説明

インプリント用膜形成組成物、並びに構造体の製造方法及び構造体

【課題】基体上に塗布し、モールドを押し付けた際に、低いプレス圧力で構造体を得ることが可能なインプリント用膜形成組成物、並びにそのインプリント用膜形成組成物を用いた構造体の製造方法及び得られた構造体を提供する。
【解決手段】本発明に係るインプリント用膜形成組成物は、樹脂と、有機溶剤とを含有し、この有機溶剤が、大気圧における沸点が100〜200℃である特定溶剤を含む。構造体を製造する際には、本発明に係るインプリント用膜形成組成物を基体上に塗布して樹脂層を形成し、この樹脂層にモールドを押し付けた後、樹脂層からモールドを剥離する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、基体上に塗布し、モールドを押し付けて構造体を形成するためのインプリント用膜形成組成物、並びにそのインプリント用膜形成組成物を用いた構造体の製造方法及び得られた構造体に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、基体上に微細なパターンを形成する技術の1つとして、インプリント技術が提案されている(特許文献1参照)。このインプリント技術は、基本的には、所定のパターンが形成されたモールドを、表面に樹脂層が形成された基体に対して押し付け、モールドの形状を樹脂層に転写することにより、微細な転写パターンを得るものである。このようにして得られたパターン状の樹脂層は、例えば基体をエッチング加工する際のレジストとして利用される。本明細書では、このようにインプリント技術を用いて得られたパターン状の樹脂層を「構造体」と総称する。
【0003】
これまで、樹脂層には熱可塑性樹脂や光硬化性樹脂が用いられており、それぞれ「熱インプリント技術」、「光インプリント技術」として公知である。熱インプリント技術では、予め加熱により樹脂を軟化させておき、次いで、モールドを樹脂層に押し付け、その状態で樹脂層を冷却して樹脂を硬化させ、その後、モールドを剥離することにより転写パターンを形成する。一方、光インプリント技術では、モールドを樹脂層に押し付け、その状態で樹脂層に光を照射して樹脂を硬化させ、その後、モールドを剥離することにより転写パターンを形成する。
【0004】
また、近年になり、樹脂層にシロキサン樹脂を用い、室温にて転写パターンを得る技術が提案されており、「室温インプリント技術」として認識されるに至っている(特許文献2参照)。この室温インプリント技術では、モールドを樹脂層に押し付け、その後、モールドを剥離することにより転写パターンを形成する。この室温インプリント技術は、従来の熱インプリント技術や光インプリント技術のように加熱や光照射の工程が必要ないため、スループットが高いという特長がある。また、樹脂層にはシロキサン樹脂が用いられているため、得られた構造体は、エッチング用のレジストとしてのみならず、CMOSセンサーにおける極小レンズ等としても利用し得る。
【特許文献1】米国特許第5772905号明細書
【特許文献2】特開2003−100609号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、上記のようなインプリント技術においては、モールドの形状を容易かつ正確に樹脂層に転写できるように、モールドを樹脂層に押し付ける際のプレス圧力が低いことが好ましい。とりわけ室温インプリント技術は、熱インプリント技術や光インプリント技術と比較してモールドを樹脂層に押し付ける際に必要なプレス圧力が高いため、プレス圧力を低くすることが特に求められる。
【0006】
