説明

エポキシ樹脂組成物、プリプレグおよび硬化物

【課題】
その硬化物が高い熱伝導性を有する、特定構造のエポキシ樹脂を用いたエポキシ樹脂組成物及び該エポキシ樹脂組成物を用いたプリプレグを提供する。
【解決手段】
式(1)


(式中、Rはそれぞれ独立して水素原子、炭素数1〜8の炭化水素基、トリフルオロメチル基、アリール基、メトキシ基を示す。)で表されるエポキシ樹脂、硬化剤及び熱伝導率20W/m/K以上の無機充填材を含有してなるエポキシ樹脂組成物の硬化物は高い熱伝導性を示した。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、その硬化物が高い熱伝導性を有する、特定構造のエポキシ樹脂を用いたエポキシ樹脂組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
エポキシ樹脂は電気的、熱的及び力学的性質や接着性等種々の特性のバランスに優れた樹脂である。このため古くから塗料やコーティング剤、接着剤等の分野で用いられてきたが、最近では電気・電子部品製造用材料等の分野でも使用されており、ますますその応用範囲が広がりつつあることはよく知られている。この様な使用分野の拡大に伴い、エポキシ樹脂には更に高い性能と新しい機能の付与が要求されている。特に電気・電子部品製造用の材料には、これら部品が稼動する際に発生する熱を速やかに外部に放出することを目的に、高い熱伝導性を有するエポキシ樹脂硬化物が求められており、種々の新しいエポキシ樹脂の開発が積極的に進められているが未だ市場要求を満足するものは得られていない。
このような新しい高性能・高機能エポキシ樹脂の開発を目的とした研究の一つとして、エポキシ樹脂硬化物の網目構造へメソゲン基を導入することが試みられている。尚、ここでいうメソゲンは液晶相を形成するための中心となる原子団のことで、剛直な棒状あるいは平面状の構造を持ち、高い配列性を示すことが特徴である。特許文献1には、高熱伝導性を発現するための手法としてメソゲン基を有するエポキシ樹脂を用いることが報告されている。また特許文献2〜4には、高熱伝導性を発現するための手法としてビフェニル骨格を有するエポキシ樹脂を用いることが報告されており、このうち特許文献4には高熱伝導率を有する無機充填材を併用する手法が記載されている。特許文献5〜7には、本発明の式(1)におけるRがすべて水素原子であるエポキシ樹脂が記載されており、このうち特許文献5の実施例には該エポキシ樹脂及びその硬化物性についての記述がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開平11−323162号公報
【特許文献2】特開2003−137971号公報
【特許文献3】特開2004−2573号公報
【特許文献4】特開2006−63315号公報
【特許文献5】特開平2−270849号公報
【特許文献6】特開平2−232220号公報
【特許文献7】特開平2−275872号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1に記載の方法は、エポキシ樹脂を製造する際に酸化によるエポキシ化反応を行う必要があることから安全性やコストに難があり、実用的とは言えない。特許文献2〜4に記載の手法により得られる硬化物の熱伝導性は、市場の要望を満足するレベルとは言い難い。また、特許文献5〜7には、本発明の式(1)におけるRがすべて水素原子であるエポキシ樹脂の硬化物が高い熱伝導率を有することは開示されていない。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明者らは前記課題を解決するため鋭意研究の結果、本発明を完成した。
即ち、本発明は、
(1)式(1)
【0006】
【化1】

【0007】
(式中、Rはそれぞれ独立して水素原子、炭素数1〜8の炭化水素基、トリフルオロメチル基、アリール基またはメトキシ基を示す。)で表されるエポキシ樹脂、硬化剤及び熱伝導率20W/m/K以上の無機充填材を含有してなるエポキシ樹脂組成物、
