説明

アモルファス窒化硼素薄膜及びその製造方法、並びに積層膜、透明プラスチックフィルム、及び有機EL素子

大気圧または大気圧近傍の圧力下、対向する電極間に反応性ガスを供給し、高周波電圧をかけることにより、該反応性ガスを励起状態とし、該励起状態の反応性ガスに基材を晒すことによって、下記一般式(1)で表される組成の薄膜を形成することを特徴とするアモルファス窒化硼素薄膜の製造方法。一般式(1)BN:H(式中、x、yは0.7≦x≦1.3、0≦y≦1.5を表す)

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
本発明はアモルファス窒化硼素薄膜及びその製造方法に関し、より詳しくは透明性が高く、水蒸気バリア性に優れ、表面硬度が高く、平面性の高いアモルファス窒化硼素膜及びその製造方法に関する。また、プラスチック基材との密着性の高いアモルファス窒化硼素膜またはその積層膜並びにそれを用いた透明プラスチックフィルム、有機EL素子に関する。
【背景技術】
従来液晶表示素子、有機EL表示素子、プラズマディスプレイ、電子ペーパー等の電子ディスプレイ素子用基板、或いはCCD、CMOSセンサー等の電子光学素子用基板、或いは太陽電池用基板としては、熱安定性、透明性の高さ、水蒸気透過性の低さからガラスが用いられてきた。しかし、最近携帯電話或いは携帯用の情報端末の普及に伴い、それらの基板用として割れ易く比較的重いガラスに対し、屈曲性に富み割れにくく軽量な基板が求められるようになった。
このような基板としてプラスチック基板が有利であるが、プラスチック基板はガス透過性を有しているため、特に有機エレクトロルミネッセンス表示装置のように、水分や酸素の存在で破壊され性能が低下してしまう用途には適用が難しく、如何に封止するかが問題になっていた。
こうした水蒸気や酸素の透過を抑制するために、各種ガスがプラスチック基板を透過することを抑制する層(ガスバリア膜)を設けることが知られており、そのような層としては、酸化珪素膜、窒化珪素膜、酸窒化珪素膜、炭化珪素膜、酸化アルミニウム膜、酸窒化アルミニウム膜、酸化チタン膜、酸化ジルコニウム膜、窒化硼素膜、窒化炭素膜、ダイヤモンドライクカーボン膜などが知られている。また、これらのガスバリア性の高い無機薄膜と柔軟な有機薄膜を積層するガスバリア膜なども知られている(例えば、特許文献1参照。)。
これらのセラミックス膜の中でも、立方晶窒化硼素(c−BN)膜は高硬度(5400kg/mm)、高透明性(バンドギャップ約8eV)、高い化学的安定性をもつことから、プラスチックフィルム等の表面保護膜として期待が持たれている。
このようなc−BN薄膜を成膜する方法としては、スパッタリング法、プラズマCVD法などが知られている。
例えば特開平11−12717では、スパッタリング法によって1×10−7Torr(約1.3×10−10気圧)下、基板温度600℃でc−BN(立方晶窒化硼素)膜を形成している。また特開2003−25476では、プラズマCVD法によって5Torr(約6.6×10−3気圧)下、基板温度500℃でc−BN膜を形成している。
このように、c−BNを生成するためには高い温度が必要であり、実質上プラスチック基板への製膜は不可能であった。
しかしながら、窒化硼素の結晶構造は立方晶以外にも菱面体晶(r−BN)、六方晶(h−BN)、ウルツ鉱型(w−BN)が知られており、更にアモルファス(非晶質)の窒化硼素(a−BN)も知られている。これらの窒化硼素は、c−BNほどの高性能の薄膜を得ることは出来ないが、用途によっては十分な性能の薄膜を得ることが出来る。
最も簡単に得ることが出来るのはa−BNであり、中でも基材温度が低温でも製膜できる方法としてプラズマCVD法が知られている。
例えば、特許文献2では、0.036Pa(3.6×10−7気圧)下、150℃で製膜している。特許文献3では、5×10−6Torr(6.6×10−9気圧)下、200℃以下で、特許文献4では、2Torr(2.6×10−3気圧)下、150℃で製膜している。
このように、これらの方法では窒化硼素膜形成の低温化は達成されているものの、やはり高い真空度が必要とされており、装置が複雑かつ大掛かりであり、生産性が低く、窒化硼素薄膜の付与は高価なものとなっていた。
尚上記特許文献における窒化硼素膜形成の目的としては、耐熱性半導体、透明良熱伝導体、耐摩耗性膜、耐酸化保護膜、耐熱性低誘電率膜であり、ガスバリア性及びその耐久性については何の記載もされていない。また、組成の異なるアモルファス窒化硼素膜を積層することについては何ら記載がない。
【特許文献1】国際公開特許WO00/36665号パンフレット
【特許文献2】特開平5−239648号公報
【特許文献3】特開平8−41633号公報
【特許文献4】特開2001−15496号公報
【発明の開示】
本発明の目的は、真空プロセスを用いず、生産性の高い方法によって透明で高いガスバリア性を有するアモルファス窒化硼素薄膜及びその製造方法を提供すること、および、プラスチック基材との密着性の高いアモルファス窒化硼素膜またはその積層膜並びにそれを用いた透明プラスチックフィルム及び有機EL素子を提供することにある。
本発明の上記目的は、大気圧または大気圧近傍の圧力下、対向する電極間に反応性ガスを供給し、高周波電圧をかけることにより、該反応性ガスを励起状態とし、該励起状態の反応性ガスに基材を晒すことを特徴とするアモルファス窒化硼素薄膜の製造方法により達成される。
【図面の簡単な説明】
第1図はプラズマ放電処理室の一例を示す図である。
第2(a)図および第2(b)図はロール電極の一例を示す図である。
第3(a)図および第3(b)図は固定電極の概略斜視図である。
第4図は角型の固定電極をロール電極25の周りに配設したプラズマ放電処理室を示す図である。
第5図はプラズマ放電処理室が設けられたプラズマ製膜装置を示す図である。
第6図はプラズマ製膜装置の別の一例を示す図である。
第7図は作製した有機EL表示装置の構成を示す断面図である。
本発明を実施するための最良の形態
本発明の上記目的は、以下の構成によって達成される。
(1) 大気圧または大気圧近傍の圧力下、対向する電極間に反応性ガスを供給し、高周波電圧をかけることにより、該反応性ガスを励起状態とし、該励起状態の反応性ガスに基材を晒すことによって、下記一般式(1)で表される組成の薄膜を形成することを特徴とするアモルファス窒化硼素薄膜の製造方法。
一般式(1) BN:H
(式中、x、yは0.7≦x≦1.3、0≦y≦1.5を表す)
(2) 前記高周波電圧が、1kHz〜2500MHzの範囲であって、かつ、供給電力が1W/cm〜50W/cmの範囲であることを特徴とする前記1に記載のアモルファス窒化硼素薄膜の製造方法。
(3) 前記高周波電圧が、1kHz〜1MHzの範囲の周波数の交流電圧と、1MHz〜2500MHzの周波数の交流電圧とを重畳させたことを特徴とする前記1または2に記載のアモルファス窒化硼素薄膜の製造方法。
(4) 前記反応性ガスが下記一般式(2)で表される置換または無置換のボラゾール類を含むことを特徴とする前記1〜3のいずれか1項に記載のアモルファス窒化硼素薄膜の製造方法。
一般式(2)

