説明

Vベルト式無段変速機のライン圧制御装置

【課題】Vベルト式無段変速機の手動変速モードで、変速応答遅れが問題にならない場合はライン圧の上昇を行わないようにして、燃費の悪化を回避する。
【解決手段】自動変速用必要ライン圧P(D)は必要プライマリプーリ圧Ppriおよび必要セカンダリプーリ圧Psecの高い方と同じ値に定める。ダウンシフトにつれて手動変速用必要ライン圧P(M)が低下するハイ側変速比領域における変速段(6速、5速、4速)のP(M)をそれぞれ、●印で示すように、該変速段に対応した変速比でのP(D)と略同じ圧力に設定する。逆にダウンシフトにつれてP(M)が上昇するロー側変速比領域における変速段(3速、2速)のP(M)をそれぞれ、●印で示すように、該変速段(3速、2速)のダウンシフト方向隣接変速段(2速、1速)に対応した変速比でのP(D)と略同じ圧力に設定する。これによりP(M)を、変速段の切り替えに対し図示のごとくステップ状に変化するものとなす。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、Vベルト式無段変速機の変速制御元圧であるライン圧を適切に制御するための装置、
特に、無段変速比範囲内における複数の変速比を予め手動変速段と定め、これら変速段を手動で選択可能な手動変速モードにおいてライン圧を適切に制御するVベルト式無段変速機のライン圧制御装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
Vベルト式無段変速機およびそのライン圧制御装置としては従来、例えば特許文献1に記載のようなものが知られている。
Vベルト式無段変速機は通常、入力側のプライマリプーリおよび出力側のセカンダリプーリ間にVベルトを掛け渡して構成し、
変速に当たっては、プライマリプーリへのプライマリプーリ圧と、セカンダリプーリへのセカンダリプーリ圧との相関関係により、前記プライマリプーリおよびセカンダリプーリのV溝幅を増減させて無段変速を行う。
【0003】
Vベルト式無段変速機にあっては、かかる無段変速を行う自動変速モードの他に手動変速モードを設定することが多い。
この手動変速モードは、無段変速比範囲内における複数の変速比を予め手動変速段と定めておき、これら変速段を手動で選択可能にしたものである。
【0004】
かかるVベルト式無段変速機のライン圧制御に当たっては従来、例えば特許文献1に記載のように当該ライン圧制御を行う。
自動変速モードでは、上記プライマリプーリ圧およびセカンダリプーリ圧の高い方の圧力に基づき設定した、中程変速比よりもハイ側変速比およびロー側変速比であるほど高くなる自動変速用必要ライン圧になるようライン圧を制御する。
【0005】
一方で手動変速モードにおいては、変速段の切り替え(変速)時に変速比が連続的でなく段階的に変化することから、また変速が運転者のシフト操作に起因するため予測不能であることから、変速応答遅れが懸念されるため、特許文献1にも記載の通り、自動変速用必要ライン圧を基に定めた、変速段の切り替えに対し自動変速用必要ライン圧と同様な変化傾向を持つが、自動変速用必要ライン圧よりも高く設定した手動変速用必要ライン圧になるようライン圧を制御する。
【0006】
具体的には手動変速用必要ライン圧は、ロー側変速段へダウンシフトする場合も、ハイ側変速段へアップシフトする場合も、本来の変速速度が確保されるよう変速段ごとに、ロー側隣接変速段の変速比に関わる自動変速用必要ライン圧、および、ハイ側隣接変速段の変速比に関わる自動変速用必要ライン圧のうち、高い方の圧力値を手動変速用必要ライン圧として設定する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2008−002483号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかし、上記した従来のライン圧制御装置にあっては、手動変速モードにおいてライン圧(手動変速用必要ライン圧)を上記のごとく、自動変速モードでのライン圧(自動変速用必要ライン圧)に対し一律に高く設定するだけのものであったため、以下のような問題を生ずる。
【0009】
つまり、前記した手動変速モードでの変速応答遅れが問題になるのは主に、エンジンブレーキ要求などで運転者がダウンシフト操作を行って、速やかにロー側変速段への切り替えを行う必要があるダウンシフト時であり、
