MEMS構造体、MEMS発振器及びその製造方法
【課題】製品として求められる目標精度に比べて梁の膜厚ばらつきに起因する共振周波数のばらつきが大きくても、目標精度内の共振周波数を有するMEMS振動子が高い歩留りで得られるMEMS構造体を提供する。
【解決手段】本発明の一態様は、基板上に複数のMEMS振動子30a〜30dを配置したMEMS構造体であって、前記複数のMEMS振動子それぞれは、梁構造を有しており、前記複数のMEMS振動子は、それぞれの梁構造が異なることによって共振周波数が異なるMEMS構造体である。
【解決手段】本発明の一態様は、基板上に複数のMEMS振動子30a〜30dを配置したMEMS構造体であって、前記複数のMEMS振動子それぞれは、梁構造を有しており、前記複数のMEMS振動子は、それぞれの梁構造が異なることによって共振周波数が異なるMEMS構造体である。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、MEMS構造体、MEMS振動子を備えたMEMS発振器及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
図20は、従来のMEMS振動子の回路構成を示す図である。MEMS振動子201の一方の電極は結合容量203aに接続され、この結合容量203aは入力端子210に接続されている。MEMS振動子201の他方の電極は結合容量203bに接続され、この結合容量203bは出力端子220に接続される。MEMS振動子201の両電極間にはバイアス抵抗204a,204bを介してバイアス電圧印加回路202が接続されている。
【0003】
MEMS振動子201を動作させる際に、外部電圧の影響を受けないように基準電圧発生回路を含むバイアス電圧印加回路202によってMEMS振動子201の両電極間に直流バイアス電圧が印加される。外部回路に繋げられる入力端子210及び出力端子220それぞれとMEMS振動子201の両電極とは結合容量203a,203bを介して接続される。また、直流バイアス電圧を印加するバイアス電圧印加回路202との交流的な絶縁を取るために、MEMS振動子201の両電極とバイアス電圧印加回路202との間にバイアス抵抗204a,204bが挿入される。
【0004】
図21は、従来のMEMS振動子と発振回路を備えたMEMS発振器の一例を示す図である。MEMS振動子201の一方の電極は結合容量203aに接続され、MEMS振動子201の他方の電極は結合容量203bに接続されている。MEMS振動子201の両電極間にはバイアス回路202が接続され、このバイアス回路202にはバイアス電圧入力端子が接続されている。結合容量203aは増幅回路230の入力側に接続され、結合容量203bは増幅回路230の出力側に接続されている。増幅回路230の出力側及び結合容量203bは緩衝回路(バッファアンプ)240の入力側に接続され、緩衝回路240の出力側は出力端子に接続されている。
【0005】
MEMS振動子201は、機械的な変異による静電容量の変位を利用したものが一般に多く使用されている。最も簡単な構造のものとしては、いわゆるカンチレバーと呼ばれる、片持ちの構造体が代表例として挙げられる。この構造体を使用したMEMS振動子201の外観の一例を図22に示し、より詳細なMEMS振動子201の構造を図23に示す。
【0006】
図22及び図23(A)に示すように、MEMS振動子201は、基板100上に形成された固定電極101と、その固定電極101と一定間隔をあけて形成された可動電極102とから構成されている。可動電極102は、基板100上に形成された固定部104と、固定電極101に対向して配置された振動可能な可動部(梁)103と、その可動部103と固定部104を連結して支持する支持部105によって構成されている(例えば特許文献1参照)。
【0007】
MEMS振動子201の製造方法は次のとおりである。
図23(B),(C)に示すように、Si基板110上にシリコン酸化膜111を形成し、このシリコン酸化膜111上にシリコン窒化膜112を形成する。次に、シリコン窒化膜112上に第1のポリシリコン膜からなる固定電極101を形成し、この固定電極101を覆う絶縁膜(図示せず)を形成する。次いで、この絶縁膜上に第2のポリシリコン膜からなる可動電極102を形成する。次に、可動電極102周辺の絶縁膜を除去する。このようにしてMEMS振動子201が製造される。
【0008】
上記のMEMS振動子201は基板100の厚み方向に可動部103が振動する。このMEMS振動子201は可動部103と固定電極101との間隔を狭く取る事ができるため、可動部103の変動に対する容量変異率が高く、感度の高い共振特性を得る事が可能となる。
【0009】
また、MEMS振動子201は、固定電極101及び可動電極102がポリシリコン等をCVD(chemical vapor deposition)法によって堆積して形成され、いわゆる表面MEMSプロセスで作製される。このような比較的簡素なプロセスで形成可能なため、低コストでMEMS振動子の製造が可能であるなどのメリットを持つ。
【0010】
一方で、以下のような欠点もある。
上述したように固定電極101及び可動電極102はポリシリコン等をCVD法によって堆積して形成するため、堆積による成膜ではその膜厚ばらつきが大きくなり、通常その公差は±10%にも達する場合がある。振動モードにおいて、固定電極101及び可動電極102の膜厚は振動子の共振周波数を決定する一要素となるため、膜厚のばらつきが共振周波数のばらつきに直結する。そのため、ポリシリコン等を堆積して形成した固定電極101及び可動電極102では、基板水平方向に振動する振動子と比較して、相対的に高い周波数精度を得難いという問題がある。
【0011】
また、膜厚の管理・選別、梁長の最適化等で共振周波数の精度を確保する手段も考えられるが、量産を考慮した場合、その工程管理には限界があり、また、これらの工程追加による製造コストの増大も懸念される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0012】
【特許文献1】特開2008−153817公報(図2)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
図24は、MEMS振動子の固定電極及び可動電極がばらつくことに起因する共振周波数のばらつきと、製品としてのMEMS振動子が求められる共振周波数の目標精度(公差)との関係を示す図である。ただし、膜厚がどの程度ばらつくかについては成膜装置の性能や成膜条件等によって異なるため、図24に示す共振周波数のばらつきは単なる一例である。また、目標精度についても製品によって異なるため、図24に示す目標精度は単なる一例である。
【0014】
例えば、MEMS振動子の共振周波数及び周波数精度の仕様値が20MHz±100kHz(±0.5%)である場合、振動子の共振周波数を19.9MHz〜20.1MHzに収める必要がある。これを実現するためには、MEMS振動子の膜厚ばらつきを所望値以下(例えば±0.05μm以内)に収める必要がある。
【0015】
しかし前記の通り、成膜装置の性能や成膜条件によりMEMS振動子の膜厚ばらつきが例えば所望値の4倍となってしまった場合(例えば,±0.2μm)、この条件で量産したMEMS振動子の共振周波数は19.6MHz〜20.4MHz(±400kHz=±2%)にばらつく事が予測される。
このように製品として求められる目標精度に比べて膜厚ばらつきに起因する共振周波数のばらつきが大きい場合、前述した従来の製造方法では、目標精度内の共振周波数を有するMEMS振動子を高い歩留りで得ることはできない。
【0016】
本発明の一態様は、製品として求められる目標精度に比べてMEMS構造体の膜厚ばらつきに起因する共振周波数のばらつきが大きくても、目標精度内の共振周波数を有するMEMS振動子が高い歩留りで得られるMEMS構造体、MEMS発振器及びその製造方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0017】
本発明の一態様は、基板上に複数のMEMS振動子を配置したMEMS構造体であって、
前記複数のMEMS振動子それぞれは、梁構造を有しており、
前記複数のMEMS振動子は、それぞれの梁構造が異なることによって共振周波数が異なるMEMS構造体である。
【0018】
上記MEMS構造体によれば、製品として求められる目標精度に比べてMEMS構造体の膜厚ばらつきに起因する共振周波数のばらつきが大きくても、目標精度内の共振周波数を有するMEMS振動子が高い歩留りで得られるMEMS構造体を提供することができる。
【0019】
また、本発明の一態様に係るMEMS構造体において、
前記梁構造は、基板上に形成された固定電極と、その固定電極に対向して配置された振動可能な梁及びその梁に設けられた錘を備えた可動電極を有しており、
前記梁構造が異なることは、前記錘のパターン形状が異なること、前記梁のパターン形状が異なること、前記梁のパターン形状と前記錘のパターン形状の両方が異なることのいずれかであることが好ましい。
【0020】
上記MEMS構造体によれば、より細かい共振周波数差を有する複数のMEMS振動子を得ることができる。
【0021】
また、本発明の一態様に係るMEMS構造体において、
前記錘のパターン形状が異なることは、前記錘の大きさが段階的に大きくなることであり、
前記梁のパターン形状が異なることは、前記梁の長さが段階的に大きくなることであることが好ましい。
【0022】
上記MEMS構造体によれば、より細かい共振周波数差を有し、且つ段階的な共振周波数を有する複数のMEMS振動子を得ることができる。
【0023】
また、本発明の一態様に係るMEMS構造体において、
前記梁構造は、基板上に形成された固定電極と、その固定電極に対向して配置された振動可能な梁を備えた可動電極を有しており、
前記梁構造が異なることは、前記梁のパターン形状が異なることであることが好ましい。
【0024】
上記MEMS構造体によれば、梁のパターン形状が異なることによって、より細かい共振周波数差を有する複数のMEMS振動子を得ることができる。
【0025】
また、本発明の一態様に係るMEMS構造体において、
前記梁構造は、基板上に形成された固定電極と、前記基板上に形成された固定部と前記固定電極に対向して配置された振動可能な梁とその梁と前記固定部を連結して支持する支持部を備えた可動電極を有しており、
前記支持部は、該支持部を貫通するスリットを有しており、
前記梁構造が異なることは、前記スリットの大きさ又は数が異なることによってバネ定数が異なること、前記梁の長さが異なること、前記スリットの大きさ又は数と前記梁の長さの両方が異なることであることが好ましい。
【0026】
上記MEMS構造体によれば、より細かい共振周波数差を有する複数のMEMS振動子を得ることができる。
【0027】
また、本発明の一態様に係るMEMS構造体において、
前記スリットの大きさ又は数が異なることは、前記スリットの大きさが同じで且つ前記スリットの数が段階的に多くなること、前記スリットの数が同じで且つ前記スリットの大きさが段階的に大きくなること、前記スリットの大きさ及び数の両方が段階的に大きくなることのいずれかであり、
前記梁の長さが異なることは、前記梁の長さが段階的に大きくなることであることが好ましい。
【0028】
上記MEMS構造体によれば、より細かい共振周波数差を有し、且つ段階的な共振周波数を有する複数のMEMS振動子を得ることができる。
【0029】
本発明の一態様は、上述したMEMS構造体と、
前記複数のMEMS振動子それぞれに電気的に接続された発振動作を行うための発振器構成回路と、
を具備し、
前記複数のMEMS振動子のうち前記一つのMEMS振動子以外の全てのMEMS振動子は、前記発振回路に電気的に接続されてないMEMS発振器である。
【0030】
上記MEMS発振器によれば、製品として求められる目標精度に比べて梁の膜厚ばらつきに起因する共振周波数のばらつきが大きくても、目標精度内の共振周波数を有するMEMS振動子を高い歩留りで得られるMEMS発振器を提供することができる。
【0031】
また、本発明の一態様に係るMEMS発振器において、
前記発振器構成回路は、
前記複数のMEMS振動子それぞれに接続された選択部と、
前記選択部によって前記複数のMEMS振動子のいずれか一つのMEMS振動子に選択的にバイアス電圧を印加するためのバイアス電圧印加部と、
前記バイアス電圧が印加された前記一つのMEMS振動子を用いて発振動作を行うための発振回路部と、
前記発振回路部に接続された発振出力を出力するバッファ部と、
を具備し、
前記選択部は、前記複数のMEMS振動子のうち前記一つのMEMS振動子以外の全てのMEMS振動子にバイアス電圧を印加しないことが好ましい。
【0032】
上記MEMS発振器によれば、製品として求められる目標精度に比べてMEMS構造体の膜厚ばらつきに起因する共振周波数のばらつきが大きくても、目標精度内の共振周波数を有するMEMS振動子が高い歩留りで得られるMEMS発振器を提供することができる。
【0033】
本発明の一態様は、基板上に、設計値において所定の共振周波数差を有する複数のMEMS振動子、前記複数のMEMS振動子それぞれが接続された選択部、前記選択部に接続されたバイアス電圧印加部、発振回路部、及び前記発振回路部に接続されたバッファ部を形成し、
前記選択部及び前記バイアス電圧印加部によって前記複数のMEMS振動子のいずれか一つのMEMS振動子に選択的にバイアス電圧を印加し、前記一つのMEMS振動子を前記発振回路部によって発振させ、前記バッファ部によって前記一つのMEMS振動子から発振出力された共振周波数を計測し、所定の範囲内の共振周波数を有する一つのMEMS振動子を前記複数のMEMS振動子から特定し、
前記特定されなかった全てのMEMS振動子を前記選択部によって選択せず、前記特定された一つのMEMS振動子を前記選択部によって選択することにより、前記特定されなかった全てのMEMS振動子を前記発振回路部に電気的に接続せず、前記特定された一つのMEMS振動子を前記選択部によって前記発振回路部に電気的に接続するMEMS発振器の製造方法であって、
前記複数のMEMS振動子それぞれは、梁構造を有しており、
