説明

III−V族窒化物系半導体基板及びその製造方法、並びにIII−V族窒化物系半導体デバイス

【課題】アズグロウンの状態での基板の反りを小さくすることにより、基板表面の面方位のばらつきを低減させることができるIII−V族窒化物系半導体基板及びその製造方法、並びに当該基板を使用した基板面内均一性に優れたIII−V族窒化物系半導体デバイスを提供する。
【解決手段】基板裏面の転位密度が3×10cm−2以下であり、かつ厚さ方向において基板裏面から表面に至るまで転位密度が3×10cm−2/mm以下の割合で減少しているGaN自立基板10を用いて、その上にGaN系半導体結晶からなるエピタキシャル層を形成して発光素子を形成する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、III−V族窒化物系半導体基板及びその製造方法、並びにIII−V族窒化物系半導体デバイスに関し、特に、アズグロウン(as grown)状態での基板の反りを小さくすることにより、基板表面の面方位のばらつきを低減させることができるIII−V族窒化物系半導体基板及びその製造方法、並びに当該基板を使用して基板面内均一性に優れた、短波長LD(レーザーダイオード)、LED(発光ダイオード)及び高耐圧HEMT(高電子移動度トランジスタ)等のIII−V族窒化物系半導体デバイスに関するものである。
【背景技術】
【0002】
窒化物半導体材料は、禁制帯幅が充分大きくバンド間遷移も直接遷移型であるため、短波長発光素子、特に青色発光ダイオード(LED)の製造に用いられている。また、最近では、更に短波長の紫外LEDや、これらLEDと蛍光体を組み合わせた白色LEDが実用化され始めている。
【0003】
半導体のデバイスを作製する場合、その下地基板にはエピタキシャル成長する結晶と格子定数や線膨張係数の同じ基板を使用する、いわゆるホモエピタキシャル成長を行うのが一般的である。例えば、GaAsやAlGaAsのエピタキシャル成長を行うための基板には、GaAs単結晶基板が用いられている。
【0004】
しかし、III−V族窒化物系半導体結晶に限っては、これまでに実用に足るサイズ、特性のIII−V族窒化物系半導体基板を製造することができなかった。このため、これまでに実用化されている窒化物系発光ダイオードは、そのほとんどが格子定数の近いサファイア基板上に、有機金属気相成長(MOVPE)法を用いてIII−V族窒化物系半導体結晶をヘテロエピタキシャル成長させることにより製造されている。従って、ヘテロ成長であることに起因した様々な問題が発生していた。
【0005】
例えば、サファイア基板とGaNの線膨張係数の違いに起因して、エピタキシャル成長後の基板が大きく反ってしまうという問題が生じていた。これは、エピタキシャル成長後のフォトリソグラフィ工程やチップ加工工程において、基板の割れを生じさせるなど、歩留り低下の原因となる。
【0006】
また、サファイア基板とGaNでは、格子定数が異なるため、窒化物結晶を単結晶成長させるために、一旦本来の結晶成長温度よりも低い温度でバッファ層を堆積させる必要があり、これが結晶成長の工程時間を延ばす要因になっている。更に、サファイア基板上の成長では、サファイアとGaNの格子定数差に起因して、GaNエピ層中に10から10個/cm−2もの多量の転位が発生してしまう。この転位は、発光素子の出力や信頼性を阻害する要因となる。従来の青色系のLEDでは、これまで転位が問題とされることは少なかったが、今後、より高出力化が求められるようになり、また、紫外LEDの実現に向けて短波長化が促進されると、デバイス特性に及ぼす転位の影響が大きくなってくることが予想されており、何らかの対策が必要となっている。
【0007】
これらの問題を解決するため、近年、GaNの単結晶自立基板が開発されてきた。GaN自立基板の製造方法としては、例えば、下地基板に開口部を有するマスクを形成し、開口部からラテラル成長させることにより転位の少ないGaN層を得る技術、いわゆるELO(Epitaxial Lateral Overgrowth)技術を用いてサファイア基板上にGaN層を形成した後、サファイア基板をエッチング等により除去し、GaN自立基板を得ることが提案されている(例えば、特許文献1参照)。
