説明

アルミニウム−炭化珪素質複合体及びその製造方法

【課題】パワーモジュール用ベース板として好適なアルミニウム−炭化珪素質複合体を提供すること。
【解決手段】アルミニウム77〜94.5質量%、珪素5〜20質量%及びマグネシウム0.5〜3質量%を含有する金属粉末15〜40体積%、平均粒子径0.5〜30μmの炭化珪素粉末20〜60体積%、並びに、平均粒子径1〜1000μmのコークス系炭素を黒鉛化した黒鉛粉末20〜60体積%を混合した後、離型処理を施した金型に充填し、温度600〜750℃に加熱して、圧力10MPa以上で加熱プレス成形し、さらに切断及び/又は面加工を行って板厚を2〜6mmにすることを特徴とする、板状アルミニウム−炭化珪素質複合体の製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、パワーモジュール用ベース板として好適なアルミニウム−炭化珪素質複合体及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
今日、半導体素子の高集積化、小型化に伴い、発熱量は増加の一途をたどっており、いかに効率よく放熱させるかが課題となっている。そして、高絶縁性・高熱伝導性を有する例えば窒化アルミニウム基板、窒化珪素基板等のセラミックス基板の表面に、銅製又はアルミニウム製の金属回路を、また裏面に銅製又はアルミニウム製の金属放熱板が形成されてなる回路基板が、パワーモジュール用回路基板として使用されている。
【0003】
従来の回路基板の典型的な放熱構造は、回路基板の裏面(放熱面)の金属板、例えば銅板を介してベース板が半田付けされてなるものであり、ベース板としては銅が一般的であった。しかしながら、この構造においては、半導体装置に熱負荷がかかった場合、ベース板と回路基板の熱膨張係数差に起因するクラックが半田層に発生し、その結果放熱が不十分となって半導体素子を誤作動させたり、破損させたりするという課題があった。
【0004】
そこで、熱膨張係数を回路基板のそれに近づけたベース板として、アルミニウム−炭化珪素質複合体が提案されている。このベース板用のアルミニウム−炭化珪素質複合体の製法としては、炭化珪素の多孔体にアルミニウム合金の溶湯を加圧含浸する溶湯鍛造法(特許文献1)、炭化珪素の多孔体にアルミニウム合金の溶湯を非加圧で浸透させる非加圧含浸法(特許文献2)が実用化されている。一方、コスト面からは、アルミニウム粉末と炭化珪素粉末を混合して、加熱成形する粉末冶金法が有利であり、同製法によるアルミニウム−炭化珪素質複合体の検討も行われている(特許文献3,4)。しかし、粉末冶金法によるアルミニウム−炭化珪素質複合体は、溶湯鍛造法のものに比べ、熱伝導率等が低いという課題がある。
【特許文献1】特許第3468358号
【特許文献2】特表平5−507030号公報。
【特許文献3】特開平9−157773号公報
【特許文献4】特開平10−335538号公報
【0005】
パワーモジュールは、ベース板を介して放熱フィンと接合して用いることが多く、その接合部分の形状や反りもまた重要な特性として挙げられる。例えば、パワーモジュールをベース板を介して放熱フィンに接合する場合、一般に高熱伝導性の放熱グリースを塗布し、ベース板の周縁部に設けられた穴を利用して放熱フィンや放熱ユニット等にねじ固定する。ベース板に微少な凹凸が多く存在すると、ベース板と放熱フィンとの間に隙間が生じ、高熱伝導性の放熱グリースを塗布しても、熱伝達性が著しく低下し、その結果セラミックス回路基板、ベース板、放熱フィン等で構成されるモジュール全体の放熱性が著しく低下してしまうという課題があった。
【0006】
そこで、ベース板と放熱フィンとの間に出来るだけ隙間が出来ないように、予めベース板に凸型の反りを付けたものを用いることが行われている。この反りは通常、所定の形状を有する治具を用い、加熱下、ベース板に圧力を掛けることで反りを付与する技術が提案されている(特許文献5)。この方法によって得られた反りは、ベース板表面にうねりがある場合、形状が一定でなく品質が安定しないという課題があった。また、反り形状のバラツキや表面の凹凸により、放熱フィンとの間に大きな隙間が生じるといった課題があった。
【特許文献5】特許3792180号
【0007】
ベース板表面を機械加工により切削することで反りを付ける方法もあるが、アルミニウム−炭化珪素質複合体は非常に硬いため、ダイヤモンド等の工具を用い多くの研削が必要となり、コストが高くなるという課題があった。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、上記の状況に鑑みてなされたものであり、その目的は、パワーモジュール用ベース板として好適なアルミニウム−炭化珪素質複合体を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者は、上記の目的を達成するために鋭意検討した結果、原料となる炭化珪素粉末及び黒鉛粉末の粒度、含有量を適正化し、アルミニウムの融点近傍の温度域にて加圧成形することで、得られるアルミニウム−炭化珪素質複合体に加工性を付与すると共に、熱伝導率、熱膨張係数、強度等の特性を制御し得るとの知見を得て本発明を完成した。更に、この板状のアルミニウム−炭化珪素質複合体の表面を加工又は加熱プレスによるクリープ変形を活用することにより、反り形状を制御できるとの知見を得て本発明を完成した。
