説明

エンジン自動停止始動制御装置

【課題】エンジン自動停止時のエンジン回転降下期間中にピニオンをリングギヤに飛び込ませて噛み合わせる際のピニオンの駆動タイミングを精度良く制御する。
【解決手段】アイドルストップシステムにおいて、エンジン21を自動停止させる際のエンジン回転降下期間中に、所定の演算周期でエンジン21のロストルク(フリクショントルク)、エンジン回転速度又は角速度、イナーシャに基づいて次の演算タイミングでのエンジン回転速度又は角速度を予測し、その予測データに基づいて更にその次の演算タイミングでのエンジン回転速度又は角速度を予測するという処理を複数回繰り返して、複数回先の演算タイミングまでのエンジン回転降下軌道を予測し、その予測データに基づいて正転方向の最後のTDCを判定する。そして、正転方向の最後のTDCを基準にしてスタータ11のピニオン13の駆動タイミングを決定する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、エンジンを自動停止させる際のエンジン回転速度が降下する期間に、次の再始動に備えて、所定のタイミングでスタータのピニオンをエンジンのクランク軸に連結されたリングギヤに飛び込ませて噛み合わせるようにしたエンジン自動停止始動制御装置に関する発明である。
【背景技術】
【0002】
この種のエンジン自動停止始動制御装置は、特許文献1(特開2005−330813号公報)に記載されているように、エンジンを自動停止させる際のエンジン回転速度が降下する期間(エンジン回転降下期間)に、再始動要求が発生した時点でスタータのモータへの通電を開始してピニオンを回転させると共に、ピニオンの噛み込み動作に必要な時間に相当する所定時間経過後のエンジン回転速度(リンクギア回転速度)を予測して、ピニオン回転速度がエンジン回転速度(リンクギア回転速度)と同期するタイミングを予測して、そのタイミングでピニオンがリングギヤに飛び込んで噛み合うようにピニオンの噛み込み動作タイミングを決定するようにしたものがある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2005−330813号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明者らの研究結果によれば、上記特許文献1のように、エンジンを自動停止させる際のエンジン回転降下期間中に、エンジン回転速度(リンクギア回転速度)とピニオン回転速度を予測して、ピニオン回転速度がエンジン回転速度(リンクギア回転速度)と同期するタイミングを予測して、そのタイミングでピニオンがリングギヤに飛び込んで噛み合うようにピニオンの噛み込み動作を開始しても、以下のような課題を有することが判明した。
【0005】
即ち、エンジン回転降下期間中のエンジン回転挙動は、エンジン回転速度が直線的に降下するのではなく、エンジン回転速度が脈動しながら降下し、エンジンのクランク軸に連結したリングギヤの回転速度も脈動しながら降下する。このため、ピニオンの噛み込み動作に必要な時間に相当する所定時間経過後の時点のエンジン回転速度(リンクギア回転速度)を予測しても、ピニオン回転速度がエンジン回転速度(リンクギア回転速度)と同期するタイミングを精度良く予測できない可能性があり、ピニオン噛み込み時のピニオン回転速度とリンクギア回転速度との差が大きくなる可能性がある。図4に示すように、ピニオン噛み込み時のピニオン回転速度とリンクギア回転速度との差(相対回転速度)が大きくなると、ピニオン噛み込み時の騒音レベルが大きくなることが問題となる。
【0006】
そこで、本発明が解決しようとする課題は、エンジン自動停止時のエンジン回転降下期間中にピニオンをリングギヤに飛び込ませて噛み合わせる際のピニオンの駆動タイミングを精度良く制御できるエンジン自動停止始動制御装置を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決するために、請求項1に係る発明は、エンジンを自動停止させる際のエンジン回転速度が降下する期間に、次の再始動に備えて、所定のタイミングでスタータのピニオンをエンジンのクランク軸に連結されたリングギヤに飛び込ませて噛み合わせるようにしたエンジン自動停止始動制御装置において、前記エンジンを自動停止させる際のエンジン回転速度が降下する期間に正転方向の最後のTDC(上死点)を判定する最後TDC判定手段と、前記最後TDC判定手段で判定した正転方向の最後のTDCに基づいて前記ピニオンの駆動タイミングを決定する制御手段とを備えた構成としたものである。