(2)半導体封止用途に用いられる前項(1)記載のエポキシ樹脂組成物、
(3)前項(1)記載のエポキシ樹脂組成物をシート状の繊維基材に保持し、半硬化状態にして得られるプリプレグ、
(4)前項(1)若しくは(2)記載のエポキシ樹脂組成物または前項(3)記載のプリプレグを硬化してなる硬化物、
に関する。
【発明の効果】
【0008】
本発明のエポキシ樹脂組成物は、その硬化物が熱伝導性に優れているため、半導体封止材料、プリプレグを始めとする各種複合材料、接着剤、塗料等に使用する場合に有用である。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【図1】合成例2で得られた式(1)で表されるエポキシ樹脂の1H−NMRスペクトルである。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
本発明のエポキシ樹脂組成物は、式(1)で表されるエポキシ樹脂を含有する。
式(1)における炭素数1〜8の炭化水素基としては、炭素数1〜8からなる炭化水素基であれば飽和炭化水素基又は不飽和炭化水素基のどちらでも良く、その構造も直鎖状、分岐状、環状等何ら限定されない。これら炭化水素基の具体例としては、メチル基、エチル基、イソプロピル基、t−ブチル基、シクロヘキシル基等が挙げられる。
式(1)におけるアリール基の具体例としては、フェニル基、トリル基、キシリル基、ビフェニリル基、ナフチル基、アントリル基、フェナントリル基等が挙げられる。
これらのうち、式(1)におけるRとしては、エポキシ樹脂の配列を阻害しない点から水素原子またはメチル基が好ましい。
【0011】
本発明のエポキシ樹脂組成物が含有する式(1)で表されるエポキシ樹脂は、例えば、下記式(2)(式中、Rは式(1)におけるのと同じ意味を表す。)で表される多価フェノール化合物とエピハロヒドリン類とを反応させるグリシジル化反応により得ることが出来る。式(2)で表される化合物としては、最終的に得られる式(1)で表されるエポキシ樹脂の配列を阻害しない点から、式(2)におけるRが水素原子またはメチル基であるものが好ましい。
【0012】
【化2】

【0013】
式(2)で表される多価フェノール化合物は、たとえば、下記式(3)(式中、Rは式(1)におけるのと同じ意味を表し、R1は水素原子または保護基を表す)で表される化合物と下記式(4)(式中、Rは式(1)におけるのと同じ意味を表し、R2は水素原子または保護基を表す)で表される化合物とをアミド化反応させたのち、R1及び/又はR2が保護基の場合には、脱保護することにより得ることが出来る。
尚、ここで保護基とは、副反応を抑えることを主目的に骨格構造に結合させた官能基であり、脱保護とは、骨格構造を実質的に変性することなく、保護基のみを骨格構造から取り除く操作をいう(例えば「第5版実験化学講座16巻、118ページ、丸善株式会社、2005年」参照)。
【0014】
【化3】

【0015】
式(3)及び/又は式(4)におけるR1及び/又はR2が水素原子の場合、式(3)で表される化合物中のカルボキシル基と式(3)及び/又は式(4)で表される化合物中の水酸基とのエステル化反応が起こり、目的物の収率が低下する。従って、式(3)及び式(4)におけるR1及びR2は保護基であることが好ましいが、式(3)で表される化合物に対して式(4)で表される化合物を大過剰に用いる場合には、R2が水素原子であっても構わない。R1及びR2における保護基は特に限定されないが、アセチル基であることが好ましい。
式(3)で表される化合物と式(4)で表される化合物とのアミド化反応は、たとえば、「第5版実験化学講座16巻、118ページ、丸善株式会社、2005年」に記載されている等公知の方法で行うことが出来る。具体的には式(3)で表される化合物の酸ハライド化物を経る方法、縮合剤としてジシクロヘキシルカルボジイミドや亜リン酸トリフェニルなどのリン化合物を用いる方法などが挙げられる。