【0010】
即ち、本発明は、アルミニウム77〜94.5質量%、珪素5〜20質量%及びマグネシウム0.5〜3質量%を含有する金属粉末15〜40体積%、平均粒子径0.5〜30μmの炭化珪素粉末20〜60体積%、並びに、平均粒子径1〜1000μmのコークス系炭素を黒鉛化した黒鉛粉末20〜60体積%を混合した後、離型処理を施した金型に充填し、温度600〜750℃に加熱して、圧力10MPa以上で加熱プレス成形し、さらに切断及び/又は面加工を行って板厚を2〜6mmにすることを特徴とする、板状アルミニウム−炭化珪素質複合体の製造方法である。
【0011】
また、本発明は、板状アルミニウム−炭化珪素質複合体の一主面を機械加工し、200mmあたり50〜500μmの凸型の反りを付与することを特徴とする板状アルミニウム−炭化珪素質複合体の製造方法である。
【0012】
更に、本発明は、板状アルミニウム−炭化珪素質複合体に、一定曲率に撓む様に10kPa以上の応力を掛けた状態で、温度400〜550℃で30秒以上加熱処理することによりクリープ変形させて、200mmあたり50〜500μmの凸型の反りを付与することを特徴とするアルミニウム−炭化珪素質複合体の製造方法である。
【0013】
加えて、本発明は、主面方向の熱伝導率(λp)と板厚方向の熱伝導率(λt)が、150W/mK≦(2×λp+λt)/3≦250W/mK、且つ、0.6×λp≦λt≦λpであり、主面方向の熱膨張係数(αp)と板厚方向の熱膨張係数(αt)が、5×10-6/K≦(2×αp+αt)/3≦9×10-6/K、且つ、0.7×αt≦αp≦αtであり、気孔率が5体積%以下であり、3点曲げ強度が100〜350MPaであることを特徴とするアルミニウム−炭化珪素質複合体である。
【0014】
更にまた、本発明は、板状アルミニウム−炭化珪素質複合体に、取り付け穴を加工した後、めっき処理を行い、一主面がセラミックス回路基板に半田付け又はロウ付け接合され、他の一主面が放熱面として用いられるパワーモジュール用ベース板である。
【発明の効果】
【0015】
本発明は、アルミニウム、珪素、マグネシウムの金属粉末と炭化珪素粉末及び黒鉛粉末を加熱成形して得られるアルミニウム−炭化珪素質複合体において、炭化珪素粉末及び黒鉛粉末の粒度、含有量を適性化することにより、得られる複合体の特性を著しく改善することができ、低熱膨張、並びに高熱伝導という特性を有する。更に、本発明のアルミニウム−炭化珪素質複合体は、加工性を有するため、加工により反り形状を制御することができ、高信頼性を要求される半導体素子を搭載するパワーモジュールのベース板として好適なアルミニウム−炭化珪素質複合体を供給するものである。
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
本発明のアルミニウム−炭化珪素質複合体は、主成分がアルミニウムであるアルミニウム合金からなる第一の成分と、主成分が炭化珪素及び黒鉛からなる第二の成分からなる。本発明のような異種の材料を複合化した複合体では、異種の材料の界面が強固に結びつくことでお互いに熱のやり取りが可能となる。このため、界面の密着性が悪い場合は、複合体の熱伝導率はマトリックス材(本発明ではアルミニウム合金)に支配され、強化材(本発明では、炭化珪素及び黒鉛)自体の熱伝導率が如何に高くても、複合体全体の熱伝導特性はマトリックス材以下となる。本発明の基本的な考え方は、複合体において如何に金属成分と強化材を強固に密着させるかであり、その手法として、金属成分を溶融状態で加圧成形することで両者の界面を強固なものとし、目的とする特性を達成するものである。
【0017】
本発明のアルミニウム−炭化珪素質複合体の特に重要な特性は、熱伝導率と熱膨張係数である。このため、用いる強化材としては、素材自体の熱伝導率が高く且つ熱膨張係数が小さいことが必要であり、炭化珪素及び黒鉛が好適である。
【0018】
本発明に用いる金属粉末は、アルミニウム77〜94.5質量%、珪素5〜20質量%及びマグネシウム0.5〜3質量%を含有する金属粉末である。この金属粉末としては、(1)金属粉末を混合して用いる、(2)金属粉末と合金粉末を混合して用いる(例えば、アルミニウム粉末、珪素粉末及びアルミニウム−マグネシウム合金粉末を用いる)、(3)3成分を所定量含有する合金粉末を用いることが可能である。珪素成分が5質量%未満又は20質量%を超えると、3成分からなる合金の融点が高くなり、緻密化が進まない場合があり好ましくない。また、珪素成分が5質量%未満では、得られる合金の熱膨張係数が大きくなり、その結果、アルミニウム−炭化珪素質複合体の熱膨張係数が大きくなり好ましくない。一方、珪素成分が20質量%を超えると、得られる合金の熱伝導率が低下し、その結果、アルミニウム−炭化珪素質複合体の熱伝導率が低下し好ましくない。マグネシウム成分は、得られる合金と炭化珪素の濡れ性を向上させる効果があり、0.5質量%未満では、その効果が不足し、熱伝導率、強度等の特性が低下して好ましくない。一方、マグネシウム成分が3質量%を超えると、複合化時に炭化アルミニウム(Al)を生成し易くなり、熱伝導率、強度の面で好ましくない。
【0019】
