説明

アルギナーゼ濃度/活性の改善

本発明は、治療を必要とする被験体に、フラバノール、プロシアニジンなどの特定のポリフェノール、またはそれらの薬学的に許容される塩または誘導体を投与する工程を含む、アルギナーゼ濃度および/または活性の上昇に関連する症状を治療するための組成物、およびそれらの使用方法に関する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、特定のポリフェノール化合物を含む組成物、および、治療を必要とする被験体に本明細書に記載される特定のポリフェノール化合物を投与する工程を含む、アルギナーゼ濃度および/またはアルギナーゼ活性の上昇に関連する症状を治療する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
アルギナーゼは、アルギニンのオルニチンと尿素への加水分解を触媒する酵素である。オルニチンは、コラーゲンおよび組織のリモデリングを促進する、アミノ酸プロリンの生合成前駆体であり、かつ細胞増殖に関与するポリアミンの生合成前駆体である。アルギニンは、アルギニンからの一酸化窒素(NO)およびシトルリンの合成を触媒する一酸化窒素合成酵素(NOS)の基質でもある。したがって、アルギナーゼは、共通の基質をNOSと奪い合う。
【0003】
アルギナーゼには、少なくとも2種類の哺乳動物のイソ酵素が存在することが知られている(I型およびII型)。アルギナーゼI型はシトソルに局在し、その大部分は肝臓に存在しているが、他の多くの細胞型でも発現するのに対し、II型のアルギナーゼはミトコンドリアに存在し、肝外組織において低濃度で偏在的に発現される。アルギナーゼI型およびII型は、さまざまなサイトカインおよび他の薬剤によって誘発することができる。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
近年、アルギナーゼ濃度/活性の上昇が、幾つかの人体病理学に関連することが示されている。したがって、アルギナーゼ濃度/活性を調節/低減させる方法が、当技術分野で必要とされている。
【0005】
出願人は、本明細書に掲げる化合物が、アルギナーゼの遺伝子発現(すなわち転写濃度)を低減し、および/またはアルギナーゼ活性(すなわち、転写後濃度)を低減させるのに有効であることを見出した。したがって、本明細書に掲げる化合物は、アルギナーゼの濃度/活性の上昇に関連する症状の治療に有用である。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、治療を必要とする被験体に、本明細書に記載される特定のポリフェノール化合物を投与する工程を含む、アルギナーゼ濃度および/またはアルギナーゼ活性の上昇に関連する症状を治療するための組成物、製品および方法に関する。
【0007】
1つの態様では、本発明は、本発明の化合物を含む、食品(ペットフードを含む)、食品添加剤、栄養補助食品、または医薬品などの組成物に関する。例えばアルギナーゼ濃度および/または活性を低減することなどを目的として、上記組成物ならびにラベルおよび/または本明細書に記載される使用方法についての説明書を含む包装された製品は、本発明の範囲内にある。
【0008】
別の態様では、本発明は、治療を必要とする被験体に本発明の化合物を有効量で投与する工程を含む、アルギナーゼの濃度および/または活性の上昇に関連する症状の治療方法に関する。
【0009】
別の態様では、本発明は、必要とする被験体に本発明の化合物を有効量で投与する工程を含む、アルギナーゼの濃度および/または活性を低減させる方法に関する。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【図1】フラバノールが、ヒト内皮細胞においてアルギナーゼ−2 mRNAの発現を低下させることを示す、リアルタイムPCR分析。バーは、3つの個別の実験の平均値±標準偏差を表す。各実験は3回ずつ行われた。*p<0.05対溶媒対照。
【図2】フラバノール代謝産物および(−)−エピカテキンが、ヒト内皮細胞におけるアルギナーゼ−2活性を低下させることを示す。アルギナーゼの発現を低下させる、アルギナーゼ阻害剤であるL−バリン[10mM]またはTNF−α+IL−1β(各500U/ml)を加えたものを陽性対照として用いた。バーは、4つの個別の実験の平均値±標準偏差を表す;*p<0.05対溶媒対照。**p<0.01対溶媒対照。
【図3】高フラバノールカカオが、健康なヒト(n=10)の赤血球においてアルギナーゼを低下させることを示す;フラバノール濃度の高いカカオ飲料200ml、または適合させた低フラバノール対照を、摂取前、摂取後2時間、および24時間の時点を表す。黒色線は、0および24時間後の平均値±標準偏差を表し、灰色の四角は個別の値を表す。*p<0.05
【発明を実施するための形態】
【0011】
本願に引用するすべての特許、特許出願および参考文献は、参照することにより本願に援用される。矛盾する場合には、本開示が適用される。
【0012】
本発明は、治療を必要とする被験体に本明細書に記載される特定のポリフェノール化合物を投与する工程を含む、アルギナーゼ濃度および/またはアルギナーゼ活性の上昇に関連する症状を治療する、組成物、製品および方法に関する。本発明に使用する化合物は、特定のフラバノール(フラバン−3−オール)、プロシアニジン、またはそれらの薬学的に許容される塩または誘導体を含む。これらの化合物は、天然起源の場合、例えばカカオニブまたはそれらの断片、チョコレート・リカー、ある程度および十分に脱脂されたカカオ固形物、カカオ抽出物またはそれらの画分などのカカオ成分の形態で、組成物中に含まれていて差し支えない。
【0013】
本明細書では、「フラバノール」または「フラバン−3−オール」という用語は、次の構造式の単量体のことをいう:
【化1】

【0014】
「プロシアニジン」という用語は、上記構造式の単量体単位から構成されるオリゴマー化合物のことをいう。
【0015】
「カカオ成分」という用語は、例えばカカオニブおよびそれらの断片、チョコレート・リカー、ある程度および十分に脱脂されたカカオ固形物(例えば、ケーキまたは粉末)、フラバノールおよび/またはプロシアニジン含有カカオ抽出物またはそれらの画分など、カカオ豆に由来する成分のことをいう。
【0016】
特定の実施の形態では、本発明は、フラバノール(例えば、(−)−エピカテキンおよび(+)−カテキン)、およびフラバノール(例えば、(−)−エピカテキンおよび(+)−カテキン)またはそれらの薬学的に許容される塩または誘導体(酸化生成物、エステル、メチル化誘導体、およびグルクロン酸化誘導体を含み、ここで(特定の実施の形態では)フラバノール誘導体は没食子酸化誘導体ではない)を有効量で含む組成物に関する。
【0017】
他の実施の形態では、本発明は、下記構造式Anを有する化合物、またはそれらの薬学的に許容される塩または誘導体(酸化生成物、エステル、メチル化誘導体、およびグルクロン酸化誘導体を含む)を有効量で含む組成物に関する:
【化2】

【0018】
ここで、
nは2〜18の整数であり、
RおよびXはそれぞれαまたはβ型の立体化学を有し、
RはOHまたはO−糖であり、
C−4、C−6およびC−8の置換基はそれぞれX、ZおよびYであり、単量体単位の結合がC−4、C−6またはC−8で生じ、
C−4、C−6またはC−8のいずれも別の単量体単位と結合しない場合、X、YおよびZは独立して水素または糖であり、
前記糖は、随意的に、例えばエステル結合を介してなど、いずれかの位置において、フェノール部分で置換される。
【0019】
構造式Anにおける単量体単位は、4α→6、4β→6、4α→8、および/または4β→8の連結を介して結合されて構わない。糖は、単糖類または二糖類が好ましい。糖は、グルコース、ガラクトース、ラムノース、キシロース、およびアラビノースからなる群より選択されて差し支えない。フェノール部分は、カフェイン酸、ケイヒ酸、クマリン酸、フェルラ酸、没食子酸、ヒドロキシ安息香酸、およびシナピン酸からなる群より選択されて構わない。プロシアニジン誘導体としては、没食子酸エステルなどのエステル、単糖または二糖部分などの糖部分で誘導化された化合物(例えば、β−D−グルコース)、グルクロン酸化およびメチル化誘導体、および酸化生成物が挙げられる。一部の実施の形態では、エステル誘導体は没食子酸エステル以外のエステルである。酸化生成物は、参照することにより本明細書に援用される、米国特許第5,554,645号明細書に開示されるとおりに調製して差し支えない。例えば没食子酸とのエステルなどのエステルは、既知のエステル化反応を用いて、例えば、参照することにより本明細書に援用される、米国特許第6,420,572号明細書に開示されるように、調製して構わない。3’O−メチル−、4’O−メチル−、および3’O,4’O−ジメチル誘導体などのメチル化誘導体は、例えば、参照することにより本明細書に援用される、Cren-Oliveらの2002, J. Chem. Soc. Perkin Trans. 1, 821-830、およびDonovanらのJournal of Chromatography B, 726 (1999) 277-283に記載されるように調製してよい。グルクロン酸化生成物は、参照することにより本明細書に援用される、Yuらの“A novel and effective procedure for the preparation of glucuronides,” Organic Letters, 2(16) (2000) 2539-41およびSpencerらの“Contrasting influences of glucuronidation and O-methylation of epicatechin on hydrogen peroxide-induced cell death in neurons
and fibroblasts,” Free Radical Biology and Medicine 31(9) (2001) 1139-46などに記載されるように調製して差し支えない。グルクロン酸化は7,5および/または3’の位置に生じて構わない。グルクロン酸化生成物の例としては、4’−O−メチル−エピカテキン−O−β−D−グルクロニド(例えば、4’−O−メチル−エピカテキン−7−O−β−D−グルクロニド)、3’−O−メチル−エピカテキン−O−β−D−グルクロニド(例えば、3’−O−メチル−エピカテキン−5/7−O−β−D−グルクロニド)、およびエピカテキン−O−β−D−グルクロニド(例えば、エピカテキン−7−O−β−D−グルクロニド)が挙げられる。この開示が本明細書に引用されるすべての構造式に適用されることに、留意すべきである。
【0020】
別の実施の形態では、本発明は化合物、および構造式Anを有する化合物、またはそれらの薬学的に許容される塩または誘導体(酸化生成物、エステル、メチル化誘導体、およびグルクロン酸化誘導体を含む)を有効量で含む組成物に関する:
【化3】

【0021】
ここで、
nは2〜18の整数であり、
RおよびXはそれぞれαまたはβ型の立体化学を有し、
RはOHであり、
C−4、C−6およびC−8の置換基はそれぞれX、ZおよびYであり、単量体単位の結合がC−4、C−6またはC−8で生じ、
C−4、C−6またはC−8のいずれも別の単量体単位と結合しない場合、X、YおよびZは独立して水素である。
【0022】
本発明の製品および方法に有用な化合物の例としては、本明細書に記載される構造式Anの化合物が挙げられ、ここで整数nは、3〜18、2〜12、3〜12、2〜5、4〜12、5〜12、4〜10、または5〜10である。一部の実施の形態では、整数nは、2〜4であり、例えば,2または3である。この開示は本明細書の構造式Anの任意の化合物に適用される。
【0023】
使用方法
本発明は、治療を必要とする被験体における、アルギナーゼ濃度および/または活性の上昇に関連する症状を治療する方法に関する。
【0024】
本明細書では、「治療」または「治療する」は、所望の薬理効果をもたらすことをいう。効果は、完全にまたはある程度、症状/疾患/障害またはそれらの症状を予防する、ならびに疾患、または疾患に罹患しやすいがまだ罹患しているとは診断されていない(例えば、原発性疾患に関連するか、あるいは原発性疾患によって生じる可能性のある疾患を含む)被験体に生じる疾患の症状を予防する、という観点での予防であって差し支えなく、および/または、症状/疾患/障害の進行を遅延させる(例えば、その進展を阻む、疾患の退行を生じさせるなど)、長期生存において、死の危険性を低下させる、疾患に起因する悪影響の危険性を低下させる、および/または、症状/疾患/障害に関連する死亡率(morbidity)の大幅な低下を引き起こす、という観点での治療であってもよい。
【0025】
本明細書では、「アルギナーゼ濃度および/またはアルギナーゼ活性の上昇に関連する症状の治療」とは、哺乳動物、特にヒトまたは動物(veterinary animal)における、アルギナーゼ濃度および/またはアルギナーゼ活性の上昇に関連する症状/疾患/障害の治療のことをいう。このような症状/疾患/障害の例としては、溶血性疾患(例えば、鎌状赤血球貧血、地中海貧血、溶血性疾患に関連する内皮機能障害、溶血性疾患に関連する肺高血圧症)、炎症(例えば、創傷治癒障害、術後障害(post-surgical trauma)、慢性の静脈性下腿潰瘍、慢性の静脈機能不全、歯周炎、関節炎)、免疫障害/疾患(例えばヴェグナー肉芽腫症、関節炎、例えば、癌患者における、術後の免疫機能障害)、呼吸器疾患/肺疾患(例えば、喘息、および喘息/呼吸器病理学に関連した気道過敏症、嚢胞性線維症、気道壁肥厚および気道リモデリング)、血管/心臓血管/心肺(アルギナーゼの上昇に関連した本態性/原発性高血圧症、例えば肺動脈高血圧症などの肺高血圧症、アルギナーゼの上昇に関連した内皮機能障害、狭心症、加齢に関連した心筋機能障害および心不全を含む脈管構造の老化)、微小循環障害(例えば、心臓の微小血管系などにおける虚血再灌流障害、心臓の細動脈障害(coronary arteriolar dysfunction)、敗血症)、腎機能障害(例えば、糸球体腎炎、例えば血管抵抗が増大、および/または血圧が上昇する傾向にある被験体における、腎不全)、糖尿病に関連する症状(例えば、糖尿病性神経障害などを有する糖尿病患者における微小循環障害、糖尿病性腎症/腎機能障害、病根周辺のカルス形成を含む糖尿病性の足の壊疽、糖尿病における創傷治癒障害、糖尿病性の末梢血管障害における微小循環障害、糖尿病に関連した性機能障害)、癌(例えば、乳、直腸、前立腺)、皮膚病(例えば、乾癬)、神経症(例えば、うつ病)、性機能障害(例えば、勃起障害、陰茎のペイロニー様疾患、女性の性機能障害)が挙げられる。