【0016】
次に脱保護反応について述べる。
式(3)及び/又は式(4)におけるR1及び/又はR2が保護である場合、保護基の種類に対応した脱保護反応により脱保護を行うことが出来る。
例えば保護基がアセチル基の場合、通常には溶媒中、アルカリ化合物を用いて加水分解によって脱保護を行い、更に酸によって脱アルカリ金属させることにより、式(2)で表される多価フェノール化合物が得られる。該反応に用い得る溶媒としては、反応を阻害しないものであれば特に限定されないが、好ましくは水、メタノール、エタノールおよびこれらの混合溶媒であり、より好ましくは水である。溶媒は、アミド化反応により得られた化合物の濃度が、通常5〜50質量%、好ましくは10〜40質量%となる量が用いられる。また、反応に用い得るアルカリ化合物としては、アミド結合を加水分解せず、かつアセチル基を脱離するに十分な塩基性を有するものであれば特に限定されないが、好ましくは水酸化ナトリウムである。反応温度は通常10〜60℃、好ましくは15〜50℃であり、反応時間は通常10分間〜5時間、好ましくは15分間〜1時間である。脱保護反応終了後、塩酸を用いて反応溶液のpHを2以下に調整して得られた析出物を水洗・乾燥することにより式(2)で表される多価フェノール化合物を得ることが出来る。
【0017】
また特許文献1には、式(2)におけるRがすべて水素原子である多価フェノール化合物を下記式(5)で表される化合物から得る方法が記載されており、この方法に準じて式(2)で表されるフェノール化合物を得ることも出来る。
【0018】
【化4】

【0019】
次に式(2)で表される多価フェノールから式(1)で表されるエポキシ樹脂を得る方法について述べる。
グリシジル化反応は、式(2)で表される多価フェノール化合物とエピハロヒドリン類との混合物に、触媒として水酸化ナトリウム、水酸化カリウム等のアルカリ金属水酸化物の固体を添加し、または添加しながら20〜120℃で0.5〜10時間反応させる。アルカリ金属水酸化物は水溶液を使用してもよく、その場合は該アルカリ金属水酸化物を連続的に添加すると共に、反応混合物中から減圧下又は常圧下で連続的に水及びエピハロヒドリン類を留出せしめた後、分液により水を除去しエピハロヒドリン類のみを反応混合物中に連続的に戻す方法でもよい。
グリシジル化反応に使用されるエピハロヒドリン類としては、エピクロルヒドリン、β−メチルエピクロルヒドリン、エピブロムヒドリン、エピヨードヒドリン等が挙げられ、エピクロルヒドリンやβ−メチルエピクロルヒドリンが好ましい。
エピハロヒドリン類の好ましい使用量としては、式(2)で表される多価フェノール化合物の水酸基1モルに対して1〜10モル、より好ましくは1.5〜5モルである。
アルカリ金属水酸化物の使用量は、式(2)で表される多価フェノール化合物中の水酸基1モルに対し通常0.5〜2.0モル、好ましくは0.7〜1.5モルである。
【0020】
グリシジル化反応は溶媒中で行っても良い。反応に用い得る溶媒としては、式(2)で表される多価フェノール化合物を溶解可能で、かつ反応に悪影響を与えないものであれば特に限定されない。該溶媒としては、例えば、メタノール、エタノール、プロパノール等のアルコール類やジメチルスルホン、ジメチルスルホキシド、N,N−ジメチルホルムアミド、1,3−ジメチル−2−イミダゾリジノン、ジオキサン、アセトニトリル、テトラヒドロフラン、ジグライム等の非プロトン性極性溶媒が好適であり、これらを混合して用いてもよい。溶媒の使用量は式(2)で表される多価フェノール化合物に対し、通常50〜1000質量%、好ましくは100〜500質量%である。
また、反応に際してテトラメチルアンモニウムクロライド、テトラメチルアンモニウムブロマイド、トリメチルベンジルアンモニウムクロライドなどの第四級アンモニウム塩を触媒として使用することもできる。この場合の第四級アンモニウム塩の使用量は、式(2)で表される多価フェノール化合物の水酸基1モルに対して通常0.001〜0.2モル、好ましくは0.05〜0.1モルである。これら触媒は上記の溶媒と併用してもよい。
