説明

TFT用銅スパッタリングターゲット材、TFT用銅膜、及びスパッタリング方法

【課題】成膜条件(成膜中の圧力、成膜に用いるガス種等)を変更しなくても、成膜された銅膜中の引張残留応力を低減できるTFT用銅スパッタリングターゲット材、TFT用銅膜、及びスパッタリング方法を提供する。
【解決手段】本発明に係るTFT用銅スパッタリングターゲット材は、銅材からなり、銅と不可避的不純物とからなる無酸素銅、又は銅合金からなるスパッタ面を備え、かつ、(111)面と、(200)面と、(220)面と、(311)面との総和に対する、(111)面の占有割合が、15%以上であるTFT用銅スパッタリングターゲット材である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、TFT用銅スパッタリングターゲット材、TFT用銅膜、及びスパッタリング方法に関する。特に、本発明は、成膜される銅膜中の引張応力を低減できるTFT用銅スパッタリングターゲット材、TFT用銅膜、及びスパッタリング方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、液晶パネルを含む電子デバイス中の配線等の金属薄膜の形成に、所定の材料からなるスパッタリングターゲットを用いたスパッタリング法が用いられている。そして、従来のスパッタリングターゲットとして、面心立方構造の金属又は合金からなるスパッタリングターゲットにおいて、((111)面+(200)面)/(220)面から算出される面配向度比が2.20以上のスパッタリングターゲットが知られている(例えば、特許文献1参照)。
【0003】
特許文献1に記載されたスパッタリングターゲットは、スパッタ面に(111)面及び(200)面を優先的に配向させてスパッタ面における原子の密度を高めることにより、スパッタレートを向上させることができる。
【0004】
【特許文献1】特開2000−239835号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかし、特許文献1に係るスパッタリングターゲットは、スパッタ装置の真空チャンバ内等に堆積した材料膜の引張残留応力を低減させることができず、真空チャンバ内に堆積した材料膜の厚みが増加することにより剥離して、パーティクルの発生源となる場合がある。また、材料膜の引張応力の低減には、真空チャンバ内の圧力の低減や真空チャンバ内に導入するガス種の変更が有効であるものの、真空チャンバ内の圧力や真空チャンバ内に導入するガス種は、形成すべき材料膜の特性、品質等に応じて決定されるので、残留応力の低減を目的として真空チャンバ内の圧力や真空チャンバ内に導入するガス種を変更することは困難である。
【0006】
したがって、本発明の目的は、成膜条件(成膜中の圧力、成膜に用いるガス種等)を変更しなくても、成膜された銅膜中の引張残留応力を低減できるTFT用銅スパッタリングターゲット材、TFT用銅膜、及びスパッタリング方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
(1)本発明は、上記目的を達成するため、銅材からなるTFT用銅スパッタリングターゲット材であって、銅材は、一の結晶方位面と他の結晶方位面とを有し、銅と不可避的不純物とからなる無酸素銅、又は銅合金からなるスパッタ面を備え、かつ、一の結晶方位面は、(111)面であり、他の結晶方位面は、(200)面と、(220)面と、(311)面とを含むとともに、(111)面と、(200)面と、(220)面と、(311)面との総和に対する、(111)面の占有割合は、15%以上であるTFT用銅スパッタリングターゲット材が提供される。
(2)また、上記TFT用銅スパッタリングターゲットは、平板型であってもよい。
(3)また、上記無酸素銅又は銅合金は、酸素含有量が5ppm以下であってもよい。
(4)上記占有割合は、20%以上であることがより好ましい。
(5)上記占有割合は、25.7%以下であってもよい。
【0008】
(6)また、本発明は、上記目的を達成するため、上記(1)〜(5)のTFT用銅スパッタリングターゲット材を用いて、形成されたTFT用銅膜が提供される。
(7)また、上記TFT用銅膜は、酸素含有量が2ppm以下であることが好ましい。