【0026】
本発明は、本明細書に記載される化合物を使用して、上記症状を患う、またはその危険性のある被験体の治療に関する。
【0027】
当業者は、例えば実施例に記載される方法など、アルギナーゼの濃度(すなわち、mRNA発現、酵素(タンパク質)濃度)/活性(すなわち、酵素活性)を測定する既知の方法を選択するであろう。
【0028】
特定の実施の形態では、本発明は、治療を必要とする哺乳動物(例えば、ヒト)または獣動物に、エピカテキンまたはカテキン(例えば(−)−エピカテキンまたは(+)−カテキン)などのフラバノール、またはそれらの薬学的に許容される塩または誘導体(酸化生成物、エステル、メチル化誘導体およびグルクロン酸化誘導体を含むが、フラバノール誘導体は没食子酸化誘導体ではない)を有効量で投与する工程を含む、アルギナーゼ濃度および/または活性の上昇に関連する症状の治療方法を提供する。
【0029】
「獣動物」という用語は、獣医が対処する、または獣医によって手当てされる任意の動物のことをいい、例えばネコ、イヌ、およびウマなどの愛玩(ペット)動物および家畜が挙げられる。
【0030】
特定の実施の形態では、本発明は、治療を必要とする哺乳動物(例えば、ヒト)または獣動物に、下記構造式Anを有する化合物、またはそれらの薬学的に許容される塩または誘導体(酸化生成物、エステル、メチル化誘導体、およびグルクロン酸化誘導体を含む)を有効量で含む組成物を投与する工程を含む、アルギナーゼ濃度および/または活性の上昇に関連する症状を治療する方法を提供する:
【化4】

【0031】
ここで
nは2〜18の整数であり、
RおよびXはそれぞれαまたはβ型の立体化学を有し、
RはOHまたはO−糖であり、
C−4、C−6およびC−8の置換基はそれぞれX、ZおよびYであり、単量体単位の結合がC−4、C−6またはC−8で生じ、
C−4、C−6またはC−8のいずれも別の単量体単位と結合しない場合には、X、YおよびZは独立して水素または糖であり、
前記糖は、随意的に、例えばエステル結合を介してなど、いずれかの位置において、フェノール部分で置換される。
【0032】
例えば、上記方法は、化合物An、またはそれらの薬学的に許容される塩または誘導体(酸化生成物、エステル、メチル化誘導体、およびグルクロン酸化誘導体を含む)の使用方法を含んでいて差し支えなく、ここでRはOHであり、C−4、C−6またはC−8のいずれも別の単量体単位と結合しない場合には、X、YおよびZは独立して水素である。適切な糖の例は上記の通りである。フェノール部分の例は、上記の通りである。誘導体の例は、上記の通りである。
【0033】
特定の実施の形態では、本発明は、治療を必要とする哺乳動物(例えば、ヒト)または獣動物に、構造式Anを有する化合物、またはそれらの薬学的に許容される塩または誘導体(酸化生成物、エステル、メチル化誘導体、およびグルクロン酸化誘導体を含む)を有効量で含む組成物を投与する工程を含む、アルギナーゼ濃度および/または活性の上昇に関連する症状を治療する方法を提供する:
【化5】

【0034】
ここで、
nは2〜18の整数であり、
RおよびXはそれぞれαまたはβ型の立体化学を有し、
RはOHであり、
C−4、C−6およびC−8の置換基はそれぞれX、ZおよびYであり、単量体単位の結合がC−4、C−6またはC−8で生じ、
C−4、C−6またはC−8のいずれも別の単量体単位と結合しない場合、X、YおよびZは水素である。
【0035】
本発明の製品および方法に有用な化合物の例としては、本明細書に記載される化合物が挙げられ、ここで整数nは、3〜18、2〜12、3〜12、2〜5、4〜12、5〜12、4〜10、または5〜10である。一部の実施の形態では、整数nは、2〜4であり、例えば,2または3である。この開示は本明細書の構造式Anの任意の化合物に適用される。
【0036】
アルギナーゼ濃度および/または活性の上昇に関連する症状を治療する必要のある被験体の例は、当業者にとって明らかであろう。このような被験体の例としては、溶血性疾患(例えば、鎌状赤血球貧血、地中海貧血、溶血性疾患に関連する内皮機能障害、溶血性疾患に関連する肺高血圧症)、炎症(例えば、創傷治癒障害、術後障害、慢性の静脈性下腿潰瘍、慢性の静脈機能不全、歯周炎、関節炎)、免疫障害/疾患(例えばヴェグナー肉芽腫症、関節炎、例えば、癌患者における、術後の免疫機能障害)、呼吸器/肺疾患(例えば、喘息、および喘息/呼吸器病理学に関連した気道過敏症、嚢胞性線維症、気道壁肥厚および気道リモデリング)、血管/心臓血管/心肺(例えば、アルギナーゼの上昇に関連した本態性/原発性高血圧症、例えば肺動脈高血圧症などの肺高血圧症、アルギナーゼの上昇に関連した内皮機能障害、狭心症、加齢に関連した心筋機能障害および心不全を含む脈管構造の老化)、微小循環障害(例えば心臓の微小血管系などにおける、虚血再灌流障害、心臓の細動脈障害、敗血症など)、腎機能障害(例えば、糸球体腎炎、例えば血管抵抗が増大および/または血圧が上昇する傾向にある被験体における、腎不全)、糖尿病に関連する症状(例えば、糖尿病性神経障害などを有する糖尿病患者における微小循環障害、糖尿病性腎症/腎機能障害、病根周辺のカルス形成を含む糖尿病性の足の壊疽、糖尿病における創傷治癒障害、糖尿病性の末梢血管障害における微小循環障害、糖尿病に関連した性機能障害など)、癌(例えば、乳、直腸、前立腺癌)、皮膚病(例えば、乾癬)、神経症(例えば、うつ病)、性機能障害(例えば、勃起障害、陰茎のペイロニー様疾患、女性の性機能障害)を患っている、またはその危険性のあるものが挙げられる。
【0037】
本発明の化合物は、例えばカカオニブまたはそれらの断片、チョコレート・リカー、ある程度および十分に脱脂されたカカオ固形物(例えば、カカオ粉末)、カカオ抽出物またはそれらの画分など、カカオ成分の形態で経口投与して差し支えなく、あるいは、カカオ成分とは関係なく加えてもよい。カカオ成分は、カカオポリフェノール(CP)(フラバノールおよび/またはプロシアニジン)が保存されるように調製されて構わない。
【0038】