アップシフト時は、車速を上昇させながらの手動変速であって急を要しないため、変速応答遅れが殆ど問題になることはない。
しかるに従来は、アップシフト時も手動変速用必要ライン圧を自動変速用必要ライン圧に対し一律に高く設定するため、このアップシフト時に手動変速用必要ライン圧を不必要に高くしていた。
【0010】
更に、前記した手動変速モードでの変速応答遅れは変速制御油圧の上昇遅れに起因することから、当該変速応答遅れが発生するのは、変速時に手動変速用必要ライン圧が高くなる方向への変速時であり、手動変速用必要ライン圧が低くなる方向への変速時は変速応答遅れが問題になることはない。
しかるに従来は、手動変速の方向に関係なく手動変速用必要ライン圧を自動変速用必要ライン圧に対し一律に高く設定するため、手動変速用必要ライン圧が低くなる方向への変速時に手動変速用必要ライン圧を不必要に高くしていた。
【0011】
ところでライン圧は、エンジンや電動モータで駆動されるオイルポンプから吐出されたの作動媒体(通常は作動油)をプレッシャレギュレータ弁などにより調圧して作り出すため、
上記のように手動変速モードでライン圧を不必要に高くする状況が存在するのでは、ライン圧過剰分に相当するオイルポンプの駆動負荷増大分だけ、エンジンの燃費が悪化したり、電動モータの電力消費が悪化し、いずれにしてもエネルギー効率の低下を招くという問題を生ずる。
【0012】
本発明は、上記の実情に鑑み、手動変速用必要ライン圧が不必要に高くなることのないようにして、燃費の悪化や電力消費の悪化を生ずることがないようになし、これによりエネルギー効率の向上を実現したVベルト式無段変速機のライン圧制御を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
この目的のため本発明によるVベルト式無段変速機のライン圧制御は、これを以下のように構成する。
先ず前提となるVベルト式無段変速機を説明するに、これは、
入力側のプライマリプーリおよび出力側のセカンダリプーリ間にVベルトを掛け渡して具え、プライマリプーリへのプライマリプーリ圧と、セカンダリプーリへのセカンダリプーリ圧との相関関係により上記プライマリプーリおよびセカンダリプーリのV溝幅を増減させて無段変速可能な自動変速モードと、無段変速比範囲内における複数の変速比を予め手動変速段と定め、これら変速段を手動で選択可能な手動変速モードとを有するものである。
【0014】
かかるVベルト式無段変速機に用いる本発明のライン圧制御装置は、
上記プライマリプーリ圧およびセカンダリプーリ圧の共通な元圧であるライン圧を、自動変速モードでは、これらプライマリプーリ圧およびセカンダリプーリ圧の高い方の圧力に基づき、中程変速比よりもハイ側変速比およびロー側変速比であるほど高くなる自動変速用必要ライン圧に制御し、手動変速モードでは、自動変速用必要ライン圧を基に定めた、変速段の切り替えに対し該自動変速用必要ライン圧と同様な変化傾向を持つが、該自動変速用必要ライン圧以上の手動変速用必要ライン圧に制御するようにしたものである。
【0015】
本発明は、当該ライン圧制御装置における手動変速用必要ライン圧の設定に際し、
ロー側変速段へのダウンシフトにつれて手動変速用必要ライン圧が低下する領域における変速段の手動変速用必要ライン圧と、該変速段に対応した変速比での自動変速用必要ライン圧との差圧が、
ダウンシフトにつれて逆に手動変速用必要ライン圧が上昇する領域における変速段の手動変速用必要ライン圧と、該変速段に対応した変速比での自動変速用必要ライン圧との差圧よりも小さくなるよう手動変速用必要ライン圧を設定した構成に特徴づけられる。
【発明の効果】
【0016】
かかる本発明によるVベルト式無段変速機のライン圧制御にあっては、ダウンシフトにつれて手動変速用必要ライン圧が低下する領域の手動変速用必要ライン圧を、ダウンシフトにつれて手動変速用必要ライン圧が上昇する領域の手動変速用必要ライン圧よりも低く設定することとなり、