【0008】
この構成では、エンジンを自動停止させる際のエンジン回転降下期間中に正転方向の最後のTDCを判定するようにしているため、正転方向の最後のTDCを基準にしてピニオンの駆動タイミングを精度良く決定することができる。
【0009】
ところで、エンジン回転降下期間中にエンジン回転が正転方向の最後のTDCを通過した後は、ピストンが次のTDCを乗り越えられずに逆転するため、次のTDCに到達する前にエンジン回転速度が0[rpm] 以下になる。
【0010】
このようなエンジン回転降下軌道を考慮して、請求項2のように、最後TDC判定手段は、エンジンを自動停止させる際に、所定の演算周期で少なくともエンジン回転速度又は角速度に基づいて次の演算タイミング又は複数回先の演算タイミングまでの各演算タイミングでのエンジン回転速度又は角速度を予測してエンジン回転降下軌道を予測し、予測したエンジン回転降下軌道に基づいて正転方向の最後のTDCを判定するようにしても良い。このようにすれば、エンジン回転降下軌道の予測値が0[rpm] 以下になる直前のTDCを正転方向の最後のTDCと判定することができる。
【0011】
この場合、エンジンの燃焼停止後(燃料カット後)のエンジン回転挙動は、エンジンのロストルク(フリクショントルク)やイナーシャの影響を受けて変化する。この点を考慮して、請求項3のように、最後TDC判定手段は、エンジンを自動停止させる際に、所定の演算周期でエンジンのロストルク、ロスエネルギ、イナーシャの少なくとも1つを考慮して次の演算タイミング又は複数回先の演算タイミングまでの各演算タイミングでのエンジン回転速度又は角速度を予測するようにしても良い。このようにすれば、エンジン回転降下軌道の予測精度を高めることができ、正転方向の最後のTDCの判定精度を向上できる。
【0012】
また、請求項4のように、最後TDC判定手段は、エンジンを自動停止させる際に、所定の演算周期で少なくともエンジン回転速度又は角速度に基づいて次の演算タイミングでのエンジン回転速度又は角速度を予測し、その予測データに基づいて更にその次の演算タイミングでのエンジン回転速度又は角速度を予測するという処理を複数回繰り返して、複数回先の演算タイミングまでのエンジン回転降下軌道を予測し、予測したエンジン回転降下軌道に基づいて正転方向の最後のTDCを判定するようにしても良い。このようにすれば、複数回先の演算タイミングまでのエンジン回転降下軌道を精度良く予測することができ、予測したエンジン回転降下軌道に基づいて正転方向の最後のTDCを精度良く判定することができる。
【0013】
また、請求項5のように、最後TDC判定手段は、次のTDCに到達するまでの時間tTDC を予測する手段と、エンジン回転速度が0[rpm] に到達するまでの時間t0rpmを予測する手段と、次のTDCに到達するまでの時間tTDC の予測値とエンジン回転速度が0[rpm] に到達するまでの時間t0rpmの予測値とを比較してその比較結果に基づいて正転方向の最後のTDCを判定するようにしても良い。このようにすれば、今回のTDCが正転方向の最後のTDCであるか否かを簡単に判定することができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】図1は本発明の実施例1におけるエンジン始動制御システムの概略構成図である。
【図2】図2は実施例1のエンジン回転降下軌道の予測結果を示す図である。
【図3】図3は実施例1のエンジン回転降下軌道の予測演算方法を説明する図である。
【図4】図4はピニオン噛み込み時のピニオン回転速度とリンクギア回転速度との差と騒音レベルとの関係を計測したデータを示す図である。
【図5】図5は実施例1のロストルク算出ルーチンの処理の流れを示すフローチャートである。
【図6】図6は実施例1の最後TDC判定ルーチンの処理の流れを示すフローチャートである。
【図7】図7は実施例2の最後TDC判定ルーチンの処理の流れを示すフローチャートである。
【図8】図8は実施例2の正転方向の最後のTDCを判定する方法を説明するタイムチャートである。
【図9】図9は実施例3のエンジン回転降下軌道の予測方法を説明する図である。
【図10】図10は実施例3の最後TDC判定ルーチンの処理の流れを示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明を実施するための形態を具体化した3つの実施例1〜3を説明する。
【実施例1】
【0016】
本発明の実施例1を図1乃至図6に基づいて説明する。
