説明

sEHインヒビターとしてのアシルヒドラゾンの使用方法

循環器疾患の治療のための可溶性エポキシドヒドロラーゼ(sEH)インヒビターとして有用なヒドラジン化合物を開示する。

【発明の詳細な説明】
【発明の詳細な説明】
【0001】
〔出願データ〕
この出願は、2005年5月6日提出の米国仮出願第60/678,871号に対する利益を主張する。
〔発明の分野〕
この発明は、循環器疾患に関連する疾患のための可溶性エポキシドヒドロラーゼ(sEH)インヒビターの使用方法に関する。
【0002】
〔発明の背景〕
エポキシドヒドロラーゼは、植物から哺乳動物に及ぶ範囲の種で検出される、天然に遍在する1群の酵素である。これら酵素は、すべてエポキシドへの水の添加の触媒作用をして結果としてジオールをもたらすという点で機能的に関連する。エポキシドヒドロラーゼは、生体系で重要な代謝酵素である。エポキシドは反応性種であり、形成されるとすぐ求核付加を受けうる。エポキシドは、生体異物の代謝経路で中間体として頻繁に見られる。このように、生体異物の代謝の過程で、生物学的求核試薬への付加を受けうる反応性種が形成される。従って、エポキシドヒドロラーゼは、その対応する非反応性ジオールに変換することによってエポキシドを解毒するための重要な酵素である。
哺乳動物では、数タイプのエポキシドヒドロラーゼが特徴づけられており、細胞質型エポキシドヒドロラーゼとも呼ばれる可溶性エポキシドヒドロラーゼ(sEH)、コレステロールエポキシドヒドロラーゼ、LTA4ヒドロラーゼ、ヘポキシリン(hepoxilin)ヒドロラーゼ、及びミクロソームエポキシドヒドロラーゼが挙げられる(Fretland and Omiecinski, Chemico-Biological Interactions, 129: 41-59 (2000))。エポキシドヒドロラーゼは心臓、腎臓及び肝臓といった脊椎動物で検査したすべての組織内で見出された(Vogel, et al., Eur J. Biochemistry, 126: 425-431 (1982); Schladt et al., Biochem. Pharmacol., 35: 3309-3316 (1986))。エポキシドヒドロラーゼは、リンパ球(例えばT-リンパ球)、単球、赤血球、血小板及び血漿といったヒトの血液成分でも検出された。血液中では、検出された多くのsEHがリンパ球中に存在した(Seidegard et al., Cancer Research, 44: 3654-3660 (1984))。
エポキシドヒドロラーゼは、エポキシド基質に対するその特異性に差がある。例えば、sEHは、エポキシド脂肪酸などの脂肪族エポキシドに選択的であるが、ミクロソームエポキシドヒドロラーゼ(mEH)は環式及びアレンオキシドにより選択的である。sEHの主要な既知の生理学的基質は、エポキシエイコサトリエン酸又はEETとして知られるアラキドン酸の4つの位置異性体シス型エポキシドである。5,6-、8,9-、11,12-、及び14,15-エポキシエイコサトリエン酸がある。ロイコトキシン又はイソロイコトキシンとして知られるリノール酸のエポキシドも基質であることが分かっている。EETもロイコトキシンも共にチトクロームP450モノオキシゲナーゼファミリーのメンバーによって生成される(Capdevila, et al., J. Lipid Res., 41: 163-181 (2000))。
【0003】
種々のEETがオートクリンとパラクリンの両役割で作用しうる化学メディエーターとして機能すると考えられる。EETは、血管平滑筋細胞の膜を過分極させて血管を拡張するその能力のため種々の血管床で内皮由来過分極因子(endothelial derived hyperpolarizing factor)(EDHF)として機能できると考えられる(Weintraub, et al., Circ. Res., 81: 258-267 (1997))。EDHFは、血管平滑筋に近位の内皮細胞中の種々のチトクロームP450酵素によって、アラキドン酸から合成される(Quilley, et al., Brit. Pharm., 54: 1059 (1997)); Quilley and McGiff, TIPS, 21: 121-124 (2000)); Fleming and Busse, Nephrol. Dial. Transplant, 13: 2721-2723 (1998))。血管平滑筋細胞内では、EETが、BKca2+チャンネル(大きいCa2+活性化カリウムチャンネル)の活性化とL-型Ca2+チャンネルの阻害につながるシグナリング経路を引き起こす。この結果、膜電位の過分極、Ca2+流入の阻害及び緩和となる(Li et al., Circ. Res., 85: 349-356 (1999))。異なる形態の実験上の高血圧のみならずヒトの高血圧において内皮依存性血管拡張が損なわれることが分かっている(Lind, et al., Blood Pressure, 9: 4-15 (2000))。内皮依存性血管弛緩の減損も内皮機能障害として知られる症候群の特徴である(Goligorsky, et. al., Hypertension, 37[part 2]:744-748 (2001))。内皮機能障害は、1型及び2型糖尿病、インスリン抵抗性症候群、高血圧、アテローム性動脈硬化症、冠動脈疾患、狭心症、虚血、虚血性脳卒中、レイノー病及び腎臓病といった多数の病的状態で重要な役割を果たす。従って、EET濃度の増強は、原因となる役割を内皮機能障害が果たす患者で有益な治療効果を有するだろうと考えられる。高血圧に影響を与えうる、EETの他の効果は腎臓機能に及ぼす効果に関係する。種々のEETとその加水分解産物、DHETのレベルは、自然発症高血圧ラット(spontaneously hypertensive rats)(SHR)の腎臓(Yu, et al., Circ. Res. 87: 992-998 (2000))及び妊娠誘発型高血圧症を患う女性(Catella, et al., Proc. Natl. Acad. Sci. U.S.A., 87: 5893-5897 (1990))で有意に上昇する。自然発症高血圧ラットモデルでは、チトクロームP450とsEHの両活性が増すことが分かった(Yu et al., Molecular Pharmacology, 2000, 57, 1011-1020)。既知のsEHインヒビターの添加が血圧を正常レベルに下げることが分かった。最後に、雄の可溶性エポキシドヒドロラーゼヌルマウスは、その野生型同等マウスより低い血圧の特徴がある表現型を示した(Sinai, et al., J.Biol.Chem., 275: 40504-40510 (2000))。
EET、特に11,12-EETが抗炎症特性を示すことも分かっている(Node, et al., Science, 285: 1276-1279 (1999); Campbell, TIPS, 21: 125-127 (2000); Zeldin and Liao, TIPS, 21: 127-128 (2000))。Nodeらは、11,12-EETがサイトカイン誘発型内皮細胞接着分子、特にVCAM-1の発現を減らすことを実証した。彼らはさらにEETが血管壁への白血球の接着を阻止すること及び寄与しうるメカニズムがNF-κBとIκBキナーゼの阻害に関係することを示した。血管の炎症は内皮機能障害で役割を果たす(Kessler, et al., Circulation, 99: 1878-1884 (1999))。従って、EETの、NF-κB経路を阻害する能力は、内皮機能障害状態を改善する助けにもなるだろう。
【0004】
sEHのいくつかの基質(上記EET)の生理学的作用に加え、sEHによって生成されるいくつかのジオール、すなわちDHETは強力な生物学的作用を有しうる。例えばリノール酸から生成されるエポキシド(ロイコトキシン及びイソロイコトキシン)のsEH代謝は、ロイコトキシン及びイソロイコトキシンジオールを生成する(Greene, et al., Arch. Biochem. Biophys. 376(2): 420-432 (2000))。これらジオールは、培養ラットの肺胞内皮細胞に毒性であり、細胞内カルシウムレベルを上昇させ、細胞間結合の浸透性を高め、かつ上皮の完全性の損失を促すことが分かっている(Moghaddam et al, Nature Medicine, 3: 562-566 (1997))。従って、これらジオールは、肺のロイコトキシンレベルが上昇することが分かっている成人呼吸窮迫症候群のような疾患の病因学に寄与するだろう(Ishizaki, et al., PuIm. Pharm.& Therap., 12: 145-155 (1999))。Hammockらは、炎症性疾患、特に成人呼吸窮迫症候群及び脂質代謝物によって媒介される他の急性炎症状態の、エポキシドヒドロラーゼのインヒビターの投与による治療を開示した(WO 98/06261;米国特許第5,955,496号)。
いくつかの分類のsEHインヒビターが同定されている。これらには、カルコンオキシド誘導体(Miyamoto, et al. Arch. Biochem. Biophys., 254: 203-213 (1987))及び種々のトランス-3-フェニルグリシドール(Dietze, et al., Biochem. Pharm. 42: 1163-1175 (1991); Dietze, et al., Comp.Biochem. Physiol. B, 104: 309-314 (1993))がある。
さらに最近、Hammockらは、炎症性疾患の治療のため、エポキシドヒドロラーゼのアフィニティー分離及び農業用途で使うための特定の生物学的に安定なインヒビターを開示した(米国特許第6,150,415号)。Hammockの'415特許は、一般的に、開示したファルマコフォアを用いて触媒部位、例えばアルキル化剤又はマイケルアクセプターに反応官能性を送達できること、及びこれら反応官能性を用いて、酵素検出のため酵素活性部位に蛍光標識又はアフィニティー標識を送達できることも記載している(カラム4の66行目〜カラム5の5行目)。文献には、sEHの特定の尿素及びカルバメートインヒビターも開示されている(Morisseau et al., Proc. Natl. Acad. ScI, 96: 8849-8854 (1999); Argiriadi et al., J Biol. Chem., 275 (20) 15265-15270 (2000); Nakagawa et al. Bioorg. Med. Chem., 8: 2663-2673 (2000))。
WO 99/62885(Al)は、T-リンパ球におけるそのIL-2産生を阻害する能力から生じる抗-炎症活性を有するl-(4-アミノフェニル)ピラゾールを開示しているが、該明細書中でsEHの有効なインヒビターである化合物を開示も示唆もしていない。WO 00/23060は、T-リンパ球によって媒介される免疫学的障害をsEHのインヒビターの投与によって治療する方法を開示している。いくつかの1-(4-アミノフェニル)ピラゾールがsEHのインヒビターの例として与えられている。
Hammockの米国特許第6,150,415号は、下記構造を有する化合物を用いてエポキシドヒドロラーゼを処理する方法に関する。
【0005】
【化1】

