説明

β−セクレターゼ阻害剤

【課題】安全性が高く、しかもβ−セクレターゼ活性に対する優れた阻害作用を有するβ−セクレターゼ阻害剤、及びその用途を提供。
【解決手段】分子中に、炭素−炭素二重結合、カルボニル基、エーテル結合及びエステル結合からなる群から選択される少なくとも1種の官能基を含む精油成分、又は該精油成分が含まれる精油を有効成分として含有するβ−セクレターゼ阻害剤、および阻害剤を含有する老人性痴呆症とアルツハイマー型痴呆症の予防又は治療薬。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、植物精油又は精油成分を有効成分として含有するβ−セクレターゼ阻害剤、及びその用途に関する。
【背景技術】
【0002】
近年の急速な高齢化社会の到来とともに、老人性痴呆症は、医学的、社会的にも重大な問題となっており、老人性痴呆症の治療に有効な医薬品の開発が強く望まれている。老人性痴呆症の代表的疾患であるアルツハイマー型痴呆症(アルツハイマー病)は、脳の萎縮、老人斑の沈着及び神経原線維の形成を特徴とする変性疾患で、神経細胞の脱落が痴呆症状を引き起こすと考えられている(非特許文献1)。
アルツハイマー型痴呆症発症の原因について未だ定説はないが、病理組織学的研究により、老人斑が沈着しそれにより神経細胞が脱落し脳の萎縮が生じると考えられている。そして、老人斑の主成分であるβ−アミロイドは細胞毒性作用を有しており、アルツハイマー型痴呆症における神経細胞死を引き起こしていると考えられている(非特許文献2〜5参照)。β−アミロイドは、その前駆体であるアミロイド前駆体タンパク質(APP)がプロセシングされることにより、生成される。アミロイド前駆体タンパク質のプロセシングにはプロテアーゼが関与していることが推定され、数種類の酵素が候補に挙げられていたが、同定されていなかった。ところが最近になり、アミロイド前駆体タンパク質(APP)のβ-サイトを切断する酵素(β−セクレターゼ)が発見され、クローニングされたことにより、最近の老人性痴呆症の研究は、β−セクレターゼ阻害剤の発見に流れが変わりつつある。この流れを受け、β−セクレターゼに対して阻害作用を持つ化合物に関する研究が、近年活発に行われるようになってきた(例えば、特許文献1参照)。
【0003】
このようなβ−セクレターゼに対して阻害作用を持つ化合物は、β−アミロイドの生成のみならず、他の生体内での反応をも阻害する可能性がある。他の生体内での反応を阻害するような物質は、β−アミロイドの生成を阻害したとしても、患者に深刻な副作用をもたらす恐れがあるため、アルツハイマー型痴呆症等の治療に利用することは困難である。よって、アルツハイマー型痴呆症の治療に使用することができる、安全性の高いβ−セクレターゼ阻害剤が求められている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2008−137914号公報
【非特許文献】
【0005】
【非特許文献1】Alzheimer, A. (1907) Central Bl. Nervenheilk.Phychiatr. 30, 177-179
【非特許文献2】Yankner,B. et al. Science, 245, 417-429 (1989)
【非特許文献3】Cai,X., Gold, T. & Younkin,S. Science, 259, 514-516 (1993)
【非特許文献4】Rose,A. Nature Med. 2, 267-269 (1996)
【非特許文献5】Scheuner,D. et al. Nature Med. 2, 864-869 (1996)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、安全性が高く、しかもβ−セクレターゼ活性に対する優れた阻害作用を有するβ−セクレターゼ阻害剤、及びその用途を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、植物の精油及び精油成分のセクレターゼ阻害活性について鋭意研究を重ねた結果、特定の精油及び精油成分がβ−セクレターゼ活性に対する優れた阻害作用を有することを見出し、ここに本発明を完成するに至った。
【0008】
即ち、本発明は、下記のβ−セクレターゼ阻害剤等を提供することである。
【0009】
