説明

ZnO焼結体およびその製造方法

【課題】 透明電極として優れた性質を有するZnO膜をイオンプレーティングで成膜する技術を提供する。
【解決手段】 イオンプレーティングのソース材料として用いるのに適したZnO焼結体は、平均酸化度の異なる第1のZnO領域と第2のZnO領域とを含み、前記第1のZnO領域と前記第2のZnO領域とは平均粒径が異なる。前記第1のZnO領域は前記第2のZnO領域より酸化度の高い領域であり、前記第2のZnO領域は前記第1のZnO領域と異なる色の、青みを帯びた領域であることが好ましい。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ZnO焼結体とその製造方法に関し、特にイオンプレーティングのソース材料として用いるのに適したZnO焼結体とその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
太陽電池、発光ダイオードなどの光半導体装置、液晶表示装置(LCD)、有機電界発光(EL)表示装置等に透明電極が用いられている。透明電極としては、主にインジウム−錫酸化物(ITO)が用いられてきた。近年酸化亜鉛(ZnO)も用いられるようになっている。これら酸化物透明電極膜では、酸素欠陥はキャリアを生成するといわれている。このため膜の酸化度が高すぎると抵抗が高くなりすぎ、酸化度が低すぎると、透明性が劣化する傾向を有する。
【0003】
ITO膜は、化学気相堆積(CVD),スパッタリング、イオンプレーティングなどで成膜される。ZnO膜はスパッタリング、イオンプレーティングなどで成膜される。アーク放電を用いたイオンプレーティングは、スパッタリングのような高速の粒子が存在しないため基板に与えるダメージが少なく、プラズマ密度が高いため反応性に富み、熱蒸発を利用するため成膜速度が速い特徴を有する。
【0004】
【特許文献1】特開2000−273617号公報
【特許文献2】特開2002−241926号公報
【特許文献3】特開2004−76025号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
透明電極として優れた性質を有するZnO膜をイオンプレーティングで成膜する技術は、未だ十分確立していない。
【0006】
本発明の目的は、透明電極として優れた性質を有するZnO膜をイオンプレーティングで成膜する技術を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の1観点によれば、平均酸化度の異なる第1のZnO領域と第2のZnO領域とを含み、前記第1のZnO領域と前記第2のZnO領域とは平均粒径が異なる、ZnO焼結体が提供される。
【0008】
本発明の他の観点によれば、(a)粉状の第1のZnO原料を準備する工程と、(b)前記第1のZnO原料の一部を第1の酸素含有率を有する第1の雰囲気中で焼成して平均粒径を増加させた第2のZnO原料を形成する工程と、(c)前記第1のZnO原料と前記第2のZnO原料を混合し、型を用いて押し固める工程と、(d)前記押し固めたZnO原料を、前記第1の酸素含有率と異なる第2の酸素含有率の第2の雰囲気中で焼結する工程と、を含むZnO焼結体の製造方法が提供される。
【発明の効果】
【0009】
透明電極として優れた性質を有するZnO膜をイオンプレーティングで作成することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
まず、イオンプレーティング装置について説明する。
【0011】
図1は、ZnO膜を成膜するイオンプレーティング装置の全体構造を概略的に示す断面図である。イオンプレーティング装置は、成膜室である真空容器10と、真空容器10中にプラズマビームPBを供給するプラズマ源であるプラズマガン30と、真空容器10内の底部に配置されてプラズマビームPBが入射する陽極50と、成膜対象である基板Wを保持する基板保持部材WHを陽極50の上方で適宜移動させる搬送機構60とを備える。
【0012】
