説明

アルミニウム合金−炭化珪素質複合体

【課題】
回路基板のベース板として好適な、高温領域においても高熱伝導性で低熱膨張係数を有するアルミニウム合金-炭化珪素質複合体を提供する。
【解決手段】
アルミニウム板を炭化珪素質多孔体で挟んだ複合体に、アルミニウム合金を含浸して得られるアルミニウム合金-炭化珪素質複合体であって、複合体中のアルミニウム板と炭化珪素質多孔体の厚さの比が、1:9〜6:4の範囲にあることを特徴とするアルミニウム合金-炭化珪素質複合体。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、回路基板のベース板として好適なアルミニウム合金-炭化珪素質複合体に関する。
【背景技術】
【0002】
高絶縁性、高熱伝導性を有する窒化アルミニウム基板や窒化珪素基板等のセラミックス基板の表面に、銅製又はアルミニウム製の金属回路を、また裏面には銅製又はアルミニウム製の金属放熱板が接合されてなる回路基板は、パワーモジュール用基板として使用されている。今日、半導体素子の高集積化、小型化に伴い、発熱量は増加の一途をたどっており、いかに効率よく放熱するかが課題となっている。
【0003】
従来の回路基板の放熱構造は、回路基板裏面の金属放熱板にヒートシンクがはんだ付けされており、ヒートシンク材としては銅、アルミニウムが一般的であった。しかしながら、この構造においては、半導体装置に熱負荷がかかった際に、ヒートシンクと回路基板の熱膨張係数差に起因するクラックが上記はんだに発生し、放熱が不十分となって、半導体を誤作動させたり、破損させたりする場合があった。
【0004】
そこで、熱膨張係数を回路基板に近づけたヒートシンクとして、アルミニウム合金-炭化珪素質複合体が提案されている(特許文献1)。
【特許文献1】特表平05−507030号公報
【0005】
しかしながら、半導体素子の高集積化、小型化が進んだ結果、半導体装置の温度が100℃以上になることもあり、この温度域では、アルミニウム合金-炭化珪素質複合体をヒートシンクとして用いても炭化珪素質の格子振動が大きくなって熱伝導が低下するなど、放熱材として用いるには充分ではなくなってきた。そのため、このような高温の温度域でも十分に使用に耐えうる、より放熱特性に優れた材料が求められるようになってきた。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明の目的は、上記課題に鑑み、高温領域でも放熱特性が良好なアルミニウム合金-炭化珪素質複合体を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
即ち、本発明は、アルミニウム板を炭化珪素質多孔体で挟んだ複合体に、アルミニウム合金を含浸して得られるアルミニウム合金-炭化珪素質複合体であって、前記複合体のアルミニウム板の厚さと炭化珪素質多孔体の厚さの比が、1:9〜6:4の範囲にあることを特徴とするアルミニウム合金-炭化珪素質複合体であり、アルミニウム板が純度99.0%以上の高純度アルミニウムからなることを特徴とする該アルミニウム合金-炭化珪素質複合体であり、25℃から100℃までの熱伝導率の低下割合が15%以下、並びに、熱膨張係数が1.5×10−5/K以下である該アルミニウム合金-炭化珪素質複合体である。
【0008】
更には、アルミニウム板を挟み込む炭化珪素質多孔体の厚さが異なることを特徴とする該アルミニウム合金-炭化珪素質複合体であり、高圧鍛造法で製造される該アルミニウム合金-炭化珪素質複合体であり、該アルミニウム合金-炭化珪素質複合体の一主面が回路基板に接合され、他の主面が放熱面として用いられる電力制御部品である。
【発明の効果】
【0009】
本発明により、例えば100℃以上のような高温領域においても、熱伝導率の低下が小さく、放熱特性に優れたアルミニウム合金-炭化珪素質複合体が提供される。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
本発明は、アルミニウム板を炭化珪素質多孔体(以下、プリフォームという)で挟んだ複合体のアルミニウム板の厚さとプリフォームの厚さの比率を制御することにより、例えば100℃以上の高温領域においても優れた放熱特性を有するアルミニウム合金-炭化珪素質複合体を提供するものである。
【0011】