本発明は、このような従来の課題に鑑みてなされたものであり、基体上に塗布し、モールドを押し付けた際に、低いプレス圧力で構造体を得ることが可能なインプリント用膜形成組成物、並びにそのインプリント用膜形成組成物を用いた構造体の製造方法及び得られた構造体を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、上記目的を達成するため鋭意研究を重ねた。その結果、インプリント用膜形成組成物中に大気圧における沸点が所定範囲内である特定溶剤を含有させることにより上記課題を解決できることを見出し、本発明を完成するに至った。具体的には、本発明は以下のようなものを提供する。
【0008】
本発明の第一の態様は、基体上に塗布し、モールドを押し付けて構造体を形成するためのインプリント用膜形成組成物において、樹脂と、有機溶剤とを含有し、前記有機溶剤が、大気圧における沸点が100〜200℃である特定溶剤を含むことを特徴とするインプリント用膜形成組成物である。
【0009】
本発明の第二の態様は、本発明に係るインプリント用膜形成組成物を基体上に塗布して樹脂層を形成する工程と、前記樹脂層にモールドを押し付ける工程と、前記樹脂層から前記モールドを剥離する工程と、を含むことを特徴とする構造体の製造方法である。
【0010】
本発明の第三の態様は、本発明に係る構造体の製造方法により得られた構造体である。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、基体上にインプリント用膜形成組成物を塗布し、モールドを押し付けた際に、プレス圧力が低くても所望の構造体を得ることが可能とされる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
≪インプリント用膜形成組成物≫
本発明に係るインプリント用膜形成組成物は、樹脂と、有機溶剤とを少なくとも含有するものであり、基体上に塗布し、モールドを押し付けて構造体を形成するために用いられる。このインプリント用膜形成組成物は、光インプリント技術及び室温インプリント技術のいずれに用いるものであっても構わない。ただし、一般に室温インプリント技術の方がモールドを樹脂層に押し付ける際に必要なプレス圧力が高いため、本発明に係るインプリント用膜形成組成物を用いることによる効果は、室温インプリント技術においてより顕著である。そこで、以下では主に、室温インプリント技術に用いられるインプリント用膜形成組成物について説明する。
【0013】
<樹脂>
本発明に係るインプリント用膜形成組成物に含有される樹脂は、当該組成物を光インプリント技術及び室温インプリント技術のいずれに用いるかによって異なるが、室温インプリント技術の場合にはシロキサン樹脂が含有される。このシロキサン樹脂としては、例えば下記式(1)で表される少なくとも1種のシラン化合物の加水分解物及び/又は部分縮合物が挙げられる。
【0014】
【化1】

【0015】
上記式(1)中、Rは水素原子又は炭素数1〜20の有機基を表し、複数個のRは同一でも異なっていてもよい。有機基としては、メチル基、エチル基、プロピル基等のアルキル基;ビニル基、アリル基、プロペニル基等のアルケニル基;フェニル基、トリル基等のアリール基;ベンジル基、フェニルエチル基等のアラルキル基等が挙げられ、水酸基、アルコキシ基等で置換されていてもよい。
【0016】
また、上記式(1)中、Xは加水分解性基を表す。加水分解性基としては、メトキシ基、エトキシ基、プロポキシ基、イソプロポキシ基、ブトキシ基等のアルコキシ基;ビニロキシ基、2−プロペノキシ基等のアルケノキシ基;フェノキシ基、アセトキシ基等のアシロキシ基;ブタノキシム基等のオキシム基;アミノ基等が挙げられる。この中でも、炭素数1〜5のアルコキシ基が好ましく、加水分解、縮合時の制御のし易さから、メトキシ基、エトキシ基、イソプロポキシ基、ブトキシ基が特に好ましい。
また、上記式(1)中、nは0〜2の整数を表す。
【0017】