プラズマガン30は、特開平9−194232号公報等に開示の圧力勾配型のプラズマガンであり、その本体部分は、真空容器10の側壁に設けられた筒状部12に装着されている。この本体部分は、陰極31によって一端が閉塞されたガラス管32からなる。ガラス管32内には、モリブデンMoで形成された円筒33が陰極31に固定されて同心に配置されており、この円筒33内には、LaBで形成された円盤34とタンタルTaで形成されたパイプ35とが内蔵されてホローカソードを構成している。ガラス管32の両端部のうち陰極31とは反対側の端部と、真空容器10に設けた筒状部12の端部との間には、第1及び第2中間電極41、42が同心で直列に配置されている。一方の第1中間電極41内には、プラズマビームPBを収束するための環状永久磁石44が内蔵されている。第2中間電極42内にも、プラズマビームPBを収束するための電磁石コイル45が内蔵されている。なお、筒状部12の周囲には、陰極31側で発生して第1及び第2中間電極41、42まで引き出されたプラズマビームPBを真空容器10内に導くステアリングコイル47が設けられている。
【0013】
プラズマガン30の動作は、ガン駆動装置38によって制御される。これにより、陰極31への給電をオン・オフしたりガンへの供給電圧等を調整することができ、さらに第1及び第2中間電極41、42、電磁石コイル45、及びステアリングコイル47への給電を調整することができる。つまり、真空容器10中に供給されるプラズマビームPBの強度や分布状態を制御することができる。
【0014】
なお、プラズマガン30の最も内心側に配置されるパイプ35は、プラズマビームPBのもととなる、Ar等の不活性ガスからなるキャリアガスをプラズマガン30ひいては真空容器10中に導入するためものであり、流量計93及び流量調節弁94を介して不活性ガス源90に接続されている。
【0015】
真空容器10中の下部に配置された陽極50は、プラズマビームPBを下方に導く主陽極であるハース51と、その周囲に配置された環状の補助陽極52とからなる。
【0016】
前者のハース51は、導電材料で形成されるとともに、接地された真空容器10に絶縁物を介して支持されている。このハース51は、陽極電源装置80によって適当な正電位に制御されており、プラズマガン30から出射したプラズマビームPBを下方に吸引する。なお、ハース51は、プラズマガン30からのプラズマビームPBが入射する中央部に、蒸発源(ソース材料)である棒状のZnOロッド53が装填される貫通孔51aを有している。このZnOロッド53は、膜材料として、ZnOの粉末を必要に応じて添加物を添加して、押し固め、焼結したものである。プラズマビームPBからの電流によってZnOが加熱されて昇華し、基板W上に亜鉛酸化物を透明導電膜として形成する。真空容器10下部に設けた材料供給装置58は、ZnOロッド53を次々にハース51の貫通孔51aに装填するとともに、装填したZnOロッド53を徐々に上昇させる構造を有しており、ZnOロッド53の上端が蒸発して消耗しても、この上端をハース51の凹部から常に一定量だけ突出させることができる。
【0017】
後者の補助陽極52は、ハース51の周囲にこれと同心に配置された環状の容器により構成されている。この環状容器内には、フェライト等で形成された環状の永久磁石55と、これと同心に積層されたコイル56とが収納されている。これら永久磁石55及びコイル56は、磁場制御部材であり、ハース51の直上方にカスプ状磁場を形成する。これにより、ハース51に入射するプラズマビームPBの向き等を修正することができる。
【0018】
補助陽極52内のコイル56は電磁石を構成し、陽極電源装置80から給電されて、永久磁石55により発生する中心側の磁界と同じ向きになるような付加的磁界を形成する。つまり、コイル56に供給する電流を変化させることで、ハース51に入射するプラズマビームPBの向きの微調整が可能になる。
【0019】
補助陽極52の容器も、ハース51と同様に導電性材料で形成される。この補助陽極52は、ハース51に対して図示を省略する絶縁物を介して取り付けられている。陽極電源装置80から補助陽極52に印加する電圧変化させることによってハース51の上方の電界を補的に制御できる。すなわち、補助陽極52の電位をハース51と同じにすると、プラズマビームPBもこれに引き寄せられてハース51へのプラズマビームPBの供給が減少する。一方、補助陽極52の電位を真空容器10と同じ程度に下げると、プラズマビームPBがハース51に引き寄せられてZnOロッド53が加熱される。
【0020】