一部の実施の形態では、本発明は、他のアルギナーゼ阻害剤と組み合わせて、および/または他のアルギニン阻害剤に対する感応性を増強するために、投与してもよい。アルギナーゼ阻害剤の例としては、(S)−(2−ボロノエチル)−L−システイン(BEC)、2(S)−アミノ−6−ボロノヘキサン酸(ABH)、NG−ヒドロキシ−L−アルギニン(NOHA)L−2−アミノ−(4−(2'−ヒドロキシグアニジノ)酪酸(nor−NOHA)、およびDL−α−ジフルオロメチルオルニチン(DFMO)、および/またはそれらの薬学的に許容される塩が挙げられる。これらの追加のアルギニン阻害剤は、局所的に、または経口的に投与されて差し支えない。
【0039】
したがって、次の使用は本発明の範囲内にある。上記被験体におけるアルギナーゼ濃度および/または活性の上昇に関連する症状の治療を目的とした、薬剤、食品、栄養補給食品、栄養補助食品の製造における、先に定義された、フラバノール、またはそれらの薬学的に許容される塩または誘導体(酸化生成物、エステル、メチル化誘導体、およびグルクロン酸化誘導体を含み、ここで(特定の実施の形態では)誘導体は没食子酸化誘導体ではない)の使用。アルギナーゼ濃度および/または活性の上昇に関連する症状の治療を目的とした、薬剤、食品、栄養補給食品、栄養補助食品の製造における、先に定義された、構造式Anの化合物、またはそれらの薬学的に許容される塩または誘導体(酸化生成物、エステル、メチル化誘導体、およびグルクロン酸化誘導体を含む)の使用。
【0040】
有効量は、例えば、投与量、基質、投与回数、投与経路などの要素を考慮することにより、本明細書に提供される指針、および当技術分野における一般的な知識を用いて、当業者によって決定されて構わない。例えば、有効量は、哺乳動物の体内における生理的に適切な濃度を達成することなどであって構わない。このような生理的に適切な濃度は、少なくとも20ナノモル(nM)であって差し支えなく、少なくとも約100nMであることが好ましく、少なくとも約500nMであることがさらに好ましい。1つの実施の形態では、たとえばヒトなど、哺乳動物の血中において少なくとも約1μMが達成される。例えばSchroeter H.らの2006, Proc. Natl. Acad. Sci. U.S.A., 103:1024-1029に記載される方法を使用して、被験体の血中の化合物を測定してもよい(下記実施例を参照のこと)。本明細書に定義される化合物は、約35mg/日、40mg/日、または50mg/日〜(例えば、約1000mg/日まで)、または約75mg/日〜(例えば、約1000mg/日まで)、または約100〜150mg/日〜(例えば、約900mg/日まで)、または約300mg/日〜(例えば、約500mg/日まで)の量で投与して差し支えない。しかしながら、投与量の上限は限定因子ではないことから、上記に例示した量よりも多く用いてもよい。投与量は、Adamson, G.E.らのJ. Ag. Food Chem.; 1999; 47 (10) 4184-4188に記載されるように測定して差し支えない。
【0041】
投与計画通りに、すなわち、例えば、日、月、2ヶ月、半年、1年などの有効期間、または、熟練した開業医によって必要とされる期間が決定されるような、他の投与計画で、投与を継続して差し支えない。投与は、少なくとも、アルギナーゼ濃度および/または活性の低下、および/または先に掲げた被験体における改善の実現に必要とされる期間、継続されて差し支えない。組成物を、毎日、好ましくは一日に2、3回、例えば朝と晩に投与し、哺乳動物の体内における化合物の有効濃度を維持してもよい。最も有益な結果を得るため、少なくとも7日間、または少なくとも14日間、または少なくとも30日間、または少なくとも45日間、または少なくとも60日間、または少なくとも90日間、組成物を投与して構わない。これらの投与計画は、必要に応じ、周期的に繰り返されて差し支えない。組成物はまた、例えば経口投与で数時間または数日内に急性効果が得られるように、または静脈投与によって、より急性効果が得られるように管理された場合にも有益である。
【0042】
組成物および製剤
本発明にかかる化合物は、食品(ペットフードを含む)、食品添加剤、または栄養補助食品、または医薬品として投与されて差し支えない。
【0043】
本明細書では、「食品」は、タンパク質、炭水化物および/または脂質を含む物質であり、身体の器官において使用され、成長、修復および生活過程を維持し、エネルギーを供給する。食品は、例えば、ミネラル、ビタミン、および調味料などの補助的物質も含んでいて構わない。メリアム・ウェブスター・カレッジ英英辞典の第10版(1993)を参照のこと。食品という用語には、人または動物の消費に適合する飲料も含まれる。本明細書では、「食品添加剤」は、米国食品医薬品局(FDA)の21 C.F.R. 170.3(e)(l)に定義されており、直接および間接添加剤が含まれる。本明細書では、「栄養補助食品」は、食事を補助することを意図した製品(タバコを除く)であり、以下の食品材料の1種類以上を有するか、または含む:ビタミン、ミネラル、ハーブまたは他の植物、アミノ酸、1日の総摂取量を増加させて食事を補うことを目的とした、ヒトに利用される食物中の物質、または、濃縮物、代謝産物、構成物質、抽出物、またはこれらの材料の組合せ。本明細書では、「医薬品」は、薬効のある薬物(medicinal drug)である。メリアム・ウェブスター・カレッジ英英辞典の第10版(1993)を参照のこと。医薬品は、薬剤(medicament)とも称される。上記組成物は、当技術分野で既知のように調製されて差し支えない。
【0044】
組成物は、担体、希釈剤、または賦形剤を含んでいてもよい。目的の用途によって、ヒトまたは動物への使用、食品添加剤、栄養補助食品または医薬品用途に適した担体、希釈剤、または賦形剤を選択して差し支えない。随意的に、組成物に追加のアルギナーゼ阻害剤を含めてもよい。用途によって、当業者は、本発明の化合物の純度を選択することもできる。例えば、医薬品の投薬形態の調製に使用する場合、化合物は商業的に可能な限り純粋であるべきだが、食品、添加剤、または栄養補助食品の調製の場合には、もう少し純度の低い化合物、または化合物の混合物(例えば、植物抽出物)を使用して差し支えない。
【0045】
本発明の化合物は、「単離および精製」してもよい。すなわち、化合物および/または不純物の汚染の程度が、化合物の有効性に著しく影響を与えるか、化合物の有効性を損ねなければ、天然に生じる化合物から分離して差し支えなく(例えば、化合物が天然由来の場合)、または、合成的に調製して差し支えない。例えば、「単離および精製されたB2二量体」は、利用できる、商業的に実現可能な精製および分離技法によって達成可能な範囲で、天然に生じる(例えば、カカオ豆において)B5二量体から分離される。こうした化合物は、医薬品用途に特に適している。
【0046】
