説明

Ni膜の形成方法

【課題】 成膜温度、成膜圧力、還元ガスの使用量・使用割合等の成膜条件を設定することにより、所望の物性を有する利用範囲の広いNi膜の形成方法を提供すること。
【解決手段】 真空槽の中でSi基板を一定温度に保持してニッケルアルキルアミジナート(但し、アルキルは、メチル基、エチル基、ブチル基及びプロピル基から選ばれる。)とHとNHとをこの真空槽内に導入し、CVD法でNi膜を形成する方法であって、成膜温度が280℃より高く350℃以下であること。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、Ni膜の形成方法に関し、特に特定の成膜条件を用いるNi膜の形成方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、半導体デバイスの微細化技術が進むにつれて、また、半導体デバイスが立体的な構造を取るにつれて、基板上に形成されたトレンチ及びホールパターンの底面や、側面にシリサイド膜を形成する用途が増えてきていると共に、この底面や側面に対する高カバレッジ性(段差被覆性)の要求が高まっている。
【0003】
このようなシリサイド膜を形成するための金属として、通常、Ti、Co、Ni等が使用されている。これらの金属の成膜には、従来、スパッタリング法が使われてきたが、微細化技術の進歩に伴って、底面や側面への被膜のカバレッジ性が悪くなり、適応が困難になってきている。
【0004】
このため、金属化合物をガス化して導入し、成膜を行うCVD法が開発されている。ところが、このCVD法は、金属原料ガスとして有機金属化合物を用いるため、成膜された膜中にC、N、Oなどの不純物が多く含まれてしまい、シリサイド化の加熱処理を行っても、シリサイド化反応が阻害され、従来のスパッタリング法で形成した金属膜よりもシリサイド膜形成が困難であるという問題がある。
【0005】
なお、CVD法による成膜のみでも、シリサイド膜が直接生じる高温(例えば、500℃)では、シリサイド膜形成は可能であるが、半導体デバイス等に必要な良好なシリサイド界面の形成が難しい。例えば、Niの場合、NiSi膜が良好な低抵抗界面を作るが、高温成膜ではNiSi膜が形成してしまい、フラットな低抵抗界面が出来ないという問題がある。また、このような高温成膜の場合、成膜速度は上昇するが、供給律速になり、被膜カバレッジ性が悪化するという問題もある。
【0006】
また、半導体デバイスを製造する際に、例えば、金属導体膜(例えば、Cu膜)中の炭素、窒素等の不純物を除去して電気的特性の向上を図るため、また、下地膜とCu膜との密着性の向上を図るため等に、水素(アンモニア)アニール処理が行われている(例えば、特許文献1参照)。このようなアニール処理では、膜中の炭素や窒素のような不純物を減少させることはできるが、酸素のような不純物を除去することはできないので、酸素含量の少ない、或いは酸素の存在しないNi膜及びその形成方法を開発することが求められている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2001−203211号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明の課題は、上述の従来技術の問題点を解決することにあり、成膜温度(基板温度)、成膜圧力、還元ガスの使用量・使用割合等の成膜条件を特定することにより、所望の物性を有する利用範囲の広いNi膜の形成方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは、下地としてのSi基板表面にNi膜を形成する方法において、有機金属材料としてニッケル2−アルキルアミジナートのようなニッケルアルキルアミジナートを用い、また、還元ガスとして、従来用いられていたHガス単独の代わりに、Hガス及びNHガスを組み合わせて用い、適当な成膜条件を設定することで、所望のNi膜を形成することができることに気が付き、本発明を完成させるに至った。
【0010】
本発明のNi膜の形成方法は、真空槽の中でSi基板を一定温度に保持してニッケルアルキルアミジナート(但し、アルキルは、メチル基、エチル基、ブチル基及びプロピル基から選ばれた基である。)とHとNHとをこの真空槽内に導入し、CVD法でNi膜を形成する方法であって、成膜温度が280℃より高く350℃以下、好ましくは285℃以上350℃以下であることを特徴とする。
【0011】
