説明

エネルギ緩衝駆動の制御方法

【課題】
熱機関がフライホイールと無段変速機の入力軸へ連動した駆動系において、熱機関が間歇的にフライホイールを再加速回転させてゆく条件を求める。
【解決手段】
熱機関の回転エネルギをフライホイールへ間歇的に蓄積しながら車両走行を行う状態と、その蓄積したエネルギのみによって車両走行を行う状態とを交互に行うエネルギ緩衝駆動装置を使用し、フライホイールの回転エネルギのみによって車両走行を行っていることによって、フライホイールの回転速度が減速してゆく過程において、再度、熱機関がフライホイールへ回転エネルギを補給し始める時点の判定は、1)無段変速機における入力軸の回転速度N1と出力軸の回転速度N2との速度比e=N2/N1が常に最大許容速度比ecより小である条件と、2)熱機関が再びエネルギを供給し始める時点において、熱機関の出力動力が動力伝達系への要求動力よりも大になっている条件の両条件から求める。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、無段変速機の入力軸へフライホイールを連動した駆動系において、熱機関が入力軸とフライホイールへ出力動力を補給しながら熱機関から必要なエネルギ分を無段変速機の出力軸へ取り出す作用と、フライホイールへ補給した回転エネルギのみから必要なエネルギ分を無段変速機の出力軸へ取り出す作用とを交互に行って車両を走行させるエネルギ緩衝駆動の制御方法に関する。
そのうち特に、本発明は、フライホイールの回転エネルギのみによって車両を駆動していることによって、フライホイールの回転速度が減速してゆく過程において、再度、熱機関がフライホイールへ回転エネルギを補給し始める時点の判定に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、この種のエネルギ緩衝駆動の方式として特開2006−290330号(特許文献1)がある。
特許文献1における作用は、エンジンを燃費率の良い領域において間歇的に作動させ、エンジンからのその間歇的出力動力を機械的にフライホイールへ回転エネルギとして短時間蓄積しながら車両走行する作用と、フライホイールへ蓄積した回転エネルギのみからその車両走行を行う作用とを交互に行うものである。
【0003】
そのように車両走行を行う方法は、無段変速機の出力軸への要求動力を指示し、その要求動力の指示に従ってエンジンあるいはフライホイールから動力を取り出す。
その場合、エンジンの作動を停止し、フライホイールの回転エネルギのみから動力を取り出している状態においては、その動力取り出しによってフライホイールにおける回転エネルギが減少してゆき、フライホイールの回転速度は減速して行く。
【0004】
そのようにフライホイールが減速してゆくと、何時の時点かにおいてフライホイールへエンジンからの動力を再補給しなければならない。
すなわち、特許文献1は、フライホイールが減速してゆき、再度、フライホイールへエンジンからの動力を補給すべき時点の「フライホイール下限回転速度」を判定する制御について説明している。
【0005】
そのフライホイール下限回転速度の判定は下記のようになっている。
フライホイールのみから無段変速機を介して出力軸へ動力を取り出してゆくことによって、フライホイールが減速してゆき、フライホイールが上記フライホイール下限回転速度に達した時、再びエンジンがフライホイールへ動力を補給し始める時点におけるエンジンの回転速度は、そのフライホイール下限回転速度と同期する回転速度になっていなければならない。
【0006】
更に、エンジンからフライホイールへ動力を補給開始する時点において、エンジンから無段変速機を介して出力軸に生じるエンジンからの動力の値が、上記指示している要求動力の値よりも僅かに大きな値となるように制御している。
それは、エンジンから無段変速機を介して出力軸に出現するエンジンの動力から上記出力軸への要求動力を差し引いた動力がフライホイールを増速する動力となるからである。
【0007】
逆に言うと、エンジンからフライホイールへ動力を補給開始する時点において、もし、エンジンから無段変速機を介して出力軸に出現するエンジンの動力が上記出力軸への要求動力より不足しているならば、その不足している動力分はフライホイールの回転エネルギを使用してしまうことになり、フライホイールは更に減速してしまうことになる。
【0008】
そのような上記制御を行う場合、上記フライホイール下限回転速度は要求動力の低下にほぼ比例して低下する関係になっている。
すなわち、アクセルペダル踏込み量に比例した上記要求動力が小さい状態においてフライホイールが上記下限回転速度に達した時、エンジンがフライホイールへ動力を補給し始めるエンジンの回転速度は、エンジンの経済燃費特性線上の低速回転側になる。
【特許文献1】特開2006−290330号公報
【非特許文献1】石原智男編、油圧工学、朝倉書店、昭和43年版
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
上記のように、アクセルペダルからの要求動力を低めの状態に設定している状態において、フライホイールが上記下限回転速度に達した時、エンジンが最良の燃費率となる領域を作動する状態を維持させながら、エンジンが低回転状態においてフライホイールへ動力を補給し始めることは、無段変速機の速度比を非常に大きくしてしまい、その最大速度比は3.0程度迄に達する場合がある。
なお、ここで言う速度比eは、無段変速機における入力軸回転速度N1と出力軸回転速度N2との比e=N2/N1である。
【0010】
実用上、動力伝達効率等の問題から単一の無段変速機における最大速度比eは最大1.5程度である。
従って、上記特許文献1のようにエンジンの作動を常に燃費率最良の状態に作動させる制御を行うときは、無段変速機の前あるいは後へ更に補助変速機を直列に付加して使用可能な変速範囲を広げる必要が生ずる。
そのように無段変速機と補助変速機を直列にした駆動系は、駆動系全体の重量も大になり且つその駆動系の占める空間容積も大になり、更にその変速制御を複雑にしてしまう。
【0011】
本発明の目的は、フライホイールから駆動輪へ到る駆動系に介設する無段変速機が単一のものであって、その駆動系に何らの補助変速機を付加する必要もなく、且つその駆動系がエンジンの目的とする制御線上を理想的に作動させることが出来るエネルギ緩衝駆動の制御方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明のエネルギ緩衝駆動の制御方法に使用するエネルギ緩衝駆動装置は下記のようになっている。
熱機関(1)はフライホイール(3)と入力軸(4a)に連動し、前記入力軸は無段変速機(400、401、402)および出力軸(6)を介して車両の駆動輪(6B)へ連動している。
【0013】
前記熱機関(1)は、該熱機関における回転速度の上昇と共に出力動力が上昇する関係の制御線(Fec)を有し、且つ前記熱機関は供給燃料の制御によって前記制御線上を作動する。
前記車両の駆動は、アクセルペダルの踏み込みによるその踏込み量が前記入力軸(4a)から前記出力軸(6)までの動力伝達系への要求動力P1iを指示する関係になっている。
制御装置(7,700)には、前記熱機関における前記制御線(Fec)上においての出力動力Peと回転速度Neとの関係を記憶させておく。
【0014】
そのようなエネルギ緩衝駆動装置における制御は下記のようになっている。
前記制御装置(7,700)は、
a)前記フライホイール(3)の回転エネルギのみが前記入力軸(4a)への動力供給源となる作用と、
b)前記熱機関(1)が前記制御線(Fec)上を作動して前記フライホイール(3)の回転加速を行いながら前記入力軸(4a)への動力供給源となる作用、
との前記a)あるいは前記b)の作用を交互に制御する。
【0015】
又、前記制御装置は、前記a)および前記b)の制御において、
前記入力軸(4a)における現時点の回転角速度ω1と前記要求動力P1iから、T1i=P1i/ω1の関係を使用して、前記入力軸における指示トルクT1iを演算する。
更に、前記無段変速機の変速によるトルク制御によって前記入力軸に前記指示トルクT1iに相当する実のトルクT1を発生させる。
且つ、その発生させた実のトルクT1は前記無段変速機における前記変速によって前記出力軸(6)のトルクT2にトルク変換し、その変換したトルクT2が前記駆動輪(6B)を駆動する。
【0016】
そのような前記制御装置が前記a)の作用を行う制御によって、前記入力軸の回転速度N1が減少し続けている状態の制御において、
前記制御装置は、
第1の判定として、現時点における前記出力軸における回転速度をN2とし、前記無段変速機における速度比e=N2/N1の最大許容速度比をecとし、N1ce=N2/ecの関係から一方の下限回転速度N1ceを求める。
【0017】
更に、前記制御装置は、
第2の判定として、前記制御線(Fec)上における前記熱機関の出力動力Peと回転速度Neとの関係から、前記熱機関における出力動力が現時点における前記要求動力P1iの値ないしは現時点における前記要求動力P1iに所定の動力ΔP1iを付加した値と等しくなる状態の前記熱機関の回転速度Ne=Necを求め、且つ、その求めた回転速度Necの状態にある前記熱機関が前記入力軸を駆動していると仮定した場合における前記入力軸における回転速度N1caを求め、そのN1caを前記入力軸における他方の下限回転速度N1caとする演算を行う。
【0018】
且つ、前記制御装置は、前記N1ceと前記N1caのうち、大なる値を真の下限回転速度N1cとし、
前記回転速度N1が減少し続けて、その回転速度N1が前記真の下限回転速度N1cに達した時、前記熱機関を再始動させて、前記熱機関(1)の動力を前記フライホイールと前記入力軸へ補給開始する。
【発明の効果】
【0019】
車両がフライホイール3の回転エネルギのみによって走行することによって、フライホイール3の回転エネルギが消耗してゆき、その結果、フライホイール3と共に入力軸4aの回転速度が減速してゆく場合において、本発明における制御は、
1)上記第1の判定による無段変速機400の速度比eを常に最大許容速度比ec以下とする条件と、
2)上記第2の判定による熱機関1からフライホイール3と入力軸4aへの動力補給開始時に、フライホイール3が増速可能になる条件、
の両者を満足させる状態に、熱機関1からフライホイール3と入力軸4aへ動力補給している。
【0020】
その結果、本発明におけるエネルギ緩衝駆動の制御方法は、上記動力補給時において上記2)の条件を満足させながら、無段変速機400の速度比eを常に動力伝達効率の優れた最大許容速度比ec以下において使用することを可能にしている。
そのことは、無段変速機400に補助変速機を必要とせず、駆動系全体を簡略にし、且つ駆動系における制御の複雑化を防ぎ、駆動系の重量化も防ぐことが可能になる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0021】
本発明のエネルギ緩衝駆動の制御方法に使用するエネルギ緩衝駆動装置は下記のようになっている。
熱機関(1)はフライホイール(3)と入力軸(4a)に連動し、前記入力軸は無段変速機(402)および出力軸(6)を介して車両の駆動輪(6B)へ連動している。
前記無段変速機(402)は、差動歯車(41)における3軸のうち、一軸が前記入力軸(4a)に連動し、他の一軸がジェネレーターモーター(40)に連動し、残る他の一軸が前記出力軸(6)に連動し、前記ジェネレーターモーター(40)において発生した電力の全てが原則としてモータージェネレーター(5)に送電される関係にあり、前記モータージェネレーター(5)は前記出力軸(6)に連動している。
【0022】
前記熱機関(1)は回転速度の上昇と共に出力動力が上昇する関係の制御線(Fec)を有し、且つ前記熱機関は供給燃料の制御によって前記制御線上を作動する。
前記車両の駆動は、アクセルペダルの踏み込みによるその踏込み量が前記入力軸(4a)から前記出力軸(6)までの動力伝達系への要求動力P1iを指示する関係になっている。
