的に連結された炭素原子から形成された環を指す。その環は、1以上の炭素−炭素二重結合を含むことができる。炭素環の例には、シクロペンタン、シクロヘキサン、シクロヘプタン、シクロペンテン、シクロヘキセンおよびシクロヘプテンなどがある。
【0071】
1−7アルキル:本明細書で使用される「C1−7アルキル」という用語は、1〜7個の炭素原子を有するC1−7炭化水素化合物から水素原子を脱離させることで得られる1価の部分であって、脂肪族もしくは脂環式またはそれらの組み合わせであることができ、飽和、部分不飽和もしくは完全不飽和であることができるものに関するものである。
【0072】
飽和直鎖C1−7アルキル基の例には、メチル、エチル、n−プロピル、n−ブチルおよびn−ペンチル(アミル)などがあるが、これらに限定されるものではない。
【0073】
飽和分岐C1−7アルキル基の例には、イソ−プロピル、イソ−ブチル、sec−ブチル、tert−ブチルおよびネオペンチルなどがあるが、それらに限定されるものではない。
【0074】
飽和脂環式C1−7アルキル基(「C3−7シクロアルキル」基とも称される)の例には、シクロプロピル、シクロブチル、シクロペンチルおよびシクロヘキシルなどの基、ならびにメチルシクロプロピル、ジメチルシクロプロピル、メチルシクロブチル、ジメチルシクロブチル、メチルシクロペンチル、ジメチルシクロペンチル、メチルシクロヘキシル、ジメチルシクロヘキシル、シクロプロピルメチルおよびシクロヘキシルメチルなどの置換された基(例えば、そのような基を含む基)などがあるが、それらに限定されるものではない。
【0075】
1以上の炭素−炭素二重結合を有する不飽和C1−7アルキル基(「C2−7アルケニル」基とも称される)の例には、エテニル(ビニル、−CH=CH)、2−プロペニル(アリル、−CH−CH=CH)、イソプロペニル(−C(CH)=CH)、ブテニル、ペンテニルおよびヘキセニルなどがあるが、それらに限定されるものではない。
【0076】
1以上の炭素−炭素三重結合を有する不飽和C1−7アルキル基(「C2−7アルキニル」基とも称される)の例には、エチニル(ethynyl)(エチニル(ethinyl))および2−プロピニル(プロパルギル)などがあるが、それらに限定されるものではない。
【0077】
1以上の炭素−炭素二重結合を有する不飽和脂環式(炭素環)C1−7アルキル基(「C3−7シクロアルケニル」基とも称される)の例には、シクロプロペニル、シクロブテニル、シクロペンテニルおよびシクロヘキセニルなどの未置換の基、ならびにシクロプロペニルメチルおよびシクロヘキセニルメチルなどの置換された基(例えば、そのような基を含む基)などがあるが、それらに限定されるものではない。
【0078】
3−20複素環:本明細書で使用される「C3−20複素環」という用語は、C3−20複素環化合物の環原子から水素原子を脱離させることで得られる1価の部分に関するものであり、前記化合物は1個の環または2個以上の環(例:スピロ、縮合、架橋)を有し、3〜20個の環原子(そのうちの1〜10個が環ヘテロ原子である)を有しており、前記環のうちの少なくとも一つが複素環である。好ましくは、各環は3〜7個の環原子を有し、そのうちの1〜4個が環ヘテロ原子である。「C3−20」は、炭素原子であるかヘテロ原子であるかを問わず環原子を示す。
【0079】
1個の窒素環原子を有するC3−20複素環基の例には、アジリジン、アゼチジン、ピロリジン類(テトラヒドロピロール)、ピロリン(例:3−ピロリン、2,5−ジヒドロピロール)、2H−ピロールまたは3H−ピロール(イソピロール、イソアゾール)、ピペリジン、ジヒドロピリジン、テトラヒドロピリジンおよびアゼピンから誘導されるものなどがあるが、それらに限定されるものではない。
【0080】
1個の酸素環原子を有するC3−20複素環基の例には、オキシラン、オキセタン、オキソラン(テトラヒドロフラン)、オキソール(ジヒドロフラン)、オキサン(テトラヒドロピラン)、ジヒドロピラン、ピラン(C)およびオキセピンから誘導されるものなどがあるが、それらに限定されるものではない。置換C3−20複素環基の例には、例えばリボース、リキソース、キシロース、ガラクトース、ショ糖、果糖およびアラビノースなどの例えばフラノース類およびピラノース類のような環形状の糖類などがある。
【0081】
1個の硫黄環原子を有するC3−20複素環基の例には、チイラン、チエタン、チオラン(テトラヒドロチオフェン)、チアン(テトラヒドロチオピラン)およびチエパンから誘導されるものなどがあるが、それらに限定されるものではない。
【0082】
2個の酸素環原子を有するC3−20複素環基の例には、ジオキソラン、ジオキサンおよびジオキセパンから誘導されるものなどがあるが、それらに限定されるものではない。
【0083】
2個の窒素環原子を有するC3−20複素環基の例には、イミダゾリジン、ピラゾリジン(ジアゾリジン)、イミダゾリン、ピラゾリン(ジヒドロピラゾール)およびピペラジンから誘導されるものなどがあるが、それらに限定されるものではない。
【0084】
1個の窒素環原子および1個の酸素環原子を有するC3−20複素環基の例には、テトラヒドロオキサゾール、ジヒドロオキサゾール、テトラヒドロイソオキサゾール、ジヒドロイソオキサゾール、モルホリン、テトラヒドロオキサジン、ジヒドロオキサジンおよびオキサジンから誘導されるものなどがあるが、それらに限定されるものではない。
【0085】
1個の酸素環原子および1個の硫黄環原子を有するC3−20複素環基の例には、オキサチオランおよびオキサチアン(チオキサン)から誘導されるものなどがあるが、それらに限定されるものではない。
【0086】
1個の窒素環原子および1個の硫黄環原子を有するC3−20複素環基の例には、チアゾリン、チアゾリジンおよびチオモルホリンから誘導されるものなどがあるが、それらに限定されるものではない。
【0087】
3−20複素環基の他の例には、オキサジアジンおよびオキサチアジンなどがあるが、それらに限定されるものではない。
【0088】
さらに1以上のオキソ(=O)基を有する複素環基の例には、
フラノン、ピロン、ピロリドン(ピロリジノン)、ピラゾロン(ピラゾリノン)、イミダゾリドン、チアゾロンおよびイソチアゾロンなどのC複素環;
ピペリジノン(ピペリドン)、ピペリジンジオン、ピペラジノン、ピペラジンジオン、ピリダジノンおよびピリミジノン(例:シトシン、チミン、ウラシル)およびバルビツール酸などのC複素環;
オキシインドール、プリノン(例:グアニン)、ベンゾオキサゾリノン、ベンゾピロン(例:クマリン)などの縮合複素環;
無水マレイン酸、無水コハク酸および無水グルタル酸など(これらに限定されるものではない)の環状無水物類(環中の−C(=O)−O−C(=O)−);
エチレンカーボネートおよび1,2−プロピレンカーボネートなどの環状カーボネート類(環中の−O−C(=O)−O−);
スクシンイミド、マレイミド、フタルイミドおよびグルタルイミドなど(これらに限定されるものではない)のイミド類(環中の−C(=O)−NR−C(=O)−);
β−プロピオラクトン、γ−ブチロラクトン、δ−バレロラクトン(2−ピペリドン)およびε−カプロラクトンなど(これらに限定されるものではない)のラクトン類(環中の環状エステル−O−C(=O)−);
β−プロピオラクタム、γ−ブチロラクタム(2−ピロリドン)、δ−バレロラクタムおよびε−カプロラクタムなど(これらに限定されるものではない)のラクタム類(環中の環状アミド−NR−C(=O)−);
2−オキサゾリドンなどの環状カーバメート類(環中の−O−C(=O)−NR−);
2−イミダゾリドンおよびピリミジン−2,4−ジオン(例:チミン、ウラシル)などの環状尿素類(環中の−NR−C(=O)−NR−);
から誘導されるものなどがあるが、それらに限定されるものではない。
【0089】
5−20アリール:本明細書で使用される「C5−20アリール」という用語は、C5−20芳香族化合物の芳香族環原子から水素原子を脱離させることで得られる1価の部分に関するものであり、前記化合物は1個の環または2個以上の環(例:縮合)を有し、5〜20個の環原子を有しており、前記環のうちの少なくとも1個が芳香族環である。好ましくは、各環は5〜7個の環原子を有する。
【0090】
環原子は、「カルボアリール基」での場合のように全て炭素原子であることができ、その場合にその基は簡便に「C5−20カルボアリール」基と称することができる。
【0091】
環ヘテロ原子をもたないC5−20アリール基(すなわち、C5−20カルボアリール基)の例には、ベンゼン(すなわちフェニル)(C)、ナフタレン(C10)、アントラセン(C14)、フェナントレン(C14)、ナフタセン(C18)およびピレン(C16)から誘導されるものなどがあるが、それらに限定されるものではない。
【0092】
縮合環を有し、そのうちの一つが芳香族環ではないアリール基の例には、インデンおよびフルオレンから誘導される基などがあるが、それらに限定されるものではない。
【0093】
あるいは、環原子は、「ヘテロアリール基」での場合のように、酸素、窒素および硫黄など(それらに限定されるものではない)の1以上のヘテロ原子を含むことができる。この場合、その基は簡便に「C5−20ヘテロアリール」基と称することができ、「C5−20」は炭素原子であるかヘテロ原子であるかを問わず環原子である。好ましくは、各環は、5〜7個の環原子を有するものであり、そのうちの0〜4個が環ヘテロ原子である。
【0094】
5−20ヘテロアリール基の例には、フラン(オキソール)、チオフェン(チオール)、ピロール(アゾール)、イミダゾール(1,3−ジアゾール)、ピラゾール(1,2−ジアゾール)、トリアゾール、オキサゾール、イソオキサゾール、チアゾール、イソチアゾール、オキサジアゾールおよびオキサトリアゾールから誘導されるCヘテロアリール基;およびイソオキサジン、ピリジン(アジン)、ピリダジン(1,2−ジアジン)、ピリミジン(1,3−ジアジン;例:シトシン、チミン、ウラシル)、ピラジン(1,4−ジアジン)、トリアジン、テトラゾールおよびオキサジアゾール(フラザン)から誘導されるCヘテロアリール基などがあるが、それらに限定されるものではない。
【0095】
縮合環を含むC5−20複素環基(一部はC5−20ヘテロアリール基である)の例には、ベンゾフラン、イソベンゾフラン、インドール、イソインドール、プリン(例:アデニン、グアニン)、ベンゾチオフェン、ベンズイミダゾールから誘導されるC複素環基;キノリン、イソキノリン、ベンゾジアジン、ピリドピリジン、キノキサリンから誘導されるC10複素環基;カルバゾール、ジベンゾチオフェン、ジベンゾフランから誘導されるC13複素環基;アクリジン、キサンテン、フェノキサチイン、フェナジン、フェノキサジン、フェノチアジンから誘導されるC14複素環基などがあるが、それらに限定されるものではない。
【0096】
上記のC1−7アルキル、C3−20複素環およびC5−20アリール基は、単独であるか別の置換基の一部であるかを問わず、それ自体および下記に挙げた別の置換基から選択される1以上の基で置換されていてもよい。
【0097】
ハロ:−F、−Cl、−Brおよび−I。
【0098】
ヒドロキシ:−OH。
【0099】
エーテル:−OR[Rは、エーテル置換基、例えばC1−7アルキル基(下記の記載のC1−7アルコキシ基とも称される)、C3−20複素環基(C3−20複素環オキシ基とも称される)またはC5−20アリール基(C5−20アリールオキシ基とも称される)、好ましくはC1−7アルキル基である]。
【0100】
1−7アルコキシ:−OR[Rは、C1−7アルキル基である]。C1−7アルコキシ基の例には、−OCH(メトキシ)、−OCHCH(エトキシ)および−OC(CH(tert−ブトキシ)などがあるが、それらに限定されるものではない。
【0101】
オキソ(ケト、−オン):=O。置換基としてオキソ基(=O)を有する環状化合物および/または基の例には、シクロペンタノンおよびシクロヘキサノンなどの炭素環;ピロン、ピロリドン、ピラゾロン、ピラゾリノン、ピペリドン、ピペリジンジオン、ピペラジンジオンおよびイミダゾリドンなどの複素環;無水マレイン酸および無水コハク酸など(それらに限定されるものではない)の環状無水物;プロピレンカーボネートなどの環状カーボネート;スクシンイミドおよびマレイミドなど(それらに限定されるものではない)のイミド類;β−プロピオラクトン、γ−ブチロラクトン、δ−バレロラクトンおよびε−カプロラクトンなど(それらに限定されるものではない)のラクトン類(環状エステル、環中の−O−C(=O)−):およびβ−プロピオラクタム、γ−ブチロラクタム(2−ピロリドン)、δ−バレロラクタムおよびε−カプロラクタムなど(それらに限定されるものではない)のラクタム類(環状アミド、環中の−NH−C(=O)−)があるが、それらに限定されるものではない。
【0102】
イミノ(イミン):=NR[Rはイミノ置換基、例えば、水素、C1−7アルキル基、C3−20複素環基またはC5−20アリール基、好ましくは水素またはC1−7アルキル基である]。エステル基の例には、=NH、=NMe、=NEtおよび=NPhなどがあるが、それらに限定されるものではない。
【0103】
ホルミル(カルボアルデヒド、カルボキシアルデヒド):−C(=O)H。
【0104】
アシル(ケト):−C(=O)R[Rはアシル置換基、例えばC1−7アルキル基(C1−7アルキルアシルまたはC1−7アルカノイルとも称される)、C3−20複素環基(C3−20複素環アシルとも称される)またはC5−20アリール基(C5−20アリールアシルとも称される)、好ましくはC1−7アルキル基である]。アシル基の例には、−C(=O)CH(アセチル)、−C(=O)CHCH(プロピオニル)、−C(=O)C(CH(ブチリル)および−C(=O)Ph(ベンゾイル、フェノン)などがあるが、それらに限定されるものではない。
【0105】
カルボキシ(カルボン酸):−COOH。
【0106】
エステル(カルボキシレート、カルボン酸エステル、オキシカルボニル):−C(=O)OR[Rは、エステル置換基、例えばC1−7アルキル基、C3−20複素環基またはC5−20アリール基、好ましくはC1−7アルキル基である]。エステル基の例には−C(=O)OCH、−C(=O)OCHCH、−C(=O)OC(CHおよび−C(=O)OPhなどがあるが、それらに限定されるものではない。
【0107】
アシルオキシ(逆エステル):−OC(=O)R[Rは、アシルオキシ置換基、例えば、C1−7アルキル基、C3−20複素環基またはC5−20アリール基、好ましくはC1−7アルキル基である]。アシルオキシ基の例には、−OC(=O)CH(アセトキシ)、−OC(=O)CHCH、−OC(=O)C(CH、−OC(=O)Phおよび−OC(=O)CHPhなどがあるが、それらに限定されるものではない。
【0108】
アミド(カルバモイル、カルバミル、アミノカルボニル、カルボキサミド):−C(=O)NR[RおよびRは独立に、アミノ基に関して定義のアミノ置換基である]。アミド基の例には、−C(=O)NH、−C(=O)NHCH、−C(=O)N(CH、−C(=O)NHCHCHおよび−C(=O)N(CHCH、ならびにRおよびRがそれらが結合している窒素原子と一体となって、例えばピペリジノカルボニル、モルホリノカルボニル、チオモルホリノカルボニルおよびピペラジノカルボニルのように複素環構造を形成しているアミド基などがあるが、それらに限定されるものではない。
【0109】
アシルアミド(アシルアミノ):−NRC(=O)R[Rはアミド置換基、例えば、水素、C1−7アルキル基、C3−20複素環基またはC5−20アリール基、好ましくは水素またはC1−7アルキル基であり、Rはアシル置換基、例えばC1−7アルキル基、C3−20複素環基またはC5−20アリール基、好ましくは水素またはC1−7アルキル基である]。アシルアミド基の例には、−NHC(=O)CH、−NHC(=O)CHCHおよび−NHC(=O)Phなどがあるが、それらに限定されるものではない。RおよびRが一体となって、例えばスクシンイミジル、マレイミジルおよびフタルイミジルのように環状構造を形成していても良い。
【化7】

