説明

MEMSミラーデバイスおよびその製造方法

【課題】エッチング装置へのダメージを減らしながら、小型なMEMSミラーデバイスを提供すること。
【解決手段】底部が開放されたミラー用空洞18およびビーム用空洞19と、底部が閉塞された電極用空洞20とが互いに繋がるように形成された半導体基板12の一部を加工することにより、ミラー用空洞18の直上にミラー8を下側から支持する揺動部22を形成し、ビーム用空洞19の直上に揺動部22を横側から支持する一対のビーム23を形成する。また、電極用空洞20の直上には、互いに間隔を空けて噛み合う固定電極24および可動電極25を形成する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、櫛歯状に噛み合って対向する固定電極および可動電極と、当該可動電極の変位に伴って揺動するミラーとを備える静電容量型のMEMSミラーデバイスおよびその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、レーザ光のスイッチングやスキャニングを実行するデバイスとして、静電駆動型MEMSミラーデバイスが知られている。
たとえば、特許文献1は、スキャニングミラーが取り付けられた上層板と、下層板とを積層した構成からなる静電駆動型MEMSミラースキャナを開示している。特許文献1のMEMSミラースキャナにおいて、上層板には、スキャニングミラーを支持するサスペンションビームと、静電容量駆動源として交互に配置された固定側櫛歯および揺動側櫛歯とが形成されている。下層板には、スキャニングミラーおよびサスペンションビームの揺動を可能にするために、これらの輪郭に添った形状の空洞が形成されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2005−308820号公報
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0004】
本発明のMEMSミラーデバイスは、底部が開放された第1空洞および底部が閉塞された第2空洞が互いに繋がるように選択的に形成され、当該第1空洞および第2空洞を横側から区画するフレーム部を有する半導体基板と、前記半導体基板上に設けられたミラーとを含み、前記半導体基板は、前記第1空洞の直上において前記フレーム部に対して間隔を空けて形成され、前記ミラーを下側から支持する揺動部と、前記第1空洞の直上において前記フレーム部と前記揺動部との間に架設され、前記揺動部が前記第1空洞に浮くように、前記揺動部を横側から支持する直線状のビームと、前記第2空洞の直上において前記フレーム部に固定された櫛歯状の固定電極と、前記第1空洞および前記第2空洞に跨って形成され、前記第1空洞の直上において前記揺動部に接続され、前記第2空洞の直上において前記固定電極に対して互いに間隔を空けて噛み合う櫛歯状の可動電極とを一体的に含み、前記揺動部は、前記可動電極の駆動に伴って前記ビームを揺動軸として揺動する。
【0005】
本発明のMEMSミラーデバイスは、たとえば、本発明のMEMSミラーデバイスの製造方法により製造することができる。具体的には、半導体基板を裏面から選択的にエッチングすることにより、前記裏面側が開放された第1空洞を選択的に形成し、同時に、当該第1空洞に対して表面側に前記半導体基板の表層部を形成し、当該第1空洞を横側から区画するフレーム部を形成する工程と、前記半導体基板の前記表層部の裏面にストッパ絶縁膜を形成する工程と、前記半導体基板の前記表層部の表面にミラーを形成する工程と、前記半導体基板の前記表層部を、前記表面から前記ストッパ絶縁膜まで選択的にエッチングすることにより、残った前記表層部を利用して、前記ミラーを下側から支持する揺動部を前記フレーム部に対して間隔を空けるように形成する工程と、前記半導体基板の前記表層部を、前記表面から前記ストッパ絶縁膜まで選択的にエッチングすることにより、残った前記表層部を利用して、前記揺動部を横側から支持する直線状のビームを、前記フレーム部と前記揺動部との間に架設するように形成する工程と、前記フレーム部を、前記半導体基板の表面から前記半導体基板の厚さ方向の途中部まで選択的にエッチングすることにより電極用トレンチを形成し、同時に、当該電極用トレンチを隔てて互いに噛み合って対向する櫛歯状の固定電極および可動電極を形成する工程と、前記電極用トレンチにエッチング媒体を供給する等方性エッチングにより、前記固定電極および前記可動電極の下方部を連続させて、前記第1空洞に繋がる第2空洞を、前記固定電極および前記可動電極の直下に形成する工程と、前記第2空洞の形成後、前記揺動部および前記ビームが前記第1空洞の直上において浮いた状態となるように、前記ストッパ絶縁膜における前記揺動部および前記ビームからはみ出す部分を選択的に除去する工程とを含む方法により製造することができる。
【0006】
この方法によれば、半導体基板を裏面から厚さ方向途中部までエッチングすることにより第1空洞を形成した後、当該第1空洞に対して表面側に形成された半導体基板の表層部を、ストッパ絶縁膜までエッチングすることにより選択的に除去する。こうして残った表層部を利用して、揺動部を形成する。これにより、半導体基板の表層部からなる揺動部を形成し、同時に、当該揺動部(ミラー)の揺動運動を可能にするためのスペースとして、第1空洞を形成する。
【0007】
ミラーの揺動運動を可能にするために必要な比較的広い面積の第1空洞を、半導体基板の厚さ方向途中部までのエッチングにより画成することができるため、特許文献1のように下層板を厚さ方向に貫通する空洞を形成する場合とは異なり、エッチングの際、半導体基板を支持するエッチング装置の支持台へのエッチングガスなどの衝突量を減らすことができる。
【0008】
同様に、可動電極の駆動を可能にするための第2空洞も、半導体基板の厚さ方向途中部までのエッチングにより電極用トレンチを画成した後、当該電極用トレンチを隔てて噛み合う固定電極および可動電極の下方部を、等方性エッチングで連続させることにより形成する。したがって、第2空洞(電極用トレンチ)を形成する際にも、エッチング装置の支持台へのエッチングガスなどの衝突量を減らすことができる。
【0009】
そして、本発明の方法により製造された本発明のMEMSミラーデバイスは、フレーム部、固定電極および可動電極、ビーム、ならびに揺動部の全てが半導体基板の一部を加工して形成されている。したがって、これらの構成部材を形成するために、特許文献1のように複数の基板を用いる必要がない。そのため、デバイス全体の厚さが半導体基板の厚さ程度で済むので、デバイスの小型化を実現することができる。
【0010】
すなわち、本発明によれば、エッチング装置へのダメージを減らしながら、小型なMEMSミラーデバイスを作製することができる。
また、本発明の製造方法において揺動部およびビームを画成する際に、エッチングガスが第1空洞へ流入することを規制するためのストッパ絶縁膜は、MEMSミラーデバイスの作製後、完全に除去してもよいし、たとえば、揺動部の裏面および/またはビームの裏面に裏面絶縁膜として残しておいてもよい。
【0011】
また、本発明の製造方法では、前記揺動部を形成する工程、前記ビームを形成する工程、および前記固定電極および前記可動電極を形成する工程の少なくとも2つの工程を同時に実行することが好ましい。