【0008】
また、ELO法をさらに発展させた方法として、FIELO(Facet-Initiated Epitaxial Lateral Overgrowth)法が開発されている(例えば、非特許文献1参照)。FIELO法は、酸化シリコンマスクを用いて選択成長を行う点でELO法と共通するが、選択成長の際にマスク開口部にファセットを形成する点で相違している。ファセットを形成することにより、転位の伝搬方向を変え、エピタキシャル成長層の上面に至る貫通転位を低減する。FIELO法を用いて、例えばサファイア等の下地基板上に厚膜のGaN層を成長させ、その後下地基板を除去すれば、結晶欠陥の比較的少ない良質のGaN自立基板を得ることができる。
【0009】
上記以外にも、低転位のGaN自立基板を得る方法として、DEEP(Dislocation Elimination by the Epi-growth with Inverted-Pyramidal Pits)法が開発されている(例えば、非特許文献2、特許文献2参照)。DEEP法は、GaAs基板上にパターニングした窒化珪素等のマスクを用いてGaNを成長させることにより、結晶表面に意図的にファセット面で囲まれたピットを複数形成し、前記ピットの底部に転位を集積させることにより、その他の領域を低転位化するものである。
【0010】
これらELO法やDEEP法等の方法を用いて異種基板上にHVPE法でGaN膜を成長し、その後、下地基板からGaN層を剥離して得られたGaN基板は、特に低転位結晶の必要なレーザーダイオード(LD)の開発に主に用いられているが、最近では、LED用の基板としても使われるようになってきている。
【特許文献1】特開平11−251253号公報
【特許文献2】特開2003−165799号公報
【非特許文献1】Akira Usui et. al.,「Thick GaN Epitaxial Growth with Low Dislocation Density by Hydride Vapor Phase Epitaxy」, Jpn. J. Appl. Phys. vol. 36(1997) pp. L899-L902
【非特許文献2】Kensaku Motoki et. al., 「Preparation of Large Freestanding GaN Substrates by Hydride Vapor Phase Epitaxy Using GaAs as a Starting Substrate」, Jpn. J. Appl. Phys. Vol. 40(2001)pp. L140-L143
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
しかしながら、上記の方法で得られたアズグロウンのGaN自立基板においても、表面平坦性が悪い、基板の反りが大きい等の理由のため、そのままでは窒化物系半導体用基板として用いることが出来ない。このため、通常、GaN自立基板の表面と裏面を研磨加工して鏡面に仕上げてから、デバイス作製に使用するのが一般的である。
【0012】
しかし、アズグロウンの状態で反りが大きいと、鏡面研磨後に表面の面方位に大きな面内分布を生じてしまう。このような基板を用いてLEDやLDを製作すると、面方位の分布が直接的に発光波長の分布に影響を与えてしまうため、歩留りを大きく損ねてしまうという問題があった。
【0013】
従って、本発明の目的は、上記の課題を解決すること、具体的には、アズグロウンの状態での基板の反りを小さくすることにより、基板表面の面方位のばらつきを低減させることができるIII−V族窒化物系半導体基板及びその製造方法、並びに当該基板を使用して基板面内均一性に優れたIII−V族窒化物系半導体デバイスを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0014】