前記梁構造は、前記基板上に形成された固定電極と、その固定電極に対向して配置された振動可能な梁を備えた可動電極を有しており、
前記複数のMEMS振動子は、それぞれの梁構造が異なることによって前記所定の共振周波数差を有し、
前記梁構造が異なることは、前記梁のパターン形状が異なることであるMEMS発振器の製造方法である。
【0034】
上記MEMS構造体によれば、製品として求められる目標精度に比べてMEMS構造体の膜厚ばらつきに起因する共振周波数のばらつきが大きくても、目標精度内の共振周波数を有するMEMS振動子が高い歩留りで得られるMEMS発振器の製造方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0035】
【図1】本実施形態に係るMEMS発振器を模式的に示す構成図。
【図2】図1に示す4個のMEMS振動子10a〜10dを示す平面図。
【図3】MEMS振動子の共振周波数のばらつきと目標精度(公差)との関係及び図2に示す4個のMEMS振動子それぞれの共振周波数の設計値を示す図。
【図4】MEMS振動子の共振周波数のばらつきと目標精度(公差)との関係及び9個のMEMS振動子それぞれの共振周波数の設計値を示す図。
【図5】図1に示す選択部3a,3bを詳細に説明するための回路図。
【図6】設計値において200kHzの共振周波数差を確保できない場合を説明する図。
【図7】レジストマスクの加工精度が低くても、より狭い共振周波数差を確保できる梁構造を有する4個のMEMS振動子を示す平面図。
【図8】梁の長さのみによって調整した共振周波数の間隔と、錘の追加によって調整した共振周波数の間隔をシミュレート値によって示す図。
【図9】(a)〜(c)は図2に示すMEMS振動子を製造する方法を説明する断面図。
【図10】(a)〜(c)は図2に示すMEMS振動子を製造する方法を説明する断面図。
【図11】(a)〜(d)は図2に示すMEMS振動子を製造する方法を説明する断面図。
【図12】、図1に示す選択部によってMEMS振動子の選択及び非選択を行う方法を説明するフローチャート。
【図13】(A)は図7に示すMEMS振動子の変形例1を示す図、(B)はMEMS振動子の変形例2を示す図。
【図14】(a)は両持ちの構造体を使用したMEMS振動子30の基本構造を示す平面図であり、(b)は(a)に示すA−A'線の側面図。
【図15】(a)は両持ちの構造体を使用した4個のMEMS振動子を示す平面図、(b)は(a)に示すC−C'線に沿った断面図。
【図16】(a)は両持ちの構造体を使用した4個のMEMS振動子を示す平面図、(b)は(a)に示すE−E'線に沿った断面図。
【図17】レジストマスクの加工精度が低くても、より狭い共振周波数差を確保できる梁構造を有する複数のMEMS振動子を示す平面図。
【図18】梁の長さのみによって調整した共振周波数の間隔と、スリットの数によって調整した共振周波数の間隔をシミュレート値によって示す図。
【図19】(a)は両持ちの構造体を使用した4個のMEMS振動子を示す平面図、(b)は(a)に示すA−A'線に沿った断面図、(c)は(a)に示すB−B'線に沿った断面図。
【図20】従来のMEMS振動子の回路構成を示す図。
【図21】従来のMEMS発振器の一例を示す図。
【図22】カンチレバーと呼ばれる片持ち構造体を使用したMEMS振動子の一例を示す斜視図。
【図23】(A)は図22に示すMEMS振動子の平面図、(B)は(A)に示すB−B'線に沿った断面図、(C)は(A)に示すC−C'線に沿った断面図。
【図24】MEMS振動子の固定電極及び可動電極の膜厚ばらつきによる共振周波数のばらつきと、MEMS振動子が求められる目標精度との関係を示す図。
【発明を実施するための形態】
【0036】
以下では、本発明の実施の形態について図面を用いて詳細に説明する。ただし、本発明は以下の説明に限定されず、本発明の趣旨及びその範囲から逸脱することなくその形態及び詳細を様々に変更し得ることは、当業者であれば容易に理解される。従って、本発明は以下に示す実施の形態の記載内容に限定して解釈されるものではない。
【0037】
(実施形態1)
図1は、本実施形態に係るMEMS発振器を模式的に示す構成図である。このMEMS発振器は、発振器構成回路300及び複数のMEMS振動子、例えば4個のMEMS振動子10a〜10dを有している。発振器構成回路300は、増幅器(バッファ部)1、発振回路部2、選択部3a,3b、及びバイアス電圧印加部4を有している。発振回路部2は、回路素子、トランジスタ等の能動回路部、出力端子等を有している。
【0038】
4個のMEMS振動子10a〜10dそれぞれの一方電極は選択部3aを介して発振回路部2に電気的に接続されており、4個のMEMS振動子10a〜10dそれぞれの他方電極は選択部3bを介して発振回路部2に電気的に接続されている。発振回路部2は増幅器1に電気的に接続されている。
【0039】
また、選択部3a,3bにはバイアス電圧印加部4が接続されており、バイアス電圧印加部4は、選択部3a,3bを介して4個のMEMS振動子10a〜10dそれぞれ、もしくは選択された一つのMEMS振動子のみに直流バイアス電圧を印加するものである。
【0040】
4個のMEMS振動子10a〜10dそれぞれは梁構造を有しており、4個のMEMS振動子10a〜10dは、それぞれの梁構造が異なることによって共振周波数を異ならせて所定の共振周波数差を有している。
【0041】
図2は、図1に示す4個のMEMS振動子10a〜10dを示す平面図である。これらのMEMS振動子10a〜10dそれぞれは、その構造が図23に示すMEMS振動子と同様であるが、梁の長さ16a〜16dを変えることによって共振周波数を異ならせている。
【0042】
詳細には、MEMS振動子10a〜10dは、図示せぬ基板上に形成された固定電極12と、その固定電極12と一定間隔をあけて形成された可動電極8とから構成されている。可動電極8は、基板上に形成された固定部11と、固定電極12に対向して配置された振動可能な可動部(梁)16と、その可動部16と固定部11を連結して支持する支持部によって構成されている。MEMS振動子それぞれの梁の長さ16a〜16dは、MEMS振動子10aから順に短く形成されている。MEMS振動子10aの梁の長さ16aが一番長く形成されており、MEMS振動子10bの梁の長さ16b、MEMS振動子10cの梁の長さ16c、MEMS振動子10dの梁の長さ16dの順に段階的に短く形成されている。
【0043】
図3は、図24に示すMEMS振動子の共振周波数のばらつきと目標精度(公差)との関係を示す図に、図2に示す4個のMEMS振動子10a〜10dそれぞれの共振周波数の設計値を表した図である。
【0044】
図1に示すMEMS発振器は、20MHz±0.5%(±100kHz)の共振周波数で発振する発振器を例にとり説明する。なお、本実施形態で説明する共振周波数の具体的数値及び目標精度の具体的数値は、製品によって異なるため、単なる一例である。
【0045】
図3に示すように、MEMS振動子10aの設計値は19.7MHzであり、MEMS振動子10bの設計値は19.9MHzであり、MEMS振動子10cの設計値は20.1MHzであり、MEMS振動子10dの設計値は20.3MHzである。言い換えると、MEMS振動子10a〜10dそれぞれが上記の設計値となるように図2に示す梁の長さ16a〜16dを必要周波数分だけ延長又は短縮している。共振周波数frの導出式は、下記式(1)のとおりであるため、梁の長さを延長又は短縮することで共振周波数frを変えることができる。
【0046】
fr=(35E/33ρ)1/2H/(2πL2) ・・・(1)
ただし、H,LはそれぞれMEMS振動子の膜厚,梁の長さであり、E,ρはそれぞれMEMS振動子を構成する材料のヤング率と密度である。
【0047】
製品として求められる目標精度が±0.5%(±100kHz)であり、梁の膜厚ばらつきに起因する共振周波数のばらつきが±2%(±400kHz)である場合において、梁構造(例えば梁の長さ)を異ならせることによって、図2に示すように200kHz間隔で4つの設計値のMEMS振動子10a〜10dを基板上に作製する。これにより、量産したMEMS振動子において基板面内又は基板相互間における梁の膜厚ばらつき(即ち図2に示す固定電極12及び可動電極8の膜厚ばらつき)が発生しても、4個のMEMS振動子10a〜10dのうち少なくとも一つのMEMS振動子は、確実に20MHz±0.5%(±100kHz)の目標精度内の共振周波数を有することになる。その理由は次のとおりである。
【0048】
基板面内又は基板相互間において梁の膜厚ばらつきが発生して4個のMEMS振動子10a〜10dそれぞれの共振周波数が全て設計値に対して+400kHzずれたとしても、製造後の4個のMEMS振動子10a〜10dそれぞれの実際の共振周波数は、20.1MHz、20.3MHz、20.5MHz、20.7MHzとなる。従って、4個のMEMS振動子のうち一つのMEMS振動子10aは目標精度内の共振周波数を有することになる。
【0049】
また、基板面内又は基板相互間において梁の膜厚ばらつきが発生して4個のMEMS振動子10a〜10dそれぞれの共振周波数が全て設計値に対して−400kHzずれたとしても、製造後の4個のMEMS振動子10a〜10dそれぞれの実際の共振周波数は、19.3MHz、19.5MHz、19.7MHz、19.9MHzとなる。従って、4個のMEMS振動子のうち一つのMEMS振動子10dは目標精度内の共振周波数を有することになる。
【0050】
上述したように、本実施形態ではMEMS振動子10a〜10dそれぞれの共振周波数の差分が200kHzとなることを意図しているため、製造プロセスのばらつきによってその差分がばらつくのを少なくすることが好ましい。そのためには、図2に示すように、MEMS振動子10a〜10dを近接して形成することが好ましく、また梁16の長さ方向を同じ方向に形成することが好ましい。
【0051】
本実施形態では、梁の膜厚ばらつきに起因する共振周波数のばらつき(±400kHz)が製品として求められる目標精度(±100kHz)の4倍であるため、少なくとも4個のMEMS振動子を基板上に作製する必要がある。これら4個のMEMS振動子それぞれの設計値と最も近い他の設計値との差分は目標精度の範囲以下(200kHz以下)とする必要がある。
【0052】
上記の内容を一般式で表すと、梁の膜厚ばらつきに起因する共振周波数のばらつきを±X(kHz)とし、製品として求められる目標精度を±Y(kHz)とした場合、少なくともX/Y個のMEMS振動子を基板上に作製する必要があることになる。これらX/Y個のMEMS振動子それぞれの設計値と最も近い他の設計値との差分は2Y以下とする必要がある。
【0053】
このように図1に示すMEMS発振器では、4個のMEMS振動子10a〜10dを作製しているが、梁の膜厚ばらつきに起因する共振周波数のばらつきと目標精度が変わることによってX/Y個のMEMS振動子を作製することになる。
【0054】
なお、本実施形態では、図3に示すように共振周波数の差分を200kHzに設定し、4個のMEMS振動子10a〜10dを有するMEMS発振器を形成しているが、これに限定されるものではなく、図4に示すように共振周波数の差分を100kHzに設定し、9個のMEMS振動子10e〜10mを有するMEMS発振器を形成しても良い。これにより、9個のMEMS振動子10e〜10mのうち2個のMEMS振動子は目標精度内の共振周波数を有することになる。
【0055】
ここでは、図1〜図3に示すように共振周波数の差分を200kHzに設定し、4個のMEMS振動子10a〜10dを有するMEMS発振器を例に取り、その場合において、梁の膜厚ばらつきが発生して4個のMEMS振動子10a〜10dそれぞれの共振周波数が全て設計値に対して+200kHz〜+400kHzずれた場合について説明する。この場合は、MEMS振動子が作製された後に、目標精度範囲内の一つのMEMS振動子10aが選択部3a,3bによって選択されたことにより発振回路2に接続され、一つのMEMS振動子10a以外の全ての目標精度範囲外のMEMS振動子10b〜10dそれぞれが選択部3a,3bによって選択されなかったことにより発振回路2に接続されない。その結果、発振回路2には、4個のMEMS振動子10a〜10dのいずれか一つの目標精度範囲内のMEMS振動子10aが電気的に接続され、且つ4個のMEMS振動子10a〜10dのうち一つのMEMS振動子10a以外の全ての目標精度範囲外のMEMS振動子10b〜10dが電気的に接続されないことになる。
【0056】
このような選択部3a,3bによるMEMS振動子の選択及び非選択は図1のMEMS発振器が製造される時に行われ、その選択及び非選択が行われた後には選択部3a,3bによるMEMS振動子の選択及び非選択を行うことができない。
【0057】
図5は、図1に示す選択部3a,3bを詳細に説明するための回路図である。図5に示す基準電圧発生回路4a及び出力電圧調整回路4bは図1に示すバイアス電圧印加部4に相当する。バイアス電圧印加部4は複数のMEMS振動子10a,10b,10c,10d・・・10nそれぞれに選択部3a,3bを介して電気的に接続されている。図5では、図1と異なり、4個以上のMEMS振動子が形成されているが、MEMS振動子の最低個数は梁の膜厚ばらつきに起因する共振周波数のばらつきと目標精度によって変更されるものであり、MEMS振動子の個数は限定されるものではない。また、出力電圧調整回路4bは、共振周波数を微調整する回路であるが、周波数の微調整が不要の場合は省略しても良い。
【0058】
図1に示す選択部3a,3bは、図5に示すMEMS振動子10a〜10nそれぞれの一方電極と端子X2との間に接続されたアナログスイッチ6a〜6nと、MEMS振動子10a〜10nそれぞれの他方電極と端子X1との間に接続されたアナログスイッチ7a〜7nと、それらのアナログスイッチそれぞれを、オン状態にするためのハイ信号又はオフ状態にするためのロー信号を入力する入力部SW_X01〜SW_X0nとを有している。入力部SW_X01〜SW_X0nへは外部から制御信号が入力される。また、端子X1,X2は図1に示す発振回路2に電気的に接続されている。
【0059】