(R〜Rは水素原子、ハロゲン原子、アルキル基、またはアリール基を表す)
(5) 前記1〜4のいずれか1項に記載のアモルファス窒化硼素薄膜の製造方法によって製造された薄膜であって、該薄膜の透湿度が1.0g/m/d以下であることを特徴とする薄膜。
(6) 薄膜表面の鉛筆硬度が4H以上であることを特徴とする前記5に記載の薄膜。
(7) 薄膜表面の平均表面粗さが1.0nm以下であることを特徴とする前記5または6に記載の薄膜。
(8) 前記1〜4のいずれか1項に記載のアモルファス窒化硼素薄膜の製造方法によって製造された薄膜または前記5〜7のいずれか1項に記載の薄膜が、透明プラスチックフィルム上に形成されたことを特徴とする透明プラスチックフィルム。
(9) 大気圧または大気圧近傍の圧力下、対向する電極間に反応性ガスを供給し、高周波電圧をかけることにより、該反応性ガスを励起状態とし、該励起状態の反応性ガスに基材を晒すことにより形成された積層膜において、少なくとも第1のアモルファス窒化硼素薄膜上に、第2のアモルファス窒化硼素薄膜が積層され、前記第1のアモルファス窒化硼素薄膜はBN:H(y>0.3)、前記第2のアモルファス窒化硼素薄膜はBN:H(y≦0.3)であることを特徴とする積層膜。
(10) 前記9に記載の積層膜が透明プラスチックフィルム上に形成されたことを特徴とする透明プラスチックフィルム。
(11) 前記8または10に記載の透明プラスチックフィルムのガラス転移温度が、180℃以上であることを特徴とする透明プラスチックフィルム。
(12) 前記8、10、11のいずれか1項に記載の透明プラスチックフィルムが、主としてセルロースエステルから構成されていることを特徴とする透明プラスチックフィルム。
(13) 前記9に記載の積層膜が有機EL素子上に形成されたことを特徴とする有機EL素子。
以下本発明を実施するための最良の形態について詳細に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
本発明者は、上記課題に対し鋭意検討を行った結果、或る特定条件下では大気圧下でプラズマCVD法によるアモルファス窒化珪素膜の製膜が可能であることを見出し、かつ前記大気圧下でのプラズマCVD法で成膜されたアモルファス窒化硼素膜のガスバリア性が高く、更に表面硬度や平面性も良好であって、その製膜速度が真空下でのプラズマCVD法よりも製膜速度が高速であることを見出し、本発明を完成させるに至った。
近年、液晶或いは有機エレクトロルミネッセンス(EL)表示装置、電子光学デバイス等においては、割れ易く重いガラスよりも、フレキシブルで可撓性が高く割れにくく軽いためプラスチックフィルムのようなプラスチック基材の採用が検討されている。
しかるに、通常生産されているプラスチック基材は、水分や酸素の透過性が比較的高く、また、その内部に水分を含んでおり、例えばこれを有機エレクトロルミネッセンス表示装置に用いた場合、その水分が徐々に表示装置内に拡散し、拡散した水分の影響により表示装置等の耐久性が低下するというような問題が発生する。
これを避けるため、プラスチック基材に或る加工を施して水分の透過性を低下させ、また、含水率を下げることで、上記種々の電子デバイスに対応出来る基板を得ようという試みがされている。例えば、プラスチックフィルム上に、水蒸気透過性の低い例えばガラス、酸化珪素膜、窒化珪素膜、酸窒化珪素膜、炭化珪素膜、酸化アルミニウム膜、酸窒化アルミニウム膜、酸化チタン膜、酸化ジルコニウム膜、窒化硼素膜、窒化炭素膜、ダイヤモンドライクカーボン膜等の薄膜を形成させた複合材料を得る試み等がなされており、中でも酸化珪素膜が多く用いられている。
一方、表示装置用プラスチックフィルムにはガスバリア性以外にも、耐溶剤性、表面硬度なども求められている。
酸化珪素膜を付与することでプラスチックフィルムは表面硬度、液晶配向膜前駆体の溶剤であるN−メチルピロリドン等に対する耐薬品性が大きく向上するが、酸化珪素膜は耐アルカリ性やフッ化水素に対しての耐薬品性が不十分である。特に透明導電膜(インジウム−錫酸化物、ITO)パターニング後のレジスト剥離工程でアルカリ水溶液に晒されるため、耐アルカリ性の低いことが課題となっている。
一方窒化硼素膜は、高い耐薬品性と高い表面高度を有することが知られている。
しかしながら窒化硼素は難焼結性のセラミックスであり、蒸着やスパッタのターゲットとなる窒化硼素の作製は高温高圧での焼結を必要とし、また蒸着やスパッタで得られる窒化硼素膜も脆く剥がれやすい膜であった。
窒化硼素膜はプラズマCVD法によっても製膜が試みられているが、プラスチック基材上へも製膜可能な温度での報告は数が少ない。特開平5−239648号公報では、0.036Pa(3.6×10−7気圧)下、150℃で製膜している。特開平8−41633号公報では5×10−6Torr(6.6×10−9気圧)下、200℃以下で製膜している。特開2001−15496号公報では2Torr(2.6×10−3気圧)下、150℃で窒化硼素膜を製膜している。しかしこれらの製膜法で得られる窒化硼素はみなアモルファスの窒化硼素(a−BN)であり、セラミックスの中でも有数の表面硬度を有する立方晶窒化硼素(c−BN)ではない。
しかし特開平8−41633号公報によれば、アモルファスの窒化硼素でも9〜11GPaもの表面硬度が得られており(立方晶窒化硼素だと約53GPa)、これは実用上十分な表面硬度である。しかしながらこれら公報においてガスバリア性に関しては何ら記載がない。
本発明者が鋭意検討した結果、特定の条件下で作製したアモルファスの窒化硼素膜は高いガスバリア性を発揮することを見出し、前記課題を解決するに至った次第である。
本発明では、前記一般式(1)で表される、アモルファス窒化硼素膜をガスバリア膜として用いる。
前記一般式(1)で表されるような、硼素・窒素・水素・炭素から構成され、ある程度の構造欠陥を有し結晶化していない薄膜のことをアモルファス窒化硼素(a−BN、或いはa−BN:C:H)薄膜と称することとする。:C、:Hは、窒化硼素膜中に微量混入元素としてCまたはHが存在していることを示している。
アモルファス窒化硼素膜の硼素原子に対する、窒素原子、炭素原子の割合は、X線光電子分光法(ESCAまたはXPSとも呼ばれる)、X線マイクロ分光法、オージェ電子分光法、ラザホード後方散乱法などにより分析、決定される。これらの手法では水素原子の割合を測定することは出来ないが、x=1.0、y=0である窒化硼素膜以外ではある程度の割合で水素原子は膜中に存在していると推測される。
一般式(1)においてxが1に近く、yが小さいほど構造欠陥の少ない窒化硼素であることを表し、x=1.0、y=0で完全な(水素原子の存在しない)窒化硼素となるが、完全な窒化硼素では線膨張率が低く、支持体であるプラスチックフィルム(10〜100ppm/℃)との差が大きすぎ、冷熱サイクルを繰り返すうちに線膨張率の差からクラックが発生することがあるので好ましくない。
従って、ある程度の不純物を含んだ窒化硼素膜の方が線膨張率が大きく、プラスチックフィルムとの線膨張率の差が少ないため、ガスバリア性が十分であれば、むしろ不純物を含んだ窒化硼素膜の方が好ましい。
しかし窒化硼素膜中の不純物が多くなり、0.7≦x≦1.3、0≦y≦1.5の範囲から外れると、窒化硼素膜の網目構造が疎となりガスバリア性が低くなるため好ましくない。
尚、窒化珪素膜の表面硬度もアモルファス窒化硼素膜の不純物混入率により性能が左右される。前記一般式(1)において、xが1に近いほど、またyが小さいほど表面硬度は高くなる。逆に、x−1の絶対値が大きいほど、またyが大きくなるほど表面硬度は低くなる。また表面硬度が高く硬い(yが小さい)膜は折り曲げ等に対して脆く割れ易い膜であり、逆に表面硬度が低く柔らかい(yが大きい)膜は折り曲げに対して強い膜である。
従って、アモルファス窒化硼素膜に必要とされる物性によって、x、yは前述した範囲の中から選ぶことが出来る。
このようにして表面硬度を制御できるが、本発明に係るアモルファス窒化硼素膜表面の鉛筆硬度は4H以上であることが好ましい。
また、アモルファス窒化硼素膜単層で各物性を達成する必要はなく、性質の異なるアモルファス窒化硼素薄膜を複数層積層することで、目的とする性能のアモルファス窒化硼素薄膜を得ても良い。
特に柔らかい層は応力緩和層としても働くため、固い層と柔らかい層の積層構造とすることで、支持体であるプラスチックフィルムが折り曲げられたりしてしても全層に渡ってクラックが発生することを防ぎ、ガスバリア性の低下を防ぐ効果があるため、好ましいガスバリア性積層薄膜である。
このようなガスバリア性アモルファス窒化硼素膜を積層する好ましい例としては、例えば、基材に接する層は密着性を持たせるために柔らかい構造とし、次に基材にガスバリア性を持たせるために固い構造とし、更に応力緩和層として柔らかい層を有し、更にもう一層ガスバリア層兼ハードコート層として固い構造を有するような積層膜である。
即ち、積層膜において、第1のアモルファス窒化硼素薄膜上に、第2のアモルファス窒化硼素薄膜が積層される場合、基材表面側より該第1のアモルファス窒化硼素薄膜はBN:H(y>0.3)、次いで該第2のアモルファス窒化硼素薄膜はBN:H(y≦0.3)であるアモルファス窒化硼素薄膜を積層することが好ましい。
アモルファス窒化硼素膜は単層、または2層以上積層されてよいが、膜全体の厚みの合計は、しなやかさを保ち折り曲げに対する耐性を保つ点で10μm以下が好ましい。
また1層の厚みは、膜厚が厚いと曲げ応力などがかかった際に応力を緩和出来ずクラックが発生してしまうため、各層の厚みは500nm以下であることが好ましく、より好ましくは200nm以下である。また、5nmより薄くなると均一に膜を形成することが困難となるため好ましくない。
次に上記アモルファス窒化硼素膜を成膜する方法について説明する。
窒化硼素膜を得る方法としては、蒸着法、スパッタリング法、イオンプレーティング法のような物理的気相成長法(PVD法)と、プラズマCVD法などの化学的気相成長法(CVD法)が知られている。
しかし前述のように、アモルファス窒化硼素膜の物性を、成膜する原料を変化させずに層構成を自由に変化させることが出来る製膜方法は化学的気相成長法(CVD)に限られ、蒸着法やスパッタリング法、イオンプレーティング法などのような物理的気相成長法(PVD法)では同じチャンバー内で性質の違う膜を積層するためには原料であるターゲットを変更しなければならず、層構成を変化させることは困難である。またこれらは真空プロセスであるため生産性が低く好ましくない。
従って、積層膜を作製する製膜法としてはプラズマCVD法が好ましい。プラズマCVD法では、成膜する基材温度、プラズマに供給する電力、周波数により生成する窒化硼素膜の性質を変化させることが出来る。高温で製膜するほど、或いは高電力・高周波数の電界をかけるほど固くガスバリア性の高い膜となり、低温で製膜するほど、或いは低電力・低周波数の電界をかけるほど柔らかく線膨張率の大きい膜を作ることが出来る。
しかし、通常のプラズマCVD法は真空プロセスであり好ましくない。前記したように、特開平5−239648号公報では、0.036Pa(3.6×10−7気圧)下、特開平8−41633号公報では5×10−6Torr(6.6×10−9気圧)下、特開2001−15496号公報では2Torr(2.6×10−3気圧)下で製膜している。
しかし本発明者の検討の結果、特定の条件下においては大気圧または大気圧近傍のガス圧でもプラズマCVD法で窒化硼素膜の製膜が可能であることを発見した。大気圧近傍でのプラズマCVD法では、真空下のプラズマCVD法に比べ、減圧にする必要がなく生産性が高いだけでなく、プラズマ密度が高密度であるために製膜速度が速いという効果も見出され、真空下のプラズマCVD法よりも優れた製膜方法であることが明らかとなった。
また、大気圧下のプラズマCVD法によって得られた窒化硼素膜は、真空下のプラズマCVD法によって得られた窒化硼素膜よりも中心線平均表面粗さ(Ra)が小さい膜が得られるという驚くべき効果が明らかになった。詳細は不明であるが、プラズマ密度が高密度で高いエネルギーが印加され、気相成長した粒子同士の衝突頻度が高いため(平均自由行程が短いため)であると推測している。
本発明に係るアモルファス窒化硼素膜表面の中心線平均表面粗さ(Ra)は1.0mm以下であることが好ましい。
アモルファス窒化硼素膜の中心線平均粗さが小さいと、例えばこの層の上に透明導電膜などを付与する際に、膜厚の均一な透明導電膜を形成出来、面抵抗の低い透明導電膜を形成出来るようになる。また、フィルムのガスバリア性の均一性が高くなる。
以下更に、大気圧或いは大気圧近傍でのプラズマCVD法を用いたアモルファス窒化硼素からなる膜を形成する装置について詳述する。
本発明のアモルファス窒化硼素膜の形成方法で使用されるプラズマ製膜装置について、第1〜6図に基づいて説明する。図中、符号Fは基材の一例としての長尺プラスチックフィルムである。
本発明において好ましく用いられる放電プラズマ処理は大気圧または大気圧近傍で行われる。大気圧近傍とは、20kPa〜110kPaの圧力を表し、更に好ましくは93kPa〜104kPaである。
第1図は、プラズマ製膜装置に備えられたプラズマ放電処理室の1例を示す。第1図のプラズマ放電処理室10において、フィルム状の基材Fは搬送方向(図中、時計回り)に回転するロール電極25に巻き回されながら搬送される。ロール電極25の周囲に固定されている複数の固定電極26はそれぞれ円筒から構成され、ロール電極25に対向させて設置される。
プラズマ放電処理室10を構成する放電容器11はパイレックス(R)ガラス製の処理容器が好ましく用いられるが、電極との絶縁がとれれば金属製のものを用いることも可能である。例えば、アルミニウムまたはステンレスのフレームの内面にポリイミド樹脂等を貼り付けてもよく、該金属フレームにセラミックス溶射を行い絶縁性をとってもよい。
ロール電極25に巻き回された基材Fは、ニップローラ15、15、16で押圧され、ガイドローラ24で規制されて放電容器11内部に確保された放電処理空間に搬送され、放電プラズマ処理され、次いで、ニップローラ16、ガイドローラ27を介して次工程に搬送される。本発明では、真空系ではなくほぼ大気圧に近い圧力下で放電処理により製膜できることから、このような連続工程が可能となり、高い生産性を上げることが出来る。
尚、仕切板14、14は前記ニップローラ15、15、16に近接して配置され基材Fに同伴する空気が放電容器11内に進入するのを抑制する。この同伴される空気は、放電容器11内の気体の全体積に対し、1体積%以下に抑えることが好ましく、0.1体積%以下に抑えることがより好ましい。前記ニップローラ15及び16により、それを達成することが可能である。
尚、放電プラズマ処理に用いられる混合ガスは、給気口12から放電容器11に導入され、処理後のガスは排気口13から排気される。
ロール電極25はアース電極であり、印加電極である複数の固定電極26との間で放電させ、当該電極間に前述したような反応性ガスを導入してプラズマ状態とし、前記ロール電極25に巻き回しされた長尺フィルム状の基材を前記プラズマ状態の反応性ガスに晒すことによって、反応性ガス由来の膜を形成する。
前記電極間には、高いプラズマ密度を得て製膜速度を大きくし、更に炭素含有率を所定割合内に制御するため、高周波電圧で、ある程度大きな電力を供給することが好ましい。具体的には、1kHz以上、2500MHz以下の高周波の電圧を印加することが好ましく、更に1kHz〜1MHzの間のいずれかの周波数の電圧と、1MHz〜2500MHzの間のいずれかの周波数の電圧を重畳して印加することがより好ましい。
また、電極間に供給する電力の下限値は、1W/cm以上であることが好ましく、高いガスバリア性の窒化硼素膜を得るためには5W/cm以上であればより一層好ましいが、50W/cm以上では放電が不安定なアーク放電となることがあり、得られる窒化硼素膜の均一性が低下することがあるため、50W/cm以下が好ましい。また、1KHz〜1MHzの周波数の電圧と1MHz〜2500MHzの周波数の電圧を重畳する際には、1MHz〜2500MHzの電圧は1kHz〜1MHzの周波数の電圧よりも小さいことが好ましく、1kHz〜1MHzの電圧の2割〜8割の電圧であることが好ましい。尚、電極における電圧の印加面積(cm)は放電が起こる範囲の面積のことである。
また、電極間に印加する高周波電圧は、断続的なパルス波であっても、連続したサイン波であってもよいが、製膜速度が大きくなることから、サイン波であることが好ましい。
このような電極としては、金属母材上に誘電体を被覆したものであることが好ましい。少なくとも固定電極26とロール電極25のいずれか一方に誘電体を被覆すること、好ましくは、両方に誘電体を被覆することである。誘電体としては、非誘電率が6〜45の無機物であることが好ましい。
電極25、26の一方に固体誘電体を設置した場合の固体誘電体と電極の最短距離、上記電極の双方に固体誘電体を設置した場合の固体誘電体同士の距離としては、いずれの場合も均一な放電を行う観点から、0.3mm〜20mmが好ましく、特に好ましくは1mm±0.5mmである。この電極間の距離は、電極周囲の誘電体の厚さ、印加電圧の大きさを考慮して決定される。
また、基材を電極間に載置或いは電極間を搬送してプラズマに晒す場合には、基材を片方の電極に接して搬送出来るロール電極仕様にするだけでなく、更に誘電体表面を研磨仕上げし、電極の表面粗さRmax(JIS B 0601)を10μm以下にすることで誘電体の厚み及び電極間のギャップを一定に保つことが出来放電状態を安定化出来る。更に、誘電体の熱収縮差や残留応力による歪みやひび割れをなくし、かつ、ノンポーラスな高精度の無機誘電体を被覆することで大きく耐久性を向上させることが出来る。
また、金属母材に対する誘電体被覆による電極製作において、前記のように、誘電体を研磨仕上げすることや、電極の金属母材と誘電体間の熱膨張の差をなるべく小さくすることが必要であるので、母材表面に、応力を吸収出来る層として泡混入量をコントロールして無機質の材料をライニングすることが好ましい。特に材質としては琺瑯等で知られる溶融法により得られるガラスであることがよく、更に導電性金属母材に接する最下層の泡混入量を20〜30体積%とし、次層以降を5体積%以下とすることで、緻密かつひび割れ等の発生しない良好な電極が出来る。
また、電極の母材に誘電体を被覆する別の方法として、セラミックスの溶射を空隙率10vol%以下まで緻密に行い、更にゾルゲル反応により硬化する無機質の材料にて封孔処理を行うことが挙げられる。ここでゾルゲル反応の促進には、熱硬化やUV硬化がよく、更に封孔液を希釈し、コーティングと硬化を逐次で数回繰り返すと、より一層無機質化が向上し、劣化のない緻密な電極が出来る。
第2(a)図及び第2(b)図はロール電極25の一例としてロール電極25c、25Cを示したものである。
アース電極であるロール電極25cは、第2(a)図に示すように、金属等の導電性母材25aに対しセラミックスを溶射後、無機材料を用いて封孔処理したセラミック被覆処理誘電体25bを被覆した組み合わせで構成されているものである。セラミック被覆処理誘電体を1mm被覆し、ロール径を被覆後200φとなるように製作し、アースに接地する。溶射に用いるセラミックス材としては、アルミナ・窒化珪素等が好ましく用いられるが、この中でもアルミナが加工し易いので、更に好ましく用いられる。
或いは、第2(b)図に示すロール電極25Cの様に、金属等の導電性母材25Aへライニングにより無機材料を設けたライニング処理誘電体25Bを被覆した組み合わせから構成してもよい。ライニング材としては、珪酸塩系ガラス、硼酸塩系ガラス、リ酸塩系ガラス、ゲルマン酸塩系ガラス、亜テルル酸塩ガラス、アルミン酸塩系ガラス、バナジン酸塩ガラスが好ましく用いられるが、この中でも硼酸塩系ガラスが加工し易いので、更に好ましく用いられる。
金属等の導電性母材25a、25Aとしては、銀、白金、ステンレス、アルミニウム、鉄等の金属等が挙げられるが、加工の観点からステンレスが好ましい。
また、尚、本実施の形態においては、ロール電極の母材は冷却水による冷却手段を有するステンレス製ジャケットロール母材を使用している(不図示)。
更に、ロール電極25c、25C(ロール電極25も同様)は、図示しないドライブ機構により軸部25d、25Dを中心として回転駆動される様に構成されている。
第3(a)図には固定電極26の概略斜視図を示した。また、固定電極は、円筒形状に限らず、第3(b)図の固定電極36の様に角柱型でもよい。円柱型の電極26に比べて、角柱型の電極は放電範囲を広げる効果があるので、形成する膜の性質などに応じて好ましく用いられる。
固定電極26、36いずれであっても上記記載のロール電極25c、ロール電極25Cと同様な構造を有する。即ち、中空のステンレスパイプ26a、36aの周囲を、ロール電極25(25c、25C)同様に、誘電体26b、36bで被覆し、放電中は冷却水による冷却が行えるようになっている。誘電体26b、36bは、セラミック被覆処理誘電体及びライニング処理誘電体のいずれでもよい。
尚、固定電極は誘電体の被覆後12φまたは15φとなるように製作され、当該電極の数は、例えば上記ロール電極の円周上に沿って14本設置している。
第4図には、第3(b)図の角型の固定電極36をロール電極25の周りに配設したプラズマ放電処理室30を示した。第4図において、第1図と同じ部材については同符号を伏して説明を省略する。
第5図には、第4図のプラズマ放電処理室30が設けられたプラズマ製膜装置50を示した。第5図において、プラズマ放電処理室30の他に、ガス発生装置51、電源41、電極冷却ユニット55等が装置構成として配置されている。電極冷却ユニット55は、冷却剤の入ったタンク57とポンプ56とからなる。冷却剤としては、蒸留水、油等の絶縁性材料が用いられる。
第5図、第4図のプラズマ放電処理室30内の電極間のギャップは、例えば1mm程度に設定される。
プラズマ放電処理室30内にロール電極25、固定電極36を所定位置に配置し、ガス発生装置51で発生させた混合ガスを流量制御して、給気口12より供給し、放電容器11内をプラズマ処理に用いる混合ガスで充填し不要分については排気口より排気する。
次に電源41により固定電極36に電圧を印加し、ロール電極25はアースに接地し、放電プラズマを発生させる。ここでロール状の元巻き基材FFからロール54、54、54を介して基材が供給され、ガイドロール24を介して、プラズマ放電処理室30内の電極間をロール電極25に片面接触した状態で搬送される。このとき放電プラズマにより基材Fの表面が放電処理され、その後にガイドロール27を介して次工程に搬送される。ここで、基材Fはロール電極25に接触していない面のみ放電処理がなされる。
また、放電時の高温による悪影響を抑制するため、基材の温度を常温(15℃〜25℃)〜250℃未満、更に好ましくは常温〜200℃内で抑えられるように必要に応じて電極冷却ユニット55で冷却する。
また、第6図は、本発明の膜の形成方法で用いることが出来るプラズマ製膜装置60であり、電極間に載置できない様な性状、例えば厚みのある基材61上に膜を形成する場合に、予めプラズマ状態にした反応性ガスを基材上に噴射して薄膜を形成するためのものである。レンチキュラーレンズやフレネルレンズ、円筒等、非平面形状の基材上に形成する場合にも、このようなプラズマジェット方式による製膜方法が好ましい。
第6図のプラズマ製膜装置において、35aは誘電体、35bは金属母材、65は電源である。金属母材35bに誘電体35aを被覆したスリット状の放電空間に、上部から不活性ガス及び反応性ガスからなる混合ガスを導入し、電源65により高周波電圧を印加することにより反応性ガスをプラズマ状態とし、該プラズマ状態の反応性ガスを基材61上に噴射することにより基材61表面に膜を形成する。
第5図の電源41、第6図の電源65などの本発明の膜の形成に用いるプラズマ製膜装置の電源としては、特に限定はないが、神鋼電機製高周波電源(3kHz)、神鋼電機製高周波電源(5kHz)、神鋼電機製高周波電源(15kHz)、神鋼電機製高周波電源(50kHz)、ハイデン研究所製高周波電源(連続モード使用、100kHz)、パール工業製高周波電源(200kHz)、パール工業製高周波電源(800kHz)、パール工業製高周波電源(2MHz)、日本電子製高周波電源(13.56MHz)、パール工業製高周波電源(27MHz)、パール工業製高周波電源(150MHz)等を使用出来る。また、40MHz、54MHz、60MHz、80MHz、433MHz、800MHz、1.3GHz、1.5GHz、1.9GHz、2.45GHz、5.2GHz、10GHzを発振する電源を用いてもよい。また2種以上の周波数を重畳して用いても良い。その際の好ましい組み合わせとしては、1kHz〜1MHzの電源と、1MHz〜2500MHzの間の電源を重畳することが好ましい。
次に、アモルファス窒化硼素膜を得るために好ましい原料について説明する。アモルファス窒化硼素膜の原料としては、硼素を含む化合物と窒素を含む化合物を混合して用いる方法と、窒素と硼素の双方を含む化合物を用いる場合がある。
硼素源としては、ジボラン(B)、テトラボラン(B10)、フッ化硼素(BF)、塩化硼素(BCl)、臭化硼素(BBr)、ボラン−ジエチルエーテル錯体、ボラン−THF錯体、ボラン−ジメチルスルフィド錯体、三フッ化硼素ジエチルエーテル錯体、トリエチルボラン、トリメトキシボラン、トリエトキシボラン、トリ(イソプロポキシ)ボラン、等がある。
窒素源としては、窒素ガス(N)、アンモニア(NH)、メチルアミン、ジメチルアミン、トリメチルアミン、エチルメチルアミン、アセトニトリルなどがある。
しかしジボランや塩化硼素は危険で扱いにくく、また窒素と等量を合わせるのが困難であるため、硼素と窒素が1:1で含まれる化合物から窒化硼素膜を作製することが好ましい。
このような、硼素と窒素を等量含む化合物としては、ボラン−ジメチルアミン錯体、ボラン−トリエチルアミン錯体、ボラン−ジメチルアニリン錯体、ボラン−ピリジン錯体、ボラゾール、トリメチルボラゾール、トリエチルボラゾール、トリイソプロピルボラゾール、ボラゾナフタレン(B)、ボラゾビフェニル(B10)などがある。
中でも、既に窒素と硼素が3量化している、前記一般式(2)で表される置換または無置換のボラゾール類が好ましく用いられる。
これらボラゾール類は、大気圧下で常温〜100℃の範囲で十分な蒸気圧を有しているため、大気圧プラズマCVD法に適した原料化合物である。
このようなボラゾール類としては、例えば、ボラゾール、トリメチルボラゾール、トリエチルボラゾール、トリ−n−プロピルボラゾール、トリイソプロピルボラゾール、トリ−n−ブチルボラゾール、トリイソブチルボラゾール、トリ−t−ブチルボラゾール、トリフェニルボラゾールなどが挙げられる。またR〜Rが異なるボラゾール誘導体でも良く、例えば、メチルボラゾール、ジメチルボラゾール、メチルエチルボラゾール、ジメチルエチルボラゾール、メチルジエチルボラゾール、エチルボラゾール、ジエチルボラゾール、ジメチルイソプロピルボラゾール、メチルエチルフェニルボラゾール、等が挙げられる。
これらのボラゾール類の中でも好ましくは、ボラゾール、トリメチルボラゾールである。
これらの化合物は常温常圧で、気体、液体、固体いずれの状態であっても構わないが、気体の場合にはそのまま放電空間に導入出来るが、液体、固体の場合は、加熱、バブリング、減圧、超音波照射等の手段により気化させて使用する。また、溶媒によって希釈して使用してもよく、溶媒は、メタノール、エタノール、n−ヘキサンなどの有機溶媒及びこれらの混合溶媒が使用出来る。尚、これらの希釈溶媒は、プラズマ放電処理中において、分子状、原子状に分解されるため、影響は殆ど無視することが出来る。
更に、膜中の炭素、水素の含有率を調整するために前記の如く混合ガス中に水素ガス等を混合してもよく、これらの反応性ガスに対して、窒素ガス及び/または周期表の第18属原子、具体的には、ヘリウム、ネオン、アルゴン、クリプトン、キセノン、ラドン等、特に、ヘリウム、アルゴンが好ましく用いられるが、不活性ガスを混合し、混合ガスとしてプラズマ放電発生装置(プラズマ発生装置)に供給することで膜形成を行う。不活性ガスと反応性ガスの割合は、得ようとする膜の性質によって異なるが、混合ガス全体に対し、不活性ガスの割合を90.0〜99.9%として反応性ガスを供給する。
本発明に係わるアモルファス窒化硼素膜の膜厚は、プラズマ処理の時間を増やしたり、処理回数を重ねること、或いは、混合ガス中の原料化合物の分圧を高めることによって調整することが出来る。
大気圧プラズマCVD法により、炭素・水素含有率の異なるアモルファス窒化硼素膜を積層する方法としては、例えば第1図のプラズマ放電処理室の中を基材を搬送させ或る組成のアモルファス窒化硼素膜を設け、巻き取った後、更に上記プラズマ放電処理装置の条件を替えて製膜することを必要な回数だけ繰り返す方法、第1図のプラズマ放電処理室を複数台用意し、基材を搬送させそれぞれを通過するごとに1層ずつ複数層を設ける方法、基材を複数台のプラズマ放電処理装置に通し、基材の先頭と後尾をつなげ、搬送することにより各プラズマ放電処理装置で層を設けることを複数回行う方法等が挙げられる。
本発明のアモルファス窒化硼素薄膜を形成する透明プラスチック基材としては、実質的に透明であれば特に限定はなく、具体的には、ポリエチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレート等のポリエステル、ポリエチレン、ポリプロピレン、セロファン、セルロースジアセテート、セルローストリアセテート、セルロースアセテートブチレート、セルロースアセテートプロピオネート、セルロースアセテートフタレート、セルロースナイトレート等のセルロースエステル類またはそれらの誘導体、ポリ塩化ビニリデン、ポリビニルアルコール、ポリエチレンビニルアルコール、シンジオタクティックポリスチレン、ポリカーボネート、ノルボルネン樹脂、ポリメチルペンテン、ポリエーテルケトン、ポリイミド、ポリエーテルスルホン、ポリスルホン類、ポリエーテルケトンイミド、ポリアミド、フッ素樹脂、ナイロン、ポリメチルメタクリレート、アクリル或いはポリアリレート類、或いはこれらの樹脂とシリカ等との有機無機ハイブリッド樹脂等をあげることが出来る。
しかし大気圧プラズマCVD法により成膜されるアモルファス窒化硼素膜は、製膜温度が高いほどガスバリア性が高くなること、またディスプレイ用透明支持体として透明導電膜の形成等各種加熱プロセスをうけることがあるため、アモルファス窒化硼素膜を形成する樹脂は、高い耐熱性を有していることが好ましい。
耐熱性としては、ガラス転移温度が180℃以上であることが好ましい。このような条件を満たすプラスチック基材としては、一部のポリカーボネイト、一部のシクロオレフィンポリマー、ポリエーテルスルホン、ポリエーテルエーテルケトン、ポリイミド、フッ素樹脂、ジアセチルセルロース、トリアセチルセルロース、またこれらの樹脂とシリカの有機無機ハイブリッド樹脂等が挙げられる。
尚樹脂基材のガラス転移温度を測定する方法としてはDSC(示差走査熱量測定)、TMA(熱応力歪み測定)、DMA(動的粘弾性測定)などで測ることが出来る。
これらの内、高い透明性と低複屈折性、複屈折の正の波長分散特性を有する、ジアセチルセルロース、トリアセチルセルロース、またこれらとシリカの有機無機ハイブリッド樹脂が好ましい。
尚有機無機ハイブリッド樹脂(または有機−無機ポリマーコンポジットなどと呼ばれる)とは、有機ポリマーと無機化合物が組み合わされ、双方の特性が付与された材料のことである。有機ポリマーと混合させる無機物を、金属アルコキシドのような液体状態から合成する手法(ゾルゲル法と呼ばれる)を用いることで、生成する無機物の微粒子を可視光の波長以下(〜約750nm以下)のナノスケールで有機物中に分散することが可能となり、光学的にも透明で耐熱性も高い材料が得られるようになっている。
前記透明プラスチック基材は元々は透湿性を有する基材であるが、本発明に係るアモルファス窒化硼素膜をプラスチック基材上に形成することにより、基材表面の透湿性は大幅に低下する。本発明では、アモルファス窒化硼素膜の透湿度は、後述する有機EL素子への適用を考慮すると、1.0g/m/d以下であることが好ましい。
本発明において、プラスチック基材は直接プラズマ雰囲気に晒されるため、対プラズマエッチング層或いはハードコート層として、片面または両面に下引き層を有していてもよく、下引き層の具体例としては、ポリマーの塗布等により形成された有機層等があげられる。有機層としては例えば重合性基を有する有機材料膜に紫外線照射や加熱等の手段で後処理を施した膜を含む。
また、本発明に係わるアモルファス窒化硼素膜は、高いガスバリア性、高い表面硬度、高い平面性があるため、ディスプレイ用の透明プラスチックフィルム以外にも、これらの特徴を必要とされる物品に対して製膜を行うことで、そのような性能を付与することが出来る。
高いガスバリア性を必要とするものとして、有機エレクトロルミネッセンス(EL)素子がある。有機EL素子は、湿気に対し敏感なために封止が必要である。これらの素子を封止する膜としても本発明におけるアモルファス窒化硼素膜を用いることが出来る。
尚、有機エレクトロルミネッセンス素子(有機EL素子とも表記する)とは、陽極と陰極の一対の電極の間に発光層を挾持する構造をとる。具体的には、陰極と陽極からなる電極に電流を流した際に発光する有機化合物を含有する層のことを指す。陰極、発光層が水分に弱いため、有機EL素子を形成した後、陰極側の封止膜として、陰極状に直接、或いはエポキシ樹脂等で封止を行った更にその上に、本発明のアモルファス窒化硼素膜を形成することで、水分の浸透が抑えられ、有機EL表示装置の耐湿性がより一層向上し、ダークスポットの発生、成長を抑制することが出来、長寿命の有機EL素子を得ることが出来る。
【実施例】
以下、実施例により本発明を具体的に説明するが本発明はこれにより限定されるものではない。
合成例1〈ボラゾールの合成〉
マグネチックスターラー、ガス入口、滴下ロート及び−196℃に冷却されたトラップと接続されている還流冷却器を有する1L3つ首フラスコ系内を窒素ガスで置換した後、ホウ水素化ナトリウム41.1質量部及び塩化アンモニウム53.5質量部を入れた。滴下ロートにより、10分以内にトリエチレングリコールジメチルエーテル約500質量部を滴加した。反応は激しい熱と水素を発生しながら始った。次いで30分の後反応混合物を加熱装置で加熱し6時間還流で煮沸した。強い泡立を観測した。粗生物から50〜60℃で沸騰する成分を分留した。
収量:9.5質量部(理論値の35.3%)
nD20測定値:1.3822
nD20文献値:1.3821
合成例2〈トリメチルボラゾールの合成〉
マグネチックスターラー、ガス入口、滴下ロート及び−196℃に冷却されたトラップと接続されている還流冷却器を有する1L3つ首フラスコ系内を窒素ガスで置換した後、ホウ水素化ナトリウム41.1質量部及び塩化メチルアンモニウム67.5質量部を入れた。滴下ロートにより、10分以内にトリエチレングリコールジメチルエーテル約500質量部を滴加した。反応は激しい熱と水素を発生しながら始った。次いで30分の後反応混合物を加熱装置で加熱し6時間還流で煮沸した。強い泡立を観測した。粗成物から125〜135℃で沸騰する成分を分留した。
収量:19.9質量部(理論値の48.7%)
nD20測定値:1.4375
nD20文献値:1.4375
(20℃での屈折率は、J.Am.Chem.Soc.vol.77(1955),p864より抜粋した)
[実施例1]
厚さ80μmのジアセチルセルロースフィルムを製膜し、その上にハードコート層を形成し、更にその上にアモルファス窒化硼素膜を表1に記載の条件で形成し、下記の評価を行った。
〈ジアセチルセルロースフィルムの製膜〉
ミキシングタンクに、エタノール60質量部、塩化メチレン685質量部、ジアセチルセルロース100質量部と、を投入し、80℃で加熱しながら攪拌して溶解した。
得られたドープ(溶解液)を、バンド流延機を用いて流延し、残留溶媒量が50%となったところでバンド上から剥ぎ取り、ただちにテンターに搬送し、TD方向に30%、ついでMD方向に30%延伸を行ったのち、120℃で乾燥してジアセチルセルロースフィルムを得た。尚、膜厚は最終的に80μmとなるように調整した。
尚、得られたジアセチルセルロースフィルムのガラス転移温度をTMA(熱応力歪み測定装置)で測定したところ、203℃であった。また30℃から180℃までの平均線膨張率は27ppm/℃であった。
〈クリアハードコート層の作製〉
得られたジアセチルセルロースフィルム上に、下記ハードコート層塗布組成物が3μmの膜厚となるように押出しコーターでコーティングし、次いで80℃に設定された乾燥部で1分間乾燥した後、照度120mW/cm、照射量100mJ/cmの紫外線照射することにより形成した。
尚、このクリアハードコート層を付与したジアセチルセルロースフィルムの透湿度は840g/m/dであった。
〈クリアハードコート層塗布組成物〉
ジペンタエリスリトールヘキサアクリレート単量体 60質量部
ジペンタエリスリトールヘキサアクリレート2量体 20質量部
ジペンタエリスリトールヘキサアクリレート3量体以上の成分 20質量部
ジメトキシベンゾフェノン 4質量部
酢酸エチル 50質量部
メチルエチルケトン 50質量部
イソプロピルアルコール 50質量部
〈アモルファス窒化硼素膜の製膜〉
大気圧プラズマCVDによるアモルファス窒化硼素膜の形成は、それぞれ第4図に示すプラズマ放電処理室30を用い、プラズマ発生には、日本電子(株)製高周波電源JRF−10000またはハイデン研究所製高周波電源DHF−2Kを電源に用いて行い、アモルファス窒化硼素膜の原料としては、合成例1で合成したボラゾールを用い、下記の構成のガスを20slm、10℃で放電空間に送り込むことで製膜を行った。放電ガス種及びそれ以外の放電条件は、表1に記載した。
尚、各条件とも最初に製膜時間と膜厚の検量線を作成して製膜速度を算出し、再度膜厚が100nmとなるように製膜を行った。尚膜厚は、大塚電子製FE3000を用いて測定した。
放電ガス:ヘリウム、アルゴン、または窒素 99.3体積%
分解ガス:水素 0.5体積%
原料ガス:ボラゾール 0.2体積%
尚、比較例の製膜条件Hは、特開平5−239648の実施例4を参考として、真空ポンプを用いてプラズマ放電処理室を減圧したのち、下記の構成のガスを25℃で36mPaのガス圧となるように放電空間に送り込み、2450MHzのマイクロ波を電極間に印加し、真空ECRプラズマCVD製膜を行った。
放電ガス:アルゴン 75.0体積%
分解ガス:水素 18.0体積%
原料ガス:ボラゾール 7.0体積%
〈組成分析〉
VGサイエンティフィック社製X線光電子分光分析測定機(ESCA)を用いて、硼素、窒素、炭素の比率を測定した。
〈水蒸気透過率試験〉
JIS K7129に基づき、イリノイ・インスツルメンツ社製Model7000で測定した。(単位はg/m/d)
尚この装置の測定限界は0.005g/m/dである。
〈表面硬度の測定〉
表面硬度はJIS K5400に記載の、鉛筆硬度法試験に従って行った。評価は鉛筆の芯の硬度、9H〜2Bで表した。
〈中心線平均表面粗さの測定〉
窒化硼素膜表面を日本電子製JSM6100を用いて走査型電子顕微鏡写真を撮影し、中心線平均表面粗さRaを算出した。