まず、図1に基づいてエンジン自動停止始動制御システムの概略構成を説明する。
スタータ11は、いわゆるピニオン押し出し式スタータであり、モータ12と、このモータ12によって回転駆動されるピニオン13と、このピニオン13を押し出すピニオンアクチュエータ14等を備え、後述する構成によりモータ12とピニオンアクチュエータ14とを個別に作動可能となっている。ピニオン13は、軸方向に移動可能に設けられている。ピニオンアクチュエータ14には、プランジャ15と、このプランジャ15を駆動するソレノイド16が設けられ、プランジャ15の駆動力がレバー17等を介してピニオン13に伝達されるようになっている。
【0017】
また、バッテリ18とピニオンアクチュエータ14との間には、リレー19が設けられ、ECU20(エンジン制御回路)によってリレー19をオンしてピニオンアクチュエータ14への通電をオンしてプランジャ15をピニオン押出方向に移動させることで、ピニオン13を押し出して該ピニオン13をエンジン21のクランク軸22に連結されたリングギヤ23に飛び込ませて噛み合わせるようになっている。
【0018】
更に、バッテリ18とモータ12との間には、スイッチング素子24が設けられ、ECU20によってスイッチング素子24のオン/オフを制御してモータ12の通電をデューティ制御することで、ピニオン13の回転速度を制御するようになっている。
【0019】
エンジン21には、クランク軸22が所定クランク角(例えば30℃A)回転する毎にクランクパルスを出力するクランク角センサ25が設けられ、このクランクパルスの出力間隔に基づいてエンジン回転速度又は角速度が算出されると共に、該クランクパルスをカウントしてクランク角が検出される。尚、クランク角基準位置は、クランク角センサ25の欠歯部(1〜数個のパルスが連続して出力されない部分)で検出しても良いし、カム角センサからカムパルスが出力される位置をクランク角基準位置としても良い。
【0020】
ECU20は、マイクロコンピュータを主体として構成され、内蔵されたROMに記憶された各種のエンジン制御プログラムを実行することで、エンジン運転状態に応じてエンジン21の燃料噴射量や点火時期を制御する。
【0021】
また、ECU20は、図示しないエンジン自動停止始動制御ルーチンを実行することで、エンジン自動停止始動制御(いわゆるアイドルストップ制御)を実行する。このエンジン自動停止始動制御では、車両走行中に運転者が減速操作(アクセル全閉、ブレーキ操作等)を行って車両停止に至る可能性のある所定減速状態になったとき、又は、車両を停車させてブレーキ操作を継続しているときに、自動停止要求(アイドルストップ要求)が発生したと判断して、エンジン21の燃焼(燃料噴射及び/又は点火)を停止させてエンジン21を自動的に停止させる。更に、本実施例1では、エンジン21を自動停止させる間際に、後述するように、次の再始動に備えて、ピニオンアクチュエータ14に通電してピニオン13をエンジン21側のリングギヤ23に飛び込ませて噛み合わせおき、次の再始動が完了するまで、ピニオン13をエンジン21側のリングギヤ23に噛み合わせた状態に維持する。
【0022】
その後、運転者が車両発進のための準備操作(ブレーキ解除、シフトレバーのドライブレンジへの操作等)や発進操作(アクセル踏み込み等)を行ったときに、再始動要求が発生したと判断して、スタータ11のモータ12に通電してピニオン13を回転駆動してエンジン21をクランキングして燃料噴射を再開して再始動させる。その他、バッテリ充電制御システムやエアコン等の車載機器の制御システムから再始動要求が発生してエンジン11を再始動させる場合もある。再始動時に、エンジン回転速度が始動完了判定しきい値を越えた時点で、再始動完了と判定されて、スタータ11のモータ12への通電が停止されると共に、ピニオンアクチュエータ14への通電が停止され、リターンスプリング(図示せず)によりピニオン13がエンジン21側のリングギヤ23から抜き出されて元の位置に戻される。
【0023】
更に、ECU20は、後述する図5及び図6の各ルーチンを実行することで、エンジン21を自動停止させる際のエンジン回転降下期間中に、エンジン回転降下軌道を予測してその予測データに基づいて正転方向の最後のTDC(上死点)を判定する最後TDC判定手段として機能すると共に、正転方向の最後のTDCに基づいてスタータ11のピニオン13の駆動タイミングを決定する制御手段としても機能する。
【0024】
ここで、本実施例1のエンジン回転降下軌道の予測方法を説明する。