制御装置(7)には、前記熱機関における前記制御線(Fec)上においての出力動力Peと回転速度Neとの関係を記憶させておく。
【0023】
そのようなエネルギ緩衝駆動装置における制御は下記のようになっている。
前記制御装置(7)は、
a)前記フライホイール(3)の回転エネルギのみが前記入力軸(4a)への動力供給源となる作用と、
b)前記熱機関(1)が前記制御線(Fec)上を作動して前記フライホイール(3)の回転加速を行いながら前記入力軸(4a)への動力供給源となる作用、
との前記a)あるいは前記b)の作用を交互に制御する。
【0024】
又、前記制御装置は、前記a)および前記b)の制御において、
前記入力軸(4a)における現時点の回転角速度ω1と前記要求動力P1iから、T1i=P1i/ω1の関係を使用して、前記入力軸における指示トルクT1iを演算する。
更に、前記ジェネレーターモーター(40)におけるトルク制御によって前記入力軸に前記指示トルクT1iに相当する実のトルクT1を発生させる。
且つ、その発生させた実のトルクT1は、前記トルク制御によって生ずる前記無段変速機の変速によって前記出力軸(6)のトルクT2にトルク変換し、その変換したトルクT2が前記駆動輪(6B)を駆動する。
【0025】
そのような前記制御装置が前記a)の作用を行う制御によって、前記入力軸の回転速度N1が減少し続けている状態の制御において、
前記制御装置は、
第1の判定として、現時点における前記出力軸における回転速度をN2とし、前記無段変速機における速度比e=N2/N1の最大許容速度比をecとし、N1ce=N2/ecの関係から一方の下限回転速度N1ceを求める。
【0026】
更に、前記制御装置は、
第2の判定として、前記制御線(Fec)上における前記熱機関の出力動力Peと回転速度Neとの関係から、前記熱機関における出力動力が現時点の前記要求動力P1iの値ないしは現時点における前記要求動力P1iに所定の動力ΔP1iを付加した値と等しくなる状態の前記熱機関における回転速度Ne=Necを求め、且つ、その求めた回転速度Necの状態にある前記熱機関が前記入力軸を駆動していると仮定した場合における前記入力軸における回転速度N1caを求め、そのN1caを前記入力軸における他方の下限回転速度N1caとする演算を行う。
【0027】
且つ、前記制御装置は、前記N1ceと前記N1caのうち、大なる値を真の下限回転速度N1cとし、
前記回転速度N1が減少し続けて、その回転速度N1が前記真の下限回転速度N1cに達した時、前記熱機関を再始動させて、前記熱機関(1)の動力を前記フライホイールと前記入力軸へ補給開始する。
又、前記最大許容速度比ecは、前記差動歯車における前記反力軸を拘束した場合における前記速度比である。
【実施例】
【0028】
「エネルギ緩衝駆動装置(図1)の機構」:
図1は、本発明のエネルギ緩衝駆動の制御に使用するエネルギ緩衝駆動装置の一例である。
図1において、熱機関の一例として使用のガソリンエンジン1(以降、単にエンジン1と呼ぶ)は、駆動軸1a、クラッチ2、駆動軸2aおよび変速機2Aを介して駆動軸2bに「連動」している。
なお、上記「連動」は、動力が歯車、駆動軸、ベルトあるいはクランク等を介して動力伝達してゆく経路を形成していることを意味している。従って、その最も単純な「連動」は単一の駆動軸を介して動力の流れが直結している動力伝達経路となる。
【0029】
駆動軸2bは歯車3a,3b,3cおよび3dからなる増速機3Aを介してフライホイール3に連動している。又、駆動軸2bは変速機400A、入力軸4a、無段変速機400、出力軸6および終減速機6Aを介して車両の駆動輪6B、6Bに連動している。
なお、歯車3bおよび3cは同一駆動軸に直結して一体回転する構造である。
700は、制御線700aあるいは700b等を介して無段変速機400の速度比、エンジン1、クラッチ2等の制御を行い、且つ各回転している駆動軸等の回転速度や回転角速度を検出する制御装置である。
又、制御線700aおよび700bは、電力線や複数の信号線を含めて単一の線によって表現している。
【0030】
なお、図1において、変速機2Aは割愛して駆動軸2aと駆動軸2bが直結した駆動軸となっていても良い。又、変速機400Aも割愛して駆動軸2bと入力軸4aが直結した駆動軸となっていても良い。更に、増速機3Aも割愛してフライホイール3が駆動軸2bに直結していてもよい。変速機2Aおよび400Aと増速機3Aは一般論として設けているものである。
以上が図1におけるエネルギ緩衝駆動装置の機構である。
【0031】
「エンジン1の特性」:
図1におけるエンジン1の一般的特性について図2を使用して説明する。
図2における横軸はエンジン1の回転速度Ne〔r p m〕であり、その縦軸はエンジン1の出力トルクTe 〔N・m 〕である。
図2における経済燃費特性線Fecは、エンジン1が出力動力一定に作動する任意の出力動力〔kW〕ごとに単位時間当たりにおけるエンジン1の燃料消費質量〔gr〕が最良になる特性であって、実測によって求めることが出来る。又、その経済燃費特性線Fecの一般的特性は、例えば特開2001−298805号の図4のように公知である。
【0032】
図2において、θmは、エンジン1のスロットル開度が最大となってエンジン1への燃料供給量が最大となっている状態のエンジン1における最大出力トルク特性を示し、最大スロットル開度θm以下における各スロットル開度θ一定の特性はθc,θlおよびθxの順に小さくなっている。
【0033】
図2において、2点破線表示の特性Pem,Pec,PelおよびPexのそれぞれはエンジン1の出力動力一定の特性を示し、その出力動力の大きさは最大出力動力Pemから順次、Pec、PelおよびPexの側に向かって出力動力が小さくなる。
又、点線表示の燃費率(単位出力動力、単位時間当たりの使用燃料質量)〔gr/kW・h〕一定の特性feo,fel,fexは、一般的にfeoから外側に遠ざかるに従って燃費率が悪くなる特性を示している。
【0034】
このようなガソリンエンジンにおける図2の特性は、回転速度、出力トルクおよび燃料供給量との関係において、ディーゼルエンジンも同様の特性となっている。
従って、図1におけるエンジン1はディーゼルエンジンであってもよい。但し、上記ガソリンエンジン1の場合における燃料供給量の調整がスロットル開度θの調整によっていることに対して、ディーゼルエンジンの場合は、直接、エンジンシリンダへの燃料供給量の調整によっている。
以上がエンジン1の一般的な特性である。
【0035】
以下、図1におけるエネルギ緩衝駆動装置の作用を説明する。
「車両始動態勢の設定」:
車両が始動発進する前の状態において、制御装置700は無段変速機400の速度比eを零に設定し、且つ入力軸4aの負荷を零にしておく。なお、上記速度比eは入力軸4aの回転速度N1と出力軸6の回転速度N2との比e=N2/N1である。
入力軸4aの負荷を零にしておく方法は、例えば無段変速機400内に電磁クラッチ等を設けて車両の停止時にそのクラッチを切り離し、入力軸4 aの動力が出力軸6へ伝達しないようにしておく等、種々の公知の方法が有る。又、その一例は後述する図5および図6において説明する。
【0036】
上記速度比e=0の状態において、車両の発進をするために始動スイッチ(あるいはスイッチキー)をオンにすると、車両の前後進を設定するシフトレバーによるポジション設定やサイドブレーキの解除を行う間に、制御装置700はエンジン1をアイドリング状態に駆動し、且つその間にクラッチ2を係合させてゆく。
そのようにクラッチ2を係合させてゆきながら、制御装置700はエンジン1のスロットル開度θを制御してゆく。
【0037】
クラッチ2を係合させてゆく初期段階において、エンジン1は上記アイドリング状態にあり、クラッチ2を係合させてゆくと共に、制御装置700はエンジン1のスロットル開度θを増大させてゆく。
そのスロットル開度θの増大は、図2においてスロットル開度θとその時点におけるエンジン1の回転速度N eが常に経済燃費特性線Fec上に一致する状態にスロットル開度θを大きくしてゆく。
【0038】
このようにエンジン1が、駆動軸1a、クラッチ2、駆動軸2a、変速機2A、駆動軸2bおよび増速機3Aを介してフライホイール3を加速駆動している場合において、駆動軸2bが増速機3Aを介してフライホイール3のみを加速駆動する成分の駆動軸2bにおけるトルクをTfiとし、増速機3Aにおける増速比をi1とし、歯車3dがフライホイール3を回転加速させるトルクをT fとすると、
Tfi=i1×T f (1)
の関係が存在する。
【0039】
又、歯車3dのトルクT fによってフライホイール3が回転加速する関係は、
T f = I f ×(d ωf/dt) (2)
である。なお、I fはフライホイール3の慣性モーメントであり、(d ωf/dt)はフライホイール3の回転角加速度である。
(1)および(2)式より、
Tfi=If×i1×(dωf/dt) (3)
となる。
【0040】
すなわち、車両の始動発進時における入力軸4aの負荷を零にしている状態において、エンジン1が駆動軸1a、クラッチ2、駆動軸2aおよび変速機2Aを介して駆動軸2bを駆動すると、駆動軸2bには(3)式のトルクT f iが生じフライホイール3が回転加速してゆく。
又、上記場合において、図1から理解出来るように、駆動軸2bに生じたトルクTfiとエンジン1に生じるトルクTeは、駆動軸1a、クラッチ2、駆動軸2aおよび変速機2Aを介した一定のトルク比関係にある。言い換えれば、駆動軸2bにトルクTfiが生じればエンジン1にはそのトルクT f iに比例したトルクT eが生ずることになる。
【0041】
そのようにスロットル開度θを増大させてゆくことによって、エンジン1がフライホイール3を回転加速させてゆく場合、現時点におけるエンジン1の回転速度Neが図2におけるNe=Necであったならば、制御装置700はその時点におけるスロットル開度θをθ=θcに一致する状態に制御してゆくことになり、且つその時点においてエンジン1に生じているトルクは図2におけるTecの値になっている。
【0042】
このように、エンジン1が経済燃費特性線Fec上を作動してゆき、フライホイール3の回転速度が所定の回転速度に達した時点において、エンジン1は例えば経済燃費特性線Fec上のPu点に達し、その時点において制御装置700はエンジン1への燃料供給を一旦停止し、クラッチ2を切り離す。
なお、上記フライホイール3が所定の回転速度に達したことは、駆動軸2aから変速機2A、駆動軸2bおよび変速機400Aを介して入力軸4aに到るまでの駆動系のいずれかの回転部分の回転速度を検出することによって確認出来る。
【0043】
又、上述のように車両始動態勢を設定するためにフライホイール3を所定の回転速度に設定する方法としては、駆動軸2bにモータージェネレーターを付設しておき、クラッチ2を切り離した状態において、そのモータージェネレーターが駆動軸2b、歯車3a、3b、3cおよび3dを介してフライホイール3を所定の回転速度まで増速するようにしてもよい。
以上が車両始動態勢設定の作用説明である。
【0044】
〔アクセルペダル踏み込みによる車両駆動指示の説明〕:
車両運転の際は、運転者が操作するアクセルペダルの踏み込みによって車両走行に必要な供給動力を調整している。
その場合、本発明においては、後述するように、a)フライホイール3の回転エネルギのみによって車両を駆動する場合と、b)エンジン1がフライホイール3を回転加速させながら入力軸4aを駆動して車両を駆動する場合の両作用がある。
その両作用の場合において、アクセルペダルの踏み込み量と車両走行に必要な供給動力との関係は下記のようになっている。
【0045】
本実施例において、アクセルペダル踏込み量は入力軸4aへ動力P1〔kW〕の発生を要求する指令値(以下、要求動力P1iと呼ぶ)となっている。
又、その指令値が0から所定の指令値までの範囲において、その指令値が該所定の値であるとき、その指令値における入力軸4aへの要求動力P1iは図2のPemの値に相当している。
【0046】
なお、Pemは、エンジン1の経済燃費特性線Fec上における最大動力の値である。