【0110】
アシルウレイド:−N(R)C(O)NRC(O)R[RおよびRは独立に、ウレイド置換基、例えば、水素、C1−7アルキル基、C3−20複素環基またはC5−20アリール基、好ましくは水素またはC1−7アルキル基である。Rはアシル基について定義されるアシル基である]。アシルウレイド基の例には、−NHCONHC(O)H、−NHCONMeC(O)H、−NHCONEtC(O)H、−NHCONMeC(O)Me、−NHCONEtC(O)Et、−NMeCONHC(O)Et、−NMeCONHC(O)Me、−NMeCONHC(O)Et、−NMeCONMeC(O)Me、−NMeCONEtC(O)Etおよび−NMeCONHC(O)Phなどがあるが、それらに限定されるものではない。
【0111】
カーバメート:−NR−C(O)−OR[Rは、アミノ基について定義のアミノ置換基であり、Rはエステル基について定義のエステル基である]。カーバメート基の例には、−NH−C(O)−O−Me、−NMe−C(O)−O−Me、−NH−C(O)−O−Et、−NMe−C(O)−O−t−ブチルおよび−NH−C(O)−O−Phなどがあるが、それらに限定されるものではない。
【0112】
チオアミド(チオカルバミル):−C(=S)NR[RおよびRは独立に、アミノ基について定義のアミノ置換基である]。アミド基の例には、−C(=S)NH、−C(=S)NHCH、−C(=S)N(CHおよび−C(=S)NHCHCHなどがあるが、それらに限定されるものではない。
【0113】
テトラゾリル:4個の窒素原子および1個の炭素原子を有する5員芳香族環
【化8】

【0114】
アミノ:−NR[RおよびRは独立に、アミノ置換基、例えば水素、C1−7アルキル基(C1−7アルキルアミノまたはジ−C1−7アルキルアミノとも称される)、C3−20複素環基またはC5−20アリール基、好ましくはHまたはC1−7アルキル基であるか、または「環状」アミノ基の場合、RおよびRがそれらが結合している窒素原子と一体となって4〜8個の環原子を有する複素環を形成している]。アミノ基の例には、−NH、−NHCH、−NHC(CH、−N(CH、−N(CHCHおよび−NHPhなどがあるが、それらに限定されるものではない。環状アミノ基の例には、アジリジノ、アゼチジノ、ピロリジノ、ピペリジノ、ピペラジノ、モルホリノおよびチオモルホリノなどがあるが、それらに限定されるものではない。
【0115】
イミノ:=NR[Rはイミノ置換基、例えば、水素、C1−7アルキル基、C3−20複素環基またはC5−20アリール基、好ましくはHまたはC1−7アルキル基である]。
【0116】
アミジン:−C(=NR)NR[各Rはアミジン置換基、例えば水素、C1−7アルキル基、C3−20複素環基またはC5−20アリール基、好ましくはHまたはC1−7アルキル基である]。アミジン基の例には、−C(=NH)NHがある。
【0117】
カルバゾイル(ヒドラジノカルボニル):−C(O)−NN−R[Rはアミノ基について定義のアミノ置換基である。アジノ基の例には、−C(O)−NN−H、−C(O)−NN−Me、−C(O)−NN−Et、−C(O)−NN−Phおよび−C(O)−NN−CH−Phなどがあるが、それらに限定されるものではない。
【0118】
ニトロ:−NO
【0119】
ニトロソ:−NO。
【0120】
アジド:−N
【0121】
シアノ(ニトリル、カルボニトリル):−CN。
【0122】
イソシアノ:−NC。
【0123】
シアナト:−OCN。
【0124】
イソシアナト:−NCO。
【0125】
チオシアノ(チオシアナト):−SCN。
【0126】
イソチオシアノ(イソチオシアナト):−NCS。
【0127】
スルフヒドリル(チオール、メルカプト):−SH。
【0128】
チオエーテル(スルフィド):−SR[Rはチオエーテル置換基、例えば、C1−7アルキル基(C1−7アルキルチオ基とも称される)、C3−20複素環基またはC5−20アリール基、好ましくはC1−7アルキル基である]。C1−7アルキルチオ基の例には、−SCHおよび−SCHCHなどがあるが、それらに限定されるものではない。
【0129】
ジスルフィド:−SS−R[Rは、ジスルフィド置換基、例えばC1−7アルキル基、C3−20複素環基またはC5−20アリール基、好ましくはC1−7アルキル基(本明細書においてC1−7アルキルジスルフィドとも称される)である]。C1−7アルキルジスルフィド基の例には、−SSCHおよび−SSCHCHなどがあるが、それらに限定されるものではない。
【0130】
スルホン(スルホニル):−S(=O)R[Rはスルホン置換基、例えばC1−7アルキル基、C3−20複素環基またはC5−20アリール基、好ましくはC1−7アルキル基である]。スルホン基の例には、−S(=O)CH(メタンスルホニル、メシル)、−S(=O)CF(トリフリル)、−S(=O)CHCH、−S(=O)(ノナフリル)、−S(=O)CHCF(トレシル)、−S(=O)Ph(フェニルスルホニル)、4−メチルフェニルスルホニル(トシル)、4−ブロモフェニルスルホニル(ブロシル)および4−ニトロフェニル(ノシル)などがあるが、それらに限定されるものではない。
【0131】
スルフィン(スルフィニル、スルホキシド):−S(=O)R[Rはスルフィン置換基、例えばC1−7アルキル基、C3−20複素環基またはC5−20アリール基、好ましくはC1−7アルキル基である]。スルフィン基の例には、−S(=O)CHおよび−S(=O)CHCHなどがあるが、それらに限定されるものではない。
【0132】
スルホニルオキシ:−OS(=O)R[Rはスルホニルオキシ置換基、例えばC1−7アルキル基、C3−20複素環基またはC5−20アリール基、好ましくはC1−7アルキル基である]。スルホニルオキシ基の例には、−OS(=O)CHおよび−OS(=O)CHCHなどがあるが、それらに限定されるものではない。
【0133】
スルフィニルオキシ:−OS(=O)R[Rはスルフィニルオキシ置換基、例えばC1−7アルキル基、C3−20複素環基またはC5−20アリール基、好ましくはC1−7アルキル基である]。スルフィニルオキシ基の例には、−OS(=O)CHおよび−OS(=O)CHCHなどがあるが、それらに限定されるものではない。
【0134】
スルファミノ:−NRS(=O)OH[Rはアミノ基について定義のアミノ置換基である]。スルファミノ基の例には、−NHS(=O)OHおよび−N(CH)S(=O)OHなどがあるが、それらに限定されるものではない。
【0135】
スルホンアミノ:−NRS(=O)R[Rは、アミノ基について定義のアミノ置換基であり、Rはスルホンアミノ置換基、例えばC1−7アルキル基、C3−20複素環基またはC5−20アリール基、好ましくはC1−7アルキル基である]。スルホンアミノ基の例には、−NHS(=O)CHおよび−N(CH)S(=O)などがあるが、それらに限定されるものではない。
【0136】
スルフィンアミノ:−NRS(=O)R[Rはアミノ基について定義のアミノ置換基であり、Rはスルフィンアミノ置換基、例えばC1−7アルキル基、C3−20複素環基またはC5−20アリール基、好ましくはC1−7アルキル基である]。スルフィンアミノ基の例には、−NHS(=O)CHおよび−N(CH)S(=O)Cなどがあるが、それらに限定されるものではない。
【0137】
スルファミル:−S(=O)NR[RおよびRは独立に、アミノ基について定義のアミノ置換基である]。スルファミル基の例には、−S(=O)NH、−S(=O)NH(CH)、−S(=O)N(CH、−S(=O)NH(CHCH)、−S(=O)N(CHCHおよび−S(=O)NHPhなどがあるが、それらに限定されるものではない。
【0138】
スルホンアミノ:−NRS(=O)R[Rは、アミノ基について定義のアミノ置換基であり、Rはスルホンアミノ置換基、例えばC1−7アルキル基、C3−20複素環基またはC5−20アリール基、好ましくはC1−7アルキル基である]。スルホンアミノ基の例には、−NHS(=O)CHおよび−N(CH)S(=O)などがあるが、それらに限定されるものではない。特殊な種類のスルホンアミノ基は、スルタム類から誘導されるものであり、それらの基において、RおよびRのうちの一方がC5−20アリール基、好ましくはフェニルであり、RおよびRのうちの他方がC1−7アルキル基から誘導される二座基などのC5−20アリール基に連結している二座基である。そのような基の例には、下記のものなどがあるが、それらに限定されるものではない:
【化9】


