説明

インバータ制御装置および車両

【課題】矩形波制御から過変調制御に切り替えた後のモータのトルク変動を抑制する。
【解決手段】過変調制御によってインバータを制御するときに、d軸,q軸の電流Id,Iqと電流指令Id*,Iq*との差分と比例項,積分項の制御ゲインと積分項の積分区間とを用いた電流フィードバック制御によってd軸,q軸の電圧指令Vd*,Vq*を設定してインバータを制御するものにおいて、矩形波過変調切替時に、矩形波過変調切替によるモータのトルク変動が大きくなりやすい変動想定状態のときには(S110,S120)、変動想定状態でないときに比して比例項,積分項のゲインを大きくすると共に積分項の積分区間を短くする(S140)。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、インバータ制御装置および車両に関し、詳しくは、モータを駆動するためのインバータを、正弦波制御,過変調制御,矩形波制御のいずれかによって制御するインバータ制御装置およびこうしたインバータ制御装置を備える車両に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、この種のインバータ制御装置としては、交流電動機を駆動するためのインバータの制御方法を、所定の切替判定トルクから算出される電流位相を用いて矩形波電圧制御からPWM制御(過変調PWM制御)に切り替えるものにおいて、トルク指令値に対するトルク偏差の絶対値が所定値以下のときには、トルク指令値を切替判定トルクとして用い、トルク指令値に対するトルク偏差の絶対値が所定値より大きいときには、トルク指令値に所定値を加えた値を切替判定トルクとして用いるものが提案されている(例えば、特許文献1参照)。このインバータ制御装置では、こうした処理により、矩形波電圧制御からPWM制御(過変調PWM制御)への切替遅れを抑制している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2010−166707号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
こうしたインバータ制御装置では、矩形波電圧制御からPWM制御(過変調PWM制御)に切り替えたときの交流電動機の駆動状態によっては、その切替後に交流電動機のトルク変動が大きくなりやすい場合がある。
【0005】
本発明のインバータ制御装置および車両は、矩形波制御から過変調制御に切り替えた後のモータのトルク変動を抑制することを主目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明のインバータ制御装置および車両は、上述の主目的を達成するために以下の手段を採った。
【0007】
本発明のインバータ制御装置は、
モータを駆動するためのインバータを、正弦波制御,過変調制御,矩形波制御のいずれかによって制御するインバータ制御装置であって、
正弦波制御または過変調制御によって前記インバータを制御するときには、d軸,q軸の電流と前記モータに要求される要求トルクに基づくd軸,q軸の電流指令との差分と制御ゲインとを用いた電流フィードバック制御によってd軸,q軸の電圧指令を設定し、該設定したd軸,q軸の電圧指令を用いて前記インバータを制御し、
更に、矩形波制御から過変調制御に切り替える矩形波過変調切替時に、該矩形波過変調切替による前記モータのトルク変動が大きくなりやすい変動想定状態のときには、前記変動想定状態でないときに比して大きな制御ゲインを電流フィードバック制御に用いる、
ことを要旨とする。
【0008】
このインバータ制御装置では、正弦波制御または過変調制御によってインバータを制御するときには、d軸,q軸の電流とモータに要求される要求トルクに基づくd軸,q軸の電流指令との差分と制御ゲインとを用いた電流フィードバック制御によってd軸,q軸の電圧指令を設定し、設定したd軸,q軸の電圧指令を用いてインバータを制御する。そして、矩形波制御から過変調制御に切り替える矩形波過変調切替時に、その矩形波過変調切替によるモータのトルク変動が大きくなりやすい変動想定状態のときには、変動想定状態でないときに比して大きな制御ゲインを電流フィードバック制御に用いる。これにより、矩形波過変調切替時に変動想定状態のときに、その矩形波過変調切替後にd軸,q軸の電流をd軸,q軸の電流指令により迅速に近づけることができる。この結果、矩形波過変調切替後のd軸,q軸の電流や電圧指令の変動(脈動)を抑制することができ、モータのトルク変動の抑制やそのトルク変動の収束に要する時間の短縮を図ることができる。ここで、「正弦波制御」は、パルス幅変調による擬似的三相交流電圧をモータに供給する制御であり、「矩形波制御」は、矩形波電圧をモータに供給する制御であり、「過変調制御」は、擬似的三相交流電圧と矩形波電圧との中間の過変調電圧をモータに供給する制御である。
【0009】
こうした本発明のインバータ制御装置において、前記矩形波過変調切替時に、前記変動想定状態のときには、該変動想定状態でないときに比して短い積分区間を電流フィードバック制御に用いる、ものとすることもできる。
【0010】
また、本発明のインバータ制御装置において、正弦波制御または過変調制御によって前記インバータを制御するときには、q軸の電流とq軸の電流指令との差分と第1の制御ゲインとを用いた電流フィードバック制御によってd軸の電圧指令を設定すると共に、d軸の電流とd軸の電流指令との差分と第2の制御ゲインとを用いた電流フィードバック制御によってq軸の電圧指令を設定し、更に、前記矩形波過変調切替時に前記変動想定状態のときには、前記第2の制御ゲインに、前記第1の制御ゲインより大きな値を用いる、ものとすることもできる。これは、矩形波過変調切替時に変動想定状態のときには、矩形波過変調切替直後にq軸の電流がd軸の電流より変動しやすくその後にd軸の電流とd軸の電流指令との乖離がq軸の電流とq軸の電流指令との乖離に比して大きくなりやすい、という理由に基づく。こうした制御により、d軸,q軸の電流をd軸,q軸の電流指令にバランスよく近づけることができる。