これにより、工程数を少なくすることができるので、MEMSミラーデバイスを効率よく作製することができる。
【0012】
また、本発明のMEMSミラーデバイスでは、前記固定電極および/または前記可動電極に埋設され、前記固定電極および/または前記可動電極の一部を前記半導体基板の他の部分から選択的に絶縁する分離絶縁膜をさらに含むことが好ましい。
これにより、固定電極および/または可動電極を、半導体基板の他の部分に対して電気的に独立(絶縁)させることができるので、半導体基板における当該他の部分の表面を、固定電極および可動電極に接続される配線を引き回すためのスペースとして効率的に利用することができる。
【0013】
このような分離絶縁膜は、前記電極用トレンチの形成に先立って、前記半導体基板を前記表面から選択的にエッチングすることにより、前記半導体基板に分離用トレンチを形成する工程と、前記分離用トレンチに絶縁材料を埋設することにより、前記分離用トレンチ内に分離絶縁膜を形成する工程とを実行することにより形成することができる。そして、前記電極用トレンチを形成する際に、前記固定電極および前記可動電極の一部が、前記分離絶縁膜により前記半導体基板の他の部分から絶縁されるように、前記半導体基板をエッチングすればよい。
【0014】
また、本発明のMEMSミラーデバイスでは、前記ミラーと同一層に形成され、前記固定電極および/または前記可動電極に電圧を印加するための配線をさらに含んでいてもよい。
この「同一層」とは、同一の工程により互いに同時進行で作製される層同士の関係を指し、たとえば、固定電極および/または可動電極の配線を形成する工程を、ミラーを形成する工程と同時に実行することにより、配線とミラーとを同一層に形成することができる。
【0015】
また、本発明のMEMSミラーデバイスでは、前記可動電極は、互いに隣り合う前記固定電極に対して、前記半導体基板の表面に沿って近づく方向および遠ざかる方向に交互に変位する横型可動電極を含んでいてもよい。
固定電極と横型可動電極との間に、同極性/異極性の駆動電圧が交互に与えられると、横型可動電極が、互いに隣り合う固定電極の間を半導体基板の表面に沿う横方向に振動する。これにより、可動電極に接続された揺動部が、その振動と同じ位相および同じ周期で横方向に振動する。その結果、揺動部で支持されたミラーを横方向に共振させることができ、ビームを揺動軸として揺動させることができる。
【0016】
また、本発明のMEMSミラーデバイスでは、前記可動電極は、櫛歯状の前記固定電極の隙間において、前記半導体基板の表面を横切るように前記第2空洞に近づく方向および遠ざかる方向に交互に変位する縦型可動電極を含んでいてもよい。
固定電極と縦型可動電極との間に、同極性/異極性の駆動電圧が交互に与えられると、縦型可動電極が、櫛歯状の固定電極の隙間において半導体基板の表面を横切る縦方向に振動する。これにより、可動電極に接続された揺動部が、その振動と同じ位相および同じ周期で縦方向に振動する。その結果、揺動部で支持されたミラーを、ビームを揺動軸として揺動させることができる。
【0017】
可動電極の縦方向振動を利用してミラーを直接的に揺動させるので、ミラーの共振を利用してミラーを間接的に揺動させる場合に比べて、縦型可動電極の可動域が小さくても、ミラーを十分に揺動させることができる。その結果、縦型可動電極を駆動させるための電圧を小さくすることができる。
可動電極を縦方向に駆動させる場合、前記縦型可動電極および/または前記固定電極は、他方の電極の表面からはみ出すように前記第2空洞から離れる方向へ反っているか、または、他方の電極の裏面からはみ出すように前記半導体基板の裏面へ向かう方向へ反っていることが好ましい。
【0018】
これにより、縦型可動電極と固定電極との間に、縦方向に沿って所定の間隔を空けることができるので、縦方向(駆動方向)に0(ゼロ)を超える大きさの成分を持つ静電引力/斥力を発生させることができる。そのため、小さな駆動電圧でも縦型可動電極を簡単に駆動させることができる。
また、本発明のMEMSミラーデバイスでは、前記半導体基板は、導電性シリコン基板であることが好ましい。
【0019】
半導体基板が導電性シリコン基板であれば、櫛歯状の固定電極および可動電極に対して導電性を付与するための特別な処理を施さなくても、成形後の構造をそのまま電極として利用することができる。また、電極として利用される部分を除く部分を、配線として利用することができる。
また、本発明のMEMSミラーデバイスの製造方法では、前記第2空洞を形成する工程は、前記固定電極および前記可動電極の側壁に保護膜を形成する工程と、前記電極用トレンチの底面上から前記保護膜を選択的に除去する工程と、前記保護膜の除去後、異方性エッチングにより前記電極用トレンチを掘り下げた後、等方性エッチングにより前記固定電極および可動電極の下方部を除去して前記第2空洞を形成する工程とを含むことが好ましい。
【0020】
この方法によれば、固定電極および可動電極の側壁が保護膜で覆われるため、半導体基板の等方性エッチングにより第2空洞を形成する際、エッチング媒体が固定電極および可動電極の側壁へ接触することを防止することができる。そのため、固定電極および可動電極の侵食を低減することができるので、固定電極および可動電極の大きさのばらつきを少なくすることができる。
【0021】
そして、本発明のMEMSミラーモジュールは、本発明のMEMSミラーデバイスを備えているので、小型なMEMSミラーモジュールを実現することができる。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【図1】図1は、本発明の一実施形態に係るMEMSミラーモジュールを備えるレーザプロジェクタの概略構成図である。
【図2】図2は、本発明の第1実施形態に係るMEMSミラーデバイスの模式平面図である。
【図3】図3は、図2に示すMEMSミラーデバイスの要部拡大図(図2の破線で囲まれる部分)である。
【図4】図4は、図2に示すMEMSミラーデバイスの断面図であって、図2の切断線A−Aおよび図3の切断線B−Bでの切断面を示す。
【図5A】図5Aは、図2に示すMEMSミラーデバイスの製造工程の一部を示す図であって、図4と同じ位置での切断面を示す。
【図5B】図5Bは、図5Aの次の工程を示す図である。
【図5C】図5Cは、図5Bの次の工程を示す図である。
【図5D】図5Dは、図5Cの次の工程を示す図である。
【図5E】図5Eは、図5Dの次の工程を示す図である。
【図5F】図5Fは、図5Eの次の工程を示す図である。
【図5G】図5Gは、図5Fの次の工程を示す図である。
【図5H】図5Hは、図5Gの次の工程を示す図である。
【図5I】図5Iは、図5Hの次の工程を示す図である。
【図5J】図5Jは、図5Iの次の工程を示す図である。
【図5K】図5Kは、図5Jの次の工程を示す図である。
【図5L】図5Lは、図5Kの次の工程を示す図である。
【図5M】図5Mは、図5Lの次の工程を示す図である。
【図6】図6は、本発明の第2実施形態に係るMEMSミラーデバイスの模式平面図である。
【図7】図7は、図6に示すMEMSミラーデバイスの要部拡大図(図6の破線で囲まれる部分)である。