【化10】


【化11】

【0139】
ホスホルアミダイト:−OP(OR)−NR[RおよびRはホスホルアミダイト置換基、例えば、−H、(置換されていてもよい)C1−7アルキル基、C3−20複素環基またはC5−20アリール基、好ましくは−H、C1−7アルキル基またはC5−20アリール基である]。ホスホルアミダイト基の例には、−OP(OCHCH)−N(CH、−OP(OCHCH)−N(i−Pr)および−OP(OCHCHCN)−N(i−Pr)などがあるが、それらに限定されるものではない。
【0140】
ホスホルアミデート:−OP(=O)(OR)−NR[RおよびRはホスホルアミデート置換基、例えば、−H、(置換されていてもよい)C1−7アルキル基、C3−20複素環基またはC5−20アリール基、好ましくは−H、C1−7アルキル基またはC5−20アリール基である]。ホスホルアミデート基の例には、−OP(=O)(OCHCH)−N(CH、−OP(=O)(OCHCH)−N(i−Pr)および−OP(=O)(OCHCHCN)−N(i−Pr)などがあるが、それらに限定されるものではない。
【0141】
1−5アルキレン:本明細書で使用される「C1−5アルキレン」という用語は、飽和、部分不飽和または完全不飽和であることができる、1〜5個の炭素原子を有する(別段の断りがない限り)脂肪族直鎖炭化水素化合物の2個の水素原子を、同一炭素原子から2つ、または2つの異なる炭素原子のそれぞれから脱離させることで得られる二座部分に関するものである。そこで、「アルキレン」という用語は、下位分類である下記で記載のアルケニレン、アルキニレンなどを含むものである。
【0142】
飽和C1−5アルキレン基の例には、−(CH)n−(nは1〜5の整数である)、例えば−CH−(メチレン)、−CHCH−(エチレン)、−CHCHCH−(プロピレン)および−CHCHCHCH−(ブチレン)などがあるが、それらに限定されるものではない。
【0143】
部分不飽和C1−5アルキレン基の例には、−CH=CH−(ビニレン)、−CH=CH−CH−、−CH−CH=CH−、−CH=CH−CH−CH−、−CH=CH−CH−CH−CH−、−CH=CH−CH=CH−および−CH=CH−CH=CH−CH−などがあるが、これらに限定されるものではない。
【0144】
上記で挙げた置換基は、アルキレン基上の置換基であることができる。
【0145】
多くの場合で、置換基自体が置換されていてもよい。例えばC1−7アルコキシ基は、例えばC1−7アルキル(C1−7アルキル−C1−7アルコキシ基とも称される)、例えばシクロヘキシルメトキシ、C3−20複素環基(C5−20アリール−C1−7アルコキシ基とも称される)、例えばフタルイミドエトキシまたはC5−20アリール基(C5−20アリール−C1−7アルコキシ基とも称される)、例えばベンジルオキシで置換されていてもよい。
【0146】
これら置換基の周知のイオン形態、塩、溶媒和物および保護形態が上記に含まれる。例えば、カルボン酸(−COOH)に言及する場合は、そのアニオン(カルボン酸イオン)型(−COO)、塩または溶媒和物、ならびに従来の保護形態も含むものである。同様に、アミノ基に言及する場合、そのアミノ基のプロトン化形態(−NHR)、塩または溶媒和物、例えば塩酸塩、ならびにアミノ基の従来の保護形態を含むものである。同様に、水酸基に言及する場合、そのアニオン型(−O)、塩または溶媒和物、ならびに水酸基の従来の保護形態も含むものである。
【0147】
ある種の化合物は、1種以上の特定の幾何異性体、光学異性体、鏡像異性体、ジアステレオ異性体、エピマー、立体異性体、互変異性体、配座異性体、およびアノマーの形態で存在することができ、そのようなものとしては、限定はされないが、シス−およびトランス−形;E−およびZ−形;c−、t−、およびr−形;エンドおよびエキソ形;R−、S−、およびメソ−形;D−およびL−形;d−およびl−形;(+)および(−)形;ケト−、エノール−、およびエノラート−形;シン−およびアンチ−形;シンクリナル−およびアンチクリナル−形;α−およびβ−形;アキシャルおよびエカトリアル形;舟形、いす形、ねじれ形、封筒形、半いす形;ならびにこれらの組み合わせが含まれ、以後これらを総称して「異性体」(または「異性体形態」)と呼ぶ。
【0148】
留意すべき点として、互変異性体について下記で述べることを除いて、本明細書で用いている「異性体」という用語からは構造的(または構成的)異性体(すなわち、原子の空間的位置のみが異なっているのではなく、原子間の結合状態が異なっている異性体)は特に除外される。例えば、メトキシ基−OCHについて述べる場合、その構造異性体であるヒドロキシメチル基−CHOHはその意味の中に含まれない。同様に、オルトクロロフェニルについて述べる場合にはその構造異性体であるメタクロロフェニルはその意味の中に含まれない。しかしある種類の構造について述べる場合、その種類に分類される構造異性体を含めることはできる(例えば、C1−7アルキルにはn−プロピルおよびイソプロピルが含まれ;ブチルにはn−、イソ−、sec−、およびtert−ブチルが含まれ;メトキシフェニルにはオルト−、メタ−、およびパラ−メトキシフェニルが含まれる)。
【0149】
上記の除外には、例えば、下記の互変異性体のペア:ケト/エノール(下記に図示している)、イミン/エナミン、アミド/イミノアルコール、アミジン/アミジン、ニトロソ/オキシム、チオケトン/エネチオール、N−ニトロソ/ヒドロキシアゾ、およびニトロ/アシ−ニトロなどにおけるような、例えば、ケト形、エノール形、およびエノラート形などの互変異体は関係しない。
【化12】