【0011】
さらに、本発明のインバータ制御装置において、前記変動想定状態は、前記モータの回転数が所定回転数以下で前記要求トルクの大きさが所定値以上の状態である、ものとすることもできる。
【0012】
加えて、本発明のインバータ制御装置において、正弦波制御または過変調制御によって前記インバータを制御するときには、前記要求トルクとd軸,q軸の電流指令との関係を示す電流指令ラインに前記要求トルクを適用してd軸,q軸の電流指令を設定し、更に、矩形波制御によって前記インバータを制御している最中にd軸,q軸の電流が前記電流指令ラインよりd軸の電流の大きさが小さくなる切替ラインに至ったときに、矩形波制御から過変調制御に切り替える、ものとすることもできる。
【0013】
本発明の車両は、走行用のモータと、前記モータを駆動するためのインバータと、上述のいずれかの態様の本発明のインバータ制御装置、即ち、基本的には、モータを駆動するためのインバータを、正弦波制御,過変調制御,矩形波制御のいずれかによって制御するインバータ制御装置であって、正弦波制御または過変調制御によって前記インバータを制御するときには、d軸,q軸の電流と前記モータに要求される要求トルクに基づくd軸,q軸の電流指令との差分と制御ゲインとを用いた電流フィードバック制御によってd軸,q軸の電圧指令を設定し、該設定したd軸,q軸の電圧指令を用いて前記インバータを制御し、更に、矩形波制御から過変調制御に切り替える矩形波過変調切替時に、該矩形波過変調切替による前記モータのトルク変動が大きくなりやすい変動想定状態のときには、前記変動想定状態でないときに比して大きな制御ゲインを電流フィードバック制御に用いる、インバータ制御装置と、を備えることを要旨とする。
【0014】
この本発明の車両では、上述のいずれかの態様の本発明のインバータ制御装置を備えるから、本発明のインバータ制御装置が備える効果、例えば、矩形波過変調切替後のモータのトルク変動の抑制やそのトルク変動の収束に要する時間の短縮を図ることができる効果などと同様の効果を奏することができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】本発明の一実施例としてのインバータ制御装置を搭載する電気自動車20の構成の概略を示す構成図である。
【図2】モータ32を含む電機駆動系の構成の概略を示す構成図である。
【図3】電流指令設定用マップの一例を示す説明図である。
【図4】電圧指令大きさVrと電圧指令角度θvrとの一例を示す説明図である。
【図5】切替ラインの一例を示す説明図である。
【図6】モータ32のトルク指令Tm*と回転数Nmとインバータ34の制御方法とのおおよその関係の一例を示す説明図である。
【図7】電子制御ユニット50により実行される矩形波過変調切替時処理ルーチンの一例を示すフローチャートである。
【図8】変動想定状態で矩形波過変調切替を行なったときのモータ32のトルクTm,変調率Rm,電圧位相指令θ*または電圧指令角度θvrの様子の一例を示す説明図である。
【図9】変形例のハイブリッド自動車120の構成の概略を示す構成図である。
【図10】変形例のハイブリッド自動車220の構成の概略を示す構成図である。
【図11】変形例のハイブリッド自動車320の構成の概略を示す構成図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
次に、本発明を実施するための形態を実施例を用いて説明する。
【実施例】
【0017】
図1は、本発明の一実施例としてのインバータ制御装置を搭載する電気自動車20の構成の概略を示す構成図であり、図2は、モータ32を含む電機駆動系の構成の概略を示す構成図である。実施例の電気自動車20は、図1に示すように、駆動輪26a,26bにデファレンシャルギヤ24を介して接続された駆動軸22に動力を入出力可能なモータ32と、モータ32を駆動するためのインバータ34と、例えばリチウムイオン二次電池として構成されたバッテリ36と、インバータ34が接続された電力ライン(以下、駆動電圧系電力ラインという)42とバッテリ36が接続された電力ライン(以下、電池電圧系電力ラインという)44とに接続されて駆動電圧系電力ライン42の電圧VHを調節すると共に駆動電圧系電力ライン42と電池電圧系電力ライン44との間で電力のやりとりを行なう昇圧コンバータ40と、車両全体をコントロールする電子制御ユニット50と、を備える。
【0018】
モータ32は、永久磁石が埋め込まれたロータと三相コイルが巻回されたステータとを備える周知の同期発電電動機として構成されている。インバータ34は、図2に示すように、6つのスイッチング素子としてのトランジスタT11〜T16と、トランジスタT11〜T16に逆方向に並列接続された6つのダイオードD11〜D16と、により構成されている。トランジスタT11〜T16は、駆動電圧系電力ライン42の正極母線と負極母線とに対してソース側とシンク側となるよう2個ずつペアで配置されており、対となるトランジスタ同士の接続点の各々にモータ32の三相コイル(U相,V相,W相)の各々が接続されている。したがって、インバータ34に電圧が作用している状態でトランジスタT11〜T16のオン時間の割合を調節することにより、三相コイルに回転磁界を形成でき、モータ32を回転駆動することができる。駆動電圧系電力ライン42の正極母線と負極母線とには平滑用のコンデンサ46が接続されている。
【0019】