アナログスイッチは、入力部からハイ信号がそのアナログスイッチに入力されると、そのアナログスイッチがオン状態となってMEMS振動子と発振回路が導通状態になり、入力部からロー信号がそのアナログスイッチに入力されると、そのアナログスイッチがオフ状態となってMEMS振動子と発振回路が非導通状態になる。
【0060】
ここまでの説明では、MEMS振動子の共振周波数の設計値を梁の長さによって調整することを前提として説明した。しかし、精度良く梁の長さが調整された可動電極を作製できるか否かは、可動電極を形成する際のエッチング加工時に用いられるレジストマスクの性能によることが大きい。そして、一般的に、加工精度が高いレジストマスクは高価格であるのに対し、加工精度が低いレジストマスクは低価格である。従って、例えば低価格のレジストマスクを用いると、複数のMEMS振動子それぞれの共振周波数の設計値において所定の共振周波数差を確保することができないことがある。これについて図6を用いて詳細に説明する。
【0061】
図6は、設計値において200kHzの共振周波数差を確保できない場合を説明する図である。製品としてのMEMS振動子が求められる共振周波数frの目標精度(公差)を、例えばfr=200MHz±100kHzとした場合、H=a(μm)、L=b(μm)、E=c(GPa)、ρ=d(kg/m3)とすると、共振周波数frの導出式である上記式(1)により共振周波数f1は仮にg(MHz)となるとする。
【0062】
レジストマスクによって梁の長さLを制御できる精度は最小のマスクグリッドによって制約される。その最小グリッドがe(μm)のレジストマスクを用いた場合、上記のL=b(μm)の前後の梁の長さLは、それぞれb−e(μm)とb+e(μm)となる。
【0063】
梁の長さLをb−e(μm)とし、H、E、ρの値を上記と同様のa、c、dとすると、共振周波数f2は仮にg+x(MHz)となるとする。また、梁の長さLをb+e(μm)とし、H、E、ρの値を上記と同様のa、c、dとすると、共振周波数f3は仮にg−x(MHz)となるとする。従って、最小グリッドがe(μm)のレジストマスクを用いると、eの値によっては図6に示すようにgと(g+x)の差が200KHzより大きくなり、200kHzの共振周波数差を確保することができない場合がある。このように梁の長さによって共振周波数差を確保する場合はレジストマスクの最小グリッドによる限界がある。
【0064】
図7は、レジストマスクの加工精度が低くても、より狭い共振周波数差を確保できる梁構造を有する4個のMEMS振動子30a〜30dを示す平面図である。 これらのMEMS振動子30a〜30dそれぞれは、その構造が図2に示すMEMS振動子と同様であるが、可動部(梁)16に錘31a〜31cを設けている点で異なり、錘31a〜31cの大きさを変えることによって共振周波数を異ならせている。なお、錘31a〜31cは、梁16のパターン形状を変更することによって形成したものであり、梁のパターン形状が異なることによって共振周波数を異ならせている。また、錘は個々の振動子の振動に直接寄与しない部位に形成され、MEMS振動子の実効的な振動部の質量を変動させて共振周波数を調整している。
【0065】
詳細には、MEMS振動子30a〜30dは、図示せぬ基板上に形成された固定電極と、その固定電極と一定間隔をあけて形成された可動電極8と、から構成されている。可動電極8は、基板上に形成された固定部11と、固定電極に対向して配置された振動可能な可動部(梁)16と、その梁に設けられた錘31a〜31cと、可動部16と固定部11を連結して支持する支持部によって構成されている。錘31a〜31cの幅32a〜32cは、MEMS振動子30aから順に短く形成されている。
【0066】
図8は、図2に示すMEMS振動子10a〜10dのように梁の長さのみによって調整した共振周波数の間隔と、図7に示すMEMS振動子30a〜30dのように錘の追加によって調整した共振周波数の間隔をシミュレート値によって示す図である。図8により、錘の追加によって調整した共振周波数の間隔のほうが、梁の長さのみの調整に比べて短くできることが確認された。
【0067】
次に、図7に示すMEMS振動子30a〜30dを使用した図1に示すMEMS発振器を製造する方法について図9〜図12を参照しつつ説明する。
図9〜図11は、図7に示すMEMS振動子を製造する方法を説明する断面図である。
図12は、図1に示す選択部によってMEMS振動子の選択及び非選択を行う方法を説明するフローチャートである。
【0068】
図9(a)に示すように、p型Si基板15を用意する。次いで、図9(b)に示すように、このp型Si基板15の上にシリコン酸化膜14を形成する。次いで、図9(c)に示すように、このシリコン酸化膜14の上にシリコン窒化膜13を形成する。
【0069】
次に、図10(a)に示すように、シリコン窒化膜13の上にCVD法により1層目のポリシリコン膜を堆積する。次いで、このポリシリコン膜上にレジスト膜(図示せず)を塗布し、そのレジスト膜を露光及び現像することにより、ポリシリコン膜上にレジストパターンが形成される。次いで、このレジストパターンをマスクとして1層目のポリシリコン膜をエッチングすることにより、シリコン窒化膜13上には1層目のポリシリコン膜からなる固定電極12が形成される。
【0070】
次に、図10(b)に示すように、固定電極12の表面を覆うようにシリコン酸化膜(犠牲層)20を形成する。次いで、図10(c)に示すように、シリコン窒化膜13及びシリコン酸化膜20の上にCVD法により2層目のポリシリコン膜を堆積する。次いで、このポリシリコン膜上にレジスト膜(図示せず)を塗布し、そのレジスト膜を露光及び現像することにより、ポリシリコン膜上にレジストパターンが形成される。次いで、このレジストパターンをマスクとして2層目のポリシリコン膜をエッチングすることにより、シリコン窒化膜13上には2層目のポリシリコン膜からなる可動電極8が形成される。
【0071】
次に、図11(a)に示すように、可動電極8及び固定電極12の上に、内部に多層配線を有する層間絶縁膜25を形成する。多層配線は、固定電極12に電気的に接続された第1の配線プラグ21aと、第1の配線プラグ21a上に電気的に接続された第1の配線22aと、第1の配線22a上に電気的に接続された第2の配線プラグ23aと、第2の配線プラグ23a上に電気的に接続された第2の配線24aを有するとともに、可動電極8に電気的に接続された第1の配線プラグ21bと、第1の配線プラグ21b上に電気的に接続された第1の配線22bと、第1の配線22b上に電気的に接続された第2の配線プラグ23bと、第2の配線プラグ23b上に電気的に接続された第2の配線24bを有する。第2の配線24a,24bそれぞれは図1に示す選択部3a,3bに接続される配線である。
【0072】
次に、図11(b)に示すように、層間絶縁膜24の上にパッシベーション膜26を形成する。次いで、図11(c)に示すように、パッシベーション膜26をエッチングすることにより、パッシベーション膜26に開口部26aを形成する。
【0073】
次いで、図11(d)に示すように、パッシベーション膜26をマスクとしてウェットエッチングすることにより、開口部26aの下方に位置する層間絶縁膜25及びシリコン酸化膜20を除去する。これにより、層間絶縁膜25にはキャビティ28が形成され、このキャビティ28にはMEMS振動子が形成される。このMEMS振動子は、固定電極12と、その固定電極12と一定間隔をあけて形成された可動電極8とから構成され、可動電極8は、固定部11と、固定電極12に対向して配置された振動可能な可動部(梁)16と、その梁に設けられた錘31aと、可動部16と固定部11を連結して支持する支持部17aによって構成される。
【0074】
なお、図11(d)には1個のMEMS振動子(図7に示すMEMS振動子30aに相当)だけが示されているが、キャビティ28内には4個のMEMS振動子が図7に示すように並べて設けられていても良いし、キャビティ28が4個並べて設けられ、4個のキャビティそれぞれに1個のMEMS振動子が設けられていても良い。
【0075】
また、図9〜図11に示すMEMS発振器の製造方法を、図2に示すMEMS振動子10a〜10dを使用した図1に示すMEMS発振器を製造する方法に適用することも可能である。ただし、図2に示すMEMS振動子10a〜10dを使用した場合は、梁のパターン形状が図7に示すMEMS振動子を使用した場合に比べて異なる。
【0076】
この後、キャビティ28の上方に蓋(図示せず)を形成することにより、MEMS振動子30a〜30dはキャビティ28内に減圧封止されてパッケージに封止される。
【0077】
上記のようにp型Si基板15にMEMS振動子を形成する半導体プロセスを用いてp型Si基板15の他の領域に、図5に示すアナログスイッチ6a〜6n,7a〜7n、入力部SW_X01〜SW_X0n、図1に示す発振回路2、バイアス電圧印加部4及び増幅器1のいずれか又は全てを同時に形成しても良いし、別々に形成しても良い。また、アナログスイッチは半導体スイッチを用いても良いし、機械的スイッチを用いても良い。
【0078】
以上のようにして製造された図7に示すMEMS振動子30a〜30dそれぞれの共振周波数の設計値及び目標精度(公差)が、図3に示す4個のMEMS振動子10a〜10dそれぞれと同様である場合を例にとり、以下の説明をする。
【0079】
図7に示すMEMS振動子30a〜30dを使用した図1に示すMEMS発振器を以上のようにして製造した初期状態では、図5に示すアナログスイッチのSW_X01〜SW_X0nの複数端子うちの特定の一つがハイ状態であり、残りの端子がロー状態である事をいう。
【0080】
MEMS振動子30dの一方電極及び他方電極それぞれと発振回路2との間に接続されたアナログスイッチに入力部からハイ信号が入力されると、そのアナログスイッチがオン状態となってMEMS振動子30dと発振回路2が導通状態になるようになっている。また、MEMS振動子30a〜30cそれぞれの一方電極及び他方電極それぞれと発振回路2との間に接続されたアナログスイッチに入力部からロー信号が入力されると、そのアナログスイッチがオフ状態となってMEMS振動子30a〜30cそれぞれと発振回路2が非導通状態になるようになっている。
【0081】
次に、図1に示す選択部3a,3bによってMEMS振動子の選択及び非選択を行う方法について図12を参照しつつ説明する。
【0082】
まず、図12に示すように、MEMS振動子30dの一方電極及び他方電極それぞれと発振回路2との間に接続されたアナログスイッチに入力部からハイ信号が入力され、MEMS振動子30dを発振回路2に電気的に接続し、MEMS振動子30a〜30cそれぞれの一方電極及び他方電極それぞれと発振回路2との間に接続されたアナログスイッチに入力部からロー信号が入力され、MEMS振動子30a〜30cを発振回路2に電気的に接続しない状態とする。この状態で、発振回路2によってMEMS振動子30dを発振させ、MEMS振動子30dから出力された共振周波数を計測する(S1)。この計測された共振周波数が図3に示す目標精度の範囲内であるか否かを判定する(S2)。
【0083】
この判定結果が図3に示す目標精度範囲内である場合は、選択部のスイッチを切り替えることなく、終了する。
また、共振周波数の計測結果が例えば20.55MHzであったとすると、計測された共振周波数が目標精度の範囲内でないと判定される(S2)。この場合は、計測された共振周波数(20.55MHz)と計測されたMEMS振動子30dの共振周波数の設計値(20.3MHz)との差分(250kHz)を算出する(S3)。そして、この算出された差分(250kHz)、MEMS振動子30a〜30dの設計値における共振周波数差(200kHz)及びMEMS振動子30a〜30dそれぞれの共振周波数の設計値(図3に示す19.7MHz、19.9MHz、20.1MHz、20.3MHz)を用いて、目標精度の範囲内の共振周波数を持つMEMS振動子がMEMS振動子30a〜30cのいずれのMEMS振動子であるかを特定する(S4)。詳細には、差分が250kHzであることから、MEMS振動子30aの実際の共振周波数は19.95MHzであると推測され、MEMS振動子30bの実際の共振周波数は20.15MHzであると推測され、MEMS振動子30cの実際の共振周波数は20.35MHzであると推測される。これらの推測結果から目標精度の範囲内の共振周波数を持つMEMS振動子はMEMS振動子30aであると特定する(S4)。
なお、上記の共振周波数の具体的数値は、製品によって異なるため、単なる一例である。
【0084】
次いで、特定されなかった全てのMEMS振動子30b〜30dを選択部3a,3bによって選択せず、特定された一つのMEMS振動子30aを選択部3a,3bによって選択することにより、特定されなかった全てのMEMS振動子30b〜30dを発振回路2に電気的に接続せず、特定された一つのMEMS振動子30aを選択部3a,3bによって発振回路2に電気的に接続する(S5)。
【0085】
詳細には、MEMS振動子30dに接続されたアナログスイッチにロー信号を入力し、MEMS振動子30aに接続されたアナログスイッチにハイ信号を入力する。
【0086】
この後、発振回路2によってMEMS振動子30aを発振させ、MEMS振動子30aの発振特性を確認する(S6)。この発振特性の良否を判定し(S7)、その判定結果が良の場合は終了し、判定結果が否の場合はロットアウトする。
【0087】
次に、チップ状に切り出すダイシング工程などの後工程が施される。
【0088】
以上説明したように、製品として求められる目標精度に比べて梁の膜厚ばらつきに起因する共振周波数のばらつきが大きくても、目標精度内の共振周波数を有するMEMS振動子を確実に選択することができる。従って、高い歩留りでMEMS発振器を得ることが可能となる。
【0089】
また、図7に示す錘を有する梁構造とすることにより、図2に示す梁構造と比べて共振周波数の間隔を狭くすることができる。
【0090】
(変形例1)
図13(A)は、図7に示すMEMS振動子の錘の形状を変更した例を示す図であり、図7と同一部分には同一符合を付し、異なる部分についてのみ説明する。
図13(A)に示す4個以上のMEMS振動子30e〜30hそれぞれの梁16の長さは同一である。また、錘31e〜31hそれぞれの形状及び大きさは図7に示す錘31a〜31cと異なる。
