説明

インダクタ駆動回路

【課題】 インダクタに流れる電流の変化を小さくして逆起電圧を抑制しかつ貫通電流を防止することができるインダクタ駆動回路を提供する。
【解決手段】 第1の電源電圧端子と第2の電源電圧端子との間に直列形態に接続された2以上のトランジスタを有するプッシュプル出力段を備え、該出力段のいずれかのトランジスタの制御端子と前段の論理ゲート回路との間に抵抗手段が接続され、出力端子には負荷としてのインダクタの一方の端子が接続されるインダクタ駆動回路において、前記抵抗手段が接続されている前記出力段のトランジスタの制御端子には、該トランジスタと直列形態に接続されている他のトランジスタがオン状態にされた際に当該トランジスタをオフ状態へ移行させるようにその制御端子を低インピーダンス駆動可能にするインピーダンス切替え手段を設けるようにした。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、コイルのようなインダクタに駆動電流を流すインダクタ駆動技術に関し、例えばブラシレス直流モータを回転駆動するモータ駆動用IC(半導体集積回路)のドライバ回路に利用して有効な技術に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、電子機器には色々な用途でモータが使用されている。例えば、パーソナルコンピュータなどの電子機器は、内部電子部品(特にCPU)が高熱にならないように冷却するファンを回転させるためのモータやDVDを回転させるためのスピンドルモータが設けられており、これらのモータを駆動するモータ駆動用ICが種々提供されている。
【0003】
また、単相全波駆動ブラシレスファンモータの駆動方式として、永久磁石が固着されたロータの回転位置をホール素子で検出し、そのホール素子の出力に基づいてモータの固定子コイルに流す駆動電流を制御する方式がある。さらに、静音化(回転ノイズの抑制)およびフライバック電圧(逆起電圧)の抑制を目的として、コイル駆動信号のスルーレート(単位時間当りの駆動信号変化量)を小さくしたいわゆるソフトスイッチング駆動方式が用いられている(例えば特許文献1参照)。
【特許文献1】特開2002−325479号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明者らは、プッシュプル型の出力段を有するドライバ回路を備えたモータ駆動回路において、コイル駆動時における駆動電流の急激な変化に伴う逆起電圧を抑制するため、図5に示すように、プッシュプル出力段を構成するプル側のMOSFET(電界効果トランジスタ:以下MOSトランジスタと称する)のゲート端子を駆動する論理ゲート回路(図ではインバータ)との間に抵抗R1,R2をそれぞれ接続し、MOSトランジスタNM1,NM2のドレイン・ゲート間のミラー容量Cm1,Cm2を利用してゲート端子を高インピーダンス駆動することでスルーレートを制御する技術について検討した。
【0005】
図5のようなドライバ回路にあっては、ドライバの入力信号が急峻な場合、抵抗R1,R2を設けないものでは図7に破線で示すように、MOSトランジスタNM1,NM2のゲート電圧NG1,NG2の変化が急峻となってドレイン電流の変化が大きくなるが、抵抗R1,R2を設けることで図7に実線で示すように、MOSトランジスタNM1,NM2のゲート電圧NG1,NG2の変化を緩やかにしてドレイン電流の変化を小さくし、逆起電圧を抑制することができるという利点がある。
【0006】
しかしながら、駆動信号のスルーレートを小さくした図5のモータ駆動回路においては、図7のように非通電時間が長い場合は問題ないが、図6に示すように非通電時間が短くなったときには、MOSトランジスタNM1,NM2のゲート電圧NG1,NG2が完全にローレベルに変化する前にMOSトランジスタPM1,PM2がオン状態にされることがあるため、貫通電流が流れてしまうという課題があることが分かった。
【0007】
この発明は上記のような課題に着目してなされたもので、その目的とするところは、インダクタに流れる電流の変化を小さくして逆起電圧を抑制しかつ貫通電流を防止することができるインダクタ駆動回路を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記目的を達成するため、この発明は、第1の電源電圧端子と第2の電源電圧端子との間に直列形態に接続された2以上のトランジスタを有するプッシュプル出力段を備え、該出力段のいずれかのトランジスタの制御端子と前段の論理ゲート回路との間に抵抗手段が接続され、出力端子には負荷としてのインダクタの一方の端子が接続されるインダクタ駆動回路において、前記抵抗手段が接続されている前記出力段のトランジスタの制御端子には、該トランジスタと直列形態に接続されている他のトランジスタがオン状態にされた際に当該トランジスタをオフ状態へ移行させるようにその制御端子を低インピーダンス駆動可能にするインピーダンス切替え手段が設けるように構成したものである。
