説明

III−V族化合物半導体の製造方法

【課題】エピタキシャル層中に伝播する結晶欠陥を低減させるIII−V族化合物半導体の製造方法を提供する。
【解決手段】転位密度が面内平均10000個/cm以下であるIII−V族半絶縁性化合物半導体ウエハ(以下、半絶縁体ウエハと言う)を形成し、その半絶縁体ウエハ上に、サブコレクタ層、コレクタ層、ベース層、エミッタ層、エミッタコンタクト層、ノンアロイ層を有するヘテロ接合バイポーラトランジスタを形成するものである。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、エピタキシャル層中に伝播する結晶欠陥を低減させるIII−V族化合物半導体の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
III−V族化合物半導体は、Si(シリコン)半導体に比べて電子移動度が高いという特長がある。III−V族化合物半導体は、この特長を生かして、高速動作や高効率動作を要求される電子デバイスに多く用いられている。
【0003】
ヘテロ接合バイポーラトランジスタ(HBT(Hetero junction Bipolar Transistor))は、電源が正電源だけでよく、携帯電話機の低コスト化・小型化・新モデルの開発等の要求から需要が続いており、近年では、無線LANの増幅用パワーアンプの需要も高まっている。
【0004】
HBT用エピタキシャルウエハは、半絶縁体ウエハ上にサブコレクタ層、コレクタ層、ベース層、エミッタ層、エミッタコンタクト層、ノンアロイ層をこの順で結晶成長させたものである。結晶成長はエピタキシャル成長とも言い、これらの各層はエピタキシャル層とも言う。
【0005】
半絶縁体ウエハは、単結晶を成長させるための下地である。従来、この半絶縁体ウエハは、LEC(Liquid Encapsulated Czochralski)法により製造されている。
【0006】
サブコレクタ層は、金属電極とのオーミックコンタクトを形成するキャリア濃度の大きなn型のGaAs層である。コレクタ層は、ベース層から電子を引き抜く働きを持つキャリア濃度の小さなn型のGaAs層である。ベース層は、電流を制御する働きを持つp型のGaAs層、InGaAs層又はAlGaAs層である。エミッタ層は、電子をベース層に注入し、かつ、ベース層からの正孔の注入を抑止する働きを持つn型のInGaP層又はAlGaAs層である。エミッタコンタクト層は、金属電極とのオーミックコンタクトを形成するキャリア濃度の大きなn型のGaAs層である。ノンアロイ層は、金属電極とのオーミックコンタクトを形成するキャリア濃度の大きなn型のInGaAs層である。
【0007】
従来のHBT用エピタキシャルウエハについて、半絶縁体ウエハの特徴及び各エピタキシャル層の名称、厚さ、キャリア濃度を表1に示す。表1中のエピタキシャル層の並び順は、構造上の並び順と同じにしてある。エピタキシャル層の名称にあるn−は、エピタキシャル層がn型であることを表し、n−、n−は、それぞれキャリア濃度が大きいn型、キャリア濃度が小さいn型を表している。p−は、キャリア濃度が大きいp型を表している。厚さの単位はnm(10−9m)、キャリア濃度の単位はcm−3である。
【0008】
【表1】

【0009】
このHBT用エピタキシャルウエハの成長方法は、以下の通りである。
【0010】
エピタキシャル層を成長させる半絶縁体ウエハをサセプタにセットし、成長炉内で加熱する。成長炉内に原料ガスを供給すると、原料ガスが熱により分解し、ウエハ上にエピタキシャル層が成長する。
【0011】
−GaAs、n−GaAsを成長させる場合には、Ga原料のGa(CH(トリメチルガリウム)とAs原料のAsH(アルシン)とn型ドーパントとを成長炉内に供給する。Ga原料としては、他にGa(CH(トリメチルガリウム)がある。As原料としては、他にAs(CH(トリメチル砒素)、TBA(ターシャリ−ブチルアルシン)がある。n型ドーパントの元素としては、Si(シリコン)やSe(セレン)がある。Si原料として、SiH(モノシラン)、Si(ジシラン)がある。Seとしては、HSe(セレン化水素)がある。
【0012】