ここで、アクセルペダル踏み込みが入力軸4aへの要求動力P1iを指令し、且つその要求動力P1iが該所定の指令値であるときP1i=Pemに相当していることは、その要求動力P1i=Pemが無段変速機400、出力軸6および終減速機6Aを介して駆動輪6B、6Bへ持続して出力し続けることが出来る最大動力の場合であることを意味している。
【0047】
それは、車両が走行するために必要な動力源はエンジン1であり、上述のようにエンジン1が出力可能な動力Peは0<Pe≦Pemであり、且つ該要求動力P 1iは、動力源であるエンジン1が出力し続けることが出来る動力の範囲に入っていなければならないからである。
【0048】
但し、アクセルペダル踏込み量を上記所定の指令値以上に設定することも可能である。それは、図1の駆動軸2bへモータージェネレーターを付設し,図示していない蓄電装置からそのモータージェネレーターへ電力を供給し、そのモータージェネレーターがモーター作用を行うことによって、エンジン1の動力に加え該蓄電装置から電気動力を補給出来るからである。
【0049】
このように、入力軸4aに要求動力P1iを指示すると、制御装置700は入力軸4aにおける回転角速度ω1を検出する。
ここで入力軸4aに生ずる実の動力P1は、入力軸4aに生ずる実のトルクT1と回転角速度ω1との積であるから、
T1=P1/ω1 (4)
の関係になり、アクセルペダル踏み込みによる入力軸4aへの要求動力P1iは、結果的に、アクセルペダル踏み込みが入力軸4aへトルクT1iを指示していることになる。
【0050】
それは、上記(4)式の説明において、入力軸4aに生ずる実の動力P1に替わって入力軸4aへの要求動力P1iを代入し、入力軸4aに生ずる実のトルクT1に替わって入力軸4aへの指示トルクT1iを代入すると、
T1i=P1i/ω1 (4a)
の関係にあるからである。
以上がアクセルペダル踏み込みによる車両駆動指示の説明である。
【0051】
〔 a)フライホイール3の回転エネルギのみによる車両走行〕:
車両始動態勢の設定が完了し、フライホイール3の回転速度が上記のように所定の回転速度に達しエンジン1の作動が停止した状態において車両を発進させる場合は、フライホイール3の回転エネルギのみによって車両を駆動する作用になる。
その場合、制御装置700は、上記のように(4a)式に従って入力軸4aに設定すべき指示トルクT1iを演算し、続いて無段変速機400の速度比e=N2/N1を制御して入力軸4aに実のトルクT1を生じさせてゆく。
なお、無段変速機400における速度比eの制御は、無段変速機の種類によって異なるが、無段変速機が駆動側のプーリーと従動側のプーリーにベルト掛け伝動した公知の方式においては、駆動側のプーリーと従動側のプーリーの駆動半径比を制御して行う方式がある。又、後述の図5および図6における方式は、発電電力量の制御によって速度比eの制御を行っている。
【0052】
その速度比eの変速制御は、車両の大きな質量を駆動している出力軸6に対して慣性モーメントの小さい側の入力軸4aの回転速度N1を経過時間と共に減少させることによって、入力軸4aに負の回転角加速度dω1/dtを生じさせる。その結果、その負の回転角加速度dω1/dtは変速機400A、歯車3a、3b、3cおよび3dを介してフライホイール3を減速させてゆく。
【0053】
そのようにフライホイール3を減速させてゆくことは、フライホイール3にも負の回転角加速度dωf/dtを生じさせることになる。このことは(2)式に従ってフライホイール3が歯車3dを駆動するトルクTfを発生させることになる。
フライホイール3に発生したそのトルクTfは増速機3Aおよび変速機400Aを介して入力軸4aにトルクT1を発生させる。
【0054】
その場合において、フライホイール3に生じているトルクTfとそのことによって入力軸4aに生ずるトルクT1との関係は、
T1=(i1/i2)×Tf (5)
となっている。
又、
ωf=(i1/i2)×ω1 (6)
の関係にある。
【0055】
但し、i2は変速機400Aにおける増速あるいは減速の比(N1/Ni)であり、Niは駆動軸2bにおける回転速度である。
更に、(2)(5)および(6)式より、
(dω1/dt)=T1/〔(i1/i2)
×(i1/i2)×If〕 (7)
を得る。
【0056】
すなわち、制御装置700は、アクセルペダル踏み込みによって指示した要求動力P1iを(4a)式に代入して指示トルクT1iを求め、且つその指示トルクT1iを(7)式におけるT1にT1=T1iとして代入し、入力軸4aの回転角加速度dω1/dtを演算する。
更に、制御装置700は、(7)式から求めたその回転角加速度dω1/dtになるように、無段変速機400における速度比e=N2/N1の変速速度de/dtを制御すれば、入力軸4aに実のトルクT1が生ずることになる。
【0057】
このように入力軸4aに実のトルクT1を生じさせたことは、上述のように入力軸4aにP1=T1×ω1の動力を発生させることになる。
すなわち、無段変速機400の速度比eの変速制御によって入力軸4aに実のトルクT1を生じさせることは、“無段変速機400の変速によるトルク制御によって入力軸4aに指示トルクT1iに相当する実のトルクT1を発生させたことになる”。
【0058】
ここで、無段変速機400の動力伝達効率をηとし、出力軸6における回転角速度をω2とし、出力軸6におけるトルクをT2とすると、T1×ω1×η=T2×ω2であるから、
T2=(1/e)×η×T1 (8)
の関係が存在する。なお、速度比e=ω2/ω1である。
又、(8)式における速度比eは、制御装置700が速度比eを制御することによって入力軸4aに実のトルクT1を生じさせている現時点の速度比eである。
すなわち、上記速度比eの制御によって(8)式の関係から生じた出力軸6のトルクT2が終減速機6Aを介して駆動輪6B、6Bを駆動することになる。
【0059】
上記のようにフライホイール3における回転エネルギのみによって駆動輪6B、6Bを駆動してゆくとフライホイール3の回転エネルギが消費され、フライホイール3の回転速度が減少してゆく。
又、フライホイール3と入力軸4aは一定の変速比をもった連動関係にあるから、フライホイール3が減速してゆくと入力軸4aも減速してゆく。
このように入力軸4aが減速してゆくその車両走行作用は、入力軸4aの回転速度N1が後述する下限回転速度N1cに達するまで続く。
以上がフライホイール3の回転エネルギのみによって車両を走行させる作用の説明である。
【0060】
「入力軸4aにおける下限回転速度の判定(第1の判定)」:
フライホイール3の回転エネルギのみによって車両を発進させ、アクセルペダルを踏込んでゆくと、一方において車速が増速して出力軸6の回転速度N2が上昇してゆき、他方において入力軸4aの回転速度N1が上記のように減速してゆく。
【0061】
このように一方においてN2が増大し他方においてN1が減少してゆくことは、無段変速機400における速度比e=N2/N1が増大してゆくことになる。
ここで、現実問題として動力伝達効率等の見地から、無段変速機400においては使用可能な最大許容速度比ecが存在する。
従って、無段変速機400の変速制御は常に速度比eがe≦ecの範囲に入るように制御することが望ましい。なお、後述するように、最大許容速度比ecの値は、無段変速機の具体的な種類によって異なる。
【0062】
上記使用可能な速度比eの範囲e=N2/N1≦ecを変形すると、
N1≧ N2/ec (9)
となる。
すなわち、入力軸4aの回転速度N1は常に(9)式を満たす関係に制御する必要がある。なお、(9)式における回転速度N2は、その制御時点において出力軸6の回転速度を検出すればよい。
【0063】
このようにフライホイール3の回転エネルギのみによって車両を駆動することによって、入力軸4aの回転速度N1が減速してゆく過程において、(9)式における入力軸4aの下限回転速度をN1=N1ceとすると、(9)式より、
N1ce=N2/ec (9a)
の関係になる。
制御装置700は、上記のように入力軸4aの回転速度N1が減速してゆく過程において、時々刻々、(9a)式を使用して入力軸4aにおける回転速度N1が下限回転速度N1ceに達したか否かの第1の判定を行っている。
【0064】
すなわち、入力軸4aの回転速度N1がN1=N1ceに達した時点において、エンジン1からの回転動力をフライホイール3へ補給してゆけば、常に(9)式の条件が満たされることになる。それは、フライホイール3へエンジン1の回転動力を補給すれば、フライホイール3に連動した入力軸4aの回転速度N1も増速するからである。
以上が、入力軸4aにおける下限回転速度の判定のうち、第1の判定の説明である。
【0065】
「入力軸4aの回転速度が減少してゆく時々刻々においてのエンジン1の動力と要求動力P1iとの大小比較(第2の判定)」:
上記第1の判定のみでは、未だ、フライホイール3と入力軸4aへエンジン1からの動力Peを補給開始すべきか否かの決定は出来ない。
上記第1の判定の結果、エンジン1が入力軸4aとフライホイール3へ動力を補給し始めた場合、仮に、その動力補給開始時点においてエンジン1の出力動力Peと要求動力P1iが、
P1i> Pe
の関係にあるときは、フライホイール3が増速せずに更に減速を続けてしまうことになる。
【0066】
それは、エンジン1が入力軸4aへ動力を供給し始める時点において、P1>Peであると、入力軸4aにおいては、P1−Pe=ΔPなる不足動力が生じてしまう。
そのように不足動力ΔPが生ずると、その不足動力ΔP分がフライホイール3の回転エネルギを消費してゆくことになる。
そのようなフライホイール3における回転エネルギの消費はフライホイール3の減速を来たし且つフライホイール3と連動している入力軸4aの回転速度N1をも減速させてしまう。
【0067】
従って、フライホイール3の減速と連動して入力軸4aの回転速度N1が減速してゆく場合、現時点において仮にエンジン1を駆動してフライホイール3と入力軸4aにエンジン1の動力を補給開始したとき、その時点におけるエンジン1の出力動力Peと要求動力P1iが
P1i≦Pe
の関係に有るか否かの第2の判定も必要になる。
すなわち、制御装置700は時々刻々において上記第1の判定と共に第2の判定を行う。
【0068】
第2の判定は、時々刻々に行うその判定時点ごとに、クラッチ2を係合して、エンジン1がフライホイール3と入力軸4aを駆動開始するものと仮想して判定を行う。
従って、その仮想状態におけるエンジン1が入力軸4aを駆動している状態においては、エンジン1における回転速度Neと入力軸4aにおける回転速度N1とは一定の連動関係にあり、且つ入力軸4aへの要求動力P1iとエンジン1の出力動力PeとはP1i≦Peの関係になければならない。
ここで、第2の判定に使用するエンジン1の経済燃費特性線Fecの特性について説明しておく。
【0069】
図2の経済燃費特性線Fec上において、エンジン1の出力動力Peと単位時間、単位出力動力当りの燃料消費質量(以下、燃費率と呼ぶ)f〔gr/kW・h〕は一般的に図3のようになっている。
図3における燃費率fは、Pel≦Pe≦Pemにおいて優れた値を示し、Pe<Pelにおいて燃費率が急速に悪くなる特性を示している。
そのような理由から、本実施例においては、エンジン1がフライホイール3と入力軸4aへ出力動力Peを補給している状態において、エンジン1の作動範囲は図2における経済燃費特性線Fec上のPel≦Pe≦Pemとなるようにしている。
【0070】
図4は、そのようにエンジン1が入力軸4aを駆動開始する状態、すなわちエンジン1における回転速度Neと入力軸4aにおける回転速度N1とが一定連動関係にある状態において、入力軸4aへの要求動力P1iとエンジン1の回転速度Neとの関係を示している。
図4において、横軸は入力軸4aへの要求動力P1iを示し、縦軸はエンジン1の回転速度Neを示している。
