説明

インバータ制御式密閉型圧縮機

【課題】冷却システムの低回転域での消費電力の低減効果をより向上させる効果を持つ高効率なインバータ制御式密閉型圧縮機を提供すること。
【解決手段】モータ巻線113bの線径Dと、U相とV相とW相との各相それぞれの線長さLとしたときのL/Dの値を180から400としたので、モータトルク定数が上昇して電動要素115への印加電流やインバータ制御回路への印加電流が低減し、インバータ回路損失を含む圧縮機の全体効率が良化する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、冷凍冷蔵庫等の冷凍サイクルに用いられる密閉型圧縮機に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、例えば、家庭用冷凍冷蔵庫等の冷凍装置に使用される密閉型圧縮機については、より消費電力の低減効果の高いものが強く望まれている。従来の密閉型圧縮機としては、より高効率なモータとして突極集中巻モータを採用しているものがある(例えば、特許文献1参照)。
【0003】
以下、図面を参照しながら上記従来の密閉型圧縮機を説明する。
【0004】
図5は、特許文献1に記載された従来のインバータ制御式密閉型圧縮機の制御構成を示す図であり、図6は従来の密閉型圧縮機のモータ上面図である。
【0005】
図5、図6において、密閉容器1a内部の密閉容器内空間2には、固定子3と永久磁石を内蔵した回転子4からなる電動要素5と、電動要素5によって駆動される圧縮要素6を収容する。電動要素5は、端子部7を介してインバータ駆動回路8と継合されている。インバータ駆動回路8にはパワー素子部9とマイコン制御部10が収容されており、商用電源11と継合される。
【0006】
電動要素の固定子3には、ティース部3aの周りに巻かれた巻線3bを備えており、ティース部3aに巻回した巻線3bはU相とV相とW相との各相に分かれて巻回されている。また、巻線3bは、U相とV相とW相との各相それぞれの長さをLとし線径をDとしたときのL/Dの数値は通常160程度が主流であり、大きくとも180を越えることは無い。
【0007】
以上のように構成された密閉型圧縮機について以下その動作を説明する。
【0008】
電動要素5の回転子4は、インバータ駆動回路8でマイコン制御部10からの指令により所定の運転周波数と電力供給をパワー素子部9から出力せしめる。そのパワー素子部9からの印加電圧によって電動要素5の回転子4は回転し、圧縮要素6から冷却システムからの冷媒を吸入して圧縮することができる。
【0009】
ここで、インバータ駆動される家庭用冷蔵庫では、冷蔵庫の断熱効率の向上等により、冷蔵庫内への熱の侵入が激減しており、高回転といった高冷凍能力運転よりも主に低冷凍能力な低回転運転時での時間が長くなってきている。更に、低回転運転時では冷却システムの蒸発温度と凝縮温度との差が小さくなることから圧縮機にかかる負荷も小さくなるため、消費電力量低減効果もより向上される。また、低回転運転では密閉型圧縮機1の出力仕事が低減する為に、圧縮機からの放射音も小さく押さえられるといった効果が得られる。
【特許文献1】特開2002−70740号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
しかしながら、従来のインバータ制御式密閉型圧縮機においては、冷蔵庫の消費電力に最も影響のある低回転運転時において、モータ単体効率の高いモータを用いても、モータ効率に見合うだけの消費電力低減効果が表れないといった課題を有していた。
【0011】
本発明は上記従来の課題を解決するもので、特に冷却システムの低回転域での消費電力の低減効果をより向上させる効果を持つ高効率なインバータ制御式密閉型圧縮機を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
上記従来の課題を解決するために、本発明のインバータ制御式密閉型圧縮機は、モータ巻線の線径DとU相とV相とW相との各相それぞれの線長さLとしたときのL/Dの値を180から400としたので、モータトルク定数が上昇してモータへの印加電流やインバータ制御回路への印加電流が低減し、インバータ回路損失を含む圧縮機の全体効率が良化する。
【発明の効果】
【0013】
本発明のインバータ制御式密閉型圧縮機は、モータへの印加電流やインバータ制御回路への印加電流が低減するので、低回転域での消費電力の低減効果をより向上させる効果を持つ。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
請求項1に記載の発明は、圧縮要素と、圧縮要素を駆動する電動要素と、パワー素子部を有し商用電源周波数未満の回転数を含む運転周波数で電動要素を駆動するインバータ駆動回路とを備え、電動要素は永久磁石を埋め込んだ回転子と、コアに設けたティース部に巻き線を集中巻きした集中巻き型固定子とからなるとともに、ティース部に巻回した巻線のU相とV相とW相との各相それぞれの長さをLとし、線径をDとしたとき、L/Dが180から400の範囲としたもので、モータへの印加電流やインバータ制御回路への印加電流を低減することができるので、モータのジュール熱損失やインバータ制御回路損失を低減することができ、低回転域での消費電力の低減効果をより向上させる効果を持つ。
