説明

しわ形成予防剤

【課題】しわの形成を予防又は改善することのできる薬剤又は化粧料を提供すること。
【解決手段】金属依存型エラスチン分解酵素阻害剤を有効成分とするしわ形成予防剤。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はしわ形成予防剤に関し、さらに詳細には皮膚の老化によって生じるしわの発生を防止又は改善することのできるしわ形成予防剤に関する。
【背景技術】
【0002】
皮膚が老化することにより生じる外観変化の代表例としては、しわ、たるみの発生、はりの減少、色素沈着、色調変化などがある。このうち、色素沈着については、研究が進み、各種の美白剤が開発され、市販されている。
【0003】
ところで、しわの発生については、充分に研究が進んでいるとはいえないのが現状である。例えばコラーゲンを配合した化粧料が用いられているが、充分なしわ形成防止効果は得られていない。
【0004】
しわの発生については、特に紫外線との関連性が強いとされており、紫外線照射により生じた皮膚の老化を光老化と称して、種々研究されている。しかし、未だ紫外線吸収剤又は紫外線防禦剤に代わる化粧料が開発されていないのが現状である。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
従って、本発明の目的はしわの形成を予防又は改善することのできる薬剤又は化粧料を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
そこで、本発明者らは、しわの形成とエラスチンとの関係に着目し、種々検討してきたところ、従来、皮膚の老化、特に光老化によって真皮のエラスチンは顕著に増加する〔例えば、J. Inrest. Dermatol., 82:587-590(1984)、同91:158-161(1988)、同103:182-186(1994)〕といわれていることから、エラスチンを減少させることがしわの防止につながると考えられてきた。一方、エラスチン分解酵素としては通常好中球由来のものが用いられており、該好中球由来のエラスチン分解酵素に対する阻害剤を用いた実験では、しわの形成に対する防止効果は全く認められなかった。そこで、さらに研究を続けた結果、エラスチン分解酵素にはセリンプロテアーゼに属するものと金属依存型プロテアーゼに属するものとがあるが、そのうち、金属依存型のエラスチン分解酵素に対する阻害剤を投与した場合にのみしわの発生が有意に防止できることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0007】
すなわち、本発明は金属依存型エラスチン分解酵素に対する阻害剤を有効成分とするしわ形成予防剤を提供するものである。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、皮膚の老化に伴なうしわの形成を防止又は改善することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
本発明に用いられる金属依存型エラスチン分解酵素阻害剤としては、金属依存型エラスターゼ阻害剤、特に真皮線維芽細胞由来の金属依存型エラスターゼ阻害剤が好ましい。このような阻害剤としては、例えば培養ヒト線維芽細胞から0.1%トリトン X−100/0.2M トリス−塩酸緩衝液(pH8.0)で抽出した酵素液を用い、N−サクシニル−Ala−Ala−Ala−p−ニトロアニリドを基質とした酵素活性測定系において1mMで50%以上の阻害活性を示す物質が挙げられる。
【0010】
このような金属依存型エラスチン分解酵素阻害剤の例としては、例えばホスホン酸誘導体、メルカプトプロピオンアミド誘導体等が挙げられる。
【0011】
ホスホン酸誘導体としては、次の一般式(1)
【0012】
【化1】