上記目的を達成すべく本発明のIII−V族窒化物系半導体基板は、III−V族窒化物系半導体結晶からなる自立した半導体基板であって、基板裏面の転位密度が3×10cm−2以下であり、かつ厚さ方向において基板裏面から表面に至るまで転位密度が3×10cm−2/mm以下の割合で減少していることを特徴とする。
【0015】
前記基板厚さは100μm以上10mm以下であることが好ましい。また、前記III−V族窒化物系半導体結晶の組成をInGaAl1−x−yN(0≦x≦1、0≦y≦1、0≦x+y≦1)で表すことができる。
【0016】
また、上記目的を達成すべく本発明のIII−V族窒化物系半導体基板の製造方法は、異種基板上に、III−V族窒化物系半導体結晶を厚さ方向において転位密度が3×10cm−2/mm以下の割合で減少するように堆積する工程と、前記III−V族窒化物系半導体層と前記異種基板とを分離する工程と、前記III−V族窒化物系半導体層の前記異種基板を分離した側の面に対して、転位密度が3×10cm−2以下となるように転位密度を低減する工程と、を含むことを特徴とする。
【0017】
前記III−V族窒化物系半導体結晶を堆積する工程は、HVPE法により行うことが好ましい。また、前記III−V族窒化物系半導体結晶の組成をInGaAl1−x−yN(0≦x≦1、0≦y≦1、0≦x+y≦1)で表すことができる。
【0018】
更に、前記転位密度を低減する工程は、前記III−V族窒化物系半導体層を、前記異種基板を分離した側の面から所定の厚さだけ研磨するものとすることができる。
【0019】
前記III−V族窒化物系半導体基板上に、III−V族窒化物系半導体結晶からなるエピタキシャル層を形成してIII−V族窒化物系半導体デバイスとすることができる。III−V族窒化物系半導体デバイスとしては、LD(レーザーダイオード)、LED(発光ダイオード)、及びHEMT(高電子移動度トランジスタ)等を挙げることができる。
【発明の効果】
【0020】
本発明のIII−V族窒化物系半導体基板によれば、アズグロウンの状態での基板の反りを小さくして、基板表面の面方位のばらつきを低減させることができる。
【0021】
また、本発明のIII−V族窒化物系半導体基板の製造方法によれば、上記の基板表面の面方位のばらつきを低減したIII−V族窒化物系半導体基板を確実に得ることができる。
【0022】
更に、本発明のIII−V族窒化物系半導体デバイスによれば、基板表面の面方位のばらつきを低減させた基板を用いているので、基板面内均一性に優れた特性を有し、歩留りが向上する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0023】
本実施形態に係るIII−V族窒化物系半導体基板は、異種基板上にGaN系半導体単結晶を成長した後、これを剥離することにより得られる自立したGaN単結晶基板であって、基板裏面の転位密度及び、厚さ方向における基板裏面から表面に至るまでの転位密度の割合を特定の範囲としている。以下、これらの点を中心に詳しく説明する。
【0024】
(自立基板)
まず、自立基板(自立した基板)とは、自らの形状を保持できるだけでなく、ハンドリングに不都合が生じない程度の強度を有する基板をいう。このような強度を有するためには、自立基板の厚さを好ましくは100μm以上、更に好ましくは200μm以上とする。
【0025】
(基板裏面)
基板裏面は平坦に研磨加工することが好ましい。これは、転位密度の高い領域を取り除いて後述する低転位密度の範囲に収めると共に、基板にエピ成長を行う際に、基板とサセプタとの密着性を良くするためである。基板の裏面全面が、サセプタと均等に接触していないと、サセプタからの熱伝導が不均一になって、エピ成長中の基板温度が面内で不均一になってしまう。基板温度の面内ばらつきは、結晶成長速度や組成、不純物濃度のばらつきとなって現れるため、特性の面内均一性の高いエピを成長することができなくなってしまう。エピの成長装置には、基板の裏面をサセプタと密着させない、フェイスダウン方式も存在するが、この場合も、基板の裏面に均熱板と呼ぶ平板を置くことが一般的であり、基板の裏面と均熱板との距離にばらつきがあれば、前述の温度ばらつきが生じ、特性の均一性に支障を来たす結果になる。