【0150】
留意すべき点として、「異性体」という用語には1個以上の同位体置換を含んでいる化合物が特に含まれている。例えば、Hはどのような同位体の形態でもよく、そのようなものとしてはH、H(D)および H(T)が含まれ;Cはどのような同位体の形態でもよく、そのようなものとしては12C、13Cおよび14Cが含まれ;Oはどのような同位体の形態でもよく、そのようなものとしては16Oおよび18Oが含まれ;ならびにその他類似のものが含まれる。
【0151】
別段の断りがない限り、特定の化合物に関して述べたことはそのような異性体の全てを含んだ言及であり、そのような異性体としてはラセミ体およびその他のそれらの混合物を(全体として、または部分として)含んでいる。そのような異性体形態の製造(例えば、不斉合成)および分離(例えば、分別結晶およびクロマトグラフィー手段)の方法は当業界で既知であるか、または本明細書に記載のもしくは既知の方法を既知の様式で適用することによって容易に得ることができる。
【0152】
別段の断りがない限り、ある特定の化合物についての言及は、例えば下記のような、その化合物のイオン、塩、溶媒和物、および保護された形態のものを含んだ言及である。
【0153】
活性化合物の対応する塩、たとえば製薬上許容される塩を調製、精製および/または取り扱うことが好都合または望ましい場合がある。製薬上許容される塩の例については、バージらの著作(Berge et al., 1977, 「Pharmaceutically Acceptable Salts」, J. Pharm. Sci., Vol. 66, pp. 1-19)に述べられている。
【0154】
例えば、その化合物が陰イオン性である場合、または陰イオン性となりうる官能基(例えば、−COOHは−COOとなり得る)を有している場合、適切な陽イオンと塩を形成することができる。適切な無機陽イオンの例としては、NaおよびKなどのアルカリ金属イオン、Ca2+およびMg2+などのアルカリ土類の陽イオン、ならびにAl3+などのその他の陽イオンが挙げられるが、これらに限定されるものではない。適切な有機陽イオンの例としては、アンモニウムイオン(すなわち、NH)および置換されたアンモニウムイオン(例えば、NH、NH2+、NHR、NR)が挙げられるが、これらに限定されるものではない。いくつかの適切な置換されたアンモニウムイオンの例としては次のものに由来するものが挙げられる:エチルアミン、ジエチルアミン、ジシクロヘキシルアミン、トリエチルアミン、ブチルアミン、エチレンジアミン、エタノールアミン、ジエタノールアミン、ピペラジン、ベンジルアミン、フェニルベンジルアミン、コリン、メグルミン、およびトロメタミン、ならびに、リシンやアルギニンなどのアミノ酸。一般的な4級アンモニウムイオンの例はN(CHである。
【0155】
化合物が陽イオン性、または陽イオンとなりうる官能基(例えば、−NHは−NHとなり得る)を有している場合には、適切な陰イオンと塩を形成させることができる。適切な無機陰イオンとしては、塩酸、臭化水素酸、ヨウ化水素酸、硫酸、亜硫酸、硝酸、亜硝酸、リン酸、およびホスホン酸などの無機酸由来のものが挙げられるが、これらに限定されるものではない。適切な有機陰イオンとしては、酢酸、プロピオン酸、コハク酸、グリコール酸、ステアリン酸、パルミチン酸、乳酸、リンゴ酸、パモ酸、酒石酸、クエン酸、グルコン酸、アスコルビン酸、マレイン酸、ヒドロキシマレイン酸、フェニル酢酸、グルタミン酸、アスパラギン酸、安息香酸、ケイ皮酸、ピルビン酸、サリチル酸、スルファニル酸、2−アセトキシ安息香酸、フマル酸、フェニルスルホン酸、トルエンスルホン酸、メタンスルホン酸、エタンスルホン酸、エタンジスルホン酸、シュウ酸、パントテン酸、イセチオン酸、吉草酸、ラクトビオン酸およびグルコン酸などの有機酸由来のものが挙げられるが、これらに限定されるものではない。適切なポリマー性陰イオンとしては、タンニン酸、カルボキシメチルセルロースのようなポリマー性の酸由来のものが挙げられるが、これらに限定されるものではない。
【0156】
活性化合物の対応する溶媒和物を製造し、精製し、および/または取り扱うことが好都合または望ましいことがある。本明細書では「溶媒和物」という用語は、従来通り、溶質(例えば、活性化合物、活性化合物の塩)と溶媒との複合体を意味するために用いられる。溶媒が水である場合は、溶質は、水和物、例えば、一水和物、二水和物、三水和物、などの水和物を意味するものであることが好都合であり得る。
【0157】
活性化合物の化学的に保護された形態のものを製造し、精製し、および/または取り扱うことが好都合または望ましいことがある。本明細書で用いている「化学的に保護された形態」という用語は、1以上の反応性官能基が望ましくない化学反応から保護されている化合物、すなわち、保護された形態または保護基を有する形態の化合物を意味する(マスクされた、もしくはマスク基を有する形態、または、ブロックされた、もしくはブロック基を有する形態とも称される)。反応性の官能基を保護することによって他の保護されていない反応性官能基の関与する反応を保護基に影響を与えることなく行うことができる:その保護基は、通常はその後のステップで、その分子の残りの部分に実質的な影響を与えることなく脱離される。例えばグリーンらの著作(Protective Groups in Organic Synthesis (T. Green and P. Wuts, Wiley, 1999))を参照する。
【0158】
例えば、ヒドロキシル基はエーテル(−OR)またはエステル(−OC(=O)R)で保護することができ、例えば:t−ブチルエーテル;ベンジル、ベンズヒドリル(ジフェニルメチル)、もしくはトリチル(トリフェニルメチル)エーテル;トリメチルシリルもしくはt−ブチルジメチルシリルエーテル;またはアセチルエステル(−OC(=O)CH、−OAc)などのように保護することができる。
【0159】
例えば、アルデヒド基またはケトン基はそれぞれアセタールまたはケタールとして保護することができ、その際、カルボニル基(>C=O)は、例えば1級アルコールと反応させることによってジエーテル(>C(OR))に変換されている。このようなアルデヒド基またはケトン基は酸の存在下で大過剰の水を用いて加水分解させることによって容易に再生される。
【0160】
例えば、アミン基は、例えば、アミドまたはウレタンとして保護することができ、例えば:メチルアミド(−NHCO−CH);ベンジルオキシアミド(−NHCO−OCH、−NH−Cbz);t−ブトキシアミド(−NHCO−OC(CH、−NH−Boc);2−ビフェニル−2−プロポキシアミド(−NHCO−OC(CH、−NH−Bpoc);9−フルオレニルメトキシアミド(−NH−Fmoc);6−ニトロベラトリルオキシアミド(−NH−Nvoc);2−トリメチルシリルエチルオキシアミド(−NH−Teoc);2,2,2−トリクロロエチルオキシアミド(−NH−Troc);アリルオキシアミド(−NH−Alloc);2(−フェニルスルホニル)エチルオキシアミド(−NH−Psec);または、適切である場合には、N−オキシド(>NO$)などのように保護することができる。
【0161】
例えば、カルボン酸基はエステルとして保護することができ、例えば:C1−7アルキルエステル(例えば、メチルエステル;t−ブチルエステル);C1−7ハロアルキルエステル(例えば、C1−7トリハロアルキルエステル);トリC1−7アルキルシリル−C1−7アルキルエステル;またはC5−20アリール−C1−7アルキルエステル(例えば、ベンジルエステル;ニトロベンジルエステル);またはアミド、例えばメチルアミドなどのように保護することができる。
【0162】
例えば、チオール基はチオエーテル(−SR)として保護することができ、例えば:ベンジルチオエーテル;アセタミドメチルエーテル(−S−CHNHC(=O)CH)などのように保護することができる。
【0163】
活性化合物のプロドラッグの形態のものを製造し、精製し、および/または取り扱うことが好都合または望ましいことがある。本明細書で用いている「プロドラッグ」という用語は、代謝されたときに(例えば、イン・ビボで)所望の活性化合物をもたらす化合物を意味する。代表的には、そのプロドラッグは不活性、または活性化合物よりも活性が低いが、取り扱い、投与、または代謝における性質の点で有利なものでありうる。
【0164】
例えば、プロドラッグのいくつかのものは活性化合物のエステル(例えば、生理的に許容される代謝系で不安定なエステル)である。代謝の際にそのエステル基(−C(=O)OR)は切断されて活性な薬物を与える。そのようなエステルは、例えば、親化合物中のカルボン酸基(−C(=O)OH)のいずれかを、適切である場合には、親化合物中に存在する他の反応性基を全て保護した後にエステル化し、続いて必要に応じて脱保護することにより作ることができる。そのような代謝系で不安定なエステルの例としては、RがC1−7アルキル(例えば、−Me、−Et);C1−7アミノアルキル(例えば、アミノエチル;2−(N,N−ジエチルアミノ)エチル;2−(4−モルホリノ)エチル);およびアシルオキシ−C1−7アルキル(例えば、アシルオキシメチル;アシルオキシエチル;例えば、ピバロイルオキシメチル;アセトキシメチル;1−アセトキシエチル;1−(1−メトキシ−1−メチル)エチル−カルボニルオキシエチル;1−(ベンゾイルオキシ)エチル;イソプロポキシ−カルボニルオキシメチル;1−イソプロポキシ−カルボニルオキシエチル;シクロヘキシル−カルボニルオキシメチル;1−シクロヘキシル−カルボニルオキシエチル;シクロヘキシルオキシ−カルボニルオキシメチル;1−シクロヘキシルオキシ−カルボニルオキシエチル;(4−テトラヒドロピラニルオキシ)カルボニルオキシメチル;1−(4−テトラヒドロピラニルオキシ)カルボニルオキシエチル;(4−テトラヒドロピラニル)カルボニルオキシメチル;および1−(4−テトラヒドロピラニル)カルボニルオキシエチル)が挙げられる。
【0165】
また、プロドラッグのいくつかは酵素によって活性化されて、活性化合物または、さらに化学反応を経ることによって活性化合物を与える化合物が得られる。例えば、そのようなプロドラッグは糖誘導体もしくはその他のグリコシド複合体とすることができるか、またはアミノ酸エステル誘導体とすることができる。
【0166】
好ましいDNA−PKcs阻害薬には、8−アリール−2−モルホリン−4−イル−1−ベンゾピラン−4−オン(WO2006/032869)、8−アリール−2−モルホリン−4−イル−1H−キノリン−4−オン、9−アリール−2−モルホリン−4−イル−9H−ピリド[1,2−a]ピリミジン−4−オン、9−アリール−2−モルホリン−4−イル−キノリジン−4−オンまたは5−アリール−3−モルホリン−4−イル−2−ベンゾピラン−1−オン(いずれもUS60/671830、WO2006/001379およびWO2006/001369)などがあり、そのアリール基は、実際にはジベンゾチオフェニル、ジベンゾフラノイルと記載されている。
【0167】
一部の好ましい実施形態では、2−(4−エチル−ピペラジン−1−イル)−N−[4−(2−モルホリン−4−イル−4−オキソ−4H−1−ベンゾピラン−8−イル)−ジベンゾチオフェン−1−イル]−アセトアミド(KU−0060648:WO2006/032869:式V)がDNA−PKcs阻害薬として用いられる。
【化13】