【0013】
(式中、R1 、R2 及びR3 は水素原子、置換基を有していてもよい炭化水素基又は置換基を有していてもよい糖残基を示す)
で表される化合物が挙げられる。
【0014】
上記式(1)中、R1 、R2 及びR3 で示される置換基を有していてもよい炭化水素基としては、飽和炭化水素基及び不飽和炭化水素基のいずれでもよく、アルキル基、アルケニル基、アルキニル基、環状アルキル基、環状アルケニル基、芳香族炭化水素基、アラルキル基等が挙げられる。これらの炭化水素基は、炭素数が1〜24のもの、特に1〜18のものが好ましい。
【0015】
前記炭化水素基のうち、アルキル基、環状アルキル基、芳香族炭化水素基又はアラルキル基が好ましい。ここで、アルキル基としては直鎖状又は分枝状の炭素数1〜12のアルキル基が好ましく、例えば、メチル基、エチル基、n−プロピル基、イソプロピル基、n−ブチル基、イソブチル基、sec−ブチル基、tert−ブチル基、n−ペンチル基、イソアミル基、tert−アミル基、n−ヘキシル基、n−オクチル基、n−デシル基、n−ドデシル基などが挙げられる。環状アルキル基としては5〜7員環の脂環状アルキル基が好ましく、シクロペンチル基、シクロヘキシル基、シクロヘプチル基等が挙げられる。芳香族炭化水素基としては、フェニル基、ナフチル基等の炭素数6〜14の芳香族炭化水素基が好ましい。アラルキル基としては炭素数6〜12の芳香族炭化水素基で置換された炭素数1〜5のアルキル基が好ましく、例えば、フェニルメチル(=ベンジル)基、2−フェニルエチル(=フェネチル)基、1−ナフチルメチル基、2−ナフチルメチル基、2−(1−ナフチル)エチル基、2−(2−ナフチル)エチル基、3−フェニルプロピル基などが挙げられる。
【0016】
また、これらの炭化水素基に置換し得る基としては、ハロゲン原子、ヒドロキシル基、アルコキシル基、アシル基、保護されていてもよいアミノ基、複素環式基等が挙げられる。ここでハロゲン原子としては塩素原子、臭素原子、ヨウ素原子等が挙げられる。アルコキシル基としては、炭素数1〜12のアルコキシル基が好ましく、例えばメトキシ基、エトキシ基、イソプロポキシ基等が挙げられる。アシル基としては、炭素数1〜12のアルカノイル基が好ましく、例えばアセチル基、プロピオニル基、ブチリル等が挙げられる。保護されていてもよいアミノ基としては、アミノ基、アシルアミノ基、アルキルアミノ基、ジアルキルアミノ基等が挙げられる。複素環式基としては、ヘテロ原子として窒素原子、酸素原子及び/又は硫黄原子を1〜3個有する5〜14員の単環又は縮合環の基が好ましく、例えばピリジル基、ピリダジニル基、フリル基、チエニル基、インドリル基、チアゾリル基、イミダゾリル基、ベンゾフリル基、ベンゾチエニル基等が挙げられる。
【0017】
糖残基としては、単糖残基又はオリゴ糖残基が挙げられる。またこれらの糖残基に置換し得る基としては、アルキル基、アシル基、アラルキル基等が挙げられる。ここでアルキル基、アシル基、アラルキル基としては前記と同様のものが挙げられる。
【0018】
これらのホスホン酸誘導体は、例えば特開平5−105698号公報に記載の方法によって製造することができる。
【0019】
メルカプトプロピオンアミド誘導体としては、例えば次の一般式(2)
【0020】
【化2】