【0006】
式中、X及びYはそれぞれ独立に窒素、酸素、又はイオウであり、かつXはさらに炭素でもよく、R1〜R4の少なくとも1個は水素であり、Xが窒素の場合、R2は水素であるが、Xがイオウ又は酸素の場合、R2は存在せず、Yが窒素の場合、R4は水素であるが、Yがイオウ又は酸素の場合、R4は存在せず、R1及びR3はそれぞれ独立にH、C1-20置換若しくは無置換アルキル、シクロアルキル、アリール、アシル、又はヘテロ環である。また、Hammock特許に関連してクレームされている、エポキシドヒドロラーゼのインヒビターを用いて高血圧を治療する方法をクレームしているKroetzらの米国特許第6,531,506号は、Hammock特許に記載されている当該化合物と同様の化合物を用いて高血圧を治療する方法である。これら特許はどちらも、本明細書で述べる特定のsEHインヒビターを用いた循環器疾患の治療方法を教示又は示唆していない。
従って、上記議論で概要を述べたように、sEHのインヒビターは、内皮機能障害などの循環器疾患の治療において、有益な作用を有するsEH基質の分解を阻止することによって、又は逆効果を有する代謝物の形成を阻止することによって有用である。
上記及びこの出願全体を通して引用されるすべての参考文献は、参照によってその全体が本明細書に組み込まれる。
【0007】
〔発明の概要〕
従って、本発明の目的は、循環器疾患の治療方法を提供することであり、前記方法は、治療が必要な患者に、治療的に有効量の、本明細書で以下に列挙する化合物を投与することを含む。
【0008】
〔発明の詳細な説明〕
本発明の広い一般的局面では、循環器疾患の治療方法が提供され、前記方法は、治療が必要な患者に、治療的に有効な量の下記式(I)若しくは(II)の化合物、又はその医薬的に許容しうる塩を投与することを含む。
【0009】
【化2】