【0168】
好適なDNA−PKcs阻害薬の別の種類としては、DNA−PKcsのペプチド断片が挙げられる。ペプチド断片は、上記成分の公開されている配列を用いて、化学合成によりその全体をまたは一部を生成することができる。ペプチド断片は、その方法の概要が広く入手可能である(例えば、J.M. Stewart and J.D. Young, Solid Phase Peptide Synthesis, 2nd edition, Pierce Chemical Company, Rockford, Illinois (1984);M. Bodanzsky and A. Bodanzsky, The Practice of Peptide Synthesis, Springer Verlag, New York (1984);およびApplied Biosystems 430A Users Manual, ABI Inc., Foster City, California参照)十分に確立されている標準的な液体ペプチド合成法(または好ましくは固相ペプチド合成法)に従って容易に製造することができ、あるいは溶液中で、液相法により、または固相、液相および液体化学の任意の組み合わせにより、例えば最初に別々のペプチド部分を合成し、続いて所望または適当であれば、存在する保護基を脱離させ、個々の炭酸もしくはスルホン酸またはそのそれぞれの誘導体の反応によって残基Xを導入することによって、製造することも可能である。
【0169】
DNA−PKcsを阻害するための他の化合物は、DNA−PKcsの3次元構造のモデル化に基づいて、合理的薬物設計法を用いることによって、特定の分子形状、サイズおよび電荷特性を有する候補化合物が得られる。候補阻害剤は、例えば、上記成分を阻害するペプチド断片または他の化合物の「機能的類縁体」でありうる。機能的類縁体は、対象のペプチドまたは他の化合物と同じ機能的活性を有する、すなわち、DNA修復経路成分の相互作用または活性を妨害可能なものである。そのような類縁体の例としては、上記成分の別の成分との接触領域(特に重要と考えられるアミノ酸残基の配置)の3次元構造と類似するようにモデル化された化合物が挙げられる。
【0170】
好適なDNA−PKcs阻害剤の別の種類としては、DNA−PKcsのアミノ酸配列の一部もしくは全体をコードする核酸、または活性DNA−PKcsポリペプチドの産生を下方制御することにより活性または機能を阻害するその補足配列が挙げられる。例えば、DNA−PKcsの発現は、アンチセンス技術またはRNAi技術を用いて阻害することができる。現在では、遺伝子発現を下方制御するためのこれらの手法の使用は当該分野で十分に確立されている。
【0171】
アンチセンスオリゴヌクレオチドは、核酸、プレ−mRNAまたは成熟mRNAの相補配列にハイブリダイズして塩基除去修復経路成分の産生を妨害して、その発現が低減するかまたは完全にもしくは実質的に完全に抑止されるように設計される。コード配列の標的化に加えて、アンチセンス技術は、例えば5'フランキング配列内の、遺伝子の制御配列を標的化するために用いてもよく、それによりアンチセンスオリゴヌクレオチドは発現制御配列を妨害しうる。アンチセンス配列の構築とそれらの使用は、例えばペイマンらの報告(Peyman and Ulman, Chemical Reviews, 90:543-584, (1990))およびクルックの報告(Crooke, Ann. Rev. Pharmacol. Toxicol. 32:329-376, (1992))に記載されている。
【0172】
オリゴヌクレオチドは、投与のためにイン・ビトロで生成してもよいしまたはエクス・ビボで生成してもよく、あるいはアンチセンスRNAの下方制御が望まれる細胞内でイン・ビボで生成させてもよい。従って、二本鎖DNAは、DNAのアンチセンス鎖の転写によって、標的遺伝子のセンス鎖から転写される正常mRNAに対して相補的なRNAが生じるように、プロモーターの制御下に「逆配向」で配置することができる。
【0173】
逆配向のコード配列に対応する完全な配列を用いる必要はない。例えば、十分な長さの断片を用いることができる。当業者には、アンチセンス阻害のレベルを最適化するように、種々のサイズの断片を遺伝子のコード配列またはフランキング配列の種々の部分からスクリーニングすることが慣用的である。開始メチオニンコドンATGと、おそらくは開始コドン上流の1以上のヌクレオチドとを含有させることが有利な場合がある。好適な断片は、約14〜23ヌクレオチド、例えば約15、16または17ヌクレオチドを有しうる。
【0174】
アンチセンス法の代替法として、センス(すなわち標的遺伝子と同じ)配向に挿入された標的遺伝子の全体または一部のコピーを用いて、共抑制により標的遺伝子の発現を低減させることができる(Angell & Baulcombe (1997) The EMBO Journal 16,12:3675-3684; およびVoinnet & Baulcombe (1997) Nature 389: p 553)。二本鎖RNA(dsRNA)は、センスまたはアンチセンス鎖単独のいずれよりも遺伝子サイレンシングにおいてさらに有効であることが見出されている(Fire A. et al Nature 391, (1998))。dsRNAにより媒介されるサイレンシングは、遺伝子特異的であり、RNA干渉(RNAi)と呼ばれることが多い。RNA干渉は、2段階のプロセスである。第1に、dsRNAが細胞内で切断されて、5’末端リン酸と3’の短い突出部(約2塩基)とを有する約21〜23塩基長の短い干渉RNA(siRNA)が生じる。そのsiRNAは、特異的に破壊するための対応のmRNA配列を標的とする(Zamore P.D. Nature Structural Biology, 8, 9, 746-750, (2001))。RNAiはまた、3’突出末端を有する同じ構造の化学合成されたsiRNA二本鎖を用いることによって効率的に誘導されうる(Zamore PD et al Cell, 101, 25-33, (2000))。合成siRNA二本鎖は、広範な哺乳動物細胞系における内因性および異種遺伝子の発現を特異的に抑制することが示されている(Elbashir SM. et al. Nature, 411, 494-498, (2001))。
【0175】
別の可能性として、転写時に、核酸を特異的部位で切断し、それゆえ遺伝子発現に影響を及ぼすのにも有効なリボザイムを生成する核酸を用いることがある。リボザイムの技術背景の参考文献がある(Kashani-Sabet and Scanlon, 1995, Cancer Gene Therapy, 2(3): 213-223、およびMercola and Cohen, 1995, Cancer Gene Therapy, 2(1), 47-59)。
【0176】
DNA損傷化学療法剤は好ましくは、細胞DNAにおいてDNA DSBを誘発する化合物である。癌の治療における使用に好適な多くの化合物が、当業界において知られており、それには例えば、ブレオマイシンおよびのトポイソメラーゼIおよびII活性の阻害薬、例えばドキソルビシン、エトポシドおよびテカン(tecan)類の構成員、例えばイリノテカン、トポテカン、ルビテカンなどがある。例えばゲムシタビンのようなDNA合成の障害によって、例えばテモゾロマイドおよびDTIC(ダカルバジン)のようなDNAのアルキル化によって、または例えばシスプラチン、オキサリプラチンおよびカルボプラチンのような白金剤などの嵩高い付加物の導入によって、DNSを間接的に誘発する化合物も用いることができる。他の好適な化学療法剤には、ヨンデリスなどがある。これら化合物の誘導体もしくは塩または組み合わせも用いることができる。
【0177】
本発明に従ってDNA損傷化学療法剤として用いることができる化合物の好適な組み合わせを、表8に示してある。
【0178】
一部の好ましい実施形態では、エトポシドまたはドキソルビシンを用いることができる。
【0179】
好ましくは、DNA損傷化学療法剤は、DNA−PKcs阻害薬の非存在下で、正常細胞に対して致死的でない用量および製剤で用いる。DNA損傷化学療法剤に好適な用量および投与法は、医師には周知である。
【0180】
癌細胞においてDNA損傷を誘発する上での放射線の使用は当業界で周知であり、いずれか好適な技術を用いて、本明細書に記載のATM欠損表現型を有する癌細胞に照射することができる。
【0181】
放射線治療には、X線、γ線および電子などの外照射療法などがある。好適な投与法には、適宜に加速分割および超分割を含む分割緩和法および分割治療法ならびに全ての幾何形態、従来の、3D、3D共形、IMRT(強度変調放射線療法)、4Dおよび適応放射線療法などがある(Bucci MK et al [2005] CA Cancer J Clin 55; 117-134, Haustermans et al (2004) Rays 29(3):231-6)。
【0182】
放射線療法には、近接照射療法の一部として外科的に移植された放射性シードもしくはワイヤーなどの局所/標的化療法(Dale at al [1998] B J Radiol 71; 465-483);イブリツモマブ(ゼバリン)のような、モノクローナル抗体などの免疫分子に放射能放出剤が連結されている放射免疫療法(Blum KA, Bartlett NL [2004] Expert Opin Biol Ther. 4(8):1323-31;および例えばSIR−スフィアーズ(SIR-Spheres;登録商標)など、注射によって送達される放射性ミクロスフィアなどの非免疫学的ターゲティング(Ho S et al (2001) Journal of Nuclear Medicine 42(10):1587-1589)などがある。非免疫学的ターゲティングは、標的ペプチド受容体療法で行うこともできる。例えば、放射性標識ソマトスタチン類似体(111In−オクトレオチド、90Y−オクトレオテル(OctreoTher;商標名)、177Lu−オクトレオテート)またはボンベシンおよびNPY(y)類似体などの他のペプチドリガンド(Krenning et al [2004] Ann NY Acad Sci. 1014(2): 234-245)。
【0183】
本発明の方法は、個体にDNA−PKcs阻害薬を投与するステップを含むことができる。投与は、DNA損傷化学療法剤の投与または放射線療法と同時または順次に行うことができる。一部の実施形態において、これは個体がATM欠損表現型を有する癌状態を有するものと確認されてから行う。
【0184】
イン・ビボ投与は1回の投与で、持続的投与で、または治療経過を通じて間欠的に(例えば、適切な間隔をおいて分割した投与量で)行うことができる。最も効果的な投与方法と用量を決定する方法は当業者には周知であり、治療に用いる製剤、治療の目的、治療しようとする標的の細胞、および治療しようとする被験者によって変わるものである。単回または複数回の投与は治療担当医師によって選択された用量および投与パターンで行うことができる。
【0185】
通常は、活性化合物の適切な用量は、被験者の体重1kgたり1日に約100μg〜約250mgの範囲である。活性化合物が塩、エステル、プロドラッグなどである場合には、用量は親化合物の量に基づいて計算され、用いられる実際の重量はそれに応じて増加する。
【0186】
活性化合物を単独で投与することは可能ではあるが、その化合物を、少なくとも1種の、上記で定義の活性化合物の少なくとも1種を、1種以上の製薬上許容される担体、アジュバント、賦形剤、希釈剤、充填剤、緩衝剤、安定化剤、保存剤、滑沢剤その他の当業者に周知の材料、および適宜に他の治療用または予防用薬剤とともに含んでなる医薬組成物(例えば、製剤)として提供することが好ましい。
【0187】
DNA−PKcs阻害薬、例えば本明細書に記載の1種以上の製薬上許容される担体、賦形剤、緩衝剤、アジュバント、安定化剤その他の材料と混合した阻害薬を含む医薬組成物を、本明細書に記載に方法で用いることができる。
【0188】
本明細書で用いられる「製薬上許容される」という用語は、化合物、材料、組成物および/または剤形であって、妥当な医学的判断で認めうる範囲内にあり、過度の毒性、刺激、アレルギー反応その他の問題もしくは合併症をもたらさずに被験者(例えばヒト)の組織と接触させて使用することに適しており、妥当な利益/危険性比を示すものであることを意味する。担体、賦形剤などの各々はまた、製剤中の他の成分と適合し得るという意味でも「許容される」ものでなければならない。
【0189】
適切な担体、賦形剤などについては、標準的な製薬の教科書、例えば、レミングトンの著作(Remington’s Pharmaceutical Sciences, 18th edition, Mack Publishing Company, Easton, Pa., 1990)中に記載されている。
【0190】
前記製剤は単位剤形で簡便に提供することができ、製薬業界で周知のいずれかの方法によって製造することができる。そのような方法は、活性化合物を1種以上の補助成分からなる担体と組み合わせるステップを含む。一般的には、その製剤は、活性化合物を液状担体もしくは微粉砕固体担体、またはその両方と均一に十分に混和させ、次いで必要に応じて取得物を成形することによって製造される。
【0191】
製剤は、液体、溶液、懸濁液、乳剤、エリキシル、シロップ、錠剤、ロゼンジ、粒剤、粉剤、カプセル、カシェ剤、丸剤、アンプル剤、坐剤、ペッサリー、軟膏、ゲル、ペースト、クリーム、噴霧剤、ミスト、泡剤、ローション、オイル、ボーラス剤、舐剤またはエアロゾルの形態とすることができる。
【0192】