(8)上記被対象物は、ガラス基板であってもよい。
(9)上記TFT用銅膜は、表面の残留応力が120N/mm2以下であることが好ましい。
【0009】
(10)また、本発明は、上記目的を達成するため、上記(1)〜(5)のいずれかに記載のTFT用銅スパッタリングターゲット材を用いて、被対象物に銅膜を形成するスパッタリング方法が提供される。
【発明の効果】
【0010】
本発明に係るTFT用銅スパッタリングターゲット材、TFT用銅膜、及びスパッタリング方法によれば、成膜条件(成膜中の圧力、成膜に用いるガス種等)を変更しなくても、成膜された銅膜中の引張残留応力を低減できる銅スパッタリングターゲット材及びスパッタリング方法を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
[実施の形態]
(銅スパッタリングターゲットの構成)
図1は、本発明の実施の形態に係る銅スパッタリングターゲットの部分的な斜視図の一例を示す。
【0012】
本実施の形態に係る銅スパッタリングターゲット1は、結晶構造が面心立方格子である所定の銅材からなり、加速された所定の不活性ガスイオンの照射により銅のスパッタ粒子が弾き出されるスパッタ面12を有する銅スパッタリングターゲット材10と、銅スパッタリングターゲット材10(TFT用銅スパッタリングターゲット材)が固定されたバッキングプレート14とを備える。本実施の形態に係る銅スパッタリングターゲット材10は、所定の厚さを有すると共に上面視にて略矩形に形成される。なお、本実施の形態の変形例においては、銅スパッタリングターゲット材10及びバッキングプレート14を、略円形に形成することもできる。
【0013】
本実施の形態に係る銅スパッタリングターゲット材10は、99.99%以上の純度を有する銅(Cu)と不可避的不純物とから構成される無酸素銅からなる銅材、又は銅合金から構成される銅材から形成される。銅合金としては、一例として、CuNiを用いることができる。なお、銅合金は、例えば、Al、Ag等の金属元素を含んで形成することもできる。更に、本実施の形態に係る銅スパッタリングターゲット材10は、酸素含有量を5ppm以下にして形成される。
【0014】
銅スパッタリングターゲット材10のスパッタ面12は、複数の結晶方位面を有して形成される。すなわち、スパッタ面12は、一の結晶方位面と他の結晶方位面とを少なくとも有する銅材から形成される。ここで、一の結晶方位面は、加速された所定の不活性ガスイオンの照射により弾き出されるスパッタ粒子のエネルギーが、他の結晶方位面から弾き出されるスパッタ粒子のエネルギーより大きい特性を有する。すなわち、一の結晶方位面から弾き出されるスパッタ粒子は、他の結晶方位面から弾き出されるスパッタ粒子を含むスパッタ粒子の中で、最大のエネルギーを有する。更に、スパッタ面12は、一の結晶方位面と他の結晶方位面との総和に対する一の結晶方位面の占有割合が、所定の占有割合を有して形成される。
【0015】
具体的に、スパッタ面12は、一の結晶方位面としての(111)面と、他の結晶方位面としての(200)面、及び(220)面、並びに(311)面とを有する。そして、スパッタ面12の(111)面と、(200)面と、(220)面と、(311)面との結晶方位面の総和を100%と規定したときの(111)面の占める割合、すなわち、(111)面の占有割合が15%以上、好ましくは20%以上、更に好ましくは25%以上となるスパッタ面12を有して銅スパッタリングターゲット材10は形成される。
【0016】
ここで、(111)面の占有割合は、X線回折で測定した各結晶方位の回折ピークの相対強度比から以下の式(「数1」)を用いて算出できる。X線回折で得られる相対強度比は、回折面によって回折強度が異なるため、ICDD(International Center for Diffraction Date)の標準データで測定値を除して補正した値を用いることで、正しい占有率を求めることができる。
【0017】
【数1】

【0018】
