説明

HMG−CoAリダクターゼ阻害剤とグルタチオンを含有する医薬組成物

【課題】(1)血中Hcy量の低下、(2)eNOSの活性向上及び/又は血管内皮細胞由来一酸化窒素血中濃度の向上、並びに、(3)GPx活性の向上を同時に実現する安全な薬剤を提供すること。
【解決手段】HMG−CoAリダクターゼ阻害剤とグルタチオンとを含有する医薬組成物。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、循環器系疾患治療のための医薬組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
古くから「ヒトは血管とともに老いる」と言われてきたが、近年、動脈硬化の独立した危険因子として血中ホモシステイン(Hcy)量の増加が注目され、広く知られるようになってきた。
【0003】
Hcyは、必須アミノ酸の一つであるメチオニンの代謝過程で生成するアミノ酸である。遺伝的素因、ビタミン補因子欠乏、加齢、性、腎機能低下、糖尿病、その他の疾患、薬剤、喫煙等により、血中Hcy量が上昇することが判っており(例えば、非特許文献1参照)、この症状は高ホモシステイン血症と呼ばれている。
【0004】
現在のところ、高ホモシステイン血症に対する治療として、Hcy代謝を円滑に進めるための葉酸投与が第一段階治療とされ、第二段階としてはビタミンBとビタミンB12の投与が行われている(例えば、非特許文献1参照)。
【0005】
なお、HMG−CoAリダクターゼ阻害剤(以下、スタチンと称する)は、生体においてHMG−CoAからメバロン酸への経路を特異的かつ拮抗的に阻害して血中コレステロール量を低下させる薬物であるが、血中Hcy量に与える影響については明確な結論は得られていない。
【0006】
また、グルタチオンは抗酸化作用を有することが知られており、薬物中毒等の解毒剤としても知られているが、血中Hcy量に与える影響については不明である。
【0007】
上述のHcy以外にも「血管の老化」には、血管内皮細胞由来一酸化窒素(NO)の産生減少、すなわち内皮型NO合成酵素(eNOS)活性の低下が深く関わっていることも最近判ってきた。
【0008】
血管内皮の機能障害は、動脈硬化の発症及び進展に深く関係し、eNOSから産生されるNOの低下がその大きな原因であると考えられ、血管内皮細胞由来NOが、血管弛緩、血小板の凝集抑制、好中球の内皮細胞への付着抑制、血管平滑筋細胞の遊走及び増殖抑制、LDL酸化抑制等の面から抗動脈硬化作用等の役割を果たすと言われている(例えば、非特許文献2参照、他先行技術多数あり)。
【0009】
動物試験では、すでにNO合成阻害により動脈硬化発症及び進展に直接寄与することが確かめられている(例えば、非特許文献3参照)。ヒトにおいても血管内皮細胞由来NOは血管保護的に多面的に働くため、心血管系疾患の治療において重要な役割を果たすと考えられる。
【0010】
また、特定のスタチンには血管内皮細胞機能の改善効果があるという報告がある(例えば、非特許文献4参照)。
【0011】
グルタチオンについてのeNOSの活性化及び/又は血管内皮細胞由来NOの血中濃度維持及び増加作用の有無は不明である。
【0012】
グルタチオンペルオキシダーゼ(GPx)は、グルタチオンの存在下、過酸化水素や過酸化資質を無毒化する、生体にとって重要な抗酸化酵素であり、血中過酸化脂質の増加が認められる動脈硬化、脳血管疾患、心筋梗塞等の疾患の予防又は治療に有用である(例えば、非特許文献5参照)。
【0013】
なお、スタチン又はグルタチオンのGPx活性増加作用の有無については不明である。
【0014】
これまでに、スタチンとグルタチオンとを含有した医薬組成物は知られておらず、また、スタチンとグルタチオンとの併用に関する報告もない。
【非特許文献1】Progress in Medicine,Vol.19 No.8,1999 p.49−53
【非特許文献2】脈管学,Vol.38 No.4 1998 p.215−219
【非特許文献3】血管医学,Vol.2 No.2 2001 p.189−194