阻害薬またはその阻害薬を含む医薬組成物は、経口(例えば、摂取によって);局所(例えば、経皮、経鼻、眼球、口腔および舌下など);肺(例えば、エアロゾルなどを用いたり、口や鼻からの、吸引または吸入療法によって);直腸;膣;非経口、例えば注射(皮下、皮内、筋肉、静脈、動脈、心臓内、くも膜下、髄腔内、嚢内、被膜下、眼窩内、腹腔内、気管内、表皮下、関節内、くも膜下および胸骨内など)、デポーの移植(例えば、皮下または筋肉)によって(これらに限定されるものではない)、全身投与であるか末梢投与であるかを問わずいずれか簡便な投与経路によって、または所望の作用部位で、被験者に投与することができる。
【0193】
経口投与(例えば摂取によって)に適した製剤は、個別の単位として提供することができ、それは例えば、カプセル、カシェ剤もしくは錠剤で、各々があらかじめ定められた量の活性化合物を含有しているもの;粉剤または粒剤;水系もしくは非水系液体中の溶液もしくは懸濁液;または水中油型乳濁剤もしくは油中水型乳濁剤;ボーラス剤;舐剤;またはペーストなどである。
【0194】
錠剤は、例えば圧縮または成形などの従来法で適宜に1種以上の補助成分と共に製造することができる。圧縮錠剤は、適切な機械中で、粉末や顆粒などの易流動形態の活性化合物を、適宜に1種以上の結合剤(例えば、ポビドン、ゼラチン、アラビアゴム、ソルビトール、トラガカント、ヒドロキシプロピルメチルセルロース);充填剤もしくは希釈剤(例えば、乳糖、微結晶性セルロース、リン酸水素カルシウム);滑沢剤(例えば、ステアリン酸マグネシウム、タルク、シリカ);崩壊剤(例えば、グリコール酸ナトリウムデンプン、架橋ポビドン、架橋カルボキシメチルセルロースナトリウム);界面活性剤または分散剤または湿潤剤(例えば、ラウリル硫酸ナトリウム);および保存剤(例えば、p−ヒドロキシ安息香酸メチル、p−ヒドロキシ安息香酸プロピル、ソルビン酸)と混合して圧縮することによって製造することができる。成形錠剤は、不活性の液状希釈剤で濡らした粉末化合物の混合物を適切な機械中で成形することによって製造することができる。錠剤は適宜にコーティングまたは切れ目を入れることができ、また、錠剤に含まれる活性化合物の遅延性もしくは徐放性放出が行われるように、例えば、所望の放出プロファイルを得るためにヒドロキシプロピルメチルセルロースを様々な割合で用いることによって製剤化することができる。錠剤は適宜に腸溶性コーティングを施したものとすることができ、胃ではなく腸の一部で放出するようにすることができる。
【0195】
非経口投与(例えば、皮膚、皮下、筋肉、静脈および皮内などの注射)に適した製剤としては、酸化防止剤、緩衝剤、保存剤、安定剤、静菌剤および製剤を、対象の被投与者の血液と等張とする溶質などを含んでもよい水系または非水系で等張の発熱物質を含まない無菌注射液;ならびに懸濁剤および増粘剤を含んでいてもよい水系および非水系無菌懸濁液;ならびに前記化合物が血液成分もしくは1つ以上の臓器を標的とするよう設計されたリポソームその他の微粒子系が挙げられる。このような製剤に用いられる適切な等張の媒体の例としては、塩化ナトリウム注射液、リンゲル液または乳酸加リンゲル注射液が挙げられる。代表的に、その液体中の活性化合物の濃度は、約1ng/mL〜約10μg/mL、例えば約10ng/mL〜約1μg/mLである。製剤は単位用量または多回用量の密封容器、例えばアンプルおよびバイアルに入れた形で提供することができ、無菌の液状担体、例えば注射用水を使用直前に添加することのみを必要とする凍結乾燥された条件で保存することができる。即時使用注射用液および懸濁液を、無菌の粉末、顆粒および錠剤から調製することができる。製剤はリポソームまたはその他の微粒子系の形態とすることができ、それらは活性化合物が血液成分もしくは1つ以上の器官を標的とするよう設計されている。
【0196】
活性化合物および活性化合物を含んでいる組成物の適切な用量は、患者ごとに異なったものとなり得る。最適な用量の決定は、通常は治療上の有益性のレベルと、治療のあらゆるリスク又は有害な副作用とのバランスを取ることを必要とする。選択された用量のレベルは、特定の化合物の活性、投与経路、投与時間、化合物の排泄速度、治療期間、併用される他の薬剤、化合物および/または物質、ならびに患者の年齢、性別、体重、状態、全身の健康状態および病歴など(これらに限定されるものではない)の各種要素によって決まる。一般的には用量は作用部位で所望の効果をかなり有害な副作用を起こすことなく達成できるような局所濃度を得るようなものであるが、化合物の量と投与経路は最終的には医師の裁量で決定される。
【0197】
本明細書に記載の方法は、癌療法に対する癌状態の感受性を求める上でも有用である。例えば、個体から得られた癌細胞がATM欠損表現型を有するものと確認されたら、それは、DNA−PKcs阻害薬およびDNA損傷化学療法剤または放射線の組み合わせでの治療に対して感受性である癌状態をその個体が有することを示し得るものである。癌細胞がATM欠損表現型を有するか否かを決定する技術については、上記で詳細に説明している。
【0198】
個体から得られる癌細胞は、その個体からすでに単離また除去された生検試料または検体内に含まれている可能性がある。
【0199】
本発明の各種のさらなる態様および実施形態は、本明細書の開示を見れば、当業者には明らかであろう。本明細書で言及されている文書はいずれも、参照によってその全体が本明細書に組み込まれるものとする。
【0200】
本発明は、上記の特徴のそれぞれおよび全ての組み合わせおよび一部の組み合わせを包含する。
【実施例】
【0201】
本発明のある種の態様および実施形態について、上記の図面および下記の表を参照しながら、実施例によって説明する。
【0202】
表1は、化学的増強を示すのに用いられるエトポシドおよびドキソルビシンの用量を示す。
【0203】
表2は、pEBS7(ATM−ヌル)細胞に対するDNA−PKcs阻害薬KU−0060648と併用したエトポシドの効果を示す。
【0204】
表3は、pEBS7−YZ(ATM+/+細胞)に対するDNA−PKcs阻害薬KU−0060648と併用したエトポシドの効果を示す。
【0205】
表4は、pEBS7(ATM−ヌル細胞)に対するDNA−PKcs阻害薬KU−0060648と併用したドキソルビシンの効果を示す。
【0206】
表5は、pEBS7−YZ(ATM+/+細胞)に対するDNA−PKcs阻害薬KU−0060648と併用したドキソルビシンの効果を示す。
【0207】
表6は、ATM−ヌル(pEBS7)およびATM+/+(pEBS7−YZ)細胞の生存%に対するDNA−PKcs阻害薬KU−0060648と併用した電離放射線の効果を示す。
【0208】
表7は、ATM−ヌル(pEBS7)およびATM+/+(pEBS7−YZ)細胞に対するDNA−PKcs阻害薬KU−0060648と併用した化学療法および電離放射線の増強を示す。
【0209】
表8は、療法で使用可能な1以上のDNA損傷化学療法剤の組み合わせを示す。
【0210】
表9は、血管拡張性失調症がない癌患者において知られているATM機能に対して有害なATM配列での変異(2004年5月27日改訂の血管拡張性失調症突然変異データベースから)を示す。
【0211】
材料および方法
細胞系
A−T線維芽細胞AT221JE−T細胞(pEBS7、本明細書においてはATM−ヌル細胞と称する)およびトランス補完ATM+/+(pEBS7−YZ5、本明細書においてATM補完細胞と称する)をDMEM+20%FBS PSGおよび100μg/mLハイグロマイシン中で増殖させた。これらの細胞は、全長ATMおよびハイグロマイシン抵抗性マーカーをコードするpEBS7−YZ5ベクターまたはハイグロマイシン抵抗性マーカーのみをコードするpEBS7ベクターでトランスフェクションしたA−T患者からの不死化線維芽細胞である(Ziv Y et al (1997) Oncogene 15, 159-67)。
【0212】
化学的増強を示すため、96ウェルアッセイプレートで、容量90μLで細胞2×10個/mLの密度にて細胞を平板培養した。4時間インキュベートして細胞を付着させた後、DNA−PKcs阻害薬KU−0060648(最終濃度0.5μM)5μLまたはDMSO/PBSの同等物を加えた。さらに1時間インキュベーションした後、ウェル当たり化学療法薬5μLを加えた(表1参照)。16時間後に薬剤を除去し、ウェル当たり150μLの新鮮な培地を加えた。24時間後、各細胞系について1プレートを固定および染色して、細胞系間のバックグラウンドの差を確認した。接種から5日後、培地を残りのアッセイプレートのウェルから吸引によって取り、氷冷10%TCA100μLを加えて4℃で30分間経過させた。次いでウェルを水道水で4回洗浄し、ウェル当たり0.4%スルホローダミンBの1%酢酸溶液50μLを加えた。室温で15分間インキュベートした後、過剰の染色液を1%酢酸でウェルから洗い落とした。ウェル当たり10mMTris(pH6.8)100μLを加え、プレートを振盪して染色液を懸濁させ、564nmでの吸光度を測定した。
【0213】
放射能増強を示すため、ウェル当たり細胞2×10個を、6ウェルクラスタープレートに接種した。各放射線量について1枚のプレートを用いた。細胞を4時間付着させた後、細胞に、最終濃度0.5μMのDNA−PKcs阻害薬KU−0060648または同等のDMSO/PBS対照を与えた。さらに1時間インキュベートした後、細胞に0、0.5、1、2および4グレイの放射線照射を行った。16時間のインキュベーション後、細胞をPBS 1mLで洗浄し、トリプシンEDTA500μLを加えて37℃で5分間経過させた。次いで新鮮な培地1.5mLを加え、未処理(0グレイ)ウェルでの細胞密度を測定した。接種密度に関するその後の計算はいずれも、この細胞カウントに従って行った。次に、適切な細胞密度で6ウェルクラスタープレートにて2mLずつの新鮮な培地中で、細胞を再度平板培養した。6日間のインキュベーション後、培地を吸引によって除去し、細胞コロニーを20分間にわたって、ウェル当たり400μLのギムザ染色液を用いて染色した。過剰の染色液を水道水でプレートから洗い落とし、プレートを風乾させた。ウェル当たりのコロニー数を、Colcountソフトウェアを用いてカウントした。
【0214】
DNA−PKcsアッセイ
前臨床試験または臨床試験で回収した腫瘍サンプルで、DNA−PKcs活性を測定した。腫瘍サンプルを、3倍容量(重量/体積)の抽出緩衝液(450mM NaCl、20mM HEPES(pH7.4)、50mM NaF、1mM NaVO、25%(体積比)グリセリン、200μM EDTA、500μM DTT+プロテアーゼ阻害薬[Roche])中にて、氷上で1分間にわたりホモジナイザー装置を用いて均質化した。次に、そのサンプルについて3回の冷凍−解凍サイクルを行い、細胞残屑を4℃にて30分間にわたり13000rpmで遠心することで除去した。次いでタンパク質抽出物50μgを用いて、セリン−15リン酸化部位を含むp53融合タンパク質基質(Veuger et al (2003) Cancer Research 63, 6008-6015)に対するDNA−PKcs活性を求めた。すなわち、アッセイ反応液は、腫瘍抽出物50μg、DNA 1ng、50μM ATPおよびp53基質1μgを含んでいた。陰性対照はDNAを含まなかった。6Mグアニジンを加えることで反応停止し、基質のセリン15部位でのリン酸化の量を、ホスホ−セリン15p53特異的抗体(Cell signalling technology)を用いるELISAおよび発光読み取り値によって求めた。
【0215】
結果
DNA−PKcsの阻害ならびにDSB誘発化学療法薬であるドキソルビシンおよびエトポシドの治療的増強を、ATM−ヌルpEBS7およびATM−コンピテントpEBS7−YZ5細胞で調べた。腫瘍由来ではないが、ATM−ヌルpEBS7細胞は、ATM機能障害腫瘍細胞を代表するものである。
【0216】
ATM−コンピテントおよびATM−ヌル細胞に対するDNA−PKcs阻害薬KU−0060648と組み合わせたエトポシドの効果を評価した。データは、表2、表3および図1で表形式およびグラフ形式で示してある。
【0217】
エトポシドは、ATM−ヌルにおいてKU−0060648によって有意に増強されるが、ATM−コンピテント細胞では増強されないことが認められた。
【0218】
ATM−コンピテントおよびATM−ヌル細胞に対するDNA−PKcs阻害薬KU−0060648と組み合わせたドキソルビシンの効果を評価した。データは、表4、表5および図2で表形式およびグラフ形式で示してある。
【0219】
KU−0060648は、ATM−ヌル細胞でのドキソルビシンの効果を有意に増強するが、ATM−コンピテント細胞では増強しないことが認められた。
【0220】
ATM−コンピテントおよびATM−ヌル細胞に対するDNA−PKcs阻害薬KU−0060648と組み合わせた電離放射線の効果を評価した。データは、表6および図3で表形式およびグラフ形式で示してある。
【0221】
KU−0060648は、ATM−ヌル細胞での放射線の効果を有意に増強するが、ATM−コンピテント細胞では増強しないことが認められた。
【0222】
DNA−PKcs阻害ATM−ヌル(pEBS7)細胞では、エトポシド、ドキソルビシンおよび電離放射線の増強が認められた。しかしながら、条件を合わせたATM−コンピテント細胞系(pEBS7−YZ)では増強は認められなかった(表7)。
【0223】
表7において、PF50は50%細胞死での増強係数である。これは、DNA−PKcs阻害薬非存在下で50%細胞死を与える化学療法薬濃度を、DNA−PKcs阻害薬存在下で50%細胞死を与える化学療法薬濃度で割った値から誘導したものである。用量変化比(DMR)は、単回の2グレイ処置を生き残る細胞数と、所定濃度のDNA−PKcs阻害薬と組み合わせた単回の2グレイ処置を生き残る細胞数との比である。
【表2】