これらの金属粉末の含有量は、アルミニウム−炭化珪素質複合体に対して、15〜40体積%である。ここで、金属粉末の含有量(体積%)は、金属粉末の平均密度を2.7g/cmとして計算する。15体積%未満では、加熱プレス成形時の溶融合金量が不足し、アルミニウム−炭化珪素質複合体の緻密化が不足するため好ましくない。一方、40体積%を超えると、緻密なアルミニウム−炭化珪素質複合体を得ることはできるが、アルミニウム−炭化珪素質複合体の熱膨張係数が大きくなり過ぎて好ましくない。これらの金属粉末の粒度に関しては、平均粒子径が10〜200μm程度が好適である。平均粒子径が10μm未満では、金属粒子表面の酸化により緻密化が阻害され好ましくない。また、平均粒子径が200μmを超えると、混合の均一化が阻害され特性が低下することがあり好ましくない。
【0020】
本発明のアルミニウム−炭化珪素質複合体に用いる強化材としては、平均粒子径0.5〜30μmの炭化珪素粉末20〜60体積%、並びに、平均粒子径1〜1000μmのコークス系炭素を黒鉛化した黒鉛粉末20〜60体積%である。炭化珪素粉末の粒度に関しては、アルミニウム−炭化珪素質複合体の熱伝導率の点から、平均粒子径が0.5μm以上が好ましい。一方、平均粒子径が30μmを超えると、アルミニウム−炭化珪素質複合体の加工性が低下して好ましくない。炭化珪素粉末の含有量が20体積%未満では、アルミニウム−炭化珪素質複合体の強度が低下すると共に、熱膨張係数が大きくなり好ましくない。一方、炭化珪素粉末の含有量が60体積%を超えると、アルミニウム−炭化珪素質複合体の加工性が低下すると共に熱伝導率が低下して好ましくない。
【0021】
コークス系炭素を黒鉛化した黒鉛粉末は、熱伝導率が高く、本発明が目指す高熱伝導率のアルミニウム−炭化珪素質複合体を作製するのに好ましい。特に、ニードルコークス系炭素を原料とし、2500℃以上の高温で黒鉛化した人造黒鉛粉末が好適である。更に、本発明では、黒鉛粉末を含有させることでアルミニウム−炭化珪素質複合体の加工性を改善している。黒鉛粉末の粒度に関しては、アルミニウム−炭化珪素質複合体の熱伝導率の点から、平均粒子径が1μm以上が好ましい。一方、平均粒子径が1000μmを超えると、アルミニウム−炭化珪素質複合体中に粗大な黒鉛粒子が残留し、その結果、放熱部品として用いる場合に、局所的に強度が低下することがあり好ましくない。黒鉛粉末の含有量が20体積%未満では、アルミニウム−炭化珪素質複合体の熱伝導率が低下すると共に、加工性が低下するため好ましくない。一方、黒鉛粉末の含有量が60体積%を超えると、黒鉛粉末の配向に由来するアルミニウム−炭化珪素質複合体の熱伝導率、熱膨張係数等の特性の異方性が大きくなり、加えて、アルミニウム−炭化珪素質複合体の強度が低下して好ましくない。
【0022】
本発明の原料粉末の混合方法に関しては、個々の原料が均一に混合される方法であれば特に制約はない。ボールミル混合、ミキサーによる混合等が可能である。混合時間に関しては、原料粉末の酸化及び粉砕が進まない程度の時間が好ましく、混合方法及び充填量にもよるが、15分〜5時間程度が一般的である。混合時間が短いと、アルミニウム-炭化珪素質複合体の緻密化不足が発生したり、複合体組織の不均一が発生し好ましくない。一方、混合時間が長すぎると原料粉末の酸化及び粉砕による微粉化が起こり、その結果、アルミニウム−炭化珪素質複合体の熱伝導率が低下する問題があり好ましくない。また、加熱プレス成形時の加熱段階で除去可能なものであれば、必要に応じて保形用バインダー等の使用が可能である。
【0023】
本発明の加熱プレス成形で用いる金型は、強度の点から、鋳鉄、ステンレス等の鉄製の材料が適しており、高価ではあるが窒化珪素等のセラミックスも用いることができる。更に、黒鉛製の金型も用いることができる。金型は、加熱プレス成形で得られる複合体との離型性の面より、表面に離型剤を塗布して用いる。この離型剤としては、黒鉛、アルミナ、窒化硼素等の離型剤が適している。また、金型にアルミナ等の薄膜を形成した後、離型剤を塗布することにより、優れた離型性を得ることが出来ると共に、金型の寿命を延ばすことができる。
【0024】
本発明では、混合粉末を離型処理を施した金型に充填し、温度600〜750℃に加熱する。この加熱温度は、用いる金属粉末の融点以上であることが好ましい。温度600℃未満では、用いる合金組成によっては、未溶融となり、アルミニウム−炭化珪素質複合体の緻密化が不足して好ましくない。一方、加熱温度が、750℃を超えると、アルミニウムと黒鉛が反応して、炭化アルミニウム(Al)を生成し易くなり、熱伝導率、強度の面で好ましくない。
【0025】
加熱プレス成形時の成形圧力は、10MPa以上である。加熱プレス成型時の圧力が、10MPa未満では、加熱プレス成形時に金属成分と強化材を強固に密着させることが出来ず、熱伝導率、強度等の特性が低下するため好ましくない。また、プレス圧の上限については、特性面からの制約はないが、金型の強度、装置の力量より、300MPa以下が適当である。アルミニウム−炭化珪素質複合体は、融点以下の温度で減圧した後、室温まで冷却する。なお、複合化時の歪み除去の目的で、アルミニウム−炭化珪素質複合体のアニール処理を行うこともある。
【0026】