項1.分子中に、炭素−炭素二重結合、カルボニル基、エーテル結合及びエステル結合からなる群から選択される少なくとも1種の官能基を含む精油成分、又は該精油成分が含まれる精油を有効成分として含有するβ−セクレターゼ阻害剤。
【0010】
項2.前記精油成分が、双環性モノテルペン炭化水素、双環性モノテルペンケトン若しくはエーテル、炭素数13の単環性ケトン、鎖状モノテルペンアルコール若しくは三環性セスキテルペンアルコールのエステル若しくはケトン体、又はフェニルプロパノイドである、項1に記載のβ−セクレターゼ阻害剤。
【0011】
項3.前記精油成分が、2−カレン、3−カレン、サビネン、(+)−及び(−)−カンファー、(+)−及び(−)−フェンコン、1,8−シネオール、1,4−シネオール、β−イオノン、ゲラニルアセトン、ゲラニルアセテート、ネリルアセトン、ネリルアセテート、ジヒドロミルセニルアセテート、シトロネリルアセテート、セドリルアセテート、オイゲノール、並びにイソオイゲノールからなる群から選択される少なくとも1種である、項1又は2に記載のβ−セクレターゼ阻害剤。
【0012】
項4.前記精油成分が、(+)−及び(−)−カンファー、(+)−及び(−)−フェンコン、ゲラニルアセトン並びにゲラニルアセテートからなる群から選択される少なくとも1種である、項3に記載のβ−セクレターゼ阻害剤。
【0013】
項5.前記精油が、精油成分としてオイゲノールが含まれるクローブ油、及び精油成分として1,8−シネオールが含まれるティートゥリー油からなる群から選択される少なくとも1種である、項1〜4のいずれかに記載のβ−セクレターゼ阻害剤。
【0014】
項6.項1〜5のいずれかに記載のβ−セクレターゼ阻害剤を含有する老人性痴呆症の予防又は治療薬。
【0015】
項7.項1〜5のいずれかに記載のβ−セクレターゼ阻害剤を含有するアルツハイマー型痴呆症の予防又は治療薬。
【0016】
項8.老人性痴呆症の予防又は治療薬の製造のための項1〜5のいずれかに記載のβ−セクレターゼ阻害剤の使用。
【0017】
項9.老人性痴呆症の患者に、薬剤学的有効量の項1〜5のいずれかに記載のβ−セクレターゼ阻害剤を投与することを特徴とする老人性痴呆症の予防又は治療方法。
【0018】
項10.項1〜5のいずれかに記載のβ−セクレターゼ阻害剤を含有する芳香剤。
【0019】
項11.項1〜5のいずれかに記載のβ−セクレターゼ阻害剤を含有するアロマテラピー用エッセンシャルオイル。
【0020】
項12.項1〜5のいずれかに記載のβ−セクレターゼ阻害剤からなる食品添加剤。
【発明の効果】
【0021】
本発明のβ−セクレターゼ阻害剤は、精油又は精油成分を有効成分とするため、人体に悪影響を与えることなく、アルツハイマー型痴呆症等の老人性痴呆症を治療することができる。
【0022】
本発明のβ−セクレターゼ阻害剤は、芳香剤、アロマテラピー用エッセンシャルオイル、食品添加剤等として利用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【図1】2−カレン、3−カレン、サビネン、(−)−フェンコン、(+)−フェンコン、(−)−カンファー、(+)−カンファー及びメントールのβ−セクレターゼ活性阻害効果を示す図である。
【図2】シトロネリルアセテート、ネリルアセトン、ジヒドロミルセニルアセテート、ゲラニルアセトン、β−イオノン、ゲラニルアセテート、セドリルアセテート及びセドロールのβ−セクレターゼ活性阻害効果を示す図である。
【図3】ネリルアセテート、1,4−シネオール、1,8−シネオール、オイゲノール及びイソオイゲノールのβ−セクレターゼ活性阻害効果を示す図である。
【図4】ハッカ油、ティートゥリー油、クローブ油及びスギ油のβ−セクレターゼ活性阻害効果を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0024】
以下、本発明を詳細に説明する。
【0025】
本発明のβ−セクレターゼ阻害剤は、植物の精油又は精油成分を有効成分として含有するものである。揮発性物質(精油又は精油成分)がβ−セクレターゼ阻害剤として用いられるということが報告された例は今までなく、本発明において初めて、精油又は精油成分にβ−セクレターゼ阻害活性があることが見出された(下記実施例において詳述する)。
【0026】