【表3】

【表4】

【表5】

【表6】

【表7】

【表8】

【表9】


【表10】




【0224】
参考文献

【図面の簡単な説明】
【0225】
【図1】図1は、特異的ATP競合性DNA−PKcs阻害薬KU−0060648によるATM−ヌル細胞のエトポシド(半合成ポドフィロトキシン誘導体DNAトポイソメラーゼII阻害薬)の効果に対する感作上昇をグラフで示す図である。
【図2】図2は、特異的ATP競合性DNA−PKcs阻害薬KU−0060648で処理したATM−ヌル細胞のドキソルビシン(アントラサイクリン系抗生物質DNAトポイソメラーゼII阻害薬)の効果に対する感受性上昇をグラフで示す図である。
【図3】図3は、特異的ATP競合性DNA−PKcs阻害薬KU−0060648で処理したATM−ヌル細胞の電離放射線の効果に対する感受性上昇をグラフで示す図である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
個体での癌の治療で、DNA損傷癌療法と組み合わせて使用される医薬の製造におけるDNA−PKcs阻害薬の使用であって、前記癌がATM欠損表現型を有する前記使用。
【請求項2】
前記DNA損傷癌療法が細胞DNAにおけるDNA二本鎖切断を誘発する請求項1に記載の使用。
【請求項3】
前記DNA損傷癌療法が1以上のDNA損傷化学療法剤である請求項2に記載の使用。
【請求項4】
前記DNA損傷化学療法剤が、ブレオマイシン、ドキソルビシン、エトポシド、イリノテカン、トポテカン、ルビテカン、ゲムシタビン、テモゾロマイド、DTIC(ダカルバジン)、シスプラチン、オキサリプラチンおよびカルボプラチンおよびヨンデリスからなる群から選択される請求項3に記載の使用。
【請求項5】
前記DNA損傷化学療法が、表8に示したDNA損傷化学療法剤の組み合わせである請求項3に記載の使用。
【請求項6】
前記DNA損傷癌療法が放射線治療である請求項1または請求項2に記載の使用。
【請求項7】
前記DNA−PKcs阻害薬が、アリール−モルホリノ化合物、ベンゾクロメノン化合物、モルホリノ−サリチルアルデヒド化合物およびモルホリノ−ベンゾフェノン化合物のうちのいずれかである請求項1〜6のいずれか1項に記載の使用。
【請求項8】
前記DNA−PKcs阻害薬が、1−(2−ヒドロキシ−4−モルホリン−4−イル−フェニル)エタノン、2−アミノ−N−[4−(2−モルホリン−4−イル−4−オキソ−4H−ピリド[1,2−a]ピリミジン−9−イル)−ジベンゾチオフェン−1−イル]−アセトアミド、9−ジベンゾチオフェン−4−イル−2−モルホリン−4−イル−ピリド[1,2−a]ピリミジン−4−オン、2−アミノ−N−[4−(2−モルホリン−4−イル−4−オキソ−1,4−ジヒドロ−キノリン−8−イル)−ジベンゾチオフェン−1−イル]−アセトアミド、8−ジベンゾチオフェン−4−イル−2−モルホリン−4−イル−1H−キノリン−4−オン、3−アミノ−N−[4−(2−モルホリン−4−イル−4−オキソ−4H−ピリド[1,2−a]ピリミジン−9−イル)−ジベンゾチオフェン−1−イル]−プロピオンアミド、3−アミノ−N−[4−(2−モルホリン−4−イル−4−オキソ−1,4−ジヒドロ−キノリン−8−イル)−ジベンゾチオフェン−1−イル]−プロピオンアミド、2−(モルホリン−4−イル)−ベンゾ[h]クロメン−4−オン、8−ジベンゾチオフェン−4−イル−2−モルホリン−4−イル−クロメン−4−オン、2−アミノ−クロメン−4−オン、2−ヒドロキシ−4−モルホリン−4−イル−ベンズアルデヒドおよび1−(2−ヒドロキシ−4−モルホリン−4−イル−フェニル)−フェニル−メタノンからなる群から選択される請求項7に記載の使用。
【請求項9】
前記DNA−PKcs阻害薬が下記式(I)を有する請求項1〜6のいずれか1項に記載の使用。
【化1】

[式中、
およびRは独立に、水素、置換されていてもよいC1−7アルキル基、C3−20複素環基またはC5−20アリール基であるか、またはそれらが結合している窒素原子と一体となって、4〜8個の環原子を有する置換されていてもよい複素環を形成していてもよく;
XおよびYは、CRとO、OとCR'およびNR”とNから選択され;不飽和は環の適切な場所にあり、RおよびRまたはR'のうちの一つが置換されていてもよいC3−20ヘテロアリールまたはC5−20アリール基であり、RおよびRまたはR'のうちの他方がHであり、あるいはRおよびRまたはR”が一体となって、全体として縮合した置換されていてもよい芳香族環を表す−A−B−であり;
ただし、XおよびYがCRとOであり、RおよびRが一体となって縮合ベンゼン環を形成しており、RおよびRがそれらが結合しているNとともにモルホリノ基を形成している場合は、その縮合ベンゼンは8位で単一の置換基としてフェニル置換基をもたない]
【請求項10】
前記DNA−PKcs阻害薬が下記式(II)を有する請求項9に記載の使用。
【化2】

[式中、
およびRは独立に、水素、置換されていてもよいC1−7アルキル基、C3−20複素環基またはC5−20アリール基から選択されるか、あるいはそれらが結合している窒素原子と一体となって4〜8個の環原子を有する置換されていてもよい複素環を形成していてもよく;
Qは−NH−C(=O)−または−O−であり;
Yは、置換されていてもよいC1−5アルキレン基であり;
Xは、SRまたはNRから選択され、
またはRおよびRは独立に、水素、置換されていてもよいC1−7アルキル、C5−20アリールまたはC3−20複素環基から選択されるか、あるいはRおよびRがそれらが結合している窒素原子と一体となって、4〜8個の環原子を有する置換されていてもよい複素環を形成していてもよく;
Qが−O−である場合には、Xはさらに、−C(=O)−NRから選択され、RおよびRは独立に水素、置換されていてもよいC1−7アルキル、C5−20アリールまたはC3−20複素環基から選択されるか、あるいはRおよびRがそれらが結合している窒素原子と一体となって、4〜8個の環原子を有する置換されていてもよい複素環を形成していてもよく;
Qが−NH−C(=O)−である場合、−Y−XはさらにC1−7アルキルから選択されてもよい]
【請求項11】
前記DNA−PKcs阻害薬が、8−アリール−2−モルホリン−4−イル−1−ベンゾピラン−4−オンおよび2−(4−エチル−ピペラジン−1−イル)−N−[4−(2−モルホリン−4−イル−4−オキソ−4H−1−ベンゾピラン−8−イル)−ジベンゾチオフェン−1−イル]−アセトアミドからなる群から選択される請求項10に記載の使用。
【請求項12】
前記DNA−PKcs阻害薬が下記式(III)を有する請求項9に記載の使用。
【化3】