なお、上記「数1」において、Ks(111)は、被検材料、すなわち、銅スパッタリングターゲット材10の(111)面の占有割合(%)であり、Is(111)、Is(200)、Is(220)、及びIs(311)は、被検試料の各結晶方位におけるX線回折ピークの相対強度比であり、Id(111)、Id(200)、Id(220)、及びId(311)は、標準データの各結晶方位におけるX線回折ピークの相対強度比である。
【0019】
スパッタリングによってスパッタリングターゲット材から弾き出されたスパッタ粒子のエネルギーが高いほど、このスパッタ粒子によって生成する膜は緻密となり、生成した膜の内部応力は引張応力から圧縮応力へと変化する。本発明者は、実験の結果、銅の場合、(111)面から弾き出されるスパッタ粒子のエネルギーが最も高いという知見を得た。
【0020】
したがって、スパッタ面12が有する(111)面、(200)面、(220)面、及び(311)面に対する(111)面の占有割合を大きくして、高いエネルギーを有するスパッタ粒子をスパッタ中に増加させると、生成する銅膜(TFT用銅膜)の引張応力を低減することができると推察された。そこで、引張応力を低減できる(111)面の占有割合を検討したところ、(111)面の占有割合が15%以上、好ましくは25%以上であると、成膜する銅膜の内部応力の低減効果が得られるという知見が得られた。この結果により、上述したように、(111)面の占有割合が15%以上となるスパッタ面12を有して銅スパッタリングターゲット材10は形成される。また、成膜する銅膜の内部応力のさらなる低減を目的として、25%以上となるスパッタ面12を有して銅スパッタリングターゲット材10を形成することもできる。
【0021】
(スパッタリング方法)
図2は、本発明の実施の形態に係るスパッタリング方法が適用されるスパッタ装置の概要を示す。
【0022】
スパッタ装置2は、真空チャンバ26と、真空チャンバ26内の所定の位置に設けられ、金属膜としての銅膜5を形成すべき被対象物6を保持する保持部28aと、真空チャンバ26内の所定の位置に設けられ、銅スパッタリングターゲット1を保持する保持部28bと、不活性ガスとしてのアルゴンガス(Arガス)を導入するガス導入系22と、真空チャンバ26内のガスを排気する排気系24と、銅スパッタリングターゲット1と被対象物6との間に所定の電圧を印加する電源(図示しない)とを備える。
【0023】
被対象物6は、一例として、液晶パネルの画素の駆動に用いられる薄膜トランジスタ(Thin Film Transistor:TFT)が形成されているガラス基板である。本実施の形態に係るスパッタリング方法により、TFTのゲート線、ソース線、及びドレイン線の3種類の薄膜金属線としての薄膜銅線を形成できる。なお、薄膜金属線を銅から形成することにより、例えば、アルミニウムから形成された薄膜金属線と比べて、薄膜金属線の電気抵抗を低下できる。
【0024】
スパッタリング方法は、以下のようにして実施する。まず、真空チャンバ26内に、銅スパッタリングターゲット1及び被対象物6を設定する。そして、真空チャンバ26内を所定の圧力の真空に設定して、ガス導入系22から真空チャンバ26内に不活性ガスとしてのArガスを導入する。次に、真空チャンバ26内に導入したArガスに所定の電圧を印加して、導入したArガスをプラズマ化することにより、不活性ガスイオンとしてのAr+イオン3を生成する。そして、Ar+イオン3を電界で加速して、銅スパッタリングターゲット材10に照射する。これにより、銅スパッタリングターゲット材10を構成する銅が、スパッタ粒子4として弾き出される。
【0025】
銅スパッタリングターゲット材10から弾き出されたスパッタ粒子4は、被対象物6上に堆積して、銅膜5が被対象物6上に形成される。また、銅スパッタリングターゲット材10から弾き出されたスパッタ粒子4の一部(例えば、スパッタ面12から弾き出されたスパッタ粒子4の半分程度)は、チャンバ内壁26a等の被対象物6以外にも堆積して付着膜が形成される。
【0026】
(実施の形態の効果)
本実施の形態に係る銅スパッタリングターゲット材10は、スパッタ面12の(111)面と、(200)面と、(220)面と、(311)面との結晶方位面の総和を100%と規定したときの(111)面の占める割合、すなわち、(111)面の占有割合が15%以上、好ましくは25%以上となるスパッタ面12を有して形成されるので、スパッタ面12から弾き出されたスパッタ粒子4のエネルギーは、形成される銅膜5の内部応力が、圧縮応力の方が支配的になるほど高い。したがって、本実施の形態に係る銅スパッタリングターゲット材10をスパッタリングに用いることにより、形成されるスパッタ膜の引張残留応力を低減させることができる。