以下の説明では、クランクパルスが30℃A毎に出力されるクランク角センサ25を用いた例を説明する。エンジン自動停止時に、エンジン回転速度が降下する期間に、クランク角センサ25からクランクパルスがECU20に入力される30℃A毎に次式により角速度ω[rad/sec]を算出する。
ω=30×2π/(360×tp )
tp :クランクパルス間隔[sec]
【0025】
上式により、前回の180℃A区間[i-1] のTDC後のクランク角0℃Aの角速度ω[0,i-1] 、クランク角30℃Aの角速度ω[30,i-1]、クランク角60℃Aの角速度ω[60,i-1]、クランク角90℃Aの角速度ω[90,i-1]、クランク角120℃Aの角速度ω[120,i-1] 、クランク角150℃Aの角速度ω[150,i-1] 、今回の180℃A区間[i] のTDC後のクランク角0℃Aの角速度ω[0,i] を算出する。
【0026】
更に、前回の180℃A区間[i-1] のTDC後のクランク角0℃Aから30℃AまでのロストルクT[0-30,i-1]、クランク角30℃Aから60℃AまでのロストルクT[30-60,i-1] 、クランク角60℃Aから90℃AまでのロストルクT[60-90,i-1] 、クランク角90℃Aから120℃AまでのロストルクT[90-120,i-1]、クランク角120℃Aから150℃AまでのロストルクT[120-150,i-1] 、クランク角150℃Aから今回の180℃A区間[i] のTDC後の0℃AまでのロストルクT[150-0,i-1] を算出する。
【0027】
T[0-30,i-1]=−J・(ω[30,i-1]2 −ω[0,i-1] 2 )/2
T[30-60,i-1] =−J・(ω[60,i-1]2 −ω[30,i-1]2 )/2
T[60-90,i-1] =−J・(ω[90,i-1]2 −ω[60,i-1]2 )/2
T[90-120,i-1]=−J・(ω[120,i-1] 2 −ω[90,i-1]2 )/2
T[120-150,i-1] =−J・(ω[150,i-1] 2 −ω[120,i-1] 2 )/2
T[150-0,i-1] =−J・(ω[0,i] 2 −ω[150,i-1] 2 )/2
【0028】
ここで、Jはエンジン21のイナーシャである。これらのロストルクT[0-30,i-1]〜T[150-0,i-1] の算出値は、それぞれレジスタに更新記憶される(図3参照)。
そして、今回の180℃A区間[i] のTDC後の30℃A(現時点)で、角速度ω[30,i]を算出すると共に、ロストルクT[0-30,i]を同様に算出し、このロストルクT[0-30,i]をレジスタに保存する。
【0029】
この際、ロストルクの代わりに、ロスエネルギをレジスタに保存しても良い。ロスエネルギは、ロストルクをJ/2で割り算して求められる。
例えば、前回の180℃A区間[i-1] のTDC後のクランク角0℃Aから30℃AまでのロスエネルギE[0-30,i-1]は、次式で求められる。
E[0-30,i-1]=T[0-30,i-1]/(J/2)
=−(ω[30,i-1]2 −ω[0,i-1] 2
【0030】
尚、ロスエネルギとしては、例えば、エンジン21のポンピングロス、エンジン21のフリクション、エンジン21にベルトを介して接続されるオルタネータやコンプレッサー及びミッションの流体ロスが考えられる。
【0031】
その後、図3に示すように、前回の180℃A区間[i-1] のクランク角30℃Aから60℃AまでのロストルクT[30-60,i-1] を用いて、今回の180℃A区間[i] のTDC後のクランク角60℃Aの予測角速度ω'[60,i] を演算すると共に、クランク角30℃Aから60℃Aに到達するまでの予測到達時間t[30-60,i] を演算し、更に、前回の180℃A区間[i-1] のクランク角60℃Aから90℃AまでのロストルクT[60-90,i-1] と上記予測角速度ω'[60,i] を用いて、今回の180℃A区間[i] のTDC後のクランク角90℃Aの予測角速度ω'[90,i] を演算すると共に、クランク角60℃Aから90℃Aに到達するまでの予測到達時間t[60-90,i] を演算し、更に、前回の180℃A区間[i-1] のクランク角90℃Aから120℃AまでのロストルクT[90-120,i-1]と上記予測角速度ω'[90,i] を用いて、今回の180℃A区間[i] のTDC後のクランク角120℃Aの予測角速度ω'[120,i]を演算すると共に、クランク角90℃Aから120℃Aに到達するまでの予測到達時間t[90-120,i]を演算するという処理を何回も繰り返すことで、エンジン回転降下軌道を予測する(図2参照)。