手動変速モードでの変速応答遅れが問題になる、手動変速用必要ライン圧の上昇を伴うダウンシフト時の変速速度を所定通りに確保しつつ、手動変速モードでの変速応答遅れが問題にならない、手動変速用必要ライン圧の低下を伴うダウンシフト時における手動変速用必要ライン圧の過剰を抑制することができ、エネルギー効率の低下に関わる前記の問題を解消することができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】本発明の一実施例になるライン圧制御装置を具えたVベルト式無段変速機を含む車両の駆動系を、その制御系と共に示す概略系統図である。
【図2】図1における変速機コントローラおよび変速制御油圧回路の概略を示す機能別ブロック線図である。
【図3】図2における圧力制御部が実行するライン圧制御プログラムを示すフローチャートである。
【図4】従来のライン圧制御特性図である。
【図5】図1〜3に示す実施例におけるライン圧制御装置のライン圧制御特性を、図4における従来のライン圧制御特性と比較して示す特性線図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、本発明の実施の形態を、図示の実施例に基づき詳細に説明する。
<実施例の構成>
図1は、本発明の一実施例になるライン圧制御装置を具えたVベルト式無段変速機1を含む車両の駆動系を示す。
Vベルト式無段変速機1は、プライマリプーリ2およびセカンダリプーリ3を両者のV溝が相互に整列するよう配して具え、これらプーリ2,3のV溝に無終端Vベルト4を掛け渡して概略を構成する。
【0019】
プライマリプーリ2に同軸にエンジン5を配置し、このエンジン5およびプライマリプーリ2間に、エンジン5の側から順次トルクコンバータ6および前後進切り換え機構7を介在させて設ける。
【0020】
前後進切り換え機構7は、ダブルピニオン遊星歯車組7aを主たる構成要素とし、そのサンギヤをトルクコンバータ6を介してエンジン5に結合し、キャリアをプライマリプーリ2に結合する。
前後進切り換え機構7は更に、ダブルピニオン遊星歯車組7aのサンギヤおよびキャリア間を直結する前進クラッチ7b、およびリングギヤを固定する後進ブレーキ7cをそれぞれ具え、
前進クラッチ7bの締結時にエンジン5からトルクコンバータ6を経由した入力回転をそのままプライマリプーリ2に伝達し、後進ブレーキ7cの締結時にエンジン5からトルクコンバータ6を経由した入力回転を逆転減速下にプライマリプーリ2へ伝達するものとする。
【0021】
プライマリプーリ2への回転はVベルト4を介してセカンダリプーリ3に伝達され、セカンダリプーリ3の回転はその後、出力軸8、歯車組9およびディファレンシャルギヤ装置10を順次経て図示せざる車輪に至らしめる。
【0022】
上記の動力伝達中にプライマリプーリ2およびセカンダリプーリ3間における回転伝動比(変速比)を変更可能にするために、プライマリプーリ2およびセカンダリプーリ3のV溝を形成する同軸対向シーブのうち、一方を固定シーブ2a,3aとし、他方のシーブ2b,3bを軸線方向へ変位可能な可動シーブとする。
【0023】
これら可動シーブ2b,3bはそれぞれ、後で詳述するごとくに制御するライン圧を元圧として作り出したプライマリプーリ圧Ppriおよびセカンダリプーリ圧Psecをプライマリプーリ室2cおよびセカンダリプーリ室3cへ供給することにより固定シーブ2a,3aに向け附勢し、これによりVベルト4をプーリシーブに摩擦係合させてプライマリプーリ2およびセカンダリプーリ3間での前記動力伝達を可能にする。
【0024】
上記Vベルト式無段変速機1の変速に際しては、後述のごとく目標変速比に対応して発生させたプライマリプーリ圧Ppriおよびセカンダリプーリ圧Psec間の差圧により両プーリ2,3のV溝幅を変更して、これらプーリ2,3に対するVベルト4の巻き掛け円弧径を連続的に変化させることで、無段変速下に目標変速比を実現することができる。
なおVベルト式無段変速機1は、かかる無段変速を行う自動変速モードの他に手動変速(M)モードを有し、
この手動変速(M)モードでは、無段変速比範囲内における複数の変速比を予め手動変速段と定めておき、これら変速段を運転者が手動で選択することができるものとする。
【0025】
プライマリプーリ圧Ppriおよびセカンダリプーリ圧Psecと、これらの共通な元圧であるライン圧は、自動変速モードの前進走行(D)レンジを含む各レンジ、および手動変速(M)モードの選択時に締結すべき前進クラッチ7b、および後進走行(R)レンジの選択時に締結すべき後進ブレーキ7cの締結油圧と共に、変速制御油圧回路11により制御し、