化合物は、もう少し純度が低くても、すなわち、「実質的に純粋」であってもよく、言い換えれば、利用可能な精製、分離、および/または合成技術によって実現可能な最高水準の均質性を有していてもよいが、類似の化合物から分離する必要はない。本明細書では、「類似の化合物」は、同じ重合度を有する化合物である。例えば、「実質的に純粋な二量体」は、二量体の混合物のことをいう(例えば、カカオ抽出物画分に生じるであろう、B2およびB5)。医薬品用途にはあまり適さないが、このような「実質的に純粋」な化合物は、食品、食品添加剤および栄養補助食品の用途に活用することができる。
【0047】
一部の実施の形態では、本発明の化合物は、少なくとも純度80%、少なくとも純度85%、少なくとも純度90%、少なくとも純度95%、少なくとも純度98%、または少なくとも純度99%である。このような化合物は、特に、医薬品用途に適している。
【0048】
本発明の化合物を含む医薬品は、随意的に、アルギナーゼ阻害剤と併用して、経口投与してもよい。本明細書では、「経口投与」には、経口による投与が含まれ、舌下腺および口腔内投与が含まれる。当業者は、本発明の化合物の輸送を最大にする、適切な投与形態を決定することができるであろう。したがって、各種の経口による投与に適合させた投与形態は本発明の範囲内にあり、錠剤、カプセル、ゼラチンカプセル(ジェルキャップ)、大用量または単位用量の粉末または顆粒、エマルション、懸濁液、ペースト、またはゼリーなど、固体、液体、および半固体の投与形態が含まれる。徐放性の投薬形態もまた、本発明の範囲内にある。適切な薬学的に許容される担体、希釈剤、または賦形剤は、当技術分野で一般に知られており、当業者が容易に決定することができる。例えば、錠剤には、有効量の本発明の化合物、および随意的に、ソルビトール、ラクトース、セルロース、または第二リン酸カルシウムなどの担体を含めてもよい。
【0049】
本明細書に記載の化合物および随意的に別のアルギナーゼ阻害剤を含む食品を、ヒトまたは動物用途に適応させてもよく、ペットフードが挙げられる。食品は、菓子類以外の、例えば飲料(例えば、ココア風味飲料)などであってもよい。ダークチョコレート、低脂肪チョコレート、および、チョコレートコーティングキャンディであってよいキャンディを含む、ミルク、スイート、およびセミスイートチョコレートなどの、米国同一性規格(standard of identity)(SOI)および非同一性規格のチョコレートもまた、本発明の範囲内にある。他の例としては、焼成食品(baked product)(例えば、ブラウニー、ベークド・スナック、クッキー、ビスケット)、調味料、グラノーラ・バー、トフィー・チュー(toffee chew)、食事代替バー(meal replacement bar)、スプレッド、シロップ、混合粉末飲料、ココアまたはチョコレート風味飲料、プリン、餅、混ぜご飯、風味のよいソース(savory sauce)などが挙げられる。必要に応じて、食品にチョコレートまたはココアで風味付けしてもよい。食品は、例えばピーナツ、クルミ、アーモンドおよびヘーゼルナッツなどのナッツ類を含む、グラノーラ・バーなどの、チョコレートおよびキャンディ・バーであって差し支えない。食品は、本明細書に記載の化合物を有効量で輸送するように設計される。
【0050】
本発明に使用する化合物は、例えば、カカオ豆または当業者に既知の別の天然源に由来する、天然起源のものであって差し支えなく、あるいは合成的に調製されてもよい。当業者は、用途および/または利用可能性、あるいは費用に基づいて、天然または合成のポリフェノールを選択することができる。
【0051】
化合物は、カカオ成分の形態で組成物中に含まれていてもよい。例えば、化合物は、チョコレートに含まれるチョコレート・リカーなど、カカオ材料の形態で組成物中に含まれていて差し支えなく、また、例えば、抽出物、抽出画分、単離および精製された個々の化合物、プールされた抽出画分、または合成的に調製された化合物など、カカオ材料とは無関係に加えられてもよい。「カカオ材料」という用語は、チョコレート・リカーおよびある程度または十分に脱脂されたカカオ固形物(例えば、ケーキまたは粉末)など、無殻のカカオニブに由来するカカオ固形物含有物質のことをいう。抽出および精製に関しては、参照することによりそれぞれ本願に援用される、Romanczykらの米国特許第5,554,645号および同第6,670,390号の各明細書、およびHammerstoneらの米国特許第6,627,232号明細書に記載されるように行なって差し支えない。
【0052】
カカオ・フラバノールおよび/またはプロシアニジンは、これらの化合物を含むカカオ材料により、あるいは、チョコレートを含むことにより、本発明の組成物中に提供されて差し支えなく、チョコレートとしては、ミルク、スウィート、およびセミスウィートであって構わないが、ダーク・チョコレートおよび低脂肪チョコレートであることが好ましい。伝統的なカカオ処理工程を使用してカカオ材料を調製してもよいが、Kealeyらの米国特許第6,015,913号明細書に記載される方法を用いて調製されることが好ましい。あるいは、カカオポリフェノールの濃度を高めるため、275以下の発酵係数を有するカカオ豆から調製されたチョコレート・リカーおよびカカオ固形物を使用してもよい。これらの材料は、伝統的なカカオ処理方法(例えば、ローストによる)、および十分に発酵させた豆を使用して得られるよりも高い、カカオポリフェノール含量を有している。上記の材料から従来の技法を使用するか、または、ここに参照することによりそれぞれの関連部分を本願に援用する、国際公開第99/45788号パンフレットとして公開された国際出願第PCT/US99/05414号およびその対応米国出願である米国特許第6,194,020号明細書に記載される、チョコレート製造の間にカカオポリフェノールを保存する、改良された方法を用いて、チョコレートを調製してもよい。次の非伝統的な方法の少なくとも1つによって調製されるチョコレートを、ここでは、「保存量のカカオポリフェノールを有するチョコレート」と称する:(i)発酵が不十分であるか未発酵のカカオ豆からカカオ材料を調製する、(ii)カカオ材料製造工程の間にカカオポリフェノールを保存する、および(iii)チョコレート製造工程の間にカカオポリフェノールを保存する。このような非伝統的な方法を使用して、濃度を高めたフラバノールおよび/またはプロシアニジンを含むように設計された、他のカカオ材料含有製品(例えば、飲料、栄養補助食品などの食品)を調製することができる。
【0053】
合成プロシアニジンもまた使用して差し支えなく、当技術分野で既知の方法、および、例えば、ここに参照することによりそれぞれの関連部分を本願に援用する、米国特許第6,420,572号、同第6,156,912号および同第6,864,377号の各明細書に記載されるように調製してもよい。
【0054】
本発明の化合物の1日の有効量は、食品の場合は1回量で、あるいは、医薬品または栄養補助食品の場合には単回投与量で提供されて差し支えない。例えば、菓子(例えば、チョコレート)には、少なくとも約100mg/回(serving)(例えば、150〜200、200〜400mg/回)を含めて差し支えない。
