説明

エポキシ樹脂組成物

【課題】ポリイミドフィルムに対する接着強度に優れ、かつ、エポキシ樹脂とフェノキシ樹脂との相分離が抑制されたエポキシ樹脂組成物を提供する。
【解決手段】エポキシ樹脂(A)と、ビスフェノールA型フェノキシ樹脂とビスフェノールF型フェノキシ樹脂との共重合体であるフェノキシ樹脂(B)と、質量平均粒子径が0.05〜1.0μmであり、ガラス転移温度が−30℃以下の重合体で構成されたコア層とガラス転移温度が70℃以上の重合体で構成されたシェル層とを有するコアシェル型ゴム粒子(C)と、エポキシ樹脂用硬化剤(D)と、を含有するエポキシ樹脂組成物。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、エポキシ樹脂組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、エポキシ樹脂と、フェノキシ樹脂と、コアシェル型ゴム粒子と、エポキシ樹脂用硬化剤とを含有するエポキシ樹脂組成物が知られている(例えば、特許文献1参照)。このようなエポキシ樹脂組成物は、ポリイミドフィルムの接着用途に使用されることがある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2007−254709公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、フェノキシ樹脂としてビスフェノールA型フェノキシ樹脂またはビスフェノールF型フェノキシ樹脂を使用した場合には、エポキシ樹脂組成物の流動性が劣ることにより、例えば配線間のピッチの狭い被着体に塗布してもなじまなかったり所望の部位に留まらなかったりして、ポリイミドフィルムに対する接着性が比較的に劣ることを、本願発明者は見出した。
【0005】
一方、フェノキシ樹脂としてビスフェノールA型フェノキシ樹脂とビスフェノールF型フェノキシ樹脂との混合物を使用した場合には、エポキシ樹脂組成物の流動性は最適化されてポリイミドフィルムに対する接着性は向上するけれども、エポキシ樹脂とフェノキシ樹脂とが相分離して塗膜にまだら模様が発生してしまうことを、本願発明者は見出した。
【0006】
そこで、本発明の目的は、ポリイミドフィルムに対する接着強度に優れ、かつ、エポキシ樹脂とフェノキシ樹脂との相分離が抑制されたエポキシ樹脂組成物を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本願発明者は、上記課題を解決すべく鋭意研究した結果、フェノキシ樹脂としてビスフェノールA型フェノキシ樹脂とビスフェノールF型フェノキシ樹脂との共重合体を使用することにより、ポリイミドフィルムに対する接着強度に優れ、かつ、エポキシ樹脂とフェノキシ樹脂との相分離が抑制されたエポキシ樹脂組成物となることを見出し、本発明を完成させた。
【0008】
すなわち、本発明は、次に示す(1)〜(3)である。
【0009】
(1) エポキシ樹脂(A)と、ビスフェノールA型フェノキシ樹脂とビスフェノールF型フェノキシ樹脂との共重合体であるフェノキシ樹脂(B)と、質量平均粒子径が0.05〜1.0μmであり、ガラス転移温度が−30℃以下の重合体で構成されたコア層とガラス転移温度が70℃以上の重合体で構成されたシェル層とを有するコアシェル型ゴム粒子(C)と、エポキシ樹脂用硬化剤(D)と、を含有するエポキシ樹脂組成物。
【0010】
(2) 前記ビスフェノールA型フェノキシ樹脂と前記ビスフェノールF型フェノキシ樹脂との質量比が、70/30〜30/70である、上記(1)記載のエポキシ樹脂組成物。
【0011】