複合化時の歪み除去の目的で行うアニール処理は、400℃〜550℃の温度で10分以上行うことが好ましい。アニール温度が400℃未満であると、複合体内部の歪みが十分に開放されずに機械加工後の熱処理で形状が変化してしまう場合がある。一方、アニール温度が550℃を越えると、複合体中のアルミニウム合金が溶融する場合がある。アニール時間が10分未満であると、アニール温度が400℃〜550℃であっても複合体内部の歪みが十分に開放されず、機械加工後の熱処理で形状が変化してしまう場合がある。
【0027】
本発明では、アルミニウム−炭化珪素質複合体を、加熱プレス成形して作製するため、得られるアルミニウム−炭化珪素質複合体には、原料粉末、特に黒鉛粉末の配向により不可避的に特性の異方性が発生する。本発明では、用いる金属粉末の融点以上の温度で、10MPa以上の成形圧力で加熱プレス成形することで、均一な粒子の配向を達成させ、且つ、強化材である炭化珪素粉末及び黒鉛粉末の粒度及び配合量を規定することで、複合体の特性の異方性を制御している。
【0028】
このため、本発明のアルミニウム−炭化珪素質複合体の主面方向の熱伝導率(λp)と板厚方向の熱伝導率(λt)は、150W/mK≦(2×λp+λt)/3≦250W/mK、且つ、0.6×λp≦λt≦λpである。本発明の複合体は、製法由来の特性の異方性から、主面方向の熱伝導率(λp)が、板厚方向の熱伝導率(λt)より大きく、素材自体の平均熱伝導率は、(2×λp+λt)/3で近似することができる。このため、(2×λp+λt)/3が150W/mK未満では、パワーモジュール用のベース板等の放熱部品として用いる場合に十分な放熱特性が得られず好ましくない。(2×λp+λt)/3の上限に関しては、特性面からの制約はないが、高熱伝導の黒鉛成分の比率が増加し、特性の異方性が顕著となるため、250W/mK以下であることが好ましい。
【0029】
本発明のアルミニウム−炭化珪素質複合体の特性の異方性に相当する主面方向の熱伝導率(λp)と板厚方向の熱伝導率(λt)の関係については、0.6×λp≦λtであり、λtが0.6×λp未満では、熱伝導率の異方性が顕著に成り過ぎて、板厚方向の熱伝導率が低下し、パワーモジュール用のベース板等の放熱部品として用いる場合に十分な放熱特性が得られず好ましくない。
【0030】
また、本発明のアルミニウム−炭化珪素質複合体の主面方向の熱膨張係数(αp)と板厚方向の熱膨張係数(αt)が、5×10-6/K≦(2×αp+αt)/3≦9×10-6/K、且つ、0.7×αt≦αp≦αtである。本発明の複合体は、製法由来の特性の異方性から、主面方向の熱膨張係数(αp)が、板厚方向の熱膨張係数(αt)より小さく、素材自体の平均熱膨張係数は、(2×αp+αt)/3で近似することができる。本発明のアルミニウム−炭化珪素質複合体をパワーモジュール用のベース板等の放熱部品として用いる場合、接合されるセラミックス回路基板との熱膨張係数のマッチングが非常に重要であり、平均熱膨張係数:(2×αp+αt)/3が、5×10-6/K未満又は9×10-6/Kを超えると、半導体素子作動時の熱負荷により、接合層(半田層等)やセラミックスの破壊が起こり、放熱特性が低下する問題があり好ましくない。
【0031】
本発明のアルミニウム−炭化珪素質複合体の特性の異方性に相当する主面方向の熱膨張係数(αp)と板厚方向の熱膨張係数(αt)の関係については、0.7×αp≦αtであり、αpが0.7×αt未満では、熱膨張係数の異方性が顕著に成り過ぎて、パワーモジュール用のベース板等の放熱部品として用いる場合に、半導体素子作動時の熱負荷により、接合層(半田層等)やセラミックスの破壊が起こり、放熱特性が低下する問題があり好ましくない。
【0032】
更に、本発明では、充填特性に優れる黒鉛粉末の添加量を規定し、用いる金属粉末の融点以上の温度で、10MPa以上の成形圧力で加熱プレス成形することで、得られるアルミニウム−炭化珪素質複合体の気孔率を制御している。また、強化材として微粉の炭化珪素粉末を用いることにより、強度特性を改善せしめている。
【0033】
本発明のアルミニウム−炭化珪素質複合体の気孔率は5体積%以下であり、3点曲げ強度は100〜350MPaが好ましい。気孔率が、5体積%を超えると熱伝導率等の特性が低下すると共に、パワーモジュール用のベース板等の放熱部品として用いる場合に、使用環境からの水分の透過等によるモジュール自体の耐食性に問題が発生し好ましくない。また、本発明のアルミニウム−炭化珪素質複合体を、パワーモジュール用のベース板等の放熱部品として用いる場合、3点曲げ強度が100MPa未満では、ネジ止めする際の割れや、使用時の振動等の影響による欠けの問題があり好ましくない。3点曲げ強度の上限に関しては、特性状の制約はないが、3点曲げ強度を極端に向上させるためには、炭化珪素の添加量の増加及び微粉化が必要となり、その結果、得られるアルミニウム−炭化珪素質複合体の熱伝導率が低下するため、350MPa以下であることが好ましい。
【0034】
本発明のアルミニウム−炭化珪素質複合体は、加工性に優れるため容易に切断加工、面加工、穴加工等を施すことが出来る。このため、得られたアルミニウム−炭化珪素質複合体は、板状の複合体の場合、表面を必要に応じて研磨機や研削盤で面加工して板厚を2〜6mmとする。また、ブロック状の複合体の場合、バンドソー等により切断加工して板厚を2〜6mmとし、必要に応じて面加工を行う。更に、本発明のアルミニウム−炭化珪素質複合体は、外周部及び穴部等をNC旋盤、マシニングセンター等の装置を用いて容易に機械加工することができる。