【0015】
請求項2に記載の発明は、請求項1に記載の発明に、更に、運転周波数に23rps以下の回転周波数を含むことから、モータ入力値に対するモータ損失やインバータ制御損失の割合の高い低速域での入力低減効果が高いことから、より消費電力量の低減が図れる。
【0016】
請求項3に記載の発明は、請求項1または2に記載の発明に、更に、炭化水素系冷媒であるR600a雰囲気中で運転されるので、従来のR134a冷媒を使用した圧縮機と比べて気筒容積の拡大に伴うピストンの径大化によって生じる入力増大が生じても、制御損失やモータ損失を低減することができるので、消費電力の低減が図れる。
【0017】
以下、本発明の実施の形態について、図面を参照しながら説明する。なお、この実施の形態によってこの発明が限定されるものではない。
【0018】
(実施の形態1)
図1は、本発明の実施の形態1におけるインバータ制御式密閉型圧縮機の制御構成を示す図、図2は、同実施の形態のインバータ制御式密閉型圧縮機に用いる集中巻き型固定子の上面図である。図3は、同実施の形態のモータ効率計測時のモータ負荷トルクと電流波形を示す図である。本図は低速回転運転時19rpsと中,高速回転運転時56rpsにおけるデータである。
【0019】
図1から図3において、密閉型圧縮機101の密閉容器101a内部の密閉容器内空間102には、固定子113と永久磁石を内蔵した回転子114からなる電動要素115と、電動要素115によって駆動される圧縮要素106とからなる。電動要素115は、端子部117を介してインバータ駆動回路108と継合されている。インバータ駆動回路108にはIGBT(Insulated gate Bipolar Transistor)絶縁ゲート型バイポーラ・トランジスタのパワー素子部109とマイコン制御部110とからなり、商用電源111と継合される。
【0020】
電動要素115の固定子113には、ティース部113aの周りに巻かれた巻線113bを備えており、ティース部113aに巻回した巻線113bはU相とV相とW相との各相に分かれて巻回されている。また、各相の巻線113bの長さLはそれぞれに例えば150とし、線径Dを0.47とした場合のL/Dの数値は180から400の間の320としている。
【0021】
また、電動要素115はインバータ駆動回路108によって23rps未満の運転周波数および80rps以上の運転周波数を含む複数の運転周波数で駆動される。本圧縮機に使用される密閉容器101a内空間の冷媒は、温暖化係数の低い自然冷媒として代表的な炭化水素系冷媒R600aである。
【0022】
以上のように構成されたインバータ制御式密閉型圧縮機について、以下にその動作を説明する。
【0023】
電動要素115の回転子114は、インバータ駆動回路108でマイコン制御部110からの指令により所定の運転周波数と電力供給をパワー素子部109から出力せしめる。そのパワー素子部109からの印加電圧によって電動要素115の回転子114は回転し、圧縮要素106から冷却システムからの冷媒を吸入して吐き出すことができる。
【0024】
ところで、インバータ駆動される家庭用冷蔵庫では、近年の冷蔵庫の断熱効率の向上に伴い、冷蔵庫内への熱の侵入が激減しており、高冷凍能力を必要とする高回転運転に較べて低冷凍能力でまかなえる低回転運転時での運転時間の比率が飛躍的に伸びている。
【0025】
そのため、低回転運転時におけるシステム効率向上が非常に重要になってきている。今般、我々はこの低回転運転時における特異な現象を見出すことができたので、その結果を図3を用いて説明する。
【0026】
図3において通常の中,高速運転時には、負荷トルクの変動に対して電流値は安定した正弦波を描き、この電流値の変動影響による回路ロスの増加は極めて小さい。従ってこういった条件下ではモータを理論どおりの設計にしてやることで最良のパフォーマンスが得られていた。現在ではこの狙いに適合するよう、一般的に市場に流通している圧縮機のL/Dは160前後となっているのである。
【0027】
しかしながら我々は19rpsといった極めて低い回転数においては、中,高速運転時とは異なる極めて顕著な電流のオーバーシュートが発生することを見い出した。
【0028】
これは回転スピードが落ちることに伴い、回転子を含む回転系の慣性力が落ち、その結果不足した圧縮負荷に対応するトルクをモータの静的な出力に依存することが原因であると推定される。
【0029】
こうしたことでオーバーシュートした余剰な電流は当然、パワー素子部109からモータに出力されるので、パワー素子部109を通過する際、この電流は熱となって消耗されるため、回路ロスを生ずる。
【0030】
この回路ロスは値としては小さいものの、そもそも低回転時にはモータを駆動する電流値自体が小さく、そのために回路ロスの割合が非常に大きなものになってくる。そしてその状態での運転比率が高くなるので、この回路ロスによる消費電力の増加はかなり大きなものとなっていたのである。