(3) 前記エポキシ樹脂(A)100質量部に対して、前記フェノキシ樹脂(B)が20〜190質量部であり、前記コアシェル型ゴム粒子(C)が5〜130質量部である、上記(1)または(2)に記載のエポキシ樹脂組成物。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、フェノキシ樹脂(B)として、ビスフェノールA型フェノキシ樹脂とビスフェノールF型フェノキシ樹脂との共重合体を使用することにより、ポリイミドフィルムに対する接着強度に優れ、かつ、エポキシ樹脂とフェノキシ樹脂との相分離が抑制されたエポキシ樹脂組成物を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0013】
本発明は、エポキシ樹脂(A)と、ビスフェノールA型フェノキシ樹脂とビスフェノールF型フェノキシ樹脂との共重合体であるフェノキシ樹脂(B)と、質量平均粒子径が0.05〜1.0μmであり、ガラス転移温度が−30℃以下の重合体からなるコア層とガラス転移温度が70℃以上の重合体からなるシェル層とを有するコアシェル型ゴム粒子(C)と、エポキシ樹脂用硬化剤(D)と、を含有するエポキシ樹脂組成物である。このようなエポキシ樹脂を、本明細書では単に「本発明の組成物」という場合がある。以下、本発明について説明する。
【0014】
1.エポキシ樹脂(A)
本発明の組成物に含有されるエポキシ樹脂(A)は、エポキシ基を2個以上有する化合物であれば特に制限されない。
【0015】
エポキシ樹脂(A)としては、例えば、ビスフェノールA型、ビスフェノールF型、臭素化ビスフェノールA型、水添ビスフェノールA型、ビスフェノールS型、ビスフェノールAF型、ビフェニル型等のビスフェニル基を有するエポキシ化合物、ポリアルキレングリコール型、アルキレングリコール型のエポキシ化合物、ナフタレン環を有するエポキシ化合物、フルオレン基を有するエポキシ化合物等の二官能型のグリシジルエーテル型エポキシ樹脂;フェノールノボラック型、オルソクレゾールノボラック型、トリスヒドロキシフェニルメタン型、テトラフェニロールエタン型等の多官能型のグリシジルエーテル型エポキシ樹脂;ダイマー酸のような合成脂肪酸のグリシジルエステル型エポキシ樹脂;N,N,N´,N´−テトラグリシジルジアミノジフェニルメタン(TGDDM)、テトラグリシジル−m−キシリレンジアミン、トリグリシジル−p−アミノフェノール、N,N−ジグリシジルアニリンのようなグリシジルアミノ基を有する芳香族エポキシ樹脂;トリシクロデカン環を有するエポキシ化合物(例えば、ジシクロペンタジエンとm−クレゾールのようなクレゾール類またはフェノール類を重合させた後、エピクロルヒドリンを反応させる製造方法によって得られるエポキシ化合物)等に例示されるエポキシ樹脂を使用することができる。
【0016】
エポキシ樹脂(A)としては、ビスフェノールF型エポキシ樹脂、ビスフェノールA型エポキシ樹脂であることが好ましい。
【0017】
また、エポキシ樹脂(A)のエポキシ当量は、190〜250であることが好ましく、190〜240であることがより好ましく、190〜230であることがさらに好ましい。その理由は、低温から高温における接着性能および柔軟性により優れ、適切な架橋密度となるからである。
【0018】
2.フェノキシ樹脂(B)
フェノキシ樹脂とは、エポキシ樹脂のうち、エピクロルヒドリンとビスフェノールとから作られるエポキシ樹脂であって、例えば質量平均分子量10000以上の高分子量エポキシ樹脂のことをいう。
【0019】
本発明の組成物が含有するフェノキシ樹脂(B)は、ビスフェノールA型フェノキシ樹脂とビスフェノールF型フェノキシ樹脂との共重合体である。すなわち、エポキシ樹脂の一種であるフェノキシ樹脂(B)は、共重合体であるという点で本発明の組成物が含有するエポキシ樹脂(A)と相違する。このようなフェノキシ樹脂(B)を用いることにより、低温短期間の熱処理、例えば160℃、10秒の熱圧着でポリイミドフィルムに対して優れた接着性能を示す。また、エポキシ樹脂(A)とフェノキシ樹脂(B)との相分離を抑制することができる。
【0020】