【非特許文献4】薬理と治療,Vol.29 No.10 2001 p.715−718
【非特許文献5】http://www.hokudai.ac.jp/pharma/eisei/takahasi.htm
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0015】
上述のように、(1)高ホモシステイン血症、(2)eNOSの活性低下及び/又は血管内皮細胞由来NOの血中濃度低下、並びに、(3)GPx活性の低下の改善は、特に動脈硬化をはじめとする「血管の老化」に関わる疾患の治療又は予防において極めて重要なことである。さらに、これら3病因を同時に改善する手段を見出すことができればよりいっそう効果的であり経済的でもある。
【0016】
そこで、本発明者は、(1)血中Hcy量の低下、(2)eNOSの活性増加及び/又は血管内皮細胞由来NOの血中濃度の増加、並びに、(3)GPx活性の増加を同時に実現する安全な薬剤を見出すべく鋭意研究を重ねてきた。
【0017】
その結果、スタチンとグルタチオンとを併用することにより、(1)血中Hcy量の低下、(2)eNOS活性の増加及び/又は血管内皮細胞由来NOの血中濃度の増加、並びに、(3)GPx活性の増加を同時に達成することができることがわかり、本発明を完成するに至った。
【課題を解決するための手段】
【0018】
本発明は、
(1)HMG−CoAリダクターゼ阻害剤とグルタチオンとを含有する医薬組成物であり、好適には、
(2)HMG−CoAリダクターゼ阻害剤が、プラバスタチン、ロバスタチン、シンバスタチン、フルバスタチン、アトルバスタチン、ピタバスタチン及びロスバスタチンからなる群から選ばれる1種又は2種以上である、(1)に記載の医薬組成物、
(3)HMG−CoAリダクターゼ阻害剤が、プラバスタチンである、(1)に記載の医薬組成物、
(4)血中ホモシステイン量を低下させるための、(1)乃至(3)から選択されるいずれか1項に記載の医薬組成物、
(5)血中ホモシステイン量を維持するための、(1)乃至(3)から選択されるいずれか1項に記載の医薬組成物、
(6)高ホモシステイン血症を治療又は予防するための、(1)乃至(3)から選択されるいずれか1項に記載の医薬組成物、
(7)高ホモシステイン血症に起因する疾病を治療又は予防するための、(1)乃至(3)から選択されるいずれか1項に記載の医薬組成物、
(8)高ホモシステイン血症に起因する疾病が、動脈硬化、虚血性心疾患、心筋梗塞、血栓症、末梢血管障害、バージャー病、レイノー病、脳梗塞、脳循環不全、脳血管性痴呆、アルツハイマー病及びパーキンソン病からなる群から選ばれる1種又は2種以上である、(7)に記載の医薬組成物、
(9)高ホモシステイン血症に起因する疾病が、動脈硬化である、(7)に記載の医薬組成物、
(10)血管内皮細胞の一酸化窒素合成を促進させるための、(1)乃至(3)から選択されるいずれか1項に記載の医薬組成物、
(11)血管内皮細胞由来一酸化窒素の血中濃度を増加させるための、(1)乃至(3)から選択されるいずれか1項に記載の医薬組成物、
(12)血管内皮細胞由来一酸化窒素の血中濃度を維持するための、(1)乃至(3)から選択されるいずれか1項に記載の医薬組成物、
(13)血管内皮細胞由来一酸化窒素の血中濃度の低下に起因する疾病を治療又は予防するための、(1)乃至(3)から選択されるいずれか1項に記載の医薬組成物、
(14)血管内皮細胞由来一酸化窒素の血中濃度の低下に起因する疾病が、高血圧、労作性高血圧、動脈硬化、虚血性心疾患、心不全、心筋梗塞、血栓症、末梢血管障害、肺高血圧、バージャー病、レイノー病、脳虚血、脳梗塞、脳循環不全、脳血管性痴呆、インポテンツ、妊娠中毒症、糖尿病からなる群から選ばれる1種又は2種以上である、(13)に記載の医薬組成物、
(15)血管内皮細胞由来一酸化窒素の血中濃度の低下に起因する疾病が、動脈硬化である、(13)に記載の医薬組成物、
(16)グルタチオンペルオキシダーゼの活性を増加させるための、(1)乃至(3)から選択されるいずれか1項に記載の医薬組成物、
(17)グルタチオンペルオキシダーゼの活性を維持するための、(1)乃至(3)から選択されるいずれか1項に記載の医薬組成物、
(18)グルタチオンペルオキシダーゼの活性の低下に起因する疾病を治療又は予防するための、(1)乃至(3)から選択されるいずれか1項に記載の医薬組成物、
(19)グルタチオンペルオキシダーゼの活性の低下に起因する疾病が、動脈硬化、虚血性心疾患、虚血性脳疾患、心筋梗塞からなる群から選ばれる1種又は2種以上である、(18)に記載の医薬組成物、
(20)グルタチオンペルオキシダーゼの活性の低下に起因する疾病が、動脈硬化である、(18)に記載の医薬組成物及び
(21)血中ホモシステイン量の低下、血管内皮細胞由来一酸化窒素の血中濃度の増加及びグルタチオンペルオキシダーゼの活性の向上を同時に達成するための、(1)乃至(3)から選択されるいずれか1項に記載の医薬組成物である。
【0019】
更に、本発明は、
(22)配合剤であることを特徴とする、(1)乃至(21)に記載の医薬組成物、
(23)HMG−CoA還元酵素阻害剤と、グルタチオンを含有する薬剤とからなるキットであることを特徴とする、(1)乃至(21)に記載の医薬組成物、
(24)HMG−CoA還元酵素阻害剤とグルタチオンとを同一の医薬組成物中に含有する(1)乃至(3)から選択されるいずれか1項に記載の医薬組成物の製造方法、
(25)動脈硬化治療剤を製造するための、(1)乃至(21)から選択されるいずれか1項に記載の医薬組成物の使用、
(26)HMG−CoA還元酵素阻害剤とグルタチオンとを同時に、順次又は別個に投与する方法および
(27)哺乳動物に(1)乃至(3)から選択されるいずれか1項に記載された医薬組成物の有効量を投与することを特徴とする、動脈硬化症の予防方法又は治療方法を提供する。
【0020】
本発明における、「HMG−CoAリダクターゼ阻害剤」とは、コレステロール生合成系の律速酵素であるHMG(3−ヒドロキシ−3−メチルグリタリル)−CoA還元酵素を特異的かつ拮抗的に阻害する薬剤(一般名の語尾がスタチンであることからこの薬剤の総称としてスタチンと呼ばれている)であり、血中コレステロールを低下させることから、高脂血症の治療剤として使用されている。そのようなスタチンとしては、微生物由来の天然物質、それから誘導される半合成物質、及び全合成化合物のすべてが含まれ、例えば、プラバスタチン、ロバスタチン、シンバスタチン、フルバスタチン、アトルバスタチン、ピタバスタチン又はロスバスタチンであり得る。
【0021】
以下に、スタチンとして代表的なものの平面構造式を示す。
【0022】
【化1】

【0023】
【化2】

【0024】
これらのスタチンのうち、プラバスタチン、シンバスタチン又はアトルバスタチンが好適であり、プラバスタチンが更に好適である。
【0025】
本発明における、「グルタチオン」とは、グルタミン酸、システイン、グリシンの3つのアミノ酸からなるトリペプチドである。
【0026】
本発明における、「血中ホモシステイン量」とは、血液中に存在するホモシステインの重量のことである。
【0027】
本発明における、「血中ホモシステイン量を維持する」とは、血液中のホモシステイン量の増加を抑えて、元からある状態を保つことである。
【0028】
本発明における、「高ホモシステイン血症」とは、例えば、体内のビタミンB、B12又は葉酸が欠乏すること等の理由により、代謝に異常が起きて血中のホモシステイン量が上昇した状態である。
【0029】
本発明における、「高ホモシステイン血症に起因する疾病」とは、血中Hcy量が高まることに起因して発症する疾病であれば特に限定はないが、好適には、動脈硬化、虚血性心疾患、心筋梗塞、血栓症、末梢血管障害、バージャー病、レイノー病等の循環器疾患及び脳梗塞、脳循環不全、脳血管性痴呆等の脳血管障害、アルツハイマー病、パーキンソン病等の神経系疾患等であり、更に好適には、動脈硬化である。
【0030】
なお、高ホモシステイン血症を引き起こす要因としては、例えば、加齢、喫煙、Hcy代謝に関わる栄養障害、薬剤性、腎機能低下、慢性腎不全、糖尿病、インスリン抵抗性、悪性腫瘍、甲状腺機能低下、悪性貧血等がある。