又、図4において、Pel≦P1i≦Pemの範囲における実線表示の特性部分は、横軸をP1i=Peと置いて、エンジン1が図2の経済燃費特性線Fec上を作動している状態におけるエンジン1の出力動力Pe(横軸)と回転速度Ne(縦軸)との関係になっている。すなわち、図4のPel≦P1i≦Pemにおいて、エンジン1の出力動力Peが任意のPecであるとき、エンジン1の回転速度がNecになる関係にあって、エンジン1が経済燃費特性線Fec上を作動することを示し、図4における点PlおよびPmは図2における点PlおよびPmに相当している。
【0071】
又、図4における0≦P1i≦Pelの範囲は、一点破線によって示すように、エンジン1の回転速度NeがNe=Nel一定となる関係になっている。
このことは、要求動力P1iが図4におけるPelよりも小である場合、下記手順1)においてエンジン1の出力動力PeはPe=Pel一定とし、その状態におけるエンジン1の回転速度NeがNe=Nel一定になると言うことである。
上記関係の図4における入力軸4aへの要求動力P1iとエンジン1の回転速度Neとの関係は制御装置700に記憶させておく。
【0072】
そのような経済燃費特性線Fecから求めた特性(図4)を使用して、第2の判定における手順は、
「Pel≦P1i≦Pemの場合」
手順1) 制御装置700に記憶させている要求動力P1iと回転速度Neとの関係(図4)から、エンジン1における出力動力Peが現時点における上記要求動力P1iと等しくなる状態のエンジン1における回転速度Ne=Necを求め、
手順2) 「その求めた回転速度Necの状態にあるエンジン1が入力軸4aを駆動していると仮定した場合」における入力軸4aの回転速度N1=N1caを求め、その回転速度N1caを第2の判定における下限回転速度N1caとする。
【0073】
「0≦P1i≦Pelの場合」
上記手順1)において、要求動力P1iが図4におけるPelよりも小である場合は、上記のように、エンジン1の出力動力PeをPe=Pel一定とし、その状態におけるエンジン1の回転速度NeはNe=Nel一定とする。
このことは、エンジン1がフライホイール3と入力軸4aへ動力Peを補給開始するとき、エンジン1の出力動力Peと要求動力P1iとの関係は、常にP1i<Peとなって、上述のように第2の判定条件を満足していることになる。又、そのことは、エンジン1がフライホイール3と入力軸4aへ動力Peを補給開始するとき、常に、経済燃費特性線Fecにおける燃費率の優れた部分のみを使用することを満足させている。
【0074】
又、上記手順2)において「その求めた回転速度Necの状態にあるエンジン1が入力軸4aを駆動していると仮定した場合」とは、図1の場合、クラッチ2を係合してエンジン1が駆動軸1a、クラッチ2、駆動軸2a、変速機2A、駆動軸2bおよび変速機400Aを介して入力軸4aを駆動すると仮定した場合である。
すなわち、その仮定した場合、図1において、駆動軸(エンジン出力軸)1aの回転速度Neと入力軸4aの回転速度N1との関係は、
Ne=N1/(ie×i2) (10)
となって一定の回転速度関係になっている。
なお、ieは駆動軸2aの回転速度によって駆動軸2bの回転速度を除した値の変速比であり、i2は駆動軸2bの回転速度によって入力軸4aの回転速度を除した値の変速比である。
【0075】
従って、上記手順2)のように「回転速度Necの状態にあるエンジン1が入力軸4aを駆動していると仮定した場合」における入力軸4aの回転速度N1をN1=N1caとすると、その状態におけるエンジン1の回転速度Neと入力軸4aの回転速度N1との関係は、(10)式において、Ne=NecおよびN1=N1caと置き、
Nec=N1ca/(ie×i2) (10a)
の関係になる。
【0076】
上記1)および2)の手順を逆に言えば、入力軸4aの回転速度N1が減速してゆき、その回転速度N1が上記N1caに達した時点において、エンジン1を再始動し、クラッチ2を係合してエンジン1と入力軸4aを連動関係に設定した場合、その時点において、エンジン1の回転速度は(10a)式におけるNecの値になっており、且つエンジン1の出力動力PeはPe=P1iとなっていることになる。
但しその場合において、要求動力P1iがP1i<Pel(図4)の状態にあるときは、上記のようにPe>P1iとなっている。
【0077】
なお、ここで、入力軸4aの回転速度N1が上記第2の判定によるN1caに達した結果、エンジン1を再始動させ、クラッチ2を係合してエンジン1と入力軸4aを連動関係に設定した場合であって要求動力P1iがP1i≧Pel(図4)である場合、その時点において、エンジン1の出力動力Peは上記のようにPe=P1iになっている。
その結果、その場合、エンジン1の出力動力Peは全て入力軸4aにおける要求動力P1iとして使用され、その時点においてエンジン1は、フライホイール3を加速回転させる動力の余裕を有していない。
【0078】
しかし、出力動力Pe=P1iの状態においてエンジン1がフライホイール3と入力軸4aへ動力供給開始した直後においても、引き続き、制御装置700は、図2における経済燃費特性線Fec上に沿いスロットル開度θを増大させて、エンジン1の出力動力Peを高めてゆき、
Pe≧P1i (11)
の関係にさせてゆく。
すなわち、エンジン1がPe=P1iの状態においてフライホイール3と入力軸4aへ動力供給を開始した直後からは、(11)式の関係が生じて、エンジン1の出力動力Peが要求動力P1iより大となる余裕動力ΔPを生じ、その余裕動力ΔPがフライホイール3を加速回転させてゆく。
【0079】
上記のような理由から、上記手順1)においては、“エンジン1における出力動力Peが現時点における要求動力P1iに所定の動力ΔP1iを付加した値と等しくなる状態(Pe=P1i+ΔP1i)のエンジン1における回転速度Ne=Necを求める” こととしても良い。
そのように手順1において、Pe=P1i+ΔP1iとした場合は、エンジン1の出力動力をフライホイール3と入力軸4aに補給開始した時点から、エンジン1による入力軸4aの駆動には上記余裕動力ΔPが生ずることになる。
すなわち、上記手順1)においてエンジン1の回転速度Ne=Necを求める手順においては、エンジン1の出力動力Peと要求動力P1iとの関係がP1i≦Pe≦P1i+ΔP1iとなる幅の中で、要求動力P1iとエンジン1の回転速度Neとの関係を設定すればよい。
【0080】
なお、第2の判定において、上記のようにPe=P1i+ΔP1iに設定することが望ましい場合がある。
それは、運転者がアクセルペダルの踏込み量をある時間、非常に小さくしている状態において「急速にアクセルペダルを最大近くに踏込むことを頻繁に行う場合」である。
すなわち、アクセルペダルの踏込み量が非常に小さいときは要求動力P1iも非常に小さくなって、その場合における入力軸4aの上記下限回転速度N1caも小さな値になっている。それに対して急速にアクセルペダルを踏込むと要求動力P1iが急増大して下限回転速度N1caも急増大する。
【0081】
このような要求動力P1iが非常に小さくなっている時間が有る程度、続くと、入力軸4aの回転速度がその小さなP1iに対応した低い値の下限回転速度N1ca近くまで減速する状態になり得る。
そのような状態において、急激に要求動力P1iを増大させると、該下限回転速度N1caの値も大きな値になるから、現状において低下している入力軸の回転速度N1とその増大したN1caとの関係がN1<<N1caの状態になって、即、クラッチ2を係合して、エンジン1の動力Peを入力軸4aに供給しなければならなくなる。
【0082】
しかし、既に、入力軸4aの回転速度N1が非常に低い回転速度になっている状態においてクラッチ2を係合すると、入力軸4aの回転速度と一定関係にあるエンジン1の回転速度Neも低く設定されることになる。
言い換えれば、そのクラッチ2を係合した状態におけるエンジン1の回転速度は、要求動力P1iの小さかった時点の下限回転速度N1caに近い入力軸4aの回転速度に対応した低い回転速度となり、その時点におけるエンジン1の出力動力Peは要求動力P1iの小さかった時点の低い動力となってしまう。
すなわち、急増大させた要求動力P1iとクラッチ2の係合時点におけるエンジン1の出力動力Peとの関係は、P1i>Peになってしまう。
【0083】
このような場合は、既述したように、P1i−Pe=ΔPの不足動力分を二次電池から動力補給して解決出来る。しかし、あまり頻繁にアクセルペダルの踏込み量の小、大を繰り返すことによって、上記二次電池からの動力補給をすることは、効率面から望ましくない。
従って、そのように運転者が頻繁にアクセルペダルの踏込み量の小、大を繰り返す場合は、制御装置700が、その頻繁さを検出することによって、第2の判定条件としてのPe=P1i+ΔP1iとするΔPの値を大きめに設定する判定条件の切り替えを行っても良い。
以上、入力軸4aの回転速度が減少してゆく時々刻々におけるエンジン1の動力Peと要求動力P1iとの大小比較を行う第2の判定の説明である。
【0084】
〔真の下限回転速度N1cの説明〕
ここで、クラッチ2を係合してエンジン1の出力動力を入力軸4aとフライホイール3へ補給する時点の入力軸4aにおける下限回転速度を上記一方の下限回転速度N1ceにするか、あるいは上記他方の下限回転速度N1caにするかの問題がある。
【0085】
そこで、この問題を検討してみる。
フライホイール3の回転エネルギのみを使用して車両を駆動している状態においては、上記のように入力軸4aの回転速度N1が減速し続けている。
その減速し続けている入力軸4aとフライホイール3へエンジン1の出力動力Peを補給開始する時点におけるエンジン1の動力Pe=Pecの値は、入力軸4aの回転速度N1がより高い時点においてその補給開始を行う程、大きな値になる。
【0086】
それは、エンジン1を再始動させて入力軸4aとフライホイール3へエンジン1の出力動力Peを補給してゆくとき、その作動を復習すると、その作動は下記1)〜3)の順序となっている。
1) エンジン1を点火し、エンジン1の作動を経済燃費特性線Fec上に一致させながらアクセル開度θを増大させてゆく。その結果、エンジン1の回転速度Neも増大する。その場合、図4のPel≦P1i(=Pe)≦Pemに示すように、エンジン1の出力動力Peはエンジン1の回転速度Neの増大と共に増大してゆく。
すなわち、経済燃費特性線Fec上の作動において、エンジン1の出力動力Peはエンジン1の回転速度Neが高い程、大きな出力動力になる関係になっている。
2)その増大してゆくNeと現時点における入力軸4aの下限回転速度との関係が(10)式の関係に一致した時点、すなわちクラッチ2の同期時点においてクラッチ2を係合する。
3)そのクラッチ2の係合開始時点から、入力軸4aとフライホイール3へエンジン1の出力動力Peが補給される。
【0087】
上記1)においてエンジン1の出力動力Peはエンジン1の回転速度Neが高い程、大きな出力動力になる関係にあり、上記2)におけるようにクラッチ2の係合後はNeとN1が比例した連動関係にある。すなわち、N1が高い値であればNeも高い関係にある。
従って、上記3)においてエンジン1の出力動力Peを補給開始する時点におけるPeの値は、入力軸4aの回転速度N1がより高い時点においてその補給開始をする程、大きな値になる関係にある。
【0088】
すなわち、上記第2の判定条件Pe≧P1iに着目した場合、エンジン1の出力動力Peを補給開始すべき時点の入力軸4aにおける回転速度(真の下限回転速度N1c)は、上記一方の下限回転速度N1ceと上記他方の下限回転速度N1caのいずれか「大きい」側の下限回転速度を採用すれば、そのクラッチ2の同期時点におけるエンジン1の出力動力Peは、上記理由からPe≧P1iとなって第2の判定条件を安全側に満たすことになる。
【0089】
又、上記第1の判定条件e≦ecに着目した場合も、上記第1の判定結果によるN1ceあるいは第2の判定結果によるN1caのうち、いずれか「大きい」側の下限回転速度を採用すれば、無段変速機400における速度比eがe≦ecとなって第1の判定条件を満たすことになる。
それは、無段変速機400の速度比eがe=N2/N1の関係から入力軸4aの回転速度N1が大きい程、速度比eが小さくなって、e≦ecの条件を安全側に満たすからである。