【0021】
反応終了後、反応混合物から式(1)で表されるエポキシ樹脂を含む析出物(場合により無機塩を含む)を濾別し、水洗及び必要により再結晶等の精製工程を経て、式(1)で表されるエポキシ樹脂を得ることが出来る。また、析出物を除去した濾液から無機塩のみを濾過や水洗、又は両者の組み合わせにより除去し、加熱減圧下、過剰のエピハロヒドリン類を除去した後、トルエン、キシレン、メチルイソブチルケトン等の溶媒に溶解し、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム等のアルカリ金属水酸化物の水溶液を加えて再び反応を行うと更に収率が向上する場合がある。この場合、アルカリ金属水酸化物の使用量は反応に用いた多価フェノール化合物のフェノール性水酸基1モルに対して通常0.01〜0.2モル、好ましくは0.05〜0.1モルである。反応温度は通常50〜120℃、反応時間は通常0.5〜2時間である。反応の際に反応混合物中に新たに生じた無機塩は、反応終了後濾別もしくは水洗によって取り除くことが可能である。
【0022】
本発明のエポキシ樹脂組成物において、式(1)で表されるエポキシ樹脂は単独でまたは他のエポキシ樹脂と併用して使用することができる。併用する場合、本発明のエポキシ樹脂の全エポキシ樹脂中に占める割合は20質量%以上が好ましく、特に30質量%以上が好ましい。
式(1)で表されるエポキシ樹脂と併用しうる他のエポキシ樹脂の具体例としては、ビスフェノール類(ビスフェノールA、ビスフェノールF、ビスフェノールS、ビフェノール、ビスフェノールAD及びビスフェノールI等)やフェノール類(フェノール、アルキル置換フェノール、芳香族置換フェノール、ナフトール、アルキル置換ナフトール、ジヒドロキシベンゼン、アルキル置換ジヒドロキシベンゼン及びジヒドロキシナフタレン等)と各種アルデヒド(ホルムアルデヒド、アセトアルデヒド、アルキルアルデヒド、ベンズアルデヒド、アルキル置換ベンズアルデヒド、ヒドロキシベンズアルデヒド、ナフトアルデヒド、グルタルアルデヒド、フタルアルデヒド、クロトンアルデヒド及びシンナムアルデヒド等)との重縮合物、キシレン等の芳香族化合物とホルムアルデヒドの重縮合物とフェノール類との重縮合物、フェノール類と各種ジエン化合物(ジシクロペンタジエン、テルペン類、ビニルシクロヘキセン、ノルボルナジエン、ビニルノルボルネン、テトラヒドロインデン、ジビニルベンゼン、ジビニルビフェニル、ジイソプロペニルビフェニル、ブタジエン及びイソプレン等)との重合物、フェノール類とケトン類(アセトン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、アセトフェノン及びベンゾフェノン等)との重縮合物、フェノール類と芳香族ジメタノール類(ベンゼンジメタノール及びビフェニルジメタノール等)との重縮合物、フェノール類と芳香族ジクロロメチル類(α,α’−ジクロロキシレン及びビスクロロメチルビフェニル等)との重縮合物、フェノール類と芳香族ビスアルコキシメチル類(ビスメトキシメチルベンゼン、ビスメトキシメチルビフェニル及びビスフェノキシメチルビフェニル等)との重縮合物、ビスフェノール類と各種アルデヒドの重縮合物、並びにアルコール類等をグリシジル化したグリシジルエーテル系エポキシ樹脂、脂環式エポキシ樹脂、グリシジルアミン系エポキシ樹脂、グリシジルエステル系エポキシ樹脂等が挙げられるが、通常用いられるエポキシ樹脂であればこれらに限定されるものではない。これらを1種類のみ併用しても、2種以上を併用してもよい。
【0023】