【0031】
次に、以下にモータトルク定数式を式1として示す。
【0032】
N=T*Q*L/E/D・・・式1
ここでNはモータトルク定数(Nm/A)、Tはトルク電圧(V)、Qは体積低効率(Ω・m)、Lは巻線長さ(m)、Eは電圧(V)、Dは巻線径(m)である。
【0033】
モータトルク定数は、電動要素115への単位当りの印加電流実効値に対する出力トルク値を示している。通常、この定数は理論設計効率から決定され、一般的にこの理論設計効率が最も良いL/D比は160前後である。このL/D比を上げるとモータ効率は逆に低下してしまい、通常は敢えてモータ効率を落とす設計は行わない。
【0034】
しかしながら本実施の形態において、L/D比を従来の160前後から320へ変更すると、式1に示した様にトルク定数が比例増加することから、必要出力トルクに対しては逆に電流実効値が低下することが分かる。そして電流実効値が低下することで電動要素115への印加電流値とインバータ駆動回路108への印加電流値を小さく押さえることができ、電動要素115やインバータ駆動回路108への入力値を著しく低減することができたのである。
【0035】
図4は本発明品と従来品との各部損失と実負荷運転時の回路損失を含めたモータ効率特性を示す図である。
【0036】
図4により、L/D比を従来の160前後から320へ変更すると回路損失を含むモータ効率は回路損失を含まない場合と比べたピークが320近傍にあることが確認できる。
【0037】
この結果、回路損失を含む実負荷運転でのモータ効率を著しく向上することが明白と成った。これにより、密閉型圧縮機101の効率向上が図れるので劇的に消費電力の低減効果が得られ、大きな省エネ効果を得ることができた。
【0038】
以上の結果より、R600a冷媒を用い気筒容積が大きくなった場合や負荷変動の影響を受けやすい23rps以下の運転においても回路損失やモータ損失を著しく低減できる為に、従来モータと比べても飛躍的に消費電力量を低減できることができる。尚、L/Dが400以上と成る場合ではモータ巻線絶縁フィルム等によって占積率の低下を引き起こすことから、モータ効率低下要因が大きくなり、本効果が低減することが明白である。
【0039】
尚、本実施の形態において、インバータ駆動回路108にはIGBT(Insulated gate Bipolar Transistor)絶縁ゲート型バイポーラ・トランジスタのパワー素子部109を用いたが、同様の半導体の性質を利用した3端子(ゲート、ソース、ドレイン)の増幅素子のFET(Field Effect Transistor)電解効果トランジスタを用いても同様の効果が得られることは言うまでもない。
【産業上の利用可能性】
【0040】
以上のように、本発明にかかる圧縮機は、冷蔵庫の消費電力効果の高い低速回転時の電動要素のジュール熱損失やインバータ駆動回路の損失低減が図れるので、インバータ制御式の密閉型圧縮機の効率向上が図れ、同構成のエアーコンディショナーや自動販売機等の密閉型圧縮機の用途にも広く適用できる。
【図面の簡単な説明】
【0041】
【図1】本発明の実施の形態1におけるインバータ制御式密閉型圧縮機の制御構成を示す図
【図2】同実施の形態の電動要素の上面図
【図3】同実施の形態の実負荷運転時のモータ負荷トルクと電流波形を示す図
【図4】同実施の形態の実負荷運転時のモータ効率特性を示す図
【図5】従来のインバータ制御式密閉型圧縮機の制御構成を示す図
【図6】従来の電動要素の上面図
【符号の説明】
【0042】
106 圧縮要素
108 インバータ駆動回路
109 パワー素子部
110 マイコン制御部
111 商用電源
113 集中巻き固定子
113a ティース部
113b 巻線
114 回転子
115 電動要素

【特許請求の範囲】
【請求項1】
圧縮要素と、前記圧縮要素を駆動する電動要素と、パワー素子部を有し商用電源周波数未満の回転数を含む運転周波数で前記電動要素を駆動するインバータ駆動回路とを備え、前記電動要素は永久磁石を埋め込んだ回転子と、コアに設けたティース部に巻き線を集中巻きした集中巻き型固定子とからなるとともに、前記ティース部に巻回した巻線のU相とV相とW相との各相それぞれの長さをLとし、線径をDとしたとき、L/Dが180から400の範囲にあるインバータ制御式密閉型圧縮機。
【請求項2】
運転周波数に23rps以下の回転周波数を含む請求項1に記載のインバータ制御式密閉型圧縮機。
【請求項3】
炭化水素系冷媒であるR600a雰囲気中で運転される請求項1または2に記載のインバータ制御式密閉型圧縮機。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2006−329061(P2006−329061A)
【公開日】平成18年12月7日(2006.12.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−153495(P2005−153495)
【出願日】平成17年5月26日(2005.5.26)
【出願人】(000005821)松下電器産業株式会社 (73,050)
【Fターム(参考)】