本発明のβ−セクレターゼ阻害剤として用いられる精油成分は、分子中に、炭素−炭素二重結合、カルボニル基、エーテル結合及びエステル結合からなる群から選択される少なくとも1種の官能基を含むものであり、該精油成分が含まれる精油も本発明のβ−セクレターゼ阻害剤として用いることができる。なお、この炭素−炭素二重結合はアルケンを構成する二重結合であり、芳香族化合物の炭素−炭素二重結合は含まない。
【0027】
精油成分は、分子中に官能基として、炭素−炭素二重結合、カルボニル基、エーテル結合及びエステル結合からなる群から選択される少なくとも1種を含んでいる。すなわち、精油成分は、分子中に、炭素−炭素二重結合だけ、カルボニル基だけ、エーテル結合だけ、若しくはエステル結合だけを含んでいてもよく、又は分子中にこれらを複数個含んでいてもよい。また、分子中に同じ官能基を2個以上含んでもよい。例えば、精油成分が、その分子中に、炭素−炭素二重結合を1つ含む場合、カルボニル基を1つ含む場合、エーテル結合を1つ含む場合、エステル結合を1つ含む場合、炭素−炭素二重結合1つ及びエーテル結合1つを含む場合、炭素−炭素二重結合1つ及びエステル結合1つを含む場合、炭素−炭素二重結合2つ及びカルボニル基1つを含む場合、炭素−炭素二重結合2つ及びエステル結合1つを含む場合等が考えられる。
【0028】
分子中に、炭素−炭素二重結合カルボニル基、エーテル結合及びエステル結合からなる群から選択される少なくとも1種の官能基を含む精油成分として、具体的には、双環性モノテルペン炭化水素、双環性モノテルペンケトン若しくはエーテル、炭素数13の単環性ケトン、鎖状モノテルペンアルコール若しくは三環性セスキテルペンアルコールのエステル若しくはケトン体、フェニルプロパノイド等を挙げることができる。
双環性モノテルペン炭化水素の具体例として、2−カレン(2-carene)、3−カレン(3-carene)、サビネン(sabinene)等を挙げることができる。2−カレンはサンショ油等に含まれる精油成分であり、3−カレンはサイプレス油等に含まれる精油成分であり、サビネンはジュニパ・ベリー油、ブラックペパー油、キャロット・シード油等に含まれる精油成分である。
【0029】
双環性モノテルペンケトンの具体例として、(+)−及び(−)−カンファー(camphor)、(+)−及び(−)−フェンコン(fenchone)等を挙げることができる。(+)−及び(−)−カンファーはコリアンダー油、フレンチラベンダー油、ローズマリー油、ブルーヤロー油、グリーンヤロー油等に含まれる精油成分であり、(+)−及び(−)−フェンコンはフェンネル・スイート油等に含まれる精油成分である。
【0030】
双環性モノテルペンエーテルの具体例として、1,8−シネオール(1,8-cineole)、1,4−シネオール(1,4-cineole)等を挙げることができる。1,8−シネオールは、ティートゥリー油、ユーカリ油等に含まれる精油成分であり、1,4−シネオールは、ユーカリ油等に含まれる精油成分である。
【0031】
炭素数13の単環性ケトン(ノルセスキテルペン)の具体例として、β−イオノン(β−ionone)等を挙げることができる。β−イオノンは、コスタス油、イチョウ葉油、シコウカ油、レモンバーム油、ミカン油等に含まれる精油成分である。
【0032】
鎖状モノテルペンアルコールのエステル若しくはケトン体の具体例として、ゲラニルアセトン(geranyl acetone)、ゲラニルアセテート(geranyl acetate)、ネリルアセトン(neryl acetone)、ネリルアセテート(neryl acetate)、ジヒドロミルセニルアセテート(dihydromyrcenyl acetate)、シトロネリルアセテート(citronellyl acetate)等を挙げることができる。ゲラニルアセトンはバルマローザ油等に含まれる精油成分であり、ネロリドール、ビタミンE等の中間体として開発されたものが市販品として入手可能である。ゲラニルアセテートはバルマローザ油等に含まれる精油成分であり、ネリルアセトンはオルガノ油等に含まれる精油成分であり、ネリルアセテートはカナンガ油等に含まれる精油成分であり、ジヒドロミルセニルアセテートは金柑油等の柑橘油等に含まれる精油成分であり、シトロネリルアセテートはシトロネラ油、ゼラニウム油等に含まれる精油成分である。
【0033】
三環性セスキテルペンアルコールのエステル若しくはケトン体の具体例として、セドリルアセテート(cedryl acetate)等を挙げることができる。セドリルアセテートは、オリバナ油等に含まれる精油成分である。