【0010】
Wは結合又は>C=Oであり;
Ra及びRcは、-Ar1、-(Ar2)t-(CH2)q-X1-(CH2)n-X2-(CH2)m-Y(Yは-CH3又はAr1)であり、
Ar1及びAr2は、それぞれ独立にヘテロアリール又は炭素環式環系であり、X1及びX2は、それぞれ独立に結合、>C=O、O、NH、NR又はS(O)Pであり;
m、n及びqは0〜5であり;
tはO又は1であり;
pは0〜2であり;
-(CH2)q-、-(CH2)n-、-(CH2)m-で形成される各アルキル鎖は、飽和又は部分的若しくは完全に不飽和でよく;
Rb'は=0、=NH、=CH2であり、
Rbは水素又はC1-5アルキルであり、
或いはRbとRcが融合して3〜17個の炭素の炭素環式環系又は4〜17個の炭素のヘテロ環式環系を形成し、各環系は単環式、二環式、三環式又は四環式であり;
この実施形態における上記各環は、任意に1又は2以上のハロゲン、ニトロ、アミン、C1-5アルキル、C1-5アルコキシ又はヒドロキシルで置換されていてもよい。
好ましいAr1及びAr2として以下の基:
フェニル、チエニル、モルフォリン、キノリン、ピペリジン、二環[2.2.1]ヘプタン、アダマンチル、ピロリジン、ピロリジノン、ピリジン、ナフチレン、ベンズチオフェン、フラン、イミダゾール、ベンゾジオキソラニル、ベンゾジオキサニル、インドール、インダン、ピペラジン、チアゾール、ピリミジン、シクロプロピル、シクロブチル、シクロペンチル、シクロヘキシル、テトラゾール、下記基:
【0011】
【化3】

【0012】
が挙げられ、Ar1及びAr2はそれぞれ任意に1又は2以上のハロゲン、ニトロ、アミン、C1-5アルキル、C1-5アルコキシ又はヒドロキシルで置換されていてもよい。
【0013】
本発明の別の実施形態では、循環器疾患の治療方法であって、治療が必要な患者に治療的に有効な量の、下記化合物から選択される1又は2以上の化合物、又はその医薬的に許容しうる塩を投与することを含む方法が提供される。
【0014】
【化4】

【0015】
【化5】

【0016】
【化6】

【0017】
【化7】

【0018】
【化8】

【0019】
【化9】

【0020】
【化10】

【0021】
【化11】

【0022】
【化12】

【0023】
【化13】

【0024】
【化14】

【0025】
【化15】

【0026】
【化16】

【0027】
【化17】

【0028】
【化18】

【0029】
【化19】

【0030】
【化20】

【0031】
【化21】

【0032】
〔一般的な合成手順〕
以下の合成スキームと技術上周知の方法を用いて上記化合物を調製できる。
スキーム4、5又は6を用いて式(I)又は(II)の化合物を調製しうる。
〔スキーム1〕
【0033】
【化22】

【0034】
スキーム1に示されるように、適切な溶媒中、式XIのアシル化剤、例えば酸ハロゲン化物、酸無水物又はエステルを式XIIのヒドラジン誘導体と反応させて式(I)の化合物を与える。式XI及びXIIの出発原料は商業的に入手可能であり、或いは文献公知又は当業者に公知の方法で調製される。
【0035】
〔スキーム2〕
【0036】
【化23】

【0037】
スキーム2に示されるように、適切な溶媒中、式XIIIのヒドラジンのアルキル又はアリール誘導体をカルボニル化合物と反応させて式(I)の化合物を与える。出発ヒドラジン誘導体及びカルボニル化合物は商業的に入手可能であり、或いは文献公知又は当業者に公知の方法で調製される。
【0038】
〔スキーム3〕
【0039】
【化24】

【0040】
スキーム3に示されるように、適切な溶媒中、式XIVのアシル化剤、例えば酸ハロゲン化物、酸無水物又はエステルを式XVのヒドラジン誘導体と反応させて式(II)の化合物を与える。式XIV及びXVの出発原料は商業的に入手可能であり、或いは文献公知又は当業者に公知の方法で調製される。
上記いずれの実施形態でも、循環器疾患として、1型及び2型糖尿病、インスリン抵抗性症候群、高血圧、アテローム性動脈硬化症、冠動脈疾患、狭心症、虚血、虚血性脳卒中、レイノー病又は腎臓病が挙げられる。
上記いずれの化合物も本発明に明白に包含されるこれら化合物のすべての異性形を包含する。用語“異性体”は以下に定義される。
この明細書で使用するすべての用語は、特に断らない限り、本技術で知られている通常の意味に解釈するものとする。
アルキルはC1-24炭素鎖であり、任意に飽和又は変化する度合に不飽和でよく、任意に部分的又は完全にハロゲン化されていてよく、かつ分岐又は不分岐である。
炭素環として、3〜24個の炭素原子を含む炭化水素環が挙げられる。これら炭素環は芳香族又は非芳香族環系でよい。非芳香族環系は一不飽和又は多不飽和でよい。シクロペンタノヒドロフェナントレン環系を形成するもの又は架橋環系を有するもののように、ナフタレン、インデン、アズレン、フルオレン、フェナントレン、アントラセン、アセナフタレン、ビフェニレン等の2、3又は4個の環を有する多環式炭素環もこの定義に含まれる。上記各環は、別の炭素環式又はヘテロ環式環系を含むスピロ炭素を含有しうる。好ましい炭素環として、限定するものではないが、シクロプロピル、シクロブチル、シクロペンチル、シクロペンテニル、シクロヘキシル、シクロヘキセニル、シクロヘプタニル、シクロヘプテニル、フェニル、インダニル、インデニル、ベンゾシクロブタニル、ジヒドロナフチル、テトラヒドロナフチル、ナフチル、デカヒドロナフチル、ベンゾシクロヘプタニル及びベンゾシクロヘプテニルが挙げられる。他の代表的な炭素環として以下に示すものが挙げられる。
【0041】
【化25】