【0027】
また、本実施の形態に係る銅スパッタリングターゲット材10を用いることにより、スパッタ装置2の真空チャンバ26内、すなわち、チャンバ内壁26a等に付着する付着膜の引張残留応力も低減されるので、付着膜の厚みが増加したときに発生する付着膜の剥離を抑制することができる。これにより、スパッタ中のプロセス圧力、プロセスガスの条件を変更することなしに、付着膜の引張残留応力を低減させることができると共に、スパッタリング中に発生するパーティクルを低減させることができ、例えば、TFTの歩留り及び生産性を大幅に向上させることができる。
【0028】
また、本発明の実施の形態に係る銅スパッタリングターゲット材10は、酸素含有量が5ppm以下で形成されるので、例えば、液晶パネルのTFT配線の製造工程で還元雰囲気ガスとしての水素ガスを含んだプロセスガスを用いた場合であっても、プロセスガス中の水素ガスと銅膜中の酸素とが反応してH2Oが生成することによって銅膜内に生じるブローホールを抑制できる。
【実施例】
【0029】
(実施例1)
(実施例1に係る銅スパッタリングターゲット材10の製造)
まず、純度が99.99%であり、かつ、酸素含有量が2ppmの原材料としての無酸素銅を、連続鋳造法により製作した。連続鋳造法により製作した無酸素銅は、厚さが200mmであり、幅が500mmの鋳塊の形態であった。次に、所定の雰囲気下において、この鋳塊を800℃に加熱して、50mm以下の所定の厚さまで熱間圧延した。
【0030】
続いて、熱間圧延して得られた材料に、冷間加工及び熱処理を所定回数、繰り返し施すことにより、厚さ18mmの材料を製作した。ここで、冷間加工における冷間加工度を所定の冷間加工度に調節すると共に、熱処理における熱処理温度を所定の熱処理温度に調節することにより、「数1」により算出した圧延面における銅の結晶の(111)面の占有割合が15%以上となるようにした。
【0031】
次に、(111)面の占有割合を15%以上とした材料の両面を機械加工により1mmずつ切削除去することにより、厚さが16mmの実施例1に係る銅スパッタリングターゲット材10を製作した。この銅スパッタリングターゲット材10をX線回折装置により分析したところ、(111)面の占有割合は25.7%であった。なお、実施例1では99.99%の無酸素銅を用いたが、(111)面の占有割合が15%以上であれば、銅合金からスパッタリングターゲットを製造することもできる。
【0032】
(実施例2)
実施例1と同様にして、実施例2に係る銅スパッタリングターゲット材10を製作した。実施例2に係る銅スパッタリングターゲット材をX線回折装置により分析したところ、(111)面の占有割合は15%であった。
【0033】
(実施例3)
実施例1と同様にして、実施例3に係る銅スパッタリングターゲット材10を製作した。実施例3に係る銅スパッタリングターゲット材をX線回折装置により分析したところ、(111)面の占有割合は20%であった。
【0034】
(比較例)
比較例として、冷間加工度と熱処理温度とを調節して、(111)面の占有割合が15%以下を示す銅スパッタリングターゲット材を3パターン製作した。比較例に係る銅スパッタリングターゲット材をX線回折装置によって測定したところ、比較例に係る銅スパッタリングターゲットの(111)面の占有割合は、14.6%(比較例1)、7.6%(比較例2)、及び4.6%(比較例3)であった。更に、酸素含有量が10ppmの鋳塊を原材料として用いた点を除き、本発明の実施例と同様の工程で銅スパッタリングターゲットを製作した(比較例4)。
【0035】
(銅スパッタリングターゲット材の評価)
(評価方法1:残留応力の測定)