本発明のエポキシ樹脂組成物が含有する無機充填材としては、20W/m/K以上の熱伝導率を有するものであれば何ら制限はない。この様な特性を有する無機充填材の具体例としては、例えば、窒化ホウ素、窒化アルミニウム、窒化ケイ素、炭化ケイ素、窒化チタン、酸化亜鉛、炭化タングステン、アルミナ、酸化マグネシウム等の無機粉末充填材、合成繊維、セラミックス繊維等の繊維質充填材、着色剤等が挙げられる。これら無機充填材の形状は、粉末(塊状、球状)、単繊維、長繊維等いずれであってもよいが、特に、平板状のものであれば、無機充填材自身の積層効果によって硬化物の熱伝導性がより高くなり、硬化物の放熱性が更に向上するので好ましい。また、無機充填材の熱伝導率が30W/m/K以上であればエポキシ樹脂組成物の硬化物の熱伝導率が更に向上するので好ましい。
本発明のエポキシ樹脂組成物における無機充填材の使用量は、エポキシ樹脂組成物中の樹脂成分100質量部に対して通常2〜1000質量部であるが、熱伝導率を出来るだけ高める為には、本発明のエポキシ樹脂組成物の具体的な用途における取り扱い等に支障を来たさない範囲で、可能な限り無機充填材の使用量を増やすことが好ましい。これら無機充填材は1種のみを使用しても、2種類以上を併用してもよい。
また、充填材全体としての熱伝導率を20W/m/K以上に維持できる範囲であれば、熱伝導率が20W/m/K以上の無機充填材に熱伝導率が20W/m/K以下の充填材を併用しても構わないが、出来るだけ熱伝導率の高い硬化物を得るという本発明の目的からして、熱伝導率が20W/m/K以下の充填材の使用は最小限に留めるべきである。併用し得る充填材の種類や形状に特に制限はない。
【0024】
本発明のエポキシ樹脂組成物を半導体封止用途に用いる場合、硬化物の耐熱性、耐湿性、力学的性質などの点から、エポキシ樹脂組成物中において70〜93質量%を占める割合で無機充填材使用するのが好ましい。この場合、残部は本発明のエポキシ樹脂、硬化剤及びその他必要に応じて添加される添加剤であり、添加剤としては他のエポキシ樹脂、併用しうる充填材及び硬化促進剤等である。
【0025】
本発明のエポキシ樹脂組成物が含有する硬化剤としては、例えばアミン系化合物、酸無水物系化合物、アミド系化合物及びフェノール系化合物等が挙げられる。これら各硬化剤の具体例を下記(a)〜(e)に示す。
(a)アミン系化合物
ジアミノジフェニルメタン、ジエチルジアミノジフェニルメタン、ジエチレントリアミン、トリエチレンテトラミン、ジアミノジフェニルスルホン、イソホロンジアミン及びナフタレンジアミン等
(b)酸無水物系化合物
無水フタル酸、無水トリメリット酸、無水ピロメリット酸、無水マレイン酸、テトラヒドロ無水フタル酸、メチルテトラヒドロ無水フタル酸、無水メチルナジック酸、ヘキサヒドロ無水フタル酸及びメチルヘキサヒドロ無水フタル酸等
(c)アミド系化合物
ジシアンジアミド、若しくはリノレン酸の2量体とエチレンジアミンより合成されるポリアミド樹脂等
【0026】
(d)フェノール系化合物
多価フェノール類(ビスフェノールA、ビスフェノールF、ビスフェノールS、フルオレンビスフェノール、テルペンジフェノール、4,4’−ジヒドロキシビフェニル、2,2’−ジヒドロキシビフェニル、3,3’,5,5’−テトラメチル−(1,1’−ビフェニル)−4,4’−ジオール、ハイドロキノン、レゾルシン、ナフタレンジオール、トリス−(4−ヒドロキシフェニル)メタン及び1,1,2,2−テトラキス(4−ヒドロキシフェニル)エタン等);フェノール類(例えば、フェノール、アルキル置換フェノール、ナフトール、アルキル置換ナフトール、ジヒドロキシベンゼン及びジヒドロキシナフタレン等)と、アルデヒド類(ホルムアルデヒド、アセトアルデヒド、ベンズアルデヒド、p−ヒドロキシベンズアルデヒド、o−ヒドロキシベンズアルデヒド及びフルフラール等)、ケトン類(p−ヒドロキシアセトフェノン及びo−ヒドロキシアセトフェノン等)、若しくはジエン類(ジシクロペンタジエン及びトリシクロペンタジエン等)との縮合により得られるフェノール樹脂;前記フェノール類と、置換ビフェニル類(4,4’−ビス(クロルメチル)−1,1’−ビフェニル及び4,4’−ビス(メトキシメチル)−1,1’−ビフェニル等)、若しくは置換フェニル類(1,4−ビス(クロロメチル)ベンゼン、1,4−ビス(メトキシメチル)ベンゼン及び1,4−ビス(ヒドロキシメチル)ベンゼン等)等との重縮合により得られるフェノール樹脂;前記フェノール類及び/又は前記フェノール樹脂の変性物;テトラブロモビスフェノールA及び臭素化フェノール樹脂等のハロゲン化フェノール類