[式中、
A、BおよびDはそれぞれ、
(i)CH、NH、C;
(ii)CH、N、N;および
(iii)CH、O、C
からなる群から選択され;
点線は、適切な位置での2個の二重結合を表し;
N1およびRN2は独立に水素、置換されていてもよいC1−7アルキル基、C3−20複素環基またはC5−20アリール基から選択されるか、あるいはそれらが結合している窒素原子と一体となって、4〜8個の環原子を有する置換されていてもよい複素環を形成していてもよく;
、Z、Z、ZおよびZはそれらが結合している炭素原子と一体となって、芳香族環を形成しており;
は、CR、N、NH、SおよびOからなる群から選択され;ZはCRであり;ZはCR、N、NH、SおよびOからなる群から選択され;Zは直接結合であるかまたはO、N、NH、SおよびCHからなる群から選択され;ZはO、N、NH、SおよびCHからなる群から選択され;
はHであり;
は、ハロまたは置換されていてもよいC5−20アリールから選択され;
は、H、OH、NO、NHおよびQ−Y−Xからなる群から選択され、
Qは、−NH−C(=O)−または−O−であり;
Yは、置換されていてもよいC1−5アルキレン基であり;
Xは、SRS1またはNRN3N4から選択され、
S1またはRN3およびRN4は独立に、水素、置換されていてもよいC1−7アルキル、C5−20アリールまたはC3−20複素環基から選択されるか、またはRN3およびRN4はそれらが結合している窒素原子と一体となって、4〜8個の環原子を有する置換されていてもよい複素環を形成していてもよく;
Qが−O−である場合、Xはさらに、−C(=O)−NRN5N6から選択されてもよく、RN5およびRN6は独立に水素、置換されていてもよいC1−7アルキル、C5−20アリールまたはC3−20複素環基から選択されるか、あるいはRN5およびRN6はそれらが結合している窒素原子と一体となって、4〜8個の環原子を有する置換されていてもよい複素環を形成していてもよく;
Qが−NH−C(=O)−である場合、−Y−XはさらにC1−7アルキルから選択されてもよい]
【請求項13】
前記DNA−PKcs阻害薬が、8−アリール−2−モルホリン−4−イル−1H−キノリン−4−オン、9−アリール−2−モルホリン−4−イル−9H−ピリド[1,2−a]ピリミジン−4−オン、9−アリール−2−モルホリン−4−イル−キノリジン−4−オンおよび5−アリール−3−モルホリン−4−イル−2−ベンゾピラン−1−オンからなる群から選択される請求項12に記載の使用。
【請求項14】
個体での癌の治療方法であって、前記個体に対してDNA損傷癌療法を施し、DNA−PKcs阻害薬を投与するステップを含み、前記癌がATM欠損表現型を有する、前記方法。
【請求項15】
癌療法に対する個体での癌状態の感受性を測定する方法であって、前記個体から得られた癌細胞をATM欠損表現型を有するものと確認するステップを含み、前記癌療法がDNA−PKcs阻害薬およびDNA損傷癌療法の組み合わせを含み;前記個体から得られた癌細胞をATM欠損表現型を有するものと確認することが、その癌が前記癌療法に対して感受性であることを示すものである、前記方法。
【請求項16】
前記DNA損傷癌療法が細胞DNAにおけるDNA二本鎖切断を誘発する請求項14または15に記載の方法。
【請求項17】
前記DNA損傷癌療法が放射線療法である請求項14〜16のいずれか1項に記載の方法。
【請求項18】
前記DNA損傷癌療法が1以上のDNA損傷化学療法剤である請求項14〜16のいずれか1項に記載の方法。
【請求項19】
前記1以上のDNA損傷化学療法剤が、ブレオマイシン、ドキソルビシン、エトポシド、イリノテカン、トポテカン、ルビテカン、ゲムシタビン、テモゾロマイド、DTIC(ダカルバジン)、シスプラチン、オキサリプラチンおよびカルボプラチンおよびヨンデリスからなる群から選択される請求項18に記載の方法。
【請求項20】
前記DNA損傷化学療法が、表8に示したDNA損傷化学療法剤の組み合わせである請求項18または19に記載の方法。
【請求項21】
前記DNA−PKcs阻害薬が、アリール−モルホリノ化合物、ベンゾクロメノン化合物、モルホリノ−サリチルアルデヒド化合物またはモルホリノ−ベンゾフェノン化合物である請求項14〜20のいずれか1項に記載の方法。
【請求項22】
前記DNA−PKcs阻害薬が、1−(2−ヒドロキシ−4−モルホリン−4−イル−フェニル)エタノン、2−アミノ−N−[4−(2−モルホリン−4−イル−4−オキソ−4H−ピリド[1,2−a]ピリミジン−9−イル)−ジベンゾチオフェン−1−イル]−アセトアミド、9−ジベンゾチオフェン−4−イル−2−モルホリン−4−イル−ピリド[1,2−a]ピリミジン−4−オン、2−アミノ−N−[4−(2−モルホリン−4−イル−4−オキソ−1,4−ジヒドロ−キノリン−8−イル)−ジベンゾチオフェン−1−イル]−アセトアミド、8−ジベンゾチオフェン−4−イル−2−モルホリン−4−イル−1H−キノリン−4−オン、3−アミノ−N−[4−(2−モルホリン−4−イル−4−オキソ−4H−ピリド[1,2−a]ピリミジン−9−イル)−ジベンゾチオフェン−1−イル]−プロピオンアミド、3−アミノ−N−[4−(2−モルホリン−4−イル−4−オキソ−1,4−ジヒドロ−キノリン−8−イル)−ジベンゾチオフェン−1−イル]−プロピオンアミド、2−(モルホリン−4−イル)−ベンゾ[h]クロメン−4−オン、8−ジベンゾチオフェン−4−イル−2−モルホリン−4−イル−クロメン−4−オン、2−アミノ−クロメン−4−オン、2−ヒドロキシ−4−モルホリン−4−イル−ベンズアルデヒドおよび1−(2−ヒドロキシ−4−モルホリン−4−イル−フェニル)−フェニル−メタノンからなる群から選択される請求項21に記載の方法。
【請求項23】
前記DNA−PKcs阻害薬が下記式(I)を有する請求項14〜20のいずれか1項に記載の方法。
【化4】

[式中、
およびRは独立に、水素、置換されていてもよいC1−7アルキル基、C3−20複素環基またはC5−20アリール基であるか、またはそれらが結合している窒素原子と一体となって、4〜8個の環原子を有する置換されていてもよい複素環を形成していてもよく;
XおよびYは、CRとO、OとCR'およびNR”4とNから選択され;不飽和は環の適切な場所にあり、RおよびRまたはR'のうちの一つが置換されていてもよいC3−20ヘテロアリールまたはC5−20アリール基であり、RおよびRまたはR'のうちの他方がHであり、あるいはRおよびRまたはR”4が一体となって、全体として縮合した置換されていてもよい芳香族環を表す−A−B−であり;
ただし、XおよびYがCRとOであり、RおよびRが一体となって縮合ベンゼン環を形成しており、RおよびRがそれらが結合しているNとともにモルホリノ基を形成している場合は、その縮合ベンゼンは8位で単一の置換基としてフェニル置換基をもたない]
【請求項24】
前記DNA−PKcs阻害薬が下記式(II)を有する請求項23に記載の方法。
【化5】

[式中、
およびRは独立に、水素、置換されていてもよいC1−7アルキル基、C3−20複素環基またはC5−20アリール基から選択されるか、あるいはそれらが結合している窒素原子と一体となって4〜8個の環原子を有する置換されていてもよい複素環を形成していてもよく;
Qは−NH−C(=O)−または−O−であり;
Yは、置換されていてもよいC1−5アルキレン基であり;
Xは、SRまたはNRから選択され、
またはRおよびRは独立に、水素、置換されていてもよいC1−7アルキル、C5−20アリールまたはC3−20複素環基から選択されるか、あるいはRおよびRがそれらが結合している窒素原子と一体となって、4〜8個の環原子を有する置換されていてもよい複素環を形成していてもよく;
Qが−O−である場合には、Xはさらに、−C(=O)−NRから選択され、RおよびRは独立に水素、置換されていてもよいC1−7アルキル、C5−20アリールまたはC3−20複素環基から選択されるか、あるいはRおよびRがそれらが結合している窒素原子と一体となって、4〜8個の環原子を有する置換されていてもよい複素環を形成していてもよく;
Qが−NH−C(=O)−である場合、−Y−XはさらにC1−7アルキルから選択されてもよい]
【請求項25】
前記DNA−PKcs阻害薬が、8−アリール−2−モルホリン−4−イル−1−ベンゾピラン−4−オンおよび2−(4−エチル−ピペラジン−1−イル)−N−[4−(2−モルホリン−4−イル−4−オキソ−4H−1−ベンゾピラン−8−イル)−ジベンゾチオフェン−1−イル]−アセトアミドからなる群から選択される請求項24に記載の方法。
【請求項26】
前記DNA−PKcs阻害薬が下記式(III)を有する請求項23に記載の方法。
【化6】

[式中、
A、BおよびDはそれぞれ、
(i)CH、NH、C;
(ii)CH、N、N;および
(iii)CH、O、C
からなる群から選択され;
点線は、適切な位置での2個の二重結合を表し;
N1およびRN2は独立に水素、置換されていてもよいC1−7アルキル基、C3−20複素環基またはC5−20アリール基から選択されるか、あるいはそれらが結合している窒素原子と一体となって、4〜8個の環原子を有する置換されていてもよい複素環を形成していてもよく;
、Z、Z、ZおよびZはそれらが結合している炭素原子と一体となって、芳香族環を形成しており;
は、CR、N、NH、SおよびOからなる群から選択され;ZはCRであり;ZはCR、N、NH、SおよびOからなる群から選択され;Zは直接結合であるかまたはO、N、NH、SおよびCHからなる群から選択され;ZはO、N、NH、SおよびCHからなる群から選択され;
はHであり;
は、ハロまたは置換されていてもよいC5−20アリールから選択され;
は、H、OH、NO、NHおよびQ−Y−Xからなる群から選択され、
Qは、−NH−C(=O)−または−O−であり;
Yは、置換されていてもよいC1−5アルキレン基であり;
Xは、SRS1またはNRN3N4から選択され、
S1またはRN3およびRN4は独立に、水素、置換されていてもよいC1−7アルキル、C5−20アリールまたはC3−20複素環基から選択されるか、またはRN3およびRN4がそれらが結合している窒素原子と一体となって、4〜8個の環原子を有する置換されていてもよい複素環を形成していてもよく;
Qが−O−である場合、Xはさらに、−C(=O)−NRN5N6から選択されてもよく、RN5およびRN6は独立に水素、置換されていてもよいC1−7アルキル、C5−20アリールまたはC3−20複素環基から選択されるか、あるいはRN5およびRN6がそれらが結合している窒素原子と一体となって、4〜8個の環原子を有する置換されていてもよい複素環を形成していてもよく;
Qが−NH−C(=O)−である場合、−Y−XはさらにC1−7アルキルから選択されてもよい]
【請求項27】
前記DNA−PKcs阻害薬が、8−アリール−2−モルホリン−4−イル−1H−キノリン−4−オン、9−アリール−2−モルホリン−4−イル−9H−ピリド[1,2−a]ピリミジン−4−オン、9−アリール−2−モルホリン−4−イル−キノリジン−4−オンおよび5−アリール−3−モルホリン−4−イル−2−ベンゾピラン−1−オンからなる群から選択される請求項26に記載の方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公表番号】特表2008−542253(P2008−542253A)
【公表日】平成20年11月27日(2008.11.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−512926(P2008−512926)
【出願日】平成18年5月26日(2006.5.26)
【国際出願番号】PCT/GB2006/001946
【国際公開番号】WO2006/126010
【国際公開日】平成18年11月30日(2006.11.30)
【出願人】(507205830)クドス ファーマシューティカルズ リミテッド (7)
【出願人】(598176569)キャンサー・リサーチ・テクノロジー・リミテッド (57)
【氏名又は名称原語表記】CANCER RESEARCH TECHNOLOGY LIMITED
【Fターム(参考)】