成膜温度(基板温度)の上昇と共に成膜速度は上昇するが、成膜温度が280℃未満であると、いわゆるインキュベーションタイムが大きくなると共に酸素や窒素等の不純物含量は増加する傾向があり、280℃より高い方が好ましく、285℃以上の方がより好ましく、また、350℃を超えると、窒素含量は減少するが炭素のような不純物含量は増加する傾向がある。インキュベーションタイムは、本発明のNi膜の形成方法を実施する成膜装置において、通常、100秒(sec)まで許容できる。このインキュベーションタイムとは、成膜時間−膜厚の関係を示すグラフで、接線を引き膜厚がゼロになる時間をいう。
【0012】
上記Ni膜の形成方法であって、成膜圧力が240〜600Paであることを特徴とする。
【0013】
インキュベーションタイムは成膜圧力の増加と共に減少する。これは、高圧の方がNiの核発生密度が高いためであると推測される。成膜圧力が240Pa未満であると、インキュベーションタイムが高すぎて成膜に時間が掛かり過ぎる傾向があり、また、600Paを超えると、得られたNi膜の抵抗値が急激に増加する傾向がある。このように抵抗値が増加するのは、結晶粒界が厚くなり、粒界散乱が支配的になるからである。
【0014】
上記Ni膜の形成方法であって、HとNHとを、流量割合で式:30%≦H/(H+NH)≦95%を満足する量で用いることを特徴とする。
【0015】
本発明では、成膜時間との関係から目的とするNi膜の膜厚は15nm程度以上であることが必要であり、かつ、得られたNi膜の抵抗値(比抵抗)は100μΩcm程度以下であることが必要である。しかし、上記流量割合が30%未満であると、膜厚は15nm程度以上あるが、比抵抗が100μΩcm程度を超える傾向があり、また、流量割合が95%を超えると、膜厚が15nm程度未満である膜が得られる傾向があると共に、膜の比抵抗が100μΩcm程度を超える傾向がある。
【0016】
上記Ni膜の形成方法であって、ニッケルアルキルアミジナートを90〜150℃に維持して真空槽内へ導入することを特徴とする。
【0017】
ニッケルアルキルアミジナートが100℃未満であると、この原料は、その容器内及び容器から真空槽内への輸送中の配管内で結合する恐れがあり、また、150℃を超えると、輸送中の配管内で分解する恐れがある。
【0018】
上記Ni膜の形成方法であって、HとNHとをH+NHの流量として75sccm〜800sccmで用いることを特徴とする。
【0019】
+NHの流量が、75sccm未満であると、ガス量が少なすぎ、15nm程度の膜厚を達成するのに時間が掛かり過ぎる。また、この流量の上限には特に制限はないが、量産のためには、経済的観点から、できるだけ少ないガス量で生産すべきであるので、使用する基板や、成膜装置(真空槽)の大きさにも依るが、所望の膜厚を短時間で達成できる流量、例えば800sccm以下であることが好ましい。この流量の上限に関しては、基板の大きさに依存して、例えば300mmφ未満の小基板用装置、300mmφ基板用装置、450mmφ基板用装置等の成膜装置を用いて成膜する場合、適宜流量を増減すればよい。
【0020】
上記Ni膜の形成方法であって、Ni膜の形成前に、H、NH又はHとNHとの混合ガスでSi基板表面を前処理することを特徴とする。
【0021】
Si基板表面に対して上記ガスを用いて前処理することにより、Niの核発生密度を増加せしめることができる。
【発明の効果】
【0022】
本発明によれば、還元ガスとして、従来のHガス単独の代わりに、HガスとNHガスとを組み合わせて用い、適当な成膜条件を設定してSi基板表面にNi膜を形成することにより、Niの核生成時間の抑制(核生成時間の短縮)や、Ni膜の低温成膜、成長速度の制御、表面モフォロジーの改善、不純物濃度の抑制、及び低抵抗化を可能にし、半導体デバイス作製工程においてスループットの向上をもたらすと共に、Ni膜の使用温度領域を広げることで、半導体デバイスの微細パターンにおけるNi膜の利用が可能になるという効果を奏する。
【0023】
上記Ni膜の形成方法において、Si基板表面を前処理なしに上記還元ガスを用いて形成したNi膜であっても、上記した効果を奏することもできるし、また、Si基板表面をH及び/又はNHで前処理し、さらに還元ガスを用いて形成したNi膜は、より顕著な上記した効果を奏することができる。前処理により核発生密度を増加せしめることにより、インキュベーションタイムを短くできる傾向があるからである。
【0024】
さらに、本発明によれば、良質のNi膜をCVD法で形成することができると共に、薄膜化することができ、半導体デバイスにおいてNi膜をより多くの工程で利用できるようになるという効果を奏することができる。