【図8】図8は、図6に示すMEMSミラーデバイスの断面図であって、図7の切断線C−Cでの切断面を示す。
【図9】図9は、図8に示す固定電極の変形例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0023】
以下では、本発明の実施の形態を、添付図面を参照して詳細に説明する。
<MEMSミラーモジュールの使用形態>
図1は、本発明の一実施形態に係るMEMSミラーモジュールを備えるレーザプロジェクタの概略構成図である。
図1を参照して、MEMSミラーモジュールがレーザプロジェクタに使用される場合の形態について説明する。
【0024】
レーザプロジェクタ1は、赤色レーザダイオード2、緑色レーザダイオード3および青色レーザダイオード4を含むレーザ光源5と、RGBコンバイナ6と、MEMSミラーモジュール7とを含む。
MEMSミラーモジュール7は、レーザ光を反射させるミラー8を有するMEMSミラーデバイス9と、MEMSミラーデバイス9を駆動させるための駆動ドライバの一例としての駆動IC10(Integrated Circuit)とを含む。図1ではMEMSミラーデバイス9を1つのみ示しているが、実用的には、MEMSミラーデバイス9は、モジュール内に行列状に配列されたミラーアレイとして設置される。その場合、各MEMSミラーデバイス9は、複数の画素が集まってスクリーン11上に映し出される画像の各画素に1つずつ対応して設けられる。
【0025】
このレーザプロジェクタ1は、たとえば、レーザ光源5から出射した赤色レーザ(波長が635nm〜640nm)、緑色レーザ(波長が510nm〜535nm)および青色レーザ(波長が450nm〜460nm)の3色のレーザ光をRGBコンバイナ6で混ぜ合わせ、合波後のレーザ光を、駆動IC10の制御により電圧が印加されてオンした各MEMSミラーデバイス9のミラー8により、スクリーン11へ向かって反射させる。これにより、各MEMSミラーデバイス9からの反射レーザ光がスクリーン11上に集められ、目的となる画像として映し出される。
<MEMSミラーデバイスの全体構成(横型駆動タイプ)>
図2は、本発明の第1実施形態に係るMEMSミラーデバイスの模式平面図である。
【0026】
次に、図2を参照して、MEMSミラーデバイス9の全体構成について説明する。
MEMSミラーデバイス9は、平面視長方形状の半導体基板12を含んでおり、櫛歯状の固定電極24(後述)に対して噛み合う櫛歯状の可動電極25(後述)が、半導体基板12の表面13に沿う横方向に振動する横型駆動タイプである。
半導体基板12は、たとえば、300μm〜725μmの厚さT(図4参照)を有する導電性シリコン基板(たとえば、5Ω・m〜500Ω・mの抵抗率を有する低抵抗基板)からなる。
【0027】
半導体基板12の一方の長辺に沿う周縁部には、平面視長方形状の電極パッド14〜16が当該長辺に沿って配列されている。電極パッド14〜16は、半導体基板12の長手方向中央に対して一方側および他方側に3つずつ設けられている。これらの電極パッド14〜16には、駆動IC10(図1参照)から電圧を印加するために、ワイヤ(図示せず)などが接続されている。
【0028】
また、半導体基板12には、底部が開放された第1空洞17が形成されている。この第1空洞17は、半導体基板12の中心部に形成された平面視円形のミラー用空洞18と、当該ミラー用空洞18に対して半導体基板12の長手方向(長辺に沿う方向)一方側および他方側に1つずつ、当該長手方向に沿って延び、それぞれがミラー用空洞18の直径Dよりも狭い幅W(図3参照)を有する直線状のビーム用空洞19とからなる。ミラー用空洞18の直径Dは、たとえば、500μm〜2000μmであり、ビーム用空洞19の幅Wは、たとえば、1μm〜10μmである。
【0029】
半導体基板12の中心部を取り囲む周辺部には、底部が閉塞された第2空洞の一例としての電極用空洞20が複数形成されている。複数の電極用空洞20は、ミラー用空洞18に対して半導体基板12の長手方向一方側および他方側に2つずつ、合計2組形成されている。各組の電極用空洞20は、ビーム用空洞19を挟んで電極パッド14〜16に近い側および遠い側に1つずつ、互いに平行に形成されている。そして、各電極用空洞20のミラー用空洞18に近い側の端部がミラー用空洞18に連通することにより、電極用空洞20とミラー用空洞18とは互いに繋がっている。
【0030】
上記のようなミラー用空洞18、ビーム用空洞19および電極用空洞20は、半導体基板12のフレーム部21によって区画されている。このフレーム部21は、後述する揺動部22、ビーム23、固定電極24および可動電極25などを半導体基板12の加工により形成した後、加工されずに残る半導体基板12本来の厚さT(たとえば、300μm〜725μm)を有する部分である。
【0031】
また、半導体基板12は、揺動部22、ビーム23、固定電極24および可動電極25を有しており、これらは半導体基板12の一部を加工して形成されている。
揺動部22は、平面視円形に形成されている。円形の揺動部22は、ミラー用空洞18の直上において、ミラー用空洞18を取り囲むフレーム部21の周縁部全周にわたり、当該周縁部に対して間隔を空けて配置されている。
【0032】
この揺動部22の上には、ミラー8が設けられている。ミラー8は、たとえば、アルミニウム(Al)からなり、揺動部22とほぼ同じ形状に形成されている。
ビーム23は、各ビーム用空洞19に1つずつ合計2つ(一対)設けられている。一対のビーム23はそれぞれ、フレーム部21における各ビーム用空洞19の半導体基板12の短辺に近い側の端部を区画する部分からビーム用空洞19に沿って延びる直線状に形成され、その終端部が揺動部22に一体的に接続されている。一対のビーム23により、揺動部22は、半導体基板12の表面13に沿う横方向から浮いた状態で両持ち支持されている。
【0033】
固定電極24は、各電極用空洞20の直上においてフレーム部21に固定された櫛歯状であり、各開放端が半導体基板12の幅方向(短辺に沿う方向)内側へ向くように形成されている。また、ビーム用空洞19を挟んで互いに隣り合う1組の固定電極24は、それらの歯26の先端同士が半導体基板12の幅方向に対向するように、同じピッチP(たとえば、2μm〜10μm 図3参照)を有している。つまり、互いに隣り合う固定電極24の歯26は、互いに段違いになっているのではなく、半導体基板12の幅方向に沿う同一直線上に配置されている。また、固定電極24の歯26の長さL(フレーム部21から先端までの距離 図3参照)は、たとえば、100μm〜300μmであり、当該長さLに直交する幅Wは、たとえば、0.5μm〜1.5μmである。
【0034】
横型可動電極の一例としての可動電極25は、各電極用空洞20上において固定電極24に対して互いに間隔を空けて噛み合う櫛歯状であり、各開放端が半導体基板12の幅方向外側へ向くように形成されている。このような可動電極25は、各電極用空洞20およびミラー用空洞18に跨り、半導体基板12の長手方向に沿って直線状に延びるアーム部27と、各電極用空洞20の直上においてアーム部27に一定間隔で配列された複数の歯28とを有する。アーム部27における歯28のピッチP(図3参照)は、たとえば、固定電極24の歯26のピッチPと同じ(たとえば、10μm〜30μm)である。また、可動電極25の歯28の長さL(アーム部27から先端までの距離)は、たとえば、100μm〜300μmであり、当該長さLに直交する幅Wは、たとえば、4μm〜10μmである。