【0035】
本発明の板状アルミニウム−炭化珪素質複合体は、加工性に優れるため、一主面を旋盤等の機械加工により、200mmあたり50〜500μmの凸型の反りを付与することができる。旋盤等への被加工品の固定は、非加工品の周辺部をチャッキングするか、周縁部に設けられた穴等を利用してネジ止めする方法を採用することができる。本発明の板状アルミニウム−炭化珪素質複合体は、表面を機械加工することにより、理想的な球面形状の放熱面を得ることが可能であり、良好な放熱特性を得ることができる。本発明の板状アルミニウム−炭化珪素質複合体を、パワーモジュール用ベース板として用いる場合、その反り量が、長さ200mmあたり50μm未満では、その後のモジュール組み立て工程でベース板と放熱フィンとの間に隙間が生じ、たとえ高熱伝導性の放熱グリースを塗布しても、熱伝達性が著しく低下し、その結果セラミックス回路基板、ベース板、放熱フィン等で構成されるモジュールの放熱性が著しく低下してしまう場合がある。又、反り量が500μmを超えると、放熱フィンとの接合の際のネジ止め時に、ベース板、又はセラミックス回路基板にクラックが発生してしまう場合があり好ましくない。
【0036】
また、本発明の板状アルミニウム−炭化珪素質複合体の反りを形成する方法として、板状アルミニウム−炭化珪素質複合体を、200mmあたり100〜1000μmの反りとなる曲率に撓む様に10kPa以上の応力を掛けた状態で、温度400〜550℃で30秒以上加熱処理することによりクリープ変形させて、200mmあたり50〜500μmの凸型の反りを付与することもできる。加熱処理時に印加する応力が10kPa未満では、撓み量が不足し、目的とする反り量を得ることができない。また、処理温度が400℃未満又は処理温度が400〜550℃でも処理時間が30秒未満では、十分なクリープ変形を起こすことが出来ず、目的とする反り量を得ることができない。処理温度が550℃を超えると、複合体中の金属成分の移動に伴う密度低下等の問題が発生して好ましくない。
【0037】
本発明に係るアルミニウム−炭化珪素質複合体は、パワーモジュール用ベース板として用いる場合、取り付け穴等を加工した後、セラミックス回路基板と半田付けにより接合して用いられるのが一般的である。このため、アルミニウム−炭化珪素質複合体表面には、Niめっきを施すことが必要である。めっき処理方法は特に限定されず、無電解めっき処理、電気めっき処理法のいずれでもよい。Niめっきの厚みは1〜20μmであることが好ましい。めっき厚みが1μm未満では、部分的にめっきピンホールが発生し、半田付け時に半田ボイド(空隙)が発生し、回路基板からの放熱特性が低下する場合がある。一方、Niめっきの厚みが20μmを超えると、Niめっき膜と表面アルミニウム合金との熱膨張差によりめっき剥離が発生する場合がある。Niめっき膜の純度に関しては、半田濡れ性に支障をきたさないものであれば特に制約はなく、リン、硼素等を含有することができる。更に、Niめっき表面に金めっきを施すことも可能である。
【0038】
また、本発明に係わるアルミニウム−炭化珪素質複合体とセラミックス回路基板との接合は、活性金属ロウ材を介してロウ付けすることもできる。活性金属ロウ材は、ペースト状のものも使用可能であるが、取り扱い上合金箔が好ましい。この場合、活性金属ロウ材は、アルミニウム−炭化珪素質複合体の金属成分としての合金よりも融点の低いものが好ましい。例示すればCu1〜6質量%のAl−Cu合金箔、Cu4質量%とMg0.5%質量を含む2018合金箔、0.5質量%のMnを含む2017合金箔、更にはJIS合金の2001、2003、2005、2007、2011、2014、2024、2025、2030、2034、2036、2048、2090、2117、2124、2218、2224、2324、7050、7075等の合金箔が使用可能である。また、Mg、Zn、In、Mn、Cr、Ti、Bi等の第三成分を、合計で5質量%まで含むものの使用も可能である。
【実施例】
【0039】
(実施例1)
炭化珪素粉末(屋久島電工製/平均粒子径:12μm、密度:3.2g/cm):428.1g(35体積%)、ニードルコークスを原料とする市販の人造黒鉛粉末(東海カーボン社製/平均粒子径:100μm、密度:2.2g/cm):270.1g(35体積%)、アルミニウム粉末(アルコア社製/平均粒子径:25μm):269.3g、珪素粉末(エルケム社製/平均粒子径:20μm):36.5g、マグネシウム粉末(平均粒子径:50μm)3.0gを、ボールミルにて30分間混合した。次に、図1に示す鋳鉄製の金型1(外形:200×200×50mm、内径:140×130×50mm)及び金型2(下部:200×200×20mm、上部:139.9×129.9×10mm)に離型剤として黒鉛及び窒化硼素を塗布した後、積層して金型2の上面に黒鉛シートを配置して、前記混合粉末を充填した。更に、混合粉末の上部に黒鉛シートを配置し、同様に離型剤を塗布した金型3(139.9×129.9×60mm)を積層し、油圧プレスにて面圧:10MPaで予備成形を実施した。
【0040】
【表1】

【0041】