【図面の簡単な説明】
【0025】
【図1】実施例1で得られたNi膜に関し、各基板温度(成膜温度:℃)における成膜時間(秒:sec)と膜厚(nm)との関係を示すグラフであり、(a)は成膜圧力400Paの場合、(b)は成膜圧力130Paの場合である。
【図2】実施例2で得られたNi膜に関し、各基板温度(200℃、270℃及び350℃)と膜中成分の原子濃度(at%)との関係を示すグラフ。
【図3】実施例3で得られたインキュベーションタイム(秒:sec)と成膜圧力(Pa)との関係を示すグラフ。
【図4】実施例4で得られたNi膜に関し、成膜圧力(Pa)と抵抗値(比抵抗:μΩcm)との関係を示すグラフ。
【図5】実施例5で得られたNi膜に関し、流量比(H/(H+NH))と膜厚(nm)及び比抵抗(μΩcm)のそれぞれとの関係を示すグラフ。
【図6】実施例5で得られたNi膜に関し、流量比(H:NH=0:10及び9:1)と膜中成分の原子濃度(at%)との関係を示すグラフ。
【図7】実施例6で得られたNi膜に関し、各H+NHの合計流量(sccm)における成膜時間(秒:sec)と膜厚(nm)との関係を示すグラフ。
【発明を実施するための形態】
【0026】
本発明に係るNi膜の形成方法の実施の形態によれば、この形成方法は、真空槽の中でSi基板を一定温度に保持し、ニッケル2−アルキルアミジナートのようなニッケルとアルキルアミジナート基(但し、アルキルは、メチル基、エチル基、tert−ブチル基などのブチル基、及びプロピル基から選ばれる)とを含むニッケルアルキルアミジナートである有機金属材料、及びこの有機金属材料を還元してNi膜を形成するための還元ガスとしてのHとNHとを組み合わせたガスをこの真空槽内に導入し、CVD法やALD法でNi膜を形成する方法であって、成膜温度(基板温度)を280℃より高く350℃以下、好ましくは285℃以上350℃以下に設定し、成膜圧力を240〜600Paに設定し、使用する還元ガスとしてのH及びNHを、その流量(sccm)割合で、式:30%≦H/(H+NH)≦95%を満足する量で用い、また、ニッケルアルキルアミジナートを100〜150℃に維持して真空槽内へ導入し、さらに還元ガスとしてのHとNHとを30%≦H/(H+NH)≦95%の範囲内でH+NHの合計流量として75sccm〜800sccmで用いることからなる。
【0027】
本発明で使用するニッケルアルキルアミジナートは、例えば、以下の構造式を有する。
【0028】
【化1】

上記構造式中、Rはメチル基、エチル基、イソプロピル基を表す。
【0029】
ニッケルアルキルアミジナートとしては、例えば、上記構造式を有するNi((tert−Bu)−amd)(Ni(N,N’−ジ−tert−ブチルアセトアミジナート))や、Ni(Bu−Et−Et−amd)等があり、このアルキルアミジナート基としては、例えばN、N’−メチルメチルアミジナート、N、N’−エチル−メチルアミジナート、N、N’−エチル−エチルアミジナート、N、N’−iso−プロピル−メチルアミジナート、N、N’−iso−プロピル−iso−プロピルアミジナート、及びN、N’−tert−ブチル−tert−ブチルアミジナート等がある。
【0030】
上記ALD法は、真空槽内に複数の原料ガスを交互に供給してSi基板などの基板上に種々の薄膜を形成する手法の一例である。このALD法は、例えば、真空槽内に2種類の原料ガスを交互にパルス的に供給し、基板表面での反応により成膜を行うものである。すなわち、1種類の原料ガスが基板上で吸着されている状態で、この原料ガスと反応する別の原料ガスを供給することにより、二つの原料ガスを互いに接触させて反応せしめ、所望の薄膜を形成する。その際、原料ガスを吸着させた後、吸着しなかった原料ガスを排出し、次いで別の原料ガスを供給して吸着した原料ガスと反応させ、次いで反応しなかったこの別の原料ガスを排出するという操作を繰り返して行って、所望の膜厚を有する薄膜を形成する。原料ガスの材料としては、固体、液体、気体状態のいずれでも使用することができ、通常、窒素、アルゴン等のような不活性ガスからなるキャリアガスと共に供給される。
【0031】
従って、このようなALD法を行う真空成膜装置では、加熱手段を備えた基板支持ステージを設けると共に、ステージに対向して原料ガス導入手段を装置の天井部に配置しているのが通常である。例えば、2種類の原料ガスを、ガス導入手段を介して時間差をつけて装置内へ供給し、一方のガスの吸着工程と吸着したガスと他方のガスとの反応工程とを繰り返して行い、所定の膜厚を有する薄膜を形成するように構成されている装置が知られている。