このように、制御装置700は、以上のように求めた第1の判定結果である下限回転速度N1ceと第2の判定結果である下限回転速度N1caとの大小を比較し、その比較によって大となった側の判定結果を入力軸4aにおける“真の下限回転速度N1c”とする。
【0090】
上記のように、入力軸4aの回転速度N1が減速してゆく過程において、入力軸4aの回転速度N1が上記“真の下限回転速度N1c”に達したとき、エンジン1の出力動力を上述のようにフライホイール3と入力軸4aに補給してゆけばよい。
以上が“真の下限回転速度N1c”の説明であり、又、ここまでの説明がフライホイール3の回転エネルギのみによって車両が走行する場合の説明である。
【0091】
「 b)エンジン1の出力動力を補給している場合における車両の駆動」:
以上のように、入力軸4aの回転速度N1が減速してゆくことによってその回転速度N1が“下限の回転速度N1c”に達すると、制御装置700は、上記のようにエンジン1を点火し且つスロットル開度θを増大させて、エンジン1の回転速度Neを増大させてゆく。
そのようにエンジン1が回転速度を増大させてゆくとき、エンジン1はエンジン自身における慣性モーメントを加速させるトルクを発生させながら回転速度Neを増大させてゆく。
その場合において、制御装置700は、エンジン1における回転速度Neの増大につれ、経済燃費特性線Fec上に一致する状態にスロットル開度θを増大させてゆく。
【0092】
そのようにしてエンジン1の回転速度Neが増大してゆくと、やがてエンジン1の回転速度Neと入力軸4aの回転速度N1が(10)式の関係になる。すなわち、その時点が上述のクラッチ2の同期した時点である。
クラッチ2の同期時点に到ると、制御装置700は、クラッチ2を係合し更にスロットル開度θを増大させてゆく。
【0093】
そのようにクラッチ2が係合すると、エンジン1には入力軸4aへの動力供給とフライホイール3を加速回転させる負荷が生ずる。
又、そのようにクラッチ2を係合させた後においても、制御装置700は、上記と同様、経済燃費特性線Fec上に一致する状態にスロットル開度θを増大させて、エンジン1の出力動力を増大させ且つエンジン1における回転速度Neを増大させてゆく。
すなわち、クラッチ2の上記同期時点においてエンジン1の出力動力がPecであった状態から、そのクラッチ2の係合後、更にエンジン1の出力動力PeはPe>Pecになってゆく。
【0094】
上記のようにエンジン1の出力動力Peが増大してゆく状態において、エンジン1は入力軸4aとフライホイール3へ動力Peを補給してゆく。
そのように増大してゆくエンジン1の出力動力Peと入力軸4aへの要求動力P1iとの関係はPe>P1iとなっており、Pe−P1i=ΔPの余裕動力がフライホイール3を回転加速してゆく。
その余裕動力ΔPによってフライホイール3に生ずるトルクTfは(2)式の関係にあるから、余裕動力ΔPとフライホイール3に生ずる動力(Tf×ωf)との関係は、
ΔP=If×(dωf/dt)×ωf (12)
となる。
【0095】
ここで、フライホイール3における回転角速度ωfと入力軸4aにおける回転角速度ω1とは、
ωf=(i1/i2)×ω1 (13)
の関係にあるから、(12)式は、
ΔP=If×(i1/i2)×(i1/i2)×ω1×(dω1/dt)
となる。又、上式を変形して、
(dω1/dt)=ΔP/〔If×(i1/i2)
×(i1/i2)×ω1〕 (14)
を得る。
【0096】
制御装置700は、
1)(14)式を使用して、入力軸4aに対する回転角加速度(dω1/dt)を求め、
2)その求めた(dω1/dt)と一致する状態に無段変速機400の速度比eを制御する。但し、そのdω1/dtは入力軸4aの回転角速度ω1が増速する側に速度比eを制御する。
その(dω1/dt)の増速は、(13)式の関係から、変速機400Aおよび増速機3Aを介してフライホイール3を加速することになる。
【0097】
すなわち、制御装置700が、無段変速機700における速度比eの制御によって、(14)式の関係が成立する状態に入力軸4aの回転角加速度(dω1/dt)を制御すれば、、入力軸4aに要求動力P1iに相当する実の動力P1が生じ、且つその場合における余裕動力ΔP=Pe−P1iがフライホイール3を加速回転させることになる。
【0098】
そのようにして入力軸4aに実の動力P1が生じたことは、入力軸4aにおいてトルクT1=P1/ω1が生じていることになる。
そのことは(8)式の関係によって出力軸6にトルクT2が生じることになり、そのトルクT2は終減速機6Aを介して駆動輪6B、6Bを駆動することになる。
【0099】
なお、上記のように、無段変速機400の変速制御によって(14)式の関係を設定して、入力軸4aにおいてトルクT1=P1/ω1を生じさせることは、“無段変速機400の変速によるトルク制御によって入力軸4aに指示トルクT1iに相当する実のトルクT1を発生”させていることになる。
【0100】
以上のように、エンジン1がフライホイール3と入力軸4aへ動力補給を行っている間において、制御装置700は、エンジン1におけるスロットル開度θを増大させてエンジン1の回転速度Neを経済燃費特性線Fec上において増速させてゆく。
やがて、その増速してゆくエンジン1の回転速度NeがNe=Neuに達した時点において、エンジン1の作動を停止し、且つクラッチ2を切り離す。
以上がエンジン1の出力動力を補給している場合における車両の駆動である。
又、上記エンジン1の作動停止以降は、再びフライホイール3の回転エネルギのみによって車両を駆動する作用を繰り返す。
【0101】
このように図1の車両の駆動は、上述のフライホイール3の回転エネルギのみによる駆動とエンジン1が動力補給をする駆動の繰り返しを行うことになる。
なお、上記実施例において、エンジン1によって上記動力補給を行う際のエンジン1の最大回転速度はエンジン1の最大動力Pem時における回転速度Nemとせず、それより低回転のNeuとしている。
【0102】
それは、運転者がアクセルペダル踏込み量すなわち要求動力P1iを小さくしているときに、エンジン1の最大回転速度を過度に大きく設定すると、恰も運転者の意志に反して車両の駆動力が過大になってしまったような錯覚を与えることになるからである。
そのような理由によって、本実施例においては、エンジン1による上記動力補給の際におけるエンジン1の最大回転速度がアクセルペダル踏込み量に比例するように設定している。
しかし、エンジン1による上記動力補給の際におけるエンジン1の最大回転速度は、エンジン1の最大動力Pem時における回転速度Nemとしても、車両の駆動上、何ら問題はない。
【0103】
『図1における無段変速機400の具体的実施例その1』:
「図5における機構の説明」
図5は、図1における無段変速機400の具体的実施例であって、図1と同一符号の部材は同一部材を示している。
ここで、図5における無段変速機401の機構は特許文献1において公知である。
又、7は制御装置であり、制御線7a、7b、7cあるいは7dは複数の電力線および制御線を単一線によって表現しており、Accはアクセルペダルの踏込み信号線であり、7Aは蓄電装置である。
なお、図5においては、図1における変速機2Aおよび400Aを割愛して、駆動軸2aが入力軸4aと直結している。
【0104】
無段変速機401において、ジェネレーターモーター4におけるアウターローター4Aが入力軸4aに連動し、ジェネレーターモーター4におけるインナーローター4Bが出口軸4bを介して出力軸6へ連動している。モータージェネレーター5は駆動軸5a、歯車5bおよび5cを介して出力軸6に連動している。
なお、図5において、インナーローター4Bの側が入力軸4aに連動し、アウターローター4Aの側が出口軸4bに連動する機構であってもよい。
又、ジェネレーターモーター4において発電した電力は、蓄電装置7Aに電力を充電する場合を除き、原則として制御装置7を介し全てモータージェネレーター5に供給するものとなっている。
以上が図5における機構の説明である。
【0105】
「図5における作用説明」
図5における無段変速機401の変速作用も特許文献1において公知である。
すなわち、出力軸6の負荷に対して入力軸4aを駆動すると、入力軸4aと出力軸6との間に相対回転が生じてジェネレーターモーター4が発電作用を行う。
その発電作用によって、一方において、アウターローター4Aに生じた発電トルクに対してインナーローター4Bにはその発電トルクによって連れ回される反力トルクが生じ、その反力トルクは機械的に出口軸4bを介して出力軸6を駆動する。
【0106】
又、他方において同時に、ジェネレーターモーター4において発電した電力は、原則として全て制御装置7を介してモータージェネレーター5に供給してモータージェネレーター5にモーター作用をさせ、モータージェネレーター5は駆動軸5a、歯車5bおよび5cを介して出力軸6を駆動する。
その場合において、入力軸4aにおける回転速度N1と出力軸6における回転速度N2との速度比e=N2/N1の制御は、ジェネレーターモーター4における発電量を制御することによって可能となっている。
【0107】
上記のように変速を行う無段変速機401は速度比e=N2/N1が0≦e≦ecにおいて動力伝達効率が優れており、e>ecにおいて動力伝達効率が急速に劣化する。このことは、非特許文献1、石原智男編、油圧工学、朝倉書店、昭和43年版のp226における(7.41)式および(7.42)式に示しているように公知である。
なお、図5における上記ecは、入力軸4aと出力軸6との相対回転を零にした場合の速度比e=N2/N1、すなわちec=1.0である。
図5の実施例において使用する速度比eの範囲は、動力伝達効率の優れた0≦e≦ec=1.0を使用することを目的とし、且つ上記ec=1.0は、図5の機構を使用した場合の本発明における“最大許容速度比ec”となる。
【0108】
図5における車両の始動発進態勢設定の作用は、図1における場合と同様に行うことが出来る。但し、図5における車両の始動発進態勢設定時において、エンジン1の出力動力が出力軸6の側へ伝達しないようにする方法としてジェネレーターモーター4を無負荷状態にする。
その状態において、制御装置7は、エンジン1を点火し且つ図1におけると同様にエンジン1のスロットル開度θを増大させることによって、エンジン1の出力動力がクラッチ2、駆動軸2aおよび増速機3Aを介してフライホイール3を上述した所定の回転速度まで高め、車両の発進態勢を設定する。
【0109】
なお、上記車両の始動発進態勢設定は、エンジン1の出力動力を使用せずに、モータージェネレーター5を電気的に拘束することによって出力軸6を拘束しておき、蓄電装置7Aの電力を使用してジェネレーターモーター4にモーター作用をさせ、そのモーター作用による入力軸4aの動力が増速機3Aを介してフライホイール3を上記所定の回転速度に設定することも出来る。
又、その車両発進態勢の設定は、モータージェネレーター5による電気自動車走行(EV走行)による車両発進を行いながら、エンジン1がフライホイール3を所定の回転速度まで駆動増速させる方法もあり得る。
【0110】
上記車両の始動発進態勢設定が終了して、車両を駆動走行させる場合、
a)フライホイール3の回転エネルギのみによって車両を走行させる作用と、
b)エンジン1がフライホイール3と入力軸4aへ動力を供給しながら車両を走行させる作用との上記a)あるいはb)の作用を交互に行うことも、図1における場合と同様である。
【0111】
但し上記a)およびb)における作用において、図1における場合は、上記a)の場合(7)式の関係および上記b)の場合(14)式を満たすように無段変速機400の速度比eを制御して入力軸4aのトルクT1を設定している。
それに対して、図5における場合は、上記a)の場合も上記b)の場合も共にジェネレーターモーター4におけるトルク制御によって入力軸4aのトルクT1を設定することが出来る。
【0112】