【0091】
上記変形例1においても上記実施形態1と同様の効果を得ることができる。
【0092】
(変形例2)
図13(B)は、図13(A)に示すMEMS振動子と図7に示すMEMS振動子を組み合わせた例を示す図であり、図13(A)と同一部分には同一符合を付し、異なる部分についてのみ説明する。
図13(B)に示す5個のMEMS振動子30i〜30mそれぞれの梁16の長さは段階的に小さくなっている。また、MEMS振動子30j,30lそれぞれには錘31j,31lが設けられているが、MEMS振動子30i,30k,31mそれぞれには錘が設けられていない。また、錘31j,31lそれぞれは、錘の形状及び大きさが同一である。
【0093】
上記変形例2においても上記実施形態1と同様の効果を得ることができる。
【0094】
(変形例3)
上記実施形態1、変形例1,2では、図2に示すような片持ちの構造体を使用したMEMS振動子10a〜10d等を用いているが、この片持ちの構造体を使用したMEMS振動子を、次のような両持ちの構造体を使用したMEMS振動子に変更して実施することも可能である。
【0095】
図14(a)は、両持ちの構造体を使用したMEMS振動子30の基本構造を示す平面図であり、図14(b)は、図14(a)に示すA−A'線の側面図である。図15(a)は、両持ちの構造体を使用した4個のMEMS振動子30p〜30r,30を示す平面図であり、図15(b)は、図15(a)に示すC−C'線に沿った断面図である。図15に示すMEMS振動子は、図1に示す4個のMEMS振動子10a〜10dに適用することができる。
【0096】
図14(a),(b)に示すように、両持ちの構造体は、片持ちの構造体のように梁の一方端を支持部によって支持するのではなく、梁の両端を支持部によって支持する構造である。詳細には、MEMS振動子30は、基板上に形成された固定電極33と、その固定電極33と一定間隔をあけて形成された可動電極34とから構成されている。可動電極34は、基板上に形成され、固定電極33の一方側に形成された第1の固定部35aと、固定電極33の他方側に形成された第2の固定部35bと、固定電極33に対向して配置された振動可能な可動部(梁)36と、その可動部36の一方端と第1の固定部35aを連結して支持する第1の支持部37aと、その可動部36の他方端と第2の固定部35bを連結して支持する第2の支持部37bによって構成されている。
【0097】
図15(a)に示すMEMS振動子30p〜30r,30それぞれは、その構造が互いに同様であるが、MEMS振動子30p〜30rそれぞれの梁36の両端には錘38a,38b,38cが設けられている。これらの錘38a,38b,38cは、図13(A)に示す錘と同様に、錘の幅が段階的に小さく形成されている。錘38a,38b,38cを変えることによって共振周波数を異ならせている。
【0098】
上記変形例3においても上記実施形態1と同様の効果を得ることができる。
【0099】
(変形例4)
図16(a)は、両持ちの構造体を使用した4個のMEMS振動子30s〜30vを示す平面図であり、図16(b)は、図16(a)に示すE−E'線に沿った断面図であり、図15と同一部分には同一符合を付し、異なる部分についてのみ説明する。
【0100】
MEMS振動子30s〜30uそれぞれの梁36の両端には錘39a,39b,39cが設けられている。これらの錘39a,39b,39cは、幅が同一であるが長さが段階的に小さく形成されている。錘39a,39b,39cを変えることによって共振周波数を異ならせている。
【0101】
上記変形例4においても上記実施形態1と同様の効果を得ることができる。
【0102】
(実施形態2)
図17は、レジストマスクの加工精度が低くても、より狭い共振周波数差を確保できる梁構造を有する複数のMEMS振動子40a〜40eを示す平面図であり、図7と同一部分には同一符合を付し、異なる部分について説明する。なお、実施形態2によるMEMS発振器が実施形態1によるMEMS発振器と異なる部分は、図17に示すMEMS振動子である。
【0103】
図17に示すMEMS振動子40a〜40eそれぞれは、その構造が図2に示すMEMS振動子と同様であるが、スリット17を設けている点で異なり、スリット17の数を変えてバネ定数が異なることによって共振周波数を異ならせている。なお、スリット17は、エッチング加工によって形成したものである。
【0104】
詳細には、MEMS振動子40a〜40eは、図示せぬ基板上に形成された固定電極12と、その固定電極12と一定間隔をあけて形成された可動電極8と、から構成されている。可動電極8は、基板上に形成された固定部11と、固定電極12に対向して配置された振動可能な可動部(梁)16と、可動部16と固定部11を連結して支持する支持部と、によって構成されている。この支持部は、該支持部を貫通するスリット17を有している。スリット17の数は、MEMS振動子40bから順に多く形成されている。
【0105】
なお、図17では、スリット17の数と梁16の長さの両方が異なることによって共振周波数を異ならせているが、スリットの数の代わりにスリットの大きさを異ならせても良いし、スリットの数と大きさの両方を異ならせても良いし、梁の長さを同一にしても良い。
【0106】
図18は、図2に示すMEMS振動子10a〜10dのように梁の長さのみによって調整した共振周波数の間隔と、図17に示すMEMS振動子40a〜40eのようにスリットの数によって調整した共振周波数の間隔をシミュレート値によって示す図である。図18により、スリットの数(穴追加)によって調整した共振周波数の間隔のほうが、梁の長さのみの調整に比べて短くできることが確認された。
【0107】
(変形例)
上記実施形態2では、図17に示すような片持ちの構造体を使用したMEMS振動子40a〜40eを用いているが、この片持ちの構造体を使用したMEMS振動子を、次のような両持ちの構造体を使用したMEMS振動子に変更して実施することも可能である。
【0108】
図19(a)は、両持ちの構造体を使用した4個のMEMS振動子41,41a〜41cを示す平面図であり、図19(b)は、図19(a)に示すA−A'線に沿った断面図であり、図19(c)は、図19(a)に示すB−B'線に沿った断面図である。図19に示すMEMS振動子は、図1に示す4個のMEMS振動子10a〜10dに適用することができる。
【0109】
図19(a)〜(c)に示すMEMS振動子41,41a〜41cそれぞれは、その基本構造が図14に示すMEMS振動子と同様であるが、スリット17を設けている点で異なり、スリット17の数を変えてバネ定数が異なることによって共振周波数を異ならせている。なお、スリット17は、エッチング加工によって形成したものである。
【0110】
詳細には、MEMS振動子41a〜41cそれぞれは、基板上に形成された固定電極33と、その固定電極33と一定間隔をあけて形成された可動電極34とから構成されている。可動電極34は、基板上に形成され、固定電極33の一方側に形成された第1の固定部35aと、固定電極33の他方側に形成された第2の固定部35bと、固定電極33に対向して配置された振動可能な可動部(梁)36と、その可動部36の一方端と第1の固定部35aを連結して支持する第1の支持部37aと、その可動部36の他方端と第2の固定部35bを連結して支持する第2の支持部37bによって構成されている。第1及び第2の支持部37a,37bそれぞれは、支持部を貫通するスリット17を有している。スリット17の数は、MEMS振動子41aから順に多く形成されている。
【0111】
なお、図19では、スリット17の数が異なることによって共振周波数を異ならせているが、スリットの数の代わりにスリットの大きさを異ならせても良いし、スリットの数と大きさの両方を異ならせても良いし、さらに梁の長さを異ならせても良い。
【0112】
上記変形例においても上記実施形態2と同様の効果を得ることができる。
【0113】
なお、本発明は上記実施形態及び変形例に限定されるものではなく、上記実施形態及び変形例を適宜組み合わせて実施することも可能である。
【符号の説明】
【0114】
1…増幅器、2…発振回路部、3a,3b…選択部、4…バイアス電圧印加部、4a…基準電圧発生回路、4b…出力電圧調整回路(抵抗分割)、6a〜6c,6n,7a〜7c,7n…アナログスイッチ、8,34,102…可動電極、10a〜10d,10n,30,30a〜30m,30p〜30v,40a〜40e,41,41a〜41c,201…MEMS振動子、11,104…固定部、12,33,101…固定電極、13,112…シリコン窒化膜、14,111…シリコン酸化膜、15…p型Si基板、16,36,103…可動部(梁)、16a〜16d…梁の長さ、17…スリット、17a,105…支持部、20…シリコン酸化膜(犠牲層)、25…層間絶縁膜、26…パッシベーション膜、26a…開口部、28…キャビティ、31a〜31c,31e〜31h,31j,31l…錘、32a〜32c…錘の幅、35a,35b…第1及び第2の固定部、37a,37b…第1及び第2の支持部、100…基板、110…Si基板、203a,203b…結合容量、204a,204b…バイアス抵抗、210…入力端子、220…出力端子、230…増幅回路、240…緩衝回路(バッファアンプ)、300…発振器構成回路
【技術分野】
【0001】
本発明は、MEMS構造体、MEMS振動子を備えたMEMS発振器及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
図20は、従来のMEMS振動子の回路構成を示す図である。MEMS振動子201の一方の電極は結合容量203aに接続され、この結合容量203aは入力端子210に接続されている。MEMS振動子201の他方の電極は結合容量203bに接続され、この結合容量203bは出力端子220に接続される。MEMS振動子201の両電極間にはバイアス抵抗204a,204bを介してバイアス電圧印加回路202が接続されている。
【0003】
MEMS振動子201を動作させる際に、外部電圧の影響を受けないように基準電圧発生回路を含むバイアス電圧印加回路202によってMEMS振動子201の両電極間に直流バイアス電圧が印加される。外部回路に繋げられる入力端子210及び出力端子220それぞれとMEMS振動子201の両電極とは結合容量203a,203bを介して接続される。また、直流バイアス電圧を印加するバイアス電圧印加回路202との交流的な絶縁を取るために、MEMS振動子201の両電極とバイアス電圧印加回路202との間にバイアス抵抗204a,204bが挿入される。
【0004】
図21は、従来のMEMS振動子と発振回路を備えたMEMS発振器の一例を示す図である。MEMS振動子201の一方の電極は結合容量203aに接続され、MEMS振動子201の他方の電極は結合容量203bに接続されている。MEMS振動子201の両電極間にはバイアス回路202が接続され、このバイアス回路202にはバイアス電圧入力端子が接続されている。結合容量203aは増幅回路230の入力側に接続され、結合容量203bは増幅回路230の出力側に接続されている。増幅回路230の出力側及び結合容量203bは緩衝回路(バッファアンプ)240の入力側に接続され、緩衝回路240の出力側は出力端子に接続されている。
【0005】
MEMS振動子201は、機械的な変異による静電容量の変位を利用したものが一般に多く使用されている。最も簡単な構造のものとしては、いわゆるカンチレバーと呼ばれる、片持ちの構造体が代表例として挙げられる。この構造体を使用したMEMS振動子201の外観の一例を図22に示し、より詳細なMEMS振動子201の構造を図23に示す。
【0006】
図22及び図23(A)に示すように、MEMS振動子201は、基板100上に形成された固定電極101と、その固定電極101と一定間隔をあけて形成された可動電極102とから構成されている。可動電極102は、基板100上に形成された固定部104と、固定電極101に対向して配置された振動可能な可動部(梁)103と、その可動部103と固定部104を連結して支持する支持部105によって構成されている(例えば特許文献1参照)。
【0007】
MEMS振動子201の製造方法は次のとおりである。
図23(B),(C)に示すように、Si基板110上にシリコン酸化膜111を形成し、このシリコン酸化膜111上にシリコン窒化膜112を形成する。次に、シリコン窒化膜112上に第1のポリシリコン膜からなる固定電極101を形成し、この固定電極101を覆う絶縁膜(図示せず)を形成する。次いで、この絶縁膜上に第2のポリシリコン膜からなる可動電極102を形成する。次に、可動電極102周辺の絶縁膜を除去する。このようにしてMEMS振動子201が製造される。
【0008】
上記のMEMS振動子201は基板100の厚み方向に可動部103が振動する。このMEMS振動子201は可動部103と固定電極101との間隔を狭く取る事ができるため、可動部103の変動に対する容量変異率が高く、感度の高い共振特性を得る事が可能となる。
【0009】
また、MEMS振動子201は、固定電極101及び可動電極102がポリシリコン等をCVD(chemical vapor deposition)法によって堆積して形成され、いわゆる表面MEMSプロセスで作製される。このような比較的簡素なプロセスで形成可能なため、低コストでMEMS振動子の製造が可能であるなどのメリットを持つ。
【0010】
一方で、以下のような欠点もある。
上述したように固定電極101及び可動電極102はポリシリコン等をCVD法によって堆積して形成するため、堆積による成膜ではその膜厚ばらつきが大きくなり、通常その公差は±10%にも達する場合がある。振動モードにおいて、固定電極101及び可動電極102の膜厚は振動子の共振周波数を決定する一要素となるため、膜厚のばらつきが共振周波数のばらつきに直結する。そのため、ポリシリコン等を堆積して形成した固定電極101及び可動電極102では、基板水平方向に振動する振動子と比較して、相対的に高い周波数精度を得難いという問題がある。
【0011】