この変速制御油圧回路11は変速機コントローラ12からの信号に応答して当該制御を行うものとする。
【0026】
このため変速機コントローラ12には、
プライマリプーリ回転数Npriを検出するプライマリプーリ回転センサ13からの信号と、
セカンダリプーリ回転数Nsecを検出するセカンダリプーリ回転センサ14からの信号と、
セカンダリプーリ圧Psecを検出するセカンダリプーリ圧センサ15からの信号と、
プライマリプーリ圧Ppriを検出するプライマリプーリ圧センサ16からの信号と、
アクセル開度APO(アクセルペダル踏み込み量)を検出するアクセル開度センサ17からの信号と、
Vベルト式無段変速機1の選択レンジ、つまり駐車(P)レンジ、停車(N)レンジ、自動変速モードにおける前進走行(D)レンジ、後進走行(R)レンジ、手動変速(M)モードを検出するインヒビタスイッチ18からの信号と、
エンジン5の回転数や燃料噴射量からエンジントルクTeを求めるエンジントルク演算部19からの信号とを入力する。
【0027】
変速制御油圧回路11および変速機コントローラ12は図2に示すごときものとする。
先ず、前者の変速制御油圧回路11について以下に説明する。
この回路11は、エンジン5で駆動されるオイルポンプ21を具え、これから油路22への作動油を媒体として、これをプレッシャレギュレータ弁23により後述する所定のライン圧Pに調圧する。
【0028】
油路22のライン圧Pは、一方で減圧弁24により調圧され、セカンダリプーリ圧Psecとしてセカンダリプーリ室3cへ供給し、他方で変速制御弁25により調圧され、プライマリプーリ圧Ppriとしてプライマリプーリ室2cへ供給する。
なお、プレッシャレギュレータ弁23は、ソレノイド23aへの駆動デューティーによりライン圧Pを制御し、
減圧弁24は、ソレノイド24aへの駆動デューティーによりセカンダリプーリ圧Psecを制御するものである。
【0029】
変速制御弁25は、中立位置25aと、増圧位置25bと、減圧位置25cとを有し、これら弁位置を切り換えるために変速制御弁25を変速リンク26の中程に連結し、該変速リンク26の一端に、変速アクチュエータとしてのステップモータ27を、また他端にセカンダリプーリの可動シーブ2bを連結する。
【0030】
ステップモータ27は、基準位置から目標変速比に対応したステップ数Stepだけ進んだ操作位置にされ、かかるステップモータ27の操作により変速リンク26が可動シーブ2bとの連結部を支点にして対応方向へ揺動することにより、変速制御弁25を中立位置25aから増圧位置25bまたは減圧位置25cとなす。
【0031】
これにより、プライマリプーリ圧Ppriがライン圧Pを元圧として増圧されたり、またはドレンにより減圧される。
かかるプライマリプーリ圧Ppriの増減により、これと、セカンダリプーリ圧Psecとの差圧が変化し、両者の相関関係によりハイ側変速比(ハイ側変速段)へのアップシフトまたはロー側変速比(ロー側変速段)へのダウンシフトを生じ、目標変速比(目標変速段)に向けての変速が生起される。
【0032】
当該変速の進行は、プライマリプーリ2の可動シーブ2cを介して変速リンク26の対応端にフィードバックされ、変速リンク26がステップモータ27との連結部を支点にして、変速制御弁25を増圧位置25bまたは減圧位置25cから中立位置25bに戻す方向へ揺動する。
これにより、目標変速比(目標変速段)が達成される時に変速制御弁25が中立位置25aに戻され、目標変速比(目標変速段)を保つことができる。
【0033】
プレッシャレギュレータ弁23のソレノイド駆動デューティー(ライン圧制御デューティー)、減圧弁24のソレノイド駆動デューティー(セカンダリプーリ圧制御デューティー)、およびステップモータ27への変速指令(ステップ数Step)はそれぞれ、図1に示す前進クラッチ7bおよび後進ブレーキ7cへ締結油圧を供給するか否かの制御と共に、変速機コントローラ12によりこれらを決定し、
このコントローラ12を図2に示すように、圧力制御部12aおよび変速制御部12bで構成する。
【0034】
先ず後者の変速制御部12bを説明するに、これは、セカンダリプーリ回転数Nsec(車速)およびアクセル開度APOから予定の変速マップを基に目標入力回転数を求め、この目標入力回転数をセカンダリプーリ回転数Nsecで除算して目標変速比を演算し、この目標変速比に実変速比Ip(=Npri/ Nsec)を一致させるためのステップモータ27のステップ数Stepを求め、これをステップモータ27に指令することで当該目標変速比を達成する、通常の変速制御を行う。