(e)その他イミダゾール類、BF3−アミン錯体、グアニジン誘導体
これら硬化剤の中ではジアミノジフェニルメタン、ジアミノジフェニルスルホン、及びナフタレンジアミンなどのアミン系化合物およびカテコールとアルデヒド類、ケトン類、ジエン類、置換ビフェニル類、置換フェニル類との縮合物などの活性水素基が隣接している構造を有する硬化剤がエポキシ樹脂の配列に寄与するため好ましい。上記の硬化剤は単独で用いてもよく、2種以上を用いてもよい。
本発明のエポキシ樹脂組成物において硬化剤の使用量は、エポキシ樹脂のエポキシ基1当量に対して0.5〜2.0当量が好ましく、0.6〜1.5当量が特に好ましい。
【0027】
本発明のエポキシ樹脂組成物には硬化促進剤を含有させることもできる。用いうる硬化促進剤としては、例えば、2−メチルイミダゾール、2−エチルイミダゾール、2−フェニルイミダゾール及び2−エチル−4−メチルイミダゾール等のイミダゾール類、2−(ジメチルアミノメチル)フェノール、トリエチレンジアミン、トリエタノールアミン及び1,8−ジアザビシクロ(5,4,0)ウンデセン−7等の第3級アミン類、トリフェニルホスフィン、ジフェニルホスフィン及びトリブチルホスフィン等の有機ホスフィン類、オクチル酸スズなどの金属化合物、テトラフェニルホスホニウム・テトラフェニルボレート及びテトラフェニルホスホニウム・エチルトリフェニルボレート等のテトラ置換ホスホニウム・テトラ置換ボレート、2−エチル−4−メチルイミダゾール・テトラフェニルボレート及びN−メチルモルホリン・テトラフェニルボレート等のテトラフェニルボロン塩などが挙げられる。硬化促進剤は、エポキシ樹脂100部に対して0.01〜15部が必要に応じ用いられる。
【0028】
本発明のエポキシ樹脂組成物には、必要に応じてシランカップリング剤、離型剤及び顔料等種々の配合剤、各種熱硬化性樹脂並びに各種熱可塑性樹脂等を添加することができる。熱硬化性樹脂及び熱可塑性樹脂の具体例としては、ビニルエステル樹脂、不飽和ポリエステル樹脂、マレイミド樹脂、シアナート樹脂、イソシアナート化合物、ベンゾオキサジン化合物、ビニルベンジルエーテル化合物、ポリブタジエンおよびこの変性物、アクリロニトリル共重合体の変性物、インデン樹脂、フッ素樹脂、シリコーン樹脂、ポリエーテルイミド、ポリエーテルスルホン、ポリフェニレンエーテル、ポリアセタール、ポリスチレン、ポリエチレン、ジシクロペンタジエン樹脂等が挙げられる。熱硬化性樹脂、または熱可塑性樹脂は本発明のエポキシ樹脂組成物中において60質量%以下を占める量が用いられる。
本発明のエポキシ樹脂組成物は上記各成分を均一に混合することにより得られ、その好ましい用途としては半導体封止材やプリント配線版等が挙げられる。
【0029】
本発明のエポキシ樹脂組成物は従来知られているのと同様の方法で容易にその硬化物とすることが出来る。例えば、式(1)で表されるエポキシ樹脂、硬化剤及び熱伝導率が20W/m/K以上の無機充填材、並びに必要により硬化促進剤、配合剤、各種熱硬化性樹脂や各種熱可塑性樹脂等を必要に応じて押出機、ニーダ又はロール等を用いて均一になるまで充分に混合して得られた本発明のエポキシ樹脂組成物を、溶融注型法あるいはトランスファー成型法やインジェクション成型法、圧縮成型法などによって成型し、更にその融点以上で2〜10時間加熱することにより本発明のエポキシ樹脂組成物の硬化物を得ることが出来る。前述の方法でリードフレーム等に搭載された半導体素子を封止することにより、本発明のエポキシ樹脂組成物を半導体封止用途に用いることができる。
【0030】