【0032】
本発明によれば、上記のような還元ガスを用い、特定の成膜条件でNi膜を形成するので、Niの核生成時間の抑制や、Ni膜の成長速度の制御、表面モフォロジーの改善、不純物濃度の抑制、低抵抗化を可能にすることができ、微細パターンにおけるNi膜の密着層、シリサイド層、キャップ層等での利用が可能になる。
【0033】
本発明によれば、原料ガスの一つである有機金属材料について、蒸気圧の面から成膜速度を考察すると、200mTorrの蒸気圧が必要である。従って、原料ガスに応じて、そのような蒸気圧を持つ温度以上に維持してNi膜の形成を行うことが好ましい。また、原料ガス及び輸送配管の温度の上限は、安全性の観点から150℃以下であることが好ましい。
【0034】
例えば、原料ガスとしてNi((tert−Bu)−amd)からなるニッケルアルキルアミジナート(Rohm and Haas社製)を用いる場合、この原料ガスは、常温で固体であり、融点は87℃である。その特性として、90℃で200mTorrの蒸気圧を持っている。従って、蒸気圧の面から成膜速度を考えると、200mTorrは必要であることから、原料ガスは90℃以上、好ましくは100℃以上に保つ必要がある。また、原料ガスタンクから真空槽までの輸送配管は原料ガス温度より高く維持しなければならない。これは、低い温度であると、その輸送途中で液化するからである。一方、本ガスの熱安定性は200℃と言われているが、輸送配管等に含まれるNiは一般に触媒作用があり、原料ガスの分解温度を低下させる働きがある。従って、原料ガス及び輸送配管は、安全性を考慮すれば150℃以下に設定することが好ましい。
【0035】
本発明に係るNi膜の形成方法の実施の形態によれば Ni膜の形成前に、H、NH又はHとNHとの混合ガスでSi基板表面を前処理しても良いし、或いは前処理しなくても良い。この前処理の条件は、公知のプロセス条件であれば良く、例えば、200〜350℃程度の温度で、100〜600Paの成膜圧力で実施すればよい。
【0036】
以下、本発明の実施例について、図1〜7を参照して説明する。
【実施例1】
【0037】
本実施例では、自然酸化物を除去した300mmφSi基板上に、CVD法に従って、ニッケルアルキルアミジナート:Ni((tert−Bu)−amd)(R=Me)(Rohm and Haas社製)を一定流量で流し、還元ガスとしてH及びNHを、それぞれ、200sccm及び200sccm、又は150sccm及び150sccm用い、成膜圧力を130Pa及び400Paのそれぞれに設定し、また、成膜温度(基板温度)を200、270、285及び350℃のそれぞれに設定し、Ni膜の形成を行った。
【0038】
図1(a)に、H及びNHを、それぞれ、200sccm及び200sccm用い、成膜圧力400Paでの各基板温度(200℃、270℃、285℃及び350℃)における成膜時間(sec:秒)と膜厚(nm)との関係を示す。図1(b)に、H及びNHを、それぞれ、150sccm及び150sccm用い、成膜圧力130Paでの各基板温度(200℃、270℃、285℃及び350℃)における成膜時間(sec:秒)と膜厚(nm)との関係を示す。
【0039】
図1(a)及び(b)から明らかなように、基板温度:200℃〜350℃において、基板温度の上昇と共に成膜速度(膜厚)は上昇するが、200℃の場合、インキュベーションタイムが大きく、所定の膜厚を得るのに時間が掛かること、また、同じ基板温度で、成膜圧力400Paの場合よりも、130Paの場合の方がインキュベーションタイムが大きく、所定の膜厚を得るのに時間が掛かることが解る。従って、成膜時の基板温度(成膜温度)を270℃より高く、好ましくは280℃より高く350℃以下、より好ましくは285℃以上350℃以下に設定することにより、インキュベーションタイムと得られたNi膜の所望の膜厚とのバランスが取れることが分かった。
【0040】
また、H及びNHを、それぞれ、150sccm及び150sccm用いた場合についても上記と同様にして実施した。図1(a)及び(b)の結果と同様な傾向が得られた。
【実施例2】
【0041】