−GaAsを成長させる場合には、成長炉内の熱環境を最適化し、Ga(CHCH(トリエチルガリウム)、AsH(アルシン)及びp型ドーパントを成長炉内に供給する。p型ドーパントの元素としては、C(カーボン)がある。C原料としては、CClBr(ブロモトリクロロメタン)、CBr(テトラブロモメタン)がある。
【0013】
n−In0.49GaPを成長させる場合には、Ga(CHCH(トリエチルガリウム)と、P原料のPH(ホスフィン)と、In原料のIn(CH(トリメチルインジウム)を成長炉内に供給する。P原料としては、他にTBP(ターシャリ−ブチルホスフィン)があり、In原料としては、他にIn(CHCH(トリエチルインジウム)がある。
【0014】
−In0.50GaAsを成長させる場合には、n型ドーパントであるSe(セレン)を高濃度にドーピングさせるため、成長炉内の熱環境を最適化し、Ga(CHCH(トリエチルガリウム)、AsH(アルシン)及びHSe(セレン化水素)を成長炉内に供給する。
【0015】
【特許文献1】特開2006−216667号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0016】
トランジスタ特性の高効率化を図るため、従来技術を用い、表1に示したHBT用エピタキシャルウエハについて、HBTの電気的特性である電流利得βを向上させるためには、ベース層中やエミッタ層中、あるいはベース層エミッタ層界面における電子−正孔の再結合を防ぐことが必要となる。そのためには、ベース層中やエミッタ層中の結晶欠陥を低減することや、下地となる半絶縁体ウエハ、エピタキシャル層からの結晶欠陥の伝播を防ぐことが必要となる。
【0017】
ベース層中やエミッタ層中の結晶欠陥については、エピタキシャル成長条件を最適化しなければならないが、下地となる半絶縁体ウエハの結晶欠陥が多いと、その結晶欠陥を伝播させながらエピタキシャル成長をさせることになる。これでは、ベース層中やエミッタ層中の結晶欠陥が多くなって、ベース層中やエミッタ層中、あるいはベース層エミッタ層界面における電子−正孔の再結合が増加してしまい、電流利得βが低下する。
【0018】
下地となる半絶縁体ウエハは、LEC法により製造されているが、この方法は高圧容器内で単結晶を成長させる方法であるため、結晶中の転位密度は高くなってしまう。
【0019】
そこで、本発明の目的は、上記課題を解決し、エピタキシャル層中に伝播する結晶欠陥を低減させるIII−V族化合物半導体の製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0020】
上記目的を達成するために本発明は、転位密度が面内平均10000個/cm以下であるIII−V族半絶縁性化合物半導体ウエハ(以下、半絶縁体ウエハと言う)を形成し、その半絶縁体ウエハ上に、サブコレクタ層、コレクタ層、ベース層、エミッタ層、エミッタコンタクト層、ノンアロイ層を有するヘテロ接合バイポーラトランジスタを形成するものである。
【0021】
上記半絶縁性ウエハのV族原料として、AsH(アルシン)、As(CH(トリメチル砒素)、TBA(ターシャリ−ブチルアルシン)、PH(ホスフィン)、又はTBP(ターシャリ−ブチルホスフィン)を用いてもよい。
【0022】
上記半絶縁性ウエハのIII族原料として、Al(CH(トリメチルアルミニウム)、Ga(CH(トリメチルガリウム)、In(CH(トリメチルインジウム)、Al(CHCH(トリエチルアルミニウム)、Ga(CHCH(トリエチルガリウム)、又はIn(CHCH(トリエチルインジウム)を用いてもよい。
【発明の効果】
【0023】
本発明は次の如き優れた効果を発揮する。
【0024】
(1)エピタキシャル層中に伝播する結晶欠陥を低減させることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0025】
以下、本発明の一実施形態を添付図面に基づいて詳述する。
【0026】
本発明に係るIII−V族化合物半導体の製造方法は、転位密度が面内平均10000個/cm以下であるIII−V族半絶縁性化合物半導体ウエハ(以下、半絶縁体ウエハと言う)を形成し、その半絶縁体ウエハ上に、サブコレクタ層、コレクタ層、ベース層、エミッタ層、エミッタコンタクト層、ノンアロイ層を有するヘテロ接合バイポーラトランジスタ(以下、HBTと言う)を形成するものである。前述したように、半絶縁体ウエハ上に、サブコレクタ層、コレクタ層、ベース層、エミッタ層、エミッタコンタクト層、ノンアロイ層を形成したものがHBT用エピタキシャルウエハであり、このHBT用エピタキシャルウエハからHBTを製造することができる。