【0031】
本発明における、「血管内皮細胞の一酸化窒素合成を促進させる」とは、血管内皮細胞に存在するeNOSを活性化しNOの合成を促進することである。
【0032】
本発明における、「血管内皮細胞由来一酸化窒素の血中濃度を維持する」とは、血液中の血管内皮細胞由来一酸化窒素の低下を抑えて、元からある状態を保つことである。
【0033】
本発明における、「血管内皮細胞由来一酸化窒素の血中濃度の低下に起因する疾病」とは、eNOSの活性が低下及び/又は血管内皮細胞由来NOの血中濃度が低下することに起因して発症する疾病であれば特に限定はないが、好適には、高血圧、労作性高血圧、動脈硬化、虚血性心疾患、心不全、血栓症、肺高血圧、脳虚血、脳梗塞、脳循環不全、老年性痴呆、インポテンツ、妊娠中毒症、糖尿病等があり、更に好適には、動脈硬化である。
【0034】
なお、血管内皮細胞由来NOの血中濃度の低下を引き起こすものとして、例えば、加齢、閉経、高血圧、高脂血症、喫煙、インスリン抵抗性、糖尿病、酸化ストレス、薬剤性等があり、原因と結果の重複や悪循環もみられる。
【0035】
本発明における、「グルタチオンペルオキシダーゼの活性を維持する」とは、グルタチオンペルオキシダーゼの活性の低下を抑えて、元からある状態を保つことである。
【0036】
本発明における、「グルタチオンペルオキシダーゼの活性の低下に起因する疾病」とは、活性酸素の増加や過酸化脂質の増加に起因して発症する疾病であれば特に限定はないが、好適には、動脈硬化、脳血管疾患、虚血性心疾患、心筋梗塞、発癌、炎症、老化等があり、更に好適には、動脈硬化がある。
【0037】
なお、GPx活性の低下を引き起こす要因については充分解明されていないが、現段階では、セレン欠乏、栄養不良、老化等がある。
【0038】
本発明における「高ホモシステイン血症に起因する疾病」、「血管内皮細胞由来NOの血中濃度の低下に起因する疾病」又は「GPxの活性の低下に起因する疾病」の初期においては際立った自覚症状は少なく、自己判断は容易ではないが、自覚症状としては、例えば、頭痛、偏頭痛、めまい、しびれ又はしびれ感、四肢の冷感、肩こり等がある。従って、これらの自覚症状が生じた場合に、本発明のスタチンとグルタチオンとを含有する医薬組成物を服用することにより、上記疾患を初期段階で治療することができる。
【0039】
本発明の医薬組成物を投与する際は、それぞれの成分を同時に、順次又は別個に投与することが出来る。
【0040】
本発明における、「同時に」投与するとは、全く同時に投与することの他、薬理学上許される程度に相前後した時間に投与することも含むものである。その投与形態は、ほぼ同じ時間に投与できる投与形態であれば特に限定はないが、単一の組成物であることが好ましい。
【0041】
本発明における、「順次又は別個に」投与するとは、異なった時間に別々に投与できる投与形態であれば特に限定はないが、例えば、1の成分を投与し、次いで、決められた時間後に、他の成分を投与する方法がある。
【0042】
本発明における、「治療する」とは、病気又は症状を治癒させること又は改善させること或いは症状を抑制させることを意味する。
【発明の効果】
【0043】
本発明の、スタチンとグルタチオンとを含有する医薬組成物は、(1)血中Hcy量の低下、(2)eNOS活性の増加及び/又は血管内皮細胞由来NOの血中濃度の増加、並びに、(3)GPx活性の増加を同時に達成することができること並びに各々の現象に起因する疾病を治療又は予防するために有用である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0044】
本発明の組成物に含まれるスタチン、例えば、プラバスタチン、ロバスタチン、シンバスタチン、フルバスタチン、アトルバスタチン、ピタバスタチン又はロスバスタチンは、特開昭57−2240号(USP4346227)、特開昭57−163374号(USP4231938)、特開昭56−122375号(USP4444784)、特表昭60−500015号(USP4739073)、特開平3−58967号(USP5273995)、特開平1−279866号(USP5854259及びUSP5856336)又は特開平5−178841号(USP5260440)等に記載の方法に従い、容易に製造することができる。