表1から明らかなように、窒化硼素膜の製膜速度は印加電圧、印加周波数よりも放電ガスの条件によって大きく変わることがわかる。減圧下の製膜条件Hの製膜速度よりも大気圧下希ガスを放電ガスに用いた製膜条件A〜Dは3〜4倍速かった。これは大気圧下のプラズマ条件の方がプラズマ密度が高いためであると推測される。更に放電ガス種に窒素ガスを用いた製膜条件E〜Gは更に速い(減圧下Heの放電より約5〜7倍速い)ことがわかる。特に100KHz、13.56MHzの2つの周波数の電圧を重畳したF、Gの条件が最も早かった。これは各放電ガスによってプラズマ中でのイオン、ラジカルのエネルギー、発生密度が異なること、また窒素ガスの場合は窒素ガスが窒化硼素膜の窒素源ともなっているためではないかと推測される。
一方で製膜される膜の透湿度は印加電圧、製膜温度に依存し、高電圧・高周波・高温の製膜条件の方が透湿度を低く抑えられることが本発明A〜Gの放電条件の比較から認められる。ESCAでは水素の元素比まで測定出来ないため確認は出来ないが、高電圧・高周波・高温の製膜条件の方が水素が膜中に残りにくいためではないかと推測される。
また表面硬度についてはいずれも高い表面硬度の膜が得られたが、表面粗さについては、本発明の製膜条件A〜Gと比較例の減圧下の製膜条件Hの比較から、本発明の大気圧下の製膜条件の方が明らかに平滑性が高い膜が出来ていることがわかる。
以上のように、本発明の放電条件によれば、高い製膜速度で高いガスバリア性、高い表面硬度、表面平滑性が高い膜が得られるという効果を得ることが出来る。
[実施例2]
〈a−BN:C:H膜の製膜〉
実施例1と同様に、アモルファス窒化硼素膜の原料としては、合成例2で合成したトリメチルボラゾールを用い、下記の構成のガスを20slm、40℃で放電空間に送り込むことで製膜を行った。放電ガス種及びそれ以外の放電条件は、表2に記載した。
尚、各条件とも最初に製膜時間と膜厚の検量線を作成して製膜速度を算出し、再度膜厚が100nmとなるように製膜を行った。尚膜厚は、大塚電子製FE3000を用いて測定した。
放電ガス:ヘリウム、アルゴン、または窒素 99.3体積%
分解ガス:水素 0.5体積%
原料ガス:トリメチルボラゾール 0.2体積%
尚、比較例の製膜条件Nは、特開平5−239648の実施例4を参考として、真空ポンプを用いてプラズマ放電処理室を減圧したのち、下記の構成のガスを25℃で36mPaのガス圧となるように放電空間に送り込み、2450MHzのマイクロ波を電極間に印加し、真空ECRプラズマCVD製膜を行った。
分解ガス:アルゴン 75.0体積%
原料ガス:トリメチルボラゾール 25.0体積%