なお、シロキサン樹脂の製造には、上記一般式(a)で表されるシラン化合物のうち、少なくともn=0の化合物を用いることが好ましい。これにより、得られる構造体の機械強度をより向上させることができる。また、n=1,2の場合には、Rが有機基であるものを用いることが好ましい。
【0018】
上記式(1)で表されるシラン化合物の具体例としては、トリメトキシシラン、トリエトキシシラン、トリ−n−プロポキシシラン、トリイソプロポキシシラン、トリ−n−ブトキシシラン、トリ−sec−ブトキシシラン、トリ−tert−ブトキシシラン、トリフェノキシシラン、フルオロトリメトキシシラン、フルオロトリエトキシシラン、フルオロトリ−n−プロポキシシラン、フルオロトリイソプロポキシシラン、フルオロトリ−n−ブトキシシラン、フルオロトリ−sec−ブトキシシラン、フルオロトリ−tert−ブトキシシラン、フルオロトリフェノキシシラン、テトラメトキシシラン、テトラエトキシシラン、テトラ−n−プロポキシシラン、テトライソプロポキシシラン、テトラ−n−ブトキシラン、テトラ−sec−ブトキシシラン、テトラ−tert−ブトキシシラン、テトラフェノキシシラン、メチルトリメトキシシラン、メチルトリエトキシシラン、メチルトリ−n−プロポキシシラン、メチルトリイソプロポキシシラン、メチルトリ−n−ブトキシシラン、メチルトリ−sec−ブトキシシラン、メチルトリ−tert−ブトキシシラン、メチルトリフェノキシシラン、エチルトリメトキシシラン、エチルトリエトキシシラン、エチルトリ−n−プロポキシシラン、エチルトリイソプロポキシシラン、エチルトリ−n−ブトキシシラン、エチルトリ−sec−ブトキシシラン、エチルトリ−tert−ブトキシシラン、エチルトリフェノキシシラン、ビニルトリメトキシシラン、ビニルトリエトキシシラン、ビニルトリ−n−プロポキシシラン、ビニルトリイソプロポキシシラン、ビニルトリ−n−ブトキシシラン、ビニルトリ−sec−ブトキシシラン、ビニルトリ−tert−ブトキシシラン、ビニルトリフェノキシシラン、n−プロピルトリメトキシシラン、n−プロピルトリエトキシシラン、n−プロピルトリ−n−プロポキシシラン、n−プロピルトリイソプロポキシシラン、n−プロピルトリ−n−ブトキシシラン、n−プロピルトリ−sec−ブトキシシラン、n−プロピルトリ−tert−ブトキシシラン、n−プロピルトリフェノキシシラン、イソプロピルトリメトキシシラン、イソプロピルトリエトキシシラン、イソプロピルトリ−n−プロポキシシラン、イソプロピルトリイソプロポキシシラン、イソプロピルトリ−n−ブトキシシラン、イソプロピルトリ−sec−ブトキシシラン、イソプロピルトリ−tert−ブトキシシラン、イソプロピルトリフェノキシシラン、n−ブチルトリメトキシシラン、n−ブチルトリエトキシシラン、n−ブチルトリ−n−プロポキシシラン、n−ブチルトリイソプロポキシシラン、n−ブチルトリ−n−ブトキシシラン、n−ブチルトリ−sec−ブトキシシラン、n−ブチルトリ−tert−ブトキシシラン、n−ブチルトリフェノキシシラン、sec−ブチルトリメトキシシラン、sec−ブチルイソトリエトキシシラン、sec−ブチルトリ−n−プロポキシシラン、sec−ブチルトリイソプロポキシシラン、sec−ブチルトリ−n−ブトキシシラン、sec−ブチルトリ−sec−ブトキシシラン、sec−ブチルトリ−tert−ブトキシシラン、sec−ブチルトリフェノキシシラン、tert−ブチルトリメトキシシラン、tert−ブチルトリエトキシシラン、tert−ブチルトリ−n−プロポキシシラン、tert−ブチルトリイソプロポキシシラン、tert−ブチルトリ−n−ブトキシシラン、tert−ブチルトリ−sec−ブトキシシラン、tert−ブチルトリ−tert−ブトキシシラン、tert−ブチルトリフェノキシシラン、フェニルトリメトキシシラン、フェニルトリエトキシシラン、フェニルトリ−n−プロポキシシラン、フェニルトリイソプロポキシシラン、フェニルトリ−n−ブトキシシラン、フェニルトリ−sec−ブトキシシラン、フェニルトリ−tert−ブトキシシラン、フェニルトリフェノキシシラン、γ−アミノプロピルトリメトキシシラン、γ−アミノプロピルトリエトキシシラン、γ−グリシドキシプロピルトリメトキシシラン、γ−グリシドキシプロピルトリエトキシシラン、γ−トリフルオロプロピルトリメトキシシラン、γ−トリフルオロプロピルトリエトキシシラン、ジメチルジメトキシシラン、ジメチルジエトキシシラン、ジメチルジ−n−プロポキシシラン、ジメチルジイソプロポキシシラン、ジメチルジ−n−ブトキシシラン、ジメチルジ−sec−ブトキシシラン、ジメチルジ−tert−ブトキシシラン、ジメチルジフェノキシシラン、ジエチルジメトキシシラン、ジエチルジエトキシシラン、ジエチルジ−n−プロポキシシラン、ジエチルジイソプロポキシシラン、ジエチルジ−n−ブトキシシラン、ジエチルジ−sec−ブトキシシラン、ジエチルジ−tert−ブトキシシラン、ジエチルジフェノキシシラン、ジ−n−プロピルジメトキシシラン、ジ−n−プロピルジエトキシシラン、ジ−n−プロピルジ−n−プロポキシシラン、ジ−n−プロピルジイソプロポキシシラン、ジ−n−プロピルジ−n−ブトキシシラン、ジ−n−プロピルジ−sec−ブトキシシラン、ジ−n−プロピルジ−tert−ブトキシシラン、ジ−n−プロピルジフェノキシシラン、ジイソプロピルジメトキシシラン、ジイソプロピルジエトキシシラン、ジイソプロピルジ−n−プロポキシシラン、ジイソプロピルジイソプロポキシシラン、ジイソプロピルジ−n−ブトキシシラン、ジイソプロピルジ−sec−ブトキシシラン、ジイソプロピルジ−tert−ブトキシシラン、ジイソプロピルジフェノキシシラン、ジ−n−ブチルジメトキシシラン、ジ−n−ブチルジエトキシシラン、ジ−n−ブチルジ−n−プロポキシシラン、ジ−n−ブチルジイソプロポキシシラン、ジ−n−ブチルジ−n−ブトキシシラン、ジ−n−ブチルジ−sec−ブトキシシラン、ジ−n−ブチルジ−tert−ブトキシシラン、ジ−n−ブチルジフェノキシシラン、ジ−sec−ブチルジメトキシシラン、ジ−sec−ブチルジエトキシシラン、ジ−sec−ブチルジ−n−プロポキシシラン、ジ−sec−ブチルジイソプロポキシシラン、ジ−sec−ブチルジ−n−ブトキシシラン、ジ−sec−ブチルジ−sec−ブトキシシラン、ジ−sec−ブチルジ−tert−ブトキシシラン、ジ−sec−ブチルジフェノキシシラン、ジ−tert−ブチルジメトキシシラン、ジ−tert−ブチルジエトキシシラン、ジ−tert−ブチルジ−n−プロポキシシラン、ジ−tert−ブチルジイソプロポキシシラン、ジ−tert−ブチルジ−n−ブトキシシラン、ジ−tert−ブチルジ−sec−ブトキシシラン、ジ−tert−ブチルジ−tert−ブトキシシラン、ジ−tert−ブチルジフェノキシシラン、ジフェニルジメトキシシラン、ジフェニルジエトキシシラン、ジフェニルジ−n−プロポキシシラン、ジフェニルジイソプロポキシシラン、ジフェニルジ−n−ブトキシシラン、ジフェニルジ−sec−ブトキシシラン、ジフェニルジ−tert−ブトキシシラン、ジフェニルジフェノキシシラン、ジビニルトリメトキシシラン、γ−アミノプロピルトリメトキシシラン、γ−アミノプロピルトリエトキシシラン、γ−グリシドキシプロピルトリメトキシシラン、γ−グリシドキシプロピルトリエトキシシラン、γ−トリフルオロプロピルトリメトキシシラン、γ−トリフルオロプロピルトリエトキシシラン等が挙げられる。これらは1種又は2種以上を組み合わせて使用することができる。
【0019】