【0045】
また、グルタチオンは日本薬局方外医薬品規格2002に収載されている。
【0046】
本発明の、スタチンとグルタチオンとを含有する組成物は、スタチン及びグルタチオンとを必須の成分として含有し、所望により、製剤化のための添加物を含有していてもよく、更に、スタチンとグルタチオンとの併用作用に悪影響を与えない範囲で他の成分を含有していてもよい。好適には、スタチン及びグルタチオンのみを有効成分として含有し、更に製剤化のための添加物を含有する医薬組成物である。
【0047】
本発明の医薬組成物の具体的な剤形としては、例えば、錠剤、細粒剤(散剤を含む)、カプセル、液剤(シロップ剤を含む)等をあげることができ、各剤形に適した添加剤や基材を適宜使用し、日本薬局方等に記載された通常の方法に従い、製造することができる。
【0048】
上記各剤形において、その剤形に応じ、通常使用される各種添加剤を使用することもできる。
【0049】
例えば、錠剤の場合、乳糖、結晶セルロース等を賦形剤として、メタケイ酸アルミン酸マグネシウム又は酸化マグネシウム等を安定化剤として、ヒドロキシプロピルセルロース等をコーテイング剤として、ステアリン酸マグネシウム等を滑沢剤として使用することができる。
【0050】
細粒剤及びカプセル剤の場合、乳糖又は精製白糖等を賦形剤として、メタケイ酸アルミン酸マグネシウム又は酸化マグネシウム等を安定化剤として、トウモロコシデンプン等を吸着剤として、ヒドロキシプロピルセルロース等を結合剤として、使用することができる。
【0051】
上記各剤形において、必要に応じ、クロスポビドン等の崩壊剤;ポリソルベート等の界面活性剤;ケイ酸カルシウム等の吸着剤;三二酸化鉄、カラメル等の着色剤;安息香酸ナトリウム等の安定剤;pH調節剤;香料;等を添加することもできる。
【0052】
スタチンの1回投与量は、スタチンの種類、適応症、使用目的や年齢により異なるが、好適には、0.01mg/kg乃至10mg/kgであり、更に好適には、0.05mg/kg乃至5mg/kgであり、これを1日に1回乃至3回投与する。
【0053】
本発明の医薬組成物が、固形製剤の場合において含有されるスタチンの含有量は、通常、0.05mg乃至200mgであり、好適には、0.5mg乃至100mgである。また、グルタチオンの含有量は、スタチン1重量部に対し1重量部乃至100重量部であり、好適には、3重量部乃至30重量部である。
【0054】
本発明の組成物が液剤の場合において含有されるスタチンは、通常、0.001mg/mL乃至200mg/mLであり、好適には、0.01mg/mL乃至50mg/mLである。また、グルタチオンの含有量は、スタチン1重量部に対し1重量部乃至100重量部であり、好適には、3重量部乃至30重量部である。
【実施例】
【0055】
以下に、実施例及び試験例を示し、本発明をさらに詳細に説明するが、本発明の範囲はこれらに限定されるものではない。
【0056】
(実施例1)錠剤
(1)1回投与量中の成分
(表1) 1錠中重量(mg)
成分 (1a) (1b) (1c)
――――――――――――――――――――――――――――――――――――
プラバスタチンナトリウム
又はアトルバスタチンカルシウム 10 − −
シンバスタチン − 5 −
ピタバスタチン − − 1
グルタチオン 100 100 100
酸化マグネシウム 90 70 50
ヒドロキシプロピルセルロース 60 60 60
クロスカルメロースナトリウム 20 20 20
ステアリン酸マグネシウム 15 15 15
乳糖 適量 適量 適量
――――――――――――――――――――――――――――――――――――。
(2)製法
上記成分及び分量をとり、日局製剤総則「錠剤」の項に準じて錠剤を製造した。
【0057】
(実施例2)細粒剤