窒化硼素膜の原料としてボラゾールを用いた実施例1と異なり、トリメチルボラゾールを用いた場合は炭素も膜中に混入してくることがわかる。その結果、表面硬度の低い柔らかい膜となっており、透湿度も若干低下している。表面粗さに関しては、実施例1と同様に、大気圧下のプラズマCVD法で製膜した膜の方が優れていた。
また製膜速度も実施例1と同様の傾向を示しており、即ち、真空下のプラズマCVDより大気圧下のプラズマCVDの方が製膜速度が2〜6倍速く、生産性が高かった。
[実施例3]
実施例1で固い膜が得られる条件Gと、実施例2で柔らかい膜が得られる条件Jとを、表3に示すような膜厚で基材フィルム上に交互に連続製膜することで、合計膜厚が200nm程度であるアモルファス窒化硼素積層フィルム301〜306を作製した。
また、WO00/36665号のパンフレットに従って比較例の透明積層フィルム307を作製した。
〈比較例の透明積層フィルム307〉
厚さ80μmのジアセチルセルロースフィルム上に、3μの厚さのクリアハードコート層を前述の方法に従って製膜し、そのクリアハードコート層上に、WO00/36665号に記載された方法に従ってガスバリア層の製膜を行った。
真空蒸着装置内に導入ノズルからポリメチルメタクリレートオリゴマーを導入して、これを蒸着したのち、真空蒸着装置から取り出し、乾燥窒素気流下で紫外線を照射して重合させ、PMMA膜を形成した。PMMA膜の厚みは50nmに調整した。この膜上に、酸化珪素をスパッタリングターゲットとするRFスパッタリング法(周波数13.56MHz)を用いて酸化珪素膜を膜厚50nmまで成膜した。更に、上記PMMA膜、酸化珪素膜をそれぞれ50nmの厚みで形成して全4層(200nm厚)の積層膜を形成し、比較例の透明積層フィルム307とした。
得られた透明積層フィルム301〜307の透湿度測定、碁盤目試験を行った。
〈水蒸気透過率試験:透湿度〉
JIS K7129に基づき、イリノイ・インスツルメンツ社製Model7000で測定した。また、1時間180℃で加熱後、1時間室温で放冷するという一連の冷熱サイクルを10回行った後での測定も行った。
〈碁盤目試験〉
JIS K5400に準拠した碁盤目試験を行った。形成された薄膜の表面に片刃のカミソリの刃を面に対して90度の切り込みを1mm間隔で縦横に11本ずつ入れ、1mm角の碁盤目を100個作成した。この上に市販のセロファンテープを貼り付け、その一端を手でもって垂直に剥がし、切り込み線からの貼られたテープ面積に対する薄膜の剥がされた面積の割合を以下のランクで評価した。
A:全く剥がされなかった
B:剥離された面積割合が10%未満であった
C:剥離された面積割合が10%以上であった
【表3】