このとき、ビスフェノールA型フェノキシ樹脂とビスフェノールF型フェノキシ樹脂との質量比は、70/30〜30/70であることが好ましく、55/45〜45/55であることがより好ましい。どのようなエポキシに対しても相溶性が優れるからである。
【0021】
このようなフェノキシ樹脂(B)の質量平均分子量は、5000〜50000であることが好ましく、10000〜30000であることがより好ましく、15000〜30000であることがさらに好ましい。接着剤に強靭性を付与できるからである。
【0022】
また、本発明の組成物は、フェノキシ樹脂(B):エポキシ樹脂(A)が質量部比0.5〜1であることが好ましい。その理由は、フェノキシ樹脂(B)とエポキシ樹脂(A)との相分離を抑制しつつ、相溶性を向上させるためである。
【0023】
3.コアシェル型ゴム粒子(C)
本発明の組成物が含有するコアシェル型ゴム粒子(C)は、内部のコア層を硬いシェル層で覆う構造(コア/シェル構造)を有する。
【0024】
まず、コア層について説明する。コア層は、ガラス転移温度が−30℃以下の重合体であれば特に限定されない。この温度は−110〜−30℃であることが好ましく、−110〜−40℃であることがより好ましい。理由は、低温での弾性率を下げ、剥離強度を上げることができるからである。なお、コア層のガラス転移温度とは、動的な粘弾性測定におけるtanδのピーク値の温度のことをいう。シェル層おけるガラス転移温度も同様とする。
【0025】
コア層を形成する物質としては、ガラス転移温度が−30℃以下であるジエン系重合体が挙げられる。
【0026】
ジエン系重合体としては、ジエン系単量体が重合してなる重合体が挙げられる。ジエン系重合体としては、ブタジエン、イソプレン、1,3−ペンタジエン、シクロペンタジエン、ジシクロペンタジエンなどの共役ジエン系化合物、1,4−ヘキサジエン、エチリデンノルボルネンなどの非共役ジエン系化合物が挙げられる。中でもブタジエンまたはイソプレンが好ましく、ブタジエンがより好ましい。これらの中の1種または2種以上を組み合わせて使用することができる。
【0027】
また、ジエン系単量体に、所望により架橋性単量体を添加してもよい。架橋性単量体は、得られる重合体のTgが−30℃以下となる範囲であれば、単独で用いてもよいし、2種以上を組み合わせて用いてもよい。架橋性単量体の使用量は、単量体全質量に基づき、0.01〜5質量%であることが好ましく、0.1〜2質量%であることがより好ましい。
【0028】
さらに、ジエン系単量体および架橋性単量体とともに、所望に応じ共重合可能な他の単量体を用いることができる。この所望に応じて用いられる共重合可能な他の単量体としては、例えばスチレン、ビニルトルエン、α−メチルスチレンなどの芳香族ビニル系化合物、アクリロニトリル、メタクリロニトリルなどのシアン化ビニル系化合物、さらには、シアン化ビニリデン、2−ヒドロキシエチルアクリレート、2−ヒドロキシエチルメタクリレート、3−ヒドロキシブチルアクリレート、2−ヒドロキシエチルフマレート、ヒドロキシブチルビニルエーテル、モノブチルマレエート、グリシジルメタクリレート、ブトキシエチルメタクリレートなどが挙げられる。これらは1種用いてもよいし、2種以上を組み合わせて用いてもよい。このような他の単量体の使用量は、得られる重合体のTgが−30℃以下となる範囲で選ぶ必要があるが、通常単量体全質量に基づき50質量%以下である。また必要によりt−ドデシルメルカプタン等の分子量調節剤を添加してもよい。
【0029】
コア層を形成する物質は、このようなガラス転移温度が−30℃以下であるジエン系重合体からなるものであることが好ましいが、ジエン系重合体の中でも、スチレン/ブタジエン系重合体および/またはブタジエン系重合体であることが好ましい。スチレン/ブタジエン系重合体とは、スチレンとブタジエンとを含み上記のように重合してなる重合体を意味する。また、ブタジエン系重合体とは、ブタジエンを含む重合体であって、スチレン/ブタジエン系重合体以外のものを意味する。