また、膜厚の管理・選別、梁長の最適化等で共振周波数の精度を確保する手段も考えられるが、量産を考慮した場合、その工程管理には限界があり、また、これらの工程追加による製造コストの増大も懸念される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0012】
【特許文献1】特開2008−153817公報(図2)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
図24は、MEMS振動子の固定電極及び可動電極がばらつくことに起因する共振周波数のばらつきと、製品としてのMEMS振動子が求められる共振周波数の目標精度(公差)との関係を示す図である。ただし、膜厚がどの程度ばらつくかについては成膜装置の性能や成膜条件等によって異なるため、図24に示す共振周波数のばらつきは単なる一例である。また、目標精度についても製品によって異なるため、図24に示す目標精度は単なる一例である。
【0014】
例えば、MEMS振動子の共振周波数及び周波数精度の仕様値が20MHz±100kHz(±0.5%)である場合、振動子の共振周波数を19.9MHz〜20.1MHzに収める必要がある。これを実現するためには、MEMS振動子の膜厚ばらつきを所望値以下(例えば±0.05μm以内)に収める必要がある。
【0015】
しかし前記の通り、成膜装置の性能や成膜条件によりMEMS振動子の膜厚ばらつきが例えば所望値の4倍となってしまった場合(例えば,±0.2μm)、この条件で量産したMEMS振動子の共振周波数は19.6MHz〜20.4MHz(±400kHz=±2%)にばらつく事が予測される。
このように製品として求められる目標精度に比べて膜厚ばらつきに起因する共振周波数のばらつきが大きい場合、前述した従来の製造方法では、目標精度内の共振周波数を有するMEMS振動子を高い歩留りで得ることはできない。
【0016】
本発明の一態様は、製品として求められる目標精度に比べてMEMS構造体の膜厚ばらつきに起因する共振周波数のばらつきが大きくても、目標精度内の共振周波数を有するMEMS振動子が高い歩留りで得られるMEMS構造体、MEMS発振器及びその製造方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0017】
本発明の一態様は、基板上に複数のMEMS振動子を配置したMEMS構造体であって、
前記複数のMEMS振動子それぞれは、梁構造を有しており、
前記複数のMEMS振動子は、それぞれの梁構造が異なることによって共振周波数が異なるMEMS構造体である。
【0018】
上記MEMS構造体によれば、製品として求められる目標精度に比べてMEMS構造体の膜厚ばらつきに起因する共振周波数のばらつきが大きくても、目標精度内の共振周波数を有するMEMS振動子が高い歩留りで得られるMEMS構造体を提供することができる。
【0019】
また、本発明の一態様に係るMEMS構造体において、
前記梁構造は、基板上に形成された固定電極と、その固定電極に対向して配置された振動可能な梁及びその梁に設けられた錘を備えた可動電極を有しており、
前記梁構造が異なることは、前記錘のパターン形状が異なること、前記梁のパターン形状が異なること、前記梁のパターン形状と前記錘のパターン形状の両方が異なることのいずれかであることが好ましい。
【0020】
上記MEMS構造体によれば、より細かい共振周波数差を有する複数のMEMS振動子を得ることができる。
【0021】
また、本発明の一態様に係るMEMS構造体において、
前記錘のパターン形状が異なることは、前記錘の大きさが段階的に大きくなることであり、
前記梁のパターン形状が異なることは、前記梁の長さが段階的に大きくなることであることが好ましい。
【0022】
上記MEMS構造体によれば、より細かい共振周波数差を有し、且つ段階的な共振周波数を有する複数のMEMS振動子を得ることができる。
【0023】
また、本発明の一態様に係るMEMS構造体において、
前記梁構造は、基板上に形成された固定電極と、その固定電極に対向して配置された振動可能な梁を備えた可動電極を有しており、
前記梁構造が異なることは、前記梁のパターン形状が異なることであることが好ましい。
【0024】
上記MEMS構造体によれば、梁のパターン形状が異なることによって、より細かい共振周波数差を有する複数のMEMS振動子を得ることができる。
【0025】
また、本発明の一態様に係るMEMS構造体において、
前記梁構造は、基板上に形成された固定電極と、前記基板上に形成された固定部と前記固定電極に対向して配置された振動可能な梁とその梁と前記固定部を連結して支持する支持部を備えた可動電極を有しており、
前記支持部は、該支持部を貫通するスリットを有しており、
前記梁構造が異なることは、前記スリットの大きさ又は数が異なることによってバネ定数が異なること、前記梁の長さが異なること、前記スリットの大きさ又は数と前記梁の長さの両方が異なることであることが好ましい。
【0026】
上記MEMS構造体によれば、より細かい共振周波数差を有する複数のMEMS振動子を得ることができる。
【0027】
また、本発明の一態様に係るMEMS構造体において、
前記スリットの大きさ又は数が異なることは、前記スリットの大きさが同じで且つ前記スリットの数が段階的に多くなること、前記スリットの数が同じで且つ前記スリットの大きさが段階的に大きくなること、前記スリットの大きさ及び数の両方が段階的に大きくなることのいずれかであり、
前記梁の長さが異なることは、前記梁の長さが段階的に大きくなることであることが好ましい。
【0028】
上記MEMS構造体によれば、より細かい共振周波数差を有し、且つ段階的な共振周波数を有する複数のMEMS振動子を得ることができる。
【0029】
本発明の一態様は、上述したMEMS構造体と、
前記複数のMEMS振動子それぞれに電気的に接続された発振動作を行うための発振器構成回路と、
を具備し、
前記複数のMEMS振動子のうち前記一つのMEMS振動子以外の全てのMEMS振動子は、前記発振回路に電気的に接続されてないMEMS発振器である。
【0030】
上記MEMS発振器によれば、製品として求められる目標精度に比べて梁の膜厚ばらつきに起因する共振周波数のばらつきが大きくても、目標精度内の共振周波数を有するMEMS振動子を高い歩留りで得られるMEMS発振器を提供することができる。
【0031】
また、本発明の一態様に係るMEMS発振器において、
前記発振器構成回路は、
前記複数のMEMS振動子それぞれに接続された選択部と、
前記選択部によって前記複数のMEMS振動子のいずれか一つのMEMS振動子に選択的にバイアス電圧を印加するためのバイアス電圧印加部と、
前記バイアス電圧が印加された前記一つのMEMS振動子を用いて発振動作を行うための発振回路部と、
前記発振回路部に接続された発振出力を出力するバッファ部と、
を具備し、
前記選択部は、前記複数のMEMS振動子のうち前記一つのMEMS振動子以外の全てのMEMS振動子にバイアス電圧を印加しないことが好ましい。
【0032】
上記MEMS発振器によれば、製品として求められる目標精度に比べてMEMS構造体の膜厚ばらつきに起因する共振周波数のばらつきが大きくても、目標精度内の共振周波数を有するMEMS振動子が高い歩留りで得られるMEMS発振器を提供することができる。
【0033】
本発明の一態様は、基板上に、設計値において所定の共振周波数差を有する複数のMEMS振動子、前記複数のMEMS振動子それぞれが接続された選択部、前記選択部に接続されたバイアス電圧印加部、発振回路部、及び前記発振回路部に接続されたバッファ部を形成し、
前記選択部及び前記バイアス電圧印加部によって前記複数のMEMS振動子のいずれか一つのMEMS振動子に選択的にバイアス電圧を印加し、前記一つのMEMS振動子を前記発振回路部によって発振させ、前記バッファ部によって前記一つのMEMS振動子から発振出力された共振周波数を計測し、所定の範囲内の共振周波数を有する一つのMEMS振動子を前記複数のMEMS振動子から特定し、
前記特定されなかった全てのMEMS振動子を前記選択部によって選択せず、前記特定された一つのMEMS振動子を前記選択部によって選択することにより、前記特定されなかった全てのMEMS振動子を前記発振回路部に電気的に接続せず、前記特定された一つのMEMS振動子を前記選択部によって前記発振回路部に電気的に接続するMEMS発振器の製造方法であって、
前記複数のMEMS振動子それぞれは、梁構造を有しており、
前記梁構造は、前記基板上に形成された固定電極と、その固定電極に対向して配置された振動可能な梁を備えた可動電極を有しており、
前記複数のMEMS振動子は、それぞれの梁構造が異なることによって前記所定の共振周波数差を有し、
前記梁構造が異なることは、前記梁のパターン形状が異なることであるMEMS発振器の製造方法である。
【0034】
上記MEMS構造体によれば、製品として求められる目標精度に比べてMEMS構造体の膜厚ばらつきに起因する共振周波数のばらつきが大きくても、目標精度内の共振周波数を有するMEMS振動子が高い歩留りで得られるMEMS発振器の製造方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0035】
【図1】本実施形態に係るMEMS発振器を模式的に示す構成図。
【図2】図1に示す4個のMEMS振動子10a〜10dを示す平面図。
【図3】MEMS振動子の共振周波数のばらつきと目標精度(公差)との関係及び図2に示す4個のMEMS振動子それぞれの共振周波数の設計値を示す図。
【図4】MEMS振動子の共振周波数のばらつきと目標精度(公差)との関係及び9個のMEMS振動子それぞれの共振周波数の設計値を示す図。
【図5】図1に示す選択部3a,3bを詳細に説明するための回路図。
【図6】設計値において200kHzの共振周波数差を確保できない場合を説明する図。
【図7】レジストマスクの加工精度が低くても、より狭い共振周波数差を確保できる梁構造を有する4個のMEMS振動子を示す平面図。
【図8】梁の長さのみによって調整した共振周波数の間隔と、錘の追加によって調整した共振周波数の間隔をシミュレート値によって示す図。
【図9】(a)〜(c)は図2に示すMEMS振動子を製造する方法を説明する断面図。
【図10】(a)〜(c)は図2に示すMEMS振動子を製造する方法を説明する断面図。
【図11】(a)〜(d)は図2に示すMEMS振動子を製造する方法を説明する断面図。
【図12】、図1に示す選択部によってMEMS振動子の選択及び非選択を行う方法を説明するフローチャート。
【図13】(A)は図7に示すMEMS振動子の変形例1を示す図、(B)はMEMS振動子の変形例2を示す図。
【図14】(a)は両持ちの構造体を使用したMEMS振動子30の基本構造を示す平面図であり、(b)は(a)に示すA−A'線の側面図。
【図15】(a)は両持ちの構造体を使用した4個のMEMS振動子を示す平面図、(b)は(a)に示すC−C'線に沿った断面図。
【図16】(a)は両持ちの構造体を使用した4個のMEMS振動子を示す平面図、(b)は(a)に示すE−E'線に沿った断面図。
【図17】レジストマスクの加工精度が低くても、より狭い共振周波数差を確保できる梁構造を有する複数のMEMS振動子を示す平面図。
【図18】梁の長さのみによって調整した共振周波数の間隔と、スリットの数によって調整した共振周波数の間隔をシミュレート値によって示す図。
【図19】(a)は両持ちの構造体を使用した4個のMEMS振動子を示す平面図、(b)は(a)に示すA−A'線に沿った断面図、(c)は(a)に示すB−B'線に沿った断面図。
【図20】従来のMEMS振動子の回路構成を示す図。
【図21】従来のMEMS発振器の一例を示す図。
【図22】カンチレバーと呼ばれる片持ち構造体を使用したMEMS振動子の一例を示す斜視図。
【図23】(A)は図22に示すMEMS振動子の平面図、(B)は(A)に示すB−B'線に沿った断面図、(C)は(A)に示すC−C'線に沿った断面図。
【図24】MEMS振動子の固定電極及び可動電極の膜厚ばらつきによる共振周波数のばらつきと、MEMS振動子が求められる目標精度との関係を示す図。
【発明を実施するための形態】
【0036】
以下では、本発明の実施の形態について図面を用いて詳細に説明する。ただし、本発明は以下の説明に限定されず、本発明の趣旨及びその範囲から逸脱することなくその形態及び詳細を様々に変更し得ることは、当業者であれば容易に理解される。従って、本発明は以下に示す実施の形態の記載内容に限定して解釈されるものではない。
【0037】
(実施形態1)
図1は、本実施形態に係るMEMS発振器を模式的に示す構成図である。このMEMS発振器は、発振器構成回路300及び複数のMEMS振動子、例えば4個のMEMS振動子10a〜10dを有している。発振器構成回路300は、増幅器(バッファ部)1、発振回路部2、選択部3a,3b、及びバイアス電圧印加部4を有している。発振回路部2は、回路素子、トランジスタ等の能動回路部、出力端子等を有している。
【0038】
4個のMEMS振動子10a〜10dそれぞれの一方電極は選択部3aを介して発振回路部2に電気的に接続されており、4個のMEMS振動子10a〜10dそれぞれの他方電極は選択部3bを介して発振回路部2に電気的に接続されている。発振回路部2は増幅器1に電気的に接続されている。
【0039】
また、選択部3a,3bにはバイアス電圧印加部4が接続されており、バイアス電圧印加部4は、選択部3a,3bを介して4個のMEMS振動子10a〜10dそれぞれ、もしくは選択された一つのMEMS振動子のみに直流バイアス電圧を印加するものである。
【0040】
4個のMEMS振動子10a〜10dそれぞれは梁構造を有しており、4個のMEMS振動子10a〜10dは、それぞれの梁構造が異なることによって共振周波数を異ならせて所定の共振周波数差を有している。
【0041】
図2は、図1に示す4個のMEMS振動子10a〜10dを示す平面図である。これらのMEMS振動子10a〜10dそれぞれは、その構造が図23に示すMEMS振動子と同様であるが、梁の長さ16a〜16dを変えることによって共振周波数を異ならせている。
【0042】