【0042】
すべての炭素環は、任意に部分的に不飽和でよく、任意に部分的又は完全にハロゲン化されていてよく、任意に置換されていてもよい。シクロブタニル及びシクロブチル等のシクロアルキルに特定の用語は相互交換可能に用いられるものとする。
用語“ヘテロ環”は、安定した非芳香族の4〜8員(好ましくは、5又は6員)の単環式又は非芳香族の8〜11員の二環式、或いは10〜24員の三環式又は四環式ヘテロ環基を意味し、飽和又は不飽和でよい。各ヘテロ環は、炭素原子と、1又は2個以上、好ましくは1〜4個の、窒素、酸素及びイオウから選択されるヘテロ原子とから成る。ヘテロ環は、安定構造の生成をもたらす、いずれの原子によっても結合されうる。それぞれフェニル環(任意に完全又は部分的に飽和していてよい)にベンゾ縮合(benzofused)しうる。特に断らない限り、ヘテロ環として、限定するものではないが、例えばピロリジニル、ピロリニル、モルフォリニル、チオモルフォリニル、チオモルフォリニルスルホキシド、チオモルフォリニルスルホン、ジオキサラニル、ピペリジニル、ピペラジニル、テトラヒドロフラニル、テトラヒドロピラニル、テトラヒドロフラニル、1,3-ジオキソラノン、1,3-ジオキサノン、1,4-ジオキサニル、ピペリジノニル、テトラヒドロピリミドニル、ペンタメチレンスルフィド、ペンタメチレンスルホキシド、ペンタメチレンスルホン、テトラメチレンスルフィド、テトラメチレンスルホキシド及びテトラメチレンスルホンが挙げられる。
用語“ヘテロアリール”は、N、O及びS等の1〜4個のヘテロ原子を含有する芳香族の5〜8員単環式環又は8〜11員二環式環を意味すると解釈するものとする。特に断らない限り、該ヘテロアリールとして、アジリジニル、チエニル、フラニル、イソキサゾリル、オキサゾリル、チアゾリル、チアジアゾリル、テトラゾリル、ピラゾリル、ピロリル、イミダゾリル、ピリジニル、ピリミジニル、ピラジニル、ピリダジニル、ピラニル、キノキサリニル、インドリル、ベンズイミダゾリル、ベンズオキサゾリル、ベンゾチアゾリル、ベンゾチエニル、キノリニル、キナゾリニル、ナフチリジニル、インダゾリル、トリアゾリル、ピラゾロ[3,4-b]ピリミジニル、プリニル、ピロロ[2,3-b]ピリジニル、ピラゾロ[3,4-b]ピリジニル、ツベルシジニル、オキサゾ[4,5-b]ピリジニル及びイミダゾ[4,5-b]ピリジニルが挙げられる。
本明細書では、用語“ヘテロ原子”は炭素以外の原子、例えばO、N、S及びPなどを意味するものと解釈する。
すべてのアルキル基又は炭素鎖において、1又は2以上の炭素原子は、任意にヘテロ原子:O、S又はNと置き換わっていてもよく、Nが置換されていない場合はそれをNHであると解釈し、また、ヘテロ原子は、分岐又は不分岐炭素鎖内の末端炭素原子又は内部炭素原子と置き換わりうるものと解釈する。このような基は、オキソのような基で上述したように置換され、限定するものではないが、例えばアルコキシカルボニル、アシル、アミド及びチオキソ等の定義をもたらしうる。
【0043】
本明細書では、用語“アリール”は、芳香族炭素環又はここで定義した通りのヘテロアリールを意味するものと解釈する。各アリール又はヘテロアリールは、特に断らない限り、その部分的又は完全に水素化された誘導体を包含する。例えば、キノリニルは、デカヒドロキノリニル及びテトラヒドロキノリニルを含み、ナフチルはその水素化誘導体、例えばテトラヒドロナフチルを含みうる。当業者には、本明細書で記載されるアリール及びヘテロアリール化合物の他の部分的又は完全に水素化された誘導体が明白だろう。
本明細書では、“窒素”及び“イオウ”は、窒素及びイオウのいずれの酸化形態並びにいずれの塩基性窒素の四級化形態も包含する。例えば、-S-C1-6アルキル基では、特に断らない限り、これは-S(O)-C1-6アルキル及び-S(O)2-C1-6アルキル基を含むものと解釈する。
本明細書では、“アミン”は-NH2であり、独立にアルキル、アリール、アリールアルキル又はヒドロキシルで一置換又は二置換されていてもよい。
本明細書では、用語“ハロゲン”は臭素、塩素、フッ素又はヨウ素、好ましくはフッ素を意味するものと解釈する。定義“部分的又は完全にハロゲン化”;部分的又は完全にフッ素化;“1又は2以上のハロゲン原子で置換”は、例えば、1又は2以上の炭素原子についてモノ、ジ又はトリハロ誘導体を含む。アルキルでは、非限定例は-CH2CHF3、CF3等であろう。
本発明の化合物は、当業者には明かなように、‘化学的に安定’であると考えられる化合物のみである。例えば、‘ダングリング原子価’、又は‘カルボアニオン’を有するであろう化合物は本明細書で開示する本発明の方法で想定される化合物ではない。
【0044】
〔医薬的に許容しうる誘導体〕
“医薬的に許容しうる誘導体”は、この発明の化合物のいずれの医薬的に許容しうる塩又はエステルをも意味し、或いは患者に投与すると、この発明で使用する化合物、その薬理学的に活性な代謝物又は薬理学的に活性な残渣を(直接的又は間接的に)供給できるいずれの他の化合物をも意味する。医薬的に許容しうる誘導体として、本明細書で定義する通りのプロドラッグ又はプロドラッグ誘導体、溶媒和物、異性体及びその組合せが挙げられる。
用語“プロドラッグ”又は“プロドラッグ誘導体”は、その薬理学的作用を示す前に少なくとも何らかの生体内変換を受ける、親化合物又は活性薬物の、共有結合した誘導体又は担体を意味する。一般に、このようなプロドラッグは、代謝によって切断しうる基を有し、かつ例えば血中での加水分解によって、迅速にin vivo変換して親化合物を与える。また、プロドラッグとして、一般的に親化合物のエステル及びアミドが挙げられる。プロドラッグは、化学的安定性の改良、患者の許容性及びコンプライアンスの改良、バイオアベイラビリティーの向上、作用の持続時間の延長、器官の選択性の改良、製剤の改良(例えば、水溶性)、及び/又は副作用(例えば毒性)の低減という目的で製剤化される。一般に、プロドラッグ自体は生物学的活性が弱いか無く、通常の条件下で安定である。技術上周知の方法、例えば以下の文献に記載の方法を用いて親化合物から容易にプロドラッグを調製できる:A Textbook of Drug Design and Development, Krogsgaard-Larsen and H. Bundgaard (eds.), Gordon & Breach, 1991,特に第5章: "Design and Applications of Prodrugs"; Design of Prodrugs, H. Bundgaard (ed.), Elsevier, 1985; Prodrugs: Topical and Ocular Drug Delivery, K.B. Sloan (ed.), Marcel Dekker, 1998; Methods in Enzvmology, K. Widder et al. (eds.), Vol. 42, Academic Press, 1985,特に309-396ページ; Burger's Medicinal Chemistry and Drug Discovery, 5th Ed., M. Wolff (ed.), John Wiley & Sons, 1995, 特にVol. 1及び172-178ページと949-982ページ; Pro-Drugs as Novel Delivery Systems, T. Higuchi and V. Stella (eds.), Am. Chem. Soc, 1975;及びBioreversible Carriers in Drug Design, E.B. Roche (ed.), Elsevier, 1987(それぞれ参照によってその全体が本明細書に組み込まれる)。
【0045】
本明細書では、用語“医薬的に許容しうるプロドラッグ”は、ゾンデ医療判断の範囲内で、過度の毒性、刺激、アレルギー反応等なしでヒト及び下等動物の組織と接触して使うのに適し、合理的な利益/危険比でよく釣り合っており、かつその意図した用途で有効な本発明の化合物のプロドラッグを意味し、可能な場合その双性イオン形態をも意味する。
用語“塩”は、親化合物のイオン形態、又は親化合物と、親化合物の酸性塩又は塩基性塩を作るのに適した酸又は塩基との間の反応生成物のイオン形態を意味する。塩基性又は酸性部分を含む親化合物から、通常の化学的方法で本発明の化合物の塩を合成できる。一般的に、塩は、適切な溶媒中又は種々の組合せの溶媒中、遊離の塩基性又は酸性親化合物を化学量論量又は過剰の、所望塩を形成する無機若しくは有機酸又は塩基と反応させることによって調製される。
用語“医薬的に許容しうる塩”は、ゾンデ医療判断の範囲内で、過度の毒性、刺激、アレルギー反応等なしでヒト及び下等動物の組織と接触して使うのに適し、合理的な利益/危険比でよく釣り合っており、通常水溶性若しくは油溶性又は分散性で、かつその意図した用途で有効である、本発明の化合物の塩を意味する。この用語は、医薬的に許容しうる酸付加塩と医薬的に許容しうる塩基付加塩を包含する。本発明の化合物は遊離塩基及び塩の両形態で有用なので、実際には、塩形態の使用は、結局塩基形態の使用ということになる。適切な塩のリストは、例えば、S.M. Birge et ah, J. Pharm. ScL, 1977, 66, pp. 1-19に見られ、この文献は参照によってその全体が本明細書に組み込まれる。