【0035】
このように、このMEMSミラーデバイス9では、半導体基板12の中心部に形成された揺動部22に対して半導体基板12の4隅方向のそれぞれに、固定電極24および可動電極25が互いに噛み合って構成される駆動部が1つずつ合計4つ設けられている。なお、駆動部の数は、図2のように4つに限られず、たとえば、4隅の方向のそれぞれに駆動部が2つずつ、3つずつというように複数個ずつ設けられていてもよい。
【0036】
半導体基板12上には、固定電極24に電圧を印加するための第1配線29および第2配線30が形成されている。固定電極24の各歯26には、第1配線29および第2配線30が1本ずつ接続されている。これらの配線29,30は、半導体基板12の周縁部において、電極パッド14,15として露出している。残りの電極パッド16は、半導体基板12のフレーム部21に接続されており、可動電極25の電圧を基板電位に固定するためのグランド配線の役割を兼ねている。
<固定電極および可動電極の要部構成>
図3は、図2に示すMEMSミラーデバイス9の要部拡大図(図2の破線で囲まれる部分)である。
【0037】
次に、図3を参照して、固定電極24および可動電極25の具体的な構造を説明する。
固定電極24の各歯26は、フレーム部21に近い側の基端部に第1分離絶縁膜31(たとえば、酸化シリコン(SiO))が埋め込まれることにより、フレーム部21から絶縁されている。
絶縁された固定電極24の各歯26は、互いに平行に延びる直線状の主フレーム32と、当該主フレーム32間に架設された複数の横フレーム33とを含む平面視梯子状の骨組み構造を有しており、各横フレーム33に第2分離絶縁膜34(たとえば、酸化シリコン(SiO))が埋め込まれることにより、横フレーム33を横切る方向に沿って2分割されている。これにより、固定電極24の各歯26において、第2分離絶縁膜34に対して一方側の主フレーム32(第1主フレーム35)および他方側の主フレーム32(第2主フレーム36)は互いに絶縁されており、それぞれ独立した電極として機能する。第1主フレーム35には第2分離絶縁膜34を横切る第1配線29が接続され、第2主フレーム36には第2分離絶縁膜34を横切る第2配線30が接続されている。
【0038】
このように固定電極24の各歯26を互いに絶縁された2つの部分に分割する理由は、可動電極25が動けなくなるのを防止するためである。すなわち、第2分離絶縁膜34が設けられず、固定電極24の各歯26全体が同電位となる状態であると、たとえば、固定電極24に正電圧を印加したときに、基板電位に固定された可動電極25には、当該可動電極25に対してミラー8に近い側の固定電極24によりミラー8に近づく方向のクーロン引力が加えられると同時に、ミラー8に遠い側の固定電極24によりミラー8から遠ざかる方向のクーロン引力が加えられる。その結果、駆動方向(半導体基板12の長手方向)に沿って可動電極25に加わる合力が0(ゼロ)になり、可動電極25が動けなくなる。このような現象を防止するためである。
【0039】
一方、固定電極24の各歯26が2分割されていれば、たとえば、ミラー8に近い第1主フレーム35に正電圧、ミラー8に遠い第2主フレーム36に負電圧を印加したときに、基板電位に固定された可動電極25には、ミラー8に近い側の固定電極24の第2主フレーム35によりミラー8から遠ざかる方向のクーロン斥力を加えることができると同時に、ミラー8に遠い側の固定電極24の第1主フレーム35によりミラー8から遠ざかる方向のクーロン引力を加えることができる。その結果、駆動方向(半導体基板12の長手方向)に沿って可動電極25に加わる合力を、クーロン引力+クーロン斥力とすることができるので、可動電極25を確実に駆動させることができる。そして、可動電極25を横方向に振動させるには、第1主フレーム35および第2主フレーム36との間に互いに反対極性の電圧を印加する動作を繰り返せばよい。
【0040】
また、可動電極25の各歯28も固定電極24と同様に、互いに平行に延びる直線状の主フレーム37と、当該主フレーム37間に架設された複数の横フレーム38とを含む平面視梯子状の骨組み構造を有している。
<MEMSミラーデバイス9の断面構成>
図4は、図2に示すMEMSミラーデバイスの断面図であって、図2の切断線A−Aおよび図3の切断線B−Bでの切断面を示す。
【0041】
次に、図4を参照して、MEMSミラーデバイス9の主要な断面構造を説明する。
A−A断面において、揺動部22の厚さTは、たとえば、5μm〜50μmであり、フレーム部21の厚さTは、たとえば、300μm〜725μmである。揺動部22とフレーム部21との間には、たとえば、1μm〜20μmの隙間39が設けられている。また、ミラー用空洞18の深さd(半導体基板12の裏面42から揺動部22の裏面44までの距離)は、たとえば、295μm〜720μmである。
【0042】
この揺動部22を含む半導体基板12の表面13には、酸化シリコン(SiO)からなる層間絶縁膜40が形成されている。層間絶縁膜40の厚さは、たとえば、0.2μm〜1μmである。揺動部22上のミラー8は、この層間絶縁膜40上に形成されている。ミラー8の厚さTは、たとえば、0.1μm〜1μmである。
層間絶縁膜40上には、ミラー8の表面を覆うように、窒化シリコン(SiN)または酸化シリコン(SiO)からなるパッシベーション膜41が形成されている。パッシベーション膜41の厚さは、たとえば、0.5μm〜1.5μmである。
【0043】
一方、半導体基板12の裏面42には、ミラー用空洞18を横側から区画するフレーム部21の側面43およびミラー用空洞18を上側から区画する揺動部22の裏面44を覆うように、その全域に酸化シリコン(SiO)からなる裏面絶縁膜45が形成されている。裏面絶縁膜45の厚さTは、たとえば、0.5μm〜1μmである。
B−B断面の固定電極24において、固定電極24の第1主フレーム35と第2主フレーム36との間を絶縁分離する第2分離絶縁膜34は、固定電極24の表面(半導体基板12の表面13)から裏面に至るまで半導体基板12に埋め込まれている。この第2分離絶縁膜34の幅Wは、たとえば、1μm〜2μmである。また、図示しないが、第1分離絶縁膜31も同様に、固定電極24の表面(半導体基板12の表面13)から裏面に至るまで半導体基板12に埋め込まれている。
【0044】
また、固定電極24および可動電極25の厚さT,Tは、たとえば、10μm〜20μmである。また、電極用空洞20の深さd(固定電極24および可動電極25の裏面から電極用空洞20の底部までの距離)は、たとえば、5μm〜20μmである。
また、A−A断面で説明した層間絶縁膜40およびパッシベーション膜41は、固定電極24上にも同様に積層されている。固定電極24に接続される第1配線29および第2配線30は、層間絶縁膜40の表面に敷設され、その表面がパッシベーション膜41により覆われている。第1配線29および第2配線30は、層間絶縁膜40を貫通して、固定電極24の第1主フレーム35および第2主フレーム36にそれぞれ接続されている。