(1)1回投与量中の成分
(表2) 2包中重量(mg)
成分 (2a) (2b) (2c)
――――――――――――――――――――――――――――――――――――
プラバスタチンナトリウム
又はアトルバスタチンカルシウム 20 − −
シンバスタチン − 10 −
ピタバスタチン − − 2
グルタチオン 200 200 200
酸化マグネシウム 100 80 60
白糖 950 950 950
トウモロコシデンプン 920 920 920
ポリソルベート80 70 70 70
ステアリン酸マグネシウム 20 20 20
乳糖 適量 適量 適量
――――――――――――――――――――――――――――――――――――。
(2)製法
上記成分及び分量をとり、日局製剤総則「顆粒剤」の項に準じて細粒剤を製造した。
【0058】
(実施例3)カプセル剤
(1)1回投与量中の成分
(表3) 2カプセル中重量(mg)
成分 (3a) (3b) (3c)
――――――――――――――――――――――――――――――――――――
プラバスタチンナトリウム
又はアトルバスタチンカルシウム 10 − −
シンバスタチン − 5 −
ピタバスタチン − − 1
グルタチオン 100 100 100
酸化マグネシウム 90 70 50
トウモロコシデンプン 440 440 450
ポリソルベート80 60 60 60
ステアリン酸マグネシウム 15 15 15
乳糖 適量 適量 適量
――――――――――――――――――――――――――――――――――――。
(2)製法
上記成分及び分量をとり、日局製剤総則「顆粒剤」の項に準じて細粒剤を製造した後、それをカプセルに充填することにより硬カプセル剤を製造した。
【0059】
(実施例4)シロップ剤
(1)1回投与量中の成分
(表4) 50mL中重量(mg)
成分 (4a) (4b) (4c)
――――――――――――――――――――――――――――――――――――
プラバスタチンナトリウム
又はアトルバスタチンカルシウム 20 − −
シンバスタチン − 10 −
ピタバスタチン − − 2
グルタチオン 200 200 200
安息香酸ナトリウム 180 180 180
白糖 980 980 980
濃グリセリン 630 630 630
ポリビニルアルコール 120 120 120
精製水 残部 残部 残部
――――――――――――――――――――――――――――――――――――。
(2)製法
上記成分及び分量をとり、日局製剤総則「シロップ剤」の項に準じてシロップ剤を製造した後、それを褐色ガラス瓶に充填することによりシロップ剤を製造した。
(試験例)
(試験例1)血中GPx活性、Hcy量及びNOx総濃度の評価試験
(1)被験物質
プラバスタチンナトリウムは三共(株)製造のものを、グルタチオンは(株)興人製造のものを使用した。
(2)動物
試験動物としては、Covance Research Products Inc.からビーグル犬雄を5箇月齢で購入し、約1箇月間の検疫および馴化飼育後に使用した。
(3)投与剤形、製剤の調整方法および製剤の保存方法
試験動物毎の体重をもとに算出した必要量の被験物質を、TORPAC社のゼラチンカプセル(1/2オンス)に充填した。充填後、カプセルは動物毎に区分されたケースに入れ、投与時まで冷蔵保存した。
(4)投与経路および投与期間
被験物質を充填したカプセルは、1日1回9:00〜12:30の間に、試験動物に強制経口投与した。なお、試験動物は投与前2乃至3時間絶食させた。
【0060】
投与期間は7日間とした。
(5)被験試料の調製
カプセル投与前14日目および7日目(投与開始前第2週および第1週)、投与開始後4日目、8日目に、橈側皮静脈から約10mL採血した。なお、採血前約18時間、試験動物は絶食させた。
【0061】
得られた血液を試験管にとり、室温で30分から1時間放置後、遠心分離(約1600×g、10分間)して得られた血清を用いた。
(6)試験方法
血中GPx活性はNADPH法により、又、血中総Hcy量はHPLC法を用いて求めた。