【0034】
フェニルプロパノイドの具体例として、オイゲノール(eugenol) 、イソオイゲノール(isoeugenol)等を挙げることができる。オイゲノールは、クローブ油、ピメント油、ローリエ油、シナモン油等に含まれる精油成分であり、イソオイゲノールは、イランイラン油、ナツメッグ油等に含まれる精油成分である。
【0035】
これらの精油成分の中でも、(+)−及び(−)−カンファー、(+)−及び(−)−フェンコン、ゲラニルアセトン又はゲラニルアセテートが、β−セクレターゼ阻害活性が強いことから、好ましい。
【0036】
本発明のβ−セクレターゼ阻害剤として用いられる精油は、植物の枝葉、根茎、木皮、果実、蕾、樹皮等に存在するものであって、上記のような精油成分を含むものである。このような精油の具体例として、クローブ油(clove oil)、ティートゥリー油(tea tree oil)等を挙げることができる。クローブ油は、精油成分としてオイゲノールを含んでおり、ティートゥリー油は、精油成分として1,8−シネオールを含んでいる。これらの精油もまた、β−セクレターゼ阻害活性を有している。
【0037】
これらの精油及び精油成分は、1種単独で又は2種以上を混合して用いてもよい。また、上記精油成分が含まれる精油も使用可能である。
【0038】
これらの精油及び精油成分は、それらが含まれる植物の部位から、通常の抽出方法、及び分離精製手段を用いて得たものを使用してもよいし、香料として市販されているものを使用してもよい。植物から抽出及び分離精製する場合、抽出方法としては、例えば、水蒸気蒸留法、圧搾法、溶剤抽出法等の公知の方法を用いることができ、分離精製手段として、例えば、アルミナカラムクロマトグラフィーやシリカゲルクロマトグラフィー、ゲルろ過クロマトグラフィー、イオン交換クロマトグラフィー、疎水クロマトグラフィー、高速液体クロマトグラフィー等を用いることができる。
【0039】
クローブ油、ティートゥリー油、2−カレン、3−カレン、サビネン、(+)−及び(−)−カンファー、(+)−及び(−)−フェンコン、ゲラニルアセトン、ゲラニルアセテート、ネリルアセトン、ネリルアセテート、ジヒドロミルセニルアセテート、β−イオノン、セドリルアセテート、シトロネリルアセテート、1,4−シネオール、1,8−シネオール、オイゲノール及びイソオイゲノールは、下記実施例で詳述するように、強いβ−セクレターゼ阻害活性を有しているので、これらを有効成分として含有する本発明のβ−セクレターゼ阻害剤は、各種用途に用いることができる。
【0040】
例えば、本発明のβ−セクレターゼ阻害剤を医薬品として用いる場合、哺乳動物(特に、ヒト)における老人性痴呆患症の予防薬又は治療薬、特にアルツハイマー型痴呆症の予防薬又は治療薬として用いられる。
【0041】
本発明のβ−セクレターゼ阻害剤は、慣用されている方法により錠剤、散剤、細粒剤、顆粒剤、被覆錠剤、カプセル剤、シロップ剤、トローチ剤、吸入剤、坐剤、注射剤、軟膏剤、眼軟膏剤、点眼剤、点鼻剤、点耳剤、パップ剤、ローション剤等の剤に製剤化することができる。
【0042】
製剤化には通常用いられる賦形剤、結合剤、滑沢剤、着色剤、矯味矯臭剤や、および必要により安定化剤、乳化剤、吸収促進剤、界面活性剤、pH調整剤、防腐剤、抗酸化剤などを使用することができ、一般に医薬品製剤の原料として用いられる成分及び配合量を適宜選択して常法により製剤化される。
【0043】
本発明の医薬製剤を投与する場合、その形態は特に限定されず、通常用いられる方法であればよく、経口投与でも非経口投与でもよい。本発明にかかる医薬の投与量は、症状の程度、年齢、性別、体重、投与形態・塩の種類、疾患の具体的な種類等に応じて、製剤学的な有効量を適宜選ぶことができる。投与量の一例を挙げると、経口投与の場合、通常、成人において、有効成分量として0.001〜1000mg/kg程度が適当であり、これを1日1回〜数回に分けて投与すればよい。
【0044】
また、本発明のβ−セクレターゼ阻害剤は、強いβ−セクレターゼ阻害活性を有することから、例えば、入浴剤、石鹸、芳香剤、アロマテラピー用エッセンシャルオイル、香水、整髪料等の製品に加えて用いることができる。
【0045】
本発明のβ−セクレターゼ阻害剤は、各製品全体に対し、通常0.001〜100重量%程度(好ましくは、0.1〜5重量%程度)含有していればよい。
【0046】