【0045】
B−B断面のビーム23において、ビーム23の厚さTは、揺動部22の厚さTと同じであり、たとえば、5μm〜50μmである。そして、A−A断面で説明した層間絶縁膜40およびパッシベーション膜41は、ビーム23上にも同様に積層されている。
一方、ビーム23の裏面46には、A−A断面で説明した裏面絶縁膜45が、その全域を覆うように形成されている。
<MEMSミラーデバイスの動作方法>
図1〜図4を参照して、このMEMSミラーデバイス9を動作させるには、駆動IC10により、可動電極25を基板電位に固定した状態で、第1配線29および第2配線30により、第1主フレーム35および第2主フレーム36との間に互いに反対極性の電圧を印加する動作を繰り返す。たとえば、まず、第1主フレーム35に正電圧(たとえば、50V〜300V)を印加すると同時に、第2主フレーム36に負電圧(たとえば、−50V〜−300V)を印加し、次に、第1主フレーム35に負電圧を印加すると同時に、第2主フレーム36に正電圧を印加する。そして、この動作を繰り返す。これにより、固定電極24と、当該固定電極24に対してミラー8に近い側の可動電極25との間にクーロン斥力/クーロン引力を交互に発生させることができる。その結果、可動電極25を半導体基板12の長手方向に沿って振動させることができる(図3の実線矢印参照)。
【0046】
この振動は、可動電極25のアーム部27が接続された揺動部22に伝わるので、揺動部22は、可動電極25の振動と同じ位相および同じ周期で振動することになる。その結果、揺動部22で支持されたミラー8を半導体基板12の長手方向に沿って共振させることができ、一対のビーム23を揺動軸として揺動させることができる(図4の実線矢印参照)。これにより、MEMSミラーデバイス9をオン状態にすることができ、RGBコンバイナ6で合波されたレーザ光を、所定の角度で反射させることができる。
<MEMSミラーデバイス9の製造方法>
図5A〜図5Mは、図2に示すMEMSミラーデバイスの製造工程の一部を工程順に示す図であって、図4と同じ位置での切断面を示す。
【0047】
前述のMEMSミラーデバイス9を製造するには、たとえば、まず図5Aに示すように、表面13および裏面42を有する半導体基板12を用意する。
次に、図5Bに示すように、熱酸化法(たとえば、1000℃〜1200℃の熱酸化処理)により、半導体基板12の表面13に層間絶縁膜40を形成し、同時に、半導体基板12の裏面42に裏面絶縁膜45を形成する。次に、公知のパターニング技術により、裏面絶縁膜45における第1空洞17(ミラー用空洞18およびビーム用空洞19)を形成すべき領域を選択的に除去する。そして、残った裏面絶縁膜45をハードマスクとして利用するドライエッチングにより、半導体基板12を裏面からエッチングする。これにより、半導体基板12の裏面42側が開放されたミラー用空洞18およびビーム用空洞19が形成され、同時に、これらの空洞18,19に対して半導体基板12の表面13側に半導体基板12の表層部47が形成される。また、当該空洞18,19を横側から区画するフレーム部21が形成される。
【0048】
次に、図5Cに示すように、半導体基板12におけるミラー用空洞18およびビーム用空洞19に露出する部分を熱酸化(たとえば、900℃〜1200℃の熱酸化処理)することにより、フレーム部21の側面43および表層部47の裏面44,46に絶縁膜48を形成する。当該絶縁膜48は、裏面絶縁膜45と一体化する。
次に、図5Dに示すように、公知のパターニング技術により、層間絶縁膜40における第1分離絶縁膜31および第2分離絶縁膜34を形成すべき領域を除去する。そして、残った層間絶縁膜40をハードマスクとする異方性のディープRIE(Reactive Ion Etching:反応性イオンエッチング)により、具体的にはボッシュプロセスにより、半導体基板12を表面から掘り下げる。これにより、半導体基板12に複数の分離用トレンチ49が形成される。ボッシュプロセスでは、SF(六フッ化硫黄)を使用して半導体基板12をエッチングする工程と、C(パーフルオロシクロブタン)を使用してエッチング面に保護膜を形成する工程と交互に繰り返す。これにより、高いアスペクト比で半導体基板12をエッチングすることができるが、エッチング面(分離用トレンチ49の内周面)にスキャロップと呼ばれる波状の凹凸が形成される。
【0049】
次に、図5Eに示すように、半導体基板12に形成された分離用トレンチ49内部を熱酸化(たとえば、1000℃〜1200℃の熱酸化処理)し、その後、酸化膜の表面をエッチバックする。これにより、分離用トレンチ49を埋め尽くす第1分離絶縁膜31および第2分離絶縁膜34が同時に形成される(第2分離絶縁膜34のみ図示)。
次に、図5Fに示すように、層間絶縁膜40を選択的に除去することにより、層間絶縁膜40にコンタクトホールを形成する。次に、当該コンタクトホールを埋め尽くすコンタクトプラグを形成した後、スパッタ法により、層間絶縁膜40上にアルミニウム(Al)を堆積し、当該アルミニウムの堆積層をパターニングする。これにより、層間絶縁膜40上に、ミラー8、第1配線29および第2配線30が同時に形成される。
【0050】
次に、図5Gに示すように、CVD(Chemical Vapor Deposition:化学気相成長)法により、ミラー8、第1配線29および第2配線30を覆うように、層間絶縁膜40上にパッシベーション膜41を形成する。
次に、図5Hに示すように、公知のパターニング技術により、パッシベーション膜41および層間絶縁膜40を選択的に除去する。次に、パッシベーション膜41をハードマスクとする異方性のディープRIEにより、具体的にはボッシュプロセスにより、半導体基板12を表面から掘り下げる。これにより、半導体基板12が、固定電極24および可動電極25の形状に成形されとともに、それらの間に半導体によって区画される電極用トレンチ50が形成される。同時に、表層部47が揺動部22およびビーム23の形状に成形され、それらを取り囲むように、裏面絶縁膜45によって下端が閉塞された隙間39が形成される。
【0051】
この際、互いに厚さの異なる固定電極24や揺動部22を同時に形成するため、相対的に薄い揺動部22およびビーム23が形成される領域においては、成形後も、揺動部22等の成形に寄与しない不要なエッチングが続けられることになる。この実施形態では、揺動部22およびビーム23へと加工される半導体基板12の表層部47とフレーム部21との間の隙間39の下端が裏面絶縁膜45で閉塞されており、この裏面絶縁膜45がエッチングに用いられるSF等のエッチングガスのストッパ膜として機能するので、揺動部22等の形成後、固定電極24等を成形するために供給されるエッチングガスが揺動部22やビーム23に対して第1空洞17(ミラー用空洞18およびビーム用空洞19)側へ通り抜けることを防止することができる。
【0052】
次に、図5Iに示すように、熱酸化法またはPECVD法により、電極用トレンチ50および隙間39の内面全域を含む半導体基板12の表面13に、酸化シリコン(SiO)からなる保護薄膜51を形成する。