【0062】
一方、eNOSにより生成されたNOは、速やかに硝酸イオン(NO)と亜硝酸イオン(NO)に変換されることがわかっているので、血中窒素酸化物(NOx)総濃度はHPLC法を用いて求めたNOとNOの和として算出した。
(7)試験結果
プラバスタチンナトリウム及びグルタチオンそれぞれの各投与量における単剤および配合剤における各検査値の結果は、投与前14日目及び7日目の検査値の平均を100として換算して求めた。
【0063】
得られた結果を表5乃至表7に示す。なお、各値とも1群5匹の平均値である。
【0064】
(表5)
血中GPx活性(%)
被験物質(mg/Kg) 投与後4日 投与後8日
―――――――――――――――――――――――――――――――――
プラバスタチンナトリウム(2) 87.2 88.6
グルタチオン(20) 98.8 100.0
プラバスタチンナトリウム(2)
+グルタチオン(20)の合剤 104.1 107.2
―――――――――――――――――――――――――――――――――。
【0065】
表5の結果より、プラバスタチン及びグルタチオンの各単剤の結果からでは予測できないGPxの活性の増加が認められた。
【0066】
(表6)
血中Hcy量(%)
被験物質(mg/Kg) 投与後4日 投与後8日
―――――――――――――――――――――――――――――――――
プラバスタチンナトリウム(2) 105.6 105.2
グルタチオン(20) 102.3 99.4
プラバスタチンナトリウム(2)
+グルタチオン(20)の合剤 97.9 88.2
―――――――――――――――――――――――――――――――――。
【0067】
表6の結果より、プラバスタチン及びグルタチオンの各単剤の結果からでは予測できない血中Hcy量の低下作用が認められた。
【0068】
(表7)
血中NOx総濃度(%)
被験物質(mg/Kg) 投与後4日 投与後8日
―――――――――――――――――――――――――――――――――
プラバスタチンナトリウム(2) 97.2 103.7
グルタチオン(20) 101.8 92.2
プラバスタチンナトリウム(2)
+グルタチオン(20)の合剤 123.6 133.8
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【0069】
表7の結果より、プラバスタチン及びグルタチオンの各単剤の結果からでは予測できない血中NOx総濃度の上昇作用が認められた。
【産業上の利用可能性】
【0070】
本発明の、スタチンとグルタチオンとを含有する医薬組成物は、(1)血中Hcy量の低下、(2)eNOS活性の増加及び/又は血管内皮細胞由来NOの血中濃度の増加、並びに、(3)GPx活性の増加を同時に達成することができること並びに各々の現象に起因する疾病を治療又は予防するために有用である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
HMG−CoAリダクターゼ阻害剤とグルタチオンとを含有する医薬組成物。
【請求項2】
HMG−CoAリダクターゼ阻害剤が、プラバスタチン、ロバスタチン、シンバスタチン、フルバスタチン、アトルバスタチン、ピタバスタチン及びロスバスタチンからなる群から選ばれる1種又は2種以上である、請求項1に記載の医薬組成物。
【請求項3】
HMG−CoAリダクターゼ阻害剤が、プラバスタチンである、請求項1に記載の医薬組成物。
【請求項4】
血中ホモシステイン量を低下させるための、請求項1乃至請求項3から選択されるいずれか1項に記載の医薬組成物。
【請求項5】
血中ホモシステイン量を維持するための、請求項1乃至請求項3から選択されるいずれか1項に記載の医薬組成物。
【請求項6】
高ホモシステイン血症を治療又は予防するための、請求項1乃至請求項3から選択されるいずれか1項に記載の医薬組成物。
【請求項7】
高ホモシステイン血症に起因する疾病を治療又は予防するための、請求項1乃至請求項3から選択されるいずれか1項に記載の医薬組成物。
【請求項8】