【0027】
上記の各エピタキシャル層はMOVPE法で成長させるとよい。
【0028】
転位密度が面内平均10000個/cm以下である半絶縁性ウエハを形成するためには、VB(Vertical Bridgman)法で半絶縁性ウエハを製造するのがよい。VB法は、原料を収めたボートの移動方向に対して温度分布を与えて、ボートを移動させながら結晶成長をさせる方法であるため、精密な温度制御が可能であり、転位密度を少なくすることができる。
【0029】
このようにVB法で製造された転位密度が少ない半絶縁性ウエハを下地とすることにより、エピタキシャル層中に伝播する結晶欠陥を低減させることができる。これにより、ベース層中やエミッタ層中、あるいはベース層エミッタ層界面における電子−正孔の再結合を防ぐことができ、HBTの電気的特性である電流利得βを向上させることができる。
【0030】
また、エピタキシャル層中の結晶欠陥が少なくなったことで、HBTの長期信頼性が向上する。
【0031】
なお、本発明は、HBTを製造する際のIII−V族化合物半導体の製造方法に関するものであるが、HBTと同様の電子デバイスであるFET(Field Effect Transistor)、HEMT(High Electron Mobility Transistor)を製造する際の同様の半導体の製造方法に対しても本発明を適用することが可能である。
【実施例】
【0032】
本発明によるHBT用エピタキシャルウエハについて、半絶縁体ウエハの特徴及び各エピタキシャル層の名称、厚さ、キャリア濃度を表2に示す。表記形式は表1に準じる。
【0033】
【表2】

【0034】
このHBT用エピタキシャルウエハの成長方法は、以下の通りである。
【0035】
成長炉内圧力は10kPa、希釈用ガスは水素である。半絶縁性ウエハには、VB法で成長された半絶縁性GaAsウエハを用いる。この半絶縁性ウエハの転位密度は面内平均で約4000個/cmである。
【0036】
サブコレクタ層であるn−GaAs層の成長には、Ga(CH(トリメチルガリウム)、AsH(アルシン)、Si(ジシラン)を原料ガスとして成長炉内に供給する。Ga(CH(トリメチルガリウム)の流量は、200cc/分である。AsH(アルシン)の流量は、600cc/分である。Si(ジシラン)の流量は、200cc/分である。
【0037】
コレクタ層であるn−GaAs層の成長には、Ga(CH(トリメチルガリウム)、AsH(アルシン)、Si(ジシラン)を原料ガスとして成長炉内に供給する。Ga(CH(トリメチルガリウム)の流量は、200cc/分である。AsH(アルシン)の流量は、600cc/分である。Si(ジシラン)の流量は、10cc/分である。
【0038】
ベース層であるp−GaAs層の成長には、Ga(CHCH(トリエチルガリウム)、AsH(アルシン)、CBr(テトラブロモメタン)を原料ガスとして成長炉内に供給する。Ga(CHCH(トリエチルガリウム)の流量は、500cc/分である。AsH(アルシン)の流量は、10cc/分である。CBr(テトラブロモメタン)の流量は、25cc/分である。
【0039】
エミッタ層であるn−In0.49GaP層の成長には、Ga(CHCH(トリエチルガリウム)、In(CH(トリメチルインジウム)、PH(ホスフィン)、Si(ジシラン)を原料ガスとして成長炉内に供給する。Ga(CHCH(トリエチルガリウム)の流量は、150cc/分である。In(CH(トリメチルインジウム)の流量は、250cc/分である。PH(ホスフィン)の流量は、800cc/分である。Si(ジシラン)の流量は、50cc/分である。なお、従来技術(表1)においても、エミッタ層であるn−In0.49GaP層の成長にジシランを使用する。
【0040】
エミッタコンタクト層であるn−GaAs層の成長には、Ga(CHCH(トリエチルガリウム)、AsH(アルシン)、Si(ジシラン)を原料ガスとして成長炉内に供給する。Ga(CHCH(トリエチルガリウム)の流量は、500cc/分である。AsH(アルシン)の流量は、50cc/分である。Si(ジシラン)の流量は、100cc/分である。