【0009】
このような構成によれば、出力段のトランジスタの制御端子と前段の論理ゲート回路との間に接続されている抵抗手段によって当該トランジスタが高インピーダンス駆動されるため、インダクタ駆動信号のスルーレートが低くなりインダクタに流れる電流の変化が小さくなって逆起電圧を抑制することができるとともに、出力段の直列形態に接続されているトランジスタのいずれかをオフ状態にするように制御することによって貫通電流が流れるのを防止することができる。
【0010】
ここで、望ましくは、前記インピーダンス切替え手段は、前記抵抗手段と並列に接続されたスイッチ素子あるいは、前記抵抗手段が接続されている前記トランジスタの制御端子と電源電圧端子との間に接続されたスイッチ素子により構成する。これにより、素子を1つ追加するだけの簡単な設計変更で、出力段の抵抗手段が接続されているトランジスタの制御端子を低インピーダンス駆動可能にするインピーダンス切替え手段を実現することができる。
【0011】
さらに、望ましくは、前記出力段は、第1の電源電圧端子と第2の電源電圧端子との間に直列に接続されたPチャンネルMOSトランジスタおよびNチャンネルMOSトランジスタからなり、前記抵抗手段は前記NチャンネルMOSトランジスタのゲート端子と前段の論理ゲート回路との間に接続されているように構成する。これにより、PチャンネルMOSトランジスタおよびNチャンネルMOSトランジスタからなるプッシュプル型の出力段を有するインダクタ駆動回路において、インダクタに流れる電流の変化を小さくして逆起電圧を抑制するとともに、貫通電流が流れるのを防止することができる。
【0012】
ここで、上記インダクタ駆動回路はモータの駆動コイルを駆動するものであっても良い。これにより、モータを回転駆動するモータ駆動回路において、コイルに流れる電流の変化を小さくして逆起電圧を抑制するとともに、貫通電流が流れるのを防止することができる。
【発明の効果】
【0013】
本発明によると、インダクタに流れる電流の変化を小さくして逆起電圧を抑制しかつ貫通電流を防止することができるインダクタ駆動回路を実現することができるという効果がある。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
以下、本発明の好適な実施の形態を図面に基づいて説明する。
【0015】
図1は、本発明に係るインダクタ駆動回路を適用して好適なモータ回転駆動システムの概略構成を示す。図1において、HLは回転検出用のホール素子、L1はモータの駆動コイル、DRV1,DRV2はコイルL1に電流を流すドライバ回路、CNTはホール素子の出力に基づいてドライバ回路DRV1,DRV2を制御してコイルL1に電流を流すタイミングを制御する回転制御回路であり、回転制御回路CNTおよびドライバ回路DRV1,DRV2は単結晶シリコンのような半導体チップ上にモータ駆動用IC(半導体集積回路)として形成される。
【0016】
図2は、図1のモータ回転駆動システムにおけるインダクタ駆動回路としてのドライバ回路DRV1,DRV2の具体的な回路構成例を示す。ドライバ回路DRV1とDRV2は、同一の構成であるので、一方のドライバ回路DRV1について説明する。
【0017】
ドライバ回路DRV1は、電源電圧端子と接地点との間に直列に接続されたPチャンネルMOSトランジスタPM1およびNチャンネルMOSトランジスタNM1からなるプッシュプル型の出力段と、回転制御回路CNTからの制御信号PGN1,NGN1,PGN2,NGN2を受けて出力段のMOSトランジスタPM1,NM1のゲート駆動電圧PG1,NG1を生成する論理回路部LG1とを備え、MOSトランジスタPM1とNM1の接続ノードが出力端子OUT1に結合され該出力端子OUT1にコイルL1の一方の端子が接続されている。
【0018】
論理回路部LG1は、制御信号PGN1が一方の入力端子に入力されるNORゲートG1と、該NORゲートG1の出力を反転するインバータINV1と、制御信号NGN1の反転信号が一方の入力端子に入力されるNANDゲートG2と、該NANDゲートG2の出力を反転するインバータINV2などを備え、インバータINV1の出力がNANDゲートG2の他方の入力端子に、またインバータINV2の出力がNORゲートG1の他方の入力端子にそれぞれ入力されている。
【0019】
そのため、制御信号PGN1がハイレベルに変化してPチャンネルMOSトランジスタPM1のゲート電圧PG1がハイレベルに変化し、PM1がオフに近づくと同時にNANDゲートG2がPG1のハイレベルを認識してインバータINV2の出力がハイレベルに変化してNチャンネルMOSトランジスタNM1をオンさせる。