【0032】
この予測演算は、クランクパルス入力毎(30℃A毎)に次のクランクパルスが入力されるまでの時間を利用して実行され、その都度、エンジン回転降下軌道の予測データが更新される。次のクランクパルスが入力されるまでの演算時間に余裕があれば、エンジン回転速度が0[rpm] に到達するまでのエンジン回転降下軌道を予測するが、演算時間が足りない場合は、予測演算を途中で打ち切って、次のクランク角での実角速度を用いた新たな予測演算に移行する。尚、角速度をエンジン回転速度に換算して予測演算を行うようにしても良いことは言うまでもない。
【0033】
エンジン回転降下期間中にエンジン回転が正転方向の最後のTDCを通過した後は、ピストンが次のTDCを乗り越えられずに逆転するため、次のTDCに到達する前にエンジン回転速度が0[rpm] 以下になる。
【0034】
従って、上述した方法で、エンジン回転速度が0[rpm] に到達するまでのエンジン回転降下軌道を予測すれば、エンジン回転速度が0[rpm] に到達する前の最後のTDCを、正転方向の最後のTDCと判定することができる。そして、正転方向の最後のTDCを基準にしてスタータ11のモータ12の通電タイミングやピニオン13の駆動タイミングを決定すれば良い。
【0035】
或は、TDC毎(又は180℃A毎)に、次のTDCまでのエンジン回転降下軌道を予測する処理を実行し、次のTDCに到達する前にエンジン回転速度が0[rpm] 以下になるか否かで、今回のTDCが正転方向の最後のTDCであるか否かを判定するようにしても良い。
以下、これを具体化した正転方向の最後のTDCの判定方法を図5及び図6の各ルーチンを用いて説明する。
【0036】
[ロストルク算出ルーチン]
図5のロストルク算出ルーチンは、ECU20によってエンジン運転中(ECU20の電源オン期間中)に所定周期で繰り返し実行され、次のようにして、エンジン自動停止時のエンジン回転降下中に、クランク角センサ25からクランクパルスがECU20に入力される毎に、当該クランク角におけるエンジン21のロストルクが算出されて当該クランク角に対応するレジスタに更新記憶される。
【0037】
本ルーチンが起動されると、まず、ステップ101で、エンジン自動停止時のエンジン回転降下中であるか否かを判定し、エンジン自動停止時のエンジン回転降下中でなければ、エンジン回転降下軌道の予測に用いるロストルクを算出する必要がないため、そのまま本ルーチンを終了する。
【0038】
一方、上記ステップ101で、エンジン自動停止時のエンジン回転降下中であると判定されれば、ステップ102に進み、クランク角センサ25からクランクパルスがECU20に入力されたか否かを判定し、クランクパルスが入力されるまで待機する。そして、クランクパルスが入力される毎に、ステップ103に進み、今回のクランクパルス入力時の角速度ωを算出する。
ω=30×2π/(360×tp )
tp :クランクパルス間隔[sec]
【0039】
この後、ステップ104に進み、今回のクランクパルス入力時の角速度ωと30℃A前の角速度ωとエンジン21のイナーシャJを用いて、図3の式によりロストルクを算出してレジスタに更新記憶する。
【0040】
以上の処理を繰り返して、エンジン自動停止時のエンジン回転降下中に、クランクパルスがECU20に入力される毎に、当該クランク角におけるエンジン21のロストルクを算出して当該クランク角に対応するレジスタに更新記憶する処理を繰り返す。
【0041】
[最後TDC判定ルーチン]
図6の最後TDC判定ルーチンは、ECU20によってエンジン運転中(ECU20の電源オン期間中)に所定周期で繰り返し実行され、特許請求の範囲でいう最後TDC判定手段としての役割を果たす。
【0042】
本ルーチンが起動されると、まず、ステップ201で、エンジン自動停止時のエンジン回転降下中であるか否かを判定し、エンジン自動停止時のエンジン回転降下中でなければ、正転方向の最後のTDCを判定する必要がないため、そのまま本ルーチンを終了する。
【0043】
一方、上記ステップ201で、エンジン自動停止時のエンジン回転降下中であると判定されれば、ステップ202に進み、現在のクランク角がTDCであるか否かを判定し、TDCに到達するまで待機する。そして、TDCに到達した時点で、ステップ203に進み、レジスタに記憶されたエンジン21のロストルクを読み込む。このロストルクは、150℃A前のクランクパルス入力時に算出してレジスタに記憶したロストルクを用いる。この後、ステップ204に進み、ロストルクを用いて、次のクランクパルスの入力タイミングでの予測角速度ω' を算出すると共に、次のクランクパルスの入力タイミングまでの予測到達時間tを算出する。