次に、図5Jに示すように、エッチバックにより、保護薄膜51における電極用トレンチ50の側面上の部分を残して、他の部分が選択的に除去される。これにより、電極用トレンチ50の底面が露出した状態となる。
【0053】
次に、図5Kに示すように、パッシベーション膜41をハードマスクとする異方性のディープRIEにより、電極用トレンチ50の底面をさらに掘り下げる。これにより、電極用トレンチ50の底部に、半導体基板12の結晶面が露出した露出空間52を形成する。この際にも、隙間39の下端を閉塞する裏面絶縁膜45がエッチングに用いられるSF等のエッチングガスのストッパ膜として機能するので、露出空間52を形成するために供給されるエッチングガスが揺動部22やビーム23に対して第1空洞17側へ通り抜けることを防止することができる。
【0054】
次に、図5Lに示すように、等方性のRIEにより、電極用トレンチ50の露出空間52に反応性イオンおよびエッチングガスを供給する。そして、その反応性イオンなどの作用により、半導体基板12が、各露出空間52を起点に半導体基板12の厚さ方向にエッチングされつつ、半導体基板12の表面13に平行な方向にエッチングされる。これにより、互いに隣接する全ての露出空間52が一体化して、半導体基板12の内部に電極用空洞20が形成されるとともに、電極用空洞20内において、固定電極24および可動電極25が浮いた状態となる。
【0055】
次に、図5Mに示すように、パッシベーション膜41をハードマスクとするドライエッチングにより、保護薄膜51の残りの部分および裏面絶縁膜45における隙間39を閉塞していた部分を選択的に除去する。これにより、ミラー用空洞18およびビーム用空洞19それぞれにおいて、揺動部22およびビーム23が浮いた状態となる。
以上の工程を経て、図2〜図4に示すMEMSミラーデバイス9が得られる。
【0056】
以上のように、本実施形態のMEMSミラーデバイス9の製造方法によれば、図5Bに示すように、半導体基板12を裏面42から厚さ方向途中部までエッチングすることにより第1空洞17(ミラー用空洞18およびビーム用空洞19)を形成した後、図5Hに示すように、当該第1空洞17に対して表面13側に形成された半導体基板12の表層部47を、ストッパ絶縁膜までエッチングすることにより選択的に除去する(図5H参照)。
【0057】
こうして残った表層部47を利用して、揺動部22およびビーム23を形成する。これにより、半導体基板12の表層部47からなる揺動部22およびビーム23を形成し、同時に、当該揺動部22(ミラー8)の揺動運動を可能にするためのスペースとして、ミラー用空洞18を形成する。
ミラー8の揺動運動を可能にするために必要な比較的広い面積のミラー用空洞18(たとえば、直径Dが500μm〜2000μm)を、半導体基板12の厚さ方向途中部までのエッチングにより画成することができるため、特許文献1のように下層板を厚さ方向に貫通する空洞を形成する場合とは異なり、エッチングの際、半導体基板12を裏面42から支持するエッチング装置の支持台へのエッチングガスなどの衝突量を減らすことができる。
【0058】
しかも、固定電極24および可動電極25を成形して、それらの直下に電極用空洞20を形成する一連の工程(図5H〜図5Lの工程)において、半導体基板12の表面13側からエッチングガスを供給する際には、隙間39の下端が裏面絶縁膜45によって閉塞されており、その裏面絶縁膜45がエッチングガスのストッパ膜として機能するので、エッチングガスが、揺動部22やビーム23に対して第1空洞17側へ通り抜けることを防止することができる。
【0059】
同様に、可動電極25の駆動を可能にするための電極用空洞20も、図5Hに示すように、半導体基板12の厚さ方向途中部までのエッチングにより電極用トレンチ50を画成した後、図5Kに示すように、電極用トレンチ50の底面をさらに掘り下げ、これにより形成された露出空間52を、図5Lに示すように、等方性エッチングにより全て一体化することにより形成する。したがって、電極用空洞20を形成する際にも、エッチング装置の支持台へのエッチングガスなどの衝突量を減らすことができる。
【0060】
そして、図2〜図4に示す本発明のMEMSミラーデバイス9は、フレーム部21、固定電極24および可動電極25、ビーム23、ならびに揺動部22の全てが半導体基板12の一部を加工して形成されている。したがって、これらの構成部材を形成するために、特許文献1のように複数の基板を用いる必要がない。そのため、デバイス全体の厚さが半導体基板12の厚さT程度で済むので、デバイスの小型化を実現することができる。
【0061】
すなわち、この実施形態によれば、エッチング装置へのダメージを減らしながら、小型なMEMSミラーデバイス9を作製することができる。
また、MEMSミラーデバイス9において、第1分離絶縁膜31により、固定電極24がフレーム部21から絶縁されているので、フレーム部21の表面(半導体基板12の表面13)を、第1配線29および第2配線30を引き回すためのスペースとして効率的に利用することができる。
【0062】
また、半導体基板12が導電性シリコン基板であるので、所定の形状に形成された固定電極24および可動電極25に対して導電性を付与するための特別な処理を施さなくても、成形後の構造をそのまま電極として利用することができる。また、フレーム部21と一体な可動電極25が、フレーム部21と電気的に繋がることとなるので、フレーム部21を、可動電極25の電圧を基板電位に固定するための配線として利用することができる。
【0063】
なお、揺動部22およびビーム23の裏面44,46に残った裏面絶縁膜45(ストッパ膜)は、MEMSミラーデバイス9の作製後、図4に示すように残しておいてもよいし、エッチングにより、一部または完全に除去することもできる。
また、本実施形態のMEMSミラーデバイス9の製造方法では、図5Hに示すように、パッシベーション膜41をハードマスクとして利用するエッチングにより、半導体基板12を、揺動部22、ビーム23、固定電極24および可動電極25の形状に同時に加工することができるので、これらを別々に成形する場合に比べて、工程数を少なくすることができる。その結果、MEMSミラーデバイス9を効率よく作製することができる。
【0064】
また、図5K〜図5Lに示すように、電極用空洞20を形成する際、固定電極24および可動電極25の側壁が保護薄膜51で覆われているため、エッチング媒体が固定電極24および可動電極25の側壁へ接触することを防止することができる。そのため、固定電極24および可動電極25の侵食を低減することができるので、固定電極24および可動電極25の大きさのばらつきを少なくすることができる。
【0065】
そして、図1のMEMSミラーモジュール7は、図2〜図4のMEMSミラーデバイス9を備えているので、小型なMEMSミラーモジュールを実現することができる。
<MEMSミラーデバイスの他の実施形態(縦型駆動タイプ)>
図6は、本発明の第2実施形態に係るMEMSミラーデバイスの模式平面図である。図7は、図6に示すMEMSミラーデバイスの要部拡大図(図6の破線で囲まれる部分)である。図8は、図6に示すMEMSミラーデバイスの断面図であって、図7の切断線C−Cでの切断面を示す。図6〜図8において、図2〜図4に示す各部に相当する部分には、それらの各部に付した参照符号と同一の参照符号を付し、それらの部分については説明を省略する。