【0026】
また、GaN基板の裏面(N面)は、表面(Ga面)に較べて研磨が容易であり、裏面の平坦化研磨は、表面ほど工数の増加、歩留りの低下をもたらさない。裏面は、エピ成長時のサセプタとの密着性が問題なく得られる程度に平坦であれば良く、必ずしも鏡面になっている必要はない。即ち、ラップ面や研削面、あるいはこれに歪除去のための処理(エッチング等)を施した面であっても構わない。
【0027】
(基板表面)
GaN基板の基板表面においては、基板裏面のように、低転位密度の範囲に収めたり、基板とサセプタとの密着性を良くしたりする目的で研磨する必要はないが、アズグロウンの状態(結晶成長したままの状態であり、研削や研磨などの加工工程を加えていない状態)では、完全に平坦な面が得られない。デバイスの作成プロセスに微細加工が必要なことから、基板表面においても、裏面と同様に研磨加工を行うことが好ましい。
【0028】
(基板の導電型、キャリア濃度)
基板の導電型は、目的とするデバイスに合わせて適宜制御すべきであり、一律に決めることはできないが、例えば、Si、S、O等をドープしたn型や、MgやZn等をドープしたp型とすることができる。また、基板のキャリア濃度の絶対値も、目的とするデバイスに合わせて適宜制御すべきであるから、一律に決めることはできない。しかし、LED用の基板にあっては、裏面電極のコンタクトが容易に取れる程度の導電性基板であることが望ましく、このためには、基板のキャリア濃度は5×1017cm−3以上であることが望ましい。但し、LED用の基板のキャリア濃度としては、あまり高すぎても、基板の結晶性を下げ、また透明性を損なう原因にもなるため、5×1017cm−3以上、1×1019cm−3以下に制御することがより望ましい。
【0029】
(基板の転位密度)
異種基板上に、ELO法やFIELO法などによりGaNを成長させると、成長初期(おおよそ30μm程度)で大幅に転位が減少し、その後は、一般的な傾向として欠陥がゆっくりと減少していくが、最終的に基板の裏面と表面とで転位密度に大きな差があると格子間隔に差が生じるため、その差により基板が反ってしまう。このため、(1)この成長初期の転位が多い領域を研磨により除去して、裏面の転位密度を裏面の鏡面研磨後の状態で3×10cm−2以下にする、(2)上記の欠陥がゆっくりと減少していく領域の成長条件を制御して、基板の厚さ方向の単位長さ当たり転位密度差を3×10cm−2/mm以下にする、ことによりアズグロウンでの反りを減少させて、面方位のばらつきを抑え、後述する実施例の結果からも明らかなように、大幅に歩留りを向上させることが可能になる。
【0030】
上記の(1)と(2)の条件を満たせば、例えば、基板表面近傍において厚さ250μmで転位密度が1×10cm−2変化する場合(即ち、1mmあたり4×10cm−2位変化する場合)のような急激な転位密度の低下が除かれ、アズグロウンでの反りは大きくならず、よって面方位のばらつきもあまり変化しなくなる。さらに、現状では基板表面全面で10cm−2台の低転位密度を達成したGaN基板は存在しないが、基板裏面の転位密度が3×10cm−2であり、仮に基板表面の転位密度が理想的に0としても、これは最大3×10倍転位密度が異なる場合であり、厚さが1mm以上であれば(1)、(2)の条件を満たすため、十分に小さい面方位ばらつきが得られることになる。
【0031】
(基板の材料)
本実施形態の基板の材料としては、GaNのみならず、一般式:InGaAl1−x−yN(ただし、0≦x≦1、0≦y≦1、及び0≦x+y≦1)で表すIII−V族窒化物系半導体を用いることができる。III−V族窒化物系半導体結晶には、GaNを始めとしてAlNやInN、また、これらの混晶が実用に供されている。基板という観点で見たとき、ある程度の大口径でかつ厚みの厚い結晶を容易に得ることができ、また、ホモエピタキシャル成長も容易なのがGaNであるが、これ以外には、AlNやAlGaNの基板が使い勝手の点で有利である。また、これらの基板表面は(0001)のIII族面であることが望ましい。GaN系の結晶は極性が強く、III族面の方がV族面(窒素面)より化学的及び熱的に安定で、デバイスの作製が容易であるからである。