【0030】
次に、シェル層について説明する。シェル層を形成する物質は、ガラス転移温度が70℃以上の重合体である。ここでガラス転移温度は70〜200℃であることがより好ましく、80〜200℃であることがさらに好ましい。より高温で接着力を備える本発明の組成物が得られるからである。
【0031】
シェル層を形成する重合体は、アクリル系重合体であることが好ましい。アクリル系単量体が重合してなる重合体であることが好ましく、アクリル系単量体に、架橋性単量体を添加してなるものであることが好ましく、さらに上記の共重合可能な他の単量体と共重合してなる重合体であることが好ましい。
【0032】
コアシェル型ゴム粒子(C)の全体質量に占めるシェル層の割合については、0.5〜20wt%であることが好ましい。理由は、シェル層の分量が多すぎるとゴム弾性が得られないからである。
【0033】
コアシェル型ゴム粒子(C)は、1次粒子径の平均(質量平均粒子径)が0.05〜1.0μmであることが好ましい。この粒子径は0.05〜0.2μmであることがより好ましい。このような粒径であるとコアシェル型ゴム粒子が凝集し難く、作業性が良好だからである。また、本発明の組成物の接着強度がより高まるからである。なお、コアシェル型ゴム粒子の1次粒子径の平均値はゼータ電位・粒度分布測定装置(ベックマン・コールター社)を用いて測定して得た値を意味するものとする。
【0034】
コアシェル型ゴム粒子(C)は、一般的なコアシェルポリマーを製造するための公知の方法に準じて製造することができる。例えば公知のシード重合法に従い、所定の単量体を段階的に反応系に添加することによって、コア層およびシェル層を順次形成させることにより製造することができる。
【0035】
4.エポキシ樹脂用硬化剤(D)
本発明の組成物が含有するエポキシ樹脂用硬化剤(D)は特に限定されず、通常エポキシ樹脂の硬化剤として用いられるものを用いることができる。例えばジシアンジアミド、4,4'−ジアミノジフェニルスルホン、2−n−ヘプタデシルイミダゾールのようなイミダゾール誘導体、イソフタル酸ジヒドラジド、N,N−ジアルキル尿素誘導体、N,N−ジアルキルチオ尿素誘導体、テトラヒドロ無水フタル酸のような酸無水物、イソホロンジアミン、m−フェニレンジアミン、N−アミノエチルピペラジン、メラミン、グアナミン、三フッ化ホウ素錯化合物、トリスジメチルアミノメチルフェノール、芳香族スルホニウム塩などを用いることができる。これらの中の2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0036】
エポキシ樹脂用硬化剤(D)としては、カチオン系重合開始剤である芳香族スルホニウム塩を用いることが好ましい。その理由は、優れた潜在性を有するからである。
【0037】
また、エポキシ樹脂用硬化剤(D)の本発明の組成物中における含有量は特に限定されず、最適な量は硬化剤の種類によって異なる。例えば従来公知である各硬化剤ごとの最適量を好ましく用いることができる。例えば、エポキシ樹脂(A)およびフェノキシ樹脂(B)が100質量部に対して、2〜20質量部である。
【0038】
本発明の組成物は、エポキシ樹脂(A)100質量部に対して、フェノキシ樹脂(B)が20〜190質量部、コアシェル型ゴム粒子(C)が5〜130質量部、エポキシ樹脂用硬化剤(D)が1〜40質量部であることが好ましい。より好ましくは、エポキシ樹脂(A)100質量部に対して、フェノキシ樹脂(B)が30〜120質量部、コアシェル型ゴム粒子(C)が10〜80質量部、エポキシ樹脂用硬化剤(D)が2〜30質量部である。さらに好ましくは、エポキシ樹脂(A)100質量部に対して、フェノキシ樹脂(B)が50〜120質量部、コアシェル型ゴム粒子(C)が20〜70質量部、エポキシ樹脂用硬化剤(D)が10〜30質量部である。その理由は、加熱圧着時の樹脂の流動性が適度でありながら、ポリイミドフィルムに対する接着強度が優れる組成物となるからである。