次に、この積層体を電気炉にて、大気雰囲気下、温度650℃に加熱して15分間保持して、積層体の温度を650℃とした。加熱した積層体は、5mmtの断熱材を介して、油圧プレスにて面圧:50MPaで5分間、加熱プレス成形を行った後、圧力を開放して室温まで冷却した。次に、金型2を外し、油圧プレスにて金型3を押し込み成形体を取り出した後、離型用に配置した黒鉛シートを剥がして、140×130×21mmtのアルミニウム−炭化珪素質複合体を得た。
【0042】
得られたアルミニウム−炭化珪素質複合体は、湿式バンドソーにて板厚8mmtに切断加工した後、平面研削盤にて両面を研削加工して板厚5.3mmtとした。更に、マシニングセンターにて、縁周部6カ所に直径7mmの貫通穴、4カ所にφ10−4mmの皿穴を加工した後、外周部分を加工して、127mm×137mm×5.3mmの形状とした。次に、旋盤治具に皿穴を利用してネジ固定を行い、片面を曲率半径:20mの球面形状になるよう、旋盤にて反り加工を行った。得られたアルミニウム−炭化珪素質複合体の放熱面の形状を接触型二次元輪郭形状測定機(東京精密社製;コンターレコード1600D−22)にて測定し、200mmあたりの反り量を測定した結果、260μmであった。
【0043】
次いで、圧力0.4MPa、搬送速度1.0m/minの条件でアルミナ砥粒にてブラスト処理を行い清浄化した後、無電解Ni―P及びNi−Bめっきを行い、複合体表面に8μm厚(Ni−P:6μm+Ni−B:2μm)のめっき層を形成した。
【0044】
加熱プレス成形で得られたアルミニウム−炭化珪素質複合体より、研削加工により主面方向と板厚方向の熱膨張係数測定用試験体(3×3×10mm)及び熱伝導率測定用試験体(直径11mm厚さ3mm)を作製した。それぞれの試験片を用いて、温度25℃〜150℃の熱膨張係数を熱膨張計(セイコー電子工業社製;TMA300)で、25℃での熱伝導率をレーザーフラッシュ法(理学電機社製;LF/TCM−8510B)で測定した。その結果、温度25℃の主面方向の熱伝導率:λpは210W/mK、板厚方向の熱伝導率:λtは145W/mK、(2×λp+λt)/3=188W/mKであり、温度25℃〜150℃の主面方向の熱膨張係数:αpは7.5×10−6/K、板厚方向の熱膨張係数:αtは8.9×10−6/K、(2×αp+αt)/3=8.0×10−6/Kであった。
【0045】
アルミニウム−炭化珪素質複合体より、研削加工により3点曲げ強度測定用試験体(3×4×40mm)を作製し、曲げ強度試験機にて3点曲げ強度を測定した結果、160MPaであった。更に、アルミニウム−炭化珪素質複合体の密度をアルキメデス法で測定し、気孔率を算出した結果、気孔率は、2.1体積%であった。
【0046】
【表2】

【0047】
(実施例2)
実施例1と同様にして、140×130×21mmtのアルミニウム−炭化珪素質複合体を作製した後、湿式バンドソーにて板厚8mmtに切断加工し、平面研削盤にて両面を研削加工して板厚5.0mmtとした。更に、マシニングセンターにて、縁周部6カ所に直径7mmの貫通穴、4カ所にφ10−4mmの皿穴を加工した後、外周部分を加工して、127mm×137mm×5.0mmの形状とした。
【0048】
次に、このアルミニウム−炭化珪素質複合体に反りを付与するため、カーボン製で曲率半径が15mの球面を設けた凹凸型を準備した。この凹凸型を熱プレス機に装着し、加熱して型の表面温度を510℃とした。この凹凸型の間に前記複合体を配置し40KPaでプレスした。この際、当該複合体の側面に熱電対を接触させ測温した。複合体の温度が500℃になった時点から3分間保持後、加圧を解除し、50℃まで自然冷却した。次に、得られた複合体は、反り付け時の残留歪み除去のために、電気炉で350℃の温度で30分間アニール処理を行った。得られたアルミニウム−炭化珪素質複合体の放熱面の形状を接触型二次元輪郭形状測定機(東京精密社製;コンターレコード1600D−22)にて測定し、200mmあたりの反り量を測定した結果、200mmあたりの反り量は、220μmであった。
【0049】
(実施例3〜8、比較例1〜3)
炭化珪素粉末(屋久島電工製/平均粒子径:12μm、密度:3.2g/cm):428.1g(35体積%)、ニードルコークスを原料とする市販の人造黒鉛粉末(東海カーボン社製/平均粒子径:100μm、密度:2.2g/cm):294.4g(35体積%)、及び、アルミニウム粉末(アルコア社製/平均粒子径:25μm)、珪素粉末(エルケム社製/平均粒子径:20μm)、マグネシウム粉末(平均粒子径:50μm)、アルミニウム−マグネシウム合金粉末(平均粒子径:80μm)、マグネシウム−珪素粉末/MgSi(平均粒子径:70μm)、アルミニウム−珪素−マグネシウム合金粉末(平均粒子径:40μm)を、表1に示す配合で、合計309.6gを、ボールミルにて30分間混合した。次に、実施例1と同様の手法にて、鋳鉄製の金型1(外形:200×200×50mm、内径:140×130×50mm)及び金型2(下部:200×200×20mm、上部:139.9×129.9×10mm)に離型剤として黒鉛及び窒化硼素を塗布した後、積層して金型2の上面に黒鉛シートを配置して、前記混合粉末を充填した。更に、混合粉末の上部に黒鉛シートを配置し、同様に離型剤を塗布した金型3(139.9×129.9×60mm)を積層し、油圧プレスにて面圧:10MPaで予備成形を実施した。