本発明に係るプリフォームは、プリフォーム中の炭化珪素質成分が55〜75体積%であることが好ましい。プリフォーム中の炭化珪素質成分が75体積%を超えると、30MPa以上の高圧をかけてもアルミニウム合金がプリフォーム中に含浸せず、気孔が残り熱伝導の妨げとなるので、良好な熱伝導性を得ることが困難になる。また、プリフォーム中の炭化珪素質成分が55体積%より低い場合は熱膨張係数を1.5×10−5/K以下とすることが困難である。
【0012】
炭化珪素質粉末の平均粒子径は、特に限定されるものではないが、平均粒子径が10〜100μmのものが好ましい。平均粒子径が100μmよりも大きいと強度発現性に乏しく、一方、平均粒子径が10μm未満であると、アルミニウム合金-炭化珪素質複合体の熱伝導率が良好でない場合がある。炭化珪素質粉末の平均粒子径が10〜100μmの範囲において、粗い粒子の割合が多くなるように調整すると、熱伝導率が高くなる傾向がある。
【0013】
成形方法は、特に限定されるものではなく、プレス成形、押し出し成形、鋳込み成形等の公知の方法が使用できる。プリフォームに強度を与える為、シリカ或いはアルミナ等を結合材として添加してもよく、更に成形直後の保形性を高めるため、必要に応じてバインダーを併用してもかまわない。ただし結合材を過剰に用いるとプリフォームの熱伝導率を低下させる要因となるので、結合材を用いる場合は、0.5〜5.0質量%の範囲で用いることが好ましい。
【0014】
成形体は、バインダーを併用した場合には脱脂処理と焼成処理が施され、プリフォームとなる。脱脂は、大気中、100〜400℃の温度で10時間以上保持する条件で行われるのが一般的である。焼成温度は、3MPa以上の曲げ強度のプリフォームを得るため、800℃以上とすることが好ましい。曲げ強度が3MPa未満であると、取り扱い時や含浸中に割れる恐れがある。
焼成温度が高いほど、プリフォームは高強度となるが、炭化珪素質粉末は、酸化性雰囲気下で焼成すると酸化する場合があるので、酸化性雰囲気下では800〜1100℃の範囲で焼成することが好ましい。焼成温度及び時間は、プリフォームの大きさ、炉への投入量、雰囲気等の条件に合わせて、適宜決められる。
【0015】
本発明に係るアルミニウム板の純度は99.0%以上の高純度のものが好ましい。純度が99.0%未満では、不純物により自由電子の移動による熱伝導が抑制されるため、高温での熱伝導率が低下する傾向がある。
【0016】
本発明のアルミニウム合金-炭化珪素質複合体の熱膨張係数は、アルミニウム板の厚さと炭化珪素質多孔体の合計厚さとの比を1:9〜6:4の範囲に制御することにより低減でき、熱膨張係数を目標値の1.5×10−5/K以下とすることが可能である。
アルミニウム板の厚さと炭化珪素質多孔体の合計厚さとの比が1:9より小さく高純度アルミニウム板が薄くなると、熱膨張係数を低減することが可能で、例えば1.5×10−5/K以下とすることができるが、アルミニウム部分での熱の拡散が不十分となるため、特に高温での熱伝導性が不良となる場合がある。
一方、アルミニウム板の厚さと炭化珪素質多孔体の合計厚さとの比が6:4よりも大きくアルミニウム板が厚くなると、熱膨張係数の値が大きくなり、例えば熱膨張係数を1.5×10−5/K以下にすることが困難となる場合がある。
本発明に係るアルミニウム合金-炭化珪素質複合体は、相対密度95%以上が好ましい。相対密度が95%未満の場合、気孔により熱伝導が阻害される場合がある。
【0017】
本発明のアルミニウム合金-炭化珪素質複合体の製造方法について説明する。
一般に金属-セラミックス質複合体の製造方法には、粉末冶金法、高圧鍛造法等があるが、本発明のアルミニウム合金-炭化珪素質複合体の製造方法としては、高圧下で含浸を行う高圧鍛造法が最も好適な方法である。高圧鍛造法とは、高圧容器内にセラミックス多孔体を配置し、これに金属の溶湯を高圧で含浸させて金属-セラミックス質複合体を得る方法であり、溶湯鍛造法とダイキャスト法がある。
【0018】
金属製の簡易治具に、プリフォーム/高純度アルミニウム板/プリフォームの順に配置(積層)し、両端に離型板を置いて一つのブロックとする。離型板は、予備加熱やアルミニウム合金含浸時に、プリフォームやアルミニウム合金と反応しない材質であれば特に限定されず、鉄、ステンレス、チタン等の金属板が好適に用いられる。離型性を高めるため、カーボンや窒化ホウ素等を離型板にコーティングしておくことは好ましい。
前記ブロックを500〜700℃で予備加熱後、高圧容器内に1個または2個以上配置し、ブロックの温度低下を防ぐためできるだけ速やかにアルミニウム合金の溶湯を30MPa以上の圧力で加圧し、アルミニウム合金をプリフォームの空隙中に含浸させることで、アルミニウム合金-炭化珪素質複合体のブロックが得られる。