先ず条件J、条件Gの膜を実施例1(100nm厚)と実施例2(200nm厚)で比べると、膜厚が厚くなってもガスバリア性の向上は殆ど見られない。単純に膜厚を大きくすれば透湿度が下がるというわけではなく、ある程度以上の膜厚では透湿度を下げる効果は頭打ちになることがわかる。
一方、トータル膜厚を一定(約200nm)として層数を1、2、4、6、8層と多くしていったところ、層数が多いほど透湿度が低減され、効果的なガスバリア層であった。より効果的であったのは冷熱サイクル後の結果で、層数が多いものほど冷熱サイクルの影響が小さかった。これはガスバリア層と支持体の線膨張率の差を、柔らかいアモルファス窒化硼素膜が応力緩和層として働いているためと考えられる。
一方、比較例の透明積層フィルム307は、冷熱サイクル後の透湿度の劣化が大きい。これは支持体だけでなく、応力緩和層であるPMMAの耐熱性が低いこと、線膨張率が大きいこと、が原因ではないかと推測される。
また膜の密着性は、比較例の透明積層フィルム307と硬度の高い条件Aの単膜(本発明の透明積層フィルム301)は密着性に劣る膜であったが、本発明のフィルム302〜306は良好な密着性を有していた。
[実施例4]
実施例3で作製した本発明の透明積層フィルム301〜306、比較例の透明積層フィルム307上に有機EL素子を作製した。
〈透明導電膜の製膜〉
第7図に作製した有機EL表示装置の構成を断面図で示す。先ず、透明な基板1として実施例3で作製した透明積層フィルム301〜307を用いて、アモルファス窒化硼素膜を有する面側にスパッタリングターゲットとして酸化インジウムと酸化亜鉛との混合物(Inの原子比In/(In+Zn)=0.80)からなる焼結体を用い、DCマグネトロンスパッタリング法にて透明導電膜であるIZO(Indium Zinc Oxide)膜を形成した。即ち、スパッタリング装置の真空装置内を1×10−3Pa以下にまで減圧し、アルゴンガスと酸素ガスとの体積比で1000:2.8の混合ガスを真空装置内が1×10−1Paになるまで真空装置内に導入した後、ターゲット印加電圧420V、基板温度60℃でDCマグネトロン法にて透明導電膜であるIZO膜を厚さ250nm形成した。このIZO膜に、パターニングを行いアノード(陽極)2とした後、この透明導電膜を設けた透明支持基板をイソプロピルアルコールで超音波洗浄し、乾燥窒素ガスで乾燥し、UVオゾン洗浄を5分間行った。
〈有機EL素子の製膜〉
得られた透明導電膜上に、方形穴あきマスクを介して真空蒸着法により、第7図における有機EL層3として、α−NPD層(膜厚25nm)、CBPとIr(ppy)の蒸着速度の比が100:6の共蒸着層(膜厚35nm)、BC層(膜厚10nm)、Alq層(膜厚40nm)、フッ化リチウム層(膜厚0.5nm)を順次積層した(第7図には詳細に示していない)、更に別のパターンが形成されたマスクを介して、膜厚100nmのアルミニウムからなるカソード(陰極)4を形成した。