搬送機構60は、基板保持手段として機能し、搬送路61内に水平方向に等間隔で配列されて基板保持部材WHの縁部を支持する複数のコロ62と、これらのコロ62を適当な速度で回転させて基板保持部材WHを一定速度で水平方向に移動させる駆動装置とを備える。
【0021】
酸素ガス供給装置71は、真空容器10に酸素ガスを雰囲気ガスとして供給できる。酸素ガスを収容する酸素ガス源71aからの供給ラインは、流量調節弁71b及び流量計71cを介して真空容器10に接続されている。
【0022】
窒素ガス供給装置72は、真空容器10に窒素ガスを雰囲気ガスとして供給できる。窒素ガスを収容する窒素ガス源72aからの供給ラインは、流量調節弁72b及び流量計72cを介して真空容器10に接続されている。
【0023】
不活性ガス供給装置73は、Ar等の不活性ガスからなる雰囲気ガスを真空容器10に供給できる。不活性ガス源90から分岐された雰囲気ガスは、ガス供給装置73の流量調節弁73b及び流量計73cを介して真空容器10に直接導入される。
【0024】
なお、排気装置76は、排気ポンプ76bにより、排気弁76aを介して真空容器10内のガスを適宜排気する。また、真空圧測定器77は、真空容器10内の酸素ガス、Arガス等の分圧を計測することができる。
【0025】
以下、イオンプレーティング装置の動作について説明する。この成膜装置による成膜時には、プラズマガン30の陰極31と真空容器10内のハース51との間でまずグロー放電を生じさせ、アーク放電に移行して、プラズマビームPBを生成する。このプラズマビームPBは、ステアリングコイル47と補助陽極52内の永久磁石55等とにより決定される磁界に案内されてハース51に到達する。ハース51のZnOロッド53は、当初プラズマビームPBの電流が小さい時は磁力線に沿ってZnOロッドの中央部のみがプラズマビームPBからの電流により加熱されて赤熱する。プラズマビームPBの電流が増えるに従い、次第に加熱部が拡がり、ZnOロッド53の上面全面が白熱し、昇華してここから膜材料の蒸気が出射する。この蒸気は、プラズマビームPBによりイオン化され、ハース51の電位に相当するエネルギーを持って基板Wの表面に付着してZnO膜を形成する。
【0026】
上記方法によれば、ビーム修正用の磁場制御部材である永久磁石55やコイル56によってハース51上方の磁場を調整することができるので、ZnOロッド53から蒸発した蒸発粒子の飛行方向を制御することができ、広い面積にわたって均一な膜質の薄膜を得ることができる。
【0027】
本発明者等は、透明電極として優れた特性を示すZnO膜を形成するため、まずどのような焼結ZnOロッドを用いるのが好ましいかを調べた。先ずイオンプレーティング原料としてスパッタリングのターゲットと同様に、なるべくバルク結晶の密度に近くなるように高密度に押し固めた材料を焼結する。ZnOロッドは、焼結により非常に硬くなる。
【0028】
図2(A)に示すように、プラズマを点火し、アーク放電を開始した直後は、ZnOロッドRの抵抗が高く、ロッドR上面の中心部分のみにアークプラズマが入射し、ロッドR上面の中心部のみが加熱され白熱する。図2(B)、図2(C)に示すように、次第に白熱部は広がり、やがてロッド上面の全面が白熱する。しかし、加熱による熱膨張のせいか、ロッドに欠けや、割れ目CRが生じる。すると粒状の原料が飛び散り、基板上に付着したりし、成膜対象を欠陥品にしてしまう。割れた部分は熱的にも分離するので、その後の成膜も不規則になる。
【0029】
ロッドの欠けや割れを防止するため、焼結体の相対密度を下げることを試みた。原料中に加熱によって蒸発する有機物などの材料を混入した。得られた焼結体はバルク結晶密度に対する焼結体の相対密度である相対密度が下がった。しかし、有機物を混入すると、炭素などが残留し、膜組成の純度を下げてしまうことが判った。
【0030】
蒸発材料を混入する代わりに、体積収縮率が大きな材料を混入することを考えた。粉状原料を高温で焼くと、粒状に成長し、その後焼成温度以下の温度に加熱しても体積収縮は生じないであろう。この焼成原料と未焼成の原料とを混合し、型に入れて適当に押し固め、焼結することを考えた。未焼成の原料は、体積収縮し気孔を生じることが期待される。
【0031】