【0055】
本発明の化合物、および、随意的に別のアルギナーゼ阻害剤を含む栄養補助食品を、当技術分野で既知の方法を用いて調製して差し支えなく、例えば、第二リン酸カルシウム、ステアリン酸マグネシウム、硝酸カルシウム、ビタミン、およびミネラルなどの栄養素を、含めてもよい。
【0056】
さらには、本発明の組成物(例えば、食品、栄養補助食品、医薬品)、および、本発明の化合物の存在、または高められた含有量を示す、もしくは、アルギナーゼ濃度および/または活性の上昇に関連する症状を治療するための組成物の使用を指南するためのラベルを含む、包装された製品などの製造品も本発明の範囲内にある。包装された製品に、組成物、および、アルギナーゼ濃度および/または活性の上昇を低下させるための使用説明書を含めてもよい。ラベルおよび/または使用説明書は、本願に記載される任意の使用方法に関するものであって構わない。
【0057】
本発明は、また、本明細書に記載される任意の組成物を含む製造品を製造し、製造品をもたらす組成物を包装し、および、本明細書に記載される任意の使用のための組成物/製造品の使用を指示し、指南し、または促進する、方法に関する。これらの指示、指南、または促進には、宣伝も含まれる。
【0058】
本発明について、以下の限定されない実施例において、さらに説明する。
【実施例】
【0059】
実施例1:カカオ・フラバノールが、インビボおよびインビトロにおけるアルギナーゼ活性およびアルギナーゼ濃度を低下させる
材料および方法
材料:化学薬品は、特に明記しない限り、シグマ社(ドイツ国ダイゼンホッフェン(Deisenhofen)所在)から購入した。代謝産物混合物は、(−)−エピカテキン(0.1μmol/l)およびカテキン(0.4μmol/l)、ならびにフラバノール代謝産物であるエピカテキン−7−β−D−グルクロニド(0.25μmol/l)、4’−O−メチル−エピカテキン(0.2μmol/l)、4’−O−メチル−エピカテキン−β−D−グルクロニド(1.7μmol/l)からなる、合計2.6μmol/lのフラバノールを含む。各フラバノールの濃度は、参照することにより本明細書に援用される、Schroeter H.らの2006, Proc. Natl. Acad. Sci. U.S.A., 103:1024-1029に記載される、高フラバノール含有カカオ飲料(917mg)の摂取後2時間の血漿濃度と同等である。
【0060】
研究プロトコル:高または低フラバノールのカカオ飲料(オリゴマーを含む。組成を下記表aに示す)の効果を、10名の健康なボランティア群において決定した。除外基準は、喫煙、高血圧、真性糖尿病および末期腎不全であった。日をまたいで、高フラバノール(902.1mg)または対照として低フラバノール(36.4mg)の飲料のいずれかの摂取前、摂取後2時間、および24時間の赤血球におけるアルギナーゼ活性を測定した。高フラバノール飲料は、下記表bに示すように単量体から10量体までのフラバノールおよびプロシアニジンを含んでいた。12時間の絶食期間後の朝に、個別に調査した。蓄積効果を避けるため、各調査は、6日間よりも長いウォッシュアウト期間によって隔てられた。
【0061】


細胞培養:ヒト臍静脈内皮細胞は、Promo Cell社(ドイツ国ハイデルベルク所在)から購入し、2代継代まで培養した。
【0062】
定量的遺伝子発現分析:2μlのcDNA、2μlのFast Start Reaction Mix SYBR Green I、1.6μlの25mM MgCl2、2μlの各プライマー5pmol/μl、および10.4μlのH2Oを含む、合計20μlの体積について、LightCycler(商標)(Roche Diagnostics社製(ドイツ国マンハイム所在))上でリアルタイムRT−PCRを行った。ヒト肝細胞であるHepG2細胞を陽性対照として使用した。陰性対照として、逆転写酵素の工程を除いた、同一のmRNA調製物を使用した。サイクル工程の完了後、融解曲線分析を継続的に蛍光モニタしつつ、サンプルを温度勾配に供した。各PCR産物では、特定の融解温度で融解曲線分析をすることによって、プライマー2量体とは別の、単一の狭いピークが得られ、アガロースゲル電気泳動法では、予想していた大きさのシングルバンドのみが観察され、顕著な副生成物のない特異的増幅を示した。ハウスキーピング遺伝子GAPDHを標準として用いて、サンプルを適宜、定量化した(LightCycler 分析ソフトウェア、バージョン3.5)。
【0063】
アルギナーゼ活性:静脈血から採取した赤血球を、分画遠心法で分離し、適宜、単離してすぐにアルギナーゼ活性を測定した(Corraliza I. M.ら, 1994, J. Immunol. Methods 174:231-235)。HUVEC細胞を溶解し、10mMのMnCl2で、55℃で10分間、インキュベートした。次に、1体積の0.5MのL−アルギニンを加え、37℃で60分間インキュベートした。800μlの酸混合物(H2SO4:H3PO4:H2O=1:3:7)を加えることにより反応を停止し、50μlの9%α−イソニトロソプロピオフェノン(ICPF)を加え、96℃で45分間加熱した後、540nmで比色分析することにより、定量化した。タンパク質で正規化した後、生成した尿素の量を、アルギナーゼ活性の指標として用いた。赤血球中のタンパク質濃度の測定では、溶解物を1:100に希釈した。BrownおよびCohenの方法(Brown G.W., Jr.およびCohen, P. P., 1959, J. Biol. Chem. 234:1769-1774)の修正法(Ensunsa J. L.ら, 2004, Exp. Biol. Med. (Maywood) 229:1143-1153)にしたがって、凍結組織片から調製した腎ホモジネートにおけるアルギナーゼ活性を測定した。
【0064】
GAPDH活性:凍結腎片を、10体積の氷冷緩衝液(10mMトリス、pH7.4、0.25Mショ糖、0.5mMのEDTA)中にホモジネートし、10,000×g、4℃で30分間、遠心分離した。Bergmeyerの方法(Bergmeyer H. U., 1972, Methods of enzymatic analysis 2nd edition, Weinheim: VerlagChemie 1; 466-467)にしたがって、得られた上清について、GAPDH活性を測定した。
【0065】