高ホモシステイン血症に起因する疾病が、動脈硬化、虚血性心疾患、心筋梗塞、血栓症、末梢血管障害、バージャー病、レイノー病、脳梗塞、脳循環不全、脳血管性痴呆、アルツハイマー病及びパーキンソン病からなる群から選ばれる1種又は2種以上である、請求項7に記載の医薬組成物。
【請求項9】
高ホモシステイン血症に起因する疾病が、動脈硬化である、請求項7に記載の医薬組成物。
【請求項10】
血管内皮細胞の一酸化窒素合成を促進させるための、請求項1乃至請求項3から選択されるいずれか1項に記載の医薬組成物。
【請求項11】
血管内皮細胞由来一酸化窒素の血中濃度を増加させるための、請求項1乃至請求項3から選択されるいずれか1項に記載の医薬組成物。
【請求項12】
血管内皮細胞由来一酸化窒素の血中濃度を維持するための、請求項1乃至請求項3から選択されるいずれか1項に記載の医薬組成物。
【請求項13】
血管内皮細胞由来一酸化窒素の血中濃度の低下に起因する疾病を治療又は予防するための、請求項1乃至請求項3から選択されるいずれか1項に記載の医薬組成物。
【請求項14】
血管内皮細胞由来一酸化窒素の血中濃度の低下に起因する疾病が、高血圧、労作性高血圧、動脈硬化、虚血性心疾患、心不全、心筋梗塞、血栓症、末梢血管障害、肺高血圧、バージャー病、レイノー病、脳虚血、脳梗塞、脳循環不全、脳血管性痴呆、インポテンツ、妊娠中毒症、糖尿病からなる群から選ばれる1種又は2種以上である、請求項13に記載の医薬組成物。
【請求項15】
血管内皮細胞由来一酸化窒素の血中濃度の低下に起因する疾病が、動脈硬化である、請求項13に記載の医薬組成物。
【請求項16】
グルタチオンペルオキシダーゼの活性を増加させるための、請求項1乃至請求項3から選択されるいずれか1項に記載の医薬組成物。
【請求項17】
グルタチオンペルオキシダーゼの活性を維持するための、請求項1乃至請求項3から選択されるいずれか1項に記載の医薬組成物、
【請求項18】
グルタチオンペルオキシダーゼの活性の低下に起因する疾病を治療又は予防するための、請求項1乃至請求項3から選択されるいずれか1項に記載の医薬組成物。
【請求項19】
グルタチオンペルオキシダーゼの活性の低下に起因する疾病が、動脈硬化、虚血性心疾患、虚血性脳疾患、心筋梗塞からなる群から選ばれる1種又は2種以上である、請求項18に記載の医薬組成物。
【請求項20】
グルタチオンペルオキシダーゼの活性の低下に起因する疾病が、動脈硬化である、請求項18に記載の医薬組成物。
【請求項21】
血中ホモシステイン量の低下、血管内皮細胞由来一酸化窒素の血中濃度の増加及びグルタチオンペルオキシダーゼの活性の向上を同時に達成するための、請求項1乃至請求項3から選択されるいずれか1項に記載の医薬組成物。
【請求項22】
配合剤であることを特徴とする、請求項1乃至請求項21に記載の医薬組成物。
【請求項23】
HMG−CoA還元酵素阻害剤と、グルタチオンを含有する薬剤とからなるキットであることを特徴とする、請求項1乃至請求項21に記載の医薬組成物。
【請求項24】
HMG−CoA還元酵素阻害剤とグルタチオンとを同一の医薬組成物中に含有する請求項1乃至請求項3から選択されるいずれか1項に記載の医薬組成物の製造方法。
【請求項25】
動脈硬化治療剤を製造するための、請求項1乃至請求項21から選択されるいずれか1項に記載の医薬組成物の使用。
【請求項26】
HMG−CoA還元酵素阻害剤とグルタチオンとを同時に、順次又は別個に投与する方法。
【請求項27】
哺乳動物に請求項1乃至請求項3から選択されるいずれか1項に記載された医薬組成物の有効量を投与することを特徴とする、動脈硬化症の予防方法又は治療方法。

【公開番号】特開2006−117645(P2006−117645A)
【公開日】平成18年5月11日(2006.5.11)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−269321(P2005−269321)
【出願日】平成17年9月16日(2005.9.16)
【出願人】(000001856)三共株式会社 (98)
【Fターム(参考)】