昇圧コンバータ40は、図2に示すように、2つのトランジスタT31,T32とトランジスタT31,T32に逆方向に並列接続された2つのダイオードD31,D32とリアクトルLとからなる昇圧コンバータとして構成されている。2つのトランジスタT31,T32は、それぞれ駆動電圧系電力ライン42の正極母線,駆動電圧系電力ライン42および電池電圧系電力ライン44の負極母線に接続されており、トランジスタT31,T32同士の接続点と電池電圧系電力ライン44の正極母線とにはリアクトルLが接続されている。したがって、トランジスタT31,T32をオンオフすることにより、電池電圧系電力ライン44の電力を昇圧して駆動電圧系電力ライン42に供給したり、駆動電圧系電力ライン42の電力を降圧して電池電圧系電力ライン44に供給したりすることができる。電池電圧系電力ライン44の正極母線と負極母線とには平滑用のコンデンサ48が接続されている。
【0020】
電子制御ユニット50は、CPU52を中心とするマイクロプロセッサとして構成されており、CPU52の他に処理プログラムを記憶するROM54と、データを一時的に記憶するRAM56と、図示しない入出力ポートと、を備える。電子制御ユニット50には、モータ32のロータの回転位置を検出する回転位置検出センサ32aからのモータ32のロータの回転位置θmや、モータ32の三相コイルのU相,V相に流れる相電流を検出する電流センサ23U,23Vからの相電流Iu,Iv,バッテリ36の端子間に取り付けられた電圧センサ37aからの端子間電圧Vb,バッテリ36の出力端子に取り付けられた電流センサ37bからの充放電電流Ib,バッテリ36に取り付けられた温度センサ37cからの電池温度Tb,コンデンサ46の端子間に取り付けられた電圧センサ46aからのコンデンサ46の電圧(駆動電圧系電力ライン42の電圧)VH,コンデンサ48の端子間に取り付けられた電圧センサ48aからのコンデンサ48の電圧(電池電圧系電力ライン44の電圧)VL,イグニッションスイッチ60からのイグニッション信号,シフトレバー61の操作位置を検出するシフトポジションセンサ62からのシフトポジションSP,アクセルペダル63の踏み込み量を検出するアクセルペダルポジションセンサ64からのアクセル開度Acc,ブレーキペダル65の踏み込み量を検出するブレーキペダルポジションセンサ66からのブレーキペダルポジションBP,車速センサ68からの車速Vなどが入力ポートを介して入力されている。電子制御ユニット50からは、インバータ34のトランジスタT11〜T16へのスイッチング制御信号や昇圧コンバータ40のトランジスタT31,T32へのスイッチング制御信号などが出力ポートを介して出力されている。なお、電子制御ユニット50は、回転位置検出センサ32aにより検出されたモータ32のロータの回転位置θmに基づいてモータ32のロータの電気角θeや回転角速度ωm,回転数Nmを演算したり、電流センサ37bにより検出されたバッテリ36の充放電電流Ibに基づいてそのときのバッテリ36から放電可能な電力量の全容量に対する割合である蓄電割合SOCを演算したり、演算した蓄電割合SOCと電池温度Tbとに基づいてバッテリ36を充放電してもよい最大許容電力である入出力制限Win,Woutを演算したりしている。
【0021】
こうして構成された実施例の電気自動車20では、電子制御ユニット50は、アクセル開度Accと車速Vとに応じて駆動軸22に出力すべき要求トルクTr*を設定し、バッテリ36の入出力制限Win,Woutをモータ32の回転数Nmで除してモータ32から出力してもよいトルクの上下限としてのトルク制限Tmin,Tmaxを設定し、要求トルクTr*をトルク制限Tmin,Tmaxで制限してモータ32から出力すべきトルクとしてのトルク指令Tm*を設定し、設定したトルク指令Tm*でモータ32が駆動されるようインバータ34のトランジスタT11〜T16をスイッチング制御する。また、モータ32のトルク指令Tm*とモータ32の回転数Nmとに応じて駆動電圧系電力ライン42の目標電圧VHtagを設定し、駆動電圧系電力ライン42の電圧VHが目標電圧VHtagとなるよう昇圧コンバータ40のトランジスタT31,T32をスイッチング制御する。以下、インバータ34の制御について説明する。
【0022】
インバータ34は、実施例では、電子制御ユニット50により、正弦波制御,過変調制御,矩形波制御のいずれかによって制御するものとした。ここで、正弦波制御は、モータ32の電圧指令と三角波(搬送波)電圧との比較によってトランジスタT11〜T16のオン時間の割合を調節するパルス幅変調(PWM)制御において、三角波電圧の振幅以下の振幅の正弦波状の電圧指令を変換して得られる擬似的三相交流電圧をモータ32に供給する制御である。また、過変調制御は、パルス幅変調制御において、三角波電圧の振幅より大きな振幅の正弦波状の電圧指令を変換して得られる過変調電圧をモータ32に供給する制御である。さらに、矩形波制御は、矩形波電圧をモータ32に供給する制御である。なお、正弦波制御では、駆動電圧系電力ライン42の電圧VHに対する正弦波状の電圧指令の振幅の割合としての変調率(電圧利用率)Rmが値0〜値Rref1(約0.61)の範囲となり、過変調制御では、変調率Rmが値Rref1(約0.61)〜値Rref2(約0.78)の範囲となり、矩形波制御では、変調率Rmが値Rref2(約0.78)で一定となる。以下、まず、正弦波制御や過変調制御について説明し、その後、矩形波制御について説明する。
【0023】