【0066】
前述の実施形態では、横型駆動タイプのMEMSミラーデバイス9について説明したが、本発明は、櫛歯状の可動電極が、半導体基板12の表面13を横切る縦方向に振動する縦型駆動タイプに適用することもできる。
この場合、固定電極の各歯全体が同電位となる状態であっても(2分割されていなくても)、横型駆動タイプとは異なり、駆動方向(半導体基板12の厚さ方向)に沿って可動電極25に加わる合力が0(ゼロ)にはならない。
【0067】
そこで、このMEMSミラーデバイス61では、固定電極62の各歯63は、図7に示すように、平面視梯子状ではなく、平面視長方形状に形成されている。この平面視長方形状の固定電極62の各歯63の基端部には、第1の実施形態と同様に、第1分離絶縁膜31が埋め込まれている。縦型可動電極の一例としての可動電極64も同様に、平面視長方形状に形成されている。
【0068】
固定電極62に電圧を印加する配線としては、第1配線29のみが形成されており、電極パッド14も第1配線29に対応するものと、グランド配線を兼ねる電極パッド16が形成されている。
また、固定電極62は、図8に示すように、可動電極64の表面(半導体基板12の表面13)からはみ出すように半導体基板12の電極用空洞20から離れる方向へ断面視円弧状に反っており、半導体基板12の表面13から上方に突出した部分65を有している。固定電極62を反らすには、たとえば、層間絶縁膜40における固定電極62上の部分を、他の部分よりも厚くすればよい。これにより、固定電極62に対してフレーム部21へ向かう方向の応力を加えることができ、固定電極62を反らすことができる。
【0069】
そして、縦型駆動タイプのMEMSミラーデバイス61を動作させるには、駆動IC10により、可動電極64を基板電位に固定した状態で、第1配線29により、固定電極62に対して正電圧(たとえば、50V〜300V)/負電圧(たとえば、−50V〜−300V)を交互に印加する動作を繰り返す。これにより、固定電極62と可動電極64との間には、半導体基板12の厚さ方向に沿う縦方向にクーロン引力/クーロン斥力を交互に発生させることができる。その結果、櫛歯状の可動電極64が振り子であるかのように、同じく櫛歯状の固定電極62を振動の中心として、固定電極62に対して上下に振動させることができる(図8参照)。
【0070】
この振動は、可動電極64のアーム部27が接続された揺動部22に伝わるので、揺動部22は、可動電極64の振動と同じ位相および同じ周期で振動することになる。その結果、揺動部22で支持されたミラー8を、一対のビーム23を揺動軸として揺動させることができる。これにより、図1に示すように、MEMSミラーデバイス61をオン状態にすることができ、RGBコンバイナ6で合波されたレーザ光を、所定の角度で反射させることができる。
【0071】
以上のように、この縦型駆動のMEMSミラーデバイス61によっても、横型駆動のMEMSミラーデバイス9と同様の作用効果を発現することができる。
さらに、この縦型駆動のMEMSミラーデバイス61では、可動電極64の縦方向振動を利用してミラー8を直接的に揺動させるので、ミラー8の共振を利用してミラー8を間接的に揺動させる横型駆動のMEMSミラーデバイス9に比べて、可動電極64の可動域が小さくても、ミラー8を十分に揺動させることができる。その結果、可動電極64を駆動させるための電圧を、たとえば、30V〜150V程度に小さくすることができる。
【0072】
また、固定電極62を上方へ反らせることにより、可動電極64と固定電極62との間に、半導体基板12の厚さ方向に沿って所定の間隔を空けることができるので、縦方向(駆動方向)に0(ゼロ)を超える大きさの成分を持つクーロン引力/クーロン斥力を発生させることができる。そのため、小さな駆動電圧でも可動電極64を簡単に駆動させることができる。
【0073】
なお、可動電極64と固定電極62との間に半導体基板12の厚さ方向に沿って所定の間隔を空けるには、固定電極62を上方へ反らす手法の他、図9に示すように、固定電極62を、可動電極64の裏面からはみ出すように半導体基板12の電極用空洞20に近づく方向へ反らせてもよい。また、固定電極62に代えて、図8および図9の固定電極62の形状に倣って、可動電極64を上方もしくは下方に反らせてよいし、固定電極62および可動電極64の両方を反らせてもよい。
【0074】
以上、本発明の実施形態を説明したが、本発明は、他の形態で実施することもできる。
たとえば、可動電極25,64は、その基端部に第1分離絶縁膜31のような絶縁膜を埋め込むことにより、フレーム部21から絶縁されていてもよい。その場合、グランド配線の役割を兼ねる電極パッド16の他に、さらに、可動電極25に電圧を印加するための電極パッド(配線)を設ければよい。
【0075】
また、第1分離絶縁膜31および第2分離絶縁膜34の材料は、誘電性を有する材料であれば、酸化シリコン(SiO)でなくてもよい。
その他、特許請求の範囲に記載された事項の範囲で種々の設計変更を施すことが可能である。
【符号の説明】
【0076】
7 MEMSミラーモジュール
8 ミラー
9 MEMSミラーデバイス
10 駆動IC
12 半導体基板
13 (半導体基板の)表面
17 第1空洞
18 ミラー用空洞
19 ビーム用空洞
20 電極用空洞
21 フレーム部
22 揺動部
23 ビーム
24 固定電極
25 可動電極
29 第1配線
30 第2配線
31 第1分離絶縁膜
34 第2分離絶縁膜
39 隙間
42 (半導体基板の)裏面
44 (揺動部の)裏面
45 裏面絶縁膜
46 (ビームの)裏面
47 (半導体基板の)表層部
49 分離用トレンチ
50 電極用トレンチ
51 保護薄膜
61 MEMSミラーデバイス
62 固定電極
64 可動電極
65 (固定電極の)突出部分

【特許請求の範囲】
【請求項1】
底部が開放された第1空洞および底部が閉塞された第2空洞が互いに繋がるように選択的に形成され、当該第1空洞および第2空洞を横側から区画するフレーム部を有する半導体基板と、
前記半導体基板上に設けられたミラーとを含み、
前記半導体基板は、
前記第1空洞の直上において前記フレーム部に対して間隔を空けて形成され、前記ミラーを下側から支持する揺動部と、
前記第1空洞の直上において前記フレーム部と前記揺動部との間に架設され、前記揺動部が前記第1空洞に浮くように、前記揺動部を横側から支持する直線状のビームと、
前記第2空洞の直上において前記フレーム部に固定された櫛歯状の固定電極と、
前記第1空洞および前記第2空洞に跨って形成され、前記第1空洞の直上において前記揺動部に接続され、前記第2空洞の直上において前記固定電極に対して互いに間隔を空けて噛み合う櫛歯状の可動電極とを一体的に含み、
前記揺動部は、前記可動電極の駆動に伴って前記ビームを揺動軸として揺動する、MEMSミラーデバイス。
【請求項2】
前記揺動部の裏面に形成された裏面絶縁膜をさらに含む、請求項1に記載のMEMSミラーデバイス。
【請求項3】
前記固定電極および/または前記可動電極に埋設され、前記固定電極および/または前記可動電極の一部を前記半導体基板の他の部分から選択的に絶縁する分離絶縁膜をさらに含む、請求項1または2に記載のMEMSミラーデバイス。