【0021】
(式中、R4 は水素原子又はアシル基を示し、R5 は水素原子又は置換基を有していてもよい炭化水素基を示し、R6 は水素原子、カルボキシル基、アルコキシカルボニル基、置換基を有していてもよい炭化水素基、置換基を有していてもよい複素環式基又はアシル基を示し、nは1〜20の数を示す)
で表される化合物が挙げられる。
【0022】
上記式(2)中、R4 及びR6 で示されるアシル基としては、アルカノイル基及びアリールカルボニル基が挙げられる。当該アルカノイル基としては炭素数1〜12のアルカノイル基が好ましく、例えばアセチル基、プロピオニル基、ブチリル基等が挙げられる。またアリールカルボニル基としては、炭素数7〜15のアリールカルボニル基が好ましく、例えばベンゾイル基、置換ベンゾイル基、ナフチルカルボニル基、置換ナフチルカルボニル基等が挙げられる。ここでベンゾイル基やナフチルカルボニル基に置換する基としてはアルキル基、アルコキシ基、ハロゲン基、アミノ基、ヒドロキシ基、アルカノイルオキシ基等が挙げられる。
【0023】
5 及びR6 で示される置換基を有していてもい炭化水素基としては、前記R1 、R2 及びR3 と同様のものが挙げられる。
【0024】
6 で示される複素環式基としては、ヘテロ原子として窒素原子、酸素原子及び/又は硫黄原子を1〜3個有する5〜14員の単環又は縮合環の基が好ましく、例えばピリジル基、ピリダジニル基、フリル酸、チエニル基、インドリル基、チアゾリル基、イミダゾリル基、ベンゾフリル基、ベンゾチエニル基、ピロリジニル基、ピペリジニル基、モルホリニル基、ピペラジニル基が挙げられる。また、当該複素環式基に置換し得る基としては、ハロゲン原子、ヒドロキシル基、アルコキシル基、アシル基、保護されていてもよいアミノ基等が挙げられる。これらの置換基の具体例としては前記R1 、R2 及びR3 の炭化水素基の置換基と同様のものが挙げられる。
【0025】
6 で示されるアルコキシカルボニル基としては、炭素数1〜12のアルコキシカルボニル基が挙げられ、その具体例としてはメトキシカルボニル基、エトキシカルボニル基、イソプロポキシカルボニル基、ブトキシカルボニル基等が挙げられる。
【0026】
これらのメルカプトプロピオンアミド誘導体は、例えば特開昭57−24354号公報に記載の方法によって製造することができる。なお、これらのメルカプトプロピオン酸誘導体に哺乳類コラゲナーゼ抑制作用があることが知られているが、金属依存型エラスチン分解酵素阻害作用があることは全く知られていない。
【0027】
また前記ホスホン酸誘導体及びメルカプトプロピオンアミド誘導体は、薬学的に許容される塩や水和物の形態で用いてもよい。
【0028】
本発明のしわ形成予防剤は、皮膚の老化によるしわの発生に対して予防又は改善作用を有する。
【0029】
本発明しわ形成予防剤の投与形態としては皮膚外用剤、経口剤などが挙げられるが、皮膚外用剤とするのが好ましい。皮膚外用剤とする場合の金属依存型エラスチン分解酵素阻害剤の配合量は、特に制限されないが、全組成に対し0.00001〜10重量%、特に0.0001〜5重量%とするのが好ましい。
【0030】
本発明しわ形成予防剤には、金属依存型エラスチン分解酵素阻害剤以外に紫外線吸収剤、紫外線防禦剤、コラーゲン、保湿剤、抗炎症剤、抗酸化剤等の成分を配合することができるが、特に紫外線吸収剤及び/又は紫外線防禦剤を配合するのが好ましい。
【0031】
ここで、紫外線吸収剤としては、p−メトキシ桂皮酸2−エチルヘキシル等が挙げられる。紫外線防禦剤としては、酸化チタン、酸化亜鉛等が挙げられる。保湿剤としては、ヒアルロン酸、セラミド類等が挙げられる。また抗炎症剤としては、アラントイン、グリチルリチン等が挙げられる。
【0032】
これらの紫外線吸収剤、紫外線防禦剤、コラーゲン、保湿剤、抗炎症剤、抗酸化剤等は、本発明のしわ形成予防剤中に0.001〜99重量%、特に0.001〜50重量%配合するのが好ましい。
【0033】
本発明のしわ形成予防剤の具体的な剤型としては、クリーム、軟膏、ゲル、ローション、溶液、パック、ファンデーション等が挙げられ、これらの剤型とするにあたって各種油剤、界面活性剤、ゲル化剤、防腐剤、酸化防止剤、溶剤、アルコール、キレート剤、増粘剤、色素、香料、水等を配合することができる。
【実施例】
【0034】
次に実施例を挙げて本発明をさらに詳細に説明するが、本発明はこれに限定されるものではない。
【0035】
実施例1 培養ヒト線維芽細胞のエラスターゼ活性抑制試験
大日本製薬社より市販されている正常ヒト線維芽細胞は10%牛胎児血清を含むDME培地で継代培養し、本試験に供した。ラバーポリスマンを用いてシャーレからはがした細胞は、生理食塩水中に浮遊させ、低速の遠心分離器を使って細胞を集め、生理食塩水で、3回洗浄した。細胞は0.1% トリトン X−100/0.2M トリス−塩酸緩衝液(pH8.0)に浮遊させ、超音波破砕し、酵素液とした。酵素活性測定の基質には125mM N−スクシニル−Ala−Ala−Ala−p−ニトロアニリドを用い、酵素液+サンプル100μlに1μl添加し、37℃で1時間反応させ、5μlの酢酸を加えて反応を停止させた。生成したニトロアニリン量は分光光度計で、405nmにおける吸光度を測定し、求めた。
サンプル濃度を変えて、酵素活性抑制率をプロットし、50%抑制濃度(IC50)を求めた。結果を表1に示す。
【0036】
【表1】