【0032】
(基板の製造方法)
本実施形態の基板は、異種基板上にGaN系半導体単結晶を成長した後、これを剥離することにより得られる。
GaN系半導体単結晶は、HVPE法(ハイドライド気相成長)により成長することが望ましい。これは、HVPE法は結晶成長速度が速く、厚膜成長を必要とする基板の作製に適するからである。また、GaN系半導体単結晶を成長した後、これを剥離する方法には、ボイド形成剥離法(VAS法)を用いることができる。VAS法は、大口径の基板を再現良く剥離することが可能で、かつ、低転位で特性の均一なGaN系自立基板を得ることができるという点で優れている。異種基板上にGaN系半導体単結晶を成長した後、これを剥離する手法を用いるのは、現状、直径φ2インチ以上でかつハンドリングに耐える十分な厚さを有するGaN系自立基板の成長方法は、VAS法や、FIELO法にレーザーリフトオフ法を組み合わせたような手法に限られているためである。
【0033】
(GaN系デバイス)
本実施形態のGaN自立基板は、その上にMOVPE法でIII−V族窒化物系半導体結晶をエピタキシャル成長させ、短波長のLD、LED及び高耐圧HEMTを製造する用途に適している。本実施形態のGaN自立基板では面方位のばらつきが低減されているので、その基板を用いて、短波長のLDやLEDを製造することにより、発光波長の面内分布が均一なLDやLEDを得ることができる。また、HEMTなどの高周波素子では、基板表面の面方位のばらつきにより、エピ・基板界面に蓄積される導電性を与える不純物の取り込みに差が生じる可能性があるが、本実施形態のGaN自立基板を用いることにより、その面方位のばらつきを抑えてバッファリークの安定化が可能であり、不純物低減の諸策と相まって、低リーク且つそのばらつきが小さい高性能なHEMTエピの提供が可能になる。
【実施例1】
【0034】
(GaN自立基板の製造)
図1に示す製造工程により、GaN自立基板を製造した。
まず、直径2インチ径のC面サファイア基板1上に、MOVPE法で、20nmの低温成長GaNバッファ層を介してSiドープGaN層3を0.5μm成長させた(a)。成長条件は、圧力を常圧とし、バッファ層成長時の基板温度を600℃、エピ層成長時の基板温度を1100℃とした。原料は、III族原料としてTMGを、V族原料としてNHを、ドーパントとしてモノシランを用いた。キャリアガスは、水素と窒素の混合ガスである。結晶の成長速度は4μm/hとした。エピ層のキャリア濃度は、2×1018cm−3とした。
【0035】
次に、このSiドープGaN層3上に、金属Ti薄膜5を20nmの厚さに蒸着した(b)。こうして得られた基板を電気炉に入れ、20%のNHを含有するH気流中において1050℃で20分間熱処理した。その結果、GaN層3の一部がエッチングされて高密度の空隙層(ボイド層)6が発生し、またTi層は窒化されて表面にサブミクロンの微細な穴が高密度に形成されたTiN層7に変化した(c)。
【0036】
この基板をHVPE炉に入れ、キャリアガス中に8×10−3atmのGaCl及び4.8×10−2atmのNHからなる原料ガスを含有する供給ガス用いて、GaN層8を600μmの厚さに成長させた(d)。ここで、キャリアガスは、Hを5%含有するNガスを用いた。GaN層の成長条件は、常圧及び1080℃の基板温度とした。またGaN結晶の成長工程において、ドーピング原料ガスとしてSiHClを基板領域に供給することによりSiをドープした。成長が終了した後、HVPE装置を冷却する過程で、GaN層8はボイド層6を境に下地基板から自然に剥離し、GaNの自立基板が得られた。
【0037】