【0044】
この後、ステップ205に進み、次のクランクパルスの入力タイミングでの予測角速度ω' が0以下であるか否かで、今回のTDCが正転方向の最後のTDCであるか否かを判定する。このステップ205で、予測角速度ω' が0以下でないと判定されれば、ステップ206に進み、次のTDCまでの予測を終了したか否かを判定する。その結果、まだ次のTDCまでの予測を終了していないと判定されれば、ステップ207に進み、エンジン21のロストルクを算出してレジスタに記憶して、前述したステップ203、204の処理を繰り返して、ロストルクと上記予測角速度ω' を用いて、更にその次のクランクパルスの入力タイミングでの予測角速度ω' と予測到達時間tを算出する処理を繰り返す。
【0045】
このような30℃A毎の予測角速度ω' と予測到達時間tを次のTDCまで繰り返すが、次のTDCまでの予測を終了する前に、上記ステップ205で、予測角速度ω' が0以下と判定されれば、ステップ208に進み、今回のTDCが正転方向の最後のTDCであると判定して、本ルーチンを終了する。
【0046】
一方、次のTDCまで、予測角速度ω' が0以下にならなければ、今回のTDCは、正転方向の最後のTDCではないと判断して、本ルーチンを終了する。
【0047】
以上説明した本実施例1によれば、エンジンを自動停止させる際のエンジン回転降下期間中に、エンジン回転降下軌道を予測して、その予測データに基づいて正転方向の最後のTDCを判定するようにしたので、エンジン回転速度(角速度)が0以下になる前に正転方向の最後のTDCを判定することができ、正転方向の最後のTDCを基準にしてスタータ11のピニオン13の駆動タイミングを精度良く決定することができる。
【0048】
尚、図6の最後TDC判定ルーチンでは、TDC毎(180℃A毎)に次のTDCまでのエンジン回転降下軌道を予測するようにしたが、例えば360℃A経過後のTDCまでのエンジン回転降下軌道を予測するようにしても良い等、エンジン回転降下軌道を予測する期間は適宜変更しても良い。
【0049】
また、図6の最後TDC判定ルーチンでは、クランクパルス入力タイミングでの予測角速度ω' 及び予測到達時間tの演算を繰り返してエンジン回転降下軌道を予測するようにしたが、例えばTDC(180℃A)タイミングでの予測角速度ω' 及び予測到達時間tを演算するようにしても良い等、予測演算の周期を適宜変更しても良い。
【実施例2】
【0050】
次に、図7及び図8を用いて本発明の実施例2を説明する。但し、上記実施例1と実質的に同じ部分は同一符号を付して説明を省略又は簡略化し、主として異なる部分について説明する。
【0051】
本実施例2では、図8に示すように、エンジン自動停止時のエンジン回転降下中に、所定の演算周期で、その時点までのエンジン回転速度(角速度)の履歴データに基づいてエンジン回転降下軌道を予測し、その予測データに基づいて次のTDCに到達するまでの時間tTDC を予測すると共に、エンジン回転速度が0[rpm] に到達するまでの時間t0rpmを予測し、次のTDCに到達するまでの時間tTDC の予測値とエンジン回転速度が0[rpm] に到達するまでの時間t0rpmの予測値とを比較してその比較結果に基づいて正転方向の最後のTDCを判定するようにしている。
【0052】
本実施例2の正転方向の最後のTDCの判定処理は、ECU20によって図8の最後TDC判定ルーチンに従って実行される。本ルーチンは、ECU20によってエンジン運転中に所定周期(例えば180℃A周期)で繰り返し実行され、特許請求の範囲でいう最後TDC判定手段としての役割を果たす。
【0053】
本ルーチンが起動されると、まずステップ301で、エンジン自動停止時のエンジン回転降下中であるか否かを判定し、エンジン自動停止時のエンジン回転降下中でなければ、正転方向の最後のTDCを判定する必要がないため、そのまま本ルーチンを終了する。
【0054】
一方、上記ステップ301で、エンジン自動停止時のエンジン回転降下中であると判定されれば、ステップ302に進み、現在までのエンジン回転速度の履歴データに基づいてエンジン回転降下軌道を予測する。この後、ステップ303に進み、エンジン回転降下軌道の予測データに基づいて、次のTDCに到達するまでの予測時間tTDC を算出し、次のステップ304で、エンジン回転降下軌道の予測データに基づいて、エンジン回転速度が0[rpm] に到達するまでの予測時間t0rpmを算出する。