【0039】
本発明の組成物は、上記のエポキシ樹脂(A)、フェノキシ樹脂(B)、コアシェル型ゴム粒子(C)、エポキシ樹脂用硬化剤(D)、の他に、その用途に応じて、さらに触媒、硬化促進剤、無機充填剤、有機もしくは高分子充填剤、難燃剤、帯電防止剤、導電性付与剤、滑剤、摺動性付与剤、界面活性剤、着色剤等を含有することができる。これらの中の2種類以上を含有してもよい。
【0040】
5.製造方法
本発明の組成物の製造方法は特に限定されないが、エポキシ樹脂(A)にコアシェル型ゴム粒子(C)が均一に分散したマスターバッチを用いることが好ましい。あらかじめ調製されたマスターバッチ、フェノキシ樹脂(B)、エポキシ樹脂用硬化剤(D)、および、必要に応じて硬化促進剤等のその他の成分を、室温で均質に混練することで本発明の組成物を得ることができる。
【0041】
このようにして得られた組成物は、例えば、銅箔と接着剤とポリイミドフィルムとから構成されるフレキシブルプリント基板における接着剤用途に使用される。
【実施例】
【0042】
以下に、実施例を示して本発明を具体的に説明する。ただし、本発明はこれらに限定されない。
【0043】
(実施例1〜4、比較例1〜6)
<I.組成物>
下記第1表に示す組成(単位は質量部)になるように各成分を配合し(フェノキシ樹脂1〜4は、あらかじめメチルエチルケトンに溶解させた)、コンディショニングミキサーで攪拌することで、実施例1〜4および比較例1〜6の組成物を得た。
【0044】
第1表中の各成分は、以下のものを使用した。
・マスターバッチ1…ビスフェノールF型エポキシ樹脂にコアシェル型ゴム粒子が分散したマスターバッチ(33質量%コアシェル型ゴム粒子含有、商品名:カネエースMX139、カネカ社製)
・マスターバッチ2…ビスフェノールA型エポキシ樹脂にコアシェル型ゴム粒子が分散したマスターバッチ(33質量%コアシェル型ゴム粒子含有、商品名:カネエースMX153、カネカ社製)
・マスターバッチ3…ビスフェノールA型エポキシ樹脂にコアシェル型ゴム粒子が分散したマスターバッチ(33質量%コアシェル型ゴム粒子含有、商品名:カネエースMX128、カネカ社製)
・ビスフェノールF型エポキシ樹脂…(商品名:エピコート806L、ジャパンエポキシレジン社製)
・フェノキシ樹脂1…ビスフェノールA型フェノキシ樹脂とビスフェノールF型フェノキシ樹脂との質量比(ビスフェノールAフェノキシ樹脂/ビスフェノールF)が50/50であるビスフェノールA型フェノキシ樹脂とビスフェノールF型フェノキシ樹脂との共重合体(質量平均分子量:約50000、商品名:YP−75、東都化成社製)
・フェノキシ樹脂2…ビスフェノールA型フェノキシ樹脂とビスフェノールF型フェノキシ樹脂との質量比(ビスフェノールAフェノキシ樹脂/ビスフェノールF)が50/50であるビスフェノールA型フェノキシ樹脂とビスフェノールF型フェノキシ樹脂との混合物(質量平均分子量:約60000、商品名:4250、ジャパンエポキシレジン社製)
・フェノキシ樹脂3…ビスフェノールA型フェノキシ樹脂(質量平均分子量:約50000、商品名:1256、ジャパンエポキシレジン社製)
・フェノキシ樹脂4…ビスフェノールF型フェノキシ樹脂(質量平均分子量:約50000、商品名:FX−136、東都化成社製)
・マスターバッチ1中のコアシェル型ゴム粒子…コア層:ポリブタジエン、シェル層:メタクリル酸メチル、質量平均粒子径:0.1μm
・マスターバッチ2中のコアシェル型ゴム粒子…コア層:ポリブタジエン、シェル層:メタクリル酸メチル、質量平均粒子径:0.1μm
・マスターバッチ3中のコアシェル型ゴム粒子…コア層:スチレンブタジエンゴム、シェル層:メタクリル酸メチル、質量平均粒子径:0.1μm