用語“医薬的に許容しうる酸付加塩”は、遊離塩基の生物学的有効性と特性を保持し、かつ生物学的又はその他の理由でも望ましくなくない当該塩を意味し、無機酸、例えば塩酸、臭化水素酸、ヨウ化水素酸、硫酸、スルファミン酸、硝酸、リン酸など、及び有機酸、例えば酢酸、トリクロロ酢酸、トリフルオロ酢酸、アジピン酸、アルギニン酸、アスコルビン酸、アスパラギン酸、ベンゼンスルホン酸、安息香酸、2-アセトキシ安息香酸、酪酸、樟脳酸、樟脳スルホン酸、ケイ皮酸、クエン酸、ジグルコン酸、エタンスルホン酸、グルタミン酸、グリコール酸、グリセロリン酸、ヘミ硫酸(hemisulfic acid)、ヘプタン酸、ヘキサン酸、ギ酸、フマル酸、2-ヒドロキシエタンスルホン酸(イセチオン酸)、乳酸、マレイン酸、ヒドロキシマレイン酸、リンゴ酸、マロン酸、マンデル酸、メシチレンスルホン酸、メタンスルホン酸、ナフタレンスルホン酸、ニコチン酸、2-ナフタレンスルホン酸、シュウ酸、パモン酸、ペクチン酸、フェニル酢酸、3-フェニルプロピオン酸、ピクリン酸、ピバル酸、プロピオン酸、ピルビン酸、ピルビン酸、サリチル酸、ステアリン酸、コハク酸、スルファニル酸、酒石酸、p-トルエンスルホン酸、ウンデカン酸などと形成される。
用語“医薬的に許容しうる塩基付加塩”は、遊離酸の生物学的有効性と特性を保持し、かつ生物学的又はその他の理由でも望ましくなくない当該塩を意味し、無機塩基、例えばアンモニア、又はアンモニア若しくはナトリウム、カリウム、リチウム、カルシウム、マグネシウム、鉄、亜鉛、銅、マンガン、アルミニウム等の金属の水酸化物、炭酸塩、若しくは炭酸水素塩と形成される。特に好ましくは、アンモニア、カリウム、ナトリウム、カルシウム、及びマグネシウム塩である。医薬的に許容しうる有機の無毒塩基から誘導される塩として、一級、二級、及び三級アミン、四級アミン化合物、置換アミン(天然に存在する置換アミンを含む)、環式アミン及び塩基性イオン交換樹脂、例えばメチルアミン、ジメチルアミン、トリメチルアミン、エチルアミン、ジエチルアミン、トリエチルアミン、イソプロピルアミン、トリプロピルアミン、トリブチルアミン、エタノールアミン、ジエタノールアミン、2-ジメチルアミノエタノール、2-ジエチルアミノエタノール、ジシクロヘキシルアミン、リジン、アルギニン、ヒスチジン、カフェイン、ヒドラバミン、コリン、ベタイン、エチレンジアミン、グルコサミン、メチルグルカミン、テオブロミン、プリン類、ピペラジン、ピペリジン、N-エチルピペリジン、テトラメチルアンモニウム化合物、テトラエチルアンモニウム化合物、ピリジン、N,N-ジメチルアニリン、N-メチピペリジン、N-メチルモルフォリン、ジシクロヘキシルアミン、ジベンジルアミン、N,N-ジベンジルフェネチルアミン、1-エフェナミン、N,N'-ジベンジルエチレンジアミン、ポリアミン樹脂などの塩が挙げられる。特に好ましくは有機の無毒塩基は、イソプロピルアミン、ジエチルアミン、エタノールアミン、トリメチルアミン、ジシクロヘキシルアミン、コリン、及びカフェインである。
【0046】
用語“溶媒和物”は、化合物と1又は2以上の溶媒分子との物理的会合、或いは溶質(例えば、式(I)の化合物)と溶媒、例えば水、エタノール、又は酢酸によって形成される可変化学量論の複合体を意味する。この物理的会合は変化する度合のイオン結合と共有結合(水素結合を含む)を含みうる。ある例では、溶媒和物は、例えば、1又は2以上の溶媒分子が結晶性固体の結晶格子に組み込まれている場合、単離可能である。一般的に、選択される溶媒は溶質の生物学的活性を妨害しない。溶媒和物は、溶液相と単離可能溶媒和物の両者を包含する。代表的溶媒和物として、水和物、エタノレート、メタノレート等が挙げられる。
用語“水和物”は溶媒分子がH2Oである溶媒和物を意味する。
後述する本発明の化合物は、明白に述べ、又は示さなくても、その遊離塩基又は酸、その塩、溶媒和物、及びプロドラッグを包含し、かつその構造中に酸化したイオウ原子又は四級化した窒素原子含んでよく、特にその医薬的に許容しうる形態を包含する。このような形態、特に医薬的に許容しうる形態は添付の特許請求の範囲に包含されるものとする。
【0047】
〔異性体用語と慣習〕
用語“異性体”は立体異性体及び幾何異性体を包含する。
用語“立体異性体”は、少なくとも1個のキラル原子又は垂直な非対称面を生じさせる回転障害(例えば、特定のビフェニル、アレン、及びスピロ化合物)を有し、平面偏光を回転させうる安定な異性体を意味する。本発明の化合物には光学異性体を生じさせうる不斉中心及び他の化学構造が存在するので、本発明は立体異性体とその混合物を熟慮する。本発明の化合物及びその塩は、不斉炭素原子を含むので、単一の立体異性体、ラセミ体、並びにエナンチオマー及びジアステレオマーの混合物として存在しうる。典型的に、このような化合物はラセミ混合物として調製されるだろう。しかし、所望により、該化合物を純粋な光学異性体として、すなわち個々のエナンチオマー若しくはジアステレオマーとして、又は立体異性体富化混合物として調製又は単離することができる。化合物の個々の立体異性体は、所望のキラル中心を含む光学活性な出発原料からの合成によって、或いはエナンチオマー生成物の混合物の調製後の分離、例えばジアステレオマー混合物への変換後の分離若しくは再結晶、クロマトグラフ法、キラル分割剤の使用、又はキラルクロマトグラフカラム上でのエナンチオマーの直接分離などによって調製される。特定の立体化学の出発化合物は商業的に入手可能であり、或いは後述する方法で調製され、技術上周知の方法で分割される。
用語“エナンチオマー”は、相互に重ね合わせることのできない鏡像である一対の光学異性体を意味する。
用語“ジアステレオ異性体”又は“ジアステレオマー”は、相互に鏡像でない立体異性体を意味する。
用語“ラセミ混合物”又は“ラセミ体”は、等しい割合の個々のエナンチオマーを含む混合物を意味する。
用語“非ラセミ混合物”は、等しくない割合の個々のエナンチオマーを含む混合物を意味する。
【0048】
用語“幾何異性体”は、二重結合の回り(例えば、シス-2-ブテンとトランス-2-ブテン)又は環式構造内(例えば、シス-1,3-ジクロロシクロブタンとトランス-1,3-ジクロロシクロブタン)の制限された自由から生じる安定した異性体を意味する。本発明の化合物には炭素-炭素二重(オレフィン性)結合、C=N二重結合、環式構造などが存在しうるので、本発明は、これら二重結合の回り及びこれら環式構造内の置換基の配置から生じる種々の安定した各幾何異性体及びその混合物を熟考する。置換基及び異性体は、シス/トランス変換又はE若しくはZシステムを用いて命名される。ここで、用語“E”は順位の高い置換基が二重結合の反対側にあることを意味し、用語“Z”は順位の高い置換基が二重結合の同じ側にあることを意味する。E及びZ異性の完全な議論は、J. March, Advanced Organic Chemistry: Reactions, Mechanisms, and Structure, 4th ed., John Wiley & Sons, 1992(参照によってその全体が本明細書に組み込まれる)で提供されている。以下の実施例のいくつかは単一のE異性体、単一のZ異性体、及びE/Z異性体の混合物を示す。X線結晶学、1H NMR、及び13C NMR等の分析法でE及びZ異性体の決定を行うことができる。
1種より多くの互変異性形で存在しうる本発明の化合物もある。上述したように、本発明の化合物はこのようなすべての互変異性体を包含する。一般に、その化合物名又は構造で特有の立体化学又は異性形を特に指定しない限り、個々の幾何異性体若しくは光学異性体又はラセミ若しくは非ラセミ混合物であれ、化学構造又は化合物のすべての互変異性形及び異性形並びに混合物を意図している。
【0049】
〔医薬投与及び診断及び治療用語と慣習〕
用語“患者”は、ヒト及び非ヒト哺乳動物を包含する。
用語“有効な量”は、ある化合物を投与又は使用する状況において、所望の作用又は結果を達成するために十分な本発明の化合物の量を意味する。状況により、用語“有効な量”は医薬的に有効な量又は診断的に有効な量を包含することがあり、或いは同義である。
用語“医薬的に有効な量”又は“治療的に有効な量”は、本化合物が必要な患者に投与するとき、本化合物が効用を有する病的状態、状況、又は障害の有効な治療に十分な本発明の化合物の量を意味する。このような量は、研究者又は臨床医が捜している、組織、系、又は患者の生物学的又は医学的応答を誘発するのに十分だろう。治療的に有効な量を構成する本発明の化合物の量は、化合物とその生物学的活性、投与のために使用する組成物、投与回数、投与経路、該化合物の排泄速度、治療の持続期間、治療する病的状態又は障害とその重症度、本発明の化合物と併用又は同時に使用する薬物、並びに患者の年齢、体重、全身の健康状態、性別、及び食事療法などの因子によって変わるだろう。自分自身の知識、先行技術、及びこの開示を顧慮する当業者は、このような治療的に有効な量を日常的に決定することができる。
用語“診断的に有効な量”は、診断方法、装置、又はアッセイで使用するとき、該診断方法、装置、又はアッセイに必要な所望の診断効果又は所望の生物学的活性を達成するために十分な本発明の化合物の量を意味する。該量は、診断方法、装置、又はアッセイにおける生物学的又は医学的応答を誘発するのに十分だろう。このような生物学的又は医学的応答として、研究者又は臨床医が捜している、患者又はin vitro若しくはin vivo組織又は系における生物学的又は医学的応答が挙げられる。診断的に有効な量を構成する本発明の化合物の量は、化合物とその生物学的活性、使用する診断方法、装置、又はアッセイ、投与のために使用する組成物、投与回数、投与経路、該化合物の排泄速度、投与の持続期間、本発明の化合物と併用又は同時に使用する薬物、並びに診断的投与の対象が患者の場合は患者の年齢、体重、全身の健康状態、性別、及び食事療法などの因子によって変わるだろう。自分自身の知識、先行技術、及びこの開示を顧慮する当業者は、このような診断的に有効な量を日常的に決定することができる。
【0050】
用語“患者”は、ヒト及び非ヒト哺乳動物の両者を含む。
用語“有効な量”は、ある化合物を投与又は使用する状況において、所望の作用又は結果を達成するために十分な本発明の化合物の量を意味する。状況により、用語“有効な量”は医薬的に有効な量又は診断的に有効な量を包含することがあり、或いは同義である。