【0037】
【化3】

【0038】
表1から明らかなように好中球由来のセリンプロテアーゼ型エラスターゼ阻害剤として知られている化合物4は、金属依存型エラスターゼであるヒト線維芽細胞由来の酵素に対しては抑制作用を示さなかった。これに対し、化合物1、2及び3は金属依存型エラスターゼを強力に抑制した。
【0039】
実施例2 ヘアレスマウスによるしわ形成抑制試験
ヘアレスマウス(HR/ICR,実験開始時6週齢)の背部に、健康線用ランプ(東芝製、SE20)で、1回の照射量が1MED以下となるように調節してUV−B光の照射を行い、直後にサンプルを含む80%エタノール溶液を100μlを塗布した。この作業を20週間にわたって行った。照射エネルギー量はUV−Radiometer(TOKYOOPTICAL社製、UVR−305/365D)を用いて測定した。また、コントロールとして80%エタノールのみを塗布したものをサンプルと同様に試験した。試験終了後、形成されたしわの度数を肉眼により下記の基準(しわ指数)で評価した。結果を表2に示す。
【0040】
<しわ指数>
0:しわが無形成
1:しわがかすかに形成
2:しわが微量形成
3:しわが若干形成
4:しわが強固に形成
【0041】
【表2】

【0042】
表2から明らかなように、セリンプロテアーゼに属するエラスターゼ阻害剤はしわ形成抑制作用を示さなかったが、金属プロテアーゼに属するエラスターゼ阻害剤は優れたしわ形成抑制作用を示した。
【0043】
次に、金属依存型エラスチン分解酵素阻害剤を配合した、しわ形成抑制用の外用剤の処方例を示す。
【0044】
実施例3 クリーム
(成分) (重量%)
化合物1 2
スクワラン 5
ステアリン酸 2
グリセリンモノステアレート 10
エタノール 2
パラオキシ安息香酸メチル 0.2
セタノール 2
オリーブ油 4
ワセリン 5
グリチルリチン酸 1
ビタミンE 0.5
セラミド 5
香料 微量
色素 微量
精製水 残量
計 100.0
【0045】
実施例4 スキンローション
(成分) (重量%)
化合物2 1
グリセリンモノステアレート 1
エタノール 15
プロピレングリコール 4
イソプロピルパルミテート 3
ラノリン 1
パラオキシ安息香酸メチル 0.1
セラミド 1
香料 微量
色素 微量
精製水 残量
計 100.0
【0046】
実施例5 パック剤
(成分) (重量%)
化合物3 3
ポリビニルアルコール 20
グリセリン 5
エタノール 16
香料 微量
色素 微量
精製水 残量
計 100.0
【0047】
実施例6 ファンデーション
(成分) (重量%)
化合物1 1
球状シリカビース 20
シリカ被覆セリサイト 45
超微粒子酸化チタン 10
黄酸化鉄 3
タルク 5
マイカ 5
ベンガラ 1
グンジョウ 1
パラベン 0.2
流動パラフィン 4.8
スクワラン 4
計 100.0

【特許請求の範囲】
【請求項1】
金属依存型エラスチン分解酵素に対する阻害剤を有効成分とするしわ形成予防剤。
【請求項2】
金属依存型エラスチン分解酵素が、真皮線維芽細胞由来のエラスチン分解酵素である請求項1記載のしわ形成予防剤。
【請求項3】
金属依存型エラスチン分解酵素に対する阻害剤が、培養ヒト線維芽細胞から0.1%トリトン X−100/0.2M トリス−塩酸緩衝液(pH8.0)で抽出した酵素液を用い、N−サクシニル−Ala−Ala−Ala−p−ニトロアニリドを基質とした酵素活性測定系において1mMで50%以上の阻害活性を示す物質である請求項1記載のしわ形成予防剤。
【請求項4】
投与形態が、皮膚外用剤である請求項1〜3のいずれか1項記載のしわ形成予防剤。
【請求項5】
さらに、紫外線吸収剤又は紫外線防禦剤を含有するものである請求項1〜4のいずれか1項記載のしわ形成予防剤。

【公開番号】特開2006−104209(P2006−104209A)
【公開日】平成18年4月20日(2006.4.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−341449(P2005−341449)
【出願日】平成17年11月28日(2005.11.28)
【分割の表示】特願平9−71698の分割
【原出願日】平成9年3月25日(1997.3.25)
【出願人】(000000918)花王株式会社 (8,290)
【Fターム(参考)】