また、本発明のエポキシ樹脂組成物は溶剤を含むワニスとすることもできる。該ワニスは、式(1)で表されるエポキシ樹脂、硬化剤及び熱伝導率が20W/m/K以上の無機充填材、並びに必要に応じてその他の成分を含む組成物を、トルエン、キシレン、アセトン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、シクロヘキサノン、シクロペンタノン、N,N’−ジメチルホルムアミド、N,N’−ジメチルアセトアミド、ジメチルスルホキシド、N−メチルピロリドン、エチレングリコールジメチルエーテル、エチレングリコールジエチルエーテル、ジプロピレングリコールジメチルエーテル、ジプロピレングリコールジエチルエーテル、トリエチレングリコールジメチルエーテル、トリエチレングリコールジエチルエーテル等のグリコールエーテル類、酢酸エチル、酢酸ブチル、メチルセロソルブアセテート、エチルセロソルブアセテート、ブチルセロソルブアセテート、カルビトールアセテート、プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート、グルタル酸ジアルキル、コハク酸ジアルキル、アジピン酸ジアルキル等のエステル類、γ−ブチロラクトン等の環状エステル類、石油エーテル、石油ナフサ、水添石油ナフサ及びソルベントナフサ等の石油系溶剤等の有機溶剤に溶解させることにより得ることが出来る。溶剤の量はワニス全体に対し通常10〜95質量%、好ましくは15〜85質量%である。
上記のようにして得られるワニスをガラス繊維、カーボン繊維、ポリエステル繊維、ポリアミド繊維、アルミナ繊維及び紙などの基材に含浸させた後に加熱によって溶剤を除去すると共に、本発明のエポキシ樹脂組成物を半硬化状態とすることにより本発明のプリプレグを得ることが出来る。尚、ここで言う「半硬化状態」とは、反応性の官能基であるエポキシ基が一部未反応で残っている状態を意味する。該プリプレグを熱プレス成型して硬化物を得ることが出来る。
【実施例】
【0031】
以下、本発明を実施例で更に詳細に説明するが、本発明はこれら実施例に限定されるものではない。合成例、実施例、比較例において部は質量部を意味する。なお、分析に用いた機器や分析条件は以下のとおりである。
エポキシ当量
JIS K−7236に記載された方法で測定。
DSC(示差走査熱量)
測定機器 :DSC6200(セイコー電子工業株式会社製)
昇温速度 :10℃/min.
パン :Alパン
熱伝導率
測定機器 :UNITHERM MODEL2022(THERMAL CONDUCTIVITY INSTRUMENT社製)
測定温度 :30℃
NMR(核磁気共鳴吸収)
測定機器 :Gemini300(バリアン社製)
使用溶媒 :DMSO−d6
測定温度 :25℃
【0032】
(合成例1)
攪拌機、還流冷却管、撹拌装置を備えたフラスコに4−アミノフェノール43.6g、N,N−ジメチルホルムアミド100g、トリエチルアミン20gを加え、室温にて溶解した。この溶液を溶液Aとした。一方攪拌機、還流冷却管、撹拌装置を備えたフラスコに、酢酸―4−カルボキシフェニルエステル36g、塩化チオニル28.6g、N,N−ジメチルホルムアミド0.1gを加え、50℃で2時間反応させた。反応終了後、70℃に昇温し、真空ポンプにて減圧乾固した。乾固終了後、室温まで冷却し、N,N−ジメチルホルムアミド150gで溶解した。これを溶液Bとした。溶液Bに滴下漏斗にて1時間かけて溶液Aを滴下した。滴下終了後、室温にて3時間反応させた。
反応終了後、反応液を1Lの蒸留水に投入し、ろ過により析出物をろ別し、この析出物を1Lの蒸留水に分散し、pHが13以上になるまで水酸化ナトリウムを加えた。pHが13以上にて30分間攪拌の後、塩酸にてpH3以下にし、析出した析出物をろ別した。この析出物を水洗・乾燥し、多価フェノール化合物42gを得た。
【0033】
(合成例2)
攪拌機、還流冷却管、撹拌装置を備えたフラスコに、合成例1で得られた多価フェノール化合物15g、エピクロルヒドリン150g、メタノール100g、イオン交換水2.6gを加え、60℃に加熱した。60℃到達後、フレーク状水酸化ナトリウム(純度99%)5.49gを6分割し、15分間隔にて加えた。フレーク状水酸化ナトリウム投入後、60℃にて4時間反応させた。