詳細には、MEMS振動子10a〜10dは、図示せぬ基板上に形成された固定電極12と、その固定電極12と一定間隔をあけて形成された可動電極8とから構成されている。可動電極8は、基板上に形成された固定部11と、固定電極12に対向して配置された振動可能な可動部(梁)16と、その可動部16と固定部11を連結して支持する支持部によって構成されている。MEMS振動子それぞれの梁の長さ16a〜16dは、MEMS振動子10aから順に短く形成されている。MEMS振動子10aの梁の長さ16aが一番長く形成されており、MEMS振動子10bの梁の長さ16b、MEMS振動子10cの梁の長さ16c、MEMS振動子10dの梁の長さ16dの順に段階的に短く形成されている。
【0043】
図3は、図24に示すMEMS振動子の共振周波数のばらつきと目標精度(公差)との関係を示す図に、図2に示す4個のMEMS振動子10a〜10dそれぞれの共振周波数の設計値を表した図である。
【0044】
図1に示すMEMS発振器は、20MHz±0.5%(±100kHz)の共振周波数で発振する発振器を例にとり説明する。なお、本実施形態で説明する共振周波数の具体的数値及び目標精度の具体的数値は、製品によって異なるため、単なる一例である。
【0045】
図3に示すように、MEMS振動子10aの設計値は19.7MHzであり、MEMS振動子10bの設計値は19.9MHzであり、MEMS振動子10cの設計値は20.1MHzであり、MEMS振動子10dの設計値は20.3MHzである。言い換えると、MEMS振動子10a〜10dそれぞれが上記の設計値となるように図2に示す梁の長さ16a〜16dを必要周波数分だけ延長又は短縮している。共振周波数frの導出式は、下記式(1)のとおりであるため、梁の長さを延長又は短縮することで共振周波数frを変えることができる。
【0046】
fr=(35E/33ρ)1/2H/(2πL2) ・・・(1)
ただし、H,LはそれぞれMEMS振動子の膜厚,梁の長さであり、E,ρはそれぞれMEMS振動子を構成する材料のヤング率と密度である。
【0047】
製品として求められる目標精度が±0.5%(±100kHz)であり、梁の膜厚ばらつきに起因する共振周波数のばらつきが±2%(±400kHz)である場合において、梁構造(例えば梁の長さ)を異ならせることによって、図2に示すように200kHz間隔で4つの設計値のMEMS振動子10a〜10dを基板上に作製する。これにより、量産したMEMS振動子において基板面内又は基板相互間における梁の膜厚ばらつき(即ち図2に示す固定電極12及び可動電極8の膜厚ばらつき)が発生しても、4個のMEMS振動子10a〜10dのうち少なくとも一つのMEMS振動子は、確実に20MHz±0.5%(±100kHz)の目標精度内の共振周波数を有することになる。その理由は次のとおりである。
【0048】
基板面内又は基板相互間において梁の膜厚ばらつきが発生して4個のMEMS振動子10a〜10dそれぞれの共振周波数が全て設計値に対して+400kHzずれたとしても、製造後の4個のMEMS振動子10a〜10dそれぞれの実際の共振周波数は、20.1MHz、20.3MHz、20.5MHz、20.7MHzとなる。従って、4個のMEMS振動子のうち一つのMEMS振動子10aは目標精度内の共振周波数を有することになる。
【0049】
また、基板面内又は基板相互間において梁の膜厚ばらつきが発生して4個のMEMS振動子10a〜10dそれぞれの共振周波数が全て設計値に対して−400kHzずれたとしても、製造後の4個のMEMS振動子10a〜10dそれぞれの実際の共振周波数は、19.3MHz、19.5MHz、19.7MHz、19.9MHzとなる。従って、4個のMEMS振動子のうち一つのMEMS振動子10dは目標精度内の共振周波数を有することになる。
【0050】
上述したように、本実施形態ではMEMS振動子10a〜10dそれぞれの共振周波数の差分が200kHzとなることを意図しているため、製造プロセスのばらつきによってその差分がばらつくのを少なくすることが好ましい。そのためには、図2に示すように、MEMS振動子10a〜10dを近接して形成することが好ましく、また梁16の長さ方向を同じ方向に形成することが好ましい。
【0051】
本実施形態では、梁の膜厚ばらつきに起因する共振周波数のばらつき(±400kHz)が製品として求められる目標精度(±100kHz)の4倍であるため、少なくとも4個のMEMS振動子を基板上に作製する必要がある。これら4個のMEMS振動子それぞれの設計値と最も近い他の設計値との差分は目標精度の範囲以下(200kHz以下)とする必要がある。
【0052】
上記の内容を一般式で表すと、梁の膜厚ばらつきに起因する共振周波数のばらつきを±X(kHz)とし、製品として求められる目標精度を±Y(kHz)とした場合、少なくともX/Y個のMEMS振動子を基板上に作製する必要があることになる。これらX/Y個のMEMS振動子それぞれの設計値と最も近い他の設計値との差分は2Y以下とする必要がある。
【0053】
このように図1に示すMEMS発振器では、4個のMEMS振動子10a〜10dを作製しているが、梁の膜厚ばらつきに起因する共振周波数のばらつきと目標精度が変わることによってX/Y個のMEMS振動子を作製することになる。
【0054】
なお、本実施形態では、図3に示すように共振周波数の差分を200kHzに設定し、4個のMEMS振動子10a〜10dを有するMEMS発振器を形成しているが、これに限定されるものではなく、図4に示すように共振周波数の差分を100kHzに設定し、9個のMEMS振動子10e〜10mを有するMEMS発振器を形成しても良い。これにより、9個のMEMS振動子10e〜10mのうち2個のMEMS振動子は目標精度内の共振周波数を有することになる。
【0055】
ここでは、図1〜図3に示すように共振周波数の差分を200kHzに設定し、4個のMEMS振動子10a〜10dを有するMEMS発振器を例に取り、その場合において、梁の膜厚ばらつきが発生して4個のMEMS振動子10a〜10dそれぞれの共振周波数が全て設計値に対して+200kHz〜+400kHzずれた場合について説明する。この場合は、MEMS振動子が作製された後に、目標精度範囲内の一つのMEMS振動子10aが選択部3a,3bによって選択されたことにより発振回路2に接続され、一つのMEMS振動子10a以外の全ての目標精度範囲外のMEMS振動子10b〜10dそれぞれが選択部3a,3bによって選択されなかったことにより発振回路2に接続されない。その結果、発振回路2には、4個のMEMS振動子10a〜10dのいずれか一つの目標精度範囲内のMEMS振動子10aが電気的に接続され、且つ4個のMEMS振動子10a〜10dのうち一つのMEMS振動子10a以外の全ての目標精度範囲外のMEMS振動子10b〜10dが電気的に接続されないことになる。
【0056】
このような選択部3a,3bによるMEMS振動子の選択及び非選択は図1のMEMS発振器が製造される時に行われ、その選択及び非選択が行われた後には選択部3a,3bによるMEMS振動子の選択及び非選択を行うことができない。
【0057】
図5は、図1に示す選択部3a,3bを詳細に説明するための回路図である。図5に示す基準電圧発生回路4a及び出力電圧調整回路4bは図1に示すバイアス電圧印加部4に相当する。バイアス電圧印加部4は複数のMEMS振動子10a,10b,10c,10d・・・10nそれぞれに選択部3a,3bを介して電気的に接続されている。図5では、図1と異なり、4個以上のMEMS振動子が形成されているが、MEMS振動子の最低個数は梁の膜厚ばらつきに起因する共振周波数のばらつきと目標精度によって変更されるものであり、MEMS振動子の個数は限定されるものではない。また、出力電圧調整回路4bは、共振周波数を微調整する回路であるが、周波数の微調整が不要の場合は省略しても良い。
【0058】
図1に示す選択部3a,3bは、図5に示すMEMS振動子10a〜10nそれぞれの一方電極と端子X2との間に接続されたアナログスイッチ6a〜6nと、MEMS振動子10a〜10nそれぞれの他方電極と端子X1との間に接続されたアナログスイッチ7a〜7nと、それらのアナログスイッチそれぞれを、オン状態にするためのハイ信号又はオフ状態にするためのロー信号を入力する入力部SW_X01〜SW_X0nとを有している。入力部SW_X01〜SW_X0nへは外部から制御信号が入力される。また、端子X1,X2は図1に示す発振回路2に電気的に接続されている。
【0059】
アナログスイッチは、入力部からハイ信号がそのアナログスイッチに入力されると、そのアナログスイッチがオン状態となってMEMS振動子と発振回路が導通状態になり、入力部からロー信号がそのアナログスイッチに入力されると、そのアナログスイッチがオフ状態となってMEMS振動子と発振回路が非導通状態になる。
【0060】
ここまでの説明では、MEMS振動子の共振周波数の設計値を梁の長さによって調整することを前提として説明した。しかし、精度良く梁の長さが調整された可動電極を作製できるか否かは、可動電極を形成する際のエッチング加工時に用いられるレジストマスクの性能によることが大きい。そして、一般的に、加工精度が高いレジストマスクは高価格であるのに対し、加工精度が低いレジストマスクは低価格である。従って、例えば低価格のレジストマスクを用いると、複数のMEMS振動子それぞれの共振周波数の設計値において所定の共振周波数差を確保することができないことがある。これについて図6を用いて詳細に説明する。
【0061】
図6は、設計値において200kHzの共振周波数差を確保できない場合を説明する図である。製品としてのMEMS振動子が求められる共振周波数frの目標精度(公差)を、例えばfr=200MHz±100kHzとした場合、H=a(μm)、L=b(μm)、E=c(GPa)、ρ=d(kg/m3)とすると、共振周波数frの導出式である上記式(1)により共振周波数f1は仮にg(MHz)となるとする。
【0062】
レジストマスクによって梁の長さLを制御できる精度は最小のマスクグリッドによって制約される。その最小グリッドがe(μm)のレジストマスクを用いた場合、上記のL=b(μm)の前後の梁の長さLは、それぞれb−e(μm)とb+e(μm)となる。
【0063】
梁の長さLをb−e(μm)とし、H、E、ρの値を上記と同様のa、c、dとすると、共振周波数f2は仮にg+x(MHz)となるとする。また、梁の長さLをb+e(μm)とし、H、E、ρの値を上記と同様のa、c、dとすると、共振周波数f3は仮にg−x(MHz)となるとする。従って、最小グリッドがe(μm)のレジストマスクを用いると、eの値によっては図6に示すようにgと(g+x)の差が200KHzより大きくなり、200kHzの共振周波数差を確保することができない場合がある。このように梁の長さによって共振周波数差を確保する場合はレジストマスクの最小グリッドによる限界がある。
【0064】
図7は、レジストマスクの加工精度が低くても、より狭い共振周波数差を確保できる梁構造を有する4個のMEMS振動子30a〜30dを示す平面図である。 これらのMEMS振動子30a〜30dそれぞれは、その構造が図2に示すMEMS振動子と同様であるが、可動部(梁)16に錘31a〜31cを設けている点で異なり、錘31a〜31cの大きさを変えることによって共振周波数を異ならせている。なお、錘31a〜31cは、梁16のパターン形状を変更することによって形成したものであり、梁のパターン形状が異なることによって共振周波数を異ならせている。また、錘は個々の振動子の振動に直接寄与しない部位に形成され、MEMS振動子の実効的な振動部の質量を変動させて共振周波数を調整している。
【0065】
詳細には、MEMS振動子30a〜30dは、図示せぬ基板上に形成された固定電極と、その固定電極と一定間隔をあけて形成された可動電極8と、から構成されている。可動電極8は、基板上に形成された固定部11と、固定電極に対向して配置された振動可能な可動部(梁)16と、その梁に設けられた錘31a〜31cと、可動部16と固定部11を連結して支持する支持部によって構成されている。錘31a〜31cの幅32a〜32cは、MEMS振動子30aから順に短く形成されている。
【0066】
図8は、図2に示すMEMS振動子10a〜10dのように梁の長さのみによって調整した共振周波数の間隔と、図7に示すMEMS振動子30a〜30dのように錘の追加によって調整した共振周波数の間隔をシミュレート値によって示す図である。図8により、錘の追加によって調整した共振周波数の間隔のほうが、梁の長さのみの調整に比べて短くできることが確認された。
【0067】
次に、図7に示すMEMS振動子30a〜30dを使用した図1に示すMEMS発振器を製造する方法について図9〜図12を参照しつつ説明する。
図9〜図11は、図7に示すMEMS振動子を製造する方法を説明する断面図である。
図12は、図1に示す選択部によってMEMS振動子の選択及び非選択を行う方法を説明するフローチャートである。
【0068】
図9(a)に示すように、p型Si基板15を用意する。次いで、図9(b)に示すように、このp型Si基板15の上にシリコン酸化膜14を形成する。次いで、図9(c)に示すように、このシリコン酸化膜14の上にシリコン窒化膜13を形成する。
【0069】
次に、図10(a)に示すように、シリコン窒化膜13の上にCVD法により1層目のポリシリコン膜を堆積する。次いで、このポリシリコン膜上にレジスト膜(図示せず)を塗布し、そのレジスト膜を露光及び現像することにより、ポリシリコン膜上にレジストパターンが形成される。次いで、このレジストパターンをマスクとして1層目のポリシリコン膜をエッチングすることにより、シリコン窒化膜13上には1層目のポリシリコン膜からなる固定電極12が形成される。
【0070】
次に、図10(b)に示すように、固定電極12の表面を覆うようにシリコン酸化膜(犠牲層)20を形成する。次いで、図10(c)に示すように、シリコン窒化膜13及びシリコン酸化膜20の上にCVD法により2層目のポリシリコン膜を堆積する。次いで、このポリシリコン膜上にレジスト膜(図示せず)を塗布し、そのレジスト膜を露光及び現像することにより、ポリシリコン膜上にレジストパターンが形成される。次いで、このレジストパターンをマスクとして2層目のポリシリコン膜をエッチングすることにより、シリコン窒化膜13上には2層目のポリシリコン膜からなる可動電極8が形成される。