得られたGaN自立基板9は、裏面側に凸向きに反りを生じており、表面は、裏面の反りの形状を反映した凹面形状になっていた(e)。次に、GaN自立基板9を窒化物系半導体素子用基板として用いることができるようにするため、両面を研磨した。研磨は裏面側から行った。裏面(N面)の研磨は、研削により行ったが、ラップ(GC♯800などを使用)により行ってもよい。一例として、GaN自立基板9を、約150μmから300μmの厚さ、研磨した。その後、NaOH水溶液または塩酸と過酸化水素水の混合液を用いて裏面をエッチングした。例えば、当該混合液は、塩酸:過酸化水素水:水=1:1:2の比率で混合した混合液を用いた。エッチング後裏面粗さは数μm〜数百nmになった。裏面エッチング後GaN自立基板の表面(Ga面)を鏡面化するためラップ後ポリッシュした。更に、表面についても同様の工程で研磨を行い、GaN自立基板10が得られた(f)。
【0038】
この基板(No.1)の裏面及び表面の転位密度はそれぞれ8.1×10、4.3×10cm−2であり、裏面と表面の転位密度比は1.9であった。また、単位厚さあたりの転位密度差は7.6×10cm−2/mmであった。得られた結果を表1に示す。
【0039】
【表1】

【0040】
上記と同様に、図1に示す製造工程により、GaN自立基板を製造した(No.2)。
【0041】
上記と同様に、図1に示す製造工程により、GaN自立基板を製造した(No.3)。
【実施例2】
【0042】
(GaN系発光素子の製造)
得られたNo.1〜3のGaN自立基板10上に、減圧MOVPE法を用いてGaN系発光素子を製造した。
【0043】
図2に、製造したGaN系発光素子の構造を示す。この発光素子は、GaN自立基板10上に、3層のInGaN井戸層21と4層のGaN障壁層とからなる多重量子井戸構造20、Mgをドープしたp型AlGaNクラッド層23、及びMgをドープしたp型GaNコンタクト層24を順次積層し、GaN自立基板10の裏面にn型電極25、p型GaNコンタクト層24の表面にp型電極26を形成したものである。
【0044】
このGaN系発光素子は、周知の有機金属気相成長(MOCVD)法により、有機金属原料として、トリメチルガリウム(TMG),トリメチルアルミニウム(TMA),トリメチルインジウム(TMI),ビスシクロペンタジエニルマグネシウム(CpMg)を、ガス原料として、アンモニア(NH),シラン(SiH)を、キャリアガスとして、水素及び窒素を用い、以下のようにして製造した。
【0045】
まず、No.1のGaN自立基板10上に、厚さ3nmのIn0.15Ga0.85N井戸層21が3層と、厚さ10nmのGaN障壁層22が4層とから成る多重量子井戸構造(MQW)20を有するInGaN系活性層を形成した。この際、それぞれの井戸層及び障壁層形成後に成長中断をおいた。なお、成長中断は、TMG、TMI等のIII族原料の供給を一時的に停止することにより実施した。次に、多重量子井戸構造20の上部に、p型Al0.1Ga0.9Nクラッド層23,p型GaNコンタクト層24を順に形成した。最後に、GaN自立基板10の裏面(N面)側にn型電極25を、p型GaNコンタクト層24上にp型電極26を形成した。
【0046】
次に、No.2、3のGaN自立基板上にも同様にしてGaN系発光素子を製造し、良品率を比較した。なお、GaN基板の厚さは500μmに合わせている。結果を表2に示す。
【0047】
【表2】

【0048】
良品率の絶対値は、エピ構造、成長方法及び規格などにより変わるが、同じ条件で比較した結果、表2に示したとおり、裏面の転位密度が3×10cm−2以下で、かつ単位厚さあたりの転位密度差が3×10cm−2/mm以下とすることにより、大幅な歩留改善を成し遂げることができることが分かった。
【0049】
[他の実施形態]
以上、本発明を実施例に基づいて詳細に説明したが、これらは例示であり、それらの各プロセスの組合せ等にいろいろな変形例が可能なこと、またそうした変形例も本発明の範囲にあることは当業者に理解されるところである。たとえば、実施例においてはGaN結晶成長をHVPE法で行ったが、GaN結晶成長の一部にMOVPE法を組合せても良い。
【0050】
上記実施例では、LED構造における効果を検証したが、MQWを備えるLD構造でも、同様の効果が推定される。