また、酸化物を真空中で蒸発させて成膜を行なうと、真空中での酸素の離脱により酸化度が低下する傾向がある。不足する酸素を補充するため酸素を含む雰囲気中でイオンプレーティングを行なうリアクティブ(反応性)イオンプレーティングが知られている。但し、透明導電膜としてのZnO膜は、適度の酸素欠陥を有することが望まれる。酸化度が高く酸素欠陥が極めて少ないと、膜の抵抗が高くなりすぎる。
【0032】
予備実験として、酸化度の異なるZnOロッドを作成し、真空容器内に流す酸素流量を変化させ、イオンプレーティングによってZnO膜を作成した。
【0033】
図3Aは、成膜に用いたイオンプレーティング装置の構成を概略的に示す。真空容器10にプラズマガン30が備えられ、ルツボ51中に収納した蒸発源であるZnOロッド(タブレット)53に向かって、アークプラズマを発生する。ZnOロッド53に対向する位置に基板ホルダWHに保持された基板SUBが配置されている。基板SUBの前面には、可動シャッタSHが配置されている。閉(CL)状態のシャッタSH(CL)と開(OP)状態のシャッタSH(OP)を示す。成膜中、真空容器10中には制御した流量の酸素を流す。
【0034】
図3Bは、成膜工程のフローチャートを示す。ステップS1で、目的とする真空度を達成し、基板温度を目的温度まで上昇させる。その後、ステップS2で、プラズマガンを着火する。ステップS3でプラズマガンの電流値を成膜用電流値に上昇させ、真空容器内のガス圧を調整する。ステップS4で、タブレットの温度を安定化させる。
【0035】
ステップS5で、シャッタを開き、成膜を開始する。成膜時間経過後、シャッタを閉じ、成膜を完了させる。ステップS6でプラズマガンを停止し、ステップS7で基板を冷却し、ステップS8で基板を外部に取り出す。
【0036】
ターゲットとしては、十分酸素のある雰囲気(大気)中で焼結した酸化度大のタブレットと、酸素を制限した雰囲気中で焼結した酸化度中のタブレットを用いた。成膜中の酸素流量は、0,5,10,15,20(sccm)に変化させた。
【0037】
図3Cは、得られたZnO膜のシート抵抗の測定結果を示す。横軸が酸素流量を示し、縦軸がシート抵抗を示す。酸素流量10sccm以下では、タブレットによらずシート抵抗は10−15の範囲にある。酸素流量を10sccmより大に増加するとシート抵抗は大きく増大し、酸化度大のタブレットに於いてシート抵抗はより大きい。
【0038】
酸素流量が多い条件で成膜をする場合、真空容器中でプラズマ密度を一定にすることは容易でなく、基板表面上で一様に活性化された酸素を供給することは容易ではない。さらに、加熱したZnOロッド表面が酸素と反応し、組成が変化してしまう。膜組成が時間的に変わる事になり、制御は容易でない。
【0039】
ZnOロッド自体に含まれる酸素は、ZnOロッド直上のプラズマビームPBによって活性化され、成膜したZnO膜中に均一に分布する。但し、ロッド全体を均一に高酸化度の組成にするとZnOロッドの電気伝導度が低くなり装置操業上望ましくない。そこで、上述の焼成原料の酸化度と未焼成原料を焼結した部分の酸化度を異ならせることを考えた。
【0040】
図4Aに示すように、原料としてのZnO粉末MP、および必要に応じて添加するGa2O3などの添加物の粉末DPを秤量する。Ga2O3を添加するときは、たとえば、ZnOに対して約1wt%〜3wt%のGa2O3を添加する。添加物としてはIII族元素を用いることができる。酸化物と混合するのでIII族酸化物の形で添加すればよい。
【0041】
図4Bに示すように、秤量した原料を混合し、水を加え、金属ボールBを用いたボールミルBMで3日3晩粉砕混合する。スラリー状の混合原料が生じる。
【0042】
図4Cに示すように、スラリーSを乾燥して粉状原料を得る。これを以下バージン原料と呼ぶ。バージン原料の粉径は、0.2μm〜0.6μmであった。
【0043】
図4Dに示すように、バージン原料の一部を800℃〜1600℃の高温、例えば1500℃で焼成する。雰囲気は大気雰囲気とし、十分酸素を供給できる環境とした。粉状のままの焼成であるが、平均粒径は成長して大きくなる。粉状から粒状に成長し、平均粒径は2μm〜100μm程度となった。なお、成膜時の焼結ロッドは、1200℃程度に加熱されるものとする。
【0044】