動物実験:10体の離乳期のSprague-Dawleyラットを、Charles River Laboratories (米国マサチューセッツ州ウィルミントン所在)から入手した。ラットを、温度(23℃)および明期(明暗サイクル:14−10時間)を調節した室内の吊り下げたステンレス製のケージに個別に収容した。6日間の適応期間の後、ラットを2群に分け(各群n=5)、餌は、2日間、自由摂取させた後、間欠給餌(5時間/日)で4日間、摂餌を管理した。次に、動物を無作為に2種類の食餌群の一方へ割り当て、0%または4%のカカオ粉末を用い、59.5%の果糖を含む精製卵白ベースの食餌への摂餌制限下で(午前0時〜5時の暗期、5時間/日)28日間与えた。両群とも、ステンレス製の給水システムを通じて供給される水を自由摂取させた。食餌の詳細な組成を表1に示す。本実験に使用したカカオは特にフラバノールおよびプロシアニジン含量が高く、11.0mg/gのエピカテキン、2.8mg/gのカテキン、および43.0mg/gのプロシアニジンを含んでいた。28日間の終わりに2時間絶食させた後、ラットを安楽死させた。動物は、二酸化炭素で安楽死させ、腎臓をすばやく摘出し、重量を量り、分析まで−80℃で保管した。実験プロトコルは、カリフォルニア大学デービス校の動物実験委員会(Animal Use and Care Committee)の活動前に承認され、Office of the Campus Veterinarianを介して投与された。
【0066】
統計分析:数値は、平均値±標準偏差として報告される。統計分析は、対応のないスチューデントt−検定によって行い、p<0.05を有意とみなした。
【0067】
結果
フラバノール代謝産物での治療がHUVECにおけるアルギナーゼ−2 mRNA発現を低下させる:
リアルタイムPCRを用いて、アルギナーゼ−2 mRNAの発現濃度を、ヒト内皮細胞について調べた。このインビトロ実験に使用したフラバノール代謝産物組成物および濃縮物は、方法のセクションに記載する高フラバノール・カカオの摂取後2時間のヒト血漿に見られるフラバノール濃度と同等であり、主成分として4’−O−メチル−エピカテキン−β−D−グルクロニドを含む、合計2.6μmol/lのフラバノール量であった(ここに参照することにより本明細書に援用される、Schroeter H.ら, 2006, Proc. Natl. Acad. Sci. U.S.A., 103:1024-1029を参照のこと)。
【0068】
フラバノール代謝産物での治療は、24時間インキュベーション後で、アルギナーゼ−2 mRNAの発現を低下させ、さらには、2時間後の2.6および7.8μmol/lのフラバノールでは早期反応が観察された(図1)。フラバノール代謝産物で観察された結果と一致して、(−)−エピカテキンでの治療でも、24時間インキュベーション後にアルギナーゼ−2 mRNAの発現の低下が見られたが、30分または2時間では短期効果はなかった。
【0069】
(−)−エピカテキンおよびフラバノール代謝産物がHUVECにおけるアルギナーゼ活性を低下させる:
エピカテキンまたはフラバノール代謝産物の混合物の存在下、細胞を培養し、方法のセクションに記載するようにアルギナーゼ−2活性を分析した。図2に示すとおり、(−)−エピカテキンでの治療は、48時間後の時点でアルギナーゼ活性を低下させた。対照細胞におけるアルギナーゼ活性が6.9±0.4μmol尿素×mgタンパク質-1×時間-1であったのに対し、(−)−エピカテキンで治療した細胞では、アルギナーゼ活性を低下させることが知られている治療である(Suchek C.V.ら, 2004, Curr. Mol. Med., 4:763-775)TNF−αおよびTL−1β(3.7±0.6μmol尿素×mgタンパク質-1×時間-1)を使用して臨んだ細胞の反応に比べて、用量依存的に、30μMの(−)−エピカテキンにおける3.3±0.2μmol尿素×mgタンパク質-1×時間-1まで引き下げられた。フラバノール代謝産物の混合物での治療も、濃度依存的にアルギナーゼ活性を低下させた。
【0070】
高フラバノール含有カカオ系食物がインビボにおけるアルギナーゼ活性を低下させる:
アルギナーゼ活性におけるフラバノール介在性の効果についてのさらなる証拠が、動物実験から得られた。ラットに、(−)−エピカテキンおよびそのオリゴマーを含む、4%(w/w)のフラバノールを多く含むカカオの有無の別による、炭水化物源として59.5%(w/w)の果糖を含む食餌を与えた(表1)。高フラバノールを用いたこの食餌療法では腎臓のアルギナーゼ活性が低下したのに対し、対照としてのGAPDH活性には影響しなかった。
【表1】

【表2】

【0071】
高フラバノール・カカオの消費がヒトの赤血球におけるアルギナーゼ活性を低下させる:
高フラバノール・カカオ飲料および適合させた低フラバノール対照飲料を使用した、健康なヒト(n=10)におけるインビボ実験では、200mlのカカオ飲料の摂取前、摂取後2時間および24時間の赤血球におけるアルギナーゼ活性を調べた。高フラバノール含有カカオ飲料の消費では、2時間後におけるアルギナーゼ活性は、対照(平均値:3.9±0.4μmol尿素×mgタンパク質-1×時間-1)と比較して、わずかに減少した(3.4±0.4μmol尿素×mgタンパク質-1×時間-1)。しかしながら、24時間後では、アルギナーゼ活性に顕著な減少が見られた(3.0±0.3μmol尿素×mgタンパク質-1×時間-1)。低フラバノール・カカオ飲料の摂取でも、2時間後に酵素活性が低下したが(3.7±0.4に対して、3.3±0.4μmol尿素×mgタンパク質-1×時間-1)、24時間後では、対照と比較してアルギナーゼ活性に実質的な影響は与えなかった(3.5±0.5μmol尿素×mgタンパク質-1×時間-1;p=n.s.)(図3)。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
治療を必要とする被験体における、アルギナーゼ濃度および/またはアルギナーゼ活性の上昇に関連する症状を治療する方法であって、
構造式Anを有する重合化合物、またはそれらの薬学的に許容される塩またはそれらの誘導体からなる群より選択される少なくとも1種類の化合物を有効量で含む組成物を、前記被験体に投与する工程を有してなる方法:
【化1】

ここで、
nは2〜18の整数であり、
RおよびXはそれぞれαまたはβ型の立体化学を有し、
RはOH、O−糖、またはO−ガレートであり、
C−4、C−6およびC−8の置換基はそれぞれX、ZおよびYであり、単量体単位の結合がC−4、C−6またはC−8で生じ、
C−4、C−6またはC−8のいずれも別の単量体単位と結合しない場合、X、YおよびZは独立して水素または糖であり、
前記糖は、随意的に、フェノール部分で置換される。
【請求項2】
治療を必要とする被験体における、アルギナーゼ濃度および/またはアルギナーゼ活性の上昇に関する症状を治療する方法であって、
エピカテキン、カテキン、それらの薬学的に許容される塩、およびそれらの誘導体からなる群より選択される少なくとも1種類の化合物を有効量で含む組成物を、前記被験体に投与する工程を有してなり、
前記誘導体が没食子酸化誘導体ではないことを特徴とする方法。
【請求項3】
前記被験体がヒトであることを特徴とする請求項1記載の方法。
【請求項4】
前記被験体がヒトであることを特徴とする請求項2記載の方法。
【請求項5】
前記化合物がエピカテキンおよび/またはそれらの薬学的に許容される塩であることを特徴とする請求項4記載の方法。