正弦波制御や過変調制御では、まず、モータ32のトルク指令Tm*に基づいてd軸,q軸の電流指令Id*,Iq*を設定する。ここで、d軸はモータ32のロータに埋め込まれた永久磁石によって形成される磁束の方向であり、q軸はd軸に対してモータ32の正回転方向にπ/2だけ電気角θeが進角した方向である。また、d軸,q軸の電流指令Id*,Iq*は、実施例では、モータ32のトルク指令Tm*とd軸,q軸の電流指令Id*,Iq*との関係を予め定めて電流指令設定用マップとしてROM54に記憶しておき、モータ32のトルク指令Tm*が与えられると記憶したマップから対応するd軸,q軸の電流指令Id*,Iq*を導出して設定するものとした。ここで、モータ32のトルク指令Tm*とd軸,q軸の電流指令Id*,Iq*との関係は、実施例では、トルク指令Tm*に対応するトルクをモータ32から出力させるための電流指令大きさIr(電流指令Id*の二乗と電流指令Iq*の二乗との和の平方根)が最小となるトルク指令Tm*と電流指令Id*,Iq*との関係(以下、この関係を示すラインを電流指令ラインという)とした。また、電流指令設定用マップの一例を図3に示す。図3の例では、モータ32のトルク指令Tm*がトルクT3のときにこのトルク指令Tm*に対応するd軸,q軸の電流指令Id*,Iq*を設定する様子を示している。なお、図3には、電流指令ラインやトルク指令Tm*,電流指令Id*,Iq*の他に、電流指令大きさIrと、電流指令角度θir(電流指令大きさIrの方向のq軸の方向に対する角度)と、についても図示した。
【0024】
続いて、モータ32の三相コイルのU相,V相,W相に流れる相電流Iu,Iv,Iwの総和を値0としてモータ32の電気角θeを用いて次式(1)により相電流Iu,Ivをd軸,q軸の電流Id,Iqに座標変換(3相−2相変換)する。そして、モータ32の回転角速度ωmとd軸,q軸の電流Id,Iqと電流指令Id*,Iq*とを用いて次式(2),(3)によりd軸,q軸の電圧指令Vd*,Vq*を設定する。ここで、式(2),(3)は、d軸,q軸の電流Id,Iqと電流指令Id*,Iq*との差が打ち消されるようにするための電流フィードバック制御における関係式であり、右辺第1項はフィードフォワード項であり、右辺第2項はフィードバック項における比例項であり、右辺第3項はフィードバック項における積分項である。式(2),(3)中、「Ld」,「Lq」はそれぞれd軸,q軸のインダクタンスであり、「φ」は誘起電圧係数である。また、「Kp1」,「Kp2」は比例項のゲインであり、「Ki1」,「Ki2」は積分項のゲインである。なお、比例項のゲインKp1,Kp2や積分項のゲインKp2,Ki2,積分項の積分区間Ti1,Ti2には、それぞれ、モータ32の制御性などを考慮して定められる通常の値Kp1n,Kp2n,Ki1n,Ki1n,Ti1n,Ti2nを用いるものとした。ここで、積分区間Ti1,Ti2として用いる値Ti1n,Ti2nについては、モータ32の回転数Nmに拘わらずモータ32の制御性を保つために、電気角θeの所定周期(例えば、2周期や2.5周期,3周期など)分に相当する値を用いるものとした。
【0025】
【数1】

【0026】
そして、電気角θeを用いて次式(4),(5)によりd軸,q軸の電圧指令Vd*,Vq*をモータ32の三相コイルのU相,V相,W相に印加すべき電圧指令Vu*,Vv*,Vw*に座標変換(2相−3相変換)し、座標変換した電圧指令Vu*,Vv*,Vw*をインバータ34のトランジスタT11〜T16をスイッチングするためのPWM信号に変換してインバータ34のトランジスタT11〜T16に出力することにより、トランジスタT11〜T16をスイッチング制御する。ここで、PWM信号の変換に用いられる正弦波状の電圧指令の振幅としては、電圧指令大きさVr(電圧指令Vd*の二乗と電圧流指令Vq*の二乗との和の平方根)が用いられる。したがって、上述の変調率Rmは、駆動電圧系電力ライン42の電圧VHに対する電圧指令大きさVrの割合として得られることになる。なお、参考のために、正弦波制御や過変調制御によってインバータ34を制御するときの電圧指令大きさVrと電圧指令角度θvr(電圧指令大きさVrの方向のq軸の方向に対する角度)との一例を図4に示す。
【0027】
【数2】

【0028】
次に、矩形波制御について説明する。矩形波制御では、まず、モータ32の電気角θeを用いて上述の式(1)によりモータ32の相電流Iu,Ivをd軸,q軸の電流Id,Iqに座標変換(3相−2相変換)し、その座標変換によって得られたd軸,q軸の電流Id,Iqに基づいてモータ32から出力されていると推定される推定トルクTmestを求める。そして、モータ32の推定トルクTmestとトルク指令Tm*とを用いて次式(6)により電圧位相指令θ*を設定し、設定した電圧位相指令θ*に基づく矩形波電圧がモータ32に印加されるよう矩形波信号をインバータ34のトランジスタT11〜T16に出力することにより、トランジスタT11〜t16をスイッチング制御する。ここで、電圧位相指令θ*は、過変調制御や正弦波制御における電圧指令角度θvrに相当する位相指令である。また、式(6)は、モータ32の推定トルクTmestとトルク指令Tm*との差が打ち消されるようにするためのトルクフィードバック制御における関係式であり、式(6)中、「Kp3」は比例項のゲインであり、「Ki3」は積分項のゲインである。なお、比例項のゲインKp3や積分項のゲインKp3,積分項の積分区間Ti3には、それぞれ、モータ32の制御性などを考慮して定められる通常の値Kp3n,Ki3n,Ti3nを用いるものとした。ここで、積分区間Ti3として用いる値Ti3nについては、モータ32の回転数Nmに拘わらずモータ32の制御性を保つために、電気角θeの所定周期(例えば、2周期や2.5周期,3周期など)分に相当する値を用いるものとした。
【0029】
【数3】

【0030】