用語“医薬的に有効な量”又は“治療的に有効な量”は、本化合物が必要な患者に投与するとき、本化合物が効用を有する病的状態、状況、又は障害の有効な治療に十分な本発明の化合物の量を意味する。このような量は、研究者又は臨床医が捜している、組織、系、又は患者の生物学的又は医学的応答を誘発するのに十分だろう。治療的に有効な量を構成する本発明の化合物の量は、化合物とその生物学的活性、投与のために使用する組成物、投与回数、投与経路、該化合物の排泄速度、治療の持続期間、治療する病的状態又は障害とその重症度、本発明の化合物と併用又は同時に使用する薬物、並びに患者の年齢、体重、全身の健康状態、性別、及び食事療法などの因子によって変わるだろう。自分自身の知識、先行技術、及びこの開示を顧慮する当業者は、このような治療的に有効な量を日常的に決定することができる。
用語“診断的に有効な量”は、診断方法、装置、又はアッセイで使用するとき、該診断方法、装置、又はアッセイに必要な所望の診断効果又は所望の生物学的活性を達成するために十分な本発明の化合物の量を意味する。該量は、診断方法、装置、又はアッセイにおける生物学的又は医学的応答を誘発するのに十分だろう。このような生物学的又は医学的応答として、研究者又は臨床医が捜している、患者又はin vitro若しくはin vivo組織又は系における生物学的又は医学的応答が挙げられる。診断的に有効な量を構成する本発明の化合物の量は、化合物とその生物学的活性、使用する診断方法、装置、又はアッセイ、投与のために使用する組成物、投与回数、投与経路、該化合物の排泄速度、投与の持続期間、本発明の化合物と併用又は同時に使用する薬物、並びに診断的投与の対象が患者の場合は患者の年齢、体重、全身の健康状態、性別、及び食事療法などの因子によって変わるだろう。自分自身の知識、先行技術、及びこの開示を顧慮する当業者は、このような診断的に有効な量を日常的に決定することができる。
【0051】
用語“治療する”又は“治療”は、患者の病的状態の治療を意味し、以下のことを包含する:
(i)特に、患者が病的状態にかかりやすいが、未だ該病的状態を有していると診断されていないとき、該患者に該病的状態が生じるのを予防すること;
(ii)患者の病的状態を阻害又は改善すること、すなわち該病的状態の発生を抑止し、又は遅らせること;又は
(iii)患者の病的状態を解放すること、すなわち該病的状態の退行又は治癒を引き起こすこと。
本明細書で述べる化合物は商業的に入手可能であり、或いは技術上周知の方法及び必要な中間体によって調製される。
この発明をさらに完全に理解してもらうため、以下に実施例を示す。これら実施例はこの発明の好ましい実施形態を説明する目的のためであり、いかなる場合にも本発明の範囲を限定するものと解釈すべきでない。
以下の実施例は例示であり、かつ当業者は認識しているように、過度の実験をすることなく、特定の試薬又は条件を個々の化合物の必要に応じて変更することができる。下記スキームで使用する出発原料は商業的に入手可能であり、或いは当業者によって市販原料から容易に調製される。
【0052】
〔使用方法〕
本発明により、本明細書で述べる化合物及びその医薬的に許容しうる誘導体の使用方法が提供される。本発明で使用する化合物は、有益な作用を有するsEH基質の分解を阻止し、或いは副作用を有する代謝物の形成を阻止する。sEHの阻害は、種々の循環器疾患又は状態、例えば、内皮機能障害を予防及び治療する魅力的な手段である。従って、本発明の方法は該状態の治療に有用である。この状態は、限定するものではないが、1型及び2型糖尿病、インスリン抵抗性症候群、高血圧、アテローム性動脈硬化症、冠動脈疾患、狭心症、虚血、虚血性脳卒中、レイノー病及び腎臓病といった疾患を包含する。
治療的使用のため、いずれの常法によっても、いずれの通常の剤形でも本化合物を投与することができる。投与経路として、限定するものではないが、静脈内、筋肉内、皮下、滑膜内、注入により、舌下に、経皮、経口、局所又は吸入による経路が挙げられる。投与の好ましい態様は経口及び静脈内投与である。
【0053】
本明細書で述べる化合物を単独で投与してよく、或いは該インヒビターの安定性を高め、特定の実施形態では該インヒビターを含む医薬組成物の投与を容易にし、溶解又は分散を向上させ、阻害活性を高め、補助的療法を与えるなどのアジュバントと、他の活性成分も含め、併用することができる。有利には、このような併用療法は、より低用量の通常の治療薬を利用するので、当該薬剤を単剤療法として使用する場合に受ける可能性のある毒性及び有害な副作用を回避する。本発明の化合物を通常の治療薬と物理的に組み合わせてよく、或いは他のアジュバントを単一の医薬組成物中に混ぜ合わせてもよい。有利には、本化合物を単一剤形で一緒に投与することができる。ある実施形態では、化合物のこのような組合せを含む医薬組成物は、少なくとも約5%、さらに好ましくは少なくとも約20%の式(I)の化合物(w/w)又はその組合せを含む。本発明の化合物の至適パーセンテージ(w/w)は変化してよく、当業者の理解範囲内である。或いは、本化合物を個別に(逐次的又は平行して)投与することができる。個別投与は、投与計画のより大きなフレキシビリティーを考慮する。
【0054】
上述したように、上記化合物の剤形は当業者に周知の医薬的に許容しうる担体及びアジュバントを含む。この担体及びアジュバントとして、例えば、イオン交換体、アルミナ、ステアリン酸アルミニウム、レシチン、血清タンパク質、緩衝物質、水、塩、又は電解質及びセルロース系物質が挙げられる。好ましい剤形として、錠剤、カプセル剤、キャプレット剤、液剤、溶液、懸濁液、エマルジョン、ロゼンジ剤、シロップ剤、再構成可能散剤、顆粒剤、座剤及び経皮パッチが挙げられる。このような剤形の製造方法は周知である(例えばH.C. Ansel and N.G. Popovish, Pharmaceutical Dosage Forms and Drug Delivery Systems, 5th ed., Lea and Febiger (1990)参照)。用量レベル及び必要条件は技術的によく認識されており、当業者は、利用可能な方法及び個々の患者に適した技術から選択することができる。ある実施形態では、用量レベルは、体重70kgの患者で約1〜1000mg/用量の範囲である。1日当たり1用量で十分であるが、1日5用量まで与えてよい。経口投与では、2000mg/日まで要求されうる。熟練家には明かなように、特定の因子によって、より低用量又は高用量が必要なこともある。例えば、具体的な用量及び治療計画は、患者の全身の健康プロフィール、患者の障害の重症度と過程又は障害に対する素質、及び治療医師の判断などの因子によって決まるだろう。
【0055】
〔sEHの阻害を決定するための蛍光偏光アッセイ〕
工程1:蛍光プローブの特徴づけ
まず、蛍光プローブの最大励起及び発光の波長を測定すべきである。該プローブの例は、WO 02/082082に示されている化合物(4)であり、これらの値はそれぞれ529nm及び565nmである。アッセイ緩衝液(20mM TES、pH 7.0、200mM NaCl、0.05%(w/v) CHAPS、2mM DTT)に溶かしたプローブについてSLM-8100蛍光計でこれらの蛍光波長値を測定した。
次に、sEHに対する該プローブの親和性を滴定実験で決定した。上記励起及び発光最大値を用いて、アッセイ緩衝液中の化合物4の蛍光偏光値をSLM-8100蛍光計で測定した。一定分量のsEHを加え、偏光値のさらなる変化が観察されなくなるまで、各添加後に蛍光偏光を測定した。化合物4に結合しているsEHについて観察された偏光値から、非線形最小二乗回帰解析を用いて化合物4の解離定数を計算した。図1は、この滴定実験の結果を示す。
【0056】
工程2:プローブ結合のインヒビターのスクリーニング
多数の化合物をスクリーニングするため、96-ウェルプレート形式を用いてアッセイを行った。このようなプレートの例はDynex Microfluor 1、すなわち低タンパク質結合U-底の黒色96ウェルプレート(# 7005)である。まず組換えヒトsEHと、sEHの活性部位に結合する蛍光プローブとの複合体を作製することによって、プレートを構築する。この例では、化合物4とsEHの複合体をアッセイ緩衝液(20mM TES、pH 7.0、200mM NaCl、0.05%(w/v) CHAPS、1mM TCEP)内で予め形成した。このアッセイの最終濃度が10nMのsEHと2.5nMの化合物4になるように、この溶液中のsEHと化合物4の濃度を調製した。次に、試験化合物を96ウェルプレート中のアッセイ緩衝液に逐次希釈した。そして、予め形成したsEH-プローブ複合体をすべてのウェルに加え、室温で15分インキュベートした。次に、蛍光偏光プレートリーダーセットを用い、該蛍光プローブ(4)上の蛍光標識に適した波長で蛍光偏光を測定した。この例では、LJL Analystを設定してローダミン蛍光偏光を読み取った(Ex 530nM、Em 580nM)。sEHに対する試験化合物の結合について、WO 02/082082に記載されている通りに、試験化合物の存在下でsEHに結合しているプローブの偏光値から解離定数(Kd)を計算した。
試験化合物の存在下で観察されたプローブ-sEH複合体の蛍光偏光の減少は、この試験化合物が、sEH活性部位結合について該蛍光プローブと競合する、可溶性エポキシドヒドロラーゼのインヒビターであるという証拠である。
好ましい化合物は1μM未満のKd計算値を有する。さらに好ましくは100nM未満のKd計算値を有する。最も好ましくは10nM未満のKd計算値を有する。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
1型及び2型糖尿病、インスリン抵抗性症候群、高血圧、アテローム性動脈硬化症、冠動脈疾患、狭心症、虚血、虚血性脳卒中、レイノー病及び腎臓病から選択される疾患又は状態の治療方法であって、患者に、治療的に有効な量の下記式(I)若しくは(II)の化合物、又はその医薬的に許容しうる塩を投与することを含む方法。
【化1】