【0035】
<ライン圧制御>
次に前者の圧力制御部12aを説明するに、これは、プレッシャレギュレータ弁23のソレノイド駆動デューティー(ライン圧制御デューティー)、および減圧弁24のソレノイド駆動デューティー(セカンダリプーリ圧制御デューティー)をそれぞれ、以下のように決定する。
【0036】
減圧弁24のソレノイド駆動デューティー(セカンダリプーリ圧制御デューティー)を決定するに際し、圧力制御部12aは実変速比Ip(=Npri/ Nsec)と、演算部19で求めたエンジントルクTe(変速機入力トルク)とから、予定のマップを基に必要セカンダリプーリ圧Psecを求め、この必要セカンダリプーリ圧Psecと、センサ15で検出した実セカンダリプーリ圧Psecとの偏差に応じたフィードバック制御により、実セカンダリプーリ圧Psecを必要セカンダリプーリ圧Psecに一致させるのに必要な減圧弁24の駆動デューティーを決定し、これをソレノイド24aに出力する。
【0037】
プレッシャレギュレータ弁23のソレノイド駆動デューティー(ライン圧制御デューティー)を決定するに際し、圧力制御部12aは図3の制御プログラムを実行して目標ライン圧Pを設定し、この目標ライン圧Pが達成されるようなプレッシャレギュレータ弁23のソレノイド駆動デューティーを求める。
そして圧力制御部12aは、かかる駆動デューティーをプレッシャレギュレータ弁23のソレノイド23aに指令することにより、実ライン圧Pを目標ライン圧Pとなす。
【0038】
図3の制御プログラムを説明するに、ステップS11においてインヒビタスイッチ18からの信号を基に変速モードを判定し、手動変速(M)モードの選択中か、自動変速モード(Dレンジ)の選択中かを判定する。
次のステップS12においては、上記の判定結果が手動変速(M)モードか否かをチェックし、手動変速(M)モードでなければ、つまり自動変速モード(Dレンジ)であれば、ステップS13において、目標ライン圧Pに以下のごとき自動変速用必要ライン圧P(D)を設定する。
【0039】
自動変速モード(Dレンジ)で目標ライン圧Pに設定する自動変速用必要ライン圧P(D)を説明する。
まず前記した実変速比Ip(=Npri/ Nsec)およびエンジントルクTe(変速機入力トルク)から予定のマップを基に必要プライマリプーリ圧Ppriを求めて、この必要プライマリプーリ圧Ppriを前記の必要セカンダリプーリ圧Psecと比較する。
必要プライマリプーリ圧Ppriが必要セカンダリプーリ圧Psec以上なら、目標ライン圧Pに高い方の必要プライマリプーリ圧Ppriと同じ値、または略これと同じ値の自動変速用必要ライン圧P(D)をセットし、この目標ライン圧Pに対応する駆動デューティーをプレッシャレギュレータ弁23のソレノイド23aに出力して、ライン圧Pを上記の自動変速用必要ライン圧P(D)となす。
逆に必要プライマリプーリ圧Ppriが必要セカンダリプーリ圧Psec未満であれば、目標ライン圧Pに高い方のセカンダリプーリ圧Psecと同じ値、または略これと同じ値の自動変速用必要ライン圧P(D)をセットし、この目標ライン圧Pに対応する駆動デューティーをプレッシャレギュレータ弁23のソレノイド23aに出力して、ライン圧Pを上記の自動変速用必要ライン圧P(D)となす。
【0040】
自動変速用必要ライン圧P(D)を図4につき付言する。
前記のようにして求めた必要プライマリプーリ圧Ppriおよび必要セカンダリプーリ圧Psecはそれぞれ、無段変速比Ip(=Npri/ Nsec)に対し図4のような変化傾向を持ち、
必要プライマリプーリ圧Ppriは、無段変速比Ipが大きなロー側であるほど低くなり、無段変速比Ipが小さなハイ側であるほど高くなり、
必要セカンダリプーリ圧Psecは逆に、無段変速比Ipが大きなロー側であるほど高くなり、無段変速比Ipが小さなハイ側であるほど低くなる。
【0041】
そして、必要プライマリプーリ圧Ppriおよび必要セカンダリプーリ圧Psecは、無段変速比Ipが最ロー側変速比と最ハイ側変速比との間における中程変速比(多くの場合Ip=1)であるときに同じ値となり、必要プライマリプーリ圧Ppriおよび必要セカンダリプーリ圧Psecの変化特性線は、図4のごとく上記の中程変速比において相互に交差する。