ところで、正弦波制御と過変調制御との切替は、実施例では、正弦波制御によってインバータ34を制御している最中に変調率Rm(=Vr/VH)が値Rref1(約0.61)を超えたときに正弦波制御から過変調制御に切り替え、過変調制御によってインバータ34を制御している最中に変調率Rmが値Rref1以下になったときに過変調制御から正弦波制御に切り替えるものとした。また、過変調制御と矩形波制御との切替は、実施例では、過変調制御によってインバータ34を制御している最中に変調率Rm(=Vr/VH)が値Rref2(約0.78)に至ったときに過変調制御から矩形波制御に切り替え、矩形波制御によってインバータ34を制御している最中にd軸,q軸の電流が電流指令ラインよりd軸の電流Idの大きさが小さくなる切替ラインに至ったときに矩形波制御から過変調制御に切り替えるものとした。切替ラインの一例を図5に示す。図5では、参考のために、正弦波制御や過変調制御で用いる電流指令ラインについても図示した。矩形波制御によってインバータ34を制御しているときには、弱め界磁のために、d軸の電流Idが電流指令ラインよりも−d軸の方向に大きな値となることが多い。したがって、実施例では、過変調制御と矩形波制御の頻繁な切替を抑制するために、電流指令ラインよりもd軸の電流Idの大きさが小さくなるよう切替ラインを定めるものとした。
【0031】
このように正弦波制御,過変調制御,矩形波制御のいずれかによってインバータ34を制御する場合のモータ32のトルク指令Tm*と回転数Nmとインバータ34の制御方法(正弦波制御,過変調制御,矩形波制御)とのおおよその関係の一例を図6に示す。図6に示すように、モータ32のトルク指令Tm*の大きさや回転数Nmが小さい側から順に正弦波制御,過変調制御,矩形波制御によってインバータ34を制御することになる。モータ32やインバータ34の特性として、矩形波制御,過変調制御,正弦波制御の順で、モータ32の出力応答性や制御性がよくなり、出力が小さくなり、インバータ34のスイッチング損失などが大きくなることが分かっているから、低回転数低トルクの領域では、正弦波制御によってインバータ34を制御することにより、モータ32の出力応答性や制御性を良くすることができる。一方、高回転数高トルク領域では、矩形波制御によってインバータ34を制御することにより、大きなトルクを出力可能とすると共にインバータ34のスイッチング損失などを低減することができる。
【0032】
次に、こうして構成された実施例の電気自動車20の動作、特に、インバータ34の制御方法の矩形波制御から過変調制御に切り替える矩形波過変調切替時の動作について説明する。図7は、電子制御ユニット50により実行される矩形波過変調切替時処理ルーチンの一例を示すフローチャートである。このルーチンは、矩形波制御によってインバータ34を制御している最中にd軸,q軸の電流Id,Iqが切替ラインに至ったときに実行される。
【0033】
矩形波過変調切替時処理ルーチンが実行されると、電子制御ユニット50のCPU52は、まず、モータ32のトルク指令Tm*と回転数Nmとを入力し(ステップS100)、入力したトルク指令Tm*と回転数Nmとを用いて、矩形波過変調切替によるモータ32のトルク変動が大きくなりやすい変動想定状態であるか否かを判定する(ステップS110,S120)。この判定は、具体的には、モータ32のトルク指令Tm*の絶対値を閾値Trefと比較すると共に(ステップS110)、モータ32の回転数Nmを閾値Nrefと比較する(ステップS120)ことによって行なうものとした。ここで、閾値Trefや回転数Nmは、変動想定状態の領域を定めるために用いられるものであり、予め実験や解析によって定めることができる。閾値Trefとしては、例えば、45N・mや50N・m,55N・mなどを用いることができ、閾値Nrefとしては、例えば、2300rpmや2500rpm,2700rpmなどを用いることができる。
【0034】
ここで、モータ32のトルク指令Tm*や回転数Nmを用いて変動想定状態であるか否かを判定する理由について説明する。モータ32のトルク指令Tm*の絶対値が大きく回転数Nmが小さい領域で矩形波制御によってインバータ34を制御するときには、通常、電圧位相指令θ*(過変調制御や正弦波制御における電圧指令角度θvrに相当する位相指令)が90度に近い状態(例えば、75度や80度〜100度や105度の範囲など)、即ち、電圧のd軸成分の大きさが大きくq軸成分の大きさが小さい状態となる。そして、d軸,q軸の電流Id,Iqが切替ライン上に至ったときに矩形波制御から過変調制御に切り替える場合、その切替後に、矩形波制御における変調率Rm(値Rref2)と過変調制御における変調率Rm(=Vr/VH)との乖離によって変調率Rmが変動し、切替時のd軸,q軸の電流Id,Iq(切替ライン上)とd軸,q軸の電流指令Id*,Iq*(電流指令ライン上)との乖離によってd軸の電流Id(q軸の電圧指令Vd*)やq軸の電流Iq(d軸の電圧指令Vd*)が変動(脈動)することがあり、特に、電圧位相指令θ*が90度に近くなっている状態で矩形波制御から過変調制御に切り替える場合には、電圧のd軸成分の大きさが大きくq軸成分の大きさが小さいことにより、その切替後に、モータ32のトルク変動につながるq軸の電流Iq(d軸の電圧指令Vd*)が大きく変動しやすい。したがって、モータ32のトルク指令Tm*の絶対値が大きく回転数Nmが小さい領域で矩形波制御によってインバータ34を制御している状態で矩形波制御から過変調制御に切り替えると、その切替後にd軸の電圧指令Vd*が大きく変動してモータ32のトルク変動が大きくなりやすいと考えられる。以上の理由により、実施例では、モータ32のトルク指令Tm*や回転数Nmを用いて変動想定状態であるか否かを判定するものとした。
【0035】
モータ32のトルク指令Tm*の絶対値が閾値Trefより小さいときや、モータ32の回転数Nmが閾値Nrefより大きいときには、変動想定状態ではないと判断し、過変調制御や正弦波制御におけるフィードバック制御で用いる比例項,積分項のゲインKp1,Kp2,Ki1,Ki2や積分項の積分区間Ti1,Ti2にそれぞれ通常の値Kp1n,Kp2n,Ki1n,Ki2n,Ti1n,Ti2nを設定し(ステップS130)、過変調制御によるインバータ34の制御を開始して(ステップS150)、本ルーチンを終了する。こうして過変調制御によるインバータ34の制御を開始すると、設定した比例項,積分項のゲインKp1,Kp2,Ki1,Ki2や積分項の積分区間Ti1,Ti2を用いて上述の式(2),(3)によりd軸,q軸の電圧指令Vd*,Vq*を設定してインバータ34を制御する。