【0051】
また、結晶成長の初期又は途中の段階で、結晶成長界面に複数の凹凸を出しながら成長を行わせるために、SiO等のマスクを用いる周知のELO技術を組合せて用いても良い。
【0052】
また、実施例では下地基板にサファイア基板を用いたが、GaAsやSi、ZrB、ZnO等のように、従来GaN系エピタキシャル層用基板として報告例のある基板は、すべて適用が可能である。
【0053】
更に、実施例ではSiドープのGaNの自立基板の製造方法を例示したが、アンドープや他のドーパント、例えばMgやFe、S、O、Zn、Ni、Cr、Se等をドープしたGaN自立基板に適用することもできる。
【0054】
また、実施例ではGaNの自立基板の製造方法を例示したが、AlN、AlGaN、InGaN、AlInGaNの基板に適用することも可能である。
【図面の簡単な説明】
【0055】
【図1】実施例1に係るGaN自立基板の製造方法を示す模式図である。
【図2】実施例2に係るGaN系発光素子を示す断面図である。
【符号の説明】
【0056】
1 サファイア基板
3 SiドープGaN層
5 Ti薄膜
6 ボイド層
7 TiN層
8 GaN層
9 GaN自立基板
10 GaN自立基板
20 多重量子井戸構造
21 InGaN井戸層
22 GaN障壁層
23 p型AlGaNクラッド層
24 p型GaNコンタクト層
25 n型電極
26 p型電極

【特許請求の範囲】
【請求項1】
III−V族窒化物系半導体結晶からなる自立した半導体基板であって、基板裏面の転位密度が3×10cm−2以下であり、かつ厚さ方向において基板裏面から表面に至るまで転位密度が3×10cm−2/mm以下の割合で減少していることを特徴とするIII−V族窒化物系半導体基板。
【請求項2】
前記基板厚さが100μm以上10mm以下であることを特徴とする請求項1に記載のIII−V族窒化物系半導体基板。
【請求項3】
前記III−V族窒化物系半導体結晶の組成がInGaAl1−x−yN(0≦x≦1、0≦y≦1、0≦x+y≦1)で表されることを特徴とする請求項1に記載のIII−V族窒化物系半導体基板。
【請求項4】
異種基板上に、III−V族窒化物系半導体結晶を厚さ方向において転位密度が3×10cm−2/mm以下の割合で減少するように堆積する工程と、
前記III−V族窒化物系半導体層と前記異種基板とを分離する工程と、
前記III−V族窒化物系半導体層の前記異種基板を分離した側の面に対して、転位密度が3×10cm−2以下となるように転位密度を低減する工程と、
を含むことを特徴とするIII−V族窒化物系半導体基板の製造方法。
【請求項5】
前記III−V族窒化物系半導体結晶を堆積する工程は、HVPE法により行われることを特徴とする請求項4に記載のIII−V族窒化物系半導体基板の製造方法。
【請求項6】
前記III−V族窒化物系半導体結晶の組成がInGaAl1−x−yN(0≦x≦1、0≦y≦1、0≦x+y≦1)で表されることを特徴とする請求項4に記載のIII−V族窒化物系半導体基板の製造方法。
【請求項7】
前記転位密度を低減する工程は、前記III−V族窒化物系半導体層を、前記異種基板を分離した側の面から所定の厚さだけ研磨するものであることを特徴とする請求項4に記載のIII−V族窒化物系半導体基板の製造方法。
【請求項8】
請求項1乃至3のいずれか1項に記載のIII−V族窒化物系半導体基板上に、III−V族窒化物系半導体結晶からなるエピタキシャル層が形成されてなるIII−V族窒化物系半導体デバイス。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2009−23853(P2009−23853A)
【公開日】平成21年2月5日(2009.2.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−186012(P2007−186012)
【出願日】平成19年7月17日(2007.7.17)
【出願人】(000005120)日立電線株式会社 (3,358)
【Fターム(参考)】