〈封止〉
このように得られた積層体に、乾燥窒素気流下、第7図の基板5として前記と同じ透明積層フィルム301〜307をアモルファス窒化硼素膜側が合わさるように密着させ、周囲を光硬化型接着剤(東亞合成社製ラックストラックLC0629B)によって封止し、有機EL表示装置OLED401〜407を得た。尚、第7図では示していないが透明電極及びアルミニウム陰極はそれぞれ端子として取り出せるようにした。
これらの有機EL素子の発光部について、以下の評価を行った。
〈評価項目1〉
封入直後に50倍の拡大写真を撮影した。80℃、300時間保存後50倍の拡大写真を撮影し観察されたダークスポットの面積増加率を評価した。
〈評価項目2〉
封入直後に50倍の拡大写真を撮影した。素子を45°に折り曲げて元に戻す折り曲げ試験を1000回繰り返した後に、評価項目1と同様の保存試験を行いダークスポット面積の増加率を評価した。
面積増加率は評価項目1及び2とも以下の基準で評価した。
ダークスポットの増加率がOLED407を越える場合 ××
ダークスポットの増加率がOLED407の80%以上100%以下 ×
ダークスポットの増加率がOLED407の50%以上80%未満 △
ダークスポットの増加率がOLED407の30%以上50%未満 △○
ダークスポットの増加率がOLED407の15%以上30%未満 ○
ダークスポットの増加率がOLED407の15%未満 ◎
【表4】