・エポキシ樹脂用硬化剤:芳香族スルホニウム塩(サンエイドSI80L、三新化学社製)
【0045】
<II. 物性>
1.剥離強度
(1)ポリイミドフィルム(カプトン、東レ・デュポン社製、厚み25μm)を2枚用意し、一方のポリイミドフィルムに組成物を膜厚20μmになるようにバーコータで塗布し、
(2)80℃のオーブンで10分間加熱し組成物中の溶媒(メチルエチルケトン)を乾燥除去し(メチルエチルケトンは予めフェノキシ樹脂を溶解させるために用いたもの)、
(3)フィルムの組成物塗布面に、他方のポリイミドフィルムを貼り合わせ、3MPa、160℃の条件で10秒間プレスし、
(4)プレス後のサンプルを1cm幅に切り出して試験片を作製し、
(5)作製した試験片について、剥離試験機(イマダ社製)により180度剥離試験を行い、得られた値を剥離強度とした(単位:N/cm)。試験結果を第1表に示す。
【0046】
2.流動性
(1)ポリイミドフィルム(カプトン、東レ・デュポン社製、厚み25μm)を2枚用意し、一方のポリイミドフィルムに組成物を膜厚20μm、50mm×50mm四方に塗布し、
(2)80℃のオーブンで10分加熱し、組成物中の溶媒(メチルエチルケトン)を乾燥除去し(メチルエチルケトンは予めフェノキシ樹脂を溶解させる際に用いたもの)、
(3)乾燥後に得られた組成物塗布面に、他方のポリイミドフィルムを貼り合わせ、3MPa、160℃の条件で10秒間熱プレスし、
(4)組成物が熱圧着されて広がった状態を目視にて観察し、組成物の広がりが125%以上175%未満の際に流動性が良好(「○」)と判断し、それ以外を「×」と評価した。試験結果を第1表に示す。
【0047】
3.塗工性
バーコータを用いて組成物をポリイミドフィルム表面に塗布する際の塗布しやすさを、以下のように評価した。試験結果を第1表に示す。
○:組成物の粘度が適度で膜厚一定に容易に塗布可能
△:塗布可能な粘度ではあるが所々まだらになる、または、膜厚が不均一になる(組成物が非相溶であるとまだらになり易い)
×:組成物の粘度が低すぎて必要以上に広がり塗布困難、または、組成物の粘度が高すぎて広がりにくく塗布困難
【0048】
4.塗膜表面の外観
ポリイミドフィルム表面に塗布された塗膜としての組成物の外観を、目視にて評価した。このとき、エポキシ樹脂(A)とフェノキシ樹脂(B)との相分離によって塗膜にまだら模様が生じていれば「相分離の為まだら」と評価し、まだら模様が生じていなければ「良好」と評価した。試験結果を第1表に示す。
【0049】
【表1】

【0050】
<III. 評価>
(実施例1〜4)
実施例1〜4は、エポキシ樹脂(A)と、ビスフェノールA型フェノキシ樹脂とビスフェノールF型フェノキシ樹脂との共重合体(フェノキシ樹脂1)であるフェノキシ樹脂(B)と、コアシェル型ゴム粒子(C)と、エポキシ樹脂用硬化剤(D)とを含有するエポキシ樹脂組成物についての試験例である。
実施例1〜4は、いずれも、剥離強度が19.0N/cm以上であり、流動性は「○」であり、塗工性は「○」であり、塗膜表面の外観は「良好」であった。
したがって、実施例1〜4に係るエポキシ樹脂組成物は、加熱圧着時の流動性が適度でありながらポリイミドフィルムに対する接着強度に優れ、かつ、エポキシ樹脂とフェノキシ樹脂との相分離を抑制することができる。すなわち、本発明の課題を解決するものである。
本発明のフェノキシ樹脂を用いると、160℃の条件での10秒間プレスによって、ポリイミドフィルムに対して高い接着性能を示し、配線間のピッチの狭い(数十μm)被着体に対しても優れた接着性能を示すことができる。
【0051】
(比較例1,2)