本発明のβ−セクレターゼ阻害剤を含む上記の製品を用いた場合には、精油の香りによるリラクゼーション効果、リフレッシュ効果が発揮され、またストレスの多い現代社会において心身の癒し効果が発揮される。上記の製品を、高齢者、病人などが生活する環境で用いることにより、老人性痴呆症の予防・改善効果も発揮される。もちろん、使用する精油又は精油成分が有している効果、例えば、防腐効果、抗菌効果等も発揮される。
【0047】
また、本発明のβ−セクレターゼ阻害剤は、アロマテラピー用エッセンシャルオイルとして用いた場合、他の天然植物精油と混合して用いることもできる。また、該アロマテラピー用エッセンシャルオイルを所定の場所に撒布、拡散して、吸入し得る形態で使用することもできる。該オイルは、拡散器(ディフューザー)等を用いて撒布、拡散してもよい。撒布・拡散場所としては、例えば、家庭の部屋内、ホテルの部屋、会議室、病室の他、人の集まる催し物会場、休憩広場、各種リラクゼーション施設等に撒布することができる。特に、老人性痴呆症の患者が生活する病院、施設などで用いることが好ましい。
【0048】
また、本発明のβ−セクレターゼ阻害剤は、食品添加剤として、例えば、清涼飲料、乳製品(加工乳、ヨーグルト)、菓子類(ゼリー、チョコレート、ビスケット、ガム、錠菓)等の各種飲食品に配合することもできる。
【0049】
食品添加剤として用いる場合には、その添加量については、特に限定的ではなく、食品の種類に応じ適宜決めればよい。一例としては、上記した抽出物の乾燥重量として、含有量が0.0005重量%〜50重量%程度の範囲内となるように添加すればよい。
【実施例】
【0050】
以下、実施例を示して本発明を更に詳細に説明する。
【0051】
実施例1(β−セクレターゼ阻害活性試験)
β−セクレターゼ阻害活性を、PanVera社から購入したBACE1(組換えヒトBACE1)アッセイキットを用いて評価した。評価試験は、メーカーが作製したキットの取扱説明書の記載を改変した方法(Jeon S.Y., et al., Bioorg. Med. Chem. Lett. 13: 3905-3908 (2003))に従って行った。以下、簡単に説明する。
【0052】
10μLのBACE1(1.0U/ml)、10μLの基質(50mM 重炭酸アンモニウム中の750nM Rh-EVNLDAEFK-Quencher)、及び10μLの試料溶液(試料を30%DMSOに溶かした溶液)を混合して試験試料とした。また、上記試料溶液の替わりに10μLのアッセイバッファー(30%DMSO含有、50mM 酢酸ナトリウム、pH4.5)を加えたものをコントロールとした。これらを暗所において室温で60分間インキュベーションした後に、550nmの波長の光を照射して励起させ、590nmの波長における発光強度を測定した。
【0053】
β−セクレターゼ活性の阻害パーセントを以下の式;
セクレターゼ活性(%)=[1−{(S−S)/(C−C)}]×100
(式中、Cは60分間のインキュベーション後のコントロール(酵素、バッファー、及び基質)の発光強度を示し、Cは0時におけるコントロールの発光強度を示し、Sはインキュベーション後の試験試料(酵素、試料溶液、及び基質)の発光強度を示し、Sは0時における試料の発光強度を示す)に従って計算した。全データは、3回の試験結果の平均である。
【0054】
試料(下記の精油成分及び精油)は和光純薬工業株式会社、東京化成工業株式会社、シグマアルドリッチジャパン株式会社、山本香料株式会社、塩野香料株式会社、三栄源エフ・エフ・アイ株式会社等から市販および流通しているものを使用した。
【0055】
2−カレン、3−カレン、サビネン、(−)−フェンコン、(+)−フェンコン、(−)−カンファー、(+)−カンファー及びメントールを用いた結果を図1に、シトロネリルアセテート、ネリルアセトン、ジヒドロミルセニルアセテート、ゲラニルアセトン、β−イオノン、ゲラニルアセテート、セドリルアセテート及びセドロールを用いた結果を図2に、ネリルアセテート、1,4−シネオール、1,8−シネオール、オイゲノール及びイソオイゲノールを用いた結果を図3に、ハッカ油、ティートゥリー油、クローブ油及びスギ油を用いた結果を図4に示す。
【0056】
図1の結果から、2−カレン、3−カレン、サビネン、(−)−フェンコン、(+)−フェンコン、(−)−カンファー、及び(+)−カンファーは強いβ−セクレターゼ阻害活性を示すが、メントールは、ほとんどβ−セクレターゼ阻害活性を示さないことがわかった。