【請求項6】
前記誘導体がメチル化誘導体であることを特徴とする請求項2記載の方法。
【請求項7】
前記メチル化誘導体が、3’O−メチル−(+)−カテキン、3’O−メチル−(−)−エピカテキン、4’O−メチル−(+)−カテキン、4’O−メチル−(−)−エピカテキン、3’O−,4’O−ジメチル−(+)−カテキン、および3’O−,4’O−ジメチル−(−)−エピカテキンからなる群より選択されることを特徴とする請求項6記載の方法。
【請求項8】
前記誘導体が、グルクロン酸化誘導体であることを特徴とする請求項2記載の方法。
【請求項9】
前記誘導体が、4’−O−メチル−エピカテキン−O−β−D−グルクロニド、3’−O−メチル−エピカテキン−O−β−D−グルクロニド、およびエピカテキン−O−β−D−グルクロニドからなる群より選択されることを特徴とする請求項8記載の方法。
【請求項10】
前記化合物が、構造式Anの重合化合物であって、RがOHであり、X、YおよびZが単量体単位Aおよび水素からなる群より選択される化合物、またはそれらの薬学的に許容される塩であることを特徴とする請求項1記載の方法。
【請求項11】
nが2〜10であることを特徴とする請求項10記載の方法。
【請求項12】
前記隣接する単量体単位が、(4β→6)の位置で結合することを特徴とする請求項11記載の方法。
【請求項13】
前記隣接する単量体単位が、(4β→6)および/または(4β→8)の位置で結合することを特徴とする請求項11記載の方法。
【請求項14】
前記組成物が医薬組成物であることを特徴とする請求項3記載の方法。
【請求項15】
前記組成物が医薬組成物であることを特徴とする請求項4記載の方法。
【請求項16】
前記組成物が食品であることを特徴とする請求項10記載の方法。
【請求項17】
前記組成物が食品であることを特徴とする請求項2記載の方法。
【請求項18】
前記組成物がペットフードであることを特徴とする請求項10記載の方法。
【請求項19】
前記組成物がペットフードであることを特徴とする請求項2記載の方法。
【請求項20】
前記組成物が飲料であることを特徴とする請求項2記載の方法。
【請求項21】
前記組成物が栄養補助食品であることを特徴とする請求項2記載の方法。
【請求項22】
前記組成物が菓子であることを特徴とする請求項2記載の方法。
【請求項23】
前記組成物がチョコレートであることを特徴とする請求項2記載の方法。
【請求項24】
前記化合物がカカオ抽出物として提供されることを特徴とする請求項10記載の方法。
【請求項25】
前記化合物がカカオ抽出物として提供されることを特徴とする請求項2記載の方法。
【請求項26】
前記化合物がカカオ抽出物画分として提供されることを特徴とする請求項10記載の方法。
【請求項27】
前記化合物がカカオ抽出物画分として提供されることを特徴とする請求項2記載の方法。
【請求項28】
前記化合物がカカオ固形物として提供されることを特徴とする請求項10記載の方法。
【請求項29】
前記化合物がカカオ固形物として提供されることを特徴とする請求項2記載の方法。
【請求項30】
前記カカオ固形物が保存濃度のエピカテキンを含むことを特徴とする請求項29記載の方法。
【請求項31】
前記カカオ固形物がカカオ粉末であることを特徴とする請求項28記載の方法。
【請求項32】
前記カカオ固形物がカカオ粉末であることを特徴とする請求項29記載の方法。
【請求項33】
前記カカオ固形物が非アルカリ化カカオ固形物であることを特徴とする請求項28記載の方法。
【請求項34】
前記カカオ固形物が非アルカリ化カカオ固形物であることを特徴とする請求項29記載の方法。
【請求項35】
前記被験体が、溶血性疾患、微小循環障害、および糖尿病に関連する症状からなる群より選択される症状を患っていることを特徴とする請求項1記載の方法。
【請求項36】
前記被験体が、溶血性疾患、微小循環障害、および糖尿病に関連する症状からなる群より選択される症状を患っていることを特徴とする請求項2記載の方法。
【請求項37】
前記被験体が、溶血性疾患を患っていることを特徴とする請求項3記載の方法。
【請求項38】
前記被験体が、溶血性疾患を患っていることを特徴とする請求項4記載の方法。
【請求項39】
溶血性疾患、肺高血圧症、嚢胞性線維症、糖尿病に関連する微小循環障害、糖尿病性の足の壊疽、および、性機能障害からなる群より選択される症状を患っている被験体を治療する方法であって、
構造式Anを有する重合化合物、それらの薬学的に許容される塩、およびそれらの誘導体からなる群より選択される少なくとも1種類の化合物を有効量で含む組成物を、前記被験体に投与する工程を有してなる方法:
【化2】

ここで、
nは2〜18の整数であり、
RおよびXはそれぞれαまたはβ型の立体化学を有し、
RはOH、O−糖、またはO−ガレートであり、
C−4、C−6およびC−8の置換基はそれぞれX、ZおよびYであり、単量体単位の結合がC−4、C−6またはC−8で生じ、
C−4、C−6またはC−8のいずれも別の単量体単位と結合しない場合、X、YおよびZは独立して水素または糖であり、
前記糖は、随意的に、フェノール部分で置換される。
【請求項40】
前記化合物が、RがOHであり、X、YおよびZが単量体単位Aおよび水素からなる群より選択される、構造式Anの重合化合物、またはそれらの薬学的に許容される塩であることを特徴とする請求項39記載の方法。
【請求項41】
溶血性疾患、肺高血圧症、嚢胞性線維症、糖尿病に関連する微小循環障害、糖尿病性の足の壊疽、および、性機能障害からなる群より選択される症状を患う被験体を治療する方法であって、
エピカテキン、カテキン、それらの薬学的に許容される塩、および誘導体からなる群より選択される少なくとも1種類の化合物であって、前記誘導体が没食子酸化誘導体ではない化合物を有効量で含む組成物を、前記被験体に投与する工程を有してなる方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公表番号】特表2010−500973(P2010−500973A)
【公表日】平成22年1月14日(2010.1.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−521781(P2009−521781)
【出願日】平成19年7月20日(2007.7.20)
【国際出願番号】PCT/US2007/016504
【国際公開番号】WO2008/011173
【国際公開日】平成20年1月24日(2008.1.24)
【出願人】(390037914)マース インコーポレーテッド (80)
【氏名又は名称原語表記】MARS INCORPORATED
【出願人】(501325945)ザ リージェンツ オブ ザ ユニヴァーシティ オブ カリフォルニア (10)
【氏名又は名称原語表記】THE REGENTS OF THE UNIVERSITY OF CALIFORNIA
【Fターム(参考)】