図4Eに示すように、得られた粒状焼成原料とバージン原料を混合し、型に入れて適度に押し固め、円柱ロッド状の混合原料Rを得た。このロッド状原料を、酸素含有量を制限した窒素雰囲気中で成膜時の温度以上の1200℃〜1400℃、例えば1300℃で焼結する。
【0045】
図4Fは、得られたイオンプレーティング用のZnO円柱ロッド(タブレット)の外観を示す写真である。図4Gは、焼結ロッドの表面を拡大した顕微鏡写真である。粒状領域は黄色っぽい粒状であり、酸素十分な条件で焼成した焼成原料に由来する十分酸化された領域と考えられる。高温で予め焼成した原料は、焼結後もほぼそのまま残るようである。地となる領域は、青白い領域であり、バージン原料を酸素が不足する雰囲気で焼結することに由来する酸素が不足する領域と考えられる。バージン原料は、焼結工程で焼結され、見掛け上、組織が大きくなっているように見える。
【0046】
この焼結体はテスターで数Ω程度(抵抗率で数十Ωcm)となる導電性を示した。ZnOロッドは直流アーク放電の電極でもあるため、このように、少なくとも1×10E6Ωcm以下の抵抗率をもつZnOロッドであれば、操業上差し支えないが、1×10E3Ωcm以下の抵抗率を持つZnOロッドであることが望ましい。
【0047】
焼結の結果得られた焼結ロッドは相対密度が減少した焼結体であった。バージン原料が焼結により体積収縮するため気孔が生じたものと考えられる。バージン原料と焼成原料の混合比を変化させ、焼結温度を変えてバルク結晶の密度に対する相対密度を測定した。
【0048】
図5は、測定結果を示すグラフである。バージン原料を0%から50%まで変化させると相対密度は次第に低下した。特にバージン原料を30%より多く混合すると、相対密度の減少が大きいと思われる。焼成温度、焼成原料とバージン原料との混合比などにより、相対密度を制御することが可能であると考えられる。
【0049】
なお、焼成工程を高温で酸素を制限した雰囲気で行い、その後バージン原料と混合し、型押しし、焼成温度より低温で酸素含有量を高めた雰囲気で焼結しても、相対密度を所望の値まで下げることが可能であろう。予め焼成した原料と、未焼成の原料とを混合し、型押しして焼結することで相対密度を下げられると考えられる。焼成工程と焼結工程との少なくとも一方は酸素供給量を制限して行うことが好ましいであろう。焼成時と焼結時との酸素供給量を制御することにより、焼結後のロッド中に酸化度の異なる領域を均一に分布させることができると考えられる。
【0050】
これらの、焼結ロッドを用いてイオンプレーティングを行なったところ、相対密度60%〜80%、特に60%〜70%では、欠けや割れが生じがたく、良好なイオンプレーティングが可能であった。
相対密度60%未満では、機械的強度が不足しハンドリング時に不都合が生ずる。
相対密度80%より上では、熱衝撃に伴う熱応力により割れが発生する。
【0051】
ZnO膜は、成膜時に酸素を供給しないと透明度が低下したが、酸素ガスを供給すると、透明度は十分向上するが、電気抵抗が高くなった。
【0052】
成膜中酸素を流し、得られた大面積ZnO膜の中央部で電気抵抗率を測定し、大面積ZnO膜の中央部の光透過率を測定した。
【0053】
図6Aは、測定した電気抵抗率を酸素流量の関数として示すグラフである。酸素流量は0,5,10,15,20(sccm)に変化させた。図3Cと同様の傾向が見られる。抵抗率は酸素流量が10sccm以下の領域で特に低く、4×10−4Ωcm以下であった。
【0054】
図6Bは、透過率のスペクトルを示す。透過率の立ち上がり波長は、酸素流量の増加と共に長波長側に移動するようである。短波長の光をより多く透過させるには酸素流量を低く設定するのが好ましいであろう。酸素流量0sccmのカーブは短波長領域で透過率が82%程度と低い。酸素流量5sccm以上では、透過率が向上している。
【0055】
焼結時の酸素含有量を、極微量に制限して作製したZnOタブレットを用いた時に透明度と電気伝導度の両者を良好となる薄膜が得られることが示唆された。そこで、酸素供給期間を制限することを試みた。
【0056】