上記式(1)で表されるシラン化合物のうち好ましいものとしては、テトラメトキシシラン、テトラエトキシシラン、テトラ−n−プロポキシシラン、テトライソプロポキシシラン、テトラフェノキシシラン、メチルトリメトキシシラン、メチルトリエトキシシラン、メチルトリ−n−プロポキシシラン、メチルトリイソプロポキシシラン、エチルトリメトキシシラン、エチルトリエトキシシラン、ビニルトリメトキシシラン、ビニルトリエトキシシラン、フェニルトリメトキシシラン、フェニルトリエトキシシラン、ジメチルジメトキシシラン、ジメチルジエトキシシラン、ジエチルジメトキシシラン、ジエチルジエトキシシラン、ジフェニルジメトキシシラン、ジフェニルジエトキシシラン、トリメチルモノメトキシシラン、トリメチルモノエトキシシラン、トリエチルモノメトキシシラン、トリエチルモノエトキシシラン、トリフェニルモノメトキシシラン、トリフェニルモノエトキシシラン等が挙げられる。
【0020】
シロキサン樹脂の質量平均分子量は特に限定されないが、質量平均分子量(GPCによるポリスチレン換算質量。本明細書において同じ。)が300〜5000である低分子量のシロキサン樹脂を含むことが好ましい。このような低分子量のシロキサン樹脂をインプリント用膜形成組成物中に含有させることにより、含有させない場合と比較して、低いプレス圧力でモールドを樹脂層に押し込むことができる。この低分子量のシロキサン樹脂の質量平均分子量は、300〜3000であることがより好ましい。
シロキサン樹脂全体における上記低分子量のシロキサン樹脂の割合は、30質量%以上が好ましく、50質量%以上がより好ましく、特に好ましくは100質量%である。
【0021】
<有機溶剤>
本発明に係るインプリント用膜形成組成物に含有される有機溶剤としては、具体的には、メタノール、エタノール、プロパノール、n−ブタノール等のアルコール類;エチレングリコール、ジエチレングリコール、プロピレングリコール、ジプロピレングリコール等の多価アルコール類;アセトン、メチルエチルケトン、シクロヘキサノン、メチル−n−アミルケトン、メチルイソアミルケトン、2−ヘプタノン等のケトン類;エチレングリコールモノアセテート、ジエチレングリコールモノアセテート、プロピレングリコールモノアセテート、又はジプロピレングリコールモノアセテート等のエステル結合を有する化合物、上記多価アルコール類又は上記エステル結合を有する化合物のモノメチルエーテル、モノエチルエーテル、モノプロピルエーテル、モノブチルエーテル等のモノアルキルエーテル若しくはモノフェニルエーテル等のエーテル結合を有する化合物等の多価アルコール類の誘導体;ジオキサン等の環状エーテル類;乳酸メチル、乳酸エチル、酢酸メチル、酢酸エチル、酢酸ブチル、ピルビン酸メチル、ピルビン酸エチル、メトキシプロピオン酸メチル、エトキシプロピオン酸エチル等のエステル類;アニソール、エチルベンジルエーテル、クレジルメチルエーテル、ジフェニルエーテル、ジベンジルエーテル、フェネトール、ブチルフェニルエーテル、エチルベンゼン、ジエチルベンゼン、アミルベンゼン、イソプロピルベンゼン、トルエン、キシレン、シメン、メシチレン等の芳香族系有機溶剤等が挙げられる。これらは1種又は2種以上を組み合わせて使用することができる。
【0022】
特に本発明に係るインプリント用膜形成組成物には、大気圧における沸点が100〜200℃である特定溶剤が少なくとも含有される。このような特定溶剤をインプリント用膜形成組成物中に含有させることにより、含有させない場合と比較して、低いプレス圧力でモールドを樹脂層に押し込むことができる。このような特定溶剤のうち好ましいものとしては、n−ブタノール(沸点117℃)、プロピレングリコールモノメチルエーテル(沸点118℃)、プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート(沸点146℃)、プロピレングリコールモノプロピルエーテル(沸点150℃)、乳酸エチル(沸点154℃)、3−メトキシブチルアセテート(沸点171℃)、ジエチレングリコールジエチルエーテル(沸点185℃)等が挙げられる。この特定溶剤の沸点は、110〜190℃であることがより好ましい。