入力軸4aにおけるそのトルクT1の設定は、図1における場合と同様に、制御装置7が、入力軸4aへの要求動力P1i(=T1i×ω1)とその時点における入力軸4aの回転角速度ω1から指示入力トルクT1iを演算し、そのT1iに一致する状態にジェネレーターモーター4をトルク制御することによって行われる。
ここで、ジェネレーターモーター4が例えば直流発電機である場合、電流制御によってその直流電動機のトルク制御が出来ることは公知である。
【0113】
又、図1における上記a)の作用において、車両走行のためにフライホイール3のエネルギのみを消費することによって、フライホイール3および入力軸4aの回転速度N1が減速してゆく場合、図1における第1の判定による下限回転速度N1ceの演算と第2の判定による下限回転速度N1caとを演算する作用も図1における場合と同じである。
更に、上記a)の作用において、その演算結果であるN1ceとN1caのうち、大なる値を入力軸4aにおける“真の下限回転速度N1c”とする演算も図1における場合と同じである。
【0114】
そのように入力軸4aの回転速度N1が“真の下限回転速度N1c”に達したと判定されたとき、制御装置7は、図1における場合と同じに、エンジン1を点火し且つスロットル開度θを増大させてゆくことによって、エンジン1の回転速度を増大させてゆき、駆動軸1aと駆動軸2aが同期した時点においてクラッチ2を係合する。この作用も図1における場合と同じである。
なお、クラッチ2は公知の一方向クラッチであっても良い。それは、一方向クラッチの性格から、駆動軸1aの回転速度が駆動軸2aの回転速度を超えようとすると、駆動軸1aが駆動軸2aと一体になって回転する性格があるからである。逆に、一方向クラッチは、駆動軸2aの側から駆動軸1aを同一回転方向へ駆動出来ない性質を有している。
【0115】
そのようにクラッチ2を係合させて後、エンジン1は経済燃費特性線Fec上を作動しながら増速してゆく。すなわち、エンジン1のその増速は駆動軸1a、クラッチ2および駆動軸2aを介して、一方において増速機3Aを介してフライホイール3を増速し、他方において入力軸4aを駆動する。この作用も図1における場合と同じである。
【0116】
上記のように、ジェネレーターモーター4によって入力軸4aのトルクをT1に制御することは、ジェネレーターモーター4における発電電力を制御することである。
すなわち、入力軸4aのトルクT1を設定するために、ジェネレーターモーター4における発電量の制御を行い、その発電した電力によってモータージェネレーター5が出力軸6を駆動制御することは、入力軸4aと出力軸6との速度比eを制御していることにもなる。
このことは、“無段変速機401の変速によるトルク制御によって入力軸4aに指示トルクT1iに相当する実のトルクT1を発生させている”ことになる。
【0117】
又、入力軸4aのトルクT1を制御することによって出力軸6を駆動することは、図1における場合と同様に(8)式の関係によっている。
なお、ジェネレーターモーター4への電力の授受は、スリップリングを介して行う方法等がある。
以上が図1における無段変速機400の具体的実施例その1(図5)の説明である。
【0118】
『図1における無段変速機400の具体的実施例その2』
「図6の機構説明」
図6において、無段変速機402は図1における無段変速機400に相当し、図1および図5と同じ符号は同一符号同一部材を示している。
図6において、図5におけると同様、図1における変速機2Aおよび400Aを省略している。
図6における無段変速機402は特許文献1に示した公知の入力動力分割方式の無段変速機である。
【0119】
無段変速機402は、差動歯車41における3軸のうち、一軸が入力軸4aと連動し、他の一軸が反力軸41fに連動し、残る一軸が出口軸4bに連動している。
図6に示している差動歯車41はその中身をブラックボックスとした一般的表現によっているが、その中身の具体例は図7に示す機構がある。図7において図6と符号が同一の部材は同一部材を示している。
【0120】
図7において、差動歯車41は、リング歯車41d、複数の遊星歯車41bおよび太陽歯車41aからなっており、遊星歯車41bはキャリヤ41cに軸支している。
入力軸4aがキャリヤ41cに連動し、遊星歯車41bは太陽歯車41aおよびリング歯車41dと歯車係合し、太陽歯車41aは反力軸41fを介してジェネレーターモーター40におけるローター40Bに連動しており、40Aはジェネレーターモーター40における固定子である。
【0121】
差動歯車41の各歯車の組み合わせは一例であって、一般的には、太陽歯車41a、キャリヤ41cあるいはリング歯車41dの3部材のうちいずれかの部材を入力軸4aに連動し、そのうちの残るいずれかの部材が出口軸4bに連動し、そのうちの残る最後の部材が反力軸41fに連動するものである。
したがって、一般的には、図6における差動歯車41の1点破線によって示した中身がブラック・ボックスであって、上記3部材のうち1点破線から外部に出ている各部材を反力軸41f、入力軸4aおよび出口軸4bとして図6のように表現している。
【0122】
又、図6における差動歯車41とジェネレーターモーター40の両者は、図5におけるジェネレーターモーター4に相当するジェネレーターモーターになっている。
それは、図6において、ジェネレーターモーター40の回転速度Nr、入力軸4aの回転速度N1および出力軸6の回転速度N2(=出口軸4bの回転速度)との関係は、特許文献1における(1)式に示すように、
er=(e−ec)/(1−ec)
なる一定の関係にあるからである。
【0123】
上記式において、er=Nr/N1およびe=N2/N1であり、ecは反力軸41fを拘束(Nr=0)した状態における速度比eであって、ecは差動歯車41の機構によって定まる一定の値である。
すなわち、上式は、反力軸41fの回転速度Nr(=ジェネレーターモーター40の回転速度)が速度比e=N2/N1の変化によって一義的に定まることを意味しており、そのことは、ジェネレーターモーター40の回転速度Nrが入力軸4aの回転速度N1と出力軸6の回転速度N2との相対回転によって定まることを意味している。
【0124】
結局、図5と図6を比較すると、図5におけるジェネレーターモーター4は、上述のように、入力軸4aと出口軸4bとの相対回転によって発電作用を行っており、図6における差動歯車41とジェネレーターモーター40からなるジェネレーターモーターも、入力軸4aと出口軸4bとの相対回転によって発電作用を行っていることになる。
以上が図6および図7における機構の説明である。
【0125】
〔 図6における作用の説明〕:
「図6における変速作用の説明」
図6における無段変速機402の変速作用は特許文献1において公知である。
すなわち、ジェネレーターモーター40における発電量を制御することによって、入力軸4aにおける回転速度N1と出力軸6における回転速度N2との速度比e=N2/N1を変化させる。
その場合において、出力軸6の負荷に対して入力軸4aを駆動すると、入力軸4aの動力は差動歯車41および反力軸41fを介してジェネレーターモーター40を駆動して、ジェネレーターモーター40が発電を行う。
【0126】
そのことによって、一方において、ジェネレーターモーター40に生じた発電トルクは機械的に反力軸41f、差動歯車41および出口軸4bを介して出力軸6を駆動する。
又、他方において同時に、ジェネレーターモーター40において発電した電力は、原則として全て制御装置7を介してモータージェネレーター5に供給してモータージェネレーター5にモーター作用をさせ、モータージェネレーター5は駆動軸5a、歯車5bおよび5cを介して出力軸6を駆動する。
【0127】
無段変速機402における上記変速において、その変速に使用する速度比e=N2/N1の範囲は0≦e≦ecにおいて動力伝達効率が優れており、e>ecにおいて動力伝達効率が急速に劣化する。このことは、非特許文献1、石原智男編、油圧工学、朝倉書店、昭和43年版のp220〜221における(7.35)式および(7.36)式から公知である。
なお、上記ecは、反力軸41fの回転を拘束した場合における速度比e=N2/N1である。
【0128】
すなわち、本実施例の図6の機構において使用する速度比eの範囲は動力伝達効率の優れた0≦e≦ecの範囲を使用することを目的とし、且つ無段変速機402における上記ecは、本発明において図6の機構を使用した場合の“最大許容速度比ec”となる。
又、図6における差動歯車41の具体的機構は、一般的に図7の機構が望ましく、図7における実用上の上記ecの値は1.4近傍の値となる。
以上が図6における変速作用の説明である。
【0129】
「車両における始動発進態勢の作用説明」
図6における車両の始動発進態勢の作用は、図1における場合と同様に行うことが出来る。但し、図6における車両の始動発進態勢設定時において、エンジン1の出力動力が出力軸6の側へ伝達しないようにする方法としてジェネレーターモーター40を無負荷状態にする。それは、入力軸4aが駆動されている場合、ジェネレーターモーター40が無負荷になっていると、差動歯車の性質から反力軸41fが空回りして、入力軸4aの動力は出力軸6へ伝達しないからである。
【0130】
そのようにジェネレーターモーター40を無負荷状態のまま、車両の始動発進態勢設定時において、制御装置7は、エンジン1を点火し且つ図1におけると同様にエンジン1のスロットル開度θを増大させる。そのことによって、エンジン1の出力動力が駆動軸1a、クラッチ2、駆動軸2aおよび増速機3Aを介してフライホイール3を上述した所定の回転速度まで高める。
【0131】
なお、上記車両の始動発進態勢設定は、図5における場合と同様、エンジン1の出力動力を使用せずに、モータージェネレーター5を電気的に拘束して出力軸6を拘束し、蓄電装置7Aの電力を使用してジェネレーターモーター40にモーター作用をさせ、そのモーター作用が反力軸41f、差動歯車41、入力軸4aおよび増速機3Aを介してフライホイール3を上記所定の回転速度に設定することも出来る。
又、上記図5において言及したように、図6の車両始動発進態勢の設定は、モータージェネレーター5によるEV走行によって車両発進を行いながら、エンジン1がフライホイール3を所定の回転速度まで増速させる方法もあり得る。
以上が図6における車両の始動発進態勢の作用説明である。
【0132】
「図6における車両のフライホイール3の回転エネルギのみによる走行」:
車両の発進態勢が完了し、車両を走行させる場合、図1における場合と同様、最初にフライホイール3の回転エネルギのみによって走行する。
その場合、アクセルペダル踏み込みによって指示される指令値は、図1における場合と同様に、入力軸4aへの要求動力P1i〔kW〕となっている。
そのように入力軸4aへ要求動力P1iを指示すると、制御装置7は、図5における場合と同様に、入力軸4aの回転角速度ω1を検出し且つP1i=T1i×ω1の関係から入力軸4aへの指示トルクT1iを演算する。
【0133】
ここで、図6において、入力軸4aのトルクT1、出力軸6のトルクT2および反力軸41fのトルクTrとの関係は、特許文献1において公知である。
すなわち、特許文献1における(12)式および(13)式において、
T2=(T1d/ec)×[{ηmo−(ηmr×ηe)}+{(ec/e)×ηmr×ηe}〕
Trd = (ec−1)×T2×ηmr/[{ηmo−(ηmr×ηe)}+{(ec/e)×ηmr×ηe}〕
の関係式を公開している。
【0134】
上記2式において、T1dおよびTrdは本願明細書の図6における入力軸4aのトルクT1および反力軸41fのトルクTrのことであり、且つηmoは入力軸4aから差動歯車41を介して出口軸4bに到る機械的動力伝達効率であり、ηmrは入力軸4aから差動歯車41を介して反力軸41fに到る機械的動力伝達効率である。
【0135】
又、上記2式において、ηeは、反力軸41fにおける動力がジェネレーターモーター40において発電作用を行い、その発電した電力がモータージェネレーター5にモーター作用をさせ、モータージェネレーター5が駆動軸5a、歯車5bおよび5cを介して出力軸6を駆動するまでの動力伝達効率である。