【0042】
自動変速用必要ライン圧P(D)は上記した処から明らかなように、必要プライマリプーリ圧Ppriおよび必要セカンダリプーリ圧Psecの高い方と同じ値、または略これと同じ値に定めることから、無段変速比Ipに対し図4の二点鎖線で示すV字状の変化傾向を持ったものとなり、
上記の中程変速比において最も低く、この中程変速比よりもハイ側変速比およびロー側変速比であるほど高くなる。
【0043】
図3のステップS12で手動変速(M)モード選択中と判定する場合、ステップS14において、目標ライン圧Pに、後で詳述する手動変速用必要ライン圧P(M)を設定する。
ここで、本実施例における手動変速用必要ライン圧P(M)を説明する前に、前記特許文献1に記載されている従来の手動変速用必要ライン圧P(M)を図4に基づき説明し、その問題点を言及する。
【0044】
手動変速(M)モードにおいては前記した通り、無段変速比Ipの範囲内における複数の変速比を予め、図4に例示するごとく手動変速段(図4では、1速〜6速)と定め、これら変速段を手動で選択可能にする。
そのため、変速段の切り替え(変速)時に変速比が連続的でなく段階的に変化することから、また変速が運転者のシフト操作に起因するため予測不能であることから、変速応答遅れが懸念される。
【0045】
そこで従来は特許文献1に記載の通り、自動変速用必要ライン圧P(D)を基に定めた、変速段(1速〜6速)の切り替えに対し自動変速用必要ライン圧P(D)と同様な変化傾向を持つが、自動変速用必要ライン圧P(D)よりも一律に高く設定した、図4に波線で示すような手動変速用必要ライン圧P(M)になるようライン圧Pを制御していた。
【0046】
具体的には手動変速用必要ライン圧P(M)は、現在の手動変速段からロー側変速段へダウンシフトする場合も、ハイ側変速段へアップシフトする場合も、本来の変速速度が確保されるよう変速段ごとに、ロー側隣接変速段の変速比に関わる自動変速用必要ライン圧、および、ハイ側隣接変速段の変速比に関わる自動変速用必要ライン圧のうち、高い方の圧力値を手動変速用必要ライン圧P(M)として設定していた。
【0047】
しかし上記した従来のライン圧制御にあっては、手動変速(M)モードでのライン圧制御に用いる手動変速用必要ライン圧P(M)を上記のごとく、そして図4に示すように、自動変速モード(Dレンジ)でのライン圧制御に用いる自動変速用必要ライン圧P(D)に対し一律に高く設定していたため、以下のような問題を生ずる。
【0048】
つまり、手動変速(M)モードでの上記した変速応答遅れが問題になるのは主に、エンジンブレーキ要求などで運転者がダウンシフト操作を行って、速やかにロー側変速段への切り替えを行う必要があるダウンシフト時であって、アップシフト時は変速応答遅れが殆ど問題になることはない。
このため、従来のようにアップシフト時もダウンシフト時と同様に手動変速用必要ライン圧P(M)を自動変速用必要ライン圧P(D)に対し一律に高く設定するのでは、このアップシフト時に手動変速用必要ライン圧P(M)が不必要に高くされることとなる。
【0049】
更に、手動変速(M)モードでの前記した変速応答遅れは、変速を司るプライマリプーリ圧Ppriおよびセカンダリプーリ圧Psecの上昇遅れに起因することから、当該変速応答遅れが発生するのは、変速時に手動変速用必要ライン圧P(M)が高くなる方向への変速時であり、手動変速用必要ライン圧P(M)が低下する方向への変速時は変速応答遅れが問題になることはない。
このため、従来のように手動変速の方向に関係なく手動変速用必要ライン圧P(M)を自動変速用必要ライン圧P(D)に対し一律に高く設定するのでは、手動変速用必要ライン圧P(M)が低下する方向への変速時に手動変速用必要ライン圧P(M)が不必要に高くされることとなる。
【0050】
ところでライン圧Pは、エンジン駆動されるオイルポンプ21から吐出されたの作動油をプレッシャレギュレータ弁23により調圧して作り出すため、
従来のように手動変速(M)モードで手動変速用必要ライン圧P(M)を不必要に高くするケースが存在するのでは、これに伴うライン圧過剰分に相当するオイルポンプ21の駆動負荷増大分だけ、エンジンの燃費が悪化してエネルギー効率の低下を招くという問題を生ずる。