【0071】
次に、図11(a)に示すように、可動電極8及び固定電極12の上に、内部に多層配線を有する層間絶縁膜25を形成する。多層配線は、固定電極12に電気的に接続された第1の配線プラグ21aと、第1の配線プラグ21a上に電気的に接続された第1の配線22aと、第1の配線22a上に電気的に接続された第2の配線プラグ23aと、第2の配線プラグ23a上に電気的に接続された第2の配線24aを有するとともに、可動電極8に電気的に接続された第1の配線プラグ21bと、第1の配線プラグ21b上に電気的に接続された第1の配線22bと、第1の配線22b上に電気的に接続された第2の配線プラグ23bと、第2の配線プラグ23b上に電気的に接続された第2の配線24bを有する。第2の配線24a,24bそれぞれは図1に示す選択部3a,3bに接続される配線である。
【0072】
次に、図11(b)に示すように、層間絶縁膜24の上にパッシベーション膜26を形成する。次いで、図11(c)に示すように、パッシベーション膜26をエッチングすることにより、パッシベーション膜26に開口部26aを形成する。
【0073】
次いで、図11(d)に示すように、パッシベーション膜26をマスクとしてウェットエッチングすることにより、開口部26aの下方に位置する層間絶縁膜25及びシリコン酸化膜20を除去する。これにより、層間絶縁膜25にはキャビティ28が形成され、このキャビティ28にはMEMS振動子が形成される。このMEMS振動子は、固定電極12と、その固定電極12と一定間隔をあけて形成された可動電極8とから構成され、可動電極8は、固定部11と、固定電極12に対向して配置された振動可能な可動部(梁)16と、その梁に設けられた錘31aと、可動部16と固定部11を連結して支持する支持部17aによって構成される。
【0074】
なお、図11(d)には1個のMEMS振動子(図7に示すMEMS振動子30aに相当)だけが示されているが、キャビティ28内には4個のMEMS振動子が図7に示すように並べて設けられていても良いし、キャビティ28が4個並べて設けられ、4個のキャビティそれぞれに1個のMEMS振動子が設けられていても良い。
【0075】
また、図9〜図11に示すMEMS発振器の製造方法を、図2に示すMEMS振動子10a〜10dを使用した図1に示すMEMS発振器を製造する方法に適用することも可能である。ただし、図2に示すMEMS振動子10a〜10dを使用した場合は、梁のパターン形状が図7に示すMEMS振動子を使用した場合に比べて異なる。
【0076】
この後、キャビティ28の上方に蓋(図示せず)を形成することにより、MEMS振動子30a〜30dはキャビティ28内に減圧封止されてパッケージに封止される。
【0077】
上記のようにp型Si基板15にMEMS振動子を形成する半導体プロセスを用いてp型Si基板15の他の領域に、図5に示すアナログスイッチ6a〜6n,7a〜7n、入力部SW_X01〜SW_X0n、図1に示す発振回路2、バイアス電圧印加部4及び増幅器1のいずれか又は全てを同時に形成しても良いし、別々に形成しても良い。また、アナログスイッチは半導体スイッチを用いても良いし、機械的スイッチを用いても良い。
【0078】
以上のようにして製造された図7に示すMEMS振動子30a〜30dそれぞれの共振周波数の設計値及び目標精度(公差)が、図3に示す4個のMEMS振動子10a〜10dそれぞれと同様である場合を例にとり、以下の説明をする。
【0079】
図7に示すMEMS振動子30a〜30dを使用した図1に示すMEMS発振器を以上のようにして製造した初期状態では、図5に示すアナログスイッチのSW_X01〜SW_X0nの複数端子うちの特定の一つがハイ状態であり、残りの端子がロー状態である事をいう。
【0080】
MEMS振動子30dの一方電極及び他方電極それぞれと発振回路2との間に接続されたアナログスイッチに入力部からハイ信号が入力されると、そのアナログスイッチがオン状態となってMEMS振動子30dと発振回路2が導通状態になるようになっている。また、MEMS振動子30a〜30cそれぞれの一方電極及び他方電極それぞれと発振回路2との間に接続されたアナログスイッチに入力部からロー信号が入力されると、そのアナログスイッチがオフ状態となってMEMS振動子30a〜30cそれぞれと発振回路2が非導通状態になるようになっている。
【0081】
次に、図1に示す選択部3a,3bによってMEMS振動子の選択及び非選択を行う方法について図12を参照しつつ説明する。
【0082】
まず、図12に示すように、MEMS振動子30dの一方電極及び他方電極それぞれと発振回路2との間に接続されたアナログスイッチに入力部からハイ信号が入力され、MEMS振動子30dを発振回路2に電気的に接続し、MEMS振動子30a〜30cそれぞれの一方電極及び他方電極それぞれと発振回路2との間に接続されたアナログスイッチに入力部からロー信号が入力され、MEMS振動子30a〜30cを発振回路2に電気的に接続しない状態とする。この状態で、発振回路2によってMEMS振動子30dを発振させ、MEMS振動子30dから出力された共振周波数を計測する(S1)。この計測された共振周波数が図3に示す目標精度の範囲内であるか否かを判定する(S2)。
【0083】
この判定結果が図3に示す目標精度範囲内である場合は、選択部のスイッチを切り替えることなく、終了する。
また、共振周波数の計測結果が例えば20.55MHzであったとすると、計測された共振周波数が目標精度の範囲内でないと判定される(S2)。この場合は、計測された共振周波数(20.55MHz)と計測されたMEMS振動子30dの共振周波数の設計値(20.3MHz)との差分(250kHz)を算出する(S3)。そして、この算出された差分(250kHz)、MEMS振動子30a〜30dの設計値における共振周波数差(200kHz)及びMEMS振動子30a〜30dそれぞれの共振周波数の設計値(図3に示す19.7MHz、19.9MHz、20.1MHz、20.3MHz)を用いて、目標精度の範囲内の共振周波数を持つMEMS振動子がMEMS振動子30a〜30cのいずれのMEMS振動子であるかを特定する(S4)。詳細には、差分が250kHzであることから、MEMS振動子30aの実際の共振周波数は19.95MHzであると推測され、MEMS振動子30bの実際の共振周波数は20.15MHzであると推測され、MEMS振動子30cの実際の共振周波数は20.35MHzであると推測される。これらの推測結果から目標精度の範囲内の共振周波数を持つMEMS振動子はMEMS振動子30aであると特定する(S4)。
なお、上記の共振周波数の具体的数値は、製品によって異なるため、単なる一例である。
【0084】
次いで、特定されなかった全てのMEMS振動子30b〜30dを選択部3a,3bによって選択せず、特定された一つのMEMS振動子30aを選択部3a,3bによって選択することにより、特定されなかった全てのMEMS振動子30b〜30dを発振回路2に電気的に接続せず、特定された一つのMEMS振動子30aを選択部3a,3bによって発振回路2に電気的に接続する(S5)。
【0085】
詳細には、MEMS振動子30dに接続されたアナログスイッチにロー信号を入力し、MEMS振動子30aに接続されたアナログスイッチにハイ信号を入力する。
【0086】
この後、発振回路2によってMEMS振動子30aを発振させ、MEMS振動子30aの発振特性を確認する(S6)。この発振特性の良否を判定し(S7)、その判定結果が良の場合は終了し、判定結果が否の場合はロットアウトする。
【0087】
次に、チップ状に切り出すダイシング工程などの後工程が施される。
【0088】
以上説明したように、製品として求められる目標精度に比べて梁の膜厚ばらつきに起因する共振周波数のばらつきが大きくても、目標精度内の共振周波数を有するMEMS振動子を確実に選択することができる。従って、高い歩留りでMEMS発振器を得ることが可能となる。
【0089】
また、図7に示す錘を有する梁構造とすることにより、図2に示す梁構造と比べて共振周波数の間隔を狭くすることができる。
【0090】
(変形例1)
図13(A)は、図7に示すMEMS振動子の錘の形状を変更した例を示す図であり、図7と同一部分には同一符合を付し、異なる部分についてのみ説明する。
図13(A)に示す4個以上のMEMS振動子30e〜30hそれぞれの梁16の長さは同一である。また、錘31e〜31hそれぞれの形状及び大きさは図7に示す錘31a〜31cと異なる。
【0091】
上記変形例1においても上記実施形態1と同様の効果を得ることができる。
【0092】
(変形例2)
図13(B)は、図13(A)に示すMEMS振動子と図7に示すMEMS振動子を組み合わせた例を示す図であり、図13(A)と同一部分には同一符合を付し、異なる部分についてのみ説明する。
図13(B)に示す5個のMEMS振動子30i〜30mそれぞれの梁16の長さは段階的に小さくなっている。また、MEMS振動子30j,30lそれぞれには錘31j,31lが設けられているが、MEMS振動子30i,30k,31mそれぞれには錘が設けられていない。また、錘31j,31lそれぞれは、錘の形状及び大きさが同一である。
【0093】
上記変形例2においても上記実施形態1と同様の効果を得ることができる。
【0094】
(変形例3)
上記実施形態1、変形例1,2では、図2に示すような片持ちの構造体を使用したMEMS振動子10a〜10d等を用いているが、この片持ちの構造体を使用したMEMS振動子を、次のような両持ちの構造体を使用したMEMS振動子に変更して実施することも可能である。
【0095】
図14(a)は、両持ちの構造体を使用したMEMS振動子30の基本構造を示す平面図であり、図14(b)は、図14(a)に示すA−A'線の側面図である。図15(a)は、両持ちの構造体を使用した4個のMEMS振動子30p〜30r,30を示す平面図であり、図15(b)は、図15(a)に示すC−C'線に沿った断面図である。図15に示すMEMS振動子は、図1に示す4個のMEMS振動子10a〜10dに適用することができる。
【0096】
図14(a),(b)に示すように、両持ちの構造体は、片持ちの構造体のように梁の一方端を支持部によって支持するのではなく、梁の両端を支持部によって支持する構造である。詳細には、MEMS振動子30は、基板上に形成された固定電極33と、その固定電極33と一定間隔をあけて形成された可動電極34とから構成されている。可動電極34は、基板上に形成され、固定電極33の一方側に形成された第1の固定部35aと、固定電極33の他方側に形成された第2の固定部35bと、固定電極33に対向して配置された振動可能な可動部(梁)36と、その可動部36の一方端と第1の固定部35aを連結して支持する第1の支持部37aと、その可動部36の他方端と第2の固定部35bを連結して支持する第2の支持部37bによって構成されている。
【0097】
図15(a)に示すMEMS振動子30p〜30r,30それぞれは、その構造が互いに同様であるが、MEMS振動子30p〜30rそれぞれの梁36の両端には錘38a,38b,38cが設けられている。これらの錘38a,38b,38cは、図13(A)に示す錘と同様に、錘の幅が段階的に小さく形成されている。錘38a,38b,38cを変えることによって共振周波数を異ならせている。
【0098】
上記変形例3においても上記実施形態1と同様の効果を得ることができる。
【0099】
(変形例4)
図16(a)は、両持ちの構造体を使用した4個のMEMS振動子30s〜30vを示す平面図であり、図16(b)は、図16(a)に示すE−E'線に沿った断面図であり、図15と同一部分には同一符合を付し、異なる部分についてのみ説明する。
【0100】
MEMS振動子30s〜30uそれぞれの梁36の両端には錘39a,39b,39cが設けられている。これらの錘39a,39b,39cは、幅が同一であるが長さが段階的に小さく形成されている。錘39a,39b,39cを変えることによって共振周波数を異ならせている。
【0101】
上記変形例4においても上記実施形態1と同様の効果を得ることができる。
【0102】
(実施形態2)
図17は、レジストマスクの加工精度が低くても、より狭い共振周波数差を確保できる梁構造を有する複数のMEMS振動子40a〜40eを示す平面図であり、図7と同一部分には同一符合を付し、異なる部分について説明する。なお、実施形態2によるMEMS発振器が実施形態1によるMEMS発振器と異なる部分は、図17に示すMEMS振動子である。
【0103】
図17に示すMEMS振動子40a〜40eそれぞれは、その構造が図2に示すMEMS振動子と同様であるが、スリット17を設けている点で異なり、スリット17の数を変えてバネ定数が異なることによって共振周波数を異ならせている。なお、スリット17は、エッチング加工によって形成したものである。
【0104】
詳細には、MEMS振動子40a〜40eは、図示せぬ基板上に形成された固定電極12と、その固定電極12と一定間隔をあけて形成された可動電極8と、から構成されている。可動電極8は、基板上に形成された固定部11と、固定電極12に対向して配置された振動可能な可動部(梁)16と、可動部16と固定部11を連結して支持する支持部と、によって構成されている。この支持部は、該支持部を貫通するスリット17を有している。スリット17の数は、MEMS振動子40bから順に多く形成されている。
【0105】
なお、図17では、スリット17の数と梁16の長さの両方が異なることによって共振周波数を異ならせているが、スリットの数の代わりにスリットの大きさを異ならせても良いし、スリットの数と大きさの両方を異ならせても良いし、梁の長さを同一にしても良い。
【0106】
図18は、図2に示すMEMS振動子10a〜10dのように梁の長さのみによって調整した共振周波数の間隔と、図17に示すMEMS振動子40a〜40eのようにスリットの数によって調整した共振周波数の間隔をシミュレート値によって示す図である。図18により、スリットの数(穴追加)によって調整した共振周波数の間隔のほうが、梁の長さのみの調整に比べて短くできることが確認された。
【0107】
(変形例)