本実施例では、実施例1記載のニッケルアルキルアミジナートを実施例1の場合と同じ条件で用い、還元ガスとしてH及びNHを、それぞれ、200sccm及び200sccm、又は150sccm及び150sccm用い、成膜圧力を400Paに設定し、また、基板温度を200、270、285及び350℃のそれぞれに設定し、実施例1と同様な方法でNi膜の形成を行った。かくして得られたNi膜中に含まれた成分原子濃度をSIMS法により評価した。
【0042】
図2に、H及びNHを、それぞれ、200sccm及び200sccm用いた場合の、上記各基板温度におけるNi膜中の成分原子濃度(at%)を示す。基板温度の増加とともに窒素濃度が減少し、炭素濃度が増加することが解る。また、基板温度200℃では、それより高温の場合と比べて、膜中酸素濃度が大きいことが解る。膜中の窒素及び炭素は成膜後にHアニール又はNHアニールすることで減少出来る。例えば、一般に300〜400℃、好ましくは300℃〜350℃の温度で、Hガスを用い、Ni膜をアニールすることによりNi膜中の窒素及び炭素を除去することができる。しかしながら、酸素については後処理で除去することはできない。従って、基板温度の下限は270℃、好ましくは280℃より高く、より好ましくは285℃であることが望ましいことが確認できた。一方で、基板温度が350℃を超えるとNiとSiとが反応してニッケルシリサイドを形成し始めるため、基板温度の上限は350℃であることが要求される。
【0043】
なお、上記したように形成したNi膜中のSi濃度は検出限界以下であった。
【0044】
また、H及びNHを、それぞれ、150sccm及び150sccm用いた場合についても上記と同様にして実施した。図2の結果と同様な傾向が得られた。
【実施例3】
【0045】
本実施例では、実施例1記載のニッケルアルキルアミジナートを実施例1の場合と同じ条件で用い、還元ガスとしてH及びNHを、それぞれ、200sccm及び200sccm、又は150sccm及び150sccm用い、基板温度を285℃に設定し、成膜圧力を50Pa程度から約900Pa程度の間で変えて、実施例1と同様な方法でNi膜の形成を行った。
【0046】
図3に、H及びNHを、それぞれ、200sccm及び200sccm用い、285℃における成膜圧力とインキュベーションタイム(秒:sec)との関係を示す。
【0047】
図3から明らかなように、インキュベーションタイムは圧力の増加と共に減少する。これは、高圧でのNi膜形成の場合の方が核発生密度が高いためと推測される。本発明で使用する装置においては、インキュベーションタイム100秒まで許容できる。従って、図3から明らかなように、圧力の下限は240Paとなる。
【0048】
また、H及びNHを、それぞれ、150sccm及び150sccm用いた場合についても上記と同様にして実施した。図3の結果と同様な傾向が得られた。
【実施例4】
【0049】
本実施例では、実施例1記載のニッケルアルキルアミジナートを実施例1の場合と同じ条件で用い、還元ガスとしてH及びNHを、それぞれ、200sccm及び200sccm又は150sccm及び150sccm用い、基板温度を285℃に設定し、成膜圧力を約50Pa程度から約900Pa程度の間で変えて、実施例1と同様な方法でNi膜の形成を行った。
【0050】
図4に、H及びNHを、それぞれ、200sccm及び200sccm用い、285℃における成膜圧力(Pa)と抵抗値(比抵抗:μΩcm)との関係を示す。
【0051】
図4から明らかなように、成膜圧力が600Paを超えると急激に抵抗値が上昇する。これは、結晶粒界が厚くなり粒界散乱が支配的になるためである。従って、本発明の目的を達成するためには、成膜圧力の上限は600Paである。
【0052】
また、H及びNHを、それぞれ、150sccm及び150sccm用いた場合についても上記と同様にして実施した。図4の結果と同様な傾向が得られた。
【実施例5】
【0053】
本実施例では、実施例1記載のニッケルアルキルアミジナートを実施例1の場合と同じ条件で用い、還元ガスとしてのHとNHとの流量比(H/(H+NH))を0%〜100%の間で変え(但し、H+NH流量を400sccmとした)、基板温度を285℃に設定し、成膜圧力を400Paに設定し、実施例1と同様な方法でNi膜の形成を行った。流量比と得られたNi膜の膜厚(nm)及び抵抗値(比抵抗:μΩcm)のそれぞれとの関係を評価し、図5にその結果を示す。また、流量比がH:NH=0:10及び9:1の場合について、同様にしてNi膜を形成し、膜中の原子濃度(at%)を実施例2と同様にして評価し、図6にその結果を示す。
【0054】