本発明においては、高圧鍛造法によるアルミニウム合金の含浸を行った後でも、積層して挟まれたアルミニウム板の厚さは変化しないので、積層したアルミニウム板の厚さがそのままアルミニウム合金-炭化珪素質複合体中のアルミニウム層の厚みとなる。
【0019】
本発明のアルミニウム合金-炭化珪素質複合体に用いるアルミニウム合金は、含浸時にプリフォームの空隙内に十分に浸透するために融点がなるべく低いことが好ましい。このようなアルミニウム合金として、例えばシリコンを7〜25質量%含有したアルミニウム合金があげられる。更にマグネシウムを含有させることは、炭化珪素質粒子と金属部分との結合がより強固になり好ましい。アルミニウム合金中のアルミニウム、シリコン、マグネシウム以外の金属成分に関しては、極端に特性が変化しない範囲であれば特に制限はなく、例えば、銅等が含まれていてもよい。
【0020】
次にアルミニウム合金-炭化珪素質複合体のブロックを湿式バンドソーにて切断し、両端に挟んだ離型板をはがしてアルミニウム合金-炭化珪素質複合体を取り出す。含浸時のひずみ除去の為に、含浸に用いたアルミニウム合金の溶融温度未満の温度でアニール処理を行うことが好ましい。アニール処理は、350〜550℃の温度で10分以上行うのが一般的である。
【0021】
本発明のアルミニウム合金-炭化珪素質複合体の用途の一つであるベース板は、放熱フィンと接合して用いることが多いので、その接合部分の形状や反りもまた重要な特性として挙げられる。予めベース板に凸型の反りを付けたものを用いることが多いが、この反りは、通常、所定の形状を有する治具を用い、加熱下、ベース板に圧力をかけることで得られる。しかしこの方法は、反りのばらつきが大きいという課題があった。
本発明者は、アルミニウム板を挟み込む炭化珪素質多孔体の厚さを制御することにより、加熱時に所望の量の反りを導入でき、ばらつきも小さくなることを見出した。
【0022】
本発明により、25℃から100℃までの熱伝導率の低下比率が15%以下、熱膨張係数が1.5×10−5/K以下、並びに、相対密度が95%以上のアルミニウム合金-炭化珪素質複合体が得られる。また、これを用いた放熱部品、さらにその放熱部品を用いたモジュールは、例えば100℃以上のような高温領域でも放熱特性に優れ、温度変化を受けても変形し難く、その結果、高信頼性が得られるという効果を奏する。
【実施例1】
【0023】
炭化珪素粉末A(太平洋ランダム社製:NG−220、平均粒径:100μm)68g、炭化珪素粉末B(屋久島電工社製:GC−1000F、平均粒径:10μm)32g、及びシリカゾル(日産化学社製:スノーテックス0 固形分濃度20%)20gを秤取し、攪拌混合機で30分間混合した後、185mm×135mm×1.8mmの寸法の平板状に圧力15MPaでプレス成形した。
得られた成形体を、大気中、温度890℃で2時間焼成して、プリフォーム中の炭化珪素質成分が67体積%のプリフォームを得た。
【0024】
得られたプリフォームを溶湯が流入できる湯口がついた185mm×135mm×5mmの鉄製枠にプリフォーム/高純度アルミニウム板(純度99.5%、185mm×135mm×0.9mm)/プリフォームの順に入れ、両面をカーボンコートしたSUS板(200mm×150mm×1mm)で鉄製枠を挟んで一体としたものを20個積層し、電気炉で600℃に予備加熱した。次にそれをあらかじめ加熱しておいた内径300mmのプレス型内に収め、シリコンを12質量%、マグネシウムを0.5質量%含有するアルミニウム合金(融点580℃)の溶湯を注ぎ、80MPaの圧力で20分間加圧してプリフォームにアルミニウム合金を含浸させた。アルミニウム合金-炭化珪素質複合体ブロックを室温まで冷却した後、湿式バンドソーにて枠等を切断し、両面に挟んだ離型板をはがした後に、含浸時のひずみ除去の為に530℃で3時間アニール処理を行いアルミニウム合金-炭化珪素質複合体を得た。
【0025】
得られたアルミニウム合金-炭化珪素質複合体の縁周部4隅に直径8mmの加工穴を設け、端部に付着したアルミニウム合金を除去した。アルミニウム合金-炭化珪素質複合体の表面を、ブラスト表面研磨機を用いてアルミナ砥粒で表面研磨した後(圧力:0.4MPa、搬送速度:1.0m/min)、めっき処理を行った。なお、前記めっきは、無電解Ni-P(5μm)、無電解Ni-B(2μm)の2層とした。
【0026】