【0036】
一方、モータ32のトルク指令Tm*の絶対値が閾値Tref以上で且つモータ32の回転数Nmが閾値Nref以下のときには、変動想定状態であると判断し、過変調制御や正弦波制御におけるフィードバック制御で用いる比例項,積分項のゲインKp1,Kp2,Ki1,Ki2にそれぞれ通常の値Kp1n,Kp2n,Ki1n,Ki2nより大きな値Kp1a,Kp2a,Ki1a,Ki2aを設定すると共に積分区間Ti1,Ti2に通常の値Ti1n,Ti2nより小さなTi1a,Ti2aを設定し(ステップS140)、過変調制御によるインバータ34の制御を開始して(ステップS150)、本ルーチンを終了する。このように比例項,積分項のゲインKp1,Kp2,Ki1,Ki2や積分区間Ti1,Ti2を設定することにより、矩形波過変調切替時に変動想定状態のときに、矩形波過変調切替後にd軸,q軸の電流Id,Iqをd軸,q軸の電流指令Id*,Iq*により迅速に近づけることができる。この結果、d軸の電圧指令Vd*,電圧指令大きさVrの変動(脈動)を抑制することができ、矩形波過変調切替後のモータ32のトルク変動の抑制やそのトルク変動の収束に要する時間の短縮を図ることができる。また、矩形波過変調切替時に変動想定状態のときには、通常、矩形波過変調切替直後に電流のq軸成分(電圧のd軸成分)が比較的大きく変化し、d軸の電流Idと電流指令Id*との乖離がq軸の電流Iqと電流指令Iq*との乖離より大きくなりやすいことから、実施例では、値Kp1a,Kp2a,Ki1a,Ki2aについては、値Kp2a,Ki2a(q軸の電圧指令Vq*の設定(式(3)参照)に用いるゲインKp2,Ki2)がそれぞれ値Kp1a,Ki1a(d軸の電圧指令Vd*の設定(式(2)参照)に用いるゲインKp1,Ki1)に比して大きくなるよう定めるものとし、値Ti1a,Ti2aについては、値Ti2a(q軸の電圧指令Vq*の設定に用いる積分区間Ti2)が値Ti1a(d軸の電圧指令Vd*の設定に用いる積分区間Ti1)に比して小さくなるよう定めるものとした。これにより、過変調制御によるインバータ34の制御を開始した後に、d軸,q軸の電流Id,Iqをd軸,q軸の電流指令Id*,Iq*にバランスよく近づけることができる。
【0037】
図8は、変動想定状態で矩形波過変調切替を行なったときのモータ32のトルクTm,変調率Rm,電圧位相指令θ*または電圧指令角度θvrの様子の一例を示す説明図である。図中、実線は、変動想定状態のときに変動想定状態でないときに比して比例項,積分項のゲインKp1,Kp2,Ki1,Ki2を大きくすると共に積分項の積分区間Ti1,Ti2を短くする実施例の様子を示し、一点鎖線は、変動想定状態か否かに拘わらず比例項,積分項のゲインKp1,Kp2,Ki1,Ki2や積分項の積分区間Ti1,Ti2にそれぞれ通常の値を設定する比較例の様子を示す。なお、図8の例では、モータ32のトルク指令Tm*は一定とした。比較例の場合、図中の一点鎖線に示すように、矩形波過変調切替を行なった後に、電圧指令角度θvrが、d軸,q軸の電流Id,Iqがd軸,q軸の電流指令Id*,Iq*近傍に至ったときの電圧指令角度θvrとしての移動目標角度θvrtag近傍で収束するまでの時間が長くなると共に変調率Rmが比較的大きく変動(脈動)し、モータ32のトルク変動が大きくなる。一方、実施例の場合、変動想定状態でないときに比して比例項,積分項のゲインKp1,Kp2,Ki1,Ki2を大きくすると共に積分項の積分区間Ti1,Ti2を短くすることにより、図中の実線に示すように、電圧指令角度θvrが移動目標角度θvrtag近傍で収束するまでの時間が短くなると共に変調率Rmの変動(脈動)が小さくなり(d軸の電圧指令Vd*の変動が小さくなり)、モータ32のトルク変動が小さくなる。
【0038】
以上説明した実施例の電気自動車20によれば、過変調制御によってインバータ34を制御するときに、q軸の電流Iqとq軸の電流指令Iq*との差分と比例項,積分項の制御ゲインKp1,Ki1と積分項の積分区間Ti1とを用いた電流フィードバック制御によってd軸の電圧指令Vd*を設定すると共にd軸の電流Idとd軸の電流指令Id*との差分と比例項,積分項の制御ゲインKp2,Ki2と積分項の積分区間Ti2とを用いた電流フィードバック制御によってq軸の電圧指令Vq*を設定し、設定したd軸,q軸の電圧指令Vd*,Vq*を用いてインバータ34を制御するものにおいて、矩形波過変調切替時に、矩形波過変調切替によるモータ32のトルク変動が大きくなりやすい変動想定状態のときには、変動想定状態でないときに比して比例項,積分項のゲインKp1,Kp2,Ki1,Ki2を大きくすると共に積分項の積分区間Ti1,Ti2を短くするから、矩形波過変調切替時に変動想定状態のときに、矩形波過変調切替後にd軸,q軸の電流Id,Iqをd軸,q軸の電流指令Id*,Iq*により迅速に近づけることができ、矩形波過変調切替後のモータ32のトルク変動の抑制やそのトルク変動の収束に要する時間の短縮を図ることができる。
【0039】
また、実施例の電気自動車20によれば、矩形波過変調切替時に変動想定状態のときには、q軸の電圧指令Vq*の設定に用いる比例項,積分項のゲインKp2,Ki2をd軸の電圧指令Vd*の設定に用いる比例項,積分項のゲインKp1,Ki1より大きくし、q軸の電圧指令Vq*の設定に用いる積分項の積分区間Ti2をd軸の電圧指令Vd*の設定に用いる積分項の積分区間Ti1より短くするものとしたから、d軸,q軸の電流Id,Iqをd軸,q軸の電流指令Id*,Iq*にバランスよく近づけることができる。
【0040】