更に、上記2式中におけるT2、ecおよびeは、図6について既述したトルクT2、最大許容速度比ecおよび速度比eと同一である。
【0136】
特許文献1における上記2式から、入力軸4aへの上記指示トルクT1iとその指示トルクT1iから生ずる反力軸41fへの指示トルクTriとの関係は、
Tri={(ec−1)/ec}×ηmr×T1i (16)
となる。
すなわち、図6の実施例において、アクセルペダル踏み込みによって、入力軸4aへ要求動力P1i〔kW〕を指示すると、制御装置7は、上記のように指示トルクT1iを演算し、更にその指示トルクT1iを使用して、(16)式の関係によって反力軸41fにおける指示トルクTriを演算する。
【0137】
その結果、制御装置7は、ジェネレーターモーター40にその演算した指示トルクTriに相当するトルクを反力軸41fに発生させる。それは、ジェネレーターモーター40に発電作用を行わせ、その発電作用が反力軸41fに負荷トルクTrを発生させるレベルのトルク制御となる。なお、トルクTrのトルク制御は、上述のようにジェネレーターモーター40における電流制御によって行う。
このように制御装置7が反力軸41fへトルクTrを発生させたことは、(16)式の関係から入力軸4aへトルクT1を生じさせることになる。
【0138】
そのように入力軸4aにトルクT1が生じると、図1における場合と同様に、(8)式の関係あるいは上記特許文献1における(12)式から出力軸6へトルクT2を発生させ、車両の駆動が可能になる。
なお、上記車両の運転中において、運転者はアクセルペダル踏込み量を変化させている。
【0139】
そのように運転者が常にアクセルペダル踏込み量を変化させていることは、入力軸4aへの指示トルクT1iが変化していることである。そのことは(16)式の関係から制御装置7が、アクセルペダル踏込み量の変化に応じて反力軸41fのトルクTr、すなわちジェネレーターモーター40の発電量を変化させていることになる。
【0140】
ジェネレーターモーター40の発電量を変化させていることは、上記説明から理解出来るように、モータージェネレーター5が出力軸6の回転速度N2を制御して速度比e=N2/N1を制御していることになる。
すなわち、そのことは、“無段変速機402の変速によるトルク制御によって入力軸4aに指示トルクT1iに相当する実のトルクT1を発生”させていることになる。
【0141】
上記のように、入力軸4aに実のトルクT1を発生させていることは、入力軸4aおよび増速機3Aを介してフライホイール3にトルクTfの負荷トルクを発生させていることになる。
その負荷トルクTfは(2)式の関係において、フライホイール3の角回転加速度dωf/dtを負にして、フライホイール3の回転速度Nfを減速させてゆく。又、そのことはフライホイール3に連動した入力軸4aの回転速度N1をも減速させてゆく。
このことは、フライホイール3の回転エネルギを消費して入力軸4aへトルクT1を生じさせていることでもある。
【0142】
上記のように、車両走行のためにフライホイール3のみのエネルギを消費することによって、フライホイール3および入力軸4aの回転速度N1が減速してゆく場合、図1における第1の判定による下限回転速度N1ceの演算と第2の判定による下限回転速度N1caとの両者を演算する作用も図1における場合と同じである。
更に、その演算結果であるN1ceとN1caのうち、大なる値を入力軸4aにおける“真の下限回転速度N1c”とする演算も図1における場合と同じである。
以上が図6における車両のフライホイール3の回転エネルギのみによる走行の説明である。
【0143】
「図6におけるエンジン1の駆動時における車両走行」:
入力軸4aの回転速度N1が“真の下限回転速度N1c”に達したと判定されたとき、制御装置7は、図1における場合と同じに、エンジン1を点火し且つスロットル開度θを増大させてゆくことによって、エンジン1の回転速度を増大させてゆき、駆動軸1aと駆動軸2aが回転同期した時点においてクラッチ2を係合する。この作用も図1における場合と同じである。
【0144】
そのようにクラッチ2を係合させて後、エンジン1は経済燃費特性線Fec(図2)上を作動しながら増速してゆく。すなわち、エンジン1のその増速は駆動軸1a、クラッチ2および駆動軸2aを介して、一方において増速機3Aを介してフライホイール3を増速し、他方において入力軸4aを駆動する。又、この作用も図1における場合と同じである。
その場合において、運転者がアクセルペダルの踏み込みによって入力軸4aに要求動力P1i〔kW〕を指示すると、制御装置7は、現時点における入力軸4aにおける回転角速度ω1を検出し、且つP1i=T1i×ω1の関係から入力軸4aへの指示トルクT1iを演算する。この作用も図1および図5における場合と同じである。
【0145】
制御装置7は、その指示トルクT1iを(16)式に代入して反力軸41fへの指示トルクTriを演算する。続いて、制御装置7は、発電作用を行っているジェネレーターモーター40の発電レベルが反力軸41fにおいてトルクTr=Triの負荷を生ずる状態に制御する。
すなわち、ジェネレーターモーター40の発電制御が反力軸41fへ実の負荷トルクTrを生じさせることは、(16)式の関係から入力軸4aへアクセルペダルからの指示どおりの“実のトルクT1”を生じさせることになる。
【0146】
又、上記のように、ジェネレーターモーター40によって入力軸4aの実トルクをT1に制御することは、ジェネレーターモーター40における発電電力を制御することであり、ジェネレーターモーター40によって発電した電力の全てはモータージェネレーター5に与えられ、モータージェネレーター5は駆動軸5a、歯車5bおよび5cを介して出力軸6を駆動する。
【0147】
すなわち、入力軸4aの実トルクT1を設定するためにジェネレーターモーター40において発電量の制御を行い、そのことによってモータージェネレーター5が出力軸6を駆動制御することは、入力軸4aと出力軸6との速度比eを制御していることになる。
このことは、“無段変速機402の変速によるトルク制御によって入力軸4aに指示トルクT1iに相当する実のトルクT1を発生させている”ことになる。
【0148】
又、この場合における制御装置7によるジェネレーターモーター40のトルク制御は、図5の車両がフライホイール3の回転エネルギのみによって走行している場合の制御と同じである。
更に、入力軸4aの実トルクT1を制御することは、図1における場合と同様に(8)式の関係あるいは上記特許文献1における(12)式によって出力軸6を駆動していることになる。
以上が図6におけるエンジン1の駆動時における車両走行の説明である。
なお、上記図5および図6におけるモータージェネレーター5は出力軸6を介して駆動輪6Bに連動している。すなわち、モータージェネレーター5も出力軸6も共に駆動輪6Bを駆動している。従って、車両における前輪と後輪のいずれか一方の車輪を出力軸6が駆動し、残る他方の側の車輪をモータージェネレーター5が駆動しても良いことになる。
【0149】
上述したa)フライホイール3の回転エネルギのみによって入力軸4aを駆動する作用と、b)エンジン1がフライホイール3の加速回転と入力軸4aを駆動する作用は、a)あるいはb)の作用を交互に行うことによって、車両の走行を行うことになる。
又、このa)あるいはb)の作用を交互に行うことも既述の図1および図5における場合と同じである。
以上が図6における全作用の説明である。
【0150】
「無段変速機400を純電気的駆動によって行う考え方」
以上の図5および図6における無段変速機401および402の実施例においては、一方において入力軸4aにおける動力の一部が機械的に出口軸4bを介して出力軸6へ伝達し、他方において入力軸4aの動力の残部がジェネレーターモーター4あるいは40において電力となって分岐し、その分岐した電力がモータージェネレーター5において再び機械動力となって出力軸6へ合流する、いわゆる動力分割型の無段変速機となっている。
【0151】
それに対して、図1における無段変速機400は、入力軸4aにおける動力を全て電力に変換して純電気的に駆動輪6Bを駆動する形式の無段変速機であってもよい。
すなわち、その純電気的駆動は、入力軸4aの機械動力が“全て”ジェネレーターモーターにおいて電力に変換され、その変換した電力の全てがモータージェネレーターにモーター作用をさせ、そのモーター作用が駆動輪6B,6Bを駆動するものである。
【0152】
その純電気駆動は、図5と同様に、ジェネレーターモーターが入力軸4aをトルク制御出来るから、アクセルペダルの踏み込みによる要求動力P1iを入力軸4aにおける指示トルクT1iに変換し、ジェネレーターモーターにおけるトルク制御によって入力軸4aに実のトルクT1=T1iを生じさせることが出来ることになる。
【0153】
従って、上記純電気駆動の無段変速機も、無段変速機の形式が変わったのみであって、図5および図6におけると同様に、a)フライホイール3の回転エネルギのみによって入力軸4aを駆動する作用と、b)エンジン1がフライホイール3と入力軸4aへ動力を補給する作用の両作用を交互に行うことが可能であり、且つ上記a)の作用において行う既述のN1ceを求める第1の判定とN1caを求める第2の判定も可能である。
以上が無段変速機400を純電気的駆動によって行う考え方である。
【0154】
更に、本発明における本論とは関係ないが、以上の実施例において、車両の始動発進態勢は必ずしも必要ではない。
すなわち、通常の車両が発進する場合と同様に、始動スイッチをオンにしてエンジン1を作動させ、アクセルペダルを踏み込んで車両を発進させることも出来る。
それは、車両が発進する前の状態において無段変速機400,401あるいは402の速度比e=N2/N1を零に設定しておき、始動スイッチオンによるエンジン1の始動からスロットル開度θを増大させながらクラッチ2を係合させてゆくと、エンジン1の動力Peはクラッチ2、駆動軸2aおよび増速機3Aを介してフライホイール3を増速させてゆく。
【0155】
そのように、エンジン1の動力Peがフライホイール3を増速してゆく過程において、無段変速機400、401あるいは402による上述のトルク制御によって、入力軸4aに上記指示トルクT1iに相当する実のトルクT1を設定してゆけば良い。
又、その場合において、そのトルク制御は、上述したように無段変速機400、401あるいは402において速度比eの制御になるから、その速度比増大によって(8)式の関係から車両が発進してゆく。
【0156】
但しその場合、そのようにフライホイール3が上述の所定の回転速度に向けて上昇し始めている段階において、アクセルペダルを急速に大きく踏込んで行く場合には、一方において、上述した要求動力P1iが急速に大きくなり、他方において、エンジン1はフライホイール3を加速する負荷が生じているから、エンジン1の出力動力は急速には大きくなれない。
そのため、アクセルペダルを急踏み込みした直後の短時間において、エンジン1の出力動力Peとその大きくなった要求動力P1iとの関係がPe<P1iとなる。
その結果、そのような急発進の加速時において、フライホイール3を増速する動力分のみならず入力軸4aを駆動する動力も不足して、車両の加速能力が低下する問題が生ずる。
【0157】
しかし、そのような場合、図1における場合は、上述したように、駆動軸2aへモータージェネレーターを設け、蓄電装置からの電力によってそのモータージェネレーターが上記不足動力分を補ってやればよい。
又、そのような場合における図5および図6の場合は、蓄電装置7Aから補助電力をモータージェネレーター5へ追加補給することによって、上記不足動力を補うことが出来る。
上記のように、エンジン1がフライホイール3を加速回転させながら入力軸4aを駆動して車両を始動発進させてゆく過程において、フライホイール3が既述した所定の回転速度に達したとき、エンジン1の作動を停止し、それに続いて、フライホイール3の回転エネルギのみによる車両走行に入ればよい。
【0158】
又、以上の図1、図5および図6の実施例において、クラッチ2は必ずしも必要ではない。