【0057】
図2の結果から、シトロネリルアセテート、ネリルアセトン、ジヒドロミルセニルアセテート、ゲラニルアセトン、β−イオノン、ゲラニルアセテート及びセドリルアセテートは強いβ−セクレターゼ阻害活性を示すが、セドロールは、ほとんどβ−セクレターゼ阻害活性を示さないことがわかった。
【0058】
図3の結果から、ネリルアセテート、1,4−シネオール、1,8−シネオール、オイゲノール及びイソオイゲノールは、強いβ−セクレターゼ阻害活性を示すことがわかった。
【0059】
図4の結果から、4つの精油の中では、クローブ油及びティートゥリー油が強いβ−セクレターゼ阻害活性を示すことがわかった。それに対して、ハッカ油は、クローブ油及びティートゥリー油に比べて弱いβ−セクレターゼ阻害活性しか示さず、スギ油はほとんどβ−セクレターゼ阻害活性を示さなかった。
【0060】
また、上記以外の70種以上の精油成分について同様の試験を行ったが、顕著なβ−セクレターゼ阻害活性を示すものはなかった(データ示さず)。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
分子中に、炭素−炭素二重結合、カルボニル基、エーテル結合及びエステル結合からなる群から選択される少なくとも1種の官能基を含む精油成分、又は該精油成分が含まれる精油を有効成分として含有するβ−セクレターゼ阻害剤。
【請求項2】
前記精油成分が、双環性モノテルペン炭化水素、双環性モノテルペンケトン若しくはエーテル、炭素数13の単環性ケトン、鎖状モノテルペンアルコール若しくは三環性セスキテルペンアルコールのエステル若しくはケトン体、又はフェニルプロパノイドである、請求項1に記載のβ−セクレターゼ阻害剤。
【請求項3】
前記精油成分が、2−カレン、3−カレン、サビネン、(+)−及び(−)−カンファー、(+)−及び(−)−フェンコン、1,8−シネオール、1,4−シネオール、β−イオノン、ゲラニルアセトン、ゲラニルアセテート、ネリルアセトン、ネリルアセテート、ジヒドロミルセニルアセテート、シトロネリルアセテート、セドリルアセテート、オイゲノール、並びにイソオイゲノールからなる群から選択される少なくとも1種である、請求項1又は2に記載のβ−セクレターゼ阻害剤。
【請求項4】
前記精油成分が、(+)−及び(−)−カンファー、(+)−及び(−)−フェンコン、ゲラニルアセトン並びにゲラニルアセテートからなる群から選択される少なくとも1種である、請求項3に記載のβ−セクレターゼ阻害剤。
【請求項5】
前記精油が、精油成分としてオイゲノールが含まれるクローブ油、及び精油成分として1,8−シネオールが含まれるティートゥリー油からなる群から選択される少なくとも1種である、請求項1〜4のいずれかに記載のβ−セクレターゼ阻害剤。
【請求項6】
請求項1〜5のいずれかに記載のβ−セクレターゼ阻害剤を含有する老人性痴呆症の予防又は治療薬。
【請求項7】
請求項1〜5のいずれかに記載のβ−セクレターゼ阻害剤を含有するアルツハイマー型痴呆症の予防又は治療薬。
【請求項8】
老人性痴呆症の予防又は治療薬の製造のための請求項1〜5のいずれかに記載のβ−セクレターゼ阻害剤の使用。
【請求項9】
老人性痴呆症の患者に、薬剤学的有効量の請求項1〜5のいずれかに記載のβ−セクレターゼ阻害剤を投与することを特徴とする老人性痴呆症の予防又は治療方法。
【請求項10】
請求項1〜5のいずれかに記載のβ−セクレターゼ阻害剤を含有する芳香剤。
【請求項11】
請求項1〜5のいずれかに記載のβ−セクレターゼ阻害剤を含有するアロマテラピー用エッセンシャルオイル。
【請求項12】
請求項1〜5のいずれかに記載のβ−セクレターゼ阻害剤からなる食品添加剤。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2010−254607(P2010−254607A)
【公開日】平成22年11月11日(2010.11.11)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−105327(P2009−105327)
【出願日】平成21年4月23日(2009.4.23)
【出願人】(000125347)学校法人近畿大学 (389)
【出願人】(507155317)アットアロマ株式会社 (4)
【Fターム(参考)】