【0055】
この後、ステップ305に進み、次のTDCに到達するまでの予測時間tTDC がエンジン回転速度が0[rpm] に到達するまでの予測時間t0rpmよりも長いか否かを判定する。その結果、次のTDCに到達するまでの予測時間tTDC がエンジン回転速度が0[rpm] に到達するまでの予測時間t0rpmよりも長いと判定されれば、次のTDCに到達する前にエンジン回転速度が0[rpm] に到達することを意味するため、ステップ306に進み、今回のTDCを正転方向の最後のTDCと判定して、本ルーチンを終了する。
【0056】
これに対し、上記ステップ305で、次のTDCに到達するまでの予測時間tTDC がエンジン回転速度が0[rpm] に到達するまでの予測時間t0rpmよりも短いと判定されれば、今回のTDCは、正転方向の最後のTDCではないと判断して、本ルーチンを終了する。
【0057】
以上説明した図8の最後TDC判定ルーチンは、所定周期(例えば180℃A周期)で繰り返し実行されるため、エンジン自動停止時のエンジン回転降下中に正転方向の最後のTDCを判定できる。
【実施例3】
【0058】
前記実施例1では、エンジン21を自動停止させる際に、所定の演算周期でエンジン21のロストルク、エンジン回転速度又は角速度、イナーシャに基づいて次の演算タイミングでのエンジン回転速度又は角速度を予測し、その予測データに基づいて更にその次の演算タイミングでのエンジン回転速度又は角速度を予測するという処理を複数回繰り返して、複数回先の演算タイミングまでのエンジン回転降下軌道を予測するようにしたが、本発明の実施例3では、図9に示すように、エンジン21を自動停止させる際に、所定の演算周期で、少なくともエンジン回転速度又は角速度ω0 に基づいて次の演算タイミングから複数回先の演算タイミングまでの各回の演算タイミングのエンジン回転速度又は角速度ω1 ,ω2 ,…,ωn を予測してエンジン回転降下軌道を予測し、予測したエンジン回転降下軌道に基づいて正転方向の最後のTDCを判定するようにしている。
【0059】
以下、本実施例3で実行する図10の最後TDC判定ルーチンの処理内容を説明する。本ルーチンは、ECU20によってエンジン運転中(ECU20の電源オン期間中)に所定周期で繰り返し実行され、特許請求の範囲でいう最後TDC判定手段としての役割を果たす。
【0060】
本ルーチンが起動されると、まずステップ401で、エンジン自動停止時のエンジン回転降下中であるか否かを判定し、エンジン自動停止時のエンジン回転降下中でなければ、正転方向の最後のTDCを判定する必要がないため、そのまま本ルーチンを終了する。
【0061】
一方、上記ステップ401で、エンジン自動停止時のエンジン回転降下中であると判定されれば、ステップ402に進み、クランクパルスが入力されるまで待機し、クランクパルスが入力された時点で、ステップ403に進み、次の演算タイミングから複数回先の演算タイミングまでの各回の演算タイミングの角速度ω1',ω2',…,ωn'を予測してエンジン回転降下軌道を予測する。ここで、各回の演算タイミングの角速度ω1',ω2',…,ωn'の予測は、前記実施例1と同様の原理に基づいて、エンジン21のロストルクとイナーシャの少なくとも一方を考慮して予測しても良いし、或は、前記実施例1と同様に、現在までの角速度ω0 (エンジン回転速度)の履歴データに基づいて予測しても良い。
【0062】
この後、ステップ404に進み、予測した角速度ω1',ω2',…,ωn'のいずれかが0以下であるか否かを判定する。その結果、予測した角速度ω1',ω2',…,ωn'がいずれも0以下でないと判定されれば、上述したステップ402〜404の処理を繰り返して、次のクランクパルスの入力タイミングで、複数回先の演算タイミングまでの各回の演算タイミングの角速度ω1',ω2',…,ωn'を予測してエンジン回転降下軌道を予測し、予測した角速度ω1',ω2',…,ωn'のいずれかが0以下であるか否かを判定するという処理を繰り返す。
【0063】
このような処理の繰り返しにより、上記ステップ404で、予測した角速度ω1',ω2',…,ωn'のいずれかが0以下であると判定された時点で、ステップ405に進み、角速度ω' が0以下になった直前のTDCが正転方向の最後のTDCであると判定して、本ルーチンを終了する。
【0064】
以上説明した本実施例3においても、前記実施例1とほぼ同様の効果を得ることができる。