反応終了後、真空ポンプにて過剰のエピクロルヒドリンとメタノールを留去した。留去後、蒸留水にて水洗・乾燥しエポキシ樹脂18gを得た。このエポキシ樹脂の融点は、DSC測定から184℃、エポキシ当量は180g/eq.であった。またこのエポキシ樹脂の1H−NMRスペクトルを図1に示した。
【0034】
(実施例1)
合成例1で得られたエポキシ樹脂9.37g、硬化剤としてジアミノジフェニルメタン2.63g、球状アルミナ(商品名:DAW−100、電気化学工業製、熱伝導率38W/m/K)39.7gとを混合し、175℃にて硬化し、厚さ1.88mmの硬化物を得た。この硬化物の熱伝導率を測定した結果、5.5W/m/Kであった。

(比較例1)
【0035】
エポキシ樹脂としてオルソクレゾールノボラック型エポキシ樹脂(商品名:EOCN−1020−62、日本化薬製)9.59g、硬化剤としてジアミノジフェニルメタン2.41g、球状アルミナ(商品名:DAW−100、電気化学工業製、熱伝導率38W/m/K)39.2gとを混合し、175℃にて硬化し、厚さ1.8mmの硬化物を得た。この硬化物の熱伝導率を測定した結果、2.4W/m/Kであった。
【0036】
(比較例2)
下記式(6)及び(7)で表されるエポキシ樹脂を等モル含有するエポキシ樹脂として、ビフェニル型エポキシ樹脂(商品名:YL−6121H ジャパンエポキシレジン製 エポキシ当量175g/eq.)100g、硬化剤として1,5−ナフタレンジアミン23g、球状アルミナ(商品名:DAW−100、電気化学工業製、熱伝導率38W/m/K)203gを混合し、ミキシングロールで混練、タブレット化後、トランスファー成形で樹脂成形体を調製し、160℃で2時間、更に180℃で8時間して硬化物を得たこの硬化物の熱伝導率を測定したところ、3.5W/m/Kであった。
【0037】
【化5】

【0038】
【化6】

【0039】
以上の結果より、本発明のエポキシ樹脂組成物の硬化物は、高熱伝導率を有することが確認できた。したがって本発明のエポキシ樹脂組成物の硬化物は、電気・電子部品用絶縁材料及び積層板(プリント配線板など)等に使用する場合に極めて有用である。
【産業上の利用可能性】
【0040】
本発明のエポキシ樹脂組成物の硬化物は高い耐熱性を示すと共に従来のエポキシ樹脂の硬化物よりも極めて高い熱伝導率を示す。従って、電気・電子部品製造用の材料やCFRPを始めとする各種複合材料、接着剤、塗料等に使用する場合に極めて有用である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
式(1)
【化1】

(式中、Rはそれぞれ独立して水素原子、炭素数1〜8の炭化水素基、トリフルオロメチル基、アリール基またはメトキシ基を示す。)で表されるエポキシ樹脂、硬化剤及び熱伝導率20W/m/K以上の無機充填材を含有してなるエポキシ樹脂組成物。
【請求項2】
半導体封止用途に用いられる請求項1記載のエポキシ樹脂組成物。
【請求項3】
請求項1記載のエポキシ樹脂組成物をシート状の繊維基材に保持し、半硬化状態にして得られるプリプレグ。
【請求項4】
請求項1若しくは2記載のエポキシ樹脂組成物または請求項3記載のプリプレグを硬化してなる硬化物。

【図1】
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【公開番号】特開2010−195851(P2010−195851A)
【公開日】平成22年9月9日(2010.9.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−39065(P2009−39065)
【出願日】平成21年2月23日(2009.2.23)
【出願人】(000004086)日本化薬株式会社 (921)
【Fターム(参考)】