実施例の電気自動車20では、矩形波過変調切替時に変動想定状態のときには、矩形波過変調切替時に変動想定状態でないときに比してd軸,q軸の電圧指令Vd*,Vq*の設定に用いる比例項,積分項のゲインKp1,Kp2,Ki1,Ki2を大きくすると共に積分項の積分区間Ti1,Ti2を短くするものとしたが、比例項,積分項のゲインKp1,Kp2,Ki1,Ki2については矩形波過変調切替時に変動想定状態でないときに比して大きくするものの、積分項の積分区間Ti1,Ti2については矩形波過変調切替時に変動想定状態でないときと同一とするものとしてもよい。
【0041】
実施例の電気自動車20では、矩形波過変調切替時に変動想定状態のときには、q軸の電圧指令Vq*の設定に用いる比例項,積分項のゲインKp2,Ki2をd軸の電圧指令Vd*の設定に用いる比例項,積分項のゲインKp1,Ki1より大きくし、q軸の電圧指令Vq*の設定に用いる積分項の積分区間Ti2をd軸の電圧指令Vd*の設定に用いる積分項の積分区間Ti1より短くするものとしたが、少なくとも比例項,積分項のゲインKp1,Kp2,Ki1,Ki2を矩形波過変調切替時に変動想定状態でないときに比して大きくするものであればよいから、q軸の電圧指令Vq*の設定に用いる比例項,積分項のゲインKp2,Ki2をd軸の電圧指令Vd*の設定に用いる比例項,積分項のゲインKp1,Ki1より大きくするもののd軸の電圧指令Vd*の設定に用いる積分項の積分区間Ti1とq軸の電圧指令Vq*の設定に用いる積分項の積分区間Ti2とについては同一とするものとしてもよいし、d軸の電圧指令Vd*の設定に用いる比例項,積分項のゲインKp1,Ki1とq軸の電圧指令Vq*の設定に用いる比例項,積分項のゲインKp2,Ki2とを同一とすると共にd軸の電圧指令Vd*の設定に用いる積分項の積分区間Ti1とq軸の電圧指令Vq*の設定に用いる積分項の積分区間Ti2とを同一とするものとしてもよい。
【0042】
実施例の電気自動車20では、矩形波制御から過変調制御に切り替える際、比例項,積分項のゲインKp1,Kp2,Ki1,Ki2や積分項の積分区間Ti1,Ti2を設定して過変調制御によるインバータ34の制御を開始するものとしたが、矩形波制御から過変調制御に切り替えた直後(初めて過変調制御を実行するとき)には、上述の式(2),(3)におけるフィードバック項(右辺第2項,第3項)を用いずにフィードフォワード項(右辺第1項)だけを用いてd軸,q軸の電圧指令Vd*,Vq*を設定するものとしてもよい。
【0043】
実施例の電気自動車20では、矩形波制御から過変調制御に切り替えるときにおいて、モータ32のトルク指令Tm*の絶対値が閾値Tref以上で且つモータ32の回転数Nmが閾値Nref以下のときに変動想定状態であると判断するものとしたが、上述した理由により、矩形波制御から過変調制御に切り替えるときの電圧位相指令θ*が所定範囲(例えば、75度や80度〜100度や105度の範囲など)内のときに変動想定状態であると判断するものとしてもよい。
【0044】
実施例では、駆動輪26a,26bに接続された駆動軸22に動力を入出力可能なモータ32を備える電気自動車20に適用するものしたが、例えば、図9の変形例のハイブリッド自動車120に例示するように、遊星歯車機構126を介して駆動軸22に接続されたエンジン122およびモータ124と、駆動軸22に動力を入出力可能なモータ32と、を備えるハイブリッド自動車120に適用するものとしてもよいし、図10の変形例のハイブリッド自動車220に例示するように、エンジン122のクランクシャフトに接続されたインナーロータ232と駆動輪26a,26bに連結された駆動軸22に接続されたアウターロータ234とを有しエンジン122からの動力の一部を駆動軸22に伝達すると共に残余の動力を電力に変換する対ロータ電動機230を備えるものとしてもよいし、図11の変形例のハイブリッド自動車320に例示するように、駆動軸22にモータ32を取り付けると共に、モータ32の回転軸にクラッチ329を介してエンジン122を接続する構成とし、エンジン122からの動力をモータ32の回転軸を介して駆動軸22に出力すると共にモータ32からの動力を駆動軸22に出力するハイブリッド自動車320に適用するものとしてもよい。
【0045】
実施例では、本発明をハイブリッド自動車の形態として説明したが、自動車以外の車両(例えば、列車など)の形態やインバータ制御装置の形態としてもよい。
【0046】
実施例の主要な要素と課題を解決するための手段の欄に記載した発明の主要な要素との対応関係について説明する。実施例では、バッテリ36が「バッテリ」に相当し、モータ32が「モータ」に相当し、インバータ34が「インバータ」に相当し、電子制御ユニット50が「インバータ制御装置」に相当する。
【0047】
ここで、「バッテリ」としては、リチウムイオン二次電池として構成されたバッテリ36に限定されるものではなく、ニッケル水素二次電池やニッケルカドミウム二次電池,鉛蓄電池など、如何なるタイプのバッテリであっても構わない。「モータ」としては、同期発電電動機として構成されたモータ32に限定されるものではなく、誘導電動機など、如何なるタイプのモータであっても構わない。「インバータ」としては、インバータ34に限定されるものではなく、モータを駆動するためのものであれば如何なるものとしても構わない。