本実施例3では、クランクパルスの入力タイミング毎にエンジン回転降下軌道を予測するようにしたが、例えば、TDC毎又は所定数のクランクパルスが入力される毎にエンジン回転降下軌道を予測するようにしても良い。
【0065】
また、上記実施例1,3では、予測した角速度が0以下であるか否かで正転方向の最後のTDCであるか否かを判定するようにしたが、角速度の予測誤差等を考慮して、予測した角速度が所定値以下であるか否かで正転方向の最後のTDCであるか否かを判定するようにしても良い。
【0066】
尚、本発明は、ピニオンアクチュエータ14と該ピニオン13を回転駆動するモータ12とを個別に作動できるスタータ11を搭載したシステムに限定されず、ピニオンアクチュエータとピニオンを回転駆動するモータとが同時に駆動されるスタータを搭載したシステムにも本発明を適用して実施できる。
【0067】
その他、本発明は、クランク角センサ25から出力されるクランクパルスの間隔が30℃A以外のものであっても同様に適用して実施できる等、種々変形して実施できることは言うまでもない。
【符号の説明】
【0068】
11…スタータ、12…モータ、13…ピニオン、14…ピニオンアクチュエータ、20…ECU(最後TDC判定手段,制御手段)、21…エンジン、22…クランク軸、23…リングギヤ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
エンジンを自動停止させる際のエンジン回転速度が降下する期間に、次の再始動に備えて、所定のタイミングでスタータのピニオンをエンジンのクランク軸に連結されたリングギヤに飛び込ませて噛み合わせるようにしたエンジン自動停止始動制御装置において、
前記エンジンを自動停止させる際のエンジン回転速度が降下する期間に正転方向の最後のTDCを判定する最後TDC判定手段と、
前記最後TDC判定手段で判定した正転方向の最後のTDCに基づいて前記ピニオンの駆動タイミングを決定する制御手段と
を備えていることを特徴とするエンジン自動停止始動制御装置。
【請求項2】
前記最後TDC判定手段は、前記エンジンを自動停止させる際に、所定の演算周期で少なくともエンジン回転速度又は角速度に基づいて次の演算タイミング又は複数回先の演算タイミングまでの各演算タイミングでのエンジン回転速度又は角速度を予測してエンジン回転降下軌道を予測し、予測したエンジン回転降下軌道に基づいて正転方向の最後のTDCを判定することを特徴とする請求項1に記載のエンジン自動停止始動制御装置。
【請求項3】
前記最後TDC判定手段は、前記エンジンを自動停止させる際に、所定の演算周期で前記エンジンのロストルク、ロスエネルギ、イナーシャの少なくとも1つを考慮して次の演算タイミング又は複数回先の演算タイミングまでの各演算タイミングでのエンジン回転速度又は角速度を予測することを特徴とする請求項2に記載のエンジン自動停止始動制御装置。
【請求項4】
前記最後TDC判定手段は、前記エンジンを自動停止させる際に、所定の演算周期で少なくともエンジン回転速度に基づいて次の演算タイミングでのエンジン回転速度又は角速度を予測し、その予測データに基づいて更にその次の演算タイミングでのエンジン回転速度又は角速度を予測するという処理を複数回繰り返して、複数回先の演算タイミングまでのエンジン回転降下軌道を予測し、予測したエンジン回転降下軌道に基づいて正転方向の最後のTDCを判定することを特徴とする請求項1に記載のエンジン自動停止始動制御装置。
【請求項5】
前記最後TDC判定手段は、次のTDCに到達するまでの時間tTDC を予測する手段と、エンジン回転速度が0[rpm] に到達するまでの時間t0rpmを予測する手段と、次のTDCに到達するまでの時間tTDC の予測値とエンジン回転速度が0[rpm] に到達するまでの時間t0rpmの予測値とを比較してその比較結果に基づいて正転方向の最後のTDCを判定することを特徴とする請求項1乃至4のいずれかに記載のエンジン自動停止始動制御装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開2011−140939(P2011−140939A)
【公開日】平成23年7月21日(2011.7.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−225380(P2010−225380)
【出願日】平成22年10月5日(2010.10.5)
【出願人】(000004260)株式会社デンソー (27,639)
【Fターム(参考)】