【0020】
また、制御信号NGN1がハイレベルに変化してNチャンネルMOSトランジスタNM1のゲート電圧NG1がローレベルに変化し、NM1がオフに近づくと同時にNORゲートG1がNG1のローレベルを認識してインバータINV1の出力がローレベルに変化してPチャンネルMOSトランジスタPM1をオンさせる。
【0021】
このように、PM1のオフ近傍でNM1がオン状態、NM1のオフ近傍でPM1がオン状態になるように構成されているため、PM1,NM1は非常に大きな素子で寄生容量が大きいにもかかわらず、インバータINV1,INV2を構成する素子は比較的小さなサイズであってもPM1,NM1に貫通電流を流すことなく駆動することができる。
【0022】
図3には、ドライバ回路DRV1,DRV2の制御信号PGN1,NGN1,PGN2,NGN2のタイミング波形が示されている。図3から分かるように、ドライバ回路DRV1の制御信号PGN1,NGN1とドライバ回路DRV2のPGN2,NGN2とは、互いに相補的な信号とされており、これによってドライバ回路DRV1の出力段のPチャンネルMOSトランジスタPM1がオン状態にされるときドライバ回路DRV2の出力段ではNチャンネルMOSトランジスタNM2がオン状態にされ、順方向の電流がコイルL1に流される。また、ドライバ回路DRV1の出力段のNチャンネルMOSトランジスタNM1がオン状態にされるときドライバ回路DRV2の出力段ではPチャンネルMOSトランジスタPM2がオン状態にされ、逆方向の電流がコイルL1に流される。
【0023】
さらに、図2のドライバ回路DRV1,DRV2においては、インバータINV2とNチャンネルMOSトランジスタNM1との間およびインバータINV4とNチャンネルMOSトランジスタNM2との間に、それぞれ抵抗R1およびR2が接続されているとともに、該抵抗R1,R2と並列にNチャンネルMOSトランジスタなどからなるスイッチ素子SW1,SW2が接続されている。そして、スイッチ素子SW1は論理回路部LG1に入力される制御信号PGN1によって、またスイッチ素子SW2は論理回路部LG2に入力される制御信号PGN2によってそれぞれオン、オフ制御されるように構成されている。
【0024】
次に、図2のドライバ回路DRV1,DRV2の動作を説明する。図2のドライバ回路DRV1,DRV2においては、インバータINV2とNチャンネルMOSトランジスタNM1との間およびインバータINV4とNチャンネルMOSトランジスタNM2との間に、それぞれ抵抗R1およびR2が接続されているため、NM1とNM2のドレイン・ゲート間に存在するミラー容量Cm1Cm2とによって高インピーダンス駆動回路が構成され、NM1とNM2のゲート電圧NG1,NG2は、図3に破線で示すように立ち上がりと立ち下がりが緩やかに変化される。これによって、コイルL1に流れる電流が急峻に変化するのが防止され、逆起電圧が抑制される。
【0025】
また、スイッチ素子SW1,SW2のない図5のドライバ回路にあっては、図6に示すように非通電時間が短くなったときに、MOSトランジスタNM1,NM2のゲート電圧NG1,NG2が完全にローレベルに変化する前にMOSトランジスタPM1,PM2がオン状態にされ、貫通電流が流れてしまうことがある。
【0026】
これに対し、図2のドライバ回路DRV1,DRV2においては、ゲート電圧NG1,NG2がローレベルに変化する途中でPM1,PM2のゲート電圧PG1,PG2がローレベルに変化されると、スイッチ素子SW1,SW2もオン状態にされて抵抗R1,R2の端子間が短絡されて低インピーダンスに変化する。そのため、MOSトランジスタNM1,NM2のゲート電圧NG1,NG2は急速にローレベルに変化してNM1,NM2が速やかにオフ状態にされるようになる(図3のタイミングt1,t2)。その結果、PチャンネルMOSトランジスタとNチャンネルMOSトランジスタが同時にオン状態になって貫通電流が流れるのが防止される。
【0027】
図4には、上記実施例のドライバ回路DRV1,DRV2の変形例が示されている。この変形例のドライバ回路は、抵抗R1,R2と並列にスイッチ素子SW1,SW2を設ける代わりに、NチャンネルMOSトランジスタNM1,NM2のゲート端子と接地点との間にプルダウン用のスイッチ素子SW1,SW2を設けたものである。スイッチ素子SW1,SW2は、図3の回路と同様、制御信号PGN1,PGN2によってそれぞれオン、オフ制御されるように構成される。
【0028】
この変形例のドライバ回路も、図3の回路と同様、ゲート電圧NG1,NG2がローレベルに変化する途中でPM1,PM2のゲート電圧PG1,PG2がローレベルに変化されると、スイッチ素子SW1,SW2がオン状態にされて、NM1,NM2のゲート電圧NG1,NG2が急速にローレベルに変化してNM1,NM2が速やかにオフ状態にされる。