図7は、焼結工程中の雰囲気を示すグラフである。焼結工程は気密容器中で行った。押し固めた原料ロッドを搬入し、容器内の空気を排気し、酸素を任意の流量により一定量供給する。酸素供給後、酸素流入を停止し、窒素を一定のフローレートで供給し、ほぼ1気圧の雰囲気とした。例えば1300℃で1時間の焼成を行う場合、加熱前に排気ポンプにて大気を排気し、窒素を0.0005Mpa程度まで注入する。その後、酸素流量1リットル/分を一定時間のみ炉内に供給した後、窒素流量1L/minだけを供給しながら、排気バルブを調整して炉内を0.8〜1.0kPaの圧力となるように調整して加熱を開始する。酸素供給時間は焼結期間の1/10以下であリ、加熱前に一定期間のみ酸素を供給し、その後窒素は供給し続けながら排気することにより、高温焼結時の酸素含有率を十分小さくする。1300℃に達してから、1時間程保温し、その後、冷却する。その時の炉内に残留する酸素分圧を以下に示す。
【0057】
図8は、初期導入酸素量を変えて、焼結工程を行ったときの酸素濃度を、炉内圧力、炉内温度と共に示す。cは酸素濃度、pは炉内圧力、tは炉内温度を示す。添字1は酸素量が2.0リットルの場合、2は1.0リットルの場合、3は0.5リットルの場合、4は0.1リットルの場合を示す。1300℃に達した状態での酸素濃度は1000ppm以下である。焼結中の酸素含有率は0%より高く、1%未満であることが好ましいであろう。
なお、高精度のマスフローコントローラを用いる場合は、全焼成期間にわたって、窒素流量の1/30以下の酸素を供給しても同様の結果が得られよう。
【0058】
このような条件で作成した焼結ロッドを用いると、可視光の透過度90%(550nm)以上、電気抵抗3.0×10-4Ω・cm以下のZnO膜を得られる。
【0059】
このように、イオンプレーティング用焼結ロッドを特性の異なる複数の材質を均等に分布した焼結体で形成することにより、単一の特性の材料で形成した焼結ロッドでは得にくい膜を成膜することが可能になる。焼成した原料と未焼成の原料を混合して焼結することにより、相対密度を調整することができる。特に焼成原料は十分な酸化性雰囲気、焼結時の温度より高温で形成することにより、焼結時の物性の変化を抑制できると考えられる。焼結時の雰囲気は酸素が欠乏する条件とすることにより、良好な電気伝導度を付与することができると考えられる。成膜中の焼結ロッドの特性変化を抑制するためには、焼成も焼結も成膜中の焼結ロッドの加熱温度より高温とすることが好ましいであろう。
【0060】
ZnO膜を透明電極として用い、液晶表示装置やEL装置を形成することもできる。
【0061】
図9Aは、液晶表示装置の構成例を示す。アクティブマトリクス基板201は、表示領域DAと周辺回路領域PHを有し、表示領域DAには走査用ゲート配線GL、補助容量バスラインSCL、データ配線DL及び各交点にZnO膜で形成された画素電極PIXと薄膜トランジスタTFTを含む画素構造が形成されている。周辺回路領域PHには、ゲート制御回路GD、データ制御回路DDが形成されている。対向基板202には、画素領域に対応するカラーフィルタ203及び全画素共通のZnO膜で形成されたコモン電極204が形成されている。カラーフィルタ基板202とアクティブマトリクス基板201との間には、液晶層205が挟持される。
【0062】
図9Bは、有機ELパネルの構成例を示す。アクティブマトリクス基板201は、上述の実施例同様、ガラス基板上に走査用ゲート配線、データ配線、薄膜TFT等が形成されている。各画素領域において、TFTのソースが例えばZnOで形成されるアノード211に接続される。アノード211の上に、正孔輸送層212、発光層213、電子輸送層214、アルミニウム等で形成されたカソード215が積層され、有機EL素子構造を形成している。有機EL素子から発光した光は、下方に向かい、アクティブマトリクス基板201のガラス基板から外部に出射する。有機EL素子の上方は、シール材220によって覆われる。
【0063】
以上実施例に沿って本発明を説明したが、本発明はこれらに制限されるものではない。例えば例示された表示装置の材料,厚さなどは、例示であり,設計に応じ種々変更することができる。ガラス基板に代え、石英基板等の透明絶縁基板を用いてもよい。その他,種々の変更、改良、組合わせが可能なことは当業者に自明であろう。
【図面の簡単な説明】
【0064】
【図1】イオンプレーティング装置の構成を示す断面図である。
【図2】相対密度が高い焼結ロッドを用いた時の現象を示す概略壇面図である。
【図3】予備実験のサンプル形成工程と測定結果を示す断面図、フローチャート、グラフである。