実施例1及び2、並びに比較例1から4のそれぞれに係る銅スパッタリングターゲット材を用いてスパッタリングにより形成した銅箔膜中の残存応力を測定した。具体的に、まず、評価用として、実施例1及び2、並びに比較例1から4に係る銅スパッタリングターゲット材のそれぞれから、厚みが5mmであり、外形がφ100mmの円板を切り出した。次に、バッチ式RF電源スパッタ装置に切り出した円板を銅スパッタリングターゲットとして設置すると共に、50mm角であり、厚みが0.7mmの無アルカリガラス基板を被対象物6として設置した。
【0036】
そして、実施例1及び2、並びに比較例1から4に係る銅スパッタリングターゲットから切り出した円板のそれぞれを用いて、無アルカリガラス基板上に500nmの銅膜を、所定雰囲気下、所定圧の条件下においてそれぞれ成膜した。続いて、X線回折装置を用いて、並傾法を利用することにより、成膜した銅膜の残留応力をそれぞれ測定した。
【0037】
(評価方法2:剥離性の有無の調査)
スパッタ装置の真空チャンバ内に堆積した銅膜の剥離防止性を評価した。具体的に、まず、評価用として、実施例1及び2、並びに比較例1から4に係る銅スパッタリングターゲット材のそれぞれから、厚みが5mmであり、外形がφ100mmの円板を切り出した。次に、上記評価方法1と同様にして、バッチ式RF電源スパッタ装置を用いて、50mm角であり、厚さが1mmのSUS304基板に、厚さが0.1mmの銅膜を成膜して、銅膜の剥離の有無を調査した。
【0038】
(評価方法3:銅膜中の酸素の影響の評価)
スパッタリングにより成膜した銅膜中の酸素の影響を評価した。具体的に、まず、評価用として、実施例1及び2、並びに比較例1から4に係る銅スパッタリングターゲット材のそれぞれから、厚みが5mmであり、外形がφ100mmの円板を切り出した。次に、上記評価方法1と同様にして、バッチ式RF電源スパッタ装置を用いて、50mm角であり、厚さが0.7mmの無アルカリガラス基板上に、厚さが500nmの銅膜を成膜した。次に、銅膜をH2雰囲気中、300℃で30min加熱した後、室温まで冷却した。続いて、得られた銅膜を走査型電子顕微鏡で観察することにより、ブローホールの有無を調査した。
【0039】
表1に、評価方法1から3の結果をまとめて示す。
【0040】
【表1】

【0041】
表1の評価方法1の欄を参照すると、本発明の実施例1及び2に係る銅スパッタリングターゲット材から形成した銅膜は、引張残留応力が120N/mm2以下であることが示され、実施例1に係る銅スパッタリングターゲット材から形成した銅膜では、引張残留応力が最も低いことが示された。また、表1の評価方法2の欄を参照すると分かるように、実施例1及び2に係る銅スパッタリングターゲット材から形成した銅膜は、SUS304基板からの剥離も発生しなかった。更に、表1の評価方法3の欄を参照すると分かるように、銅膜中にブローホールは存在しなかった。
【0042】
一方、比較例1から3に係る銅スパッタリングターゲット材から形成した銅膜は、表1の評価方法1の欄を参照すると分かるように、引張残留応力が大きいと共に、評価方法2の欄に示したように、SUS304基板からの銅膜の剥離も観察された。また、比較例4に係る銅スパッタリングターゲット材から形成した銅膜は、評価方法1の欄を参照すると分かるように引張残留応力が低く、評価方法2の欄を参照すると分かるようにSUS304基板からの銅膜の剥離は観察されなかった。しかしながら、評価方法3の欄を参照すると分かるように、酸素含有量が高いことに起因して、ブローホールが発生していることが観察された。
【0043】
以上により、(111)面の占有割合が15%以上、望ましくは25%以上であると共に、酸素含有量が5ppm以下の銅スパッタリングターゲット材を銅スパッタリングターゲットとして用いることにより、スパッタにより成膜された銅膜内の引張残留応力を低減することができることが示された。
【0044】
以上、本発明の実施の形態及び実施例を説明したが、上記に記載した実施の形態及び実施例は特許請求の範囲に係る発明を限定するものではない。また、実施の形態及び実施例の中で説明した特徴の組合せの全てが発明の課題を解決するための手段に必須であるとは限らない点に留意すべきである。
【0045】
以下、親出願(特願2008−172718)の出願当初の請求項を付記する。
(請求項1)
一の結晶方位面と他の結晶方位面とを有し、銅材からなるスパッタ面を備え、