【0051】
本実施例は、かかる問題に鑑み、手動変速(M)モードでのライン圧制御に資する手動変速用必要ライン圧P(M)を不必要に高くするケースが存在することのないようにして、燃費の悪化を生ずることがないようになし、これによりエネルギー効率の向上を実現したライン圧制御を提供しようとするものである。
【0052】
このため本実施例においては、図3のステップS14で目標ライン圧Pに設定する手動変速用必要ライン圧P(M)を、図4,5に波線で示すようなものに代え、図5に実線で示すステップ状のものとする。
【0053】
つまり、ダウンシフトにつれて手動変速用必要ライン圧P(M)が低下する変速比領域(前記中程変速比よりもハイ側変速比領域)における変速段(図5では、6速、5速、4速)の手動変速用必要ライン圧P(M)をそれぞれ、図5に●印で示すように、該変速段(6速、5速、4速)に対応した変速比での自動変速用必要ライン圧P(D)と略同じ圧力に設定する。
これにより当該ハイ側変速比領域における手動変速用必要ライン圧P(M)は、隣接変速段間でのダウンシフトの度に図5の実線で示すごとく、○印レベルから●印レベルへと順次段階的に低下するステップ状のものとなる。
【0054】
逆にダウンシフトにつれて手動変速用必要ライン圧P(M)が上昇する変速比領域(前記中程変速比よりもロー側変速比領域)における変速段(図5では、3速、2速)の手動変速用必要ライン圧P(M)をそれぞれ、図5に●印で示すように、該変速段(3速、2速)のダウンシフト方向における隣接変速段(2速、1速)に対応した変速比での自動変速用必要ライン圧P(D)と略同じ圧力に設定すると共に、最ロー側変速段(1速)の手動変速用必要ライン圧P(M)を、同じく図5に●印で示すように、当該変速段(1速)に対応した変速比での自動変速用必要ライン圧P(D)と略同じ圧力に設定する。
これにより当該ロー側変速比領域における手動変速用必要ライン圧P(M)は、隣接変速段間での3→2ダウンシフト時に図5の実線で示すごとく、○印レベルから●印レベルへ段階的に上昇するステップ状のものとなる。
【0055】
図3のステップS12で手動変速(M)モード選択中と判定する場合に実行されるステップS14において、自動変速用必要ライン圧P(D)を基に上記のごとくに求めた、図5に実線で示す手動変速用必要ライン圧P(M)を、目標ライン圧Pに設定すると、
図2の圧力制御部12aは、この目標ライン圧P、つまり手動変速用必要ライン圧P(M)が達成されるようなソレノイド駆動デューティーをプレッシャレギュレータ弁23のソレノイド23aに指令し、実ライン圧Pを目標ライン圧Pとなす。
【0056】
<実施例の効果>
上記した本実施例の手動変速用必要ライン圧P(M)によれば、ダウンシフトにつれて手動変速用必要ライン圧P(M)が低下するハイ側変速比領域における変速段(6速、5速、4速)の手動変速用必要ライン圧P(M)と、これら変速段(6速、5速、4速)に対応した変速比での自動変速用必要ライン圧P(D)との差圧(図5では0)が、
ダウンシフトにつれて逆に手動変速用必要ライン圧P(M)が上昇するロー側変速比領域における変速段(3速、2速)の手動変速用必要ライン圧P(M)と、これら変速段(3速、2速)に対応した変速比での自動変速用必要ライン圧P(D)との差圧(図5では従来と同じ)よりも小さいこととなる。
【0057】
従って、手動変速(M)モードでの変速応答遅れが問題になる、手動変速用必要ライン圧P(M)の上昇を伴う上記ロー側変速比領域におけるダウンシフト時の変速速度は、後者の大きな差圧によって従来通りに確保しつつ、
手動変速(M)モードでの変速応答遅れが問題にならない、手動変速用必要ライン圧P(M)の低下を伴う上記ハイ側変速比領域における手動変速用必要ライン圧P(M)の過剰を、前者の差圧0(図5の圧力低下ΔP6,ΔP5,ΔP4)によって抑制することができ、エネルギー効率の低下に関わる前記の問題を解消することができる。
【0058】
なお本実施例においては図5につき前述した通り、最ロー側変速段(1速)の手動変速用必要ライン圧P(M)を、図5に●印で示すように、当該変速段(1速)に対応した変速比での自動変速用必要ライン圧P(D)と略同じ圧力に設定したため、
この最ロー側変速段(1速)でも、手動変速用必要ライン圧P(M)が従来よりΔP1だけ低く、燃費の向上によりエネルギー効率を高めることができる。