【図4】焼結ロッドの製造工程を示す斜視図、断面図、写真である。
【図5】焼成原料とバージン原料とを混合して焼成したロッドの相対密度を示すグラフである。
【図6】成膜中、酸素流量を付与したZnO膜の電気抵抗と透過率のグラフである。
【図7】焼成工程初期にのみ限定した酸素量を与える焼成工程を示すタイミングチャートである。
【図8】焼成工程初期にのみ限定した酸素量を与えた時の、酸素濃度を炉内圧力、炉内温度と共に示すグラフである。
【図9】液晶表示装置とEL装置の構成を示す斜視図と壇面図である。
【符号の説明】
【0065】
MP 主粉末原料
DP 添加粉末原料
BM ボールミル
B ボール
S (酸化度の高い)領域
F (酸化度の低い)領域
R ロッド

【特許請求の範囲】
【請求項1】
平均酸化度の異なる第1のZnO領域と第2のZnO領域とを含み、前記第1のZnO領域と前記第2のZnO領域とは平均粒径が異なる、ZnO焼結体。
【請求項2】
前記第1のZnO領域は、前記第2のZnO領域中にまだら模様的に埋め込まれ、前記第2の領域より平均粒径が大きい、請求項1記載のZnO焼結体。
【請求項3】
前記第1のZnO領域は前記第2のZnO領域より酸化度の高い領域であり、前記第2のZnO領域は前記第1のZnO領域と異なる色の、青みを帯びた領域である請求項1または2記載のZnO焼結体。
【請求項4】
前記第1と第2のZnO領域は、元素周期表による第3族元素がドープされている請求項1〜3のいずれか1項記載のZnO焼結体。
【請求項5】
前記第1と第2のZnO領域は、Ga元素がドープされている請求項4記載のZnO焼結体。
【請求項6】
前記第1および第2のZnO領域を含む焼結体は、80%以下の相対密度と、10kΩcm以下の抵抗率を有する請求項1〜5のいずれか1項記載のZnO焼結体。
【請求項7】
前記ZnO焼結体は、円柱状の形状を有し、透明電極材料としてイオンプレーティングに用いるものである請求項1〜6のいずれか1項記載のZnO焼結体。
【請求項8】
(a)粉状の第1のZnO原料を準備する工程と、
(b)前記第1のZnO原料の一部を第1の酸素含有率を有する第1の雰囲気中で焼成して平均粒径を増加させた第2のZnO原料を形成する工程と、
(c)前記第1のZnO原料と前記第2のZnO原料を混合し、型を用いて押し固める工程と、
(d)前記押し固めたZnO原料を、前記第1の酸素含有率と異なる第2の酸素含有率の第2の雰囲気中で焼結する工程と、
を含むZnO焼結体の製造方法。
【請求項9】
工程(b)と工程(d)との少なくとも一方において、焼成炉内への酸素供給を焼結のための加熱前においてのみ行う請求項8記載のZnO焼結体の製造方法。
【請求項10】
工程(b)の焼成温度は、工程(d)の焼結温度より高い請求項8または9記載のZnO焼結体の製造方法。
【請求項11】
前記第2の酸素含有率は、前記第1の酸素含有率より低い請求項8〜10のいずれか1項記載のZnO焼結体の製造方法。
【請求項12】
前記第2の酸素含有率は、平均値として0%より高く、1%未満である請求項11記載のZnO焼結体の製造方法。
【請求項13】
前記第2の酸素含有率は、焼結期間の一部のみで供給された酸素により構成される請求項11または12記載のZnO焼結体の製造方法。
【請求項14】
前記焼結期間の一部は、焼結期間の1/10以下である請求項13記載のZnO焼結体の製造方法。
【請求項15】
前記第1の雰囲気は大気である請求項11〜14のいずれか1項記載のZnO焼結体の製造方法。
【請求項16】
請求項8〜15のいずれか1項記載のZnO焼結体の製造方法で形成した、請求項1〜7のいずれか1項記載のZnO焼結体を用いて、基板上にZnO膜を透明電極として成膜する透明電極の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2006−117462(P2006−117462A)
【公開日】平成18年5月11日(2006.5.11)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−305946(P2004−305946)
【出願日】平成16年10月20日(2004.10.20)
【出願人】(000002107)住友重機械工業株式会社 (2,241)
【Fターム(参考)】