【0029】
以上、本発明の一実施形態について述べたが、本発明は前記実施形態に限定されるものでなく、各種の変更が可能である。例えば、前記実施形態においては、ドライバ回路の出力段のNチャンネルMOSトランジスタの入力部に直列に抵抗をつける例について述べたが、PチャンネルMOSトランジスタの入力部に直列に抵抗をつけることによっても同様の原理で可能である。また、前記実施形態においては、ドライバ回路の出力段が直列形態のPチャンネルMOSトランジスタとNチャンネルMOSトランジスタで構成されているものを示したが、2個の同一導電型のMOSトランジスタもしくはバイポーラトランジスタが直列に接続されている出力段を有するドライバ回路にも適用することができる。
【0030】
また、論理回路部LG1,LG2は、図2のような構成に限定されず、例えば出力段の2つのトランジスタを同時にオフ状態に制御することが可能ないわゆるトライステート型の出力段として動作させることができるような信号を生成する構成とすることも可能である。
【0031】
さらに、前記実施形態においては、ファンモータなどの単相のモータ回転駆動回路に適用したものを説明したが、本発明は3相で交流駆動するモータの回転駆動回路やソレノイドを駆動する回路にも適用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0032】
【図1】本発明に係るインダクタ駆動回路を適用して好適なモータ回転駆動システムの概略構成を示すブロック図である。
【図2】図1のモータ回転駆動システムにおけるインダクタ駆動回路としてのドライバ回路の具体例を示す回路構成図である。
【図3】実施例のドライバ回路の動作を示すタイムチャートである。
【図4】実施例のドライバ回路の変形例を示す回路構成図である。
【図5】本発明に先立って検討したモータ回転駆動システムのドライバ回路の一例を示すブロック図である。
【図6】図5のドライバ回路の非通電時間が短い場合の動作を示すタイムチャートである。
【図7】図5のドライバ回路の非通電時間が長い場合の動作を示すタイムチャートである。
【符号の説明】
【0033】
HL ホール素子
L1 モータの駆動コイル
DRV1,DRV2 ドライバ回路
PM1,NM1,PM2,NM2 出力段のトランジスタ
LG1,LG2 論理回路部
SW1,SW2 スイッチ素子

【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1の電源電圧端子と第2の電源電圧端子との間に直列形態に接続された2以上のトランジスタを有するプッシュプル出力段を備え、該出力段のいずれかのトランジスタの制御端子と前段の論理ゲート回路との間に抵抗手段が接続され、出力端子には負荷としてのインダクタの一方の端子が接続されるインダクタ駆動回路であって、
前記抵抗手段が接続されている前記出力段のトランジスタの制御端子には、該トランジスタと直列形態に接続されている他のトランジスタがオン状態にされた際に当該トランジスタをオフ状態へ移行させるようにその制御端子を低インピーダンス駆動可能にするインピーダンス切替え手段が設けられていることを特徴とするインダクタ駆動回路。
【請求項2】
前記インピーダンス切替え手段は、前記抵抗手段と並列に接続されたスイッチ素子であることを特徴とする請求項1に記載のインダクタ駆動回路。
【請求項3】
前記インピーダンス切替え手段は、前記抵抗手段が接続されている前記トランジスタの制御端子と電源電圧端子との間に接続されたスイッチ素子であることを特徴とする請求項1に記載のインダクタ駆動回路。
【請求項4】
前記出力段は、第1の電源電圧端子と第2の電源電圧端子との間に直列に接続されたPチャンネルMOSトランジスタおよびNチャンネルMOSトランジスタからなり、前記抵抗手段は前記NチャンネルMOSトランジスタのゲート端子と前段の論理ゲート回路との間に接続されていることを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載のインダクタ駆動回路。
【請求項5】
前記インダクタはモータの駆動コイルであることを特徴とする請求項1〜4のいずれかに記載のインダクタ駆動回路。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2010−104150(P2010−104150A)
【公開日】平成22年5月6日(2010.5.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−273310(P2008−273310)
【出願日】平成20年10月23日(2008.10.23)
【出願人】(000006220)ミツミ電機株式会社 (1,651)
【Fターム(参考)】