【請求項4】
前記ミラーと同一層に形成され、前記固定電極および/または前記可動電極に電圧を印加するための配線をさらに含む、請求項1〜3のいずれか一項に記載のMEMSミラーデバイス。
【請求項5】
前記可動電極は、互いに隣り合う前記固定電極に対して、前記半導体基板の表面に沿って近づく方向および遠ざかる方向に交互に変位する横型可動電極を含む、請求項1〜4のいずれか一項に記載のMEMSミラーデバイス。
【請求項6】
前記可動電極は、櫛歯状の前記固定電極の隙間において、前記半導体基板の表面を横切るように前記第2空洞に近づく方向および遠ざかる方向に交互に変位する縦型可動電極を含む、請求項1〜5のいずれか一項に記載のMEMSミラーデバイス。
【請求項7】
前記縦型可動電極は、前記固定電極の表面からはみ出すように前記第2空洞から離れる方向へ反っているか、または、前記固定電極の裏面からはみ出すように前記半導体基板の裏面へ向かう方向へ反っている、請求項6に記載のMEMSミラーデバイス。
【請求項8】
前記固定電極は、前記縦型可動電極の表面からはみ出すように前記第2空洞から離れる方向へ反っているか、または、前記縦型可動電極の裏面からはみ出すように前記半導体基板の裏面へ向かう方向へ反っている、請求項6または7に記載のMEMSミラーデバイス。
【請求項9】
前記半導体基板は、導電性シリコン基板である、請求項1〜8のいずれか一項に記載のMEMSミラーデバイス。
【請求項10】
請求項1〜9のいずれか一項に記載のMEMSミラーデバイスと、
前記MEMSミラーデバイスを駆動させるための駆動用ドライバとを含む、MEMSミラーモジュール。
【請求項11】
半導体基板を裏面から選択的にエッチングすることにより、前記裏面側が開放された第1空洞を選択的に形成し、同時に、当該第1空洞に対して表面側に前記半導体基板の表層部を形成し、当該第1空洞を横側から区画するフレーム部を形成する工程と、
前記半導体基板の前記表層部の裏面にストッパ絶縁膜を形成する工程と、
前記半導体基板の前記表層部の表面にミラーを形成する工程と、
前記半導体基板の前記表層部を、前記表面から前記ストッパ絶縁膜まで選択的にエッチングすることにより、残った前記表層部を利用して、前記ミラーを下側から支持する揺動部を前記フレーム部に対して間隔を空けるように形成する工程と、
前記半導体基板の前記表層部を、前記表面から前記ストッパ絶縁膜まで選択的にエッチングすることにより、残った前記表層部を利用して、前記揺動部を横側から支持する直線状のビームを、前記フレーム部と前記揺動部との間に架設するように形成する工程と、
前記フレーム部を、前記半導体基板の表面から前記半導体基板の厚さ方向の途中部まで選択的にエッチングすることにより電極用トレンチを形成し、同時に、当該電極用トレンチを隔てて互いに噛み合って対向する櫛歯状の固定電極および可動電極を形成する工程と、
前記電極用トレンチにエッチング媒体を供給する等方性エッチングにより、前記固定電極および前記可動電極の下方部を連続させて、前記第1空洞に繋がる第2空洞を、前記固定電極および前記可動電極の直下に形成する工程と、
前記第2空洞の形成後、前記揺動部および前記ビームが前記第1空洞の直上において浮いた状態となるように、前記ストッパ絶縁膜における前記揺動部および前記ビームからはみ出す部分を選択的に除去する工程とを含む、MEMSミラーデバイスの製造方法。
【請求項12】
前記揺動部を形成する工程、前記ビームを形成する工程、および前記固定電極および前記可動電極を形成する工程の少なくとも2つの工程を同時に実行する、請求項11に記載のMEMSミラーデバイスの製造方法。
【請求項13】
前記電極用トレンチの形成に先立って、前記半導体基板を前記表面から選択的にエッチングすることにより、前記半導体基板に分離用トレンチを形成する工程と、
前記分離用トレンチに絶縁材料を埋設することにより、前記分離用トレンチ内に分離絶縁膜を形成する工程とをさらに含み、
前記電極用トレンチを形成する工程は、前記固定電極および前記可動電極の一部が、前記分離絶縁膜により前記半導体基板の部分から選択的に絶縁されるように、前記半導体基板をエッチングする工程を含む、請求項11または12に記載の半導体装置の製造方法。
【請求項14】
前記ミラーを形成する工程と同時に実行され、前記固定電極および/または前記可動電極に電圧を印加するための配線を形成する工程をさらに含む、請求項11〜13のいずれか一項に記載のMEMSミラーデバイスの製造方法。
【請求項15】
前記第2空洞を形成する工程は、
前記固定電極および前記可動電極の側壁に保護膜を形成する工程と、
前記電極用トレンチの底面上から前記保護膜を選択的に除去する工程と、
前記保護膜の除去後、異方性エッチングにより前記電極用トレンチを掘り下げた後、等方性エッチングにより前記固定電極および可動電極の下方部を除去して前記第2空洞を形成する工程とを含む、請求項11〜14のいずれか一項に記載のMEMSミラーデバイスの製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5A】
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【図5B】
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【図5C】
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【図5D】
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【図5E】
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【図5F】
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【図5G】
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【図5H】
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【図5I】
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【図5J】
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【図5K】
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【図5L】
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【図5M】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2012−220531(P2012−220531A)
【公開日】平成24年11月12日(2012.11.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−82836(P2011−82836)
【出願日】平成23年4月4日(2011.4.4)
【出願人】(000116024)ローム株式会社 (3,539)
【Fターム(参考)】