「インバータ制御装置」としては、過変調制御によってインバータ34を制御するときに、q軸の電流Iqとq軸の電流指令Iq*との差分と比例項,積分項の制御ゲインKp1,Ki1と積分項の積分区間Ti1とを用いた電流フィードバック制御によってd軸の電圧指令Vd*を設定すると共にd軸の電流Idとd軸の電流指令Id*との差分と比例項,積分項の制御ゲインKp2,Ki2と積分項の積分区間Ti2とを用いた電流フィードバック制御によってq軸の電圧指令Vq*を設定し、設定したd軸,q軸の電圧指令Vd*,Vq*を用いてインバータ34を制御するものにおいて、矩形波過変調切替時に、矩形波過変調切替によるモータ32のトルク変動が大きくなりやすい変動想定状態のときには、変動想定状態でないときに比して比例項,積分項のゲインKp1,Kp2,Ki1,Ki2を大きくすると共に積分項の積分区間Ti1,Ti2を短くするものに限定されるものではなく、正弦波制御または過変調制御によってインバータを制御するときには、d軸,q軸の電流と前記タに要求される要求トルクに基づくd軸,q軸の電流指令との差分と制御ゲインとを用いた電流フィードバック制御によってd軸,q軸の電圧指令を設定し、設定したd軸,q軸の電圧指令を用いてインバータを制御し、更に、矩形波制御から過変調制御に切り替える矩形波過変調切替時に、矩形波過変調切替によるモータのトルク変動が大きくなりやすい変動想定状態のときには、変動想定状態でないときに比して大きな制御ゲインを電流フィードバック制御に用いる、ものであれば如何なるものとしても構わない。
【0048】
なお、実施例の主要な要素と課題を解決するための手段の欄に記載した発明の主要な要素との対応関係は、実施例が課題を解決するための手段の欄に記載した発明を実施するための形態を具体的に説明するための一例であることから、課題を解決するための手段の欄に記載した発明の要素を限定するものではない。即ち、課題を解決するための手段の欄に記載した発明についての解釈はその欄の記載に基づいて行なわれるべきものであり、実施例は課題を解決するための手段の欄に記載した発明の具体的な一例に過ぎないものである。
【0049】
以上、本発明を実施するための形態について実施例を用いて説明したが、本発明はこうした実施例に何等限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲内において、種々なる形態で実施し得ることは勿論である。
【産業上の利用可能性】
【0050】
本発明は、インバータ制御装置や車両の製造産業などに利用可能である。
【符号の説明】
【0051】
20 電気自動車、22 駆動軸、23U,23V 電流センサ、24 デファレンシャルギヤ24、26a,26b 駆動輪、32 モータ、34 インバータ、36 バッテリ、37a 電圧センサ、37b 電流センサ、37c 温度センサ、40 昇圧コンバータ、42 駆動電圧系電力ライン、44 電池電圧系電力ライン、46,48 コンデンサ、46a,48a 電圧センサ、50 電子制御ユニット、52 CPU、54 ROM、56 RAM、60 イグニッションスイッチ、61 シフトレバー、62 シフトポジションセンサ、63 アクセルペダル、64 アクセルペダルポジションセンサ、65 ブレーキペダル、66 ブレーキペダルポジションセンサ、68 車速センサ、120,220,320 ハイブリッド自動車、122 エンジン、124 モータ、126 遊星歯車機構、230 対ロータ電動機、232 インナーロータ、234 アウターロータ、329 クラッチ、D11〜D16,D31,D32 ダイオード、L リアクトル、T11〜T16,T31,T32 トランジスタ。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
モータを駆動するためのインバータを、正弦波制御,過変調制御,矩形波制御のいずれかによって制御するインバータ制御装置であって、
正弦波制御または過変調制御によって前記インバータを制御するときには、d軸,q軸の電流と前記モータに要求される要求トルクに基づくd軸,q軸の電流指令との差分と制御ゲインとを用いた電流フィードバック制御によってd軸,q軸の電圧指令を設定し、該設定したd軸,q軸の電圧指令を用いて前記インバータを制御し、
更に、矩形波制御から過変調制御に切り替える矩形波過変調切替時に、該矩形波過変調切替による前記モータのトルク変動が大きくなりやすい変動想定状態のときには、前記変動想定状態でないときに比して大きな制御ゲインを電流フィードバック制御に用いる、
インバータ制御装置。
【請求項2】
請求項1記載のインバータ制御装置であって、
前記矩形波過変調切替時に、前記変動想定状態のときには、該変動想定状態でないときに比して短い積分区間を電流フィードバック制御に用いる、
インバータ制御装置。
【請求項3】
請求項1または2記載のインバータ制御装置であって、
正弦波制御または過変調制御によって前記インバータを制御するときには、q軸の電流とq軸の電流指令との差分と第1の制御ゲインとを用いた電流フィードバック制御によってd軸の電圧指令を設定すると共に、d軸の電流とd軸の電流指令との差分と第2の制御ゲインとを用いた電流フィードバック制御によってq軸の電圧指令を設定し、
更に、前記矩形波過変調切替時に前記変動想定状態のときには、前記第2の制御ゲインに、前記第1の制御ゲインより大きな値を用いる、
インバータ制御装置。
【請求項4】
請求項1ないし3のいずれか1つの請求項に記載のインバータ制御装置であって、
前記変動想定状態は、前記モータの回転数が所定回転数以下で前記要求トルクの大きさが所定値以上の状態である、
インバータ制御装置。
【請求項5】
走行用のモータと、前記モータを駆動するためのインバータと、請求項1ないし4のいずれか1つの請求項に記載のインバータ制御装置と、を備える車両。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【公開番号】特開2013−5618(P2013−5618A)
【公開日】平成25年1月7日(2013.1.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−135234(P2011−135234)
【出願日】平成23年6月17日(2011.6.17)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】