有機溶剤全体における上記特定溶剤の割合は、30質量%以上が好ましく、50質量%以上がより好ましく、特に好ましくは70質量%以上である。
【0023】
有機溶剤の含有量は、特に限定されないが、樹脂としてシロキサン樹脂を用いる場合、シロキサン樹脂の濃度(SiO換算)が0.1〜40質量%となる量が好ましく、0.5〜30質量%となる量がより好ましい。
【0024】
<その他の成分>
本発明に係るインプリント用膜形成組成物には、必要に応じて界面活性剤が含有されていてもよい。界面活性剤を含有することにより、モールドの形状の転写性が良好なものとなる。界面活性剤としては、特に限定されず、公知の成分を用いることができる。
なお、本発明に係るインプリント用膜形成組成物を光インプリント技術に用いる場合には、樹脂及び有機溶剤に加えて、光重合開始剤等が含有される。
【0025】
≪構造体の製造方法≫
本発明に係る構造体の製造方法は、本発明に係るインプリント用膜形成組成物を基体上に塗布して樹脂層を形成する工程と、樹脂層にモールドを押し付ける工程と、樹脂層からモールドを剥離する工程と、を含むものである。特に、インプリント用膜形成組成物には、大気圧における沸点が100〜200℃である特定溶剤が少なくとも含有される。
【0026】
先ず、基体上に本発明に係るインプリント用膜形成組成物をスピンコート法等により塗布し、樹脂層を形成する。樹脂層の膜厚は、製造する構造体の種類にもよるが、例えば10nm〜5μm程度が好ましい。
また、基体としては、特に限定されず、例えば、シリコン、銅、クロム、鉄、アルミニウム等の金属からなる基板やガラス基板、或いはこれらに所定の配線パターンが形成されたものを用いることができる。また、これらの基板に有機層や無機層が形成されたものを用いてもよい。
【0027】
次に、基体上に形成された樹脂層に所定形状のモールドを押し付け、モールドの形状を樹脂層に転写する。この際、インプリント用膜形成組成物には大気圧における沸点が100〜200℃である特定溶剤が含有されているため、低いプレス圧力でモールドを押し込むことができる。なお、必ずしもモールドの凸部の先端が樹脂層の最下部に達するまでモールドを押し付ける必要はない。言い換えれば、モールドの形状が転写された樹脂層の下部に、モールドの形状が転写されていない樹脂層が残膜として残っていてもよい。この場合、樹脂層の残膜の上部において構造体が形成されていることになる。
【0028】
本発明に係るインプリント用膜形成組成物を室温インプリント技術に用いる場合、モールドのプレス圧力は、1〜50MPa程度である。これに対して、従来の室温インプリント技術においては、特にシロキサン樹脂を用いた場合には通常50MPa以上のプレス圧力が必要であった。また、プレス時間は、樹脂層の厚さにもよるが、10〜120秒程度である。
【0029】
本発明に係るインプリント用膜形成組成物を室温インプリント技術に用いる場合、このようにモールドを押し付けた状態で所定時間プレスすることにより、樹脂層に転写されたモールドの形状をより維持することができる。特にシロキサン樹脂を用いた場合にはこの効果が大きい。
また、本発明に係るインプリント用膜形成組成物を光インプリント技術に用いる場合、このようにモールドを押し付けた状態で樹脂層に光が照射され、樹脂層の形状が硬化する。
【0030】
その後、樹脂層からモールドを剥離する。この結果、モールドの形状が転写された構造体が基体上に形成される。
【0031】