これらの結果から、柔らかいアモルファス窒化硼素膜と、固いアモルファス窒化硼素膜を交互に積層する層数を多くした有機EL表示装置ほど、ダークスポットの面積増加率を低く抑えることが出来ることがわかる。
また、実施例3の膜の密着性評価の結果と考え合わせると、単層の膜或いは積層する膜ともに、各層の間の密着性が良いものほどダークスポットの面積増加率を低く抑えることが出来ることがわかる。
尚本実施例には、素子内に水分を吸着或いは水分と反応する材料(例えば酸化バリウム)を封入しなかったが、これらの材料を素子内に封入することを妨げるものではない。
以上から、透明性が高く、水蒸気バリア性に優れ、表面硬度が高く、表面の中心線平均粗さが小さく、プラスチック基材などとの密着性に優れ、製膜速度の速いアモルファス窒化硼素膜の製造方法を提供することが出来た。
また、本発明のアモルファス窒化硼素膜をガスバリア層として用いた透明積層フィルムは、ガスバリア性の耐久性が高く、電子ディスプレイ用の基板として有用な基板であり、それを用いて長寿命な有機EL素子を得ることが出来た。
【産業上の利用可能性】
本発明により、真空プロセスを用いず、生産性の高い方法によって透明で高いガスバリア性を有するアモルファス窒化硼素薄膜及びその製造方法を提供することが出来る。
また、プラスチック基材との密着性の高いアモルファス窒化硼素膜またはその積層膜並びにそれを用いた透明プラスチックフィルム及び有機EL素子を提供することが出来る。
【図1】