それは、エンジン1がフライホイール3を駆動しているときは、勿論、クラッチ2を必要とせず、駆動軸1aと駆動軸2aは直結のままでよい。
更に、エンジン1へ燃料供給を停止し且つフライホイール3の回転エネルギのみから出力軸6への動力取り出しを行っている場合、駆動軸1aと駆動軸2aは直結のままであっても、エンジン1は駆動軸2aの側から駆動されるだけであって、上述の制御は可能である。
【0159】
但し、エンジン1へ燃料供給を停止してフライホイール3の回転エネルギのみから出力軸6へ動力取り出しを行っている場合、クラッチ2を省略して駆動軸1aと駆動軸2aを直結にさせていると、駆動軸2a側からエンジン1を連れ回すことになるので、その連れ回しによるエンジン1のトルク損失は生ずる。
【0160】
又、以上の実施例において、アクセルペダル踏み込みによる車両への要求動力P1iの指示は入力軸4aへ行っている。しかし、要求動力の指示は出力軸6に対して行ってもよい。
それは、入力軸4aにおける実の動力P1と出力軸6における実の動力P2との関係が、無段変速機400の動力伝達効率をηとして、
P1×η=P2 (17)
の関係にあるからである。
【0161】
すなわち、上記要求動力の指示が出力軸6への要求動力P2iであった場合、(17)式の関係を使用して要求動力P2iから入力軸4aにおける要求動力P1iを演算出来、且つその演算した要求動力P1iを使用して上述の制御が可能になる。すなわち、上記アクセルペダルの踏込み量は、“入力軸4aから出力軸6までの動力伝達系への要求動力P1iを指示する関係”であればよい。
但し、(17)式の演算には、無段変速機400の作動条件によって変化する動力伝達効率ηの値を理論的あるいは実験的に求め、且つその動力伝達効率ηを上記演算に使用すれば良い。
【0162】
更に、(17)式におけるηは一定値として扱っても良い。例えば、η=1.0とすると、(17)式はP1=P2となる。
その場合、確かに、出力軸6へ要求動力P2iを指示すると、作動状態によって変化する実の動力伝達効率に対してη=1.0一定と設定してしまうことは、(17)式の関係から出力軸6における動力P2と入力軸4aにおける動力P1との関係に誤差が生じることにはなる。
【0163】
しかし、(17)式においてη=1.0としてP2iから誤差を含んだP1iを求め、その求めたP1iを使用して、そのP1iが車両の走行エネルギとなっても何ら問題はない。
それは、運転者がアクセルペダルを踏込んで車両の走行速度を設定することは、その車両の走行動力を具体的な一定値に設定するのではなく、アクセルペダルをある大きさに踏込んで走行速度が期待値より小さければ、運転者は更にアクセルペダルを踏込んで走行速度を調整し、逆に走行速度が速すぎたときはアクセルペダルの踏込みを緩めるのである。
従って、(17)式を変形してP1=P2として扱っても、実用上、何ら問題がないことになる。
【0164】
このように、要求動力を出力軸6に対して要求したほうが都合の良い場合がある。それは、特に図5および図6において、電池7Aに充電されている電力のみのエネルギによってモータージェネレータ5を駆動し、そのモータージェネレータ5のみが出力軸6を駆動するような、いわゆるEV走行を選択する場合である。
すなわち、そのようなEV走行の場合、制御装置7は、入力軸4aにおける動力P1を制御するのではなく、出力軸6の動力P2を制御することになり、アクセルペダルの踏込み量が出力軸6へ要求動力P2iを指示することが制御装置7にとって便利になる。
【0165】
なお、そのようなEV走行の場合は、既述したa)フライホイール3の回転エネルギのみによる車両走行とb)エンジン1がフライホイール3と入力軸4aを駆動しながら車両走行とを交互に行う制御ではなく、制御装置7が電池7Aの電力のみのエネルギによって車両走行する制御を行うことになる。
【0166】
又、上記実施例において、経済燃費特性線Fec(図2)は、エンジン1の回転速度上昇と共にエンジン1の出力動力が上昇する関係にある他の“制御線”であっても良い。
それは例えば、エンジン1において、スロットル開度θと回転速度Neとの関係がNOxやCO等発生の最小となる関係の制御線であっても良い。
すなわち、エンジン1を作動させる場合、上述の制御においてエンジン1が経済燃費特性線Fec上を作動したことに代わって、エンジン1が上記新たな制御線上を作動するようにすれば良いことになる。
又、その制御線は複数の制御線であっても良い。それは、それら複数の制御線のうち、車両の走行状態ごとに、その走行状態に適した制御線を選択すればよい。
【0167】
又、以上の実施例において、エンジン1はガソリンエンジンを例に説明したが、エンジン1はディーゼルエンジンやガスタービン等の熱機関に全て適用出来る。
それは、熱機関のその広い作動回転範囲において必ず燃費の良くなる経済燃費特性線やNOx等が最小となる“制御線”が存在するから、上述の説明のように、熱機関がフライホイール3と入力軸4aへ回転エネルギを供給する際、制御装置は、熱機関がその“制御線”上の好ましい範囲で作動するように制御出来るからである。
更に、エンジン1としてガソリンエンジン以外の熱機関を使用する場合の熱機関における出力動力の制御は、ガソリンエンジン1におけるスロットル開度θの制御に相当して、熱機関への燃料供給量の制御になる。
【産業上の利用可能性】
【0168】
本発明のエネルギ緩衝駆動の制御方法は、上述の説明における自動車への適用のみならず、作業機械、農業機械、鉄道の動力車あるいは船舶等の負荷動力が変動して作動する動力伝達系に利用可能である。
【図面の簡単な説明】
【0169】
【図1】本発明におけるエネルギ緩衝駆動の制御を行うエネルギ緩衝駆動装置をスケルトン図によって示したものである。
【図2】図1におけるエンジン1の一般的な特性図である。
【図3】図2における経済燃費特性線Fecにおいて、エンジン1における出力動力Pe〔kW〕と単位出力動力・単位時間当たりの燃料使用質量f〔gr/kW・h〕の関係を示したものである。
【図4】図2における経済燃費特性線Fecから求められる、入力軸4aへの要求動力P1i(=エンジン1における出力動力Pe)〔kW〕とエンジン1の回転速度Ne〔rpm〕の関係を示したものである。
【図5】図1における無段変速機400を具体化したエネルギ緩衝駆動装置の一例をスケルトン図によって示したものである。
【図6】図1における無段変速機400を具体化したエネルギ緩衝駆動装置の他の実施例をスケルトン図によって示したものである。
【図7】図6における差動歯車41の詳細説明をするため、その具体化した一例をスケルトン図によって示したものである。
【符号の説明】
【0170】
1 エンジン、 2 クラッチ、 3 フライホイール、 3A 増速機、 4a 入力軸、4b 出口軸、 4、40 ジェネレーターモーター、 41 差動歯車、 41f 反力軸、 5 モータージェネレーター、 6 出力軸、 7、700 制御装置(ジェネレーターモーター4、40およびモータージェネレーター5のドライバーを含む)、 7A 蓄電装置。


【特許請求の範囲】
【請求項1】
熱機関(1)はフライホイール(3)と入力軸(4a)に連動し、前記入力軸は無段変速機(400、401、402)および出力軸(6)を介して車両の駆動輪(6B)へ連動し、
前記熱機関(1)は、前記熱機関における回転速度の上昇と共に出力動力が上昇する関係の制御線(Fec)を有し、且つ前記熱機関は供給燃料の制御によって前記制御線上を作動し、
前記車両の駆動は、アクセルペダルの踏み込みによるその踏込み量が前記入力軸(4a)から前記出力軸(6)までの動力伝達系への要求動力P1iを指示する関係になっており、
制御装置(7,700)には、前記熱機関における前記制御線(Fec)上においての出力動力Peと回転速度Neとの関係を記憶させておき、
前記制御装置(7,700)は、
a)前記フライホイール(3)の回転エネルギのみが前記入力軸(4a)への動力供給源となる作用と、
b)前記熱機関(1)が前記制御線(Fec)上を作動して前記フライホイール(3)の回転増速を行いながら前記入力軸(4a)への動力供給源となる作用、
との前記a)あるいは前記b)の作用を交互に制御し、
前記a)および前記b)の制御において、前記入力軸(4a)における現時点の回転角速度ω1と前記要求動力P1iからT1i=P1i/ω1の関係を使用して前記入力軸における指示トルクT1iを演算し、前記無段変速機の変速によるトルク制御によって前記入力軸に前記指示トルクT1iに相当する実のトルクT1を発生させ、その発生させた実のトルクT1は前記無段変速機における前記変速によって前記出力軸(6)のトルクT2にトルク変換し、その変換したトルクT2が前記駆動輪(6B)を駆動する制御を行い、
前記制御装置が前記a)の作用を行う制御によって、前記入力軸の回転速度N1が減少し続けている状態の制御において、
前記制御装置は、
第1の判定として、現時点における前記出力軸における回転速度をN2とし、前記無段変速機における速度比e=N2/N1の最大許容速度比をecとし、N1ce=N2/ecの関係から一方の下限回転速度N1ceを求め、
第2の判定として、前記制御線(Fec)上における前記熱機関の出力動力Peと回転速度Neとの関係から、前記熱機関における出力動力Peが現時点における前記要求動力P1iの値ないしは現時点における前記要求動力P1iに所定の動力ΔP1iを付加した値と等しくなる状態の前記熱機関の回転速度Ne=Necを求め、且つ、その求めた回転速度Necの状態にある前記熱機関が前記入力軸を駆動していると仮定した場合における前記入力軸における回転速度N1caを求め、そのN1caを前記入力軸における他方の下限回転速度N1caとする演算を行い、
且つ、前記N1ceと前記N1caのうち、大なる値を真の下限回転速度N1cとし、
前記回転速度N1が減少し続けて、その回転速度N1が前記真の下限回転速度N1cに達した時、前記熱機関を再始動させて、前記熱機関(1)の動力を前記フライホイールと前記入力軸へ補給開始するエネルギ緩衝駆動の制御方法。
【請求項2】
請求項1において、無段変速機(401、402)は、入力軸(4a)と出力軸(6)との相対回転によって発電するジェネレーターモーター(4、40)と、前記出力軸(6)に連動したモータージェネレーター(5)とによって構成し、前記ジェネレーターモーター(4、40)において発電した電力は原則として全て前記モータージェネレーター(5)に供給する機構となっているエネルギ緩衝駆動の制御方法。
【請求項3】
請求項1において、無段変速機(402)は、差動歯車(41)における3軸のうち、1軸が入力軸(4a)に連動し、他の1軸が出力軸(6)に連動し、残る最後の軸が反力軸(41f)を介してジェネレーターモーター(40)に連動し、モータージェネレーター(5)が出力軸(6)に連動し、前記ジェネレーターモーター(40)において発電した電力は原則として全て前記モータージェネレーター(5)に供給する機構となっており、
最大許容速度比ecは、前記反力軸(41f)を拘束した状態における前記入力軸の回転速度N1と前記出力軸における回転速度N2との速度比e=N2/N1であるエネルギ緩衝駆動の制御方法。
【請求項4】
請求項1、請求項2あるいは請求項3において、制御線(Fec)は、熱機関(1)が出力動力一定に作動する任意の出力動力ごとに単位時間当たりの前記熱機関における燃料消費質量が最良になる特性であって、前記熱機関(1)への燃料供給量増大に応じて前記熱機関の回転速度(Ne)と出力動力(Pe)が増大する経済燃費特性線(Fec)であるエネルギ緩衝駆動の制御方法。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2011−156957(P2011−156957A)
【公開日】平成23年8月18日(2011.8.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−19904(P2010−19904)
【出願日】平成22年2月1日(2010.2.1)
【出願人】(000161493)
【Fターム(参考)】