なお、上記のモールドの形状が転写された樹脂層を加熱及び/又は焼成し、さらに硬化させることも可能である。また、加熱温度等を変化させることにより、モールドの形状が転写された樹脂層をフローさせ、他の形状に変化させることも可能である。この加熱及び/又は焼成は、モールドを剥離する前に行ってもよい。
【0032】
このようにして、モールドの形状が転写された構造体を基体上に形成することができる。形成された構造体は、基体をエッチング加工する際のレジストとしてのみならず、CMOSセンサーにおける極小レンズ等としても利用し得る。すなわち、本発明では、モールドの形状を変えることにより、様々な形状の構造体を製造することができる。
【実施例】
【0033】
次に、本発明を実施例に基づいてさらに詳細に説明するが、本発明はこれに限定されるものではない。
【0034】
<実施例1>
下記式(2)で表されるシルセスキオキサン樹脂(質量平均分子量:1200、n:m=1:1(モル比))を用い、この樹脂の濃度(SiO換算)が3質量%となるようにプロピレングリコールモノプロピルエーテル(沸点150℃)で調整し、インプリント用膜形成組成物を得た。
【0035】
【化2】

【0036】
<実施例2〜4、比較例1,2>
プロピレングリコールモノプロピルエーテルの代わりに表1に記載の有機溶剤を用いたほかは、実施例1と同様にしてインプリント用膜形成組成物を得た。
【0037】
<実施例5>
下記式(3)で表される構成単位からなるシルセスキオキサン樹脂(質量平均分子量:6500)を用い、この樹脂の濃度(SiO換算)が3質量%となるようにプロピレングリコールモノプロピルエーテル(沸点150℃)で調整し、インプリント用膜形成組成物を得た。
【0038】
【化3】

【0039】
<実施例6,7、比較例3,4>
プロピレングリコールモノプロピルエーテルの代わりに表2に記載の有機溶剤を用いたほかは、実施例5と同様にしてインプリント用膜形成組成物を得た。
【0040】
[評価1]
実施例1〜7、比較例1〜4のインプリント用膜形成組成物をシリコン基板表面上にスピンコート法にて塗布し、膜厚100〜150nmの樹脂層を得た。樹脂層を乾燥や硬化することなく、ナノインプリンター NM−0401(明昌機工社製)を用いて、樹脂層に対してモールド(凸型ドットパターン、ドット直径150nm、ドット高さ300nm)をプレス圧力20MPa(2kNの荷重)にて室温(25℃)で60秒間押し付けた。その後、モールドを剥離することにより、基板上にパターン状の構造体を形成した。
【0041】
得られた構造体を走査型電子顕微鏡(SEM)により観察したところ、実施例1〜7のインプリント用膜形成組成物を用いた場合には、高精度のパターンが基板上に再現されていた。実施例1,2、比較例2のインプリント用膜形成組成物を用いたときの構造体のSEM像をそれぞれ図1(a)〜(c)に示す。また、実施例5,6、比較例4のインプリント用膜形成組成物を用いたときの構造体のSEM像をそれぞれ図2(a)〜(c)に示す。
【0042】
また、実施例1〜7、比較例1〜4のインプリント用膜形成組成物を用いたときの残膜率を表1,2に示す。ここで残膜率とは、樹脂層の元々の膜厚に対する、モールドの形状が転写されていない部分の樹脂層の膜厚の割合のことである。例えば、100nmの膜厚の樹脂層に対して70nm(70%)の深さまでモールドを押し込んだ場合、残膜率は30%となる。なお、表1の数値は比較例2の残膜率を100としたときの相対値であり、表2の数値は比較例4の残膜率を100としたときの相対値である。
【0043】
【表1】

【0044】
【表2】

【0045】
表1,2から分かるように、有機溶剤の沸点が高くなるにつれて残膜率が低下しており、特に実施例1〜7のインプリント用膜形成組成物を用いた場合には、比較例1〜4のインプリント用膜形成組成物を用いた場合よりも残膜率が顕著に低下していた。また、実施例1〜4のように低分子量のシロキサン樹脂(質量平均分子量:1200)を用いた場合には、実施例5〜7のシロキサン樹脂(質量平均分子量:6500)を用いた場合よりも残膜率が低下していた。