図5から明らかなように、H100%ではほとんど成膜出来ず、抵抗値が急激に増加する。従って、本発明における正常な成膜にはNHが必要であることが解る。本発明における膜厚としては成膜時間との関係から15nm以上が必要である。また、比抵抗としては100μΩ・cm以下が必要である。図5の結果をこの条件に当てはめると、流量比としては下限が30%、上限が95%、好ましくは92%であることが解る。
【0055】
また、図6から明らかなように、H:NH=0:10の場合と、H:NH=9:1の場合とを比べると、Ni膜中の炭素濃度は前者の方が低く、Ni膜中の窒素濃度は前者の方が高いことが解る。窒素濃度に関し、前者の方が高いのはNHで分解するので、窒素が混入しやすくなるからである。また、Ni膜中のNi濃度は前者の方が低いことが解る。なお、Ni膜中の酸素及びSi濃度は検出限界以下であった。
【実施例6】
【0056】
本実施例では、実施例1記載のニッケルアルキルアミジナートを実施例1の場合と同じ条件で用い、還元ガスとしてHとNHとの流量をH+NH=50、75、150、400及び800sccmのそれぞれとし、流量比をH:NH=1:1に設定し、基板温度を285℃に設定し、成膜圧力を400Paに設定し、成膜時間を変えて、実施例1と同様な方法でNi膜の形成を行った。この場合、排気速度を変化させることで圧力を400Paに維持した。
【0057】
それぞれのH+NH流量において、成膜時間(sec)と得られたNi膜の膜厚(nm)との関係を評価し、図7にその結果を示す。
【0058】
図7から明らかなように、合計流量が増加するにつれて成膜速度は増加するが、800sccmで飽和する傾向があることが解る。一方、インキュベーションタイムは流量50sccmの場合は大きいが、その他の流量ではそれほど変化しない。以上のことから、800sccm程度までで還元に必要な流量は十分であることが解る。本発明のNi膜形成プロセスを量産段階に適用するためには、経済性を考えると、出来るだけ少ない還元ガス量で生産したいため、流量の上限は、300mmφSi基板の場合、800sccmとすることが好ましい。一方、流量が50sccmでは還元能力が不十分であることから、75sccmが下限であると考えられる。従って、H+NHの流量としては75sccmから800sccmまでの間が望ましい。
【産業上の利用可能性】
【0059】
本発明よれば、成膜温度(基板温度)、成膜圧力、還元ガスの使用量・使用割合等の成膜条件を設定することにより、所望の物性を有する利用範囲の広いNi膜を形成することができるので、半導体デバイス等の産業分野で広く利用可能である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
真空槽の中でSi基板を一定温度に保持してニッケルアルキルアミジナート(但し、アルキルは、メチル基、エチル基、ブチル基及びプロピル基から選ばれた基である。)とHとNHとをこの真空槽内に導入し、CVD法でNi膜を形成する方法であって、成膜温度が280℃より高く350℃以下であることを特徴とするNi膜の形成方法。
【請求項2】
請求項1に記載のNi膜の形成方法であって、成膜圧力が240〜600Paであることを特徴とするNi膜の形成方法。
【請求項3】
請求項1又は2に記載のNi膜の形成方法であって、HとNHとを、流量割合で式:30%≦H/(H+NH)≦95%を満足する量で用いることを特徴とするNi膜の形成方法。
【請求項4】
請求項1〜3のいずれか1項に記載のNi膜の形成方法であって、ニッケルアルキルアミジナートを90℃〜150℃に維持して真空槽内へ導入することを特徴とするNi膜の形成方法。
【請求項5】
請求項1〜4のいずれか1項に記載のNi膜の形成方法であって、HとNHとをH+NH流量として75sccm〜800sccmで用いることを特徴とするNi膜の形成方法。
【請求項6】
請求項1〜5のいずれか1項に記載のNi膜の形成方法であって、Ni膜の形成前に、H、NH又はHとNHとの混合ガスでSi基板表面を前処理することを特徴とするNi膜の形成方法。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2012−229488(P2012−229488A)
【公開日】平成24年11月22日(2012.11.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−88167(P2012−88167)
【出願日】平成24年4月9日(2012.4.9)
【出願人】(000231464)株式会社アルバック (1,740)
【Fターム(参考)】