【0050】
次に、この積層体を実施例1と同様の手法により、加熱プレス成形を行った後、圧力を開放して室温まで冷却し、140×130×21mmtのアルミニウム−炭化珪素質複合体を得た。得られたアルミニウム−炭化珪素質複合体は、研削加工により主面方向と板厚方向の熱膨張係数測定用試験体(3×3×10mm)及び熱伝導率測定用試験体(直径11mm厚さ3mm)を作製した。それぞれの試験片を用いて、温度25℃〜150℃の熱膨張係数を熱膨張計(セイコー電子工業社製;TMA300)で、25℃での熱伝導率をレーザーフラッシュ法(理学電機社製;LF/TCM−8510B)で測定した。また、アルミニウム−炭化珪素質複合体より、研削加工により3点曲げ強度測定用試験体(3×4×40mm)を作製し、曲げ強度試験機にて3点曲げ強度を測定した。更に、アルミニウム−炭化珪素質複合体の密度をアルキメデス法で測定し、気孔率を算出した。結果を表2に示す。
【0051】
また、実施例3〜8の加熱プレス成形で得られたアルミニウム−炭化珪素質複合体は、湿式バンドソーにて板厚8mmtに切断加工した後、平面研削盤にて両面を研削加工して板厚5.3mmtとした。更に、マシニングセンターにて、縁周部6カ所に直径7mmの貫通穴、4カ所にφ10−4mmの皿穴を加工した後、外周部分を加工して、127mm×137mm×5.3mmの形状とした。次に、旋盤治具に皿穴を利用してネジ固定を行い、片面を曲率半径:20mの球面形状になるよう、旋盤にて反り加工を行った。実施例3〜8のアルミニウム−炭化珪素質複合体は、加工性に優れ、加工時の欠けや割れも無く、また、加工工具の極端な摩耗も無かった。次いで、得られたアルミニウム−炭化珪素質複合体の放熱面の形状を接触型二次元輪郭形状測定機(東京精密社製;コンターレコード1600D−22)にて測定し、200mmあたりの反り量を測定した結果、200mmあたりの反り量は、251〜272μmであった。
【0052】
(実施例9〜16、比較例4〜8)
アルミニウム粉末(アルコア社製/平均粒子径:25μm):435g、珪素粉末(エルケム社製/平均粒子径:20μm):60g、マグネシウム粉末(平均粒子径:50μm)5gを、ボールミルにて10分間混合して金属粉末の混合粉末を作製した。この金属粉末と、表3に示す粒度の炭化珪素粉末及び黒鉛粉末を、表3に示す配合比で、ボールミルにて30分間混合した。ここで、金属粉末の混合粉末は、平均密度2.7g/cmとして計算した。次に、実施例1と同様の手法にて、鋳鉄製の金型1(外形:200×200×50mm、内径:140×130×50mm)及び金型2(下部:200×200×20mm、上部:139.9×129.9×10mm)に離型剤として黒鉛及び窒化硼素を塗布した後、積層して金型2の上面に黒鉛シートを配置して、前記混合粉末を充填した。更に、混合粉末の上部に黒鉛シートを配置し、同様に離型剤を塗布した金型3(139.9×129.9×60mm)を積層し、油圧プレスにて面圧:10MPaで予備成形を実施した。
【0053】
【表3】

【0054】
次に、この積層体を実施例1と同様の手法により、加熱プレス成形を行った後、圧力を開放して室温まで冷却し、140×130×21mmtのアルミニウム−炭化珪素質複合体を得た。得られたアルミニウム−炭化珪素質複合体は、研削加工により主面方向と板厚方向の熱膨張係数測定用試験体(3×3×10mm)及び熱伝導率測定用試験体(直径11mm厚さ3mm)を作製した。それぞれの試験片を用いて、温度25℃〜150℃の熱膨張係数を熱膨張計(セイコー電子工業社製;TMA300)で、25℃での熱伝導率をレーザーフラッシュ法(理学電機社製;LF/TCM−8510B)で測定した。また、アルミニウム−炭化珪素質複合体より、研削加工により3点曲げ強度測定用試験体(3×4×40mm)を作製し、曲げ強度試験機にて3点曲げ強度を測定した。更に、アルミニウム−炭化珪素質複合体の密度をアルキメデス法で測定し、気孔率を算出した。結果を表4に示す。
【0055】
【表4】

【0056】
また、実施例9〜16及び比較例4〜8の加熱プレス成形で得られたアルミニウム−炭化珪素質複合体を、湿式バンドソーにて板厚8mmtに切断加工した後、平面研削盤にて両面を研削加工して板厚5.3mmtとした。更に、マシニングセンターにて、縁周部6カ所に直径7mmの貫通穴、4カ所にφ10−4mmの皿穴を加工した後、外周部分を加工して、127mm×137mm×5.3mmの形状とした。次に、旋盤治具に皿穴を利用してネジ固定を行い、片面を曲率半径:20mの球面形状になるよう、旋盤にて反り加工を行った。ここで、比較例6のアルミニウム−炭化珪素質複合体は、難加工性であり、通常の加工工具では極端に摩耗が激しく加工出来なかった。また、比較例8のアルミニウム−炭化珪素質複合体は、加工性自体は問題無かったが、加工時に欠けが発生し、所定形状に加工することが出来なかった。次いで、比較例6及び8以外のアルミニウム−炭化珪素質複合体の放熱面の形状を接触型二次元輪郭形状測定機(東京精密社製;コンターレコード1600D−22)にて測定し、200mmあたりの反り量を測定した結果、200mmあたりの反り量は、248〜271μmであった。
【0057】
(実施例17〜20、比較例9〜11)