上記実施形態2では、図17に示すような片持ちの構造体を使用したMEMS振動子40a〜40eを用いているが、この片持ちの構造体を使用したMEMS振動子を、次のような両持ちの構造体を使用したMEMS振動子に変更して実施することも可能である。
【0108】
図19(a)は、両持ちの構造体を使用した4個のMEMS振動子41,41a〜41cを示す平面図であり、図19(b)は、図19(a)に示すA−A'線に沿った断面図であり、図19(c)は、図19(a)に示すB−B'線に沿った断面図である。図19に示すMEMS振動子は、図1に示す4個のMEMS振動子10a〜10dに適用することができる。
【0109】
図19(a)〜(c)に示すMEMS振動子41,41a〜41cそれぞれは、その基本構造が図14に示すMEMS振動子と同様であるが、スリット17を設けている点で異なり、スリット17の数を変えてバネ定数が異なることによって共振周波数を異ならせている。なお、スリット17は、エッチング加工によって形成したものである。
【0110】
詳細には、MEMS振動子41a〜41cそれぞれは、基板上に形成された固定電極33と、その固定電極33と一定間隔をあけて形成された可動電極34とから構成されている。可動電極34は、基板上に形成され、固定電極33の一方側に形成された第1の固定部35aと、固定電極33の他方側に形成された第2の固定部35bと、固定電極33に対向して配置された振動可能な可動部(梁)36と、その可動部36の一方端と第1の固定部35aを連結して支持する第1の支持部37aと、その可動部36の他方端と第2の固定部35bを連結して支持する第2の支持部37bによって構成されている。第1及び第2の支持部37a,37bそれぞれは、支持部を貫通するスリット17を有している。スリット17の数は、MEMS振動子41aから順に多く形成されている。
【0111】
なお、図19では、スリット17の数が異なることによって共振周波数を異ならせているが、スリットの数の代わりにスリットの大きさを異ならせても良いし、スリットの数と大きさの両方を異ならせても良いし、さらに梁の長さを異ならせても良い。
【0112】
上記変形例においても上記実施形態2と同様の効果を得ることができる。
【0113】
なお、本発明は上記実施形態及び変形例に限定されるものではなく、上記実施形態及び変形例を適宜組み合わせて実施することも可能である。
【符号の説明】
【0114】
1…増幅器、2…発振回路部、3a,3b…選択部、4…バイアス電圧印加部、4a…基準電圧発生回路、4b…出力電圧調整回路(抵抗分割)、6a〜6c,6n,7a〜7c,7n…アナログスイッチ、8,34,102…可動電極、10a〜10d,10n,30,30a〜30m,30p〜30v,40a〜40e,41,41a〜41c,201…MEMS振動子、11,104…固定部、12,33,101…固定電極、13,112…シリコン窒化膜、14,111…シリコン酸化膜、15…p型Si基板、16,36,103…可動部(梁)、16a〜16d…梁の長さ、17…スリット、17a,105…支持部、20…シリコン酸化膜(犠牲層)、25…層間絶縁膜、26…パッシベーション膜、26a…開口部、28…キャビティ、31a〜31c,31e〜31h,31j,31l…錘、32a〜32c…錘の幅、35a,35b…第1及び第2の固定部、37a,37b…第1及び第2の支持部、100…基板、110…Si基板、203a,203b…結合容量、204a,204b…バイアス抵抗、210…入力端子、220…出力端子、230…増幅回路、240…緩衝回路(バッファアンプ)、300…発振器構成回路
【特許請求の範囲】
【請求項1】
基板上に複数のMEMS振動子を配置したMEMS構造体であって、
前記複数のMEMS振動子それぞれは、梁構造を有しており、
前記複数のMEMS振動子は、それぞれの梁構造が異なることによって共振周波数が異なるMEMS構造体。
【請求項2】
請求項1において、
前記梁構造は、基板上に形成された固定電極と、その固定電極に対向して配置された振動可能な梁及びその梁に設けられた錘を備えた可動電極を有しており、
前記梁構造が異なることは、前記錘のパターン形状が異なること、前記梁のパターン形状が異なること、前記梁のパターン形状と前記錘のパターン形状の両方が異なることのいずれかであるMEMS構造体。
【請求項3】
請求項2において、
前記錘のパターン形状が異なることは、前記錘の大きさが段階的に大きくなることであり、
前記梁のパターン形状が異なることは、前記梁の長さが段階的に大きくなることであるMEMS構造体。
【請求項4】
請求項1において、
前記梁構造は、基板上に形成された固定電極と、その固定電極に対向して配置された振動可能な梁を備えた可動電極を有しており、
前記梁構造が異なることは、前記梁のパターン形状が異なることであるMEMS構造体。
【請求項5】
請求項1において、
前記梁構造は、基板上に形成された固定電極と、前記基板上に形成された固定部と前記固定電極に対向して配置された振動可能な梁とその梁と前記固定部を連結して支持する支持部を備えた可動電極を有しており、
前記支持部は、該支持部を貫通するスリットを有しており、
前記梁構造が異なることは、前記スリットの大きさ又は数が異なることによってバネ定数が異なること、前記梁の長さが異なること、前記スリットの大きさ又は数と前記梁の長さの両方が異なることであるMEMS構造体。
【請求項6】
請求項5において、
前記スリットの大きさ又は数が異なることは、前記スリットの大きさが同じで且つ前記スリットの数が段階的に多くなること、前記スリットの数が同じで且つ前記スリットの大きさが段階的に大きくなること、前記スリットの大きさ及び数の両方が段階的に大きくなることのいずれかであり、
前記梁の長さが異なることは、前記梁の長さが段階的に大きくなることであるMEMS構造体。
【請求項7】
請求項1乃至6のいずれか一項に記載されたMEMS構造体と、
前記複数のMEMS振動子それぞれに電気的に接続された発振動作を行うための発振器構成回路と、
を具備し、
前記複数のMEMS振動子のうち前記一つのMEMS振動子以外の全てのMEMS振動子は、前記発振回路に電気的に接続されてないMEMS発振器。
【請求項8】
請求項7において、
前記発振器構成回路は、
前記複数のMEMS振動子それぞれに接続された選択部と、
前記選択部によって前記複数のMEMS振動子のいずれか一つのMEMS振動子に選択的にバイアス電圧を印加するためのバイアス電圧印加部と、
前記バイアス電圧が印加された前記一つのMEMS振動子を用いて発振動作を行うための発振回路部と、
前記発振回路部に接続された発振出力を出力するバッファ部と、
を具備し、
前記選択部は、前記複数のMEMS振動子のうち前記一つのMEMS振動子以外の全てのMEMS振動子にバイアス電圧を印加しないこと、
を特徴とするMEMS発振器。
【請求項9】
基板上に、設計値において所定の共振周波数差を有する複数のMEMS振動子、前記複数のMEMS振動子それぞれが接続された選択部、前記選択部に接続されたバイアス電圧印加部、発振回路部、及び前記発振回路部に接続されたバッファ部を形成し、
前記選択部及び前記バイアス電圧印加部によって前記複数のMEMS振動子のいずれか一つのMEMS振動子に選択的にバイアス電圧を印加し、前記一つのMEMS振動子を前記発振回路部によって発振させ、前記バッファ部によって前記一つのMEMS振動子から発振出力された共振周波数を計測し、所定の範囲内の共振周波数を有する一つのMEMS振動子を前記複数のMEMS振動子から特定し、
前記特定されなかった全てのMEMS振動子を前記選択部によって選択せず、前記特定された一つのMEMS振動子を前記選択部によって選択することにより、前記特定されなかった全てのMEMS振動子を前記発振回路部に電気的に接続せず、前記特定された一つのMEMS振動子を前記選択部によって前記発振回路部に電気的に接続するMEMS発振器の製造方法であって、
前記複数のMEMS振動子それぞれは、梁構造を有しており、
前記梁構造は、前記基板上に形成された固定電極と、その固定電極に対向して配置された振動可能な梁を備えた可動電極を有しており、
前記複数のMEMS振動子は、それぞれの梁構造が異なることによって前記所定の共振周波数差を有し、
前記梁構造が異なることは、前記梁のパターン形状が異なることであるMEMS発振器の製造方法。
【請求項1】
基板上に複数のMEMS振動子を配置したMEMS構造体であって、
前記複数のMEMS振動子それぞれは、梁構造を有しており、
前記複数のMEMS振動子は、それぞれの梁構造が異なることによって共振周波数が異なるMEMS構造体。
【請求項2】
請求項1において、
前記梁構造は、基板上に形成された固定電極と、その固定電極に対向して配置された振動可能な梁及びその梁に設けられた錘を備えた可動電極を有しており、
前記梁構造が異なることは、前記錘のパターン形状が異なること、前記梁のパターン形状が異なること、前記梁のパターン形状と前記錘のパターン形状の両方が異なることのいずれかであるMEMS構造体。
【請求項3】
請求項2において、
前記錘のパターン形状が異なることは、前記錘の大きさが段階的に大きくなることであり、
前記梁のパターン形状が異なることは、前記梁の長さが段階的に大きくなることであるMEMS構造体。
【請求項4】
請求項1において、
前記梁構造は、基板上に形成された固定電極と、その固定電極に対向して配置された振動可能な梁を備えた可動電極を有しており、
前記梁構造が異なることは、前記梁のパターン形状が異なることであるMEMS構造体。
【請求項5】
請求項1において、
前記梁構造は、基板上に形成された固定電極と、前記基板上に形成された固定部と前記固定電極に対向して配置された振動可能な梁とその梁と前記固定部を連結して支持する支持部を備えた可動電極を有しており、
前記支持部は、該支持部を貫通するスリットを有しており、
前記梁構造が異なることは、前記スリットの大きさ又は数が異なることによってバネ定数が異なること、前記梁の長さが異なること、前記スリットの大きさ又は数と前記梁の長さの両方が異なることであるMEMS構造体。
【請求項6】
請求項5において、
前記スリットの大きさ又は数が異なることは、前記スリットの大きさが同じで且つ前記スリットの数が段階的に多くなること、前記スリットの数が同じで且つ前記スリットの大きさが段階的に大きくなること、前記スリットの大きさ及び数の両方が段階的に大きくなることのいずれかであり、
前記梁の長さが異なることは、前記梁の長さが段階的に大きくなることであるMEMS構造体。
【請求項7】
請求項1乃至6のいずれか一項に記載されたMEMS構造体と、
前記複数のMEMS振動子それぞれに電気的に接続された発振動作を行うための発振器構成回路と、
を具備し、
前記複数のMEMS振動子のうち前記一つのMEMS振動子以外の全てのMEMS振動子は、前記発振回路に電気的に接続されてないMEMS発振器。
【請求項8】
請求項7において、
前記発振器構成回路は、
前記複数のMEMS振動子それぞれに接続された選択部と、
前記選択部によって前記複数のMEMS振動子のいずれか一つのMEMS振動子に選択的にバイアス電圧を印加するためのバイアス電圧印加部と、
前記バイアス電圧が印加された前記一つのMEMS振動子を用いて発振動作を行うための発振回路部と、
前記発振回路部に接続された発振出力を出力するバッファ部と、
を具備し、
前記選択部は、前記複数のMEMS振動子のうち前記一つのMEMS振動子以外の全てのMEMS振動子にバイアス電圧を印加しないこと、
を特徴とするMEMS発振器。
【請求項9】
基板上に、設計値において所定の共振周波数差を有する複数のMEMS振動子、前記複数のMEMS振動子それぞれが接続された選択部、前記選択部に接続されたバイアス電圧印加部、発振回路部、及び前記発振回路部に接続されたバッファ部を形成し、
前記選択部及び前記バイアス電圧印加部によって前記複数のMEMS振動子のいずれか一つのMEMS振動子に選択的にバイアス電圧を印加し、前記一つのMEMS振動子を前記発振回路部によって発振させ、前記バッファ部によって前記一つのMEMS振動子から発振出力された共振周波数を計測し、所定の範囲内の共振周波数を有する一つのMEMS振動子を前記複数のMEMS振動子から特定し、
前記特定されなかった全てのMEMS振動子を前記選択部によって選択せず、前記特定された一つのMEMS振動子を前記選択部によって選択することにより、前記特定されなかった全てのMEMS振動子を前記発振回路部に電気的に接続せず、前記特定された一つのMEMS振動子を前記選択部によって前記発振回路部に電気的に接続するMEMS発振器の製造方法であって、
前記複数のMEMS振動子それぞれは、梁構造を有しており、
前記梁構造は、前記基板上に形成された固定電極と、その固定電極に対向して配置された振動可能な梁を備えた可動電極を有しており、
前記複数のMEMS振動子は、それぞれの梁構造が異なることによって前記所定の共振周波数差を有し、
前記梁構造が異なることは、前記梁のパターン形状が異なることであるMEMS発振器の製造方法。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【図18】
【図19】
【図20】
【図21】
【図22】
【図23】
【図24】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【図18】
【図19】
【図20】
【図21】
【図22】
【図23】
【図24】
【公開番号】特開2011−135140(P2011−135140A)
【公開日】平成23年7月7日(2011.7.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−290172(P2009−290172)
【出願日】平成21年12月22日(2009.12.22)
【出願人】(000002369)セイコーエプソン株式会社 (51,324)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成23年7月7日(2011.7.7)
【国際特許分類】
【出願日】平成21年12月22日(2009.12.22)
【出願人】(000002369)セイコーエプソン株式会社 (51,324)
【Fターム(参考)】
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