【0046】
[評価2]
実施例1のインプリント用膜形成組成物をシリコン基板表面上にスピンコート法にて塗布し、膜厚150nmの樹脂層を得た。樹脂層を乾燥や硬化することなく、ナノインプリンター NM−0401(明昌機工社製)を用いて、樹脂層に対してモールド(凸型ドットパターン、ドット直径150nm、ドット高さ300nm)をプレス圧力1MPa(100Nの荷重)にて室温(25℃)で60秒間押し付けた。その後、モールドを剥離することにより、基板上にパターン状の構造体を形成した。
【0047】
得られた構造体を走査型電子顕微鏡(SEM)により観察したところ、図3に示すように、高精度のパターンが基板上に再現されていた。特に、光インプリント技術と同等の1MPaという低圧力で、残膜率30%を達成することができた。
【図面の簡単な説明】
【0048】
【図1】実施例1,2、比較例2のインプリント用膜形成組成物を用いてプレス圧力20MPaでモールドを押し付けたときの構造体のSEM像を示す図である。
【図2】実施例5,6、比較例4のインプリント用膜形成組成物を用いてプレス圧力20MPaでモールドを押し付けたときの構造体のSEM像を示す図である。
【図3】実施例1のインプリント用膜形成組成物を用いてプレス圧力1MPaでモールドを押し付けたときの構造体のSEM像を示す図である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
基体上に塗布し、モールドを押し付けて構造体を形成するためのインプリント用膜形成組成物において、
樹脂と、有機溶剤とを含有し、
前記有機溶剤が、大気圧における沸点が100〜200℃である特定溶剤を含むことを特徴とするインプリント用膜形成組成物。
【請求項2】
前記有機溶剤全体における前記特定溶剤の割合が30質量%以上であることを特徴とする請求項1記載のインプリント用膜形成組成物。
【請求項3】
前記樹脂がシロキサン樹脂であることを特徴とする請求項1又は2記載のインプリント用膜形成組成物。
【請求項4】
前記シロキサン樹脂が質量平均分子量300〜5000の低分子量のシロキサン樹脂を含むことを特徴とする請求項3記載のインプリント用膜形成組成物。
【請求項5】
前記低分子量のシロキサン樹脂が質量平均分子量300〜3000であることを特徴とする請求項4記載のインプリント用膜形成組成物。
【請求項6】
前記シロキサン樹脂全体における前記低分子量のシロキサン樹脂の割合が30質量%以上であることを特徴とする請求項4又は5記載のインプリント用膜形成組成物。
【請求項7】
請求項1から6のいずれか1項記載のインプリント用膜形成組成物を基体上に塗布して樹脂層を形成する工程と、
前記樹脂層にモールドを押し付ける工程と、
前記樹脂層から前記モールドを剥離する工程と、を含むことを特徴とする構造体の製造方法。
【請求項8】
前記樹脂層に前記モールドを押し付けた状態で該樹脂層を硬化させることを特徴とする請求項7記載の構造体の製造方法。
【請求項9】
請求項7又は8記載の構造体の製造方法により得られた構造体。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2009−166414(P2009−166414A)
【公開日】平成21年7月30日(2009.7.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−8968(P2008−8968)
【出願日】平成20年1月18日(2008.1.18)
【出願人】(000220239)東京応化工業株式会社 (1,407)
【Fターム(参考)】