【図4】

【図5】

【図6】

【図7】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
大気圧または大気圧近傍の圧力下、対向する電極間に反応性ガスを供給し、高周波電圧をかけることにより、該反応性ガスを励起状態とし、該励起状態の反応性ガスに基材を晒すことによって、下記一般式(1)で表される組成の薄膜を形成することを特徴とするアモルファス窒化硼素薄膜の製造方法。
一般式(1) BN:H
(式中、x、yは0.7≦x≦1.3、0≦y≦1.5を表す)
【請求項2】
前記高周波電圧が、1kHz〜2500MHzの範囲であって、かつ、供給電力が1W/cm〜50W/cmの範囲であることを特徴とする請求の範囲第1項に記載のアモルファス窒化硼素薄膜の製造方法。
【請求項3】
前記高周波電圧が、1kHz〜1MHzの範囲の周波数の交流電圧と、1MHz〜2500MHzの周波数の交流電圧とを重畳させたことを特徴とする請求の範囲第1項に記載のアモルファス窒化硼素薄膜の製造方法。
【請求項4】
前記反応性ガスが下記一般式(2)で表される置換または無置換のボラゾール類を含むことを特徴とする請求の範囲第1項に記載のアモルファス窒化硼素薄膜の製造方法。
一般式(2)

(R〜Rは水素原子、ハロゲン原子、アルキル基、またはアリール基を表す)
【請求項5】
請求の範囲第1項に記載のアモルファス窒化硼素薄膜の製造方法によって製造された薄膜であって、該薄膜の透湿度が1.0g/m/d以下であることを特徴とする薄膜。
【請求項6】
薄膜表面の鉛筆硬度が4H以上であることを特徴とする請求の範囲第5項に記載の薄膜。
【請求項7】
薄膜表面の平均表面粗さが1.0nm以下であることを特徴とする請求の範囲第5項に記載の薄膜。
【請求項8】
請求の範囲第1項に記載のアモルファス窒化硼素薄膜の製造方法によって製造された薄膜が、透明プラスチックフィルム上に形成されたことを特徴とする透明プラスチックフィルム。
【請求項9】
大気圧または大気圧近傍の圧力下、対向する電極間に反応性ガスを供給し、高周波電圧をかけることにより、該反応性ガスを励起状態とし、該励起状態の反応性ガスに基材を晒すことにより形成された積層膜において、少なくとも第1のアモルファス窒化硼素薄膜上に、第2のアモルファス窒化硼素薄膜が積層され、前記第1のアモルファス窒化硼素薄膜はBN:H(y>0.3)、前記第2のアモルファス窒化硼素薄膜はBN:H(y≦0.3)であることを特徴とする積層膜。
【請求項10】
請求の範囲第9項に記載の積層膜が透明プラスチックフィルム上に形成されたことを特徴とする透明プラスチックフィルム。
【請求項11】
請求の範囲第8項に記載の透明プラスチックフィルムのガラス転移温度が、180℃以上であることを特徴とする透明プラスチックフィルム。
【請求項12】
請求の範囲第8項に記載の透明プラスチックフィルムが、主としてセルロースエステルから構成されていることを特徴とする透明プラスチックフィルム。
【請求項13】
請求の範囲第9項に記載の積層膜が有機EL素子上に形成されたことを特徴とする有機EL素子。

【国際公開番号】WO2005/035824
【国際公開日】平成17年4月21日(2005.4.21)
【発行日】平成18年12月21日(2006.12.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−514573(P2005−514573)
【国際出願番号】PCT/JP2004/014676
【国際出願日】平成16年9月29日(2004.9.29)
【出願人】(000001270)コニカミノルタホールディングス株式会社 (4,463)
【Fターム(参考)】