【0041】
ノンアロイ層であるn−In0→0.50GaAs(graded)層の成長には、Ga(CHCH(トリエチルガリウム)、In(CH(トリメチルインジウム)、AsH(アルシン)、HSe(セレン化水素)を原料ガスとして成長炉内に供給する。Ga(CHCH(トリエチルガリウム)の流量は、400cc/分から200cc/分へグレーデッド(傾斜状)に変化させる。In(CH(トリメチルインジウム)の流量は、20cc/分から400cc/分へグレーデッドに変化させる。AsH(アルシン)の流量は、200cc/分である。HSe(セレン化水素)の流量は、10cc/分から200cc/分へグレーデッドに変化させる。
【0042】
ノンアロイ層であるn−In0.50GaAs(granded)層の成長には、Ga(CHCH(トリエチルガリウム)、In(CH(トリメチルインジウム)、AsH(アルシン)、HSe(セレン化水素)を原料ガスとして成長炉内に供給する。Ga(CHCH(トリエチルガリウム)の流量は、200cc/分である。In(CH(トリメチルインジウム)の流量は、400cc/分である。AsH(アルシン)の流量は、200cc/分である。HSe(セレン化水素)の流量は、200cc/分である。
【0043】
このように作製した実施例のHBT用エピタキシャルウエハを用い、プロセスによりエミッタサイズ75μm角のHBTを作製し、HBTとしての電気的特性の評価を行った。また、従来技術のHBT用エピタキシャルウエハも半絶縁性ウエハがLEC法で成長される他は同条件で作製し、同様のHBTを作製し、同様の評価を行った。
【0044】
【表3】

【0045】
表3に、本発明の実施例と従来技術のHBTにおける電流利得β(Ic=1kA/cm、Rb=250Ω/sq)の評価結果を示す。Ω/sqは、ウエハのシート抵抗の単位である。Icはコレクタ電流、Rbはベース抵抗である。
【0046】
表3に示されるように、転位密度が面内平均10000個/cm以下と少ないVB法により成長された半絶縁性ウエハを用いた本発明では、同じエピタキシャル層成長条件下においても、LEC法により成長された半絶縁性ウエハを用いた従来技術より電流利得βが1割ほど向上している。このように電流利得βが向上することは、トランジスタ特性の高効率化につながる。トランジスタ特性の高効率化とは、増幅率が向上し、小さな電流を大きな電流にできると共に、高出力化が可能になるということである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
転位密度が面内平均10000個/cm以下であるIII−V族半絶縁性化合物半導体ウエハ(以下、半絶縁体ウエハと言う)を形成し、その半絶縁体ウエハ上に、サブコレクタ層、コレクタ層、ベース層、エミッタ層、エミッタコンタクト層、ノンアロイ層を有するヘテロ接合バイポーラトランジスタを形成することを特徴とするIII−V族化合物半導体の製造方法。
【請求項2】
上記半絶縁性ウエハのV族原料として、AsH(アルシン)、As(CH(トリメチル砒素)、TBA(ターシャリ−ブチルアルシン)、PH(ホスフィン)、又はTBP(ターシャリ−ブチルホスフィン)を用いることを特徴とする請求項1記載のIII−V族化合物半導体の製造方法。
【請求項3】
上記半絶縁性ウエハのIII族原料として、Al(CH(トリメチルアルミニウム)、Ga(CH(トリメチルガリウム)、In(CH(トリメチルインジウム)、Al(CHCH(トリエチルアルミニウム)、Ga(CHCH(トリエチルガリウム)、又はIn(CHCH(トリエチルインジウム)を用いることを特徴とする請求項1又は2記載のIII−V族化合物半導体の製造方法。

【公開番号】特開2009−54787(P2009−54787A)
【公開日】平成21年3月12日(2009.3.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−219945(P2007−219945)
【出願日】平成19年8月27日(2007.8.27)
【出願人】(000005120)日立電線株式会社 (3,358)
【Fターム(参考)】