アルミニウム合金-炭化珪素質複合体から、研削加工により熱膨張係数測定用試験体(20mm×5mm×5mm)、熱伝導率測定用試験体(直径10Φmm×5mm)、強度測定用試験体(40mm×4mm×4mm)、相対密度測定用試験体(20mm×5mm×5mm)の試験片を作製した。それぞれの試験片を用いて、25〜150℃の熱膨張係数を熱膨張計(セイコー電子工業社製;TMA300)で、25℃、100℃での熱伝導率をレーザーフラッシュ法(理学電機社製;TC−7000)で、25℃の3点曲げ強度を抗折強度計(今田製作所製;SV-301)で測定した。相対密度は、試験体の重量を測定後、算出した密度を、プリフォームの空隙にAlが完全に含浸したときの理論密度で除して求めた。結果を表1に示す。
【実施例2】
【0027】
プリフォームの合計の厚さを2.6mm(1.3mm×2)、アルミニウム板の厚さを2.0mmとしたこと以外は、実施例1と同様にしてアルミニウム合金-炭化珪素質複合体を作製し、評価を行った。結果を表1に示す。
【実施例3】
【0028】
厚さが1.4mm及び1.2mmの2種類のプリフォームを用い、更にアルミニウム板の厚さを2.0mmとしたこと以外は、実施例1と同様にしてアルミニウム合金-炭化珪素質複合体を作製し、評価を行った。結果を表1に示す。
【実施例4】
【0029】
プリフォームの合計の厚さを4.5mm(2.25mm×2)、アルミニウム板の厚さを0.5mmとしたこと以外は、実施例1と同様にしてアルミニウム合金-炭化珪素質複合体を作製し、評価を行った。結果を表1に示す。
【実施例5】
【0030】
プリフォームの合計の厚さを2.0mm(1.0mm×2)、アルミニウム板の厚さを3.0mmとしたこと以外は、実施例1と同様にしてアルミニウム合金-炭化珪素質複合体を作製し、評価を行った。結果を表1に示す。
【0031】
(比較例1)
プリフォームの厚さを4.6mmとし、アルミニウム板を使用しなかったこと以外は、実施例1と同様にしてアルミニウム合金-炭化珪素質複合体を作製し、評価を行った。結果を表1に示す。
【0032】
(比較例2)
プリフォームの合計の厚さを0.9mm、アルミニウム板の厚さを3.6mmとしたこと以外は、実施例1と同様にしてアルミニウム合金-炭化珪素質複合体を作製し、評価を行った。結果を表1に示す。
【0033】
【表1】

【実施例6】
【0034】
実施例1〜5、並びに比較例1〜2において得られたアルミニウム合金-炭化珪素質複合体を窒化アルミニウム回路基板裏面の銅放熱板にはんだ付けし、回路基板上の半導体素子に100Wの電力をかけて、10時間後の半導体素子の温度を測定し、クラック発生の有無を観察した。結果を表1に併記する。但し、実施例3では、厚さが1.2mmのプリフォーム側に回路基板を接合した。実施例1〜5では、クラックの発生がなく、半導体素子の温度上昇を抑制することが可能であった。


【特許請求の範囲】
【請求項1】
アルミニウム板を炭化珪素質多孔体で挟んだ複合体にアルミニウム合金を含浸して得られるアルミニウム合金-炭化珪素質複合体であって、前記複合体のアルミニウム板の厚さと炭化珪素質多孔体の厚さの比が、1:9〜6:4の範囲にあることを特徴とするアルミニウム合金-炭化珪素質複合体。
【請求項2】
アルミニウム板が、純度99.0%以上の高純度アルミニウムからなることを特徴とする請求項1記載のアルミニウム合金-炭化珪素質複合体。
【請求項3】
25℃から100℃までの熱伝導率の低下比率が15%以下、並びに、熱膨張係数が1.5×10−5/K以下であることを特徴とする請求項1項又は2記載のアルミニウム合金-炭化珪素質複合体。
【請求項4】
アルミニウム板を挟み込む炭化珪素質多孔体の厚さが異なることを特徴とする請求項1〜3のうちいずれか一項記載のアルミニウム合金-炭化珪素質複合体。
【請求項5】
アルミニウム合金−炭化珪素質複合体が高圧鍛造法で製造されることを特徴とする請求項1〜
4のうちいずれか一項記載のアルミニウム合金-炭化珪素質複合体。
【請求項6】
請求項1〜5項のうちいずれか一項記載のアルミニウム合金-炭化珪素質複合体の一主面が回路基板に接合され、他の主面が放熱面として用いられる電力制御部品。


【公開番号】特開2006−40992(P2006−40992A)
【公開日】平成18年2月9日(2006.2.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−215187(P2004−215187)
【出願日】平成16年7月23日(2004.7.23)
【出願人】(000003296)電気化学工業株式会社 (1,539)
【Fターム(参考)】