【0059】
ところで本実施例の手動変速用必要ライン圧P(M)によれば、上記のハイ側変速比領域においてアップシフトが行われる場合に、手動変速用必要ライン圧P(M)の上昇を伴う変速であるのに、変速段ごとの手動変速用必要ライン圧P(M)が自動変速用必要ライン圧P(D)と略同じで、従来のP(M)よりも低く、変速応答遅れを生ずる。
しかして、アップシフト時の手動変速応答遅れは、このアップシフトが車速を上昇させながらの手動変速であって急を要しないため、問題になることはない。
【符号の説明】
【0060】
1 Vベルト式無段変速機
2 プライマリプーリ
3 セカンダリプーリ
4 Vベルト
5 エンジン
6 ロックアップトルクコンバータ
7 前後進切り換え機構
8 出力軸
9 歯車組
10 ディファレンシャルギヤ装置
11 変速制御油圧回路
12 変速機コントローラ
13 プライマリプーリ回転センサ
14 セカンダリプーリ回転センサ
15 セカンダリプーリ圧センサ
16 プライマリプーリ圧センサ
17 アクセル開度センサ
18 インヒビタスイッチ
19 エンジントルク演算部
21 オイルポンプ
23 プレッシャレギュレータ弁
24 減圧弁
25 変速制御弁
26 変速リンク
27 ステップモータ(変速アクチュエータ)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
入力側のプライマリプーリおよび出力側のセカンダリプーリ間にVベルトを掛け渡して具え、プライマリプーリへのプライマリプーリ圧と、セカンダリプーリへのセカンダリプーリ圧との相関関係により前記プライマリプーリおよびセカンダリプーリのV溝幅を増減させて無段変速可能な自動変速モードと、無段変速比範囲内における複数の変速比を予め手動変速段と定め、これら変速段を手動で選択可能な手動変速モードとを有したVベルト式無段変速機に用いられ、
前記プライマリプーリ圧およびセカンダリプーリ圧の共通な元圧であるライン圧を、自動変速モードでは、これらプライマリプーリ圧およびセカンダリプーリ圧の高い方の圧力に基づき、中程変速比よりもハイ側変速比およびロー側変速比であるほど高くなる自動変速用必要ライン圧に制御し、手動変速モードでは、自動変速用必要ライン圧を基に定めた、変速段の切り替えに対し該自動変速用必要ライン圧と同様な変化傾向を持つが、該自動変速用必要ライン圧以上の手動変速用必要ライン圧に制御するようにしたライン圧制御装置において、
ロー側変速段へのダウンシフトにつれて手動変速用必要ライン圧が低下する領域における変速段の手動変速用必要ライン圧と、該変速段に対応した変速比での自動変速用必要ライン圧との差圧が、
ダウンシフトにつれて逆に手動変速用必要ライン圧が上昇する領域における変速段の手動変速用必要ライン圧と、該変速段に対応した変速比での自動変速用必要ライン圧との差圧よりも小さくなるよう前記手動変速用必要ライン圧を設定したことを特徴とするVベルト式無段変速機のライン圧制御装置。
【請求項2】
請求項1に記載されたVベルト式無段変速機のライン圧制御装置において、
ダウンシフトにつれて手動変速用必要ライン圧が低下する領域における変速段の手動変速用必要ライン圧を、該変速段に対応した変速比での自動変速用必要ライン圧と略同じ圧力に設定したことを特徴とするVベルト式無段変速機のライン圧制御装置。
【請求項3】
請求項1または2に記載されたVベルト式無段変速機のライン圧制御装置において、
ダウンシフトにつれて手動変速用必要ライン圧が上昇する領域における変速段の手動変速用必要ライン圧を、ダウンシフト方向における隣接変速段に対応した変速比での自動変速用必要ライン圧と略同じ圧力に設定したことを特徴とするVベルト式無段変速機のライン圧制御装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2012−122551(P2012−122551A)
【公開日】平成24年6月28日(2012.6.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−274246(P2010−274246)
【出願日】平成22年12月9日(2010.12.9)
【出願人】(000003997)日産自動車株式会社 (16,386)
【Fターム(参考)】