前記一の結晶方位面は、加速された所定の不活性ガスイオンの照射により前記他の結晶方位面から弾き出されるスパッタ粒子のエネルギーより大きいエネルギーのスパッタ粒子を放出し、
前記一の結晶方位面と前記他の結晶方位面との総和に対する前記一の結晶方位面の占有割合は、15%以上である銅スパッタリングターゲット材。
(請求項2)
前記一の結晶方位面は、(111)面であり、
前記他の結晶方位面は、(200)面と、(220)面と、(311)面とを含む請求項1に記載の銅スパッタリングターゲット材。
(請求項3)
前記占有割合は、25%以上である請求項1又は2に記載の銅スパッタリングターゲット材。
(請求項4)
前記銅材は、銅と不可避的不純物とからなる無酸素銅、又は銅合金である請求項1から3のいずれか1項に記載の銅スパッタリングターゲット材。
(請求項5)
前記無酸素銅又は前記銅合金は、酸素含有量が5ppm以下である請求項4に記載の銅スパッタリングターゲット材。
(請求項6)
請求項1から5のいずれか1項に記載の銅スパッタリングターゲット材を用いて、被対象物に銅膜を形成するスパッタリング方法。
【図面の簡単な説明】
【0046】
【図1】実施の形態に係る銅スパッタリングターゲットの部分的な斜視図である。
【図2】実施の形態に係るスパッタリング方法が適用されるスパッタ装置の概要図である。
【符号の説明】
【0047】
1 銅スパッタリングターゲット
2 スパッタ装置
3 Ar+イオン
4 スパッタ粒子
5 銅膜
6 被対象物
10 銅スパッタリングターゲット材
12 スパッタ面
14 バッキングプレート
22 ガス導入系
24 排気系
26 真空チャンバ
26a チャンバ内壁
28a、28b 保持部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
銅材からなるTFT用銅スパッタリングターゲット材であって、
前記銅材は、一の結晶方位面と他の結晶方位面とを有し、銅と不可避的不純物とからなる無酸素銅、又は銅合金からなるスパッタ面を備え、かつ、
前記一の結晶方位面は、(111)面であり、前記他の結晶方位面は、(200)面と、(220)面と、(311)面とを含むとともに、前記(111)面と、前記(200)面と、前記(220)面と、前記(311)面との総和に対する、前記(111)面の占有割合は、15%以上である
TFT用銅スパッタリングターゲット材。
【請求項2】
前記TFT用銅スパッタリングターゲット材は、平板型である請求項1に記載のTFT用銅スパッタリングターゲット材。
【請求項3】
前記無酸素銅又は前記銅合金は、酸素含有量が5ppm以下である請求項1又は2に記載のTFT用銅スパッタリングターゲット材。
【請求項4】
前記占有割合は、20%以上である請求項1〜3のいずれか1項に記載のTFT用銅スパッタリングターゲット材。
【請求項5】
前記占有割合は、25.7%以下である請求項1〜4のいずれか1項に記載のTFT用銅スパッタリングターゲット材。
【請求項6】
請求項1から5のいずれか1項に記載のTFT用スパッタリングターゲット材を用いて、被対象物に形成されたTFT用銅膜。
【請求項7】
前記TFT用銅膜は、酸素含有量が2ppm以下である請求項6に記載のTFT用銅膜。
【請求項8】
前記被対象物は、ガラス基板である請求項6又は7に記載のTFT用銅膜。
【請求項9】
表面の残留応力が120N/mm2以下である請求項6〜8いずれか1項に記載のTFT用銅膜。
【請求項10】
請求項1から5のいずれか1項に記載のTFT用銅スパッタリングターゲット材を用いて、被対象物にTFT用銅膜を形成するスパッタリング方法。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2012−97359(P2012−97359A)
【公開日】平成24年5月24日(2012.5.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−27061(P2012−27061)
【出願日】平成24年2月10日(2012.2.10)
【分割の表示】特願2008−172718(P2008−172718)の分割
【原出願日】平成20年7月1日(2008.7.1)
【出願人】(000005120)日立電線株式会社 (3,358)
【Fターム(参考)】