(式中、
Wは結合又は>C=Oであり;
Ra及びRcは、-Ar1、-(Ar2)t-(CH2)q-X1-(CH2)n-X2-(CH2)m-Y(Yは-CH3又はAr1)であり、
Ar1及びAr2は、それぞれ独立にヘテロアリール又は炭素環式環系であり、X1及びX2は、それぞれ独立に結合、>C=O、O、NH、NR又はS(O)Pであり;
m、n及びqは0〜5であり;
tはO又は1であり;
pは0〜2であり;
-(CH2)q-、-(CH2)n-、-(CH2)m-で形成される各アルキル鎖は、飽和又は部分的若しくは完全に不飽和でよく;
Rb'は=0、=NH、=CH2であり、
Rbは水素又はC1-5アルキルであり、
或いはRbとRcが融合して3〜17個の炭素の炭素環式環系又は4〜17個の炭素のヘテロ環式環系を形成し、各環系は単環式、二環式、三環式又は四環式であり;
この実施形態における上記各環は、任意に1又は2以上のハロゲン、ニトロ、アミン、C1-5アルキル、C1-5アルコキシ又はヒドロキシルで置換されていてもよい。)
【請求項2】
Ar1及びAr2が、以下の基:
フェニル、チエニル、モルフォリン、キノリン、ピペリジン、二環[2.2.1]ヘプタン、アダマンチル、ピロリジン、ピロリジノン、ピリジン、ナフチレン、ベンズチオフェン、フラン、イミダゾール、ベンゾジオキソラニル、ベンゾジオキサニル、インドール、インダン、ピペラジン、チアゾール、ピリミジン、シクロプロピル、シクロブチル、シクロペンチル、シクロヘキシル、テトラゾール、下記基:
【化2】