比較例1,2は、フェノキシ樹脂(B)として、ビスフェノールA型フェノキシ樹脂とビスフェノールF型フェノキシ樹脂との混合物(フェノキシ樹脂2)を配合した試験例である。なお、エポキシ樹脂(A)として、ビスフェノールF型エポキシ樹脂(エポキシ樹脂1)を含有している。比較例1,2は、剥離強度が18.9N/cm以上であり、流動性も「○」であった。しかし、塗工性は「△」であり、その塗膜表面の外観には「相分離の為まだら」が生じた。すなわち、エポキシ樹脂とフェノキシ樹脂との相溶性が低下している。
【0052】
(比較例3)
比較例3は、フェノキシ樹脂(B)として、ビスフェノールA型フェノキシ樹脂(フェノキシ樹脂3)を配合した試験例である。比較例3は、剥離強度が8.9N/cmであり、流動性は「×」であり、塗工性は「×」であり、その塗膜表面の外観には「相分離の為まだら」が生じた。すなわち、剥離強度が実施例1〜4における値と比較して低く、接着力が不足している。また、流動性が最適化されていない。また、塗布も困難である。また、エポキシ樹脂とフェノキシ樹脂との相溶性が低下している。
【0053】
(比較例4)
比較例4は、フェノキシ樹脂(B)として、ビスフェノールF型フェノキシ樹脂(フェノキシ樹脂4)を配合した試験例である。比較例4は、その塗膜表面の外観は「良好」である。しかし、剥離強度は10.3N/cmであり、実施例1〜4と比較して接着力が不足している。また、流動性は「×」であり最適化されておらず、塗工性は「×」であり塗布も困難である。
【0054】
(比較例5)
比較例5は、比較例1,2と同様に、フェノキシ樹脂(B)として、ビスフェノールA型フェノキシ樹脂とビスフェノールF型フェノキシ樹脂との混合物(フェノキシ樹脂2)を配合した試験例である。なお、比較例1,2とは異なり、エポキシ樹脂(A)として、ビスフェノールA型エポキシ樹脂(エポキシ樹脂2)を含有している。比較例5は、剥離強度が14.5N/cmあり、実施例1〜4と比較して接着力が不足している。また、流動性は「×」であり最適化されておらず、塗工性は「×」であり塗布も困難である。さらに、塗膜表面の外観には「相分離の為まだら」が生じた。
【0055】
(比較例6)
比較例6は、コアシェル型ゴム粒子(C)を配合しなかった試験例である。比較例6は、剥離強度が15.3N/cmあり、実施例1〜4と比較して接着力が不足している。また、流動性は「×」であり最適化されておらず、塗工性は「×」であり塗布も困難である。さらに、塗膜表面の外観には「相分離の為まだら」が生じた。
【0056】
したがって、比較例1〜6に係るエポキシ樹脂組成物は、本発明の課題を解決するものではない。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
エポキシ樹脂(A)と、
ビスフェノールA型フェノキシ樹脂とビスフェノールF型フェノキシ樹脂との共重合体であるフェノキシ樹脂(B)と、
質量平均粒子径が0.05〜1.0μmであり、ガラス転移温度が−30℃以下の重合体で構成されたコア層とガラス転移温度が70℃以上の重合体で構成されたシェル層とを有するコアシェル型ゴム粒子(C)と、
エポキシ樹脂用硬化剤(D)と、
を含有するエポキシ樹脂組成物。
【請求項2】
前記ビスフェノールA型フェノキシ樹脂と前記ビスフェノールF型フェノキシ樹脂との質量比が、70/30〜30/70である、
請求項1に記載のエポキシ樹脂組成物。
【請求項3】
前記エポキシ樹脂(A)100質量部に対して、前記フェノキシ樹脂(B)が20〜190質量部であり、前記コアシェル型ゴム粒子(C)が5〜130質量部である、
請求項1または2に記載のエポキシ樹脂組成物。

【公開番号】特開2011−32435(P2011−32435A)
【公開日】平成23年2月17日(2011.2.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−182559(P2009−182559)
【出願日】平成21年8月5日(2009.8.5)
【出願人】(000006714)横浜ゴム株式会社 (4,905)
【Fターム(参考)】