炭化珪素粉末(屋久島電工製/平均粒子径:12μm、密度:3.2g/cm):428.1g(35体積%)、ニードルコークスを原料とする市販の人造黒鉛粉末(東海カーボン社製/平均粒子径:100μm、密度:2.2g/cm):294.4g(35体積%)、アルミニウム粉末(アルコア社製/平均粒子径:25μm):270.1g、珪素粉末(エルケム社製/平均粒子径:20μm):36.5g、マグネシウム粉末(平均粒子径:50μm)3.0gを、ボールミルにて30分間混合した。次に、実施例1と同様の手法にて、鋳鉄製の金型1(外形:200×200×50mm、内径:140×130×50mm)及び金型2(下部:200×200×20mm、上部:139.9×129.9×10mm)に離型剤として黒鉛及び窒化硼素を塗布した後、積層して金型2の上面に黒鉛シートを配置して、前記混合粉末を充填した。更に、混合粉末の上部に黒鉛シートを配置し、同様に離型剤を塗布した金型3(139.9×129.9×60mm)を積層し、油圧プレスにて面圧:10MPaで予備成形を実施した。
【0058】
次に、この積層体を電気炉にて、大気雰囲気下、表5に示す温度に加熱して15分間保持して、積層体の温度を表5に示す温度とした。加熱した積層体は、5mmtの断熱材を介して、油圧プレスにて表5に示す面圧で5分間、加熱プレス成形を行った後、圧力を開放して室温まで冷却した。次に、金型2を外し、油圧プレスにて金型3を押し込み成形体を取り出した後、離型用に配置した黒鉛シートを剥がして、140×130×21mmtのアルミニウム−炭化珪素質複合体を得た。
【0059】
【表5】

【0060】
得られたアルミニウム−炭化珪素質複合体は、研削加工により主面方向と板厚方向の熱膨張係数測定用試験体(3×3×10mm)及び熱伝導率測定用試験体(直径11mm厚さ3mm)を作製した。それぞれの試験片を用いて、温度25℃〜150℃の熱膨張係数を熱膨張計(セイコー電子工業社製;TMA300)で、25℃での熱伝導率をレーザーフラッシュ法(理学電機社製;LF/TCM−8510B)で測定した。また、アルミニウム−炭化珪素質複合体より、研削加工により3点曲げ強度測定用試験体(3×4×40mm)を作製し、曲げ強度試験機にて3点曲げ強度を測定した。更に、アルミニウム−炭化珪素質複合体の密度をアルキメデス法で測定し、気孔率を算出した。結果を表6に示す。
【0061】
【表6】



【図面の簡単な説明】
【0062】
【図1】アルミニウム−炭化珪素質複合体の作製方法を示す説明図(複合化前の積層状態)
【符号の説明】
【0063】
1 金型1
2 金型2
3 金型3
4 金属粉末、炭化珪素粉末及び黒鉛粉末の混合粉末
5 黒鉛シート

【特許請求の範囲】
【請求項1】
アルミニウム77〜94.5質量%、珪素5〜20質量%及びマグネシウム0.5〜3質量%を含有する金属粉末15〜40体積%、平均粒子径0.5〜30μmの炭化珪素粉末20〜60体積%、並びに、平均粒子径1〜1000μmのコークス系炭素を黒鉛化した黒鉛粉末20〜60体積%を混合した後、離型処理を施した金型に充填し、温度600〜750℃に加熱して、圧力10MPa以上で加熱プレス成形し、さらに切断及び/又は面加工を行って板厚を2〜6mmにすることを特徴とする、板状アルミニウム−炭化珪素質複合体の製造方法。
【請求項2】
板状アルミニウム−炭化珪素質複合体の一主面を機械加工し、200mmあたり50〜500μmの凸型の反りを付与することを特徴とする請求項1記載の板状アルミニウム−炭化珪素質複合体の製造方法。
【請求項3】
板状アルミニウム−炭化珪素質複合体に、一定曲率に撓む様に10kPa以上の応力を掛けた状態で、温度400〜550℃で30秒以上加熱処理することによりクリープ変形させて、200mmあたり50〜500μmの凸型の反りを付与することを特徴とする請求項1記載の板状アルミニウム−炭化珪素質複合体の製造方法。
【請求項4】
主面方向の熱伝導率(λp)と板厚方向の熱伝導率(λt)が、150W/mK≦(2×λp+λt)/3≦250W/mK、且つ、0.6×λp≦λt≦λpであり、主面方向の熱膨張係数(αp)と板厚方向の熱膨張係数(αt)が、5×10-6/K≦(2×αp+αt)/3≦9×10-6/K、且つ、0.7×αt≦αp≦αtであり、気孔率が5体積%以下で、3点曲げ強度が100〜350MPaであることを特徴とする、請求項1〜3のうちいずれか一項記載の製造方法により得られる板状アルミニウム−炭化珪素質複合体。
【請求項5】
請求項1〜3のうちいずれか一項記載の製造方法により得られる板状アルミニウム−炭化珪素質複合体に、取り付け穴を加工した後、めっき処理を行い、一主面がセラミックス回路基板に半田付け又はロウ付け接合され、他の一主面が放熱面として用いられるパワーモジュール用ベース板。


【図1】
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【公開番号】特開2010−24488(P2010−24488A)
【公開日】平成22年2月4日(2010.2.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−186227(P2008−186227)
【出願日】平成20年7月17日(2008.7.17)
【出願人】(000003296)電気化学工業株式会社 (1,539)
【Fターム(参考)】