から選択され、Ar1及びAr2はそれぞれ任意に1又は2以上のハロゲン、ニトロ、アミン、C1-5アルキル、C1-5アルコキシ又はヒドロキシルで置換されていてもよい、
請求項1に記載の方法。
【請求項3】
1型及び2型糖尿病、インスリン抵抗性症候群、高血圧、アテローム性動脈硬化症、冠動脈疾患、狭心症、虚血、虚血性脳卒中、レイノー病及び腎臓病から選択される疾患又は状態の治療方法であって、患者に、治療的に有効な量の、下記化合物から選択される1又は2以上の化合物、又はその医薬的に許容しうる塩を投与することを含む方法。
【化3】

【化4】

【化5】

【化6】

【化7】

【化8】

【化9】

【化10】

【化11】

【化12】

【化13】

【化14】

【化15】

【化16】

【化17】

【化18】

【化19】


【公表番号】特表2008−540424(P2008−540424A)
【公表日】平成20年11月20日(2008.11.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−510107(P2008−510107)
【出願日】平成18年5月1日(2006.5.1)
【国際出願番号】PCT/US2006/016673
【国際公開番号】WO2006/121684
【国際公開日】平成18年11月16日(2006.11.16)
【出願人】(503385923)ベーリンガー インゲルハイム インターナショナル ゲゼルシャフト ミット ベシュレンクテル ハフツング (976)
【Fターム(参考)】